JP2004002741A - 高分子化合物、1,4−フェニレンジアミン誘導体、電荷輸送材料、有機電界発光素子材料および有機電界発光素子 - Google Patents
高分子化合物、1,4−フェニレンジアミン誘導体、電荷輸送材料、有機電界発光素子材料および有機電界発光素子 Download PDFInfo
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Abstract
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規高分子化合物と、この高分子化合物の合体中間体としての新規1,4−フェニレンジアミン誘導体と、この高分子化合物を用いた電荷輸送材料、有機電界発光素子材料および有機電界発光素子、即ち、有機化合物から成る発光層に電界をかけて光を放出する薄膜型デバイスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、薄膜型の電界発光(EL)素子としては、無機材料のII−VI族化合物半導体であるZnS、CaS、SrS等に、発光中心であるMnや希土類元素(Eu、Ce、Tb、Sm等)をドープしたものが一般的であるが、上記の無機材料から作製したEL素子は、
1)交流駆動が必要(50〜1000Hz)、
2)駆動電圧が高い(〜200V)、
3)フルカラー化が困難、
4)周辺駆動回路のコストが高い、
という問題点を有している。
【0003】
しかし、近年、上記問題点の改良のため、有機薄膜を用いたEL素子の開発が行われるようになった。特に、発光効率を高めるため、電極からのキャリアー注入の効率向上を目的として電極の種類の最適化を行い、芳香族ジアミンから成る正孔輸送層と8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体から成る発光層とを設けた有機電界発光素子の開発(非特許文献1)により、従来のアントラセン等の単結晶を用いたEL素子と比較して発光効率の大幅な改善がなされ、実用特性に近づいている。
【0004】
上記の様な低分子材料を用いた電界発光素子の他にも、発光層の材料として、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリフルオレン等の高分子材料を用いた電界発光素子の開発や、ポリビニルカルバゾール等の高分子に低分子の発光材料と電子移動材料を混合分散した素子の開発も行われている。
【0005】
ところで、有機電界発光素子の最大の課題は、駆動時の寿命である。駆動時の不安定性としては、発光輝度の低下、定電流駆動時の電圧上昇、非発光部分(ダークスポット)の発生等が挙げられる。これらの不安定性の原因はいくつか存在するが、有機層の薄膜形状の劣化が支配的である。この薄膜形状の劣化は、素子駆動時の発熱による有機非晶質膜の結晶化(または凝集)等に起因すると考えられている。特に、駆動電圧の上昇については陽極と正孔輸送層のコンタクトが重要である。
【0006】
そこで、陽極と正孔輸送層のコンタクトを向上させるため両層の間に正孔注入層を設け、駆動電圧を低下させることが検討されている。正孔注入層に用いられる材料に要求される条件としては、陽極とのコンタクトがよく均一な薄膜が形成でき、熱的に安定、すなわち、融点及びガラス転移温度(Tg)が高いこと、好ましくは 300℃以上の融点と 120℃以上のガラス転移温度を有することが要求される。さらに、陽極からの正孔注入が容易であり、かつ、注入された正孔が効率よく正孔輸送層への移動されるような、適度なイオン化ポテンシャルを有していることが要求される。また、一連の正孔注入輸送過程において、正孔移動度が大きいことが要求される。正孔注入層の材料としても種々のものが検討されており、例えばポルフィリン誘導体やフタロシアニン化合物(特許文献1)、スターバースト型芳香族トリアミン(特許文献2)、スパッタ・カーボン膜や、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、モリブデン酸化物等の金属酸化物などが報告されている。
【0007】
しかしながら、陽極と正孔輸送層の間に正孔注入層を挿入する方法において、ポルフィリン誘導体やフタロシアニン化合物を正孔注入層として用いた場合、これらの膜自体による光吸収のためにスペクトルが変化する、外観上着色して透明でなくなるという問題がある。
【0008】
スターバースト型芳香族トリアミンでは、適度なイオン化ポテンシャルを有し透明性がよいという利点はあるものの、ガラス転移点や融点が低いために耐熱性に難点がある。
【0009】
また、共役・非共役の各種高分子化合物を含む正孔注入層も多数提案されている。通常、有機電界発光素子の陽極として用いられるインジウム・スズ酸化物(ITO)は、10nm程度の表面粗さ(Ra)を有するのに加えて、局所的に突起を有することが多く、素子作製時に短絡欠陥を生じるという問題があったが、該陽極上に、高分子化合物を含む溶液を塗布して正孔注入層を設けることにより、該欠陥の低減するという効果も得られる。
【0010】
このような正孔注入層材料として、例えば、ポリチエニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリアニリン等の共役系ポリマーの使用が提案されている。しかし、これらは、溶剤への可溶性に問題があり、このため製造プロセス面での問題がある。
【0011】
また、電子受容性化合物を混合していない非共役系ポリマーを、正孔輸送層として使用することが提案されている(特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6)が、このような素子は特許文献3中17頁図4に記載されているように、6Vで20cd/m2と駆動電圧が高く、その時の発光効率も1cd/Aと低い。
【0012】
更に、非共役系正孔輸送性ポリマーに電子受容性化合物を混合し、正孔注入層として使用することにより、素子の低電圧駆動が可能なことが開示されている(特許文献7)。しかし、特許文献7に開示されるポリマーはガラス転移温度Tgが低く、耐熱性に難点がある。
【0013】
上述の文献中に開示された非共役系ポリマーは、その殆どが、ビフェニレン基で結合された2個のジアリールアミノ構造を含み、該ポリマーの正孔輸送性は、通常、このビフェニレン−ジアリールアミノ構造部分に起因する。
【0014】
しかし、該構造の元になるモノマー成分は人体に有害であること、また該構造は電荷移動における再配向エネルギーが大きいため、正孔注入・輸送のエネルギー障壁が大きく、このため、このようなポリマーを用いた正孔注入層をもつ有機電界発光素子は、駆動寿命が十分でないと考えられる。
【0015】
正孔輸送性部位としては、1,4−フェニレンジアミン由来の部分構造は再配向エネルギーが小さく、大きな正孔移動度をもつと考えられるが、この1,4−フェニレンジアミン部位とベンゾフェノン部位とを有する非共役系ポリマーを、正孔輸送層として用いる例が、特許文献4に開示されている。該文献に記載されているポリマーは、1,4−フェニレンジアミン部位に低級アルキル基が結合しており、該アルキル基は光照射により、ベンゾフェノン部位とラジカル反応を生じて架橋し、不溶化されることを特徴とする。
【0016】
ところで有機電界発光素子の駆動電圧低下等のために、該素子の正孔注入層において、正孔輸送性のポリマーは電子受容性化合物としばしば併用される。しかし、ポリマーから電子受容性化合物への電荷移動に伴う吸収帯が低エネルギー領域に存在するため、特許文献4記載のポリマーの場合、電子受容性化合物共存下では、光架橋は起こらず、該文献に記載された効果を奏しない。
【0017】
また、特許文献4における光架橋前のポリマーは、電子供与性のアルキル基が1,4−フェニレンジアミン部位に直接結合しているため、イオン化ポテンシャルが低く、該ポリマーと電子受容性化合物を混合し、正孔注入層として用いた場合、正孔輸送層への電荷の移動が効率よく行われないと思われる。さらに、該ポリマーは、フェニレンジアミン部位に有するアルキル基のために、耐熱性が不十分である場合がある。
【0018】
ところで後述するように、有機電界発光素子においてポリマーを含む層を形成する場合、生産性の面では印刷法を使用することが好ましい。具体的には、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などが挙げられる。これらの印刷法にて精度良く層形成する場合、塗布液となるポリマー含有組成物には、ある程度の粘度が必要とされる。
【0019】
【特許文献1】
特開昭63−295695号公報
【特許文献2】
特開平4−308688号公報
【特許文献3】
特開平9−188756号公報
【特許文献4】
特開平9−255774号公報
【特許文献5】
特開平11−135262号公報
【特許文献6】
WO97/33193号公報
【特許文献7】
特開平11−283750号公報
【非特許文献1】
Appl. Phys. Lett., 51巻, 913頁,1987年
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
このように有機電界発光素子の駆動時における電圧が高く、耐熱性を含めた安定性が低いことは、ファクシミリ、複写機、液晶ディスプレイのバックライト等の光源としては大きな問題であり、特にフルカラーフラットパネル・ディスプレイ等の表示素子としても望ましくない。
【0021】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、低電圧、高発光効率で駆動させることができ、かつ良好な耐熱性を有し、長期間にわたって安定な発光特性を維持することができる有機電界発光素子であって、前述の陽極の表面粗さに起因する素子作製時の短絡欠陥を防止した有機電界発光素子と、この有機電界発光素子の正孔注入層材料として好適な新規高分子化合物、この高分子化合物の合成中間体としての新規1,4−フェニレンジアミン誘導体、この高分子化合物を含む電荷輸送材料及び有機電界発光素子材料を提供することを目的とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】
本発明の高分子化合物は、下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むことを特徴とするものであり、好ましくは本発明の高分子化合物は、下記一般式(I)および下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むものである。
【0023】
【化9】
(式中、環A1および環A2は各々独立して、ベンゼン環、或いは任意の環が縮合したベンゼン環であり、このベンゼン環または縮合環は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、および置換基を有していてもよい芳香族複素環基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の置換基で置換されていてもよい。
Ar1ないしAr8は各々独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、および置換基を有していてもよい芳香族複素環基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の置換基で置換されていてもよい芳香族環を表す。
X、Y1およびY2は各々独立して、2価の連結基を表す。)
【0024】
本発明の電荷輸送材料は、このような本発明の高分子化合物を含むものである。
【0025】
本発明の有機電界発光素子材料は、このような本発明の高分子化合物を含むものである。
【0026】
本発明の有機電界発光素子は、基板上に陽極、陰極、および該両極間に存在する発光層を有する有機電界発光素子において、このような本発明の高分子化合物を含む層を有することを特徴とする。
【0027】
即ち、本発明者らは、従来の問題点を解決し、高温において安定な発光特性を維持できる有機電界発光素子を提供するべく鋭意検討した結果、基板上に、陽極および陰極により挟持された発光層を有する有機電界発光素子において、陽極と発光層との間に、電子受容性化合物を含有し、かつ、高いTgを有する高分子化合物からなる層を設けることで、上記課題を解決することができることを知見し、上記一般式(II)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物は、ガラス転移温度Tg≧ 120℃を容易に達成することができ、このような高いTgを有する高分子化合物と電子受容性化合物を混合して用いることで、素子の発光特性と耐熱性を同時に改善することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0028】
本発明の高分子化合物は電子供与性であり、この高分子化合物に電子受容性化合物を混合することにより、電荷移動が起こり、結果としてフリーキャリアである正孔が生成し、この層の電気伝導度が高くなる。このような層を設けることで、発光層と陽極との電気的接合が改善され、駆動電圧が低下すると同時に連続駆動時の安定性も向上する。
【0029】
しかも、このような高分子化合物を主成分とする層を、塗布プロセスにて陽極上に形成することにより、前述の陽極の表面粗さが緩和され、良好な表面平滑化効果が得られ、素子作製時の短絡欠陥が防止されるという効果も奏される。
【0030】
また、この高分子化合物はクロスリンク構造を持つため、直鎖型の高分子化合物に比べて高Tgとなる。即ち、本発明の高分子化合物は、クロスリンク構造を有し、好ましくはTgが150℃以上であるものである。また、この高分子化合物を含む層を印刷法にて形成する場合には、化合物中のクロスリンクの割合を調整することによって、塗布液(印刷用組成物)の粘度を適切な範囲に調節することができ、膜厚を精密に制御できるため好ましい。
【0031】
なお、本発明に係る高分子化合物と電子受容性化合物を含む層は、正孔輸送性を示す層であり、陽極と発光層との間であればどこにあっても良く、後掲の図1〜3に示す如く、陽極上に直接設けるものに何ら限定されないが、陽極(無機材料)との電気的接合が良く、耐熱性が高いというこの層の長所を十分に生かすためには、陽極と接する位置に正孔注入層として形成するのが最も有利である。
【0032】
本発明の有機電界発光素子においては、この高分子化合物のイオン化ポテンシャルから電子受容性化合物の電子親和力を引いた値は0.7eV以下であることが好ましく、また、これらを含有する層中の電子受容性化合物の含有量は、この高分子化合物に対して0.1〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【0033】
本発明の有機電界発光素子において、電子受容性化合物は、下記化合物群から選ばれる化合物の少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
【化10】
【0035】
本発明の1,4−フェニレンジアミン誘導体は、本発明の高分子化合物の合成中間体として有用な単量体であり、下記一般式(IV’)で表される。
【0036】
【化11】
(式中、R6,R7,R9,R10は各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
R8は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。)
【0037】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
まず、本発明の高分子化合物について説明する。
本発明の高分子化合物は、前記一般式(II)で表される繰り返し単位を有するものであり、好ましくは、前記一般式(I)および(II)で表される繰り返し単位を有するものである。
【0038】
一般式(I)の環A1および一般式(II)の環A2は各々独立して、ベンゼン環(フェニレン基)、或いは任意の環が縮合したベンゼン環であり、環A1,A2が縮合環である場合、この縮合環としては、下記のナフタレン環等の2縮合環や、アントラセン環等の3縮合環が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0039】
【化12】
【0040】
環A1,A2のベンゼン環、或いは環A1,A2の縮合環のベンゼン環部分および/またはベンゼン環に縮合している環は、置換基を有していてもよい。
【0041】
この環A1,A2が有しうる置換基は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、および置換基を有していてもよい芳香族複素環基よりなる群から選ばれる1種または2種以上であり、より具体的には、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;置換基を有していてもよい、ビニル基等の炭素数1〜6のアルケニル基;置換基を有していてもよい、エチニル基等の炭素数1〜6のアルキニル基;置換基を有していてもよい、ベンジル基等のアラルキル基;置換基を有していてもよい、アセチル基等の炭素数1〜6のアシル基;置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素環基;置換基を有していてもよい、チエニル基等の芳香族複素環基である。
【0042】
これらの置換基が有していてもよい置換基としては、例えば、下記の置換基群Zの1種または2種以上が挙げられる。
[置換基群Z]
メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等の炭素数1〜6のアルケニル基;エチニル基等の炭素数1〜6のアルキニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;フェニルメチルアミノ基等のアリールアルキルアミノ基;アセチル基等の炭素数1〜6のアシル基;フッ素原子等のハロゲン原子;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基等のアリールオキシ基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素環基
【0043】
環A1,A2が有する置換基としては、より好ましくは、形成される高分子化合物のイオン化ポテンシャルを過度に低下させることがない基であり、このようなイオン化ポテンシャルの低下の問題のない置換基としてはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基;アセチル基等の炭素数1〜6のアシル基;フッ素原子等のハロゲン原子;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基が挙げられるが、特に好ましくは水素原子、即ち、環A1,A2は無置換であることが好ましい。
【0044】
Ar1ないしAr8は各々独立して、置換されていてもよい芳香族環であり、この芳香族環としては、好ましくは5または6員環の単環または2〜3縮合環の、芳香族炭化水素環または芳香族複素環、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、ピリジン環、キノリン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、フラン環、ピロール環、インドール環、ベンゾフラン環、カルバゾール環が挙げられる。
【0045】
このAr1ないしAr8の芳香族炭化水素環が有しうる置換基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、および置換基を有していてもよい芳香族複素環基よりなる群から選ばれる1種または2種以上であり、より具体的には、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;置換基を有していてもよい、ビニル基等の炭素数1〜6のアルケニル基;置換基を有していてもよい、エチニル基等の炭素数1〜6のアルキニル基;置換基を有していてもよい、ベンジル基等のアラルキル基;置換基を有していてもよい、アセチル基等の炭素数1〜6のアシル基;置換基を有していてもよいアミノ基、例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;フェニルメチルアミノ基等のアリールアルキルアミノ基;置換基を有していてもよい、メトキシカルボニル基;エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基;置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素環基;置換基を有していてもよい、チエニル基等の芳香族複素環基である。
【0046】
これらの置換基が有していてもよい置換基としては、前述の置換基群Zの1種または2種以上が挙げられる。
【0047】
Ar1〜Ar8が有する置換基としては、より好ましくは、形成される高分子化合物のイオン化ポテンシャルを過度に低下させることがない基であり、このようなイオン化ポテンシャルの低下の問題のない置換基としては水素原子、置換基を有していてもよい、アセチル基等の炭素数1〜6のアシル基、置換基を有していてもよい、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基が挙げられるが、特に好ましくは水素原子、即ち、Ar1〜Ar8は無置換であることが好ましい。
【0048】
1つの繰り返し単位中に含まれるAr1〜Ar4、或いはAr5〜Ar8は同一であっても異なっていてもよいが、高分子化合物の非晶質性の面からは異なる方が好ましく、合成が容易なことによる生産性の面からは、同一であることが好ましい。
【0049】
X,Y1およびY2は各々独立して2価の連結基、好ましくは下記構造式で表される部分構造から選ばれた2価の連結基が挙げられる。
【0050】
【化13】
【0051】
上記式中、Ar11ないしAr18は各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族環、好ましくは置換基を有していてもよい、5または6員環の単独または2〜3縮合環の、芳香族炭化水素環または芳香族複素環であり、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、ピリジン環、キノリン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、フラン環、ピロール環、インドール環、ベンゾフラン環、カルバゾール環が挙げられる。
【0052】
このような芳香族環が有しうる置換基としては、以下にR21,R22として例示するものが挙げられる。
【0053】
R21およびR22は各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、より具体的には、水素原子、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;置換基を有していてもよい、ビニル基等の炭素数1〜6のアルケニル基;置換基を有していてもよい、エチニル基等の炭素数1〜6のアルキニル基;置換基を有していてもよい、ベンジル基等のアラルキル基;置換基を有していてもよい、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;置換基を有していてもよい、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等のアリールオキシ基;置換基を有していてもよいアミノ基、例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;フェニルメチルアミノ基等のアリールアルキルアミノ基;置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素環基;置換基を有していてもよい、チエニル基等の芳香族複素環基である。
【0054】
これらの置換基が有していてもよい置換基としては、前述の置換基群Zの1種または2種以上が挙げられる。
【0055】
Ar11〜Ar18の置換基、R21,R22として好ましいものは、水素原子(即ち、無置換)、メチル基、エチル基、メトキシ基である。
【0056】
X、Y1、Y2は、好ましくは
【化14】
であり、特に、
【化15】
であることが好ましい。なお、R11〜R17は、Ar11〜Ar18が有しうる置換基として前述したものであり、好ましい基についても同様である。
【0057】
前記一般式(I)で表される繰り返し単位は、下記一般式(I’)で表されることが好ましく、また、前記一般式(II)で表される繰り返し単位は、下記一般式(II’)で表されることが好ましい。
【0058】
【化16】
【0059】
【化17】
【0060】
上記一般式(I’)中の環B1,環B2,環B4および環B5並びに上記一般式(II’)中の環B6,環B7,環B9および環B10は各々独立して、置換されていてもよいベンゼン環、または置換基を有していてもよいナフタレン環、好ましくはベンゼン環である。このベンゼン環、ナフタレン環が有しうる置換基は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、および置換基を有していてもよい芳香族複素環基よりなる群から選ばれる1種または2種以上であり、より具体的には、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;置換基を有していてもよい、ビニル基等の炭素数1〜6のアルケニル基;置換基を有していてもよい、エチニル基等の炭素数1〜6のアルキニル基;置換基を有していてもよい、ベンジル基等のアラルキル基;置換基を有していてもよい、アセチル基等の炭素数1〜6のアシル基;置換基を有していてもよいアミノ基、例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;フェニルメチルアミノ基等のアリールアルキルアミノ基;置換基を有していてもよい、メトキシカルボニル基;メトキシカルボニル基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基;置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素環基;置換基を有していてもよい、チエニル基等の芳香族複素環基である。
【0061】
これらの置換基が有していてもよい置換基としては、前述の置換基群Zの1種または2種以上が挙げられる。
【0062】
環B1,B2,B4,B5,B6,B7,B9,B10が有する置換基としては、より好ましくは、形成される高分子化合物のイオン化ポテンシャルを過度に低下させることがない基であり、このようなイオン化ポテンシャルの低下の問題のない置換基としては水素原子、置換基を有していてもよい、アセチル基等の炭素数2〜7のアシル基、置換基を有していてもよい、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基が挙げられるが、特に好ましくは水素原子、即ち、環B1,B2,B4,B5,B6,B7,B9,B10は無置換であることが好ましい。
【0063】
1つの繰り返し単位中に含まれる環B1,B2,B4,B5、或いは環B6,B7,B9,B10は各々同一であっても異なるものであってもよいが、高分子化合物の非晶質性の点からは互いに異なる方が好ましい。
【0064】
前記一般式(I’)中の環B3および前記一般式(II’)中の環B8は、置換されていてもよいベンゼン環である。
【0065】
環B3,B8が有しうる置換基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、および置換基を有していてもよい芳香族複素環基よりなる群から選ばれる1種または2種以上であり、より具体的には、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;置換基を有していてもよい、ビニル基等の炭素数1〜6のアルケニル基;置換基を有していてもよい、エチニル基等の炭素数1〜6のアルキニル基;置換基を有していてもよい、ベンジル基等のアラルキル基;置換基を有していてもよい、アセチル基等の炭素数1〜6のアシル基;置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素環基;置換基を有していてもよい、チエニル基等の芳香族複素環基である。
【0066】
これらの置換基が有していてもよい置換基としては、前述の置換基群Zの1種または2種以上が挙げられる。
【0067】
環B3,B8が有する置換基としては、より好ましくは、形成される高分子化合物のイオン化ポテンシャルを過度に低下させることがない基であり、このようなイオン化ポテンシャルの低下の問題のない置換基としては水素原子、置換基を有していてもよい、アセチル基等の炭素数1〜6のアシル基が挙げられるが、特に好ましくは水素原子、即ち、環B3,B8は無置換であることが好ましい。
【0068】
このような本発明の高分子化合物は、好ましくは下記一般式(IV)で表される単量体、より好ましくは下記一般式(III)および下記一般式(IV)で表される単量体より合成される。特に好ましくは、下記一般式(IV’)で表される本発明の1,4−フェニレンジアミン誘導体より合成され、とりわけ好ましくは下記一般式(III’)および下記一般式(IV’)で表される1,4−フェニレンジアミン誘導体より合成される。
【0069】
【化18】
(上記式中、環B1ないし環B10は前記一般式(I’)および一般式(II’)におけると同義である。)
【0070】
【化19】
【0071】
【化20】
【0072】
上記式中R1,R2,R4,R5,R6,R7,R9,R10は各々独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基であり、より具体的には、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;置換基を有していてもよい、ビニル基等の炭素数1〜6のアルケニル基;置換基を有していてもよい、エチニル基等の炭素数1〜6のアルキニル基;置換基を有していてもよい、ベンジル基等のアラルキル基;置換基を有していてもよい、アセチル基等の炭素数1〜6のアシル基;置換基を有していてもよいアミノ基、例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;フェニルメチルアミノ基等のアリールアルキルアミノ基;置換基を有していてもよい、メトキシカルボニル基;エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基;置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素環基;置換基を有していてもよい、チエニル基等の芳香族複素環基である。
【0073】
また、R3,R8は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基であり、より具体的には、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;置換基を有していてもよい、ビニル基等の炭素数1〜6のアルケニル基;置換基を有していてもよい、エチニル基等の炭素数1〜6のアルキニル基;置換基を有していてもよい、ベンジル基等のアラルキル基;置換基を有していてもよい、アセチル基等の炭素数1〜6のアシル基;置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素環基;置換基を有していてもよい、チエニル基等の芳香族複素環基である。
【0074】
これらの置換基が有していてもよい置換基としては、前述の置換基群Zの1種または2種以上が挙げられる。
【0075】
R1ないしR5,R6ないしR10としては、好ましくは水素原子(即ち、無置換)、或いは、前述のイオン化ポテンシャルの低下の問題のない、置換基を有していてもよい、アセチル基等の炭素数1〜6のアシル基等の置換基が挙げられ、特に好ましくは水素原子(即ち、無置換)である。
【0076】
以下に本発明の高分子化合物の繰り返し単位の好ましい具体例を示すが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0077】
前記一般式(II’)で表される繰り返し単位としては、次のようなものが好ましい。
【化21】
【0078】
前記一般式(I’)で表される繰り返し単位としては次のようなものが好ましい。
【化22】
【0079】
【化23】
【0080】
本発明の高分子化合物は、
▲1▼ 1種または2種以上の一般式(II)で表される繰り返し単位からなる高分子化合物
および
▲2▼ 1種または2種以上の一般式(I)で表される繰り返し単位と、1種または2種以上の一般式(II)で表される繰り返し単位からなる高分子化合物、
を包含し、好ましくは上記▲2▼に相当する共重合体である。具体的には、一般式(I)の繰り返し単位に対して0.1〜10モル%の割合で一般式(II)の繰り返し単位を含有する高分子化合物が、有機電界発光素子の製造に特に好ましい。
【0081】
この一般式(II)で表される繰り返し単位を含む本発明の高分子化合物、すなわちクロスリンク構造を含む本発明の高分子化合物は、前述のように高Tgおよび該高分子化合物を含む塗布液の粘度の点においても、好ましいものである。
【0082】
更に、本発明の高分子化合物は、その性能を損なわない範囲で、他の種々のモノマー由来の繰り返し単位を含有していてもよい。他のモノマー由来の繰り返し単位としては、例えば前記一般式(I)で表される繰り返し単位において、
【化24】
の代わりに
【化25】
とした繰り返し単位が挙げられるが、有機電界発光素子の製造に有用な化合物としては、前記一般式(I)および(II)で表される繰り返し単位の含有量が、1分子あたり通常20モル%以上、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上のものである。
【0083】
なお、上記式中、Ra,Rb,Rcは、各々独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基であり、より具体的には、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;置換基を有していてもよい、ビニル基等の炭素数1〜6のアルケニル基;置換基を有していてもよい、エチニル基等の炭素数1〜6のアルキニル基;置換基を有していてもよい、ベンジル基等のアラルキル基;置換基を有していてもよい、アセチル基等の炭素数1〜6のアシル基;置換基を有していてもよいアミノ基、例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;フェニルメチルアミノ基等のアリールアルキルアミノ基;置換基を有していてもよい、メトキシカルボニル基;エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基;置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素環基;置換基を有していてもよい、チエニル基等の芳香族複素環基である。
【0084】
これらの置換基が有していてもよい置換基としては、前述の置換基群Zの1種または2種以上が挙げられる。
【0085】
これらの高分子化合物のうち、特に重量平均分子量が1,000〜1,000,000のものが有機電界発光素子の製造に有用である。また、この高分子化合物を含む層を、塗布法により形成する場合には、架橋度により差があるが、通常は、溶解性の点から重量平均分子量が10,000〜200,000程度のものが好ましい。
【0086】
本発明の高分子化合物は、例えば、先ずヒドロキシフェニル基を有する1,4−フェニレンジアミン誘導体を合成し、それと、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン等の芳香族二フッ化物とを反応させることにより得られる。
【0087】
本発明の高分子化合物は、高い電荷輸送性を有するため、電荷輸送材料として電子写真感光体、有機電界発光素子、光電変換素子、有機太陽電池、有機整流素子等に好適に使用できる。特に正孔輸送性に優れることから、正孔輸送材料として好適である。
【0088】
また本発明の高分子化合物を用いることにより、耐熱性に優れ、長期間安定に駆動(発光)する有機電界発光素子が得られるため、有機電界発光素子材料として好適である。
【0089】
次に、図面を参照して本発明の有機電界発光素子の実施の形態を詳細に説明する。
【0090】
図1〜3は本発明の有機電界発光素子の実施の形態を示す模式的な断面図であり、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を各々表わす。
【0091】
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が低すぎると、基板を通過する外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板のどちらか片側もしくは両側に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保してもよい。
【0092】
基板1上には陽極2が設けられるが、陽極2は正孔注入層3への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック等により構成される。陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子等を適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。陽極2は異なる物質で積層して形成することも可能である。陽極2の厚みは、必要とされる透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常、60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましく、この場合、陽極2の厚みは、通常、1000nm以下、好ましくは 500nm以下であり、下限は10nm程度、好ましくは20nm程度である。不透明でよい場合には陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0093】
本発明では、図1の素子構造においては、陽極2の上に正孔注入層3が設けられる。この正孔注入層3に用いられる材料に要求される条件としては、陽極2からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが挙げられる。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。上記の一般的要求以外に、車載表示用の応用を考えた場合、素子にはさらに120℃以上の耐熱性が要求される。
【0094】
本発明の有機電界発光素子は、好ましくはこの正孔注入層3が、前記一般式(II)で表される繰り返し単位、或いは、前記一般式(I)および(II)で表される繰り返し単位を有する本発明の高分子化合物と、電子受容性化合物とを含有するものである。
【0095】
本発明においては、通常、 120℃以上のTgを有する本発明の高分子化合物と電子受容性化合物を混合して用いることで、素子の発光特性と耐熱性を同時に改善することを可能とした。即ち、電子供与性の前記高分子化合物に電子受容性化合物を混合することにより、電荷移動が起こり、結果としてフリーキャリアである正孔が生成し、正孔注入層の電気電導度が高くなる。このため、発光層5と陽極2との電気的接合が、本発明による正孔注入層3を設けることで改善され、駆動電圧が低下すると同時に連続駆動時の安定性も向上する。また、120℃以上のTgを有する高分子化合物を正孔注入層3の母体とすることにより、素子の耐熱性も大きく改善される。
【0096】
しかも、このような本発明の高分子化合物を主成分とする正孔注入層3を、塗布プロセスにて陽極2上に形成することにより、前述の陽極2の表面粗さが緩和され、良好な表面平滑化効果が得られ、素子作製時の短絡欠陥が防止されるという効果も奏される。
【0097】
正孔注入層3に、本発明の高分子化合物と組み合わせて用いる電子受容性化合物としては、該高分子化合物との間で電荷移動を起こすものであればよいが、本発明者らが鋭意検討した結果、正孔注入層3に用いる本発明の高分子化合物のイオン化ポテンシャル:IP(本発明の高分子化合物)、と電子受容性化合物(アクセプタ)の電子親和力:EA(アクセプタ)の2つの物性値が、
IP(本発明の高分子化合物)−EA(アクセプタ)≦ 0.7eV、
の関係式で表される時に、本発明の目的に特に有効であることを見出した。
【0098】
このことを図4のエネルギー準位図を用いて説明する。一般に、イオン化ポテンシャルおよび電子親和力は真空準位を基準として決定される。イオン化ポテンシャルは物質のHOMO(最高被占分子軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義され、電子親和力は真空準位にある電子が物質のLUMO(最低空分子軌道)レベルに落ちて安定化するエネルギーで定義される。
【0099】
図4に示す本発明の高分子化合物のHOMOレベルのイオン化ポテンシャルと、電子受容性化合物のLUMOレベルの電子親和力の差が 0.7eV以下であることが好ましい。イオン化ポテンシャルは光電子分光法で直接測定されるか、電気化学的に測定した酸化電位を基準電極に対して補正しても求められる。後者の方法の場合は、例えば、飽和甘コウ電極(SCE)を基準電極として用いたとき、
イオン化ポテンシャル=酸化電位(vs.SCE)+4.3 eV、
で表される(“Molecular Semiconductors”, Springer−Verlag, 1985年、98頁)。電子親和力は、上述のイオン化ポテンシャルから光学的バンドギャップを差し引いて求められるか、電気化学的な還元電位から上記の式で同様に求められる。
【0100】
前記イオン化ポテンシャルと電子親和力の関係式は、酸化電位と還元電位を用いて、
(本発明の高分子化合物の酸化電位)−(アクセプタの還元電位)≦ 0.7V、と表現することもできる。
【0101】
また、正孔注入層3中の電子受容性化合物の含有量は、本発明の高分子化合物に対して0.1〜50重量%の範囲にあることが好ましい。さらに好ましくは、1〜30重量%の濃度範囲が実用特性上望ましい。
【0102】
電子受容性化合物としては、前述の関係を満たすものであれば特に限定はされないが、好ましい例を、以下に省略名とともに示す。
【0103】
【化26】
【0104】
本発明の高分子化合物と電子受容性化合物を含有する正孔注入層3は塗布法により前記陽極2上に形成される。即ち、前記一般式(II)で表される繰り返し単位、或いは、前記一般式(I)および(II)で表される繰り返し単位を有する本発明の高分子化合物と電子受容性化合物の所定量に、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤を添加し、適当な溶媒に溶解して塗布溶液を調製し、スピンコート法、ディップコート法やインクジェット法などの方法により陽極2上に塗布し、乾燥して正孔注入層3を形成する。
【0105】
正孔注入・輸送能の点から、正孔注入層3中の本発明の高分子化合物と電子受容性化合物との合計の含有量は20重量%以上、特に50重量%以上であることが好ましい。
【0106】
正孔注入層3の膜厚の上限は、通常1000nm、好ましくは500 nmであり、下限は、通常5 nm、好ましくは10nmである。
【0107】
正孔注入層3の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において陰極7からの注入された電子と正孔注入層3から輸送された正孔を効率よく再結合し、かつ、再結合により効率よく発光する材料から形成される。
【0108】
このような条件を満たす材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ〔h〕キノリンの金属錯体(特開平6−322362号公報)、ビススチリルベンゼン誘導体(特開平1−245087号公報、同2−222484号公報)、ビススチリルアリーレン誘導体(特開平2−247278号公報)、(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体(特開平8−315983号公報)、シロール誘導体等が挙げられる。これらの発光層材料は、通常は真空蒸着法により正孔注入層3上に積層される。
【0109】
素子の発光効率を向上させるとともに発光色を変える目的で、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体をホスト材料として、クマリン等のレーザ用蛍光色素をドープすること(J. Appl. Phys., 65巻, 3610頁, 1989年)等が行われている。
【0110】
素子の駆動寿命を改善する目的においても、前記発光層材料をホスト材料として、蛍光色素をドープすることは有効である。例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体をホスト材料として、ルブレンに代表されるナフタセン誘導体(特開平4−335087号公報)、キナクリドン誘導体(特開平5−70773号公報)、ペリレン等の縮合多環芳香族炭化水素環(特開平5−198377号公報)を、ホスト材料に対して 0.1〜10重量%ドープすることにより、素子の発光特性、特に駆動安定性を大きく向上させることができる。発光層のホスト材料に上記ナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の蛍光色素をドープする方法としては、共蒸着による方法と蒸着源を予め所定の濃度で混合しておく方法がある。
【0111】
高分子系の発光層材料としては、先に挙げたポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、ポリ(3−アルキルチオフェン)等の高分子材料や、ポリビニルカルバゾール等の高分子に発光材料と電子移動材料を混合した系等が挙げられる。これらの材料は正孔注入層3と同様にスピンコートやディップコート等の方法により正孔注入層3上に塗布して薄膜化される。
【0112】
発光層5の膜厚の上限は、通常200 nm、好ましくは100 nmであり、下限は通常10nm、好ましくは30nmである。
【0113】
素子の発光特性を向上させるために、図2に示す様に、正孔輸送層4を正孔注入層3と発光層5との間に設けたり、さらには、図3に示す様に電子輸送層6を発光層5と陰極7の間に設けるなどして機能分離型の有機電解発光素子とすることが行われる。
【0114】
図2および図3の機能分離型素子において、正孔輸送層4の材料としては、正孔注入層3からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが必要である。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。また、発光層5と直接接する層であるために、発光を消光する物質が含まれていないことが望ましい。
【0115】
このような正孔輸送材料としては、例えば、4,4’−ビス[N−(9−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族炭化水素環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J. Lumin., 72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun., 2175頁、1996年)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth. Metals, 91巻、209頁、1997年)等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
【0116】
上記の化合物以外に、正孔輸送層4の材料として、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym. Adv. Tech.,7巻、33頁、1996年)等の高分子材料が挙げられる。
【0117】
正孔輸送層4は、上記の正孔輸送材料を塗布法あるいは真空蒸着法により前記正孔注入層3上に積層することにより形成される。
【0118】
塗布法の場合は、正孔輸送材料の1種または2種以上と、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤とを添加し、適当な溶媒に溶解して塗布溶液を調製し、スピンコート法などの方法により陽極2上に塗布し、乾燥して正孔輸送層4を形成する。この場合、バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等を用いることができる。バインダー樹脂は添加量が多いと正孔移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、通常、正孔輸送層4中の割合で50重量%以下が好ましい。
【0119】
真空蒸着法の場合には、正孔輸送材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、正孔輸送材料を蒸発させ、ルツボと向き合って置かれた、正孔注入層3が形成された基板1上に正孔輸送層4を形成させる。
【0120】
正孔輸送層4の膜厚の上限は、通常300 nm、好ましくは100 nmであり、下限は通常10nm、好ましくは30nmである。このように薄い膜を一様に形成するためには、一般に真空蒸着法がよく用いられる。
【0121】
有機電界発光素子の発光効率をさらに向上させる方法として、図3に示すように発光層4の上にさらに電子輸送層6を積層することもできる。この電子輸送層6に用いられる化合物には、陰極7からの電子注入が容易で、電子の輸送能力がさらに大きいことが要求される。この様な電子輸送材料としては、既に発光層材料として挙げた8−ヒドロキシキノリンのアルミ錯体、オキサジアゾール誘導体(Appl. Phys. Lett., 55巻, 1489頁, 1989年)やそれらをポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の樹脂に分散した系、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。
【0122】
電子輸送層6の膜厚の上限は、通常200 nm、好ましくは100 nmであり、下限は通常5nm、好ましくは10nmである。
【0123】
陰極7は、発光層5に電子を注入する役割を果たす。陰極7の形成材料としては、前記陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。さらに、陰極7と発光層5または電子輸送層6の界面にLiF、MgF2、Li2O等の極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Appl. Phys. Lett., 70巻,152頁,1997年;特開平10−74586号公報;IEEE Trans. Electron. Devices,44巻,1245頁,1997年)。
【0124】
陰極7の膜厚は通常、陽極2と同様である。低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上にさらに、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
【0125】
図1〜3は、本発明で採用される素子構造の一例であって、本発明は何ら図示のものに限定されるものではない。例えば、図1とは逆の構造、即ち、基板上に陰極7、発光層5、正孔注入層3、陽極2の順に積層することも可能であり、既述したように少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。同様に、図2および図3に示した前記各層構成とは逆の構造に積層することも可能である。
【0126】
更に、本発明の有機電界発光素子の性能を損なわない限り、図1、図2および図3に示した各層間に任意の層を有していてもよい。
【0127】
このような本発明の有機電界発光素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにも適用することができる。
【0128】
【実施例】
次に、本発明を合成例、実験例、実施例および比較例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0129】
まず、一般式(I),(II)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物の原料となる、1,4−フェニレンジアミン誘導体の合成例を示す。
【0130】
合成例1
(1−1)N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(4−メトキシフェニル)−1,4−フェニレンジアミン(BMPP)の合成
【0131】
【化27】
【0132】
N,N’−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミン(77.0ミリモル)と4−ヨードアニソール(231ミリモル)とをテトラグライム150ミリリットルに溶かし、銅粉末(154ミリモル)および炭酸カリウム(112ミリモル)の存在下、窒素雰囲気中200℃で8時間反応を行った。その結果、式(V)で示されるBMPP(34.8g、収率96%)を得た。
【0133】
(1−2)N,N’−ジフェニル−N,N’−(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−フェニレンジアミン(BHPP)の合成
【0134】
【化28】
【0135】
BMPP(50.0ミリモル)を360ミリリットルの塩化メチレンに溶かし、窒素雰囲気下、ドライアイス−エタノールバスで系内を−65℃以下に冷やし、これに三臭化ほう素(100ミリモル)の塩化メチレン溶液(100ミリリットル)を滴下した。滴下終了後、冷媒バスを外し2時間撹拌した後、酢酸エチルで抽出し、シリカゲルカラムクロマトフラフィーによって精製した。その結果、式(VI)で示されるBHPP(16.2g、収率73%)を得た。
【0136】
以下に、BHPPの1H−NMR(DMSO−d6)データを示す。
9.361(2H,S)
7.189(4H,dd,J=6.7,6.6)
6.936(4H,dd,J=5.7,1.7)
6.875(4H,S)
6.865−6.837(6H,m)
6.751(4H,dd,J=5.7,1.7)
【0137】
合成例2
本発明の1,4−フェニレンジアミン誘導体:(2−1)N−フェニル−N,N’,N’−トリス(4−メトキシフェニル)−1,4−フェニレンジアミン(TMPP)の合成
【0138】
【化29】
【0139】
N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン(10.0ミリモル)と4−ヨードアニソール(45.0ミリモル)とをテトラグライム20ミリリットルに溶かし、銅粉末(30.0ミリモル)および炭酸カリウム(22.5ミリモル)の存在下、窒素雰囲気中200℃で7時間反応を行い、翌日、銅粉末(15.0ミリモル)および炭酸カリウム(15.0ミリモル)を反応系中に加え、窒素雰囲気中200℃で6時間反応を行った後、トルエンで抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した。その結果、式(VII)で示されるTMPP(2.2g、収率44%)を得た。
【0140】
(2−2)N−フェニル−N,N’,N’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−フェニレンジアミン(THPP)の合成
【0141】
【化30】
【0142】
TMPP(4.3ミリモル)を35ミリリットルの塩化メチレンに溶かし、窒素雰囲気下、ドライアイス−エタノールバスで系内を−65℃以下に冷やし、これに三臭化ほう素(14ミリモル)の塩化メチレン溶液(14ミリリットル)を滴下した。滴下終了後、冷媒バスを外し2時間撹拌した後、酢酸エチルで抽出し、シリカゲルカラムクロマトフラフィーによって精製した。その結果、式(VIII)で示されるTHPP(1.1g、収率56%)を得た。
【0143】
以下に、THPPの1H−NMR(DMSO−d6)データを示す。
9.314(1H,S)
9.239(2H,S)
7.149(2H,dd,J=6.6,6.4)
6.927−6.662(19H,m)
【0144】
次に高分子化合物の合成例を示す。
【0145】
合成例3
1,4−フェニレンジアミン含有高分子化合物(PPPEK)の合成
【0146】
【化31】
【0147】
BHPP(20.0ミリモル)と4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(20.0ミリモル)とを200ミリリットルの1−メチル2−ピロリジノン(NMP)に溶かし、炭酸カリウム(120ミリモル)の存在下、窒素雰囲気中145℃で20時間、縮合反応させた。放冷後、酢酸10ミリリットルを反応系に加え、メタノール中に放出し、得られたポリマーを水洗いし、無機塩を除いた。60℃で減圧乾燥させた後、ポリマーを300ミリリットルのクロロホルムに溶かし、メタノールに放出し再沈殿させた。最後に、400ミリリットルのアセトンで懸洗することにより、低分子量成分を除き、繰り返し単位(IX)からなるホモポリマーPPPEK(収量11.8g、収率95%)を得た。
【0148】
このポリマーのTgは183℃、窒素雰囲気下の熱分解温度は550℃以上であり、重量平均分子量(Mw)は46,700、数平均分子量(Mn)7,520であった。なお、分子量はクロロホルム中でGPC測定により、ポリスチレンを標準試料として求めた。
【0149】
合成例4
本発明の高分子化合物:分岐型1,4−フェニレンジアミン含有高分子化合物(PPPEK−b3)の合成
【0150】
【化32】
【0151】
BHPP(4.78ミリモル)とTHPP(0.15ミリモル)と4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(5.00ミリモル)とを39ミリリットルのNMPに溶かし、炭酸カリウム(23.1ミリモル)の存在下、窒素雰囲気中145℃で20時間、縮合反応させた。放冷後、酢酸2ミリリットルを反応系に加え、メタノール中に放出し、得られたポリマーを水洗いし、無機塩を除いた。60℃で減圧乾燥させた後、ポリマーを100ミリリットルのクロロホルムに溶かし、メタノールに放出し再沈殿させた。最後に、アセトンでソックスレー抽出することにより、低分子量成分を除き、繰り返し単位(IX)で示されるPPPEK主鎖に対し、繰り返し単位(X)で表される分岐ユニットを理論上3モル%含有するPPPEK−b3(収量1.78g、収率約74%)を得た。
【0152】
このポリマーのTgは190℃、窒素雰囲気下の熱分解温度は550℃以上であり、重量平均分子量(Mw)は29,600、数平均分子量(Mn)5,700であった。なお、分子量はクロロホルム中でGPC測定により、ポリスチレンを標準試料として求めた。
【0153】
次に、合成例3,4で得られた1,4−フェニレンジアミン含有高分子化合物の粘度を測定する実験例を示す。
【0154】
実験例1
1,4−フェニレンジアミン含有高分子化合物(PPPEK)および分岐型1,4−フェニレンジアミン含有高分子化合物(PPPEK−b3)について各々高分子化合物濃度を変えてシクロヘキサノン溶液を調製してその粘度を(株)東京計器製回転粘度計により測定し、高分子化合物濃度と粘度との関係を図5に示した。
【0155】
図5に示す如く、PPPEKとPPPEK−b3との間には、その溶液の粘度変化に大きな違いが見られ、本発明の高分子化合物であるPPPEK−b3は高粘性であることがわかる。
【0156】
以下に、合成された1,4−フェニレンジアミン含有高分子化合物を用いた有機電界発光素子の性能評価を行う実施例を挙げる。
【0157】
実施例1
図3に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
【0158】
ガラス基板1上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を 120nm堆積したもの(ジオマテック社製;電子ビーム成膜品;シート抵抗15Ω/sq)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線/オゾン洗浄を行った。
【0159】
このITOガラス基板上に、分岐型1,4−フェニレンジアミン含有高分子化合物(PPPEK−b3)とPPBの混合物を下記の条件でスピンコートした。
[スピンコート条件]
溶媒 :シクロヘキサノン
PPPEK−b3 :5.0 mg/ml
PPB :0.5 mg/ml
スピナ回転数 :1500 rpm
スピナ回転時間 :30秒
乾燥条件 :120℃で2時間
【0160】
上記のスピンコートにより20nmの膜厚の均一な薄膜形状を有する正孔注入層3を形成した。
【0161】
次に、上記正孔注入層3を塗布成膜した基板を真空蒸着装置内に設置した。この装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が2×10−6Torr(約2.7×10−4Pa)以下になるまで液体窒素トラップを備えた油拡散ポンプを用いて排気した。この装置内に配置されたセラミックるつぼに入れた以下に示す芳香族ジアミン化合物:4,4’−ビス[N−(9−フェナンチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルを加熱して蒸着を行った。蒸着時の真空度は1.3×10−6Torr(約1.7×10−4Pa)、蒸着速度は0.3nm/秒で、膜厚20nmの膜を正孔注入層3の上に積層して正孔輸送層4を完成させた。
【0162】
【化33】
【0163】
引続き、発光層5の材料として、以下の構造式に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体:Al(C9H6NO)3、とルブレンとを同時に蒸着した。
【0164】
【化34】
【0165】
アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体に対するルブレンの割合は2.5vol.%になるようにした。この時のアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体のるつぼ温度は275〜285℃の範囲で制御し、蒸着時の真空度は1.2×10−6Torr(約1.6×10−4Pa)、蒸着速度は0.4nm/秒であった。またルブレンのるつぼ温度は240〜250℃の範囲で制御し、蒸着速度は0.01nm/秒であった。このように蒸着された発光層5の膜厚は30nmであった。
【0166】
続いて、電子輸送層6としてアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体:Al(C9H6NO)3を正孔輸送層4と同様にして蒸着を行った。この時のアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体のるつぼ温度は275〜285℃の範囲で制御し、蒸着時の真空度は1.1×10−6Torr(約1.5×10−4Pa)、蒸着速度は0.4nm/秒で、蒸着された電子輸送層6の膜厚は45nmであった。
【0167】
なお、上記の正孔輸送層4および発光層5、電子輸送層6を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
【0168】
ここで、電子輸送層6までの蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして 2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプと直交するように素子に密着させた後、別の真空蒸着装置内に設置して、各有機層形成時と同様にして装置内の真空度が2×10−6Torr(約2.7×10−4Pa)以下になるまで排気した。
【0169】
その後、陰極7として、先ず、フッ化リチウム(LiF)をモリブデンボートを用いて、蒸着速度0.02nm/秒、真空度7.0×10−6Torr(約9.3×10−4Pa)で、0.5nmの膜厚となるように電子輸送層6の上に成膜した。次に、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.5nm/秒、真空度1×10−5Torr(約1.3×10−3Pa)で、膜厚80nmのアルミニウム層を形成して、陰極7を完成させた。以上の2層型陰極7の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0170】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表1に示す。表1において、発光輝度は250mA/cm2の電流密度での値、発光効率は100cd/m2での値、輝度/電流は輝度−電流密度特性の傾きを、電圧は100cd/m2での値を各々示す。
【0171】
表1より、駆動電圧の低い、高輝度かつ高発光効率で発光する素子が得られたことが明らかである。
【0172】
【表1】
【0173】
以上の結果から明らかなように、塗布プロセスに有利な、本発明の高分子化合物と電子受容性化合物を含有する正孔注入層を形成することにより、低電圧で駆動可能かつ耐熱性の向上した素子を得ることができる。
【0174】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の新規高分子化合物、好ましくは本発明の新規1,4−フェニレンジアミン誘導体より合成される高分子化合物を用いることにより、低電圧、高発光効率で駆動させることができ、かつ良好な耐熱性を有し、長期間にわたって安定な発光特性を維持することができる有機電界発光素子であって、陽極の表面粗さに起因する素子作製時の短絡欠陥を防止した有機電界発光素子が提供される。
【0175】
従って、本発明による有機電界発光素子は、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、特に、高耐熱性が要求される車載用表示素子としては、その技術的価値は大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の有機電界発光素子の実施の形態の一例を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の実施の形態の他の例を示す模式的な断面図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の実施の形態の別の例を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の高分子化合物のイオン化ポテンシャルと電子受容性化合物の電子親和力との関係を示したエネルギー準位図である。
【図5】合成例3,4で製造された1,4−フェニレンジアミン含有高分子化合物を含むシクロヘキサノン溶液の粘度変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 陰極
Claims (15)
- 下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むことを特徴とする高分子化合物。
Ar5ないしAr8は各々独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、および置換基を有していてもよい芳香族複素環基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の置換基で置換されていてもよい芳香族環を表す。
Y1およびY2は各々独立して、2価の連結基を表す。) - 請求項1において、下記一般式(I)および下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むことを特徴とする高分子化合物。
Ar1ないしAr8は各々独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、および置換基を有していてもよい芳香族複素環基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の置換基で置換されていてもよい芳香族環を表す。
X、Y1およびY2は各々独立して、2価の連結基を表す。) - 請求項1または2において、一般式(I)および一般式(II)におけるX、Y1およびY2が、下記構造式で表される部分構造から選ばれた2価の連結基であることを特徴とする高分子化合物。
R21およびR22は各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、または、置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。) - 請求項2または3において、一般式(I)で表される繰り返し単位が、下記一般式(I’)で表されることを特徴とする高分子化合物。
環B3は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、および置換基を有していてもよい芳香族複素環基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の置換基で置換されていてもよいベンゼン環を表す。
Xは前記式(I)におけると同義である。) - 請求項1ないし4のいずれか1項において、一般式(II)で表される繰り返し単位が、下記一般式(II’)で表されることを特徴とする高分子化合物。
環B8は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、および置換基を有していてもよい芳香族複素環基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の置換基で置換されていてもよいベンゼン環を表す。
Y1およびY2は、前記式(II)におけると同義である。) - 請求項1ないし5のいずれか1項において、重量平均分子量が1,000〜1,000,000であることを特徴とする高分子化合物。
- 下記一般式(IV’)で表される1,4−フェニレンジアミン誘導体。
R8は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。) - 請求項1ないし7のいずれか1項に記載の高分子化合物を含む、電荷輸送材料。
- 請求項1ないし7のいずれか1項に記載の高分子化合物を含む、有機電界発光素子材料。
- 基板上に陽極、陰極、および該両極間に存在する発光層を有する有機電界発光素子において、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の高分子化合物を含む層を有することを特徴とする有機電界発光素子。
- 請求項11において、該発光層と陽極との間に、前記高分子化合物と電子受容性化合物とを含有する層が設けられていることを特徴とする有機電界発光素子。
- 請求項12において、前記高分子化合物のイオン化ポテンシャルから、前記電子受容性化合物の電子親和力を引いた値が 0.7eV以下であることを特徴とする有機電界発光素子。
- 請求項12または13において、前記高分子化合物と前記電子受容性化合物とを含有する層中における、前記電子受容性化合物の含有量が、前記高分子化合物に対して0.1〜50重量%の範囲であることを特徴とする有機電界発光素子。
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