JP2015092602A - 成膜用組成物及び有機電界発光素子 - Google Patents

成膜用組成物及び有機電界発光素子 Download PDF

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Abstract

【課題】正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物の溶解性が改善され、かつ、均一な塗膜を安定に形成し得る適当な乾燥速度を有し、正孔注入・輸送層の成膜に好適な成膜用組成物。
【解決手段】この組成物は、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物と、該正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を溶解する液体とを含有する。この液体は、分子内に芳香環及び/又は脂環と酸素原子とを有し、かつ、沸点が200℃以上であるか25℃における蒸気圧が1torr以下の溶媒を主として含む。
【選択図】図1

Description

本発明は、有機電界発光素子の正孔注入・輸送層の成膜に用いられる成膜用組成物と、この成膜用組成物により正孔注入・輸送層が形成された有機電界発光素子に関する。
湿式成膜法により有機電界発光素子の正孔注入層を形成することが下記特許文献1〜3に記載されている。
文献1は、正孔輸送材料である芳香族ジアミン含有ポリエーテルと、電子受容性化合物であるトリス(4−ブロモフェニル)アンモニウムヘキサクロロアンチモネート(TBPAH)とをジクロロメタンに溶解した溶液を用いて、スピンコート法により正孔注入・輸送層を形成する方法を開示する。
文献2は、芳香族ジアミン含有ポリエーテルを含有する1,2−ジクロロエタン溶液を用いて、スピンコート法により正孔注入層を形成する方法を開示する。
文献3は、4,4’−ビス[(N−(m−トリル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルと電子受容性化合物である五塩化アンチモンとの混合物の1,2−ジクロロエタン溶液を用いて、スピンコート法により正孔輸送層を形成する方法を開示する。
正孔注入・輸送層をインクジェット法で成膜するための組成物が下記特許文献4,5に記載されている。
文献4は、銅フタロシアニン又は導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)とポリスチレンスルフォン酸(PSS)を水及び低級アルコール等からなる混合溶媒に分散させた塗布液を開示する。
文献5には、PEDTとPSSを、水、エタノール、及びジプロピレングリコールからなる溶媒に分散した塗布液が開示されている。
特開平11−283750号公報 特開2000−36390号公報 特開2002−56985号公報 特開2000−106278号公報 特開2004−204114号公報
従来の湿式成膜法に適用される正孔注入・輸送層塗布用組成物は、いずれも溶媒として水を含有している。有機電界発光素子は、通常、水分により特性が損なわれるものである。このため、このように水を含む組成物を用いた場合は、成膜後に可能な限り水を除去する必要がある。成膜後の正孔注入・輸送層から水を完全に除去することは困難である。膜中に残留する水分により、従来の有機電界発光素子は特性が低下している。成膜工程における残留水分量のバラツキのため、有機電界発光素子の製造時に、個々の素子の特性が一定しない。
有機電界発光素子の正孔注入層や正孔輸送層を形成する材料として使用される4,4’−ビス[(N−(m−トリル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルや芳香族ジアミン含有ポリエーテル等は、一般に、溶剤への溶解性が低いものが多く、このため、有機材料の薄層を湿式成膜法により形成する場合、適当な濃度の溶液を調製しにくい。
均一性の高い正孔注入・輸送性の層を形成する場合、下地との親和性が重要となる。このため、湿式成膜法に使用する溶液の溶媒は、正孔注入・輸送性材料を溶解するとともに、下地との親和性が高い性質も必要とされる。しかし、これらの2つの要求をバランス良く満たす溶液は調製しにくい。
インクジェット成膜法により、複数の層が積層された有機電界発光素子を形成する場合、塗布液の乾燥速度は、製造工程の効率を左右する上で非常に重要である。例えば、蒸気圧の高い溶媒を使用すると、塗布液を噴射ノズルから塗布面に噴射する際に溶媒が気化し、そのためにノズルが詰まりやすく、均一性の高い有機層を形成するのが困難になる。
本発明の目的は、有機電界発光素子の正孔注入層や正孔輸送層を形成する際に使用する水を含まない成膜用組成物を提供することを目的とする。本発明は、また、正孔注入・輸送性材料に対する溶解性、噴射ノズルからの吐出安定性、成膜された塗膜の下地層との親和性、均一な塗布層を成膜し得る適当な乾燥速度の少なくともいずれか1つ、好ましくはすべてが改善された成膜用組成物を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、この成膜用組成物により正孔注入・輸送層が形成された有機電界発光素子を提供することを目的とする。
本発明の成膜用組成物は、有機電界発光素子の正孔注入・輸送層の成膜に用いられる組成物であって、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物と、該材料及び/又は該化合物が溶解した液体とを含有する成膜用組成物において、該液体が、分子内に芳香環及び/又は脂環と酸素原子とを有し、かつ、沸点が200℃以上であるか或いは25℃における蒸気圧が1torr以下の溶媒(以下「第1溶媒」と称す。)を複数種類含み、1つの第1溶媒は高蒸発性の第1溶媒であり、他の1つの第1溶媒は、それよりも更に沸点が高いか或いは25℃における蒸気圧が低い低蒸発性の第1溶媒であり、該高蒸発性の第1溶媒の重量含有率Wと該低蒸発性の第1溶媒の重量含有率Wとの比W/Wが1〜20であり、該組成物中の該第1溶媒の含有量が3重量%以上であり、該正孔注入・輸送性材料は、分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物であり、該高分子化合物は、芳香族三級アミノ基を構成単位として主骨格に含む高分子芳香族アミン化合物であることを特徴とするものである。
本発明の有機電界発光素子は、正孔注入・輸送層が、この成膜用組成物により形成されたことを特徴とする。
本発明によれば、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物の溶解性が改善され、かつ、均一な塗膜を安定に形成し得る適当な乾燥速度を有する、正孔注入・輸送層の成膜に好適な成膜用組成物が提供される。
分子内に芳香環及び/又は脂環と酸素原子を有する化合物よりなる溶媒は、芳香族アミン化合物等の正孔注入・輸送性材料や、芳香族ホウ素化合物等の電子受容性化合物に対する溶解性が高く、このため、組成物中の正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物の濃度を高める。この溶媒は、従って、最適な濃度又は粘度を有する組成物を調製することを可能とする。第1溶媒は、沸点が200℃以上であるか或いは25℃における蒸気圧が1torr(133Pa)以下であり、非常に蒸発しにくい。従って、第1溶媒を用いてインクジェット法やスプレー法で塗布する場合は、溶媒蒸発による射出ヘッドのノズル詰まりが防止される。塗膜からの第1溶媒の蒸発も抑制されることにより、塗膜のセルフレベリング性により、ムラのない均一な厚さの膜を形成することができる。
このように本発明の成膜用組成物は、乾きにくく、レベリング性がよいため、インクジェット法及びスプレー法による正孔注入・輸送層の成膜に好適である。
本発明の成膜用組成物中の液体が水を含まない場合、得られる素子は、その特性が安定し、正孔輸送能力が向上する。
本発明者らは、均一な膜をインクジェット法により成膜するためには、沸点が低めであるか又は蒸気圧が高めの溶媒と、沸点が高めであるか又は蒸気圧が低めの溶媒とを適当な混合比で混合して用いることが好ましいことを見出した。
本発明の一態様においては、液体は、第1溶媒と、分子内に芳香環及び/又は脂環と酸素原子を有し、第1溶媒には属さない第2溶媒を含み、第1溶媒の重量含有率をW、第2溶媒の重量含有率をWとし、第2溶媒と第1溶媒との重量比W/Wが1〜20である。膜を平坦にするために、W/Wは特に1〜2.5であることが好ましい。
別の一態様では、液体は、第1溶媒としての芳香族エステル(重量含有率W)と、この芳香族エステルよりも更に沸点が高いか或いは25℃における蒸気圧が低い、第1溶媒に属する低蒸発性溶媒(重量含有率W)とを含み、重量比W/Wが1〜20である。膜の平坦性を高めるために、W/Wは特に1〜2.5であることが好ましい。この場合、芳香族エステルとして安息香酸エステルを用い、低蒸発性溶媒として芳香環を有する酢酸エステルを用いることが好ましい。
本発明においては、液体として、実質的に第1溶媒のみからなるものを用いてもよく、これにより、成膜時に、組成物から溶媒が蒸発することが抑制される。
本発明の成膜用組成物において、正孔注入・輸送性材料は芳香族アミン化合物であってもよく、電子受容性化合物は芳香族ホウ素化合物及び/又はその塩であってもよい。
有機電界発光素子は、多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、各層がいずれも均一な層であることが好ましい。湿式成膜法で層形成する場合、層形成用の組成物に水分が混入することにより、塗膜に水分が混入して膜の均一性が損なわれるおそれがあるため、本発明の成膜用組成物中の水分含有量はできるだけ少ない方が好ましい。
有機電界発光素子には、水分により著しく劣化する材料(例えば、陰極を構成するアルミニウム)が多く使用されているため、本発明の成膜用組成物は、水分量が1重量%以下であることが好ましく、これにより、膜の均一性が高められ、有機電界発光素子の劣化、特に陰極の劣化が防止される。
本発明の成膜用組成物は、正孔注入層及び正孔輸送層のうちの少なくとも1層を形成するための塗布液として好適に用いることができる。
本発明の成膜用組成物を用いて成膜された膜は、均一性に優れる。この膜は、パターニングされた電極や画素間の隔壁による凹凸が残る基板表面の特定の領域に形成された、正孔注入・輸送層であってもよい。
図1a,1b,1cは、本実施の形態が適用される成膜用組成物を用いて形成した薄層を有する有機電界発光素子の構成例を説明する断面図である。 図2a,2bは、実施例1〜23における塗布状態の評価のための塗布試験方法を説明する模式図である。 実施例において評価したニジミ幅を示す模式図である。 実施例21〜23における溶媒組成比とニジミ幅との関係を示すグラフである。 実施例24〜28における塗布状態の評価のための塗布試験方法を説明する模式図である。 実施例24〜28における溶媒組成比とニジミ幅との関係を示すグラフである。
以下、本発明の好ましい形態についてさらに詳細に説明する。
本発明の成膜用組成物は、陽極と発光層との間に設けられる正孔注入層及び/又は正孔輸送層を形成する際の塗布液として好適に用いられる。
本明細書では、陽極と発光層との間の層が1つの場合には、これを「正孔注入層」と称し、2つ以上の場合は、陽極に接している層を「正孔注入層」、それ以外の層を総称して「正孔輸送層」と称す。また、陽極と発光層との間に設けられた層を総称して「正孔注入・輸送層」と称する場合がある。
[成膜用組成物中の液体]
本発明の成膜用組成物は、有機電界発光素子の正孔注入層及び正孔輸送層のうちの少なくとも1層を形成する正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物と、これらの正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を溶解する液体と、を含有する。
この液体は、分子内に芳香環及び/又は脂環と酸素原子とを有し、かつ沸点が200℃以上であるか或いは25℃における蒸気圧が1torr以下の第1溶媒を含む。芳香環は、芳香族炭化水素環と芳香族複素環とのいずれであてもよいが、好ましくは芳香族炭化水素環である。
この成膜用組成物中における第1溶媒の濃度は、通常3重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは50重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。組成物に含まれる液体の50重量%以上が第1溶媒であることが好ましい。組成物中の液体が実質的に第1溶媒のみからなってもよい。
第1溶媒は、沸点が200℃以上であるか、25℃における蒸気圧が1torr以下であれば良く、その沸点の上限、或いは蒸気圧の下限については特に制限はない。沸点や蒸気圧の好適範囲は、全溶媒中の第1溶媒の割合や、併用する他の溶媒の種類等によっても異なり、一概には言えないが、通常第1溶媒の沸点は好ましくは200〜300℃程度であり、25℃における蒸気圧は好ましくは0.001〜1torr程度である。
第1溶媒としては、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル、フタル酸ジメチル、酢酸2−フェノキシエチル、プロピオン酸フェニル等の芳香族エステルが挙げられる。
液体は、複数種類の第1溶媒を含んでもよい。この場合、液体は、比較的蒸発性の低い第1溶媒と、比較的蒸発性の高い第1溶媒とを含んでもよい。
液体は、少なくとも1種の第1溶媒と、分子内に芳香環及び/又は脂環と酸素原子とを有し、第1溶媒には属さない少なくとも1種の第2溶媒とを含んでもよい。
第2溶媒としては、
酢酸フェニル、エチル(ペンタフルオロベンゾエート)等の第1溶媒には属さない芳香族エステル;
アニソール、フェネトール等の芳香族エーテル;
シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン等の脂環ケトン;
シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、シクロペンタノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール等の脂環アルコール;
が例示される。
第2溶媒は、沸点が200℃未満でありかつ25℃における蒸気圧が1torrを超える。第2溶媒は、好ましくは沸点150℃以上であるか、25℃における蒸気圧が5torr以下である。第2溶媒は、正孔注入・輸送性材料、電子受容性化合物をよく溶解することが好ましく、第1溶媒よりも溶解度が大きくてもよい。
液体は、上記の通り、少なくとも1種の第1溶媒と少なくとも1種の第2溶媒とを含んでもよい。
この場合において、液体中の第2溶媒の重量含有率Wと第1溶媒の重量含有率Wとの比W/Wは1〜20、さらに好ましくは1〜19である。この範囲よりも第1溶媒が少ないと第1溶媒を用いることによる本発明の効果を十分に得ることができず、多いと、第1溶媒以外の第2溶媒を用いることによる乾燥速度の調整効果を十分に得ることができない。この比W/Wは3〜19であってもよい。
膜の平坦性を高めるには、W/Wは1〜2.5であることが好ましい。
本発明では、前述の通り、液体は、複数種類の第1溶媒を含んでもよい。例えば、比較的高蒸発性の第1溶媒と、比較的低蒸発性の第1溶媒とを含んでもよい。具体的には、沸点が200〜240℃であるか25℃における蒸気圧が1〜0.1torrである高蒸発性第1溶媒と、沸点が250℃以上であるか25℃における蒸気圧が0.1torr以下の低蒸発性第1溶媒とを混合使用しても良い。この場合において、組成物中の高蒸発性の第1溶媒の重量含有率Wと、低蒸発性第1溶媒の重量含有率Wとの比W/Wは1〜20、特に1〜19であることが好ましい。
膜の平坦性を高めるには、W/Wは特に1〜2.5であることが好ましい。
比較的高蒸発性の第1溶媒としては、安息香酸エチル等の安息香酸エステルを用いることが好ましい。比較的低蒸発性の第1溶媒としては、酢酸2−フェノキシエチル等の芳香環を有する酢酸エステルを用いることが好ましい。安息香酸エチルと酢酸2−フェノキシエチルを含む液体が塗布されて形成された膜は平坦性に優れる。
比較的高蒸発性の第1溶媒と、比較的低蒸発性の第1溶媒とは、沸点差が20℃以上、特に40〜100℃であるか、25℃における蒸気圧差が0.09torr以上、特に0.2〜0.999torrであることが好ましい。
高蒸発性の第1溶媒の正孔注入・輸送性材料、電子受容性化合物に対する溶解度が、低蒸発性の第1溶媒よりも高くてもよい。
液体は3種以上の第1溶媒を含んでもよい。例えば、液体は、蒸発性が互いに異なる3種以上の第1溶媒を含んでもよい。この場合、最も蒸発性が高い第1溶媒の重量含有率をWとし、最も蒸発性が低い第1溶媒の重量含有率をWとした場合、W/Wは好ましくは1〜20特に1〜19であり、1〜2.5であってもよい。
液体は、さらに他の溶媒、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の少なくとも1種の芳香族炭化水素類;又は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の少なくとも1種のアミド類;ジメチルスルホキシド等の1種又は2種以上を含んでもよい。
ただし、前述の如く、液体は、第1溶媒を50重量%以上含むことが好ましく、実質的に第1溶媒のみから構成されてもよい。
[正孔注入・輸送性材料]
正孔注入・輸送性材料としては、例えば、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ジアリールアミノ基を有する8−ヒドロキシキノリン誘導体の金属錯体、オリゴチオフェン誘導体等が挙げられる。更に、分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物も使用することができる。これらの正孔注入・輸送性材料は1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物としては、例えば芳香族三級アミノ基を構成単位として主骨格に含む高分子芳香族アミン化合物が挙げられる。具体例として、以下の一般式(I)で表される構造を繰り返し単位として有する正孔注入・輸送性材料が挙げられる。
Figure 2015092602
(I)式中、Ar11〜Ar14は、各々独立して置換基を有することがある2価の芳香族環基を示し、R11〜R12は、各々独立して置換基を有することがある1価の芳香族環基を示し、Xは直接結合、又は下記の連結基から選ばれる。
Figure 2015092602
「芳香族環基」は、「芳香族炭化水素環由来の基」及び「芳香族複素環由来の基」の両方を含む。
上記一般式(I)において、Ar11〜Ar14は、好ましくは、各々独立して、置換基を有することがある2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、又はビフェニル由来の基であり、好ましくはベンゼン環由来の基である。前記置換基としてはハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7の直鎖又は分岐のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などの炭素数6〜12のアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等の、炭素数1〜6のアルキル鎖を有するジアルキルアミノ基、などが挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、特に好ましくはメチル基が挙げられる。ただし、Ar11〜Ar14は、いずれも無置換の芳香族環基である場合が、最も好ましい。
11及びR12として好ましくは、各々独立して、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、又はビフェニル基であり、好ましくはフェニル基、ナフチル基又はビフェニル基であり、より好ましくはフェニル基である。前記置換基としては、Ar11〜Ar14における芳香族環基が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。
一般式(I)で表される構造を繰り返し単位として有する化合物は、例えば、城戸らの方法(Polymers for Advanced Tecnologies,7巻,31頁,1996年;特開平9−188756号公報)に開示されている経路で合成される。
一般式(I)で示される構造のうち好ましい例を以下に示すが、何らこれらに限定されない。
Figure 2015092602
分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物である正孔注入・輸送性材料は、一般式(I)で表される構造のホモポリマーであることが最も好ましいが、他の任意のモノマーとの共重合体(コポリマー)であっても良い。共重合体である場合、一般式(I)で表される構成単位を50モル%以上、特に70モル%以上含有することが好ましい。
なお、高分子化合物である正孔注入・輸送性材料は、一化合物中に、一般式(I)で表される構造を複数種含有していても良い。また、一般式(I)で表される構造を含む化合物を、複数種併用して用いても良い。
高分子化合物からなる正孔注入・輸送性材料としては、更に、共役系高分子が挙げられ、例えば、ポリフルオレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレンビニレンが好適である。
正孔注入・輸送性材料としての芳香族アミン化合物としては、トリアリールアミン構造を含む化合物も挙げられ、従来より有機電界発光素子における正孔注入・輸送性の層形成材料として利用されてきた化合物の中から適宜選択して用いることもできる。
正孔注入・輸送性材料としては、前記一般式(I)で表される構造を有する化合物以外にも、従来公知の化合物が利用可能である。このような従来公知の化合物としては、例えば、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(特開昭59−194393号公報);4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン(特開平5−234681号公報);トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4,923,774号);N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族ジアミン(米国特許第4,764,625号);α,α,α’,α’−テトラメチル−α,α’−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−p−キシレン(特開平3−269084号公報);分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(特開平4−129271号公報);ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(特開平4−175395号公報);エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン(特開平4−264189号公報);スチリル構造を有する芳香族ジアミン(特開平4−290851号公報);チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(特開平4−304466号公報);スターバースト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報);ベンジルフェニル化合物(特開平4−364153号公報);フルオレン基で3級アミンを連結したもの(特開平5−25473号公報);トリアミン化合物(特開平5−239455号公報);ビスジピリジルアミノビフェニル(特開平5−320634号公報);N,N,N−トリフェニルアミン誘導体(特開平6−1972号公報);フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7−138562号公報);ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(特開平7−252474号公報);ヒドラゾン化合物(特開平2−311591号公報);シラザン化合物(米国特許第4,950,950号公報);シラナミン誘導体(特開平6−49079号公報);ホスファミン誘導体(特開平6−25659号公報);キナクリドン化合物等が挙げられる。
これらの化合物は、1種を単独で用いても良いし、必要に応じて2種以上を混合して用いても良い。
本発明の成膜用組成物中の正孔注入・輸送性材料の含有量は、通常、0.05重量%以上、好ましくは1重量%以上である。但し、通常、50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
[電子受容性化合物]
本実施の形態が適用される成膜用組成物に含有される電子受容性化合物としては、例えば、芳香族ホウ素化合物又はその塩、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、芳香族アミンとハロゲン化金属との塩、芳香族アミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。これらの電子受容性化合物は、正孔注入・輸送性材料と混合して用いられ、正孔注入・輸送性材料を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
芳香族ホウ素化合物又はその塩としては、好ましい具体例を以下に示すが、これらに限定するものではない。
Figure 2015092602
Figure 2015092602
Figure 2015092602
これらのうち、特に、上記(D−30)が好ましい。
また、電子受容性化合物として、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、芳香族アミンとハロゲン化金属との塩、芳香族アミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物の具体例としては、以下に示す化合物が挙げられる。
Figure 2015092602
なお、本発明の成膜用組成物における電子受容性化合物の重量含有率Wと正孔注入・輸送性材料の重量含有率Wとの比W/Wは0.001以上、好ましくは0.01以上である。但し、通常、1以下、好ましくは、0.4以下である。
[水分量]
本発明の成膜用組成物は、前述の如く、インクジェット成膜法で形成される膜の均一性、有機電界発光素子の劣化防止のために、水分量が少ないことが好ましく、具体的には、成膜用組成物中に含まれる水分量は好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、特に好ましくは0.05重量%以下とする。
従って、成膜用組成物中の水分量が上記上限以下となるように、成膜用組成物の調製に用いる溶媒や正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物について、必要に応じて十分に水分を除去するための精製ないし乾燥処理を施した後に用いることが好ましい。
[その他の成分]
本発明の成膜用組成物には、上記溶媒、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物以外に、必要に応じて、レベリング剤や消泡剤などの各種添加剤が含有されていても良い。また、後述のバインダー樹脂を含有していても良い。
[有機電界発光素子の構造]
次に、本発明の成膜用組成物を用いて作製される有機電界発光素子について説明する。
図1a〜図1cは、本発明の成膜用組成物を用いて形成した薄層を有する有機電界発光素子の一例を説明する断面図である。
図1aに示された有機電界発光素子100aは、基板101と、基板101上に順次積層された陽極102と、正孔注入層103と、発光層105と、陰極107とを有する。
基板101は、有機電界発光素子100aの支持体である。基板101を形成する材料としては、石英板、ガラス板、金属板、金属箔、プラスチックフィルム及びプラスチックシート等が挙げられる。これらの中でも、ガラス板、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明なプラスチックシートが好ましい。なお、基板101にプラスチックを用いる場合には、基板101の片面又は両面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を高めることが好ましい。
陽極102は、基板101上に設けられ、正孔注入層103への正孔注入の役割を果たすものである。陽極102の材料としては、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/又はスズの酸化物等の導電性の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック;ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等が挙げられる。
陽極102の形成方法としては、通常、基板101上へのスパッタリング、真空蒸着等;銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子又は導電性高分子微粉末等を適当なバインダー樹脂溶液中に分散させて基板101上に塗布する方法;電解重合により基板101上に直接導電性重合薄膜を形成する方法;基板101上に導電性高分子溶液を塗布する方法等が挙げられる。なお、陽極102は、通常、可視光の透過率が60%以上、特に80%以上であることが好ましい。陽極102の厚さは、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下であり、通常5nm以上、好ましくは10nm以上である。
陽極102の上に設けられる正孔注入層103は、好ましくは、本発明の成膜用組成物を用いて、好ましくは、湿式成膜法により形成される。有機電界発光素子は、多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、膜質が均一であることが非常に重要である。湿式成膜法で層形成する場合、その材料や、下地の性質によって、スピンコート法、スプレー法などの塗布法や、インクジェット法、スクリーン法などの印刷法等、公知の成膜方法が採用される。高精細なパターニングにより、所望の領域への均一膜形成が可能である点において、インクジェット法が最適である。特に、パターニングされた電極や画素間の隔壁による凹凸が残る基板表面の特定の領域に、有機化合物からなる層を設ける場合に、インクジェット法は好適である。
正孔注入層103は、正孔注入・輸送性材料とこの正孔注入・輸送性材料を酸化しうる電子受容性化合物を用いて形成することが好ましい。このようにして形成される正孔注入層103の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上である。但し、通常、1,000nm以下、好ましくは500nm以下である。
発光層105は、正孔注入層103上に設けられ、電界を与えられた電極間において陰極107から注入された電子と正孔注入層103から輸送された正孔を効率よく再結合し、かつ、再結合により効率よく発光する材料から形成される。発光層105を形成する材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、ビススチリルベンゼン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体、シロール誘導体等の低分子発光材料;ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の高分子化合物に発光材料と電子移動材料を混合した系等が挙げられる。
また、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体をホスト材料として、ルブレン等のナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の縮合多環芳香族環等を、ホスト材料に対して0.1〜10重量%ドープすることにより、素子の発光特性、特に駆動安定性を大きく向上させることができる。これらの材料は、真空蒸着法又はインクジェット成膜法等の湿式成膜法により正孔注入層103上に薄膜形成される。このようにして形成される発光層105の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは30nm以上である。但し、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
陰極107は、発光層105に電子を注入する役割を果たす。陰極107として用いられる材料は、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。陰極107の膜厚は、通常、陽極102と同様である。
低仕事関数金属からなる陰極107を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す上で有効である。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。更に、陰極107と発光層105との界面にLiF、MgF、LiO等の極薄絶縁膜(膜厚0.1〜5nm)を挿入することにより、素子の効率を向上させることができる。
図1bは、機能分離型発光素子を説明するための図である。図1bに示された有機電界発光素子100bは、素子の発光特性を向上させるために、正孔注入層103と発光層105との間に正孔輸送層104が設けられ、その他の層は、図1aに示した有機電界発光素子100aと同様な構成を有する。
正孔輸送層104の材料としては、正孔注入層103からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが必要である。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、しかも正孔移動度が大きく、更に安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。また、発光層105と直接接する層であるために、発光を消光する物質が含まれていないことが望ましい。
正孔輸送層104を形成する正孔注入・輸送性材料としては、本発明の成膜用組成物における正孔注入・輸送性材料として例示した化合物と同様なものが挙げられる。また、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン等の高分子材料が挙げられる。正孔輸送層104は、これらの正孔注入・輸送性材料をインクジェット成膜法等の湿式成膜法又は真空蒸着法により正孔注入層103上に積層することにより形成される。このようにして形成される正孔輸送層104の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは30nmである。但し、通常、300nm以下、好ましくは100nm以下である。
図1cは、機能分離型発光素子の他の実施形態を説明するための図である。図1cに示された有機電界発光素子100cは、発光層105と陰極107との間に電子輸送層106が設けられ、その他の層は、図1bに示した有機電界発光素子100bと同様な構成を有する。
電子輸送層106に用いられる化合物には、陰極107からの電子注入が容易で、電子の輸送能力が更に大きいことが要求される。このような電子輸送材料としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体、オキサジアゾール誘導体又はそれらをポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の樹脂に分散した系、フェナントロリン誘導体、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。電子輸送層106は、これらの電子輸送材料をインクジェット成膜法等の湿式成膜法又は真空蒸着法により発光層105上に積層することにより形成される。このようにして形成される電子輸送層106の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上である。但し、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
なお、本発明の有機電界発光素子は、図示のものに限定されるものではない。例えば、図1a〜図1cに示したものとは逆の構造、即ち、基板101上に陰極107、発光層105、正孔注入層103、陽極102の順に積層することも可能である。また、少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に有機電界発光素子を設けることも可能である。更に、正孔注入・輸送性材料と電子受容性化合物とを含有する層は、陽極102に接する正孔注入層103である必要はなく、陽極102と発光層105との間に設けられていれば良く、特に、正孔注入層103であることが好ましい。また、図1a〜図1cに示した各層の間に、任意の層を有していても良い。更に、図にはないが、画素を囲む絶縁材料からなる壁状の構造物、いわゆる「バンク」といわれるもの、陰極を分割する隔壁、画素を駆動する非線形素子、などを備えていても良い。
[有機電界発光素子の製造方法]
本発明の成膜用組成物を用いて、インクジェット成膜法により形成した薄層を有する有機電界発光素子の製造方法について説明する。
例えば、図1a〜1cに示す有機電界発光素子100a〜100cを製造するには、基板101上へのスパッタリング、真空蒸着等により陽極102を形成する。陽極102の上に、正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を、本発明の組成物を用いたインクジェット成膜法により形成する。正孔注入層103及び/又は正孔輸送層104の上に、真空蒸着法又はインクジェット成膜法により発光層105を形成する。発光層105の上に、必要に応じて、真空蒸着法又はインクジェット成膜法により電子輸送層106を形成する。発光層105又は電子輸送層106上に陰極107を形成する。
正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を、インクジェット成膜法により形成する場合は、通常、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物の所定量に、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂又は塗布性改良剤等の添加剤等を添加し、溶解して塗布液、即ち、成膜用組成物を調製する。インクジェット成膜法により陽極102上にこの組成物を塗布し、乾燥して、正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を形成する。
なお、バインダー樹脂の含有量は、正孔移動度の面から、通常、形成されたこれらの層中の含有量で50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、実質的にバインダー樹脂を含有しない場合が最も好ましい。
また、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子輸送性化合物を含む層の形成に際して、インクジェット成膜及び乾燥工程の後、更に加熱工程を経ると、得られる膜に含まれる残留溶媒や、インクジェット成膜工程等で混入した水分の量を低減させることにより、素子の特性を向上させることができる。具体的には、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を含む層をインクジェット成膜法にて形成した後、ホットプレート、オーブン等の手段で基板を加熱する。加熱処理による効果を十分に得るためには、100℃以上で処理することが好ましい。加熱時間は通常1分〜8時間程度である。このようにインクジェット成膜法により形成された正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を含む層は、表面が平滑なものとなるため、ITO等の陽極102の表面粗さに起因する素子作製時の短絡の問題を解消することができる。
以下に、実施例、比較例及び参考例に基づき、本実施の形態を更に具体的に説明する。なお、本実施の形態は、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例で用いた溶媒の物性値は下記表1に示す通りである。
Figure 2015092602
また、正孔注入・輸送性材料としては、前記例示化合物(I−3)を用い、電子受容性化合物としては、前記例示化合物(D−30)を用いた。
実施例1〜23、比較例1〜4(インクジェット塗布)
成膜用組成物の調合
表2に示す配合で各成分化合物と溶媒とを混合して成膜用組成物を調合した。以下、調合した成膜用組成物を単に「インク」と呼ぶ。
射出状態の評価
作製したインクを用いて、ピエゾ駆動型射出ヘッドを備えるインクジェット塗布装置を用い、インクが射出ヘッドのノズルから射出される様子を次のようにして観察した。
5分間、ノズルから連続してインクの射出を行い、5分後の射出状態を観察し、ノズルが詰まってインクが射出できなくなったり、インクが斜めに射出してしまい正常な射出ができなくなった不良ノズルの数を数え、以下のように評価した。
VG(Very Good):不良ノズル数/全ノズル数の割合が10%未満
G(Good):不良ノズル数/全ノズル数の割合が10%以上50%未満
NG(Not Good):不良ノズル数/全ノズル数の割合が50%以上
塗布状態の評価
前記調合インクのうちのいくつかのインクを選び、以下の手順で塗布試験を行った。
1) 図2aに示す如く、ガラス基板上にスパッタ法を用いてITOを150nmの膜厚で形成した後、フォトエッチング法を用いて、所定の形状にパターニングして陽極202を形成し、その後、この基板201上に、ポリイミドのパターン形成により、バンク203を形成した。バンク203に囲まれた画素部204の大きさは135μm×85μm、画素領域の配置は54列×32行のマトリクス状とした。
2) 図2bのように、射出状態の評価で用いたものと同じインクジェット塗布装置を用い射出ヘッド207のノズル206から、バンク203で区切られた画素204部分に、調合したインク205を射出塗布した。
3) 2)の基板を200℃で加熱し、インクを乾燥して膜厚約20nmの薄膜を得た。
4) 3)の基板について、画素内に形成された薄膜の状態を光学顕微鏡により観察し、以下の基準で評価を行った。
VG:ほぼ均一な膜が形成される。
G:ムラが若干あるが、画素内の全域に拡がる膜が形成される。
NG:点状に液が集合し、膜が十分に形成されない。
ニジミ幅の評価
実施例21〜23においては、上記のようにして形成された薄膜について、ニジミ幅の評価を行った。
ニジミ幅とは、図3に示すように、バンク203のエッジ部分のインク205の膜厚が不均一となる領域の幅を意味する。
ニジミ幅は、光学顕微鏡を用いて観察することにより求めた。
評価結果
上記評価結果を表2に示す。
また、図4に溶媒組成比とニジミ幅との関係を示した。
Figure 2015092602
考察
上記評価結果より次のことが分かる。
射出状態
実施例1〜23では、全てのインクで、不良ノズル数が少なく、良好な射出ができることがわかった。これは、安息香酸エチル、酢酸2−フェノキシエチルの沸点が200℃以上と高く、また、常温域での蒸気圧が1torr以下であるため、塗布液が乾きにくく、ノズルが詰まりにくかったためと考えられる。
特に、沸点が高く、蒸気圧の低い酢酸2−フェノキシエチルの配合比が大きいインクは、射出状態が良好であった。
これに対して、溶媒がアニソール、もしくはシクロヘキサノンなど、沸点が200℃未満、又は、25℃での蒸気圧が1torrより大きい溶媒のみからなる比較例1〜4では、ノズルの不良が生じやすい。
塗布状態
実施例5,14の安息香酸エチルの単独溶媒、実施例6〜8,14〜18,20〜23の安息香酸エチルと酢酸2−フェノキシエチルの混合溶媒の何れのインクでも良好な膜が得られた。これは、安息香酸エチル、酢酸2−フェノキシエチルの沸点が200℃以上と高く、また、常温域での蒸気圧が1torr以下であり、塗布液が乾きにくかったため、画素内に塗布液が広がりやすく、更にレベリング性も良好であったためと考えられる。
特に、安息香酸エチルと酢酸2−フェノキシエチルの混合溶媒の塗布液では、ムラの少ない均一な膜が得られた。これは、酢酸2−フェノキシエチルの沸点が非常に高いため、インクが乾きにくく、レベリング性が非常に良好であるためと考えられる。
ニジミ幅
実施例21〜23では、ニジミ幅が20μm以下となり、全てのインクで良好な塗布状態が得られた。特に溶媒の重量比が安息香酸エチル/酢酸2−フェノキシエチル=3/1よりも酢酸2−フェノキシエチルが多く配合される実施例22と実施例23では、ニジミ幅が特に小さくなり、非常に良好な塗布状態となった。これは、酢酸2−フェノキシエチルの沸点が非常に高いため、インクが乾きにくく、レベリング性が非常に良好であることによると考えられる。この結果から、安息香酸エチル/酢酸2−フェノキシエチル=3/1よりも酢酸2−フェノキシエチルが多く配合される領域で、特に、平坦性に優れる膜が得られることが分かった。
実施例24〜28(スプレー塗布)
成膜用組成物の調合
実施例1〜23と同様に、表4に示す配合で、各成分化合物と溶媒とを混合して成膜用組成物(インク)を調合した。
噴霧状態の評価
作製したインクについて、株式会社藤森技術研究所製のスプレー装置NVD200を用いて、次のようにして、インクがノズルから噴霧される様子を観察した。
1分間ノズルからインクの噴霧を行った後、30分間噴霧を停止した状態でノズルを放置した。放置後、再度インクの噴霧を行い、再噴霧直後の噴霧状態を観察し、以下のように評価した。なお、「正常に噴霧した」状態とは、ノズルから噴き出すスプレー形状がきれいな円錐形となることを言う。ノズルに目詰まりがあると、目詰まりした部分でスプレー形状が乱れ、通常スプレー形状が円錐形状にはならない。
G:再噴霧当初から正常に噴霧可能であった。
NG:目詰まりが生じる。
塗布状態の評価
株式会社藤森技術研究所製のスプレー装置NVD200を用いて、実施例1〜23と同様にして陽極202及びバンク203を形成した基板201の全面に、図5に示す如く、スプレー装置のノズル206から前記調合インクを噴射して塗布した。このスプレー装置では、ノズル206にインクと高圧の窒素ガスが供給され、窒素ガスにより霧化されたインクがノズルより噴射される。このようにしてインクを塗布した基板を200℃で加熱してインクを乾燥し、膜厚約130nmの薄膜を得た。
このようにして薄膜を形成した基板について、実施例1〜23と同様にして塗布状態の評価を行った。
ニジミ幅の評価
上記のようにして形成された薄膜について、実施例21〜23と同様にしてニジミ幅の評価を行った。
評価結果
上記評価結果を表3に示す。
また、図6に溶媒組成比とニジミ幅との関係を示した。
Figure 2015092602
考察
上記評価結果より次のことが分かる。
噴霧状態
実施例24〜28では、全てのインクでノズルの詰まりがなく、良好な噴霧ができることが分かった。これは、安息香酸エチルと酢酸2−フェノキシエチルの沸点が200℃以上と高く、また、常温域での蒸気圧が1torr以下であるため、インクが乾きにくく、ノズルが詰まりにくかったためと考えられる。特に、沸点が高く、蒸気圧の低い酢酸2−フェノキシエチルの配合比が比較的多いため、噴霧状態が良好であったと考えられる。
塗布状態
実施例24〜28では、全てのインクで良好な膜が得られた。これは、安息香酸エチルと酢酸2−フェノキシエチルの沸点が200℃以上と高く、また、常温域での蒸気圧が1torr以下であり、インクが乾きにくかったため、画素内にインクが広がりやすく、更にレベリング性も良好であったためと考えられる。
ニジミ幅
実施例24〜28では、ニジミ幅が20μm以下となり、全てのインクで良好な塗布状態が得られた。特に溶媒の重量比が安息香酸エチル/酢酸2−フェノキシエチル=3/1よりも酢酸2−フェノキシエチルが多く配合される実施例25〜28では、ニジミ幅が特に小さくなり、非常に良好な塗布状態となった。これは、酢酸2−フェノキシエチルの沸点が非常に高いため、インクが乾きにくく、レベリング性が非常に良好であることによると考えられる。この結果から、安息香酸エチル/酢酸2−フェノキシエチル=3/1よりも酢酸2−フェノキシエチルが多く配合される領域で、特に、平坦性に優れる膜が得られることが分かった。
これらの結果から、本発明によるインクが、インクジェット法のみならず、スプレー塗布用にも好適であることが分かった。
上記実施例により、本発明によるインクは、「乾きにくい」、「レベリング性が良い」等の優れた特性を有し、インクジェット法、スプレー法に好適であることが確認された。更に、安息香酸エチル/酢酸2−フェノキシエチル=3/1よりも酢酸2−フェノキシエチルが多く配合される領域で、特に平坦性に優れる膜が得られることが確認された。
本発明によるインクの「乾きにくい」、「レベリング性が良い」等の優れた特性は、インクジェット法、スプレー法以外の塗布法、例えば、フレキソ印刷法等の各種印刷法、ブレードコート等のスリット状のノズルからインクを供給する塗布方法、または、スピンコート法等に対しても、同様に有効である。

Claims (14)

  1. 有機電界発光素子の正孔注入・輸送層の成膜に用いられる組成物であって、正孔注入・輸送性材料と、該材料が溶解した液体とを含有する成膜用組成物において、
    該液体が、分子内に芳香環及び/又は脂環と酸素原子とを有し、かつ、沸点が200℃以上であるか或いは25℃における蒸気圧が1torr以下の溶媒(以下「第1溶媒」と称す。)を複数種類含み、
    1つの第1溶媒は高蒸発性の第1溶媒であり、他の1つの第1溶媒は、それよりも更に沸点が高いか或いは25℃における蒸気圧が低い低蒸発性の第1溶媒であり、
    該高蒸発性の第1溶媒の重量含有率Wと該低蒸発性の第1溶媒の重量含有率Wとの比W/Wが1〜20であり、
    該組成物中の該第1溶媒の含有量が3重量%以上であり、
    該正孔注入・輸送性材料は、分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物であり、
    該高分子化合物は、芳香族三級アミノ基を構成単位として主骨格に含む高分子芳香族アミン化合物であることを特徴とする成膜用組成物。
  2. 請求項1において、該液体が実質的に前記第1溶媒のみからなることを特徴とする成膜用組成物。
  3. 請求項1において、該液体が、該第1の溶媒と、分子内に芳香環及び/又は脂環と酸素原子とを有し、第1の溶媒には属さない溶媒(以下「第2溶媒」と称す。)を含み、第2溶媒の重量含有率Wと第1溶媒の重量含有率WとのW/Wが1〜20であることを特徴とする成膜用組成物。
  4. 請求項3において、前記比W/Wが1〜2.5であることを特徴とする成膜用組成物。
  5. 請求項1ないし4のいずれか1項において、更に電子受容性化合物を含むことを特徴とする成膜用組成物。
  6. 請求項5において、該電子受容性化合物が芳香族ホウ素化合物及び/又はその塩であることを特徴とする成膜用組成物。
  7. 請求項1ないし6のいずれか1項において、組成物中に含まれる水分量が1重量%以下であることを特徴とする成膜用組成物。
  8. 請求項1ないし7のいずれか1項において、該高分子化合物は、一般式(I)で表される構造を繰り返し単位として有することを特徴とする成膜用組成物。
    Figure 2015092602
    (I)式中、Ar11〜Ar14は、各々独立して置換基を有することがある2価の芳香族環基を示し、R11〜R12は、各々独立して置換基を有することがある1価の芳香族環基を示し、Xは直接結合、又は下記の連結基から選ばれる。
    Figure 2015092602
    なお、「芳香族環基」とは、「芳香族炭化水素環由来の基」及び「芳香族複素環由来の基」の両方を含む。
  9. 請求項8において、一般式(I)で示される構造は、次の(I−1),(I−2),(I−3)及び(I−4)のいずれかであることを特徴とする成膜用組成物。
    Figure 2015092602
  10. 請求項9において、一般式(I)で示される構造は(I−3)であることを特徴とする成膜用組成物。
  11. 請求項1ないし10のいずれか1項において、成膜用組成物中の正孔注入・輸送性材料の含有量は、0.05〜50重量%であることを特徴とする成膜用組成物。
  12. 請求項5ないし11のいずれか1項において、組成物中における電子受容性化合物の重量含有率Wと正孔注入・輸送性材料の重量含有率Wとの比W/Wが0.001〜1であることを特徴とする成膜用組成物。
  13. 請求項3ないし12のいずれか1項において、第2溶媒は、
    沸点が200℃未満でありかつ25℃における蒸気圧が1torrを超える芳香族エステル;
    芳香族エーテル;
    脂環ケトン;及び
    脂環アルコール
    の少なくとも1種であることを特徴とする成膜用組成物。
  14. 正孔注入・輸送層を有する有機電解発光素子において、該正孔注入・輸送層が、請求項1ないし13のいずれか1項に記載の成膜用組成物により形成されたことを特徴とする有機電界発光素子。
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