JP3621885B2 - アクリル系重合体微粒子及びそれを用いたプラスチゾル - Google Patents
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Description
本発明は、コアシェル構造を有するアクリル系重合体微粒子に関する。さらに、本発明はアクリル系重合体微粒子を可塑剤に分散させてなるプラスチゾルに関する。さらに詳しくは、本発明は貯蔵安定性に優れ、かつ加熱成膜後の可塑剤保持性に優れたプラスチゾルに関する。
背景技術
可塑剤を媒体とし重合体微粒子を分散させてなるプラスチゾルは、多岐にわたる工業分野において利用されており、その工業的価値は著大である。とくに塩化ビニル系重合体微粒子を用いたプラスチゾルは塩化ビニルゾル(以下、塩ビゾルと略す)として知られ、その優れた物性により、壁紙、自動車用アンダーコート、自動車用ボディーシーラー、カーペットバッキング材、床材、塗料などの広い分野で使用されている。
塩ビゾルは、塩化ビニル重合体微粒子が有する特異な性質により、プラスチゾルに要求される基本的な性質、すなわち
▲1▼プラスチゾルを貯蔵中に重合体微粒子が可塑剤により膨潤あるいは溶解しないこと(以下、この性質を貯蔵安定性と略す);
▲2▼プラスチゾルを塗布し加熱処理によりゲル化物を形成し乾燥塗膜を得た後でも、該乾燥塗膜中に可塑剤が良好に保持され、経時的にブリードアウトしないこと(以下、この性質を可塑剤保持性と略す)
において非常に優れており、現在のように広く工業的に利用されるに至った。
しかしながら塩ビゾルを用いた製品については、焼却した時に塩化水素ガスが発生し、これが焼却炉を著しく損傷させてしまうという問題がかねてから指摘されていた。また近年では、塩化水素ガスによる酸性雨の問題、さらには焼却時に発生する、毒性が極めて高いダイオキシンによる人体や地球環境への悪影響などが問題視されるようになり、塩ビゾルと同等の物性を有しながら環境問題の少ない代替材料の登場が期待されていた。
そこで、塩ビゾルを代替する材料の候補として、一液ウレタン系材料、エポキシ系材料、水系エマルジョン材料、シリコーン系材料などが提案されている。しかしながらこれらの材料の生産においては、いずれも既存の塩ビゾルの生産設備を利用することが不可能であり、工業的利用にあたっては膨大な設備投資を必要とする。さらに、一液ウレタン系材料は、増粘による貯蔵安定性の不良や、毒性の問題、高コストであることなど多くの問題点を有している。エポキシ系材料は、高コストであり、物性的にも塩ビゾルにはるかに及ばない等、多くの問題点を有している。水系エマルジョンの場合には、厚塗りが不可能であること、媒体である水の蒸発に伴って塗膜にふくれが発生すること、塗膜の耐水性が不良であること、などが問題として挙げられる。シリコーン系材料も、コストが高く、また物性の点からも、代替材料となることはできない。したがって、これらの材料では塩ビゾルを代替することが極めて困難であった。
このような問題を解決するための代替材料として、近年アクリル系重合体微粒子からなるプラスチゾル、すなわちアクリルゾルが提案されている。
たとえば特開昭60−258241号公報、特開昭61−185518号公報、特開昭61−207418号公報には、塩化ビニル重合体とアクリル重合体を複合化することにより得られる新規なプラスチゾルが提案されている。しかしながらこのプラスチゾルは本質的に塩化ビニル重合体を含有するものであり、焼却時に有害なガスを発生することに関しては従来の塩ビゾルと何ら変わらないものであり、上記環境問題の解決には至っていない。
そこで塩化ビニル重合体及び他のハロゲン系重合体をまったく含有しないプラスチゾルとして、特開平5−255563号公報にアクリル系重合体からなるプラスチゾルが提案されている。上記公報で用いられている重合体は均一構造粒子であるが、アクリル系重合体の場合、プラスチゾルの貯蔵安定性と塗膜の可塑剤保持性を均一構造粒子で実現することは不可能であり、上記公報によるプラスチゾルは実用レベルにおいては貯蔵安定性がきわめて悪いか、あるいは塗膜物性がきわめて悪くなる傾向にある。
これは、アクリル系重合体は、塩化ビニル重合体と異なり、分子間に働くファンデルワールス凝集力が弱いため、可塑剤に対して相溶性の高い組成を用いると、可塑剤が容易に分子間に侵入して、可塑化すなわちゲル化を引き起こしてしまい、貯蔵安定性が不良となることに起因する。
そのため、貯蔵安定性を良好にするためには、可塑剤との相溶性を低くする必要がある。しかしながら、可塑剤との相溶性が低い重合体は、貯蔵安定性は良好なものの、ゾルを塗布し加熱成膜した後に得られる塗膜(以下、ゲル化膜と略す)の可塑剤保持性が極めて低く、経時的に可塑剤がゲル化膜からブリードアウトしてきてしまう。
このように、アクリル系重合体微粒子を用いたアクリルゾルの場合、貯蔵安定性と成膜後の可塑剤保持性の関係は相反するものであり、均一構造の重合体微粒子ではこれを満足することは不可能であった。
そこでコアシェル構造粒子を用いたアクリル系プラスチゾルとして、特開平5−279539号公報が提案されている。ここではアクリル系重合体に酸又は酸無水物を含有させた重合体を用いている。しかしながら上記公報で提案されている重合体は、可塑剤に対する相溶性が低く、特にシェル部のメチルメタクリレートの共重合比率が高いために、フタル酸エステル系可塑剤のように極性の低い可塑剤を用いた場合には可塑化状態が不良となり、良好な塗膜を得ることができない。
他に特開平6−322225号公報においては、同じくコアシェル構造粒子を用いたプラスチゾルが提案されている。ここではコアシェル構造粒子といっても、均一構造粒子を製造し、これを後にアルカリ加水分解処理を行うことによって、粒子のごく表層部のエステル基をカルボキシル基に変換するというものである。したがって、シェル部の厚みはきわめて薄く、実質的に粒子の体積の1%前後かそれ以下にすぎない。したがってシェル部の役割として期待される貯蔵安定性の改良効果はきわめて低い。またアルカリ加水分解により導入されたシェル部は酸価が非常に高くなっており、可塑剤に対する相溶性が非常に低く、成膜性を著しく低下させる。またこのような高酸価のシェル部は、プラスチゾル中で重合体粒子が構造粘性を作ることに寄与するため、プラスチゾルの粘度が高くなる等、作業性が低下するという弊害がある。
またコアシェル構造粒子を用いたプラスチゾルの他の例が特開昭53−144950号公報に提案されている。ここでは組成の異なるモノマーを段階的に重合することによりコアシェル構造を得るという手法を用いている。ここではプラスチゾルの貯蔵安定性を発現するために可塑剤に対して非相溶性のシェルを用いており、多くの可塑剤に対して低い相溶性を示すメチルメタクリレートを80重量%以上共重合したシェルを用いている。しかしながら相溶性がきわめて低いシェルは、貯蔵安定性においては有利であるが、ゾルの成膜性、得られる塗膜の強度、伸度、透明性、基材に対する密着性、防音性、制振性など各種性能において劣るという傾向を有し、特に可塑剤の保持性において劣るため、ブリードアウトを発生しやすく、実用的ではない。
コアシェル構造粒子を用いたプラスチゾルのさらなる例が特開平7−233299号公報及び特開平8−295850号公報に提案されている。ここでは基本的に可塑剤に対する相溶性を示すコア部と、可塑剤に対して非相溶性を示すシェル部とからなるコアシェル重合体を用いることにより、ごく基本的な性能を実現している。しかしながら、工業的に実用化するためにはきわめて高い物性が要求されることになり、その点においては上記公報により提案された重合体は、可塑剤との相溶性のバランスが最適化されておらず、貯蔵安定性及び塗膜の可塑剤保持性のいずれも低いレベルであり、工業的な実用化には不適当である。
このように、プラスチゾルの最も基本的な性質である貯蔵安定性と可塑剤保持性を両立させるためにアクリルゾルについて種々の検討がなされているものの、塩ビゾル代替材料としてはいずれも低レベルで工業的な実用レベルに達していないのが現状であった。
発明の開示
本発明は、塩化ビニル重合体を含有せず、貯蔵安定性が良好であり、可塑剤保持性が良好である新規なプラスチゾルを工業的に利用可能なレベルで提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、アクリル系重合体微粒子の粒子径を大きくすることにより、貯蔵安定性及び可塑剤保持性の両方に優れたアクリルゾルが得られ、また250nm以上の一次粒子径を有するコアシェル構造を有するアクリル系重合体を用い、シェル部のモノマー組成を特定し、重合体と可塑剤の相溶性をコントロールすることにより貯蔵安定性と可塑剤保持性のバランスを工業的に利用可能なレベルにまで改良できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明の主旨とするところは、以下のとおりである;
▲1▼ コア重合体Cとシェル重合体Sからなるコアシェル構造を有する一次粒子Pからなるアクリル系重合体微粒子であり、該一次粒子Pの平均粒子径が250nm以上であり、コア重合体C及びシェル重合体Sはそれぞれ以下に示すモノマー混合物Mc及びMsの共重合体であり、かつMcとMsの重量比が10/90〜90/10である上記アクリル系重合体微粒子:
▲2▼ (1)イ)水を主成分とする媒体中で、20℃において該媒体に対して0.02質量%以上の溶解度を有し、かつその重合体は該媒体に溶解しない単量体を、媒体中に乳化剤ミセルが存在しない状態において、水溶性ラジカル重合開始剤を用いて重合せしめ、重合体分散液を得る工程、
ロ)上記の重合体分散液に対して単量体混合物を滴下して被覆された重合体分散液を得る工程、
(2)上記の重合体分散液を噴霧乾燥することによって重合体微粒子を回収する工程、
を含む請求項1〜3のいずれか一項記載のアクリル系重合体微粒子の製造方法。
発明を実施するための最良の形態
本明細書において、(メタ)アクリル酸はアクリル酸及び/又はメタクリル酸を、(メタ)アクリレートはアクリレート及び/又はメタクリレートを表す。
本明細書において、また、「一次粒子」とは重合体微粒子を構成する最小単位の粒子を指す。
本発明のアクリル系重合体微粒子はコアシェル構造を有する一次粒子Pからなる。コアシェル構造を用いる理由は、アクリル系重合体の場合、均一構造では貯蔵安定性と可塑剤保持性が両立できないためである。これを詳しく説明すると、アクリル系重合体は塩化ビニル重合体と異なり、分子間に働くファンデルワールス凝集力が弱いため、可塑剤に対して相溶性の高い組成を用いると可塑剤が容易に分子間に侵入して可塑化すなわちゲル化を引き起こし、貯蔵安定性が不良となるからである。したがって貯蔵安定性を良好にするためには可塑剤との相溶性を低くする必要がある。しかしながら可塑剤に対する相溶性が低い重合体は、貯蔵安定性は良好なものの、加熱後のゲル化物の可塑剤保持性が極めて低く、経時的に可塑剤がブリードアウトしてきてしまう。つまりアクリル系重合体の場合、貯蔵安定性と可塑剤保持性の関係は相反するものであり、均一構造の重合体ではこれを満足することは不可能である。
これに対して、コアシェル構造を有する重合体において、コア重合体Cを可塑剤に対して相溶性の高い組成とし、シェル重合体Sを可塑剤に対して相溶性の低い組成とすれば、上記の相反する課題はある程度解決される。つまり、貯蔵時には重合体の周囲を完全に取り囲んでいるシェル重合体が可塑剤による膨潤・溶解を防ぐために貯蔵安定性が良好となり、逆に加熱後は活発な分子運動によりコアシェル構造が壊れているため、コアが持つ高い相溶性により可塑剤保持性が良好となる。
本発明で言うコアシェル構造とは、異なる組成のモノマー混合物を数段階にわけてシード重合することによって得られるものを言う。なお、「シード重合」とは、あらかじめ調製された重合体粒子をシード(種)とし、これに単量体を吸収・重合させて粒子を成長させる重合方法を指す。したがって、乳化重合や微細懸濁重合などによってあらかじめ均一構造の粒子を製造し、これをアルカリ加水分解などの後処理によって表面修飾した重合体粒子とは明らかに技術的に区別されなければならない。
その第一の理由は、アルカリ加水分解などの後処理によって表面修飾する方法では、粒子のごく表層部のみに薄い修飾層が導入されるだけであり、その物理的な厚みにおいて本発明が意図する十分な厚みを有したシェルとは本質的に異なるからである。
具体的には、本発明の場合、シェル部の厚みは、特に限定はされないが、一次粒子径の約10%以上であることが好ましい。
たとえば粒子径が600nmでコア/シェル重量比が50/50の場合、理論的にはそのシェルの物理的な厚みは約62nmとなり、この値はポリメチルメタクリレート分子の大きさを0.5nmとした場合に120分子以上にも及ぶ厚みであり、この厚いシェルがプラスチゾルとした場合に重合体微粒子中に可塑剤が侵入するのを防ぎ、良好な貯蔵安定性を発現するのに寄与している。
これに対して、均一構造粒子をアルカリ加水分解処理して表面修飾層を導入する場合、粒子径が600nmの場合には10nm前後か、せいぜい20nm程度である。これはメチルメタクリレート分子の大きさにして数十分子程度の厚みしかなく、この程度の薄い表面修飾層によってプラスチゾルの貯蔵安定性を付与することは実質上不可能である。また、さらにアルカリ加水分解を行おうとしても、加水分解により生じた表面修飾層は極度に高酸価であり、水溶性を示し、重合体微粒子は粒子として固定されずに水相に溶解していくため、結局十分に厚みのあるシェルと言えるほどの表面修飾層を導入することができない。
第二の理由は、アルカリ加水分解などによって導入される表面修飾層は、その組成、特に酸価を自由にコントロールすることがきわめて困難であり、可塑剤との相溶性を重視される本用途には不適当だからである。
本発明においては、特に好ましくはシード重合によって表面修飾層を導入する場合、そのシェルの組成を任意にコントロールすることができるので、プラスチゾルで重要な、可塑剤との相溶性やガラス転移温度を最適化することが可能である。これに対して、均一構造粒子をアルカリ加水分解などの後処理することによって表面修飾層を導入する場合、その組成は重合体粒子の表層部のみが非常に高酸価になるだけで、ある程度の厚みをもって組成をコントロールすることができない。
コアシェル構造を有する一次粒子Pの平均粒子径は250nm以上であることが必要である。
前述したように、コアシェル構造を利用することによりある程度はプラスチゾルの貯蔵安定性と塗膜の可塑剤保持性のバランスを調整できるものの、これをさらに工業的に利用できるレベルにまで高めるためには、一次粒子の総表面積をより小さくすること、及びシェルが一定以上の厚みを有することが必要である。すなわち、コアシェル構造を有する一次粒子の粒子径を大きくすることが必要であり、その範囲は平均粒子径で250nm以上である。平均粒子径がこれより小さい場合には、均一構造の重合体に比べれば貯蔵安定性と可塑剤保持性のバランスに優れるものの、例えば35℃×2週間といった工業的に要求される厳しい貯蔵安定性の要求基準を満足することができず、増粘により作業性が低下してしまう。
コア重合体Cを与えるモノマー混合物Mcは、モノマーの合計を100mol%とした場合、メチルメタクリレートが20〜85mol%、C2〜C8の脂肪族アルコール及び/又は芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが15〜80mol%、及びその他の共重合可能なモノマーが30mol%以下から構成されることが必要である。
メチルメタクリレートが20mol%より少ない場合、あるいはC2〜C8の脂肪族アルコール及び/又は芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが80mol%より多い場合には、コア重合体(C)自体のTgが低くなることと、コア重合体(C)の可塑剤に対する相溶性が高くなりすぎることにより、加熱により得られるゲル化物が非常に低いTgを有して粘着性などの弊害を生ずる。またこの場合コアシェル比や一時粒子径を変更しても、プラスチゾルの貯蔵安定性が不良となってしまい、実用的には不適当である。
メチルメタクリレートが85mol%より多い場合、あるいはC2〜C8の脂肪族アルコール及び/又は芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが15mol%より少ない場合には、コア重合体の可塑剤に対する相溶性が低くなり、コア重合体の本来の目的である可塑剤保持性が低下してしまい、加熱後のゲル化物が経時的に可塑剤をブリードアウトするという問題を生ずるため不適当である。
コア重合体には、その他の共重合可能なモノマーを10mol%以下の範囲で任意に使用することができる。このような共重合可能なモノマーとしては、プラスチゾルの要求性能、例えば基材への密着性、反応性等の点で付加する性能を有するモノマーを適宜用いることが可能である。
モノマー混合物Mcの好ましい組成は、モノマーの合計を100mol%とした場合、メチルメタクリレートが20〜70mol%、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート及びt−ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上の(メタ)アクリル酸エステルが30〜80mol%、及びその他の共重合可能なモノマーが20mol%以下である。
さらに好ましい組成は、モノマーの合計を100mol%とした場合、メチルメタクリレートが20〜70mol%、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート及びt−ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上の(メタ)アクリル酸エステルが30〜80mol%及びその他の共重合可能なモノマーが10mol%以下である。
これらの好ましい組成の場合、貯蔵安定性と可塑剤保持性のバランスがさらに改良され、40℃×2週間といった非常に厳しい貯蔵安定性の要求をも満足するプラスチゾルが得られ、かつこれを成膜して得た塗膜の強度及び伸度が非常に優れている。
さらにまた、工業的に入手しやすいC4アルコールの(メタ)アクリル酸エステルを利用することによるコストの低減も可能であり、工業的に有利である。
アクリルゾルに用いられるアクリル重合体微粒子は、一次粒子径が大きいので、同重量で粒子径の小さい粒子と比較した場合、可塑剤に対する接触面積が少ないため、その分シェル部のMMA量を減らしても貯蔵安定性を保持することができ、かつその減らした分だけMMA以外の成膜成分を補うことができ、成膜時の可塑剤保持性とゾル中でのアクリル重合体微粒子の貯蔵安定性の双方が向上する。
シェル重合体Sを与えるモノマー混合物Msは、モノマーの合計を100mol%とした場合、メチルメタクリレートが20〜79.5mol%、C2〜C8の脂肪族アルコール及び/又は芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが5〜40mol%、カルボキシル基又はスルホン酸基含有モノマーが0.5〜10mol%、及びその他の共重合可能なモノマーが30mol%以下から構成されることが必要である。
メチルメタクリレートが20mol%より少ない場合、あるいはC2〜C8の脂肪族アルコール及び/又は芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが40mol%より多い場合には、シェル重合体(S)の可塑剤に対する相溶性が高くなり、シェル重合体の本来の目的である貯蔵安定性の付与が不良となるため、プラスチゾルの製造作業中にゲル化してしまうなどのアクリルゾルの基本性能が不良となる傾向にある。
メチルメタクリレートが79.5mol%より多い場合、あるいはC2〜C8の脂肪族アルコール及び/又は芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが5mol%より少ない場合には、シェル重合体の相溶性が低下しすぎるため、貯蔵安定性こそ良好であるものの、加熱によりゲル化した後の塗膜の可塑剤保持性が不足し、可塑剤が経時的にブリードアウトしてくるという欠点を生じる傾向にある。
本発明においては、カルボキシル基又はスルホン酸基含有モノマーを、本発明のプラスチゾルの貯蔵安定性及びゾル中の重合体微粒子の分散性向上のために用いる。
カルボキシル基及び/又はスルホン酸基含有モノマーが0.5mol%より少ない場合、可塑剤に対するシェル重合体の相溶性が上がるため、貯蔵安定性が不良になる傾向にある。
また可塑剤中での重合体微粒子の分散状態が変化し、プラスチゾルの粘度が上がってしまい、作業性が不良となる傾向にあり好ましくない。
またカルボキシル基及び/又はスルホン酸基含有モノマーが10mol%より多い場合、可塑剤に対するシェル重合体の相溶性が下がりすぎるため、このようなゾルを用いて塗膜を形成するとゲル化物の可塑剤保持性が不良となり、ゲル化物より可塑剤が経時的にブリードアウトしてくるため不適当である。
さらにゲル化物が脆くなる傾向にあり、塗膜の強度が低下する傾向にある。さらにゲル化物の耐水性も低下する傾向にあるので好ましくない。
なお、シェル重合体には、その他の共重合可能なモノマーを30mol%以下の範囲で任意に使用することができる。このような共重合可能なモノマーとしては、プラスチゾルの要求性能、例えば基材への密着性、反応性等の点で付加する性能を有するモノマーを適宜用いることが可能である。
モノマー混合物Msの好ましい組成としては、モノマーの合計を100mol%とした場合、メチルメタクリレートが30〜79.5mol%、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート及びt−ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上の(メタ)アクリル酸エステルが5〜40mol%、カルボキシル基含有アクリル系モノマーが0.5〜10mol%、及びその他の共重合可能なモノマーが20mol%以下である。
さらに好ましい組成は、モノマーの合計を100mol%とした場合、メチルメタクリレートが55〜79.5mol%、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート及びt−ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上の(メタ)アクリル酸エステルが20〜40mol%、カルボキシル基含有アクリル系モノマーが0.5〜10mol%、及びその他の共重合可能なモノマーが10mol%以下である。
これらの好ましい組成の場合、プラスチゾルの貯蔵安定性と塗膜の可塑剤保持性のバランスがより改良され、40℃×2週間といった更に厳しい貯蔵安定性の要求をも満足するプラスチゾルが得られ、またこれを成膜して得た塗膜の強伸度が非常に優れている。
さらにまた、工業的に入手しやすいC4アルコールの(メタ)アクリル酸エステルや、カルボキシル基含有アクリル系モノマーを利用することによるコストの低減も可能であり、工業的に有利である。
コア重合体Cを与えるモノマー混合物Mcとシェル重合体Sを与えるモノマー混合物Msの重量比は10/90〜90/10であることが必要である。
コア重合体の比率が10重量%より低い場合、あるいはシェル重合体の比率が90重量%より高い場合には、可塑剤を保持する成分であるコア重合体が少なすぎるため、加熱してゲル化物を得た場合に可塑剤保持性が不足し、可塑剤が経時的にブリードアウトするという弊害を生じる。あるいはひどい場合には可塑剤に対する相溶性が低下しすぎるために、加熱してもゲル化すること自体が不可能となる。
コア重合体の比率が90重量%より多い場合、あるいはシェル重合体の比率が10重量%より少ない場合には、貯蔵安定性を付与する成分であるシェル重合体が少なすぎるため、室温においても重合体が可塑剤によって膨潤又は溶解され、プラスチゾルが増粘又はゲル化してしまうという深刻な弊害を生じる。
モノマー混合物Mcとモノマー混合物Msの重量比の好ましい範囲は30/70〜70/30である。この範囲内であれば、貯蔵安定性と可塑剤保持性のバランスが更に好適であり、40℃×2週間といった更に厳しい貯蔵安定性の要求を満足できるプラスチゾルが得られる。
本発明で用いるC2〜C8の脂肪族アルコール及び/又は芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルは特に限定しないが、例えばエチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の直鎖脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類、又はシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環式脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類が利用できる。中でも好ましくは、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレートが利用できる。これらのモノマーは容易に入手することができ、工業的な実用化の点で有意義である。
本発明で用いるカルボキシル基又はスルホン酸基含有モノマーとしては特に限定せず、例えばメタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、メタクリル酸、2−サクシノロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリル酸、2−マレイノロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸、メタクリル酸、2−フタロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリル酸、2−ヘキサヒドロフタロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシル基含有モノマー、アリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー等が利用できる。好ましくはメタクリル酸、アクリル酸でありこれらは工業的に安価で容易に入手することができ、他のアクリル系モノマー成分との共重合性も良く生産性の点でも好ましい。
またこれらの酸基含有モノマーはアルカリ金属などの塩になっていることも可能であり、例えばカリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩等が挙げられる。これらは水媒体中で重合する際に塩の形になることも可能であり、また重合後に塩の形になることも可能である。
本発明のコア重合体及びシェル重合体で用いる、その他の共重合可能なモノマーとしては、例えばラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のC9以上のアルコールの(メタ)アクリレート類;アセトアセトキエチル(メタ)アクリレート等のカルボニル基含有(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート類;N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等のアクリルアミド及びその誘導体;スチレン及びその誘導体;酢酸ビニル;ウレタン変性アクリレート類;エポキシ変性アクリレート類;シリコーン変性アクリレート類等が広く利用可能であり、用途に応じて使い分けることができる。
本発明で用いる可塑剤として、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル等のフタル酸ジアルキル系、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸アルキルベンジル系、フタル酸アルキルアリール系、フタル酸ジベンジル系、フタル酸ジアリール系、リン酸トリクレシル等のリン酸トリアリール系、リン酸トリアルキル系、リン酸アルキルアリール系、アジピン酸エステル系、エーテル系、ポリエステル系、エポキシ化大豆油等の大豆油系等が利用可能である。これらは、それぞれの可塑剤に応じた特色、すなわち耐寒性、難燃性、耐油性、低粘度、低チキソトロピー等の、プラスチゾルに要求される物性に応じて配合することができる。
このうち、工業的に安価で入手しやすいこと、また作業性、低毒性などの点から、フタル酸エステル系可塑剤が好ましい。
またこれらの可塑剤は1種を単独で用いるだけでなく、目的に応じて2種以上の可塑剤を混合して用いることも可能である。
本発明のアクリル系重合体微粒子の製造方法は、上述した組成と構造が得られる限り特に限定せず、たとえばシード重合によりコアシェル型粒子を調製し、これをスプレードライ法(噴霧乾燥法)又は凝固法により固形分を回収する方法などが挙げられる。
250nm以上のコアシェル粒子を得るためには、シード重合を何回も繰り返すことにより粒子を成長させる方法、ソープフリー重合によって得る方法、乳化剤の量を制限する方法、乳化力の弱い乳化剤又は保護コロイド等を用いる方法などが広く利用可能である。
このうち、好ましくは、ソープフリー重合により比較的大きな粒子径を有するシード粒子を調製しておき、これに対して任意の組成のモノマー混合物を逐次滴下していくシード重合を用いることが、工業的に簡便な方法である。
さらに好ましくは、水を主成分とする媒体中で、20℃において該媒体に対して0.02質量%以上の溶解度を有し、かつその重合体は該媒体に溶解しない単量体を、媒体中に乳化剤ミセルが存在しない状態において水溶性ラジカル重合開始剤を用いて重合せしめ、重合体分散液を調製し、さらに上記の重合体分散液に対して単量体混合物を滴下して被覆された重合体分散液を得る方法が好適である。
この理由は、媒体に対して0.02質量%未満の溶解度しか有さない単量体の場合はソープフリー重合自体がきわめて進行しにくいからである。また単量体から得られる重合体が該媒体に溶解してしまう場合、粒子の形成が行われないことになるから、そもそも重合体粒子を得ることができない。また媒体中に乳化剤ミセルが存在する場合、当然のことながらソープフリー重合の定義から外れるため、不適当であることは言うまでもない。この手法を用いることにより、工業的に簡便で、かつスケールの発生や微粒子の発生などが抑制され、安定に目的とする粒子を得ることができるため有利である。
本発明のアクリル系重合体微粒子は、コアシェル構造を有した一次粒子Pからなっていれば二次以上の高次構造は特に限定されず、例えば一次粒子が弱い凝集力で凝集した粒子、強い凝集力で凝集した粒子、熱により相互に融着した粒子といった二次構造をとることが可能であり、さらにはこれらの二次粒子を顆粒化などの処理によってより高次の構造を持たせることも可能である。これらの高次構造は、たとえば微粒子の粉立ちを抑制したり流動性を高める等、作業性を改善する目的で行うこともできるし、微粒子の可塑剤に対する分散状態を改質する等、物性の改善のために行うこともでき、用途と要求に応じて設計することが可能である。
本発明で用いるコアシェル構造を有する一次粒子Pにおいて、コア重合体Cとシェル重合体Sがグラフト交叉剤によってグラフト結合させることも可能である。この場合のグラフト交叉剤としてはアリルメタクリレート等が利用できる。
本発明で用いるコアシェル構造を有する一次粒子Pにおいて、コア重合体C及び/又はシェル重合体Sが架橋されていることも可能である。この場合の架橋性モノマーとしては、前述した多官能モノマーを利用することができる。また多官能モノマー以外にも、二価以上のアルカリ金属又は多官能アミン類などを添加することによりカルボキシル基又はスルホン酸基とのイオン架橋を用いることも可能である。
本発明のプラスチゾルには、用途に応じて各種の添加剤(材)を配合することが可能である。例えば炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、パライタ、クレー、コロイダルシリカ、マイカ粉、珪砂、珪藻土、カオリン、タルク、ペンナイト、ガラス粉末、酸化アルミニウム等の充填材、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、ミネラルターペン、ミネラルスピリット等の希釈剤、消泡剤、防黴剤、防臭剤、抗菌剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、香料、発泡剤、レベリング剤、接着剤等を自由に配合することが可能である。
本発明のプラスチゾルは、浸漬、噴射、刷毛塗り、又はドクター塗り等の公知の方法で金属又は被金属基体上に5μm〜5mm厚で塗布し、温度90℃〜200℃でゲル化することができる。また、適当な型中でゲル化することによって、成形体を製造することもできる。
以下に、本発明を実施例を用いて説明する。実施例中の評価方法は以下のとおりである。なお、以下「部」は「重量部」を表す。
プラスチゾル粘度
得られたプラスチゾルを恒温水槽にて25℃に保温した後、E型粘度計を用いて、回転数5rpmにおいて1分後の粘度(単位:Pa・S)を測定し、以下のように評価した。
○:30未満
△:30以上50未満
×:50以上
貯蔵安定性
プラスチゾルを40℃の恒温槽にて保温し、1週間後に取り出して再び粘度を測定した。プラスチゾルの増粘率は以下のようにして計算し(単位:%)、評価した。
(貯蔵後の粘度/初期の粘度)×100(%)
◎:20未満
○:20以上40未満
△:40以上100未満
×:100以上
ゲル化塗膜の作成及び強伸度の測定
プラスチゾルを剥離紙を敷いたガラス板の上に2mm厚に塗布し、140℃×20分加熱してゲル化させ、均一な塗膜を得た。これをガラス板から剥離した後、15mm幅×80mm長に切り出し、両端から15mmずつをつかみ部分とし、テンシロン測定器により強伸度の測定を行った。試験速度は200mm/分であった(単位:強度MPa、伸度%)。評価は以下のように行った。
可塑剤保持性
アクリル重合体微粒子2部、フタル酸ジオクチル(DOP)4部を均一に混合し、アルミ皿に流し込んで140℃×20分の加熱によりゲル化させた。これをいったん室温まで放冷した後、40℃の恒温槽にて2週間保存し、ゲル化物からの可塑剤のブリードアウトの有無を目視及び触覚にて判断した。
○:ブリードアウトなし
×:ブリードアウトあり
実施例1〜13
重合体微粒子A1〜A12の製造
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した5リットルの4つ口フラスコに、純水1414gを入れ、30分間十分に窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、メチルメタクリレート45.6g、n−ブチルメタクリレート34.9gを入れ、150rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点で、28gの純水に溶解した過硫酸カリウム0.70gを一度に添加し、ソープフリー重合を開始した。そのまま80℃にて攪拌を60分継続し、シード粒子分散液を得た。
引き続きこのシード粒子分散液に対して、モノマー乳化液(メチルメタクリレート420.8g、n−ブチルメタクリレート348.16g、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:ペレックスO−TP)7.00g、純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を2.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
引き続きこの重合体分散液に対して、モノマー乳化液(メチルメタクリレート533.1g、n−ブチルメタクリレート199.1g、メタクリル酸24.08g、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:ペレックスO−TP)7.00g、純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を2.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
得られた重合体分散液を室温まで冷却した後、スプレードライヤー(大川原化工機(株)製、L−8型)を用いて、入口温度170℃、出口温度75℃、アトマイザ回転数25000rpmにて噴霧乾燥し、重合体微粒子A1を得た。
同様にして、表1に示した組成のアクリル系重合体粒子A2〜A12を製造した。
プラスチゾルの調製
得られたアクリル系重合体微粒子A1−A12の各々100部に対し、フタル酸ジオクチル(DOP)140部、炭酸カルシウム100部を計量し、ディスパーミキサーにて攪拌(約2000rpm×2分)し、さらに減圧脱泡して均一な各プラスチゾルを得た。
これらのアクリル系重合体粒子A1〜A12を表2の配合処方にしたがって配合してプラスチゾルを得た。得られたプラスチゾルの評価を行った。その結果を表2に併記する。
実施例1〜13はC4脂肪族アルコールのメタクリル酸エステルとしてn−ブチルメタクリレート又はi−ブチルメタクリレートを用いた例である。いずれの場合もフタル酸ジアルキルエステル系可塑剤として、ジ−2−エチルヘキシルフタレート又はジ−i−ノニルフタレートを用いている。いずれの場合も、最も好ましい範囲で各モノマーの組成を変更した場合である。実施例5はシェル重合体にその他のモノマーとして2ーヒドロキシエチルメタクリレートを用いた場合である。実施例6〜8は粒子径が1000nmを上回るコアシェル構造粒子を用いた例である。実施例9はその他のモノマーとしてスチレンを用いた場合である。実施例10はその他のモノマーとして二官能モノマーであるエチレングリコールジメタクリレートを用いた場合である。実施例11はその他のモノマーとして反応性モノマーであるN−ブトキシメチルアクリルアミドを用いた場合である。実施例12はその他のモノマーとしてアリルメタクリレートを用いた場合である。実施例13は実施例1と同じ重合体A1を用いて、添加剤としてブロックイソシアネートを配合した場合である。
いずれの場合も物性は良好であり、とくにプラスチゾルの貯蔵安定性、塗膜の強度及び伸度がたいへん優れていた。
比較例1〜9
実施例1と同様の手法により表1に示した組成の重合体微粒子A'1〜A'9を製造し、同様に表2に示した配合にしたがってプラスチゾルを調製した。当該プラスチゾルの評価結果を表2に併記する。
比較例1はシェル重合体の比率を95%にまで上げた例(A'1)であるが、この場合には可塑剤に対して良好な相溶性を有するコア重合体が少なすぎるため、可塑剤が経時的にブリードアウトし、可塑剤保持性は不良であった。比較例2はコア重合体の比率を95%にまで上げた例(A'2)であるが、この場合には可塑剤に配合した途端にゲル化が進行し、貯蔵安定性はきわめて不良であり、ゲル化塗膜として評価するに至らなかった。比較例3はコア重合体のC4脂肪族アルコールのメタクリル酸エステルであるnBMAを10mol%に低減した例(A'3)であるが、この場合はコア重合体の可塑剤に対する相溶性が著しく低下するため、ゲル化物から可塑剤が経時的にブリードアウトし、可塑剤保持性は不良であった。比較例4はシェル重合体のC4脂肪族アルコールのメタクリル酸エステルであるnBMAを2mol%にまで低減した場合(A'4)であるが、この場合にも可塑剤のブリードアウトが生じ、可塑剤保持性は不良であった。比較例5はコア重合体のC4脂肪族アルコールのメタクリル酸エステルであるnBMAを85mol%に増加した例(A'5)であるが、この場合はコア重合体の可塑剤に対する相溶性が著しく上昇し、好適な範囲を超えてしまうため、貯蔵安定性は極めて不良であった。比較例6はシェル重合体のC4脂肪族アルコールのメタクリル酸エステルであるnBMAを45mol%にまで増加した場合(A'6)であるが、この場合には本来可塑剤に対して相溶性であるべきシェルが高相溶性となるため、可塑剤を配合した直後からゲル化が進行し、貯蔵安定性は極めて不良であり、ゲル化塗膜として評価するに至らなかった。比較例7はシェル重合体のカルボキシル基含有モノマーであるメタクリル酸を0.2mol%にまで低減した例(A'7)であるが、この場合には可塑剤中における重合体微粒子の分散状態が変化し、プラスチゾルの粘度が高く、不良となった。比較例8はシェル重合体のカルボキシル基含有モノマーであるメタクリル酸を12mol%にまで増加した例(A'8)であるが、この場合には可塑剤に対する相溶性が著しく低下し、ゲル化状態が不良となり、強度が低下した。またブリードアウトを発生し、可塑剤保持性が不良であった。比較例9はコアシェル構造を有する一次粒子の粒子径を80nmにした場合(A'9)である(この場合には乳化剤としてフレークマルセルではなく花王(株)製 商品名:ペレックスSS−Hを用いた)。この場合には一次粒子の総表面積が非常に増加することと、コア重合体を可塑剤による溶解から保護しているシェル重合体の厚みが不足するため、貯蔵安定性は低下し、実用に耐えられなかった。
比較例10〜12
特開平7−233299号公報に示された実施例に従い、表1に示す組成の重合体粒子A'10〜A'12を製造し、実施例1と同様に表2に示した配合にしたがってプラスチゾルを調製した。当該プラスチゾルの評価結果を表2に併記する。
比較例10〜12は特開平7−233299号公報により提案された重合体(A'10〜A'12)を用いた場合である。比較例10及び11は初期状態としては良好なプラスチゾルを与えたが、メチルメタクリレートの比率が高すぎるため、フタル酸ジアルキルエステル系可塑剤を用いた場合には塗膜と可塑剤の相溶性が低すぎ、伸度及び可塑剤保持性が十分ではなかった。比較例12ではコア重合体のメチルメタクリレート比率が高すぎることと、シェル重合体にカルボン酸又はスルホン酸基含有モノマーが用いられていないため、プラスチゾルの貯蔵安定性が低く、塗膜物性の評価には至らなかった。
比較例13〜14
特開平8−295850号公報に示された実施例に従い、表1に示す組成の重合体粒子A'13〜A'14を製造し、実施例1と同様に表2に示した配合にしたがってプラスチゾルを調製した。当該プラスチゾルの評価結果を表2に併記する。
比較例13〜14は特開平8−295850号公報により提案された重合体を用いた場合(A'13〜A'14)である。比較例13ではシェル重合体のメチルメタクリレート比率が高すぎるため、貯蔵安定性は良好なものの、塗膜の伸度と可塑剤保持性が不良であった。比較例14ではコアのメチルメタクリレート比率が低すぎるため、貯蔵安定性が不良であり、塗膜物性の評価には至らなかった。
比較例15〜16
特開平5−279539号公報に示された実施例に従い、表1に示す組成の重合体粒子A'15〜A'16を製造し、実施例1と同様に表2に示した配合にしたがってプラスチゾルを調製した。当該プラスチゾルの評価結果を表2に併記する。
比較例15〜16は特開平5−279539号公報により提案された重合体を用いた場合(A'15〜A'16)である。いずれもシェル重合体のメチルメタクリレート比率が高すぎるため、ジ−2−エチルヘキシルフタレートでは可塑化できず、ここではジオクチルフタレートを用いて配合している。いずれも初期粘度は良好であるが、貯蔵安定性が不良であった。また塗膜の強度がやや低く不良であった。
比較例17〜20
特開平5−255563号公報に示された実施例に従い、表1に示す組成の重合体粒子A'17〜A'20を製造し、実施例1と同様に表2に示した配合にしたがってプラスチゾルを調製した。当該プラスチゾルの評価結果を表2に併記する。
比較例17〜20は特開平5−255563号公報により提案された重合体を用いた場合(A'17〜A'20)である。この公報で提案されている重合体はコアシェル構造粒子ではなく均一構造粒子であり、本発明が目的とするものとは粒子構造において異なる。プラスチゾルを配合する時の可塑剤は、上記公報により示されたものを用いた。比較例17では貯蔵安定性が不良であり、塗膜強度もやや不良であった。比較例18では貯蔵安定性が不良であった。比較例19では重合体と可塑剤の相溶性が高すぎて、貯蔵安定性が不良であり、塗膜の強度も低いものとなった。
比較例21〜24
特開平6−322225号公報に示された実施例に従い、表1に示す組成の重合体粒子A'21〜A'24を製造し、実施例1と同様に表2に示した配合にしたがってプラスチゾルを調製した。当該プラスチゾルの評価結果を表2に併記する。
比較例21〜24は特開平6−322225号公報により提案された重合体を用いた場合(A'21〜A'24)である。本公報ではコアシェル構造粒子を用いると書いてあるが、ここで言うコアシェル構造粒子とははじめにアクリル樹脂からなる均一構造粒子を製造し、この粒子の表面のエステル結合を加水分解することにより粒子表面にのみカルボキシル基を導入するというものである。上記公報の条件で重合体粒子をアルカリ処理した場合、加水分解されるエステル結合は粒子表面から数nm程度の範囲である。したがって本発明で言うコアシェル構造粒子と較べるとシェル重合体の比率が大きく異なり、本発明の場合、重合体粒子の30〜70mol%であるが、上記公報の場合には多く見積もっても5mol%以下である。とくに上記公報で用いている重合体粒子の平均粒子径が2ミクロン程度であることを考慮すると、粒子体積に対する粒子表面積は非常にわずかであり、したがって実際にはシェル重合体の比率は1mol%以下であると計算される。したがって表1ではコアシェル比を99/1と記載してある。
比較例21〜22の場合、メチルメタクリレート主体の組成であるため、これを良好に可塑化するためには極性の高い可塑剤を用いる必要があり、アルキル鎖の短いフタル酸ジアルキルエステル系可塑剤を用いている。したがってプラスチゾルの貯蔵安定性が不良であり、塗膜もやや低強度である。比較例23では貯蔵安定性及び塗膜強度がやや不足している。比較例24では貯蔵安定性がやや不足し、塗膜強度が大幅に低下した。
比較例25〜26
特開昭53−144950号公報に示された実施例に従い、表1に示す組成の重合体粒子A'25〜A'26を製造し、実施例1と同様に表2に示した配合にしたがってプラスチゾルを調製した。当該プラスチゾルの評価結果を表2に併記する。
比較例25〜26は特開昭53−144950号公報により提案された重合体を用いた場合(A'25〜A'26)である。比較例25の場合、重合体の可塑剤に対する相溶性が低いため、貯蔵安定性としては十分であるが、可塑剤保持性が低く、ブリードアウトが発生し、伸度が低い。比較例26の場合、コア部の相溶性が改良されたが、シェル部のメチルメタクリレート共重合比率が高すぎ、全体としては相溶性が低すぎるため可塑剤保持性が低くブリードアウトが発生する。
以上詳述したように、本発明のアクリル系重合体微粒子を用いたプラスチゾルは、塩化ビニル重合体を用いた塩ビゾルと同等の優れた貯蔵安定性と優れた可塑剤保持性を有しながら、かつ塩ビゾルの有する環境への悪影響の無いプラスチゾルを提供することができ、その工業的意義及び地球環境保全にもたらす効果は著大である。
表1中の略号は以下の通りである。
MMA:メチルメタクリレート
nBMA:n−ブチルメタクリレート
iBMA:i−ブチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
St:スチレン
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
NBMA:N−ブトキシメチルアクリルアミド
AMA:アリルメタクリレート
BzMA:ベンジルメタクリレート
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
EMA:エチルメタクリレート
AA:アクリル酸
nBA:nブチルアクリレート
表2中の略号は以下の通りである。
DOP:ジ−2−エチルヘキシルフタレート
DINP:ジイソノニルフタレート
DOPh:ジオクチルフォスフェート
DBP:ブチルベンジルフタレート
DEP:ジエチルフタレート
CaCO3:炭酸カルシウム
表中の単位は以下の通りである。
配合:重量部
粘度:Pa・S
貯蔵安定性:%
強度:MPa
伸度:%
産業上の利用可能性
本発明のプラスチゾルは、優れた貯蔵安定性を有し、かつゲル化性能にも優れており、さらに得られる塗膜の強度、伸度ともに優れていることから、塩ビゾルが従来広く使用されている各種用途、例えばパッキング、ガスケット、壁紙等の内装品、玩具、日用品、雑貨、鋼(スチロール)製基材の摩耗及び腐食防止塗料、例えば自動車、トラック、及びバスの底部の抗チップ塗膜用などの各種コーティング、フィルム、シート等の成形やコーティングに広く使用することができる。
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