本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法では、フラックス法によってIII 族窒化物半導体を育成する。まず、フラックス法の概要について説明する。
(フラックス法の概要)
本発明に用いるフラックス法は、フラックスとなるアルカリ金属と、原料であるIII 族金属とを含む混合融液に、窒素を含むガスを供給して溶解させ、液相でIII 族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる方法である。本発明では、混合融液中に種基板1を配置し、その種基板1上にIII 族窒化物半導体を結晶成長させる。
原料であるIII 族金属は、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)の少なくともいずれか1つであり、その割合によって成長させるIII 族窒化物半導体の組成を制御することができる。特にGaのみを用いることが好ましい。
フラックスであるアルカリ金属は、通常ナトリウム(Na)を用いるが、カリウム(K)を用いてもよく、NaとKの混合物であってもよい。さらには、リチウム(Li)やアルカリ土類金属を混合してもよい。
混合融液には、炭素(C)を添加してもよい。Cの添加により、結晶成長速度を速めることができる。
また、混合融液には、結晶成長させるIII 族窒化物半導体の伝導型、磁性などの物性の制御や、結晶成長の促進、雑晶の抑制、成長方向の制御、などの目的でC以外のドーパントを添加してもよい。たとえばn型ドーパントしてゲルマニウム(Ge)などを用いることができ、p型ドーパントとしてマグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)などを用いることができる。
また、窒素を含むガスとは、窒素分子や、アンモニア等の窒素を構成元素として含む化合物の気体であり、それらの混合ガスでもよく、さらには、窒素を含むガスが希ガス等の不活性ガスに混合されていてもよい。
(種基板の構成)
本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法では、混合融液中に種基板(種結晶)1を配置し、その種基板1上にIII 族窒化物半導体を育成する。この種基板1には、以下の構成のものを用いる。
種基板1は、図1に示すように、下地となる下地基板2上に、バッファ層(図示しない)を介してc面を主面とするIII 族窒化物半導体層3が形成された構成である。なお、図1は下地基板2の中央部の一部分の断面図である。
下地基板2の材料は、その表面にIII 族窒化物半導体を育成可能な任意の材料でよい。ただし、Siを含まない材料が好ましい。混合融液中にSiが溶けだすと、III 族窒化物半導体の結晶成長を阻害してしまうためである。たとえば、サファイア、ZnO、スピネルなどを用いることができる。
下地基板2の大きさは、直径2インチ以上が好ましい。下地基板2が大きくなるほど反りが発生しやすくなるため、本発明によってそれらの領域を抑制する効果が高まる。直径3インチ以上とする場合に本発明は特に効果的である。
下地基板2上のIII 族窒化物半導体層3は、GaN、AlGaN、AlNなど任意の組成のIII 族窒化物半導体とすることができる。また、III 族窒化物半導体層3はMOCVD法、HVPE法、MBE法など、任意の方法によって成長させたものでよいが、結晶性や成長時間などの点でMOCVD法やHVPE法が好ましい。
III 族窒化物半導体層3の厚さは任意であるが、2μm以上とすることが望ましい。フラックス法では、結晶育成初期においてIII 族窒化物半導体層3がメルトバックする可能性があるため、III 族窒化物半導体層3が完全に除去されて下地基板2が露出しない厚さとする必要があるためである。ここでメルトバックは、III 族窒化物半導体が混合融液中に溶解して除去されることをいう。ただし、III 族窒化物半導体層3が厚すぎると、種基板1に大きな反りが発生してしまうため10μm以下の厚さとすることが望ましい。
III 族窒化物半導体層3は、転位密度の高い高転位密度領域3Aと、高転位密度領域3Aよりも転位密度の低い低転位密度領域3Bとが存在している。図2は、III 族窒化物半導体層3の平面パターンを示した図である。図2のように、高転位密度領域3Aの平面パターンは、複数の正六角形のドットが、隣接する正六角形同士の辺を揃えて正三角格子状に配列されたパターン(ハニカム状のパターン)であり、他の領域(各正六角形の隙間部分)が低転位密度領域3Bとなっている。この高転位密度領域3Aと低転位密度領域3Bのパターンにより、III 族窒化物半導体層3の転位密度は、その主面に平行な方向において2次元周期的に増減する分布となっている。また、高転位密度領域3Aの側面は下地基板2主面に垂直であり、正六角柱となっている。
低転位密度領域3Bの上面が、フラックス法によりIII 族窒化物半導体が育成する種領域とする面である。高転位密度領域3Aは、フラックス法におけるIII 族窒化物半導体の育成初期にメルトバックする領域であり、その上面は種領域とはならない。
高転位密度領域3Aの各正六角形の辺の方位は、III 族窒化物半導体層3のm軸<10−10>とすることが望ましい。種基板1上にIII 族窒化物半導体をより均質に成長させることができ、結晶品質の向上を図ることができる。
フラックス法により育成するIII 族窒化物半導体結晶6(図5(c)の高品質化と、種基板1とIII 族窒化物半導体結晶6との剥離性向上との両立のため、およびIII 族窒化物半導体結晶6の反りを低減するために、III 族窒化物半導体層3の転位密度の平均は、5×108 /cm2 以下とすることが望ましい。より望ましくは、1×107 〜5×108 /cm2 、さらに望ましくは1×107 〜1×108 /cm2 である。
メルトバックを促進するため、高転位密度領域3Aの転位密度は1×108 /cm2 以上とすることが望ましい。
また、同様の理由により、高転位密度領域3Aの転位密度に対する低転位密度領域3Bの転位密度の比は、1/2以下とすることが望ましい。より望ましくは、1/5以下、さらに望ましくは1/10以下である。
高転位密度領域3Aのドット(正六角形)の外接円の直径D(図2)は、1〜250μmとすることが望ましい。これよりも直径Dが大きいと、フラックス法によるIII 族窒化物半導体の育成時に高転位密度領域3Aに生じる孔を塞ぐのが難しくなり、一様な平面のIII 族窒化物半導体結晶6を得るのが難しくなる。より望ましくは1.5〜190μm、さらに望ましくは2〜170μmである。
また、高転位密度領域3Aのドットの間隔W(低転位密度領域3Bの幅、図2)は、2〜40μmとするのがよい。Wがこれよりも小さいと、種となる低転位密度領域3Bの面積が小さくなり、III 族窒化物半導体を育成するのが難しくなる。
また、III 族窒化物半導体層3に占める高転位密度領域3Aの面積割合は、3〜45%とすることが望ましい。この範囲であれば、III 族窒化物半導体を一様に育成することができ、また種基板1と育成したIII 族窒化物半導体結晶6との剥離性も十分に向上する。より望ましくは4〜40%、さらに望ましくは6〜35%である。
なお、高転位密度領域3Aの平面パターンはハニカム状のパターンに限るものではない。たとえば、正六角形以外のドットでもよく、たとえば、円、楕円、三角形や四角形などの多角形であってもよい。ただし、均質なIII 族窒化物半導体を育成するためには回転対称性の高い形状が望ましく、円や正六角形がより望ましく、特に正六角形が望ましい。また、そのドットの配列パターンも、正三角格子状の配列に限らず、たとえば三角格子状、長方形格子状、正方格子状などの二次元周期的な配列パターンであればよい。ただし、同様の理由から回転対称性の高い配列パターンが望ましく、正三角格子状の配列パターンとすることがより望ましい。また、高転位密度領域3Aの側面は下地基板2主面に垂直でなくともよく、傾斜していてもよい。
また、III 族窒化物半導体層3の転位密度は、高転位密度領域3Aと低転位密度領域3Bとの間で不連続に増減しているが、連続的に転位密度が増減するようにしてもよい。要するに、III 族窒化物半導体層3の転位密度が、その主面に平行な方向において二次元周期的に増減する分布を有していれば任意の構成であってよい。
下地基板2表面(III 族窒化物半導体層3が接する側の面)のうち、低転位密度領域3Bの下部に当たる領域は、下地基板2がエッチングされて溝7が形成されている(図4(c))。また、図8(a),(b)に示すように、下地基板2の全外周に渡って形成される溝7は、幅2〜6mmの段差71を形成している。この溝7を完全には埋めないようにして、その溝7の上部に低転位密度領域3Bが位置している。段差71の全幅には、低転位密度領域3Bは形成されない。そのため、低転位密度領域3Bと下地基板2との間には空孔4が存在している(図4d))。
下地基板2表面から溝7の底面までの深さは深いほどよいが、0.1〜0.3μmとすることが望ましい。この範囲であれば、種基板1の作製時に溝7を完全には埋めずに空孔4が生じるようにすることができ、また溝7の形成も容易である。
なお、この空孔4は必ずしも設ける必要はないが、種基板1と育成したIII 族窒化物半導体結晶6との剥離を容易とするために設けることが望ましい。
(種基板1の製造工程)
次に、種基板1の製造工程について、図4を参照に説明する。なお、図4〜図7は、種基板1の中央部の一部の断面図である。まず、下地基板2を用意し、その下地基板2上にIII 族窒化物半導体層3を形成する(図4(a)参照)。その形成方法は、任意の方法でよく、たとえばMOCVD法、HVPE法、MBE法などを用いることができる。
次に、III 族窒化物半導体層3表面に、正六角形のドットが正三角格子状に配列されたハニカム状のパターンのマスク5を形成する(図4(b)参照)。マスク5は、たとえばフォトリソグラフィとRIE(反応性イオンエッチング)を用いてパターニングする。マスク5の材料は、次工程のIII 族窒化物半導体層3のエッチングに耐性を有した材料であれば任意の材料でよく、たとえばSiO2 を用いる。
そして、マスク5に覆われていないIII 族窒化物半導体層3の領域を、ICP(誘導結合プラズマ)エッチングなどの方法でドライエッチングし、溝7を形成する。このとき種基板1の全外周に渡って形成される溝7が、図8(a)、(b)における段差71となる。ここで、ドライエッチングは、マスク5に覆われていない領域のIII 族窒化物半導体層3が除去されて下地基板2が露出した後もさらに続け、下地基板2の表面がエッチングされるまで行う。溝7の形成において、マスク5が完全にエッチングされてその下のIII 族窒化物半導体層3が露出するようにする(図4(c)参照)。これにより、マスク5を除去する工程が省略でき、種基板1の製造工程の簡略化を図ることができる。この際、その露出したIII 族窒化物半導体層3が多少エッチングされてもよい。ただし、フラックス法による結晶成長初期のメルトバックによる消失を考慮すると、2μm以上の厚さのIII 族窒化物半導体層3が残るようにするとよい。もちろん、マスク5が除去されないようにし、溝7の形成後にマスク5を除去してもよい。
この溝7の形成工程により、III 族窒化物半導体層3は、正六角形のドットが正三角格子状に配列された平面パターンとなる。この残されたIII 族窒化物半導体層3の領域が高転位密度領域3Aである。
次に、MOCVD法によって、III 族窒化物半導体層3を再成長させる。再成長は、六角柱状のIII 族窒化物半導体層3の側面3aおよび上面3bから生じる。III 族窒化物半導体層3の側面3aから横方向に結晶成長し、正六角形間の隙間を埋めるようにして成長する。この再成長させた領域は、横方向成長であるため転位が曲げられ、転位密度が低下する。この横方向に再成長させた領域が低転位密度領域3Bである。この横方向成長において、下地基板2には溝7が形成されているため、この溝7を完全には埋めないようにして低転位密度領域3Bは成長する。そのため、低転位密度領域3Bと下地基板2との間には空孔4が存在している。
なお、種基板1の全周囲に形成されている段差71においては、低転位密度領域3Bの幅はW/2、すなわち、1μm程度であり、段差71の全幅に渡って形成されてはいない。III 族窒化物半導体層3の成長が完了した段階で、段差71において下地基板2は露出している。
一方、III 族窒化物半導体層3の上面から再成長するIII 族窒化物半導体は、高転位密度領域3Aの転位を引き継ぐため、転位密度についてはさほど変化しない。このようにして、高転位密度領域3Aと低転位密度領域3Bにより、その主面に平行な方向において2次元周期的に増減する転位密度分布を有したIII 族窒化物半導体層3が形成される(図4(d)参照)。以上が種基板1の製造方法である。
(結晶製造装置の構成)
本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法では、たとえば以下の構成の結晶製造装置10を用いる。
図3は、フラックス法によるIII 族窒化物半導体の製造に用いる結晶製造装置10の構成を示す図である。図3のように、結晶製造装置10は、反応容器200と、反応容器200内部に配置され、アルカリ金属とIII 族金属の混合融液21を保持する坩堝12と、反応容器200を加熱する加熱装置11と、坩堝12を保持し、回転軸13を有した保持部14と、を有している。また、反応容器200と加熱装置11を内包する圧力容器201を有し、2重構造となっている。また、圧力容器201に開口して接続し、回転軸13の圧力容器201外側部分を覆う回転軸カバー15と、回転軸カバー15に接続し、窒素を供給する供給管16と、反応容器200内部から外部へ排気する排気管17と、回転軸13を回転、移動させる回転駆動装置18と、を有している。
反応容器200は、円筒形状のステンレス製で、耐熱性を有している。反応容器200の内部には、保持部14によって保持された坩堝12が配置されている。反応容器200の回転軸13側は開口しており、回転軸13が反応容器200外部から内部に貫通している。
圧力容器201は、円筒形のステンレス製であり、耐圧性を有している。圧力容器201の内部には、反応容器200および加熱装置11が配置されている。このように反応容器200を圧力容器201の内部に配置しているため、反応容器200にさほど耐圧性が要求されない。そのため、反応容器200として低コストのものを使用することができ、再利用性も向上する。
圧力容器201には、窒素を含むガスを供給する供給管202、および排気管203が接続している。供給管202、排気管203にはそれぞれバルブ202v、203vが設けられている。バルブ202v、203vを調整して圧力容器201内部に導入するガス量を制御することで、圧力容器201内部の圧力が反応容器200内部の圧力とほぼ等しくなるように加圧する。
坩堝12はBN(窒化ホウ素)からなり、反応容器200内部のトレイ20上に配置されている。坩堝12の材質は、BN以外に、たとえばW(タングステン)、Mo(モリブデン)、BN(窒化ホウ素)、アルミナ、YAG(イットリウムアルミニウムガーネット)などを用いてもよい。坩堝12内部には、アルカリ金属とIII 族金属の混合融液21が保持され、混合融液21中には種基板1が収容される。
加熱装置11は、反応容器200の外部であって、圧力容器201の内部に配置されている。この加熱装置11によって、反応容器200内部の温度を制御する。
保持部14は、坩堝12を配置するトレイ20と、トレイ20に接続し、圧力容器201の内側下部から外側へ貫通している回転軸13からなる。回転軸13の圧力容器201外側の先端には、マグネット23が設けられている。
回転軸カバー15は、回転軸13の圧力容器201外側部分を覆い、反応容器200および圧力容器201に開口して接続している。この回転軸カバー15により、圧力容器201内部と外部とが遮断され、回転軸13と回転軸カバー15との隙間24と、反応容器200内部とが一続きとなる。
回転駆動装置18は、回転軸カバー15側部の外側に設けられたマグネット22と、を有している。このマグネット22を回転させることによって、マグネット23を介して回転軸13を回転させることができる。また、マグネット22は鉛直方向上下に移動させることができ、これにより回転軸13を鉛直方向に上下させることができる。このように、マグネットを用いることで、回転軸カバー15によって圧力容器201内部と外部とを遮断した状態で、回転軸13の回転、移動を制御することができる。
供給管16は、回転軸カバー15に接続していて、バルブ16vを有している。供給管16から供給される窒素を含むガスは、回転軸13と回転軸カバー15の隙間24を通して反応容器200内部に供給される。
排気管17は、反応容器200に開口して接続している。排気管17には、バルブ17vが設けられ、排気量を制御する。供給管16、排気管17のバルブ16v、17vによって窒素を含むガスの供給量、排気量を制御することにより、反応容器200内部の圧力を制御する。
供給管16より供給される窒素を含むガスは、回転軸カバー15と回転軸13との隙間24、圧力容器201と回転軸13との隙間を順に通過して反応容器200内部へと供給される。したがって、アルカリ金属の蒸気が回転軸カバー15と回転軸13との隙間に入り込まないようにでき、坩堝12の回転が阻害されず、混合融液21の組成が一定に保たれる。その結果、結晶の均一性が向上し、高品質なIII 族窒化物半導体を製造することができる。
なお、反応容器200として耐圧性を有したものを使用すれば、必ずしも圧力容器201は必要ではない。また、結晶育成中のアルカリ金属の蒸発を防止するために、坩堝12には蓋を設けてもよい。また、坩堝12の回転に替えて、あるいは加えて、坩堝12を揺動させる装置を設けてもよい。また、圧力容器201と反応容器200の二重容器としているが、三重容器として育成条件(温度、圧力など)のさらなる安定化を図ってもよい。
(III 族窒化物半導体の製造方法)
次に、本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法について、図5を参照に説明する。
まず、酸素や露点など雰囲気が制御されたグローブボックス内で所定量のアルカリ金属、III 族金属、炭素を計量する。坩堝12内に種基板1と、計量した所定量のアルカリ金属、III 族金属、炭素を坩堝12に投入する。その坩堝12を、搬送容器に格納して、大気に晒すことなく反応容器200内のトレイ20上に配置し、反応容器200を密閉し、さらに反応容器200を圧力容器201内に密閉する。そして、圧力容器201内を真空引きした後、昇圧、昇温する。このとき、窒素を含むガスを反応容器200内部に供給する。
次に、反応容器200内を結晶成長温度、結晶成長圧力まで上昇する。結晶成長温度は700℃以上1000℃以下、結晶成長圧力は2MPa以上10MPa以下である。このとき、坩堝12内のアルカリ金属、III 族金属は融解し、混合融液21を形成する。また、坩堝12を回転させることで混合融液21を攪拌し、混合融液21中のアルカリ金属とIII 族金属の分布が均一になるようにする。
窒素が混合融液21に溶解していき、過飽和状態になるとIII 族窒化物半導体の結晶成長が始まる。過飽和となるまでの間、III 族窒化物半導体層3はメルトバックする。メルトバックは、混合融液21中の窒素が未飽和であるためにIII 族窒化物半導体層3が混合融液21中に溶解してしまう現象である。メルトバックの速度は、転位密度が高いほど速くなる。そのため、低転位密度領域3Bはあまりメルトバックせず、主として転位密度の高い高転位密度領域3Aがメルトバックして孔8となる(図5(a)参照)。メルトバックがある程度進行した段階で、混合融液21中の窒素は過飽和状態となり、メルトバックは停止する。メルトバックによる孔8の深さは任意である。
そして、混合融液21中の窒素が過飽和となると、低転位密度領域3Bの上面からIII 族窒化物半導体結晶6が結晶成長する。ここで、III 族窒化物半導体結晶6は、転位密度の低い低転位密度領域3Bから結晶成長するため、III 族窒化物半導体結晶6へと伝搬する転位も少ない。そのため、III 族窒化物半導体結晶6は転位密度が低く、高品質である。III 族窒化物半導体結晶6は縦方向だけでなく横方向にも成長し、メルトバックした高転位密度領域3Aの上部を覆うように成長する(図5(b)参照)。
III 族窒化物半導体結晶6の成長が進むと、横方向成長により高転位密度領域3Aの上部を完全に覆って孔8を塞ぎ、孔のない平板状の一様なIII 族窒化物半導体結晶6となる。ここで、孔8の領域はIII 族窒化物半導体結晶6によって蓋をされて空孔9として残存する(図5(c)参照)。
その後、反応容器200の加熱を停止して温度を室温まで低下させ、圧力も常圧まで低下させ、III 族窒化物半導体の育成を終了する。ここで、種基板1とIII 族窒化物半導体結晶6は、下地基板2と低転位密度領域3Bとの間に空孔4、高転位密度領域3AとIII 族窒化物半導体結晶6との間に空孔9を有している。
この空孔4の存在のため、下地基板2と低転位密度領域3Bは接触しておらず、高転位密度領域3Aのみと接している。したがって、下地基板2とIII 族窒化物半導体層3とが全面で接する場合に比べて接触面積が小さくなっている。
また、空孔9の存在のため、育成したIII 族窒化物半導体結晶6は、高転位密度領域3Aとは接しておらず、低転位密度領域3Bのみと接している。したがって、III 族窒化物半導体層3とIII 族窒化物半導体結晶6とが全面で接する場合に比べて接触面積が小さくなっている。
育成終了後の降温において、種基板1とIII 族窒化物半導体結晶6には、下地基板2とIII 族窒化物半導体層3およびIII 族窒化物半導体結晶6との線膨張係数差に起因する応力が発生する。ここで、上記のように下地基板2とIII 族窒化物半導体層3の接触面積、およびIII 族窒化物半導体層3とIII 族窒化物半導体結晶6の接触面積が小さくなっているため、III 族窒化物半導体結晶6とIII 族窒化物半導体層3との間、あるいは下地基板2とIII 族窒化物半導体層3との間において、応力によって自然に剥離が生じる。その結果、下地基板2と育成したIII 族窒化物半導体結晶6とが分離する(図5(d)参照)。III 族窒化物半導体結晶6には低転位密度領域3B、およびそれに接続する高転位密度領域3Aが残存する場合があるが、それらは機械的な衝撃を加えるなどの方法によって容易にIII 族窒化物半導体結晶6から剥離させることができる。
以上によって育成したIII 族窒化物半導体結晶6は、割れやクラックがなく、転位密度が低く、反りも少ない高品質な結晶である。III 族窒化物半導体結晶6は、転位密度の低い低転位密度領域3Bから結晶成長しており、その育成初期の膜厚が薄い段階においてもIII 族窒化物半導体結晶6は転位密度が低い。フラックス法により育成するIII 族窒化物半導体結晶6は、成長して厚くなるにつれて転位密度は減少していくが、III 族窒化物半導体結晶6はもともと転位密度が低いため、厚くなってもその減少幅は小さい。したがって、III 族窒化物半導体結晶6の厚さ方向の転位密度差は小さく、III 族窒化物半導体結晶6の反りが少なくなる。
III 族窒化物半導体結晶6の裏面(種基板1側であった面)は、鏡面状であり、非常に平坦性は高いが、実際には微小な周期的凹凸構造が生じている。この微小な凹凸は、III 族窒化物半導体結晶6が低転位密度領域3Bから成長し、高転位密度領域3Aからは成長しないことによるものである。これにより、低転位密度領域3Bと高転位密度領域3Aとによる微細な周期的パターンが、III 族窒化物半導体結晶6の裏面に転写されて周期的凹凸構造が生じる。したがって、III 族窒化物半導体結晶6裏面の周期的凹凸構造の周期は、低転位密度領域3Bと高転位密度領域3Aの周期と同じであり、たとえば3〜100μmである。また、周期的凹凸構造の深さは、たとえば0.1〜0.3μmである。
以上の本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法の効果をまとめると、以下の通りである。まず、第1に、種基板1と育成したIII 族窒化物半導体結晶6の剥離性が向上するため、割れやクラックがなく、転位密度の低い大面積の自立したIII 族窒化物半導体結晶6を、歩留りよく得ることができる。また、第2に、III 族窒化物半導体結晶6の反りが少ないため、研磨をしやすく、オフ角分布の狭いIII 族窒化物半導体基板を作製することができるようになる。
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例1のGaNの製造方法について説明する。まず、以下のようにして種基板100を作製した。
直径2インチ、厚さ1mmのサファイアからなる下地基板102上に、厚さ5μmのGaN層103が積層されたテンプレートを用意した。このテンプレートのGaN層103上に、SiO2 からなる所定のパターンのマスクを形成した。パターニングには、フォトリソグラフィとRIEを用いた。マスクのパターンは、正六角形のハニカム状とし、正六角形の対辺の間隔は5μm、隣接する正六角形の間隔は2μmとした。そして、ICPによってGaN層103をエッチングした。ここで、下地基板102が0.1〜0.3mmエッチングされるまで行い、溝107を形成した(図6(a)参照)。このとき、マスクは途中で全てエッチングされ、マスク下のGaN層103もエッチングされて3.5μmとなった。
次に、テンプレート上にMOCVD法を用いてGaN層103を再成長させた。再成長は、六角柱状のGaN層103の側面および上面から生じ、側面からは横方向に正六角形間の隙間を埋めるようにしてGaNが成長した。また、GaN層103の厚さも5μmとなった。この横方向に再成長させたGaN層103は、元のGaN層103よりも転位密度が低くなった。以下、この元のGaN層103の領域を高転位密度領域103A、再成長させた領域を低転位密度領域103Bとする。高転位密度領域103Aの転位密度は1×108 /cm2 のオーダー、低転位密度領域103Bの転位密度は1×107 /cm2 のオーダーであった。高転位密度領域103Aと低転位密度領域103Bとでは、転位密度が1桁異なっていた。このように、GaN層103は、高転位密度領域103Aと低転位密度領域103Bを有しており、高転位密度領域103Aの平面パターンは、正六角形のハニカム状であった。その結果、GaN層103の転位密度分布は、二次元周期的な増減を有していた。
また、下地基板102の溝107は低転位密度領域103Bによって埋められず、空孔104が発生した。他の領域には空孔はなく、一様なGaN層103が成長していた(図6(b)参照)。以上のようにして種基板100を作製した。
次に、作製した種基板100を坩堝12に配置し、フラックス法を用いて種基板100上にGaNを育成した。結晶成長温度は860℃、結晶成長圧力は3MPaとし、アルカリ金属としてNaを16g、III 族金属としてGaを11g用い、供給するガスは窒素とした。また、CはNaに対して0.6mol%添加した。育成時間は40時間とした。また、坩堝12はアルミナ製のものを用いた。これにより、種基板100上にGaN結晶106を0.6mm育成した(図7(a)参照)。高転位密度領域103Aがメルトバックするため、空孔109が生じた。
育成終了後、室温まで冷却されるのを待ってから坩堝12を取り出し、エタノール等でNa、Gaを取り除いた。GaN結晶106は種基板100から剥離しており、GaN結晶106と下地基板102の双方とも割れやクラックは認められなかった(図7(b)参照)。
GaN結晶106裏面(種基板100側と接していた面)、および下地基板102の表面を目視により観察すると、鏡面状であった。また、GaN結晶106裏面、および下地基板102の表面に蛍光灯の光を反射させると、虹色のスペクトルが観察された。これは、低転位密度領域103Bあるいは高転位密度領域103Aの周期的なパターンによって、GaN結晶106裏面にもその周期的なパターンが転写され、GaN結晶106裏面に周期的な凹凸が形成され、その周期的な凹凸が回折格子として機能するためと考えられる。
また、GaN結晶106の外形はファセット化しており、六角形に近い形状であった。GaN結晶106の裏面側(c面のN極性面)をX線回折法により評価したところ、004ω半値幅は平均170秒であった。
GaN結晶106の裏面をSEMにより観察したところ、GaNが除去されて穴となった部分が多く観察された。このドットは、種基板100の高転位密度領域103Aだった部分であった。このことから、フラックス法による結晶成長初期に、高転位密度領域103Aがメルトバックし、その後GaN結晶106が成長してメルトバックによる孔を塞ぐことで空孔が発生していることが確認できた。
次に、剥離した直径2インチのGaN結晶106を研磨して、厚さ0.4mmのウエハとした。このウエハ化したGaN結晶106の表面側のCL(カソードルミネッセンス)観察およびエッチピット観察を実施したところ、転位密度は2×107 /cm2 であり、転位密度の低い良質な結晶であった。また、X線回折法によってウエハ化したGaN結晶106の表面(c面のGa極性面)を評価したところ、004ω半値幅は平均120秒であった。また、オフ角の分布を評価したところ、オフ角分布幅は0.1°程度であり、剥離したGaN結晶106の反りは小さかったことがわかった。
これらの結果から、種基板100を用いてフラックス法により育成したGaN結晶106は結晶性が高く、反りも少ない高品質な結晶であることがわかった。
実施例1では、図7(a)において、種基板100の直径は2インチであり、フラックス法で成長させたGaN結晶106の成長時間は40h、厚さは0.6mmであった。本実施例2においては、種基板100の直径は3インチ、フラックス法で成長させたGaN結晶106の成長時間は160h、厚さは0.9mm、1.1mm、1.3mmの3種の成長を実施した。
3つの坩堝12を準備した。各坩堝12におけるGaのモル比は、それぞれ、18mol%、22mol%、25mol%とし、液位は全坩堝ともに7mmとした。圧力、温度の成長条件は実施例1と同一とし、成長時間は160hとした。各坩堝12において、種基板100上に成長させたGaN結晶106の厚さは、それぞれ、0.9mm、1.1mm、1.3mmとなった。室温まで冷却して、各坩堝の中の成長基板100を取り出すと、図5(d)のように、フラックス法で成長させた平板状のGaN結晶106が、サファイア基板2から剥離していた。
得られた3枚のGaN結晶106から成る平板は、クラックや割れは存在しなかった。GaN結晶106から成る平板の両面を研磨したところ、クラックが生ずることなく、GaNウエハとすることができた。このGaNウエハは、その後の、エピタキシャル成長などによる素子層形成に、十分に耐えられる程に、平坦で反りが小さいことが観測された。このように、直径3インチ以上の大口径のウエハであっても、本願発明により反りを抑制できることが分かった。また、肉眼観察によると、インクルージョン等の欠陥は観測されなかった。
また、XRD(x線回折)の004ωスキャンの半値全幅は100秒であった。この値は、実施例1において、得られたGaN結晶106から成る0.6mm厚さの平板の半値全幅に比べて、若干改善されていた。GaN結晶106の厚さを厚くしたためと思われる。