以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態という。)について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施の形態が適用される有機電界発光素子用組成物は、陽極と陰極とに挟持された発光層を有する有機電界発光素子において、陽極と発光層との間に設けられる正孔注入層及び/又は正孔輸送層を、湿式製膜法により形成する際の塗布液として用いられる。
なお、ここでは、有機電界発光素子における陽極−発光層間の層が1つの場合には、これを「正孔注入層」と称し、2つ以上の場合は、陽極に接している層を「正孔注入層」、それ以外の層を総称して「正孔輸送層」と称す。また、陽極−発光層間に設けられた層を総称して「正孔注入・輸送層」と称する場合がある。
本実施の形態が適用される有機電界発光素子用組成物は、有機電界発光素子の正孔注入層及び正孔輸送層の中、少なくとも1層を形成する正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物と、これらの正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を溶解する溶媒と、を含有し、さらに、組成物中に含まれる、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を失活させる失活物質又は失活物質を発生させる化合物の濃度が1重量%以下であることを特徴としている。ここで、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を溶解する溶媒とは、通常、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を0.05重量%以上、好ましくは、0.5重量%以上、さらに好ましくは、1重量%以上溶解する溶媒である。尚、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物については後述する。
このような溶媒としては、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、エーテル系溶媒及びエステル系溶媒が好ましい。具体的には、エーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル、酢酸2−フェノキシエチル等の芳香族エステル等が挙げられる。これらの溶媒の組成物中の濃度は、通常、10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50%重量以上である。尚、溶媒として、前述した溶媒以外にも、必要に応じて、各種の他の溶媒を含んでいてもよい。このような他の溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。また、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を含んでいても良い。
本実施の形態が適用される有機電界発光組成物中に含まれる、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を失活させる失活物質又はこのような失活物質を発生させる化合物としては、例えば、エチルアルコール等のアルコール系溶媒;ベンズアルデヒド等のアルデヒド系溶媒;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン系溶媒が挙げられる。このようなアルコール系溶媒、アルデヒド系溶媒及びケトン系溶媒は、特に、電子受容性化合物と反応しやすい。具体的には、アルコールは、酸化されてアルデヒド、またはカルボン酸になり、アルデヒドは、酸化されて受けカルボン酸になり、ケトンは、溶剤分子間で縮合反応したり、または正孔注入・輸送性材料のカチオンラジカルに付着し不純物を生成する等である。
従って、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を含有する層を湿式成膜法にて層形成する場合、溶液中にこれらが含まれることにより、酸化を受けやすい溶媒と電子受容性化合物が反応する。また、酸化を受けやすい溶媒は、正孔注入・輸送性材料と電子受容性化合物の混合から生じた正孔注入・輸送性材料のカチオンラジカル(このラジカル生成が正孔注入特性・正孔輸送特性を向上させる)とも反応することがある。これらの酸化を受けやすい溶媒の反応から、塗布液中の電子受容性化合物あるいはカチオンラジカルが消費され、不純物が生成するため、溶液が徐々に失活し、溶液の保存安定性が低下するため、工業的に好ましくない。
また、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を失活させる失活物質又はこのような失活物質を発生させる化合物として、プロトン酸及びハロゲン系溶媒が挙げられる。具体的には、プロトン酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、乳酸等の有機酸が挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、塩素溶媒、含臭素溶媒、含ヨウ素溶媒等が挙げられる。
正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を含有する溶液を用いて、湿式成膜法にて層を形成する場合、溶液中に有機酸やハロゲン系溶媒が含まれていると、例えば、有機酸は、正孔注入・輸送性部位と反応し、アンモニウム塩に変質させてしまうため、得られた層の正孔注入・輸送性が低下する。また、ハロゲン系溶媒が含まれている場合、これらのハロゲン系溶媒には、これに対応する酸が混入している場合が多く、この酸が上記の有機酸と同様に、正孔注入・輸送性部位を変質させるため、やはり得られた層の正孔注入・輸送性が低下する。また、ハロゲン化物は環境負荷が大きい点でも、混入することは好ましくない。
尚、有機電界発光素子は、多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、各層がいずれも均一な層であることが要求される。湿式成膜法で層形成する場合、層形成用の溶液(組成物)に水分が混入することにより、塗膜に水分が混入して膜の均一性が損なわれるため、溶液中の水分含有量はできるだけ少ない方が好ましい。具体的には、有機電界発光素子用組成物中に含まれる水分量は、1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.05重量%以下である。
また、一般に、有機電界発光素子は、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、素子の劣化の観点からも、水分の存在は好ましくない。溶液中の水分量を低減する方法としては、例えば、窒素ガスシール、乾燥剤の使用、溶媒を予め脱水する、水の溶解度が低い溶媒を使用する等が挙げられる。なかでも、水の溶解度が低い溶媒を使用する場合は、塗布工程中に、溶液塗膜が大気中の水分を吸収して白化する現象を防ぐことができるため好ましい。この様な観点からは、本実施の形態が適用される有機電界発光素子用組成物は、例えば、25℃における水の溶解度が1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、である溶媒を、組成物中10重量%以上含有することが好ましい。なお、溶解度条件を満たす溶媒が30重量%以上であればより好ましく、50重量%以上であれば特に好ましい。
次に、本実施の形態が適用される有機電界発光素子用組成物の成分である、正孔注入・輸送性材料及び電子受容性化合物について説明する。正孔注入・輸送性材料としては、例えば、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体又はポルフィリン誘導体、ジアリールアミノ基を有する8−ヒドロキシキノリン誘導体の金属錯体、オリゴチオフェン誘導体等が挙げられる。さらに、分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物も使用することができる。また、この正孔注入・輸送性材料を酸化しうる電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。
正孔注入・輸送性材料としての芳香族アミン化合物としては、トリアリールアミン構造を含む化合物が挙げられ、従来より有機電界発光素子における正孔注入・輸送性の層形成材料として利用されてきた化合物の中から適宜選択してもよい。芳香族アミン化合物として、例えば、下記一般式(1)で表されるビナフチル系化合物が挙げられる。
(一般式(1)中、Ar4〜Ar7は各々独立に、置換基を有することがある5又は6員環の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の単環基又は縮合環基であり、Ar4とAr5、Ar6とAr7は、各々結合して環を形成していても良い。m、nは各々0〜4の整数を表し、m+n≧1である。X1及びX2は各々独立に、直接結合又は2価の連結基を表す。また、一般式(1)中のナフタレン環は、−(X1NAr4Ar5)及び−(X2NAr6Ar7)に加えて、任意の置換基を有することがある。)
一般式(1)中、Ar4〜Ar7は各々独立に、置換基を有することがある5又は6員環の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の単環基又は縮合環基、例えば5又は6員環の単環又は2〜3縮合環であり、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭化水素環;ピリジル基、チエニル基等の芳香族複素環が挙げられる。これらはいずれも置換基を有することがある。Ar4〜Ar7の有することがある置換基としては、Ar8〜Ar15が有することがある置換基として後述するもの、及び、アリールアミノ基(即ち、後述の−(NAr8Ar9),−(NAr10Ar11)に相当する)が挙げられる。
また、Ar4とAr5及び/又はAr6とAr7は各々結合して環を形成していても良い。この場合、形成する環の具体例としては、それぞれ、置換基を有することがあるカルバゾール環、フェノキサジン環、イミノスチルベン環、フェノチアジン環、アクリドン環、アクリジン環、イミノジベンジル環等が挙げられる。中でもカルバゾール環が好ましい。
一般式(1)において、m及びnは各々0から4までの整数を表し、m+n≧1である。特に好ましいものは、m=1かつn=1である。尚、m及び/又はnが2以上の場合のアリールアミノ基は、各々同一であっても異なっていても良い。
X1、X2は各々独立に直接結合又は2価の連結基を表す。2価の連結基としては特に制限はないが、例えば、下記に示すもの等が挙げられる。X1及びX2として、直接結合が特に好ましい。
一般式(1)におけるナフタレン環は、−(X1NAr4Ar5)及び−(X2NAr6Ar7)に加えて、任意の位置に任意の置換基を1個又は2個以上有することがある。このような置換基として好ましいものは、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有することがあるアルキル基、置換基を有することがあるアルコキシ基、置換基を有することがあるアルケニル基、置換基を有することがあるアルコキシカルボニル基よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の置換基である。これらのうち、アルキル基が特に好ましい。
一般式(1)で表されるビナフチル系化合物として、下記一般式(2)で表されるように、Ar4及びAr6が、更にそれぞれアリールアミノ基で置換されたビナフチル系化合物が好ましい。
(一般式(2)中、Ar8〜Ar15は各々独立に、置換基を有することがある5又は6員環の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の単環基又は縮合環基を表し、Ar8とAr9、Ar10とAr11は各々結合して環を形成していても良い。m及びnは一般式(1)におけるのと同義である。X1およびX2は一般式(1)におけるのと同義である。)
一般式(2)中のナフタレン環は、ナフタレン環にそれぞれ結合したアリールアミノ基を含む置換基−(X1NAr12Ar13NAr9Ar8)及び−(X2NAr14Ar15NAr10Ar11)に加えて、任意の置換基を有することがある。また、これらの置換基−(X1NAr12Ar13NAr9Ar8)及び−(X2NAr14Ar15NAr10Ar11)は、ナフタレン環のいずれの置換位置に置換していても良い。中でも、一般式(2)におけるナフタレン環の、各々4−位、4’−位に置換したビナフチル系化合物がより好ましい。
一般式(1)で表される化合物と同様に、一般式(2)で表される化合物におけるビナフチレン構造も、2,2’−位に置換基を有することが好ましい。2,2’−位に結合する置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有することがあるアルキル基、置換基を有することがあるアルコキシ基、置換基を有することがあるアルケニル基、置換基を有することがあるアルコキシカルボニル基等が挙げられる。なお、一般式(1)及び(2)で表される化合物において、ビナフチレン構造は2,2’−位以外に任意の置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えば、2,2’−位における置換基として前掲した各基等が挙げられる。一般式(1)で表されるビナフチル系化合物の分子量は、通常、2,000未満、好ましくは1,200未満であり、但し、通常、500以上、好ましくは700以上である。
芳香族アミン化合物としては、下記一般式(3)または一般式(4)で表される化合物も好ましい。これら一般式(3)または一般式(4)で表される化合物の分子量は、一般式(1)と同程度であり、好ましい分子量も同様である。
(上記(3)式中、R21およびR22は各々独立に水素原子、水酸基、置換基を有することがあるアルキル基、置換基を有することがあるアルケニル基、置換基を有することがある芳香族炭化水素基、置換基を有することがある芳香族複素環基、置換基を有することがあるアセナフチル基、置換基を有することがあるフルオレニル基を表す。また、R21とR22が結合して置換基を有することがある非芳香族環を形成しても良い。)
(R23〜R26は、各々独立に、置換基を有することがある芳香族炭化水素基、置換基を有することがある芳香族複素環基、置換基を有することがあるアセナフチル基、置換基を有することがあるフルオレニル基を表す。あるいは、R23とR24、R23と環aを構成する炭素原子、R24と環aを構成する炭素原子、R25とR26、R25と環bを構成する炭素原子、またはR26と環bを構成する炭素原子が結合して、各々、置換基を有することがある環を形成していても良い。尚、環aおよび環bは置換基を有することがあるベンゼン環を表す。)
一般式(3)において、R23〜R26として、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、フェナンチル基等の6員環の単環または2〜4縮合環である芳香族炭化水素基;ピリジル基、チエニル基、ピラジル基、チアゾリル基、フェナントリジル基、キノリル基、カルバゾリル基等の5または6員環の単環または2〜4縮合環である芳香族複素環基;フルオレニル基、およびアセナフチル基が挙げられる。
なお、R23とR24、R23と環aを構成する炭素原子、R24と環aを構成する炭素原子、R25とR26、R25と環bを構成する炭素原子、またはR26と環bを構成する炭素原子が結合して、各々、置換基を有することがある環を形成していても良い。
R21およびR22としては、R23〜R26として上記した基の他に、水素原子、水酸基、炭素数1〜10の直鎖・分岐・環状のアルキル基、または炭素数2〜11の直鎖・分岐・環状のアルケニル基であってもよい。また、R21とR22が結合して置換基を有することがある非芳香族環を形成していてもよく、非芳香族環としては、シクロヘキサン環、シクロペンタン環、シクロヘキセン環、シクロペンテン環等の5または6員環が好ましい。
R21〜R26のアルキル基、アルケニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アセナフチル基、フルオレニル基、R21とR22が結合して形成する非芳香族環、および、R23〜R26、環a並びに環bを構成する炭素原子から選択された2以上が結合して形成する環、が有することがある置換基としては、特に制限されないが、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、芳香族炭化水素基、アラルキル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、等が挙げられる。
さらに、R21〜R26のうち少なくとも1つが、3環以上の芳香族環(芳香族炭化水素環または芳香族複素環)が縮合してなる縮合環基である場合、化合物のガラス転移温度(Tg)が上昇するため好ましい。特に、R21〜R26のうち少なくとも1つが、置換基を有することがあるフェナントリル基である場合、これを用いて作製された素子の駆動寿命が延びる傾向があるので好ましい。
次に、一般式(4)で表される化合物は以下の通りである。
(一般式(4)中、Ar31〜Ar34は各々独立に、置換基を有することがある芳香族炭化水素基、または置換基を有することがある芳香族複素環基を表し、Lは、以下のいずれかで表される2価の連結基である。)
−Ar35−、−Ar36−Ar37−、−Ar38−Ar39−Ar40−、−Ar41−Ar42−Ar43−Ar44−
(式中、Ar35〜Ar44は各々独立に、置換されることがある員数5〜6の芳香族炭化水素環、または芳香族複素環の単環、または2〜4縮合環からなる2価の基を表す。))
一般式(4)において、Ar31〜Ar34は各々独立に、置換基を有することがある芳香族炭化水素基、または置換基を有することがある芳香族複素環基を表し、該芳香族炭化水素基および芳香族複素環基としては、一般式(3)におけるR23〜R26の例として挙げたものと同様の基が挙げられる。Lは、以下のいずれかで表される2価の連結基を表す。
−Ar35−、−Ar36−Ar37−、−Ar38−Ar39−Ar40−、−Ar41−Ar42−Ar43−Ar44−
Ar35〜Ar44は、各々独立に、置換されることがある、員数5〜6の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環、または2〜4縮合環からなる2価の基を表し、このような基の具体例としては、一般式(3)におけるR23〜R26の例として挙げた基から水素原子を1つ除いてなる2価の基が挙げられる。
Ar31〜Ar44が有することがある置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アリールアルキルアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルスルホニル基、水酸基、アミド基、芳香族炭化水素環基、および芳香族複素環基等が挙げられる。これらのうち、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基が好ましい。
本実施の形態が適用される有機電界発光素子中に含まれる芳香族アミン化合物は、湿式製膜法による層形成に使用するので、各種溶剤に溶解しやすいものが好ましい。例えば、一般式(1)で表される化合物の場合、2−位および2’−位に置換基を有することにより、2つのナフタレン環がねじれた配置になるため、溶解性が向上すると考えられ、また、一般式(3)で表される化合物の場合、環aと環bを結合する置換基を有することがあるメチレン基部分において、分子構造が非共役構造をとることができるため、溶剤への溶解性が高くなると考えられる。一般式(4)で表される化合物の場合、連結基Lとして、−Ar36−Ar37−、−Ar38−Ar39−Ar40−、−Ar41−Ar42−Ar43−Ar44−、のいずれかの基を選択し、特定位置に置換基を有することにより、ねじれた分子配置となるため溶解性が向上すると考えられる。即ち、例えば、Ar36とAr37が各々、Ar36−Ar37間の結合に対してα−位に置換基を有することにより、Ar36とAr37とが同一平面内に存在せず、ねじれた配置になるため溶解性が向上する。Ar38とAr39、Ar39とAr40、Ar41とAr42、Ar42とAr43、およびAr43とAr44においても同様である。
正孔注入・輸送性材料としては、一般式(1)、(3)および(4)で表される化合物以外にも、従来公知の化合物が利用可能である。このような従来公知の化合物としては、例えば、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(特開昭59−194393号公報);4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン(特開平5−234681号公報);トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4,923,774号);N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族ジアミン(米国特許第4,764,625号);α,α,α’,α’−テトラメチル−α,α’−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−p−キシレン(特開平3−269084号公報);分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(特開平4−129271号公報);ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(特開平4−175395号公報);エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン(特開平4−264189号公報);スチリル構造を有する芳香族ジアミン(特開平4−290851号公報);チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(特開平4−304466号公報);スターバースト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報);ベンジルフェニル化合物(特開平4−364153号公報);フルオレン基で3級アミンを連結したもの(特開平5−25473号公報);トリアミン化合物(特開平5−239455号公報);ビスジピリジルアミノビフェニル(特開平5−320634号公報);N,N,N−トリフェニルアミン誘導体(特開平6−1972号公報);フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7−138562号公報);ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(特開平7−252474号公報);ヒドラゾン化合物(特開平2−311591号公報);シラザン化合物(米国特許第4,950,950号公報);シラナミン誘導体(特開平6−49079号公報);ホスファミン誘導体(特開平6−25659号公報);キナクリドン化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
次に、正孔注入・輸送性材料として使用するフタロシアニン誘導体又はポルフィリン誘導体の好ましい具体例としては、以下の化合物が挙げられる。例えば、ポルフィリン、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリンコバルト(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン銅(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン亜鉛(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリンバナジウム(IV)オキシド、5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィリン29H,31H−フタロシアニン銅(II)フタロシアニン亜鉛(II)フタロシアニンチタンフタロシアニンオキシドマグネシウムフタロシアニン鉛フタロシアニン銅(II)、4,4’,4’’,4’’’−テトラアザ−29H,31H−フタロシアニン等が挙げられる。
さらに、正孔注入・輸送性材料として使用するジアリールアミノ基を有する8−ヒドロキシキノリン誘導体の金属錯体としては、例えば、下記一般式(5)で表されるものが挙げられる。
(一般式(5)中、Ar21及びAr22は、各々独立して置換基を有することがある芳香族基または芳香族複素環基を示す。R11〜R15は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シアノ基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルスルホニル基、水酸基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
尚、R11とR12、R12とR13、或いはR14とR15とは環を形成していてもよく、また、R11〜R15のいずれかがアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、2級若しくは3級アミノ基、アミド基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アルキルスルホニル基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す場合には、このものは更にその炭化水素部分に置換基を有することがある。
また、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Sc,Y,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Cd、Al、Ga,In,Si,Ge,Sn,Sm、EuまたはTbを表し、lは2から4までの整数を示す。)
一般式(5)で表される化合物の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
その他、正孔注入・輸送性材料として使用するオリゴチオフェン誘導体としては、例えば、α−セキシチオフェン等が挙げられる。尚、これらの正孔注入・輸送性材料の分子量は、通常、2,000未満、好ましくは1,800未満、より好ましくは1,200未満、但し、通常、500以上、好ましくは、700以上である。
また、正孔注入・輸送性材料として使用する、分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物としては、例えば芳香族三級アミノ基を構成単位として主骨格に含む高分子化合物が挙げられる。具体例として、以下の一般式(II)及び(III)で表される構造を繰り返し単位として有する正孔注入・輸送性材料が挙げられる。
((II)式中、Ar45〜Ar48は、各々独立して置換基を有することがある2価の芳香族環基を示し、R31〜R32は置換基を有することがある1価の芳香族環基を示し、Xは直接結合、または下記の連結基から選ばれる。なお、「芳香族環基」とは、「芳香族炭化水素環由来の基」及び「芳香族複素環由来の基」の両方を含む。)
((III)式中、Ar49は置換基を有することがある2価の芳香族環基を示し、Ar50は置換基を有することがある1価の芳香族環基を示す。)
一般式(II)において、Ar45〜Ar48は、好ましくは、各々独立して置換基を有することがある2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、またはビフェニル基であり、好ましくはベンゼン環である。置換基としてはハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7の直鎖または分岐のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などの炭素数6〜12のアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等の、炭素数1〜6のアルキル鎖を有するジアルキルアミノ基、などが挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、特に好ましくはメチル基が挙げられる。Ar45〜Ar48がいずれも無置換の芳香族環基である場合が、最も好ましい。
R31およびR32として好ましくは、各々独立して、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、またはビフェニル基であり、好ましくはフェニル基、ナフチル基またはビフェニル基であり、より好ましくはフェニル基である。置換基としては、Ar45〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。
一般式(II)で表される構造を繰り返し単位として有する化合物は、例えば、城戸らの方法(Polymers for Advanced Technologies,7巻,31頁,1996年;特開平9−188756号公報)に開示されている経路で合成される。
一般式(III)において、Ar49は、置換基を有することがある2価の芳香族環基、好ましくは正孔輸送性の面からは芳香族炭化水素環基であり、具体的には置換基を有することがある2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル基、およびターフェニル基等が挙げられる。また、置換基としては、Ar45〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、特に好ましくはメチル基が挙げられる。
Ar50は、置換基を有することがある芳香族環基、好ましくは正孔輸送性の面からは芳香族炭化水素環基であり、具体的には、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、およびビフェニル基等が挙げられる。置換基としては、一般式(II)のAr45〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。
一般式(III)で表される化合物において、Ar49およびAr50がいずれも無置換の芳香族環基である場合が、最も好ましい。一般式(III)で表される構造を繰り返し単位として有する化合物は、例えば、以下の原料及び反応式に従って、キシレン等の有機溶媒中、パラジウム触媒の存在下で、110℃で16時間反応させることにより合成することができる。
芳香族三級アミノ基を側鎖として含む正孔注入・輸送性材料としては、例えば、以下の一般式(IV)及び(V)で表される構造を有する繰り返し単位として有する化合物が挙げられる。
(式中、Ar51は置換基を有することがある2価の芳香族環基を示し、Ar52〜Ar53は置換基を有することがある1価の芳香族環基を示し、R33〜R35は、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、置換基を有することがある1価の芳香族環基を示す。)
(式中、Ar54〜Ar58は、各々独立して置換基を有することがある2価の芳香族環基を示し、R36及びR37は置換基を有することがある芳香族環基を示し、Yは直接結合、または下記の連結基から選ばれる。)
一般式(IV)において、Ar51は、好ましくは、各々置換基を有することがある2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニルであり、また、置換基としては、例えば、前述した一般式(II)のAr45〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
Ar52及びAr53として、好ましくは、各々独立してフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、およびビフェニル基が挙げられ、これらは置換基を有することがある。置換基としては例えば、一般式(II)のAr45〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
R33〜R35は、好ましくは、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基;フェニル基;またはトリル基である。一般式(IV)で表される構造を繰り返し単位として有する化合物は、例えば、特開平1−105954号公報に開示されている経路で合成される。
一般式(V)において、Ar54〜Ar58は、好ましくは、各々独立して置換基を有することがある2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニルであり、好ましくはベンゼン環である。置換基としては、一般式(II)のAr45〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
R36及びR37は、好ましくは、各々独立して置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、またはビフェニル基である。置換基としては、一般式(II)のAr45〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。一般式(V)で表される化合物は、例えば、城戸らの方法(Polymers for Advanced Technologies,7巻,31頁,1996年;特開平9−188756号公報)に開示されている経路で合成される。
一般式(II)〜(V)で示される構造のうち好ましい例を以下に示すが、何らこれらに限定されない。
分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物である正孔注入・輸送性材料は、一般式(II)〜(V)のいずれかで表される構造のホモポリマーであることが最も好ましいが、他の任意のモノマーとの共重合体(コポリマー)であっても良い。共重合体である場合、一般式(II)〜(V)で表される構成単位を50モル%以上、特に70モル%以上含有することが好ましい。尚、高分子化合物である正孔注入・輸送性材料は、一化合物中に、一般式(II)〜(V)で表される構造を複数種含有していても良い。また、一般式(II)〜(V)で表される構造を含む化合物を、複数種併用して用いても良い。一般式(II)〜(V)のうち、特に好ましくは、一般式(II)で表される繰り返し単位からなるホモポリマーである。高分子化合物からなる正孔注入・輸送性材料としては、さらに、共役系高分子が挙げられる。この目的のために、ポリフルオレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレンビニレンが好適である。
さらに、正孔注入・輸送性材料として使用する分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物としては、例えば、芳香族ジアミン含有ポリエーテル(特開2000−36390号公報);ポリビニルカルバゾール、ポリシラン、ポリフォスファゼン(特開平5−310949号公報);ポリアミド(特開平5−310949号公報);ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報);トリフェニルアミン骨格を有する高分子(特開平4−133065号公報);芳香族アミンを含有するポリメタクリレート等が挙げられる。
次に、電子受容性化合物について説明する。本実施の形態が適用される有機電界素子用組成物に含有される電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。これらの電子受容性化合物は、正孔注入・輸送性材料と混合して用いられ、正孔注入・輸送性材料を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
電子受容性化合物として、トリアリールホウ素化合物としては、下記一般式(6)に示したホウ素化合物が挙げられる。一般式(6)で表されるホウ素化合物は、ルイス酸であることが好ましい。また、ホウ素化合物の電子親和力は、通常、4eV以上、好ましくは、5eV以上である。
一般式(6)において、好ましくは、Ar1〜Ar3は、各々独立に、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等の5または6員環の単環、またはこれらが2〜3個縮合及び/または直接結合してなる芳香族炭化水素環基;或いは置換基を有することがあるチエニル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基等の5または6員環の単環、またはこれらが2〜3個縮合及び/または直接結合してなる芳香族複素環基を表す。
このような置換基としては、例えば、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基等のアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、アセチル基等のアシル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基、シアノ基等が挙げられる。
このような置換基として、Ar1乃至Ar3の少なくとも1つが、ハメット定数(σmおよび/またはσp)が正の値を示す置換基を有する化合物であることが好ましく、Ar1乃至Ar3が、いずれもハメット定数(σmおよび/またはσp)が正の値を示す置換基を有する化合物であることが特に好ましい。このような、電子吸引性の置換基を有することにより、これらの化合物の電子受容性が向上する。また、Ar1乃至Ar3がいずれも、ハロゲン原子で置換された芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す化合物であることがさらに好ましい。
一般式(6)で表されるホウ素化合物の好ましい具体例(1〜30)を以下に示すが、これらに限定するものではない。
(30)特願2004−68958号の明細書段落(0059)欄の表中に記載されている番号A−1のイオン化合物。
これらの中、以下に示す化合物が特に好ましい。
(30)特願2004−68958号の明細書段落(0059)欄の表中に記載されている番号A−1のイオン化合物。
また、電子受容性化合物として、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物の具体例として、以下に示す化合物が挙げられる。
なお、電子受容性化合物の正孔注入・輸送性材料に対する含有量は、通常、0.1モル%以上、好ましくは、1モル%以上である。但し、通常、100モル%以下、好ましくは、40モル%以下である。
次に、本実施の形態が適用される有機電界発光素子組成物を用いて作製した有機電界発光素子について説明する。図1(a)〜図1(c)は、本実施の形態が適用される有機電界発光素子組成物を用いて、湿式製膜法により形成した薄層を有する有機電界発光素子を説明するための図である。図1(a)に示された有機電界発光素子100aは、基板101と、基板101上に順次積層された陽極102と、正孔注入層103と、発光層105と、陰極107とを有する。
基板101は、有機電界発光素子100aの支持体である。基板101を形成する材料としては、石英板、ガラス板、金属板、金属箔、プラスチックフィルム及びプラスチックシート等が挙げられる。これらの中でも、ガラス板、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明なプラスチックシートが好ましい。なお、基板101にプラスチクを用いる場合には、基板101の片面又は両面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を高めることが好ましい。
陽極102は、基板101上に設けられ、正孔注入層103への正孔注入の役割を果たすものである。陽極102の材料としては、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/又はスズの酸化物等の導電性の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック;ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等が挙げられる。陽極102の形成方法としては、通常、基板101上へのスパッタリング、真空蒸着等;銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子又は導電性高分子微粉末等を適当なバインダー樹脂溶液中に分散させて基板101上に塗布する方法;電解重合により基板101上に直接導電性重合薄膜を形成する方法;基板101上に導電性高分子溶液を塗布する方法等が挙げられる。尚、陽極102は、通常、可視光の透過率が60%以上、特に80%以上であることが好ましい。陽極102の厚さは、通常、1,000nm以下、好ましくは500nm以下であり、通常5nm以上、好ましくは10nm以上である。
正孔注入層103は陽極102の上に設けられ、好ましくは、本実施の形態が適用される有機電界発光素子組成物を用いて、湿式製膜法により形成される。正孔注入層103は、正孔注入・輸送性材料とこの正孔注入・輸送性材料を酸化しうる電子受容性化合物を用いて形成することが好ましい。このようにして形成される正孔注入層103の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上である。但し、通常、1,000nm以下、好ましくは500nm以下である。
発光層105は、正孔注入層103上に設けられ、電界を与えられた電極間において陰極107から注入された電子と正孔注入層103から輸送された正孔を効率よく再結合し、かつ、再結合により効率よく発光する材料から形成される。発光層105を形成する材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、ビススチリルベンゼン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体、シロール誘導体等の低分子発光材料;ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の高分子化合物に発光材料と電子移動材料を混合した系等が挙げられる。
また、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体をホスト材料として、ルブレン等のナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の縮合多環芳香族環等を、ホスト材料に対して0.1〜10重量%ドープすることにより、素子の発光特性、特に駆動安定性を大きく向上させることができる。これらの材料は正孔注入層103上に、真空蒸着法又は湿式製膜法により正孔注入層103上に塗布して薄膜形成される。このようにして形成される発光層105の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは30nm以上である。但し、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
陰極107は、発光層105に電子を注入する役割を果たす。陰極107として用いられる材料は、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。陰極107の膜厚は、通常、陽極102と同様である。低仕事関数金属から成る陰極107を保護する目的で、この上にさらに、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す上で有効である。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。さらに、陰極107と発光層105との界面にLiF、MgF2、Li2O等の極薄絶縁膜(膜厚0.1〜5nm)を挿入することにより、素子の効率を向上させることができる。
図1(b)は、機能分離型発光素子を説明するための図である。図1(b)に示された有機電界発光素子100bは、素子の発光特性を向上させるために、正孔注入層103と発光層105との間に正孔輸送層104が設けられ、その他の層は、図1(a)に示した有機電界発光素子100aと同様な構成を有する。正孔輸送層104の材料としては、正孔注入層103からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが必要である。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。また、発光層105と直接接する層であるために、発光を消光する物質が含まれていないことが望ましい。
正孔輸送層104を形成する正孔注入・輸送性材料としては、本実施の形態が適用される有機電界発光素子用組成物における正孔注入・輸送性材料として例示した化合物と同様なものが挙げられる。また、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン等の高分子材料が挙げられる。正孔輸送層104は、これらの正孔注入・輸送性材料を湿式製膜法又は真空蒸着法により正孔注入層103上に積層することにより形成される。このようにして形成される正孔輸送層104の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは30nmである。但し、通常、300nm以下、好ましくは100nm以下である。
図1(c)は、機能分離型発光素子の他の実施形態を説明するための図である。図1(c)に示された有機電界発光素子100cは、発光層105と陰極107との間に電子輸送層106が設けられ、その他の層は、図1(b)に示した有機電界発光素子100bと同様な構成を有する。電子輸送層106に用いられる化合物には、陰極107からの電子注入が容易で、電子の輸送能力がさらに大きいことが要求される。このような電子輸送性材料としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体、オキサジアゾール誘導体又はそれらをポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の樹脂に分散した系、フェナントロリン誘導体、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。電子輸送層106の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上である。但し、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
尚、図1(a)〜図1(c)に示した有機電界発光素子100a〜100cは、図示のものに限定されるものではない。例えば、図1(a)〜図1(c)に示したものとは逆の構造、即ち、基板101上に陰極107、発光層105、正孔注入層103、陽極102の順に積層することも可能である。また、少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に有機電界発光素子を設けることも可能である。さらに、正孔注入・輸送性材料と電子受容性化合物とを含有する層は、陽極102に接する正孔注入層103である必要はなく、陽極102と発光層105との間に設けられていれば良く、特に、正孔注入層103であることが好ましい。また、図1(a)〜図1(c)に示した各層の間に、任意の層を有していてもよい。
次に、本実施の形態が適用される有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式製膜法により形成した薄層を有する有機電界発光素子100a〜有機電界発光素子100cの製造方法について説明する。有機電界発光素子100a〜有機電界発光素子100cは、基板101上へのスパッタリング、真空蒸着等により陽極102を形成し、形成された陽極102の上層に、正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を、本実施の形態が適用される正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を含有する有機電界素子組成物を用いた湿式製膜法により形成し、形成された正孔注入層103及び/又は正孔輸送層104の上層に、真空蒸着法又は湿式製膜法により発光層105を形成し、形成された発光層105の上層に、必要に応じて、真空蒸着法又は湿式製膜法により電子輸送層106を形成し、形成された電子輸送層106上に陰極107を形成することにより製造される。
正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を、湿式製膜法により形成する場合は、通常、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物の所定量に、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂又は塗布性改良剤等の添加剤等を添加し、溶解して塗布液、即ち、有機電界発光素子用組成物を調製し、調製後、通常、24時間以内、好ましくは、12時間以内、特に好ましくは、6時間以内に、スピンコート法やディップコート法等の湿式製膜法により陽極102上に塗布し、乾燥し、正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を形成する。
正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を含有する溶液において、アルコール、アルデヒドまたはケトン等、酸化を受けやすい化合物が存在すると、酸化を受けやすいこれらの化合物と電子受容性化合物とが反応するおそれがある。また、酸化を受けやすいこれらの化合物は、正孔注入・輸送性材料と電子受容性化合物との併用にて生じた正孔注入・輸送性材料のカチオンラジカル(このラジカル生成が正孔注入特性・正孔輸送特性を向上させる)とも反応することがある。これらの、酸化を受けやすい化合物の反応により、塗布液中の電子受容性化合物又はカチオンラジカルが消費されると、不純物が生成すると考えられ、このため、溶液が徐々に失活し、溶液の保存安定性が低下する。正孔注入・輸送性材料と電子受容性化合物とを含有する溶液を調製後20時間以内の溶液を用いた湿式製膜法により正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を形成することにより、溶液中の正孔注入・輸送性材料又は電子受容性化合物が安定した状態で有機電界発光素子100a〜100cを製造することができる。
尚、バインダー樹脂の含有量は、正孔移動度の面から、通常、これらの層中50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、実質的にバインダー樹脂を含有しない場合が最も好ましい。
また、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子輸送性化合物を含む層は、湿式製膜及び乾燥工程の後、更に加熱工程を経ることにより、得られる膜に含まれる分子のマイグレーションを活性化し、熱的に安定な薄膜構造に到達させることができ、これにより膜の表面平坦性が向上し、かつ素子の発光効率が向上するため好ましい。
具体的には、正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を含む層を湿式製膜法にて形成した後、用いた正孔注入・輸送性材料のガラス転移点Tg以下の温度で加熱する。加熱温度は、正孔注入・輸送性材料のガラス転移点Tgより10℃以上低温であることが好ましい。また、加熱処理による効果を十分に得るためには、60℃以上で処理することが好ましい。加熱時間は通常1分〜8時間程度である。このように湿式製膜法により形成された正孔注入・輸送性材料及び/又は電子受容性化合物を含む層は、表面が平滑なものとなるため、ITO等の陽極102の表面粗さに起因する素子作製時の短絡の問題を解消することができる。
以下に、実施例、比較例及び参考例に基づき、本実施の形態を更に具体的に説明する。尚、本実施の形態は、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
(参考例1)
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nm堆積したもの(ジオマテック社製;電子ビーム成膜品;シート抵抗15Ω)をアセトンで超音波洗浄、純水で水洗、イソプロピルアルコールで超音波洗浄、乾燥窒素で乾燥、UV/オゾン洗浄を行った後、以下の構造式(P1)に示す正孔輸送性高分子(単独重合体。Mw=27,000、Mn=13,000)及び電子受容性化合物として、下記構造式(A1)に示すPPB(tris(pentafluorophenyl)borane)を含有する組成物溶液を下記の条件で、上記基板上にスピンコートし、膜厚30nmの均一な薄膜を形成した。スピンコートは大気中で行った。このときの環境条件は、気温23℃・相対湿度60%であった。
溶媒;安息香酸エチル
塗布液濃度;正孔輸送性高分子2重量%/電子受容性化合物0.2重量%
スピナ回転数;1,500rpm
スピナ回転時間;30秒
乾燥条件;ホットプレート上で80℃1分間の加熱乾燥の後、オーブン内で100℃の60分間加熱乾燥。
(参考例2)
参考例1と同様にして、正孔輸送性高分子(P1)及び電子受容性化合物としてのPPBを含有する組成物溶液を下記の条件で、基板上にスピンコートし、膜厚30nmの均一な薄膜を形成した。スピンコートは大気中で行った。このときの環境条件は、気温23℃、相対湿度60%であった。
溶媒;シクロヘキサノン
塗布液濃度;正孔輸送性高分子1重量%/電子受容性化合物0.1重量%
スピナ回転数;1,500rpm
スピナ回転時間;30秒
乾燥条件;オーブン内で100℃60分間の加熱乾燥。
(参考例3)
参考例1と同様にして、下記構造式(P2)に示す正孔輸送性高分子(単独重合体。Mw=17,000、Mn=8,300)及び電子受容性化合物として下記構造式(A2)に示すTBPAH(tris(4−bromophenyl)aminium tetrachloroantimonate)を含有する組成物溶液を下記の条件で、上記基板上にスピンコートし、膜厚15nmの均一な薄膜を形成した。スピンコートは大気中で行った。このときの環境条件は、気温23℃、相対湿度60%であった。
溶媒;シクロヘキサノン
塗布液濃度;正孔輸送性高分子0.5重量%/電子受容性化合物0.05重量%
スピナ回転数;1,500rpm
スピナ回転時間;30秒
乾燥条件;オーブン内で100℃60分間の加熱乾燥。
(参考例4)
参考例3と同様にして、正孔輸送性高分子(P2)及び電子受容性化合物としてのTBPAHを含有する組成物溶液を下記の条件で、上記基板上にスピンコートし、膜厚15nmの均一な薄膜を形成した。スピンコートは大気中で行った。このときの環境条件は、気温23℃、相対湿度60%であった。
溶媒;クロロホルム
塗布液濃度;正孔輸送性高分子0.5重量%/電子受容性化合物0.05重量%
スピナ回転数;1,500rpm
スピナ回転時間;30秒
乾燥条件;オーブン内で100℃60分間の加熱乾燥。
(比較例1)
図1(b)に示す有機電界発光素子100bと同様な構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nm堆積したもの(ジオマテック社製;電子ビーム成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて、2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
先ず、正孔輸送性高分子(P1)及び電子受容性化合物としてのPPBを含有する組成物溶液を参考例1と同様に調製し、参考例1と同一条件で上記ITOガラス基板上にスピンコートした。なお、このときの組成物溶液は、正孔輸送性高分子(P1)及びPPBを、溶媒である安息香酸エチル中に溶解後30分経過したものを用いた。このスピンコートにより、30nmの膜厚の均一な薄膜形状を有する正孔注入層を形成した。
次に、上記正孔注入層を塗布成膜した基板を真空蒸着装置内に設置した。上記装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が2×10−6Torr(約2.7×10−4Pa)以下になるまで液体窒素トラップを備えた油拡散ポンプを用いて排気した。上記装置内に配置されたセラミックるつぼに入れた以下の構造式(H1)に示す芳香族アミン化合物、4,4’−ビス[N−(9−フェナンチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルを加熱して蒸着を行った。蒸着時の真空度は1.3×10−6Torr(約1.7×10−4Pa)、蒸着速度は0.3nm/秒で、膜厚40nmの膜を正孔注入層の上に積層して正孔輸送層を完成させた。
引続き、発光層の材料として、以下の構造式(E1)に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体、Al(C9H6NO)3をルツボを用いて加熱することにより蒸着を行った。この時のルツボの温度は、282〜294℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は1.3×10−6Torr(約1.7×10−4Pa)、蒸着速度は0.1〜0.3nm/秒で、蒸着時間は2分40秒であった。その結果、膜厚60nmの発光層が得られた。
上記の正孔輸送層及び発光層を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。ここで、発光層までの蒸着を行った素子を陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して有機層と同様にして装置内の真空度が2×10−6Torr(約2.7×10−4Pa)以下になるまで排気した。陰極として、先ず、フッ化リチウム(LiF)をモリブデンボートを用いて、蒸着速度0.1nm/秒、真空度7.0×10−6Torr(約9.3×10−4Pa)で、0.5nmの膜厚で発光層の上に成膜した。次に、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.5nm/秒、真空度1×10−5Torr(約1.3×10−3Pa)で膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極を形成した。以上の2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表1に示す。
表1は、通電電流250mA/cm2における発光輝度(単位:cd/m2)、発光輝度100cd/m2における発光効率(単位:lm/W)、輝度/電流(単位:cd/A)及び駆動電圧(単位:V)の数値を各々示す。
(実施例1)
正孔輸送性高分子(P1)及びPPBを溶媒である安息香酸エチル中に溶解後、23℃で4週間遮光して保管した組成物溶液を用いて、正孔注入層を形成したこと以外は、比較例1と同様にして、図1(b)に示す有機電界発光素子100bと同様な構造を有する有機電界発光素子を作製した。この素子の発光特性を表1に示す。
表1より、比較例1に記載の素子と駆動電圧がほとんど等しく、参考例1に記載する方法で調製した塗布組成物は23℃にて2週保管した場合も、同等の特性を持つ有機電界発光素子が得られたことが分かる。
さらに、正孔輸送性高分子(P1)及びPPBを安息香酸エチル中に溶解後、23℃で4週間遮光して保管した組成物溶液を用いると、得られた有機電界発光素子の250(mA/cm 2 )の通電電流における発光輝度が、比較例1(7,300cd/cm 2 )より増大(9,700cd/cm 2 )することが分かる。
(比較例2)
参考例2に記載する組成で、塗布液として正孔輸送性高分子(P1)及び電子受容性化合物としてのPPBを溶媒としてのシクロヘキサノン中にて混合後、30分経過後に、参考例2と同様の条件で成膜して正孔注入層を形成した他は、比較例1と同様にして図1(b)に示す有機電界発光素子100bと同様な構造を有する有機電界発光素子を作製した。この素子の発光特性を表1に示す。
(実施例2)
参考例2に記載する組成で、溶媒であるシクロヘキサノンに正孔輸送性高分子(P1)及びPPBを溶解させた後、23℃で4週間遮光して保管した組成物溶液を用いて、参考例2と同様の条件で成膜して正孔注入層を形成したこと以外は、比較例1と同様にして図1bに示す有機電界発光素子100bと同様な構造を有する有機電界発光素子を作製した。この素子の発光特性を表1に示す。この素子の駆動電圧は、比較例2に記載の素子よりも高い値となった。
実施例2において、正孔輸送性高分子(P1)及びPPBを安息香酸エチル中に溶解後、23℃で4週間遮光して保管した組成物溶液を用いると、得られた有機電界発光素子の250(mA/cm 2 )の通電電流における発光輝度が、比較例2(7,000cd/cm 2 )より増大(9,900cd/cm 2 )することが分かる。
(比較例3)
図1(c)に示す有機電界発光素子100cと同様な構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nm堆積したもの(ジオマテック社製;電子ビーム成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
先ず、正孔輸送性高分子(P1)及び電子受容性化合物であるPPBを含有する組成物溶液を、参考例2と同様に調製し、実施例2と同一条件で上記ITOガラス基板上にスピンコートした。なお、この時の塗布液は、正孔輸送性高分子(P1)及びPPBを溶媒であるシクロヘキサノンに溶解後、23℃にて1時間保管したものを用いた。このスピンコートにより、30nmの膜厚の均一な薄膜形状を有する正孔注入層を形成した。
次に、上記正孔注入層を塗布成膜した基板を真空蒸着装置内に設置した。上記装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が2×10−6Torr(約2.7×10−4Pa)以下になるまで液体窒素トラップを備えた油拡散ポンプを用いて排気した。上記装置内に配置されたセラミックるつぼに入れた化合物(H1)を加熱して蒸着を行った。蒸着時の真空度は1.3×10−6Torr(約1.7×10−4Pa)、蒸着速度は0.3nm/秒で、膜厚40nmの膜を正孔注入層の上に積層して正孔輸送層を形成した。
引続き、発光層の材料として、化合物(E1)及び以下の構造式(D1)に示すルブレンを各々、別々のルツボを用いて同時に加熱することにより蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、化合物(E1)に対しては282〜294℃の範囲で、化合物(D1)に対しては180〜190℃の範囲に制御した。蒸着時の真空度は1.3×10−6Torr(約1.7×10−4Pa)、蒸着速度は0.1〜0.3nm/秒で、蒸着時間は2分45秒であった。その結果、膜厚30.7nmで化合物(D1)が錯体(E1)に対して2.5膜厚%ドープされた発光層が得られた。
さらに、化合物(D1)の加熱を停止し、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体のみを282〜294℃の範囲で温度制御し、膜厚45nmの電子輸送層106を蒸着した。このときの真空度は1.3×10−6Torr(約1.7×10−4Pa)、蒸着速度は0.1〜0.4nm/秒で、蒸着時間は2分52秒であった。上記の正孔輸送層、発光層及び電子輸送層を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
ここで、電子輸送層までの蒸着を行った素子を陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して有機層と同様にして装置内の真空度が2×10−6Torr(約2.7×10−4Pa)以下になるまで排気した。陰極として、先ず、フッ化リチウム(LiF)をモリブデンボートを用いて、蒸着速度0.1nm/秒、真空度7.0×10−6Torr(約9.3×10−4Pa)で、0.5nmの膜厚で発光層の上に成膜した。次に、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.5nm/秒、真空度1×10−5Torr(約1.3×10−3Pa)で膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極を完成させた。以上の2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表2に示す。
(比較例4)
参考例2に記載する組成で、溶媒であるシクロヘキサノンに正孔輸送性高分子(P1)及びPPBを溶解させた後、23℃にて5時間保管した組成物溶液を用いて、参考例2と同様の条件で成膜して正孔注入層を形成した他は、比較例3と同様にして、図1(c)に示す有機電界発光素子100cと同様な構造を有する有機電界発光素子を作製した。この素子の発光特性を表2に示す。
表2より、比較例3に記載の素子と駆動電圧がほとんど等しく、参考例2に記載する方法で調製した塗布組成物は23℃にて5時間保管した場合も、同等の特性を持つ有機電界発光素子が得られたことが分かる。
(実施例3)
参考例2に記載する組成で、溶媒であるシクロヘキサノンに正孔輸送性高分子(P1)及びPPBを溶解させた後、23℃で24時間遮光して保管した組成物溶液を用いて、参考例2と同様の条件で成膜して正孔注入層を形成したこと以外は、比較例3と同様にして、図1(c)に示す有機電界発光素子100cと同様な構造を有する有機電界発光素子を作製した。この素子の発光特性を表2に示す。
この素子の駆動電圧は、比較例3に記載の素子よりも高い値となったことが分かる。
実施例3において、正孔輸送性高分子(P1)及びPPBを安息香酸エチル中に溶解後、23℃で24時間遮光して保管した組成物溶液を用いると、得られた有機電界発光素子の250(mA/cm 2 )の通電電流における発光輝度が、比較例3(13,900cd/cm 2 )及び比較例4(13,400cd/cm 2 )より増大(14,500cd/cm 2 )することが分かる。
(参考例5)
図1(b)に示す有機電界発光素子100bと同様な構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nm堆積したもの(ジオマテック社製;電子ビーム成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
先ず、参考例3に記載する方法で、塗布液として正孔輸送性高分子(P2)及び電子受容性化合物であるTBPAHを、溶媒であるシクロヘキサノンに溶解後、30分経過後に正孔注入層を塗布し、膜厚15nmの正孔注入層を成膜した。次に、上記正孔注入層を塗布成膜した基板を真空蒸着装置内に設置した。上記装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が2×10−6Torr(約2.7×10−4Pa)以下になるまで液体窒素トラップを備えた油拡散ポンプを用いて排気した。上記装置内に配置されたセラミックるつぼに入れた以下の構造式(H2)に示す芳香族アミン化合物、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルを加熱して蒸着を行った。蒸着時の真空度は1.3×10−6Torr(約1.7×10−4Pa)、蒸着速度は0.3nm/秒で、膜厚40nmの膜を正孔注入層の上に積層して正孔輸送層を完成させた。
引続き、発光層の材料として、化合物(E1)を蒸着した。この時のルツボの温度は、282〜294℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は1.3×10−6Torr(約1.7×10−4Pa)、蒸着速度は0.1〜0.3nm/秒で、蒸着時間は5分5秒であった。結果として、膜厚60nmの発光層を形成した。上記の正孔輸送層及び発光層を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
ここで、発光層までの蒸着を行った素子を陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して有機層と同様にして装置内の真空度が2×10−6Torr(約2.7×10−4Pa)以下になるまで排気した。陰極として、先ず、フッ化リチウム(LiF)をモリブデンボートを用いて、蒸着速度0.1nm/秒、真空度7.0×10−6Torr(約9.3×10−4Pa)で、0.5nmの膜厚で発光層の上に成膜した。次に、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.5nm/秒、真空度1×10−5Torr(約1.3×10−3Pa)で膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極を完成させた。以上の2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表3に示す。
(参考例6)
参考例4に記載する組成で、正孔輸送性高分子(P2)及びTBPAHを、溶媒であるクロロホルム中に溶解し、30分経過後に参考例4と同様の条件で成膜して正孔注入層を形成した他は、実施例6と同様にして図1(b)に示す有機電界発光素子100bと同様な構造を有する有機電界発光素子を作製した。この素子の発光特性を表3に示す。表3に示す結果から、この素子の駆動電圧は、参考例5に記載の素子よりも高い値となったことが分かる。
100a,100b,100c…有機電界発光素子、101…基板、102…陽極、103…正孔注入層、104…正孔輸送層、105…発光層、106…電子輸送層、107…陰極