JP2011131346A - 研磨液組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減を実現できるNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板用研磨液組成物の提供。
【解決手段】Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板用研磨液組成物であって、前記研磨液組成物は、研磨材、酸、酸化剤、複素環芳香族化合物、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物、及び水を含有し、前記複素環芳香族化合物は、複素環内に窒素原子を2個以上含み、前記脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物は分子内に窒素原子を2〜4個含む。
【選択図】なし

Description

本発明は、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板用研磨液組成物、及びこれを用いた磁気ディスク基板の製造方法に関する。
近年、磁気ディスクドライブは小型化・大容量化が進み、高記録密度化が求められている。高記録密度化するために、単位記録面積を縮小し、弱くなった磁気信号の検出感度を向上するため、磁気ヘッドの浮上高さをより低くするための技術開発が進められている。磁気ディスク基板には、磁気ヘッドの低浮上化と記録面積の確保に対応するため、平滑性及び平坦性の向上(表面粗さ、うねり、端面ダレの低減)と欠陥低減(スクラッチ、突起、ピット等の低減)に対する要求が厳しくなっている。このような要求に対し、スクラッチの低減が可能な研磨液組成物として、ベンゾトリアゾール(BTA)のようなアゾール類を含有する研磨液組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
一方、磁気ディスク基板の研磨とは要求特性が異なる半導体デバイスのCMP加工プロセスにおいては、銅膜、タンタル化合物のバリア層、及びSiO2の絶縁層を研磨除去するための研磨用組成物が開示されている。具体的には、ディッシングやエロージョンを改善できる研磨用組成物であって、コロイダルシリカ、シュウ酸、エチレンジアミン、ベンゾトリアゾールを含む研磨液組成物が開示されている(特許文献2及び3)。
特開2007−92064号公報 特開2001−089747号公報 特開2004−311484号公報
磁気ディスクドライブのさらなる大容量化を実現するためには、従来の研磨液組成物によるスクラッチの低減だけでは不十分であり、研磨後の基板表面のスクラッチに加えて、研磨後の基板表面のナノ突起欠陥をよりいっそう低減する必要がある。
また、大容量化に伴い、磁気ディスクにおける記録方式が水平磁気記録方式から垂直磁気記録方式へと移行した。垂直磁気記録方式の磁気ディスクの製造工程では、水平磁気記録方式で磁化方向を揃えるために必要であったテクスチャ工程が不要となり、研磨後の基板表面に直接磁性層が形成されるため、基板表面品質に対する要求特性はさらに厳しくなっている。従来の研磨液組成物では、垂直磁気記録方式の基板表面に求められるナノ突起欠陥及びスクラッチの少なさを十分に満足することができない。
そこで、本発明は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減を実現できる磁気ディスク基板用研磨液組成物、及びこれを用いた磁気ディスク基板の製造方法を提供する。
本発明は、研磨材、酸、酸化剤、複素環芳香族化合物、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物、及び水を含有し、前記複素環芳香族化合物は複素環内に窒素原子を2個以上含み、前記脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物は分子内に窒素原子を2〜4個含む、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板用の研磨液組成物に関する。
また、本発明の磁気ディスク基板の製造方法は、本発明の研磨液組成物を用いてNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板を研磨する工程を有する、磁気ディスク基板の製造方法に関する。
本発明の研磨液組成物によれば、研磨後のNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板表面において、スクラッチに加えてナノ突起欠陥が低減された磁気ディスク基板、特に垂直磁気記録方式の磁気ディスク基板を製造できるという効果が奏されうる。
[ナノ突起欠陥]
本発明において「ナノ突起欠陥」とは、磁気ディスク基板の製造工程における研磨後の基板表面の欠陥であって、光学的に検出され得る10nm未満程度の大きさの凸欠陥をいう。磁気ディスクの高密度化・大容量化のためには、磁気ヘッドと磁気ディスクとの間隔は10nm未満となる必要があるため、ナノ突起の残存は磁気ヘッドの消耗及び磁気ディスクドライブの記録密度の低下や不安定をもたらし得る。研磨後の基板表面においてナノ突起欠陥が低減されれば、磁気ヘッドの浮上量が低減でき、磁気ディスク基板の記録密度向上が可能となる。
[スクラッチ]
本発明において「スクラッチ」とは、深さが1nm以上、幅が100nm以上、長さが1000nm以上の基板表面の微細な傷で、光学式欠陥検出装置であるKLA Tencor社製のCandela6100シリーズや日立ハイテクノロジ−社製のNS1500シリーズで検出可能であり、スクラッチ数として定量評価できる。さらに、検出したスクラッチは原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)で大きさや形状を解析することができる。
[Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板]
本明細書において「Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板」とは、磁気ディスク基板用アルミニウム合金板材の表面を研削後、無電解Ni−Pメッキ処理したものをいう。Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板の表面を研磨し、さらに、スパッタ等でその基板表面に磁性膜を形成することにより磁気ディスク基板を製造することができる。
本発明は、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板の表面を研磨する研磨液組成物として、複素環内に窒素原子を2個以上含む複素環芳香族化合物と、分子内に窒素原子を2〜4個含む脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物との組合せを含む研磨液組成物を使用すると、研磨後の基板表面において、スクラッチの低減のみならず、ナノ突起欠陥をも低減でき、記録容量の大容量化の要請に応え得る磁気ディスク基板を製造できるという知見に基づく。
従来、BTAのようなアゾール類が研磨液組成物に添加される効果として、スクラッチの低減が知られていたが、該アゾール類と該脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物との組合せにより、スクラッチ低減効果が促進され、さらに、ナノ突起欠陥が著しく低減されることが見出された。なお、特許文献2及び3にはBTAとエチレンジアミンとを含む研磨液組成物が開示されているが、これらの研磨液組成物は、銅膜、タンタル化合物のバリア層、SiO2の絶縁層を有する半導体デバイスのCMP加工プロセスに用いるものであって、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板の表面を研磨するための研磨液組成物ではない。また、特許文献2及び3には、研磨液組成物はディッシングやエロージョンの抑制効果を示すものであるが、ナノ突起欠陥の低減効果についての言及はない。
すなわち、本発明は、一態様において、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板用の研磨液組成物であって、該研磨液組成物は、研磨材、酸、酸化剤、複素環芳香族化合物、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物、及び水を含有し、前記複素環芳香族化合物は、複素環内に窒素原子を2個以上含み、前記脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物は、分子内に窒素原子を2〜4個含む研磨液組成物(以下、「本発明の研磨液組成物」ともいう)に関する。
本発明の研磨液組成物によれば、研磨後のNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板表面において、スクラッチに加えてナノ突起欠陥が低減された磁気ディスク基板、特に垂直磁気記録方式の磁気ディスク基板を製造できるという効果が奏されうる。
本発明の研磨液組成物がスクラッチのみならずナノ突起欠陥を低減できるメカニズムの詳細は明らかでないが、以下のように考えられる。
Ni−Pメッキ層には部分的にNi微結晶の部分が存在しBTA等の複素環芳香族化合物は、このNi微結晶部分に吸着して保護膜を形成することによりスクラッチの低減に寄与していると考えられる。一方、ジアミン、トリアミン、テトラミン等の脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物は、Ni−Pメッキ層のNi微結晶部分にはほとんど吸着せず、アモルファス構造のNi−Pメッキ層に吸着して保護層を形成していると考えられる。
したがって、BTA等の複素環芳香族化合物とジアミン等の脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物とを組み合わせた本発明の研磨液組成物を使用することで、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板全体に保護層が形成され、研磨後の基板表面のスクラッチをいっそう低減するとともに、ナノ突起欠陥が低減すると推定される。但し、本発明はこのメカニズムに限定されない。
[複素芳香族化合物]
本発明の研磨液組成物は、複素環芳香族化合物を含有する。本発明の研磨液組成物に含有される複素環芳香族化合物は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、複素環内に窒素原子を2個以上含む複素環芳香族化合物であり、複素環内に窒素原子を3個以上有することが好ましく、3〜9個がより好ましく、3〜5個がさらに好ましく、3又は4個がさらにより好ましい。
本発明の研磨液組成物に含有される複素環芳香族化合物は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、プロトン化された複素芳香環化合物のpKaが小さいもの、すなわち、求電子性が強いものが好ましく、具体的には、pKaが−3〜4が好ましく、より好ましくは−3〜3、さらに好ましくは−3〜2.5である。複素環内に窒素原子を2個以上含む複素環芳香族化合物としては、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,2,5−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,5−チアジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、3-アミノピラゾール、4−アミノピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、ピラゾール、2−アミノイミダゾール、4−アミノイミダゾール、5−アミノイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、1,2,3−トリアゾール、4−アミノー1,2,3−トリアゾール、5−アミノー1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノー1,2,4−トリアゾール、5−アミノー1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、1H−テトラゾール、5−アミノテトラゾール、1H−ベンゾトリアゾール、1H−トリルトリアゾール、2−アミノベンゾトリアゾール、3−アミノベンゾトリアゾール、又はこられのアルキル置換体若しくはアミン置換体が好ましく、1H−テトラゾール、1H−ベンゾトリアゾール、1H−トリルトリアゾールがより好ましく、1H−テトラゾール、1H−ベンゾトリアゾールがさらに好ましい。前記アルキル置換体のアルキル基としては例えば、炭素数1〜4の低級アルキル基が挙げられ、より具体的にはメチル基、エチル基が挙げられる。また、前記アミン置換体としては1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチレン)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチレン)アミノメチル]トリルトリアゾールが挙げられる。なお、プロトン化された複素環芳香族化合物のpKaは、例えば、『芳香族へテロ環化合物の化学』(坂本尚夫著、講談社サイエンティフィク)等に記載される。
本発明の研磨液組成物における複素環芳香族化合物の含有量は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、研磨液組成物全体の重量に対して0.01〜10重量%であることが好ましく、0.05〜5重量%がより好ましく、0.1〜1重量%がさらに好ましい。なお、研磨液組成物中の複素環芳香族化合物は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
また、研磨液組成物中における、研磨材と複素環芳香族化合物との濃度比[研磨材の濃度(重量%)/複素環芳香族化合物の濃度(重量%)]は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、2〜100が好ましく、5〜50がより好ましく、10〜25がさらに好ましい。
[脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物]
本発明の研磨液組成物は、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物を含有する。本発明の研磨液組成物に含有される脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、分子内の窒素原子数は2個以上である。また、該脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物は、研磨速度の維持の観点から、分子内の窒素原子数は4個以下であり、3個以下が好ましく、2個以下がより好ましい。したがって、該脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物は、研磨速度の維持、並びにスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、分子内の窒素原子数は2〜4個であって、2〜3個が好ましく、2個がより好ましい。
本発明の研磨液組成物に用いられる脂肪族アミン化合物は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、N−アミノエチルイソプロパノールアミン、N−アミノエチル−N−メチルエタノールアミン、ジエチレントリアミン、及びトリエチレンテトラミンからなる群から選択されることが好ましく、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、N−アミノエチルイソプロパノールアミン、及びN−アミノエチル−N−メチルエタノールアミンからなる群から選択されることがより好ましい。
本発明の研磨液組成物に用いられる脂環式アミン化合物は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2、5−ジメチルピペラジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン、N−メチルピペラジン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、及びヒドロキシエチルピペラジンからなる群から選択されることが好ましく、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2、5−ジメチルピペラジン、N−メチルピペラジン、及びヒドロキシエチルピペラジンからなる群から選択されることがより好ましい。
本発明の研磨液組成物における脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物の含有量は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、研磨液組成物全体の重量に対して0.01〜10重量%であることが好ましく、0.02〜5重量%がより好ましく、0.05〜1重量%がさらに好ましい。なお、研磨液組成物中の脂肪族アミン化合物は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
また、研磨液組成物中における、研磨材と脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物との濃度比[研磨材の濃度(重量%)/脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物の濃度(重量%)]は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、5〜500が好ましく、25〜200がより好ましく、50〜100がさらに好ましい。
さらに、研磨液組成物中における、複素環芳香族化合物と脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物との濃度比[複素環芳香族化合物の濃度(重量%)/脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物の濃度(重量%)]は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、0.1〜50が好ましく、1〜25がより好ましく、5〜10がさらに好ましい。
[研磨材]
本発明の研磨液組成物は、研磨材を含有する。本発明に使用される研磨材としては、研磨用に一般的に使用されている研磨材を使用することができ、金属、金属若しくは半金属の炭化物、窒化物、酸化物、又はホウ化物、ダイヤモンド等があげられる。金属又は半金属元素は、周期律表(長周期型)の2A、2B、3A、3B、4A、4B、5A、6A、7A又は8族由来のものである。研磨材の具体的な例としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、炭化珪素、ダイヤモンド、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、シリカ等が挙げられ、これらの1種以上を使用することは研磨速度を向上させる観点から好ましい。研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点からは、研磨材として、アルミナ又はコロイダルシリカが好ましく、コロイダルシリカがより好ましい。コロイダルシリカの好ましい実施形態については後述する。
研磨液組成物中における研磨材の含有量は、研磨速度を向上させる観点から、0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、3重量%以上がさらに好ましく、4重量%以上がさらにより好ましい。また、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点からは、20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、13重量%以下がさらに好ましく、10重量%以下がさらにより好ましい。すなわち、研磨材の含有量は、0.5〜20重量%が好ましく、1〜15重量%がより好ましく、3〜13重量%がさらに好ましく、4〜10重量%がさらにより好ましい。
[酸]
本発明の研磨液組成物は、酸を含有する。本明細書において、酸の使用は、酸及び又はその塩の使用を含む。本発明の研磨液組成物に使用される酸としては、研磨速度の向上の観点から、その酸のpK1が2以下の化合物が好ましく、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、好ましくはpK1が1.5以下、より好ましくは1以下、さらに好ましくはpK1で表せない程の強い酸性を示す化合物である。好ましい酸は、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1,−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸等の有機ホスホン酸、グルタミン酸、ピコリン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、オキサロ酢酸等のカルボン酸等が挙げられる。中でも、スクラッチ低減の観点から、無機酸、カルボン酸、有機ホスホン酸が好ましく、酸化剤の安定性向上及び廃液処理性向上の観点から、無機酸、有機ホスホン酸がより好ましい。また、無機酸の中では、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸がより好ましく、リン酸、硫酸がさらに好ましい。カルボン酸の中では、クエン酸、酒石酸、マレイン酸がより好ましく、クエン酸がさらに好ましい。有機ホスホン酸の中では、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びそれらの塩がより好ましく、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)がさらに好ましい。これらの酸及びその塩は単独で又は2種以上を混合して用いてもよいが、研磨速度の向上、ナノ突起低減及び基板の洗浄性向上の観点から、2種以上を混合して用いることが好ましく、ナノ突起低減、スクラッチ低減、酸化剤の安定性向上及び廃液処理性向上の観点から、リン酸、硫酸、クエン酸及び1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸からなる群から選択される2種以上の酸を混合して用いることがさらに好ましい。ここで、pK1とは有機化合物又は無機化合物の第一酸解離定数(25℃)の逆数の対数値である。各化合物のpK1は例えば改訂4版化学便覧(基礎編)II、pp316−325(日本化学会編)等に記載されている。
これらの酸の塩を用いる場合の対イオンとしては、特に限定はなく、具体的には、金属、アンモニウム、アルキルアンモニウム等のイオンが挙げられる。上記金属の具体例としては、周期律表(長周期型)1A、1B、2A、2B、3A、3B、4A、6A、7A又は8族に属する金属が挙げられる。これらの中でも、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から1A族に属する金属又はアンモニウムとの塩が好ましい。
研磨液組成物中における前記酸及びその塩の含有量は、研磨速度向上、並びに研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、0.001〜5重量%が好ましく、より好ましくは0.01〜4重量%であり、さらに好ましくは0.05〜3重量%、さらにより好ましくは0.1〜2.0重量%である。
[酸化剤]
本発明の研磨液組成物は、酸化剤を含む。本発明の研磨液組成物に使用できる酸化剤としては、研磨速度向上、並びに研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、金属塩類、硝酸類、硫酸類等が挙げられる。
前記過酸化物としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム等が挙げられ、過マンガン酸又はその塩としては、過マンガン酸カリウム等が挙げられ、クロム酸又はその塩としては、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩等が挙げられ、ペルオキソ酸又はその塩としては、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸等が挙げられ、酸素酸又はその塩としては、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられ、金属塩類としては、塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、硫酸アンモニウム鉄(III)等が挙げられる。
研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から好ましい酸化剤としては、過酸化水素、硝酸鉄(III)、過酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、硫酸鉄(III)及び硫酸アンモニウム鉄(III)等が挙げられる。より好ましい酸化剤としては、表面に金属イオンが付着せず汎用に使用され安価であるという観点から過酸化水素が挙げられる。これらの酸化剤は、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
研磨液組成物中における前記酸化剤の含有量は、研磨速度向上の観点から、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上であり、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点からから、好ましくは4重量%以下、より好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。従って、表面品質を保ちつつ研磨速度を向上させるためには、上記含有量は、好ましくは0.01〜4重量%、より好ましくは0.05〜2重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。
[水]
本発明の研磨液組成物中の水は、媒体として使用されるものであり、蒸留水、イオン交換水、超純水等が挙げられる。被研磨基板の表面清浄性の観点からイオン交換水及び超純水が好ましく、超純水がより好ましい。研磨液組成物中の水の含有量は、60〜99.4重量%が好ましく、70〜98.9重量%がより好ましい。また、本発明の効果を阻害しない範囲内でアルコール等の有機溶剤を配合してもよい。
[アニオン性基を有する水溶性高分子]
本発明の研磨液組成物は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、アニオン性基を有する水溶性高分子(以下、アニオン性高分子ともいう)を含有することが好ましい。該高分子は、研磨時の摩擦振動を低減して研磨パッドの開孔部からのシリカ凝集体の脱落を防止し、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥を低減するものと推定される。
アニオン性高分子のアニオン性基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基、ホスホン酸基等が挙げられる。これらのアニオン性基は中和された塩の形態を取ってもよい。スクラッチ及びナノ突起低減の観点から、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子が好ましく、スルホン酸基を有するアニオン性高分子がより好ましい。該高分子は、研磨パッドに吸着して研磨時の摩擦振動を低減し、研磨パッドの開孔部からのシリカ凝集体の脱落を防止し、前述の複素環芳香族化合物との相乗効果によって、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥を顕著に低減するものと推定される。但し、本発明はこれらの推定メカニズムに限定されない。
本明細書において、「スルホン酸基」とはスルホン酸基及び又はその塩をいい、「カルボン酸基」とはカルボン酸基及び又はその塩をいう。これらの基が塩を形成する場合、特に限定はなく、具体的には、金属、アンモニウム、アルキルアンモニウム等との塩が挙げられる。金属の具体例としては、周期律表(長周期型)1A、1B、2A、2B、3A、3B、4A、6A、7A又は8族に属する金属等が挙げられる。これらの金属の中でも、ナノスクラッチ低減の観点から1A、3B、又は8族に属する金属が好ましく、1A族に属するナトリウム及びカリウムがより好ましい。アルキルアンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。これらの中では、アンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩がより好ましい。
本発明のスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子は、スルホン酸基を有する単量体、カルボン酸基を有する単量体等のイオン性親水基を有する単量体を重合することにより得られたものであることが好ましい。これら単量体の重合は、ランダム、ブロック、又はグラフトのいずれでも良い。
スルホン酸基を有する単量体としては、例えば、イソプレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、メタリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸基を有する単量体としては、例えば、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等が挙げられる。
また、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子には、上記以外の単量体を用いることもできる。アニオン性高分子に用いることができる他の単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸オクチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、ブタジエン、イソプレン、2−クロル−1,3−ブタジエン、1−クロル−1,3−ブタジエンなどの脂肪族共役ジエン、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物、ビニルホスホン酸、メタクロイルオキシメチルリン酸、メタクロリルオキシエチルリン酸、メタクロイルオキシブチルリン酸、メタクロリルオキシヘキシルリン酸、メタクロリルオキシオクチルリン酸、メタクロリルオキシデシルリン酸、メタクロリルオキシラウリルリン酸、メタロイルオキシステアリルリン酸、メタクロイルオキシ1、4−ジメチルシクロヘキシルリン酸などのホスホン酸化合物等が挙げられる。これら単量体は1種又は2種以上使用できる。
スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の好ましい具体例としては、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、ポリアクリル酸、(メタ)アクリル酸/イソプレンスルホン酸共重合体、(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、(メタ)アクリル酸/イソプレンスルホン酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、(メタ)アクリル酸/マレイン酸共重合体、スチレンスルホン酸のホルマリン縮合物、スチレン/イソプレンスルホン酸共重合体、並びに、下記一般式(1)及び(2)で表される構成単位のいずれか一種以上と下記一般式(3)で表される構成単位とを有する共重合体が挙げられるが、同様の観点から、ポリアクリル酸、(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、スチレンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、スチレン/イソプレンスルホン酸共重合体、並びに、下記一般式(1)及び(2)で表される構成単位のいずれか一種以上と下記一般式(3)で表される構成単位を有する共重合体がさらに好ましく、下記一般式(1)で表される構成単位と下記一般式(3)で表される構成単位とを有する共重合体であることがさらにより好ましい。
Figure 2011131346
上記一般式(1)及び(2)のR1は、共重合体の研磨パッドへの吸着量増加及び研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であって、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、又はエチル基がより好ましく、水素原子又はメチル基がさらに好ましい。上記一般式(1)のR2は、共重合体の研磨パッドへの吸着量増加及び研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、アリール基又は1つ又は複数の炭素数1〜4のアルキル基で置換されてもよいアリール基であり、フェニル基又は1つ又は複数の炭素数1〜4のアルキル基で置換されてもよいフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。なお、前記炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖構造でも分岐鎖構造でもよい。上記一般式(2)のR3は、共重合体の研磨パッドへの吸着量増加及び研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子(1/2原子)、アンモニウム若しくは有機アンモニウム、又は炭素数1〜22の炭化水素鎖であることが好ましく、炭化水素鎖の炭素数は、1〜18が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜8がさらに好ましく、1〜4がさらにより好ましい。また、炭化水素鎖としては、直鎖構造でも分岐鎖構造でもよく、アルキル基又はアルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。また、共重合体は、二種類以上の疎水性構成単位を含んでもよい。
共重合体を構成する全構成単位中に占める上記一般式(1)及び(2)で表される構成単位の含有率は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、5〜95モル%が好ましく、5〜70モル%がより好ましく、10〜60モル%がさらにより好ましく、15〜50モル%がさらにより好ましく、20〜40モル%がさらにより好ましい。
Figure 2011131346
上記一般式(3)のR4は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であって、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、又はエチル基がより好ましく、水素原子又はメチル基がさらに好ましく、メチル基がさらにより好ましい。上記一般式(3)のR5は、アニオン性高分子の研磨液組成物への溶解性向上及び研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、1又は複数のスルホン酸基を有するアリール基であり、1又は複数のスルホン酸基を有するフェニル基が好ましく、オルト、メタ、パラ位のいずれかで1つのスルホン酸基を有するフェニル基がより好ましく、パラ位でスルホン酸基を有するフェニル基がさらに好ましい。スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子は、スルホン酸基を有する構成単位を二種類以上含んでもよい。
共重合体を構成する全構成単位中に占める上記一般式(3)で表される構成単位の含有率は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、5〜95モル%が好ましく、40〜90モル%がより好ましく、50〜85モル%がさらに好ましく、60〜80モル%がさらにより好ましい。
スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子を構成する全構成単位中に占める上記一般式(1)及び(2)で表される構成単位と上記一般式(3)で表される構成単位の合計の含有率は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、70〜100モル%が好ましく、80〜100モル%がより好ましく、90〜100モル%がさらに好ましく、95〜100モル%がさらにより好ましい。
共重合体を構成する全構成単位中に占める上記一般式(1)及び(2)で表される構成単位と、上記一般式(3)で表される構成単位とのモル比(一般式(1)及び(2)で表される構成単位のモル%/一般式(3)で表される構成単位のモル%)は、研磨後の基板表面のうねりとナノ突起欠陥の低減の観点から、5/95〜95/5が好ましく、10/90〜60/40がより好ましく、15/85〜50/50がさらに好ましく、20/80〜40/60がさらにより好ましい。
[アニオン性高分子の重量平均分子量]
スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の重量平均分子量は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、500〜12万であることが好ましく、1000〜10万がより好ましく、1000〜3万がさらに好ましく、1000〜1万がさらにより好ましくは、1500〜8000がさらにより好ましい。該重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて実施例に記載の方法により測定した値である。
スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子が塩を少なくとも部分的に形成している場合、その対イオンとしては、特に限定はなく、上述の親水性構成単位の場合と同様に、金属、アンモニウム、アルキルアンモニウム等との塩が挙げられる。
研磨液組成物におけるスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の含有量は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、0.001〜1重量%が好ましく、より好ましくは0.005〜0.5重量%、さらに好ましくは0.01〜0.2重量%、さらにより好ましくは0.01〜0.1重量%、さらにより好ましくは0.01〜0.075重量%である。
また、研磨液組成物中における、研磨材とアニオン性高分子との濃度比[シリカ粒子の濃度(重量%)/アニオン性高分子の濃度(重量%)]は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、5〜5000が好ましく、10〜1000がより好ましく、25〜500がさらに好ましい。
さらに、研磨液組成物中における、複素環芳香族化合物とアニオン性高分子との濃度比[複素環芳香族化合物の濃度(重量%)/アニオン性高分子の濃度(重量%)]は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、1〜100が好ましく、2〜50がより好ましく、2.5〜25がさらに好ましい。
さらに、研磨液組成物中における、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物とアニオン性高分子との濃度比[脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物の濃度(重量%)/アニオン性高分子の濃度(重量%)]は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、0.1〜50が好ましく、0.5〜10がより好ましく、1〜5がさらに好ましい。
[コロイダルシリカ]
研磨材としてシリカ粒子を使用する一実施形態について説明する。本発明の研磨液組成物に用いられるシリカ粒子は、例えばコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、表面修飾したシリカ等が挙げられるが、研磨後の基板のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、コロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカは、1種類からなるものであっても、2種類以上のコロイダルシリカを混合したものであってもよい。
研磨材として使用するコロイダルシリカは、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減の観点から、次の3つの条件を全て満たすことが好ましい。
a)ΔCV値が0〜10%、
b)CV90が1〜35%、かつ、
c)散乱強度分布に基づく平均粒径が1〜40nm。
〔ΔCV値〕
本明細書においてコロイダルシリカのΔCV値は、動的光散乱法により検出角30°(前方散乱)の散乱強度分布に基づき測定される粒径の標準偏差を、動的光散乱法により検出角30°の散乱強度分布に基づき測定される平均粒径で除して100を掛けた変動係数(CV)の値(CV30)と、動的光散乱法により検出角90°(側方散乱)の散乱強度分布に基づき測定される粒径の標準偏差を、動的光散乱法により検出角90°の散乱強度分布に基づき測定される平均粒径で除して100を掛けた変動係数の値(CV90)との差(ΔCV=CV30−CV90)をいい、動的光散乱法により測定される散乱強度分布の角度依存性を示す値をいう。ΔCV値は、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
コロイダルシリカのΔCV値とスクラッチ数との間には相関関係があり、及びコロイダルシリカのΔCV値と非球状シリカの含有量との間に相関関係がある。ΔCV値の設定によるスクラッチ低減のメカニズムは明らかではないが、コロイダルシリカの一次粒子が凝集して生じた50〜200nmのシリカ凝集体(非球状シリカ)がスクラッチ発生の原因物質であり、かかる凝集体が少ないためスクラッチが低減されると推定される。
すなわち、ΔCV値に着目することで、従来では検出することが困難であった粒子分散液試料中の非球状粒子の存在を容易に検出できるから、そのような非球状粒子を含む研磨液組成物を使用することを回避でき、その結果、スクラッチのさらなる低減を達成できると考えられる。
ここで、粒子分散液試料中の粒子が球状か非球状かは、一般に、動的光散乱法により測定される拡散係数(D=Γ/q2)の角度依存性を指標とする方法(例えば、特開平10−195152号公報参照)により判断されている。具体的には散乱ベクトルq2に対するΓ/q2をプロットしたグラフにおいて示される角度依存性が小さいほどその分散液中の粒子の平均的な形状は真球状であると判断し、角度依存性が大きいほどその分散液中の粒子の平均的な形状は非球状であると判断される。すなわち、この、動的光散乱法により測定される拡散係数の角度依存性を指標とする従来の方法は、系全体で均一の粒子が分散していると仮定して粒子の形状や粒径等を検出・測定する方法である。それゆえ、球状粒子が大勢を占める分散液試料中の一部に存在する非球状粒子は検出が困難となる。
一方、動的光散乱法では、原理的に200nm以下の真球状粒子分散溶液を測定した場合、散乱強度分布は検出角に関係なくほぼ一定の結果が得られるため測定結果は検出角に依存しない。しかし、非球状粒子を含む真球状粒子分散溶液の動的光散乱の散乱強度分布は非球状粒子の存在により検出角によって大きく変化し、低角の検出角ほど散乱強度分布は分布がブロードになる。そのため、動的光散乱の散乱強度分布の測定結果は検出角に依存することとなり、「動的光散乱法により測定される散乱強度分布の角度依存性」の指標の1つであるΔCV値を測定することで、球状粒子分散溶液中に存在するわずかな非球状粒子を測定できると考えられる。なお、本発明はこれらのメカニズムに限定されない。
〔散乱強度分布〕
本明細書に尾いて「散乱強度分布」とは、動的光散乱法(DLS:Dynamic Light Scattering)又は準弾性光散乱(QLS:Quasielastic Light Scattering)により求められるサブミクロン以下の粒子の3つの粒径分布(散乱強度、体積換算、個数換算)のうち散乱強度の粒径分布のことをいう。通常、サブミクロン以下の粒子は溶媒中でブラウン運動をしており、レーザー光を照射すると散乱光強度が時間的に変化する(ゆらぐ)。この散乱光強度のゆらぎを、例えば、光子相関法(JIS Z 8826)を用いて自己相関関数を求め、キュムラント(Cumulant)法解析により、ブラウン運動速度を示す拡散係数(D)を算出して、さらにアインシュタイン・ストークスの式を用い、平均粒径(d:流体力学的径)を求めることができる。また、粒径分布解析は、キュムラント法による多分散性指数(Polydispersity Index, PI)のほかに、ヒストグラム法(Marquardt法)、ラプラス逆変換法(CONTIN法)、非負最小2乗法(NNLS法)等がある。
動的光散乱法の粒径分布解析では、通常、キュムラント法による多分散性指数(Polydispersity Index, PI)が広く用いられている。しかしながら、粒子分散液中にわずかに存在する非球状粒子の検出を可能とする検出方法においては、ヒストグラム法(Marquardt法)やラプラス逆変換法(CONTIN法)による粒径分布解析から平均粒径(d50)と標準偏差を求め、CV値(Coefficient of variation:標準偏差を平均粒径で割って100をかけた数値)を算出し、その角度依存性(ΔCV値)を用いることが好ましい。
(参考資料)
第12回散乱研究会(2000年11月22日開催)テキスト、1.散乱基礎講座「動的光散乱法」(東京大学 柴山充弘)
第20回散乱研究会(2008年12月4日開催)テキスト、5.動的光散乱によるナノ粒子の粒径分布測定(同志社大学 森康維)
〔散乱強度分布の角度依存性〕
本明細書において「粒子分散液の散乱強度分布の角度依存性」とは、動的光散乱法により異なる検出角で前記粒子分散液の散乱強度分布を測定した場合の、散乱角度に応じた散乱強度分布の変動の大きさをいう。例えば、検出角30°と検出角90°とでの散乱強度分布の差が大きければ、その粒子分散液の散乱強度分布の角度依存性は大きいといえる。よって、本明細書において、散乱強度分布の角度依存性の測定は、異なる2つの検出角で測定した散乱強度分布に基づく測定値の差(ΔCV値)を求めることを含む。
散乱強度分布の角度依存性の測定で用いる2つの検出角の組合せとしては、非球状粒子の検出の確度向上の点からは、前方散乱と側方若しくは後方散乱との組合せが好ましい。前記前方散乱の検出角としては、同様の観点から、0〜80°が好ましく、0〜60°がより好ましく、10〜50°がさらに好ましく、20〜40°がさらにより好ましい。前記側方若しくは後方散乱の検出角としては、同様の観点から、80〜180°が好ましく、85〜175°がより好ましい。本発明においては、ΔCV値を求める2つの検出角として30°と90°を使用している。
本発明に使用されるコロイダルシリカのΔCV値は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥を低減する観点から、0〜10%が好ましく、より好ましくは0〜9%、さらに好ましくは0〜7%、さらにより好ましくは0〜5%である。また、研磨液組成物の生産性の向上の観点から、ΔCV値は、0.001%以上が好ましく、0.01%以上がさらに好ましい。
〔CV値〕
本発明に使用されるコロイダルシリカのCV値(CV90)は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥を低減する観点から、1〜35%が好ましく、より好ましくは5〜34%、さらに好ましくは10〜33%である。ここで、CV値とは、動的光散乱法において散乱強度分布に基づく標準偏差を平均粒径で除して100を掛けた変動係数の値であって、本明細書では特に、検出角90°(側方散乱)で測定されるCV値をCV90、検出角30°(前方散乱)で測定されるCV値をCV30という。コロイダルシリカのCV値は、具体的には実施例に記載の方法により得ることができる。
〔散乱強度分布に基づく平均粒径〕
本明細書における「コロイダルシリカの平均粒径」とは、特に言及のない場合、動的光散乱法において検出角90°で測定される散乱強度分布に基づく平均粒径をいう(以下、「散乱強度分布に基づく平均粒径」ともいう)。また、場合によっては、後述するとおり、透過型電子顕微鏡観察により測定される平均粒径(S2)も使用する。コロイダルシリカの平均粒径は、それぞれ、具体的には実施例に記載の方法により得ることができる。
コロイダルシリカの散乱強度分布に基づく平均粒径は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥を低減する観点から、1〜40nmが好ましく、より好ましくは5〜37nm、さらに好ましくは10〜35nmである。
コロイダルシリカのΔCV値の調整方法としては、研磨液組成物の調製で50〜200nmのシリカ凝集物(非球状シリカ)を生成しないようにする下記の方法が挙げられる。
A)研磨液組成物のろ過による方法
B)コロイダルシリカ製造時の工程管理による方法
上記A)では、例えば、遠心分離や精密フィルターろ過(特開2006‐102829及び特開2006‐136996)により、50〜200nmのシリカ凝集体を除去することでΔCV値を低減できる。具体的には、シリカ濃度20重量%以下になるように適度に希釈したコロイダルシリカ水溶液を、stokesの式より算出した50nm粒子が除去できる条件(例えば、10,000G以上、遠沈管高さ約10cm、2時間以上)で遠心分離する方法や、孔径が0.05μm又は0.1μmのメンブランフィルター(例えば、アドバンテック、住友3M、Millipore)を用いて加圧ろ過する方法等によりΔCV値を低減できる。
また、コロイダルシリカ粒子は、通常、1)10重量%未満の3号ケイ酸ソーダと種粒子(小粒径シリカ)の混合液(シード液)を反応層に入れ、60℃以上に加熱し、2)そこに3号ケイ酸ソーダを陽イオン交換樹脂に通した酸性の活性ケイ酸水溶液とアルカリ(アルカリ金属又は第4級アンモニウム)とを滴下してpHを一定にして球状の粒子を成長させ、3)熟成後に蒸発法や限外ろ過法で濃縮することで得られる(特開昭47−1964、特公平1−23412、特公平4−55125、特公平4−55127)。しかし、同じ製造プロセスで少し工程を変えると非球状粒子の製造も可能であることが多く報告されている。たとえば、活性ケイ酸は非常に不安定なため意図的にCaやMgなどの多価金属イオンを添加すると細長い形状のシリカゾルを製造できる。さらに、反応層の温度(水の沸点を越えると蒸発し気液界面でシリカが乾燥)、反応層のpH(9以下ではシリカ粒子の連結が起きやすい)、反応層のSiO2/M2O(Mはアルカリ金属又は第4級アンモニウム)、及びモル比(30〜60で非球状シリカを選択的に生成)などを変えることで非球状シリカが製造できる(特公平8−5657、特許2803134、特開2006−80406、特開2007−153671)。したがって、上記B)では、公知の球状コロイダルシリカ製造プロセスにおいて、局部的に非球状シリカが生成する条件にならないように工程管理を行うことでΔCV値を小さく調整することができる。
コロイダルシリカの粒径分布を調整する方法は、特に限定されないが、その製造段階における粒子の成長過程で新たな核となる粒子を加えることにより所望の粒径分布を持たせる方法や、異なる粒径分布を有する2種以上のシリカ粒子を混合して所望の粒径分布を持たせる方法等が挙げられる。
さらに、コロイダルシリカは、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥を低減する観点から、下記d)〜f)の規定をすべて満たすことが好ましい。
d)透過型電子顕微鏡観察により測定される真球率が0.75〜1、
e)ナトリウム滴定法により測定される比表面積(SA1)と透過型電子顕微鏡観察により測定される平均粒径(S2)から換算される比表面積(SA2)とから算出される表面粗度(SA1/SA2)の値が1.3以上、かつ、
f)前記平均粒径(S2)が1〜40nm。
〔真球率〕
本明細書においてコロイダルシリカの透過型電子顕微鏡観察により測定される真球率は、透過型電子顕微鏡により得られるシリカ粒子一個の投影面積(A1)と該粒子の周長を円周とする円の面積(A2)との比、すなわち、「A1/A2」の値であって、好ましくは、本発明の研磨液組成物における任意の50〜100個のコロイダルシリカについての「A1/A2」の値の平均値をいう。コロイダルシリカの真球率は、具体的には、実施例に記載の方法により測定されうる。研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥を低減する観点から、本発明の研磨液組成物に使用されるコロイダルシリカの真球率は、好ましくは0.75〜1であり、0.75〜0.95がより好ましく、0.75〜0.85がさらに好ましい。
〔表面粗度〕
本明細書においてコロイダルシリカの表面粗度は、ナトリウム滴定法により測定される比表面積(SA1)と、透過型電子顕微鏡観察により測定される平均粒径(S2)から換算される比表面積(SA2)との比である「SA1/SA2」の値をいい、具体的には、実施例に記載の方法により測定される。ここで、ナトリウム滴定法により測定される比表面積(SA1)は、シリカに対して水酸化ナトリウム溶液を滴定したときの水酸化ナトリウム溶液の消費量からシリカの比表面積を求めるものであり、実際の表面積を反映したものと言える。具体的には、シリカ表面に起伏又は疣状突起などに富むものである程、比表面積(SA1)は大きくなる。一方、透過型電子顕微鏡により測定される平均粒径(S2)から算出される比表面積(SA2)はシリカを理想的な球状粒子と仮定し、算出される。具体的には平均粒径(S2)が大きいほど、比表面積(SA2)は小さくなる。比表面積は単位質量あたりの表面積を示すものであって、表面粗度(SA1/SA2)の値については、シリカが球状であって、シリカ表面に多くの疣状突起を有する程、大きい値を示し、シリカ表面の疣状突起が少なく、平滑である程、小さい値を示し、その値は1に近づく。本発明の研磨液組成物に使用されるコロイダルシリカの表面粗度は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥を低減する観点から、好ましくは1.3以上であり、1.3〜2.5がより好ましく、1.3〜2.0がさらに好ましい。
〔透過型電子顕微鏡観察により測定される平均粒径(S2)〕
透過型電子顕微鏡観察により測定される平均粒径(S2)は、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥を低減する観点から、好ましくは1〜40nmであり、より好ましくは5〜37nm、さらに好ましくは10〜35nmである。
シリカ粒子の真球率、表面粗度(SA1/SA2)及び平均粒径(S2)は、従来公知のシリカ粒子の製造方法を用いて調整することができる。例えば、特開2008−137822号公報、特開2008−169102号公報に記載の製造方法を例示することができるが、本発明はこれに限定されない。
[その他の成分]
本発明の研磨液組成物には、必要に応じて他の成分を配合することができる。他の成分としては、増粘剤、分散剤、防錆剤、塩基性物質、界面活性剤等が挙げられる。研磨液組成物中のこれら他の任意成分の含有量は、0〜10重量%が好ましく、0〜5重量%がより好ましい。但し、本発明の研磨液組成物は、他の成分、とりわけ界面活性剤を含むことなく、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥の低減効果を発揮し得る。さらに、本発明の研磨液組成物は、アルミナ砥粒を含ませることができ、最終研磨工程より前の粗研磨工程に使用することもできる。
[研磨液組成物のpH]
本発明の研磨液組成物のpHは、研磨速度向上の観点から3.5以下が好ましく、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.5以下、さらにより好ましくは2.0以下である。また研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥を低減する観点から、0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.0以上、さらにより好ましくは1.2以上である。また、研磨液組成物の廃液pHは、研磨速度向上の観点から3以下が好ましく、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.2以下、さらにより好ましくは2.0以下である。また、研磨後の基板表面のスクラッチ及びナノ突起欠陥を低減する観点から、研磨液組成物の廃液pHは、0.8以上が好ましく、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.2以上、さらにより好ましくは1.5以上である。なお、廃液pHとは、研磨液組成物を用いた研磨工程における研磨廃液、即ち、研磨機より排出された直後の研磨液組成物のpHをいう。
[研磨液組成物の調製方法]
本発明の研磨液組成物は、例えば、研磨材、酸、酸化剤、複素環芳香族化合物、脂肪族アミン化合物、及び水を、さらに所望により他の成分を含めて、公知の方法で混合することにより調製できる。この際、研磨材は、濃縮されたスラリーの状態で混合されてもよいし、水等で希釈してから混合されてもよい。本発明の研磨液組成物中における各成分の含有量や濃度は、上述した範囲であるが、その他の態様として、本発明の研磨液組成物を濃縮物として調製してもよい。
[被研磨基板]
本発明の研磨液組成物が研磨の対象とする被研磨基板は、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板である。本発明の研磨液組成物をNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板の研磨に使用することで、研磨後の基板表面のスクラッチの低減とともに、従来の予測を超えた効果である研磨後の基板表面のナノ突起欠陥の低減という効果を奏する。
[磁気ディスク基板の製造方法]
本発明は、その他の態様として、磁気ディスク基板の製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう。)に関する。本発明の製造方法は、上述した本発明の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程(以下、本発明の研磨液組成物を用いた研磨工程ともいう。)を含む磁気ディスク基板の製造方法である。これにより、研磨後の基板表面のスクラッチに加えて、研磨後の基板表面のナノ突起欠陥が低減された磁気ディスク基板を好ましくは提供できる。本発明の製造方法は、とりわけ、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造方法に適している。よって、本発明の製造方法は、その他の態様として、本発明の研磨液組成物を用いた研磨工程を含む垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造方法である。
本発明の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する方法の具体例としては、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本発明の研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨する方法が挙げられる。
被研磨基板の研磨工程が多段階で行われる場合は、本発明の研磨液組成物を用いた研磨工程は2段階目以降に行われるのが好ましく、最終研磨工程で行われるのがより好ましい。その際、前工程の研磨材や研磨液組成物の混入を避けるために、それぞれ別の研磨機を使用してもよく、またそれぞれ別の研磨機を使用した場合では、研磨工程毎に被研磨基板を洗浄することが好ましい。なお、研磨機としては、特に限定されず、磁気ディスク基板研磨用の公知の研磨機が使用できる。
[研磨パッド]
本発明で使用される研磨パッドとしては、特に制限はなく、スエードタイプ、不織布タイプ、ポリウレタン独立発泡タイプ、又はこれらを積層した二層タイプ等の研磨パッドを使用することができるが、研磨速度の観点から、スエードタイプの研磨パッドが好ましい。
研磨パッドの表面部材の平均気孔径は、スクラッチ低減及びパッド寿命の観点から、50μm以下が好ましく、より好ましくは45μm以下、さらに好ましくは40μm以下、さらにより好ましくは35μm以下である。パッドの研磨液保持性の観点から、気孔で研磨液を保持し液切れを起こさないようにするために、平均気孔径は0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは1μm以上、さらにより好ましくは10μm以上である。また、研磨パッドの気孔径の最大値は、研磨速度維持の観点から、100μm以下が好ましく、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは60μm以下、特に好ましくは50μm以下である。
[研磨荷重]
本発明の研磨液組成物を用いた研磨工程における研磨荷重は、好ましくは5.9kPa以上、より好ましくは6.9kPa以上、さらに好ましくは7.5kPa以上である。これにより、研磨速度の低下を抑制できるため、生産性の向上が可能となる。なお、本発明の製造方法において研磨荷重とは、研磨時に被研磨基板の研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。また、本発明の研磨液組成物を用いた研磨工程において、研磨荷重は20kPa以下が好ましく、より好ましくは18kPa以下、さらに好ましくは16kPa以下である。これにより、スクラッチの発生を抑制することができる。したがって、本発明の研磨液組成物を用いた研磨工程において研磨荷重は5.9〜20kPaが好ましく、6.9〜18kPaがより好ましく、7.5〜16kPaがさらに好ましい。研磨荷重の調整は、定盤及び被研磨基板のうち少なくとも一方に空気圧や重りを負荷することにより行うことができる。
[研磨液組成物の供給]
本発明の研磨液組成物を用いた研磨工程における本発明の研磨液組成物の供給速度は、スクラッチ低減の観点から、被研磨基板1cm2当たり、好ましくは0.05〜15mL/分であり、より好ましくは0.06〜10mL/分であり、さらに好ましくは0.07〜1mL/分、さらにより好ましくは0.08〜0.5mL/分、さらにより好ましくは0.12〜0.5mL/分である。
本発明の研磨液組成物を研磨機へ供給する方法としては、例えばポンプ等を用いて連続的に供給を行う方法が挙げられる。研磨液組成物を研磨機へ供給する際は、全ての成分を含んだ1液で供給する方法の他、研磨液組成物の安定性等を考慮して、複数の配合用成分液に分け、2液以上で供給することもできる。後者の場合、例えば供給配管中又は被研磨基板上で、上記複数の配合用成分液が混合され、本発明の研磨液組成物となる。
また、本発明によれば、研磨後の基板表面のスクラッチに加えて、研磨後の基板表面のナノ突起欠陥が低減された磁気ディスク基板を提供できるため、高度の表面平滑性が要求される垂直磁気記録方式の磁気ディスク基板の研磨に好適に用いることができる。
上記被研磨基板の形状には特に制限はなく、例えば、ディスク状、プレート状、スラブ状、プリズム状等の平面部を有する形状や、レンズ等の曲面部を有する形状であればよい。中でも、ディスク状の被研磨基板が適している。ディスク状の被研磨基板の場合、その外径は例えば2〜95mm程度であり、その厚みは例えば0.5〜2mm程度である。
[研磨方法]
本発明は、その他の態様として、上述した研磨液組成物を研磨パッドに接触させながら被研磨基板を研磨することを含む被研磨基板の研磨方法に関する。本発明の研磨方法を使用することにより、研磨後の基板表面のスクラッチに加えて、研磨後の基板表面のナノ突起欠陥が低減された磁気ディスク基板、特に垂直磁気記録方式の磁気ディスク基板が好ましくは提供される。本発明の研磨方法における前記被研磨基板としては、上述のとおり、磁気ディスク基板や磁気記録用媒体の基板の製造に使用されるものが挙げられ、なかでも、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造に用いる基板が好ましい。なお、具体的な研磨の方法及び条件は、上述のとおりとすることができる。
[実施例1〜27、及び比較例1〜11]
実施例1〜27、及び比較例1〜11の研磨液組成物を調製して被研磨基板の研磨を行い、研磨後の基板のスクラッチ及びナノ突起欠陥を評価した。評価結果を下記表1に示す。使用した重合体、研磨液組成物の調製方法、各パラメータの測定方法、研磨条件(研磨方法)及び評価方法は以下のとおりである。なお、下記表1において、BTAは1H−ベンゾトリアゾール、AEEAはN−アミノエチルエタノールアミン、DETAはジエチレントリアミン、TETAはトリエチレントリアミン、TEPAはテトラエチレンペンタミン、PEHAはペンタエチレンヘキサミン、PEIはポリエチレンイミン(分子量600)を示す。
[アニオン性基を有する高分子]
研磨液組成物に使用したアニオン性高分子は下記のA〜C−3である。なお、Bについては下記の方法により製造した。また、これらの重合体の重量平均分子量は下記の条件で測定した。
<アニオン性高分子>
A:アクリル酸/アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体ナトリウム塩(モル比90/10、重量平均分子量2000、東亞合成社製)
B:スチレン/スチレンスルホン酸共重合体ナトリウム塩(モル比33/67、重量平均分子量10000、下記の方法により製造)
C−1:ポリアクリル酸ナトリウム塩(重量平均分子量2000、東亞合成社製)
C−2:ポリアクリル酸ナトリウム塩(重量平均分子量6000、東亞合成社製)
C−3:ポリアクリル酸ナトリウム塩(重量平均分子量20000、花王社製)
〔スチレン/スチレンスルホン酸共重合体ナトリウム塩の製造方法〕
1Lの四つ口フラスコに、イソプロピルアルコール180g(キシダ化学製)、イオン交換水270g、スチレン10g(キシダ化学製)、スチレンスルホン酸ナトリウム40g(和光純薬工業製)を仕込み、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩7.2g(V−50、和光純薬工業製)を反応開始剤として、83±2℃で2時間滴下重合し、更に2時間熟成を行い、その後、減圧下で溶剤を除去することで、白色粉の重合体Bを得た。
[重合体の重量平均分子量の測定方法]
上記の重合体の重量平均分子量は、下記測定条件におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した。
〔AA/AMPS及びPAAのGPC条件〕
カラム :TSKgel G4000PWXL+TSKgel G2500PWXL(東ソー製)
ガードカラム:TSKguardcolumn PWXL(東ソー製)
溶離液 :0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1(体積比)
温度 :40℃
流速 :1.0mL/min
試料サイズ:5mg/mL
検出器 :RI
換算標準 :ポリアクリル酸Na(分子量(Mp):11.5万、2.8万、4100、1250(創和科学及びAmerican Polymer Standards Corp.製))
〔St/SSのGPC条件〕
カラム :TSKgel α−M+TSKgel α−M(東ソー製)
ガードカラム:TSKguardcolumn α(東ソー製)
溶離液 :60mmol/L リン酸,50mmol/L LiBr/DMF
温度 :40℃
流速 :1.0mL/min
試料サイズ:5mg/mL
検出器 :RI
換算標準 :ポリスチレン(分子量(Mw):590、3600、3万、9.64万、92.9万、842万(東ソー、西尾工業、及びchemco社製))
[研磨液組成物の調製方法]
下記表1に記載の複素環芳香族化合物、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物、コロイダルシリカ(日揮触媒化成社製)、及びアニオン性高分子、並びに、酸(硫酸)及び酸化剤(過酸化水素)を用いて実施例1〜27、及び比較例1〜11の研磨液組成物を調製した。なお、コロイダルシリカ濃度は5重量%、アニオン性高分子の添加量は0.05重量%とした。また、硫酸の濃度は0.5重量%としたが、実施例26、27、及び比較例9では、それぞれ、0.3重量%、0.2重量%、及び0.1重量%とした。なお、比較例1では硫酸に換えて、オルトリン酸2.0重量%及びK2HPO40.8重量%を使用した。比較例10及び11では硫酸は使用しておらず、比較例11では、NaOH0.05重量%を使用した。過酸化水素は、比較例8以外の全ての実施例・比較例において、0.4重量%で使用した。
コロイダルシリカの散乱強度分布に基づく平均粒径、CV90、及びΔCVは下記方法で測定した。
[動的光散乱法で測定されるシリカ粒子の平均粒径、CV90、ΔCV値の測定方法]
〔平均粒径及びCV90〕
コロイダルシリカと、硫酸と、過酸化水素水とをイオン交換水に添加し、これらを混合することにより、標準試料を作製した。標準試料中におけるコロイダルシリカ、硫酸、過酸化水素の含有量は、それぞれ5.0重量%、0.5重量%、0.4重量%であった。この標準試料を大塚電子社製動的光散乱装置DLS−6500により、同メーカーが添付した説明書に従って、200回積算した際の検出角90°におけるCumulant法によって得られる散乱強度分布の面積が全体の50%となる粒径を求め、シリカ粒子の平均粒径とした。また、検出角90°におけるコロイダルシリカのCV値(CV90)を、上記測定法に従って測定した散乱強度分布における標準偏差を前記平均粒径で除して100をかけた値として算出した。
〔ΔCV値〕
上記CV90の測定法と同様に、検出角30°におけるコロイダルシリカのCV値(CV30)を測定し、CV30からCV90を引いた値を求め、シリカ粒子のΔCV値とした。
(DLS−6500の測定条件)
検出角:90°
Sampling time : 4(μm)
Correlation Channel : 256(ch)
Correlation Method : TI
Sampling temperature: 26.0(℃)
検出角:30°
Sampling time : 10(μm)
Correlation Channel : 1024(ch)
Correlation Method : TI
Sampling temperature: 26.0(℃)
[研磨]
上記のように調製した実施例1〜27及び比較例1〜11の研磨液組成物を用いて、以下に示す研磨条件にて下記被研磨基板を研磨した。次いで、研磨された基板のナノ突起欠陥、及びスクラッチを以下に示す条件に基づいて測定し、評価を行った。結果を下記表1に示す。下記表1に示すデータは、各実施例及び各比較例につき4枚の被研磨基板を研磨した後、各被研磨基板の両面について測定し、4枚(表裏合わせて計8面)のデータの平均とした。
[被研磨基板]
被研磨基板としては、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板を予めアルミナ研磨材を含有する研磨液組成物で粗研磨した基板を用いた。なお、この被研磨基板は、厚さが1.27mm、外径が95mm、内径が25mmであり、AFM(Digital Instrument NanoScope IIIa Multi Mode AFM)により測定した中心線平均粗さRaが1nm、長波長うねり(波長0.4〜2mm)の振幅は2nm、短波長うねり(波長50〜400μm)の振幅は2nmであった。
[研磨条件]
研磨試験機:スピードファム社製「両面9B研磨機」
研磨パッド:フジボウ社製スエードタイプ(厚さ0.9mm、平均開孔径30μm)
研磨液組成物供給量:100mL/分(被研磨基板1cm2あたりの供給速度:0.072mL/分)
下定盤回転数:32.5rpm
研磨荷重:7.9kPa
研磨時間:8分間
[研磨速度の測定方法]
研磨前後の各基板の重さを重量計(Sartorius社製「BP−210S」)を用いて測定し、各基板の重量変化を求め、10枚の平均値を重量減少量とし、それを研磨時間で割った値を重量減少速度とした。この重量減少速度を下記の式に導入し、研磨速度(μm/min)に変換した。
研磨速度(μm/min)=重量減少速度(g/min)/基板片面面積(mm2)/Ni−Pメッキ密度(g/cm3)×106
(基板片面面積:6597mm2、Ni−Pメッキ密度:7.99g/cm3として算出)
[ナノ突起欠陥及びスクラッチの評価方法]
測定機器:KLA Tencor社製、OSA6100
評価:研磨試験機に投入した基板の中、無作為に4枚を選択し、各々の基板を10000rpmにてレーザーを照射してナノ突起欠陥及びスクラッチを測定した。その4枚の基板の各々両面にあるスクラッチ数(本)の合計を8で除して、基板面当たりのナノ突起欠陥及びスクラッチの数を算出した。その結果を、下記表1に、比較例1を100とした相対値として示す。なお、下記表1において、「測定不能」とは、研磨速度が低いために粗研磨で発生した傷や研磨剤残渣が除去しきれなかったことに起因し、ナノ突起欠陥又はスクラッチの数が測定上限を超えたことを示す。
Figure 2011131346
上記表1に示すように、実施例1〜27の研磨液組成物を用いると、比較例1〜11に比べ、研磨後の基板のスクラッチに加えて、基板表面のナノ突起を低減できた。
本発明によれば、例えば、高記録密度化に適した磁気ディスク基板を提供できる。

Claims (5)

  1. 研磨材、酸、酸化剤、複素環芳香族化合物、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物、及び水を含有し、前記複素環芳香族化合物は複素環内に窒素原子を2個以上含み、前記脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物は分子内に窒素原子を2〜4個含む、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板用の研磨液組成物。
  2. 前記複素環芳香族化合物が、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,2,5−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,5−チアジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、3-アミノピラゾール、4−アミノピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、ピラゾール、2−アミノイミダゾール、4−アミノイミダゾール、5−アミノイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、1,2,3−トリアゾール、4−アミノー1,2,3−トリアゾール、5−アミノー1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノー1,2,4−トリアゾール、5−アミノー1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、1H−テトラゾール、5−アミノテトラゾール、1H−ベンゾトリアゾール、1H−トリルトリアゾール、2−アミノベンゾトリアゾール、3−アミノベンゾトリアゾール及びこられのアルキル置換体からなる群から選択される、請求項1記載のNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板用研磨液組成物。
  3. 前記脂肪族アミン化合物が、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、N−アミノエチルイソプロパノールアミン、N−アミノエチル−N−メチルエタノールアミン、エチレントリアミン、及びトリエチレンテトラミンからなる群から選択され、前記脂環式アミン化合物が、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2、5−ジメチルピペラジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン、N−メチルピペラジン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、及びヒドロキシエチルピペラジンからなる群から選択される、請求項1又は2記載のNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板用研磨液組成物。
  4. さらに、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子を含有する、請求項1から3のいずれかに記載のNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板用研磨液組成物。
  5. 請求項1から4のいずれかに記載のNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板用研磨液組成物を用いてNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板を研磨する工程を有する、磁気ディスク基板の製造方法。
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