JP7049350B6 - レドックスフロー電池用炭素電極材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
レドックスフロー電池の主な構成は、図1に示すように電解液(正極電解液、負極電解液)を貯える外部タンク6、7と、電解槽ECとからなる。電解槽ECでは、相対する集電板1、1の間にイオン交換膜3が配置されている。レドックスフロー電池では、ポンプ8、9にて活物質を含む電解液を外部タンク6、7から電解槽ECに送りながら、電解槽ECに組み込まれた電極5上で電気化学的なエネルギー変換、すなわち充放電が行われる。電極5の材料には、耐薬品性があり、導電性を有し、かつ通液性のある炭素材料が用いられている。
2)電極反応活性が高いこと、具体的にはセル抵抗(R)が小さいこと。すなわち電圧効率(ηV)が高いこと。
3)上記1)、2)に関連する電池エネルギー効率(ηE)が高いこと。
ηE=ηI×ηV
4)繰返し使用に対する劣化が小さいこと(高寿命)、具体的には電池エネルギー効率(ηE)の低下量が小さいこと。
2Mn3++2H2O⇔Mn2++MnO2+4H-
2Mn3++2H2O⇔Mn2++MnO2+4H-
1.炭素質繊維(A)と、前記炭素質繊維(A)を結着する炭素質材料(B)と、からなり、下記の要件を満足することを特徴とするレドックスフロー電池用炭素電極材。
(1)炭素質材料(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以上、
(2)炭素質繊維(A)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(B)/Lc(A)は1.0以上、
(3)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上。
2.炭素質繊維(A)、および炭素質材料(B)の合計量に対する前記炭素質材料(B)の質量含有率が20%以上である上記1に記載の炭素電極材。
3.前記Lc(A)は1~10nmである上記1または2に記載の炭素電極材。
4.水滴を垂らした時の通水速度が0.5mm/sec以上である上記1~3のいずれかに記載の炭素電極材。
5.マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられるものである上記1~4のいずれかに記載の炭素電極材。
6.上記1~5のいずれかに記載の炭素電極材を備えたレドックスフロー電池。
7.上記1~5のいずれかに記載の炭素電極材を用いたマンガン/チタン系レドックスフロー電池。
8.上記1~5のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、前記炭素質繊維(A)に炭化前の炭素質材料(B)を添着する工程と、添着後の製造物を、不活性雰囲気下、800℃以上2000℃以下の温度で加熱する炭素化工程と、不活性雰囲気下、1800℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱する黒鉛化工程と、酸化処理工程と、をこの順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。
11.炭素質繊維(A)と、黒鉛粒子(B)と、これらを結着する炭素質材料(C)と、からなり、下記の要件を満足することを特徴とするレドックスフロー電池用炭素電極材。
(1)黒鉛粒子(B)の粒径は1μm以上、
(2)黒鉛粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)が35nm以上、
(3)炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(C)としたとき、Lc(C)は10nm以上、
(4)炭素質繊維(A)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0以上、
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上
12.炭素質繊維(A)、黒鉛粒子(B)、および炭素質材料(C)の合計量に対する前記黒鉛粒子(B)または前記炭素質材料(C)の質量含有率がそれぞれ20%以上であり、かつ、前記黒鉛粒子(B)に対する前記炭素質材料(C)の質量比が0.2~3.0である上記11に記載の炭素電極材。
13.前記Lc(A)は1~10nmである上記11または12に記載の炭素電極材。
14.窒素吸着量から求められるBET比表面積が1.0~8m2/gである上記11~13のいずれかに記載の炭素電極材。
15.前記黒鉛粒子(B)が鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、および膨張化黒鉛よりなる群から選択される少なくとも1種以上を含む上記11~14のいずれかに記載の炭素電極材。
16.水滴を垂らした時の通水速度が0.5mm/sec以上である上記11~15のいずれかに記載の炭素電極材。
17.マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられるものである上記11~16のいずれかに記載の炭素電極材。
18.上記11~17のいずれかに記載の炭素電極材を備えたレドックスフロー電池。
19.上記11~17のいずれかに記載の炭素電極材を用いたマンガン/チタン系レドックスフロー電池。
20.上記11~17のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
前記炭素質繊維(A)に前記黒鉛粒子(B)および炭化前の炭素質材料(C)を添着する工程と、
添着後の製造物を、不活性雰囲気下、800℃以上2000℃以下の温度で加熱する炭素化工程と、
不活性雰囲気下、1800℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱する黒鉛化工程と、
酸化処理工程と、をこの順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。
21.マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられる炭素電極材であって、前記炭素電極材は、炭素質繊維(A)と、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)と、これらを結着する炭素質材料(C)と、からなり、
下記の要件を満足することを特徴とするマンガン/チタン系レドックスフロー電池用炭素電極材。
(1)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の粒径は1μm以下、
(2)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以下、
(3)炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)、Lc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5、
(4)炭素質繊維(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、および炭素質材料(C)の合計量に対する前記炭素質材料(C)の質量含有率は14.5%以上、
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上
22.前記炭素粒子(B)に対する前記炭素質材料(C)の質量比が0.2~10である上記21に記載の炭素電極材。
23.窒素吸着量から求められるBET比表面積が0.5m2/g以上である上記21または22に記載の炭素電極材。
24.水滴を垂らした時の通水速度が0.5mm/sec以上である上記21~23のいずれかに記載の炭素電極材。
25.上記21~24のいずれかに記載の炭素電極材を負極に備えたマンガン/チタン系レドックスフロー電池。
26.上記21~24のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
前記炭素質繊維(A)に前記黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)および炭化前の炭素質材料(C)を添着する工程と、
添着後の製造物を、不活性雰囲気下、800℃以上2000℃以下の温度で加熱する炭素化工程と、
不活性雰囲気下、1300℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱する黒鉛化工程と、
酸化処理工程と、をこの順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。
まず第1の炭素電極材は、初期充放電時のセル抵抗の上昇を抑制しつつ耐酸化性に優れるため、特にMn-Ti系レドックスフロー電池用の電極材として有用である。更に第1の炭素電極材は、フロータイプおよびノンフロータイプのレドックスフロー電池、またはリチウム、キャパシタ、燃料電池のシステムと複合化されたレドックスフロー電池に好適に用いられる。
[I-1.第1の炭素電極材の構成]
本発明者らは、特に、正極活物質にMnイオン、負極活物質にTiイオンなどを用いたMn-Ti系レドックスフロー電池に好ましく用いられる炭素電極材を提供するため、鋭意検討してきた。従来のV系レドックスフロー電池やFe-Cr系レドックスフロー電池と異なり、Mn-Ti系レドックスフロー電池では、Mn酸化物といった析出物の発生を抑制でき、Mn2+/Mn3+の反応を安定して行なうことのできる耐酸化性を有することが重要であるが、これまでに提案されている電極材は、この点について考慮されていない。
上記の炭素電極材を提供するに当たり、本発明者らは、まず炭素粒子について検討した。一般的に、レドックスフロー電池における反応活性を示す炭素粒子としては、アセチレンブラック(アセチレンの煤)、オイルブラック(ファーネスブラック、オイルの煤)、ガスブラック(ガスの煤)などのカーボンブラック類のように反応性および比表面積が高く、低結晶性のものがよく用いられる。しかしながら、このように炭素結晶性が低いものは、正極マンガンの充電液に対して容易に酸化されてしまい、使用できないことが判明した。
(1)X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以上
(2)炭素質繊維における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(B)/Lc(A)は1.0以上
ここで「炭素質繊維(A)と当該炭素質繊維(A)を結着する」(換言すれば、第1の電極材に用いられる炭素質材料は炭素質繊維の結着剤として作用する)とは、当該炭素質材料によって炭素質繊維間が強く結着されて、電極材全体としてみた場合に当該炭素質材料により炭素質繊維表面が被覆されているように構成されていることを意味する。
但し、結着後の炭素質材料は被膜状態にならないことが好ましい。ここで「被膜状態にならない」とは、炭素質繊維(A)の繊維間において炭素質材料(B)が全蹼足(ボクソク)や蹼足のような水かき状態を形成しないことを意味する。被膜状態を形成した場合、電解液の通液性が悪化し、電池の抵抗が上昇する。
このような結着状態を得るためには、炭素質繊維と炭素質材料の合計量に対する炭素質材料の含有比率を多くすることが好ましく、第1の電極材では、例えば20%以上とする。この点で、第1の電極材における炭素質材料は、前述した特許文献4に記載の炭素質材料とは相違する。特許文献4では、炭素質繊維と炭素微粒子とが元々接触していた部分のみを固定(接着)できれば良いという発想のもと、使用する炭素質材料は部分的な接着剤としての作用が発揮されれば良いとの認識しかない。そのため、特許文献4の実施例では、炭素質材料の含有率はせいぜい14.4%である。
このような結着性の炭素質材料を用いれば、炭素質材料が炭素質繊維間などを強く結着するため、効率的な導電パスを形成でき、抵抗の上昇が抑えられることが判明した。
更に上記(1)、(2)の高結晶性の炭素質材料を用いることにより、炭素質材料自体に高耐酸化性が付与されるだけでなく、炭素質繊維の酸化劣化に対する保護効果も高められることが判明した。
(3)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上
これにより、炭素のエッジ面や欠陥構造部に酸素原子を導入することができる。その結果、電極材の表面では、導入された酸素原子がカルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの反応基として生成されるため、これらの反応基が電極反応に大きく寄与し、抵抗の上昇が一層抑えられる。
第1の電極材に用いられる炭素質繊維は、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理(詳細は後述する。)して得られる繊維であって、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維を意味する(JIS L 0204-2)。炭素質繊維の原料となる有機繊維のプレカーサーとしては、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維;フェノール繊維;ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)等のPBO繊維;芳香族ポリアミド繊維;等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維、メソフェーズピッチ等のピッチ繊維;セルロース繊維;等を使用することができる。中でも、耐酸化性に優れ、強度・弾性率に優れる等の観点から、有機繊維のプレカーサーとしては、アクリル繊維、フェノール繊維、セルロース繊維、等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維が好ましく、アクリル繊維がより好ましい。アクリル繊維は、アクリロニトリルを主成分として含有するものであれば特に限定されないが、アクリル繊維を形成する原料単量体中、アクリロニトリルの含有量が95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。
例えば、有機繊維としてアクリル樹脂(好ましくはポリアクリロニトリル)を使用する場合、加熱温度は800℃以上2000℃以下であることが好ましく、1000℃以上1800℃以下であることがさらに好ましい。
第1の電極材において炭素質材料は、本来、結着し得ない炭素質繊維を強く結着させるための結着剤(バインダー)として添加されるものである。第1の電極材では、上記(1)に規定するように炭素質材料(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以上であり、且つ、上記(2)に規定するように、炭素質繊維(A)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)/Lc(A)は1.0以上を満足する必要がある。
これらの要件を満足する結着性且つ高結晶性の炭素質材料を用いることにより、炭素質繊維間が強く結着されて炭素質材料自体に高い耐酸化性が付与されるだけでなく、炭素質繊維表面が炭素質材料で被覆されるようになって、炭素質繊維の酸化劣化に対する保護効果も高められ、その結果、電極材全体の耐酸化性も向上する。
第1の電極材の好ましい態様によれば、フェノール樹脂を使用しないため、フェノール樹脂に伴う弊害(室温でのホルムアルデヒド発生およびホルムアルデヒド臭)は生じず、常温では臭気が発生しない等のメリットがある。これに対し、前述した特許文献4では接着剤としてフェノール樹脂を用いているため、上記弊害の他、作業場所におけるホルムアルデヒド濃度を管理濃度以下に制御するための設備が別途必要になる等、コスト面、作業面でのデメリットがある。
第1の電極材は、炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上を満足する。以下、上記全炭素原子数に対する結合酸素原子数の比をO/Cで略記する場合がある。O/Cは、X線光電子分光法(XPS)や蛍光X線分析法などの表面分析にて測定できる。
次に、第1の電極材を製造する方法について説明する。第1の電極材は、炭素質繊維(基材)に炭素質材料の前駆体(炭化前のもの)を添着した後、炭素化工程、黒鉛化工程、酸化処理工程を経て製造することができる。各工程では、公知の方法を任意に適用することができる。
まず、炭素質繊維に炭素質材料の前駆体を添着させる。上記工程は、公知の方法を任意に採用できる。例えば上記の炭素質材料前駆体を加熱して溶融させ、得られた溶融液中に炭素質繊維を浸漬した後、室温まで冷却する手法が挙げられる。或は、上記の炭素質材料前駆体を水やアルコールなどの溶媒に分散、もしくはトルエンなどの溶媒に一部溶解、一部分散させ、この分散液に炭素質繊維を浸漬した後、加熱して乾燥する手法を用いることができる。
ここで、炭素質繊維を浸漬した上記溶融液、分散液や溶液のうち余分な液(ピックアップ量)は、所定のクリアランスを設けたニップローラーに通すことで添着後の製造物を絞ったり、或は、ドクターブレード等で添着後の製造物の表面をかきとる等の方法で除去することができる。
炭素化工程は、上記工程で得られた添着後の製造物を焼成するために行なわれる。これにより、炭素質繊維間が結着されるようになる。炭素化工程では、炭化時の分解ガスを十分に除去することが好ましく、例えば、不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)、800℃以上2000℃以下の温度で加熱することが好ましい。加熱温度は1000℃以上がより好ましく、1200℃以上がさらに好ましく、1300℃以上がさらにより好ましく、また、1500℃以下がより好ましく、1400℃以下がさらに好ましい。
・方法1:繊維の耐炎化→繊維の炭素化→炭素質材料の添着→炭素化→黒鉛化→酸化
・方法2:繊維の耐炎化→炭素質材料の添着→炭素化→黒鉛化→酸化
上記方法1によれば、炭素化を2回行うため加工コストが上昇するものの、電極材として使用するシートは体積収縮比率の差による影響を受け難いため、得られるシートが変形(反り発生)し難いという利点がある。一方、上記方法2によれば、炭素化工程を1回行えば良いため加工コストを低減できるものの、各材料の炭素化時における体積収縮比率の差により得られるシートが変形し易くなる。上記方法1、2のいずれを採用するかは、これらを勘案して適宜決定すれば良い。
黒鉛化工程は、炭素質材料の結晶性を十分に高め、高耐酸化性を発現するために行なわれる工程である。上記炭素化工程の後、さらに不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)で1800℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱することが好ましく、2000℃以上がより好ましい。なお、その上限は、設備への負荷などを考慮すると、3000℃以下が好ましい。
これに対し、前述した特許文献4では、上記黒鉛化工程を行っていない点で第1の電極材の製造方法と相違する。そのため、上記特許文献4の電極材は、第1の電極材における要件(炭素質材料(B)のLcが10nm以上)を満足しない。
上記黒鉛化工程の後、さらに酸化処理工程を行うことにより、電極材表面に、ヒドロキシル基、カルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの酸素官能基が導入されるようになる。その結果、前述したO/C比≧1%を達成することができる。これらの酸素官能基は電極反応に大きく寄与するため、十分に低い抵抗が得られる。また水の通水速度も高められる。
[II-1.第2の炭素電極材の構成]
本発明者らは、特に、正極活物質にMnイオン、負極活物質にTiイオンなどを用いたMn-Ti系レドックスフロー電池に好ましく用いられる炭素電極材を提供するため、鋭意検討してきた。従来のV系レドックスフロー電池やFe-Cr系レドックスフロー電池と異なり、Mn-Ti系レドックスフロー電池では、Mnイオンに対する耐酸化性を有することが重要であるが、これまでに提案されている電極材は、この点について考慮されていない。そのため、従来の電極材をMn-Ti系レドックスフロー電池に用いると、耐酸化性と低抵抗の両立が困難であることが、本発明者らの検討結果によって判明した。
(1)粒径が1μm以上
(2)黒鉛粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)が35nm以上
これらの要件を満足する黒鉛粒子を用いれば、反応場としての炭素エッジ面を過不足なく露出させることができ、低抵抗と高耐酸化性の両立が可能となることが判明した。
(3)X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(C)としたとき、Lc(C)は10nm以上
(4)炭素質繊維における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0以上
ここで「炭素質繊維(A)と黒鉛粒子(B)の両方を結着する」(換言すれば、第2の電極材に用いられる炭素質材料は炭素質繊維と黒鉛粒子の結着剤として作用する)とは、当該炭素質材料によって炭素質繊維および黒鉛粒子の表面および内部(炭素質繊維間、黒鉛粒子同士を含む)が強く結着されて、電極材全体としてみた場合に当該炭素質材料により炭素質繊維が被覆されつつ、黒鉛粒子の表面が露出しているように構成されていることを意味する。
但し、結着後の炭素質材料は被膜状態にならないことが好ましい。ここで「被膜状態にならない」とは、炭素質繊維(A)の繊維間において炭素質材料(C)が全蹼足(ボクソク)や蹼足のような水かき状態を形成しないことを意味する。被膜状態を形成した場合、電解液の通液性が悪化し、上記黒鉛粒子の反応表面積を有効利用できないためである。
一方、図4は、第2の電極材において炭素質繊維(A)と黒鉛粒子(B)の両方が結着されていない状態を示すSEM写真である。この図4は、後記する実施例3において、表3AのNo.13(第2の電極材の要件を満たさない比較例)のSEM写真(倍率100倍)である。
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上
これにより、炭素のエッジ面や欠陥構造部に酸素原子を導入することができる。その結果、電極材の表面では、導入された酸素原子がカルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの反応基として生成されるため、これらの反応基が電極反応に大きく寄与し、十分な低抵抗を得ることが出来る。
第2の電極材に用いられる炭素質繊維は、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理(詳細は後述する。)して得られる繊維であって、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維を意味する(JIS L 0204-2)。炭素質繊維の原料となる有機繊維のプレカーサーとしては、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維;フェノール繊維;ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)等のPBO繊維;芳香族ポリアミド繊維;等方性ピッチ、異方性ピッチ繊維、メソフェーズピッチ等のピッチ繊維;セルロース繊維;等を使用することができる。中でも、耐酸化性に優れ、強度・弾性率に優れる等の観点から、有機繊維のプレカーサーとしては、アクリル繊維、フェノール繊維、セルロース繊維、等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維が好ましく、アクリル繊維がより好ましい。アクリル繊維は、アクリロニトリルを主成分として含有するものであれば特に限定されないが、アクリル繊維を形成する原料単量体中、アクリロニトリルの含有量が95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。
第2の電極材において黒鉛粒子は、酸化還元による価数の変化(反応性)を高めて高耐酸化性を得るために必要である。反応場である炭素エッジ面は、高反応性を発現するのに必要であるが、過剰なエッジ面の露出は耐酸化性の低下を招く。本発明者らの検討結果によれば、黒鉛粒子について、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)の値が炭素エッジ面の露出度と相関していることを見出した。具体的には上記(2)に規定するようにLc(B)は35nm以上であり、好ましくは37nm以上である。これにより、反応場としての炭素エッジ面を過不足なく露出させることができ、低抵抗と高耐酸化性の両立が可能となる。上記値の上限は上記観点からは特に限定されないが、耐酸化性と低抵抗のバランスなどを考慮すると、おおむね、50nm以下であることが好ましい。
ここで、炭素質材料の比表面積が大きくなると、耐酸化性向上効果が有効に発揮されない理由は以下のように推察される。
通常、黒鉛粒子が埋没すると、トレードオフで抵抗は高くなるものの耐久性も高くなると予想されるが、実際は抵抗が高く耐久性が低い結果となる。これは、黒鉛粒子の埋没により黒鉛粒子の添加効果が有効に発揮されずに高抵抗化し、炭素質材料(バインダー)が黒鉛粒子を被覆することで、炭素質材料の高比表面積化も招く結果、耐久性が低下すると推察される。
第2の電極材に用いられる炭素質材料は、本来、結着し得ない炭素質繊維と黒鉛粒子とを強く結着させるための結着剤(バインダー)として添加されると共に、耐酸化性に劣る炭素質繊維を保護する作用を有する。第2の電極材では、上記(3)に規定するように炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(C)としたとき、Lc(C)は10nm以上であり、且つ、上記(4)に規定するように、炭素質繊維(A)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0以上を満足する必要がある。
これらの要件を全て満足する結着性の炭素質材料を用いることにより、炭素質材料(C)自体に高い耐酸化性が付与されるだけでなく、炭素質繊維が高結晶な炭素質材料(C)で被覆されるようになって、炭素質繊維の酸化劣化に対する保護効果も高められ、その結果、電極材全体の耐酸化性も向上する。
第2の電極材の好ましい態様によれば、フェノール樹脂を使用しないため、フェノール樹脂に伴う弊害(室温でのホルムアルデヒド発生およびホルムアルデヒド臭)は生じず、常温では臭気が発生しない等のメリットがある。これに対し、前述した特許文献4では接着剤としてフェノール樹脂を用いているため、上記弊害の他、作業場所におけるホルムアルデヒド濃度を管理濃度以下に制御するための設備が別途必要になる等、コスト面、作業面でのデメリットがある。
第2の電極材は、炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上を満足する。以下、上記全炭素原子数に対する結合酸素原子数の比をO/Cで略記する場合がある。O/Cは、X線光電子分光法(XPS)や蛍光X線分析法などの表面分析にて測定できる。
次に、第2の電極材を製造する方法について説明する。第2の電極材は、炭素質繊維(基材)に黒鉛粒子、および炭素質材料の前駆体(炭化前のもの)を添着した後、炭素化工程、黒鉛化工程、酸化処理工程を経て製造することができる。各工程では、公知の方法を任意に適用することができる。
まず、炭素質繊維に黒鉛粒子および炭素質材料の前駆体を添着させる。炭素質繊維に黒鉛粒子及び炭素質材料の前駆体を添着させるには、公知の方法を任意に採用できる。例えば上記の炭素質材料前駆体を加熱して溶融させ、得られた溶融液中に黒鉛粒子を分散させ、この溶融分散液に炭素質繊維を浸漬した後、室温まで冷却する手法が挙げられる。或は、後記する実施例に示すように、上記の炭素質材料前駆体と黒鉛粒子を、ポリビニルアルコールなどのように炭化時に消失するバインダー(仮接着剤)を添加した水やアルコールなどの溶媒に分散させ、この分散液に炭素質繊維を浸漬した後、加熱して乾燥する手法を用いることができる。ここで、炭素質繊維を浸漬した上記溶融分散液や分散液のうち余分な液は、所定のクリアランスを設けたニップローラーに通すことで分散液に浸漬した際の余分な分散液を絞ったり、或は、ドクターブレード等で分散液に浸漬した際の余分な分散液の表面をかきとる等の方法で除去することができる。
炭素化工程は、上記工程で得られた添着後の製造物を焼成するために行なわれる。これにより、黒鉛粒子を介して炭素質繊維間が結着されるようになる。炭素化工程では、炭化時の分解ガスを十分に除去することが好ましく、例えば、不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)、800℃以上2000℃以下の温度で加熱することが好ましい。加熱温度は1000℃以上がより好ましく、1200℃以上がさらに好ましく、1300℃以上がさらにより好ましく、また、1500℃以下がより好ましく、1400℃以下がさらに好ましい。
・方法1:繊維の耐炎化→繊維の炭素化→黒鉛粒子および炭素質材料の添着→炭素化→黒鉛化→酸化
・方法2:繊維の耐炎化→黒鉛粒子および炭素質材料の添着→炭素化→黒鉛化→酸化
上記方法1によれば、炭素化を2回行うため加工コストが上昇するものの、電極材として使用するシートは体積収縮比率の差による影響を受け難いため、得られるシートが変形(反り発生)し難いという利点がある。一方、上記方法2によれば、炭素化工程を1回行えば良いため加工コストを低減できるものの、各材料の炭素化時における体積収縮比率の差により得られるシートが変形し易くなる。上記方法1、2のいずれを採用するかは、これらを勘案して適宜決定すれば良い。
黒鉛化工程は、炭素質材料の結晶性を十分に高め、高耐酸化性を発現するために行なわれる工程である。上記炭素化工程の後、さらに不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)で、1800℃以上の温度であって、上記炭素化工程における加熱温度よりも高い温度で加熱することが好ましく、2000℃以上がより好ましい。なお、その上限は、設備への負荷などを考慮すると、3000℃以下が好ましい。
これに対し、前述した特許文献4では、上記黒鉛化工程を行っていない点で第2の電極材の製造方法と相違する。そのため、上記特許文献4の電極材は、第2の電極材における要件[炭素質材料(C)のLcが10nm以上]を満足しない。
上記黒鉛化工程の後、さらに酸化処理工程を行うことにより、電極材表面に、ヒドロキシル基、カルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの酸素官能基が導入されるようになる。その結果、前述したO/C比≧1%を達成することができる。これらの酸素官能基は電極反応に大きく寄与するため、十分に低い抵抗が得られる。また水の通水速度も高められる。
[III-1.第3の炭素電極材の構成]
本発明者らは、初期充放電時のセル抵抗が低減された炭素電極材を提供するに当たり、黒鉛粒子以外の炭素粒子を用いて検討を行なった。その結果、粒径が小さく、且つ、低結晶性の炭素粒子を用いれば、反応表面積が大きくなり、酸素官能基が付与され易くなって反応活性が上昇し、低抵抗が得られることが判明した。
(1)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の粒径は1μm以下
(2)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以下
上記(1)のように粒径の小さい炭素粒子を用いると反応表面積が大きくなり、低抵抗化が可能である。更に上記(2)のように低結晶性の炭素粒子は酸素官能基が導入され易く反応活性が向上するため、更なる低抵抗化が可能である。
(3)炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)、Lc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5
(4)炭素質繊維(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、および炭素質材料(C)の合計量に対する前記炭素質材料(C)の質量含有率は14.5%以上
ここで「炭素質繊維(A)と黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の両方を結着する」(換言すれば、第3の炭素電極材に用いられる炭素質材料は炭素質繊維と黒鉛粒子以外の炭素粒子の結着剤として作用する)とは、当該炭素質材料によって炭素質繊維および黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面および内部(炭素質繊維間、黒鉛粒子以外の炭素粒子同士を含む)が強く結着されて、電極材全体としてみた場合に当該炭素質材料により炭素質繊維が被覆されつつ、黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面が露出しているように構成されていることを意味する。
但し、結着後の炭素質材料は被膜状態にならないことが好ましい。ここで「被膜状態にならない」とは、炭素質繊維(A)の繊維間において炭素質材料(C)が全蹼足(ボクソク)や蹼足のような水かき状態を形成しないことを意味する。被膜状態を形成した場合、電解液の通液性が悪化し、上記炭素粒子の反応表面積を有効利用できないためである。
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上
これにより、炭素のエッジ面や欠陥構造部に酸素原子を導入することができる。その結果、電極材の表面では、導入された酸素原子がカルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの反応基として生成されるため、これらの反応基が電極反応に大きく寄与し、十分な低抵抗を得ることが出来る。
第3の電極材に用いられる炭素質繊維は、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理(詳細は後述する。)して得られる繊維であって、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維を意味する(JIS L 0204-2)。炭素質繊維の原料となる有機繊維のプレカーサーとしては、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維;フェノール繊維;ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)等のPBO繊維;芳香族ポリアミド繊維;等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維、メソフェーズピッチ等のピッチ繊維;セルロース繊維;等を使用することができる。中でも、強度・弾性率に優れる等の観点から、有機繊維のプレカーサーとしては、アクリル繊維、フェノール繊維、セルロース繊維、等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維が好ましく、アクリル繊維がより好ましい。アクリル繊維は、アクリロニトリルを主成分として含有するものであれば特に限定されないが、アクリル繊維を形成する原料単量体中、アクリロニトリルの含有量が95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。
第3の電極材において「黒鉛粒子以外の炭素粒子」は、反応表面積を高めて低抵抗を実現するために有用である。第3の電極材では、低抵抗化のため、上記(1)および(2)を満足するものを用いた。
第3の電極材において炭素質材料は、本来、結着し得ない炭素質繊維と、黒鉛粒子以外の炭素粒子とを強く結着させるための結着剤(バインダー)として添加されるものである。第3の電極材では、上記(3)に規定するように炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)およびLc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5を満足する必要がある。
このように炭素質繊維(A)に対して高結晶性の結着性炭素質材料を用いることにより上記炭素粒子(B)と炭素質繊維(A)との電子伝導抵抗が低くなって、当該炭素粒子(B)と炭素質繊維(A)の電子伝導パスがスムーズになる。また、炭素質材料が黒鉛粒子以外の炭素粒子を介して炭素質繊維間などを強く結着するため、効率的な導電パスを形成でき、前述した黒鉛粒子以外の炭素粒子添加による低抵抗化作用が一層有効に発揮されることが判明した。
第3の電極材の好ましい態様によれば、フェノール樹脂を使用しないため、フェノール樹脂に伴う弊害(室温でのホルムアルデヒド発生およびホルムアルデヒド臭)は生じず、常温では臭気が発生しない等のメリットがある。これに対し、前述した特許文献4では接着剤としてフェノール樹脂を用いているため、上記弊害の他、作業場所におけるホルムアルデヒド濃度を管理濃度以下に制御するための設備が別途必要になる等、コスト面、作業面でのデメリットがある。
第3の電極材は、炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上を満足する。以下、上記全炭素原子数に対する結合酸素原子数の比をO/Cで略記する場合がある。O/Cは、X線光電子分光法(XPS)や蛍光X線分析法などの表面分析にて測定できる。
一方、Mn/Ti系レドックスフロー電池の正極に用いられる電極材の種類は、当該技術分野において通常用いられるものであれば特に限定されず、燃料電池に用いられるような炭素繊維ペーパー等を用いても良いし、第3の電極材をそのまま正極に用いても良い。例えば短期的な使用(例えば後記する実施例のように充放電試験の合計時間が3時間の場合)では、第3の電極材を正極に用いることができ、初期充放電時のセル抵抗を低下し得ることを確認している(後記する実施例を参照)。なお後記する実施例では、正極および負極に同一サンプルを用いたが、これに限定されず、第3の電極材の要件を満足するものであれば異なる組成のものを用いても良い。
但し、長期にわたる充放電の繰り返しにおいてはマンガンの強い酸化力により電極がCOやCO2に分解されてしまうため、正極には耐酸化性を有する電極(例えば2000℃以上で焼成されたポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルト等)を用い、負極側に第3の電極材を用いることが推奨される。
次に、第3の電極材を製造する方法について説明する。第3の電極材は、炭素質繊維(基材)に黒鉛粒子以外の炭素粒子、および炭素質材料の前駆体(炭化前のもの)を添着した後、炭素化工程、黒鉛化工程、酸化処理工程を経て製造することができる。各工程では、公知の方法を任意に適用することができる。
まず、炭素質繊維に黒鉛粒子以外の炭素粒子および炭素質材料の前駆体を添着させる。炭素質繊維に黒鉛粒子以外の炭素粒子及び炭素質材料の前駆体を添着させるには、公知の方法を任意に採用できる。例えば上記の炭素質材料前駆体を加熱して溶融させ、得られた溶融液中に黒鉛粒子以外の炭素粒子を分散させ、この溶融分散液に炭素質繊維を浸漬した後、室温まで冷却する手法が挙げられる。或は、後記する実施例に示すように、上記の炭素質材料前駆体と黒鉛粒子以外の炭素粒子を、ポリビニルアルコールなどのように炭化時に消失するバインダー(仮接着剤)を添加した水やアルコールなどの溶媒に分散させ、この分散液に炭素質繊維を浸漬した後、加熱して乾燥する手法を用いることができる。ここで、炭素質繊維を浸漬した上記溶融分散液や分散液のうち余分な液は、所定のクリアランスを設けたニップローラーに通すことで分散液に浸漬した際の余分な分散液を絞ったり、或は、ドクターブレード等で分散液に浸漬した際の余分な分散液の表面をかきとる等の方法で除去することができる。
炭素化工程は、上記工程で得られた添着後の製造物を焼成するために行なわれる。これにより、黒鉛粒子以外の炭素粒子を介して炭素質繊維間が結着されるようになる。炭素化工程では、炭化時の分解ガスを十分に除去することが好ましく、例えば、不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)、800℃以上2000℃以下の温度で加熱することが好ましい。加熱温度は1000℃以上がより好ましく、1200℃以上がさらに好ましく、1300℃以上がさらにより好ましく、また、1500℃以下がより好ましく、1400℃以下がさらに好ましい。
・方法1:繊維の耐炎化→繊維の炭素化→黒鉛粒子以外の炭素粒子および炭素質材料の添着→炭素化→黒鉛化→酸化
・方法2:繊維の耐炎化→黒鉛粒子以外の炭素粒子および炭素質材料の添着→炭素化→黒鉛化→酸化
上記方法1によれば、炭素化を2回行うため加工コストが上昇するものの、電極材として使用するシートは体積収縮比率の差による影響を受け難いため、得られるシートが変形(反り発生)し難いという利点がある。一方、上記方法2によれば、炭素化工程を1回行えば良いため加工コストを低減できるものの、各材料の炭素化時における体積収縮比率の差により得られるシートが変形し易くなる。上記方法1、2のいずれを採用するかは、これらを勘案して適宜決定すれば良い。
黒鉛化工程は、炭素質材料の結晶性を十分に高め、電子伝導性の向上ならびに電解液中の硫酸溶液などに対する耐酸化性を向上させるために行なわれる工程である。上記炭素化工程の後、さらに不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)で1300℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱することが好ましく、1500℃以上がより好ましい。なお、その上限は、炭素質材料に高い電解液親和性を付与することを考慮すると、2000℃以下が好ましい。
これに対し、前述した特許文献4では、上記黒鉛化工程を行っていない点で第3の電極材の製造方法と相違する。
上記黒鉛化工程の後、さらに酸化処理工程を行うことにより、電極材表面に、ヒドロキシル基、カルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの酸素官能基が導入されるようになる。その結果、前述したO/C比≧1%を達成することができる。これらの酸素官能基は電極反応に大きく寄与するため、十分に低い抵抗が得られる。また水の通水速度も高められる。
(1-1)第1の電極材について
第1の電極材における炭素質繊維のLc(A)および炭素質材料のLc(B)を以下のようにして測定した。
本実施例で用いた炭素質繊維、および炭素質材料のそれぞれ(単体)について、実施例1と同じ加熱処理を順次行い、最終処理されたサンプルを用いて測定した。基本的に炭素結晶性はそのサンプルに与えられる熱エネルギーの影響が支配的になり、サンプルに与えられる最高温の熱履歴がLcの結晶性を決定すると考えられるが、その後の酸化処理の度合いによっては、黒鉛化工程時に形成されたグラフェン積層構造を乱し、欠陥構造の発生などによる結晶性の低下が生じる可能性が考えられる。そのため、最終処理されたサンプルを用いた。
ここで、構造係数k=0.9、波長λ=1.5418Å、βは<002>回折ピークの半値幅を、θは<002>回折角を示す。
第2の電極材における炭素質繊維のLc(A)、黒鉛粒子のLc(B)、および炭素質材料のLc(C)を以下のようにして測定した。
本実施例で用いた炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料のそれぞれ(単体)について、実施例2と同じ加熱処理を順次行い、最終処理されたサンプルを用いて測定した。基本的に炭素結晶性はそのサンプルに与えられる熱エネルギーの影響が支配的になり、サンプルに与えられる最高温の熱履歴がLcの結晶性を決定すると考えられるが、その後の酸化処理の度合いによっては、黒鉛化工程時に形成されたグラフェン積層構造を乱し、欠陥構造の発生などによる結晶性の低下が生じる可能性が考えられる。そのため、最終処理されたサンプルを用いた。
ここで、波長λ=1.5418Å、構造係数k=0.9、βは<002>回折ピークの半値幅を、θは<002>回折角を示す。
第3の電極材における炭素質繊維のLc(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子のLc(B)およびLa(B)、炭素質材料のLc(C)を以下のようにして測定した。
本実施例で用いた炭素質繊維、黒鉛粒子以外の炭素粒子、炭素質材料のそれぞれ(単体)について、実施例1と同じ加熱処理を順次行い、最終処理されたサンプルを用いて測定した。基本的に炭素結晶性はそのサンプルに与えられる熱エネルギーの影響が支配的になり、サンプルに与えられる最高温の熱履歴がLcの結晶性を決定すると考えられるが、その後の酸化処理の度合いによっては、黒鉛化工程時に形成されたグラフェン積層構造を乱し、欠陥構造の発生などによる結晶性の低下が生じる可能性が考えられる。そのため、最終処理されたサンプルを用いた。
ここで、構造係数k=0.9、波長λ=1.5418Å、βは<002>回折ピークの半値幅を、θは<002>回折角を示す。
ESCAまたはXPSと略称されているX線光電子分光法の測定には、アルバック・ファイ5801MCの装置を用いた。
まず、試料をサンプルホルダー上にMo板で固定し、予備排気室にて十分に排気した後、測定室のチャンバーに投入した。線源にはモノクロ化AlKα線を用い、出力は14kV、12mA、装置内真空度は10-8torrとした。
全元素スキャンを行って表面元素の構成を調べ、検出された元素および予想される元素についてナロースキャンを実施し、存在比率を評価した。
全表面炭素原子数に対する表面結合酸素原子数の比を百分率(%)で算出し、O/Cを算出した。
後記する方法で得られた各電極材を、上下方向(通液方向)に2.7cm、幅方向に3.3cmの電極面積8.91cm2に切り出し、正極側にのみ導入した。このとき、セル内目付が230~350g/m2となるように枚数を調整した。負極側には下記で作製した電極材を2枚積層し、図1のセルを組み立てた。イオン交換膜はナフィオン212膜を用い、スペーサー厚みは0.5mmとした。144mA/cm2で電圧範囲1.55~1.00Vで10サイクル後の電圧曲線から、下式によって全セル抵抗(Ω・cm2)を算出した。なお正極および負極の電解液には共に、オキシ硫酸チタン及びオキシ硫酸マンガンをそれぞれ1.0moL/Lずつ溶解した5.0moL/L硫酸水溶液を用いた。電解液量はセルおよび配管に対して大過剰とした。液流量は毎分10mLとし、35℃で測定を行った。
ここで、
VC50は、充電率が50%のときの電気量に対する充電電圧を電極曲線から求めたもの、
VD50は、充電率が50%のときの電気量に対する放電電圧を電極曲線から求めたもの、
I=電流密度(mA/cm2)
平均繊維径16μmのポリアクリロニトリル繊維からなる平織クロス(厚み1.0mm、目付600g/m2)を空気雰囲気下、300℃で加熱して耐炎化し、窒素雰囲気下1000℃で1時間焼成した。その後、空気雰囲気下、600℃で8分間加熱した後、窒素雰囲気下1800℃で1時間焼成した。更に空気雰囲気下、700℃で15分間処理することで、目付152g/m2、厚み0.73mmの負極用電極材を得た。
(4-1)炭素粒子(黒鉛粒子を含む)の耐酸化性
1.0moL/Lオキシ硫酸チタンの5.0moL/L硫酸水溶液と1.0moL/Lオキシ硫酸マンガンの5.0moL/L硫酸水溶液とからなる電解液で、作用極に白金線、参照極にAg/AgCl電極を用いた電池において、開放電圧1.266Vになるまで充電した。実施例で用いた炭素粒子を、炭素粒子に対して40倍量の上記電解液に浸漬して、75℃で16時間静置した。室温まで放冷した後、電解液の開放電圧(作用極に白金線、参照極にAg/AgCl)を測定し、1.266Vからの電圧低下度で耐酸化性を見積もった。
(4-2)電極材の耐酸化性
1.0moL/Lオキシ硫酸チタンの5.0moL/L硫酸水溶液と1.0moL/Lオキシ硫酸マンガンの5.0moL/L硫酸水溶液とからなる電解液で、作用極に白金線、参照極にAg/AgCl電極を用いた電位において、開放電圧1.266Vになるまで充電した。作製した電極材を、電極重量に対して40倍量の充電液に浸漬して、75℃で16時間静置した。室温まで放冷した後、電解液の開放電圧(作用極に白金線、参照極にAg/AgCl)を測定し、1.266Vからの電圧低下度で耐酸化性を見積もった。
電極からの高さ5cmの地点において、3mmφのピペットから1滴のイオン交換水を電極上に落とし、垂らした水滴が浸透するまでの時間を計測して、下式により水の通水速度を算出した。
水の通水速度(mm/sec)
=電極材の厚み(mm)÷水滴が浸透するまでの時間(sec)
実施例1
本実施例では、表1に記載の炭素質繊維(A)および炭素質材料(B)を用い、以下のようにして電極材を作製して各種項目を測定した。
炭素質材料としてAlfa Aesar製コールタール40%、トルエン60%を混合した溶液を作製し、これにポリアクリロニトリル繊維(平均繊維径10μm)からなるカーボンペーパー(日本ポリマー産業社製CFP-030-PE、目付30g/m2、厚み0.51mm)を浸漬した後、マングルで絞り(ローラー設定圧力:1kgf、回転速度:1m/min)、コールタールが添着した不織布を得た。
このようにして得られた不織布を、空気雰囲気下、150℃で30分間乾燥した後、窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で1000℃±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持して炭素化(焼成)を行った後、冷却し、更に窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で2000℃±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持して黒鉛化を行ってから冷却した。次に空気雰囲気下、700℃で20分間酸化処理し、No.1の電極材(目付量53g/m2、厚み0.52mm)を得た。
No.1の<炭素質材料(バインダー)の添着>において、コールタール80%、トルエン20%の混合溶液を用いたこと以外は上記No.1と同様にして炭素質材料の添着、および不織布の炭化を行い、No.2の電極材(目付量82g/m2、厚み0.53mm)を得た。
No.1の<炭素質材料(バインダー)の添着>において、イオン交換水中に花王社製レオドールTW-L120を1.8%、ポリビニルアルコールを1.8%、炭素質材料としてJFEケミカル社製MCP250のピッチ類を14%となるように加え、メカニカルスターラーで1時間撹拌した溶液を用いたこと以外はNo.1と同様にして炭素質材料の添着、および不織布の炭化を行い、No.3の電極材(目付量87g/m2、厚み0.56mm)を得た。
No.1の<炭素質材料(バインダー)の添着>において、コールタール10%、トルエン90%の混合溶液を用いたこと以外は上記No.1と同様にして炭素質材料の添着、および不織布の炭化を行い、No.4の電極材(目付量35g/m2、厚み0.52mm)を得た。
No.1の<炭素質材料(バインダー)の添着>において、炭素質材料として群栄化学製フェノール樹脂PSK-2320を5%、アセトン95%の混合溶液を用いたこと以外は上記No.1と同様にして炭素質材料の添着、および不織布の炭化を行い、No.5の電極材(目付量52g/m2、厚み0.55mm)を得た。
No.1において、不織布の代わりにレーヨン製フェルト(目付量180g/m2、厚み1.5mm)を用いたこと以外は上記No.1と同様にして炭素質材料の添着、および不織布の炭化を行い、No.6の電極材(目付量223g/m2、厚み1.8mm)を得た。
No.7は、No.1において炭素質材料を使用しなかった例である。
詳細にはNo.1において、<炭素質材料(バインダー)の添着>を行なうことなく<不織布の炭化>を行なってNo.7の電極材(目付量30g/m2、厚み0.6mm)を得た。
これに対し、炭素質材料の含有量が少ないNo.4では、本発明例に比べて耐酸化性に劣り、No.7と同程度の効果しか得られなかった。この結果は、繊維を保護するには一定以上の炭素質材料が必要であることを示している。
またLc(B)が小さく、且つ、Lc(B)/Lc(A)の比も小さいNo.5はセル抵抗が増加し、耐酸化性もNo.7と同程度に低かった。この結果より、No.1~3の本発明例では、炭素質繊維表面をコートする炭素質材料として、炭素質繊維間を強く結着し、且つ、結晶性が十分高い炭素質材料を選択したと推察される。
またLc(B)/Lc(A)の比が大きいNo.6では、No.7に比べて耐酸化性が低下した。これは、基材である炭素質繊維の結晶性が低い場合、その表面のコートされていない部位から酸化されるためと推察される。この結果は、優れた耐酸化性を確保するためには一定以上の結晶性の炭素質繊維が必要であることを示している。
実施例2
本実施例では、表2に示す種々の炭素粒子(A~F、A’、a、b)を用いて、粒径、Lc、La、Lc/Laを測定すると共に、耐酸化性試験を行って耐酸化性を評価した。
炭素粒子はいずれも市販品を用い、表2に記載の粒径は、カタログに記載の値である。A’の粒径は、レーザー回折法により測定した。
本実施例では、表2の一部の炭素粒子を用い、以下のようにして電極材を作製して各種項目を測定した。
No.1では、炭素質繊維としてポリアクリロニトリル繊維、黒鉛粒子として表2のC(第2の電極材の要件を満足する例)、炭素質材料としてJFEケミカル社製コールタールピッチMCP250のピッチ類を用い、以下のようにして電極材を作製した。
次に、空気雰囲気下、150℃で20分間乾燥した後、窒素雰囲気下、1000℃で1時間炭素化(焼成)した後、さらに2000℃で1時間黒鉛化した。黒鉛化の後、空気雰囲気下、700℃で20分間酸化処理して、厚み0.50mm、目付134.0g/m2の電極材(No.1)を得た。
No.1において、黒鉛粉末として表2のA(第2の電極材の要件を満足する例)を用いたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外は上記No.1と同様にしてNo.2(厚み0.48mm、目付144.0g/m2)の電極材を作製した。
No.1において、黒鉛粉末として表2のB(第2の電極材の要件を満足する例)を用いたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外は上記No.1と同様にしてNo.3(厚み0.45mm、目付126.0g/m2)の電極材を作製した。
No.1において、黒鉛粉末として表2のD(第2の電極材の要件を満足する例)を用い、且つ、イオン交換水中に上記Dを4.9%となるように加えたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外はNo.1と同様にしてNo.4(厚み0.53mm、目付177.1g/m2)の電極材を作製した。
No.4において、黒鉛粉末として表2のC(第2の電極材の要件を満足する例)を用いたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外は上記No.4と同様にしてNo.5(厚み0.51mm、目付164.0g/m2)の電極材を作製した。
No.1において、炭素質繊維として、ポリアクリロニトリル繊維(平均繊維径10μm)からなるカーボンペーパー(日本ポリマー産業社製CFP-010-PV、目付10g/m2、厚み0.19mm)を用い、且つ、黒鉛粉末として表2のB(第2の電極材の要件を満足する例)を用いたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外はNo.1と同様にしてNo.6(厚み0.16mm、目付51.4g/m2)の電極材を作製した。
No.1において、炭素質繊維として異方性ピッチ繊維からなるカーボンペーパー(厚み0.61mm、目付30g/m2)を用いたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外はNo.1と同様にしてNo.7(厚み0.47mm、目付127.0g/m2)の電極材を作製した。
ここでは、黒鉛粉末の代わりに表2のaを用い、炭素質材料としてDIC株式会社製のTD―4304を用いた。
詳細には、No.1において、イオン交換水中に、黒鉛粉末の代わりにライオン社製ケッチェンブラック水分散液(W-311N)を5%、フェノール樹脂水分散体(TD4304)を10%となるように加えたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外はNo.1と同様にしてNo.8(厚み0.50mm、目付121.0g/m2)の電極材(比較例)を作製した。
No.1において、黒鉛粉末として表2のE(第2の電極材の要件を満足しない例)を用いたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外は上記No.1と同様にしてNo.9(厚み0.53mm、目付152.0g/m2)の電極材(比較例)を作製した。
No.1において、黒鉛粒子を使用しなかったこと以外は上記No.1と同様にしてNo.10(厚み0.49mm、目付87.0g/m2)の電極材(比較例)を作製した。
No.11では、黒鉛粒子および炭素質材料を使用せず、炭素質繊維を以下のように処理して電極材を得た。
具体的には、No.1において、耐炎化ポリアクリロニトリル繊維からなるマリフリース織布(厚み0.6mm、目付120g/m2)を窒素雰囲気下、1000℃で1時間炭素化(焼成)した後、2000℃で1時間黒鉛化し、酸化処理は行わずにNo.11(厚み0.6mm、目付55g/m2)の電極材(比較例)を作製した。なお、耐炎化温度から炭素化温度へ昇温するときの昇温速度は、No.1と同じである。
No.12は前述した特許文献3を模擬した比較例であり、黒鉛粒子および炭素質材料を使用せず、炭素質繊維を以下のように処理して電極材を得た。
具体的には、No.1において、耐炎化ポリアクリロニトリル繊維からなるマリフリース織布(厚み0.6mm、目付120g/m2)を窒素雰囲気下、1000℃で1時間炭素化(焼成)した後、1500℃で1時間黒鉛化し、700℃で15分間酸化処理して、No.12(厚み0.6mm、目付60g/m2)の電極材(比較例)を作製した。なお、耐炎化温度から炭素化温度へ昇温するときの昇温速度は、No.1と同じである。
No.1において、JFEケミカル社製MCP250(炭素質材料)を3質量%、黒鉛粉末として表2のCを2.1質量%となるように加えた以外は上記No.1と同様にしてNo.13(厚み0.42mm、目付40.0g/m2)の電極材(比較例)を作製した。
実施例4
本実施例では、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)として表4に示すA~Dのカーボンブラック類、炭素質材料(C)として表5に示すa(JFEケミカル社製MCP250のピッチ類)、b(DIC株式会社製TD―4304のフェノール樹脂、固形分40%)またはc(Alfa Aesar製コールタール)を用い、以下のようにして炭素質シートからなる電極材を作製して各種項目を測定した。A~Dはいずれも市販品であり、表4に記載の平均粒径は、カタログに記載の値である。これらのうちAとCは、表4に示すように平均粒子径などは同じであるが、Cは市販粉体であり、一方、AはCの市販粉体を分散剤により水に分散させた市販の水分散体である。
イオン交換水:19.2%、ポリビニルアルコール:1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA(固形分16.5%、黒鉛粒子以外の炭素含有率約8.5%であり、第3の電極材の要件を満足する例):65.8%、炭素質材料として表5のa:14.0%(残炭化重量収率80%)を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
イオン交換水:50.9%、ポリビニルアルコール(仮接着材):1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA:34.1%、炭素質材料として表52のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
イオン交換水:68.1%、ポリビニルアルコール:1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA:16.9%、炭素質材料として表5のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
イオン交換水:24.1%、ポリビニルアルコール:1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のB(固形分11.5%であり、第3の電極材の要件を満足する例):60.9%、炭素質材料として表5のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
No.5は、黒鉛粒子以外の炭素粒子も炭素質材料も使用せず炭素質繊維のみからなる例である。詳細には上記カーボンペーパーに対して直接、No.1と同様の加熱処理を行い、No.5の電極材(目付量27g/m2、厚み0.46mm)を得た。
No.6は、黒鉛粒子以外の炭素粒子を使用せず炭素質繊維および炭素質材料のみからなる例である。
まずイオン交換水:83.0%、ポリビニルアルコール:1.0%、花王株式会社製レオドールTW-L120を2.0%、炭素質材料として表5のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
イオン交換水:76.0%、ポリビニルアルコール:1.0%、花王株式会社製レオドールTW-L120を2.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のD(第3の電極材の要件を満足しない例):7.0%、炭素質材料として表5のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
イオン交換水:8.9%、ポリビニルアルコール:1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA:34.1%、炭素質材料として表5のb(固形分40%):56.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
イオン交換水:42.6%、ポリビニルアルコール:1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA:42.4%、炭素質材料として表25のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
イオン交換水:42.6%、ポリビニルアルコール:1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA:42.4%、炭素質材料として表5のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
イオン交換水:66.7%、ポリビニルアルコール(仮接着材):1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA:16.6%、炭素質材料として表25のa:15.7%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のC(第3の電極材の要件を満足する例):4.8%、炭素質材料として表5のc(コールタール):95.2%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。No.12において、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のC(粉体)を用いた理由は、表4のA(水分散体)を用いると、炭素質材料であるコールタール(表25のc)との相性が悪く混合し難いため、水に分散される前のCを用いた。
2 スペーサー
3 イオン交換膜
4a,4b 通液路
5 電極材
6 正極電解液タンク
7 負極電解液タンク
8,9 ポンプ
10 液流入口
11 液流出口
12,13 外部流路
Claims (22)
- 炭素質繊維(A)と、前記炭素質繊維(A)を結着する炭素質材料(B)と、からなり、下記の要件を満足することを特徴とするレドックスフロー電池用炭素電極材。
(1)炭素質材料(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以上、
(2)炭素質繊維(A)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(B)/Lc(A)は1.0以上、
(3)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上。 - 前記炭素質繊維(A)、および前記炭素質材料(B)の合計量に対する前記炭素質材料(B)の質量含有率が20%以上である請求項1に記載の炭素電極材。
- 前記Lc(A)は1~10nmである請求項1または2に記載の炭素電極材。
- 前記Lc(A)は、2.3nm以上である請求項3に記載の炭素電極材。
- Lc(B)/Lc(A)が1.0~10であり、Lc(B)が15nm以上である請求項1~4のいずれかに記載の炭素電極材。
- 請求項1~5のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
前記炭素質繊維(A)に炭化前の炭素質材料(B)を添着する工程と、
添着後の製造物を、不活性雰囲気下、800℃以上2000℃以下の温度で加熱する炭素化工程と、
不活性雰囲気下、1800℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱する黒鉛化工程と、
酸化処理工程と、をこの順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。 - 炭素質繊維(A)と、黒鉛粒子(B)と、これらを結着する炭素質材料(C)と、からなり、
下記の要件を満足することを特徴とするレドックスフロー電池用炭素電極材。
(1)黒鉛粒子(B)の粒径は1μm以上、
(2)黒鉛粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)が35nm以上、
(3)炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(C)としたとき、Lc(C)は10nm以上、
(4)炭素質繊維(A)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0以上、
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上 - 前記炭素質繊維(A)、前記黒鉛粒子(B)、および前記炭素質材料(C)の合計量に対する前記黒鉛粒子(B)または前記炭素質材料(C)の質量含有率がそれぞれ20%以上であり、かつ、前記黒鉛粒子(B)に対する前記炭素質材料(C)の質量比が0.2~3.0である請求項7に記載の炭素電極材。
- 前記炭素質繊維(A)、前記黒鉛粒子(B)、および前記炭素質材料(C)の合計量に対する前記黒鉛粒子(B)及び前記炭素質材料(C)の質量含有率がそれぞれ20%以上である請求項7または8に記載の炭素電極材。
- 前記Lc(A)は1~10nmである請求項7~9のいずれかに記載の炭素電極材。
- 窒素吸着量から求められるBET比表面積が1.0~8m2/gである請求項7~10のいずれかに記載の炭素電極材。
- 前記黒鉛粒子(B)が鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、および膨張化黒鉛よりなる群から選択される少なくとも1種以上を含む請求項7~11のいずれかに記載の炭素電極材。
- 請求項7~12のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
前記炭素質繊維(A)に前記黒鉛粒子(B)および炭化前の炭素質材料(C)を添着する工程と、
添着後の製造物を、不活性雰囲気下、800℃以上2000℃以下の温度で加熱する炭素化工程と、
不活性雰囲気下、1800℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱する黒鉛化工程と、
酸化処理工程と、をこの順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。 - マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられる炭素電極材であって、
前記炭素電極材は、炭素質繊維(A)と、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)と、これらを結着する炭素質材料(C)と、からなり、
下記の要件を満足することを特徴とするマンガン/チタン系レドックスフロー電池用炭素電極材。
(1)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の粒径は1μm以下、
(2)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以下、
(3)炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)、Lc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5、
(4)炭素質繊維(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、および炭素質材料(C)の合計量に対する前記炭素質材料(C)の質量含有率は14.5%以上、
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上 - 前記炭素粒子(B)に対する前記炭素質材料(C)の質量比が0.2~10である請求項14に記載の炭素電極材。
- 窒素吸着量から求められるBET比表面積が0.5m2/g以上である請求項14または15に記載の炭素電極材。
- 請求項14~16のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
前記炭素質繊維(A)に前記黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)および炭化前の炭素質材料(C)を添着する工程と、
添着後の製造物を、不活性雰囲気下、800℃以上2000℃以下の温度で加熱する炭素化工程と、
不活性雰囲気下、1300℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱する黒鉛化工程と、
酸化処理工程と、をこの順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。 - 前記炭素質繊維(A)は、90質量%以上が炭素で構成され、擬黒鉛結晶構造を有し、平均繊維径が0.5~40μmであり、平均繊維長が30~100mmであり、
前記炭素電極材の目付量が50~500g/m 2 である請求項1~5、7~12、14~16のいずれかに記載の炭素電極材。 - 水滴を垂らした時の通水速度が0.5mm/sec以上である請求項1~5、7~12、14~16、18のいずれかに記載の炭素電極材。
- マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられるものである請求項1~5、7~12のいずれかに記載の炭素電極材。
- 請求項1~5、7~12、14~16、18~20のいずれかに記載の炭素電極材を備えたレドックスフロー電池。
- 請求項1~5、7~12、14~16、18~20のいずれかに記載の炭素電極材を用いたマンガン/チタン系レドックスフロー電池。
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