WO2020184451A1 - マンガン/チタン系レドックスフロー電池用炭素電極材 - Google Patents
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Abstract
初期充放電時のセル抵抗を低下でき、電池エネルギー効率に優れたマンガン/チタン系レドックスフロー電池の負極に使用される炭素電極材を提供する。マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられる炭素電極材であって、前記炭素電極材は、炭素質繊維(A)と、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)と、これらを結着する炭素質材料(C)と、からなり、下記の要件を満足することを特徴とするマンガン/チタン系レドックスフロー電池用炭素電極材。 (1)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の粒径は1μm以下、 (2)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以下、 (3)炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)、Lc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5、 (4)窒素ガス吸着量から求められるメソ孔比表面積が30m2/g以上、 (5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上
Description
本発明は、マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられる炭素電極材に関し、さらに詳しくは上記レドックスフロー電池全体のエネルギー効率に優れた炭素電極材に関する。
レドックスフロー電池は、レドックスイオンの水溶液中での酸化還元を利用した電池であり、液相のみでのマイルドな反応であるため、非常に安全性の高い大容量蓄電池である。
レドックスフロー電池の主な構成は、図1に示すように電解液(正極電解液、負極電解液)を貯える外部タンク6、7と、電解槽ECとからなる。電解槽ECでは、相対する集電板1、1の間にイオン交換膜3が配置されている。レドックスフロー電池では、ポンプ8、9にて活物質を含む電解液を外部タンク6、7から電解槽ECに送りながら、電解槽ECに組み込まれた電極5上で電気化学的なエネルギー変換、すなわち充放電が行われる。電極5の材料には、耐薬品性があり、導電性を有し、かつ通液性のある炭素材料が用いられている。
レドックスフロー電池に用いられる電解液として、代表的には、酸化還元により価数が変化する金属イオンを含有する水溶液が用いられる。電解液は、正極に鉄の塩酸水溶液、負極にクロムの塩酸水溶液を用いたタイプから、起電力の高いバナジウムの硫酸水溶液を両極に用いるタイプに替わり、高エネルギー密度化されてきた。
正極電解液にオキシ硫酸バナジウム、負極電解液に硫酸バナジウムの各々硫酸酸性水溶液を用いたレドックスフロー電池の場合、放電時には、V2+を含む電解液が負極側の通液路に供給され、正極側の通液路にはV5+(実際には酸素を含むイオン)を含む電解液が供給される。負極側の通液路では、三次元電極内でV2+が電子を放出しV3+に酸化される。放出された電子は外部回路を通って正極側の三次元電極内でV5+をV4+(実際には酸素を含むイオン)に還元する。この酸化還元反応に伴って負極電解液中のSO4
2-が不足し、正極電解液ではSO4
2-が過剰になるため、イオン交換膜を通ってSO4
2-が正極側から負極側に移動し電荷バランスが保たれる。あるいは、H+がイオン交換膜を通って負極側から正極側へ移動することによっても電荷バランスを保つことができる。充電時には放電と逆の反応が進行する。
レドックスフロー電池用電極材には、特に以下に示す性能が要求される。
1)目的とする反応以外の副反応を起こさないこと(反応選択性が高いこと)、具体的には電流効率(ηI)が高いこと。
2)電極反応活性が高いこと、具体的にはセル抵抗(R)が小さいこと。すなわち電圧効率(ηV)が高いこと。
3)上記1)、2)に関連する電池エネルギー効率(ηE)が高いこと。
ηE=ηI×ηV
4)繰返し使用に対する劣化が小さいこと(高寿命)、具体的には電池エネルギー効率(ηE)の低下量が小さいこと。
2)電極反応活性が高いこと、具体的にはセル抵抗(R)が小さいこと。すなわち電圧効率(ηV)が高いこと。
3)上記1)、2)に関連する電池エネルギー効率(ηE)が高いこと。
ηE=ηI×ηV
4)繰返し使用に対する劣化が小さいこと(高寿命)、具体的には電池エネルギー効率(ηE)の低下量が小さいこと。
レドックスフロー電池に用いられる電解液の開発が盛んに進められており、バナジウム系電解液よりも更に高い起電力を有し、安定して安価に供給可能な電解液として、例えば特許文献1のように正極にマンガン、負極にクロム、バナジウム、チタンを用いるもの(例えばマンガン-チタン系電解液)が提案されている。
マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池(以下、マンガン/チタン系レドックスフロー電池と呼ぶ。)の普及を進めるためには、更なる低抵抗化及び安価な電極材が求められている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、初期充放電時のセル抵抗を低下させて電池エネルギー効率を向上可能なマンガン/チタン系レドックスフロー電池の負極に使用される炭素電極材を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため、検討を行った。その結果、粒径が小さく低結晶性の炭素粒子(B)(但し、黒鉛を除く)、および炭素質繊維(A)に対して高結晶性の炭素質材料(C)を用い、所定の条件で製造すれば、電極材のメソ孔比表面積が著しく増大して、極めて低抵抗の電極材が得られることを見出し、本発明を完成した。
本発明の構成は以下のとおりである。
1.マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられる炭素電極材であって、
前記炭素電極材は、炭素質繊維(A)と、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)と、これらを結着する炭素質材料(C)と、からなり、
下記の要件を満足することを特徴とするマンガン/チタン系レドックスフロー電池用炭素電極材。
(1)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の粒径は1μm以下、
(2)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以下、
(3)炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)、Lc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5、
(4)窒素ガス吸着法から求められるメソ孔比表面積が30m2/g以上、
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上
2.前記炭素粒子(B)に対する前記炭素質材料(C)の質量比が0.2~10である上記1に記載の炭素電極材。
3.窒素吸着量から求められるBET比表面積が40m2/g以上である上記1または2に記載の炭素電極材。
4.水滴を垂らした時の通水速度が0.5mm/sec以上である上記1~3のいずれかに記載の炭素電極材。
5.上記1~4のいずれかに記載の炭素電極材を負極に備えたマンガン/チタン系レドックスフロー電池。
6.上記1~4のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
前記炭素質繊維(A)に前記黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)および炭化前の炭素質材料(C)を添着する工程と、
添着後の製造物を、不活性ガス雰囲気下、500℃以上、2000℃未満の温度で加熱する炭素化工程と、
乾式下、500~900℃の温度で酸化処理する一次酸化工程と、
不活性ガス雰囲気下、1300~2300℃の温度で加熱する黒鉛化工程と、
乾式下、500~900℃の温度で酸化処理する二次酸化工程と、
を、この順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。
前記炭素電極材は、炭素質繊維(A)と、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)と、これらを結着する炭素質材料(C)と、からなり、
下記の要件を満足することを特徴とするマンガン/チタン系レドックスフロー電池用炭素電極材。
(1)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の粒径は1μm以下、
(2)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以下、
(3)炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)、Lc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5、
(4)窒素ガス吸着法から求められるメソ孔比表面積が30m2/g以上、
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上
2.前記炭素粒子(B)に対する前記炭素質材料(C)の質量比が0.2~10である上記1に記載の炭素電極材。
3.窒素吸着量から求められるBET比表面積が40m2/g以上である上記1または2に記載の炭素電極材。
4.水滴を垂らした時の通水速度が0.5mm/sec以上である上記1~3のいずれかに記載の炭素電極材。
5.上記1~4のいずれかに記載の炭素電極材を負極に備えたマンガン/チタン系レドックスフロー電池。
6.上記1~4のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
前記炭素質繊維(A)に前記黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)および炭化前の炭素質材料(C)を添着する工程と、
添着後の製造物を、不活性ガス雰囲気下、500℃以上、2000℃未満の温度で加熱する炭素化工程と、
乾式下、500~900℃の温度で酸化処理する一次酸化工程と、
不活性ガス雰囲気下、1300~2300℃の温度で加熱する黒鉛化工程と、
乾式下、500~900℃の温度で酸化処理する二次酸化工程と、
を、この順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。
本発明によれば、初期充放電時のセル抵抗を低下させて電池エネルギー効率に優れた、マンガン/チタン系レドックスフロー電池の負極に使用される炭素電極材が得られる。本発明の炭素電極材は、フロータイプおよびノンフロータイプのレッドクス電池、またはリチウム、キャパシタ、燃料電池のシステムと複合化されたレドックスフロー電池に好適に用いられる。
本発明者らは、初期充放電時のセル抵抗が低減された炭素電極材を提供するに当たり、黒鉛粒子以外の炭素粒子を用いて検討を行なった。その結果、粒径が小さく、且つ、低結晶性の炭素粒子を用いれば、反応表面積が大きくなり、酸素官能基が付与され易くなって反応活性が上昇し、低抵抗が得られることが判明した。
具体的には本発明では、黒鉛粒子以外の炭素粒子として、下記(1)および(2)の要件を満足する炭素粒子を採用することにした。
(1)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の粒径は1μm以下、
(2)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以下、
上記(1)のように粒径の小さい炭素粒子を用いると反応表面積が大きくなり、低抵抗化が可能である。更に上記(2)のように低結晶性の炭素粒子は酸素官能基が導入され易く反応活性が向上するため、更なる低抵抗化が可能である。
(1)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の粒径は1μm以下、
(2)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以下、
上記(1)のように粒径の小さい炭素粒子を用いると反応表面積が大きくなり、低抵抗化が可能である。更に上記(2)のように低結晶性の炭素粒子は酸素官能基が導入され易く反応活性が向上するため、更なる低抵抗化が可能である。
更に本発明では炭素質材料(C)として、炭素質繊維(A)と黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の両方を結着する結着性の炭素質材料であって、下記(3)の要件を満足する、炭素質繊維(A)に対して高結晶性の炭素質材料を用いることにした。
(3)炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)、Lc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5
ここで「炭素質繊維(A)と黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の両方を結着する」(換言すれば、本発明に用いられる炭素質材料は炭素質繊維と黒鉛粒子以外の炭素粒子の結着剤として作用する)とは、当該炭素質材料によって炭素質繊維および黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面および内部(炭素質繊維間、黒鉛粒子以外の炭素粒子同士を含む)が強く結着されて、電極材全体としてみた場合に当該炭素質材料により炭素質繊維が被覆されつつ、黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面が露出しているように構成されていることを意味する。
但し、結着後の炭素質材料は被膜状態にならないことが好ましい。ここで「被膜状態にならない」とは、炭素質繊維(A)の繊維間において炭素質材料(C)が全蹼足(ボクソク)や蹼足のような水かき状態を形成しないことを意味する。被膜状態を形成した場合、電解液の通液性が悪化し、上記炭素粒子の反応表面積を有効利用できないためである。
(3)炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)、Lc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5
ここで「炭素質繊維(A)と黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の両方を結着する」(換言すれば、本発明に用いられる炭素質材料は炭素質繊維と黒鉛粒子以外の炭素粒子の結着剤として作用する)とは、当該炭素質材料によって炭素質繊維および黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面および内部(炭素質繊維間、黒鉛粒子以外の炭素粒子同士を含む)が強く結着されて、電極材全体としてみた場合に当該炭素質材料により炭素質繊維が被覆されつつ、黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面が露出しているように構成されていることを意味する。
但し、結着後の炭素質材料は被膜状態にならないことが好ましい。ここで「被膜状態にならない」とは、炭素質繊維(A)の繊維間において炭素質材料(C)が全蹼足(ボクソク)や蹼足のような水かき状態を形成しないことを意味する。被膜状態を形成した場合、電解液の通液性が悪化し、上記炭素粒子の反応表面積を有効利用できないためである。
参考のため、図3に、炭素質繊維(A)と黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の両方が結着された状態を示すSEM写真を示す。この図3は、後記する実施例1において、表3のNo.5(本発明の要件を満たす例)のSEM写真(倍率100倍)である。図3より、炭素質材料(C)によって炭素質繊維(A)および黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の表面および内部が強く結着されて、当該炭素質材料(C)により炭素質繊維(A)が被覆されつつ、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の表面が露出していることが分る。
一方、図4は、炭素質繊維(A)と黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の両方が結着されていない状態を示すSEM写真である。この図4は、後記する実施例1において、表3のNo.10(本発明の要件を満たさない比較例)のSEM写真(倍率100倍)である。
一方、図4は、炭素質繊維(A)と黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の両方が結着されていない状態を示すSEM写真である。この図4は、後記する実施例1において、表3のNo.10(本発明の要件を満たさない比較例)のSEM写真(倍率100倍)である。
なお、炭素質材料は黒鉛粒子以外の炭素粒子を介して炭素質繊維間などを強く結着するため、炭素粒子と炭素質繊維の効率的な導電パスを形成する。炭素質繊維と黒鉛粒子以外の炭素粒子と炭素質材料の合計量に対する炭素質材料の含有比率を多くすることが導電パスの形成には必要であり、そのため本発明では上記含有率を、好ましくは14.5%以上とする。これに対し、前述した特許文献1の実施例では炭素質材料の含有率がせいぜい14.4%であって本発明より少なく、この点で、両者は相違する。そもそも特許文献1では、炭素質繊維と炭素微粒子とが元々接触していた部分のみを固定(接着)できれば良いという発想のもと、使用する炭素質材料は部分的な接着剤としての作用が発揮されれば良いとの認識しかないからである。さらに、特許文献1では結着する炭素質材料の結晶性について具体的に明記されていないが、優れた導電パスを形成するには本発明のように炭素質繊維に対して結晶性が高い炭素質材料を用いると電子伝導性が高まるため、より効率的な電子移動が可能となる。
更に本発明の炭素電極材は下記(4)および(5)の要件を満足する。
(4)窒素ガス吸着量から求められるメソ孔比表面積が30m2/g以上
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上
(4)窒素ガス吸着量から求められるメソ孔比表面積が30m2/g以上
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上
上記(4)で規定するメソ孔比表面積は、後に詳述するとおり、直径2~50nmのメソポア領域を測定対象とするものであり、全細孔を測定対象とするBET比表面積に比べて、電極材の性能を、より有効に示す指標として汎用されている。本発明によれば、30m2/g以上という極めて高いメソ孔比表面積が得られるため、極めて低いセル抵抗を達成できる。
また、上記(5)により、炭素のエッジ面や欠陥構造部に酸素原子を導入することができる。その結果、電極材の表面では、導入された酸素原子がカルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの反応基として生成されるため、これらの反応基が電極反応に大きく寄与し、十分な低抵抗を得ることが出来る。
本発明の電極材は上記のように構成されているため、反応活性が高められて低抵抗かつ安価な電極が得られる。
以下、図2を参照しながら、本発明を構成要件ごとに詳細に説明する。
図2は、本発明に好適に用いられる液流通型電解槽の分解斜視図である。図2の電解槽は、相対する二枚の集電板1,1間にイオン交換膜3が配設され、イオン交換膜3の両側にスペーサー2によって集電板1,1の内面に沿った電解液の通液路4a,4bが形成されている。通液路4a,4bの少なくとも一方に電極材5が配設されている。集電板1には電解液の液流入口10と液流出口11とが設けられている。図2のように電極を電極材5と集電板1とで構成し、電解液が電極材5中を通過する構造(電極構造の三次元化)とすると、集電板1によって電子の輸送を確保しながら電極材5の細孔表面全てを電気化学反応場として充放電効率を向上することができる。その結果、電解槽の充放電効率が向上する。
前述したとおり本発明の電極材5は、炭素質繊維(A)を基材とし、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)を高結晶な炭素質材料(C)で坦持する電極材であり、上記(1)~(5)の要件を満足する。各要件の詳細は以下のとおりである。
[炭素質繊維(A)]
本発明に用いられる炭素質繊維は、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理(詳細は後述する。)して得られる繊維であって、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維を意味する(JIS L 0204-2)。炭素質繊維の原料となる有機繊維のプレカーサーとしては、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維;フェノール繊維;ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)等のPBO繊維;芳香族ポリアミド繊維;等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維、メソフェーズピッチ等のピッチ繊維;セルロース繊維;等を使用することができる。中でも、強度・弾性率に優れる等の観点から、有機繊維のプレカーサーとしては、アクリル繊維、フェノール繊維、セルロース繊維、等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維が好ましく、アクリル繊維がより好ましい。アクリル繊維は、アクリロニトリルを主成分として含有するものであれば特に限定されないが、アクリル繊維を形成する原料単量体中、アクリロニトリルの含有量が95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。
本発明に用いられる炭素質繊維は、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理(詳細は後述する。)して得られる繊維であって、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維を意味する(JIS L 0204-2)。炭素質繊維の原料となる有機繊維のプレカーサーとしては、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維;フェノール繊維;ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)等のPBO繊維;芳香族ポリアミド繊維;等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維、メソフェーズピッチ等のピッチ繊維;セルロース繊維;等を使用することができる。中でも、強度・弾性率に優れる等の観点から、有機繊維のプレカーサーとしては、アクリル繊維、フェノール繊維、セルロース繊維、等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維が好ましく、アクリル繊維がより好ましい。アクリル繊維は、アクリロニトリルを主成分として含有するものであれば特に限定されないが、アクリル繊維を形成する原料単量体中、アクリロニトリルの含有量が95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。
有機繊維の質量平均分子量は、特に限定されないが、10000以上、100000以下であることが好ましく、15000以上、80000以下であることがより好ましく、20000以上、50000以下であることがさらに好ましい。質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)や溶液粘度などの方法によって測定することができる。
炭素質繊維の平均繊維径は0.5~40μmであることが好ましい。平均繊維径が0.5μmより小さいと通液性が悪化してしまう。一方、平均繊維径が40μmよりも大きいと繊維部の反応表面積が低下し、セル抵抗が高くなってしまう。通液性および反応表面積のバランスを考慮すると、より好ましくは3~20μmである。
本発明では、上記炭素質繊維の構造体を基材として用いることが好ましく、これにより、強度が向上し、取扱いや加工性が容易になる。上記構造体として、具体的には、炭素質繊維よりなるシート状物である紡績糸、フィラメント集束糸、不織布、編物、織物、特開昭63-200467号公報などに記載の特殊編織物または炭素繊維からなる紙などを挙げることができる。これらのうち、炭素質繊維よりなる不織布、編物、織物、特殊織編物、及び炭素繊維からなる紙が、取扱いや加工性、製造性等の点からより好ましい。
ここで不織布、編物、織物などを用いる場合、平均繊維長は30~100mmが好ましい。また炭素繊維からなる紙を用いる場合、平均繊維長は5~30mmが好ましい。上記の範囲内とすることで、均一な繊維構造体が得られる。
前述したように上記炭素質繊維は、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理して得られるが、上記「加熱炭素化処理」は、少なくとも、耐炎化工程、および炭素化(焼成)工程を含むことが好ましい。但し、これらのうち炭素化工程は、必ずしも上記のように耐炎化工程の後に行う必要はなく、後記する実施例に記載のように耐炎化された繊維に黒鉛粒子および炭素質材料を添着した後に炭素化工程を行っても良く、この場合は耐炎化工程後の炭素化工程を省略することができる。
このうち上記耐炎化工程は、空気雰囲気下、有機繊維のプレカーサーを好ましくは180℃以上350℃以下の温度で加熱し、耐炎化有機繊維を得る工程を意味する。加熱処理温度は、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。また、330℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがさらに好ましい。上記温度範囲で加熱することにより、有機繊維が熱分解することなく炭素質繊維の形態を保持したまま有機繊維中の窒素、水素の含有率を低減し、炭素化率を向上することができる。耐炎化工程の際、有機繊維が熱収縮し分子配向が崩壊して、炭素質繊維の導電性が低下する場合があることから、有機繊維を緊張下ないし延伸下で耐炎化処理することが好ましく、緊張下で耐炎化処理することがより好ましい。
上記炭素化工程は、不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)、上記のようにして得られた耐炎化有機繊維を好ましくは1000℃以上2000℃以下の温度で加熱し、炭素質繊維を得る工程を意味する。加熱温度は、1100℃以上であることがより好ましく、1200℃以上であることがさらに好ましい。また、より好ましくは1900℃以下である。上記温度範囲で炭素化工程を行うことにより、有機繊維の炭素化が進行し、擬黒鉛結晶構造を有する炭素質繊維を得ることができる。
有機繊維は、それぞれ異なる結晶性を有するため、炭素化工程における加熱温度は、原料とする有機繊維の種類に応じて選択することができる。例えば、有機繊維としてアクリル樹脂(好ましくはポリアクリロニトリル)を使用する場合、加熱温度は800℃以上2000℃以下であることが好ましく、1000℃以上1800℃以下であることがさらに好ましい。
前述した耐炎化工程および炭素化工程は、連続的に行うことが好ましく、耐炎化温度から炭素化温度へ昇温するときの昇温速度は、20℃/分以下であることが好ましく、より好ましくは15℃/分以下である。昇温速度を上記範囲とすることにより、有機繊維の形状を保持し、かつ機械的性質に優れた炭素質繊維を得ることができる。なお上記昇温速度の下限は、機械的性質などを考慮すると、5℃/分以上であることが好ましい。
なお、後記する炭素質材料(C)の欄で詳述するが、本発明の電極材は、上記(3)に規定するように、炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさを、それぞれ、Lc(A)およびLc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5を満足する。よって本発明では上記(3)を満足する限り、炭素質繊維(A)におけるLc(A)は特に限定されないが、Lc(A)は1~6nmであることが好ましい。これにより、適度な電子伝導性、硫酸溶媒などに対する耐酸化性、酸素官能基が付与し易いなどの作用が有効に発揮される。Lc(A)およびLc(C)の測定方法は後記する実施例の欄で詳述する。
[黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)]
本発明において「黒鉛粒子以外の炭素粒子」は、反応表面積を高めて低抵抗を実現するために有用である。本発明では、低抵抗化のため、上記(1)および(2)を満足するものを用いた。
本発明において「黒鉛粒子以外の炭素粒子」は、反応表面積を高めて低抵抗を実現するために有用である。本発明では、低抵抗化のため、上記(1)および(2)を満足するものを用いた。
まず本発明に用いられる「黒鉛粒子以外の炭素粒子」の粒径は上記(1)に規定するように1μm以下であり、0.5μm以下が好ましい。粒径が1μmを超えると、反応表面積が小さくなって抵抗が増加する。ここで「粒径」とは、動的光散乱法などで得られた粒径分布におけるメジアン50%径での平均粒径(D50)を意味する。黒鉛粒子以外の炭素粒子は市販品を用いてもよく、その場合、カタログ記載の粒径を採用できる。好ましい下限は、0.005μm以上である。
本発明に用いられる「黒鉛粒子以外の炭素粒子」の窒素吸着量から求められるBET比表面積は、20m2/g以上が好ましく、30m2/g以上がより好ましく、40m2/g以上が更に好ましい。BET比表面積が20m2/g未満になると、炭素粒子のエッジ露出が減少し、電解液との接触面積も減少するため、所望とする低抵抗が得られなくなる。なお、その上限は上記観点からは特に限定されないが、表面積が大きく嵩高い粒子では分散溶液の粘性が上昇しやすく、シートなどへの加工性が悪化することを考慮すると、おおむね、2000m2/g以下であることが好ましい。ここで上記「窒素吸着量から求められるBET比表面積」とは、窒素分子を固体粒子に吸着させ、吸着した気体分子の量から算出された比表面積を意味する。
更に本発明に用いられる「黒鉛粒子以外の炭素粒子」におけるLc(B)は上記(2)に規定するように10nm以下である。Lc(B)が10nmを超える高結晶性の炭素粒子を用いると酸素官能基の導入が困難なため、水系電解液に対する炭素粒子近傍の親和性が低下し、反応活性が低下して抵抗が増加する。好ましくは6nm以下である。なお、その下限は上記観点からは特に限定されないが、電解液への耐酸化性などを考慮すると、おおむね、0.5nm以上が好ましい。Lc(B)およびLa(B)の測定方法は後記する実施例の欄で詳述する。
本発明に用いられる「黒鉛粒子以外の炭素粒子」としては、例えば、アセチレンブラック(アセチレンの煤)、オイルブラック(ファーネスブラック、オイルの煤)、ケッチェンブラック、ガスブラック(ガスの煤)などのカーボンブラック類のように反応性および比表面積が高く、低結晶性のものがよく用いられる。上記の他、カーボンナノチューブ(CNT,carbon nanotube)、カーボンナノファイバー、カーボンエアロゲル、メソ多孔性炭素、グラフェン、酸化グラフェン、NドープCNT、ホウ素ドープCNT、フラーレンなどが挙げられる。原料価格などの観点から、カーボンブラック類が好ましく用いられる。
本発明に用いられる「黒鉛粒子以外の炭素粒子」の含有量は、前述した炭素質繊維(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、後記する炭素質材料(C)の合計量に対する質量比率で5%以上であることが好ましく、10%以上が好ましい。これにより、黒鉛粒子以外の炭素粒子が炭素質材料で結着されるようになり、抵抗が低下するようになる。但し、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の量が過剰になると、炭素質材料による結着性が不十分となり粒子の脱落が発生し、また充填密度の向上により通液性が悪化するため、所望とする低抵抗が得られなくなる。そのため、上限はおおむね90%以下であることが好ましい。なお上記含有量の算出に用いる炭素質繊維(A)の含有量は、基材として不織布などの構造体を用いる場合は当該構造体の含有量である。
本発明において、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)に対する、後記する炭素質材料(C)の質量比は、0.2以上10以下であることが好ましく、0.3以上7以下であることがより好ましい。上記の比が0.2未満では、黒鉛粒子以外の炭素粒子の脱落が多くなり、当該炭素粒子が炭素質材料に十分結着されなくなる。一方、上記の比が10を超えると、反応場である当該炭素粒子の炭素エッジ面が被覆されてしまい、所望とする低抵抗が得られなくなる。
[炭素質材料(C)]
本発明に用いられる炭素質材料は、本来、結着し得ない炭素質繊維と、黒鉛粒子以外の炭素粒子とを強く結着させるための結着剤(バインダー)として添加されるものである。本発明では、上記(3)に規定するように炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)およびLc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5を満足する必要がある。
このように炭素質繊維(A)に対して高結晶性の結着性炭素質材料を用いることにより上記炭素粒子(B)と炭素質繊維(A)との電子伝導抵抗が低くなって、当該炭素粒子(B)と炭素質繊維(A)の電子伝導パスがスムーズになる。また、炭素質材料が黒鉛粒子以外の炭素粒子を介して炭素質繊維間などを強く結着するため、効率的な導電パスを形成でき、前述した黒鉛粒子以外の炭素粒子添加による低抵抗化作用が一層有効に発揮されることが判明した。
本発明に用いられる炭素質材料は、本来、結着し得ない炭素質繊維と、黒鉛粒子以外の炭素粒子とを強く結着させるための結着剤(バインダー)として添加されるものである。本発明では、上記(3)に規定するように炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)およびLc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5を満足する必要がある。
このように炭素質繊維(A)に対して高結晶性の結着性炭素質材料を用いることにより上記炭素粒子(B)と炭素質繊維(A)との電子伝導抵抗が低くなって、当該炭素粒子(B)と炭素質繊維(A)の電子伝導パスがスムーズになる。また、炭素質材料が黒鉛粒子以外の炭素粒子を介して炭素質繊維間などを強く結着するため、効率的な導電パスを形成でき、前述した黒鉛粒子以外の炭素粒子添加による低抵抗化作用が一層有効に発揮されることが判明した。
Lc(C)/Lc(A)の比が1.0を下回ると、上記効果が有効に発揮されない。上記の比は1.5以上が好ましく、3.0以上がより好ましい。一方、上記の比が5を超えると、炭素質材料部分への酸素官能基が付与され難くなる。上記の比は、4.5以下が好ましく、4.0以下がより好ましい。
本発明ではLc(C)/Lc(A)の比が上記範囲を満足する限り、Lc(C)の範囲は特に限定されないが、更なる低抵抗化の観点から、Lc(C)は10nm以下が好ましく、7.5nm以下がより好ましい。なおLc(C)の下限は上記観点からは特に限定されないが、電子伝導性などを考慮すると、おおむね、3nm以上が好ましい。
前述した炭素質繊維(A)および黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、炭素質材料(C)の合計量に対する、炭素質材料(C)の含有量[(C)/{(A)+(B)+(C)}]は、質量比率で、14.5%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、17%以上が更に好ましい。このように炭素質材料の含有率を多くすることによって炭素質繊維および黒鉛粒子以外の炭素粒子の両方を十分結着することができ、炭素質材料添加による結着作用が有効に発揮される。なお、その上限は、電解液の通液性などを考慮すると、おおむね、90%以下であることが好ましい。
また、上述した炭素質繊維(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、炭素質材料(C)の合計量に対する、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)および炭素質材料(C)の合計含有量の質量比率[(B)+(C)/{(A)+(B)+(C)}]は、上記要件を満足する限り特に限定されないが、例えば50~65%である。一般に、上記の質量比率が高い程、これらの担持量が増えるため、低抵抗が得られるが、本発明によれば、電極材のメソ孔比表面積が非常に高いため、上記の質量比率を、後記する表3のNo.1~6のように例えば65%以下に低減したとしても、所望とする低抵抗の電極材が得られる。
本発明に用いられる炭素質材料(C)の種類は、炭素質繊維(A)および黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)を結着し得るものであれば良く、具体的には、本発明の電極材作製時における炭化時に結着性を示すものであれば特に限定されない。このような例として、例えば、コールタールピッチ、石炭系ピッチ等のピッチ類;フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、エポキシド樹脂、フラン樹脂、ビニルエステル樹脂、メラニン-ホルムアルデヒド樹脂、尿素-ホルムアルデヒド樹脂、レソルシノール-ホルムアルデヒド樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリロニトリル等の樹脂;フルフリルアルコール;アクリロニトリル-ブタジエンゴム等のゴムなどが挙げられる。これらは市販品を用いても良い。
これらのうち、特に易結晶性であるコールタールピッチ、石炭系ピッチ等のピッチ類は、低い焼成温度で目的とする炭素質材料(C)が得られるため好ましい。また、フェノール樹脂も焼成温度によって結晶性の増減が少なく、結晶性の制御がし易いため、好ましく用いられる。また、ポリアクリロニトリル樹脂も、焼成温度を上げれば目的とする炭素質材料(C)が得られるため、好ましく用いられる。特に好ましいのはピッチ類である。
本発明の好ましい態様によれば、フェノール樹脂を使用しないため、フェノール樹脂に伴う弊害(室温でのホルムアルデヒド発生およびホルムアルデヒド臭)は生じず、常温では臭気が発生しない等のメリットがある。これに対し、前述した特許文献1では接着剤としてフェノール樹脂を用いているため、上記弊害の他、作業場所におけるホルムアルデヒド濃度を管理濃度以下に制御するための設備が別途必要になる等、コスト面、作業面でのデメリットがある。
本発明の好ましい態様によれば、フェノール樹脂を使用しないため、フェノール樹脂に伴う弊害(室温でのホルムアルデヒド発生およびホルムアルデヒド臭)は生じず、常温では臭気が発生しない等のメリットがある。これに対し、前述した特許文献1では接着剤としてフェノール樹脂を用いているため、上記弊害の他、作業場所におけるホルムアルデヒド濃度を管理濃度以下に制御するための設備が別途必要になる等、コスト面、作業面でのデメリットがある。
ここで、特に好ましく用いられるピッチ類について詳述する。前述したコールタールピッチや石炭系ピッチは、不融化処理の温度や時間によって、メソフェーズ相(液晶相)の含有率をコントロールすることができる。メソフェーズ相の含有量が少なければ、比較的低温で溶融、または室温で液体状態のものが得られる。一方、メソフェーズ相の含有率が高ければ、高温で溶融し、炭化収率の高いものが得られる。ピッチ類を炭素質材料(C)に適用する場合、メソフェーズ相の含有率が高い(すなわち炭化率が高い)ことが好ましく、例えば30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。これにより、溶融時の流動性を抑え、黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面を過剰に被覆することなく、当該炭素粒子を介して炭素質繊維間を結着することができる。なお、その上限は、結着性の発現などを考慮すると、例えば90%以下であることが好ましい。
上記と同様の観点から、ピッチ類の融点は、100℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。これにより、上記効果が得られる他、添着加工時の臭気を抑えることができ、加工性の面でも好ましい。なお、その上限は、結着性の発現などを考慮すると、例えば350℃以下であることが好ましい。
(本発明の電極材の特性)
本発明の電極材は、窒素ガス吸着量から求められるメソ孔比表面積が30m2/g以上と、非常に高い。メソ孔比表面積が高い程、低抵抗化を達成でき、電池性能に優れた電極材が得られる。本発明によれば、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)のエッジ面の露出の増加および電解液との接触面積の増加により、所望とする低抵抗が得られると考えられる。上記メソ孔比表面積は、好ましくは40m2/g以上、より好ましくは60m2/g以上、更に好ましくは100m2/g以上、更により好ましくは150m2/g以上、特に好ましくは180m2/g以上である。なお上記メソ孔比表面積の上限は、上記観点からは特に限定されないが、粒子同士の導電パス形成、黒鉛粒子以外の炭素粒子の繊維への接着性などを考慮すると、おおむね、300m2/g以下であることが好ましい。
本発明の電極材は、窒素ガス吸着量から求められるメソ孔比表面積が30m2/g以上と、非常に高い。メソ孔比表面積が高い程、低抵抗化を達成でき、電池性能に優れた電極材が得られる。本発明によれば、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)のエッジ面の露出の増加および電解液との接触面積の増加により、所望とする低抵抗が得られると考えられる。上記メソ孔比表面積は、好ましくは40m2/g以上、より好ましくは60m2/g以上、更に好ましくは100m2/g以上、更により好ましくは150m2/g以上、特に好ましくは180m2/g以上である。なお上記メソ孔比表面積の上限は、上記観点からは特に限定されないが、粒子同士の導電パス形成、黒鉛粒子以外の炭素粒子の繊維への接着性などを考慮すると、おおむね、300m2/g以下であることが好ましい。
このように本発明は、メソ孔比表面積の増加(高比表面積化)により全セル抵抗の低減を図る技術であるが、この全セル抵抗は、詳細には反応抵抗と導電抵抗の和で表される(全セル抵抗=反応抵抗+導電抵抗)。詳細には、本発明は反応抵抗の低減によって全セル抵抗の低減を図ることを意図しており、導電抵抗の低減を目指すものではない。導電抵抗が低くなると材料の反発力が過剰に高くなって、イオン交換膜に繊維が突き刺さって短絡するリスクが高くなり、その結果、電池効率が低下し易いという問題を招く。これに対し、本発明では高比表面積化により反応抵抗を低減しているため、反発力を過剰に高めることなく全セル抵抗の低減効果が得られ、その結果、安定した電池効率が得られ易いと考えられる。
本発明では、細孔直径2nm以上、40nm未満のメソポア領域を測定対象とし、電極材に窒素ガスを吸着させたときの吸着曲線に基づいてメソ孔比表面積を測定している。上記メソ孔比表面積の詳細な測定方法は、実施例の欄で詳述する。
更に本発明の電極材は、窒素吸着量から求められるBET比表面積は40m2/g以上が好ましく、60m2/g以上がより好ましい。BET比表面積が40m2/g未満になると、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)のエッジ面の露出の減少および電解液との接触面積の減少により、所望とする低抵抗が得られなくなる。なお上記BET比表面積の上限は、上記観点からは特に限定されないが、粒子同士の導電パス形成、黒鉛粒子以外の炭素粒子の繊維への接着性などを考慮すると、おおむね、500m2/g以下であることが好ましい。
更に本発明の電極材は、炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上を満足する。以下、上記全炭素原子数に対する結合酸素原子数の比をO/Cで略記する場合がある。O/Cは、X線光電子分光法(XPS)や蛍光X線分析法などの表面分析にて測定できる。
O/Cが1%以上の電極材を用いることにより、電極反応速度を著しく高められるため、低抵抗が得られる。更にO/Cの制御により親水性も高められ、後記する電極材の通水速度(好ましくは0.5mm/sec以上)を確保することができる。これに対し、O/Cが1%未満の酸素濃度の低い電極材を用いると、放電時の電極反応速度が小さくなり、電極反応活性を高めることはできない。その結果、抵抗が増加する。このように電極材表面に酸素原子を多く結合させた電極材の使用により電極反応活性(換言すれば電圧効率)が高められる理由の詳細は明らかでないが、表面に多く存在する酸素原子が炭素質材料(C)と電解液との親和性、電子の授受、錯イオンの炭素質材料からの脱離、錯交換反応等に有効に作用しているためと考えられる。
本発明の電極材は親水性に優れている。親水性は、上記電極材を乾式酸化処理後、水滴を垂らした時の通水速度によって確認することができる。本発明に係る電極材の通水速度は、0.5mm/sec以上であることが好ましい。これにより、電解液に対する十分な親和性を有すると判断できる。上記電極材の通水速度は大きい程良く、より好ましくは1mm/sec以上、更に好ましくは5mm/sec以上、更により好ましくは10mm/sec以上である。
本発明の電極材の目付量は、集電板1とイオン交換膜3に挟まれたスペーサー2の厚み(以下、「スペーサー厚み」と言う)を0.3~3mmで使用する場合、50~500g/m2が好ましく、100~400g/m2がより好ましい。目付を上記範囲内に制御することで、通液性を確保しつつ、イオン交換膜3の破損を防止することができる。特に、近年では低抵抗化の観点から、イオン交換膜3の厚みは薄くなる傾向にあり、イオン交換膜3へのダメージを軽減する処置及び使用方法は極めて重要である。また上記の観点から、本発明の電極材として、片面に平坦加工が施された不織布や紙を基材として使用することもより好ましい。平坦加工方法は、公知の任意の方法を適用でき、例えばスラリーを炭素質繊維の片面に塗布、乾燥する方法;PETなどの平滑なフィルム上で含侵、乾燥するなどの手法が挙げられる。
本発明の電極材の厚みは、少なくともスペーサー厚みより大きいことが好ましい。例えば炭素質繊維に不織布等のように密度の低いものを用い、これに本発明の電極材に用いられる黒鉛粒子以外の炭素粒子や結着性の炭素質材料を坦持した場合、スペーサー厚みの1.5~6.0倍が好ましい。しかしながら、厚みが厚すぎるとシート状物の圧縮応力によりイオン交換膜3を突き破ってしまうことがあるので、本発明の電極材の圧縮応力が9.8N/cm2以下のものを使用するのが好ましい。本発明の電極材の目付量・厚みに応じて、圧縮応力などを調整するために、本発明の電極材を2層や3層など積層して用いることも可能である。或は、別の形態の電極材との組み合わせも可能である。
本発明の電極材は、マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池(マンガン/チタン系レドックスフロー電池)の負極に用いられる。前述したようにマンガン/チタン系電解液は、正極にマンガン、負極にチタンを用いるものであり、これらの活物質を含む電解液であれば特に限定されない。
一方、マンガン/チタン系レドックスフロー電池の正極に用いられる電極材の種類は、当該技術分野において通常用いられるものであれば特に限定されず、燃料電池に用いられるような炭素繊維ペーパー等を用いても良いし、本発明の電極材をそのまま正極に用いても良い。例えば短期的な使用(例えば後記する実施例のように充放電試験の合計時間が3時間の場合)では、本発明の電極材を正極に用いることができ、初期充放電時のセル抵抗を低下し得ることを確認している(後記する実施例を参照)。なお後記する実施例では、正極および負極に同一サンプルを用いたが、これに限定されず、本発明の要件を満足するものであれば異なる組成のものを用いても良い。
但し、長期にわたる充放電の繰り返しにおいてはマンガンの強い酸化力により電極がCOやCO2に分解されてしまうため、正極には耐酸化性を有する電極(例えば2000℃以上で焼成されたポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルト等)を用い、負極側に本発明の電極材を用いることが推奨される。
一方、マンガン/チタン系レドックスフロー電池の正極に用いられる電極材の種類は、当該技術分野において通常用いられるものであれば特に限定されず、燃料電池に用いられるような炭素繊維ペーパー等を用いても良いし、本発明の電極材をそのまま正極に用いても良い。例えば短期的な使用(例えば後記する実施例のように充放電試験の合計時間が3時間の場合)では、本発明の電極材を正極に用いることができ、初期充放電時のセル抵抗を低下し得ることを確認している(後記する実施例を参照)。なお後記する実施例では、正極および負極に同一サンプルを用いたが、これに限定されず、本発明の要件を満足するものであれば異なる組成のものを用いても良い。
但し、長期にわたる充放電の繰り返しにおいてはマンガンの強い酸化力により電極がCOやCO2に分解されてしまうため、正極には耐酸化性を有する電極(例えば2000℃以上で焼成されたポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルト等)を用い、負極側に本発明の電極材を用いることが推奨される。
(本発明に係る電極材の製造方法)
次に、本発明の電極材を製造する方法について説明する。本発明の電極材は、炭素質繊維(基材)に黒鉛粒子以外の炭素粒子、および炭素質材料の前駆体(炭化前のもの)を添着した後、炭素化工程、一次酸化工程、黒鉛化工程、二次酸化工程を経て製造することができる。本発明では、所定の条件で炭素化工程および黒鉛化工程を行うと共に、黒鉛化工程の前後で2回の酸化処理を行った点に特徴があり、特に酸化処理を2回行った点に最大の特徴がある。ここで「一次酸化工程」とは1回目の酸化処理を意味し、「二次酸化工程」とは2回目の酸化処理を意味する。後記する実施例の欄で実証したように、黒鉛化工程の後にのみ酸化処理を行った比較例(すなわち酸化処理は1回)では、所望とする高いメソ孔比表面積が得られないことが、本発明者らの検討結果により明らかになった。
次に、本発明の電極材を製造する方法について説明する。本発明の電極材は、炭素質繊維(基材)に黒鉛粒子以外の炭素粒子、および炭素質材料の前駆体(炭化前のもの)を添着した後、炭素化工程、一次酸化工程、黒鉛化工程、二次酸化工程を経て製造することができる。本発明では、所定の条件で炭素化工程および黒鉛化工程を行うと共に、黒鉛化工程の前後で2回の酸化処理を行った点に特徴があり、特に酸化処理を2回行った点に最大の特徴がある。ここで「一次酸化工程」とは1回目の酸化処理を意味し、「二次酸化工程」とは2回目の酸化処理を意味する。後記する実施例の欄で実証したように、黒鉛化工程の後にのみ酸化処理を行った比較例(すなわち酸化処理は1回)では、所望とする高いメソ孔比表面積が得られないことが、本発明者らの検討結果により明らかになった。
以下、各工程について説明する。
(炭素質繊維に黒鉛粒子以外の炭素粒子、および炭素質材料の前駆体を添着する工程)
まず、炭素質繊維に黒鉛粒子以外の炭素粒子および炭素質材料の前駆体を添着させる。炭素質繊維に黒鉛粒子以外の炭素粒子及び炭素質材料の前駆体を添着させるには、公知の方法を任意に採用できる。例えば上記の炭素質材料前駆体を加熱して溶融させ、得られた溶融液中に黒鉛粒子以外の炭素粒子を分散させ、この溶融分散液に炭素質繊維を浸漬した後、室温まで冷却する手法が挙げられる。或は、後記する実施例に示すように、上記の炭素質材料前駆体と黒鉛粒子以外の炭素粒子を、ポリビニルアルコールなどのように炭化時に消失するバインダー(仮接着剤)を添加した水やアルコールなどの溶媒に分散させ、この分散液に炭素質繊維を浸漬した後、加熱して乾燥する手法を用いることができる。ここで、炭素質繊維を浸漬した上記溶融分散液や分散液のうち余分な液は、所定のクリアランスを設けたニップローラーに通すことで分散液に浸漬した際の余分な分散液を絞ったり、或は、ドクターブレード等で分散液に浸漬した際の余分な分散液の表面をかきとる等の方法で除去することができる。
まず、炭素質繊維に黒鉛粒子以外の炭素粒子および炭素質材料の前駆体を添着させる。炭素質繊維に黒鉛粒子以外の炭素粒子及び炭素質材料の前駆体を添着させるには、公知の方法を任意に採用できる。例えば上記の炭素質材料前駆体を加熱して溶融させ、得られた溶融液中に黒鉛粒子以外の炭素粒子を分散させ、この溶融分散液に炭素質繊維を浸漬した後、室温まで冷却する手法が挙げられる。或は、後記する実施例に示すように、上記の炭素質材料前駆体と黒鉛粒子以外の炭素粒子を、ポリビニルアルコールなどのように炭化時に消失するバインダー(仮接着剤)を添加した水やアルコールなどの溶媒に分散させ、この分散液に炭素質繊維を浸漬した後、加熱して乾燥する手法を用いることができる。ここで、炭素質繊維を浸漬した上記溶融分散液や分散液のうち余分な液は、所定のクリアランスを設けたニップローラーに通すことで分散液に浸漬した際の余分な分散液を絞ったり、或は、ドクターブレード等で分散液に浸漬した際の余分な分散液の表面をかきとる等の方法で除去することができる。
その後、空気雰囲気下、例えば80~150℃で乾燥する。
(炭素化工程)
炭素化工程は、上記工程で得られた添着後の製造物を焼成するために行なわれる。これにより、黒鉛粒子以外の炭素粒子を介して炭素質繊維間が結着されるようになる。炭素化工程では、炭化時の分解ガスを十分に除去することが好ましく、例えば、不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)、500℃以上、2000℃未満の温度で加熱する。加熱温度は600℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、1000℃以上がさらに好ましく、1200℃以上がさらにより好ましく、1400℃以下がより好ましく、1300℃以下がさらに好ましい。
また、不活性雰囲気下における加熱時間は、例えば1~2時間であることが好ましい。この程度の短時間処理により、炭素質繊維間の結着および炭化時の分解ガスの除去が十分に進む。
炭素化工程は、上記工程で得られた添着後の製造物を焼成するために行なわれる。これにより、黒鉛粒子以外の炭素粒子を介して炭素質繊維間が結着されるようになる。炭素化工程では、炭化時の分解ガスを十分に除去することが好ましく、例えば、不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)、500℃以上、2000℃未満の温度で加熱する。加熱温度は600℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、1000℃以上がさらに好ましく、1200℃以上がさらにより好ましく、1400℃以下がより好ましく、1300℃以下がさらに好ましい。
また、不活性雰囲気下における加熱時間は、例えば1~2時間であることが好ましい。この程度の短時間処理により、炭素質繊維間の結着および炭化時の分解ガスの除去が十分に進む。
なお前述したとおり、上記炭素化工程に対応する処理を、繊維の耐炎化後にも行っても良いが、繊維の耐炎化後に行われる炭素化処理は省略しても良い。すなわち、本発明の電極材を製造する方法は、下記方法1と方法2に大別される。
・方法1:繊維の耐炎化→繊維の炭素化→黒鉛粒子以外の炭素粒子および炭素質材料の添着→炭素化→一次酸化→黒鉛化→二次酸化
・方法2:繊維の耐炎化→黒鉛粒子以外の炭素粒子および炭素質材料の添着→炭素化→一次酸化→黒鉛化→二次酸化
上記方法1によれば、炭素化を2回行うため加工コストが上昇するものの、電極材として使用するシートは体積収縮比率の差による影響を受け難いため、得られるシートが変形(反り発生)し難いという利点がある。一方、上記方法2によれば、炭素化工程を1回行えば良いため加工コストを低減できるものの、各材料の炭素化時における体積収縮比率の差により得られるシートが変形し易くなる。上記方法1、2のいずれを採用するかは、これらを勘案して適宜決定すれば良い。
・方法1:繊維の耐炎化→繊維の炭素化→黒鉛粒子以外の炭素粒子および炭素質材料の添着→炭素化→一次酸化→黒鉛化→二次酸化
・方法2:繊維の耐炎化→黒鉛粒子以外の炭素粒子および炭素質材料の添着→炭素化→一次酸化→黒鉛化→二次酸化
上記方法1によれば、炭素化を2回行うため加工コストが上昇するものの、電極材として使用するシートは体積収縮比率の差による影響を受け難いため、得られるシートが変形(反り発生)し難いという利点がある。一方、上記方法2によれば、炭素化工程を1回行えば良いため加工コストを低減できるものの、各材料の炭素化時における体積収縮比率の差により得られるシートが変形し易くなる。上記方法1、2のいずれを採用するかは、これらを勘案して適宜決定すれば良い。
(一次酸化工程)
本発明では、上記炭素化工程の後、後記する黒鉛化工程の前に、乾式下で1回目の酸化処理を行うことが重要である。これにより、炭素質繊維の賦活化、および炭素質材料の除去による黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面露出が生じる。その結果、電極材のメソ孔比表面積が著しく増大し、反応性が向上して低い抵抗が得られる。
本発明では、上記炭素化工程の後、後記する黒鉛化工程の前に、乾式下で1回目の酸化処理を行うことが重要である。これにより、炭素質繊維の賦活化、および炭素質材料の除去による黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面露出が生じる。その結果、電極材のメソ孔比表面積が著しく増大し、反応性が向上して低い抵抗が得られる。
一般に酸化処理は、乾式、湿式のいずれでも行うことができ、例えば、湿式の化学酸化、電解酸化、乾式酸化などが挙げられるが、本発明では、加工性、製造コストの観点から、乾式酸化処理を行う。好ましくは空気雰囲気下で酸化処理を行う。加熱温度は、500℃以上、900℃以下の範囲に制御する。これにより、電極材表面に酸素官能基が導入されて、上記効果が有効に発揮される。上記加熱温度は、550℃以上がより好ましい。また、800℃以下がより好ましく、750℃以下がさらに好ましい。
また、上記の一次酸化処理は、例えば5分~1時間行うことが好ましい。一次酸化処理液が5分未満の場合、炭素電極材全体が均一に酸化処理されない虞がある。一方、一次酸化処理液が1時間を超えると、炭素電極材の強度低下を招いたり、作業効率が低下する虞がある。
また、上記の一次酸化処理は、例えば5分~1時間行うことが好ましい。一次酸化処理液が5分未満の場合、炭素電極材全体が均一に酸化処理されない虞がある。一方、一次酸化処理液が1時間を超えると、炭素電極材の強度低下を招いたり、作業効率が低下する虞がある。
ここで、上記一次酸化工程は、電極材の比表面積増大および機械的強度維持の二つの観点から、一次酸化工程前後の電極材の質量収率(すなわち、一次酸化処理前の電極材の質量に対する、一次酸化処理液後の電極材の質量の比率)を、例えば85%以上、95%以下の範囲に調整することが好ましい。上記の質量収率は、例えば、乾式空気酸化時の処理時間や加熱温度を適宜調整することによって調整することができる。
(黒鉛化工程)
黒鉛化工程は、炭素質材料の結晶性を十分に高め、電子伝導性の向上ならびに電解液中の硫酸溶液などに対する耐酸化性を向上させるために行なわれる工程である。上記一次酸化工程の後、さらに不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)で、1300℃以上、2300℃以下の温度であって、上記炭素化工程における加熱温度よりも高い温度で加熱することが好ましく、1500℃以上がより好ましい。なお、その上限は、炭素質材料に高い電解液親和性を付与することを考慮すると、2000℃以下が好ましい。
黒鉛化工程は、炭素質材料の結晶性を十分に高め、電子伝導性の向上ならびに電解液中の硫酸溶液などに対する耐酸化性を向上させるために行なわれる工程である。上記一次酸化工程の後、さらに不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)で、1300℃以上、2300℃以下の温度であって、上記炭素化工程における加熱温度よりも高い温度で加熱することが好ましく、1500℃以上がより好ましい。なお、その上限は、炭素質材料に高い電解液親和性を付与することを考慮すると、2000℃以下が好ましい。
(二次酸化工程)
上記黒鉛化工程の後、さらに二次酸化処理を行うことにより、電極材表面に、ヒドロキシル基、カルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの酸素官能基が導入されるようになる。その結果、前述したO/C比≧1%を達成することができる。これらの酸素官能基は電極反応に大きく寄与するため、十分に低い抵抗が得られる。また水の通水速度も高められる。
上記黒鉛化工程の後、さらに二次酸化処理を行うことにより、電極材表面に、ヒドロキシル基、カルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの酸素官能基が導入されるようになる。その結果、前述したO/C比≧1%を達成することができる。これらの酸素官能基は電極反応に大きく寄与するため、十分に低い抵抗が得られる。また水の通水速度も高められる。
二次酸化処理工程は、例えば湿式の化学酸化、電解酸化、乾式酸化などの各種処理工程を適用できるが、本発明では、加工性、製造コストの観点から乾式酸化処理を行う。好ましくは空気雰囲気下で酸化処理を行う。加熱温度は、500℃以上、900℃以下の範囲に制御する。これにより、電極材表面に酸素官能基が導入されて、上記効果が有効に発揮される。上記加熱温度は、600℃以上が好ましく、650℃以上がより好ましい。また、800℃以下が好ましく、750℃以下がより好ましい。
また、上記の二次酸化処理は前述した一次酸化処理と同様、例えば5分~1時間行うことが好ましい。一次酸化処理液が5分未満の場合、炭素電極材全体が均一に酸化処理されない虞がある。一方、一次酸化処理液が1時間を超えると、炭素電極材の強度低下を招いたり、作業効率が低下する虞がある。
また、上記の二次酸化処理は前述した一次酸化処理と同様、例えば5分~1時間行うことが好ましい。一次酸化処理液が5分未満の場合、炭素電極材全体が均一に酸化処理されない虞がある。一方、一次酸化処理液が1時間を超えると、炭素電極材の強度低下を招いたり、作業効率が低下する虞がある。
ここで、上述した1回目および2回目の酸化処理条件は、上記の条件を満足する限り、同じであっても良いし、異なっていても良いが、1回目の酸化処理(一次酸化処理)に比べて2回目の酸化処理(二次酸化処理)における加熱温度は高い方が好ましい。一次酸化処理では、未だ結晶性向上のための黒鉛化処理を実施しておらず、酸化が速く進むと考えられるため、二次酸化処理に比べて、より低い加熱温度に制御している。
更に二次乾式酸化処理工程では、電極材の機械的強度を維持する観点から、酸化処理前後の電極材の質量収率(すなわち、二次酸化処理前の電極材の質量に対する、二次酸化処理液後の電極材の質量の比率)を90%以上、96%以下に調整することが好ましい。上記の質量収率は、例えば、乾式空気酸化の処理時間や加熱温度を適宜調整することによって調整することができる。
本願は、2019年3月13日に出願された日本国特許出願第2019-045664号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年3月13日に出願された日本国特許出願第2019-045664号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。以下において、%は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
本実施例では、以下の項目を測定した。測定方法の詳細は以下のとおりである。
(1)X線回折による、c軸方向の結晶子の大きさ(Lc)の測定
詳細には炭素質繊維のLc(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子のLc(B)およびLa(B)、炭素質材料のLc(C)を以下のようにして測定した。
本実施例で用いた炭素質繊維、黒鉛粒子以外の炭素粒子、炭素質材料のそれぞれ(単体)について、実施例1と同じ加熱処理を順次行い、最終処理されたサンプルを用いて測定した。基本的に炭素結晶性はそのサンプルに与えられる熱エネルギーの影響が支配的になり、サンプルに与えられる最高温の熱履歴がLcの結晶性を決定すると考えられるが、その後の酸化処理の度合いによっては、黒鉛化工程時に形成されたグラフェン積層構造を乱し、欠陥構造の発生などによる結晶性の低下が生じる可能性が考えられる。そのため、最終処理されたサンプルを用いた。
詳細には炭素質繊維のLc(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子のLc(B)およびLa(B)、炭素質材料のLc(C)を以下のようにして測定した。
本実施例で用いた炭素質繊維、黒鉛粒子以外の炭素粒子、炭素質材料のそれぞれ(単体)について、実施例1と同じ加熱処理を順次行い、最終処理されたサンプルを用いて測定した。基本的に炭素結晶性はそのサンプルに与えられる熱エネルギーの影響が支配的になり、サンプルに与えられる最高温の熱履歴がLcの結晶性を決定すると考えられるが、その後の酸化処理の度合いによっては、黒鉛化工程時に形成されたグラフェン積層構造を乱し、欠陥構造の発生などによる結晶性の低下が生じる可能性が考えられる。そのため、最終処理されたサンプルを用いた。
上記のようにして採取した各単体サンプルをメノウ乳鉢で、粒径10μm程度になるまで粉砕した。粉砕後のサンプルに対して約5質量%のX線標準用高純度シリコン粉末を内部標準物質として混合し、試料セルに詰め、CuKα線を線源として、ディフラクトメーター法によって広角X線を測定した。
本発明の電極材に用いた炭素質繊維(A)および黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、並びにこれらを結着する炭素質材料(C)は、上記広角X線測定で得られたチャートからピーク分離を行うことで、それぞれのLc値を算出した。具体的には、回折角θの2倍(2θ)が26.4°~26.6°の範囲に頂点が見られるピークを黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、25.3°~25.7°の範囲に頂点が見られるピークを炭素質材料(C)とした。それぞれのピークトップから、正弦波としてピーク形状を決定した後、24.0°~25.0°付近にみられる裾野部分から、正弦波としたピーク形状を決定し、これを炭素質繊維(A)とした。以上の方法により分離した3つのピークより、下記方法によってそれぞれのLcを算出した。
曲線の補正には、いわゆるローレンツ因子、偏光因子、吸収因子、原子散乱因子等に関する補正を行わず、次の簡便法を用いた。すなわち、<002>回折に相当するピークのベースラインからの実質強度をプロットし直して<002>補正強度曲線を得た。このピーク高さの1/2の高さに引いた角度軸に平行な線が上記補正強度曲線と交わる線分の長さ(半値幅β)から、下式によってc軸方向の結晶子の大きさLcを求めた。
Lc=(k・λ)/(β・cosθ)
Lc=(k・λ)/(β・cosθ)
ここで、構造係数k=0.9、波長λ=1.5418Å、βは<002>回折ピークの半値幅を、θは<002>回折角を示す。
(2)電極材の比表面積の測定
(2-1)細孔直径2nm以上40nm未満のメソ孔比表面積(S2-40nm:m2/g)の測定
試料約50mgを測り採り、これを130℃で24時間真空乾燥した。
得られた乾燥後の試料について、自動比表面積測定装置(島津製作所製、GEMINI VII)を使用し、窒素ガスを用いたガス吸着法にて窒素吸着量を測定し、吸着過程の窒素吸着等温線をBJH法で解析することにより、細孔直径2nm以上40nm未満のメソ孔比表面積(m2/g)を求めた。
(2-1)細孔直径2nm以上40nm未満のメソ孔比表面積(S2-40nm:m2/g)の測定
試料約50mgを測り採り、これを130℃で24時間真空乾燥した。
得られた乾燥後の試料について、自動比表面積測定装置(島津製作所製、GEMINI VII)を使用し、窒素ガスを用いたガス吸着法にて窒素吸着量を測定し、吸着過程の窒素吸着等温線をBJH法で解析することにより、細孔直径2nm以上40nm未満のメソ孔比表面積(m2/g)を求めた。
(2-2)BET比表面積(BET:m2/g)の測定
試料約50mgを測り採り、これを130℃で24時間真空乾燥した。得られた乾燥後の試料について、自動比表面積測定装置(島津製作所製、GEMINI VII)を使用し、窒素ガスを用いたガス吸着法により窒素吸着量を測定し、BET法に基づく多点法によってBET比表面積(m2/g)を決定した。
試料約50mgを測り採り、これを130℃で24時間真空乾燥した。得られた乾燥後の試料について、自動比表面積測定装置(島津製作所製、GEMINI VII)を使用し、窒素ガスを用いたガス吸着法により窒素吸着量を測定し、BET法に基づく多点法によってBET比表面積(m2/g)を決定した。
(3)XPS表面分析によるO/Cの測定
ESCAまたはXPSと略称されているX線光電子分光法の測定には、アルバック・ファイ5801MCの装置を用いた。
まず、試料をサンプルホルダー上にMo板で固定し、予備排気室にて十分に排気した後、測定室のチャンバーに投入した。線源にはモノクロ化AlKα線を用い、出力は14kV、12mA、装置内真空度は10-8torrとした。
全元素スキャンを行って表面元素の構成を調べ、検出された元素および予想される元素についてナロースキャンを実施し、存在比率を評価した。
全表面炭素原子数に対する表面結合酸素原子数の比を百分率(%)で算出し、O/Cを算出した。
ESCAまたはXPSと略称されているX線光電子分光法の測定には、アルバック・ファイ5801MCの装置を用いた。
まず、試料をサンプルホルダー上にMo板で固定し、予備排気室にて十分に排気した後、測定室のチャンバーに投入した。線源にはモノクロ化AlKα線を用い、出力は14kV、12mA、装置内真空度は10-8torrとした。
全元素スキャンを行って表面元素の構成を調べ、検出された元素および予想される元素についてナロースキャンを実施し、存在比率を評価した。
全表面炭素原子数に対する表面結合酸素原子数の比を百分率(%)で算出し、O/Cを算出した。
(4)充放電試験
(4-1)全セル抵抗(SOC50%全セル抵抗)の測定
後記する方法で得られた電極材を、上下方向(通液方向)に2.7cm、幅方向に3.3cmの電極面積8.91cm2に切り出した。本試験における充放電の合計時間は短いため、本発明の電極材を正極側に用いてもマンガンの酸化分解による悪影響は発生しないため、正極・負極に同一サンプルを用いた。片極におけるセル内目付が100~300g/m2となるように枚数を調整し、図1のセルを組み立てた。イオン交換膜はナフィオン211膜を用い、スペーサー厚みは0.4mmとした。144mA/cm2で電圧範囲1.55~1.00Vで10サイクル後の電圧曲線から、下式によって全セル抵抗(SOC50%全セル抵抗、Ω・cm2)を算出した。
なお正極および負極の電解液には共に、オキシ硫酸チタン及びオキシ硫酸マンガンをそれぞれ1.0moL/Lずつ溶解した5.0moL/L硫酸水溶液を用いた。電解液量はセルおよび配管に対して大過剰とした。液流量は毎分10mLとし、35℃で測定を行った。
(4-1)全セル抵抗(SOC50%全セル抵抗)の測定
後記する方法で得られた電極材を、上下方向(通液方向)に2.7cm、幅方向に3.3cmの電極面積8.91cm2に切り出した。本試験における充放電の合計時間は短いため、本発明の電極材を正極側に用いてもマンガンの酸化分解による悪影響は発生しないため、正極・負極に同一サンプルを用いた。片極におけるセル内目付が100~300g/m2となるように枚数を調整し、図1のセルを組み立てた。イオン交換膜はナフィオン211膜を用い、スペーサー厚みは0.4mmとした。144mA/cm2で電圧範囲1.55~1.00Vで10サイクル後の電圧曲線から、下式によって全セル抵抗(SOC50%全セル抵抗、Ω・cm2)を算出した。
なお正極および負極の電解液には共に、オキシ硫酸チタン及びオキシ硫酸マンガンをそれぞれ1.0moL/Lずつ溶解した5.0moL/L硫酸水溶液を用いた。電解液量はセルおよび配管に対して大過剰とした。液流量は毎分10mLとし、35℃で測定を行った。
VC50は、充電率が50%のときの電気量に対する充電電圧を電極曲線から求めたもの、
VD50は、充電率が50%のときの電気量に対する放電電圧を電極曲線から求めたもの、
I=電流密度(mA/cm2)
(4-2)反応抵抗の測定
本実施例では、抵抗成分を分離して、反応抵抗も測定した。前述したように全セル抵抗=反応抵抗+導電抵抗であり、本発明は、反応抵抗の低減によって全セル抵抗の低減を図ることを意図している。
本実施例では、抵抗成分を分離して、反応抵抗も測定した。前述したように全セル抵抗=反応抵抗+導電抵抗であり、本発明は、反応抵抗の低減によって全セル抵抗の低減を図ることを意図している。
詳細には充電率(SOC)が50%となるよう電流密度144mA/cm2で5分間充電した後、20kHz~0.01Hzの周波数範囲で交流インピーダンスを測定した。得られたナイキストプロットに対し、実軸との交点を導電抵抗(Ω・cm2)、半円部の直径と低周波数領域の直線部分との和を反応抵抗(Ω・cm2)とした。
(5)水の通水試験
電極からの高さ5cmの地点において、3mmφのピペットから1滴のイオン交換水を電極上に落とし、垂らした水滴が浸透するまでの時間を計測して、下式により水の通水速度を算出した。
水の通水速度(mm/sec)
=電極材の厚み(mm)÷水滴が浸透するまでの時間(sec)
電極からの高さ5cmの地点において、3mmφのピペットから1滴のイオン交換水を電極上に落とし、垂らした水滴が浸透するまでの時間を計測して、下式により水の通水速度を算出した。
水の通水速度(mm/sec)
=電極材の厚み(mm)÷水滴が浸透するまでの時間(sec)
実施例1
本実施例では、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)として表1に示すA、Bのカーボンブラック、比較のため表1に示すDの黒鉛粒子と;炭素質材料(C)として表2に示すa(大阪化成株式会社社製TGP-3500のピッチ類)、b(DIC株式会社製TD―4304のフェノール樹脂、固形分40%)と;炭素質繊維(A)として表3に記載のポリアクリロニトリル繊維を用い、以下のようにして炭素質シートからなる電極材を作製して各種項目を測定した。A、B、Dはいずれも市販品であり、表1に記載の平均粒子径は、カタログに記載の値である。
本実施例では、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)として表1に示すA、Bのカーボンブラック、比較のため表1に示すDの黒鉛粒子と;炭素質材料(C)として表2に示すa(大阪化成株式会社社製TGP-3500のピッチ類)、b(DIC株式会社製TD―4304のフェノール樹脂、固形分40%)と;炭素質繊維(A)として表3に記載のポリアクリロニトリル繊維を用い、以下のようにして炭素質シートからなる電極材を作製して各種項目を測定した。A、B、Dはいずれも市販品であり、表1に記載の平均粒子径は、カタログに記載の値である。
(No.1)
まず、イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を2.0%、ポリビニルアルコール(仮接着剤)を2.0%、上記炭素質材料aを8.6%、黒鉛以外の炭素粒子として表1のAを1.5%となるように加えて分散液を作製した。
このようにして得られた分散液中に、基材(繊維構造体)として、炭化後のポリアクリロニトリル繊維(平均繊維長6mm)からなるカーボンペーパー(オリベスト株式会社製CB0-030TP6、目付27g/m2、厚み0.51mm)を浸漬した後、ニップローラーに通して余分な分散液を除去した。
次に、空気雰囲気下、120℃で20分間乾燥した。その後、窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で1000℃まで昇温し、この温度で1時間保持して炭素化(焼成)を行った後、空気雰囲気下、550℃で25分間酸化処理した(1回目の酸化処理)。上記酸化処理の後、冷却し、更に窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で1500℃まで昇温し、この温度で1時間保持して黒鉛化した後、空気雰囲気下、650℃で5分間酸化処理(2回目の酸化処理)し、No.1の電極材(目付75g/m2、厚み0.47mm)を得た。
まず、イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を2.0%、ポリビニルアルコール(仮接着剤)を2.0%、上記炭素質材料aを8.6%、黒鉛以外の炭素粒子として表1のAを1.5%となるように加えて分散液を作製した。
このようにして得られた分散液中に、基材(繊維構造体)として、炭化後のポリアクリロニトリル繊維(平均繊維長6mm)からなるカーボンペーパー(オリベスト株式会社製CB0-030TP6、目付27g/m2、厚み0.51mm)を浸漬した後、ニップローラーに通して余分な分散液を除去した。
次に、空気雰囲気下、120℃で20分間乾燥した。その後、窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で1000℃まで昇温し、この温度で1時間保持して炭素化(焼成)を行った後、空気雰囲気下、550℃で25分間酸化処理した(1回目の酸化処理)。上記酸化処理の後、冷却し、更に窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で1500℃まで昇温し、この温度で1時間保持して黒鉛化した後、空気雰囲気下、650℃で5分間酸化処理(2回目の酸化処理)し、No.1の電極材(目付75g/m2、厚み0.47mm)を得た。
(No.2)
イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を2.0%、ポリビニルアルコール(仮接着剤)を2.0%、上記炭素質材料aを15%、黒鉛以外の炭素粒子として表1のBを1.5%となるように加えて分散液を作製したこと以外は、上記No.1と同様にして、No.2の電極材(厚み0.35mm、目付78g/m2)を得た。
イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を2.0%、ポリビニルアルコール(仮接着剤)を2.0%、上記炭素質材料aを15%、黒鉛以外の炭素粒子として表1のBを1.5%となるように加えて分散液を作製したこと以外は、上記No.1と同様にして、No.2の電極材(厚み0.35mm、目付78g/m2)を得た。
(No.3)
イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を2.0%、ポリビニルアルコール(仮接着剤)を2.0%、上記炭素質材料aを13%、黒鉛以外の炭素粒子として表1のBを1.5%となるように加えて分散液を作製したこと以外は、上記No.1と同様にして、No.3の電極材(厚み0.37mm、目付70g/m2)を得た。
イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を2.0%、ポリビニルアルコール(仮接着剤)を2.0%、上記炭素質材料aを13%、黒鉛以外の炭素粒子として表1のBを1.5%となるように加えて分散液を作製したこと以外は、上記No.1と同様にして、No.3の電極材(厚み0.37mm、目付70g/m2)を得た。
(No.4)
イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を2.0%、ポリビニルアルコール(仮接着剤)を2.0%、上記炭素質材料aを8.6%、黒鉛以外の炭素粒子として表1のBを1.5%となるように加えて分散液を作製したこと以外は、上記No.1と同様にして、No.4の電極材(厚み0.34mm、目付64g/m2)を得た。
イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を2.0%、ポリビニルアルコール(仮接着剤)を2.0%、上記炭素質材料aを8.6%、黒鉛以外の炭素粒子として表1のBを1.5%となるように加えて分散液を作製したこと以外は、上記No.1と同様にして、No.4の電極材(厚み0.34mm、目付64g/m2)を得た。
(No.5)
基材として、ポリアクリロニトリル繊維(平均繊維長6mm)からなるスパンレース(シンワ株式会社製、目付100g/m2、厚み0.9mm)を使用したこと以外は上記No.3と同様にして、No.5の電極材(厚み0.49mm、目付112g/m2)を得た。
基材として、ポリアクリロニトリル繊維(平均繊維長6mm)からなるスパンレース(シンワ株式会社製、目付100g/m2、厚み0.9mm)を使用したこと以外は上記No.3と同様にして、No.5の電極材(厚み0.49mm、目付112g/m2)を得た。
(No.6)
炭素化温度を1300℃としたこと以外は上記No.5と同様にして、No.6の電極材(厚み0.42mm、目付116g/m2)を得た。
炭素化温度を1300℃としたこと以外は上記No.5と同様にして、No.6の電極材(厚み0.42mm、目付116g/m2)を得た。
(No.7)
炭素化工程と黒鉛化工程の間で1回目の酸化処理を実施しなかったこと以外は上記No.1と同様にして、No.7の電極材(厚み0.39mm、目付86g/m2)を得た。
炭素化工程と黒鉛化工程の間で1回目の酸化処理を実施しなかったこと以外は上記No.1と同様にして、No.7の電極材(厚み0.39mm、目付86g/m2)を得た。
(No.8)
炭素化工程と黒鉛化工程の間で1回目の酸化処理を実施しなかったこと以外は上記No.2と同様にして、No.8の電極材(厚み0.45mm、目付94g/m2)を得た。
炭素化工程と黒鉛化工程の間で1回目の酸化処理を実施しなかったこと以外は上記No.2と同様にして、No.8の電極材(厚み0.45mm、目付94g/m2)を得た。
(No.9)
炭素化工程と黒鉛化工程の間で1回目の酸化処理を実施しなかったこと以外は上記No.3と同様にして、No.9の電極材(厚み0.42mm、目付86g/m2)を得た。
炭素化工程と黒鉛化工程の間で1回目の酸化処理を実施しなかったこと以外は上記No.3と同様にして、No.9の電極材(厚み0.42mm、目付86g/m2)を得た。
(No.10)
炭素化工程と黒鉛化工程の間で1回目の酸化処理を実施しなかったこと以外は上記No.4と同様にして、No.10の電極材(厚み0.40mm、目付69g/m2)を得た。
炭素化工程と黒鉛化工程の間で1回目の酸化処理を実施しなかったこと以外は上記No.4と同様にして、No.10の電極材(厚み0.40mm、目付69g/m2)を得た。
(No.11)
No.11は、黒鉛粒子以外の炭素粒子も炭素質材料も使用せず炭素質繊維のみからなる例である。詳細には上記カーボンペーパーに対して直接、No.1と同様の加熱処理を行い、No.11の電極材(厚み0.33mm、目付27g/m2)を得た。
No.11は、黒鉛粒子以外の炭素粒子も炭素質材料も使用せず炭素質繊維のみからなる例である。詳細には上記カーボンペーパーに対して直接、No.1と同様の加熱処理を行い、No.11の電極材(厚み0.33mm、目付27g/m2)を得た。
(No.12)
イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を2.0%、ポリビニルアルコール(仮接着剤)を2.0%、上記炭素質材料aを14.0%、表1の黒鉛粒子D(本発明の要件を満足しない例)を9.8%となるように加えて分散液を作製した。
イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を2.0%、ポリビニルアルコール(仮接着剤)を2.0%、上記炭素質材料aを14.0%、表1の黒鉛粒子D(本発明の要件を満足しない例)を9.8%となるように加えて分散液を作製した。
上記で作製した分散液を用いたこと以外は上記No.1と同様の処理を行い、No.12の電極材(厚み0.46mm、目付129g/m2)を得た。
(No.13)
イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を2.0%、ポリビニルアルコール(仮接着剤)を2.0%、炭素質材料として表2のb(固形分40%)を3.8%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表1のBを1.5%となるように加えて分散液を作製した。
イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を2.0%、ポリビニルアルコール(仮接着剤)を2.0%、炭素質材料として表2のb(固形分40%)を3.8%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表1のBを1.5%となるように加えて分散液を作製した。
上記で作製した分散液を用いたこと以外は上記No.1と同様の処理を行い、No.13の電極材(厚み0.35mm、目付55g/m2)を得た。
(No.14)
上記No.1と同様にして分散液中にカーボンペーパーを浸漬した後、上記No.6と同様にして炭素化および黒鉛化を行ったがその後の空気雰囲気下での酸化処理は行なわず、No.14の電極材(厚み0.4mm、目付90g/m2)を得た。
上記No.1と同様にして分散液中にカーボンペーパーを浸漬した後、上記No.6と同様にして炭素化および黒鉛化を行ったがその後の空気雰囲気下での酸化処理は行なわず、No.14の電極材(厚み0.4mm、目付90g/m2)を得た。
表2に使用した炭素質材料の種類などを併記すると共に、表3、4に上記No.1~14における各種項目の測定結果を示す。
No.1~6は本発明の要件を満足する電極材であり、メソ孔比表面積が非常に高く、低抵抗な電極材が得られた。これは、特に黒鉛以外の炭素粒子として粒子径が小さい表1のA~Bを用いると共に、所定の条件で電極材を製造したため、反応表面積が大きくなり、且つ、炭素質繊維の賦活化、および炭素質材料の除去による黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面露出により電極活性が向上したためと考えられる。
詳細には、No.1~6(本発明例)と、No.7~14(比較例)とは、それぞれ、1回目の酸化処理を行わなかったこと以外は同じ条件で製造した例である。2回の酸化処理を行った本発明例では、いずれも、1回の酸化処理しか行わなかった比較例に比べて、約約4~8倍もメソ孔比表面積が増加し、全セル抵抗(SOC50%全セル抵抗)も、より低減することができた。
上記比較例No.7~14のうちNo.10の全セル抵抗は本発明例と同等に低いが、これは反応抵抗ではなく、導電抵抗が低いためである。前述したように導電抵抗が低いと、材料の反発力が高く、繊維間や部材間の接触抵抗が低減されていると考えられ、電池効率が低下し易くなる。
また、No.5は、基材(繊維構造体)としてNo.3のカーボンペ-パーでなくスパンレースを用いた例であるが、スパンレースの使用により、メソ孔比表面積は更に向上した。これは、炭素質繊維自身の賦活効果が、ペーパー基材よりスパンレースの方が増大するためと推察される。
なおメソ孔比表面積が高いNo.5の全セル抵抗はNo.3に比べてやや増加したが、これは、セルを組み立てて全セル抵抗を測定する際、No.3のようなペーパーサンプルでは2枚、No.5のようなスパンレースサンプルでは1枚組み込むため、全セル抵抗の測定時におけるセル内の電極比表面積は、No.5よりNo.3の方が低くなるためと考えられる。
なおメソ孔比表面積が高いNo.5の全セル抵抗はNo.3に比べてやや増加したが、これは、セルを組み立てて全セル抵抗を測定する際、No.3のようなペーパーサンプルでは2枚、No.5のようなスパンレースサンプルでは1枚組み込むため、全セル抵抗の測定時におけるセル内の電極比表面積は、No.5よりNo.3の方が低くなるためと考えられる。
これに対し、No.11は、黒鉛粒子以外の炭素粒子も炭素質材料も使用せず炭素質繊維のみからなる例であり、反応表面積が不足するため抵抗が著しく増加した。なおNo.1、および後記するNo.12におけるメソ比表面積の結果はいずれも「測定不可」であった。これは、これらのBET比表面積が5m2/g以下と非常に小さいため、メソ比表面積も検出できない程小さい、若しくは存在しないためである。
No.12は、炭素粒子として粒子径が大きく、Lc(B)も大きい表1のDを用いたため、全セル抵抗が増加した。粒子径の大きい炭素粒子を用いると反応表面積が本発明例に比べて小さくなる他、炭素結晶性の高い炭素粒子を用いると酸素官能基の付与が困難なため、水系電解液に対する炭素粒子近傍の親和性が低下し、反応活性が向上しなかったためと考えられる。
No.13は、Lc(C)/Lc(A)の比が小さい例であり、抵抗が増加した。これは、炭素質材料の炭素結晶性が本発明例に比べて低いため、当該炭素粒子と炭素質繊維との電子伝導抵抗が高くなり、炭素粒子の反応活性を効率よく利用できなかったためと考えられる。
No.14は、O/Cの比が小さい例であり、抵抗が増加し、通水しなかった。これは、酸素官能基量が少ないため本発明例に比べて電解液との親和性が低下し、反応活性が低下したためと考えられる。
本発明によれば、初期充放電時のセル抵抗を低下し得、電池エネルギー効率に優れた炭素電極材を提供できるため、マンガン/チタン系レドックスフロー電池の負極に使用される炭素電極材として有用である。本発明の炭素電極材は、フロータイプおよびノンフロータイプのレドックスフロー電池や、リチウム、キャパシタ、燃料電池のシステムと複合化されたレドックスフロー電池などに好適に用いられる。
1 集電板
2 スペーサー
3 イオン交換膜
4a,4b 通液路
5 電極材
6 正極電解液タンク
7 負極電解液タンク
8,9 ポンプ
10 液流入口
11 液流出口
12,13 外部流路
2 スペーサー
3 イオン交換膜
4a,4b 通液路
5 電極材
6 正極電解液タンク
7 負極電解液タンク
8,9 ポンプ
10 液流入口
11 液流出口
12,13 外部流路
Claims (6)
- マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられる炭素電極材であって、
前記炭素電極材は、炭素質繊維(A)と、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)と、これらを結着する炭素質材料(C)と、からなり、
下記の要件を満足することを特徴とするマンガン/チタン系レドックスフロー電池用炭素電極材。
(1)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の粒径は1μm以下、
(2)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以下、
(3)炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)、Lc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5、
(4)窒素ガス吸着量から求められるメソ孔比表面積が30m2/g以上、
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上 - 前記炭素粒子(B)に対する前記炭素質材料(C)の質量比が0.2~10である請求項1に記載の炭素電極材。
- 窒素吸着量から求められるBET比表面積が40m2/g以上である請求項1または2に記載の炭素電極材。
- 水滴を垂らした時の通水速度が0.5mm/sec以上である請求項1~3のいずれかに記載の炭素電極材。
- 請求項1~4のいずれかに記載の炭素電極材を負極に備えたマンガン/チタン系レドックスフロー電池。
- 請求項1~4のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
前記炭素質繊維(A)に前記黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)および炭化前の炭素質材料(C)を添着する工程と、
添着後の製造物を、不活性ガス雰囲気下、500℃以上、2000℃未満の温度で加熱する炭素化工程と、
乾式下、500~900℃の温度で酸化処理する一次酸化工程と、
不活性ガス雰囲気下、1300~2300℃の温度で加熱する黒鉛化工程と、
乾式下、500~900℃の温度で酸化処理する二次酸化工程と、
を、この順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。
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