次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
最初に、電磁波シールド材及びその製造方法について説明し、その後に、この電磁波シールド材を包含する印刷物及びその製造方法について説明する。
[電磁波シールド材]
図1は、本発明の電磁波シールド材の一例を示す模式的な平面図であり、図2は、図1におけるA−A’断面の拡大図である。また、図3は、図2の一部をさらに拡大して示す模式的な断面図であり、(A)は、導電層上に金属層を設けない例であり、(B)は導電層上に金属層を設けた例である。本発明の電磁波シールド材10は、透明基材1と、透明基材1上に形成されたプライマー層2と、プライマー層2上に所定のパターンで形成された導電性組成物からなる導電層3とを有し、必要に応じて導電層3上に形成された金属層4を有し、必要に応じてさらに図2のように保護層9を有する。
ここで、「所定のパターン」とは、電磁波シールド材10の電磁波遮蔽パターンとして一般的な、メッシュ(網乃至格子)状、ストライプ(平行線群乃至縞模様)状、螺旋(乃至は渦巻)状、或いは線分群等のパターンである。また、図1中、符号7は、中央部に位置し、ディスプレイ装置の画像表示領域に対峙する電磁波遮蔽パターン部であり、符号8は、その電磁波遮蔽パターン部の周縁部の少なくとも一部に存在する接地部である。この接地部8において、接地能力上好ましくは、図1に示すように、電磁波遮蔽パターン部7の周縁部の全周を囲繞する形態が好ましい。また、その接地部8は、メッシュ等の開口部を有するパターン状に形成されていてもよいが、より好ましくは、図1に示すように、開口部非形成(ベタ状)の導電層(或いは導電層及び金属層)からなる。なお、本発明においては、図1に示すような接地部8が周縁部に存在していなくてもよく、全体をシームレスのメッシュ形状とすることもできる。この場合には、ディスプレイのサイズにかかわらず連続形成が可能となる。また、螺旋(乃至は渦巻)状のパターンは、ICタグや非接触式ICカードの送受信アンテナに用いられる渦巻状コイルを全面に亙って被覆する場合等に利用できる。
以下、本発明の構成を詳しく説明する。
(透明基材)
透明基材1は、電磁波シールド材10の基材であり、所望の透明性、機械的強度、プライマー層2との接着性等の要求適性を勘案の上、各種材料の各種厚さのものを選択すればよい。透明基材1の材料としては、樹脂基材であってもよいし、硝子基材等無機基材であってもよい。また、厚さ形態としては、フィルム状でもシート状でも板状でもよい。通常は、樹脂製の透明フィルムが好ましく用いられる。そうした透明フィルムとしては、アクリル樹脂(ここでは、所謂、メタクリル樹脂も包含する概念として用いる)、ポリエステル樹脂等をベースとするフィルムが好ましいが、これに限定されない。樹脂材料としては、具体的には、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレングリコール−テレフタル酸−イソフタル酸共重合体、テレフタル酸−エチレングリコール−1,4シクロヘキサンジメタノール共重合体、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の含ハロゲン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルケトン、(メタ)アクリロニトリル等が使用できる。中でも、二軸延伸PETフィルムが透明性、耐久性に優れ、しかもその後の工程で紫外線照射処理や加熱処理を経た場合でも熱変形等しない耐熱性を有する点で好適である。
一方、無機基材を構成する無機材料としては、ソーダ硝子、カリ硝子、鉛硝子、硼珪酸硝子、石英硝子、燐酸硝子等の硝子、結晶質石英(水晶)、方解石(炭酸カルシウム)、ダイヤモンド(金剛石)等の透明無機結晶、PLZT等の透明セラミックス等が挙げられる。
透明基材1は、ロール・トウ・ロールで加工可能な連続な長尺帯状フィルムであってもよいし、所定の大きさからなる枚葉フィルムであってもよい。なお、ここで「ロール・トウ・ロール」とは、長尺帯状の基材を巻取(ロール)の形態で供給し、その巻取から帯状シートを巻き出して所定の加工をし、しかる後に再度巻取の形態に巻き取って保管、搬送するフィルムの利用形態を意味する。透明基材1の厚さは、通常は8μm〜5000μm程度が好ましいが、これに限定されない。透明基材1の光透過率としては、ディスプレイ装置の前面設置用としては、100%のものが理想であるが、透過率80%以上のものを選択することが好ましい。透明基材1の表面には、必要に応じて、後述するプライマー層2と透明基材1との密着性を改善するために易接着層を設けたり、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理を行ったりしてもよい。易接着層としては、透明基材1とプライマー層2との両方に接着性のある樹脂から構成する。易接着層の樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩素化ポリプロピレン等の樹脂の中から適宜選択する。
(プライマー層)
プライマー層2は、透明基材1上に密着性よく設けられる。そして、このプライマー層2上には導電層3が密着性よく設けられる。したがって、プライマー層2は、透明基材1と導電層3の両方に対して密着性がよい材料であることが好ましく、また、ディスプレイ装置の前面設置用としては、当然のことながら透明であることが好ましい。例えば、電離放射線硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を塗工してなる層であることが好ましい。また、密着性、耐久性改善、各種物性付与のために各種添加剤や変性樹脂を使用してもよい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
電離放射線硬化性樹脂としては、電離放射線で架橋等の反応により重合硬化するモノマー(単量体)、或いはプレポリマーやオリゴマーが用いられる。モノマーとしては、例えば、ラジカル重合性モノマー、具体的には、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートが挙げられる。また、プレポリマー(乃至はオリゴマー)としては、例えば、ラジカル重合性プレポリマー、具体的には、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、等の各種(メタ)アクリレートプレポリマー、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等のポリチオール系プレポリマー、不飽和ポリエステルプレポリマー等が挙げられる。その他、カチオン重合性プレポリマー、例えば、ノボラック系型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリレートという表記は、アクリレート又はメタクリレートという意味である。
これらモノマー、或いはプレポリマーは、要求される性能、塗布適性等に応じて、1種類単独で用いる他、モノマーを2種類以上混合したり、プレポリマーを2種類以上混合したり、或いはモノマー1種類以上とプレポリマー1種類以上とを混合して用いたりすることができる。
光重合開始剤としては、ラジカル重合性のモノマー又はプレポリマーの場合には、ベンゾフェノン系、アセトフェノン系、チオキサントン系、ベンゾイン系等の化合物が、また、カチオン重合系のモノマー又はプレポリマーの場合には、メタロセン系、芳香族スルホニウム系、芳香族ヨードニウム系等の化合物が用いられる。これら光重合開始剤は、上記モノマー及び/又はプレポリマーからなる組成物100重量部に対して0.1〜5重量部程度添加する。
なお、電離放射線としては、紫外線又は電子線が代表的なものであるが、この他、可視光線、X線、γ線等の電磁波、或いはα線等の荷電粒子線を用いることもできる。
必要に応じて適宜添加剤を添加する。該添加剤としては、例えば、熱安定剤、ラジカル捕捉剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、色素(着色染料、着色顔料)、体質顔料、光拡散剤等が挙げられる。
特に本発明においては、プライマー層2が、版に圧着された状態で流動状態と硬化状態の2つの状態を保持できることに特徴がある。具体的には、プライマー層2は、プライマー層を塗工した後においては流動性を保持できる状態で透明基材1上に設けられており、その後、プライマー層2上に導電性組成物層3’(図8参照)が転写形成される際においては短時間で流動状態から硬化状態に変化させることができるものであることが必要である。こうしたプライマー層2を透明基材1上に形成することにより、プライマー層2上に導電性組成物層3’を転写する際に、その導電性組成物層3’とプライマー層2との間に空隙がない状態で転写することができるので、従来生じるおそれがあった導電性組成物層3’とプライマー層2との間の隙間の発生をなくすことができ、その隙間の存在による転写不良、密着不良の問題が生じない。
なお、本願で言う「流動性」又は「流動状態」とは、プライマー層2を導電性組成物が充填された版面に圧着する際の圧力によって流動(変形)する性質又は状態をいい、水のように低粘度である必要はない。また、必ずしもNewton粘性である必要もなく、チキソトロピー性或いはダイラタンシー性のような非Newton粘性を有していてもよい。塗工に適した粘度に調整されたプライマー層が透明基材1上に塗布された後、プライマー層2が熱可塑性樹脂である場合には、版面に圧着する際に流動(変形)すればよく、プライマー層2は圧着時において流動(変形)する温度になっていればよい。この場合、軟化状態と言い換えてもよい。
流動状態になっているプライマー層2の粘度は、通常、1mPa・s〜100000mPa・sの範囲内であり、好ましくは、50mPa・s〜2000mPa・sの範囲内である。
そうしたプライマー層2の流動性状態は、プライマー層用の樹脂として電離放射線硬化性樹脂を用いた場合には、電離放射線硬化性を持ったインキを透明基材1上に塗布するだけで得られる。電離放射線硬化型インキは、一般に前記のごとき電離放射線硬化性を持つモノマーやオリゴマーからなり、必要に応じて、更に、光重合開始剤(紫外線硬化、或いは光硬化の場合)、各種添加剤等を含み、電離放射線で硬化させるまでは流動性を示す。このインキは溶剤を含んでもよいが、その場合、塗布後に乾燥工程が必要であるため、インキは溶剤を含まないタイプ(いわゆるノンソルベントタイプ)であることが好ましい。
また、プライマー層用の樹脂として熱可塑性樹脂組成物を用いた場合には、透明基材1上に熱可塑性樹脂組成物を塗布し、流動性状態になる程度(例えば、50℃〜200℃程度)に加熱して生じさせることができる。こうした流動性状態のプライマー層2を、後述するように導電性組成物が充填された版面に圧着した後、冷却することで硬化させて転写すれば、その導電性組成物層3’とプライマー層2との間に空隙がない状態で転写することができる。ここで、透明基材1上に熱可塑性樹脂組成物を塗布する方法としては、熱可塑性樹脂組成物の溶液を塗布後乾燥する方法や、ホットメルト状態の樹脂を塗布する方法がある。また、透明基材1上に塗布された熱可塑性樹脂組成物の加熱は、導電性組成物が充填された版面に接触する前に行ってもよく、版面に圧着する際に加熱ロール等を用いて圧着と加熱を同時に行ってもよいが、いずれにしろ、導電性組成物層3’をプライマー層2に転移する際にはプライマー層の流動性がなくなる程度まで冷却されている必要がある。
プライマー層2の厚さは特に限定されないが、通常は硬化後の厚さで1μm〜100μm程度(後述の厚さTBで評価した数値)となるように形成される。また、プライマー層2の厚さ(TB)は、通常は、導電層3とプライマー層2との合計値(総厚。図3で言うと導電層の頂部と透明基材1の表面との高度差)の1〜50%程度である。なお、後の製造方法の説明欄で詳述するが、導電性組成物層3’がプライマー層2上に転写され、さらにその導電性組成物層3’を硬化させて電磁波シールド材を製造した後におけるプライマー層2は、図3に示すように、導電層3が形成されている部分Aの厚さTAが、導電層3が形成されていない部分Bの厚さTBよりも厚い。そして、そのプライマー層2において、厚さの厚い部分Aのサイドエッジ5,5は、厚さの薄い部分Bの側に導電層3が回り込んだ形態になっている。
図3に示す形態は、硬化させる前の流動状態のプライマー層2を、凹版内に設けられた導電性組成物に圧着した後、プライマー層2を硬化させ、そのプライマー層2と導電性組成物を充填した所定のパターンの賦形版面とを圧着して、プライマー層2と導電性組成物とを空隙なく密着(図11に示す凹み、或いは図12に示す様な凹みが有る場合は、これを充填)した後に、プライマー層2を硬化し、又はプライマー層2と導電性組成物とを同時硬化し、その後に転写したことよって生じたものである。具体的には、後述の図8の製造工程図に示すように、透明基材1上に形成したプライマー層2を流動状態とし、そのプライマー層2を、導電性組成物15を凹部内に充填した版面に圧着し、プライマー層2を硬化することにより生じる。版面は、ドクターブレードやワイピングロール等によって凹部内以外の余分な導電性組成物が掻き取られるが、その際に、凹部内の導電性組成物の上部には、図11の拡大図で示したように凹み6が生じやすく、その凹み6を有した状態で版面にプライマー層2を圧着することにより、図11(A)及び図11(B)のように、流動性のあるプライマー層2がその凹み6内に流入、充填されて、その結果、図3に示すような形態になる。
(導電層)
導電層3は、プライマー層2上に、例えばメッシュ状又はストライプ状の所定の電磁遮蔽パターンで設けられている。この導電層3を形成する導電性組成物は、種々の工程を経た後に最終的に導電性の層になっているものであれば特に限定されない。電磁遮蔽パターンは、電磁波シールド材に通常採用されるメッシュ状であってもストライプ状であってもよく、その線幅と線間ピッチも通常採用されている寸法であればよい。例えば、線幅は5〜50μmとすることができ、線間ピッチは100〜500μmとすることができる。開口率(電磁波遮蔽パターンの全面積中における開口部の合計面積の占める比率)は、通常、50〜95%程度である。また、メッシュやストライプ形状の電磁遮蔽パターンとは別に、図1のように、それと導通を保ちつつ隣接した額縁状の全ベタ(開口部非形成)層等の接地パターンが設けられる場合もある。
また、導電層3の厚さは、その導電層3の抵抗値によっても異なるが、電磁波遮蔽性能と該導電層上への他部材の接着適性との兼ね合いから、その中央部(突起パターンの頂部)での測定において、通常、2μm以上50μm以下であり、好ましくは、5μm以上20μm以下である。
導電性組成物は、版の凹部内に充填する時点では流動性を有し、所望のパターンに形成し、硬化せしめた以降の時点で所望の導電性を発現するものであれば特に限定はなく、各種材料、形態のものが使用可能である。代表的なものは、導電性粉末と樹脂とを含み、さらに必要に応じてその樹脂を溶解乃至分散する溶剤乃至分散剤を含んだ流動性を有するインキ又はペースト状の材料を挙げることができる。この導電性組成物からなる導電層3は、導電性組成物3’を乾燥ないし硬化させた後の固形物からなる塗膜のことである。なお、溶解乃至分散としたのは、導電性組成物が、溶液状の他、コロイド状である場合も含むからである。
導電性組成物の粘度は、例えば後述するように、プライマー層2中のプライマー成分が導電性組成物中に浸入して増粘させたり、プライマー層2と導電性組成物とを同時硬化させたりする場合等、その製造工程上との関係で好ましい粘度の大小を一概には言えないが、使用可能な範囲としては、通常、100mPa・s〜1000000mPa・sの範囲内であり、好ましくは、数千mPa・s〜数万mPa・sの範囲内である。
導電性組成物を構成するバインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも使用可能である。熱硬化性樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、ポリエステル−メラミン樹脂、エポキシ−メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、熱硬化型ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、熱硬化型ポリエステル樹脂等の樹脂を挙げることができ、電離放射線硬化性樹脂としては、プライマー層用の材料として前記したものを挙げることができ、熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂等の樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は単独で用いても良く、複数の樹脂を混合して用いても良い。なお、熱硬化性樹脂を使用する場合、必要に応じて硬化触媒を添加してもよい。光硬化性樹脂等の電離放射線硬化性樹脂を用いる場合は、必要に応じて重合開始剤を添加してもよい。
また、版の凹部への充填に適した流動性を得るために、これら樹脂は通常、溶剤に溶けたワニスとして使用する。溶剤の種類には特に制限はなく、一般的に印刷インキに用いられる溶剤を使用できる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン類、メチルエーテル、エチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル酪酸メチル、酢酸ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル類、ペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ターピネオール等のアルコール類、水等の中から適宜選択した1種乃至2種以上が用いられる。溶剤の含有量は通常、10重量%〜70重量%程度であるが、必要な流動性が得られる範囲でなるべく少ない方が好ましい。また、光硬化性樹脂等の電離放射線硬化型性樹脂を用いる場合には、もともと流動性があるため、必ずしも溶剤を必要としない。
また、導電性組成物を構成する導電性粉末としては、金、銀、白金、銅、錫、パラジウム、ニッケル、アルミニウム等の低抵抗率金属粉末、低抵抗率金属以外の材料からなる粉末(上記低抵抗率金属以外の金属粉末、アクリル樹脂、メラミン樹脂等の樹脂粉末、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、ゼオライト等の無機粉末)の表面に金や銀等の低抵抗率金属をめっきしてなる粉末、グラファイト、カーボンブラック等の導電性炭素の粉末を好ましく挙げることができる。また、導電性セラミックス、或いは導電性有機高分子の粉末も使用できる。形状も球状、回転楕円体状、多面体状、鱗片状、円盤状、繊維状(乃至針状)等から選ぶことができる。これらの材料や形状は適宜混合して用いてもよい。導電性粉末の大きさは種類に応じて任意に選択されるので一概に特定できないが、例えば、鱗片状の銀粉末の場合には粉末の平均粒子径が0.1〜10μm程度のものを用いることができ、カーボンブラック粉末の場合には平均粒子径が0.01〜1μm程度のものを用いることができる。
導電性組成物中の導電性粉末の含有量は、導電性粉末の導電性や粉末の形態に応じて任意に選択されるが、例えば導電性組成物の固形分100重量部のうち、導電性粉末を40〜99重量部の範囲で含有させることができる。なお、本願において、平均粒子径というときは、粒度分布計、又はTEM観察で測定した値を指している。また、多面体状、纖維状等の非球面形状の場合は、通常、外接球の直径、対角線長、或いは最長辺の辺長をもって粒径を定義する。
また、導電性組成物には、品質向上等を目的に適当な添加物を加えてもよい。例えば、カーボンブラックはそれ自体が黒色であるので必要ないが、黒色顔料や黒色染料を必要に応じて所定量添加することで、電磁波シールドパネルを構成したときのコントラストを向上させ、視認性を向上させることができる。また、後述する金属めっき層の金属光沢による透明基板裏面の反射防止、色ムラ、金属色等の抑制のためには、こうした黒色顔料や黒色染料を含有させることが望ましい。黒色顔料としては、導電性粉末としても機能するカーボンブラック、Fe3O4、CuO−Cr2O3、CuO−Fe3O4−Mn2O3、CoO−Fe2O3−Cr2O3等が挙げられるが、その種類や形状は特に制限はなく、バインダー樹脂中に分散容易な平均粒子径0.1μm以下の着色力の大きな黒色顔料又は黒色染料が好ましい。なお、カーボンブラックを用いる場合には、チャンネルブラック、ファーネスブラック又はランプブラック等の色材用カーボンブラックや、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック等を挙げることができ、中でも平均粒子径が20nm以下のものが好ましく用いられる。また、黒色染料としては、アニリンブラック等の染料を用いることができる。また、導電性組成物の流動性や安定性を改善するために、導電性や、プライマー層との密着性に悪影響を与えない限りにおいて、適宜フィラーや増粘剤、界面活性剤、酸化防止剤等を添加してもよい。
導電層3の形成は、後述の図8の製造工程図に示すように、先ず、所定のメッシュ状又はストライプ状等のパターンで凹部が形成された板状又は円筒状の版面に導電性組成物を塗布した後、その凹部内以外に付着した導電性組成物を掻き取って凹部内に導電性組成物を充填する。次に、流動性を保持したプライマー層2を一方の面に形成した透明基材1を準備し、その透明基材1のプライマー層2側と、導電性組成物を凹部内に充填した版面とを圧着することにより、導電性組成物とプライマー層2とを隙間なく密着させ、その状態でプライマー層2の流動性をなくした(硬化させた)後、導電性組成物をプライマー層2上に転写し、所定のメッシュ状又はストライプ状等のパターンからなる導電性組成物層3’を形成する。なお、導電性組成物層3’をプライマー層2上に転写した後においては、硬化処理(例えば、乾燥処理、紫外線・電子線照射処理、加熱処理、冷却処理等)を行って導電層3が形成される。
本発明においては、上記したように、ドクターブレードやワイピングロール等によって凹部内以外の余分な導電性組成物が掻き取られる際に、凹部内の導電性組成物の上部に生じる凹み6内に、流動性を保持したプライマー層2が充填し、導電性組成物とプライマー層2とを隙間なく密着した状態でプライマー層2が硬化するので、プライマー層2上に導電性組成物を転写不良なく転写することができる。
上記においては、導電性組成物として、主に導電性粉末と樹脂とで構成されたものについて説明した。こうした導電性組成物は、それ自体が導電層3になるものであるが、本発明においては他の導電性組成物を適用してもよい。例えば、有機金属化合物のゾル(分散液)を導電性組成物として用い、例えば転写工程の前後で加熱固化し、さらに必要に応じて焼成し、導電性の金属ないし金属化合物からなる導電層3としてもよい。また、例えば、ポリチオフェン等の公知の導電性樹脂を導電性組成物として用い、それ自体を導電層3としてもよい。
(導電層パターンの形態)
次に、プライマー層2上に所定のパターンで形成された導電層3の形態について説明する。以下、その形態を、「導電層パターン19」ともいう。図4〜図7は、導電層パターン19(19A〜19D)の第1形態〜第4形態を示す模式断面図である。
本発明において、導電層パターン19は、プライマー層2と、プライマー層2上に所定のパターンで形成された導電性組成物3’からなる導電層3とで構成されている。この導電層パターン19A〜19Dは、そのいずれにおいても、導電層3が形成されている部分(「パターン形成部」ともいう。)Aにおけるプライマー層2の厚さTAが、導電層3が形成されていない部分(「パターン非形成部」ともいう。)Bにおけるプライマー層2の厚さTBよりも厚くなっている。
こうした形態は、平坦面からなるプライマー層2上に導電層3が形成されている場合に比べ、プライマー層2と導電層3との密着性にすぐれるという形態由来の効果がある。また、こうした形態は、上述のようにその製法に起因するものであって、版面上でドクターブレードやワイピングロール等によって凹部内以外の余分な導電性組成物が掻き取られた際に、その凹部内の導電性組成物の上部には凹み6が生じやすく、その凹み6を有した状態で版面にプライマー層2を圧着することにより、流動性のあるプライマー層2がその凹み6内に充填され、硬化後に剥離することによって生じたものである。この図4に示す第1形態の導電層パターン19Aは、プライマー層2が導電層3(導電性組成物15)に空隙なく密着し、導電層3(導電性組成物15)の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材を提供できる。
上記した構造上の特徴(TA>TB)を有する本発明において更に特徴的な構造は、パターン非形成部Bにもプライマー層2が存在していること、及び/又は、パターン非形成部Bに導電層3を構成する導電性組成物3’が実質的に存在しないこと、である。前者の「パターン非形成部Bにもプライマー層2が存在していること」により、例えば後述する転写工程時に導電性組成物3’はプライマー層2とともに透明基材1に確実に転写する。すなわち、転写工程時において、版面から透明基材1とプライマー層2とを剥がす際には、版面の凹部内に充填された導電性組成物3’が「引き剥がし抵抗」になり、その導電性組成物3’がプライマー層2とともに透明基材1から剥がれて凹部内に残ろうとする。しかしながら、本発明では、パターン形成部Aのプライマー層2とパターン非形成部Bのプライマー層2とは厚さこそ違うものの連続して透明基材1上に設けられているので、その「引き剥がし抵抗」に抗し、前記導電性組成物3’とプライマー層2とからなる導電性パターン19を凹部から引き剥がして良好に転写することができる。
上記の転写工程の際には、(1)版面の凹部と導電性組成物3’との密着力をF1とし、(2)導電性組成物3’とプライマー層2との密着力をF2とし、(3)プライマー層2と透明基材1との密着力をF3としたとき、密着力F1〜F3のうちで密着力F1が最も小さくなっていることが、転移性を向上させるための好ましい条件となるが、本発明の電磁波シールド材及び後述する印刷物の構成材料においては特に凹部内面をアンカー処理(例えば微細凹凸を形成する等の処理)を行わない限り通常その条件を満たすものになっている。仮に、例えば透明基材1として用いられる硝子基材や後述の印刷物の構成基材として用いられるセラミック基材等の無機基材を用いた場合には、密着力F1〜F3のうち、密着力F1とF3との大きさが問題になるが、この場合であっても、密着力F1〜F3のうちでF1が最も小さくなっている場合が多い。そうした好ましい条件を満たすために、必要に応じて透明基材1(印刷物70を構成する基材71も含む。)の表面を処理してプライマー層2との密着力を向上させるようにしてもよい。ここでいう密着力については、本発明に係る電磁波シールド材のみならず、後述する本発明に係る印刷物においても同様に適用できる。なお、上記F1〜F3の大きさは、転移性を向上させる上で好ましい条件の一つとして挙げることができるが、その条件が必須の条件というわけではない。
また、後者の「パターン非形成部Bに導電層3を構成する導電性組成物3’が実質的に存在しないこと」により、例えば電磁波シールド材が表示装置前面に配置されて使用される際に、パターン非形成部Bである開口部分の透明性を確保し、表示画像の明るさやコントラスト等を確保することができる。なお、ここでいう「導電性組成物3’が実質的に存在しない」とは、導電性組成物3’が全く存在していない場合を含み、さらに、ある程度存在していても前記のように表示画像の明るさやコントラスト等を確保できる程度の導電性組成物3’の存在を許容することを意味している。導電性組成物3’が許容できる場合の存在状態には、わずかずつ広い被覆率で存在する場合や、ごくまばらに存在する、といった状態がある。その許容程度としては、例えば、導電性組成物3’からなる導電層3の厚さや、導電性組成物3’のパターン非形成部Bにおける被覆率や、パターン非形成部Bの透過率等を挙げることができる。これらのうち、導電性組成物3’からなる導電層3の厚さとしては、その導電性組成物3’の種類によっても異なるが、例えば0.3μm以下又は、導電性組成物3’が不透明な粒子を含む場合はその粒子の平均粒子径以下の厚さであることが好ましく、その厚さ以下であればパターン非形成部Bの光透過性を低下させることが考えにくく、表示画像の明るさやコントラスト等を低下させることが考えにくい。また、導電性組成物3’のパターン非形成部Bにおける被覆率も、その導電性組成物3’の種類によっても異なるが、例えば導電性組成物3’が不透明な場合には、パターン非形成部Bの開口面積に対して10%以下の面積であることが好ましく、その割合以下の面積であればパターン非形成部Bの光透過性を低下させることが考えにくく、表示画像の明るさやコントラスト等を低下させることが考えにくい。また、パターン非形成部Bの透過率で特定すれば、パターン非形成部Bに導電性組成物3’が無いときを100%としたとき、90%以上となる程度で導電性組成物3’がパターン非形成部Bに存在していてもよく、表示画像の明るさやコントラスト等を低下させることが考えにくい。なお、これらの許容範囲は電磁波シールド材としての設計(目標スペックや他の組み合わせ部材の性質)で変わるため、必ずしも前述の値に限定されるものではない。
以上のように、本発明の電磁波シールド材においては、パターン非形成部Bにもプライマー層2が存在していること、及び/又は、パターン非形成部Bに導電層3を構成する導電性組成物3’が実質的に存在しないこと、が好ましく、特に、その両方を要件とすることが好ましい。
図4〜図7に示す4つの形態は、上記特徴を有する本発明の電磁波シールド材が備える導電性パターンの更なる特徴を示したものであり、図3(A)に示す導電層パターンをさらに詳しく表した形態である。なお、第1〜第4形態の導電層パターン19は、導電層パターン19の形状がいずれも釣鐘状であるが、これは、導電層パターンを形成するための賦形型を釣鐘状にしたためであり、こうした形状に限定されない。
第1形態の導電層パターン19Aは、プライマー層2と導電層3との界面12が非直線状に入り組んだ形態であり、例えば図4に示すように、プライマー層2と導電層3とが非直線状に交互に入り組んだ形態である。この形態において、その界面12が、プライマー層2を構成する樹脂と導電層3を構成する樹脂又はフィラーとの界面であるように構成されていてもよい。この場合の「フィラー」とは、任意の粉末であり、導電性粉末であっても非導電性粉末であっても構わない。例えば、導電性組成物が導電性粉末とバインダー樹脂とで構成されている場合には、その界面は、導電層3中の導電性粉末とバインダー樹脂とプライマー層2を構成する樹脂とが入り組んだ非直線状の態様で形成される。このときの入り組みの程度は、導電性粉末の形状や大きさに影響を受ける。また、例えば、導電性組成物がフィラーを含まず、導電性樹脂や導電性化合物を含有する場合には、プライマー層2を凹部内に圧着する際の圧力等によって、プライマー層2と導電層3との界面が入り組んだ形態になっている。なお、この第1形態の導電層パターン19Aにおいて、入り組んだ界面12は、全体としては(包絡面形状としては)中央が高い山型の断面形態となっている。
こうした第1形態の導電層パターン19Aは、そもそも平坦面でない山型のプライマー層2上に導電層3が形成されていることをもってしても密着性が良いのに加え、上記のように界面12が非直線状に入り組んだ形態になっているので、所謂投錨効果により、プライマー層2と導電層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、こうした導電層パターン19Aを形成する際にも、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果も備えている。
第2形態の導電層パターン19Bは、図5に示すように、プライマー層2と導電層3との界面12の近傍に、プライマー層2に含まれるプライマー成分と、導電性組成物層3’を構成する成分とが混合する領域14が存在している形態である。図5では界面12が明確に現れているが、実際の混合領域14では、そうした界面12は明確には現れておらず、明瞭でない曖昧な界面が現れる(図17を参照)。また、図5では混合領域14は、界面12を上下に挟むように存在する。この場合は、プライマー層2中のプライマー成分(例えば溶剤など)と導電層3中の任意の成分(例えばモノマー成分など)とが両層内に相互に浸入する場合である。なお、混合領域14が界面12の上側のみに存在しても下側のみに存在してもよい。混合領域14が界面12の上側のみに存在する場合としては、プライマー層2中のプライマー成分が導電層3内に浸入し、導電層3中の任意の成分がプライマー層2内に浸入しない場合であり、一方、混合領域14が界面12の下側のみに存在する場合としては、導電層3中の任意の成分がプライマー層2内に浸入し、プライマー層2中のプライマー成分が導電層3内に浸入しない場合である。なお、混合領域14の厚さ(図5の上下方向の厚さ)は特に限定されない。
こうした第2形態の導電層パターン19Bも上記第1形態の場合と同様、そもそも平坦面でない山型のプライマー層2上に導電層3が形成されていることをもってしても密着性が良いのに加え、上記のように界面12近傍に混合領域14を有するので、プライマー層2と導電層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、こうした導電層パターン19Bを形成する際にも、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果も備えている。
第3形態の導電層パターン19Cは、図6に示すように、導電層3を構成する導電性組成物中に、プライマー層2に含まれるプライマー成分16が存在している形態である。図6ではプライマー成分16が界面12付近で多く、頂部に向かって少なくなってゆく態様を模式的に表しているが、こうした態様には特に限定されず、要するに、プライマー成分16が導電層3内に存在していればよい。プライマー成分16は、導電層3の頂部から検出される程度に導電層3内に浸入していてもよいし、界面12近傍で検出される程度であってもよい。なお、第3形態において、特に、プライマー成分16が導電層内に存在している領域が界面12の近傍に局在化している場合が、第2形態において混合領域14が界面12の上側にのみ存在する形態に相当するといえる。
こうした第3形態の導電層パターン19Cも上記第1及び第2形態の場合と同様、そもそも平坦面でない山型のプライマー層2上に導電層3が形成されていることをもってしても密着性が良いのに加え、上記のようにプライマー成分16が導電層3に存在する程度に浸入しているので、プライマー層2と導電層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、こうした導電層パターン19Cを形成する際にも、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果も備えている。
なお、上記の第2及び第3形態の導電層パターン19において、プライマー層2中のプライマー成分16が導電層3中に浸入した場合、プライマー成分16にもよるが、そのプライマー成分16が導電性組成物を増粘又はゲル化しもしくは半固化状態とし、又はプライマー中の硬化性成分を導電層性組成物層3’内に浸入させることができる。その後、プライマー層2のみを硬化した後の転写工程において、増粘され又は半硬化した導電性組成物をほぼ100%の転移率で転移(転写)することができる。また、プライマー層2と導電性組成物とを同時硬化した後の転写工程においては、両層の層間接着力が高まるので、導電性組成物をほぼ100%の転移率で転移(転写)することができる。
第4形態の導電層パターン19Dは、図7に示すように、プライマー層2からなる第1の山17と、第1の山17の麓部分13の上端部乃至その近傍(第1の山17全体から言えばその中腹部分のこと。)より上に形成された導電性組成物(導電層3)からなる第2の山18とで構成された突起状パターンである。言い換えれば、この導電層パターン19Dは、その土台部分(麓部分13)がプライマー層2の突出部で構成され、その突出部の上に形成される導電層3は、その土台部分の上端部(第1の山17の中腹)より上側に設けられた態様で構成されている。したがって、この導電層パターン19Dは、導電層3(導電性組成物)が中腹より上に設けられているので、その中腹より下の麓部分13には導電層3が形成されていない。こうした形態は従来には無かった特徴的な形態である。
こうした第4形態の導電層パターン19Dも上記第1〜第3形態の場合と同様、そもそも平坦面でない山型のプライマー層2上に導電層3が形成されていることをもってしても密着性が良いのに加え、上記のように、プライマー層2からなる第1の山17と、第1の山17の中腹より上に形成された導電性組成物(導電層3)からなる第2の山18とで構成されているので、プライマー層2と導電層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、こうした導電層パターン19Dを形成する際にも、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果も備えている。
また、この第4形態において、第1の山17は、その中腹部に輪郭面の傾斜の不連続部(図7中の矢印部分)を有するように構成されていてもよく、こうした不連続部の作用により、導電層3の脱落をさらに抑制できる。かかる輪郭面の傾斜の不連続部は、本発明の製造法(図11等を参照)の過程でプライマー層2が導電性組成物層3’内に流入する際に生じたものである。プライマー層2の第1の山17の輪郭面(外表面)の傾斜が不連続的に変化する部分である。
さらに、この第4形態(第1〜第3形態も同様)において、導電層3のサイドエッジ5が、斜めにせり上がる麓部分13の傾斜に近い角度になっているので、導電層3のサイドエッジ5の先端部がプライマー層2から剥がれ難くなっている。例えば、一般的な粘着テープを用いた剥離テストでも、こうした形態からなる導電層パターン19の剥離強度は高かった。
本発明においては、上記の第1〜第4形態の導電層パターン19の特徴を少なくとも1つ有することが好ましい。なお、それらの特徴を2つ以上有していてもよく、4つの全てを有していてもよい。
また、以上説明した第1〜第4形態に係る導電層パターン19は、上記の効果に加え、導電性組成物(導電層3)の転移性を改善できるため、通常のグラビア印刷等の凹版を利用する方法に比べ、転移後の導電性組成物(導電層3)の厚さを厚くすることができる。従って、導電層パターン19を厚くすることで、電磁波シールドに必要な導電性を確保することができるという効果も奏する。
(金属層)
金属層4は、導電層3のみでは所望の導電率に不足する場合に、導電率を更に向上せしめるために、必要に応じて形成するものである。導電層3上にめっきにより形成される。めっきの方法としては、電気(電解)めっき、無電解めっき等の方法があるが、電気めっきは無電解めっきに比べて通電量を増やすことでめっき速度を数倍に上げることができ、生産性を著しく向上させることができるため好ましい。
電気めっきの場合、導電層3への給電は導電層3が形成された面に接触させた通電ロール等の電極から行われるが、導電層3が電気めっき可能な程度の導電性(例えば、100Ω/□以下)を有するので、電気めっきを問題なく行うことができる。金属層4を構成する材料としては、導電性が高く容易にめっき可能な、銅、銀、金、クロム、ニッケル、錫を挙げることができる。斯かる金属層4は導電層3に比べると一般的に体積抵抗率が1桁以上小さいため、導電層単体で電磁波シールド性を確保する場合に比べて、必要な導電材料の量を減らせるという利点がある。
なお、金属層4を形成した後においては、必要に応じて、その金属層4を黒化処理したり、表面を粗面化したり、或いは図2に示すような保護層9を設けてもよい。黒化処理は、例えば黒化ニッケルめっき、銅−コバルト合金めっき等の処理を例示でき、また、保護層9は、例えばアクリル系の電離放射線硬化性樹脂を用いて形成することができる。通常は、保護層9は導電層3による凹凸を埋めて表面を平坦化する樣に形成する。
以上、本発明の電磁波シールド材10の構成について説明したが、本発明の電磁波シールド材10は、透明基材1上に設けられたプライマー層2のうち、導電層3が形成されている部分Aの厚さTAは導電層3が形成されていない部分Bの厚さTBよりも厚い形態になっているので、上記課題で指摘した凹み6(図12の符号105も参照)を充填するようにプライマー層2が設けられている。こうした形態からなるプライマー層2は、電磁波シールド材10の製造時に、ドクターブレードやワイピングロール等で掻き取った後の凹部内の導電性組成物上部の凹み6に充填して形成されたものであり、その結果、プライマー層2に導電性組成物が密着性よく圧着し、導電性組成物層3’の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材10を提供できるという効果がある。
また、本発明の電磁波シールド材10において、プライマー層2は少なくとも導電層3の下に設けられているが、プライマー層2が導電層パターン19の形成領域以外のいわゆる開口部、すなわち導電層3が形成されていない透明基材1上にも全面に亘って存在していることが好ましい。プライマー層2を全面に形成知ることにより、プライマー層2が導電層3の下のみに存在して開口部には存在しない場合と比べ、導電層パターン19の透明基材1からの剥離は起こり難いという効果がある。
[電磁波シールド材の製造方法]
図8は、本発明の電磁波シールドの製造方法の一例を示す工程図である。また、図9は、本発明の製造方法を実施する装置の概略構成図であり、図10は、導電性組成物をプライマー層上に転写する転写工程を実施する装置の概略構成図である。なお、本願では、「転写」と「転移」は同義で用いており、したがって、「転写」を「転移」と置き換え、また、「転写工程」を「転移工程」と置き換えることができる。
本発明の電磁波シールドの製造方法は、図8〜図10に示すように、透明基材1の一方の面に所定のパターンで導電層3が形成されてなる電磁波シールド材10(図2を参照)の製造方法である。
第1態様に係る製造方法は、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層2が一方の面S1に形成された透明基材1を準備する透明基材準備工程(図示しない)と、所定のパターンで凹部64が形成された板状又は円筒状の版面63に、硬化後に導電層3を形成できる導電性組成物15(未硬化状態で流動性がある)を塗布した後、その凹部内以外に付着した導電性組成物を掻き取って凹部64内に導電性組成物15を充填する導電性組成物充填工程(図8(b)参照。なお、この段階で、凹部64内に充填された導電性組成物15の上部には、図11に示すような凹み6が生じる。)と、透明基材準備工程後の透明基材1のプライマー層2側と導電性組成物充填工程後の版面63の凹部64側とを圧着して、プライマー層2と凹部64内の導電性組成物15とを空隙なく密着する圧着工程(図8(c)参照)と、圧着工程後にプライマー層2を硬化(非流動化又は固化)するが導電性組成物15は完全には硬化させないプライマー層硬化工程(図示しない)と、プライマー層硬化工程後に透明基材1及びプライマー層2を版面63から剥がして凹部内の導電性組成物15をプライマー層2上に転写する転写工程(図8(d)参照)と、転写工程後、プライマー層2上に所定のパターンで形成された導電性組成物層3’を硬化させて導電層3を形成する導電性組成物硬化工程(図示しない)と、を少なくとも有するものである。
また、第2態様に係る製造方法は、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層2が一方の面S1に形成された透明基材1を準備する透明基材準備工程(図示しない)と、所定のパターンで凹部64が形成された板状又は円筒状の版面63に、硬化後に導電層3を形成できる導電性組成物15(未硬化状態で流動性がある)を塗布した後、その凹部内以外に付着した導電性組成物を掻き取って凹部64内に導電性組成物15を充填する導電性組成物充填工程(図8(b)参照。なお、この段階で、凹部64内に充填された導電性組成物15の上部には、図11に示すような凹み6が生じる。)と、透明基材準備工程後の透明基材1のプライマー層2側と導電性組成物充填工程後の版面63の凹部64側とを圧着して、プライマー層2と凹部64内の導電性組成物15とを空隙なく密着する圧着工程(図8(c)参照)と、圧着工程後にプライマー層2と導電性組成物15を同時に硬化(非流動化又は固化)する同時硬化工程(図8(c)参照)と、同時硬化工程後に透明基材1及びプライマー層2を版面64から剥がして凹部内の硬化した導電性組成物15を導電層3として硬化したプライマー層2上に転写する転写工程(図8(d)参照)と、を少なくとも有するものである。
上記第1及び第2態様に係る電磁波シールド材の製造方法においては、導電性組成物15は、硬化後に電気めっきできる導電層を形成できる導電性組成物であってもよく、その場合、上記第1態様においては、導電性組成物硬化工程後、プライマー層2上に所定のパターンで形成された導電層3上に金属層4を電気めっきするめっき工程(図8(e)参照)をさらに有するように構成してもよい。また、上記第2態様においては、転写工程後、プライマー層2上に所定のパターンで形成された硬化済みの導電層3上に金属層4を電気めっきするめっき工程をさらに有するように構成してもよい。
以下、各工程について図面を参照して説明する。
(透明基材準備工程)
透明基材準備工程は、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層2が一方の面S1に形成された透明基材1を準備する工程である。プライマー層2はプライマー層用樹脂組成物を透明基材1上に塗布して形成するが、こうしたプライマー層用樹脂組成物は上述したとおりであるのでここではその説明を省略する。プライマー層2が室温で固体の熱可塑性樹脂組成物のフィルムとして入手可能な場合は、塗布するかわりに透明基材1とラミネートしても良い。いずれの場合であっても、後述する圧着工程時に、プライマー層2が流動性を保持した状態であることが必要である。
例えば、プライマー層用樹脂組成物として電離放射線硬化性樹脂組成物を用いた場合には、電離放射線を照射しない未照射状態で、その電離放射線硬化性樹脂組成物中の溶剤のみを乾燥除去し、透明基材1上に流動状態からなるプライマー層2を塗膜として形成しておき、その状態で後述する圧着工程に供給することが好ましい。もちろん、ここで用いる電離放射線硬化性の樹脂組成物が溶剤を含まない、いわゆるノンソルベントタイプの場合には、プライマー層2を形成する際の乾燥工程は不要である。
また、プライマー層用樹脂組成物として室温で固体の熱可塑性樹脂組成物を用いた場合には、後述する圧着工程において加熱による流動状態となっていればよく、圧着工程の直前にプライマー層2の加熱処理を行ってもよく、熱ロール等でプライマー層2の加熱と版面63への圧着を同時に行ってもよい。
なお、プライマー層を塗布する方法については各種コーティング方式が使用でき、例えばグラビアコート、コンマコート、ダイコート、ロールコート等の各種方式から適宜選ぶことができる。
図9に示す塗布法はグラビアリバースコートの一例であり、ロール状に巻かれたフィルム状の透明基材1をグラビアロール51とバックアップロール52(圧胴ともいう。)との間に導入してプライマー層用の電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布する方法である。この場合において、グラビアロール51は電離放射線硬化性樹脂組成物充填容器53に下方で接触し、電離放射線硬化性樹脂組成物を引き上げて透明基材1の一方の面に塗布する。このとき、余分な電離放射線硬化性樹脂組成物をドクターブレード54で掻き取る。透明基材1上に電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布した後においては、必要に応じて、乾燥ゾーンに通し、樹脂組成物に含まれる溶剤の乾燥処理を施す。この乾燥処理は、例えば、コーティング装置に適した粘度に調整された電離放射線硬化性樹脂組成物中の溶剤のみを乾燥除去して、続く圧着工程に供する流動状態のプライマー層2を形成する処理である。コーティング装置に適した粘度を持つノンソルベントタイプの電離放射線硬化性樹脂組成物を用いる場合は、乾燥装置は不要である。流動性を保持したプライマー層2を有する透明基材1は、その後に圧着工程に供給される。なお、透明基材1とプライマー層2の接着性を改善するための処理を連続して行う場合は、プライマー層2の塗布前に透明基材1に対して行う。
(樹脂充填工程)
樹脂充填工程は、図8(a)(b)に示すように、メッシュ状又はストライプ状の所定のパターンで凹部64が形成された板状又は円筒状の版面63に、硬化後に導電層3を形成できる流動状態の導電性組成物15を塗布した後、その凹部内以外に付着した導電性組成物をドクターブレード65(図8(b)左上に図示有り)やワイピングロール等で掻き取って凹部内に導電性組成物15を充填する工程である。本工程において、本来望むものではないが、不可避的に凹部64内に充填された導電性組成物15上部には凹み(図12の符号105を参照)が生じる。その原因は詳細不明であるが、ドクターブレードやワイピングロール等で凹部以外の導電性組成物を掻取る際に該組成物のレオロジカルな挙動によりその表面に凹みを生じるため、導電性組成物が希釈溶剤を含む場合は該溶剤の揮発による体積収縮のため、あるいは両者の複合作用のためと推測される。導電性組成物15は上述したとおりであるのでここではその説明を省略する。
プライマー層用樹脂組成物に対する導電性組成物の組み合わせは特に限定されず、プライマー層用樹脂組成物の硬化処理と導電性組成物の硬化処理が異なっていてもよいが、導電性組成物15として導電性粉末を含む電離放射線硬化性樹脂を採用する場合には、プライマー層用樹脂組成物も電離放射線硬化性樹脂組成物であることが好ましい。そうした組み合わせにすることにより、この樹脂充填工程後の圧着工程とそれに続くプライマー層の硬化工程時の電離放射線照射処理によって、上記第2態様の製造方法のように、プライマー層2の硬化と導電性組成物層3’の硬化を同時に行うことができる。このとき、一般に導電性粉末は色がついているため、照射する電離放射線が光、或いは紫外線の場合には、導電性粉末の透過率が高い適切な波長の紫外線や、電離放射線が届きにくい深部まで硬化可能な光重合開始剤と光硬化性樹脂との組み合わせを選ぶことにより硬化させることができる。また電子線を照射する場合には特に導電性粉末の色は考慮する必要はない。
なお、図9及び図10に示す塗布法は、プライマー層2を有する透明基材1を凹版ロール62に圧着する前に行われる工程の一例であり、具体的には、ピックアップロール61は導電性組成物充填容器68に下方で接触し、導電性組成物15を引き上げて凹版ロール62の版面63に塗布する。このとき、版面63上の凹部64以外の部分に導電性組成物15が乗らないように、ドクターブレード65で掻き落とす。
(圧着工程)
圧着工程は、図8(c)及び図10に示すように、樹脂充填工程後の版面63の凹部64側と、透明基材準備工程後の透明基材1のプライマー層2側とを圧着して、凹部64内の導電性組成物15とプライマー層2とを空隙なく密着する工程である。プライマー層2はこの時点において流動性を有しているため、版面の凹部64内に充填された導電性組成物15上部の凹み6(図12の符号105)内にもプライマー層2は流入して、該凹みも充填し、透明基材1及び導電性組成物15の間は全てプライマー層で隙間なく満たされる。圧着はニップロール66で行われ、凹版ロール62に対して所定の圧力で付勢されている。そのニップロール66は付勢圧力の調整手段を備えており、その付勢圧力は、プライマー層2の流動性に応じて任意に調整される。
なお、プライマー層2が熱可塑性樹脂である場合は、ニップロール66は加熱可能なロールにすることが好ましい。この場合、加熱圧着によってプライマー層2が軟化し流動可能となる。
この圧着工程においては、版面の凹部64内に充填された導電性組成物15上部の凹み6(図12の符号105)内にプライマー層2が流入し、その凹みが充填され、その後に硬化工程や転写工程を経て電磁波シールド材が製造される。そのため、得られた導電層パターン19は、上記の図4〜図7に示す第1〜第4形態の導電層パターン19となる。
詳しくは、この圧着工程において、プライマー層2に含まれるプライマー成分が、導電層3を構成する導電性組成物中に浸入した後に後述の硬化工程や転写工程を経ることにより、版面内に充填された導電性組成物15の透明基材1への転移(転写)が高い転移率のもとで確実に行われる。そして、得られた電磁波シールド材が有する導電層パターン19は、図5及び図6に示すように、プライマー層2と導電層3との界面12が単純な界面構造にならず、両層の密着性が向上する。
また、例えば導電性組成物中に導電性粉末が含まれる場合には、プライマー層2と導電性組成物との界面が入り組んだ態様で圧着されるので、その後に、後述の硬化工程や転写工程を経ることにより、版面内に充填された導電性組成物15の透明基材1への転移(転写)が高い転移率のもとで確実に行われる。そして、得られた電磁波シールド材が有する導電層パターン19は、図4に示すように、プライマー層2と導電層3との界面12が入り組んだ形態となり、両層の密着性が向上する。
また、版面の凹部64内に充填された導電性組成物15上部の凹み6(図12の符号105)内にプライマー層2が流入し、その凹みが充填され、その後に硬化工程や転写工程を経るので、得られた導電層パターン19Dは、上記の図7に示すように、プライマー層2からなる第1の山17と、第1の山17の中腹より上に形成された導電性組成物(導電層3)からなる第2の山18とで構成された突起状パターンとなる。
(硬化工程)
硬化工程は、ニップロール66の付勢力による圧着工程後にプライマー層2を硬化する工程であり、圧着した後の状態で硬化処理することにより、プライマー層2と導電性組成物15とが密着した状態で硬化させることができる。具体的には、プライマー層用樹脂組成物が電離放射線硬化型樹脂組成物である場合には、照射ゾーン(図10の例ではUVゾーンと記載している。)で電離放射線が照射され、硬化処理される。この場合、プライマー層2は透明基材1と版面63に挟まれた態様になり、空気中の酸素による硬化阻害を受けないため、窒素パージ装置等は必ずしも必要ない。なお、硬化処理は、上記と同様、プライマー層用樹脂組成物と導電性組成物の種類に応じて選択され、例えば、電離放射線照射処理、冷却処理等の硬化処理が施される。
なお、上記のように、プライマー層用樹脂組成物と導電性組成物の両方を電離放射線硬化性樹脂とした場合には、圧着工程に続く硬化工程時に電離放射線照射処理を施す、同時硬化工程とすることもできる。
(転写工程)
転写工程は、図10に示すように、硬化工程後に透明基材1及び硬化したプライマー層2を凹版ロール62の版面63から剥がして凹部64内の導電性組成物15をプライマー層2上に転写する工程である。プライマー層2は、この工程前のプライマー層硬化工程で硬化しているので、透明基材1とともに凹版ロール62の版面63から剥がすことにより、プライマー層2に密着した導電性組成物15は凹部内から離れてプライマー層2上にきれいに転写し、導電性組成物層3’となる。引き剥がしは、図9と図10に示すように、出口側に設けられたニップロール67により行われる。
なお、転写工程において、導電性組成物15は必ずしも硬化させる必要はなく、導電性組成物15に溶剤が含まれた状態でも転移させることができる。この理由は今のところ不明であるが、プライマー層2と導電性組成物15とは空隙なく密着しているのみでは無く、プライマー層の一部は導電性組成物層中にも浸透し、両者が相互に混ざり合った領域ができるため、両者は相互に絡み合った状態で硬化させたプライマー層2と導電性組成物15との間の密着力が、ロール状凹版の凹部64の内壁と導電性組成物15との間の密着力よりも大きくなっているためと推測される。これに加えて、特に導電性組成物15が未硬化状態の場合には、プライマー層の一部が導電性組成物層中に浸透して、その流動性を変化せしめ、凹部64内から抜け出し易くするためとも推測される。
図11は、凹部64内の導電性組成物15の凹み6にプライマー層2を充填し、その導電性組成物15が転写する形態を示す模式図である。図11(C)に示すように、転写工程後のプライマー層2の形態と導電性組成物層3’の形態を観察すると、プライマー層2のうち導電性組成物層3’が転写された部分Aの厚さTAは、導電性組成物層3’が転写されていない部分Bの厚さTBよりも厚い。そして、厚さの厚い部分Aのサイドエッジ5,5は、厚さの薄い部分Bの側に導電性組成物層3’が回り込んでいる。こうした形態は、流動性を保持したプライマー層2が形成された透明基材1のプライマー層2側と、樹脂充填工程後の版面63の凹部64側とを図11(A)(B)に示すように圧着することにより、凹部64内の導電性組成物上部に生じやすい凹み6に流動性のあるプライマー層2が流入し充填するので、転写後の形態は、図11(C)に示すように、透明基材1上に設けられたプライマー層2のうち導電性組成物層3’が形成されている部分Aの厚さTAは導電性組成物層3’が形成されていない部分Bの厚さTBよりも厚くなり、さらに、厚さの厚い部分Aのサイドエッジ5,5は厚さの薄い部分Bの側に導電性組成物層3’が回り込んだ形態になる。
通常、導電性組成物層3’が形成されている部分Aにおけるプライマー層2の厚さTAは、図3に示すように、その部分の中央部に行く程厚さが厚くなる。すなわち、電磁波遮蔽用パターン部の横断面(例えば図3を参照)において、プライマー層2の断面形状は、透明基材1から遠ざかる方向に向かって凸になった、半円、半楕円等のいわゆる釣鐘型形状、3角形、台形、5角形等のいわゆる山形形状、或いはこれらに類似の形状をなす。
また、プライマー層2と導電性組成物層3’乃至導電層3との界面12は、図4及び図7に示す形態のように、単に物理的又は化学的に接着しているのみの形態の他、図5及び図6に示す形態のように、界面12の近傍において、両層の材料が相互に溶解、浸透、乃至は拡散し合っている形態であってもよい。この溶解、浸透、乃至拡散は、導電性組成物やプライマー層2の硬化前に行われるので、そうした状態になった後に導電性組成物やプライマー層2が硬化することにより、層間接着力の高い界面となる。なお、これらの形態は、両層の材料の選定、製造条件の選定いかんにより、何れの形態も実現できる。
本発明の製造方法で製造された電磁波シールド材は、上記の界面形態からなる導電層パターン19が形成されるので、プライマー層2と導電性組成物層3’乃至導電層3との層間接着力が高く、版凹部内に充填された導電性組成物をほぼ100%の転移率で転移(転写)させることができる。さらに、アスペクト比(深さ/開口幅)が2/10以上と大きい版凹部を用いた場合においても、凹部内に充填した導電性組成物をほぼ100%の転移率で転移(転写)させることができる。因みに、本発明のプライマー層を採用しない、通常の凹版印刷においては、アスペクト比が2/10を超える形状でのインキの転移は極めて実現困難である。
本発明の製造方法で得られた電磁波シールド材10はこうした形態を有するので、導電層3を形成する導電性組成物の転写不良に基づく断線や形状不良、密着性等の不具合が生じないという効果を奏する。
なお、転写工程後においては、必要に応じて乾燥処理、硬化処理等が施される。また、さらに抵抗を下げる必要があれば、その後のめっき工程に供される。めっき工程には、そのままインラインで供されてもよいし、一旦巻き取られた後に、別個のめっきラインに供給されてもよい。
(めっき工程)
めっき工程は、図8(e)及び図9に示すように、転写工程後、プライマー層2上に所定のパターン(プライマー層2の形成パターンと同じ。)で形成された導電層3上に金属層4を電気めっきする工程である。めっきする金属としては、銅、銀、金、ニッケル等が挙げられ、特に価格が安く導電性も高い銅めっきが好ましい。銅めっき液は、市販のめっき液を利用できるが、中でも均一めっき性を向上させた銅めっき液が好ましく採用される。なお、めっき工程に供される際には、通常の前処理(例えば、脱脂洗浄処理等)が施されるが、上記のように転写工程からそのままインラインで供給されてもよいし、別個のめっきラインに供されてもよい。めっき工程後には、必要に応じてさらに他の工程(例えば、金属層4の黒化処理工程や防錆工程、図2に示すような保護層9の形成工程)を経た後にそのまま巻き取られてもよいし、所定の寸法に切断されて枚葉シートとしてもよい。
こうしてロール状又は枚葉シート状の電磁波シールド材10が製造されるが、以上説明したように、本発明の電磁波シールドの製造方法によれば、プライマー層2と導電層3とをその間に空隙なく転写することができるので、導電層3の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材を製造することができる。また、高い転移率で転移可能になるため、導電層3の厚さを厚くすることができ、電磁波シールド性を向上させることができる。
例えば、深さが20μmの凹部を持つ版を用いれば、その版の形状とほぼ同じ約20μmの厚さからなる導電層パターンを形成することができる。こうしたことは、特に導電性粉末を多量に含む導電性組成物を凹版(グラビア)印刷する場合には考えられないことである。また、本発明の電磁波シールド材の製造方法においては、導電性組成物が溶剤を含み、短時間で固化する結着材料でなく、別途乾燥が必要である場合でも高い転移率で転移させることができる。また、導電性組成物がUV硬化型である場合、導電性組成物に顔料が含まれ、その顔料が高濃度の金属系の導電性粉末であって、その導電性粉末が紫外線を遮蔽し、凹版の孔内に紫外線が到達しないような場合であっても、高い転移率で転移させることができる。
なお、こうして得られた電磁波シールド材10に光学調整層を設けて光学フィルターとして利用することができる。ここでは詳しく説明しないが、光学調整層としては、従来公知のものをそのまま用いればよく、例えば調色層、近赤外線吸収層、ネオン光吸収層、紫外線吸収層、反射防止層、及び防眩層等を挙げることができる。更に、電磁波シールド材10には、光学調整層の他に、その他各種機能を有する機能層を積層することもできる。かかる機能層としては、ハードコート層、防汚層、帯電防止層、抗菌層、防黴層(かびを防ぐ層)、帯電防止層、衝撃吸収層等が挙げられる。
これらの光学調整層及び/又は機能層を形成する形態は、(1)予め独立したシート乃至は板状に形成された層を、間に接着剤層(所謂粘着剤層も包含する。)を介して本発明の電磁波シールド材上に貼り合せる形態、(2)予め離型性基材シート上に形成された層を、適宜間に接着剤層を介して本発明の電磁波シールド材上に貼り合わせ、而かる後に該離型性基材シートのみ剥離除去する、所謂転写法で形成する形態、(3)適宜の樹脂結着剤中に上記各種機能を発現する材料を添加した組成物を本発明の電磁波シールド材上に塗工することによって形成する形態、(4)前記(3)の一形態ではあるが、本発明の電磁波シールド材上に、これを所望の被着体に接着するための接着剤層を塗工する際に、該接着剤層中に上記各種機能を発現する材料を添加することにより、接着剤層と上記各種層とを兼用する形態、(5)前記(1)〜(4)の形態の2種以上の組み合わせ形態、が適宜選択できる。ここで、これらの光学調整層及び/又は機能層は、本発明の電磁波シールド材の表裏いずれか、または両側に存在しても良い。こうした電磁波シールド材10又は電磁波シールド材10を有する光学フィルターを、各種の画像表示装置の前面に装着することができる。例えば、プラズマディスプレイパネルに装着することにより、プラズマディスプレイ装置とすることができる。
[印刷物及びその製造方法]
次に、本発明の印刷物及びその製造方法について説明する。本発明の印刷物及びその製造方法に係る発明に至った背景は以下のとおりである。
ある程度以上の厚さや寸法精度が必要な印刷パターンを形成するために用いられるインキ、特に特定の機能を発現する材料を添加したインキについては、パターンの印刷精度を高めるために、通常はチキソトロピー性乃至は高粘度を付与したインキが多く用いられていた。また、多くの場合、各種機能発現材料を添加すると、そのことのみで必然的にインキが斯かるチキソトロピー性乃至は高粘度を呈することも多かった。そして、そうした高粘度乃至はチキソトロピー性のインキをスクリーン印刷等の方法を用いて印刷することで、基材に印刷した後にインキが流動すること等によるパターン不良や厚さ不良の問題を抑制していた。しかしながら、スクリーン印刷では、ロール−トゥ−ロール法による寸法精度の良い印刷は難しく、また、版自体を強い張力で張るために大面積にした場合の版周辺部での変形に基づいた寸法精度の悪化という問題があった。また、そうした高粘度のインキをグラビア印刷のような凹部を持つ版を用いて微細パターンに印刷しようとすると、印刷できないことはないが、チキソトロピー性乃至は高粘度のゆえに基材に対するインキの転移性が悪く、インキ抜けなどが多発して安定したパターンを形成できないという問題があった。さらに、凹部が深い版を用いた場合、特に凹部の幅に対して深さが深い凹部を有する(高アスペクト比)の版を用いた場合にも、凹部内のインキを高い転写性で基材に転写することができないという問題もあった。なお、同様の問題は、上記の電磁波シールド材を製造する際の問題(既述の「本発明が解決しようとする課題」を参照。)と同様である。
上記した本発明に係る印刷物の製造方法はこうした問題を解決したものであって、グラビア印刷などの凹版印刷機で透明基材上に高粘度乃至チキソトロピー性のインキ(以下、ペーストともいう。)を印刷する際に、あらかじめその基材上に短時間で固化させることができ且つ固化前は流動性を持ったプライマー層用組成物を塗布し、塗布されたプライマー層面を、ペーストを充填した凹版面に対向して重ねた状態でプライマー層を固化させることによって、基材上に高粘度乃至チキソトロピー性のペーストであってもほぼ全てを転移させることができ、さらに凹部が深い版を用いた場合であっても高い転写性で転写することができることを見出し、それに基づいて発明を完成させたものである。電磁波シールド材の製造方法では、転写するペーストが導電性組成物であるが、以下で詳しく説明する本発明の印刷物の製造方法では、転写するペーストとして各種の機能インキ組成物を用いている点に特徴があり、その結果、本発明に係る製造方法で得られた印刷物は、多様な用途に適用可能な印刷物とすることができる。また、本発明に係る製造方法は、印刷されるべき基材の片面ないし両面に適用可能であり、両面に適用する場合には表裏で異なったインキやプライマー、パターン、及び機能を持たせても良い。
(印刷物の製造方法)
本発明の印刷物及びその製造方法は上記の本発明の電磁波シールド材及びそ製造方法と原理的に同じものであるが、「印刷物及びその製造方法」における「印刷物」「機能インキ層」は、「電磁波シールド材及びその製造方法」における「電磁波シールド材」「導電層」をそれぞれ包含する。したがって、特に断らない限り、上記の電磁波シールド材及びその製造方法の詳細な説明欄における「電磁波シールド材」を「印刷物」と読み替え、「導電層」を「機能インキ層」に読み替え、「導電性組成物」を「機能インキ組成物」に読み替え、また、「透明基材」を「基材」に読み替えることにより、本発明の印刷物及びその製造方法の詳細な説明として代用することができる。以下、本発明の印刷物及びその製造方法についての特徴のみについて説明し、その他は上記した本発明の電磁波シールド材及びその製造方法での説明と同様であるのでその記載を省略する。
図13は、本発明の印刷物70の製造方法についての説明図である。本発明の印刷物70の製造方法は、図13に示すように、未硬化の機能インキ組成物73’が充填された所定パターンの凹部64を有する版面63と、その機能インキ組成物73’の転写対象である基材71の一方の面S1とを、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層72を介して圧着し、その後、その圧着を保持した状態で少なくともプライマー層72を硬化し、その後、基材71及びプライマー層72を版面63から剥がして前記の機能インキ組成物73’をプライマー層72を介して基材71の一方の面S1に所定のパターンで転写することを特徴とするものである。
詳しくは、図13(A)は、未硬化の機能インキ組成物73’が凹部64に充填された版面63上に、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層72が設けられた側の基材71を圧着しようとする工程である。また、図13(B)は、未硬化の機能インキ組成物73’が凹部64に充填され、さらにその凹部63を含む版面63全体を覆うように、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層72を設け、そのプライマー層2上から基材71を圧着しようとする工程である。すなわち、これら2つの工程は、いずれも、未硬化の機能インキ組成物73’が充填された所定パターンの凹部64を有する版面63と、その機能インキ組成物73’の転写対象である基材71の一方の面S1とを、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層72を介して圧着しようとする工程を示している。本発明の印刷物の製造方法は、これら2つの工程のいずれを適用してもよい。
なお、図13(A)(B)において、凹部64以外の版面には、機能インキ組成物73は全く存在していないか実質的に存在していない。ここでいう「実質的に存在していない」とは、ドクターブレードやワイピングロール等を用いて機能インキ組成物73’を凹部64内に充填する際、その機能インキ組成物73’が凹部64以外の版面63(表面のこと。)にも存在してしまうことがある場合において、最終的に得られる図3(D)に示す印刷物70が、その印刷物の目的を損なわない程度にパターン非形成部B(機能インキパターンが形成されていない部分)での機能インキ組成物73’の存在を許容できることを意味している。その許容程度としては、例えば、機能インキ組成物73’からなる機能インキ層73の厚さや、機能インキ組成物73’のパターン非形成部Bにおける被覆率や、パターン非形成部Bの透過率等の特性、等を挙げることができる。そうした厚さ、被覆率、特性等は、機能インキ層73を形成する印刷物の種類によっても異なるが、いずれにしても、パターン非形成部Bには機能インキ組成物73が全く存在しないか実質的に存在しないように、版面63上の機能インキ組成物73’が掻き落とされる。
図13(C)は、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層72を介して、基材71と版面63とを圧着する工程である。図13(A)の工程ルートを経た後においては、ドクターブレードやワイピングロール等を用いて機能インキ組成物73’を版面63から掻き落とす際に「機能インキ組成物73’の凹み76」が凹部64に生じるが、その凹み76は、圧着時に、硬化するまで流動性のあるプライマー層72で埋められる。なお、図13(B)の工程ルートでは、プライマー層を版面63上に設ける際に、そのプライマー層72が凹み76を埋める。したがって、この図13(C)の工程では、基材71と版面63とがプライマー層72を介した態様で圧着し、その結果、硬化するまで流動性のあるプライマー層72は機能インキ組成物73’の凹み76を埋めた態様となっているので、本発明では、この圧着を保持した状態で少なくともプライマー層72を硬化する。「少なくとも」としたのは、プライマー層72のみを硬化して機能インキ組成物73’を硬化しない場合と、プライマー層72と機能インキ組成物73’とを同時に硬化する場合とを含む意味である。そして、その硬化処理は、電離放射線照射又は冷却によって行うことが好ましい(上記の「電磁波シールド材の製造方法」と同様である)。
図13(D)は、その後において、基材71及びプライマー層72を版面63から剥がした態様である。得られた印刷物70においては、機能インキ組成物73’を、プライマー層72を介した態様で基材71の一方の面S1に所定のパターンで転写することができた。ここで、図13(C)(D)は実際の断面観察結果に近い形状で示しているが、図13(D)に示したプライマー層72及び機能インキ層73の形状が、図13(C)に示したプライマー層72及び機能インキ組成物73’の形状と完全に一致しないのは、両層の構成材料がいずれも可塑性を有する樹脂材料であることに基づいている。なお、機能インキ層73は、図13(C)の工程で硬化処理されてもよいし、図13(D)の剥離工程後に硬化処理されてもよい。
図14は、本発明の印刷物の製造方法と製造装置の一例を示す概略構成図であり、また、図15は、本発明の印刷物の製造装置と製造装置の他の一例を示す概略構成図である。これらは、電磁波シールド材の製造方法乃至製造装置の一例である図10に示した方法・装置と同様の概略構成図である。なお、以下においては、図14及び図15の製造方法及び製造装置を単に「製造方法」と略して説明する。また、図14と図15においては、ドラム型の版を用いているが、必ずしもドラム型の版でなくてもよく、平版であってもよい。
なお、平版を用いた場合には図14や図15のようなロール・トゥ・ロールのような連続製造はできないが、固定された平版に機能インキ組成物73’を塗布し、その後、ドクターブレード等で掻き取り、その後、プライマー層用樹脂組成物82をその上に塗布した後に例えば枚葉の基材71を圧着したり、プライマー層72を設けた枚葉の基材71をその上に圧着したりした後、基材71とプライマー層72とを剥がすことにより機能インキ層73を基材側に転写することができる。そして、こうした工程を繰り返すことにより、基材71上にプライマー層72及び機能インキ層73を少なくとも有する枚葉の印刷物を連続的に製造することができる。
図14に示す製造方法においては、先ず、供給された基材71の一方の面にプライマー層72を塗布する。この塗布工程は、ピックアップロール81が容器83内のプライマー層用樹脂組成物82に下方で接触し、そのプライマー層用樹脂組成物82を引き上げて基材71に塗布することにより行われる。プライマー層72が塗布された基材71は、ニップロール66によってプライマー層72側の基材面を版面63に圧着させることにより行われる。一方、圧着対象となる版面63には機能インキ組成物73’が塗布されている。このときの塗布工程は、ピックアップロール61が容器68内の機能インキ組成物73’に下方で接触し、その機能インキ組成物73’を引き上げて版面63に塗布することにより行われる。なお、図14においては、版面63上の凹部64以外の部分に機能インキ組成物73’が乗らないように、ワイピングロール84で掻き落とす。
圧着は、ニップロール66によってプライマー層72側の基材面を版面63に所定の圧力で付勢して密着させることにより行われる。この圧着により、凹部64内の機能インキ組成物73’とプライマー層72とを空隙なく密着させることができる。プライマー層72は未だ硬化しておらずに流動性を有しているので、図13(A)で示した凹み76内にプライマー層用樹脂組成物が充填され、基材71及び機能インキ組成物73’の間は全てプライマー層72で隙間なく満たされる。なお、ニップロール66については、上記した本発明に係る電磁波シールド材の製造方法での説明内容と同じである。
図14に示すニップロール66での圧着工程後、電磁波シールド材の製造方法の場合と同様、プライマー層2と機能インキ組成物73’とが空隙なく密着し、その後に硬化工程や転写工程を経ることにより、版面内に充填された機能インキ組成物73’の基材71への転移(転写)が高い転移率のもとで確実に行われる。そして、得られた印刷物70が有する機能インキパターンは、電磁波シールド材のところで示した図4〜図7、及び図13(D)の印刷物70に示すように、プライマー層2と機能インキ層73との界面12が単純な界面構造にならず、両層の密着性が向上する。
なお、硬化工程及び転写工程、及びその後に必要に応じて設けられる乾燥処理、硬化処理、めっき工程等は、電磁波シールド材の製造方法の場合と同様であり、また、プライマー層72の厚さ、得られた所定パターンからなる機能インキ層73の断面形態、転移率、アスペクト比等も上記した本発明に係る電磁波シールド材のところで示した図4〜図7と同様の形態であるので、ここではその説明を省略する。
一方、図15に示す製造方法は、圧着工程までの工程が図14に示した製造方法とは異なっている。すなわち、先ず、基材71は、ニップロール66によって版面63に圧着されるように供給される。その基材71が圧着される版面63には、図15に示すように、最初に機能インキ組成物73’が塗布され、その後にプライマー層72が塗布形成される。機能インキ組成物73’の塗布工程は、ピックアップロール61が容器68内の機能インキ組成物73’に下方で接触し、その機能インキ組成物73’を引き上げて版面63に塗布することにより行われ、その後引き続いて、版面63上の凹部64以外の部分に機能インキ組成物73’が乗らないように、ドクターブレード65で掻き落としている。また、プライマー層2の塗布工程も同様、ピックアップロール81が容器83内のプライマー層用樹脂組成物82に下方で接触し、そのプライマー層用樹脂組成物82を引き上げて、凹部64内に機能インキ組成物73’が充填されてなる版面63上に所定の厚さで塗布することにより行われる。プライマー層用樹脂組成物は未だ硬化しておらずに流動性を有しているので、図13(B)で示すように、凹み76内にプライマー層用樹脂組成物が空隙なく充填される。
圧着は、ニップロール66によって、基材71を版面63に所定の圧力で付勢して密着させることにより行われる。この圧着により、基材71はプライマー層2に密着する。圧着工程以後の工程、及びニップロール66等その他の構成については、図14での説明と同じであるので、ここでは詳しい説明を省略するが、図15に示すニップロール66での圧着工程後、プライマー層2と機能インキ組成物73’とが空隙なく密着し、その後に硬化工程や転写工程を経ることにより、版面内に充填された機能インキ組成物73’の基材71への転移(転写)が高い転移率のもとで確実に行われる。そして、得られた印刷物70が有する機能インキパターンは、電磁波シールド材のところで示した図4〜図7、及び図13(D)の印刷物70に示すように、プライマー層2と機能インキ層73との界面12が単純な界面構造にならず、両層の密着性が向上する。
以上のように、本発明の印刷物70の製造方法によれば、未硬化の機能インキ組成物73’が充填された所定パターンの凹部64を有する版面63と、機能インキ組成物73’の転写対象である基材71の一方の面S1とを、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層72を介して圧着するので、凹部64内の機能インキ組成物73’上部に生じやすい凹み76に流動性のあるプライマー層72が充填される。その結果、プライマー層72が機能インキ組成物73’の凹み76に空隙なく密着するので、凹部64内の機能インキ組成物73’を基材71側に未転写部のない状態で正確に転写させることができる。こうして、機能インキ組成物73’の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない印刷物70を製造することができる。
また、本発明の印刷物70の製造方法によれば、転移後の機能インキ層73の断面形状は、凹版の凹部形状を比較的良好に再現する。例えば、凹版の深さが20μmの版を用いれば、転移後の機能インキ層73の乾燥時の体積収縮はあるものの、約20μm近い厚さの機能インキ層パターンを形成することができる。これらの現象は、従来の凹版(グラビア)印刷では考えられないことである。
また、紫外線硬化性樹脂を基材の上に塗布し、凹版にラミネートさせた状態で凹版の凹部内の樹脂を紫外線硬化させ、凹版の形状で賦型するという方式は以前より存在するが、本発明に係る製造方法においては、機能インキ組成物73として、溶剤を含み、短時間で固化する結着材でなく、別途乾燥が必要である場合であっても、良好な転移率で転移させることができる。また、紫外線等で硬化させる場合、機能インキ組成物73’に含まれる添加物が高含有率からなる金属粒子等であって、紫外線を遮蔽して凹版の凹部内に紫外線が到達しないような場合であっても高い転移率で転移させることができる。こうした転移性改善効果が見られる原因についてはまだはっきりとはわからないが、実験結果を調査した結果では、断面のTEM分析において、プライマー層と機能インキ層73とを染色して観察したところ、既述のように、転移後の機能インキ層73とプライマー層72との界面がはっきりと2層に分かれておらず、お互いに入り組んだ状態で相溶している形態を確認できた。
また、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)により、(1)機能インキ組成物73’が転移した機能インキ層パターンの表面、(2)機能インキ組成物73’が転移していない部分(開口部又はパターン非形成部B)のプライマー層表面、(3)機能インキ組成物73’を基材71上にベタ塗りし、乾燥させた塗工膜の表面、(4)プライマー層72を基材71上にベタ塗りし、固化させた塗膜の表面、を分析した。その結果、前記(3)の機能インキ組成物73’の塗工膜には見られず、前記(4)は見られるフラグメントが、前記の(1)(2)でも検出され、プライマー層72の成分が機能インキ組成物73’中を拡散していることが示唆された。これらの状況から考えると、流動性があるプライマー層72を機能インキ組成物73’と接触させた際に境界部分の相溶及び/又は境界の乱れが生じ、この状態でプライマー層72を固化させると、境界部分から機能インキ組成物73’の方向に向かう領域で、機能インキ組成物73’の増粘やゲル化などの現象が起こり、機能インキ組成物73’を版から引き抜きやすくなっているのではないかと推測される。
また、流動性のあるプライマー層72を構成する成分の一部が凹部の機能インキ組成物73’と混ざり、プライマー層72を固化させた際に機能インキ組成物73’の粘度を全体的に上げている可能性もある。いずれにしろ、流動性のあるプライマー層72を機能インキ組成物73’に接触させて、少なくともプライマー層72を固化させた後に剥離すれば、機能インキ組成物73’が完全に固化していないにもかかわらずほぼ100%近い転移が可能であった。
(印刷物)
次に、本発明に係る印刷物について説明する。本発明の印刷物70は、上記した製造方法で得ることができるが、未硬化の機能インキ組成物73’が充填された所定パターンの凹部64を有する版面63と、その機能インキ組成物73’の転写対象である基材71の一方の面S1とを、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層72を介して圧着し、その後、その圧着を保持した状態で少なくともプライマー層72を硬化し、その後、基材71及びプライマー層72を版面63から剥がして製造されるものであればよく、図14及び図15に示すドラム型の版を用いた好ましい態様以外の方法であってもよい。
得られた本発明の印刷物70は、図13(D)に示すように、図1〜図7に示した本発明に係る電磁波シールド材と基本的に同様の形態を有している。すなわち、基材71と、その基材71上に形成されたプライマー層72と、そのプライマー層72上に所定のパターンで形成された機能インキ層73とを有し、プライマー層72のうち、機能インキ層73が所定のパターンで形成されたパターン形成部Aにおけるプライマー層72の厚さTAが、機能インキ層73が所定のパターンで形成されていないパターン非形成部Bにおけるプライマー層72の厚さTBよりも厚いことを特徴とする。
こうした構造形態からなる本発明の印刷物70によれば、基材71上に形成されたプライマー層72のうち、機能インキ層73が所定のパターンで形成されたパターン形成部Aにおけるプライマー層72の厚さTAが、機能インキ層73が所定のパターンで形成されていないパターン非形成部Bにおけるプライマー層72の厚さTBよりも厚いので、例えば図13〜図15に示すように、本発明の印刷物70を凹版80,62を用いて製造する場合には、機能インキ組成物73’を掻き取った後に生じた凹み76を充填するようにプライマー層72が設けられる。こうした形態からなるプライマー層72は、印刷物70の製造時に、ドクターブレードやワイピングロール等で掻き取った後の版の凹部64内の機能インキ組成物73’上部の凹み76に充填して形成されたものであり、その結果、プライマー層72が機能インキ組成物73’に空隙なく密着し、機能インキ組成物73’の転写不良に基づく断線乃至欠落、形状不良、低密着性等の不具合が生じない印刷物70となる。そして、本発明の印刷物70によれば、機能インキ組成物73’の転移性(転写性ともいう。)を改善できるため、通常のグラビア印刷等の凹版を利用する方法に比べ、転移後の機能インキ組成物73’の厚さTCを厚くすることができる。従って、機能インキ層パターンを厚くすることで、得られた印刷物70に所望の機能を確保することができるという効果がある。
本発明の印刷物70は、パターン形成部Aにおけるプライマー層72と機能インキ層73との境界部分12が、上記本発明の電磁波シールド材の断面形態と同様、(a)プライマー層72を構成する成分と機能インキ層73を構成する成分とが混合している断面形態(図5参照)、(b)非直線状に入り組んでいる断面形態(図4参照)、及び、(c)機能インキ層73を構成する機能インキ組成物73’中に該プライマー層72に含まれる成分が存在している断面形態(図6参照)、のいずれか1又は2以上の断面形態を有している。これら(a)〜(c)の発明によれば、プライマー層72と機能インキ層73との境界部分12が単純な境界面構造になっていないので、両層72,73の密着性が向上しているとともに、この印刷物70の製造時において、版面内に充填された機能インキ組成物73’の基材71への転移(転写)が高い転移率のもとで確実に行われた形態を表している。
また、本発明の印刷物70は、図7に示す上記本発明の電磁波シールド材の断面形態と同様、パターン形成部Aが、プライマー層72からなる第1の山17と、その第1の山17の中腹より上に形成された機能インキ層73からなる第2の山18とで構成された突起状の断面形態を有するものであってもよい。この発明によれば、パターン形成部Aが、第1の山17と第2の山18とで構成された突起状の断面形態を有するので、第2の山18を構成する機能インキ組成物73’が第1の山17を構成するプライマー層72から脱落しにくいとともに、この印刷物の製造時において、版面内に充填された機能インキ組成物73’の基材71への転移(転写)が高い転移率のもとで確実に行われた形態を表している(図13参照)。
こうした印刷物の構成要素である基材71、プライマー層72及び機能インキ層73(機能インキ組成物73’を含む)の各構成、更に必要に応じて設けられる金属層の構成は、上記の電磁波シールド材で記述した構成を包含するものであり、その印刷物70の用途に応じたものを更に包含することができる。したがって、本発明の印刷物70は上記した本発明に係る電磁波シールド材の構成をそのまま適用できるが、以下では、更に加わる構成を中心に説明する。なお、上記本発明の電磁波シールド材10の構成を示す場合と、ここで説明する印刷物70の構成を示す場合とは、付された符号により区別して説明する。
基材71については、既述の電磁波シールド材を構成する基材1と同様のものを任意に適用できるが、光透過性が要求されない用途に用いる場合には必ずしも透明である必要はなく、紙基材等を含む各種の基材を用いることができる。例えば、上質紙、薄葉紙、リンター紙、パーチメント紙、グラシン紙、和紙、チタン紙、樹脂含侵紙等の紙、絹、綿、麻、各種合成樹脂繊維、硝子繊維等からなる織布又は不織布等の布帛、杉、檜、松、ラワン等の木材からなる板又は突板、アルミニウム、錫、銅、鉄等の金属からなる箔又は板、陶器、磁器等のセラミックス、或いはこれらの基材を2種以上積層した積層体等の基材等も用いることができ、樹脂基材としては、顔料や染料を含有した樹脂基材を用いることもできる。そうした基材71には、用いる基材の特性に応じ、プライマー層72に密着しやすくするための各種の易接着処理が施されていることが好ましい。基材の厚さも、用途、材料等に応じて任意に選択すれば良いが、一般的には、8μm〜10000μm程度である。
なお、既述したように、特に密着力F1〜F3の大小が転写性に影響するような場合には、基材71とプライマー層72との密着力F3が、版の凹部と機能インキ組成物73’との密着力F1よりも大きくなるように、基材71の表面に、各種の易接着層を設けたり、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の易接着処理乃至粗面化処理等の密着性向上処理が施されていることが好ましい。
プライマー層72についても、既述の電磁波シールド材を構成するプライマー層2と同様のプライマー層用樹脂組成物を用いたものを任意に適用できる。また、そうしたプライマー層72は、例えば意匠性乃至美観付与、色彩による表示乃至識別機能付与、宣伝効果付与等の観点からは、プライマー層72に顔料や染料を含ませて着色してもよい。また、プライマー層72は、所定パターンの機能インキ層73が設けられていない部分を含む全面に設けられているので、プライマー層72に例えば紫外線吸収剤、抗菌剤、防黴剤、帯電防止剤、防汚剤、防水乃至撥水剤等を添加することにより、紫外線吸収機能、抗菌機能、防黴機能、帯電防止機能、防汚機能、防水乃至撥水機能といった機能を生じさせることができる。
そうした機能を生じさせるためにプライマー層72に含有させる添加物としては、紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、微粒子状酸化亜鉛等を挙げることができ、抗菌剤としてはゼオライトのイオン交換可能なイオンの一部または全部を、銀、銅、亜鉛、錫、鉛、水銀、アンモニウム等のイオンで置換した抗菌性ゼオライト粒子、p−アミノベンゼンスルホンアミド等のスルファ剤、ジメチルジチオカルバメート等のジチオカルバミン酸塩等を挙げることができ、防黴剤としてはトリメトキシシリルプロピルオクタデシルアンモニウムクロライド、10,10′−オキシビスフェノキシアルシン、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛等を挙げることができ、帯電防止剤としては陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ITO(酸化インジウム錫)微粒子等を挙げることができ、防汚剤としては弗素系樹脂、珪素系樹脂等を挙げることができ、防水乃至撥水剤としては弗素系樹脂、珪素系樹脂等を挙げることができる。なお、プライマー層72にそうした機能を持たせた場合であっても、プライマー層72は、上記電磁波シールド材を構成するプライマー層2と同様、ある程度の流動性を有し、硬化処理により流動状態から固化状態に変化できる電離放射線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である必要がある。
機能インキ層73についても、既述の導電層3と基本的に同じ構成とすることができる。すなわち、機能インキ組成物73’としては、版の凹部内に充填する時点では流動性を有し、所望のパターンに形成し、硬化せしめた以降の時点で所望の機能を発現するものであれば特に限定はなく、各種材料、形態のものが使用可能である。また、機能インキ組成物73’として、スクリーン印刷程度の高い粘度を有するインキであっても、本発明に係る製造方法で転写形成すれば従来のような問題を生じさせることなく100%又はそれに限りなく近い転写率で転写することができる。そうした粘度とは、100mPa・s以上1000000mPa・s以下の範囲である。
機能インキ層73が有する特定の機能としては、導電体性能、抵抗体(導電体において電気抵抗値を所望の高い値に設定したもの)性能、超伝導体性能、磁性体性能、誘電体性能(乃至は絶縁体性能)、触媒性能、光屈折性能、光学性能、蛍光体性能(乃至燐光体性能)、着色性能乃至意匠性能、耐磨耗性能、研磨材機能、放射線遮蔽性能、及び弾力性能から選ばれるいずれか1種以上の機能を挙げることができ、本発明に係る印刷物70は少なくともこうした機能を有するものであることが好ましい。こうした機能は、樹脂組成物そのものの特性であってもよいし、その樹脂組成物に配合する添加物の特性に基づくものであってもよいし、樹脂組成物と添加物との相乗作用によって発現するものであってもよい。なお、添加物としては、単一の添加物が複数の機能を奏するものであってもよいし、複数の添加物を配合して一又は二以上の機能を奏するものであってもよい。
具体的には、導電体性能を発現させるための機能インキ組成物73’としては、前記の電磁波シールド材の導電性組成物として例示したものと同様の材料を含む組成物を挙げることができ、抵抗体性能を向上させるための機能インキ組成物73’としては、導電体性能を発現する材料を、所望の電気抵抗値になるような比率にて含む組成物を挙げることができ、超伝導体性能を発現させるための機能インキ組成物73’としては、イットリウム−バリウム−銅−酸素系複合酸化物、ランタン−バリウム−銅−酸素系複合酸化物、ビスマス−ストロンチウム−カルシウム−銅−酸素系複合酸化物等の複合酸化物系超伝導体等の微粒子を含む組成物を挙げることができる。
また、磁性体性能を発現させるための機能インキ組成物73’としては、用途に応じて、軟磁性体又は硬磁性体、高透磁率磁性体又は低透磁率磁性体、強磁性体又は弱磁性体、或いは常磁性体又は反磁性体の何れを選択することもできる。具体的な材料としては、鉄、コバルト、ニッケル、MK鋼、KS鋼、窒化鉄、γ−Fe2O3、Co被着γ−Fe2O3、Fe3O4、CrO2、Fe−Si−Al合金(センダスト)、Ni−Fe合金(パーマロイ)、Co−Fe合金、Fe基又はCo基を有するアモルファス合金、Fe2O3にMnO、ZnO、NiO、MgO、CuO、Li2O等を組み合わせた、NiO−MnO−ZnO−Fe2O3、MnO−ZnO−Fe2O3、NiO−ZnO−Fe2O3等のスピネル型フェライト、スピネル型(立方晶)のγ−Fe2O3、γ−Fe4O4ガーネット型フェライト、Baフェライト、Srフェライト、希土類磁石(基本組成を表す一般式でRCo5系,R2Co17系、R−Fe−B系、Sm−Fe−N系など;ここでRはYを含む希土類元素の内の1種または2種以上)、アルニコ磁石等の微粒子を含む組成物を挙げることができる。
また、誘電体性能(乃至は絶縁体性能))を発現させるための機能インキ組成物73’としては、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニルカルバゾール等の樹脂、或いはチタン酸バリウム、ロッシェル塩等の微粒子を含む組成物を挙げることができ、触媒性能を発現させるための機能インキ組成物73’としては、白金、パラジウム、錫、酸化チタン等の所望の化学反応の触媒となり得る物質等の微粒子(一般には遷移金属金属を含む)を含む組成物を挙げることができ、光屈折性能を発現させるための機能インキ組成物73’としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン等の樹脂、又特に屈折率を増大させる場合は酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化タングステン、酸化イットリウム等の金属酸化物、特に屈折率を低下させる場合は氷晶石、蛍石、弗化マグネシウム、弗化リチウム等の微粒子を含む組成物を挙げることができ、光学性能を発現させるための機能インキ組成物73’としては、所望の光学性能を有する適宜な材料、例えば光拡散性を発現させるためには、バインダー樹脂との屈折率差を有する物質の微粒子、例えばシリカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、アクリル樹脂、尿素樹脂、ポリカーボネート樹脂等の微粒子を含む組成物を挙げることができ、蛍光体性能(乃至燐光体性能))を発現させるための機能インキ組成物73’としては、紫外線、電子線、X線等の可視光線以外のエネルギーによって励起され可視光線を放出する適宜の物質、例えば、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化カルシウム、タングステン酸カルシウム等の母材に賦活剤(発光中心)として、銀、亜鉛、ビスマス、アルミニウム、ユーロピウム、サマリウム、マンガン等を加えた物の微粒子、其の他特に紫外線励起の場合には、スチルベン系、ジアミノジフェニル系、オキサゾール系、イミダゾール系、チアゾール系、クマリン系、ナフタルイミド系、チオフェン系等の公知の蛍光増白剤を含む組成物を挙げることができ、着色性能乃至意匠性能を発現させるための機能インキ組成物73’としては、公知の各種顔料又は染料からなる着色剤、例えば、黄鉛、チタンイエロー、イソインドリノンイエロー、弁柄、カドミウムレッド、キナクリドンレッド、群青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、墨、黒色酸化鉄、アニリンブラック等(必要に応じて適宜微粒子化)を含む組成物を挙げることができ、放射線遮蔽性能を発現させるための機能インキ組成物73’としては、鉛、硼素等の微粒子を含む組成物を挙げることができ、耐磨耗性能)を発現させるための機能インキ組成物73’としては、アルミナ、シリカ、ダイヤモンド、コランダム、酸化セリウム等の高硬度物質の微粒子からなる減磨剤、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス等の滑剤、或いは減磨剤と滑剤の両方を含む組成物を挙げることができ、研磨材機能を発現させるための機能インキ組成物73’としては、前記減磨材として列記した物と同様のものを挙げることができ、弾力性能を発現させるための機能インキ組成物73’としては、例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム等のゴムを含む組成物を挙げることができる。
なお、機能インキ組成物73’として磁性体組成物を用いた場合には、得られた機能インキ層73は電磁波を遮蔽することができるので、上記した本発明に係る電磁波シールド材としても機能させることができる。そうした磁性体組成物としては、前記各種フェライト系磁性体等を挙げることができる。
印刷物70の用途によっては、機能インキ層73や上記のプライマー層72を着色してもよく、例えば意匠性乃至美観付与、色彩による表示乃至識別機能付与、宣伝効果付与等)の観点からは、機能インキ層73乃至プライマー層72に顔料や染料を含ませて着色することが好ましい。
機能インキ層73や上記のプライマー層2に含有させてもよい添加物が粒子である場合、その粒子形状や粒径は特に限定されないが、目的の印刷物の用途において好ましい粒子形状や粒径の添加物を選択して配合することが好ましい。複数の粒子を用いる場合には、形状や粒径の異なるものを混合することも可能である。このとき、粒子状の添加物の大きさは、機能インキ層73やプライマー層2の厚さよりも大きなサイズのものは使用できない。また、前記の如き凹版印刷によって所望のパターンに形成することを考慮すると、最大粒径は版面凹部の深さ及び間口の寸法よりも小さい必要がある。
機能インキ層73の断面形態としても、図4〜図7に示すような既述の導電パターンの形態と基本的に同じ形態で構成できる。また、機能インキ層73の平面視形態としても、版の上で機能インキ組成物73’を掻き落とすという本発明の工程を経ることができるものであれば、メッシュ形状、ストライプ形状の他、絵柄など、所望の機能を実現するに必要な任意のパターンで形成することができる。
図16は、本発明の印刷物を構成するパターン形成部Aとパターン非形成部Bとの境界を平面視した場合の一例を示す拡大図である。本発明の印刷物70は、平面視したときのパターン形成部Aとパターン非形成部Bとの境界が直線(図16の場合)或いは曲線、折線等の所望の線形状や円、多角形、ドットパターンなどの閉曲線形状(図示は略す。)である場合にその線輪郭ライン74,74が目視観察にて所望の線形状を良好に再現しているように観察できるものであることが好ましい。本発明の印刷物70がそうした特性を有することが好ましい場合としては、例えば機能インキ層73が電磁波シールド性能を持つように形成された電磁波シールド材が表示装置の前面に配置される場合や、広告、表示(禁煙、非常口、工事中の等表示、駅名、室名、商品名、地図等を構成する線部、回路の配線パターン、意匠デザイン)として用いられる場合のように、印刷物70が有するパターン形成部Aが直接観察者に目視される可能性があるような用途に用いられる場合を挙げることができる。
目視観察にて良好な設計通りの線輪郭形状を有するものとして観察できるためには、図16に示す機能インキ層73の両サイドの輪郭線ライン74,74の幅(以下、線幅という。)Wの標準偏差の3倍(3σ)が、線幅平均の5%以上15%以下になっていることが好ましい。なお、その線幅Wの測定は、機能インキ層73が細長く延びる方向と直交する仮想線を引き、その仮想線を均等に30等分し、そのポイント上又はそのポイントに近接する位置の線幅Wを測定することによって行う。線幅Wの測定には、レーザー顕微鏡を用いる。また、線幅Wの標準偏差の3倍(3σ)とは、バラツキを示す基準として一般に使用されているものであり、本願でもその3σを用いて評価した。また、線幅平均の15%以下とは、測定された線幅の平均値の15%以下になっていること示すものであり、例えば線幅が20μmであればその15%の値は3μmであり、したがって、上記標準偏差の3σがこの値以下であればよい。また、線幅平均の5%以上とは、測定された線幅の平均値の5%以上になっていること示すものであり、例えば線幅が20μmであればその5%の値は1μmであり、したがって、上記標準偏差の3σがこの値以上であればよい。パターン形状が線より多角形や円に近い場合、線幅よりは直径、長径、短径、辺長さ、パターン位置のずれなどの数値がバラツキを表すのに適しているため、線幅Wは、前記直径等の必要なパラメータに随時読み替えればよい。
機能インキ層73の線幅Wのバラツキを表す標準偏差の3倍(3σ)が線幅平均の15%以下であると、線幅の細い部分や線幅の太い部分の割合が小さく、目視観察によっても幅寸法のムラが目立ちにくいという特徴がある。また、その標準偏差の3倍(3σ)が線幅平均の5%以上であり、線幅が過度に揃いすぎていないので、線幅の細い部分や線幅の太い部分が生じた場合であっても、それらが目立たない程度のバラツキを有している。なお、線幅Wの3σが線幅平均の15%を超えて細くなると、線幅の細い部分では例えば外観を目視する用途の場合において、外光の吸収が悪くなり、部分的にコントラストが低下し、また、電気伝導性を重視する用途の場合においては、部分的な抵抗増大を招く。一方、線幅Wの3σが線幅平均の15%を超えて太くなると、線幅にムラが目立つようになり、一方、線幅Wの3σが線幅平均の5%未満になって線幅が揃うと、線幅の太い部分の集合や線幅の細い部分の集合が部分的に生じた場合、ムラとなって目立つようになる。
本発明の印刷物70においては、機能インキ層73の表面に、その機能インキ層73と同じ又は異なる機能を持つ機能層が更に形成されているように構成してもよい。そうした機能層としては、既述の本発明に係る電磁波シールド材のところで説明した金属層であってもよいし、表面を被覆して、これを外力や汚染等から保護する保護機能であってもよいし、上記機能インキ層73が有するいずれかの機能を発現する機能層であってもよい。
なお、上記のような金属層を設ける場合の態様として、既述の本発明に係る電磁波シールド材のように、導電性組成物3’からなる導電層3を形成し、その導電層3上に電気めっきにより金属層を形成する方法があるが、他の方法としては、機能インキ層73として、無電解めっき触媒組成物を用いてなる無電解めっき触媒層を形成し、その後に無電解めっきによりその無電解めっき触媒層上に金属層を形成する方法を挙げることができる。なお、無電解めっき触媒組成物としては、例えば無電解めっき触媒であるパラジウム触媒を含有する(公知の)組成物を挙げることができ、無電解めっき液としては、無電解銅めっき液や無電解ニッケルめっき液等を挙げることができる。
また、本発明の印刷物70は、必要に応じて各種の後加工を行うことができる。そうした後加工としては、導電性の付与、熱伝導性の付与、金属光沢の付与、或いは表面保護等を目的とした金属(単体又は合金)のめっき処理(無電解/電解)或いは蒸着・スパッタ処理;前記機能インキ層が電離放射線硬化性のバインダー樹脂からなる場合において、該バインダー樹脂を硬化せしめること等を目的とした放射線照射処理;前記機能インキ層が溶剤(又は分散剤)を含む場合において、該溶剤を揮発除去せしめること等を目的とした乾燥処理;前記基材又は機能性インキ層が内部応力や歪みを残留する場合において、これらを開放すること、或いは前記機能性インキ層が熱硬化性のバインダー樹脂を含む場合において、該バインダー樹脂を硬化せしめること等を目的とした加熱処理;前記機能インキ層が、樹脂バインダーと導電体、磁性体、又は超伝導体との混合物で形成された場合において、導電性、磁性、又は超伝導性に寄与し無い樹脂バインダーを除去して、導電体、磁性体、または超伝導体のみの組成とすること、或いは更に導電体、磁性体、又は超伝導体の微粒子同士を融合接着して連続体化し、導電率や磁性を向上せしめること、或いは導電体、磁性体、又は超伝導体が有機金属化合物の様なその前駆物質からなる場合において、該有機金属化合物等の前駆物質を化学反応又は熱分解によって、金属、金属酸化物、金属化合物、セラミックス等に変性すること等を目的とした焼成処理;超伝導体の超伝導を発現せしめること等を目的とした冷却処理;機能性インキ層表面を外力、汚染、磨耗等から保護すること等を目的としたオーバーコート処理;其の他、薬品処理、減圧処理、加圧処理、圧延処理、延伸処理、貼合処理、印刷処理、切断処理、打ち抜き処理等を挙げることができる。
また、本発明の製造過程においては基材は必須ではあるが、製造後の製品においては、本来、基材は不要である場合には、基材71を焼成、溶解などで消滅させて、パターン部分だけを残すようにしてもよい。また、直接、基材上に本発明の印刷物の製造方法を適用困難な場合には、先ず一旦、離型性及び本発明の製造方法への適合性のよい転写用基材上に機能インキ層73を本発明の製造方法にて印刷して印刷物を製造し、而かる後、機能インキ層73をプライマー層72と共に別の最終製品用の基材71上に転写しても良い。例えば、基材が厚かったり、剛性が高かったりして、凹版により直接本発明の印刷方法を適用することが困難な場合、最終製品の基材71がプライマー層硬化用の電離放射線に対して不透明のためにプライマー層72の硬化が困難な場合、基材71が機能インキ層73の焼成時の熱に耐えられない場合、或いは基材71がプライマー層72中の溶剤又は単量体成分により溶解、膨潤により耐えられない場合等がこの例に相当する。
本発明の印刷物70は、機能インキ層73の特性と、基材71の特性とから以下のような用途に適用可能である。なお、印刷物70の形状等は、それぞれの用途に応じた形状で形成することは言うまでもない。
例えば、機能インキ層73の機能が主に導電性である場合において、透明基材を用いた場合には、パターン非形成部Bが透明であることを特徴とする、画像表示装置の前面設置用、建築物や車両の窓用、或いは電子レンジ窓用の透明電磁波シールド部材、電磁波吸収部材、各種透明電極(タッチパネル、液晶表示装置、電場発光表示装置、太陽電池、電子ペーパー)、各種センサー、帯電防止用途部材、アンテナ部材、ICタグ部材等に適用でき、一方、不透明基材を用いた場合には、パターン非形成部Bが不透明であることを特徴又は許容する電磁波シールド部材、電磁波吸収部材、印刷回路(電線、コイル、抵抗体、コンデンサ)、各種フレキシブル電極、各種センサー、帯電防止用途部材、アンテナ部材、ICタグ部材等に適用できる。
また、例えば、機能インキ層73の機能が主に触媒機能である場合において、透明基材を用いた場合には、パターン非形成部Bが透明であることを特徴とする検査用フィルム部材等に適用でき、一方、不透明基材を用いた場合には、パターン非形成部Bが不透明であることを特徴又は許容する検査用ペーパー部材やバイオ電池の電極等に適用できる。
また、機能インキ層73を、パラジウムコロイド等の無電解めっき用触媒を含むメッシュパターン層とし、この上に銅等の金属膜を無電解めっき法にて成長させて、画像表示装置前面用途等に用いる光透過性の電磁波シールド材を製造することができる。
また、機能インキ層73を、光触媒機能の有るアナターゼ型二酸化チタン微粒子で構成したものを内装建材或いは家具表面材として使用し、ホルムアルデヒド、煙草の煙、可塑剤、有機溶剤等の建築物内雰囲気中に存在する各種有機物質(所謂VOC)の分解除去、或いは殺菌、防黴のために使用することもできる。
また、例えば、機能インキ層73の機能が主に色調(色味)や屈折率である場合において、透明基材を用いた場合には、パターン非形成部Bが透明であることを特徴とするステンドグラス調窓材等の透光性意匠パターン部材、光学フィルター部材、画像表示装置の前面に設置して視野角規制、外来光の反射防止用途に用いる、平行線群状の黒色の凸状部を有するマイクロルーバー部材、マイクロレンズアレイ部材等に適用でき、一方、不透明基材を用いた場合には、パターン非形成部Bが透明であることを特徴又は許容する意匠パターン等に適用できる。
また、透明基材を用いた場合には、パターン非形成部Bが透明であることを特徴とする各種部材が得られる。例えば、適度な硬さ、質感、厚さ、色調等を有する機能インキ層73を用いて印刷した点字部材、光屈折性能乃至光学性能を有する前記機能インキ層73を用いて印刷したレンチキュラーレンズ、蠅の目レンズ、フレネルレンズ、線状プリズム配列シート(特許第3123006号公報、米国特許第4906070号公報等開示のもの)、薄板微小ルーバ(特公昭37−283号公報、特開2007−272161号公報等開示のもの)等の光学部材、着色性能乃至意匠性能、又は蛍光体乃至燐光体性能を有する前記機能インキ層73を用いて印刷したステンドグラス調模様、カットグラス調模様、和紙調模様等の凸状模様を活かした窓硝子、硝子貼りの扉や間仕切等の建築物内装部材又は外装部材、凸状模様を活かした非常口等の案内、禁煙等の表示等に用いる表示板、凸状模様を活かしたポスター、看板、商品表示板体等の広告宣伝媒体、或いは凸状様を活かした食品其の他の包装材料、押しボタン、タッチパネル、又はメンブレンスイッチ表面の浮き出した文字や数字、或は各種製品表面のバーコードの印刷等に適用できる。
一方、不透明基材を用いた場合には、パターン非形成部Bが不透明であることを特徴又は許容する各種部材が得られる。例えば、適度な硬さ、質感、厚さ、色調等を有する機能インキ層73を用いて印刷した点字部材、研磨材機能を有する前記機能インキ層73を用いて印刷して、多角錐の単位凸状部を多数2次元配列したり、多角柱の単位凸状部を多数平行配列して形成した研磨部材、着色性能乃至意匠性能、又は蛍光体乃至燐光体性能を有する前記機能インキ層73を用いて印刷した浮造り調木目調部材(年輪の秋材部が浮き出した杉板等の木目)、布目などのテクスチャ部材、石目調部材、タイル貼り乃至煉瓦積み調部材、ヘアライン調部材、クッション部材等の凸状模様を活かした建築内装又は外装部材や家具表面部材、凸状模様を活かした非常口等の案内、禁煙等の表示等に用いる表示板、凸状模様を活かしたポスター、看板、商品表示板等の広告宣伝媒体、或いは凸状模様を活かした食品その他の包装材料、押しボタン、タッチパネル、又はメンブレンスイッチ表面の浮き出した文字や数字、各種製品表面のバーコード、或は導電体性能、抵抗体性能、超伝導体性能、磁性体性能、誘電体性能等を有する前記機能インキ層73を用いて所定の配線、電極、抵抗体、コンデンサ、コイル等のパターンを所定の配置と接続で印刷したプリント回路、集積回路、マイクロストリップアンテナ等の電気電子部材の印刷等に適用できる。
以上説明した本発明によれば、機能性インキ組成物73’を用いて形成した高精度の機能インキパターンを有する印刷物70を連続的且つ効率的に提供できる。また、本発明の印刷物の製造方法によれば、基材71の上に、流動状態から固化状態へ速やかに転移させることができるプライマー層72を用いた凹版印刷法(グラビア等)で、例えば顔料などを含む機能インキ組成物73’を精度良く、突出パターン印刷することができる。また、この方法によれば、プライマー層72と機能インキ層73とを一部相溶させる等とすることも可能であり、凹版の凹部に充填された機能インキ組成物73’をほぼ100%転移させることができ、版形状の再現性も良く、従来困難だった印刷パターンの断面形状制御も可能となる。
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
図9及び図10に示す装置により電磁波シールド材を製造した。先ず、透明基材1として、片面に易接着処理がされた幅1000mmで厚さ100μmの長尺ロール巻の無色透明な2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。供給部にセットしたPETフィルムを繰り出し、易接着処理面にプライマー層用の光硬化性樹脂組成物を厚さ5μmとなるように塗布形成した。塗布方式は、通常のグラビアリバースコート法を採用し、光硬化性樹脂組成物としては、エポキシアクリレートプレポリマー35重量部、ウレタンアクリレートプレポリマー12重量部、フェノキシエチルアクリレートからなる単官能アクリレートモノマー44重量部、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレートからなる3官能アクリレートモノマー9重量部、さらに光開始剤としてイルガキュア184(物質名;1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、製造元;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)3重量部添加したものを使用した。このときの粘度は約1300mPa・s(25℃、B型粘度計)であり、塗布後のプライマー層2は触ると流動性を示すものの、PETフィルム上から流れ落ちることはなかった。
次に、プライマー層2が形成されたPETフィルムを転写工程を行う凹版ロール62に供するが、それに先だって、開口部の線幅が20μmで線ピッチが300μm、版深20μmの格子状のメッシュパターンとなる凹部が形成された凹版ロール62の版面63に、導電性組成物15をピックアップロール61で塗布し、ドクターブレード65で凹部64内以外の導電性組成物を掻き取って凹部64内のみに導電性組成物15を充填させた。導電性組成物15を凹部64内に充填させた状態の凹版ロール62と、ニップロール66との間に、プライマー層2が形成されたPETフィルムを供給し、凹版ロール62に対するニップロール66の押圧力(付勢力)によって、プライマー層2を凹部64内に存在する導電性組成物15の凹み6に流入させ、導電性組成物15とプライマー層2とを隙間なく密着させると共に、該プライマーの一部を凹部64内の該導電性組成物15内に浸透せしめた。なお、用いた導電性組成物は、以下の組成の銀ペーストを用いた。
<導電性組成物(銀ペースト)の作製>
導電性粉末として平均粒径約2μmの鱗片状銀粉末93重量部、バインダー樹脂として熱可塑性のポリエステルウレタン樹脂7重量部、溶剤としてブチルカルビトールアセテート25重量部を配合し、十分に攪拌混合した後、3本ロールで混練りして導電性組成物を作製した。
次いで行われる転写工程は以下の通りである。先ず、プライマー層2が形成されたPETフィルムを、そのプライマー層2が凹版ロール62の版面63側に対向した状態で、凹版ロール62とニップロール66との間に挟む。その凹版ロール62とニップロール66との間でPETフィルムのプライマー層2は版面63に押し付けられる。プライマー層2は流動性を有しているので、版面63に押し付けられたプライマー層2は、導電性組成物15が充填した凹部64内にも流入し、凹部64内で生じた導電性組成物15の凹み6を充填する(図11を参照)。こうしてプライマー層2は導電性組成物15に対して隙間なく密着した状態となる。その後、さらに凹版ロール62が回転して高圧水銀燈からなるUVランプによって紫外線が照射され、光硬化性樹脂組成物からなるプライマー層2が硬化する。プライマー層2の硬化により、凹版ロール62の凹部64内の導電性組成物はプライマー層2と密着し、その後、出口側のニップロール67によってフィルムが凹版ロール62から剥離され、プライマー層2上には導電性組成物層3’(図8参照)が転写形成される。このようにして得られた転写フィルムを、110℃の乾燥ゾーンを通過させて銀ペーストの溶剤を蒸発させて固化せしめ、プライマー層2上にメッシュパターンからなる導電層3を形成した。このときの導電層3が存在するパターン部分の厚さ(導電層3が形成されているメッシュパターン部分とそれ以外の部分との厚さの差)は約19μmで、版の深さとほぼ同等の厚さで転移しており、版の凹部64内の銀ペーストが高い転移率で転移していた。転移後の凹部64内を目視で観察したところ、ペーストの版残りは見られず、また、メッシュパターンの断線や形状不良も見られなかった。
この段階での試料について、その導電層パターン19部分の断面TEM(透過形電子顕微鏡)観察を行った。図17は、導電層パターン19の断面TEM写真である。図17に示すように、オスミウム染色液で染色したプライマー層2と染色した導電層3との界面12が染色色濃度が連続的に濃から淡に変化する階調(グラデーション)のようになっており、また細かく入り組んだ構造も観察され、境界部分が一部なじんでいる(相溶)していることが確認された。また、導電層3側の表面部分をSIMS分析したところ、導電性組成物には含まれないがプライマー層2には含まれるプライマー成分が観測され、プライマー成分の一部が硬化前に導電性組成物中に浸入していることが確認された。これらの状況から考えると、流動性があるプライマー層2が導電性組成物に接触した際に、その境界部分(界面12)の相溶及び境界の乱れが生じ、この状態でプライマー層2を固化させると、境界部分から導電性組成物内部に向かう領域で、導電性組成物の増粘やゲル化などの現象が起こり、導電性組成物を版から引き抜きやすくなっているのではないかと推測された。又は、流動性のあるプライマー層のプライマー成分の一部が版内の導電性組成物層と混ざり、プライマー層を固化させた際に導電性組成物層の粘度を全体的に上げていることが推察される。いずれにしろ、流動性のあるプライマー層2を導電性組成物層に接触させて、プライマー層2を固化させた後に剥離すれば、導電性組成物層が完全に固化していないにもかかわらず、ほぼ100%近い転移が可能であった。
次いで、得られた転写フィルムに対し、銅めっきを行った。銅めっき法としては、得られた転写フィルムを硫酸銅めっき液に浸漬し、その表面に形成されたメッシュ状の導電層パターンを陰極として、銅板を陽極として、2A/dm2の電流を流して電解銅めっきを行った。銅めっき膜は、その導電層3上に選択的に、厚さ2μmで形成した。得られた部材の表面抵抗値は0.1Ω/□だった。こうして本発明に係る実施例1の電磁波シールド材を作製した。
(実施例2)
実施例1において、凹部64に充填する導電性組成物中に予め以下に示す導電性カーボンブラック微粉末を含有させた他は、実施例1と同様にして、実施例2の電磁波シールド材を作製した。パターン形状については実施例1と同様であった。また、得られたパターンをパターンの裏面から目視で観察すると、若干光沢が少なく見えた。
<導電性組成物(銀ペースト+カーボンブラック)の作製>
導電性粉末として平均粒径約2μmの鱗片状銀粉末90重量部、カーボンブラックとしてアセチレンブラック(平均粒径35nm)3重量部、バインダー樹脂として熱可塑性のポリエステルウレタン樹脂7重量部、溶剤としてブチルカルビトールアセテート35重量部を配合し、十分に攪拌混合した後、3本ロールで混練りして導電性組成物を作製した。
(比較例1)
実施例1において、PETフィルムの易接着処理面にプライマー層を塗布しない以外は実施例1と同様にして導電性組成物を転写させた。しかしながら、その際、PETフィルム上への導電性組成物の転写は十分でなく、断線やパターン抜けが多発した。また、乾燥後のパターン厚さも1μm程度であり、転移率が著しく悪かった。その後の電気銅めっきも均一にめっきすることはできなかった。この理由は、ドクターブレード65にて凹部64以外の導電性組成物を除去する際に、凹部64内からも少なからず導電性組成物15が掻き出されて凹部64内の導電性組成物15には凹み6が生じるが、その凹み6の存在により、導電性組成物15がPETフィルム上に密着よく転写されずに部分的に導電性層が断線し、めっきに必要な導通(電位差)が得られないためと考えられる。
(評価結果)
実施例1,2及び比較例1で作製した電磁波シールド材についての評価結果を表1と表2にまとめた。なお、表2において、転写性は、フィルム上への導電性組成物の転写状況から判断し、密着性よく所定のメッシュパターンが一様に転写されていると300倍に拡大した顕微鏡観察により目視確認できたものを「良好」として評価し、所定のメッシュパターンが一様に転写されてないものを「不良」として評価した。また、シールド性は、得られた電磁波シールド材をシールド材評価器((株)アドバンテスト製、TR17301A)を用いて電磁波シールド特性を測定した結果、200〜600MHzの範囲で−30デシベル程度以下のシールド特性を有するものを「良好」として評価し、−30デシベル程度より高いシールド特性を有するものを「不良」として評価した。また、視認性は、白色蛍光灯照明下の室内において、電磁波シールド材表面の光反射による白化(白濁)を目視評価し、顕著且つ明瞭な白化を認めた場合を「不良」、白化を認めるが軽微であり画像表示面に設置しても違和感がないと判断されたものを「△」、全く白化を認めないものを「良好」と評価した。
(実施例3)
先ず、基材として、片面に易接着処理がされた幅1000mmで厚さ100μmの長尺ロール巻ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。供給部にセットした無色透明なPETフィルムを繰り出し、易接着処理面にプライマー層用の光硬化性樹脂組成物を厚さ5μmとなるように塗布形成した。塗布方式は、通常のグラビアリバース法を採用し、光硬化性樹脂組成物としては、エポキシアクリレートプレポリマー35重量部、ウレタンアクリレートプレポリマー12重量部、フェノキシエチルアクリレートからなる単官能モノマー44重量部、トリメチロールプロパントリアクリレートからなる3官能モノマー9重量部、さらに光開始剤としてイルガキュア184(物質名;1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、製造元;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)3重量部添加したものを使用した。このときの粘度は約1300cps(at25℃、B型粘度計)であり、塗布後のプライマー層は触ると流動性を示すものの、PETフィルム上から流れ落ちることはなかった。
次に、プライマー層が形成されたPETフィルムを転写工程を行う凹版ロールに供するが、それに先だって、線幅が20μmで線ピッチが300μm、版深5μmの格子状のメッシュパターンとなる凹部が形成された凹版ロールの版面に、触媒ペーストをピックアップロールで塗布し、ドクターブレードで凹部内以外の触媒ペーストを掻き取って凹部内のみに触媒ペーストを充填させた。触媒ペーストを凹部内に充填させた状態の凹版ロールと、ニップロールとの間に、プライマー層が形成されたPETフィルムを供し、凹版ロールに対するニップロールの押圧力(付勢力)によって、プライマー層を凹部内に存在する触媒ペーストの凹みに流入させ、触媒ペーストとプライマー層とを隙間なく密着させた。なお、用いた触媒ペーストは、以下の組成の触媒ペーストを用いた。
<触媒ペーストの作製>
(パラジウムコロイドの作製)精製水89重量部に塩化パラジウム1重量部を溶解し、さらにクエン酸三ナトリウム10重量部を溶解して均一に攪拌した後、水素化ホウ素ナトリウム0.01重量部を添加して塩化パラジウムを還元させ、パラジウムコロイドを得た。その後、限外濾過により濃縮脱塩を行い、パラジウム0.5重量部を含有するパラジウムコロイドを得た。このパラジウムコロイド10重量部を精製水で希釈し、この希薄パラジウムコロイド溶液にアルミナエアロゾルAl2O3−C(日本アエロゾル製)10重量部を添加懸濁させた。これを濾過し、乾燥、解砕することにより、パラジウムコロイドを担持したアルミナゲルを得た。このパラジウムコロイド担持アルミナゲル7重量部と10%エチルセルロースのテルピネオール溶液30重量部とを3本ロールで混練りして触媒ペーストを作製した。
<印刷パターンの形成>
次いで行われる転写工程は以下の通りである。先ず、プライマー層が形成されたPETフィルムを、そのプライマー層が凹版ロールの版面側に対向した状態で、凹版ロールとニップロールとの間に挟む。その凹版ロールとニップロールとの間でPETフィルムのプライマー層は版面に押し付けられる。プライマー層は流動性を有しているので、版面に押し付けられたプライマー層は、触媒ペーストが充填した凹部内にも流入し、触媒ペーストに対して隙間なく密着した状態となる。その後、さらに凹版ロールが回転してUVランプによって紫外線が照射され、光硬化性樹脂組成物からなるプライマー層が硬化する。プライマー層の硬化により、凹版ロールの凹部内の触媒ペーストはプライマー層と密着し、その後、出口側のニップロールによってフィルムが凹版ロールから剥離され、プライマー層上には触媒ペースト層が転写形成される。このようにして得られた転写フィルムを、110℃の乾燥ゾーンを通過させて触媒層の溶剤を蒸発させ、プライマー層上にメッシュパターンからなる触媒層を形成した。このときの触媒層の厚さ(触媒層が形成されているメッシュパターン部分とそれ以外の部分との厚さの差)は約5μmであり、版の凹部内の触媒ペーストが高い転移率で転移していた。また、断線や形状不良も見られなかった。断面観察等の結果も実施例1と同様であった。
<無電解Cuメッキ>
上記で得られた触媒ペースト印刷基板を無電解銅メッキ液(OPC−750シリーズ、奥野製薬(株)製)中に浸漬させ、20分間、20℃で無電解銅メッキを行い厚さ2μmの銅層を形成した。メッキ処理後に水洗、乾燥を行った。めっき処理により、シートの表面抵抗は0.1Ω/□となった。