JP4335398B2 - エンジンのデコンプ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、遠心式のデコンプレバーでロッカーアームをカムの代わりに押圧するエンジンのデコンプ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば船外機用エンジンのデコンプ装置としては、カム軸の排気弁用カムの上方近傍にデコンプレバーをカム軸の軸線とは直交する軸線回りに回動自在に取付け、このデコンプレバーによってエンジン始動時にロッカーアームをカムの代わりに押圧するようにしたものがある。
前記デコンプレバーは、平面視コ字状に形成し、互いに平行な二辺の中央部分をカム軸にピンを介して枢支させ、前記二辺の一端どうしを互いに接続する部位(以下、この部位を押圧子という)が重力で排気弁用カムの基礎円部の軸方向端面に上方から当接するようにしている。
【0003】
前記押圧子が前記基礎円部に当接している状態(エンジン始動時の状態)では、この押圧子がロッカーアームのスリッパにカムの基礎円部の代わりに接触する。また、前記二辺の他端側は、前記押圧子との重量バランスをとるための遠心ウェイトを構成している。
前記ピンは、外径が全域にわたって一定になるように形成し、カム軸に両端部がカム軸から突出するように圧入によって固定している。この両端部の突出部分にデコンプレバーを回動自在に支持させている。ピンを圧入するカム軸のピン孔は、一定の孔径でカム軸を貫通するように形成している。
【0004】
このように構成した従来のデコンプ装置においては、エンジン始動時であってクランキング開始からエンジンが始動するまでの間に前記押圧子が前記スリッパに接触することにより、圧縮行程で排気弁が僅かに開いた状態に維持されてエンジンの圧縮力が低減される。このため、ハンドスタータによる始動時の負荷が軽減される。エンジン始動後は、デコンプレバーが遠心力によって枢支部を中心にしてカム軸に対して回動し、押圧子がスリッパの側方へ移動してスリッパがカムの全域に摺接するようになる。この結果、デコンプ装置によるいわゆる圧縮抜けの現象が解消されてエンジンの回転が正常になる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したように構成した従来のデコンプ装置においては、デコンプレバー支持用のピンをカム軸に圧入するときに、圧入荷重によってカム軸が僅かに塑性変形してしまうという問題があった。塑性変形が起こるのは、前記ピンの圧入を冷間で実施しなければならず、圧入荷重が相対的に大きくなることと、圧入部の近傍にはカムやジャーナル部が形成されているために、カム軸における圧入時に支える部位が圧入部から大きく離間してしまい、カム軸に作用する曲げモーメントが大きくなることが原因である。熱間圧入を行うと、カム表面の硬化処理層が変質してしまうおそれがある。
【0006】
また、従来のデコンプ装置は、カム軸とデコンプレバーとの間に製造時に発生した切削屑や、長期にわたって使用することにより発生した摩耗粉などが固着することがあり、これらの異物によってデコンプレバーが回動し難くなるという問題もあった。
【0007】
本発明はこのような問題点を解消するためになされたもので、カム軸にデコンプレバー支持用のピンを圧入する構造を採りながら、カム軸が塑性変形することがなく、しかもデコンプレバーが円滑に回動するコンプ装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するため、本発明に係るエンジンのデコンプ装置は、ロッカーアームをカムの代わりに押圧するデコンプレバーを、カム軸のピン孔に圧入によって固定したピンを介して回動自在に支持させたエンジンのデコンプ装置において、前記ピン孔の軸線方向の中央部を前記ピンの両端部が前記デコンプレバーから突出するようにピンが圧入される圧入部とするとともに、前記ピン孔の軸線方向の両端部を前記中央部より径が大きくなるように形成し、このピン孔の両端部と、このピン孔を貫通した前記ピンとの間に隙間を形成し、このピンの両端部の突出部分に前記デコンプレバーを回動自在に支持させたものである。
請求項2に記載した発明は、ロッカーアームをカムの代わりに押圧するデコンプレバーを、カム軸のピン孔に圧入によって固定したピンを介して回動自在に支持させたエンジンのデコンプ装置において、前記ピンの軸線方向の中央部をこのピンの両端部が前記デコンプレバーから突出するようにカム軸に圧入する圧入部とするとともに、前記ピンの軸線方向の両端部を前記中央部より径が小さくなるように形成し、前記ピン孔の軸線方向の両端部と、このピン孔を貫通した前記ピンとの間に隙間を形成し、このピンの両端部の突出部分に前記デコンプレバーを回動自在に支持させたものである。
本発明によれば、圧入部の長さが短縮されて圧入時の荷重を低減することができる。また、デコンプレバー支持用のピンの両端部とピン孔との間の隙間にオイルが保持されるから、カム軸の回転上昇に伴って前記オイルが遠心力で前記隙間から噴出されるように勢いよく流出し、デコンプレバーの内面にかかるようになる。
【0009】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係るエンジンのデコンプ装置の一実施の形態を図1ないし図6によって詳細に説明する。
図1は本発明に係るエンジンのデコンプ装置を示す正面図で、同図(a)はエンジン始動時の状態を示し、同図(b)はエンジン始動後の状態を示す。図2はピンの正面図、図3はカム軸におけるピン孔部分の断面図で、同図は図1(a)におけるカム軸のIII−III線断面図である。、図4はピンを圧入したカム軸の断面図、図5はデコンプレバーを組付けたカム軸の断面図である。図6はデコンプレバーを示す図で、同図(a)は平面図、同図(b)は側面図、同図(c)は底面図、同図(d)は正面図である。
【0010】
これらの図において、符号1で示すものは、この実施の形態によるデコンプ装置である。このデコンプ装置1は、図示していない船外機用2気筒エンジンのカム軸2に設けるもので、カム軸2にデコンプレバー3をピン4によって回動自在に取付けた構造を採っている。このカム軸2は、図1に示すように、軸線方向が上下方向を指向する状態でシリンダヘッド(図示せず)に回転自在に支持させている。図1の上側が上下方向の上側である。
【0011】
このカム軸2は、鋳造または鍛造により所定形状に成形することによって、気筒毎の吸気弁用カム5および排気弁用カム6を軸部7に一体に形成している。また、このカム軸2は、両端部と上下方向の中央部にジャーナル部を形成している。両端部のジャーナル部を符号2a,2bで示し、中央部のジャーナル部を符号2cで示す。この実施の形態では、吸気弁用カム5を排気弁用カム6の上側に形成し、排気弁用カム6の下方近傍に本発明に係るデコンプ装置1を配設している。
【0012】
前記デコンプレバー3は、図6に示すように、互いに平行な2枚のレバー本体11,11と、これらのレバー本体11の一端部どうしを互いに結合する押圧子12とによって平面視においてコ字状に形成し、レバー本体11の長手方向の中央部を支持用ピン4によってカム軸2に上下方向に回動自在に支持させている。また、このデコンプレバー3は、前記レバー本体11における押圧子12とは反対側の端部に遠心ウェイト13を一体に形成し、カム軸2が停止している状態(エンジン停止時の状態)では、前記遠心ウェイト13の重量で支持用ピン4を中心にして回動し、押圧子12が排気弁用カム6の基礎円部6aに当接する構造を採っている。
【0013】
前記レバー本体11は、押圧子12と遠心ウェイト13との間に支持用ピン4を挿通させるための円形孔14{図6(b)参照}を穿設している。前記押圧子12は、図1(a)に示すように、前記基礎円部6aに当接している状態では基礎円部6aより側方(カム軸2の径方向の外方)へ突出し、排気弁用ロッカーアーム15のスリッパ15aを押圧するように形成している。この実施の形態では、押圧子12の上面に突起16を突設し、この突起16が前記基礎円部6aに下方から当接するようにしている。
【0014】
前記基礎円部6aは、前記押圧子12が当接する部位(下側の端面の一部)を他の部位より下方に突出するように形成している。基礎円部6aの前記突出部分を図3、図4および図5中に符号17で示す。この基礎円部6aに押圧子12が当接している状態からカム軸2が回転し、遠心ウェイト13と押圧子12とに遠心力が作用することによって、このデコンプレバー3は前記押圧子12が下方へ移動するように支持用ピン4を中心にして回動する。
【0015】
デコンプレバー3の2枚のレバー本体11のうち一方には、図1(b)に示すように、遠心力でデコンプレバー3が回動するときの回動範囲を規制するためのストッパー18を一体に形成している。このストッパー18は、支持用ピン4の近傍であって、デコンプレバー3が遠心力で回動する方向(押圧子12が下がる方向)の前側に配設し、排気弁用カム6とはデコンプレバー3を挟んで反対側に設けた円板状凸部19に当接するようにしている。この円板状凸部19には、前記遠心ウェイト13を収容するための切欠き19aを形成している。
【0016】
前記デコンプレバー3を支持する支持用ピン4は、図2に示すように、一端から他端まで外径が一定な丸棒からなり、カム軸2に圧入によって固定している。このピン4を圧入するカム軸2のピン孔21は、図3に示すように、カム軸2の軸部7を貫通するように穿設しており、両端部21aを中央部21bより径が大きくなるように形成している。このピン孔21の形成は、先ず、相対的に細いドリル(図示せず)で貫通孔を軸部7に穿設し、次に、この貫通孔の両端部に相対的に太いドリルで孔加工を施すことによって行う。
【0017】
ピン孔21の中央部21bの孔径をピン4の外径より僅かに小さくなるように設定し、この中央部21bにピン4が圧入されるようにしている。ピン孔21にピン4を圧入した状態を図4に示し、ピン4にデコンプレバー3を組付けた状態を図5に示す。この実施の形態においては、ピン4をピン孔21に容易に挿入できるように、ピン孔21の両端開口部に外方へ向かうにしたがって次第に径が大きくなるテーパー面21cを形成している。
【0018】
デコンプレバー3の組付けは、ピン4をピン孔21に圧入する工程で行う。すなわち、デコンプレバー3の一対のレバー本体11の間にカム軸2の軸部7を挿入し、レバー本体11の円形孔14とピン孔21とを同一軸線上に位置付けた状態で、ピン4を一方のレバー本体11の円形孔14を通してピン孔21に圧入する。ピン4の圧入は、図示していない油圧式のプレス装置によって静荷重を付与するようにして行う。そして、軸部7を貫通したピン4の先端部を他方のレバー本体11の円形孔14に挿入する。円形孔14の孔径は、ピン4の外径より僅かに大きくなるように設定し、カム軸2に固着したピン4にデコンプレバー3が回動自在に支持されるようにしている。
【0019】
上述したように構成したデコンプ装置1は、エンジン始動時に図1(a)に示すように押圧子12が排気弁用ロッカーアーム15のスリッパ15aを押圧するから、図示していない排気弁が圧縮行程で僅かに開いて圧縮力が低減される。このため、ハンドスタータ(図示せず)でエンジンを始動するときの負荷を軽減することができ、始動が容易になる。
【0020】
エンジン始動後、カム軸2の回転速度が上昇すると、デコンプレバー3に作用する遠心力によってデコンプレバー3が支持用ピン4を中心にして回動し、図1(b)に示すように、押圧子12が下方へ移動して前記スリッパ15aがカム6の全域に摺接するようになるとともに、ストッパー18が下方の円板状凸部19に当接する。ストッパー18が円板状凸部19に当接することによって、デコンプレバー3が過度に回動して遠心ウェイト13が排気弁用ロッカーアーム15のスリッパ15aに当接するのを阻止することができる。
【0021】
したがって、このデコンプ装置1においては、デコンプレバー支持用のピン4を一端から他端まで外径が一定になるように形成し、このピン4を挿入するカム軸2のピン孔21の両端部21aを中央部21bより径が大きくなるように形成し、前記中央部21bを圧入部としているから、圧入部の長さが短縮されて圧入時の荷重を低減することができる。このため、前記ピン4を圧入するときにカム軸2が圧入荷重によって塑性変形するのを阻止することができる。
【0022】
また、ピン孔21の両端部21aとピン4との間に微小な隙間が形成され、この隙間にオイルが保持されるから、カム軸2の回転上昇に伴って前記オイルが遠心力で前記隙間から噴出されるように勢いよく流出し、デコンプレバー3のレバー本体11の内面にかかるようになる。このため、デコンプレバー組付時に残存した切削屑や、長期にわたって使用することにより発生した摩耗粉などがオイルによって洗浄されてレバー本体11と軸部7との間に詰まるのを阻止することができるから、デコンプレバー3が常に円滑に回動できるようになる。
【0023】
(第2の実施の形態)
ピン4とピン孔21は図7および図8に示すように形成することができる。
図7はピン孔の他の実施の形態を示す断面図、図8はピンの他の実施の形態を示す正面図である。これらの図において、前記図1ないし図6で説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明は省略する。
【0024】
図7に示すピン孔21は、一端から他端まで孔径が一定になるように形成している。なお、図7において下側の開口端部には、ピン4の挿入を容易にするために、外方へ向かうにしたがって次第に径が大きくなるテーパ面21cを形成している。
【0025】
図8に示すピン4は、両端部4aを中央部4bより外径が小さくなるように形成している。前記中央部4bの外径は、ピン孔21の孔径より僅かに大きくなるように設定し、この中央部4bのみが圧入部になるようにしている。
このようにピン4とピン孔21を形成しても第1の実施の形態を採るときと同等の効果を奏する。
【0026】
第1および第2の実施の形態では船外機用エンジンに本発明に係るデコンプ装置1を適用する例を示したが、このデコンプ装置1は、カム軸が上下方向を指向するように設けられたエンジンであれば、どのようなものにも適用することができる。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、圧入代が短縮されて圧入時の荷重を低減することができるから、デコンプレバー支持用のピンをカム軸に圧入するときにカム軸が塑性変形するのを阻止することができる。
また、ピン孔の両端部と前記ピンとの間の隙間にオイルが保持されるから、カム軸の回転上昇に伴って前記オイルが遠心力で前記隙間から噴出されるように勢いよく流出し、デコンプレバーの内面にかかるようになる。このため、デコンプレバー組付時に残存した切削屑や、長期にわたって使用することにより発生した摩耗粉などがオイルによって洗浄されるから、デコンプレバーが常に円滑に回動できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るエンジンのデコンプ装置を示す正面図である。
【図2】 ピンの正面図である。
【図3】 カム軸におけるピン孔部分の断面図である。
【図4】 ピンを圧入したカム軸の断面図である。
【図5】 デコンプレバーを組付けたカム軸の断面図である。
【図6】 デコンプレバーを示す図である。
【図7】 ピン孔の他の実施の形態を示す断面図である。
【図8】 ピンの他の実施の形態を示す正面図である。
【符号の説明】
1…デコンプ装置、2…カム軸、3…デコンプレバー、4…ピン、4a…両端部、4b…中央部、6…排気弁用カム、15…ロッカーアーム、21…ピン孔、21a…両端部、21b…中央部。

Claims (2)

  1. ロッカーアームをカムの代わりに押圧するデコンプレバーを、カム軸のピン孔に圧入によって固定したピンを介して回動自在に支持させたエンジンのデコンプ装置において、前記ピン孔の軸線方向の中央部を前記ピンの両端部が前記デコンプレバーから突出するようにピンが圧入される圧入部とするとともに、前記ピン孔の軸線方向の両端部を前記中央部より径が大きくなるように形成し、このピン孔の両端部と、このピン孔を貫通した前記ピンとの間に隙間を形成し、このピンの両端部の突出部分に前記デコンプレバーを回動自在に支持させたことを特徴とするエンジンのデコンプ装置。
  2. ロッカーアームをカムの代わりに押圧するデコンプレバーを、カム軸のピン孔に圧入によって固定したピンを介して回動自在に支持させたエンジンのデコンプ装置において、前記ピンの軸線方向の中央部をこのピンの両端部が前記デコンプレバーから突出するようにカム軸に圧入する圧入部とするとともに、前記ピンの軸線方向の両端部を前記中央部より径が小さくなるように形成し、前記ピン孔の軸線方向の両端部と、このピン孔を貫通した前記ピンとの間に隙間を形成し、このピンの両端部の突出部分に前記デコンプレバーを回動自在に支持させたことを特徴とするエンジンのデコンプ装置。
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