本発明の一態様の概要は以下の通りである。
本発明の一態様である窒化物半導体層成長用構造は、m面を成長面とするサファイア基板と、前記サファイア基板の前記成長面上に形成された複数のリッジ状の窒化物半導体層とを備え、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層のそれぞれの間に配置される凹部の底面は前記サファイア基板のm面であり、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の成長面はm面であり、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の延びる方向と前記サファイア基板のc軸とのなす角度の絶対値が0度以上35度以下である。
前記角度の絶対値は、0度より大きくてもよい。
前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の延びる方向と平行な側面と前記m面とのなす当該リッジ状の窒化物半導体層内側の角度が0度より大きく150度より小さくてもよい。
前記サファイア基板と前記窒化物半導体層との界面を基準とした前記底面の深さは0nmを越え150nm以下であってもよい。
本発明の他の一態様である窒化物半導体層成長用構造は、m面を成長面とするサファイア基板と、前記サファイア基板の前記成長面上に形成された複数のリッジ状の窒化物半導体層とを備え、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層のそれぞれの間に配置される凹部の底面は前記サファイア基板のm面であり、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の成長面はm面であり、前記サファイア基板と前記窒化物半導体層との界面を基準とした前記底面の深さは0nm以上150nm以下である。
前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の延びる方向と前記サファイア基板のc軸とのなす角度は0°以上10°以下であってもよい。
本発明の他の一態様である窒化物半導体層成長用構造は、成長面を有する基板と、前記基板とは異なる結晶構造を有し、前記成長面上に形成された複数のリッジ状の窒化物半導体層とを備え、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層のそれぞれの間に配置される凹部の底面には前記基板が露出し、前記複数のリッジ状窒化物半導体層の成長面は非極性面または半極性面であり、前記複数のリッジ状窒化物半導体層のc軸を前記基板の前記成長面に正射影した第1の方向において、前記基板と前記複数のリッジ状窒化物半導体層との間の格子不整合度は2%以上であり、前記成長面内において前記第1の方向と垂直な第2の方向において、前記基板と前記複数のリッジ状窒化物半導体層との間の格子不整合度は10%以上であり、前記基板と前記複数のリッジ状窒化物半導体層との界面を基準とした前記底面の深さは0nm以上150nm以下である。
前記第1の方向における格子不整合度は10%未満であってもよい。
前記基板の格子面間隔をds、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の面間隔をdg、前記格子不整合度をM(%)とした場合、前記格子不整合度M(%)は下記(式1)、
M(%)=100(dg-ds)/ds (式1)
によって表されるものであってもよい。
前記基板は、m面を前記成長面とするサファイア基板であって、前記複数のリッジ状窒化物半導体層の成長面は(11-22)面であってもよい。
前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の底面における幅をL幅、前記凹部の底面における幅をS幅とした場合、S幅/(L幅+S幅)の値が0.6以上1未満であってもよい。
前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の上面にはマスクが設けられていなくてもよい。
前記L幅が0.1μm以上10μm以下であり、前記S幅が0.15μm以上30μm以下であり、S幅/(L幅+S幅)の値が0.6以上0.996以下であってもよい。
前記L幅が0.1μm以上10μm以下であり、S幅が30μm以上300μm以下であり、S幅/(L幅+S幅)の値が0.75以上1未満であってもよい。
前記L幅が1μm以上5μm以下であり、S幅が30μm以上300μm以下であり、S幅/(L幅+S幅)の値が0.857以上1未満であってもよい。
前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の延びる方向と平行な側面と前記基板または前記サファイア基板の成長面とのなす当該リッジ状の窒化物半導体層内側の角度が0°より大きく150°より小さくてもよい。
前記基板または前記サファイア基板の成長面と前記リッジ状の窒化物半導体層との間に配置されたAlxGayInzN(0≦x,y,z≦1、x+y+z=1)から構成されるバッファ層を備えていてもよい。
前記バッファ層は、前記凹部の底面または側面上に存在しなくてもよい。
前記バッファ層は、AlNからなるものであってもよい。
本発明の他の一態様である積層構造は、上記いずれかに記載の窒化物半導体層成長用構造と、前記窒化物半導体層成長用構造における複数のリッジ状の窒化物半導体層に接する窒化物半導体層とを備える。
本発明の他の一態様である積層構造は、上記いずれかに記載の窒化物半導体層成長用構造と、前記窒化物半導体層成長用構造における複数のリッジ状の窒化物半導体層の上面に接する窒化物半導体層とを備える。
本発明の他の一態様である窒化物系半導体発光素子は、上記いずれかに記載の積層構造を備える。
本発明の他の一態様である光源は、上記窒化物系半導体発光素子と、前記窒化物系半導体発光素子から放射された光の波長を変換する蛍光物質を含む波長変換部とを備える。
本発明の他の一態様である積層構造の製造方法は、成長面を有する基板を用意する工程(a)と、前記成長面上に窒化物半導体膜を成長させる工程(b)と、前記窒化物半導体膜を貫通する複数の凹部を形成することにより、複数のリッジ状窒化物半導体層を形成する工程(c)と、前記複数のリッジ状窒化物半導体層を起点として窒化物半導体層を成長させる工程(d)とを含む積層構造の製造方法であって、前記複数のリッジ状窒化物半導体層の成長面は非極性面または半極性面であり、前記複数のリッジ状窒化物半導体層のc軸を前記基板の前記成長面に正射影した第1の方向において、前記基板と前記複数のリッジ状窒化物半導体層との間の格子不整合度は2%以上であり、前記成長面内において前記第1の方向と垂直な第2の方向において、前記基板と前記複数のリッジ状窒化物半導体層との間の格子不整合度は10%以上であり、前記工程(c)では、前記複数の凹部の底面に前記基板が露出し、前記基板と前記複数のリッジ状窒化物半導体層との界面を基準とした前記凹部の底面の深さが0nm以上150nm以下になるように、前記複数の凹部を形成する。
本発明の他の一態様である積層構造の製造方法は、m面を成長面とするサファイア基板を用意する工程(a)と、前記成長面上に窒化物半導体膜を成長させる工程(b)と、前記窒化物半導体膜を貫通する複数の凹部を形成することにより、複数のリッジ状窒化物半導体層を形成する工程(c)と、前記複数のリッジ状窒化物半導体層を起点として窒化物半導体層を成長させる工程(d)とを含む積層構造の製造方法であって、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層のそれぞれの間に配置される凹部の底面は前記サファイア基板のm面であり、前記複数のリッジ状窒化物半導体層の成長面はm面であり、前記工程(c)では、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の延びる方向と前記サファイア基板のc軸とのなす角度の絶対値が0度以上35度以下となり、かつ、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の底面における幅をL幅、前記凹部の底面における幅をS幅とした場合、S幅/(L幅+S幅)の値が0.6以上1未満となるように、前記複数の凹部を形成する。
本発明の他の一態様である積層構造の製造方法は、m面を成長面とするサファイア基板を用意する工程(a)と、前記成長面上に窒化物半導体膜を成長させる工程(b)と、前記窒化物半導体膜を貫通する複数の凹部を形成することにより、複数のリッジ状窒化物半導体層を形成する工程(c)と、前記複数のリッジ状窒化物半導体層を起点として窒化物半導体層を成長させる工程(d)とを含む積層構造の製造方法であって、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層のそれぞれの間に配置される凹部の底面は前記サファイア基板のm面であり、前記複数のリッジ状窒化物半導体層の成長面はm面であり、前記工程(c)では、前記複数の凹部の底面に前記基板が露出し、前記基板と前記複数のリッジ状窒化物半導体層との界面を基準とした前記凹部の底面の深さが0nm以上150nm以下となり、かつ、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の底面における幅をL幅、前記凹部の底面における幅をS幅とした場合、S幅/(L幅+S幅)の値が0.6以上1未満となるように、前記複数の凹部を形成する。
本発明の他の一態様である積層構造の製造方法は、m面を成長面とするサファイア基板を用意する工程(a)と、前記サファイア基板の成長面上に窒化物半導体膜を成長させる工程(b)と、前記窒化物半導体膜を貫通する複数の凹部を形成することにより、複数のリッジ状窒化物半導体層を形成する工程(c)と、前記複数のリッジ状窒化物半導体層を起点として窒化物半導体層を成長させる工程(d)とを含む積層構造の製造方法であって、前記工程(c)では、前記複数の凹部の底面がサファイア基板のm面となり、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の成長面がm面となり、前記複数のリッジ状窒化物半導体層の延びる方向と前記サファイア基板のc軸とのなす角度の絶対値が0度以上35度以下となるように、前記複数の凹部を形成する。
前記工程(c)では、前記複数のリッジ状窒化物半導体層において前記複数のリッジ状窒化物半導体層の延びる方向と平行な側面と、前記サファイア基板のm面とのなす当該リッジ状窒化物半導体層内側の角度を0度より大きく150度より小さくしてもよい。
前記工程(c)では、前記複数の凹部の底面の幅の最小値が0.1μm以上30μm以下となるように、前記複数の凹部を形成してもよい。
前記工程(c)では、前記サファイア基板と前記複数のリッジ状窒化物半導体層との界面を基準とした前記複数の凹部の底面の深さが、0nmを越え500nm以下となるように、前記複数の凹部を形成してもよい。
前記工程(c)では、前記サファイア基板と前記複数のリッジ状窒化物半導体層との界面を基準とした前記複数の凹部の底面の深さが、0nmを越え150nm以下となるように、前記複数の凹部を形成してもよい。
前記複数のリッジ状窒化物半導体層の延びる方向と前記サファイア基板のc軸とのなす角度が0度より大きく10度以下となるように、前記複数の凹部を形成してもよい。
前記工程(c)では、フォトリソグラフィー技術を用いて前記複数の凹部を形成してもよい。
本発明の他の一態様である窒化物系半導体素子は、上記いずれかの方法により形成した前記窒化物半導体層を基板として用いる。
前記基板または前記サファイア基板が除去されていてもよい。
本発明の他の一態様である積層構造の製造方法は、m面を成長面とするサファイア基板を用意する工程(a)と、前記サファイア基板の成長面上に窒化物半導体膜を成長させる工程(b)と、前記窒化物半導体膜を貫通する複数の凹部を形成することにより、複数のリッジ状窒化物半導体層を形成する工程(c)と、前記複数のリッジ状窒化物半導体層を起点として窒化物半導体層を成長させる工程(d)とを含む積層構造の製造方法であって、前記工程(c)では、前記複数の凹部の底面がサファイア基板のm面となり、前記複数のリッジ状の窒化物半導体層の成長面がm面となり、前記サファイア基板と前記複数のリッジ状窒化物半導体層との界面を基準とした前記凹部の底面の深さが0nm以上150nm以下となるように、前記複数の凹部を形成する。
本発明の他の一態様である、窒化物系半導体素子の製造方法は上記いずれかに記載の積層構造の製造方法を含む。
本発明の他の一態様である半導体発光素子は、非極性面又は半極性面を主面とし、偏光光を発光する活性層を含む窒化物系半導体積層構造を備えた半導体発光素子であって、前記偏光光が横切る位置に互いに間隔をおいて形成された複数のストライプ構造を有し、前記ストライプ構造が延びる方向と前記偏光光の偏光方向とがなす角度の絶対値は、3°以上且つ45°以下である。
前記主面はm面であり、前記偏光方向はa軸方向であって、前記ストライプ構造が延びる方向とa軸方向とがなす角度の絶対値は、3°以上且つ35°以下であってもよい。
前記ストライプ構造が延びる方向と前記偏光方向とがなす角度の絶対値は、3°以上且つ10°以下である。
本発明の他の一態様である半導体発光素子は、非極性面又は半極性面を主面とし、偏光光を発光する活性層を含む窒化物系半導体積層構造を備えた半導体発光素子であって、前記偏光光が横切る位置に互いに間隔をおいて形成された複数のストライプ構造を有し、前記ストライプ構造が延びる方向と前記偏光光の偏光方向とがなす角度の絶対値は、0°以上且つ3°未満である。
前記半導体発光素子は、光を外部に出射する出射面を有し、前記複数のストライプ構造は、前記出射面に形成されていてもよい。
前記複数のストライプ構造は、前記窒化物系半導体積層構造の内部に形成されていてもよい。
前記半導体発光素子は、前記窒化物系半導体積層構造と接する基板をさらに備え、前記複数のストライプ構造は、前記窒化物系半導体積層構造と前記基板との間に形成されていてもよい。
前記基板は、窒化物半導体と異なる材料から構成されていてもよい。
前記基板は、m面を主面とするサファイア基板であってもよい。
互いに隣接する前記ストライプ構造同士の間には空隙が設けられていてもよい。
前記ストライプ構造は、空隙であってもよい。
前記空隙の幅は、前記活性層から離れるにつれて大きくなるものであってもよい。
前記主面はm面であり、前記偏光方向はa軸方向であってもよい。
前記偏光光は、前記活性層のa軸方向と比べてc軸方向に広い放射角度を持つ配光特性を有するものであってもよい。
前記ストライプ構造は、窒化物半導体よりも低い屈折率を持つ材料を含んでいてもよい。
本発明の他の一態様である光源は、上記いずれかに記載の半導体発光素子と、前記半導体発光素子から放射された光の波長を変換する蛍光物質を含む波長変換部とを備える。
非極性m面を主面とする窒化物系半導体素子の低コスト化を実現するには、現在主に使用されている高価なGaNバルク基板に代えて、他の安価な基板を用いることが有効である。
m面を主面とする窒化物半導体結晶の成長用基板としては、m面を主面とするSiC基板やサファイア基板を用いることができる。また、(100)面を主面とするLiAlO2基板も用いることができる。サファイア基板は、安価で、大口径化が容易で、熱的・化学的に安定であるという特長がある。また、サファイア基板は、従来のc面GaN系発光素子でもよく使用されている。
しかしながら、本発明者は、m面サファイア基板上に成長したm面窒化物半導体膜を用いて横方向選択成長を実現しようとする場合、従来のc面サファイア基板上のc面窒化物半導体成長の場合や、r面サファイア基板上のa面窒化物半導体成長の横方向選択成長の場合と異なり、転位および欠陥の密度を低減することが難しく、高品質化に課題があることを発見した。
本発明者の検討によると、m面サファイア基板上にm面窒化物半導体を成膜し、Pendeo成長を実施した場合に、エッチングにより剥き出しになったm面サファイア基板から(11−22)面の半極性窒化物半導体膜が成長し得ることがわかった。つまり、Pendeo法による再成長を実施するとm面と(11−22)面の半極性面が混在し、結晶性や表面粗さが悪化する可能性がある。
また、m面以外の非極性面または極性面を成長面とする窒化物半導体をサファイアまたはサファイア以外の基板上に成膜する場合も同様の問題が発生しうる。本発明者らは、Pendeo法による再成長を実施するための複数のリッジ状窒化物半導体層のc軸を基板の成長面に正射影した第1の方向において、基板と複数のリッジ状窒化物半導体層との間の格子不整合度は2%以上であり、成長面内において前記第1の方向と垂直な第2の方向において、基板と複数のリッジ状窒化物半導体層との間の格子不整合度は10%以上となる場合にも、異なる面方位を有する結晶が同時に成長しやすいことを見出した。
このような状況のもと、本発明者は、m面サファイア基板上にm面窒化物半導体を成長させる場合に発生する固有な問題である半極性異常成長およびm面以外の非極性面または極性面を成長面とする窒化物半導体をサファイアまたはサファイア以外の基板上に成膜する場合に発生する異常成長を抑制し、低コスト化および高品質化を達成する手段を見出した。
つぎに、Pendeo成長法について説明する。図3にPendeo成長法の模式図を示す。図3(a)に示すように、まず、サファイア基板811などの異種基板上に窒化物半導体膜812を成長させ、その後誘電体などからなるマスク820を形成する。誘電体マスクとしては、例えばSiO2やSiN、SiON、ZrOなどを用いることができる。その後、マスクのないスペース部分840をエッチングし、図3(b)に示すように開口部の窒化物半導体膜812を除去することで異種基板が剥き出しになった新たな凹部850を形成し、凹凸加工基板900を用意する。次に、この凹凸加工基板900の上に窒化物半導体膜を再成長する。図3(c)にその様子を示す。このときマスク820上には、窒化物半導体膜は成長せず、マスク820は再成長防止層として働く。よって、凹凸加工基板900では窒化物半導体表面の側面からのみ窒化物半導体膜を成長させることが可能であり、横方向に窒化物半導体膜860を再成長する。
このPendeo成長法では、図3(b)に示すように再成長の起点となるリッジ状の窒化物半導体層830(エッチングにより残留した部分)と、エッチングにより異種基板が剥き出しになった凹部850とが形成される。
エッチングにより形成された凹部850は周期的に形成される。この凹凸形状は、ある面内の結晶方位に基づく方向に細く長いストライプ形状を取ることが一般的であるが、転位や欠陥を横方向に伝搬させ、結果として成長表面付近の転位・欠陥密度を低減するという効果が得られればよく、必ずしもストライプ形状でなくてもよく、多角形や円状などさまざまな形態に加工することが可能である。
図3(b)の基板上に窒化物半導体膜を再成長すると、凸部の窒化物半導体層830から優先的に再成長が起こり、再成長した窒化物半導体膜は、凸部領域の側面から横方向成長し、異種基板領域が剥き出しになっている凹部850を覆うように成長が進む。このまま成長を続けると、横方向に成長した窒化物半導体膜860同士が結合し、結合部890を形成し、剥き出しになっていたサファイア基板811の表面(凹部850の底面851)は再成長膜で覆われる。さらに成長を続けると、今度は再成長窒化物半導体膜が、基板に垂直方向(つまりm軸方向)に成長し、マスク820を完全に覆い、図3(d)のようにマスク820の上部にも結合部を作り、最終的には平坦な窒化物半導体の再成長が可能である。このとき、凹部850と横方向成長した窒化物半導体膜860の間には、エピタキシャル膜が存在しない空間が生じる場合がある(図3(d)参照)。ただし、この空間隙は常に形成されるわけではなく、原料が十分に供給される条件下においては、凹部850と窒化物半導体膜860間の空間を殆どなくすことも可能である。このとき、横方向成長による結合部は、Pendeo成長の場合、マスク820の上部の結合部880および凹部850の上部の結合部890の2種類が周期的に形成されることになる。再成長した窒化物半導体膜は、凸部窒化物半導体層830を起点として横方向に成長が進むため、一部の転位は縦方向であるm軸方向ではなく、横方向に屈曲し、凹部で転位・欠陥密度を大幅に低減できるため、窒化物半導体膜860の表面領域の高品質化が可能となる。
一般的に、Pendeo成長において、エッチングにより形成される凹部の深さは、凸部の窒化物半導体領域に比べて深ければ深いほどよいとされている。なぜならば、再成長時にエッチングにより剥き出しになっている凹部の異種基板表面から窒化物半導体膜が成長してしまう可能性があるからである。このPendeo成長では、凸部の窒化物半導体領域のみから再成長させることで転位・欠陥密度の低減を実現している。よってエッチングにより形成した凹部の異種基板表面からの再成長を起こさないか、起こったとしても横方向再成長に影響を及ぼさないようにすることが重要である。エッチング深さが深ければ深いほど、再成長時の原料は、凹部の底には到達することが難しくなり、凸部の窒化物半導体領域からのみ優先的に成長するため、横方向選択成長が促進される。またもし凹部で成長が起こったとしてもエッチング深さが大きければ、再成長膜への影響や干渉は少ない。
Pendeo成長法は、図3に示した誘電体等からなるマスク820がなくても横方向選択成長の実現が可能である。この点はELOG法とは異なる。この方法はマスクレスPendeo成長と呼ばれ、誘電体マスクを除去すると、マスク材料自体からの不純物の混入の抑制やマスク820の上部に発生する結合部880が発生しないなどの利点がある。マスクレスPendeo法について図4に示した。図4(a)に示す工程においては、マスク有Pendeo成長と同様に、エッチングによって凹凸を形成後、図4(b)に示すように、マスクを除去した凹凸加工基板910を再成長用基板として用い、この凸部窒化物半導体層830から再成長させる。図4(c)に示すように、凹部850を覆うように横方向成長が起こるのと同時に、凸部上面にも成長が起こる。すなわち、凸部上面と、再成長した膜とが接している。最終的には図4(d)のように、再成長を続けることで平坦な窒化物半導体膜870を得ることが可能である。
マスクレスPendeo成長では、マスクを除去するため、SiO2などの誘電体膜からの不純物の混入がない。したがって、良質な再成長窒化物半導体膜が得られるという利点がある。さらに、誘電体マスクを形成する工程を省くことができるため、製造コストを削減できるという利点もある。
以下、例示的な実施の形態の窒化物系半導体素子について、図面を参照しながら説明する。本発明にかかる実施の形態は、m面を主面とするサファイア基板上のm面窒化物半導体のPendeo法による横方向選択成長に関する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。本発明は以下の実施形態に限定されない。
なお、本実施形態においては種結晶膜や再成長膜として主に窒化ガリウム層(以後、GaN層)を中心に説明するが、これらの層はAlやIn、Bを含む層であってもよい。また、種結晶や再成長膜はGaN層のみから形成される必要はなく、例えばAlxGayInzN(0≦x,y,z≦1、x+y+z=1)層が1層含まれていたり、またはそれぞれ組成の異なる複数のAlxGayInzN(0≦x,y,z≦1、x+y+z=1)層が交互に積層されていたり、これらの層にさらにB元素が混入されている構造であってもよい。
(実施の形態1)
図5(a)、(b)は、例示的な実施の形態1に係る窒化物半導体層成長用構造(凹凸加工基板910)を示す断面図および平面図である。
図5(a)に示すように、凹凸加工基板910は、m面を成長面811aとして有するサファイア基板811と、サファイア基板811の成長面811aの上に設けられた複数のリッジ状の窒化物半導体層830とを備える。複数のリッジ状の窒化物半導体層830のそれぞれの間には、凹部850が配置されている。図5(b)に示す例において、リッジ状の窒化物半導体層830は、サファイア基板811のc軸方向から角度θだけ傾いた方向に延びている。ただし、本実施形態においては、必ずしも、リッジ状の窒化物半導体層830の延びる方向はサファイア基板811のc軸方向から傾いていなくてもよく、リッジ状の窒化物半導体層830の延びる方向とサファイア基板811のc軸とのなす角度θが0度以上35度以下であればよい。これにより、リッジ状の窒化物半導体層830を種結晶として窒化物半導体層を成長させるために原料を供給したときに、凹部850に露出するサファイア基板811の側面852からの半極性窒化物半導体の成長が抑制される。よって、成長される窒化物半導体層の結晶性や表面の平坦性が向上する。
凹部850の底面851には、サファイア基板811のm面が露出している。窒化物半導体層の原料粒子はサファイアのm面に付着しにくいため、リッジ状の窒化物半導体層830を種結晶として窒化物半導体層を成長させるときには、原料粒子は凹部850の底面851ではなく側面のリッジ状の窒化物半導体層830に付着しやすくなる。これにより、底面851から結晶性の低い窒化物半導体が成長するのが抑制される。
また、リッジ状の窒化物半導体層830の成長面(上面)は窒化物半導体のm面である。また、図5(a)、(b)には、リッジ状の窒化物半導体層830の成長面にマスクが設けられていない例を示しているが、本実施形態においては、図3(a)から(d)に示すようなマスク820が設けられていてもよい。
本実施形態の凹凸加工基板910は、例えばウエハ状態のサファイア基板811を用いて形成される。図面にはウエハの一部のみを示している。また、見易さを考慮して各構成要素を図示しており、実際の各構成要素の大きさの比率は図示される比率に限られない。
本実施形態において、サファイア基板811の成長面は、m面から5度以内の角度だけ傾いていてもよい。また、凹部850の底面851に露出する面も、m面から5度以内の角度だけ傾いていてもよい。また、リッジ状の窒化物半導体層830の成長面も、m面から5度以内の角度だけ傾いていてもよい。
m面から5度以内傾いた面は、m面と同様の性質を有する。従って、本発明の「m面」は、m面から5度以内傾いた面を含む。
図5(b)に示す例では、「リッジ状の窒化物半導体層830の延びる方向」は、リッジ状の窒化物半導体層830の平面形状における長辺の伸びる方向と一致している。これらは必ずしも一致していなくてもよい。
さらに、角度θの絶対値は0度以上10度以下であってもよい。この場合には、積層欠陥密度を特に低減できる。詳細は、後に測定結果を参照しながら説明する。
本実施形態の複数のリッジ状の窒化物半導体層830は、図5(b)に示す配置に限られない。ただし、リッジ状の窒化物半導体層830は、ウエハ上において途切れていてもよく、同じ方向に設けられていなくてもよい。例えば、図6(a)に示す複数のリッジ状の窒化物半導体層830は矩形状の平面形状を有する。図6(a)において、m面におけるリッジ状の窒化物半導体層830の長さは、ウエハの長さよりも小さい。それぞれのリッジ状の窒化物半導体層830は、サファイアのc軸方向から角度θだけ傾いている。角度θの絶対値は、例えば、0度以上35度以下である。図6(b)に示す複数のリッジ状の窒化物半導体層830は、サファイアのc軸方向から時計回りに角度θだけ傾いたリッジ状の窒化物半導体層830aと、c軸方向から反時計回りに角度θだけ傾いたリッジ状の窒化物半導体層830bとを有している。
また、図7(a)に示すように、本実施形態において、リッジ状の窒化物半導体層830および凹部850の幅(サファイアのa軸方向の長さ)は一律でなくてもよい。また、複数のリッジ状の窒化物半導体層830の平面形状は異なっていてもよく、例えば図7(b)に示すように、長さの異なるリッジ状の窒化物半導体層830c、830dが配置されていてもよい。
図8(a)に示すように、本実施形態においては、リッジ状の窒化物半導体層830の側面830Aは傾いていてもよい。この場合、リッジ状の窒化物半導体層830の延びる方向と平行な側面830Aとm面とのなすリッジ内側の角度γが0°より大きく150°より小さくてもよい。
また、リッジ状の窒化物半導体層830の断面は、四角形または台形に限られず、三角形や他の多角形、または曲面を含んでいてもよい。
また、本実施形態では、複数のリッジ状の窒化物半導体層830のいくつか、または1つのリッジ状の窒化物半導体層830の一部の延びる方向のサファイアのc軸方向からの傾きが、0度以上35度以下の条件を満たさなくてもよい。この場合、複数のリッジ状の窒化物半導体層830のうち少なくとも50%の延びる方向とサファイア基板811のc軸とのなす角度が0度以上35度以下であればよい。
サファイア基板811は、m面を主面とするサファイア結晶から形成されている。サファイア基板811の厚さは例えば0.1mm以上1mm以下である。サファイア基板811(ウエハ)の直径は例えば1インチ以上8インチ以下である。また、リッジ状の窒化物半導体層830の厚さは例えば10nm以上10μm以下であり、リッジ状窒化物半導体層830の幅(窒化物半導体のc軸に平行な断面における長さ)は例えば0.1μm以上30μm以下である。また、凹部850の幅は1μm以上100μm以下である。
一般的に、サファイア基板は、窒化物半導体の成長条件下、つまり1000度以上の高温でも高い熱的安定性を有する。また、化学的にも安定であり、比較的安価で大口径化が可能である。従って、窒化物半導体成長のための異種基板、すなわちヘテロ基板として有望となり得る。
窒化物半導体層830は、サファイア基板811上に全体的にm面成長された窒化物半導体膜に凹部850を形成することにより形成されている。窒化物半導体層830は、例えば、フォトリソグラフィー技術を用いて窒化物半導体膜の一部を除去した残りの部分である。
凹部850の底面851に窒化物半導体が残存するのを回避するため、凹部850を形成するためのエッチングを深めに行ってもよい。この場合、サファイア基板811の一部も除去され、図5(a)に示すように、凹部850の下部に、サファイア基板811の側面852が露出する。凹部850を形成するためにサファイア基板811の一部を除去しなくてもよく、この場合、図8(b)に示すように、凹部850の底面851が、サファイア基板811と窒化物半導体層830との界面と同じ高さに存在する。
サファイア基板811と窒化物半導体層830との界面を基準とした凹部850の底面851の深さは、例えば、0nm以上500nm以下、または0nm以上150nm以下であってもよい。
本実施形態においては、リッジ状の窒化物半導体層830の延びる方向とサファイア基板811のc軸とのなす角度の絶対値を0度以上35度とする代わりに、リッジ状の窒化物半導体層830の側面に露出するサファイアの面積を小さくしてもよい。すなわち、サファイア基板811と窒化物半導体層830との界面を基準とした凹部850の底面851の深さは、0nm以上150nm以下であってもよい。この構造においても、リッジ状の窒化物半導体層830の側面に露出するサファイア基板811から成長する半極性窒化物半導体の量が少なくなるため、窒化物半導体層の結晶性・表面平坦性を高めることができる。なお、リッジの間における凹部の底面にm面以外の面が露出する場合、凹部の底面からの窒化物半導体の成長が問題となるため、凹部の底面を深く形成する必要がある。本実施形態では、凹部850の底面851がm面サファイアであるため、底面851から窒化物半導体が成長しにくい。よって、底面851からの成長を考慮せずに凹部850を浅くすることができる。
さらに、リッジ状の窒化物半導体層830の延びる方向とサファイア基板811のc軸とのなす角度の絶対値を0度以上35度とし、かつ、サファイア基板811と窒化物半導体層830との界面を基準とした凹部850の底面851の深さを、0nmを越え150nm以下となるようにしてもよい。これにより、底面851の深さが0nmを越えた場合も、リッジ状の窒化物半導体層830の側面に露出するサファイア基板811から成長する半極性窒化物半導体の量をさらに低減することができる。
(実施の形態2)
次に、例示的な実施の形態2に係る窒化物半導体の成長方法について、図9を参照して説明する。この方法により、実施の形態1の凹凸加工基板910および凹凸加工基板910を用いて成長させた窒化物半導体層を形成することができる。
[サファイア基板の準備と種結晶窒化物半導体膜812の準備]
実施の形態2に係る窒化物半導体の成長方法では、まず、図9(a)に示すように、m面サファイア基板811を用意する。サファイア基板811としては、例えば直径1インチから8インチのサイズのものを使用することができ、またサファイア基板811の厚さは、例えば0.1mmから1mmである。また基板表面に傾斜角(以後オフ角と呼ぶ)をつけたm面サファイア基板も好適に用いることができる。オフ角は0から5度の範囲であれば、本発明の実施形態を支障なく実施することができ、またその傾斜方向は、m軸に対して垂直方向であればよく、例えばc軸、a軸、[11−22]軸方向などである。
次にm面サファイア基板の表面処理(洗浄等)を行う。表面処理の工程としては、例えば、有機洗浄、硫酸や燐酸、フッ酸などの酸系溶液により表面処理、水洗処理があり、またこれらの工程を組み合わせて用いることもできる。またサファイア基板の表面処理として熱処理法を用いることもできる。サファイア基板に対して1000℃から1400℃付近の高温下で熱処理することにより、原子層ステップをもつ表面を得ることができる。このときのガス雰囲気は、窒素や酸素、水素、塩素などを含む雰囲気であればよい。熱処理方法としては、電気炉などを用いることもできるし、またこの熱処理工程自体を成長炉で行うこともできる。またこの熱処理工程は、前述の有機洗浄や酸洗浄と組み合わせることもできる。これらの溶液系洗浄や熱処理による表面処理は省略してもよい。市販されている基板の扱いに十分注意すれば、そのまま洗浄せずに窒化物半導体の成長も可能である。
つぎに、図9(b)に示すように、m面サファイア基板811上に種結晶用窒化物半導体膜812を成長する。窒化物半導体の成長には、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法:metal organic chemical vapor deposition法)またはHVPE(hydreide vapor phase epitaxy)法を用いても良い。高温下で成長が可能な点や、大口径基板の成長に適した成長炉であるという点で、MOCVD法およびHVPE法は窒化物半導体の成長法として優れている。また、窒化物半導体の成長には、MBE(molecular beam epitaxy)法を用いても良い。本実施形態では、MOCVD法による成長法について説明する。
MOCVD法では、まず、m面サファイア基板のサーマルクリーニングを行う。この工程は、サファイア表面に付着した水分や有機物の分解除去が主目的であるのが、前述したサファイア基板表面の原子層ステップを得る目的で行ってもよい。条件としては、例えば800〜1200℃の温度で10〜60分行うことができる。このときの成長炉内の圧力は10〜100kPaであり、キャリアガスとしてはH2やN2、もしくはこの混合ガスを用いることができる。
つぎに、m面サファイア基板上に窒化物半導体膜を成長する。キャリアガスとしてはH2やN2、もしくはこの混合ガスを用いることができる。III族原料としては例えばGa原料としてトリメチルガリウム(TMG),トリエチルガリウム(TEG)、In原料としてトリメチルインジウム(TMG),Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMA)、B原料としてトリエチルボロン(TEB)などを用いることができる。また窒素原料として例えばアンモニア(NH3)を用いることができる。
窒化物半導体膜の成長条件としては、窒化物半導体主面の面方位をm面方位に制御できる条件であれば良い。前述したように、m面サファイア基板上の窒化物半導体成長においては、成長条件によっては(10−1−3)面や(11−22)面を主面とする半極性面窒化物半導体が成長する場合がある。m面サファイア基板上にm面窒化物半導体を成長するためには、サファイア基板のサーマルクリーニング後の(1)III族原料もしくはV族原料の照射の有無、(2)バッファ層、(3)バッファ層上のエピ層、および(4)各工程における成長温度、照射・成長時間などの条件を好適に選べばよい。
例えば本実施形態においては、サーマルクリーニング後に基板温度を400度から800度に降温した後、上述の工程(1)として0.1〜100μmol/minの供給量条件下でTMA照射を2〜30秒行い、その後同じ温度で、工程(2)のAlxGayInzN(0≦x,y,z≦1、x+y+z=1)バッファを成長する。このときのバッファ層として、AlN層を用いてもよい。成長条件は、例えば、V/III比を10以上5000以下とし、厚さは20nmから500nmの範囲とする。バッファ層成長後、工程(3)のエピ膜としてAlxGayInzN(0≦x,y,z≦1、x+y+z=1)膜の成長を行う。エピ膜は、例えばGaNでもよい。このときの各条件は例えば成長温度は800度から1100度であり、TMG供給量は1〜200μmol/minであり、V/III比は10以上10000以下、圧力は10〜100kPaである。このような条件下で成長することにより、m面を主面とする窒化物半導体の成長が可能となり、この窒化物半導体層を種結晶用窒化物半導体膜812として用いることができる。
なお、種結晶窒化物半導体の厚さは、好適に選ぶことができるが、後の工程でこの種結晶膜にマスクを形成し、一部の領域でサファイア基板が剥き出しになるまでエッチングを施すことを考慮すると、厚すぎるとこの加工が困難になる。この観点から、望ましい種結晶の厚さは例えば10nmから10μmである。
なお、この窒化物半導体層は、伝導性制御を施してもよい。n型伝導性を得たい場合には、例えばドーパントとしてSiH4やGeH4などを原料ガスとして用い、SiやGeをドーピングすることで実現できる。またp型伝導性を得たい場合には、例えばドーパントとしてCp2Mg(BIS CYCLOPENTADIENYL MAGNESIUM)などを原料ガスとして用いることができ、Mgをドーピングすることで実現できる。
[凹凸加工基板910の準備]
次に、Pendeo成長用凹凸基板の作製方法について説明する。本実施形態では主に図4に示したマスクレスPendeo成長による方法について説明する。
まず、図9(c)に示すように、その種結晶表面に、レジストを塗布し、一般的なフォトリソグラフィー技術によりマスクパターンを形成する。マスクパターンとしては、例えば典型的なライン&スペース(L&S)パターン、つまり細く長いストライプ状のパターンを用いることができる。このマスク820のライン部分(露光後に残るレジスト部分)とスペース部分840(露光後に残らず、下地である種結晶用窒化物半導体膜812の表面が剥き出しになる部分)が、それぞれ加工後に凸部の窒化物半導体層830と凹部850の幅を決める。つまり、ライン部分は種結晶がそのまま残る領域になるため、転位密度や欠陥密度が高い低結晶品質領域となり、スペース部分は、種結晶部から横方向再成長により膜が形成される領域であり、高結晶品質領域となる。それぞれの幅は、例えばライン幅は0.1μmから30μmであり、スペース幅は1μmから100μmである。なお、転位は、例えば透過型顕微鏡などによって観察することができる。
次にエッチングにより、スペース部分840から、サファイア基板表面部分が露出するまで種結晶用窒化物半導体膜812を除去する。これにより、種結晶用窒化物半導体膜812を貫通する凹部850を形成する。種結晶用窒化物半導体膜812のうちマスク820によって覆われていた部分からリッジ状の窒化物半導体層830が形成される。
エッチング方法としては、例えばウェットエッチングやスパッタエッチング、プラズマエッチング、スパッタイオンビームエッチング、反応性イオンビームエッチングなど様々な方法があり、これらの方法を適宜用いることが可能である。
また、凹部850をエッチングにより形成する際、種結晶用窒化物半導体膜812とともにサファイア基板811の一部がエッチングされても良い。もし、開口部である凹部850にエッチングされずに残った窒化物半導体膜があると、窒化物半導体膜再成長時に、残った膜からも再成長が起こってしまい、良質な再成長膜が得られない場合がある。よって、こういった凹部850に残留しうる窒化物半導体膜を完全に除去するため、サファイア基板の一部もエッチングするとよい。この際、凹部850の側面には、リッジ状の窒化物半導体層830の側面だけではなく、サファイア基板811の側面852も含まれる。凹部850の底面には、m面が露出している。
前述した凹部850の形成方法はエッチング以外の方法でもよい。例えば一般的なスクライビングといった機械的な加工方法であってもよいし、レーザを用いたスクライビングであっても良いし、また前述したエッチング方法と組み合わせた方法であってもよい。
本実施形態において、種結晶用窒化物半導体膜812をエッチングし凹凸加工基板910を作製する際にできる、凹部850のサファイア基板のエッチング深さは小さいほどよい。このサファイア基板のエッチング深さは、サファイア基板811の側面852の深さ(高さ)でもある。前述したように一般的なPendeo成長では、このエッチング深さは深ければ深いほどよい。これは凹部850のサファイア基板表面へ原料が到達しにくくし、開口部での結晶成長を抑制できるためである。しかし、本実施形態においては、凹部850のエッチング深さによっては、後に実施する再成長工程において、m面と結晶方位が異なる半極性面窒化物半導体膜が成長してしまうことがわかった。このような半極性面成長は、エッチングの際にできたサファイア基板811の側面852から起こっていることがわかり、この半極性面成長を抑制するために、凹部850のサファイア基板のエッチング深さ(同、サファイア基板811の側面852の高さ)を0nm以上500nm以下に、0nm以上150nm以下の範囲に制御してもよい。
次にストライプマスクの面内傾斜角度について説明する。本明細書におけるストライプマスクの面内傾斜角度の定義を図10、図11に示す。図10は、オフ角が0°のm面サファイア基板上にm面GaNを成長させた場合の図である。(a)は主面側から見た図であり、(b)は(a)の破線部に対応する断面図である。なお、本明細書および図面では、サファイアのc軸方向(GaNのa軸方向)にストライプマスクの延びる方向が平行な場合をθ=0°とした(図10)。本明細書における面内マスク傾斜角度がθ≠0°とは、図11のように、ストライプマスクをサファイアのc軸方向(GaNのa軸方向)から面内で回転させた状態を示す。例えば図11は、0°<θ<90°の場合を示しているが、θ=90°とは、ストライプマスクの延びる方向が、サファイアのa軸方向(GaN膜のc軸方向)と平行であることを示す。
図12は、m面サファイア基板がa軸方向にオフ角を持つ場合の面内マスク傾斜角度の例である。例えば図12の場合、m面サファイア基板はa軸方向にα度オフしている。この場合でも、面内マスク傾斜角度は、GaNのa軸方向を基準とし、GaNのa軸方向(m面サファイアならばc軸方向)がストライプマスクの延びる方向が平行なときをθ=0°とする。この場合、θ=90°の方向は、サファイアのa軸方向(GaNのc軸)の成長主面への射影成分と平行になる。
図13は、m面サファイア基板がc軸方向にオフ角を持つ場合の面内マスク傾斜角度の例である。例えば図13の場合、m面サファイア基板はc軸方向にβ度オフしている。この場合、面内マスク傾斜角度は、GaNのa軸の成長主面への射影成分方向を基準とし、この方向がストライプマスクの延びる方向が平行なときをθ=0°とする。この場合、θ=90°の方向は、サファイアのa軸方向(GaNのc軸)と平行になる。
このときのm面サファイア基板のオフ角の範囲は、前述したように0〜5°の範囲であれば、本発明の実施形態を支障なく実施することができる。
凹部850を形成した後、表面に残留したレジストマスクを除去し、図9(d)に示す凹凸加工基板910を作製することができる。
本実施形態の凹凸加工基板910断面模式図を図14に示す。この図では、ストライプの延びる方向をGaNのc軸方向(つまり面内マスク傾斜角度θ=90°。m面サファイア基板のa軸方向)としている。図14(a)、(b)においては側面の傾斜角度γが異なり、(a)は0°<γ<90°の場合、(b)はγ=90°の場合の図である。傾斜角度γは、サファイア基板811のm面と、リッジ状の窒化物半導体層830の側面との間の角度である。側面の傾斜角度γは、レジストの形状やエッチング方法などで制御することができ、結果として断面形状を台形や三角形、多角形に制御することができる。例えば、上底と下底がほぼ同じ長さの矩形状の断面形状を有する窒化物半導体層830を形成する場合(γ=90°)には、おなじく断面が矩形状に近いレジストマスクを形成し、エッチング条件を適宜選択すればよい。また、上底よりも下底の方が長い台形の断面形状を有するリッジ状の窒化物半導体層830を形成する場合、例えばレジストマスクの断面形状を三角形状など側面方向に傾斜をつけた構造とし、エッチング条件を適宜選択すればよい。逆に、リッジ状の窒化物半導体層830が上底よりも下底のほうが短い台形の断面形状を有するリッジ状の窒化物半導体層830を形成する場合(γ>90°)には、ウェットエッチングなどにより側面からのエッチング速度を向上させる(サイドエッチ)状態でエッチングを行えばよい。
種結晶である窒化物半導体層830の側面とサファイア基板811の側面852の側面傾斜角度γはほぼ同等な値となるが、必ずしも同じである必要はない。また本実施形態においては、側面傾斜角度γは広い範囲で選択することができ、例えば0°<γ<150°の範囲が望ましい。
本実施形態では、リッジ状の窒化物半導体層830の厚さは例えば10nm〜10μmとしたが、この厚さについては適宜選択することができる。本開示のm面窒化物半導体の横方向選択成長を実現するには、m面窒化物半導体再成長が始まる同じm面窒化物半導体からなる種結晶部分と、窒化物半導体膜部分が除去され、m面サファイア基板が剥き出しになった凹部850が形成されていれば良い。よってリッジ状の窒化物半導体層830は、m面を主面とする窒化物半導体層が形成されていれば良く、例えば、リッジ状の窒化物半導体層830は、前述したバッファ層のみから形成されていてもよい。
[凹凸加工基板910上への窒化物半導体膜870の再成長]
次に、図9(e)に示すように、凹凸加工基板910上にm面窒化物半導体膜870の再成長を行う。m面窒化物半導体の再成長には、MOCVD法やHVPE法、MBE法など、窒化物半導体の結晶成長に用いられている方法を適宜使用することができる。また、前述した種結晶用窒化物半導体膜812と窒化物半導体膜870の成長法が同じである必要は必ずしもない。しかし、高温下で成長が可能な点や大口径化に向いているという点では、MOCVD法やHVPE法が適した窒化物半導体の再成長法であるといえる。本実施形態では、再成長法としてMOCVD法を用いた形態について説明する。
凹凸加工基板910をMOCVD装置に搬送後、m面窒化物半導体層の再成長を行う。キャリアガスとしてはH2やN2、もしくはその混合ガスを用いることができる。III族原料としては例えばTMG,TEG,TMI,TMA,TEBなどを用いることができる。また窒素原料として例えばNH3を用いることができる。
本実施形態においては、成長炉内圧力を10〜100kPaとし、キャリアガスとしてH2とN2の混合ガスを用い、基板搬入後、成長温度まで昇温した。昇温途中、基板温度が400〜1000℃になったところで、NH3ガスを成長炉内に導入し、引き続き昇温した。このときのNH3ガス流量は、0.1〜5slm(standard liter/min)とした。
基板温度が再成長温度に達したら、III族原料を導入し、再成長を開始した。再成長温度は800〜1100℃であり、例えばGaN膜を成長する場合、TMG流量は1〜200μmol/minであり、V/III比は10以上10000以下、圧力は10〜100kPaである。キャリアガスはH2ガスを用いることもできるし、N2に切り替えてもよいし、これらを混合して用いることもできる。
再成長において重要な点の一つは、各ストライプ状の種結晶から再成長した膜を結合させ平坦な膜を得ることである。一般的に窒化物半導体の非極性面成長においては、減圧・低V/III比条件下で比較的平坦な膜が得られる。よって、平坦な再成長膜を得るための条件は、例えばGaN膜を成長する場合、再成長温度は800〜1100℃であり、TMG流量は1〜200μmol/minであり、V/III比は10以上250以下、圧力は10〜33kPaである。キャリアガスはH2ガスを用いることもできるし、N2に切り替えてもよいし、これらを混合して用いることもできる。
再成長膜の厚さは、広い範囲で選択することができるが、例えば1μmから30μmであり、MOCVD法を用いる場合は、例えば1μmから10μmである。
[面内マスク傾斜角度依存性]
このように凹凸加工基板910を用意し、前述の条件下で窒化物半導体膜の再成長を行うことで、Pendeo法により転位密度や欠陥密度を低減した窒化物半導体膜870を得ることができる。しかし、m面サファイア基板上に成膜したm面窒化物半導体膜により形成された凹凸加工基板910の場合、ストライプ状に形成した凸部の面内傾斜角度によって、(1)表面平坦性、(2)半極性異常成長の有無、(3)結晶性が変化する。このような現象は、m面サファイア上のm面窒化物半導体特有の現象といえる。次に、この理由について述べる。
図15(a)、(b)に凹凸加工基板910における一つの凸部分(リッジ構造)の模式図を示す。もっとも単純な場合として、面内マスク傾斜角度が(a)θ=0°と(b)θ=90°の場合を示す。m面サファイア基板とm面窒化物半導体のエピタキシー関係は、主面の法線方向であるm軸は平行だが、面内のa軸とc軸については90°ずれている。よって、図15(a)のように凹凸加工基板910を用意した場合、再成長が起こるGaNの主面はm面であるが、側面はc面となる。一方、同じく加工時にできたサファイア基板の主面(凹部850に相当)はm面であるが、その側面852はサファイアのa面となる。つまり、主面は同じm面であっても、その側面は図15(a)の場合、GaNはc面、サファイアはa面と異なることがわかる。一方、図15(b)に示した面内マスク傾斜角度をθ=90°とした場合は、その側面はGaNがa面、サファイアがc面となる。この結果、面内でストライプ状マスクの傾斜角度をθ=0°から90°に変化させると、GaNにおいてはa面ファセットを起点とした再成長が徐々にc面ファセットを起点とした再成長モードに変化する。一方、サファイアの側面ではa面ファセットからc面ファセットへと徐々に変化する。
このようにm面サファイア基板上m面窒化物半導体を基体とした凹凸加工基板910においては、その面内マスク傾斜角度によって、横方向再成長の起点となるファセット面が複雑に変化するため、再成長により得られる膜の(1)表面平坦性、(2)半極性異常成長の有無、(3)結晶性が変化する。次にそれぞれの面内マスク傾斜角度依存性について説明する。
[(1)面内マスク傾斜角度と表面平坦性の関係]
まず、再成長した窒化物半導体膜870の表面平坦性について説明する。マスクの面内傾斜角度によっては、横方向選択成長の起点となるファセット面も変化するため、表面平坦性が大きく変化する。横方向成長の起点となるファセット面としては、例えばGaNのa面、c面、(10−11)面、(11−22)面、もしくはこれらの面がm軸方向に傾斜したr面などが挙げられる。GaN層の横方向成長においては、c軸方向に比べてa軸方向において、成長速度が速くなることがわかっている。これは、c面ファセットはa面ファセットに比べて熱の影響を受け易く、GaN層の分解・脱離が起きやすいため、実効的な成長速度が小さくなったと考えられる。よって、面内マスク傾斜角度θが0°のとき(ストライプマスクの延びる方向はGaNのa軸方向、横方向成長の起点となるファセットはc軸方向)は、もっとも成長速度が遅く、表面平坦化の効果が得られにくい。一方で、θが大きくなるに従い、表面平坦性は高くなり(空隙が埋まり易くなり)、この効果がθ=90°(つまりストライプマスクの延びる方向はGaNのc軸方向、横方向成長の起点となるファセットはa軸方向)のときにもっとも大きくなる。
この表面平坦化効果を最大化できる条件で再成長を行うのは、再成長窒化物半導体膜の結晶性向上において重要である。本実施形態であるマスクレスPendeo成長においては、種結晶部である窒化物半導体層830(ライン部分)の上部に再成長した膜は、転位や欠陥がそのまま残留するため結晶性は悪く、凹部850(スペース部分)に横方向再成長した膜において転位密度・欠陥密度の低減効果が得られる。この観点では、マスク形成時のライン部分とスペース部分の比は、スペース部分が大きくなるようにすることが望ましい。しかし、スペース部分をあまり大きくすると、窒化物半導体層830から再成長した窒化物半導体膜870が十分に結合できず、空隙を有する再成長膜となる。よって、より大きな面積比を有するスペース部分(つまり凹部850)領域を形成し、空隙のない平坦な再成長膜表面を得るためには、表面平坦化効果がもっとも得られる面内マスク傾斜角度を選択することが望ましい。
しかし、前述の横方向再成長における表面平坦化効果は、m面窒化物半導体のみを考慮した場合の結果である。本発明者の検討によると、本実施形態のように再成長を行う前の基板表面に、凹部850の底面のようにm面サファイア表面がむき出しになった領域がある場合、この表面平坦性と面内マスク傾斜角度の関係が変化することがわかった。
本発明者の実験結果によると、凹凸加工基板910を用意し、再成長の窒化物半導体膜870を成長する工程において、面内マスク傾斜角度θが0°から35°まで増加する場合、前述のGaN膜の特徴と同様な原理で表面平坦性は向上するが、θ>35°では表面平坦性が悪化し始め、35°<θ<90°の範囲では、表面平坦性に優れた再成長窒化物半導体膜の形成が困難であることがわかった。
このような面内マスク傾斜角度θ=35°以上で起こる表面モフォロジーの変化は、次に述べる半極性面異常成長と関連があることがわかった。
[(2)m面サファイア基板からの半極性面異常成長]
本発明者の検討によると、面内マスク傾斜角度が35°<θ<90°の範囲において、再成長膜の表面が悪化するのは、この角度範囲では半極性面である(11−22)面が、凹部850に露出するm面サファイア領域から成長するためであることがわかった。正確には、スペース部分840をエッチングする際に形成された、m面サファイア基板811の側面852が原因であると考えられる。
面内マスク傾斜角度θが0°のとき、GaNの側面ファセットの法線成分はc軸方向を向くが、サファイア基板811の側面852は、a軸方向を向く(図15(a))。そして、面内マスク傾斜角度θが大きくなると、サファイア基板811の側面852は、a軸方向からc軸方向に向かって徐々に変化する。
つまり、サファイア基板811の側面852においては、θ≠0°であれば、その側面にはa面やc面をもつファセットが存在し、θの値の上昇に伴い、側面内のc面ファセットの比率がa面ファセットに比べて大きくなる。このサファイアのc面ファセットが(11−22)面半極性面成長と関連があると考えられ、このc面ファセットの比率がθとともに増加し、θ>35°では、窒化物半導体層830以外のサファイア基板811の側面852からも半極性面窒化物半導体膜の成長が顕著に生じたと考えられる。
m面サファイア基板上に窒化物半導体膜を成長すると、その成長条件によってはm面ではなく(11−22)半極性面を主面とする窒化物半導体膜が成長することが知られている(非特許文献1)。この(11−22)半極性面の面方位の関係を図16(a)に示す。m面サファイア基板上の(11−22)半極性窒化物半導体の成長は、m面サファイア表面のr面ファセットと関係があると考えられる(図16(b)参照)。図16(a)に示したGaNの(11−22)面とa面である(11−20)面間の角度は31.6度であり、図16(b)に示したサファイアのm面である(1−100)面とr面(1−102)面間の角度は32.4度であり、その差は1度以下である。r面サファイア基板上にa面を主面とする窒化物半導体が成長するのは公知の事実である。よって、図16に示すように、m面サファイア基板上(11−22)半極性窒化物半導体成長が起こる要因の一つとして、m面サファイアの成長面上に存在するr面ファセットからa面窒化物半導体が成長するメカニズムが考えられ、このようにr面ファセット上にa面窒化物半導体が成長した結果、主面が(11−22)面となる半極性窒化物半導体が成長するものと考えられる。
このことを考慮すると、サファイアのr面ファセットはc軸方向を向いているため、本実施形態のように凹凸加工基板910を用意する工程において、窒化物半導体領域とともにm面サファイア基板の一部がエッチングされることを想定すると、a面ファセットが形成されている場合よりもc面ファセットが形成されている場合の方がよりr面ステップは形成され易く、結果として(11−22)半極性面成長が起こりやすいといえる。
前述のように面内マスク傾斜角度θによって、側面に含まれるサファイアのc面ファセットの面積比率が変化するため、この結果、θによって(11−22)半極性面成長の起こり易さも変化したと考えられる。本発明者の検討結果によると、半極性面異常成長の影響を抑え、m面方位のみを有する窒化物半導体結晶の再成長が実現できる面内マスク傾斜角度の範囲はθが0°から35°の範囲であった。
つまり、凹凸加工基板910のストライプ構造の面内マスク傾斜角度を0°から35°の範囲で制御すれば、半極性面異常成長を抑制しつつ、表面平坦性に優れた窒化物半導体膜870を得ることができる。
このm面サファイア基板表面がむき出しになった凹部850から発生する(11−22)半極性異常成長は、面内マスク傾斜角度と同様に凹部850のエッチング深さ(つまりサファイア基板811の側面852の深さ)にも依存する。面内マスク傾斜角度が0〜35°の範囲であっても、このエッチング深さが深すぎると半極性面異常成長が起こる場合があった。これは、たとえθ=0°に加工したとしても、原子レベルで平坦なサファイア基板811の側面852を得ることは事実上難しく、一部にはc面やr面を有するファセットが形成されるためと考えられる。この現象は、サファイア基板のエッチング側面の面積が広ければ広いほど起きやすいと考えられる。このような半極性面異常成長は、面内マスク傾斜角度にももちろん依存するが、凹部850のサファイア基板のエッチング深さ(同サファイア基板811の側面852の高さ)を、0nmを越え500nm以下に、より望ましくは、0nmを越え150nm以下に制御すれば、より効果的に抑制できる。
[(3)面内マスク傾斜角度と結晶性および転位密度・積層欠陥密度の関係]
次に、窒化物半導体膜の面内マスク傾斜角度と転位密度・欠陥密度の低減効果について説明する。まず転位密度については、面内マスク傾斜角度の広い範囲で、横方向選択成長により低減できることがわかっている。例えば、前述した表面平坦性が高く、半極性面異常成長が抑制できる面内マスク傾斜角度θ=0°〜35°であれば、転位密度低減効果により結晶品質を向上できる。しかし、非極性面窒化物半導体においては、転位密度の低減と同時に積層欠陥密度の低減が重要である。
図17にデバイス構造内の積層欠陥の模式図を示す。(a)は主面が極性面である一般的なc面GaN、(b)は本実施形態におけるm面GaNの模式図である。積層欠陥は通常、c面に沿って形成される(一般的にはこの積層欠陥をBasal Stacking Fault,BSFと呼ぶ)。よって、従来のc面を主面とするLEDなどのデバイス構造においては、仮に積層欠陥が発生したとしても、その欠陥が活性層領域に到達する可能性は低く、発光効率を悪化させる主要因とはならない。一方、本実施形態のような非極性面構造や半極性面構造においては、c面が側面および斜面として存在するため、積層欠陥が発生すると、活性層領域までこの欠陥が存在することになり、発光効率の悪化や発光波長を変化させる要因となりうる。よって、非極性面・半極性面成長においては、転位密度とともに積層欠陥密度も低減させる必要がある。
積層欠陥密度の低減効果は、選択成長が起こるファセットの面方位によって大きく異なる。図17に示したように、積層欠陥はc面に沿って主に発生するため、図15(a)のように面内マスク傾斜角度θが0°であれば、種結晶に積層欠陥が存在していたとしても、横方向には積層欠陥は伝搬しない。一方、図15(b)のようにθ=90°の場合、GaNのファセット面はa面であるため、c面に存在する積層欠陥は横方向成長とともにa軸方向に延びる。よって横方向成長により得られる膜にも積層欠陥が存在することになる。このように、横方向選択成長によって、積層欠陥密度を低減するには、横方向成長ファセット面の法線が、c軸に近い方が望ましい。よって、積層欠陥密度低減効果は、面内マスク傾斜角度θが0°に近い方が理想的であることがわかる。
一方で、前述した表面平坦性においては、面内マスク傾斜角度は0°以上とすることが望ましい。
前述の積層欠陥密度は、面内マスク傾斜角度が0°よりも大きくても低減できることがわかった。本発明者の検討によると、積層欠陥密度が低減できる望ましい面内マスク傾斜角度の範囲は、0°から10°であった。また、この範囲であれば、マスクパターンを適宜選択することにより、表面平坦性も同時に改善できる。
以上述べた面内マスク傾斜角度の制限は、種結晶となるm面サファイア基板上のm面窒化物半導体膜中の積層欠陥密度が低い場合(例えば103cm-1以下)、積層欠陥密度を更に低減させる必要がないため、面内マスク傾斜角度は0°から10°の範囲に限定する必要はない。この場合、再成長膜においては、表面平坦性と半極性異常成長の抑制のみを考えればよいので、面内マスク傾斜角度は0°から35°の広い範囲で制御すればよい。
面内マスク傾斜角度θが0°から35°の範囲であっても、窒化物半導体の再成長条件(厚さなどの成長条件)や、マスクパターンのラインおよびスペースの幅によっては、再成長膜が十分結合できず、空隙が存在するような表面となりうる。しかし、この面内マスク傾斜角度範囲であれば、半極性異常成長は起きないので良質な結晶性をもつm面窒化物半導体の再成長膜が得られる。
表面平坦性については、θが0°であっても、たとえばスペース幅を狭めたり、成長時間を長くして厚さを大きくしたりすることで空隙のない表面を得ることができる。またデバイス応用の観点では、必ずしも空隙をなくす必要はない。空隙が存在することを前提にデバイス構造を設計する場合は、半極性面異常成長のみを抑制すればよいので、面内マスク傾斜角度は0°から35°の範囲で適宜選ぶことができる。
本実施形態では、マスクレスPendeo横方向選択成長法について主に説明したが、図3に示すようにSiO2やSiNなど誘電体マスクや、TiやNi、Ta、Al、W、Moなどから形成される金属マスク、もしくはTiNなどの窒化された金属マスクが凸部窒化物半導体領域のマスク820として残ったまま、窒化物半導体膜870を形成するマスクを有するPendeo成長法においても、同様な効果が得られる。この場合、図3のマスク820において窒化物半導体層830に存在する転位がマスク820の上部に伝搬することを防ぐことができるため、結晶性を向上できる可能性がある。
なお、m面サファイア基板上に成長した凸部窒化物半導体層830や窒化物半導体膜870は伝導性制御を行うためのn型ドーパントやp型ドーパントが添加されていてもよい。n型ドーパントとしては例えばSiやGeが、p型ドーパントとしては例えばBe、Zn、Mgなどが好適に用いられる。
なお、本実施形態においては、凹凸加工基板910作製時のマスクとして、主に細く長いストライプ状構造が周期的に形成されたものについて説明したが、マスクの形状はこの限りではなく、様々な形状のマスクを用いることができる。例えば、四角形などの多角形、楕円などの円状のマスク形状が周期的に並んだマスク形状であってもよい。また、直線的なストライプ状マスクではなく、ジグザグに屈曲した構造が面内のある一方向に長く、それと直角の方向に周期的に並んだマスク構造であっても良い。またこれらの個々のパターンは必ずしも周期的に形成される必要はない。ただし、前述したように横方向選択成長により転位密度に加えて積層欠陥密度も低減させる場合には、加工してできた凸部窒化物半導体領域の延びる方向に垂直な方向にできる側面の法線が、窒化物半導体のc軸方向に近い方が望ましい。積層欠陥密度の低減効果が得られる面内マスク傾斜角度の望ましい範囲は、0°から10°であるので、このような条件を満たすエッチング側面を形成できれば、マスクの形状によらず、転位密度と積層欠陥密度の低いヘテロm面窒化物半導体基板920を作製することが可能である。
以上のような条件に基づき、m面サファイア基板上m面窒化物半導体膜を種結晶としたPendeo成長を実施することにより、m面サファイア基板を用いた特有の問題である半極性面異常成長を抑制しつつ、表面平坦性・結晶性に優れたヘテロm面窒化物半導体基板920を得ることができる。
(実施例1)
以下、本開示にかかる良質なm面へテロGaN基板の作製方法について、具体的な実施例に基づいて説明する。
しかし、本発明の実施形態は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
[種結晶となるm面サファイア基板上m面窒化物半導体の成長]
まずは、本実施例の種結晶として用いたm面サファイア基板上のm面窒化物半導体の製造方法について説明する。この製造方法は、以下の工程を含む。
(1) m面サファイア基板の表面処理
(2) m面サファイア基板のサーマルクリーニング
(3) m面サファイア基板上へのトリメチルアルミニウム(TMA)原料照射と低温AlxGayInzN(0≦x,y,z≦1、x+y+z=1)バッファ層成長
(4) m面GaN膜成長
以下、各工程について説明する。
[工程(1)m面サファイア基板の表面処理]
本実施例のm面サファイア基板の厚さは430μm、直径は2インチであり、当該m面サファイア基板の主面の法線とm面の法線とのなす角度は0°±0.1°である。成長前の基板洗浄については、以下のような手順で行った。有機溶媒で洗浄し、その後、硫酸と燐酸を1:1の比率で混合した溶液中で130℃、15分間基板洗浄を行い、純水でリンスした。この基板洗浄過程は省略した場合でも、後に説明するm面GaNの結晶性や表面平坦性には大きな影響を及ぼさなかった。
[工程(2)m面サファイア基板のサーマルクリーニング]
本実施例では、m面窒化物半導体の成長に有機金属気相成長法(MOCVD法:metal organic chemical vapor deposition法)を用いた。キャリアガスにはH2とN2の混合ガスを用いた。
m面サファイア基板をMOCVD装置に搬送後、昇温し、サーマルクリーニングを行った。サーマルクリーニング温度は1000〜1200℃、時間は10〜60分とした。
[工程(3)m面サファイア基板上へのTMA照射とバッファ層成長]
サーマルクリーニング終了後、基板温度を400〜800℃まで降温し、TMAを照射後、引き続き同じ温度でバッファ層を成長した。
TMA照射時間は2〜30秒であり、その後、窒素源として例えばNH3を照射し、バッファ層を同じ温度で成長した。このときのバッファ層として、AlN層を用いた。成長条件は、V/III比を10以上5000以下とし、厚さは20nmから500nmの範囲とした。
[工程(4)m面GaN膜成長]
バッファ層成長後、NH3を照射しながら基板温度900℃〜1100℃の範囲に昇温し、1〜5分温度の安定待ちを行った後、GaN膜の成長を行った。本実施例では、基板温度950℃、Ga原料であるトリメチグガリウム流量40sccm、NH3流量500sccm、圧力13kPaの条件下で厚さ1〜3μmのGaN膜を成長した。
成長したGaN膜の面方位はX線回折測定により確認することができる。図18は、本実施例において作製したm面サファイア基板上m面GaN種結晶の2θ−ω測定結果である。この測定においては、X線はm面GaNのa軸方向に平行になるように入射した。
図18において、2θ=68.7°はm面サファイア基板のピークであり、(3−300)面の回折ピークである。このピークよりもやや低角度側にm面GaNの(2−200)面からの回折ピークが2θ=67.9度付近に観測されている。本実施例で作製したm面サファイア基板上m面GaN膜においては、他の半極性面GaN膜からのピークは観測されなかった。
本実施例の条件から大きく逸脱した成長条件で成膜した場合、図19(a)、(b)に示すような半極性面GaNからのピークが観測された。図19(a)は(10−1−3)面をもつ半極性面GaNの2θ−ω測定結果であり、(10−1−3)面の回折ピークが2θ=63.5°付近に観測されている。また図19(b)は(11−22)面をもつ半極性面GaNの2θ−ω測定結果であり、(11−22)面の回折ピークが2θ=69.2°付近に観測されている。
このようにm面サファイア基板上GaN膜の成長条件を適宜選択することで、m面を主面とする窒化物半導体のみ(つまり半極性面結晶の混在がない)からなる結晶成長が実現可能であることを説明したが、このようにして得られたm面窒化物半導体の結晶性は一般的に低い。
図20に、前述した成長法により得られたm面サファイア基板上m面GaN膜の(1−100)面X線ωロッキングカーブ(XRC)測定結果の一例を示す。実線と点線はX線をそれぞれGaNのa軸、c軸方向に平行になるように入射した場合のXRC測定結果である。XRCの半値幅から結晶品質や転位・欠陥密度を評価することができる。例えば従来のc面サファイア基板上のc面GaNにおいては、その主面である対称面(0002)面の半値幅は、一般的に数百秒程度である。しかし、本実施例で得られたm面GaNの(1-100)面XRC半値幅は、GaNのa軸方向にX線を入射した場合1000秒程度と非常に大きい値を示した。これは、従来のc面GaN膜に比べて、本実施例で得られたm面GaN膜の結晶品質が悪く、非常に高い転位密度を含有していることを示している。透過型電子顕微鏡により見積もった転位密度はおよそ1010cm-2台であり、従来のc面サファイア上の窒化物半導体膜が108から109cm-2、もしくはそれ以下であることを考えると一桁以上高いことがわかる。
またm面GaN膜のc軸方向にX線を入射した場合のXRC半値幅は更に悪く、2000秒程度であった。このように本実施形態で得られたヘテロm面GaN膜は、面内でX線入射方向を変えると、XRC半値幅が大きく異なる結果となった。これは、ヘテロm面GaN膜の結晶性が面内で非対称性を持つことを意味している。このような非対称性が生じるのは、ヘテロm面GaN膜中に面欠陥である積層欠陥が発生していることに起因している。
つまり、本実施形態であるm面サファイア基板上のm面窒化物半導体のヘテロ成長においては、サファイア基板との大きな格子不整合度の影響により、高密度の転位が発生しており、これに加えてXRCの非対称性から確認できるように、積層欠陥が発生している。よって、ヘテロ成長したm面GaN結晶品質を向上し、デバイス特性を改善するためには、従来のc面GaNのヘテロ成長とは異なり、転位と積層欠陥の両方の密度を低減する必要がある。
本実施例では、このm面サファイア基板上のm面GaN膜を種結晶として用い、下記のような横方向選択成長法により転位密度と積層欠陥密度を低減し、良質な再成長m面窒化物半導体基板を作製した。
[凹凸加工基板910の作製]
本実施例では、図4に示したマスクレスPendeo成長用凹凸加工基板910の作製方法について説明する。まず、前述した成長手順により、m面サファイア基板上に成長したm面窒化物半導体膜を用意し、一般的なフォトリソグラフィー技術によりマスクパターンを形成した(図4(a))。マスクパターンとしては、典型的なライン&スペース(L&S)パターン、つまり細く長いストライプ状のパターンを用いた。本実施例では、マスク820のライン部分として幅がL=5μm、スペース部分840として幅がS=10μmのL&Sパターンを用いた。フォトリソグラフェィー工程終了後のレジストの厚さはおよそ2〜3μmであった。また本実施例では面内マスク傾斜角度θは0°とした。
次に誘導結合プラズマエッチング(ICPエッチング)装置を用いて、スペース部分840から種結晶用窒化物半導体膜812の一部を除去し、m面サファイア基板表面部分を露出させ、リッジ状の窒化物半導体層830と凹部850を形成した。凹部850をエッチングにより形成する際、種結晶用窒化物半導体膜812の一部が残留することがないように、サファイア基板811の一部もエッチングした。
スペース部分840の領域に存在するGaN層がすべて除去され、m面サファイア基板表面が剥き出しになるまでエッチングし、凹部850を形成した。その後、表面に残留したレジストマスクを除去し、図4(b)に示す凹凸加工基板910を完成した。
本実施形態の凹凸加工基板910の例を図21(a),(b)に示す。図21(a),(b)は、ストライプ状L&Sパターンマスクを用いて、凸部GaN膜とエッチングによりサファイア表面が露出した凹部である凹部850を形成した後の走査型電子顕微鏡像(SEM像)である。ここでは凸部GaNの延びる方向の断面図(左側)と鳥瞰図(右側)を示す。リッジ状の窒化物半導体層830の形状は、マスク形成条件やエッチング条件を適宜選ぶことで制御可能である。図21に示したように、リッジ状の窒化物半導体層830の断面形状は、(a)台形や(b)三角形に制御することが可能である。本実施例では、リッジ状窒化物半導体層830として、断面形状が台形構造のGaN膜を用いた。また図21(a),(b)に示すように、本実施例では凹部850はサファイア基板も一部エッチングされており、その深さはおよそ250nmであった。
本実施例のように面内マスク傾斜角度が0度、もしくはそれに近い角度の場合、リッジ状の窒化物半導体層830の両側面は、+c面と−c面(もしくは±c面から傾斜した面)のGaNファセットとなる。一般的に、+c面と−c面ではエッチング耐性が異なるため、エッチング速度が異なる。よって、通常面内マスク傾斜角0度付近でエッチングを行うと、断面形状が非対称になる場合がある。
本実施例では、前述したICPドライエッチングの条件を適宜選ぶことで、図21(a)、(b)に示したように比較的対称性の良い断面を得ることに成功した。しかし、本実施形態では、再成長は凸部窒化物半導体層830を起点として起こるので、ストライプ状の両側面の形状の非対称性が、再成長膜に及ぼす影響は低いと考えられ、凸部窒化物半導体層に形成される両側面が対称な傾斜角度を持つ必要は必ずしもない。
本実施例では、凸部窒化物半導体層830の厚さは約1〜3μmとしたが、この厚さについては適宜選択することができる。本開示のm面窒化物半導体の横方向選択成長を実現するには、m面窒化物半導体再成長が始まる同じm面窒化物半導体からなる種結晶部分と、窒化物半導体膜部分が除去され、m面サファイア基板が剥き出しになった凹部850が形成されていれば良い。前述したように、m面サファイア基板上のTMA照射とバッファ層は、m面を主面とする窒化物半導体膜を得るため(つまり半極性面成長を抑制するため)に必要なプロセスであるので、本実施例においては欠くことができない工程である。よって、ある実施形態においては、凸部窒化物半導体層830は、前述したバッファ層のみから形成されていればよい。
しかし、図4に示すように、横方向選択再成長により得られる本実施例のm面窒化物半導体膜870の結晶品質は、種結晶であるリッジ状窒化物半導体層830の結晶品質に大きく依存する。前述した凸部窒化物半導体層830がバッファ層のみで形成される場合には良質な再成長窒化物半導体膜を得るのが困難である。そのため、本実施例では、バッファ層上にm面を成長面に有する種結晶用窒化物半導体膜812を形成し、この層を加工することで凸部窒化物半導体層830とした。凸部窒化物半導体層830は、一般的に厚ければ厚いほど結晶性は高くなりやすく、窒化物半導体膜870の高品質化にも有利だが、種結晶成長時間の増加や、エッチング工程時間の増加などにより、コストが増加するという問題が生じる。本実施例では、種結晶の結晶性と成長時間のトレードオフを考慮し、種結晶用窒化物半導体膜812の厚さを1〜3μmとした。
[凹凸加工基板910上窒化物半導体膜870の再成長]
次に、凹凸加工基板910上にm面窒化物半導体膜870の再成長を行った。
凹凸加工基板910をMOCVD装置に搬送後、再成長温度まで昇温した。キャリアガスにはH2とN2の混合ガスを用いた。本実施例では、昇温途中でNH3ガスを導入した。これは凸部窒化物半導体層830の熱分解を抑制することが目的である。基板温度が500度になった時点で、NH3ガス0.5slmを成長炉内に導入し、そのまま再成長温度まで導入後、引き続きGaN膜の再成長を行った。本実施例では、成長温度を950度とした。
窒化物半導体膜870のその他の成長条件は以下のように設定した:V/III比=160、成長圧力13.3kPa、成長速度約4μm/hour。窒化物半導体膜870の成長条件は、この条件に限らず適宜選ぶことができる。しかし、図4(d)のように、それぞれの凸部窒化物半導体領域から再成長した窒化物半導体膜870を結合させて平坦な膜を得るには、適した成長温度、V/III比、成長圧力の条件下で再成長を行うことが望ましい。m面窒化物半導体膜の再成長条件としては、成長温度は850〜1100度、V/III比は50〜2000、成長圧力は1〜100kPaであり、成長温度は950〜1100度、V/III比は50〜200、成長圧力は1〜30kPaであってもよい。
図22に再成長後のサンプルの表面の顕微鏡写真を示す。本実施例では、面内マスク傾斜角度θ=0°としたので、ストライプの延びる方向がGaNのa軸方向に平行となる。
前述した横方向成長が促進される成長条件を用いたことにより、図21に示した凹凸形状は見られず、再成長により凹凸が埋まり、比較的平坦なm面GaN再成長膜が実現できていることがわかる。一方で、ストライプ状凹凸構造の延びる方向に沿って、いくつかのピットが見られる。これは図4(d)の結合部890に対応する。このピットの影響により表面粗さが大きくなり、図22のサンプルの表面rms(root mean square)粗さは約133nmであった。
図15(a)に示したように、面内マスク傾斜角度θ=0°では、横方向成長の起点となる側面ファセットはGaNにおけるc軸方向成分を持つ。前述したようにc面ファセットは、a面ファセットに比べると、成長速度が遅く、マイグレーション長が短いので、表面平坦性向上効果はa面ファセットの場合に比べると小さい。よって面内マスク傾斜角度を増加させることで、この側面ファセットをa軸方向に傾斜させることで、マイグレーション効果が促進され、ピットの発生を防ぐことができる。面内マスク傾斜角度依存性については、実施例2で説明する。
本実施例ではスペース間隔は10μm間隔としているが、このスペース間隔を短くすれば、面内マスク傾斜角度が0°であってもピットや空隙がない平坦な再成長膜表面を得ることができる。例えば、スペース間隔を7μmにした場合図22で見られたピットはなくなり、平坦な再成長窒化物半導体表面が得られることは実験結果で確認している。つまり、凸部窒化物半導体領域同士の間隔を狭くすることで、マイグレーション長が短い問題を克服し、表面平坦性を改善することもできる。
しかし、本実施例のマスクレスPendeo横方向選択成長により得られる高品質、低転位・欠陥密度領域は、凹部850の領域である。種結晶である凸部窒化物半導体層830の上に再成長される再成長膜には、種結晶に存在していた転位や欠陥がそのまま残るため、このリッジ状窒化物半導体層830の結晶性の改善効果は低い。よって、窒化物半導体膜870の表面において、転位密度や積層欠陥密度を低減し、より高い結晶品質を得ることができる凹部850の幅の最適化が、この膜の上に形成するデバイス構造の特性を向上させる上で重要である。
例えば窒化物半導体膜870の結晶性を向上させる方法として、凸部窒化物半導体層830の幅つまりL&SパターンのLを短くしてもよい。このLの幅については、本実施形態においては好適に選ぶことができ、その範囲は1nmから100μmであってもよいし、1nmから10μmであってもよい。
ピットや空隙を減らし、より平坦な再成長表面を得るには、L&SパターンのS(スペース)間隔を短くする以外にも、再成長時間を長くし、ピットや空隙が埋まるまで再成長膜を堆積してもよい。
図23(a)、(b)、(c)に実施例1で得られた再成長GaN膜(ヘテロm面窒化物半導体基板920)のSEM像を示す。(a)は鳥瞰図であり、(b)は凸部窒化物半導体層830から再成長した窒化物半導体膜870の断面図、(c)は凹部850の剥き出しになったサファイア基板表面付近の断面SEM像である。再成長窒化物半導体膜の厚さは約8μmであり、断面SEM像から種結晶である凸部窒化物半導体層830から再成長が起こり、隣同士の凸部から再成長した膜が結合し、最終的に平坦な表面が形成されていることがわかる。
図23(c)を見ると、凹部850の剥き出しになったサファイア表面から窒化物半導体が再成長している様子は見られない。凹凸基板表面に飛来した原料は、凹部850のサファイア表面には吸着せずにマイグレーションし、凸部窒化物半導体領域に達し、この窒化物半導体膜からのみ優先的に再成長していることがわかる。つまり、m面サファイア表面には原料は吸着しにくく、飛来した原料はm面サファイア表面では、エピタキシャル成長が起きにくいことがわかる。
本実施例では、スペース幅として10μmのマスクを用いたが、スペース幅を30〜250μmとした凹凸加工基板においても、成長条件を最適化することにより、凹部850の剥き出しになったサファイア基板表面よりも種結晶部に優先的に原料が供給され横方向選択成長が起こることを確認している。このように、再成長時の原料は、サファイア表面に吸着しにくく、種結晶部まで到達し、窒化物半導体膜の成長に寄与することがわかった。スペース幅の詳細な検討については実施例5でより詳細に説明する。
本実施例では、サファイア基板の側面852の高さは約250nmであったが、このように比較的浅いエッチング深さでも、m面を有するサファイア表面からの再成長が起こらず、横方向選択成長が実現できているのは、前述の特徴によるものと考えられる。サファイア基板811の側面852の高さ(エッチング深さ)の依存性については実施例3でより詳細に説明する。
このサンプルのX線2θ−ω測定を行ったところ、図18の結果と同様に、凹凸加工基板910上に再成長したGaN層からの(2−200)ピークとm面サファイア基板からの(3−300)ピークのみが観測されており、半極性面に起因したピーク((10−1−3)面や(11−22)面)は観測されなかった。つまり、実施例1の条件下で作製した凹凸加工基板910を用いて再成長したGaN膜は、m面に起因した回折ピークのみが観測されており、半極性面異常成長が起こっていないことがわかった。
本実施例で得られた再成長m面GaN膜の(1-100)面X線ωロッキングカーブ(XRC)半値幅の結果を表1に示す。このとき、X線はそれぞれGaNのa軸、c軸方向に平行になるように入射した。比較のため種結晶として用いたm面GaN膜の半値幅の値も同じ表に示す。前述したようにm面サファイア基板上に成長したm面GaN膜の半値幅は1000秒以上と高い値となっており、更にGaNのa軸とc軸方向にX線をそれぞれ入射した場合、GaNのc軸方向に入射した場合のXRC半値幅が倍程度大きくなっている。これはすでに説明したようにc軸方向にX線入射時は積層欠陥の情報が反映されるためであった。つまり、本実施例の種結晶であるm面GaN膜は、a軸とc軸方向X線入射のXRC測定結果に非対称性が見られ、積層欠陥を多く含む結晶であることがわかる。
一方、同一のm面GaNを種結晶とし凹凸加工基板910を形成した後に、m面GaN膜を再成長した場合は、XRC半値幅がa,c軸方向それぞれ537秒、639秒まで減少した。GaNのa軸方向入射時の値は、約半分の値まで減少した。これは再成長により転位密度が大幅に低減したことを意味する。また、種結晶の結果に比べて、再成長膜のa,c軸入射の半値幅の値は類似しており、対称性が改善している。これは、本実施例の再成長m面GaN膜において、転位密度とともに積層欠陥密度も低減していることを示している。
積層欠陥密度が低減した要因の一つとしては、本実施例においてストライプ状L&SパターンをGaNのa軸方向(マスク傾斜角度0度)に形成したことが挙げられる。図17に示したように、積層欠陥は窒化物半導体膜のc面内に存在するため、積層欠陥密度を効果的に削減するには、窒化物半導体のc軸方向に側面を形成し、そこから横方向選択成長をさせるほうがよい。
表1の二つのサンプルの厚さは4倍程度異なり、再成長膜の方が種結晶膜に比べて厚くなっている。つまり、表1の結果は、厚さの違いによるものと考えることもできる。しかし、本発明者が検討した結果、例えば種結晶m面GaNの成長において、厚さのみを8μm程度まで増加させても、XRC半値幅に大きな改善はなく、値としてはGaNのa軸、c軸方向にX線を入射した場合でそれぞれ、1100秒、1900秒程度までしか改善しなかった。つまり、表1の結果は、明らかに横方向選択再成長により得られた改善効果を示していることがわかる。
本実施例1では、図21(b)に示したように凸部窒化物半導体領域の断面形状が三角形構造を持つ凹凸加工基板上再成長m面窒化物半導体膜の結果を示したが、図21(a)に示した台形構造を持つ凸部窒化物半導体を種結晶とした場合でも、同様な転位密度と積層欠陥密度の低減効果が得られた。つまり、再成長した窒化物半導体膜870の結晶性は、種結晶である凸部窒化物半導体層830の結晶性に大きく影響を受けるため、凸部窒化物半導体領域の形状に対する依存は小さいと考えられる。よって、細く長いストライプ状に形成された凸部窒化物半導体層830の延びる方向の断面形状は、適宜選択することができ、四角(矩形)や台形、三角形などの多角形構造でもよいし、曲面を含む断面構造であってもよい。
(実施例2)
[m面窒化物半導体マスクレスPendeo成長の面内マスク傾斜角度依存性]
実施例1では、面内マスク傾斜角度0°、つまりm面窒化物半導体のa軸方向にストライプ状マスクの延びる方向が平行になるように凹凸加工基板910を用意し、その上に横方向選択成長する方法とその膜の特性について説明した。このように加工することで、ストライプ状に形成した凸部窒化物半導体層830の両側面の法線は、窒化物半導体の±c軸方向成分を持つ。このような側面を横方向成長の起点としたことで、転位密度とともに積層欠陥密度も低減することができた。しかしその一方で、面内マスク傾斜角度θが0°の場合、マイグレーション長は十分ではなく、表面にはまだ多数のピットが見られ、実施例1の条件下では表面の平坦化は不十分であった。
そこで本実施例2では、表面平坦性向上を目指し、ストライプ状マスク加工により形成した凸部窒化物半導体領域の面内マスク傾斜角度を0°から90°まで最小1°ステップで変化させて、実験を行った。
本実施例2において、m面サファイア基板洗浄、種結晶用窒化物半導体膜812の成長工程、凹凸加工基板910の作製工程は、ストライプ状のマスクの面内傾斜角度を0から90°の範囲で変化させた以外、基本的に実施例1で説明した工程と同じ条件を用いたので、詳細な工程の説明は省略する。
ストライプ状に長い凸部窒化物半導体領域の延びる方向が主面であるm面内で異なる傾斜角度をもつ凹凸加工基板910を用意し、実施例1とほとんど同じ条件下で、m面窒化物半導体膜の再成長を行った。
例として、図24に面内マスク傾斜角度を変化させたときのPendeo再成長後のGaN基板(ヘテロm面窒化物半導体基板920)のレーザ顕微鏡により撮影した表面モフォロジーを示す。面内マスク傾斜角度により表面平坦性が大きく変化していることがわかる。本実施例2では、面内マスク傾斜角度が0°においても、空隙が発生し、表面粗さは実施例1の場合に比べて悪化している。本実施例2では、表面平坦性やマイグレーション効果の違いを見るために、あえて面内マスク傾斜角度0°においても凹部850に空隙が発生するように再成長窒化物半導体膜の成長温度を実施例1の条件よりも30度低く調整した。成長温度以外にも、成長圧力やV/III比を低くすることもマイグレーション長を助長し、表面平坦性が向上すると考えられる。
面内マスク傾斜角度θが17°まで増えると、0°のときに見られた空隙は埋まり、表面平坦性が著しく改善した。これは前述したようにGaNのc軸方向の横方向成長から、a軸方向の横方向成長へとシフトし、角度θが増加したことにより、マイグレーション長が増加し、表面平坦性が向上したためと考えられる。
一方、面内マスク傾斜角度θが35°付近になると、表面平坦性が悪化し始めた。面内に所々結合していない領域が見られ、θが40°を超えるとこの傾向が顕著に見られた。
図25に傾斜角度と表面粗さの関係を示す。この図では、図24のレーザ顕微鏡像から見積もった表面rms粗さと面内マスク傾斜角度を示している。表面平坦性は、面内マスク傾斜角度θが0°から大きくなると改善し、5°から35°付近でもっともよい値を示すが、35°を超えると、表面粗さが増加した。低角度領域における表面平坦性の変化は、横方向成長の起点となるファセット面の面方位の違い、マイグレーション長の違いで説明ができる。一方、35°以上の領域の変化は、異なる原因で起こっていると考えられる。本発明者の検討によると、この変化は半極性面異常成長と関連があることがわかった。
図24の面内マスク傾斜角度が(g)47°と(h)80°の表面モフォロジーを見ると、空隙の間に、m面とは明らかに異なる結晶面を有する突起物が成長していることがわかる。このような突起物は、角度が高角側にずれるにつれて多くなり、特にθ=80°のサンプルにおいて多数見られた。
図26には、比較のためGaNのみからなる凹凸基板上に再成長した場合の結果を示す。これらのサンプルでは、m面サファイア基板がむき出しになるまでエッチングをせず、スペース部分840のエッチングを種結晶用窒化物半導体膜812の途中で終了している。よって、サファイア基板の影響を排除し、GaNのみからなる凹凸基板の面内マスク傾斜角度の依存性をみることができる。図では面内マスク傾斜角度を0°、45°、90°に変化させている。0°の場合、再成長後も凹凸形状がそのまま残っている。これはGaNのc軸方向のマイグレーション長が短いことに起因している。一方、角度が45°、90°になると、凹凸形状が埋まり、平坦化していることがわかる。図24との違いは明白であり、本実施例のように、面内マスク傾斜角度θが35°以上で起こる表面平坦性の悪化や突起物の発生は、明らかに凹部850の剥き出しになったm面サファイア基板表面に起因することがわかる。
この突起物の正体が(11−22)半極性面であることは、XRD2θ−ω測定から明らかになった。図27に、例として面内マスク傾斜角度θが0°、43°、90°のときの2θ−ω測定結果を示す。面内マスク傾斜角度が0°のときは、m面サファイア(3−300)とm面GaN(2−200)のピークのみが観測されるが、43°では(11−22)面の回折ピークが高角側に現れ、90°では更にこの強度が強くなっている。
図28に、このXRD2θ−ω測定結果から見積もった(11−22)面とm面(2−200)面の積分強度比の面内マスク傾斜角度依存性を示す。(11−22)面の積分強度は、表面粗さが増大し始めた35°付近を境に増加していることがわかる。このようなXRD測定結果の変化は、表面モフォロジーの変化(図25)と一致している。以上の結果から、面内マスク傾斜角度35°以上で起こる表面平坦性の悪化は、半極性面異常成長に起因していると考えられ、その半極性面とは(11−22)面を主面とする成長であることがわかった。
本発明者は、本実施例2における(11−22)面半極性異常成長がm面サファイア基板から直接成長していることを下記のような方法でも確かめた。
凹凸加工基板910にm面GaN膜を再成長する際に、何も加工を施していないm面サファイア基板も同時にMOCVD装置内に投入した。つまり、このm面サファイア基板においては、前述のTMA照射やバッファ層を用いずに、実施例1で説明した再成長窒化物半導体成長の工程を直接実施した。
m面サファイア基板上に前述の工程により直接窒化物半導体膜を成長した場合のXRD2θ−ω測定結果は、図19(b)と同様にm面サファイアからの(3−300)ピークと(11−22)面からの回折ピークのみが観測されており、m面GaNに起因する(2−200)のピークは観測されなかった。つまり、再成長窒化物半導体の工程をm面サファイア基板に直接施した場合、m面を主面とする窒化物半導体は成長せず、(11−22)面を主面とする半極性面窒化物半導体が成長することがわかった。
よって、本実施形態のm面サファイア基板を用いたm面窒化物半導体のPendeo横方向選択成長においては、凹凸加工した際に剥き出しになったm面サファイア基板領域から半極性面窒化物半導体が成長してしまうという問題が生じることがわかった。
前述の半極性面が成長してしまう問題は、m面サファイア基板を用いたPendeo成長に固有な問題である。例えばm面GaNの異種基板としては、m面SiC基板を用いることもできるが、この場合にはそもそも半極性面窒化物半導体成長は起こらない。またPendeo成長ではなく、ELOGやLOFT、air−bridged ELOなどの法では、再成長が起こる領域は窒化物半導体領域のみから形成され、それ以外の領域は誘電体材料などでマスクされており、異種基板表面は露出していない。よって、本実施例で見られたような、異種基板表面からの半極性窒化物半導体成長を抑制することができる。しかし前述のいずれの方法も、基板コストの問題や誘電体などのマスク材料からの不純物混入による結晶品質の低下が懸念されるため問題がある。よって本実施形態のように低コストで且つマスクを用いないm面サファイア基板上のm面窒化物半導体Pendeo成長法の実現が重要な意味をもつ。
実施例1において説明したように、(11−22)面半極性面異常成長は、凹凸加工基板910作製時に形成されたサファイア基板811の側面852に起因していると考えられる。サファイア基板811の側面852に存在するc軸方向を向くr面ファセットが起点となり、半極性面異常成長が起こったと考えられる。実験結果から推測すると、面内マスク傾斜角度が35°より小さい場合、半極性面成長の起点となるr面ファセット領域は少なく、XRD測定でも検知できないほどしか、半極性面領域は形成されていないと考えられ、再成長m面領域に比べるとその影響は無視できるレベルと考えられる。一方、角度が35°を超えると半極性面の成長が顕著におき、原料はGaN層のみではなく、サファイア基板811の側面852領域にも供給され、そこで成長が起こるため、表面モフォロジーも変化し、m面と(11−22)面が混在する再成長膜が得られたものと考えられる。
以上の結果から、m面サファイア基板上のm面窒化物半導体膜を種結晶としたPendeo成長においては、面内マスク傾斜角度によって半極性面異常成長が起こることがわかった。この影響を排除し、表面平坦性に優れ、m面方位に制御された再成長膜を得るには、面内マスク傾斜角度を0°から35°の範囲で制御することが必要であることがわかった。
(実施例3)
本実施例2では、半極性面異常成長が、凹部850の中のサファイア基板811の側面852を起点として生じ、この現象は面内マスク傾斜角度を35°より大きくした凹凸加工基板において顕著に起こることを説明した。このような傾向がみられるのは、面内マスク傾斜角度が大きくなるに従い、サファイア基板811の側面852のファセット面がa軸方向からc軸方向に変化するためである。サファイア基板811の側面852の法線がc軸方向に近いとr面ファセットが形成されやすくなり、半極性面成長が起こり易くなる(図16参照)と考えられる。つまり、本実施形態においては、サファイア基板811の側面852内にc軸方向やr軸方向成分を含むファセットが一部でも存在すれば、そのファセットを起点として半極性面異常成長が起きる可能性があるといえる。
このことを考慮すると、例えば面内マスク傾斜角度が0°とした場合でも、半極性面異常成長が起こる可能性は0ではないといえる。エッチングによる側面を形成する際、そのエッチング表面を原子レベルで平坦にするのは不可能に近い。よって、エッチング側面は多少の揺らぎが存在する。つまり、0°の場合でも完全に側面のファセット面を制御できるわけではなく、サファイア基板811の側面852内にはa面ファセット以外の結晶面を有するファセット(例えばr面)も存在しうる。
実際、特許文献5では、凹凸加工したm面サファイア基板に直接窒化物半導体を成長させる検討を行っており、このときの凸部の延びる方向がc軸方向であり、サファイアの側面の法線がa軸方向を向いている場合(本実施形態では面内マスク傾斜角度が0°に対応)でも、(11−22)面成長が確認されたと報告している。
半極性面異常成長を抑制するには、実施例2において説明したように面内マスク傾斜角度制御による、c軸やr軸方向に法線成分を持つファセットを減らすことも効果的だが、半極性面成長が起こりうるサファイア基板811の側面852の領域自体を減らすことも効果的だと考えられる。原理的にこのサファイア基板811の側面852の深さが0に近ければ、半極性面成長は起きにくくなり、面内マスク傾斜角度依存性も小さくなる。また、半極性面成長が起きたとしても、本来のm面窒化物半導体領域に比べると極めて小さい領域でしか起きていないはずなので、再成長膜全体への影響も限りなく小さくできるはずである。
本実施例3では、サファイア基板811の側面852の深さ依存性について調査した。
本実施例3において、m面サファイア基板洗浄、種結晶用窒化物半導体膜812の成長工程、面内マスク傾斜角度を0から90°まで変化させたストライプ状L&Sパターン、凹凸加工基板910を用意する工程、窒化物半導体膜870を成長する工程は、基本的に実施例1、2と同じ条件を用いた。ただし、サファイア基板811の側面852の深さの影響を調査するために、凹凸加工時のエッチング時間は変化させた。
図29(a)、(b)にサファイア基板811の側面852のエッチング深さを変化させて作製した窒化物半導体膜870の(11−22)面とm面(2−200)面のX線回折ピーク積分強度比の面内マスク傾斜角度依存性を示す。図29(a)は図28に示した実施例2と同じ結果を用いており、この場合のサファイア基板811の側面852の深さはおよそ250nmであった。一方、図29(b)は凹凸加工時のエッチング時間を短くしたサンプルであり、エッチング深さはおよそ150nmである。
図29(a)はすでに説明したように、面内マスク傾斜角度θが35°以上になると(11−22)面の回折強度が大きくなり、再成長膜に半極性面が共存していることがわかる。一方、(b)のエッチング深さを150nmにしたサンプルでは、θの値が増加しても急激に(11−22)面の回折強度が強くなる傾向は見られなかった。
この実験結果は、半極性面異常成長がサファイア基板811の側面852の深さを低くし、この側面領域の面積を小さくすることで抑制できることを示している。これは、前述したように、半極性面異常成長の起点となるr面ファセットの数が、サファイア基板811の側面852の深さを低くすることで減少したためと考えられる。
以上の結果から、m面サファイア基板上m面窒化物半導体膜を種結晶としたPendeo成長において、面内マスク傾斜角度とともにサファイア基板のエッチング深さをある範囲に制御することで、半極性面異常成長を抑制できることがわかった。面内マスク傾斜角度を制御すれば、サファイア基板811の側面852のエッチング深さは、0から500nmの範囲でも半極性面成長を抑制することができるが、サファイア基板811の側面852のエッチング深さを0から150nmの範囲で制御すれば、より効果的に半極性面異常成長を抑制することができる。
本発明者の検討結果から、Pendeo再成長時に目的とは異なる面方位の窒化物半導体が異常成長する問題は、エッチング工程で形成された基板側面852の高さを0nm以上500nm以下に、または0nm以上150nm以下の範囲に制御すれば、異なる面方位を有するファセットが存在する領域を相対的に減らすことができるので、面内マスク傾斜角度に依存せず、基板側面852からの異常成長を効果的に抑制することができることが明らかとなった。これにより、高品質で且つ平坦性に優れた非極性面窒化物半導体のPendeo再成長膜を得ることができる。
なお、凹凸加工基板910を用意する工程において、基板側面852の高さを0nm以上500nm以下に、または0nm以上150nm以下の範囲に制御するとともに、面内マスク傾斜角度も目的とは異なる面方位の窒化物半導体の異常成長が起こりにくい0度から35度以内に設計することで、更に効果的に基板側面852領域からの異常成長を抑制することができる。
ここで、図14のストライプの延びる方向に垂直な両側面の傾斜角度γの依存性についても説明する。サファイアのr面ファセットは、図16に示したようにc軸からm軸に傾いた結晶面である。よって、サファイア基板811の側面852の法線がa軸方向よりもc軸方向を向いている場合(例えば図15)の方が、r面ファセットを起点とした半極性面異常成長が起こり易くなることはすでに説明した。同様に、図14に示すように、サファイア基板側面の傾斜角度γを90°に制御すれば、原理的にはr面ファセットは発生せず、面内マスク傾斜角度θが90°であっても半極性面異常成長を抑制できる可能性はある。しかし、現状では原子レベルで急峻な側面をもつエッチング加工が困難であり、側面傾斜角度をγ=90°に設計したとしても一部の領域ではr面ファセットが発生し、γ<90°の領域が現れ、そこから半極性面成長が起きる可能性が高いと考えられる。現状では面内マスク傾斜角度θとサファイア基板811の側面852の深さを制御すれば、半極性面異常成長を十分抑制できる。図14における側面傾斜角度γは広い範囲で選択することができ、例えば0°<γ<150°の範囲で制御することが望ましい。
<半極性異常成長が起こりやすい条件について>
m面サファイア基板を用いたPendeo再成長時に起こる半極性異常成長の要因は、m面サファイア基板上に窒化物半導体膜を成長した場合、その窒化物半導体膜の取りうる面方位(結晶方位)が一種類ではなく、複数存在することにある。
具体的には、前述したように、m面サファイア基板上に窒化物半導体膜を成長させた場合、m面である(1−100)面や(10−1−3)面、(11−22)面を主面とする窒化物半導体の成長が起こる。成長条件や成長前の基板表面状態によってこれらの面方位のうちの一つが成膜することがあれば、これらの面方位が混在して成膜されることもある。
例えば、図14(a)、(b)に示すように、凹部850の側面においては、例えば窒化物半導体のa面とサファイア基板のc面というように、異なる面方位が露出する。このように基板と成長膜の面方位にずれが生じるのは、基板と成長膜の結晶構造がそもそも異なり(サファイアはコランダム構造であり、窒化物半導体はウルツ鉱構造である)、基板と成長膜の間に複雑なエピタキシー関係が存在するためである。
本実施形態における非極性面であるm面窒化物半導体のPendeo横方向選択再成長において、m面窒化物半導体とは異なる面方位を有する結晶が同時に成長してしまうという問題は、(1)基板が窒化物半導体とは異なる結晶構造を有し、且つ(2)一つではなく、複数の面方位を有する窒化物半導体膜が成膜する可能性があるという二つの条件を同時に満たす基板を用いた場合、起こりえる。
まず(1)の条件について説明する。例えば、基板として、GaNバルク基板やZnOといった、窒化物半導体と同じウルツ鉱構造を有する半導体や酸化物を用いた場合、図14(a)、(b)に示すような凹部850を形成し、基板の表面がむき出しになった領域や基板の側面852が形成されたとしても、これらの領域から主面と異なる面方位を持つ結晶が再成長過程で形成されることはない。厳密には結晶構造が異なるものの、窒化物半導体と非常に近い結晶構造を有するSiC基板を用いた場合にも、異なる面方位が同時に成長してしまうという問題は発生しないと考えられる。
これは、成長膜と基板とが同じ結晶構造を有しているので、成長主面はもちろん、エッチングにより形成された基板の側面852の面方位も成長膜のエッチングにより形成された側面と同じ面方位を持つためである。
続いて(2)の条件について説明する。前述したようにm面サファイア基板上には、m面である(1−100)面や(10-1-3)面、(11−22)面の面方位を主面とする窒化物半導体の成長が起こりうる。
図30(a)および(b)は、それぞれ、成長面がm面およびオフ面である場合の結晶軸の方向を説明するための図である。図30(a)、(b)において、「成長面」とは基板の成長面である。
図30(a)に示すように、サファイア基板の成長面がm面から傾いていない(オフされていない)場合、c軸方向やa軸方向は成長面と平行である。この場合、本発明者は、窒化物半導体膜のc軸方向(第1の方向)において、m面サファイア基板と窒化物半導体膜との間の格子不整合度が2%以上であり、成長面内において、第1の方向と垂直な第2の方向(a軸方向)において、m面サファイア基板と窒化物半導体膜との間の格子不整合度が10%以上であれば、異なる面方位を有する結晶が同時に成長しやすいことを見出した。
図30(b)に示すように、サファイア基板の成長面がm面から傾いている場合(オフされている場合)には、c軸方向が成長面と平行でない場合がある。このような場合、格子不整合度は、窒化物半導体のc軸をサファイア基板の成長面に正射影した方向(第1の方向:成長面におけるc軸方向成分)を基準にして導出される。すなわち、第1の方向において、基板と窒化物半導体膜との間の格子不整合度は2%以上であり、基板の成長面内における第1の方向と垂直な第2の方向において、基板と窒化物半導体層との間の格子不整合度は10%以上である。
ここで、格子不整合度(歪量)M(%)は、下記(式1)により計算される。ここで、dsは基板の格子面間隔、dgは基板の上に成長される膜の面間隔である。
M(%)=100(dg-ds)/ds (式1)
格子不整合度は、成長膜と基板との界面における、それぞれの面間隔の差の値から定義され、成長膜の厚さが臨界厚さを超え、十分に厚い場合における残留歪とは根本的に異なる。本明細書における格子不整合度とは、成長膜と基板のエピタキシー関係、面間隔差から理論的に推定できる歪量であり、実験的に求められる残留歪量とは異なる。
また、基板と成長膜の面間隔の差の値の大きさによって、成長膜の成長モード(エピタキシーモード)が異なる。成長膜と基板の面間隔の差の値がさほど大きく無い場合(例えば10%未満)、成長は格子整合モードで起こる。一方、面間隔の差の値が例えば10%以上と極めて大きい場合、エピタキシーは格子整合モードではなく、ドメイン整合モードで起こる。
例えば基板の成長面内の面間隔をdsとし、その基板の格子面とエピタキシー関係にある成長膜の成長面内の面間隔をdgとすると、格子整合モードでは、
a・ds=a・dg (aは1以上の整数)
という関係が成長膜と基板の界面で成立する。この場合、基板の格子面と成長膜の格子面とは1対1の関係にある。
一方、ドメイン整合モードでは、
(a±1)・ds=a・dg (aは1以上の整数)
という関係が成長膜と基板の界面で成立する。ドメイン整合モードでの成長は、非常に大きな格子の不整合が前提となっている。したがって、この不整合を緩和するため、格子面を追加し(もしくは取り除き)、歪を小さくしている。このように、ドメイン整合モードでは、極めて大きい歪を緩和するため、成長膜と基板との格子面が複数ずつ対(ドメイン)をなして整合する。
ドメイン整合モードで成長した界面は、成長膜と基板の複数の格子面の数を調整し、歪を緩和するが、格子面の数が成長膜と基板とそもそも合っていないので、界面にはそのドメインの周期ごとにミスフィット転位が存在する。
なお、上述したドメイン整合モードにおいて、成長膜と基板の格子面間隔数の差を1としたが、この数は1より大きくてもよく、材料系によって異なる。ただし、窒化物半導体の異種基板上のエピタキシャル成長においてはほとんどの場合1となる。
なお、上述の(式1)に示すように、本実施形態における格子不整合度は、ドメイン整合モードではなく格子整合モードを想定して計算される。すなわち、格子面(面間隔)が1:1で対応している場合を想定して計算される。
図31に、m面サファイア上にm面GaNが成膜した場合のそれぞれの結晶軸の関係と格子定数を示す。図31はm軸側から見た原子配列を示している。なお、図31において、酸素原子の図示は省略している。
図31に示すように、m面窒化物半導体を成長させる場合、成長面におけるa軸([11-20]方向)とc軸方向([0001]方向)との格子定数の差(非対称性)が大きい。このような傾向は、m面以外の非極性面や半極性面の窒化物半導体を成長させる場合にも共通している。この非対称性は、前述したように基板材料の結晶構造が窒化物半導体と同じか、もしくは類似していない限り、非常に大きくなる。
比較のため、例えばGaNバルク基板やZnO基板を用いる場合を考える。これらの基板上にm面GaNを成長する場合、成長膜のc軸およびa軸と基板のc軸およびa軸は一致する。したがって、GaNバルク基板を用いた場合の格子不整合度は両方向で0%であり、ZnO基板を用いた場合の格子不整合度はc軸方向で0.4%、a軸方向で1.9%である。このように、非対称性は非常に小さい。
しかし、図31に示したように、m面サファイア基板の結晶構造は窒化物半導体の結晶構造と異なり、成長面において、それぞれのc軸とa軸は90度回転した関係にある。すなわち、サファイアのc軸にGaNのa軸が対応し、サファイアのa軸にGaNのc軸が対応した状態で成長が起こる。サファイアのa軸方向とGaNのc軸方向の格子不整合度は8.3%(サファイアの格子面間隔d(11−20)とGaNの格子面間隔d(0002)を(式1)に代入することにより算出)であり、格子整合モードのエピタキシー関係にある。一方、サファイアのc軸方向の格子定数とGaNのa軸方向の格子定数は、それぞれ12.99Åと3.189Åであり、3倍程度異なる。この結晶軸方向の格子不整合度は、サファイアのc軸方向の面間隔d(0006)=2.165Å(12.99Åを6で除した値)と、GaNのa軸方向の面間隔d(11-20)=1.595Å(=3.189Åを2で除した値)を用いて求められ、26%となる。
このような大きな格子不整合度が存在する場合、3枚のサファイアc軸方向面間隔、つまりd(0006)×3と、4枚のGaNa軸方向面間隔、つまりd(11-20)×4の、それぞれ複数の面間隔を一つのユニットとして格子が整合しようとするドメイン整合モードによるエピタキシー関係が成り立つ。この場合、ドメイン整合モードにおける格子不整合度は1.8%まで低減するが、この結晶軸方向はそもそも面間隔の枚数がサファイア3枚に対しGaN4枚とずれが生じているため、この面間隔の周期ごとにミスフィット転位を含む構造となる。これが、先に述べた、ドメイン整合モードのエピタキシー関係の例である。
一般的に、非極性面窒化物半導体のヘテロエピタキシーでは、格子定数差が小さい基板がなく、面内の格子不整合度の非対称性が大きくなる。このような格子不整合度の非対称性が、非極性面窒化物半導体へテロエピタキシー膜の高品質化を困難にする一つの要因となっているといえる。
このような大きな面内格子不整合度の非対称性をもつヘテロエピタキシーでは、成長面内の方向によって結晶成長モードが異なることは前述した通りである。m面サファイア基板上m面GaNのエピタキシーにおいては、比較的格子定数差が小さいGaNのc軸方向(サファイアのa軸方向)では格子整合モードで、格子定数差が非常に大きいGaNa軸方向(サファイアc軸方向)ではドメイン整合モードで結晶成長が進む。
非極性面を有する窒化物半導体のヘテロエピタキシーでは、このように面内で結晶成長モードが異なる場合がほとんどである。現在まで、r面サファイア基板上のa面窒化物半導体成長や、γ−LiAlO2基板上m面窒化物半導体成長、m面サファイア基板上のm面ZnO成長、m面窒化物半導体成長などにおいて同様の結果が報告されている。例えばr面サファイア基板上のa面GaNの成長においては、その面内格子定数の関係は、サファイアのa軸とGaNのm軸とが平行になり、サファイアの[-1101]方向とGaNのc軸とが平行になる。それぞれの格子不整合度は、約16.1%、1.2%である。
この場合、格子不整合度が非常に大きいサファイアのa軸およびGaNのm軸方向のエピタキシーはドメイン整合モードとなり、周期的に転位が存在し、歪が緩和されている。ドメイン整合モードでの成長は、サファイアのd(11−20)面7枚に対し、GaNのd(10−10)面6枚で起こり、この場合の不整合度は0.5%に低減される。一方、格子不整合度が小さいサファイアの[-1101]方向およびGaNのc軸方向のエピタキシーは格子整合モードで起こる。
このように非極性面窒化物半導体のヘテロエピタキシーにおける面内歪と成長モードの非対称性は、いくつかの研究において確認されているが、本実施形態のように複数の面方位を有する窒化物半導体が成長しやすいという特徴は、m面サファイア上にm面窒化物半導体を成長させる場合に顕著であるといえる。
前述したように、m面サファイア上m面窒化物半導体のヘテロエピタキシーにおいて、サファイアのc軸とGaNのa軸との格子不整合度は26%、サファイアのa軸とGaNのc軸との格子不整合度は8.2%となる。サファイアのc軸とGaNのa軸方向においては、ドメイン整合モードで成長が起こる。基本的には、GaNのd(11−20)面4枚おきに(サファイア側ならd(0006)3枚おきに)、周期的転位を含みながら歪は積極的に緩和される。この結晶軸方向においてはドメイン整合モードにより歪は小さくなる。
一方、この方向から90度ずれたサファイアのa軸およびGaNのc軸方向は格子整合モードで成長が起きる。この方向の歪量は、8%程度と大きい。このGaNのc軸方向の大きい歪量が、他の非極性へテロエピでは見られない、異なる複数の面方位を有する窒化物半導体成長が起こる原因となっていると本発明者は考えている。
事実、複数の面方位の成長が確認されず、比較的容易に非極性面窒化物半導体の面方位制御が容易なヘテロエピタキシーでは、この格子整合モードで成長が起きる結晶軸方向はc軸成分を有し、且つその歪量は1%程度と小さい。例えばr面サファイア基板上のa面GaNにおいては、サファイアの[-1101]方向とGaNのc軸方向との格子不整合度は1.2%である。また、(100)面γ−LiAlO2上のm面GaNにおいては、γ−LiAlO2の[010]方向がGaNのc軸と平行になるようにエピタキシーが起こるが、この方向の格子不整合度は0.3%である。
このように、m面サファイア基板上のm面GaN成長においては、面内のGaNのc軸方向成分の歪量が、他の非極性窒化物半導体へテロエピタキシー系に比べると、極めて大きく、この大きな歪量がm面以外の面方位の窒化物半導体が成長してしまう起点となっていると考えられる。
m面サファイア基板上にm面窒化物半導体を成長させる場合に、バッファ層としてAlN層を用いることによって面方位を再現性よく制御できることからも、前述のモデルが正しいことが確認できる。m面AlNのc軸長はGaNのそれよりも短いため、サファイアa軸/AlNc軸の歪量は約4%となり、GaNのそれにくらべて半分程度まで減少しており、これがm面以外の面方位、つまり半極性面異常成長を抑制できた一つの要因であると考えられる。
しかし、本実施形態のPendeo横方向選択成長では、再成長時にAlNのバッファ層は用いない。よって、サファイア基板811が剥き出しになった凹部850の底面851と側面852とでは、面方位が異なるため、再成長するGaNとサファイア表面の歪の関係も異なる。特に前述したように、側面852にサファイアr面ファセットが存在する場合、このr面ファセットからa面GaNが成長するメカニズムと同じメカニズムで(11−22)面GaNが成長する。これはm面サファイア上m面GaNにおけるGaNのc軸方向の格子不整合度(約8%)が、このr面ファセットを起点とした(11−22)面GaN成長において劇的に低減されることに起因していると考えられる(この場合、格子不整合度は、r面サファイア上a面GaNと同様なメカニズムにより、1.2%まで低減することになる)。
窒化物半導体膜の面内c軸方向成分を有する結晶軸における格子整合モードでのエピタキシーにおいて、その歪量は1%程度であれば、先に述べたr面サファイア基板上a面GaN(格子整合モードの格子不整合度=1.2%)や、γ−LiAlO2基板上m面GaN(格子整合モードの格子不整合度=0.3%)の例からも、主面と異なる面方位を有する窒化物半導体の異常成長が起こりにくいと考えられる。よって、格子整合モードのエピタキシーが起こる窒化物半導体膜の面内c軸方向成分においては、その歪量が2%を超える場合において、複数の面方位を有する窒化物半導体の成長が起こりやすいと考えられる。
以上のことをまとめると、非極性面窒化物半導体のヘテロエピタキシーにおいて、成長面内の互いに90度異なる方向で定義される2つの方向(面内成長軸)の内、窒化物半導体のc軸を成長面に正射影した方向(第1の方向)における格子不整合度が2%以上であり、成長面内において第1の方向と垂直な方向(第2の方向)の格子不整合度が10%以上である場合、複数の面方位を有する窒化物半導体の異常成長が起こり易いと考えられる。
より窒化物半導体の異常成長が起こり易い条件は、成長面内の互いに90度異なる方向で定義される2つの方向の内、窒化物半導体のc軸を成長面に正射影した方向(第1の方向)の格子不整合度が2%以上10%未満であり、成長面内において第1の方向と垂直な方向(第2の方向)の格子不整合度が10%以上である。
このような問題が発生しうる材料系は、m面サファイア基板とm面GaNとの組み合わせ以外にも、いくつか存在する。このような材料系は、例えば、半極性面窒化物半導体をヘテロ成長させる組み合わせである。
その1つが、m面サファイア基板と(11−22)半極性窒化物半導体との組み合わせである。この組み合わせにおいては、(11−22)半極性面を成長しようとしても、m面や(10−1−3)面が意図せず成長してしまう可能性が高い。
非特許文献5によると、サファイアの[11−20]方向とGaNの[1−100]方向とが平行になり、サファイアの[0001]方向とGaNの[-1-123]方向とが平行になる。また、それぞれの格子不整合度は、16.1%、−6.3%であると報告されている。GaNの[-1-123]方向は、GaNのc軸方向を成長面内に正射影した方向であるため、非特許文献5において、半極性(11−22)面GaNの面内c軸方向成分の歪量(格子不整合度)は−6.3%である。この非特許文献5では、歪量をドメイン整合モードで計算している。本実施例において、格子不整合度を格子整合モードで見積もると、格子不整合度は更に大きくなり、10%以上の値となる。
つまり、m面サファイア基板上に半極性面(11−22)面GaNを成長させるエピタキシーにおいては、GaNのc軸方向成分(c軸を基板の成長面に正射影した方向である第1の方向)、成長面において第1の方向と垂直な方向の両方において面内格子不整合度が10%以上の大きな値となる。
m面サファイア基板上への(11−22)半極性窒化物半導体のエピタキシーにおいても、図4に示した工程により、凹凸加工基板910を用意し、リッジ状窒化物半導体層を形成し、Pendeo再成長を行うことで、積層欠陥密度や転位密度を低減し、(11−22)半極性窒化物半導体層の結晶品質を向上させることができる。
ただし、非極性面や半極性面窒化物半導体層において多く存在する積層欠陥を劇的に減少させ、結晶品質を効果的に向上させるためには、リッジ状窒化物半導体層の延びる方向とm面サファイア基板のc軸とのなす角度が90度であってもよい。
m面サファイア基板上のm面窒化物半導体のエピタキシーの場合、窒化物半導体の面内のc軸方向([0001])とサファイアのa軸方向([11-20])が平行になる関係となり、転位密度と共に積層欠陥密度を効果的に低減させるためには、リッジ状窒化物半導体層の延びる方向は、m面サファイア基板のc軸と平行に近くてもよい(面内マスク傾斜角度と積層欠陥密度の詳細については、実施例4において詳細に説明する)。
しかし、m面サファイア基板上の(11−22)半極性面窒化物半導体の場合、窒化物半導体のc軸方向成分(c軸方向を成長面内に正射影した方向、[-1-123])は、サファイアのc軸方向([0001])と平行である。
以上の理由から、m面サファイア基板上の(11−22)半極性面窒化物半導体層のPendeo再成長を行う場合、凹凸加工基板910の形態は、リッジ状窒化物半導体層の延びる方向とm面サファイア基板のc軸とのなす角度が90度になるようにフォトリソグラフィーやエッチング加工を行ってもよい。
更に、この凹凸加工基板910を用意する工程において、エッチング時に形成されるサファイア基板の側面852の高さは、0nm以上500nm以下に、または0nm以上150nm以下の範囲に制御すれば、この側面からの(11−22)面以外の窒化物半導体層の異常成長を効果的に抑制でき、高品質で且つ平坦性に優れた半極性面窒化物半導体のPendeo再成長膜を得ることができる。
なお、この場合のリッジ状窒化物半導体層の延びる方向とm面サファイア基板のc軸とのなす角度は、90度と完全に平行である必要は必ずしもない。発明者の検討結果によれば、この角度範囲が90度±10度に制御し、凹凸加工基板910を用意し、Pendeo再成長を実施すれば、転位密度とともに積層欠陥密度を効果的に低減した(11−22)面半極性窒化物半導体層を得ることができることがわかっている。これらの詳細については、実施例4で説明する。
(実施例4)
実施の形態1ですでに述べたように、非極性面窒化物半導体成長においては、転位密度の低減と同時に積層欠陥密度の低減も重要である。本実施例では、再成長m面GaN膜の結晶性の面内マスク傾斜角度依存性について調べた。転位密度の低減効果については、XRC半値幅により評価した。このときX線入射方向はGaNのa軸方向とした。また積層欠陥密度の低減効果については、フォトルミネッセンス(PL)測定により行った。これは、PL評価の方がより正確に積層欠陥密度の影響を調べることができるためである。
なお、本実施例4において、m面サファイア基板洗浄、種結晶用窒化物半導体膜812の成長工程、面内マスク傾斜角度を0から90°まで変化させたストライプ状L&Sパターン、凹凸加工基板910を用意する工程、窒化物半導体膜870を成長する工程には、基本的に実施例1、2と同じ条件を用いた。
図32に面内マスク傾斜角度θを0°から35°に変化させた場合の窒化物半導体膜870のXRC半値幅を示す。X線入射方向は、GaNのa軸と平行である。この実験においては、2つのm面サファイア基板上m面GaN膜を種結晶用窒化物半導体膜812として使用しており、θが0〜15°のサンプルと17°〜35°のサンプルでそれぞれ異なっている。図中の点線は、表1に示した代表的な種結晶GaN膜のXRC半値幅の値(1326秒、0.37degree)を示している。2つの種結晶GaNもほとんど同じXRC半値幅を有していた。XRC半値幅は、面内マスク傾斜角度の広い範囲で、種結晶の値に比べほぼ半減しており、本開示のPendeo再成長により転位密度が低減していることがわかる。なお、図中のXRC半値幅は、面内マスク傾斜角度が増加するに従い、徐々に悪化しているようにも見えるが、これは種結晶m面GaN膜の違いによるものであり、面内マスク傾斜角度依存性を示すものではないと考えられる。
図33に、室温のPLスペクトルを示す。PL評価においては、励起源にHe−Cdレーザ(連続波、強度:〜30mW)を用いた。図33では、例として面内マスク傾斜角度がθ=5°、14°の結果を示す。GaNのバンド端付近の発光ピークは3.4eV付近に見られ、それ以外の発光は深い準位(Deep Level)に起因した発光である。両サンプルとも図32のXRC半値幅の値には大きな違いはなかったが、バンド端の発光強度は、面内マスク傾斜角度の小さいθ=5°のサンプルにおいて強く、θ=14°のサンプルではDeep Level発光の方が支配的であった。
二つのサンプルにおける発光スペクトルの差異の要因は、図32に示したXRC半値幅に違いがないことを考慮すると、転位密度による可能性は低い。よって、図32のXRC半値幅の結果に反映されていない積層欠陥の影響によるものと考えられる。
積層欠陥の影響については低温(10K)PL測定により調査した。図34(a)から(c)に、面内マスク傾斜角度θがそれぞれ0°、5°、21°の場合の結果を示す。また比較として種結晶用窒化物半導体膜812のスペクトルを図34(d)に示す。θ=21°、種結晶のサンプルでは主に3つのピークが観測されている。各発光ピークの値については、成長した膜の歪量などにより多少異なる場合があるが、今回の実験結果の系統的な検討と、他の文献結果との比較検討から、3.42eVの発光は積層欠陥に起因し、3.48eVのピークはドナー束縛励起子に起因する発光(D0,X)であると考えられる。まず(d)種結晶と(c)θ=21°の結果を比較すると、θ=21°のサンプルにおいて、(D0,X)の強度が積層欠陥に起因するピークに対し増加しており、種結晶に比べて積層欠陥密度が減少していることがわかる。しかし、(D0,X)の強度は、積層欠陥のそれとほぼ同等であり、全体の発光強度も弱かった。
これらの結果に比べて、面内マスク傾斜角度θが小さい(a)0°、(b)5°のサンプルでは、積層欠陥に起因するピーク強度は弱く、(D0,X)に起因する発光が支配的であった。また発光強度もθ=21°に比べて、一桁以上増加した。
このように室温PL測定において、バンド端付近の発光強度が強い再成長GaN膜においては、低温PL測定でも積層欠陥に起因した発光強度の大幅な低減と、(D0,X)強度の増加が確認された。このように面内マスク傾斜角度の範囲を適切に選択することにより、転位低減効果とともに積層欠陥密度の低減効果も得られることがわかった。
図35に室温PL測定から得られた深い準位(Deep Level)からの発光強度とバンド端付近の発光強度の比の面内マスク傾斜角度依存性を示す。面内マスク傾斜角度が0°〜10°の範囲では強度比が低く、室温下でもバンド端付近の発光が強く、積層欠陥密度を低減できていると考えられる。一方、深い準位の発光強度とバンド端付近の発光強度の比は、面内マスク傾斜角度θが10°までは殆ど変化していないが、これ以上の角度になると急激に変化し、深い準位の発光が支配的になった。
上述したように、XRC半値幅の測定結果から転位密度低減による結晶品質の向上効果は、少なくても面内マスク傾斜角度θが0°〜35°の範囲で実現可能である。これに加えて積層欠陥密度の低減効果を得るには面内マスク傾斜角度の範囲を狭める必要があり、その角度θは0°〜10°の範囲であることが実験結果により明らかになった。
図35の結果から、面内マスク傾斜角度が0°でなくても積層欠陥密度の低減効果が得られることが明らかになった。実施例1において述べたように、表面平坦性を向上させるためには、面内マスク傾斜角度が0°よりも大きい方が望ましい。θが0°よりも大きくなることでマイグレーション効果が促進され、表面平坦性を向上することができ、平坦性を維持しつつ、凹部850をより広く設計することもできる。
図36に面内マスク傾斜角度を0°から10°まで変化させたときの表面モフォロジーの変化を示す。0°から5°に変化させただけで、表面のピットは見られなくなり、表面平坦性が改善していることがわかる。さらにθ=10°にするとrms粗さは更に20nmまで減少した。
以上の結果から、転位密度と積層欠陥密度の両方を同時に低減し、且つマイグレーションが促進され、表面平坦性も同時に向上できる面内マスク傾斜角度の範囲は、例えば、0°から10°であることがわかった。
(実施例5)
以下、積層欠陥の影響とL幅/S幅の依存性について調べた結果を説明する。
実施例4では、面内マスク傾斜角度が0°から10°の範囲であれば、転位密度と共に積層欠陥密度も効果的に低減でき、優れた光学特性が得られることを示した。しかし、それは、L幅およびS幅を、それぞれ5μmおよび10μmと一定にした場合の結果である。L幅は種結晶であるリッジ状の窒化物半導体層830の幅(平面視して、リッジ状窒化物半導体層830の延びる方向と垂直な方向の長さ)である。リッジ状窒化物半導体層830が設けられているこの領域からの成長では、種結晶の結晶品質がそのまま引き継がれ、選択成長による転位密度や積層欠陥密度の低減効果がほとんど得られない。よって、この領域から成長した半導体層においては、凹部850から成長した半導体層と比べると、転位密度や積層欠陥密度が高いため、その結晶性は悪くなる。よって、Pendeo再成長により得たm面窒化物半導体膜の光学特性は、L幅とS幅のそれぞれの幅の比にも影響を受けると考えられる。
そこで、本実施例5では、L幅とS幅の比を変化させた場合の光学特性の変化を主にPL評価手法により調べた。
本実施例においては、面内マスク傾斜角度θを一定の5°としてサンプルを作製した。それ以外の成長条件は、実施例1、2と同様とした。面内マスク傾斜角度θを5°と一定にしたのは、実施例4で述べたように、積層欠陥密度の影響を十分に抑制することができる、0度〜10度の面内マスク傾斜角度の範囲内で、面内マスク傾斜角度θの影響を受けずに、L幅とS幅の関係を明確にするためである。なお、サンプルの面内マスク傾斜角度θは5°としたが、面内マスク傾斜角度θが0°から10°の範囲内であれば、以下に述べるL幅とS幅の比と光学特性の関係に大きな変化がないことを確認している。本実施例では、図3(a)から(d)に示すようなマスク820を用いたPendeo成長ではなく、図4(a)から(d)に示すようなマスクを用いないPendeo成長を行うことによりサンプルを作製している。
本実施例では、L幅は5μm一定とし、S幅を変化させ、ストライプ幅の比をS幅/(L幅+S幅)を定義し、そのストライプ幅の比と光学特性を比較した。本実施例では、L幅を5μm一定としているが、L幅はこの限りではなく、広範囲に選択でき、L幅の範囲は0.1μm以上10μm以下であってもよい。なお、図8(a)に示すように、凹部850の側面が傾斜している場合、L幅は、リッジ状の窒化物半導体層の底面の幅である。
このように、S幅を変化させて凹凸加工基板910を用意し、窒化物半導体膜を再成長させて得たヘテロ窒化物半導体基板920を評価した。
図37にストライプ幅の比、S幅/(L幅+S幅)を変えた場合のPendeo再成長により得られたm面GaNサンプルの低温(10K)で測定したPLスペクトルを示す。ストライプ幅の比、S幅/(L幅+S幅)が0.29から0.58の範囲では、3.48eV付近に見られるドナー束縛励起子に起因する発光(D0,X)のピーク強度と積層欠陥に起因する発光(3.42eV付近)のピーク強度の比はほぼ同程度か、むしろ欠陥に起因するピークの強度が強い。しかし、このストライプ幅の比、S幅/(L幅+S幅)が0.6以上では、ドナー束縛励起子に起因する発光(D0,X)のピーク強度の積層欠陥に起因するピーク強度に対する比が大幅に増加することがわかった。
図38に低温10KのPL測定における3.48eV付近のドナー束縛励起子起因発光(D0,X)と3.42eV付近の積層欠陥起因発光の強度比とストライプ幅の比、S幅/(L幅+S幅)の関係を示す。縦軸は積層欠陥起因発光強度をドナー束縛励起子起因発光強度で除した値であり、この値が小さければ小さいほど、積層欠陥の影響は小さいといえる。ストライプ幅の比、S幅/(L幅+S幅)が0.6付近で、発光強度比が大きく変化していることがわかる。ストライプ幅の比、S幅/(L幅+S幅)が0.6以下では積層欠陥起因の発光強度はドナー束縛励起子起因発光強度よりも高いか、もしくは同程度、つまり1以上の値であったが、0.6以上のストライプ幅構造では、急激にバンド端付近の発光である、ドナー束縛励起子発光の相対強度が0.5以下に改善している。つまり、ストライプ幅の比、S幅/(L幅+S幅)が0.6以上であるPendeo再成長により得られたm面窒化物半導体構造であれば、積層欠陥密度による光学特性の悪化を抑制できることがわかった。
同様の効果は、サファイア基板によらず、異種基板上に成長したm面窒化物半導体構造を基体としたPendeo再成長膜において得られると考えられ、また先に示した半極性面(11−22)窒化物半導体の場合においても得られると考えられる。
次に、ストライプ幅の比、S幅/(L幅+S幅)を0.6以上として、積層欠陥密度の影響を可能な限り低減することが、デバイス応用上いかに重要かを以下の方法により確認した。
ストライプ幅の比、S幅/(L幅+S幅)が0.67のサンプル(L幅/S幅=5μm/10μm)のPendeo再成長m面GaN膜上に青色発光InGaN量子井戸構造を形成しその光学特性を低温(10K)のPL測定により評価した。比較のため、積層欠陥密度がほぼ0であるm面GaNバルク基板上、そしてストライプ幅の比、S幅/(L幅+S幅)が0.29であるサンプル上に形成したInGaN量子井戸構造の光学特性を同時に評価した。
発光層の量子井戸構造としては、In組成0.13である厚さ3nmのInGaN井戸層とIn組成0.03である厚さ12.5nmのInGaN障壁層を15周期形成した。なお、リッジ状の窒化物半導体層と発光層との間には、厚さ約1μmのGaN層を形成した。
図39に前述した3つの量子井戸構造の低温(10K)のPLスペクトルを示す。(a)はm面GaNバルク基板上、(b)はS幅/(L幅+S幅)0.67のPendeo横方向選択成長m面GaN上、(c)は横方向選択成長をしていない種結晶m面GaN上にそれぞれ量子井戸構造を成長した場合の結果である。
図39(a)のm面GaNバルク基板上に形成した量子井戸構造からは、単峰性の青色発光ピークが観測された。
一方、図39(c)の種結晶m面GaN上に形成した量子井戸構造では、GaNバルク基板上の場合と比較すると、量子井戸に起因した青色発光ピークの他に長波長域にもう一つ異なる起源からの発光が見られた。また発光強度自体もバルク基板上の結果に比べて弱く、発光スペクトルの半値幅もブロードであった。このように量子井戸とは別に長波長域に見られる発光の起源は、積層欠陥に起因するものと考えられる。このように、図39(c)の測定を行った構造においては、結晶欠陥密度が大きい。
これは、GaNバルク基板やPendeo横方向選択成長膜に比べて、種結晶m面GaN中に高密度の積層欠陥が存在しているためである。
非特許文献6では、積層欠陥付近ではInの偏析が起こることが示唆されている。よって、図39(c)に見られる、量子井戸本来の発光よりも長い波長の発光起源は、積層欠陥により発生したIn組成の偏析によるものであると考えられる。
これらの結果に対し、図39(b)のストライプ幅の比、S幅/(L幅+S幅)が0.67のPendeo横方向選択成長したヘテロm面GaN上の量子井戸構造の発光スペクトルは、バルク基板上の結果と類似している。量子井戸構造本来の青色発光が支配的であり、積層欠陥に起因した長波長域の発光は大幅に低減されていることがわかる。
つまり、S幅/(L幅+S幅)の比を0.6以上とすれば、積層欠陥密度を効果的に低減できることがわかった。積層欠陥密度を低減することにより、発光効率を高め、その発光波長の制御を容易にすることができる。
このようにS幅/(L幅+S幅)の比を0.6以上とすることで、積層欠陥による光学特性の悪化を大幅に低減できるという実験的事実は、Pendeo横方向選択成長により得られたヘテロm面窒化物半導体膜920(図4に示す)の表面積において、積層欠陥を含む領域(つまりリッジ状窒化物半導体層(種結晶領域)830)が占める割合を、低欠陥密度領域であるS幅に対してどれだけ小さくできるかが重要であるかを示唆している。よって、L幅とS幅の相対値により、積層欠陥密度を低減できる範囲を規定することができる。
また、横方向選択成長を実現し、且つ十分な転位密度低減効果を得る上で望ましいL幅の範囲が0.1μm以上10μm以下、または1μm以上5μm以下であることを考慮すると、積層欠陥密度の影響を十分に低減できる最適なS幅の範囲は、S幅/(L幅+S幅)比が0.6より大きければよいので、L幅が例えば0.1μmならばS幅は0.15μm以上、L幅が1μmならばS幅は1.5μm以上、L幅が5μmならばS幅は7.5μm以上、L幅が10μmならばS幅が15μm以上となるストライプ構造を形成すればよい。
次に、S幅/(L幅+S幅)の最適領域について調べた。本実施例で明らかなことは、積層欠陥の光学特性への影響を低減するには、L幅に対して比較的広いS幅領域を確保すればよいということである。本実施例では、L幅を5μmで一定としているが、この場合、図38に示すように、S幅/(L幅+S幅)の比が0.6以上0.99以下の領域でバンド端付近の発光である(D0,X)の発光が支配的であり、積層欠陥に起因した発光を十分に抑制できることが確認されている。
本実施形態であるヘテロm面窒化物半導体成長における横方向選択成長を実施する場合、凹部850の領域で横方向選択成長した窒化物半導体が十分に結合し、結合部890を形成し、平坦な窒化物半導体層(例えば図4(d)に示すヘテロm面窒化物半導体基板920)を得ることが、デバイス構造作製やプロセス工程によっては重要な場合がある。この場合、凹部850の幅、つまりS幅領域をあまり広く取りすぎると、再成長工程において横方向成長膜を十分に被覆させるのに長時間成長を持続させる必要が生じ、プロセス工程のコスト増などの問題が生じる。
本発明者らの検討によると、成長手法にMOVPE成長法を用いた場合、横方向再成長過程において空隙のない窒化物半導体層を実現するのに適したS幅の上限はおよそ30μmであり、これ以上のS幅になると、成長時間が長くなり、プロセスコストの上昇につながる。
つまり、積層欠陥の光学特性への影響を十分に低減し、且つ再成長時に空隙のない平坦な窒化物半導体膜860を得るためには、S幅は30μm以下に制限することが望ましく、その上でS幅/(L幅+S幅)の比を0.6以上に設計することが望ましい。この場合S幅/(L幅+S幅)の上限は、例えばL幅が0.1μmの場合0.996に、L幅が1.0μmであれば0.968、L幅が5.0μmであれば0.857となる。
つまり、前述のL幅とS幅の範囲、S幅の上限が30μmであれば、S幅/(L幅+S幅)の比が0.6以上0.996以下の範囲であれば、積層欠陥の影響を低減しつつ平坦な再成長膜を得ることが可能となる。
一方で、Pendeo横方向再成長膜のサンプルにおいて、デバイス応用上、必ずしも各種結晶であるリッジ状窒化物半導体層830から再成長した窒化物半導体膜が結合し、全体として平坦である必要はない。プロセスの方法や最終的なデバイス構造設計によっては、あえて各リッジ状窒化物半導体層830から再成長した膜を独立させ最終的なデバイス構造を完成させることも可能である。この場合、結合部890が形成されないので、結合によりできる欠陥領域のデバイス特性の悪化を防げるというメリットもある。
このようにS幅をあえて30μmを超える範囲で広く取り、横方向選択成長を実施した結果を図40に示す。
図40は、L幅を5μmで一定とし、S幅を(a)10μm、(b)50μm、(c)100μm、(d)200μm、(e)300μmと変化させたときの、ヘテロ窒化物半導体基板920の表面側(つまりm軸側)から撮影したレーザ顕微鏡写真である。リッジ状窒化物半導体層830を起点として再成長したm面GaNのストライプ構造と凹部850のサファイア基板がむき出しになった領域の二つが、S幅が50μm以上のサンプルにおいて確認できる。またこれらのサンプルでは、S幅が50μm以上と極めて広いのにもかかわらず、凹部850のサファイア基板表面に窒化物半導体は成長せず、供給された原料は、サファイア基板表面をマイグレーションし、リッジ状窒化物半導体層830に取り込まれていることがわかる。
このような凹部850のサファイア基板表面がむき出しになった領域での窒化物半導体の再成長の抑制は、窒化物半導体の再成長条件を最適化することで十分に抑制できることが、本発明者らの検討によってわかっている。
図40に示したように、あえて凹部850に形成される再成長窒化物半導体膜を再結合させず、凹部850のサファイア基板表面がそのまま残るように成長した構造においては、凹部850のサファイア基板領域に形成された原料がそのサファイア基板に取り込まれずすべてリッジ構造のm面GaNに取り込まれるため、リッジ構造のGaNの縦方向(m軸方向)もしくは横方向(本実施例においてはc軸からa軸方向に5度傾斜した方向)厚さは急激に増加し、結晶性および光学特性は大幅に向上する。
これらの縦、横方向の厚さや成長速度は、再成長条件によって適宜制御することができる。例えば、図40に示した実験結果の場合は、主に横方向成長速度を変化させており、横方向の成長速度は、S幅が10μmの場合を1とすると、50μmの場合に約2倍、100μmの場合に約3倍に増加している。
このように、S幅が30μmを超えるストライプ構造を用いて凹凸加工基板900を用意し、ヘテロ窒化物半導体基板920を作製すれば、サンプル全体で平坦な膜にはならないが、同じプロセス時間で、部分的ではあるが厚さの大きい再成長膜を得ることができる。
膜の厚さが増加する効果により、リッジ部の再成長GaN膜中の転位密度と積層欠陥密度は更に低減し、結果として結晶品質の飛躍的改善が得られる。
このようにあえて凹部850において結合領域を作らないPendeo再成長膜構造においては、S幅を30μm以上とすることが望ましい。S幅の上限は、例えば300μmである。
よって、前述した積層欠陥の影響を十分に低減することができるS幅/(L幅+S幅)の比は、このS幅が30μm以上と広い凹部850を有する凹凸加工基板900においては、例えば、L幅の好適な範囲を0.1μm以上10μm以下とすると、0.75以上1未満であり、L幅の範囲が1μm以上5μm以下とすると、0.857以上1未満である。
(実施の形態3)
例示的な実施の形態3では、実施の形態1および2においてPendeo横方向選択成長により作製した良質なヘテロm面窒化物半導体基板920を基板として用いた窒化物系半導体素子について説明する。例示的な実施の形態3の窒化物系半導体素子は、例えば、窒化物系半導体発光素子である。本実施の形態の窒化物系半導体素子は、LEDであってもよい。図41は、例示的な実施の形態3に係る窒化物系半導体発光素子(LED)の構造を示す模式図である。図41は、窒化物系半導体発光素子801の断面構成を模式的に示している。この窒化物系半導体発光素子801は、例えば、GaN系半導体からなる窒化物系半導体積層構造を有する半導体デバイスである。
本実施形態の窒化物系半導体発光素子801は、m面サファイア基板811上にm面窒化物半導体膜をPendeo成長させることによって得られたm面を成長面とするヘテロ窒化物半導体基板920と、その上に形成された半導体積層構造802と、半導体積層構造802の上に形成された電極807、808とを備えている。ヘテロ窒化物半導体基板920としては、実施の形態1または2の凹凸加工基板910(窒化物半導体層成長用構造)を用い、窒化物半導体を再成長させて窒化物半導体膜870を形成することによって形成することができる。ヘテロ窒化物半導体基板920は、前述した凸部窒化物半導体層830や凹部850などを含むが、この図においては全体構造を簡易に示すためにこれらの構造の記入を省略した。半導体積層構造802は、m面再成長によって形成されたm面半導体積層構造であり、その成長面はm面である。
m面窒化物系半導体発光素子801は、例えば、m面サファイア基板811を除去したものであってもよい。さらに、m面サファイア基板811および窒化物半導体膜870の一部を除去したものであってもよい。これらの除去は、例えば、m面窒化物系半導体発光素子801の素子構造の成長後に、研磨等によって行われる。
前述したようにm面サファイア基板上に成長した凸部窒化物半導体層830や窒化物半導体膜870に、伝導性制御を行うための不純物ドーピングを実施していれば、m面サファイア基板811を除去した後に、サファイアとm面窒化物半導体膜との間の界面810に直接電極を形成することも可能である。例えば、凸部窒化物半導体層830や窒化物半導体膜870にSiをドーピングすれば、n型伝導性を得ることが可能であり、n電極を界面810に形成することができる。この場合は、本実施形態の構造とは異なり、素子上面と下面に電極を有する縦型構造となる。
図41の半導体積層構造802は、AlaInbGacN層(a+b+c=1,a≧0, b≧0, c≧0)を含む活性層804と、AldGaeN層(d+e=1, d≧0, e≧0)805とを含んでいる。AldGaeN層805は、活性層804を基準にして基板の側とは反対の側に位置している。ここで、活性層804は、窒化物系半導体発光素子801における電子注入領域である。
本実施形態の活性層804は、Ga0.9In0.1N井戸層(例えば、厚さ9nm)とGaNバリア層(例えば、厚さ9nm)とが交互に積層されたGaInN/GaN多重量子井戸(MQW)構造(例えば、厚さ81nm)を有している。
活性層804の上には、p型のAldGaeN層805が設けられている。p型のAldGaeN層805の厚さは、例えば、0.2〜2μmである。AldGaeN層805のうち活性層804と接する領域に、アンドープのGaN層806を設けてもよい。
本実施形態の半導体積層構造802には、他の層も含まれており、活性層804とヘテロm面窒化物半導体基板920との間には、AluGavInwN層(u+v+w=1, u≧0, v≧0, w≧0)803が形成されている。本実施形態のAluGavInwN層803は、第1導電型(n型)のAluGavInwN層803である。
AldGaeN層805において、Alの組成比率dは、厚さ方向に一様である必要は無い。AldGaeN層805において、Alの組成比率dが厚さ方向に連続的または階段的に変化していても良い。すなわち、AldGaeN層805は、Alの組成比率dが異なる複数の層が積層された多層構造を有していても良いし、ドーパントの濃度も厚さ方向に変化していてもよい。
半導体積層構造802の上には、電極807が形成されている。本実施形態の電極807は、p型半導体領域に接触しており、p型電極(p側電極)の一部として機能する。電極807は、例えばAg層もしくはAgを一部含む構造から形成されており、その厚さは例えば100〜500nmである。
本実施形態の構成では、m面窒化物半導体基板920の上のn型のAluGavInwN層(例えば、厚さ0.2〜2μm)803の一部に、電極808(n型電極)が形成されている。図示した例では、半導体積層構造802のうち電極808が形成される領域は、n型のAluGavInwN層803の一部が露出するように凹部809が形成されている。その凹部809にて露出したn型のAluGavInwN層803の表面に電極808が設けられている。電極808は、例えば、Ti層とAl層とPt層との積層構造から構成されており、電極808の厚さは、例えば、100〜200nmである。
(その他の実施形態)
本開示の実施の形態に係る上記の発光素子は、そのまま光源として使用されても良い。しかし、実施の形態に係る発光素子は、波長変換のための蛍光物質を備える樹脂などと組み合わせれば、波長帯域の拡大した光源(例えば白色光源)として好適に使用され得る。
図42は、このような白色光源の一例を示す模式図である。図42の光源は、図41に示す構成を有する発光素子930と、この発光素子930から放射された光の波長を、より長い波長に変換する蛍光体(例えばYAG:Yttrium Alumninum Garnet)が分散された樹脂層940とを備えている。発光素子930は、表面に配線パターンが形成された支持部材950上に搭載されており、支持部材950上には発光素子930を取り囲むように反射部材960が配置されている。樹脂層940は、発光素子930を覆うように形成されている。
なお、発光素子930の基板811として用いるm面サファイアの成長面である主面は、m面に対して完全に平行な面である必要はなく、m面から所定の角度で傾斜していてもよい。傾斜角度は、窒化物半導体層における実際の成長面の法線とm面(傾斜していない場合のm面)の法線とが形成する角度により規定される。実際の成長面は、m面(傾斜していない場合のm面)から、ある結晶方位に基づく方向、例えばc軸やa軸、〈11−22〉などの方向によって表されるベクトルの方向に向って傾斜することができる。例えば傾斜角度の絶対値は、c軸方向において5°以下、または1°以下の範囲であればよい。また、a軸方向において5°以下、または1°以下の範囲であればよい。すなわち、本発明においては、「m面」は、±5°の範囲内でm面(傾斜していない場合のm面)から所定の方向に傾斜している面を含む。このような傾斜角度の範囲内であれば、窒化物半導体層の成長面は全体的にm面から傾斜しているが、微視的には多数のm面領域が露出していると考えられる。これにより、m面から絶対値で5°以下の角度で傾斜している面は、m面と同様の性質を有すると考えられる。傾斜角度θの絶対値を5°以下とすることにより、ピエゾ電界によって内部量子効率が低下することを抑制できる。また、本発明の「m面」は、全体的にm面から傾斜し、複数のm面ステップを有する面を含む。
なお、実施の形態にかかるm面サファイア基板上m面窒化物半導体Pendeo成長により得られたヘテロm面窒化物半導体基板920は、当然に、LED以外の発光素子(半導体レーザ)や、発光素子以外のデバイス(例えばトランジスタや受光素子)のm面窒化物半導体再成長基板として用いることができ、これらのデバイスの低コスト化を実現することができる。
上述したように、実施の形態によれば、Pendeo法によるm面窒化物系半導体膜の横方向選択成長において、安価で大口径化が可能なm面サファイア基板を用いて優れた表面平坦性と高品質化が実現できるため、低コストで高効率な非極性m面発光素子を提供することができる。
すなわち、本開示の実施の形態によれば、ヘテロm面窒化物半導体横方向選択成長を実現し、転位・欠陥密度の低減した高品質なm面窒化物半導体膜と、そのm面窒化物半導体膜を基体とした窒化物系半導体素子を提供することができる。
このように、ヘテロ窒化物半導体成長において、横方向選択成長法により高品質で且つ表面平坦性の良いm面窒化物半導体膜を得ることが可能であり、(11−22)面のような半極性面窒化物半導体の異常成長を抑制することができるため、このヘテロm面窒化物半導体膜を基板としたLEDや半導体レーザなどの発光素子、電子素子などの窒化物系半導体素子の実現が可能となる。
次に、本開示の実施の形態と従来技術の差異について説明する。
異種基板上に成長したm面窒化物半導体のPendeo成長法についてはいくつか報告がある。非特許文献4では、m面を主面とするSiC基板上に成長したm面窒化物半導体にSiO2マスクを形成し、その後エッチングにより凸部窒化物半導体領域と凹部となるSiC基板が剥き出しになった領域を形成し、横方向選択成長を実施し、転位密度と積層欠陥密度の低減を実現している。
しかし、前述の非特許文献4の方法は、基板として高価なSiC基板を用いているため、コストが上昇する。また、c面を主面とする窒化物半導体成長においては、SiC基板のa軸の格子定数がGaNのa軸の格子定数と近いため、格子不整合度が小さく、比較的高品質な膜の成長が可能である。しかし、非極性面成長であるm面やa面を主面とするヘテロ成長においては、窒化物半導体のc軸方向の原子配列が2H(「H」の前の数字は、1周期に含まれるIII族原子とN原子の単位層の数を表す。窒化物半導体の結晶構造であるウルツ鉱型結晶構造は1周期に2つの単位層を持つ。)であるのに対し、SiCのc軸方向の原子配列は6Hもしくは4H構造であるため、c軸方向の原子配列に不整合が生じる。このことから、非極性SiC基板上に成長した窒化物半導体膜には高密度の積層欠陥が発生しやすい。よって、SiC基板はm面を主面とする窒化物半導体成長において、結晶品質の面でも、必ずしも優れた基板であるとはいえない。
また、非極性SiC基板を用いてPendeo成長する場合には、m面サファイア基板を用いたPendeo成長で発生しうる半極性異常成長の問題は発生しない。これは、半極性異常成長がm面サファイア基板固有の問題であるためである。
特許文献3では、サファイア基板に凹凸加工を施し、横方向選択成長し、m面窒化物半導体の再成長に成功している。基板にはa面を主面とするサファイア基板を用いており、この表面にa面サファイアの面内のm軸方向に、細く長いストライプ状の凹凸構造をエッチングにより周期的に形成する。この場合、形成される凸部の表面(主面)はa面であるが、側面はc面(もしくはc面から傾いた面)ファセットとなる。特許文献3では、このような加工がされたa面サファイア基板に窒化物半導体膜を成長すると、成長条件によっては、凸部の側面であるc面ファセットからのみ成長させることが可能であることを開示している。
c面サファイア上にはc面を主面とする窒化物半導体が成長する。このとき、サファイアのa軸と窒化物半導体膜のm軸が平行になるように結晶成長が起こる。つまり、面内で結晶方位が30度ずれる。特許文献3では、この関係を利用し、凸部のc面サファイアファセット面から横方向にc面窒化物半導体を成長し、更にサファイアのa軸と窒化物半導体膜のm軸が平行になる関係を利用し、主面がm面である窒化物半導体膜の成長に成功している。
特許文献3では、前述したようにa面サファイアの細く長い凸部領域の長手方向に垂直な方向に平行な法線成分をもつc面ファセットから横方向に窒化物半導体膜を成長させるため、ある程度深くエッチングを施し、十分な側面領域を確保する必要がある。特許文献3では、700nm以上の深さを持つ凹凸加工サファイアを形成しているが、サファイアは非常に硬く、マスク材料とのエッチング選択比も小さいため、一般的に深くエッチングするのが難しい。
また、特許文献3では、直接サファイア基板から窒化物半導体層を成長させる。よって、加工a面サファイア基板の両側面から、同じ面方位を持つ窒化物半導体膜(特許文献3では−c面GaN)が成長し、結合部では結晶面方位が不連続となる(特許文献3では−c面同士が結合する)ため高密度の欠陥が結合部で発生することになる。特許文献3では、これらの問題は成長条件を適宜選択することにより解決できると説明している。
本開示の実施の形態では、例えば、図4に示したようなPendeo成長法を基本的な横方向選択成長法として用いる。つまり、エッチング加工により形成された凸部のm面窒化物半導体領域が、横方向選択成長させる際の起点となる。よって、再成長は窒化物半導体膜から開始される。一方、特許文献3では、加工したサファイア側面から再成長する。本実施形態では、このように窒化物半導体領域が再成長の核となるので、例えば凸部の窒化物半導体領域の両側面をc面ファセットとした場合に、その両側面は+c面と−c面となり、図4(d)の結合部890での欠陥の発生を少なくすることができる。
また、本開示の実施の形態では凹部850のようにエッチングにより窒化物半導体層を除去した領域を形成できればよく、特許文献3のように成長側面を形成するため、加工が難しいサファイア基板を深くエッチングする必要性はない。
特許文献3では、a面サファイア基板と同様にm面サファイア基板を加工した場合の実施例についても説明がされており、その中でもm面サファイア基板を凹凸加工し、窒化物半導体を再成長した場合に(11−22)面の半極性面が成長してしまう問題について述べている。つまり、この特許文献3の結果からもm面サファイア基板上m面窒化物半導体膜を用いたPendeo成長が実現困難であったことがわかる。
本開示の実施の形態では、m面サファイア基板上に成長したm面窒化物半導体膜を凹凸加工し、種結晶として凸部m面窒化物半導体領域を形成し、サファイア基板ではなく窒化物半導体領域を再成長の起点としたPendeo成長を実現する方法を提供する。前述したようにm面サファイア基板を用いたPendeo成長では、凹部850においてm面サファイア表面が剥き出しになっているため、半極性面窒化物半導体膜がm面窒化物半導体と同時に成長してしまう問題が発生する。本開示の実施の形態によれば、面内マスク傾斜角度、L&Sパターン間隔、エッチング深さなどの凹凸加工条件を適宜選択することで、半極性面異常成長を抑制することができ、横方向選択成長により転位密度と積層欠陥密度を低減した高品質で且つ低コストなヘテロm面窒化物半導体基板を実現することができる。このようなウェハをLEDなどの発光素子の基板として用いれば、m面窒化物半導体は非極性面であるため、自発分極やピエゾ分極による内部電界が活性層の積層方向(基板主面の法線方向)には発生しないため、発光効率の向上が期待される。
本開示は、例えば、紫外から青色、緑色、オレンジ色および白色などの可視域全般の波長域における発光ダイオード、レーザダイオード等のGaN系半導体発光素子に利用することができる。このような発光素子は、表示、照明および光情報処理分野等へ利用することができる。また、例えば、電子素子としても利用することができる。
次に、窒化物系半導体発光素子から出射される光の偏光度を低減することにより、窒化物系半導体発光素子の品質を高めることを検討した結果を説明する。
非極性面又は半極性面を主面とする窒化物半導体を備えた発光素子においては、その活性層領域から出射される光が偏光特性を持つことが知られている。論文「APPLIED PHYSICS LETTERS 92,(2008)091105」に記載されているように、この偏光特性は、非極性及び半極性面窒化物半導体の結晶構造の対称性の低さに起因した光学的異方性による。極性面であるc面上に作成した窒化物系半導体発光素子の場合、c軸が主面(成長面)の法線と平行になる。例えば、無歪の窒化物半導体では、主にc軸と垂直な方向に光の電界ベクトルが向いた偏光光が得られる。よって、従来のc面成長の場合は、結晶の対称性が高く、c軸方向から見ると、a軸及びm軸が共に60°ごとに存在しているため(これを6回対称と呼ぶ)、c軸方向に出射する光は無偏光となる。
しかしながら、c面以外の結晶面を成長面とする非極性面及び半極性面成長においては、対称性が低くなることから、出射する光が偏光光となる。例えば、m面を主面とする窒化物系半導体発光素子においては、その表面からは、主にa軸に電界ベクトルが平行な偏光光が得られる。
さらに、このような偏光特性は、価電子帯の構造に起因しているため、窒化物半導体のIII族原子の組成や歪みによっても変化する。
特開2009−117641号公報に記載の半導体発光素子は、高い偏光比の偏光を出射するために、非極性面又は半極性面を成長主面とするIII族窒化物半導体からなる活性層を有し、活性層から偏光を発生する発光部と、偏光を取り出す光取り出し面に設けられ、偏光の波長より狭いラインアンドスペースであるスリットとを備える。
特開2008−305971号公報に記載の発光素子は、活性層で発生した偏光光の出力効率の低下を抑制するために、非極性面又は半極性面を主面とするIII族窒化物半導体からなり、第1導電型の第1半導体層、活性層及び第2導電型の第2半導体層がこの順に積層され、活性層から偏光光を発生する発光部と、偏光光の偏光方向に対して垂直方向に延伸するストライプ状の溝が偏光方向に複数配列され、のこぎり波形状の出力面をなす出力部とを備え、発光部から出力部を透過して、出力面から偏光光が出力される。
本明細書においては、特定の方向に電界強度が偏った光を「偏光光(Polarized Light)」と称する。例えば、X軸方向に電界強度が偏った光を「X軸方向の偏光光」と称し、このときのX軸方向を「偏光方向」と称する。「X軸方向の偏光光」とは、X軸方向に偏光した直線偏光光のみを意味するのではなく、他の軸方向に偏光した直線偏光光を含んでいてもよい。より詳細には、「X軸方向の偏光光」とは、「X軸方向に偏光透過軸を有する偏光子」を透過する光の強度(電界強度)が「他の軸方向に偏光透過軸を有する偏光子」を透過する光の電界強度よりも大きくなる光を意味する。従って、「X軸方向の偏光光」は、X軸方向に偏光した直線偏光光及び楕円偏光光のみならず、種々の方向に偏光した直線偏光光及び楕円偏光光が混在した非コヒーレント光を含む。
偏光子の偏光透過軸を光軸の周りに回転させたとき、その偏光子を透過する光の電界強度が最も強くなるときの強度をImaxとし、電界強度が最も小さくなるときの強度をIminとするとき、偏光度は、以下の式(1)で定義される。
偏光度=|Imax−Imin|/|Imax+Imin| …式(1)
「X軸方向の偏光光」の場合は、偏光子の偏光透過軸がX軸に平行なとき、その偏光子を透過する光の電界強度がImaxとなり、偏光子の偏光透過軸がY軸に平行なとき、その偏光子を透過する光の電界強度がIminとなる。完全な直線偏光光では、Imin=0となるため、偏光度は1に等しくなる。一方、完全な非偏光光では、Imax−Imin=0となるため、偏光度は0に等しくなる。
m面を成長面とする活性層を有する窒化物系半導体発光素子は、上述のように、主としてa軸方向の偏光光を出射する。このとき、c軸方向の偏光光及びm軸方向の偏光光も出射される。しかしながら、c軸方向の偏光光及びm軸方向の偏光光は、a軸方向の偏光光と比べてその強度が小さい。
本明細書においては、m面を成長面とする活性層を例に挙げ、a軸方向の偏光光に着目して議論する。但し、−r面、(20−21)面、(20−2−1)面、(10−1−3)面及び(11−22)面等の半極性面、並びにa面等の他の非極性面上に成長した窒化物系半導体発光素子においても、結晶の対称性が低いため、その活性層から出射される光は偏光特性を有する。このため、特定の結晶方向の偏光光について同様のことがいえる。
特開2008−305971号公報においては、発光素子が持つ偏光特性を維持することを目的としている。一方、発光素子の用途によっては、偏光特性を抑制することが必要となる場合がある。
偏光特性を有する発光素子を光源とする場合は、偏光の向き(偏光の電界ベクトルの向き)と入射面とがなす角度により反射率が異なるため、偏光を持たない発光素子と比べて、配光特性が変化するという問題が生じる。例えば、m面窒化物系半導体発光素子の場合、a軸方向の偏光光が出射されるため、発光素子からの光はa軸方向と比べてc軸方向により多く分布する。つまり、配光特性がc軸方向に広く分布し、配光特性がa軸方向とc軸方向とで非対称となって、均一にはならないという問題が生じる。なお、活性層からの発光光が偏光特性を持たない従来のc面上の発光素子においては、このような配向特性は見られない。すなわち、従来のc面上の発光素子における配光特性は、対称性が高い、一様なパターンを示す。
このように、非極性面を主面とするm面窒化物系半導体発光素子において、配光特性が非対称になるという問題は、その活性層から出射する光が偏光していることに起因している。これは、偏光光の電界ベクトルが入射面内に存在するp波か、又は偏光の電界ベクトルが入射面に垂直なs波かによって、半導体層と空気又は半導体層と基板との界面における反射率が異なることが原因である。
従って、一般的な照明装置等にLED素子を応用する場合は、そのLED素子から出射する光が偏光光である場合は、偏光特性を可能な限り抑制して、配光特性を改善することが重要となる。
本発明者らは、m面を主面とする窒化物系半導体発光素子において、活性層から出射される光の偏光特性及び配光特性と、光が出射する側に形成された、複数のストライプ状の構造(ストライプ構造)との関係について調査した。その結果、出射される光の偏光特性は、窒化物系半導体発光素子の活性層で発生した偏光光が持つ主たる電界ベクトルの方向と、偏光光が横切るように形成されたストライプ構造の形状に依存していることを見出した。以下、図面を参照しながら本開示による発光素子の実施形態について説明する。
以下の図面においては、説明を簡略化するため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す場合がある。なお、本開示は、以下の実施形態に限定されない。
(第4の実施形態)
図43は第4の実施形態に係る発光素子10 の断面構成を模式的に示している。発光素子10は、窒化物系半導体発光素子であり、例えば、AlxInyGazN(但し、x+y+z=1、x≧0、y≧0、z≧0である。)半導体から形成される窒化物系半導体積層構造を有する。発光素子10は、例えばLED素子である。
本実施形態に係る発光素子10は、ヘテロ窒化物半導体基板600と、ヘテロ窒化物半導体基板600の上に形成された半導体積層構造20と、半導体積層構造20の上に形成されたp型電極(p側電極)30及びn型電極(n側電極)40とを備えている。ヘテロ窒化物半導体基板600は、m面を主面とする成長用基板100の上に窒化物半導体膜320を成長させることによって得られる。成長用基板100は、例えばサファイア基板である。成長用基板100と窒化物半導体膜320との間には、選択成長法により、ストライプ状の複数の空隙60が形成されている。半導体積層構造20は、窒化物半導体の再成長によって形成された窒化物系半導体積層構造であり、その成長面はm面である。
本実施形態において、成長用基板100及び活性層24の成長面は、m面から5°以内の角度だけ傾いていてもよい。この傾斜角は、サファイア基板の表面の法線と、m面の法線とが形成する角度で定義される。また、傾斜する方向は、m面の面内のある結晶学的に定義される方向に傾斜していてもよい。例えば、c軸、a軸又は<11−22>軸方向であってもよい。
m面から5°以内に傾いた面は、m面と同様の性質を有する。従って、本発明の「m面」は、m面から5°以内に傾いた面を含む。本発明の−r面、(20−21)面、(20−2−1)面、(10−1−3)面及び(11−22)面、並びにa面も、これらの面から5°以内に傾いた面を含む。
半導体積層構造20は、AlaInbGacN層(但し、a+b+c=1、a≧0、b≧0、c≧0である。)から形成される活性層24を含む。活性層24は、発光素子10における電子注入領域であり、主にa軸方向に偏光した偏光光を出射する。活性層24は、m面を成長面とするため、ピエゾ分極等による発光効率の低下が抑制されて、高効率の発光光を得ることができる。
活性層24は、例えば層厚が1nm以上且つ20nm以下のAluGavInwN(但し、u+v+w=1、u≧0、v≧0、w≧0である。)からなる井戸層と、層厚が3nm以上且つ50nm以下のAluGavInwN(但し、u+v+w=1、u≧0、v≧0、w≧0である。)からなるバリア層とが交互に積層された多重量子井戸(MQW)構造を有している。量子井戸構造における周期数は、例えば2周期以上且つ30周期以下でもよい。また、量子井戸構造におけるバリア層の層厚は、例えば9nmであってもよい。
多重量子井戸構造におけるAl及びInの各組成と、井戸層及びバリア層の層厚とをそれぞれ調整することにより、偏光光の状態を制御することができる。
例えば、半極性面である(11−22)面を主面とする窒化物系半導体発光素子は、Inの組成及び井戸層の層厚によって、偏光の方向が変化することが知られている。しかしながら、m面を主面とする窒化物系半導体発光素子の場合は、偏光の方向が変化することはなく、a軸方向の偏光状態を維持し、偏光度のみが組成及び量子井戸構造によって変化する。(11−22)面を主面とする窒化物系半導体発光素子の場合も、偏光方向の変化が起きるのは、Inの組成が30%以上の高い領域であり、主にInの組成が20%よりも大きい場合の青色発光を得られる活性層構造においては、その偏光方向は、c軸方向に垂直な方向であるm軸方向の偏光状態を維持することが知られている。
活性層24を構成する多重量子井戸構造は、Alの組成が共に0である井戸層及びバリア層であってもよい。この場合、4元混晶から3元混晶となるため、組成の制御が容易となる。
活性層24の上には、p型層25が設けられている。p型層は、例えば、AldGaeN(但し、d+e=1、d≧0、e≧0である。)層である。p型層25の層厚は、例えば、0.2μm以上且つ2μm以下である。p型層25のうち活性層24と接する領域に、アンドープ層26を設けてもよい。アンドープ層26はGaN層であってもよい。
p型層25におけるAlの組成dは、厚さ方向に一様である必要はない。p型層25において、Alの組成dが厚さ方向に連続的又は段階的に変化していてもよい。すなわち、p型層25は、Alの組成dが異なる複数の層が積層された多層構造を有していてもよく、ドーパントの濃度が厚さ方向に変化していてもよい。
活性層24とヘテロ窒化物半導体基板600との間には、n型層22が形成されている。n型層22は、例えば、AluGavInwN層(但し、u+v+w=1、u≧0、v≧0、w≧0である。)である。n型層22の層厚は、例えば、0.2μm以上且つ2μm以下である。
p型電極30は、p型半導体領域(p型層25)と接触している。p型電極30は、例えばAg又はAgを含む構造を有しており、その厚さは、例えば100nmから500nmである。
p型層25において、p型電極30との界面近傍のAlの組成は0であってもよい(Alの組成d=0)。これにより、ドーパントであるp型不純物の活性化率を向上することができる。また、p型層25に代えて、Inを含むInGaN層を用いてもよい。また、p型層25のうち、p型電極30との界面近傍のp型不純物がp型層25の他の領域よりも高濃度とし、コンタクト層として機能させてもよい。換言すれば、p型層25とp型電極30との間にp型不純物濃度がp型層25よりも高いコンタクト層を設けてもよい。
n型層22の一部は露出しており、その露出した領域上にn型電極(n側電極)40が形成されている。n型電極40は、必ずしもn型層22の表面に形成する必要はなく、窒化物半導体膜320に形成してもよい。この場合は、窒化物半導体膜320にも、n型の導電性を持たせることが望ましい。
図示した例では、半導体積層構造20のうちn型電極40が形成される領域は、n型層22の一部が露出するように凹部42が形成されている。この凹部42から露出したn型層22の表面にn型電極40が設けられている。n型電極40は、例えば、Alを含む構造を有している。n型電極40の厚さは、例えば、100nm以上且つ500nm以下である。
本実施形態においては、成長用基板100と窒化物半導体膜320との界面50付近にストライプ状に延びる複数の空隙60が形成されている。空隙60は、例えば、成長用基板100側の領域に形成されてもよく、窒化物半導体膜320側の領域に形成されていてもよい。窒化物半導体膜320において、互いに隣接する2つの空隙60の間の部分はストライプ構造を形成する。また、空隙60自体も、窒化物半導体とは屈折率が異なるストライプ構造を形成する。例えば、空隙60は、真空であってもよい。また、空隙60は、結晶成長時の雰囲気等の気体を含んでいてもよい。また、空隙60は、封止用の樹脂等の固体を含んでいてもよい。さらに、空隙60は、これらの気体及び固体を含んでいてもよい。
このようなストライプ構造は、必ずしも界面50の上に形成しなくてもよく、偏光光が横切る位置に形成されていればよい。すなわち、活性層24からの光の主な出射方向である、活性層24から成長用基板100の間のいずれかの領域に形成されていてもよい。例えば、n型層22、窒化物半導体膜320及び成長用基板100のいずれかの領域に、ストライプ構造が形成されていればよい。
例えば、ストライプ構造は、界面50から0μm以上且つ10μm以下の層厚を持つ窒化物半導体層の上に形成されていてもよい。また、ストライプ構造は、成長用基板100の内部に界面50から0μm以上且つ10μm以下の範囲で離れた領域に形成されていてもよい。
発光素子10においては、活性層24から出射する光のうち、図の上方に出射する光、すなわち活性層24からp型層25に向かう光は、Agを含む反射率が高いp型電極30によって反射される。このため、p型電極30が形成されている方向には、最終的に発光素子からの光は出射されない。活性層24から出射される光は、主として成長用基板100側から取り出される。従って、ストライプ状の空隙60を光の出射側に形成することにより、偏光特性を抑制することができる。以下、空隙60の構造について詳細に説明する。
図44(a)及び図44(b)を用いて空隙60の構造を説明する。図44(a)は空隙60を設けた、成長用基板100と窒化物半導体膜320との界面付近の断面構成を模式的に表している。図44(b)は図44(a)に示す構造を成長面であるm面側、すなわちm軸方向から見た平面構成を表している。
図44(b)に示すように、ストライプ状の凸部(リッジ部)51が延びる方向、すなわちストライプ状の空隙60が延びる方向と活性層24におけるa軸方向との角度を面内傾斜角度βとすると、面内傾斜角度βは3°以上45°以下に設定されている。なお、後述するように、複数の空隙60は、その全てが同一の角度を持つ必要はない。例えば、3°以上且つ45°以下の範囲で異なる面内傾斜角度βを有するように、各空隙60を形成してもよい。また、空隙60は、周期的に形成されていてもよい。この角度βの範囲内で空隙60を形成することにより、活性層24から出射される光の偏光特性を抑制することができる。その結果、出射光の配光特性が改善されて、光取り出し効率を向上することができる。面内傾斜角度βは、3°以上且つ35°以下であってもよい。また、3°以上且つ10°以下であってもよい。
図44(a)に示す例では、各空隙60は、窒化物半導体膜320に形成されている。空隙60が形成されていることにより、窒化物半導体膜320の界面付近は凹凸状となり、その結果、複数の凸部51が形成される。各凸部51は、その頂部を下方、すなわち成長用基板100側に向けて形成され、界面50と平行な面を持つ底面52と、界面50とは平行でない少なくとも1つの斜面53を有する。但し、該凸部51は、必ずしも底面52を有する必要はない。
図45(a)及び図45(b)並びに図46(a)〜図46(c)に、ストライプ状の空隙60の断面構成の幾つかの例を示す。これらの断面図は、ストライプ状の空隙60が延びる方向に垂直な方向断面形状を示す。
例えば、図45(a)及び図45(b)に示すように、凸部51の断面形状は、逆台形状でもよく、また、台形状でもよい。また、図示はしていないが、方形状でもよい。図46(a)に示すように、底面52が存在しない逆三角形状でもよい。また、図46(b)に示すように、斜面が湾曲した半円状でもよい。
また、空隙60の断面構造も、図45(a)及び図45(b)に示すように、三角形状でもよく、逆三角形状でもよい。また、図示はしていないが、台形状又は側面が曲面であってもよい。
また、図46(c)に示すように、空隙60の斜面53は、複数の斜面部分から形成されていてもよい。例えば、図46(c)に示すように、斜面53の角度をαiと定義すると、αi+1、αi+2、・・・、αk等で定義される複数の斜面を有した凸部構造51であってもよい。この斜面の角度αの数kが極めて多く、それぞれのαが異なる場合、斜面53は曲面に近くなり、断面形状は図46(b)のように半円又は半楕円形状となる。さらに、このストライプ状の空隙60は、等間隔に規則的に配置する必要は必ずしもなく、周期が一部変調されていても、本実施形態の効果を得ることができる。
本実施形態においては、活性層24からの光が出射する側にストライプ状の凹凸構造が形成され、その凹凸構造が、斜面53(角度α≠90°)を一部に有していることが重要である。このため、例えば、空隙60が形成される範囲内において斜面53の角度αiの範囲は、広い範囲で選択することができる。複数ある角度αiの範囲は、0°から180°であればよい。また、角度αiの範囲は、0°以上且つ150°以下であってもよい。
各空隙60の高さは、波長をλ、窒化物半導体膜320の屈折率をnとした場合に、λ/(4×n)以上であってもよい。また、各空隙60の高さは、λ/(4×n)以上且つ10μm以下であってもよい。例えば、活性層24から出射する光の波長が450nmであるとすると、この波長域でのGaN層の屈折率は約2.5である。従って、空隙60の高さは、少なくとも45nm以上であってもよい。また、上述したストライプ状の空隙60の周期と同様に、空隙60の高さについてもすべての構造において同一である必要はない。
また、図44(b)に示すように、ストライプ状の空隙60は、該空隙60が延びる方向に直線54を形成する。この直線54は、例えば、空隙60と窒化物半導体膜320の壁面とから形成される。この直線54は、必ずしも1本の直線である必要はない。図47に示すように、複数の角度βで定義される面内傾斜を持つストライプ状の空隙60で形成されていてもよい。また、ジグザグ状に空隙60が形成されていてもよい。また、空隙60は、図48(a)に示すように、連続せずに途切れていてもよい。また、角度βの範囲は3°≦β≦45°であればよく、図48(b)に示すように、各空隙60が、面内で必ずしも同一の方向に傾斜している必要はない。例えば、a軸から窒化物半導体の+c軸方向に3°≦β≦45°に傾斜していてもよく、逆に−c軸方向に傾斜していてもよい。また、このような傾斜角度範囲を持つ空隙60が、全空隙のうちの50%以上であれば、本実施形態の顕著な効果を得ることができる。
また、図49(a)に示すように、複数の空隙60として、互いに異なる幅寸法を有するストライプ構造を周期的に形成してもよい。また、図49(b)に示すように、複数の空隙60として、一部のみが途切れた構造を有していてもよい。
次に、空隙60と、m面を主面とする発光素子10から出射する光の偏光特性及び配光特性との関係について説明する。
m面を主面とする窒化物系半導体発光素子から出射する光は、主にa軸方向に偏光している。図50(a)に示すように、a軸偏光した光の伝搬ベクトルは、a軸方向に対して垂直な方向となる。よって、出射光の伝搬ベクトルを、例えばk1、k2、…とすると、これらの伝搬ベクトルは、m軸とc軸とにより形成される平面(本明細書では、mc面と呼ぶ。)内に存在し、この面と平行となる。具体的には、図50(b)に示すように、m面窒化物系半導体発光素子からの発光光は、主にa軸と垂直な方向に出射され、a軸方向には相対的に出射光の割合が減少する。すなわち、a軸と垂直な方向に放射角度が広い配光特性を有している。
図51は、ストライプ状の空隙60を、m面を主面とする発光素子10のa軸と平行(角度β=0°)に形成した場合の一例を模式的に示している。
ストライプ状の空隙60は、出射面側の成長用基板100と窒化物半導体膜320との界面に形成されている。この場合、出射される光のa軸偏光光は、空隙60の斜面53及び凸部51の底面52等に対して、主にs波として入射する。前述したように、この場合、c軸偏光光はほとんど出射されず、a軸偏光光は、mc面にその伝搬ベクトルが平行となる。このため、p波成分はs波成分と比べて小さく、ほとんど0である。従って、ストライプ状の空隙60を面内傾斜角度β=0°として形成した場合には、m面を主面とする発光素子10から外部に取り出された光は、a軸偏光特性が維持される。
図51の例においては、ストライプ状の空隙60(凸部51)が面内傾斜角度β=0°である場合には、活性層24から出射したa軸偏光光は、その光のほとんどがs波としてのみストライプ状の空隙60に入射し、外部に取り出される光もs波のままであるため、a軸偏光状態が維持されやすい。
角度βが0°よりも大きくなると、入射した光はs波成分だけではなく、p波成分も含まれるため、偏光度は抑制される。この偏光度が抑制される効果は、窒化物半導体のa軸方向から+c軸方向に傾斜させても、また、−c軸方向に傾斜させても同様の効果を得ることができる。
図52は、ストライプ状の空隙60をm面を主面とする発光素子10のa軸に対して垂直な方向(面内傾斜角度β=90°)に形成した場合の一例を模式的に示している。この場合も、光の伝搬ベクトルはmc面に平行となる。つまり、a軸方向と垂直な方向に放射角度が広い配光特性を有する。例えば、点Qから出射した伝搬ベクトルk1のように、伝搬方向がm軸方向と平行な場合には、光は、空隙60の斜面53及び凸部51の底面52等に対して、主にp波として入射し、s波はほとんど0である。よって、m軸と平行な伝搬ベクトルを持つa軸偏光光に対しては、a軸方向の偏光特性は維持される。
しかし、この場合、m軸と平行な伝搬ベクトルを持つ光は極一部であり、そのほとんどは、図52に示した伝搬ベクトルk2のように、mc面に平行でありながら、その伝搬方向はc軸方向に傾斜している。伝搬ベクトルk2のような偏光光は、空隙60の斜面53に対して入射する場合、p波成分のみならず、s波成分も含まれた合成波として入射するため、偏光は維持されない。
以上のように、発光素子構造から出射される光の偏光度は、空隙60の面内傾斜角度βに依存しており、βが0°付近の場合のみ偏光度が維持できることが分かる。
本明細書においては、角度βに対する偏光度の変化について、比偏光度という値を用いて評価し議論する。比偏光度とは、面内傾斜角度β=0°の時の偏光度により、任意の角度で面内に傾斜した空隙60を持つ場合の偏光度を規格化した値である。以下の式(2)に定義する。
比偏光度=(任意の面内傾斜角度βのストライプ構造を持つ発光素子の偏光度)/(面内傾斜角度β=0°のストライプ構造を持つ発光素子の偏光度) …式(2)
式(2)に示す比偏光度は、角度βが約3°未満の範囲でほぼ1に近い値を取り、3°以上に大きくなると比偏光度が急激に減少して、偏光度が抑制できることが分かっている。
図50(b)において説明したように、m面を主面とする窒化物系半導体発光素子から出射する光は、a軸偏光している。よって、その伝搬ベクトルはmc面内と平行であり、ma面内には殆ど存在しない。これを光の分布で表現すると、a軸方向と比べてc軸方向により広い光分布が検出されるということになる。
このような特性は、配光特性の非対称性の原因となる。すなわち、出射面側にストライプ構造を持たない、平坦な出射面を持つm面窒化物系半導体発光素子の配光特性は、a軸方向とc軸方向のそれぞれの配光特性が異なり、非対称な結果となる。a軸方向と比べて、c軸方向に配光特性は広く分布しており、c軸方向の配光特性は、0°、つまりm軸方向と比べてc軸方向に傾いた方向の光強度が強くなる傾向がある。
この配光特性の非対称性についても、本実施形態に係る空隙60を出射面側に形成することによって低減することができる。図53(a)に、一例として、GaNとサファイアとの界面を有する平坦な出射面を持つ発光素子を模式的に示す。また、図53(b)に、一例として、角度β=0°の空隙60を出射面に持つ発光素子を模式的に示す。図53(a)に示すように、出射面が平坦な場合は、GaN層側から出射した光が、ある入射角θ1でサファイア基板側に透過する場合、透過光のθ2は、θ1よりも大きくなって、c軸方向により傾斜した光として出射しやすい。
これは、後述するスネルの法則から、窒化物半導体層の屈折率が、サファイア又は大気よりも屈折率が高いため、必ずθ2>θ1となることに起因している。これが先に述べた配光特性の非対称性を大きくする要因となっている。
これに対し、本実施形態に示す空隙60を出射面側に形成すれば、例えば図53(b)に示すように、角度β=0°のa軸方向にストライプ状の空隙60が形成されている場合、mc面内に伝搬ベクトルを持つ入射光は、図53(a)の場合と比べて、より小さい角度で界面50に入射しやすくなる。その結果、入射した光は、mc面内において、c軸方向よりもm軸方向に傾斜しやすくなる。すなわち、平坦な出射面を持つ従来のm面窒化物系半導体発光素子における配光特性はc軸方向に広く分布し、一方、本実施形態の空隙60が形成されている場合には、m軸側、すなわち発光素子の主軸方向(上下方向)の光強度分布が強くなる。従って、c軸方向の配光特性が改善されて、a軸方向との非対称性を改善することができる。また、このように、本実施形態に示す空隙60は、光取り出し効率の向上にも寄与する。
図54は、物質の界面におけるp波、s波それぞれの入射、反射及び屈折の様子を示している。このような界面におけるエネルギー反射率(p波に対してRp、s波に対してRsと表記)は、以下のスネルの法則(式(3))及びフレネルの式(式(4)、式(5))から得ることができる。
n1sinθ1=n2sinθ2 …式(3)
Rp=tan2(θ1−θ2)/tan2(θ1+θ2) …式(4)
Rs=sin2(θ1−θ2)/sin2(θ1+θ2) …式(5)
本実施形態に係る発光素子においては、活性層24から出射した光は、屈折率が高い窒化物半導体層から屈折率が低い大気の層へと透過する。
図54において、屈折率n1の層をGaN層、屈折率n2の層を大気とした場合のp波及びs波のそれぞれのエネルギー反射率Rp、Rsの入射角度θ1依存性の計算結果を図55(a)に示す。
入射角度が23°よりも小さい領域では、p波及びs波は共に反射率は比較的に低く、窒化物半導体層から出射した光は、外部に取り出されやすい。また、この角度範囲では、p波の反射率がs波の反射率よりも低く、22°付近では、p波の反射率が0となる。これはブリュースター角と呼ばれる。
一方、本実施形態のように、光が、屈折率が高い材料から屈折率が低い材料へと入射する場合は、全反射することが知られている。全反射が起きる入射角度を臨界角θcと呼ぶ。臨界角θcは、式(3)に示したスネルの法則において、θ2=90°になるときのθ1の値である。つまり、窒化物半導体と大気との界面においては、臨界角θcが23°付近であるため、これ以上の高い入射角度で界面に入射する光は全反射され、発光素子の外部に光を効率的に取り出すことができない。このような現象が起こると、光は外部に取り出されず、発光素子の外部量子効率を下げる要因となる。
図55(b)及び図55(c)に、GaN層とサファイアとの界面、及びGaN層とSiO2との界面における計算結果を参考のために示す。
本実施形態に係る空隙60は、その構造の一部に斜面53を有している。このような斜面が形成されると、平坦な出射面と比べて、入射角が臨界角よりも小さくなる場合がある(例えば図53(b)を参照。)。この場合には、反射率が低くなるため、外部に取り出される光が多くなって、光取り出し効率及び外部量子効率を改善することができる。
以上、説明した配光特性及び光取り出し効率の改善効果は、m面窒化物半導体から得られる発光がa軸偏光しており、さらにその伝搬ベクトルがmc平面に平行である成分が多いという特徴に起因している。これにより、光の強度分布がa軸よりもc軸方向に広く分布するため、c軸に対して垂直となるようにストライプ状の凹凸形状を形成することにより、配光特性及び光取り出し効率を改善することができる。配光特性と光取り出し効率とを改善するという観点からは、活性層24から出射される光の偏光方向と、ストライプ構造が延びる方向とが平行となるように設計する。
従って、m面窒化物系半導体発光素子におけるa軸偏光度を維持する場合は、角度βは0°付近、つまりa軸方向に沿ってストライプ構造を形成することが望ましく、この条件下でも配光特性及び光取り出し効率の改善を図ることができる。
一方、出射光が横切るようにストライプ状の空隙60を形成することにより、配光特性及び光取り出し効率の改善が可能となる。これらの効果に加えて、ストライプ状の空隙60のa軸方向からの角度βを0°よりも大きくすることにより、出射光の偏光度を抑制することができる。
すなわち、本実施形態の主目的である、a軸偏光度を抑制し且つ配光特性及び光取り出し効率の改善効果が得られるストライプ状の空隙60の面内傾斜角度βの範囲は、3°以上且つ45°以下である。また、角度βの値は、3°以上且つ35°以下でもよい。また、角度βの値は、3°以上且つ10°以下であってもよい。
<リッジ部51及びその間の空隙60を設けた発光素子10の構造>
以下、空隙60を界面付近に設けた窒化物系半導体発光素子の構造とその製造方法について詳しく説明する。
本実施形態においては、窒化物半導体層は、非極性又は半極性面を主面とする構造を前提としている。このような非極性面又は半極性面を主面とする窒化物半導体構造から出射する光は偏光を持ち、出射面側に形成したストライプ状の空隙60により、偏光度を抑制することができ、且つ、配光特性と光取り出し効率とを向上することができる。
また、本実施形態においては、ストライプ構造を、成長用基板100の裏面、すなわち、エピタキシャル成長を行う主面の反対側の面に形成する場合ではなく、成長用基板100と成長した窒化物半導体膜320の界面付近に形成する方法について詳細に説明する。
例えば、成長用基板100にサファイアを用いて成長した非極性面又は半極性面窒化物系半導体発光素子の場合は、サファイア基板の裏面にストライプ構造を形成することにより、本実施形態の効果を得ることは可能である。しかしながら、窒化物半導体の結晶成長に一般に用いられるサファイア基板は、硬度が高く、加工が困難である。
そこで、本実施形態においては、成長用基板100の裏面を加工せず、窒化物半導体膜320の成長前の成長基板100の表面、又は該基板100上に成長した、厚さが数nmから数μm程度の窒化物半導体膜320にストライプ状の空隙60を形成する。
このような方法を用いることにより、成長用基板100の硬度が高い場合でも、基板を直接に加工することなく、成長用基板100の主面上にストライプ状の空隙60を容易に形成することができる。ここでは、ストライプ構造が、活性層24から見て出射面側に形成されているため、出射される光の偏光度を抑制し、配光特性及び光取り出し効率の向上が可能となる。
本実施形態に係る成長用基板100には、非極性面又は半極性面を持つ窒化物半導体の成長が可能な基板を用いる。例えば、成長用基板100には、窒化物半導体であるGaNバルク基板を用いてもよい。すなわち、窒化物半導体膜320とGaNバルク基板との界面付近に、空隙60を形成してもよい。GaNバルク基板としては、非極性面又は半極性面が成長する基板であればよく、a面又はm面を主面とするGaNバルク基板、又は(11−22)面、(2−201)面若しくは(2−20−1)面等の半極性面を主面とするGaNバルク基板であってもよい。
しかしながら、現状では、非極性面又は半極性面を主面とする窒化物系半導体素子の結晶成長に用いられているGaNバルク基板は高価であり、また、大口径化も難しい。
例えば、現状のm面を主面とするGaNバルク基板の価格は、同サイズのサファイア基板と比較すると2桁以上も高い。またそのサイズは、m面GaN基板は、数cm角程度の大きさであり、c面GaNのバルク基板でさえ、約5.1cm(=2インチ)を超える大口径化が現状では困難である。一方、異種基板の1つであるサファイア基板は、現在2インチサイズなら数千円程度と安価であり、約10.2cm(=4インチ)、又は約15.2cm(=6インチ)以上の大口径化がすでに実現されている。
従って、GaNバルク基板を成長用基板100として用いた場合でも、同様な偏光度抑制効果を得られるものの、コスト面及び大口径化の面では、窒化物半導体とは異なる材料からなる基板、すなわちヘテロ基板を用いることが望ましい。
ヘテロ基板としては、例えば、サファイア、炭化シリコン(SiC)、シリコン(Si)、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化リチウムアルミニウム(LiAlO2)又は酸化亜鉛(ZnO)等を好適に用いることができる。例えば、m面窒化物半導体成長用の基板としては、m面サファイア、m面SiC、(100)LiAlO2基板等が報告されている。
m面を主面とする窒化物系半導体発光素子の場合、活性層24の表面が少なくともm面と平行か、又は±5°以内に制御されていればよく、その条件が満たされる範囲内においては、ヘテロ基板は適宜選ぶことができる。
本実施形態に係る効果は、ヘテロ基板としてシリコン(Si)を用いても有効である。Si基板は、安価で且つ大口径化が容易な基板である。また、Siのファセット面を用いる成長方法により、半極性面又は非極性面の窒化物半導体の成長が可能であることが分かっている。本実施形態においては、Siと窒化物半導体層との界面付近に、ストライプ状の空隙60を形成することにより、前述した効果を得ることができる。しかしながら、Si基板は、可視光は吸収するため、光取り出し効率が減少してしまう。よって、Si基板のような活性層24からの発光光を吸収してしまう基板を用いる場合は、空隙60を形成した後に、該Si基板を除去することが望ましい。
成長用基板100において可視光の吸収が少ないサファイア等においては、成長用基板100を必ずしも除去する必要はない。しかし、基板を除去した場合においても、除去された基板と界面を有していた窒化物半導体層に空隙60が形成されていれば、本実施形態の効果は得られる。
本実施形態では、m面サファイア基板上のm面窒化物半導体を基体とした、発光素子10におけるヘテロ窒化物半導体基板600の製造方法について、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。なお、本開示は、以下の実施形態に限定されない。
本実施形態においては、ヘテロ基板上に成長する種結晶膜又は再成長膜として、主に窒化ガリウム層(GaN層)を中心に説明するが、これらの層は、Al、In及びBのうち少なくとも1つを含む層であってもよい。また、種結晶又は再成長膜はGaN層のみから形成される必要はなく、例えばAlxGayInzN(但し、0≦x,y,z≦1、x+y+z=1である。)層が1層のみ含まれていたり、又はそれぞれ組成が異なる複数のAlxGayInzN(0≦x,y,z≦1、x+y+z=1)層が交互に積層されていたり、これらの層にさらにホウ素(B)が混入されたりする構造であってもよい。
図56(a)〜図56(d)に、成長用基板とその上に成長する窒化物半導体膜の界面付近の領域に、ストライプ状の空隙を形成する方法について説明する。
まず、図56(a)に示すように、m面を成長面とする成長用基板100の上に窒化物半導体層110を成長させる。続いて、誘電体又は酸化物等からなるマスク120を選択的に形成する。マスク材料には、例えば酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ガリウム(Ga2O3)、又は酸化アルミニウム(Al2O3)等を用いることができる。
次に、図56(b)に示すように、マスク120を用いて、窒化物半導体層110及び成長用基板100の上部に対してエッチングを行う。これにより、マスク120から成長用基板100が露出した凹部210を形成する。
以上のようにして、エッチングにより残留し、再成長の起点となる凸部でありストライプ状の窒化物半導体層110aと、エッチングにより成長用基板100が露出した凹部210とを有する凹凸加工基板500が形成される。なお、成長用基板100の上部に対して行うエッチングは、窒化物半導体層110が残らないように行うオーバエッチングであり、このオーバエッチングの詳細については後述する。
次に、図56(c)に示すように、凹凸加工基板500の上に、窒化物半導体310を再成長すると、ストライプ状の窒化物半導体層110aから優先的に再成長が起こる。さらに、成長条件を適宜選択することによって、再成長した窒化物半導体310は、ストライプ状の窒化物半導体層110aの両側面から横方向成長し、成長用基板100が露出する凹部210を覆うように成長が進む。
次に、図56(d)に示すように、成長を続けると、横方向に成長した窒化物半導体310同士が結合して、結合部410を形成する。これにより、露出した成長用基板100に形成された凹部210の底面210aは再成長膜で覆われる。さらに成長を続けると、今度は窒化物半導体310が、成長用基板100の主面に垂直な方向、すなわちm軸方向に成長してマスク120を完全に覆い、マスク120の上方にも結合部400が形成される。最終的には、平坦な窒化物半導体膜を形成することができる。
このとき、凹部210と横方向成長した窒化物半導体310の間には、エピタキシャル膜が存在しない空隙60が生じる。この空隙60は、ストライプ状に延びる構造となり、斜面53及び底面52を含む構造となる。
このように、成長用基板100と該成長用基板100の上に再成長した窒化物半導体層110に対して凹凸加工を施して、凸部となるストライプ状の窒化物半導体層110aと成長用基板100が露出した凹部210とを有する凹凸加工基板500を用意する。この用意した凹凸加工基板500に窒化物半導体310の再成長を行うと、凸部であるストライプ状の窒化物半導体層110aが延びる方向と平行に、ストライプ状の空隙60を形成することができる。
このような方法を用いたストライプ状の空隙60を得る工程においては、再成長した窒化物半導体310は、ストライプ状の窒化物半導体層110aを起点として横方向に成長が進む。このため、ヘテロ成長時にその界面で発生し、窒化物半導体層110に含まれる一部の転位は、縦方向であるm軸方向ではなく横方向に屈曲する。その結果、凹部210によって転位及び欠陥密度を大幅に低減することができる。これにより、再成長した窒化物半導体310の表面領域の高品質化が可能となる。
以上の方法は、一般に、横方向選択成長と呼ばれる成長方法である。本実施形態の空隙60を形成する方法は、横方向選択成長法を採用することにより、偏光度の抑制効果と共に、転位密度及び積層欠陥密度を低減することができる。このような横方向選択成長において、一般に、エッチングにより形成される凹部210の深さは、凸部であるストライプ状の窒化物半導体層110aと比べて深ければ深いほど良いとされている。なぜならば、再成長時にエッチングにより露出した凹部210の成長用基板100の表面から、窒化物半導体310が成長してしまう可能性があるからである。
この成長方法では、ストライプ状の窒化物半導体層110aのみから再成長させることにより、転位及び欠陥密度を低減できる。よって、エッチングにより形成した凹部210の底面210aからの再成長を起こさないか、起こったとしても横方向再成長に影響を及ぼさないようにすることが重要である。
エッチング深さが深ければ深いほど、再成長時の原料は、凹部210の底面210aには到達することが難しくなり、凸部である窒化物半導体層110からのみ優先的に成長して、横方向選択成長が促進される。また、もし凹部210で成長が起こったとしても、エッチングの深さが深ければ、再成長膜への影響及び干渉は少なくなる。
なお、図56を用いて説明した横方向選択成長による空隙60の形成方法は、誘電体等からなるマスク120を用いなくても、実現が可能である。誘電体からなるマスク120を除去すると、マスク120を構成する材料自体からの不純物の混入を抑制できる等の利点がある。
(製造方法の一変形例)
図57(a)〜図57(d)に再成長用のマスクを用いない場合の成長方法を示す。
まず、図57(a)に示す工程においては、図56(a)と同様に、成長用基板100の上に、窒化物半導体層110とマスク121とを順次形成する。
次に、図57(b)に示すように、マスクを用いたエッチングによって表面に凹凸を有する凹凸加工基板510を形成する。その後、本変形例においては、マスク121を除去する。
次に、図57(c)に示すように、マスク121を除去した凹凸加工基板510を再成長用基板として、窒化物半導体膜320を凸部であるストライプ状の窒化物半導体層110aから再成長させる。ここで、再成長は、凹部210を覆うように横方向成長が起こるのと同時に、ストライプ状の窒化物半導体層110aの上面にも成長が起こる。最終的には、図57(d)に示すように、再成長を続けることにより、平坦な窒化物半導体膜320を得ることができる。
本変形例においては、マスク121が窒化物半導体膜320中に存在しないため、SiO2等の誘電体からなるマスクからの不純物の混入がない。従って、良質な窒化物半導体膜320を得られるという利点がある。
さらに、マスク121として、一般的なレジスト膜を用いることができるため、誘電体マスクを形成する工程を省くことができる。このため、製造コストを削減できるという利点もある。
以下では、マスク121を除去する図57の一変形例に示す構造を用いて、面内傾斜角度βを持つ空隙60の形成方法について説明する。図56の形成方法との違いは、マスクの有無のみであるため、偏光度の抑制効果等については、図56の場合も同様の効果を得ることができる。
図58(a)及び図58(b)は、第4の実施形態に係る窒化物半導体層成長用の凹凸加工基板510の断面構成及び平面構成を示している。
図58(a)に示すように、凹凸加工基板510は、m面を成長面に持つサファイアからなる成長用基板100と、成長用基板100の成長面の上に設けられた複数のストライプ状の凸部を持つ窒化物半導体層110aとを有している。複数のストライプ状の窒化物半導体層110aのそれぞれの間には、凹部210が設けられている。図58(b)に示す例において、ストライプ状の窒化物半導体層110aは、m面窒化物半導体のa軸方向から面内傾斜角度βだけ傾いた方向に延びている。
前述したように、m面窒化物半導体層とm面サファイアとの面内の結晶軸は90°ずれている。すなわち、主面であるm軸は平行であるが、面内の窒化物半導体のa軸(c軸)はサファイアのc軸(a軸)と平行になるように、エピタキシャル成長することが分かっている。
従って、成長用基板100を基準として、角度βを定義するならば、成長用基板100のc軸方向と平行な場合に、角度βが0°となる。また、成長用基板100のa軸方向と平行な場合に、角度βが90°となる。
すなわち、ストライプ状の窒化物半導体層110aが延びる方向と、該窒化物半導体層110aのa軸とがなす角度βが3°以上且つ45°以下となるように設計した凹凸加工基板510を形成する。続いて、形成した凹凸加工基板510の上に窒化物半導体膜320を再成長すれば、面内傾斜角度βが同一であるストライプ状の空隙60を有するヘテロ窒化物半導体基板600を得ることができる。ヘテロ窒化物半導体基板600の上に作製したm面を主面とする発光素子10は、活性層24から出射する光の偏光度が抑制され、且つ配光特性及び光取り出し効率が改善される。
凹部210の底面210aには、成長用基板100のm面が露出している。窒化物半導体の原料粒子はサファイアのm面に付着しにくい。このため、ストライプ状の窒化物半導体層110aを種結晶として窒化物半導体膜320を再成長させる際には、原料粒子は凹部210の底面210aではなく、ストライプ状の窒化物半導体層110aに付着しやすくなる。これにより、底面210aから結晶性が低い窒化物半導体膜320の成長を抑制することができる。
また、図58(a)及び図58(b)には、ストライプ状の窒化物半導体層110aの上面にマスクが設けられていない例を示しているが、本実施形態においては、図56(b)に示すようなマスク120が設けられていてもよい。
本実施形態に係る凹凸加工基板510は、例えばウエハ状態の成長用基板100を用いて形成される。図58はウエハの一部を示している。また、見やすさを考慮して各構成要素を図示しており、実際の各構成要素の大きさの比率は図示される比率に限られない。
本実施形態において、成長用基板100の成長面は、前述したように、m面から5°以内の角度だけ傾いていてもよい。また、凹部210の底面210aに露出する面も、m面から5°以内の角度だけ傾いていてもよい。また、ストライプ状の窒化物半導体層110aの成長面も、m面から5°以内の角度だけ傾いていてもよい。
また、隙60の面内の傾斜角度βの範囲は、3°以上且つ35°以下であってもよい。面内傾斜角度β>35°の範囲では、エッチングにより形成した凹部210の壁面220から、半極性面を持つ窒化物半導体膜320が異常成長しやすい。従って、横方向再成長により得られた窒化物半導体膜320は、m面と半極性面とが混在して、結晶品質及び表面平坦性が著しく悪化することが、本発明者の検討により明らかとなった。具体的には、傾斜角度が3°≦β≦35°の範囲内で複数の空隙60を形成すれば、偏光度を抑制し、配光特性及び光取り出し効率を改善することができる。その上、凹部210から露出する成長用基板100からの半極性面に生じる異常成長が抑制されて、表面平坦性と結晶品質とに優れたm面窒化物再成長膜320及びヘテロ窒化物半導体基板600を得ることができる。
また、空隙60の面内傾斜角度βの絶対値は3°以上且つ10°以下であってもよい。この場合には、積層欠陥密度を特に低減することができる。詳細は、後述する実施例に係る測定結果を参照しながら説明する。
本実施形態に係る複数の凸部からなるストライプ状の窒化物半導体層110aは、図58(b)に示すような、単純なライン&スペースの配置に限られない。前述したように、図47、図48又は図49に示す構造であってもよい。
また、ストライプ状の空隙60が延びる方向に垂直な断面形状についても、適宜選択することができ、例えば図45及び図46に説明した構造であってもよい。
図59(a)に示すように、本実施形態においては、ストライプ状の窒化物半導体層110aの側面110Aは、成長用基板100の成長面の法線に対して傾いていてもよい。この場合、ストライプ状の窒化物半導体層110aが延びる方向と平行な側面110Aとm面とがなすリッジの内側の角度γが0°よりも大きく150°よりも小さくてもよい。
また、ストライプ状の窒化物半導体層110aの断面は、四角形状又は台形状に限られず、三角形状、他の多角形状又は曲面を含んでいてもよい。
また、本実施形態では、複数のストライプ状の窒化物半導体層110aのうちの幾つか、又は1つのストライプ状の窒化物半導体層110aの一部において、その延びる方向が窒化物半導体のa軸方向に対して3°以上且つ45°以下の傾きを持つという条件を満たさなくてもよい。この場合、複数のストライプ状の窒化物半導体層110aのうち少なくとも50%がその延びる方向と窒化物半導体のa軸とがなす角度が3°以上且つ45°以下であればよい。
成長用基板100の厚さは、例えば0.1mm以上且つ1mm以下である。成長用基板100(ウエハ)の直径は、例えば約2.5cm(1インチ)以上且つ約20.3cm(8インチ)以下である。
また、ストライプ状の窒化物半導体層110aの層厚は、例えば10nm以上且つ10μm以下である。図59(a)に示す、ストライプ状の窒化物半導体層110aが延びる方向に垂直な方向の幅Lは、例えば0.1μm以上且つ10μm以下に設定してもよい。また、図59(a)に示す、凹部210の幅Sは、1μm以上且つ30μm以下に設定してもよい。
図59(a)に示す幅L及び幅Sは、ストライプ構造が延びる方向に対して垂直な方向に形成される凹凸構造の周期とほぼ一致する。
本実施形態の主目的である、偏光度を抑制し、配光特性の改善と光取り出し効率の向上との効果のみを得るには、前述した幅Lと幅Sとから決まる周期は、光の波長レベル、つまり1μm以下であってもよい。
一方、この偏光制御の効果と同時に、ヘテロ窒化物半導体膜の結晶性の改善効果を得る場合には、前述した幅Lと幅Sとから決まる周期は、さらに広い範囲で制御することが可能である。前述したように、その周期が40μmであっても、その効果を確認することができている。
凹凸加工基板510を作製する工程において、凹部210の底面210aにストライプ状の窒化物半導体層110aが残存するのを回避するため、凹部210を形成するためのエッチングを深めに行ってもよい。この場合、成長用基板100の上部も除去されて、図58(a)に示すように、凹部210の下部に、成長用基板100からなる壁面220が露出する。
なお、図59(b)に示すように、凹部210を形成する際に、必ずしも成長用基板100の上部を除去した凹部210を形成しなくてもよい。この場合は、凹部210の底面210aが、成長用基板100とストライプ状の窒化物半導体層110aとの界面と同一の高さとなる。
成長用基板100とストライプ状の窒化物半導体層110aとの界面を基準とした凹部210の底面210aの深さは、例えば、0nm以上且つ500nm以下、又は0nm以上且つ150nm以下であってもよい。
本実施形態においては、ストライプ状の窒化物半導体層110aが延びる方向と、m面を主面とする窒化物半導体膜320のa軸とがなす角度の絶対値を35°とすると、半極性面による異常成長が起こると説明したが、ストライプ状の窒化物半導体層110aの側面から露出するサファイアの面積を小さくすることにより、この問題を回避することができる。
例えば、成長用基板100とストライプ状の窒化物半導体層110aとの界面を基準とした凹部210の底面210aの深さを、0nm以上且つ150nm以下とすると、ストライプ状の窒化物半導体層110aの側面から成長する窒化物半導体膜320の半極性面による異常成長を回避することができる。
図59(b)に示すように、成長用基板100における凹部210内の壁面220の面積を可能な限り小さくした構造においては、ストライプ状の窒化物半導体層110aの側面の下部に位置する成長用基板100から成長する半極性の窒化物半導体の量が少なくなる。このため、ストライプ状の窒化物半導体層110aが成長面内で延びる方向と窒化物半導体膜320のa軸との角度が35°以上であっても、窒化物半導体膜320の半極性面による異常成長が抑制されて、表面の平坦性を高めることができる。
なお、ストライプ状の窒化物半導体層110a同士の間の凹部210の底面210aにm面以外の面が露出する場合は、凹部210の底面210aからの窒化物半導体膜320の再成長が問題となるため、凹部210を深く形成する必要がある。本実施形態においては、凹部210の底面210aがm面サファイアであるため、底面210aから窒化物半導体膜320が成長しにくい。従って、底面210aからの成長を考慮することなく、凹部210を浅く形成することができる。
さらに、ストライプ状の窒化物半導体層110aが延びる面内方向とm面を主面とする窒化物半導体膜320のa軸とがなす角度の絶対値を3°以上且つ35°以下とし、さらに、成長用基板100とストライプ状の窒化物半導体層110aとの界面を基準とした凹部210の底面210aの深さを、0nmよりも大きく且つ150nm以下となるようにしてもよい。これにより、底面210aの深さが0nmよりも大きい場合でも、ストライプ状の窒化物半導体層110aの側面の下部から露出する成長用基板100から成長する半極性の窒化物半導体の量をさらに低減することができる。
また、ストライプ状の窒化物半導体層110aが延びる面内方向とm面を主面とする窒化物半導体膜320のa軸とがなす角度の絶対値を0°以上且つ3°以下とし、さらに、成長用基板100とストライプ状の窒化物半導体層110aとの界面を基準とした凹部210の底面210aの深さを、0nmよりも大きく且つ150nm以下となるようにしてもよい。これにより、ストライプ状の窒化物半導体層110aの側面の下部から露出する成長用基板100から成長する半極性の窒化物半導体の量をさらに低減することができ、偏光光を維持することができる。
以上のように、m面サファイアからなる成長用基板100の上に、ストライプ状の窒化物半導体層110aを形成し、再成長を行うことにより、該ストライプ状の窒化物半導体層110aと平行なストライプ状の空隙60を形成することができる。これにより、ストライプ状の空隙60がヘテロ窒化物半導体基板600におけるヘテロ界面の近傍に設けられた、m面を主面とする発光素子10を得ることができる。
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図60(a)及び図60(b)は第4の実施形態において説明した製造方法により得られた、ストライプ状の空隙60を設けたヘテロ窒化物半導体基板600の模式的な断面構成及び平面構成を示している。ここで、図60(a)に示す構造は、本質的には図57(d)と同一である。
凹凸加工基板510を用意し、窒化物半導体膜320の再成長により、ヘテロ窒化物半導体基板600を形成した場合には、一般に、凹部210の上方に成膜された窒化物半導体膜320の転位及び欠陥密度は、ストライプ状の窒化物半導体層110aの上に成膜された窒化物半導体膜320よりも低くなり、結晶の品質が高くなりやすい。
これは、ストライプ状の窒化物半導体層110aには、ヘテロ界面で発生した転位及び欠陥が、そのまま成長方向であるm軸方向に伝搬するのに対し、横方向成長により得られる凹部210の上側の窒化物半導体膜320は、転位及び欠陥が屈曲する等してm軸方向に伝搬しにくくなる。
その結果、図60(a)及び図60(b)に示すように、転位及び欠陥密度の濃淡が、ヘテロ窒化物半導体基板600の面内に形成される。転位及び欠陥密度が高い領域は、凸部であるストライプ状の窒化物半導体層110aの上に形成されるため、図60(b)に示すように、m軸側から見ると、ストライプ状の空隙60と平行に形成され、同一の面内傾斜角度βを有する。
図61は第5の実施形態に係る半導体発光素子の断面構成を模式的に示している。図61に示すように、本実施形態に係る発光素子11は、ヘテロ窒化物半導体基板600と、該ヘテロ窒化物半導体基板600の上に形成され、活性層24を含む半導体積層構造20とを備えている。ヘテロ窒化物半導体基板600は、成長用基板100と、該成長用基板100の上に選択成長し且つ面内傾斜角度βを持つ複数の空隙60を含む窒化物半導体膜320とから構成されている。半導体積層構造20には、n型電極40及びp型電極30が設けられている。活性層24から出射した光は、主にp型電極30で反射されて、成長用基板100側から出射する。
図60で説明したように、本実施形態においては、凸部を構成するストライプ状の窒化物半導体層110aが形成される領域の上側に、凹部210よりも高い密度の転位及び欠陥がストライプ状の空隙60と平行に形成される。通常、この欠陥密度は1桁以上異なる場合がある。よって、本実施形態の構造を基体とした発光素子11においては、窒化物半導体膜320に高転位及び高欠陥密度領域を生じさせる凸部であるストライプ状の窒化物半導体層110aの存在が、発光効率を低下させる要因となり得る。
すなわち、図43に示した第4の実施形態においては、活性層24の全体に電流を注入するため、高転位及び高欠陥密度領域の上に形成した活性層24からも発光が得られるが、該領域の発光効率は低くなるおそれがある。
本実施形態においては、この発光効率が低下する問題を回避するために、p型電極30とp型窒化物半導体層25との界面に複数の絶縁膜140を選択的に形成している。各絶縁膜140は、凸部となるストライプ状の窒化物半導体層110aの上に形成されて、空隙60と同一の角度βを有するストライプ構造となる。このように各絶縁膜140を形成すれば、活性層24におけるストライプ状の窒化物半導体層110aの上に形成された部分は発光に寄与せず、活性層24における転位及び欠陥が少ない凹部210の上側部分のみが発光に寄与するため、発光効率を向上することができる。
絶縁膜140は、活性層24から出射した偏光光を透過する材料であってもよい。例えば、絶縁膜140には、SiO2、SiN、ZrO、Ga2O3、Al2O3又はZnO等を用いることができる。
本実施形態に係る発光素子11は、高転位及び高欠陥密度領域に電流を流さず、活性層24における発光効率が低い領域を動作させないことにより、発光効率を向上することができる。
なお、ストライプ状の絶縁膜140を形成しなくても、例えばp型電極30自体を、ストライプ状の形状とし、各凹部210の上側部分のみにp型電極30を形成してもよい。しかし、このような構成とすると、活性層24から出射した偏光光は、p型電極30が形成されていないストライプ状の窒化物半導体層110aの上側の領域では反射されることがない。その結果、発光素子11における光取り出し効率が低下することにもなる。
従って、各絶縁膜140を、p型層25とp型電極30との間に、空隙60と平行で且つストライプ状の窒化物半導体層110aの上側の領域にそれぞれ形成してもよい。この際、p型電極30は、複数の絶縁膜140を覆うように形成してもよい。絶縁膜140の厚さは、絶縁性が確保される範囲内で薄くてもよく、例えば20nm以上且つ200nm以下である。
以上説明したように、ヘテロ窒化物半導体基板600の主面の面内にa軸方向に対して傾斜角度βを持つ空隙60を有する発光素子構造11を形成することにより、活性層24から出射する偏光光のa軸偏光度を抑制し、且つ配光特性及び光取り出し効率を改善することができる。空隙60の角度βの範囲は、3°以上且つ45°以下であってもよい。また、角度βは3°以上且つ35°以下であってもよい。また、角度βは3°以上且つ10°以下であってもよい。
図57(d)及び図60(a)に示したように、ストライプ状の空隙60を設けたヘテロ窒化物半導体基板600を準備する工程において、横方向にそれぞれ選択成長した窒化物半導体膜320同士が互いに結合してなる各結合部410は、ストライプ状の空隙60と平行に形成される。
(第5の実施形態の一変形例)
上述のように、各結合部410は、それぞれ異なるストライプ状の窒化物半導体層110aから再成長した窒化物半導体膜320同士が互いに結合するため、結晶面及び結晶方位に僅かなずれが生じて、新たな欠陥及び転位の発生源となり得る。従って、各結合部410の上に活性層24が形成されると、非発光領域として働き、発光効率を下げる要因となり得る。
図62及び図63に、結合部410の影響を受け難い、本変形例に係る発光素子12を示す。ここで、図62及び図63(b)はa軸方向から見た断面構成を示し、図63(a)はc軸方向から見た断面構成を示す。
本変形例においては、結合部410が活性層24に含まれることを防ぐために、凹凸加工基板510の上に窒化物半導体膜320を再成長する際に、半導体積層構造20のうちの活性層24までを成長し、さらに、p型層25の成長時に各ストライプ状の窒化物半導体層110aから再成長した窒化物半導体膜320をそれぞれ結合させて、結合部410を得る。
このように発光素子12を作製することにより、活性層24に結合部410が含まれなくなるため、発光効率の低下を防ぐことができる。さらに、本変形例においても、ヘテロ窒化物半導体基板600の主面の面内にa軸方向に対して傾斜角度βを3°以上且つ45°以下で制御され、斜面53を有するストライプ状の空隙60を形成することによって、出射された光の偏光度を抑制し、且つ配光特性及び光取り出し効率を向上することができる。
なお、本変形例に係る発光素子12におけるn型電極40は、図63(b)に示すように形成してもよい。具体的には、発光素子12におけるn型層22は、複数の空隙60により、窒化物半導体膜320のc軸方向に不連続な構造となる。従って、それぞれがc軸方向に孤立したn型層22のすべてに通電できるように、n型電極40は、各n型層22の上面及び側面だけでなく、ヘテロ窒化物半導体基板600における空隙60の壁面及び底面を連続的に覆うように形成してもよい。
このような構造とすることにより、ヘテロ窒化物半導体基板600の上に形成された活性層24に電流を流し、素子全体からの発光を得ることができる。
図63(b)に示す本変形例に係るn型電極40の構造は、複数の活性層24及び複数のn型層22がそれぞれ互いに結合していない構造において好適に用いられる構造である。
従って、前述した発光素子11においては、n型電極40は、エッチングによりn型層22の表面を形成できれば、その形成位置に制約はない。
(第6の実施形態)
以下、第6の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図64(a)及び図64(b)は第6の実施形態に係るヘテロ窒化物半導体基板601の作製方法の詳細を示している。
まず、図64(a)に示すように、成長用基板100の上に、非極性面を主面とする窒化物半導体層110を形成する。本実施形態では、例えば、成長用基板100をm面サファイア基板とし、窒化物半導体層110をm面サファイア基板上に成長した、m面を主面とする窒化物半導体層とする。続いて、窒化物半導体層110の上に、ストライプ状のマスク120を選択的に形成する。マスク120は、窒化物半導体層110の主面内において傾斜している。例えば、a軸方向に対する傾斜角度βの範囲は3°以上且つ45°以下である。
以上の工程は、第4実施形態及び第5の実施形態と同等である。本実施形態においては、図64(b)に示すように、窒化物半導体層110にエッチングを行わずに、該窒化物半導体層110の表面上にマスク120を介した再成長を行って、窒化物半導体膜320を得る。
このような構成で再成長を行えば、マスク120の上には窒化物半導体膜320の再成長は起きず、マスク120で覆われていない窒化物半導体110の露出領域200の表面から優先的に再成長が行われる。ある成長条件下においては、横方向にも窒化物半導体膜320の成長が促進される。その結果、マスク120上で再成長膜が結合した結合部410が形成されると共に、ストライプ状の空隙60が形成される。
マスク120の材料には、例えば、SiO2、SiN、ZrO、ZnO、Ga2O3若しくはAl2O3、又はこれらの一部を含む酸化物若しくは誘電体材料を用いることができる。
また、マスク120の材料に金属を用いてもよい。例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)若しくはタンタル(Ta)、又はこれらの一部を含む合金材料であってもよい。
本実施形態においては、マスク120を形成した窒化物半導体層110の表面上に窒化物半導体膜320の再成長を行う。通常、窒化物半導体は高温下、例えば600℃以上且つ1300℃以下で成長を行うため、このような成長条件下でも、マスクとしての形状が保たれ、熱分解又は反応が起こりにくい材料であればよく、例えば、酸化物、誘電体又は金属材料を適宜用いることができる。但し、金属材料は、一般に光の吸収係数が高いため、発光素子としての応用を考えると、マスク120の材料には、活性層24から出射する可視光域の偏光光を透過又は反射する材料を用いるとよい。従って、マスク120の材料には、透過率が高い酸化膜又は誘電体膜であってもよい。
このように、図64(a)の工程において、窒化物半導体層110の上にマスク120を選択的に形成し、さらに窒化物半導体膜320を再成長する。これにより、図64(b)の工程において、a軸に対して傾斜角度βを持つ空隙60を有するヘテロ窒化物半導体基板601を作製することができる。
図65はヘテロ窒化物半導体基板601の上に作製した第6の実施形態に係る発光素子13の断面構成を模式的に示している。図65に示すように、本実施形態に係る発光素子13は、ヘテロ窒化物半導体基板601と、該ヘテロ窒化物半導体基板600の上に形成され、活性層24を含む半導体積層構造20とを備えている。ヘテロ窒化物半導体基板601は、成長用基板100と、該成長用基板100の上に形成された窒化物半導体層110と、該窒化物半導体層110の上にマスク120を介して選択成長し且つ面内傾斜角度βを持つ複数の空隙60を含む窒化物半導体膜320とから構成されている。半導体積層構造20には、n型電極40及びp型電極30が設けられている。活性層24から出射した光は、主にp型電極30で反射されて、成長用基板100側から出射する。
(第6の実施形態の第1変形例)
第4の実施形態1及び第5の実施形態と同様に、本実施形態においても、窒化物半導体膜320におけるマスク120の上方に横方向成長により得られた領域は、窒化物半導体膜320におけるマスク120で覆われない露出領域200の上に再成長した領域と比べて、転位密度及び欠陥密度が低くなる。
すなわち、窒化物半導体膜320におけるマスク120で覆われない露出領域200の上側部分は、マスク120の上側と比べて、転位及び欠陥密度が高くなる。通常、この密度は1桁以上異なる場合がある。よって、本実施形態の構造を基体とした発光素子13においては、この高転位及び高欠陥密度領域であるマスク120で覆われない露出領域200上の活性層24は、発光効率を低下させる要因となり得る。
この要因は、第5の実施形態と同様に、p型電極30とp型窒化物半導体層25との間に絶縁膜140を形成することにより、回避することができる。
図66に露出領域200の影響を受け難い発光素子14を示す。絶縁膜140は、露出領域200の上方に形成されているため、空隙60と同一の角度βを有するストライプ構造となる。このように絶縁膜140を形成すれば、マスク120で覆われない露出領域200の上に形成された活性層24は発光に寄与せず、代わりに、活性層24における転位及び欠陥が少ないマスク120の上側部分のみが発光に寄与するため、発光効率を向上することができる。
ここで、絶縁膜140は、活性層24から出射した偏光光を透過する材料により形成してもよい。例えば、絶縁膜140には、SiO2、SiN又はZrO等を用いることができる。絶縁膜140の厚さは、絶縁が確保される範囲内で薄くてもよく、例えば20nm以上且つ200nm以下であってもよい。
本実施形態に係る発光素子14は、高転位及び高欠陥密度領域に電流を流さず、活性層24における発光効率が低い領域を動作させないことにより、発光効率を向上することができる。
なお、ストライプ状の絶縁膜140を形成しなくても、例えばp型電極30自体を、ストライプ状の形状とし、マスク120で覆われない露出領域200の上のみに形成してもよい。しかし、このような構成とすると、活性層24から出射した偏光光は、マスク120で覆われない露出領域200の上側部分であって、p型電極30が形成されない領域では、反射されることがないため、発光効率が低下することにもなる。
従って、各絶縁膜140を、p型層25とp型電極30との間に、空隙60と平行で且つマスク120で覆われない露出領域200の上側にそれぞれ形成してもよい。この際、p型電極30は、複数の絶縁膜140を覆うように形成してもよい。
以上説明したように、ヘテロ窒化物半導体基板601の主面の面内にa軸方向に対して傾斜角度βを持つ空隙60を有する発光素子構造13、14を形成することにより、活性層24から出射する偏光光のa軸偏光度を抑制し、且つ配光特性及び光取り出し効率を改善することができる。ヘテロ窒化物半導体基板601の上に作製した発光素子の場合、隙60の角度βの範囲は、3°以上且つ45°以下であってもよい。また、角度βは3°以上且つ10°以下であってもよい。
(第6の実施形態の第2変形例)
上述した第5の実施形態に係る図60及び図61に説明したように、本実施形態の構造においても、ストライプ状の複数の空隙60を設けたヘテロ窒化物半導体基板601を準備する工程において、窒化物半導体膜320には結合部410がストライプ状のマスク120と平行に形成される。この結合部410は、それぞれのマスク120で覆われない露出領域200から再成長した窒化物半導体膜320同士が結合することにより形成される。
各結合部410は、窒化物半導体層110におけるそれぞれ異なる露出領域200から再成長した窒化物半導体膜320同士が互いに結合するため、結晶面及び結晶方位に僅かなずれが生じて、新たな欠陥及び転位の発生源となり得る。従って、各結合部410の上に活性層24が形成されると、非発光領域として働き、発光効率を下げる要因となり得る。
図67に結合部410の影響を受け難い、本変形例に係る発光素子15を示す。図67に示すように、第5の実施形態の一変形例と同様に、発光素子15を作製する際に、活性層24に結合部410を含まないようにし、再成長膜同士の結合をp型層25の成長中に行う。これにより、本変形例に係る発光素子15は、発光効率の低下を防ぐことができる。
さらに、本変形例においても、ヘテロ窒化物半導体基板601の主面の面内にa軸方向に対して傾斜角度βを3°以上且つ45°以下で制御され、斜面53を有するストライプ状の空隙60を形成することによって、出射された光の偏光度を抑制し、且つ配光特性及び光取り出し効率を向上することができる。
なお、本変形例に係る発光素子15において、n型電極40は、窒化物半導体層110の表面に形成してもよい。例えば、エッチングにより、窒化物半導体層110の表面を露出し、その後、窒化物半導体層110における露出した領域の上にn型電極40を形成すればよい。この際、窒化物半導体層110には、n型の導電性を持たせることが必要である。
(第7の実施形態)
以下、第7の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図68(a)は第7の実施形態に係る発光素子の断面構成を模式的に示している。また、図68(b)は第7の実施形態の一変形例に係る発光素子の断面構成を模式的に示している。図68(a)は第4の実施形態に係る発光素子10において、成長用基板100を除去した構成である。また、図65(b)は第6の実施形態に係る発光素子13において、成長用基板100を除去した構成である。
本開示においては、活性層24から出射した偏光光は、成長用基板100と窒化物半導体膜320との界面又はその近傍に形成されたストライプ状のリッジ部とその間の空隙60によって、偏光度を抑制し、配光特性及び光取り出し効率を改善する効果を得ることができる。従って、成長用基板100は、発光素子として必ずしも必要ではなく、除去されていてもよい。
特に、成長用基板100において、活性層24からの発光光がわずかでも吸収される場合は、該成長用基板100を除去することが望ましい。成長用基板100を除去することにより、光取り出し効率が向上して、発光素子の特性が向上する。
但し、成長用基板100として、サファイア等の可視光域の光吸収をほとんど無視できる材料を用いる場合には、必ずしも成長用基板を除去する必要はない。
成長用基板100を除去するには、該成長用基板100の材料によって適宜好ましい方法を用いることができる。例えば、レーザリフトオフ法、研磨法、ウェットエッチング法又はドライエッチング法等を用いることができる。
本実施形態においては、成長用基板100と窒化物半導体膜320との界面付近に、複数の空隙60を形成している。従って、例えばストライプ状の凸部である窒化物半導体層110aにおけるストライプが延びる方向と垂直な方向の幅(図59に示す幅L)を可能な限り小さくして、各空隙60の形成領域を増やすことにより、成長用基板100を容易に除去することができる。
例えば、一般的なウェハボンディング法を用いれば、成長用基板100を除去することができる。
図68(a)は、ウェハボンディング法を用いて成長用基板100を除去した発光素子10の一例である。図68(a)に示すように、p型層25の上に、成長用基板100を除去するために用いる支持基板27がボンディングされている。支持基板27の材料としては、本実施形態の場合、p型の導電性を持つ材料であればよく、例えば、p型Si基板又はp型GaAs基板であってもよい。しかし、これらの材料は、活性層24からの発光光を吸収してしまうため、発光効率が悪化してしまう。よって、基板材料としては、p型SiC基板、p型の導電性を持つ酸化物基板又はダイヤモンド基板を用いることができる。また、p型層25と支持基板27の間には、基板同士を接合させるための接合層があってもよい。
なお、この接合層が、反射率の高い材料、例えばAg、Al若しくはRh等の材料、又はこれらを一部に含む材料によって構成されていれば、前述したSi又はGaAs等の光吸収が起こる材料を支持基板として用いることもできる。
本実施形態に係る発光素子10は、成長用基板100を除去するため、窒化物半導体膜320の導電型をn型とすれば、例えば、支持基板27の上にp型電極30を形成し、窒化物半導体膜320の裏面上にn型電極41を形成すれば、p型電極30とn型電極41とは互いに対向する位置に配設される。このような構成とすれば、注入される電流が、発光素子10の上下方向に、いわゆる縦方向に流れる。このため、注入される電流に集中が生じないため、大電流動作に適する。
図68(b)に示す一変形例に係る発光素子13の場合は、窒化物半導体膜320だけでなく、窒化物半導体層110の導電型をもn型とする必要がある。
図68(a)及び図68(b)に示すn型電極41は共に出射面側に設けられる。出射面側に設けられることから、n型電極41は、透過率が高い材料によって形成してもよい。例えば、Indium Tin Oxide(ITO)と呼ばれる、In2O3及びSnO2を含む材料からなる透明電極、ZnOを含む透明電極、又は100nm以下に薄膜化した金属電極であってもよい。
n型電極41は、図68(a)に示すように、出射面の全体に形成してもよい。また、n型の導電性を持つ窒化物半導体膜320の導電性が高ければ、出射面の一部に形成してもよい。
(第8の実施形態)
以下、第8の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図69は第8の実施形態に係る発光素子の断面構成を模式的に示している。
本実施形態に係る発光素子16は、発光素子の構造自体は第4の実施形態に係る発光素子10と同一の構造であるが、成長用基板100の裏面にも、ストライプ状の凹凸構造70を有する点が異なる。
このように、ストライプ状の凹凸構造70を成長用基板100の裏面にも形成しているため、窒化物半導体膜320に設けたストライプ状の空隙60によって十分に抑制できなかった出射光の偏光度をさらに抑制することができる。これにより、発光素子16における配光特性及び光取り出し効果をさらに向上することができる。
なお、成長用基板100の裏面に設けたストライプ状の凹凸構造70においても、その断面構成及び平面構成は、図45、図46、図47、図48及び図49に示した構成であってもよい。
また、ストライプ状の凹凸構造70における面内傾斜角度の範囲も、前述したストライプ状の空隙60の角度βの範囲と同一の範囲であってもよい。例えば、ストライプ状の凹凸構造70の面内傾斜角度をβ’とし、m面を主面とする発光素子16において、面内のa軸方向をβ’=0°と定義すると、β’の範囲は、3°以上且つ45°以下であってもよい。
ストライプ状の凹凸構造70は、成長用基板100の裏面に直接にパターニング及びエッチング加工を施すことによって形成できる。但し、成長用基板100が加工困難な材料、例えばサファイア等の場合は、成長用基板100以外に、加工が可能な凹凸形成用の薄膜を形成又はボンディングして、その薄膜に凹凸加工を施してもよい。例えば、成長用基板100の裏面にSiO2等を蒸着し、この蒸着膜にエッチング等を施すことにより、面内傾斜角度β’を持つストライプ状の凹凸構造70を形成してもよい。
また、空隙60における面内傾斜角度βと、成長用基板100の裏面に形成したストライプ状の凹凸構造70における面内傾斜角度β’とは、必ずしも一致する必要はない。
また、空隙60とストライプ状の凹凸構造70とのそれぞれの構造も完全に同一である必要はなく、偏光度を抑制できる範囲内において、第4の実施形態で示した構造をそれぞれが独立に用いてもよい。
なお、成長用基板100の裏面にストライプ状の凹凸構造70を設けるという本実施形態に係る構成は、第5の実施形態から第7の実施形態にも適用が可能である。
(各実施形態の第1変形例)
各実施形態において、発光素子を構成する半導体積層構造20の成長面の面内方向において、偏光方向から所定の角度βで傾くように形成された空隙60は、屈折率が窒化物半導体とは異なる、大気以外の例えば誘電体等の材料によって埋められていてもよい。
例えば、第4〜第8の各実施形態において、空隙60には、その一部、もしくは全体に、SiO2又はSiN等の誘電体を埋め込んでもよい。
各実施形態においては、活性層24からの光の出射側に、空隙60に挟まれたストライプ状のリッジ部が形成されており、該ストライプ状のリッジ部が延びる方向の角度が、窒化物半導体のa軸方向に対して3°以上且つ45°以下の範囲で形成されている。さらに、空隙60に挟まれたリッジ部が斜面53を有していることが重要である。
従って、各実施形態に示した構成において、各空隙60に例えば誘電体が埋め込まれてあっても、本変形例に係る効果を得ることができる。
さらに、本変形例においては、例えば、斜面53を構成する界面は、窒化物半導体と誘電体膜(例えばSiO2)膜となる。従って、図55(c)に示したように、臨界角θcは、空隙60(図53(a))の場合と比べると大きくなるので、光取り出しの面では有利な構造となる。
以上、説明したように、ストライプ状の空隙60が、例えば誘電体により埋め込まれ、そのストライプ状の誘電体の面内傾斜角度βが3°以上且つ45°以下であれば、活性層24から出射した光の偏光度を抑制すると共に、配光特性を向上し且つ光取り出し効率を改善することができる。
(各実施形態の第2変形例)
各実施形態において、空隙60は、成長用基板100の上に形成される窒化物半導体膜320に形成する構成に代えて、成長用基板100の成長面である主面に直接にパターニング及びエッチングを施してもよい。このように、成長用基板100を直接に凹凸加工することによって、ストライプ状のリッジ部を形成してもよい。この場合、第4の実施形態において説明したストライプ状の空隙60が成長用基板100の表面に形成され、空隙60を有する成長用基板60の上に窒化物半導体膜320が再成長できれば、本変形例に係る効果を得ることができる。
例えば、成長用基板100がサファイアからなる場合は、図55(b)に示したように、臨界角θcは、図55(a)に示す空隙60及び図55(c)に示すSiO2と比べて大きくなるため、光の取り出し効率の面で有利となる。
以上、説明したように、空隙60が主面に形成された成長用基板100の上に窒化物半導体膜320を再成長した構造において、ストライプ状のリッジ構造の面内傾斜角度βが3°以上且つ45°以下であれば、活性層24から出射した光の偏光度を抑制すると共に、配光特性を向上し且つ光取り出し効率を改善することができる。
(各実施形態の第3変形例)
各実施形態は、半極性面を主面とする素子においても同様に適用することが可能である。
例えば、第4の実施形態から上記の第2変形例までの構成において、成長用基板100の上に再成長する窒化物半導体層110、窒化物半導体膜320及び半導体積層構造20の主面(成長面)が半極性面である(11−22)面でも同様の効果を得ることができる。
(11−22)面を主面とする窒化物系半導体発光素子は、主にm軸に偏光した光が出射されることが分かっている。
従って、第4の実施形態から上記の第2変形例までの構成において、ストライプ構造の面内傾斜角度をηとし、該ηを(11−22)面窒化物半導体におけるm軸とストライプ構造が延びる方向との間の角度として定義する。角度ηが3°以上且つ45°以下の範囲において、前述したm面窒化物半導体を用いた各発光素子と同様の、偏光度の抑制効果、配光特性の改善効果及び光取り出し効率の向上効果を得ることができる。
[実施例A]
<ストライプ構造を光の出射面に形成した発光素子における角度βと偏光度及び配光特性との関係>
(実施例6、参考例1及び比較例1の作製)
本実施例では、面内傾斜角度βを変化させたストライプ構造による、偏光度の抑制効果、配光特性及び光取り出し効率への影響を調べるため、まず、単純な構造として、成長用基板の裏面にストライプ状のリッジ構造を形成した発光素子の実験結果について説明する。
図70は実施例Aで検討した発光素子を模式的に示している。実施例Aに係る発光素子は、成長用基板100にm面を主面とするGaNバルク基板を用いた。実施例Aにおいては、ストライプ構造は界面50付近に形成せず、成長用基板100の裏面、すなわち光の出射面に形成した。
まず、成長用基板100の主面上に、エピタキシャル成長により、GaNからなる窒化物半導体膜320と、該窒化物半導体膜320の上に半導体積層構造20を形成する。エピタキシャル成長には、有機金属気相成長(MOCVD:metal organic chemical vapor deposition)法を用いた。
具体的には、成長基板100の主面上に窒化物半導体膜320を成長し、続いて、GaNからなるn型層22を成長した。n型層22のドーパントには、シリコン(Si)を用いた。このとき、成長用基板100の上に最初に成長する窒化物半導体膜320にも、Siドーピングをしている。Siの原料としては、シラン(SiH4)ガスを用いた。発光素子の電気抵抗を下げるという観点から、窒化物半導体膜320にドーピングしてもよい。但し、窒化物半導体膜320には必ずしもドーピングする必要はなく、アンドープ層としてもよい。窒化物半導体膜320とn型層22との厚さの合計値は、約3μmから8μmとした。また、それぞれの成長温度は1050℃とした。
次に、n型層22の上に活性層24を成長した。活性層24は、In0.13Ga0.87Nからなる井戸層とGaNからなるバリア層とが交互に積層された多重量子井戸構造を採る。井戸層とバリア層との層厚は、それぞれ3nmと12.5nmとした。また、量子井戸構造の周期数は、9から16とした。成長温度は700℃から800℃とした。
活性層24の上には、まず、アンドープGaN層26を成長する。続いて、p型Al0.14Ga0.86N層とp型GaN層との2層を順次成長して、p型層25とした。p型ドーパントには、マグネシウム(Mg)の原料であるCp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いた。p型層25の厚さは250nmとし、成長温度は875℃とした。
次に、p型層25の上に、p型電極30のコンタクト抵抗を下げることができる厚さを持つp型GaNコンタクト層を成長した(図示せず。)。p型コンタクト層は、Mgの濃度をp型層25におけるMgの濃度よりも高くしている。
このようにして、有機金属気相成長法により、m面GaNバルク基板である成長用基板100の上に半導体積層構造20を形成した。
次に、リソグラフィ法及びドライエッチング法により、半導体積層構造20からn型層22の一部を露出する凹部42を形成する。続いて、凹部42から露出したn型層22の表面に、厚さが100nmのアルミニウム(Al)からなるn型電極40を形成した。続いて、p型GaNコンタクト層の上に、厚さが400nmの銀(Ag)からなるp型電極30を形成した。なお、n型電極40とp型電極30との形成順序は特に問われない。その後、バルク状のGaNからなる成長用基板100を研磨して、該成長用基板100の厚さを約100μmとした。このようにして、発光素子を作製した。
次に、ストライプ状の凹凸構造70の形成方法について説明する。
まず、成長用基板100の裏面にハードマスク材料としてSiO2膜を形成した。SiO2膜は、例えば、プラズマCVD(plasma chemical vapor deposition)法により形成した。続いて、SiO2膜の上にレジスト膜を塗布し、電子線描画装置により、レジスト膜に対して周期が300nmのストライプ構造とするパターニングを行った。その後、パターニングされたレジスト膜をマスクとして、CF4ガス及びO2ガスを用いたドライエッチングによってSiO2膜をエッチングして、SiO2膜からハードマスクを形成した。
続いて、ハードマスクが形成された成長用基板100の裏面に対して、塩素(Cl2)系ガスによるドライエッチングを行って、成長用基板100の裏面にストライプ状の凹凸構造70を形成した。ここでは、凹凸構造70におけるストライプが延びる方向に垂直な方向の断面形状は、台形状となるように形成した。続いて、ハードマスクとして用いたSiO2膜をウェットエッチングにより除去した。
このような作製方法により、周期が300nmで凹凸部分の高低差が300nmであるストライプ状の凹凸構造70を成長用基板100の裏面に形成した。また、斜面53の成長用基板100の表面、すなわちm面とが、なす角度は約60°であった。
本実施例においては、面内傾斜角度βがそれぞれ異なるストライプ状の凹凸構造70を持つ発光素子を同様の方法で作製した。本実施例では、β=0°の構成を参考例1とし、β=45°の構成を実施例6とし、β=90°を比較例1とした3つの発光素子をそれぞれ作製した。
(実施例7、参考例2及び比較例2の作製)
実施例6、参考例1及び比較例1と同様の作製方法により、m面GaNバルク基板である成長用基板100の裏面にストライプ状の凹凸構造70を形成した。ハードマスクの構成材料も同様に、SiO2を用いた。
ストライプ構造の周期は8μmであり、凹凸構造の高低差は4μmである。断面形状は、台形に近い形状とした。また、斜面53の基板表面、すなわちm面とが、なす角度は約60°であった。
実施例6等と同様の作製方法により、ストライプ状の凹凸構造70を成長用基板100の裏面に形成し、角度βがそれぞれ0°(参考例2)、45°(実施例7)及び90°(比較例2)である発光素子をそれぞれ作製した。
(実施例8、参考例3及び比較例3の作製)
実施例6、参考例1及び比較例1と同様の作製方法により、m面GaNバルク基板である成長用基板100の上に半導体積層構造20を作製する。その後、角度β=0°、5°、30°、45°及び90°とそれぞれに異なる角度βを持つストライプ状の凹凸構造70を成長用基板100の裏面に有する発光素子を作製した。
但し、実施例8等においては、ストライプ状の凹凸構造70は、実施例6、参考例1及び比較例1とは異なる方法により作製した。本実施例においては、SiO2からなるハードマスクは用いずに、レジスト膜をマスクとして用いた。すなわち、パターニングしたレジスト膜をマスクとしてドライエッチングを行い、成長用基板100の裏面にストライプ状の凹凸構造70を形成した。エッチング後のレジスト膜の残留物は、硫酸と過酸化水素水との混合液からなるエッチャントにより除去した。
実施例8、参考例3及び比較例3におけるストライプ状の凹凸構造70のそれぞれの周期は8μmであり、凹凸部分の高低差は2.5μmであった。また、ストライプ状の凹凸構造70の断面が、三角形状又は楕円形状となるようにドライエッチングを行った。すなわち、図46(a)及び図46(b)に示したように、ストライプ状の凹凸構造70の底面の面積が小さくなるように成長用基板100にエッチングを行って、ストライプ状の凹凸領域70を形成した。
ここでは、ストライプ状の凹凸構造70が延びる方向がa軸と一致する、すなわちβが0°となる構成を参考例3とし、a軸となす角度βが5°、30°及び45°となる構成を実施例8とし、a軸との角度βが90°となる構成を比較例3とした。
(比較例4の作製)
実施例6と同一の作製方法により作製した発光素子の成長用基板100に、ストライプ状の凹凸構造70を設けないことのみが異なる発光素子を作製して比較例4とした。比較例4の構成は、図70の構成において、成長用基板100の裏面に凹凸構造70を設けないため、平坦な出射面を持つ。
(偏光度の測定方法)
図71は偏光度の測定系を模式的に表している。測定対象である窒化物系半導体からなる発光素子1を電源6によって発光させる。発光素子1の発光は、実体顕微鏡3により確認する。実体顕微鏡3にはポートが2つあり、一方のポートにシリコンフォトディテクタ4を取り付け、他方のポートにはCCDカメラ5を取り付ける。発光素子1と実体顕微鏡3との間には偏光板2が挿入されている。この偏光板2を回転させて、シリコンフォトディテクタ4により発光強度の最大値と最小値とを測定する。
(配光分布特性の測定方法)
作製した発光素子に対して、Optronic Laboratories社製のOL700−30 LEDゴニオメータ(GONIOMETER)を用いた。国際照明委員会CIE発行のCIE127に明記されたcondition A(発光素子の先端部から受光部7までの距離が316mm)によって、a軸方向の配光分布特性とc軸方向の配光分布特性とを測定した。
図72(a)及び図72(b)に配光分布特性の測定系を模式的に示す。
図72(a)に示すa軸方向の配光分布特性は、半導体発光チップ700の活性層のm面における法線方向であるm軸方向[1−100]と測定器7とを結ぶ測定線8とがなす角度を測定角とし、半導体発光チップ700のc軸を中心軸として半導体発光チップ700を回転させながら光度を測定した値である。
また、図72(b)に示すc軸方向の配光分布特性は、半導体発光チップ700の活性層のm面における法線方向であるm軸方向[1−100]と測定器7とを結ぶ測定線8とがなす角度を測定角とし、半導体発光チップ700のa軸を中心として半導体発光チップ700を回転させながら光度を測定した値である。
ここでは、配光分布特性の評価は、m軸方向[1−100]の光度を1として、法線方向から同一の角度におけるa軸方向及びc軸方向の光度を、主面であるm面の法線方向[1−100]の光度、すなわち0°における光度を用いて規格化した値で評価した。
測定した角度範囲は、m軸方向を中心、すなわち0°として、−90°から+90°までとし、a軸方向及びc軸方向にそれぞれ測定した。
以上のような測定方法を用いて、発光素子の偏光度及び配光特性を評価した。
まず、光が出射する側に凹凸構造70及び空隙60等のストライプ構造を持たない、平坦な出射面を有する比較例4に係る発光素子の配光特性の結果を図73に示す。
図73からは、a軸方向(白丸)及びc軸方向(黒丸)に対して、明らかに非対称な配光分布を示していることが分かる。c軸方向に出射する光の分布は、a軸方向の光の分布と比べて、より広い角度範囲に強度が分布している。これは、前述したように、m面窒化物半導体上に成長した発光素子における発光が、a軸偏光光であることに起因している。その伝搬ベクトルは、図50(b)に示したように、主にmc平面に存在し、相対的にma平面に存在する光強度が小さくなるためである。
このように、光の出射面に加工を施さない、通常のm面を主面とする窒化物系半導体発光素子においては、伝搬ベクトルは主にmc平面に存在し、発光強度の分布もa軸方向と比べてc軸方向に広く分布して、非対称になることが確認できた。
図74(a)及び図74(b)に面内傾斜角度βを0°、45°及び90°とした実施例6、参考例1及び比較例1に係る発光素子の配光特性の評価結果を示す。
図74(a)及び図74(b)は、それぞれa軸方向とc軸方向との配光特性の評価結果を表している。ここで、a軸方向の配光特性とは、図72(a)に示したように、発光素子のc軸を軸として、m軸と光軸とが平行な場合を0°とし、m軸からa軸に傾く方向に角度を増していくようにして光強度分布を評価している。c軸方向の配光特性評価については、図72(b)に示したように測定した。
図74(a)に示す結果から、a軸方向の配光特性は、面内傾斜角度βに依存しないことがわかる。一方、図74(b)に示す結果から、c軸方向の配光特性は、面内傾斜角度βが45°以下のとき、図73に示したストライプ構造を持たない、比較例4のc軸方向の配光特性の結果とは明らかに異なっている。すなわち、ストライプ構造の面内傾斜角度βが45°以下の場合には、a軸方向とc軸方向との配光特性が近くなり、非対称性が改善されていることが分かる。
次に、角度βと偏光度の抑制効果との関係を、実施例8、参考例3及び比較例3を用いて評価した。図75にストライプ構造の面内傾斜角度βと比偏光度との関係を示す。ここで、比偏光度とは、前述した式(2)に示したように、活性層24から出射した光の偏光状態がもっとも維持できるβ=0°のときの偏光度(参考例3の偏光度)で規格化した値である。
図75に示すように、面内傾斜角度βが0°から僅かに大きくなると急激に偏光度が抑制されていることが分かる。β=5°では、比偏光度は0.4以下となる。また、β=30°では、比偏光度はさらに低下し、0.25以下となった。比偏光度は、β=45°付近で最小となり、β=90°ではやや大きくなった。
このように、活性層24から出射される光の偏光度は、ストライプ状の凹凸構造70の面内傾斜角度βに強く依存する。偏光度の抑制効果は、0°から5°の範囲で特に大きく変化し、5°以上の角度領域では、比較的緩やかに変化する。β=45°付近では比偏光度が最小値となった。
角度β=0°の構造においては、約±3°未満であれば、活性層24から出射される光の偏光度は維持できると考えられる。従って、光の偏光度の抑制効果を得られる面内傾斜角度βは、3°以上であればよいと考えられる。
以上、実験結果に基づいて説明したように、ストライプ状の凹凸構造70の面内傾斜角度βを0°よりも大きくすることにより、光の偏光度を抑制する効果を得られることが分かった。
しかしながら、偏光度の抑制の度合いは、ストライプ状の凹凸構造70の形状にも多少は依存する。例えば、実施例8に係る凹凸構造70の構成は、図46(a)及び図46(b)に示したように、凸部51の底面はほとんどなく、その壁面は斜面53又は曲面で形成されている。
一方、凹凸構造70の断面形状が台形状の場合は、底面が存在し、その領域における偏光度の抑制効果は得られない。すなわち、凹凸構造70の形状によっては偏光度の抑制効果は多少変化する。
しかしながら、発光素子の出射面側にストライプ状の凹凸構造70又は空隙60が存在し、それらが斜面53を一部に含む限り、偏光特性における面内傾斜角度β依存性がほぼ変わらないことは、参考例2、実施例7及び比較例2との比較検討により確認しており、同様の効果を得ることができる。
次に、光取り出しの効果について評価した。図76は、実施例6、参考例1及び比較例1に係る発光素子における、光取り出し効率と面内傾斜角度βとの関係を示している。ここで、光取り出し効率は、比光取り出し効率として評価した。比光取り出し効率とは、実施例6、参考例1及び比較例1の各外部量子効率を、ストライプ構造を持たない平坦な出射面を持つ比較例4の外部量子効率で規格化した値である。また、外部量子効率とは、内部量子効率と光取り出し効率とを用いて、下記の式(6)のように表すことができる。
外部量子効率=内部量子効率×光取り出し効率 …式(6)
実施例6、参考例1、比較例1及び比較例4の半導体積層構造20は、同一の構造を持つため、内部量子効率は共に同一であると仮定できる。その仮定の下で、外部量子効率を比較することによって光取り出し効率を評価した。
まず、図76から、ストライプ状の凹凸構造70を出射面側に形成することにより、比光取り出し効率が1.1以上の大きい値を示すことが分かる。さらに重要な点は、面内傾斜角度βが0°以上且つ45°以下の発光素子において、比光取り出し効率は、1.2以上とさらに大きくなっていることである。これは、例えば、図50に示したように、m面窒化物半導体からなる活性層24から出射される光の偏光方向がa軸方向であり、その伝搬ベクトルが主にmc平面に存在するからである。すなわち、ストライプ構造による光取り出し効果は、ストライプ構造が延びる方向がc軸方向(β=90°)よりも、a軸方向(β=0°)に近い方が好ましいことに起因している。
従って、このようにストライプ構造を形成すれば、c軸方向に主に伝搬する光が、ストライプ構造の凹凸を感じやすくなるためである。
さらに、この実験結果から、角度βが0°以上且つ45°以下の範囲では、同等レベルの光取り出し効果を得られることが確認できた。
以上、説明したように、m面を主面とする窒化物系半導体発光素子において、出射面側にストライプ状の凹凸構造70を設け、その面内傾斜角度βを3°以上且つ45°以下とすることにより、活性層24から出射される光の偏光度を抑制しつつ、配光特性の向上と光取り出し効率の改善効果とを得られることが分かった。
[実施例B]
<成長用基板と窒化物半導体膜との界面に空隙を形成した発光素子の特性>
実施例Aにおいて、ある面内傾斜角度βを持つストライプ状の凹凸構造を出射面側に持つ、m面窒化物系半導体発光素子は、偏光度の抑制、配光特性の改善及び光取り出し効率の向上が可能であることを、実験結果に基づいて説明した。
実施例Bにおいては、第4の実施形態に係る主な構造でもある、成長基板と窒化物半導体膜界面付近に空隙60を形成した半導体発光素子において、実施例Aに示した効果と同様の効果を得られることを実験により確認した。以下、その詳細について述べる。
(ヘテロ窒化物半導体基板600の作製)
まず、ヘテロ窒化物半導体基板600の製造方法について説明する。
本実施例では、図57に示すように、窒化物半導体層110を凸状に形成する際のレジストからなるマスク121を除去した後に、窒化物半導体膜320を再成長する作製方法に基づいて、m面を主面とするヘテロ窒化物半導体基板600を作製した。
1.m面サファイアからなる成長用基板上の窒化物半導体層の成長
実施例Bでは、図57(a)に示す成長用基板100としてm面サファイア基板を用いた。m面サファイア基板の厚さは430μmであり、直径は約5.1cm(=2インチ)であり、該m面サファイア基板の主面における法線とm面における法線とがなす角度は0°±0.1°である。
次に、有機金属気相成長法により、成長用基板100の上に、m面を成長面とする窒化物半導体層110を成長した。一般に、m面サファイアからなる基板の上にm面窒化物半導体を成長させるには、低温バッファ層を成長させる必要があるとされている。本実施例においては、低温バッファ層としてAlN層を用いた。
低温バッファ層を成長した後に、基板温度を900℃から1100℃の範囲に昇温し、m面を主面とする窒化物半導体層110を成長させた。窒化物半導体層110の層厚は、約1μmから3μmとした。
2.凹凸加工基板510の作製
次に、図57(a)に示したように、窒化物半導体層110の上に、公知のリソグラフィ法により、レジストからなるマスク121を形成した。マスク121には、典型的なライン&スペース(L&S)パターン、すなわち、細く長いストライプ状のパターンを用いた。本実施例では、マスク121のライン部分として幅Lが5μm、スペース部分として幅Sが10μmのL&Sパターンを用いた。リソグラフィ工程終了後のマスク121の厚さは約2μmから3μmであった。
マスク121のパターン形成により、ストライプ状の空隙60が延びる方向である面内傾斜角度βを適宜決定することができる。
次に、誘導結合プラズマエッチング(ICPエッチング)装置を用いて、マスク121を介して、種結晶となる窒化物半導体層110をエッチングして、窒化物半導体層110から成長用基板100を選択的に露出する。これにより、凸部となるストライプ状の窒化物半導体層110aとその間の凹部210とを形成した。凹部210をエッチングにより形成する際に、窒化物半導体層110の一部が残留することがないように、成長用基板100の上部をもエッチングした。すなわち、マスク121のスペース部分から露出するGaN層が除去されて成長用基板100が露出するまでエッチングをして、凹部210を形成した。その後、ストライプ状の窒化物半導体層110aの上に残留したマスク121を除去して、図57(b)に示す凹凸加工基板510を得た。
図77(a)及び図77(b)に、本実施例に係る凹凸加工基板510の一例を示す。図77(a)及び図77(b)は、ストライプ状のL&Sパターンマスクを用いて、ストライプ状の窒化物半導体層110aと、エッチングによりサファイアの表面が露出した凹部210を形成した後の走査型電子顕微鏡像(SEM像)である。ここでは、ストライプ状の窒化物半導体層110aが延びる方向に垂直な断面像(左側)と斜視像(右側)とを示す。ストライプ状の窒化物半導体層110aの断面形状は、マスク121の形成条件及びエッチング条件を適宜選ぶことにより制御可能である。
図77に示すように、ストライプ状の窒化物半導体層110aの断面形状は、図77(a)に示す断面台形状、又は図77(b)に示す断面三角形状に制御することが可能である。本実施例では、ストライプ状の窒化物半導体層110aとして、断面形状が台形状のGaN層を用いた。また、図58(a)に示したように、本実施例では、凹部210の下部の壁面からもサファイアが露出するようにエッチングされている。この場合の凹部210の深さ、すなわち、凹部210における成長用基板100の壁面220の高さは、約250nmであった。
本実施例においては、ストライプ状の窒化物半導体層110aの層厚は、約1μmから3μmとしたが、該窒化物半導体層110aの層厚は、適宜調整することができる。本実施例に係るm面を主面とする窒化物半導体膜320の横方向選択成長を実現するには、窒化物半導体の再成長が始まる、m面を主面とする種結晶であるストライプ状の窒化物半導体層110aと、m面サファイアからなる成長用基板100が下部から露出した凹部210とが形成されていればよい。
3.ヘテロ窒化物半導体基板600の作製(凹凸加工基板上の窒化物半導体膜の再成長)
次に、凹凸加工基板510の上に窒化物半導体膜320の再成長を行った。
凹凸加工基板510を、再度有機金属気相成長装置に搬入した。続いて、成長温度を約900℃から1000℃に設定して、再成長を行った。
窒化物半導体膜320の成長において重要な点は、各凸部となるストライプ状の窒化物半導体層110aが起点となる窒化物半導体膜320の再成長を、横方向に促進することである。本実施例においては、V族元素とIII族元素との原料の比であるV/III比の値を約160とし、成長圧力を約13.3kPaとし、成長速度を約4μm/hとする条件下で成長を行った。この条件下で層厚が4μmから10μmの再成長による窒化物半導体膜320を形成して、m面を主面とするヘテロ窒化物半導体基板600を得た。
この際、横方向成長の成長速度を促進する成長条件、並びに凹凸加工基板510における凸部の幅L及び幅Sを適宜選ぶことにより、凹部210を窒化物半導体膜320によって覆うことができる。さらに、凹部210の上側に形成される空隙60の断面構造をも制御することができる。
図78(a)及び図78(b)に、上述のようにして得られたヘテロ窒化物半導体基板600の幾つかの作製例を示す。第4の実施形態で説明した、複数の空隙60が成長用基板100と窒化物半導体膜320との界面領域に形成されていることが分かる。ヘテロ窒化物半導体基板600の作製条件を調節することにより、ストライプ状の空隙60の構造及び断面形状を制御できることが分かる。例えば、図78(a)及び図78(b)は同一スケールのSEM像であり、図78(b)に示す空隙60の高さが、図78(a)に示す空隙60の高さよりも高い。
以上説明した作製方法により得られた、空隙60を界面領域に含むヘテロ窒化物半導体基板600は、本実施例の主な効果である光の偏光度の抑制効果に加えて、結晶性の大幅な改善効果をも得ることが可能となる。
以下に、その一例の実験結果を示す。
[表2]は、本実施例において得られたヘテロ窒化物半導体基板600の再成長m面GaN膜における(1−100)面X線ωロッキングカーブ(XRC)の半値幅の結果を表している。ここで、X線はGaNのa軸方向及びc軸方向にそれぞれ平行となるように入射した。比較のために、m面サファイア基板上に直接に成長したm面GaN層におけるXRC半値幅の値も[表2]に載せている。
m面サファイア基板上に直接に成長したm面GaN層の半値幅は、1000秒以上の高い値となっている。さらに、GaN層のa軸方向とc軸方向とにX線をそれぞれ入射した場合は、GaN層のc軸方向に入射した場合のXRC半値幅が、さらに2倍程度大きくなっている。これは、c軸方向にX線を入射したときのXRC半値幅が、積層欠陥の情報を反映するためである。
すなわち、m面サファイア基板上に直接に成長したm面GaN層におけるXRC半値幅の測定において、a軸方向とc軸方向とのX線入射の測定結果に非対称性が見られる場合は、通常の転位に加えて、積層欠陥を多く含む結晶であることが分かる。
一方、凹凸加工基板510を形成した後に、m面GaN膜を再成長した場合は、XRC半値幅がa軸方向及びc軸方向において、それぞれ548秒及び746秒にまで減少した。
再成長m面GaN層におけるa軸方向入射時の値は、2分の1以下の値にまで減少した。これは再成長により転位密度が大幅に低減したことを意味する。また、直接成長m面GaN層の結果と比べて、再成長m面GaN層におけるa軸方向及びc軸方向入射時の半値幅の値は近い値であり、対称性が改善している。これは、本実施例の再成長m面GaN層において、転位密度と共に積層欠陥密度も低減していることを示している。
以上、説明したように、本実施例に係るストライプ状の空隙60を成長用基板100と窒化物半導体膜320との界面付近に設けることにより、光の偏光度の抑制効果と共に、窒化物半導体膜320自体の転位及び欠陥密度の低減効果、すなわち結晶性の改善効果を得られることが分かる。
このような結晶性改善の効果は、透過型電子顕微鏡(TEM)によっても確認することができた。
図79(a)及び図79(b)に、ヘテロ窒化物半導体基板600の断面TEM像を示す。図79(a)は図57(d)の1つのストライプ状の窒化物半導体層110aの周辺領域と対応している。図79(b)は図79(a)における空隙60の周辺部を拡大して示している。
まず、図79(a)からは、窒化物半導体膜320において、ストライプ状の窒化物半導体層(凸部)110aの上に成長した領域は、凹部210の上に成長した領域と比べて高密度の転位(図中の黒い線状部分)が存在することが分かる。
転位密度を調べると、凸部110a上のGaN層は1010cm-2台であり、凹部210上のGaN層は109cm-2以下であり、転位密度は一桁以上異なることが分かった。
[表2]の結果と同様に、ヘテロ窒化物半導体基板600に、ストライプ状の空隙60を含む構造とすることにより、転位及び欠陥密度も低減されて、結晶性が改善することが、TEM像によっても確認することができた。
また、この図79に見られる転位及び欠陥密度の高い領域は、図60において説明した領域と同一である。
このように、本実施例においては、特に、空隙60を設けたヘテロ窒化物半導体基板600の上に発光素子を作製する場合に、凸部110aの上側に高転位及び高欠陥密度領域が形成される。
図79(b)に空隙60の断面形状の拡大像を示す。窒化物半導体膜320を再成長することにより、結合部410及び斜面53を持つ空隙60が形成されていることが確認できる。
以上のような作製方法により、成長用基板100と窒化物半導体膜320との界面50の領域付近に、ストライプ状の空隙60を設けたヘテロ窒化物半導体基板600を準備することができる。
4.ヘテロ窒化物半導体基板600上の発光素子10の作製
次に、上記の方法で作製したストライプ状の空隙60を設けたヘテロ窒化物半導体基板600の上に半導体積層構造20を形成した。
本実施例に係るヘテロ窒化物半導体基板600における空隙60の面内傾斜角度βは、5°とした。
実施例Aの図75に示したように、ストライプ状の凹凸構造70を成長用基板100の裏面に形成した発光素子においては、面内傾斜角度βが5°であれば、偏光度の抑制効果を得られることは確認できている。
(実施例9の作製)
面内傾斜角度βが5°である空隙60を成長用基板100と窒化物半導体膜320との界面50に含むヘテロ窒化物半導体基板600の上に、発光素子10を形成した。
発光素子10の構造及びその作製方法は、実施例Aの実施例6と同等である。
(比較例5の作製)
実施例6と同等の方法により作製した発光素子に、ストライプ状の凹凸構造70を設けないことのみが異なる発光素子を作製して、比較例5とした。
比較例5に係る発光素子における出射面は、図70におけるストライプ状の凹凸構造70を形成せず、平坦としている。構造上は、基本的には、上記の比較例4と同一である。但し、実施例9に係るヘテロ窒化物半導体基板600上に作製した発光素子10の特性と厳密に比較するため、比較例5に係る発光素子の積層構造は、実施例9に係る発光素子10と同時に、同一の成長条件の有機金属気相成長法により成長を行った。
(配光特性及び偏光度の比較)
実施例9及び比較例5に係る各発光素子を用いて、それぞれの特性を比較して評価した。図80(a)及び図80(b)に各発光素子におけるa軸方向及びc軸方向の各配光特性の評価結果を示す。図80(a)は比較例5の結果を示し、図80(b)は空隙60を設けた実施例9の結果を示す。
比較例5は、実施例Aで説明した比較例4と基本的に同一の構造であるため、図73と同様にa軸方向と比べてc軸方向の配光特性がより広く分布し、非対称となっている。
これに対し、ヘテロ窒化物半導体基板600に空隙60を設けた実施例9の場合は、比較例5と比較して、明らかに非対称性が抑制され、a軸方向及びc軸方向の配光特性の差が小さくなっていることが分かる。
次に、比較例5と実施例9の偏光度の比較を行った。偏光度は、前述した式(1)の定義から与えられる値であり、測定方法は、実施例Aで説明した方法を用いた。[表3]に偏光度を比較した結果を示す。
本実施例においては、複数の発光素子チップを作製し、電流注入下での偏光度を評価した。[表3]には、それぞれ2つずつのサンプルのデータのみを示している。
空隙60を界面50付近に設けた実施例9に係る発光素子の偏光度は、平坦な出射面を持つ比較例5に係る発光素子の結果と比べて、明らかに小さい値を示す。比較例5の値で規格化した場合の実施例9の値は、0.46となった。
この値を、実施例Aの図75と比較する。但し、実施例Aの図75の結果は、ストライプ構造の面内傾斜角度βが0°の場合の偏光度で規格化している。よって、厳密には、本実施例Bの値とは異なる。一方、比較例5は、ストライプ構造を設けない平坦な出射面を持つ発光素子である。
しかしながら、ストライプ構造の面内傾斜角度β=0°の場合とストライプ構造を設けない場合との偏光度の違いは、僅かである。従って、両者には若干の誤差はあるものの、これらの点を考慮して比較を行った。
[表3]の結果を図75の結果と比較すると、本実施例で得られた比偏光度0.46という値は、実施例Aの面内傾斜角度β=5°における比偏光度0.37とほぼ近い値となっている。これにより、界面50付近に空隙60を設けた発光素子10においても、実施例Aと同様の効果を得られることが分かった。
実施例Bの結果と実施例Aの結果とにおける比偏光度に若干の違いについては、上述した誤差も考えられるが、ストライプ構造の形状による違いも原因の1つとして考えられる。
以上、説明したように、実施例A及び実施例Bの結果から、複数の空隙60を成長用基板100と窒化物半導体膜320との界面50付近に形成することにより、光の偏光度を抑制し、配光特性の改善及び光取り出し効率の向上を図れることを実証することができた。
実施形態の効果が得られるストライプ構造(例えば、空隙)の形状は、該ストライプ構造が延びる方向と窒化物半導体膜320のa軸方向、すなわち偏光光の電界ベクトル方向との間の角度をβとし、a軸方向に平行な方向をβ=0°とした場合に、角度βの範囲が3°以上且つ45°以下とすればよい。
[実施例C]
<第6の実施形態に係るヘテロ窒化物半導体基板601の作製方法とその発光素子の特性>
本実施例Cにおいては、第6の実施形態において説明した空隙60を有する発光素子13の実験結果を示す。
(ヘテロ窒化物半導体基板601の作製)
まず、ヘテロ窒化物半導体基板601の製造方法について説明する。
本実施例Cでは、図64において説明したヘテロ窒化物半導体基板601の作製方法に基づいて、m面を主面とするヘテロ窒化物半導体基板601を作製した。
1.m面サファイアからなる成長用基板上の窒化物半導体層の成長
本実施例Cでは、図64(a)の成長用基板100としてm面サファイア基板を用いた。m面サファイア基板の厚さは430μm、直径は約5.1cm(=2インチ)であり、該m面サファイア基板の主面における法線とm面における法線とがなす角度は0°±0.1°である。
次に、有機金属気相成長法により、成長用基板100の上に、m面を成長面とする窒化物半導体層110を成長した。一般に、m面サファイアからなる基板の上にm面窒化物半導体を成長させるには、低温バッファ層を成長させる必要があるとされている。本実施例においては、低温バッファ層としてAlN層を用いた。
低温バッファ層を成長した後、基板温度を900℃から1100℃の範囲に昇温し、m面を主面とする窒化物半導体層110を成長させた。窒化物半導体層110の層厚は、約1μmから3μmとした。
2.ヘテロ窒化物半導体基板601の作製
次に、図61(a)に示したように、プラズマCVD法により、窒化物半導体層110の上に、例えば厚さが200nmのSiO2膜を形成した。続いて、公知のリソグラフィ法により、ライン&スペース(L&S)が5μm&5μmのレジストパターンを、SiO2膜の上に形成した。その後、形成したレジストパターンをマスクとして、SiO2膜をドライエッチングすることにより、SiO2膜からマスク120を形成した。マスク120のパターン形成により、ストライプ状の空隙60が延びる方向である面内傾斜角度βを適宜決定することができる。
次に、マスク120がパターニングされた窒化物半導体層110の上に、m面GaNからなる窒化物半導体膜320の再成長を行った。具体的には、表面にマスク120が形成された窒化物半導体層110を、再度有機金属気相成長装置に搬入した。続いて、成長温度を約900℃から1000℃にまで昇温して、再成長を行った。
窒化物半導体膜320の成長において重要な点は、マスク120から露出するストライプ状の窒化物半導体層110aからの窒化物半導体膜320の成長を横方向に促進することである。本実施例においては、V/III比の値を約160とし、成長圧力を約13.3kPaとし、成長速度約を約4μm/hとする条件下で成長を行った。この条件下で、層厚が4μmから10μmの再成長による窒化物半導体膜320を形成することにより、m面を主面とするヘテロ窒化物半導体基板601を得た。
以上、説明したヘテロ窒化物半導体基板601の作製方法におけるマスク120の寸法及び窒化物半導体膜320の成長条件等を適宜選ぶことにより、マスク120の上面を窒化物半導体膜320によって覆うことができる。さらに、マスク120の上側に形成される各空隙60の断面構造をも制御することができる。
図81(a)及び図81(b)に、上述のようにして得られたヘテロ窒化物半導体基板601の幾つかの作製例を示す。第6の実施形態で説明した、複数の空隙60が窒化物半導体層110と窒化物半導体膜320との界面に形成されていることが分かる。図81(a)と図81(b)とでは、窒化物半導体膜320における再成長条件を変えており、再成長条件を適宜選択することにより、ストライプ状の空隙60の構造及び断面形状を制御できることが分かる。
以上説明した作製方法により得られた、空隙60を界面領域に含むヘテロ窒化物半導体基板601は、光の偏光度の抑制効果に加えて、実施例Bと同様に結晶性の大幅な改善効果もを得ることが可能となる。
実施例Cの結果が示すように、第6の実施形態においても、複数の空隙60を成長用基板100と窒化物半導体膜320との界面50の近傍の領域に形成することができる。このような構造を持つヘテロ窒化物半導体基板601を用意し、用意したヘテロ窒化物半導体基板601の上に発光素子を作製する。これにより、実施例A及び実施例Bで説明したように、偏光度を抑制し、配光特性の改善と光取り出し効率の向上とを実現することができる。
本実施例の効果が得られるストライプ構造(例えば、空隙)の形状は、該ストライプ構造が延びる方向と窒化物半導体膜320のa軸方向、すなわち偏光光の電界ベクトル方向との間の角度をβとし、a軸方向に平行な方向をβ=0°とした場合に、角度βの範囲が3°以上且つ45°以下とすればよい。
[実施例D]
<空隙60を設けたヘテロ窒化物半導体基板600における面内傾斜角度βの範囲(3°以上且つ35°以下)の実験的根拠>
上述の実施例A、B及びCにおいて、ストライプ構造を出射面側に設けることにより、活性層24から出射される偏光光の偏光度を抑制し、配光特性の改善と、光取り出し効率の向上が可能であることを説明した。また、ストライプ構造の面内傾斜角度βが3°以上且つ45°以下の範囲で、各実施例A〜Cの効果が得られることを実験結果に基づいて示した。
一方、実施例Bに示した構造において、m面サファイア基板を成長用基板100とし、さらにヘテロ窒化物半導体基板600を基体として、空隙60を有する発光素子を作製する場合は、偏光度の抑制効果及び配光特性の改善効果以外に、窒化物半導体膜320の再成長時にある問題が発生する。このため、ストライプ状の空隙60が延びる方向とa軸とがなす角度βは、3°以上且つ35°以下に設計してもよい。
本実施例Dにおいては、角度βを3°以上且つ35°以下とする理由について説明する。
本実施例では、主に下地層であるヘテロ窒化物半導体基板600の構造のみを作製して評価しており、該ヘテロ窒化物半導体基板600上に発光素子20は作製していない。
なお、本実施例で説明する面内傾斜角度βが3°以上且つ35°以下とするという条件は、あくまでm面サファイア基板を成長用基板100として用いること、図56及び図57に示したように、窒化物半導体層110をエッチングして、成長用基板100の表面を露出する凹部210を形成すること、その後に再成長工程を含むヘテロ窒化物半導体基板600が発光素子に含まれることの、一連の手順の場合に限る。
従って、成長用基板100の裏面にストライプ状の凹凸構造70を形成する実施例A、及び窒化物半導体層110に凹部210を形成しない実施例Cにおいては、面内傾斜角度βが3°以上且つ35°以下という制約はなく、βは3°以上且つ45°以下の範囲であってもよい。
本発明者は、m面を成長面(主面)とする成長用基板100を用いたヘテロ窒化物半導体基板600の構造に基づいて、窒化物半導体膜320の面内傾斜角度β依存性を検討したところ、表面平坦性及び結晶性が、角度βに大きく依存することを見出した。
(角度βと表面平坦性)
図82(a)〜図82(h)に、それぞれ異なる角度βを持つストライプ状の空隙60を設けたヘテロ窒化物半導体基板600における表面顕微鏡像を示す。本実験では、角度βを0°から90°まで変化させており、その結果の一部を図82に示す。
本実験では、実施例Bで説明した方法と同一の条件下で、m面を主面とする成長用基板100の上にヘテロ窒化物半導体基板600を作製し、角度βのみを変化させた複数のサンプルの評価を行った。図82からは、角度βによってヘテロ窒化物半導体基板600の表面の平坦性が大きく変化していることが分かる。
これら角度βのみが異なるサンプルは、すべて同一の成長条件下で、再成長GaNである窒化物半導体膜320を成長させている。しかしながら、得られた各サンプルの表面は、角度βに明らかに依存しており、横方向成長が十分に行われているものと、行われていないものとが存在する。例えば、角度β=0°では、凸部でありストライプ状の窒化物半導体層110aから再成長した窒化物半導体膜320同士は、まったく結合していない。しかし、角度βが大きくなり、例えば17°以上になると十分に結合されて、表面が平坦な再成長膜が得られている。
このような現象が起こる原因について、次のように考察した。
β=0°の場合は、ストライプ状の窒化物半導体層110aが延びる方向に対して垂直な面、すなわちリッジ構造の側面は、主にc面となる。一方、β=90°の場合は、リッジ構造の側面はa面となる。よって、角度βが大きくなるに従って、リッジ構造の側面は、GaNのc面からa面のファセットへと変化していく。
一般に、c面ファセットとa面ファセットとの窒化物半導体における結晶成長を比較すると、a面ファセットがより熱的に安定で、しかも成長速度が速い。このため、横方向成長を促進されるという観点からは、c面ファセット成長を用いるよりも、a面ファセット成長を用いればよい。
図83に、レーザ顕微鏡によって求めた表面粗さ(rms粗さ)と角度βとの関係を示す。前述したように、角度βが大きくなると表面平坦性は劇的に向上する。本発明者の種々の検討によると、この表面平坦性が向上するという効果は、角度β=0°から、少し増加させるだけでも十分に効果がある。例えば、図83からは、角度βが約3°以上であれば、表面rms粗さは100nm以下となることが分かり、平坦性の向上効果を得られることが明らかとなった。
一方、前述した仮定に基づけば、表面粗さは角度βが3°以上であればよく、90°付近ではもっとも平坦になるはずである。なぜなら、リッジ構造の側面は、完全にa面ファセットのみで構成されるからである。しかしながら、図82及び図83の結果を見ると、表面粗さは、角度βが35°を超えると、再び悪化することが分かった。
この表面粗さの悪化は、角度βが小さいときに見られた表面粗さの悪化の要因とは明らかに異なっている。すなわち、図82(g)におけるβ=47°、及び図82(h)におけるβ=80°の結果に示すように、β>35°では、再成長後の表面に3次元的な突起物が形成されており、その密度及び個数が角度βと共に増加していることが分かる。
(角度β>35°において発生する突起物の要因)
図82(g)等に見られる突起物の正体を明らかにするために、本実施例に係るヘテロ窒化物半導体基板600に対してX線回折測定を行った。
図84に、一例として面内傾斜角度βが0°、43°及び90°のときのX線2θ−ω測定結果を示す。角度βが0°の場合は、m面サファイア(3−300)とm面GaN(2−200)との回折ピークのみが観測される。これは、再成長によりm面サファイア基板上に作製した窒化物半導体膜320が、m軸方向にのみ配向していること示している。
これに対し、β=43°の場合は、上述したm面GaN及びm面サファイアの回折ピークだけでなく、さらに高角度側に回折ピークが観測された。この回折ピークは、半極性面である(11−22)面の回折ピーク位置である。これは、ヘテロ窒化物半導体基板600において、β=43°でストライプ状の窒化物半導体110aを形成し、且つ窒化物半導体膜320を再成長する際に、該窒化物半導体膜320がm面を主面とする半導体以外にも、半極性面である(11−22)を主面とする半導体を含むことを意味している。
さらに、β=90°の場合は、この(11−22)面からの回折強度が強くなっていることが分かる。
図85に、X線2θ−ω測定結果から見積もった(11−22)面とm面(2−200)面との積分強度比の値の角度β依存性を示す。図85からは、半極性面である(11−22)面の積分強度が、表面粗さが増大し始めた35°付近を境に増加していることが分かる。このようなXRD測定結果の変化は、図83に示した表面モフォロジーの変化と一致している。
以上の結果から、面内傾斜角度βが35°を超えると生じる表面平坦性の悪化及び突起物の原因は、半極性面に生じる異常成長に起因していると考えられる。その半極性面とは(11−22)面を主面とする成長であることが分かった。
次に、リッジ状の窒化物半導体層110の角度βが35°を超える場合において、(11−22)面を主面とする半極性面に異常成長が起こる原因について説明する。
半極性面である(11−22)面は、m面サファイア基板上にも成長可能であることが一般に知られている。その際のサファイアとのエピタキシ関係は、m面サファイアのr面ファセットを起点とした成長であることが分かっている。また、r面サファイア上にはa面窒化物半導体が成長することも一般に知られている。すなわち、m面サファイア上の(11−22)面成長のメカニズムは、m面サファイア表面における傾斜したr面ファセット上にa面窒化物半導体が成長した結果、得られると考えてよい。
従って、単純には、r面ファセットが多く形成されるような表面を持つm面サファイア上で窒化物半導体の成長を行えば、(11−22)面を主面とする窒化物半導体膜320が得られやすいことになる。
図86(a)に(11−22)面窒化物半導体のファセット構造を模式的に示し、図86(b)にm面サファイアのファセット構造を模式的に示す。サファイアのr面ファセットは、c軸方向を向いている。従って、例えばドライエッチング等により、m面サファイアの表面に、a面ファセットとc面ファセットとを共に形成した場合に、a面ファセットと比べてc面ファセットの方に、よりr面ファセットが形成されやすいと考えられる。
図87(a)及び図87(b)に、面内傾斜角度β=0°及び90°の場合の、凹凸加工基板510における、m面サファイア(成長用基板100)とm面GaN(窒化物半導体層110)のエピタキシ関係を示す。
m面GaNとm面サファイアとの結晶方位の関係は、成長面(主面)は、同一のm軸であるが、面内の結晶軸は90°ずれている。つまり、例えばGaNのc軸とサファイアのa軸とが互いに平行になる関係にある。
凸部となるストライプ状の窒化物半導体層110aを形成する際に、凹部210は、窒化物半導体層110を除去する必要があるため、オーバエッチングによりサファイア基板の一部をも除去する場合が多い。このとき、ストライプ状の窒化物半導体層110aの面内傾斜角度βが0°であるならば、図87(a)に示すように、サファイア基板の壁面220はa面となり、GaNからなるストライプ状の窒化物半導体層110aの壁面はc面となる。
β=90°の場合は、これとは逆に、図87(b)に示すように、サファイア基板の壁面220はc面となり、ストライプ状の窒化物半導体層110aの壁面はa面となる。
つまり、角度βが大きい場合、サファイア基板の壁面220は、a面ファセットから、c面ファセットに変化して行くこととなり、r面ファセットがより形成されやすくなる。r面ファセットが形成されれば、前述したように(11−22)面が成長する可能性が高くなると考えられる。
実験結果から推測すると、面内傾斜角度βが35°以下の場合は、半極性面に生じる異常成長の起点となるr面ファセット領域は少なく、XRD測定でも検知できないほどしか、半極性面である領域は形成されていないと考えられる。従って、再成長するm面の領域と比べるとその影響は無視できると考えられる。
一方、角度βが35°を超えると、半極性面の成長が顕著となり、再成長中に供給される原料は、ストライプ状の窒化物半導体層110aのみではなく、成長用基板100の壁面220のr面ファセットを起点にして成長が生じる。その結果、m面と(11−22)面とが混在した再成長膜(窒化物半導体膜320)が得られたと考えられる。
以上の結果から、m面サファイアを成長用基板100として用い、その上に窒化物半導体層110を形成すること、及び窒化物半導体層110に成長用基板100の表面を選択的に露出するエッチングを行って凹部210を形成することにより得られたヘテロ窒化物半導体基板600において、偏光制御の効果を維持しつつ、ヘテロm面窒化物半導体である窒化物半導体層膜320の高品質な結晶成長を実現するには、空隙60の面内傾斜角度βの範囲を3°以上且つ35°以下の範囲で制御することが望ましいことが分かった。
(半極性面に生じる異常成長と凹凸加工基板510におけるサファイア基板の壁面220の高さ依存性)
ここまで、凹凸加工基板510を作製する工程において、凹部210に形成されるサファイア基板の壁面220が、(11−22)面である半極性面からの異常成長の起点になっていることについて説明した。加えて、ストライプ構造における面内傾斜角度βを3°以上且つ35°以下に制御すれば、この問題を回避できることを説明した。
一方、本発明者らは、前述した半極性面に異常成長が起こる原因について、さらに検討を行った結果、面内傾斜角度βの最適化以外にも、半極性面からの異常成長を抑制できる方法があることが分かった。その方法とは、図87(a)及び図87(b)に示した、半極性面成長が起こる成長用基板100の壁面220の領域を減らすことである。原理的には、m面サファイアからなる成長用基板100の壁面220の深さが0に近くなれば、半極性面における異常成長は起きにくくなって、面内傾斜角度βの依存性も小さくなる。
また、半極性面における異常成長が起きたとしても、本来のm面窒化物半導体領域である窒化物半導体膜320と比べると極めて小さい領域でしか起きないはずであり、再成長する窒化物半導体膜320の全体への影響も小さいと考えられる。
このような考えに基づき、ヘテロ窒化物半導体基板600における成長用基板100の壁面220の深さ依存性について検討した。
図88(a)及び図88(b)は、成長用基板100の凹部210から露出する壁面220の深さが異なる場合の窒化物半導体層の(11−22)面と、m面(2−200)面のX線回折ピーク積分の強度比の値の面内傾斜角度β依存性を示す。
図88(a)は、図85に示した結果と同等であり、この場合の成長用基板100の壁面220の深さは、約250nmであった。一方、図88(b)は、凹凸加工時のエッチング時間を短くして、エッチング深さを約150nmとした。
図88(a)においては、既に説明したように、面内傾斜角度βが35°を超えると、(11−22)面の回折強度が大きくなり、再成長膜である窒化物半導体膜320に半極性面が共存していることが分かる。一方、図88(b)に示すエッチング深さが約150nmであるサンプルの場合は、面内傾斜角度βの値が増加しても(11−22)面の回折強度が急激に強くなるという傾向は見られない。
この実験結果は、半極性面異常成長が成長用基板100の壁面220の深さを低くし、この壁面領域の面積を小さくすることで抑制できることを示している。
これは、前述したように、半極性面からの異常成長の起点となるr面ファセットの数が、成長用基板100における凹部210の壁面220の深さを低くすることによって減少したためと考えられる。
以上の結果から、m面サファイア基板上に再成長する窒化物半導体膜320を基にした、ヘテロ窒化物半導体基板600を作製する作製方法においては、ストライプ構造の面内傾斜角度βと共に、m面サファイア基板である成長用基板100に対するエッチング深さを所定の範囲に制御することにより、半極性面に生じる異常成長を効果的に抑制できることが分かった。
半極性面からの異常成長は、面内傾斜角度βを0°以上且つ35°以下の範囲内に制御すれば、抑制することができる。また、面内傾斜角度βに拘わらず、成長用基板100から露出する壁面220のエッチング深さを、0nmから150nmの範囲で制御しても半極性面からの異常成長を抑制することができる。
面内傾斜角度βと、サファイア基板から露出する壁面220のエッチング深さとの両方を同時に制御してもよい。
このように設計することにより、サファイアからなる成長用基板100から露出する壁面220に存在する、半極性面に生じる異常成長の起点となるr面ファセットの影響が劇的に抑制されて、高品質なへテロ窒化物半導体基板600を作製することができる。
以上説明したように、m面サファイアを成長用基板100として用い、エッチングにより成長用基板100の表面を露出して凹部210を形成する工程を含むヘテロ窒化物半導体基板600の作製方法において、偏光制御の効果を維持しつつ、ヘテロm面窒化物半導体である窒化物半導体層膜320の高品質な結晶成長を実現するには、空隙60の面内傾斜角度βの範囲を3°以上且つ35°以下の範囲で制御し、且つ凹部210の下部から露出するサファイア基板の壁面220の高さを0nmから150nmに設計することが望ましいことが分かった。
[実施例E]
<空隙60を設けたヘテロ窒化物半導体基板600における面内傾斜角度βの範囲(3°以上且つ10°以下)の実験的根拠>
非極性面又は半極性面を主面とする窒化物半導体における結晶成長は、転位以外にも積層欠陥が発生しやすく、特に積層欠陥が非極性又は半極性面を主面とする窒化物系半導体発光素子の特性に大きく影響することが分かっている。
従って、非極性面又は半極性面を主面とする窒化物半導体の結晶成長において、転位密度の低減と同時に積層欠陥密度の低減が重要となる。特に、サファイア基板等の窒化物半導体とは異なるヘテロ基板上に成長する非極性又は半極性面を主面とする窒化物半導体構造においては、この問題は極めて重要である。
実施例Bにおいて、X線ωロッキングカーブ(XRC)の半値幅の値([表2]を参照。)を示したように、通常、m面を成長面とするサファイア基板上に直接に成長した窒化物半導体層のXRC半値幅の値は、a軸方向及びc軸方向にそれぞれX線を入射して測定した場合には、非対称となる。通常、窒化物半導体には、X線をc軸方向に入射した場合のXRC半値幅が大きくなる。これは、c軸方向において測定したXRC半値幅が、転位の情報に加えて、積層欠陥の情報を含むためである。
これに対し、実施例Bの[表2]に示すように、第4の実施形態及び第6の実施形態に係る空隙60を設けたヘテロ窒化物半導体基板600、601等においては、転位密度と共に積層欠陥密度も大幅に減少して、結晶性及び光学特性を大幅に改善することができる。また、実施例Bに示した積層欠陥の低減効果は、空隙60の面内傾斜角度βに依存して変化することが分かった。
実施例Aに示したように、偏光度の抑制効果、配光特性の向上及び光取り出し効率の改善の効果は、ストライプ構造の面内傾斜角度βが3°以上且つ45°以下の広い範囲で得ることができる。
しかしながら、GaNバルク基板以外のヘテロ基板を成長用基板100として用いるヘテロ窒化物半導体基板600、601においては、面内傾斜角度βの範囲によっては、積層欠陥密度の低減が十分に実現できないことが分かった。このため、転位及び欠陥を多く含みやすいヘテロ基板である成長用基板100の上に作製するヘテロ窒化物半導体基板600、601は、前述した偏光度の抑制効果を得られる条件に加えて、積層欠陥密度を十分に低減できる条件下で、面内傾斜角度βを制御することが必須となる。すなわち、面内傾斜角度βの値を適切に制御しないと、積層欠陥が活性層24に含まれることになり、発光素子の効率が著しく低下してしまう。
本発明者が検討した結果、ヘテロ窒化物半導体基板600、601における、ストライプ状の空隙60における面内傾斜角度βの範囲は、3°以上且つ10°以下であってもよいことが明らかになった。
以下、実験結果の詳細について説明する。
本実施例においては、第4の実施形態に係るm面サファイア基板上に成長した窒化物半導体膜から形成されるヘテロ窒化物半導体基板600の構造を基体として、これらのサンプルの転位密度及び積層欠陥密度における空隙60の面内傾斜角度β依存性を調べた。
転位密度の低減効果については、XRC半値幅により評価した。このときのX線の入射方向は、GaNにおけるa軸方向とした。また、積層欠陥密度の低減効果については、フォトルミネッセンス(PL)の測定により行った。これは、PLを用いた評価の方が積層欠陥密度の影響をより正確に調べることができるためである。
なお、実施例Eにおいては、基本的に実施例Bと同一の条件下で、m面サファイア基板を用いてヘテロ窒化物半導体基板600を作製し、これらのサンプルの面内傾斜角度βを0°から90°まで変化させた。
本実施例の効果は、第6の実施形態及び実施例Cに示した、SiO2からなるマスク120の上に再成長を行う実施形態及び実施例においても、同様に得ることができる。すなわち、ヘテロ基板上のm面を主面とする窒化物半導体を成長する構造においては、光の偏光度を抑制しつつ、積層欠陥密度を低減するには、ストライプ構造における面内傾斜角度βは、3°度以上且つ10°以下の範囲に制御すればよい。
但し、空隙60を成長用基板100上の窒化物半導体層110と窒化物半導体膜320との界面に含む構造が、成長用基板100にGaNバルク基板等を用いた、ホモエピタキシを基体とする構造の場合は、積層欠陥密度の影響はそれ程大きくはないため、面内傾斜角度βの適した範囲は広くなり、3°以上且つ45°以下であればよい。
図89に、面内傾斜角度βを0°から35°に変化させた場合の、ヘテロ窒化物半導体基板600のXRC半値幅を示す。X線の入射方向は、GaNのa軸方向である。
この実験において、2種類のm面サファイア基板上のm面GaN膜を、種結晶用の窒化物半導体層110として用いている。すなわち、面内傾斜角度βが0°から15°のサンプルと、βが17°から35°のサンプルとでそれぞれ異なっている。
図89に示す破線は、[表2]に示した、直接成長した典型的なGaN膜のXRC半値幅の値(1326秒、0.37degree)を示している。本実施例の2種類の種結晶GaNもほとんど同等のXRC半値幅を示している。XRC半値幅は、面内傾斜角度βの0°から35°の広い範囲で、直接成長のGaN膜の値と比べて、ほぼ半減していることが分かる。
上記の結果は、第4の実施形態等に示したような、空隙60を設けたヘテロ窒化物半導体基板600を用いることにより、光の偏光度の制御と共に、結晶性の改善効果も得られることを示している。
なお、図89に示すXRC半値幅は、面内傾斜角度βが増加するに従って、徐々に悪化しているようにも見えるが、これは本実施例に用いた2種類の種結晶のm面GaN層110の結晶性の違いによって生じており、面内傾斜角度βの依存性を示すものではないと考えられる。
図90(a)及び図90(b)に、室温のPLスペクトルを示す。PL評価においては、励起源にHe−Cdレーザ(連続波、強度:〜30mW)を用いた。一例として、図90(a)には、面内傾斜角度β=5°の場合の結果を示し、図90(b)には、面内傾斜角度β=14°の結果を示す。GaNのバンド端付近の発光ピークは3.4eV付近に見られ、それ以外の発光は深い準位(Deep Level)に起因した発光である。
両サンプルとも、図89に示したように、XRC半値幅の値には大きな違いはなかった。しかし、バンド端の発光強度は、図90(a)に示した面内傾斜角度が小さいβ=5°のサンプルにおいて強く、図90(b)に示したβ=14°のサンプルでは、Deep Levelの発光が支配的であった。
2つのサンプルにおける発光スペクトルの差異の要因は、図89に示すXRC半値幅には違いがないことを考慮すると、転位密度による可能性は低い。つまり、この違いの要因は、積層欠陥密度に起因する。
図91(a)〜図91(c)に、低温(10K)下でのPL測定の結果を示す。図91(a)〜図91(c)は、面内傾斜角度βがそれぞれ0°、5°及び21°の場合の結果である。図91(d)は、比較用として種結晶GaNである窒化物半導体層110におけるスペクトルを示している。図91における縦軸は、積層欠陥に起因するピーク(3.42eV付近)の強度で規格化されている。
図91(c)に示す面内傾斜角度が大きいβ=21°の場合と、図91(d)に示す種結晶のサンプルにおいては、主に3つのピークが観測されている。
各発光ピークの値については、成長した膜の歪み量等により多少異なる場合がある。しかし、今回の実験結果の系統的な検討と他の文献結果との比較とから、3.42eV付近の発光は積層欠陥に起因している。すなわち、3.48eV付近のピークは、ドナー束縛励起子に起因する発光(D0,X)であり、さらに低エネルギー側のピークも転位及び欠陥に起因する発光である。
まず、図91(d)に示す種結晶GaNと、図91(c)に示すβ=21°との結果を比較すると、β=21°のサンプルにおいて、ドナー束縛励起子に起因する発光(D0,X)である積層欠陥に起因するピークに対する相対的な強度が増大していることが分かる。これは、m面サファイア基板上に直接に成長して得られた種結晶と比べて、ストライプ状の空隙60を設けたヘテロ窒化物半導体基板600の結晶中の積層欠陥密度が減少しているためと考えられる。しかしながら、β=21°のサンプルでは、ドナー束縛励起子に起因する発光(D0,X)の強度は、積層欠陥の強度とほぼ同等であり、全体の発光強度も小さかった。
これらの結果と比べて、面内傾斜角度βが小さい図91(a)におけるβ=0°、及び図91(b)におけるβ=5°のサンプルの場合は、積層欠陥に起因するピーク強度よりも、ドナー束縛励起子に起因する3.48eV付近の発光(D0,X)に起因する発光が支配的であった。積層欠陥に起因するピークに対する相対強度は、β=21°と比べて、一桁以上増大した。
このように、室温のPL測定において、バンド端付近の発光強度が強い再成長GaN膜においては、低温のPL測定においても、積層欠陥に起因した発光強度の大幅な低減と、(D0,X)強度の増大が確認された。従って、面内傾斜角度βの範囲を適切に選択することにより、転位の低減効果と共に積層欠陥密度の低減効果をも得られることが分かった。
図92に、室温のPL測定から得られたDeep Level(深い準位)の発光強度とバンド端付近の発光強度との比の値の面内傾斜角度β依存性を示す。
面内傾斜角度βが0°から10°の範囲では強度比の値が小さく、室温下でもバンド端付近の発光が強い。これにより、積層欠陥密度を十分に低減できていることが分かる。
これに対し、面内傾斜角度βが10°以上になると、Deep Levelの発光強度とバンド端付近の発光強度との比の値は急激に増大し、Deep levelの発光が支配的となった。図89に示したように、XRC半値幅の測定結果から、転位密度の低減による結晶品質の向上効果は、少なくとも面内傾斜角度βが0°から35°の範囲でも、実現できる。
この効果に加えて、積層欠陥密度の低減効果を得るには、面内傾斜角度βの範囲を狭める必要があり、角度βの範囲は、0°以上且つ10°以下であってもよいことが、図89から図92の実験結果により明らかとなった。
図92の結果からは、面内傾斜角度βが0°でなくても、積層欠陥密度の低減効果を得られることが明らかとなった。
なお、実施例Dに示したように、面内傾斜角度βが0°よりも大きい方が、リッジ状の窒化物半導体層110を起点とした再成長膜同士の再結合を促し、ヘテロ窒化物半導体基板600、601の表面平坦性を向上させる。
第4の実施形態のように、特に積層欠陥密度が高くなりやすい、ヘテロ基板上に成長した非極性面を主面とする窒化物半導体膜320に設けるストライプ構造における面内傾斜角度βを3°以上且つ45°以下とすることにより、出射する光の偏光度を抑制し、且つ配光特性の改善と光取り出し効率の向上とを図ることができる。
さらに、実施例Eの結果が示すように、角度βの範囲を3°以上且つ10°以下とすることにより、前述の効果を維持しつつ、再成長した窒化物半導体中の積層欠陥密度を低減できるという効果をも得ることができる。
また、角度βの範囲を0°以上且つ3°未満とした場合には、図75に示すように、特にβが0°の場合は出射する光の偏光度は維持される。この場合、図89及び図92から、窒化物半導体の結晶性が良好となることが分かる。また、半極性面を持つ窒化物半導体の異常成長をも抑制することができる。
(他の実施形態)
上述した第4〜第8の各実施形態に係る発光素子は、そのまま光源装置として使用してもよい。しかしながら、各実施形態に係る発光素子は、波長変換のための蛍光物質を含む樹脂材等と組み合わせれば、波長帯域が拡大した光源装置(例えば、白色光源装置)として好適に使用され得る。白色光源装置の構成は、図42に示す装置と同様であるので、ここではその説明を省略する。
本実施形態によると、本実施形態に係る光源装置は、第4から第8の実施形態に係る発光素子と同様に、光の偏光度を抑制できると共に、配向特性及び光取り出し効率の向上を図れる上に、さらに、蛍光体が分散された樹脂層である波長変換部によって、出射光における波長帯域を制御することができる。
以上説明したように、上述した各実施形態、その変形例及び各実施例によれば、非極性面又は半極性面を主面(成長面)とする窒化物系半導体において、光の出射面側に複数のストライプ構造を形成する。このストライプ構造が延びる方向を、m面を成長面とする窒化物半導体のa軸方向から3°以上且つ45°以下にm面の面内で傾斜させることにより、m面を成長面とする窒化物半導体からなる活性層からの出射光の偏光度を著しく低減して、配光特性を改善することができる。
ストライプ構造は、光の出射面側に形成してもよい。例えば、成長用基板の裏面に形成してもよく、ストライプ構造が延びる方向に対して垂直な方向が凹凸状となる構造であってもよい。例えば、ストライプ構造は、図44に示すように、窒化物半導体膜320の下部に空隙60を挟んでそれぞれ形成される複数の凸部51である。また、空隙60自体がストライプ構造であってもよい。また、図56(d)に示すように、互いに隣接するマスク120上の2つの空隙60に挟まれた窒化物半導体310の一部もストライプ構造といえる。また、図56(d)及び図58(d)に示すように、成長用基板100の主面上に形成されたストライプ状の窒化物半導体層110aもストライプ構造といえる。また、図64(b)に示すように、窒化物半導体320及び窒化物半導体層110が一体化して空隙60の周囲を囲む場合は、隣接する2つの空隙60に挟まれた窒化物半導体320の一部もストライプ構造といえる。この場合、ストライプ構造は、窒化物系半導体積層構造の内部に形成されることになる。また、図69に示すように、基板100に形成された凹凸構造70もストライプ構造といえる。
また、ストライプ構造は、屈折率が異なる2種類の材料により作製することができる。例えば、前述した成長用基板の裏面に形成する場合は、大気と成長用基板の材料との2種類の物質により、ストライプ構造による凹凸状の界面が形成される。また、例えば、サファイア基板とGaN層との界面、又は大気とGaN層との界面等の組み合わせも考えられる。
光取り出し効率の向上を促進するため、ストライプ構造自体は、光の吸収損失が小さい材料により構成されていることが重要となる。例えば、ストライプ構造としては、空隙を意図的に形成する方法、SiO2等の誘電体層を用いる方法、又は反射率が高い金属層等を用いる方法等が望ましい。このようなストライプ構造を、上述した角度βで周期的に形成することにより、光の偏光度の低減及び配光特性の改善の効果を得ることができる。
また、ストライプ構造を、非極性面を成長面とする窒化物半導体層とその成長用基板との界面及びその近傍に形成してもよい。一般に、窒化物半導体層の成長用基板として用いられるサファイア基板は、非常に硬く、加工が困難である。従って、窒化物半導体層のサファイア基板と接する界面の近傍に、ストライプ構造を形成すれば、このような問題を回避することができ、偏光度及び配光特性の制御が容易となる。