JP2007150265A - 磁気抵抗効果素子および磁気記憶装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】磁化反転電流密度を低減する。
【解決手段】磁気抵抗効果素子は、膜面に垂直方向である双方向の電流通電により磁化の方向が変化しかつ情報を記録する磁化記録層13と、磁化の方向が固着された磁化参照層11と、磁化記録層13および磁化参照層11間に設けられた非磁性層12とを具備する。磁化記録層13は、非磁性層12に接するように設けられかつ第1の磁気異方性エネルギーを有する界面磁性層と、第1の磁気異方性エネルギーより大きい第2の磁気異方性エネルギーを有する磁化安定化層15とを含む。
【選択図】 図1
【解決手段】磁気抵抗効果素子は、膜面に垂直方向である双方向の電流通電により磁化の方向が変化しかつ情報を記録する磁化記録層13と、磁化の方向が固着された磁化参照層11と、磁化記録層13および磁化参照層11間に設けられた非磁性層12とを具備する。磁化記録層13は、非磁性層12に接するように設けられかつ第1の磁気異方性エネルギーを有する界面磁性層と、第1の磁気異方性エネルギーより大きい第2の磁気異方性エネルギーを有する磁化安定化層15とを含む。
【選択図】 図1
Description
本発明は、磁気抵抗効果素子および磁気記憶装置に関する。
近年、新しい原理に基づいて情報を記録する固体メモリが多数提案されているが、中でも、固体磁気メモリとして、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistive)効果を利用した磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)が脚光を浴びている。MRAMは、データをMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子の磁化状態により記憶する点に特徴を有する。
磁場書き込み型MRAMにおいては、MTJ素子のサイズを縮小すると保持力Hcが大きくなるために、書き込みに必要な電流が大きくなる。実際には、大きな記憶容量(256Mbits超)を有するMRAMを作製するには、チップサイズの縮小が必要であり、それを実現するためにはチップ内におけるセルアレイ占有率を上げ、MTJ素子のサイズ縮小を抑えつつ、書き込み電流の低減が必要である。しかしながら、磁場書き込み型MRAMでは、大容量化に向けたセルサイズの微細化は不可能であり、大きな記憶容量を有するMRAMの製造には適用できない。
このような課題を克服する書き込み方式として、スピン注入書き込み方式を用いたスピン注入型MRAMが提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2)。
スピン注入型MRAMでは、磁化反転に必要な電流Icは、電流密度Jcで規定される。従って、素子面積Sが小さくなれば、磁化反転するための電流Icも小さくなる。磁場書き込み型MRAMに比べると、スケーラビリティに優れることが期待される。しかしながら、現状のスピン注入型MRAMにおいては、その磁化反転電流密度Jcは、107A/cm2台と非常に大きい。
よって、TMR膜を用いる場合、所望の電流密度に達する前に、トンネルバリア層の破壊電圧Vbdに到達してしまい、トンネルバリア層が絶縁破壊するという課題を有している。また、たとえ絶縁破壊しなくとも、高電圧下での動作信頼性が確保されないという問題がある。
さらに、スピン注入による磁化反転電流は、記録層の体積に比例する。従って、磁化反転電流密度は、記録層の膜厚に比例する。一般的に、膜厚が厚くなればなるほど、必要な磁化反転電流は大きくなることが知られている。一方で、熱の影響(熱擾乱という)を考慮すると、記録層に記録された情報を保持するためには、一般的には記録層の体積が所望の値以上必要となる。
熱擾乱により磁化反転せず、記録情報を保持するために必要なエネルギーは、Ku・V=Ku・S・t(記録層の単位体積あたりの磁気異方性エネルギーKuと記録層の体積V(記録層の面積Sと膜厚tとの積)との積)で規定される。“Ku・V”はどのサイズにおいても所望値以上でなければならず、磁気異方性エネルギーKuが一定であることから、素子面積を縮小すると、記録層の膜厚を厚くしなければならない。その結果、磁化反転電流密度Jcが大きくなるという問題を抱えている。
米国特許第6,256,223号明細書
C. Slonczewski, "Current-driven ecitation of magnetic multilayers", JORNAL OF MAGNETISM AND MAGNETIC MATERIALS, VOLUME 159, 1996, p.L1-L7
L. Berger, "Emission of spin waves by a magnetic multilayer traversed by a current", PHYSICAL REVIEW B, VOLUME 54, NUMBER 13, 1996, p9353-9358
本発明は、熱安定性を維持しつつ、磁化記録層の実質的な膜厚を低減して磁化反転電流密度を大幅に低減することが可能な磁気抵抗効果素子および磁気記憶装置を提供する。
本発明の第1の視点に係る磁気抵抗効果素子は、膜面に垂直方向である双方向の電流通電により磁化の方向が変化しかつ情報を記録する磁化記録層と、磁化の方向が固着された磁化参照層と、前記磁化記録層および前記磁化参照層間に設けられた非磁性層とを具備する。前記磁化記録層は、前記非磁性層に接するように設けられかつ第1の磁気異方性エネルギーを有する界面磁性層と、前記第1の磁気異方性エネルギーより大きい第2の磁気異方性エネルギーを有する磁化安定化層とを含む。
本発明の第2の視点に係る磁気抵抗効果素子は、磁化の方向が固着された第1の磁化参照層、第1の非磁性層、膜面に垂直方向である双方向の電流通電により磁化の方向が変化しかつ情報を記録する磁化記録層、第2の非磁性層、および磁化の方向が固着された第2の磁化参照層が順に積層された積層構造を具備する。前記磁化記録層は、前記第1および第2の非磁性層にそれぞれ接するように設けられかつ第1および第2の磁気異方性エネルギーを有する第1および第2の界面磁性層と、前記第1および第2の界面磁性層間に設けられかつ前記第1および第2の磁気異方性エネルギーより大きい第3の磁気異方性エネルギーを有する磁化安定化層とを含む。
本発明の第3の視点に係る磁気記憶装置は、前記磁気抵抗効果素子と、この磁気抵抗効果素子に対して通電を行う第1および第2の電極とを含むメモリセルを具備する。
本発明によれば、熱安定性を維持しつつ、磁化記録層の実質的な膜厚を低減して磁化反転電流密度を大幅に低減することが可能な磁気抵抗効果素子および磁気記憶装置を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子(MR素子)10の構成を示す断面図である。図中の矢印は、磁化方向を示している。また、図1には、例えば面内磁化配列を有するMR素子10について示している。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子(MR素子)10の構成を示す断面図である。図中の矢印は、磁化方向を示している。また、図1には、例えば面内磁化配列を有するMR素子10について示している。
本実施形態では、MR素子10に膜面に垂直方向である双方向の電流を流して電子が持っているスピンの作用により磁化記録層の磁化を反転させる方法(スピン注入磁化反転)を用いている。すなわち、MR素子10は、スピン偏極した電子の供給(スピン注入)によって磁化反転させることが可能なスピン注入型磁気抵抗効果素子である。
MR素子10は、界面磁性層14と磁化安定化層15との積層構造からなる磁化記録層(フリー層)13と、磁化参照層(ピン層)11と、これら磁化記録層13および磁化参照層11の間に挟まれた非磁性層12とから構成される。磁化記録層13は、磁化の方向が反転する。磁化参照層11は、磁化の方向が固着されており、情報の読み出し時あるいは書き込み時に参照される層である。
磁化参照層11および磁化記録層13の容易磁化方向は、膜面に平行である。なお、容易磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが低くなる方向である。困難磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが大きくなる方向である。
磁気異方性エネルギーの小さい磁性体は、容易磁化方向は磁性体の形状に依存し、一般的には長辺方向が容易磁化方向となりやすい。誘導磁気異方性が付与できるものは、磁場中での熱処理および磁場中での成膜などにより容易磁化方向を磁場印加方向に決められる。また、結晶磁気異方性が大きい材料では結晶学的に安定な方向が容易磁化方向となる。ここで、結晶磁気異方性は、全ての磁性材料が持っているものであるが、結晶磁気異方性が大きいとは、5×105erg/cm2以上のものとする。
このように構成されたMR素子10に情報を書き込む動作について、物理的な観点から説明する。尚、本実施形態において、電流は、電子(e−)の流れをいうものとする。
現象論的には、磁化記録層13から磁化参照層11に電流通電することにより、“1”データを書き込み、磁化参照層11から磁化記録層13に電流通電することにより、“0”データを書き込むことになる。
図1において、MR素子10に磁化参照層11から磁化記録層13に向かう膜面垂直方向の電流を流すと、磁化参照層11内でのスピン蓄積効果により、スピン偏極した電子が磁化参照層11から磁化記録層13へ流れる。この場合、磁化参照層11内で偏極したマイノリティーのスピンをもつ電子は磁化参照層11で反射されるが、磁化参照層11内で偏極したマジョリティーのスピンをもつ電子は磁化参照層11を通過して磁化記録層13に入る。
このマジョリティーのスピンをもつ電子は、磁化記録層13の磁気モーメントにトルクを与え、磁化記録層13の磁化を磁化参照層11のそれと平行に揃える。これにより、磁化参照層11の磁化の方向と磁化記録層13の磁化の方向とが平行配列となる。この平行配列状態のときは、MR素子10の抵抗値は最も小さくなる。この場合を、“0”データと規定する。
一方、MR素子10に磁化記録層13から磁化参照層11に向かう膜面垂直方向の電流を流すと、スピン偏極した電子が磁化記録層13から磁化参照層11へ流れる。この場合、マジョリティーのスピンをもつ電子は磁化参照層11を通過するが、マイノリティーのスピンをもつ電子は磁化参照層11で反射され、スピン角運動量を保ったまま(スピンの方向を変えずに)磁化記録層13内に戻る。
このマイノリティーのスピンをもつ電子は、磁化記録層13の磁気モーメントにトルクを与え、磁化記録層13の磁化を磁化参照層11のそれと反平行に揃える。これにより、磁化参照層11の磁化の方向と磁化記録層13の磁化の方向とが反平行配列となる。この反平行配列状態のときは、MR素子10の抵抗値は最も大きくなる。この場合を、“1”データと規定する。
このようにして、MR素子10に情報(“1”データおよび“0”データ)を記録することができる。情報の読み出しは、MR素子10に読み出し電流を流し、MR素子10の抵抗値の変化を検出することで行う。
次に、MR素子10を構成する各層の具体的な例について説明する。始めに、非磁性層12の構成について説明する。非磁性層12には、絶縁体、金属、あるいはそれらの混晶を用いることができる。絶縁体を用いる場合は、トンネル磁気抵抗効果を利用したTMR(Tunneling Magnetoresistive)素子となり、金属を用いる場合は、CPP(Current Perpendicular to Plane)−GMR(Giant Magnetoresistive)素子となる。これらを総称してMR(Magnetoresistive)素子と呼ぶ。
TMR素子の場合には、非磁性層であるトンネルバリア層として、AlOx、MgO、CaO、EuO、SrO、BeO、MgO/Mg、AlOx/Al、TiOx、ZrOx、HfOx、およびこれらの積層膜などが用いられる。
中でも、MgOは、最もMR比が大きく、100%以上のMR比を実現できるので好ましい。MgOはマジョリティースピンのトンネル確率のみが非常に大きく、スピンフィルター効果を有する酸化物材料の代表である。従って、磁化記録層13および磁化参照層11の持つスピン分極率以上のTMRを発現することが可能となる。MgOを用いた場合、TMR素子の抵抗×面積(RA:resistance and area product)が5乃至100Ωμm2で100%以上のMR比を実現できる。MgOはNaCl構造を有しており、(001)面に配向している場合がMR比の観点から最も好ましい。なお、(110)面あるいは(111)面に配向している場合でも100%以上の十分に大きなMR比を得ることが可能である。
MgOの上部あるいは下部には、膜厚0.5nm以下のMg層を挿入することがMR比の向上の観点から好ましい。磁化参照層11とMgO層との界面、あるいは界面磁性層14とMgO層との界面において、Fe−MgあるいはCo−Mgの結合を優勢にすることにより、さらにMR比を改善することができる。すなわち、磁化参照層11とMgO層あるいは界面磁性層14とMgO層との界面におけるFe−O、Co−O、Ni−O、Mn−O、Cr−Oなどのような界面磁性層元素との酸化物の形成を抑制できる。TMR低下をおさえるためにも、Mg挿入層の膜厚は、3原子層以下程度、すなわち、0.5nm以下程度が好ましい。
非磁性層12としてのMgO層は、MgOターゲットあるいはMgターゲットを用いてスパッタリング法にて成膜される。あるいは、O2雰囲気中で反応性スパッタリング法により成膜してもよい。Mg層を成膜した後に、酸素ラジカル、酸素イオン、あるいはオゾンなどにより酸化することでも形成可能である。さらに、MgOを用いた分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法あるいは電子ビーム蒸着(electron beam evaporation)法によりエピタキシャル成長させることで、MgO層を成膜することも可能である。
エピタキシャル成長させる場合には、MgOの配向性に基づいて、選択する下地層となる磁性層の配向性が決まる。MgO(001)、MgO(111)、MgO(110)には、その下地層となる磁性層は、それぞれに対応してbcc(body-centered cubic)構造(001)、fcc(face-centered cubic)構造(111)、bcc構造(110)であることが好ましい。bcc構造の材料としては、Fe、Fe100−xCox(0<x<70、at%)、1nm以下のCo、或いはCo合金材料が好ましい。さらにbcc構造材料としては、Feがリッチな組成であるFe100(CoNi)100−x(0≦x<50、at%)であってもよい。
磁化参照層11に膜厚が3nmのCo40Fe20B20(at%)を用い、非磁性層12に膜厚が1nmのMgO(001)を用い、界面磁性層14に膜厚が1nmのCo40Fe40B20(at%)を用いた場合、RAが10Ωμm2でMR比150%のTMR素子が得られる。この時の具体的なTMR膜構成は、Ta5/Co40Fe40B203/MgO0.75/Mg0.4/Co40Fe40B203/Ru0.85/Co90Fe102.5/PtMn15/Ta5//基板である。
スピン注入磁化反転を用いたMRAMを実現するには、磁化反転電流密度Jcが1×106A/cm2未満であることが好ましい。この理由は、耐電圧とMR比の関係による。まず、MgOの耐電圧は約1Vであるので、実際の磁化反転電圧は1V以下でなければならない。ここで、RAが2Ωμm2以上100Ωμm2以下の場合のMgOバリア膜でのMR比は、100%以上を確保でき、回路動作上問題のないレベルとなる。従って、上限値1Vで、RAが100Ωμm2以下であることが必須となり、結果的に1×106A/cm2の電流密度Jcを確保することが必須となる。
100Ωμm2以下のRAを達成するためには、非磁性層12にMgOを用いた場合、MgOの膜厚が1.5nm以下であることが必要であり、さらにはRAを10Ωμm2以下に設定する場合には、MgOの膜厚が1nm以下となる。
次に、磁化記録層13の構成について説明する。磁化記録層13は、外部からの電流通電によるスピン注入効果、あるいはスピン蓄積効果により磁化の方向が反転する。磁化記録層13は、界面磁性層14と磁化安定化層15とを含む。
界面磁性層14および磁化安定化層15は、強磁性的あるいは反強磁性的に交換結合することにより、磁化参照層11に対して、非磁性層12と隣接する部分で平行状態あるいは反平行状態の磁化配列を取り得る。界面磁性層14と磁化安定化層15とは交換結合しているため、1つの磁性層として機能する。図1に示した磁化記録層13は、界面磁性層14と磁化安定化層15とが強磁性的に交換結合しており、かつ平行磁化状態が安定の場合を示している。
図2および図3には、界面磁性層14と磁化安定化層15とがそれぞれ強磁性的および反強磁性的に交換結合しており、かつ磁化参照層11に対して平行状態の場合における磁化記録層13を示している。図2および図3において、磁化参照層11および非磁性層12は図1と同様に形成されているものと考える。なお、図2および図3には、MR素子10のうち磁化記録層13のみを示している。
図2の反強磁性的磁化配列状態を実現するには、磁化安定化層15にフェリ磁性体を用いる。さらには、図3の反強磁性的磁化配列状態を実現するには、界面磁性層14上に非磁性層16を形成し、この非磁性層16上に磁化安定化層15を形成することで、非磁性層16を介して界面磁性層14と磁化安定化層15とが反強磁性的に交換結合する。非磁性層16としては、Ru、Osなどを用いることができる。
図2および図3に示すように、磁化記録層13が反強磁性的磁化配列状態を有する場合は、上下層の飽和磁化がキャンセルされる。これにより、残留磁化状態での見かけ上の飽和磁化量を低減でき、熱安定性および外部磁界に対する安定性を向上させることができる。
磁化記録層13は、界面磁性層14と磁化安定化層15とで構成されているが、磁化安定化層15に比べて、界面磁性層14の方が高い分極率あるいは小さいダンピング定数αを有する。分極率およびダンピング定数に関する詳細は後述する。この場合、MR素子への電流通電により発生するスピントルクが界面磁性層14に優先的に強く作用する。すなわち、界面磁性層14の磁化の歳差運動を起点として磁化記録層13全体の磁化の歳差運動が始まる。従って、界面磁性層14により磁化の歳差運動が励起される磁化反転をとるために、界面磁性層14と磁化安定化層15との磁気異方性エネルギーおよび膜厚の設計が重要となる。また、それらを実現するための材料設計も重要となる。
界面磁性層14は、磁化安定化層15よりも小さな磁気異方性エネルギーを有している。また、界面磁性層14の磁気異方性エネルギーが小さいことから、ダンピング定数も小さい。従って、ダンピング定数においても、界面磁性層14が小さく、磁化安定化層15が大きい。定量的には、FMR(Ferro-Magnetic-Resonance)測定により求められる。ダンピング定数は「α」で表され、界面磁性層14のダンピング定数αは、0.05以下であることが望まれる。Feを主成分とする材料を用いることにより、ダンピング定数を0.01以下に抑制することが可能となる。これは、Feのダンピング定数が0.002と小さいことに起因しいている。一方、高い磁気異方性エネルギーを有する磁化安定化層15は、0.1以上のダンピング定数を有する。ここで高い磁気異方性エネルギーとは、おおよそ5×106erg/cm2程度以上である。
界面磁性層14は、主に磁気抵抗効果を発現させるために配置されるものである。従って、非磁性層12との界面分極率および材料自身のバルク分極率が大きいことが好ましい。高分極率を有する界面磁性層14の寄与により、MR比を向上させることができる。これにより、読み出し電流を低減した場合でも、MR素子10の情報を正確に読み出すことが可能となる。
界面磁性層14の膜厚としては、0.5nm以上5nm未満であることが必要である。これは、0.5nm未満では、界面磁性層14の材料磁気特性および結晶性が十分に得られず、十分なMR比が得られないためである。また、5nm以上であれば磁化反転に必要な電流Icが大幅に大きくなり、トンネルバリア層の破壊電圧以下では磁化反転しなくなる可能性があるからである。
以下に、界面磁性層14の材料における2つの具体例(1)および(2)について説明する。界面磁性層14には、高分極率を有する磁性体が用いられる。界面磁性層14の分極率は、アンドリュー(andrew)反射測定、或いはXMCD(X-ray Magnetic Circular Dichroism)を用いたスペクトロスコピー(spectroscopy)などにより求められる。
(1)Fe、Co、Ni、Mn、或いはCrを含む強磁性材料。
具体的には、Fe50Co50(at%)などの0.3以上の高バルク分極率を有するbcc−CoFe系合金あるいはbcc−CoFeNi系合金、Co90Fe10(at%)などの高分極率を有するfcc−CoFe系合金あるいはfcc−CoFeNi系合金、(bcc−Co0.5Fe0.5)80B20(at%)などの高分極率を有するアモルファスCoFe系合金、あるいはアモルファスCoFeNi系合金などがあげられる。
また、bcc−CoFe系合金あるいはbcc−CoFeNi系合金は、組成の調整によりダンピング定数を0.01以下に調整できる。この場合、Feが30at%以上含まれていることが必要となる。但し、(bcc−CoFe)80B20(at%)に関しては、アモルファス構造を有しているが、FeとCoの組成比でFeが30at%以上であれば、0.01以下のダンピング定数が達成される。
(2)Mn系強磁性合金、Mn系強磁性ホイスラー合金、Cr系強磁性合金、およびFe2O3などの酸化物ハーフメタル。
Mn系強磁性ホイスラー合金は、A2MnXで表される規則格子を有する体心立方晶(body-centered cubic system)合金である。A元素としては、Cu、Au、Pd、Ni、およびCoなどがあげられる。X元素としては、Al、In、Ga、Ge、Sn、Sb、およびSiなどがあげられる。Mn系強磁性合金としては、MnAl合金、MnAu合金、MnZn合金、MnGa合金、MnIr合金、およびMnPt3合金などがあげられる。これらは、規則格子を有する特徴がある。Cr系強磁性合金としては、CrPt3合金などがあげられる。これも規則格子を有する。なお、ハーフメタルとは、フェルミレベルの電子状態において、電子スピンが一方の向きに100%偏った(マジョリティースピンのみが存在する)強磁性材料をいう。Mn系強磁性ホイスラー合金は、Mnを使っているので、非常にダンピング定数が小さい可能性を有する。Mnは単体ではダンピング定数が原理的に0となる元素である。
また、強磁性を有する界面層としては、反強磁性(AF)から強磁性(FM)へ磁気転移するFeRhX(X=Ir、Pt、Pd)なども用いることができる。FeRhX合金は、AF時にはMsを持たず、FM時にはMsを発する。ある所定の温度でAFからFMへ相転移する。TMR素子において、低電圧でのリード時には発熱量が抑えられ、AF状態なので、スピンで書き込めない。しかし、高電圧でのライト時には発熱量が増大し、FM状態になり、ここで、スピン注入により書き込まれる。
また、界面磁性層14は、非磁性層12に接するように設けられている。界面磁性層14は、飽和磁化Msf1および磁気異方性エネルギーKaf1を有する。界面磁性層14の非磁性層12に接する面と反対面には、磁化安定化層15が設けられている。
界面磁性層14は、磁化安定化層15と交換結合している。取り得る交換結合エネルギーは、0.05erg/cm2以上1.0erg/cm2未満程度である。0.05erg/cm2未満では、界面磁性層14と磁化安定化層15とのスピン注入磁化反転における磁化回転が一体で起こらない。すなわち、熱の影響などで交換結合が実質的に切れた状態となり、各層がほぼバラバラに回転する可能性がある。
磁化安定化層15は、飽和磁化Msf2および高い磁気異方性エネルギーKaf2を有する。このように、磁化記録層13が高い磁気異方性エネルギーKaf2を有する磁化安定化層15を備えることで、磁化記録層13の熱安定性を向上させることができる。磁化安定化層15の磁気異方性エネルギーは、界面磁性層14の磁気異方性エネルギーより大きいことが必須となる。
よって、磁気異方性エネルギーKaf1とKaf2との関係は、以下のように規定される。
Kaf1<Kaf2
さらには、飽和磁化Msf1とMsf2との関係は、以下の関係を満たすことが好ましい。
さらには、飽和磁化Msf1とMsf2との関係は、以下の関係を満たすことが好ましい。
Msf1≧Msf2
すなわち、異方性磁界Haは、
Ha=2・Ka/Ms
で表されるので、界面磁性層14の異方性磁界Hkf1は、磁化安定化層15の異方性磁界Hkf2よりも小さくなる。異方性磁界Haは、MR素子10の困難軸方向のM−Hカーブ、あるいはR−Hカーブによって一般的に測定できる。
すなわち、異方性磁界Haは、
Ha=2・Ka/Ms
で表されるので、界面磁性層14の異方性磁界Hkf1は、磁化安定化層15の異方性磁界Hkf2よりも小さくなる。異方性磁界Haは、MR素子10の困難軸方向のM−Hカーブ、あるいはR−Hカーブによって一般的に測定できる。
磁化記録層13の飽和磁化Msfと膜厚tfとの積(Msf・tf)は、3.0×104emu/cm2以下であることが好ましい。これは、本発明が大きな記憶容量を有するスピン注入型MRAMを目指したもので、MR素子10の短辺長が100nm以下の場合であり、その時にスピン注入による磁化反転電流Icを0.1mA以下にする必要があるためである。書き込み電流の制限は、トランジスタサイズに起因しており、最小加工寸法(minimum feature size(F))が100nm以下になると、0.1mAより大きな電流を駆動させることが困難となるからである。
飽和磁化Msの観点から見ると、磁化記録層13の飽和磁化Msfは、600emu/cc以下であることが好ましい。これは、上記の反転電流Icを0.1mA以下にする制約に基づいている。
さらに、スピン注入磁化反転の場合、磁化記録層13にはスピントルクが有効に働く膜厚(特性長)が存在する。この特性長は、スピン情報を維持したまま電子が伝導できる長さ(スピン拡散長)と、スピンおよび磁化が歳差運動によりおおよそ一回転する長さ(デコヒーレンス長)とにより決定される。
磁化記録層13の膜厚tfは、スピン拡散長の制約から、10nm以下であることが好ましい。さらには、磁化の歳差運動の制約およびスピントルク量の減衰効果なども考えると、磁化記録層13の膜厚tfは、5nm以下であることが好ましい。上述したMR比の制約からくる界面磁性層14の制約条件を加えると、磁化記録層13の膜厚tfは、1nm≦tf≦10nmで、好ましくは1nm≦tf≦5nmである。この時の磁化安定化層15の膜厚tf2は、0.5nm≦tf2≦9.5nmで、好ましくは0.5nm≦tf2≦4.5nmとなる。磁化安定化層が0.5nm未満では、有効な磁気異方性エネルギーを発現できない。
さらに、界面磁性層14が磁化記録層13に占める膜厚比は、1/20以上1/2以下であることが好ましい。これは、MR比を十分に得るための界面磁性層14の層厚が0.5nmであることに基づく。磁化記録層13の膜厚が10nmの時は1/20、磁化記録層13の膜厚が2nmの時は、1/2となる。膜厚2nmは、熱的に安定となる膜厚の下限値を考慮した場合である。
界面磁性層が面内磁化であり、磁化安定化層が垂直磁化である、垂直磁化を有する磁気記録層を用いる場合においては、界面磁性層は3nm以下であることが好ましい。この場合、磁化記録層全体のMsfとKafとの関係に依存し、
Kaf−4πMsf2>0
の関係を満たすようにしなければならない。
Kaf−4πMsf2>0
の関係を満たすようにしなければならない。
一方、熱安定性および情報の保持安定性を得るためには、磁化安定化層15の磁気異方性エネルギーKaf2は、5×105erg/cc以上であることが必要である。これは、磁化記録層13に記録された情報の10年以上の保持に必要となる経験的な磁気異方性エネルギーKaである。従って、これ以上大きな磁気異方性エネルギーKaであることが好ましい。
特に、界面磁性層14の磁気異方性エネルギーKaf1が小さく、その異方性磁界Hkf1が50Oe未満の場合においては、磁化安定化層15の磁気異方性エネルギーKaf2は、1×106erg/cc以上であり、かつその飽和磁化Msf2が400emu/cc以下であることがさらに好ましい。この時の磁化安定化層15の異方性磁界Hkf2は、Hkf2=2・Kaf2/Msf2=5000Oe以上となる。また、磁化記録層13に垂直磁化を用い、かつ、熱的に安定にするためには、磁化安定化層15の磁気異方性エネルギーKaf2は1×106erg/cc以上であることが好ましく、この時の異方性磁界Hkf2は1kOe以上である。
磁化記録層13としての保磁力は、1kOe以下となるように界面磁性層14と磁化安定化層15との膜厚を設定することが反転電流を低減する観点から好ましい。さらに、前述したように大きな記憶容量を有するスピン注入型MRAMを形成するためには、磁化記録層13の面積Afが0.005μm2以下であることが好ましい。これらの条件から考えると、磁化記録層13の形状は、アスペクト比が2の時は、0.1×0.05μm2となり、アスペクト比が1の時は、概略0.07×0.07μm2となる。
この時、反転電流がばらつかないようにすることを考慮すると、実際には、磁化反転磁界がばらつかないようにしなければならない。統計的に考えると、1ビットあたりに少なくとも100個程度の磁化記録層13の結晶粒がないと、結晶粒ごとの磁気特性が平均化されない。このために、アレイを形成した場合の多数ビットの磁化反転がばらつく原因となる。
これを考慮すると、結晶粒径は、5nm以下であることが好ましい。この観点からいうと、界面磁性層14および磁化安定化層15の少なくともどちらか一方がアモルファス相であることが好ましい。界面磁性層14がアモルファス相である方が制御が容易であり好ましく、アモルファス(CoFe)100−xBx(15<x<50、at%)、あるいはアモルファス(NiFe)100−xBx(15<x<50、at%)が好ましい。
ただし、大きな結晶磁気異方性を用いた垂直磁化MR素子の場合は、この限りではない。この垂直磁化MR素子の場合は、ほぼ垂直に磁気異方性が揃うために、形状磁気異方性および結晶磁気異方性を利用した面内磁気異方性を有する面内磁化膜の場合と比べて、比較的に磁気異方性分散が小さい。実際には、hcp(hexagonal closest packing)構造を有する垂直磁化膜の場合、(001)面の結晶配向性が磁気異方性分散の重要な指標となるが、hcp構造(001)のピークのロッキングカーブ半値幅が5度以下程度に抑えられる。従って、磁気異方性分散が結晶配向性分散と概略同一と考えると、非常に小さな異方性分散を有する膜が形成可能である。
以下に、磁化安定化層15の材料における3つの具体例(1)〜(3)について説明する。
(1)Fe、Co、Ni、Mn、Cr、および希土類元素のうち少なくとも1種類以上を含有するフェリ磁性体。
ここで希土類元素とは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、No、およびLrを含む。特に本実施形態で有効なのは、Ho、Dy、Er、Nd、Gd、Sm、Tb、およびEuである。希土類元素を含むフェリ磁性体は、アモルファス構造を有する。フェリ磁性体は、組成の調整により、400emu/cc以下の低飽和磁化、および1×106erg/cc程度の高磁気異方性エネルギーを付与することが可能である。また、3d元素と4f電子を有する希土類元素からなるアモルファス合金はフェリ磁性を示すものがあり、これらは垂直磁化しやすく、垂直磁化膜としても使用することができる。フェリ磁性を示すアモルファス材料としてはCoFe−Tb、CoFe−Gdが挙げられる。FeCo−Tbは、磁気異方性エネルギーが大きく、スピン軌道相互作用が大きいので、ダンピング定数αが0.1以上と大きいが、Gd、Ho、Dyなどを添加することにより、それを小さく出来る可能性がある。
フェリ磁性体は、ネットのMsがゼロとなる組成点(組成補償点)を有しており、Msの低減が容易である。CoFe−RE(RE:rare-earth)合金は、RE組成が15〜40at%の組成範囲で補償点を有する。磁化反転電流はMs2の影響を受けるので、Msの低減は低電流化において好ましい。
(2)Fe、Co、Ni、Mn、およびCrのうち少なくとも1種類以上と、Pt、Pd、Ir、Rh、Re、Os、Au、Ag、Cu、B、C、Si、Al、Mg、Ta、Cr、Zr、Ti、V、Hf、Y、Sr、Ba、Sc、Ca、および希土類元素から選ばれる少なくとも1つ以上の元素とを含有する強磁性体。ここで希土類元素とは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、No、およびLrを含む。特に本実施形態で有効なのは、Ho、Dy、Er、Nd、Gd、Sm、Tb、およびEuである。
この磁化安定化層15の代表的な材料としては、hcp構造を有するCoCrPt合金、CoCrTa合金、CoCrPtTa合金などがあげられる。これらの材料には、1×106erg/cc以上の磁気異方性エネルギーを付与することが可能である。
また、高磁気異方性エネルギーを有するという点では、L10構造を有する規則系Fe50±10Pt50±10(at%)合金が好ましい。FePtは規則化後にはFCC構造からFCT構造に変化する。異方性の軸は[001]方向にあるために、優先面配向としては(001)優先配向が好ましい。この場合、FePt合金は垂直磁化を有する。
(3)金属磁性相と絶縁相との混晶からなる強磁性体。
磁化安定化層15の金属磁性相は、Fe、Co、Ni、Mn、およびCrのうち少なくとも1種類以上と、Pt、Pd、Ir、Rh、Re、Os、Au、Ag、Cu、Ta、および希土類元素のうち少なくとも1種類以上とを含有する強磁性体から構成される。磁化安定化層15の絶縁相は、B、C、Si、Al、Mg、Ta、Cr、Zr、Ti、V、Hf、Y、Sr、Ba、Sc、Ca、および希土類元素から選ばれる少なくとも1つ以上の元素を含有する酸化物、窒化物、あるいは酸窒化物から構成される。ここで希土類元素とは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、No、およびLrを含む。特に本実施形態で有効なのは、Ho、Dy、Er、Nd、Gd、Sm、Tb、およびEuである。
図4乃至図6は、磁化安定化層15の相構造を説明する断面図である。前述したように、磁化安定化層15は、金属磁性相17と絶縁相18との混晶からなる強磁性体である。
図4では、磁化安定化層15は、コラムナー型に成長した高磁気異方性エネルギーを有する複数の金属磁性相17と、絶縁相18とに分離されている。このため、金属磁性相17に電流が集中するため、これの電流密度が上昇し、実質的な反転電流が小さくなるという効果を有する。また、同様な効果が、図5および図6に示した磁化安定化層15においても得られる。図5の磁化安定化層15は、絶縁相18内に複数の粒状の金属磁性相17を有するグラニュラー型構造を有している。図6の磁化安定化層15は、絶縁相18内に界面磁性層14から上方向に延びた複数の金属磁性相17を有するアイランド成長型構造を有している。
図5および図6では、電流は最もトンネル障壁が小さいパスを通電することになるので、図4と同様に電流狭窄効果が得られる。また、絶縁相18と界面磁性層14との間、および絶縁相18と金属磁性相17との間で、弾性散乱によって反射された電子により磁化反転がアシストされる効果もある。
金属磁性相17と絶縁相18との比率は、熱擾乱耐性を得るために必要な磁化安定化層15の体積と電流狭窄度とに依存する。電流狭窄効果を十分に発揮するためには、金属磁性相17の絶縁相18に対する比率は、0.5以下であることが好ましい。面積比で表現すると、50%以下ということになる。従って、電流密度は2倍以上の効果を見込める。この結果、高磁気異方性エネルギーを有する部分を反転させるのに十分な電流密度が得られるように設計が可能となる。
上述したコラムナー結晶粒、グラニュラー結晶粒、アイランド成長型結晶粒は、適度な結晶粒径分散を有する。TMR素子の短辺長が100nm以下の場合、微結晶化が必要となる。素子間バラツキを平均化するために、TMR素子内に100個の粒子が必要だと考えると、素子短辺長の1/10程度の結晶粒径が必要となる。従って、素子短辺長が100nmの時は、10nm以下の結晶粒径、素子短辺長が70nmの時は、7nm以下の結晶粒径、素子短辺長が45nmの時は、約5nm以下の結晶粒径が必要となる。
完全に結晶粒間の交換結合が切れていない場合を考える。適度な結晶粒径分散により、小さな結晶粒も存在し、それらは見かけ上の結晶磁気異方性エネルギーが小さい。従って、それらの結晶粒は、スピン注入により非常に反転しやすい領域となっている。これにより、スピン注入時あるいは磁場印加時には、それら小さい結晶粒が核となり、磁化記録層は小さな電流あるいは磁場で磁化反転する。
一方、交換結合により結晶粒間は結合しているので、磁化記録層の熱的安定性は、高い結晶磁気異方性エネルギーを有する結晶粒によって決まる。従って、良好な熱安定性を有することとなる。一般的に、このような現象を引き起こす場合、TMR素子の磁化記録層の保磁力Hcfと異方性磁界Hkf(あるいは飽和磁界Hsf)と異方性エネルギーKafと飽和磁化Msfとの関係は、下記のように表されることを経験的に見出した。
Hcf<2・Kaf/Msf
Hcf<Hsf(Hkf)
上式を満足する場合、磁化記録層は、低電流密度でのスピン注入磁化反転が可能となる。
Hcf<Hsf(Hkf)
上式を満足する場合、磁化記録層は、低電流密度でのスピン注入磁化反転が可能となる。
さらに、上述したコラムナー結晶構造、グラニュラー結晶構造およびアイランド成長型結晶構造の場合、個々の結晶粒の結晶磁気異方性エネルギーを容易に分散させることが可能である。一般に、スピン注入トルクは、磁化の相対角度が0度および180度の場合には働かない。従って、磁化反転させるには大きな電流通電による発熱を利用し、熱的に活性化させる必要があり、スピン注入磁化反転では大きな電流を必要とする。
しかしながら、磁化記録層に適度な結晶磁気異方性エネルギー分散があると、低電流でスピン注入磁化反転が起きる。結晶磁気異方性エネルギー分散度は、結晶方位分散と密接に関係しており、結晶配向性分散が5度以上45度以下において、分散がほとんどない場合に比べて低電流でスピン注入磁化反転するが、結晶配向性分散が5度以上15度以下であることがさらに好ましい。
hcp構造を有するCo合金あるいはfct(face-centered tetragonal)構造を有するFePt合金などにおいては、C軸配向性あるいは(001)面配向性を上記範囲内に制御することで、低電流でスピン注入磁化反転が可能となる。結晶配向性分散は、面内磁気異方性あるいは垂直磁気異方性を有する磁化記録層および磁化参照層を具備するスピン注入型MR素子において有効である。
次に、磁化参照層11について説明する。磁化参照層11は、一軸磁気異方性あるいは一方向磁気異方性を有し、所定の磁化の方向で安定状態となる。磁化参照層11には、非磁性層12との界面での界面分極率およびバルク分極率が大きい材料からなる界面磁性層が含まれる。
磁化参照層11は、非磁性層12に接するように形成された飽和磁化Msp1および磁気異方性エネルギーKap1を有する界面磁性層と、飽和磁化Msp2および磁気異方性エネルギーKap2を有する磁化安定化層との積層膜により構成される。磁気異方性エネルギーKap1とKap2とは、1×106erg/cm2以上であることが望ましい。
また、磁化参照層11の飽和磁化Mspと膜厚tpとの積(Msp・tp)は、磁化記録層13の飽和磁化Msfと膜厚tfとの積(Msf・tf)よりも大きいことが好ましい。
次に、スピン注入型MR素子10の他の具体的な構成例について図7乃至14を用いて説明する。
図7では、磁化参照層20は、磁化参照層11と反強磁性層21とから構成されている。そして、反強磁性層21と強磁性層(磁化参照層11)との交換結合を利用して、磁化参照層20の磁化の方向が一方向に固着されている。これを単層磁化固着層という。
図8では、磁化参照層20は、磁化参照層11/非磁性層23/磁化固着層22/反強磁性層21が積層されたSAF(Synthetic Anti-Ferromagnet)構造を有している。なお、磁化参照層20を構成する各層は、上の層から順に示している。以下の積層構造の記載についても同様である。
このSAF構造は、磁化の方向が互いに逆の2つの強磁性層を非磁性層を介して積層させた構造である。このSAF構造では、2つの強磁性層の磁場がループを形成するため、磁場が外に漏れて周囲のセルに影響を与えることが少ない。また、交換結合した強磁性層は、体積が増加する効果として、熱擾乱耐性が向上する。
図8において、磁化固着層22は、反強磁性層21との交換結合により、磁化の方向が一方向に固着されている。そして、磁化参照層11は、非磁性層23を介して磁化固着層22と反強磁性的に交換結合することにより、磁化の方向が固着されている。
図9では、磁化参照層20は、磁化参照層11/非磁性層23/中間磁性層25/非磁性層24/磁化固着層22/反強磁性層21が積層された積層構造を有している。このように構成された磁化参照層20は、熱安定性が向上する。すなわち、SAF構造の熱安定性は、非磁性層の上下の磁性層の各々のKu・V(磁気異方性エネルギーと体積との積)の和で決定される。従って、3層の磁性層と2層の非磁性層とを用いた方が、さらに熱安定性を向上させることができる。
図10では、磁化記録層13は、第2の磁化安定化層32/非磁性層31/第1の磁化安定化層15/界面磁性層14が積層された積層構造を有している。このうち、磁化安定化層30は、第2の磁化安定化層32/非磁性層31/第1の磁化安定化層15が積層されたSAF構造を有している。そして、磁化記録層13は、磁化安定化層30と界面磁性層14とが積層されて構成されている。
図10において、磁化記録層13の熱安定性は、非磁性層の上下の磁性層の各々のKu・V(磁気異方性エネルギーと体積との積)の和で決定される。SAF構造を有しない磁化記録層の熱安定性もKu・Vで規定される。SAF構造の場合、非磁性層の上下の磁性層が静磁結合する。これにより、磁性層端部の符号が逆の磁化がキャンセルされ、磁性層端部に形成される端部磁区が消失する。この結果、非磁性層の上下の磁性層が一体化するため、磁化記録層13は熱安定性が向上する。
従って、端部磁区に起因した外部磁場耐性および磁性層端部での反磁界による作用が低減され、磁化記録層全体の磁気的および熱的な安定性が向上する。この場合、非磁性層の上下に設置される磁性層のMr・t(残留磁化と膜厚との積)は、磁化の絶対値が略同等となるように調整される。理想的には略同じであることが望まれるが、実質的には加工などの問題も考慮し若干ずらすことが多い。しかしながら、Mr・tのずれは、磁場分布の影響を生じるため、ずれ量はMr・t換算で1nmT(ナノメートル・テスラ)以下であることが好ましい。
図11では、磁化記録層13は、第2の磁化安定化層32/非磁性層31/結合磁性層33/第1の磁化安定化層15/界面磁性層14が積層されたSAF構造を有している。ここで、結合磁性層33は、非磁性層31を介した第1の磁化安定化層15と第2の磁化安定化層32との反強磁性的な交換結合をアシストするために用いられる。結合磁性層33の挿入により、第2の磁化安定化層32/非磁性層31/結合磁性層33の反強磁性的な結合を強固にすることができる。これにより、非磁性層31の上下の磁性層の磁化の動き、すなわち、磁化記録層13の磁化反転挙動を完全に一体化することが可能となり、熱安定性が向上する。従って、結合磁性層33としては、Ru、Osなどとの結合が強固であるCoFe合金などが用いられる。
また、反強磁性的な交換結合を用いたSAF構造の磁化記録層を使用することにより、磁化記録層の残留磁化Mrと膜厚tとの積Mr・tである残留磁化量を見かけ上低減することが可能となる。これにより、熱的に安定すると同時に、外部磁界耐性も向上する。ここで、残留磁化状態での見かけ上の飽和磁化量Mr・tとは、図2を用いて説明すると、界面磁性層14の層厚をtf1、磁化安定化層15の層厚をtf2、界面磁性層14の残留磁化をMrf1、磁化安定化層15の残留磁化をMrf2とすると、次の式で表される。
Mr・t=|Mrf1・tf1−Mrf2・tf2|
図12に示したMR素子10は、磁化の方向が異なる方向に固着された2つの磁化参照層20および40を有する、いわゆるデュアルピン(Dual-Pin)構造を有している。磁化参照層40は、反強磁性層46/磁化固着層45/非磁性層44/中間磁性層43/非磁性層42/磁化参照層41が積層された積層構造を有している。磁化記録層13は、第2の界面磁性層14B/磁化安定化層15/第1の界面磁性層14Aが積層された積層構造を有している。そして、磁化記録層13と磁化参照層20との間には第1の非磁性層12A、磁化記録層13と磁化参照層40との間には第2の非磁性層12Bが設けられている。
図12に示したMR素子10は、磁化の方向が異なる方向に固着された2つの磁化参照層20および40を有する、いわゆるデュアルピン(Dual-Pin)構造を有している。磁化参照層40は、反強磁性層46/磁化固着層45/非磁性層44/中間磁性層43/非磁性層42/磁化参照層41が積層された積層構造を有している。磁化記録層13は、第2の界面磁性層14B/磁化安定化層15/第1の界面磁性層14Aが積層された積層構造を有している。そして、磁化記録層13と磁化参照層20との間には第1の非磁性層12A、磁化記録層13と磁化参照層40との間には第2の非磁性層12Bが設けられている。
この構成では、膜面垂直方向に電流を通電した場合、スピン注入効果とスピン蓄積効果とを同時に利用できるため、反転電流を低減することが可能となる。また、デュアルピン構造は、磁化参照層20と磁化参照層40との磁化の向きが逆に設定される。このため、磁化記録層13の磁化反転に必要な電流密度が電流の向きに依存せず、“0”データと“1”データとを書き込む場合の電流値を同じにできることである。よって、書き込み回路が複雑にならずにすむ。
デュアルピン構造を有するMR素子10においても、磁化安定化層15の磁気異方性エネルギーは、第1の界面磁性層14Aの磁気異方性エネルギーより大きく設定される。また、ダンピング定数に関しても、第1の界面磁性層14Aのダンピング定数より大きく設定される。磁化安定化層15のダンピング定数は、0.1以上である。ここで、第1の界面層14Aのダンピング定数は、0.05以下が好ましい。同様に、磁化安定化層15の磁気異方性エネルギーは、第2の界面磁性層14Bの磁気異方性エネルギーより大きく設定される。また、ダンピング定数に関しても、第2の界面磁性層14Bのダンピング定数より大きく設定される。ここで、第2の界面磁性層14Bのダンピング定数は、0.05以下が好ましい。上記条件を満たせば、第1の界面磁性層14Aの磁気異方性エネルギーと第2の界面磁性層14Bの磁気異方性エネルギーとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。後述するデュアルピン構造を有するMR素子10においても同様である。
図13および図14のMR素子10は、磁化の方向が同一方向に固着されている2つの磁化参照層20,40を有している。また、磁化参照層20,40はSAF構造を有し、磁化記録層13もSAF構造を有する。ここで、図13では、結合磁性層33/磁化安定化層15/第1の界面磁性層14Aを第1の磁化記録層と定義し、第2の界面磁性層14Bを第2の磁化記録層と定義する。同様に、図14では、第1の結合磁性層33A/第1の磁化安定化層15A/第1の界面磁性層14Aを第1の磁化記録層と定義し、第2の界面磁性層14B/第2の磁化安定化層15B/第2の結合磁性層33Bを第2の磁化記録層と定義する。
これらの構成では、磁化固着層22および45の磁化の方向は、アニール時の磁場印加方向で一意に同じ方向に決まるため、磁化参照層11および41の磁化の方向も同方向に決まる。
一方、磁化記録層13もSAF構造を有するが、非磁性層31の上下の磁性層は反平行の磁化の方向を有する。従って、第1の磁化記録層の磁化の方向が磁化参照層20の磁化の方向と平行の場合、第2の磁化記録層の磁化の方向は、磁化参照層40の磁化の方向と反平行となる。すなわち、SAF構造の磁化記録層13を用いることで、一方向のデュアルピン層の磁化の方向に対して、図12と同様に反平行と平行との2つの状態が形成される。従って、膜面垂直方向に電流を通電した場合、スピン注入効果とスピン蓄積効果とを同時に利用できるため、反転電流を低減することが可能となる。
(実施例)
以下に、MR素子10の複数の実施例について説明する。まず、実施例として使用するMR素子10のサイズおよび製造方法について説明する。
以下に、MR素子10の複数の実施例について説明する。まず、実施例として使用するMR素子10のサイズおよび製造方法について説明する。
下部電極層と上部電極層との間にMR素子10を形成する。すなわち、下部電極層上に、例えばDCマグネトロンスパッタ法により、MTJ膜を成膜する。下部電極層としては、例えばTaが用いられる。そして、エキシマレーザー(excimer laser)を用いたフォトリソグラフィーにより、MTJ膜を概略0.1×0.15μm2のサイズにパターニングする。この時、磁化記録層13のアスペクト比(長軸/短軸)は、1.5である。その後、MR素子10をイオンビームエッチング(IBE)法により加工する。
次に、層間絶縁層を形成する。そして、この層間絶縁層をCMP(Chemical Mechanical Polishing)法により平坦化するとともに、MR素子10の上面を露出させる。次に、MR素子10上に、上部電極層を形成する。上部電極層としては、例えばTaが用いられる。なお、MR素子10の抵抗が素子抵抗でR=5kΩとなるように、バリア形成条件を調整する。また、MR素子10のRAを約15Ωμm2に設定する。
このように形成されたMRAMの電気特性およびスピン注入による磁化反転特性を評価した。下記の表1には、比較例および実施例1〜8についてのMR素子10の層構成を示している。各層に記載された数値は膜厚を表している。膜厚の単位は、nmである。
表1において、実施例1乃至8に示したMR素子10は、図8に示した積層構造を有している。また、表1において、Ta層は、上部電極層および下部電極層に対応する。界面磁性層14および磁化参照層11に対応するa−FeCoB層は、アモルファス層であり、その組成は、Fe40Co40B20(at%)である。MR素子10には、380度のアニールを行った。このアニール後、非磁性層12に対応するMgOは、(001)面に配向した。
磁化安定化層15に対応するCoCrPtの組成は、Co72Cr20Pt8(at%)、CoCrTaの組成は、Co76Cr20Ta4(at%)である。FeCoTbおよびFeCoGdの組成は、それぞれFe40Co40Tb20(at%)、Fe40Co40Gd20(at%)を用いた。
これらのMR素子10に対して、反転電流密度JcおよびMR比を測定した。測定結果を表2に示す。なお、表2に示したJc(P-to-AP)は、磁化参照層11と磁化記録層13との磁化の方向が平行状態(P)から反平行状態(AP)に変化する場合の反転電流密度Jcを表している。一方、表2に示したJc(AP-to-P)は、磁化参照層11と磁化記録層13との磁化の方向が反平行状態(AP)から平行状態(P)に変化する場合の反転電流密度Jcを表している。
表2に示すように、各実施例の反転電流密度Jcは、比較例と比べて、大きく低減されている。また、各実施例のMR比も大きく向上している。
以上詳述したように本実施形態によれば、磁化記録層13が高い磁気異方性エネルギーを有する磁化安定化層15を備えているため、磁化記録層13の熱安定性を向上させることができる。また、熱擾乱耐性を低下させずに、実質的な膜厚を低減して反転電流密度を大幅に低減することができる。
また、磁化記録層13は、高分極率の界面磁性層14を備えている。この高分極率を有する界面磁性層14の寄与により、MR素子10のMR比を向上させることができる。これにより、読み出し電流を低減した場合でも、MR素子10の情報を正確に読み出すことが可能となる。
なお、本実施形態では、MR素子10を構成する層が面内磁化配列を有する場合を例に説明したが、これに限定されず、垂直磁化配列を有していても構わない。磁化安定化層15の結晶磁気異方性分散が大きく、例えばhcp構造を有するCo系合金の[0001]軸方向の結晶磁気異方性を磁気異方性として用いる場合、垂直磁化配列を有する方が磁化記録層13が単磁区化して、スピン注入効率が向上する。これにより、実質的な反転電流密度を低減することが可能となる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、前述したMR素子10を用いてMRAMを構成した場合の実施形態である。
第2の実施形態は、前述したMR素子10を用いてMRAMを構成した場合の実施形態である。
図15は、本発明の第2の実施形態に係るMRAMを説明する回路図である。MRAMは、マトリクス状に配置された複数のメモリセルMCを有するメモリセルアレイ50を備えている。メモリセルアレイ50には、それぞれが列(カラム)方向に延在するように、複数のビット線BLが配置されている。また、メモリセルアレイ50には、それぞれが行(ロウ)方向に延在するように、複数のワード線WLが配置されている。
ビット線BLとワード線WLとの交差する点には、前述したメモリセルMCが配置されている。各メモリセルMCは、MR素子10と選択トランジスタ51とにより構成されている。MR素子10の一方の端子は、ビット線BLに接続されている。MR素子10の他方の端子は、選択トランジスタ51のドレインに接続されている。選択トランジスタ51のゲートには、ワード線WLが接続されている。選択トランジスタ51のソースは、ソース線SLに接続されている。
ビット線BLの一端には、電源回路53が接続されている。ビット線BLの他端には、センスアンプ回路54が接続されている。ソース線SLの一端には、電源回路52が接続されている。ソース線SLの他端は、図示しないスイッチ素子を介して電源55が接続されている。
電源回路53は、ビット線BLの一端に正の電位を印加する。センスアンプ回路54は、MR素子10の抵抗値を検出する他、ビット線BLの他端に例えば接地電位を印加する。電源回路52は、ソース線SLの一端に、正の電位を印加する。電源55は、この電源55に接続されたスイッチ素子をオンすることにより、ソース線SLの他端に例えば接地電位を印加する。また、各電源回路は、対応する配線との電気的な接続を制御するスイッチ素子を含んでいる。
メモリセルMCへのデータ書き込みは、以下のように行われる。先ず、データ書き込みを行うメモリセルMCを選択するために、このメモリセルMCに接続されたワード線WLが活性化される。これにより、選択トランジスタ51がターンオンする。
ここで、MR素子10には、双方向の書き込み電流Iwが供給される。具体的には、MR素子10に上から下へ書き込み電流Iwを供給する場合、電源回路53はビット線BLの一端に正の電位を印加し、電源55はこの電源55に対応するスイッチ素子をオンすることによりソース線SLの他端に接地電位を印加する。
また、MR素子10に下から上へ書き込み電流Iwを供給する場合、電源回路52はソース線SLの一端に正の電位を印加し、センスアンプ回路54はビット線BLの他端に接地電位を印加する。ここでは、電源55に対応するスイッチ素子はオフされている。このようにして、メモリセルMCにデータ“0”或いはデータ“1”を書き込むことができる。
メモリセルMCからのデータ読み出しは、以下のように行われる。先ず、メモリセルMCが選択される。次に、電源回路52およびセンスアンプ回路54により、MR素子10には、電源回路52からセンスアンプ回路54へ流れる読み出し電流Irが供給される。そして、センスアンプ回路54は、この読み出し電流Irに基づいて、MR素子10の抵抗値を検出する。このようにして、MR素子10に記憶された情報を読み出すことができる。
次に、MRAMの構造について説明する。図16は、MRAMの断面図である。なお、図16には、MRAMのうち1つのメモリセルMCに対応する部分について示している。
P型半導体基板61(或いは、基板内に設けられたP型ウェル)には、スイッチング素子としての選択トランジスタ51が設けられている。また、P型半導体基板61には、選択トランジスタ51を周囲の素子と電気的に分離するために、STI(Shallow Trench Isolation)62が設けられている。
選択トランジスタ51は、例えばN型MOSトランジスタにより構成される。具体的には、半導体基板61上には、ゲート絶縁膜51Aを介してゲート電極51Bが設けられている。ゲート電極51Bは、図15に示したワード線WLに対応する。半導体基板61内でゲート電極51Bの両側には、高濃度のN+型不純物が導入されたソース領域51Cおよびドレイン領域51Dが設けられている。
ソース領域51C上には、コンタクトプラグ63を介して配線層64が設けられている。配線層64は、図15に示したソース線SLに対応する。ドレイン領域51D上には、コンタクトプラグ65を介して配線層66が設けられている。この配線層66は、MR素子10とドレイン領域51Dとを電気的に接続するために用いられる。
配線層66上には、下部電極層67が設けられている。下部電極層67としては、例えばTaが用いられる。下部電極層67上には、MR素子10が設けられている。MR素子10上には、上部電極層68が設けられている。上部電極層68としては、例えばTaが用いられる。
上部電極層68上には、配線層69が設けられている。配線層69は、図15に示したビット線BLに対応する。半導体基板61と配線層69との間は、層間絶縁層70で満たされている。
このように、第1の実施形態で示したMR素子10を用いてスピン注入型MRAMを構成することが可能である。図15に示したスピン注入型MRAMの動作を確認し、トランジスタで駆動できる電流でMR素子10を磁化反転させることが可能であることが確認できた。さらに、ビット歩留まりとしては、99.9%以上を得られた。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で、構成要素を変形して具体化できる。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を構成することができる。例えば、実施形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
MC…メモリセル、BL…ビット線、WL…ワード線、SL…ソース線、10…磁気抵抗効果素子(MR素子)、11,41…磁化参照層、12,12A,12B…非磁性層、13…磁化記録層、14,14A,14B…界面磁性層、15,15A,15B…磁化安定化層、17…金属磁性相、18…絶縁相、16,23,24,31,42,44…非磁性層、20,40…磁化参照部、21,46…反強磁性層、22,45…磁化固着層、25,43…中間磁性層、30…磁化安定化部、32…磁化安定化層、33,33A,33B…結合磁性層、50…メモリセルアレイ、51…選択トランジスタ、51A…ゲート絶縁膜、51B…ゲート電極、51C…ソース領域、51D…ドレイン領域、52,53…電源回路、54…センスアンプ回路、55…電源、61…半導体基板、62…STI、63…コンタクトプラグ、64,66,69…配線層、65…コンタクトプラグ、67…下部電極層、68…上部電極層、70…層間絶縁層。
Claims (14)
- 膜面に垂直方向である双方向の電流通電により磁化の方向が変化しかつ情報を記録する磁化記録層と、
磁化の方向が固着された磁化参照層と、
前記磁化記録層および前記磁化参照層間に設けられた非磁性層と
を具備し、
前記磁化記録層は、前記非磁性層に接するように設けられかつ第1の磁気異方性エネルギーを有する界面磁性層と、前記第1の磁気異方性エネルギーより大きい第2の磁気異方性エネルギーを有する磁化安定化層とを含むことを特徴とする磁気抵抗効果素子。 - 磁化の方向が固着された第1の磁化参照層、第1の非磁性層、膜面に垂直方向である双方向の電流通電により磁化の方向が変化しかつ情報を記録する磁化記録層、第2の非磁性層、および磁化の方向が固着された第2の磁化参照層が順に積層された積層構造を具備し、
前記磁化記録層は、前記第1および第2の非磁性層にそれぞれ接するように設けられかつ第1および第2の磁気異方性エネルギーを有する第1および第2の界面磁性層と、前記第1および第2の界面磁性層間に設けられかつ前記第1および第2の磁気異方性エネルギーより大きい第3の磁気異方性エネルギーを有する磁化安定化層とを含むことを特徴とする磁気抵抗効果素子。 - 前記磁化安定化層は、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、および希土類元素のうち少なくとも1種類以上を含有するフェリ磁性体からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記磁化安定化層は、Fe、Co、Ni、Mn、およびCrのうち少なくとも1種類以上と、Pt、Pd、Ir、Rh、Re、Os、Au、Ag、Cu、B、C、Si、Al、Mg、Ta、Cr、Zr、Ti、V、Hf、Y、Sr、Ba、Sc、Ca、および希土類元素のうち少なくとも1種類以上の元素とを含有する強磁性体からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記磁化安定化層は、金属磁性相と絶縁相との混晶からなる強磁性体からなり、
前記金属磁性相は、Fe、Co、Ni、Mn、およびCrのうち少なくとも1種類以上と、Pt、Pd、Ir、Rh、Re、Os、Au、Ag、Cu、Ta、および希土類元素のうち少なくとも1種類以上とを含有する強磁性体からなり、
前記絶縁相は、B、C、Si、Al、Mg、Ta、Cr、Zr、Ti、V、Hf、Y、Sr、Ba、Sc、Ca、および希土類元素のうち少なくとも1種類以上の元素を含有する酸化物、窒化物、あるいは酸窒化物からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗効果素子。 - 前記磁化安定化層の膜厚は、0.5nm以上9.5nm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記界面磁性層は、Fe、Co、Ni、Mn、およびCrのうち少なくとも1種類以上を含有する強磁性体からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記界面磁性層の膜厚は、0.5nm以上5nm未満であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記磁化記録層の膜厚は、1nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記磁化安定化層の磁気異方性エネルギーは、5×105erg/cc以上であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記磁化安定化層と前記第1の界面磁性層とは、交換結合しており、かつ強磁性的あるいは反強磁性的な磁化配列を有しており、
前記磁化安定化層と前記第2の界面磁性層とは、交換結合しており、かつ強磁性的あるいは反強磁性的な磁化配列を有していることを特徴とする請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。 - 前記請求項1乃至11のいずれか1項に記載の前記磁気抵抗効果素子と、この磁気抵抗効果素子に対して通電を行う第1および第2の電極とを含むメモリセルを具備することを特徴とする磁気記憶装置。
- 前記第1の電極に電気的に接続された第1の配線と、
前記第2の電極に電気的に接続された第2の配線と、
前記第1および第2の配線に電気的に接続され、かつ前記磁気抵抗効果素子に双方向に電流を供給する電源回路と
をさらに具備することを特徴とする請求項12に記載の磁気記憶装置。 - 前記第2の電極と前記第2の配線との間に接続された選択トランジスタと、
前記選択トランジスタのオン/オフを制御する第3の配線と
をさらに具備することを特徴とする請求項13に記載の磁気記憶装置。
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