JP7049350B2 - レドックスフロー電池用炭素電極材およびその製造方法 - Google Patents

レドックスフロー電池用炭素電極材およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、レドックスフロー電池に使用される炭素電極材およびその製造方法に関する。
レドックスフロー電池は、レドックスイオンの水溶液中での酸化還元を利用した電池であり、液相のみでのマイルドな反応であるため、非常に安全性の高い大容量蓄電池である。
レドックスフロー電池の主な構成は、図1に示すように電解液(正極電解液、負極電解液)を貯える外部タンク6、7と、電解槽ECとからなる。電解槽ECでは、相対する集電板1、1の間にイオン交換膜3が配置されている。レドックスフロー電池では、ポンプ8、9にて活物質を含む電解液を外部タンク6、7から電解槽ECに送りながら、電解槽ECに組み込まれた電極5上で電気化学的なエネルギー変換、すなわち充放電が行われる。電極5の材料には、耐薬品性があり、導電性を有し、かつ通液性のある炭素材料が用いられている。
レドックスフロー電池に用いられる電解液として、代表的には、酸化還元により価数が変化する金属イオンを含有する水溶液が用いられる。電解液は、正極に鉄の塩酸水溶液、負極にクロムの塩酸水溶液を用いたタイプから、起電力の高いバナジウムの硫酸水溶液を両極に用いるタイプに替わり、高エネルギー密度化されてきた。
正極電解液にオキシ硫酸バナジウム、負極電解液に硫酸バナジウムの各々硫酸酸性水溶液を用いたレドックスフロー電池の場合、放電時には、V2+を含む電解液が負極側の通液路に供給され、正極側の通液路にはV5+(実際には酸素を含むイオン)を含む電解液が供給される。負極側の通液路では、三次元電極内でV2+が電子を放出しV3+に酸化される。放出された電子は外部回路を通って正極側の三次元電極内でV5+をV4+(実際には酸素を含むイオン)に還元する。この酸化還元反応に伴って負極電解液中のSO4 2-が不足し、正極電解液ではSO4 2-が過剰になるため、イオン交換膜を通ってSO4 2-が正極側から負極側に移動し電荷バランスが保たれる。あるいは、H+がイオン交換膜を通って負極側から正極側へ移動することによっても電荷バランスを保つことができる。充電時には放電と逆の反応が進行する。
レドックスフロー電池用電極材には、特に以下に示す性能が要求される。
1)目的とする反応以外の副反応を起こさないこと(反応選択性が高いこと)、具体的には電流効率(ηI)が高いこと。
2)電極反応活性が高いこと、具体的にはセル抵抗(R)が小さいこと。すなわち電圧効率(ηV)が高いこと。
3)上記1)、2)に関連する電池エネルギー効率(ηE)が高いこと。
ηE=ηI×ηV
4)繰返し使用に対する劣化が小さいこと(高寿命)、具体的には電池エネルギー効率(ηE)の低下量が小さいこと。
例えば特許文献1には、電池のトータルエネルギー効率を高め得るFe-Cr電池の電極材として、結晶性の高い特定の擬黒鉛微結晶構造を有する炭素質材料が開示されている。具体的には、X線広角解析より求めた<002>面間隔が平均3.70Å以下であり、またc軸方向の結晶子の大きさが平均9.0Å以上の擬黒鉛微結晶を有し、かつ全酸性官能基量が少なくとも0.01meq/gである炭素質材料が開示されている。
特許文献2には、電池のエネルギー効率を高め、かつ充放電サイクル寿命を改善する鉄-クロム系レドックスフロー電池等の電界層用電極として、ポリアクリロニトリル系繊維を原料とする炭素質繊維で、X線広角解析より求めた<002>面間隔が3.50~3.60Åの擬黒鉛結晶構造を有する炭素からなり、該炭素表面の結合酸素原子数が炭素原子数の10~25%である炭素電極材が開示されている。
特許文献3には、電池系全体でのエネルギー効率に優れ、長時間使用に伴う性能の変化の少ないバナジウム系レドックスフロー電池用炭素電極材として、X線広角解析より求めた<002>面間隔が3.43~3.60Åで、c軸方向の結晶子の大きさが15~33Åで、a軸方向の結晶子の大きさが30~75Åである擬黒鉛結晶構造を有し、XPS表面分析より求めた表面酸性官能基量が全表面炭素原子数の0.2~1.0%であり、表面結合窒素原子数が全表面炭素原子数の3%以下である電極が開示されている。
また特許文献4には、バナジウム系レドックスフロー電池の総合効率を高め、初期充電時のセル抵抗がより低くなる炭素電極材として、炭素質繊維上に、結晶構造がX線広角解析より求めた<002>面間隔が3.43~3.70Åであり平均1次粒子径が30nm以上5μm以下である炭素微粒子が付着した炭素複合材料からなり、前記炭素複合材料の結晶構造がX線広角解析より求めた<002>面間隔が3.43~3.60Åで、c軸方向の結晶子の大きさが15~35Åで、a軸方向の結晶子の大きさが30~75Åである電極材が開示されている。上記炭素複合材料は、炭素質繊維と炭素微粒子とが、近接、または、フェノール樹脂のような接着剤により接着されていることが好ましく、接着剤を使用することにより、電気化学反応場である炭素質繊維表面を過度に減少させることなく、炭素質繊維として元々接触していた部分のみを固定することができる旨記載されている。実施例の欄には、炭素微粒子(フェノール樹脂)を5重量%(実施例1)、または、フェノール樹脂を5重量%(実施例2~4)混合した溶液に不織布を浸漬した後、炭化、乾式酸化処理して得られた炭素質繊維不織布が開示されている。
レドックスフロー電池に用いられる電解液の開発はその後も進められており、前述したバナジウム系電解液よりも更に高い起電力を有し、安定して安価に供給可能な電解液として、例えば特許文献5のように正極にマンガン、負極にクロム、バナジウム、チタンを用いるもの(例えばMn-Ti系電解液)が提案されている。
特開昭60-232669号公報 特開平5-234612号公報 特開2000-357520号公報 特開2017-33758号公報 特開2012-204135号公報
上述したようにMn-Ti系電解液を用いるレドックスフロー電池は起電力が高く、しかもMnおよびTiはいずれも安価で豊富に存在するため、注目されている。しかしながら、Mnイオンは水溶液中では不安定であり、反応速度が遅いため、セル抵抗が増加する。また、充電時には下記の不均化反応によってMnイオン(正極充電液)が酸化されて固体のMnO2が析出し、電極材が劣化すると考えられる。特にMnイオンの酸化防止(耐酸化物性)はMn-Ti系レドックスフロー電池に強く求められる特性であるが、前述した特許文献2~4ではこの点について全く考慮していない。
2Mn3++2H2O⇔Mn2++MnO2+4H-
また、特許文献2~4のようなバナジウム系電解液に用いられる電極材を、特許文献5に記載のMn-Ti系電解液を用いたレドックスフロー電池(以下、Mn-Ti系レドックスフロー電池と略記する場合がある。)の炭素質電極材として用いると、初期充放電時においてセル抵抗が著しく増加し、電池エネルギー効率が低下することが判明した。
Mnイオンは下記の不均化反応の通り、水溶液中では不安定であり、反応速度が遅いため、セル抵抗が増加する。また、充電時に生成するMnイオン(正極充電液)の酸化力が非常に強いため、電極材が劣化することも判明した。特にMnイオンに対する耐酸化性はMn-Ti系レドックスフロー電池に強く求められる特性であり、前述した特許文献2~4に記載のレドックスフロー電池用電極材を用いただけでは上記問題に十分対応できず、高耐酸化性と低抵抗を両立させることは困難であることが分かった。
2Mn3++2H2O⇔Mn2++MnO2+4H-
また、Mn-Ti系電解液を用いたレドックスフロー電池(以下、Mn/Ti系レドックスフロー電池と呼ぶ。)の普及を進めるためには、更なる低抵抗化及び安価な電極材が求められている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、特にMn-Ti系電解液を用いた場合であっても、Mnイオン(正極充電液)を安定化させて、初期充放電時のセル抵抗の上昇を抑制しつつ耐酸化性に優れた炭素電極材、およびその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明に係る第1~第3の炭素電極材の構成は以下のとおりである。
(I)第1の炭素電極材
1.炭素質繊維(A)と、前記炭素質繊維(A)を結着する炭素質材料(B)と、からなり、下記の要件を満足することを特徴とするレドックスフロー電池用炭素電極材。
(1)炭素質材料(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以上、
(2)炭素質繊維(A)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(B)/Lc(A)は1.0以上、
(3)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上。
2.炭素質繊維(A)、および炭素質材料(B)の合計量に対する前記炭素質材料(B)の質量含有率が20%以上である上記1に記載の炭素電極材。
3.前記Lc(A)は1~10nmである上記1または2に記載の炭素電極材。
4.水滴を垂らした時の通水速度が0.5mm/sec以上である上記1~3のいずれかに記載の炭素電極材。
5.マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられるものである上記1~4のいずれかに記載の炭素電極材。
6.上記1~5のいずれかに記載の炭素電極材を備えたレドックスフロー電池。
7.上記1~5のいずれかに記載の炭素電極材を用いたマンガン/チタン系レドックスフロー電池。
8.上記1~5のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、前記炭素質繊維(A)に炭化前の炭素質材料(B)を添着する工程と、添着後の製造物を、不活性雰囲気下、800℃以上2000℃以下の温度で加熱する炭素化工程と、不活性雰囲気下、1800℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱する黒鉛化工程と、酸化処理工程と、をこの順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。
(II)第2の炭素電極材
11.炭素質繊維(A)と、黒鉛粒子(B)と、これらを結着する炭素質材料(C)と、からなり、下記の要件を満足することを特徴とするレドックスフロー電池用炭素電極材。
(1)黒鉛粒子(B)の粒径は1μm以上、
(2)黒鉛粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)が35nm以上、
(3)炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(C)としたとき、Lc(C)は10nm以上、
(4)炭素質繊維(A)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0以上、
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上
12.炭素質繊維(A)、黒鉛粒子(B)、および炭素質材料(C)の合計量に対する前記黒鉛粒子(B)または前記炭素質材料(C)の質量含有率がそれぞれ20%以上であり、かつ、前記黒鉛粒子(B)に対する前記炭素質材料(C)の質量比が0.2~3.0である上記11に記載の炭素電極材。
13.前記Lc(A)は1~10nmである上記11または12に記載の炭素電極材。
14.窒素吸着量から求められるBET比表面積が1.0~8m2/gである上記11~13のいずれかに記載の炭素電極材。
15.前記黒鉛粒子(B)が鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、および膨張化黒鉛よりなる群から選択される少なくとも1種以上を含む上記11~14のいずれかに記載の炭素電極材。
16.水滴を垂らした時の通水速度が0.5mm/sec以上である上記11~15のいずれかに記載の炭素電極材。
17.マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられるものである上記11~16のいずれかに記載の炭素電極材。
18.上記11~17のいずれかに記載の炭素電極材を備えたレドックスフロー電池。
19.上記11~17のいずれかに記載の炭素電極材を用いたマンガン/チタン系レドックスフロー電池。
20.上記11~17のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
前記炭素質繊維(A)に前記黒鉛粒子(B)および炭化前の炭素質材料(C)を添着する工程と、
添着後の製造物を、不活性雰囲気下、800℃以上2000℃以下の温度で加熱する炭素化工程と、
不活性雰囲気下、1800℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱する黒鉛化工程と、
酸化処理工程と、をこの順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。
(III)第3の炭素電極材
21.マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられる炭素電極材であって、前記炭素電極材は、炭素質繊維(A)と、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)と、これらを結着する炭素質材料(C)と、からなり、
下記の要件を満足することを特徴とするマンガン/チタン系レドックスフロー電池用炭素電極材。
(1)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の粒径は1μm以下、
(2)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以下、
(3)炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)、Lc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5、
(4)炭素質繊維(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、および炭素質材料(C)の合計量に対する前記炭素質材料(C)の質量含有率は14.5%以上、
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上
22.前記炭素粒子(B)に対する前記炭素質材料(C)の質量比が0.2~10である上記21に記載の炭素電極材。
23.窒素吸着量から求められるBET比表面積が0.5m2/g以上である上記21または22に記載の炭素電極材。
24.水滴を垂らした時の通水速度が0.5mm/sec以上である上記21~23のいずれかに記載の炭素電極材。
25.上記21~24のいずれかに記載の炭素電極材を負極に備えたマンガン/チタン系レドックスフロー電池。
26.上記21~24のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
前記炭素質繊維(A)に前記黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)および炭化前の炭素質材料(C)を添着する工程と、
添着後の製造物を、不活性雰囲気下、800℃以上2000℃以下の温度で加熱する炭素化工程と、
不活性雰囲気下、1300℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱する黒鉛化工程と、
酸化処理工程と、をこの順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。
本発明に係る第1~第3の炭素電極材によれば、以下の効果が得られる。
まず第1の炭素電極材は、初期充放電時のセル抵抗の上昇を抑制しつつ耐酸化性に優れるため、特にMn-Ti系レドックスフロー電池用の電極材として有用である。更に第1の炭素電極材は、フロータイプおよびノンフロータイプのレドックスフロー電池、またはリチウム、キャパシタ、燃料電池のシステムと複合化されたレドックスフロー電池に好適に用いられる。
また第2の炭素電極材は、高耐酸化性と低抵抗の両方を実現できるため、特にMn-Ti系レドックスフロー電池用の電極材として有用である。更に第2の炭素電極材は、フロータイプおよびノンフロータイプのレドックスフロー電池、またはリチウム、キャパシタ、燃料電池のシステムと複合化されたレドックスフロー電池に好適に用いられる。
また第3の炭素電極材によれば、初期充放電時のセル抵抗を低下させて電池エネルギー効率に優れた、Mn/Ti系レドックスフロー電池の負極に使用される炭素電極材が得られる。
図1はレドックスフロー電池の概略図である。 図2は本発明に好適に用いられる三次元電極を有する液流通型電解槽の分解斜視図である。 図3は、後記する実施例3において、表3AのNo.1(第2の電極材の要件を満たす本発明例)のSEM写真(倍率100倍)である。 図4は、後記する実施例3において、表3AのNo.13(第2の電極材の要件を満たさない比較例)のSEM写真(倍率100倍)である。
まず、図2を参照しながら、本発明を構成要件ごとに詳細に説明する。
図2は、本発明に好適に用いられる液流通型電解槽の分解斜視図である。図2の電解槽は、相対する二枚の集電板1,1間にイオン交換膜3が配設され、イオン交換膜3の両側にスペーサー2によって集電板1,1の内面に沿った電解液の通液路4a,4bが形成されている。通液路4a,4bの少なくとも一方に電極材5が配設されている。集電板1には電解液の液流入口10と液流出口11とが設けられている。図2のように電極を電極材5と集電板1とで構成し、電解液が電極材5中を通過する構造(電極構造の三次元化)とすると、集電板1によって電子の輸送を確保しながら電極材5の細孔表面全てを電気化学反応場として充放電効率を向上することができる。その結果、電解槽の充放電効率が向上する。
以下、本発明に係る第1~第3の炭素電極材(図2中、5)について、詳細に説明する。本明細書では、炭素電極材を「電極材」と略記する場合がある。
[I.本発明に係る第1の炭素電極材]
[I-1.第1の炭素電極材の構成]
本発明者らは、特に、正極活物質にMnイオン、負極活物質にTiイオンなどを用いたMn-Ti系レドックスフロー電池に好ましく用いられる炭素電極材を提供するため、鋭意検討してきた。従来のV系レドックスフロー電池やFe-Cr系レドックスフロー電池と異なり、Mn-Ti系レドックスフロー電池では、Mn酸化物といった析出物の発生を抑制でき、Mn2+/Mn3+の反応を安定して行なうことのできる耐酸化性を有することが重要であるが、これまでに提案されている電極材は、この点について考慮されていない。
上記の炭素電極材を提供するに当たり、本発明者らは、まず炭素粒子について検討した。一般的に、レドックスフロー電池における反応活性を示す炭素粒子としては、アセチレンブラック(アセチレンの煤)、オイルブラック(ファーネスブラック、オイルの煤)、ガスブラック(ガスの煤)などのカーボンブラック類のように反応性および比表面積が高く、低結晶性のものがよく用いられる。しかしながら、このように炭素結晶性が低いものは、正極マンガンの充電液に対して容易に酸化されてしまい、使用できないことが判明した。
そこで本発明者らは、炭素粒子を用いず、炭素質材料(B)として、炭素質繊維(A)と当該炭素質繊維(A)を結着する結着性の炭素質材料であって、下記(1)および(2)の要件を満足する高結晶性の炭素質材料を採用することにした。
(1)X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以上
(2)炭素質繊維における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(B)/Lc(A)は1.0以上
ここで「炭素質繊維(A)と当該炭素質繊維(A)を結着する」(換言すれば、第1の電極材に用いられる炭素質材料は炭素質繊維の結着剤として作用する)とは、当該炭素質材料によって炭素質繊維間が強く結着されて、電極材全体としてみた場合に当該炭素質材料により炭素質繊維表面が被覆されているように構成されていることを意味する。
但し、結着後の炭素質材料は被膜状態にならないことが好ましい。ここで「被膜状態にならない」とは、炭素質繊維(A)の繊維間において炭素質材料(B)が全蹼足(ボクソク)や蹼足のような水かき状態を形成しないことを意味する。被膜状態を形成した場合、電解液の通液性が悪化し、電池の抵抗が上昇する。
このような結着状態を得るためには、炭素質繊維と炭素質材料の合計量に対する炭素質材料の含有比率を多くすることが好ましく、第1の電極材では、例えば20%以上とする。この点で、第1の電極材における炭素質材料は、前述した特許文献4に記載の炭素質材料とは相違する。特許文献4では、炭素質繊維と炭素微粒子とが元々接触していた部分のみを固定(接着)できれば良いという発想のもと、使用する炭素質材料は部分的な接着剤としての作用が発揮されれば良いとの認識しかない。そのため、特許文献4の実施例では、炭素質材料の含有率はせいぜい14.4%である。
このような結着性の炭素質材料を用いれば、炭素質材料が炭素質繊維間などを強く結着するため、効率的な導電パスを形成でき、抵抗の上昇が抑えられることが判明した。
更に上記(1)、(2)の高結晶性の炭素質材料を用いることにより、炭素質材料自体に高耐酸化性が付与されるだけでなく、炭素質繊維の酸化劣化に対する保護効果も高められることが判明した。
更に第1の炭素電極材は下記(3)の要件を満足する。
(3)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上
これにより、炭素のエッジ面や欠陥構造部に酸素原子を導入することができる。その結果、電極材の表面では、導入された酸素原子がカルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの反応基として生成されるため、これらの反応基が電極反応に大きく寄与し、抵抗の上昇が一層抑えられる。
第1の電極材は上記のように構成されているため、抵抗の上昇を抑制しつつ、耐酸化性に優れた電極が得られる。特に、正極マンガン系レドックスフロー電池の電解槽用電極材として用いた場合、初期充放電時のセル抵抗の上昇を抑えつつ、正極充電液に対する耐酸化性に優れた炭素電極材の提供が可能となる。
前述したとおり第1の電極材5は、炭素質繊維(A)と、当該炭素質繊維(A)を結着する結着性の炭素質材料からなり、上記(1)~(3)の要件を満足する。
[炭素質繊維(A)]
第1の電極材に用いられる炭素質繊維は、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理(詳細は後述する。)して得られる繊維であって、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維を意味する(JIS L 0204-2)。炭素質繊維の原料となる有機繊維のプレカーサーとしては、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維;フェノール繊維;ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)等のPBO繊維;芳香族ポリアミド繊維;等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維、メソフェーズピッチ等のピッチ繊維;セルロース繊維;等を使用することができる。中でも、耐酸化性に優れ、強度・弾性率に優れる等の観点から、有機繊維のプレカーサーとしては、アクリル繊維、フェノール繊維、セルロース繊維、等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維が好ましく、アクリル繊維がより好ましい。アクリル繊維は、アクリロニトリルを主成分として含有するものであれば特に限定されないが、アクリル繊維を形成する原料単量体中、アクリロニトリルの含有量が95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。
有機繊維の質量平均分子量は、特に限定されないが、10000以上、100000以下であることが好ましく、15000以上、80000以下であることがより好ましく、20000以上、50000以下であることがさらに好ましい。質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)や溶液粘度などの方法によって測定することができる。
炭素質繊維の平均繊維径は0.5~40μmであることが好ましい。平均繊維径が0.5μmより小さいと通液性が悪化してしまう。一方、平均繊維径が40μmよりも大きいと繊維部の反応表面積が低下してセル抵抗が高くなってしまう。通液性および反応表面積のバランスを考慮すると、より好ましくは3~20μmである。
第1の電極材では、上記炭素質繊維の構造体を基材として用いることが好ましく、これにより、強度が向上し、取扱いや加工性が容易になる。上記構造体として、具体的には、炭素質繊維よりなるシート状物である紡績糸、フィラメント集束糸、不織布、編物、織物、特開昭63-200467号公報などに記載の特殊編織物または炭素繊維からなる紙などを挙げることができる。これらのうち、炭素質繊維よりなる不織布、編物、織物、特殊織編物、及び炭素繊維からなる紙が、取扱いや加工性、製造性等の点からより好ましい。
ここで不織布、編物、織物などを用いる場合、平均繊維長は30~100mmが好ましい。また炭素繊維からなる紙を用いる場合、平均繊維長は5~30mmが好ましい。上記の範囲内とすることで、均一な繊維構造体が得られる。
前述したように上記炭素質繊維は、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理して得られるが、上記「加熱炭素化処理」は、少なくとも、耐炎化工程、および炭素化(焼成)工程を含むことが好ましい。但し、これらのうち炭素化工程は、必ずしも上記のように耐炎化工程の後に行う必要はなく、後記する実施例に記載のように耐炎化された繊維に黒鉛粒子および炭素質材料を添着した後に炭素化工程を行っても良く、この場合は耐炎化工程後の炭素化工程を省略することができる。
このうち上記耐炎化工程は、空気雰囲気下、有機繊維のプレカーサーを好ましくは180℃以上350℃以下の温度で加熱し、耐炎化有機繊維を得る工程を意味する。加熱処理温度は、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。また、330℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがさらに好ましい。上記温度範囲で加熱することにより、有機繊維が熱分解することなく炭素質繊維の形態を保持したまま有機繊維中の窒素、水素の含有率を低減し、炭素化率を向上することができる。耐炎化工程の際、有機繊維が熱収縮し分子配向が崩壊して、炭素質繊維の導電性が低下する場合があることから、有機繊維を緊張下ないし延伸下で耐炎化処理することが好ましく、緊張下で耐炎化処理することがより好ましい。
上記炭素化工程は、不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)、上記のようにして得られた耐炎化有機繊維を好ましくは1000℃以上2000℃以下の温度で加熱し、炭素質繊維を得る工程を意味する。加熱温度は、1100℃以上であることがより好ましく、1200℃以上であることがさらに好ましい。また、より好ましくは1900℃以下である。上記温度範囲で炭素化工程を行うことにより、有機繊維の炭素化が進行し、擬黒鉛結晶構造を有する炭素質繊維を得ることができる。
有機繊維は、それぞれ異なる結晶性を有するため、炭素化工程における加熱温度は、原料とする有機繊維の種類に応じて選択することができる。
例えば、有機繊維としてアクリル樹脂(好ましくはポリアクリロニトリル)を使用する場合、加熱温度は800℃以上2000℃以下であることが好ましく、1000℃以上1800℃以下であることがさらに好ましい。
前述した耐炎化工程および炭素化工程は、連続的に行うことが好ましく、耐炎化温度から炭素化温度へ昇温するときの昇温速度は、20℃/分以下であることが好ましく、より好ましくは15℃/分以下である。昇温速度を上記範囲とすることにより、有機繊維の形状を保持し、かつ機械的性質に優れた炭素質繊維を得ることができる。なお上記昇温速度の下限は、機械的性質などを考慮すると、5℃/分以上であることが好ましい。
なお、後記する炭素質材料(B)の欄で詳述するが、第1の電極材の電極材は、上記(2)に規定するように、炭素質繊維(A)および炭素質材料(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさを、それぞれ、Lc(A)およびLc(B)としたとき、Lc(B)/Lc(A)は1.0~10を満足する。よって第1の電極材では上記(2)を満足する限り、炭素質繊維(A)におけるLc(A)は特に限定されないが、炭素質繊維自身の耐酸化性などを考慮すると、1~10nmであることが好ましい。Lc(A)は、1~6nmであることがより好ましい。Lc(A)およびLc(B)の測定方法は後記する実施例の欄で詳述する。
[炭素質材料(B)]
第1の電極材において炭素質材料は、本来、結着し得ない炭素質繊維を強く結着させるための結着剤(バインダー)として添加されるものである。第1の電極材では、上記(1)に規定するように炭素質材料(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以上であり、且つ、上記(2)に規定するように、炭素質繊維(A)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)/Lc(A)は1.0以上を満足する必要がある。
これらの要件を満足する結着性且つ高結晶性の炭素質材料を用いることにより、炭素質繊維間が強く結着されて炭素質材料自体に高い耐酸化性が付与されるだけでなく、炭素質繊維表面が炭素質材料で被覆されるようになって、炭素質繊維の酸化劣化に対する保護効果も高められ、その結果、電極材全体の耐酸化性も向上する。
上記観点から、Lc(B)は12nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましい。なおLc(B)の上限は上記観点からは特に限定されないが、耐酸化性と低抵抗の両立などを考慮すると、おおむね、40nm以下であることが好ましい。
またLc(B)/Lc(A)の比が1.0を下回ると、上記効果が有効に発揮されない。上記の比は2以上が好ましく、3以上がより好ましい。一方、上記の比が10を超えると、低抵抗との両立が困難となる。上記の比は10以下が好ましく、8以下がより好ましい。
第1の電極材に用いられる炭素質材料(B)は、前述した炭素質繊維(A)および炭素質材料(B)の合計量に対する質量比率で、20%以上含まれていることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。このように炭素質材料の含有率を多くすることによって炭素質繊維を十分結着することができ、炭素質材料添加による上記効果が有効に発揮されて、特に耐酸化性が向上する。なお、その上限は、耐酸化性などの観点からは特に限定されないが、電解液の通液性などを考慮すると、おおむね、60%以下であることが好ましい。なお上記含有量の算出に用いる炭素質繊維(A)の含有量は、基材として不織布などの構造体を用いる場合は当該構造体の含有量である。
第1の電極材に用いられる炭素質材料(B)の種類は、炭素質繊維(A)を結着し得るものであれば良く、具体的には、第1の電極材作製時における炭化時に結着性を示すものであれば特に限定されない。このような例として、例えば、コールタールピッチ、石炭系ピッチ等のピッチ類;フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、エポキシド樹脂、フラン樹脂、ビニルエステル樹脂、メラニン-ホルムアルデヒド樹脂、尿素-ホルムアルデヒド樹脂、レソルシノール-ホルムアルデヒド樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリロニトリル等の樹脂;フルフリルアルコール;アクリロニトリル-ブタジエンゴム等のゴムなどが挙げられる。これらは市販品を用いても良い。
これらのうち、特に易結晶性であるコールタールピッチ、石炭系ピッチ等のピッチ類は、低い焼成温度で目的とする炭素質材料(B)が得られるため好ましい。また、ポリアクリロニトリル樹脂も、焼成温度を上げれば目的とする炭素質材料(B)が得られるため、好ましく用いられる。特に好ましいのはピッチ類である。
第1の電極材の好ましい態様によれば、フェノール樹脂を使用しないため、フェノール樹脂に伴う弊害(室温でのホルムアルデヒド発生およびホルムアルデヒド臭)は生じず、常温では臭気が発生しない等のメリットがある。これに対し、前述した特許文献4では接着剤としてフェノール樹脂を用いているため、上記弊害の他、作業場所におけるホルムアルデヒド濃度を管理濃度以下に制御するための設備が別途必要になる等、コスト面、作業面でのデメリットがある。
ここで、好ましく用いられるピッチ類について詳述する。前述したコールタールピッチや石炭系ピッチは、不融化処理の温度や時間によって、メソフェーズ相(液晶相)の含有率をコントロールすることができる。メソフェーズ相の含有率が低ければ、比較的低温で溶融、または室温で液体状態のものが得られる。一方、メソフェーズ相の含有率が高ければ、高温で溶融し、炭化収率の高いものが得られる。ピッチ類を炭素質材料(B)に適用する場合、メソフェーズ相の含有率が低い(すなわち炭化収率が低い)ことが好ましく、例えば10%以下が好ましい。ピッチ類の融点は200℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。これにより、上記効果が有効に発揮される。ピッチ類としては、ピッチ原料であるコールタールの使用が好ましい。
[I-2.第1の炭素電極材の特性]
第1の電極材は、炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上を満足する。以下、上記全炭素原子数に対する結合酸素原子数の比をO/Cで略記する場合がある。O/Cは、X線光電子分光法(XPS)や蛍光X線分析法などの表面分析にて測定できる。
O/Cが1.0%以上の電極材を用いることにより、電極反応速度を著しく高められるため、低抵抗が得られる。更にO/Cの制御により親水性も高められ、後記する電極材の通水速度(好ましくは0.5mm/sec以上)を確保することができる。これに対し、O/Cが1.0%未満の酸素濃度の低い電極材を用いると、放電時の電極反応速度が小さくなり、電極反応活性を高めることはできない。その結果、抵抗が増加する。このように電極材表面に酸素原子を多く結合させた電極材の使用により電極反応活性(換言すれば電圧効率)が高められる理由の詳細は明らかでないが、表面に多く存在する酸素原子が炭素質材料(B)と電解液との親和性、電子の授受、錯イオンの炭素質材料からの脱離、錯交換反応等に有効に作用しているためと考えられる。
第1の電極材は親水性に優れている。親水性は、上記電極材を乾式酸化処理後、水滴を垂らした時の通水速度によって確認することができる。第1の電極材の通水速度は、0.5mm/sec以上であることが好ましい。これにより、電解液に対する十分な親和性を有すると判断できる。上記電極材の通水速度は大きい程良く、より好ましくは1mm/sec以上、更に好ましくは5mm/sec以上、更により好ましくは10mm/sec以上である。
第1の電極材の目付量は、集電板1とイオン交換膜3に挟まれたスペーサー2の厚み(以下、「スペーサー厚み」と言う)を0.3~3mmで使用する場合、50~500g/m2が好ましく、100~400g/m2がより好ましい。目付を上記範囲内に制御することで、通液性を確保しつつ、イオン交換膜3の破損を防止することができる。特に、近年では低抵抗化の観点から、イオン交換膜3の厚みは薄くなる傾向にあり、イオン交換膜3へのダメージを軽減する処置及び使用方法は極めて重要である。また上記の観点から、第1の電極材として、片面に平坦加工が施された不織布や紙を基材として使用することもより好ましい。平坦加工方法は、公知の任意の方法を適用でき、例えばスラリーを炭素質繊維の片面に塗布、乾燥する方法;PETなどの平滑なフィルム上で含侵、乾燥するなどの手法が挙げられる。
第1の電極材の厚みは、少なくともスペーサー厚みより大きいことが好ましい。例えば炭素質繊維に不織布等のように密度の低いものを用い、これに第1の電極材に用いられる黒鉛粒子や結着性の炭素質材料を坦持した場合、スペーサー厚みの1.5~6.0倍が好ましい。しかしながら、厚みが厚すぎるとシート状物の圧縮応力によりイオン交換膜3を突き破ってしまうことがあるので、第1の電極材の圧縮応力が9.8N/cm2以下のものを使用するのが好ましい。第1の電極材の目付量・厚みに応じて、圧縮応力などを調整するために、第1の電極材を2層や3層など積層して用いることも可能である。或は、別の形態の電極材との組み合わせも可能である。
[I-3.第1の炭素電極材の製造方法]
次に、第1の電極材を製造する方法について説明する。第1の電極材は、炭素質繊維(基材)に炭素質材料の前駆体(炭化前のもの)を添着した後、炭素化工程、黒鉛化工程、酸化処理工程を経て製造することができる。各工程では、公知の方法を任意に適用することができる。
以下、各工程について説明する。
(炭素質繊維に炭素質材料の前駆体を添着する工程)
まず、炭素質繊維に炭素質材料の前駆体を添着させる。上記工程は、公知の方法を任意に採用できる。例えば上記の炭素質材料前駆体を加熱して溶融させ、得られた溶融液中に炭素質繊維を浸漬した後、室温まで冷却する手法が挙げられる。或は、上記の炭素質材料前駆体を水やアルコールなどの溶媒に分散、もしくはトルエンなどの溶媒に一部溶解、一部分散させ、この分散液に炭素質繊維を浸漬した後、加熱して乾燥する手法を用いることができる。
ここで、炭素質繊維を浸漬した上記溶融液、分散液や溶液のうち余分な液(ピックアップ量)は、所定のクリアランスを設けたニップローラーに通すことで添着後の製造物を絞ったり、或は、ドクターブレード等で添着後の製造物の表面をかきとる等の方法で除去することができる。
その後、空気雰囲気下、例えば80~150℃で乾燥する。
(炭素化工程)
炭素化工程は、上記工程で得られた添着後の製造物を焼成するために行なわれる。これにより、炭素質繊維間が結着されるようになる。炭素化工程では、炭化時の分解ガスを十分に除去することが好ましく、例えば、不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)、800℃以上2000℃以下の温度で加熱することが好ましい。加熱温度は1000℃以上がより好ましく、1200℃以上がさらに好ましく、1300℃以上がさらにより好ましく、また、1500℃以下がより好ましく、1400℃以下がさらに好ましい。
なお前述したとおり、上記炭素化工程に対応する処理を、繊維の耐炎化後にも行っても良いが、繊維の耐炎化後に行われる炭素化処理は省略しても良い。すなわち、第1の電極材を製造する方法は、下記方法1と方法2に大別される。
・方法1:繊維の耐炎化→繊維の炭素化→炭素質材料の添着→炭素化→黒鉛化→酸化
・方法2:繊維の耐炎化→炭素質材料の添着→炭素化→黒鉛化→酸化
上記方法1によれば、炭素化を2回行うため加工コストが上昇するものの、電極材として使用するシートは体積収縮比率の差による影響を受け難いため、得られるシートが変形(反り発生)し難いという利点がある。一方、上記方法2によれば、炭素化工程を1回行えば良いため加工コストを低減できるものの、各材料の炭素化時における体積収縮比率の差により得られるシートが変形し易くなる。上記方法1、2のいずれを採用するかは、これらを勘案して適宜決定すれば良い。
(黒鉛化工程)
黒鉛化工程は、炭素質材料の結晶性を十分に高め、高耐酸化性を発現するために行なわれる工程である。上記炭素化工程の後、さらに不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)で1800℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱することが好ましく、2000℃以上がより好ましい。なお、その上限は、設備への負荷などを考慮すると、3000℃以下が好ましい。
これに対し、前述した特許文献4では、上記黒鉛化工程を行っていない点で第1の電極材の製造方法と相違する。そのため、上記特許文献4の電極材は、第1の電極材における要件(炭素質材料(B)のLcが10nm以上)を満足しない。
(酸化処理工程)
上記黒鉛化工程の後、さらに酸化処理工程を行うことにより、電極材表面に、ヒドロキシル基、カルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの酸素官能基が導入されるようになる。その結果、前述したO/C比≧1%を達成することができる。これらの酸素官能基は電極反応に大きく寄与するため、十分に低い抵抗が得られる。また水の通水速度も高められる。
酸化処理工程は、例えば湿式の化学酸化、電解酸化、乾式酸化などの各種処理工程を適用できるが、加工性、製造コストの観点から乾式酸化処理工程が好ましい。乾式酸化処理工程は、空気雰囲気下、例えば500℃以上、900℃以下で加熱(酸化処理)する工程を意味する。上記酸素官能基の導入による効果を有効に発揮させるためには、上記加熱温度は、600℃以上がより好ましく、650℃以上がさらに好ましい。また、800℃以下がより好ましく、750℃以下がさらに好ましい。
更に乾式酸化処理工程では、電極材の機械的強度を維持する観点から、酸化処理前後の電極材の質量収率を90%以上、96%以下に調整することが好ましい。これは、例えば、乾式空気酸化の処理時間や温度を適宜調整するなどの方法により調整することができる。
[II.本発明に係る第2の炭素電極材]
[II-1.第2の炭素電極材の構成]
本発明者らは、特に、正極活物質にMnイオン、負極活物質にTiイオンなどを用いたMn-Ti系レドックスフロー電池に好ましく用いられる炭素電極材を提供するため、鋭意検討してきた。従来のV系レドックスフロー電池やFe-Cr系レドックスフロー電池と異なり、Mn-Ti系レドックスフロー電池では、Mnイオンに対する耐酸化性を有することが重要であるが、これまでに提案されている電極材は、この点について考慮されていない。そのため、従来の電極材をMn-Ti系レドックスフロー電池に用いると、耐酸化性と低抵抗の両立が困難であることが、本発明者らの検討結果によって判明した。
上記の炭素電極材を提供するに当たり、本発明者らは、まず反応性を示す粒子の要件を見直した。一般的に、レドックスフロー電池における反応活性を示す粒子としては、アセチレンブラック(アセチレンの煤)、オイルブラック(ファーネスブラック、オイルの煤)、ガスブラック(ガスの煤)などのカーボンブラック類;黒鉛化された煤、炭素繊維粉末、カーボンナノチューブ(CNT,carbon nanotube)、カーボンナノファイバー、カーボンエアロゲル、メソ多孔性炭素、ガラス状炭素粉末、活性化炭素、グラフェン、酸化グラフェン、NドープCNT、ホウ素ドープCNT、フラーレン、石油コークス、アセチレンコークス、無煙炭コークスなどの炭素粒子など、公知の炭素粒子が挙げられる。これらのうちカーボンブラック類のように反応性および比表面積が高く、低結晶性のものは、正極マンガンの充電液に対して容易に酸化されてしまい、使用できない。一方、CNTなどの炭素粒子のように単に炭素結晶性が高い粒子を用いただけでは、十分な反応活性を発現することができなかった。更にこれらは希少かつ高価であるため、安価な電極材として適切でない。
そこで本発明者らは、反応性を示す粒子として黒鉛粒子に着目し、黒鉛粒子(B)として、下記(1)および(2)の要件を満足する高結晶性の黒鉛粒子を採用することにした。
(1)粒径が1μm以上
(2)黒鉛粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)が35nm以上
これらの要件を満足する黒鉛粒子を用いれば、反応場としての炭素エッジ面を過不足なく露出させることができ、低抵抗と高耐酸化性の両立が可能となることが判明した。
更に炭素質材料(C)として、炭素質繊維(A)と黒鉛粒子(B)の両方を結着する結着性の炭素質材料であって、下記(3)および(4)の要件を満足する高結晶性の炭素質材料を採用することにした。
(3)X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(C)としたとき、Lc(C)は10nm以上
(4)炭素質繊維における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0以上
ここで「炭素質繊維(A)と黒鉛粒子(B)の両方を結着する」(換言すれば、第2の電極材に用いられる炭素質材料は炭素質繊維と黒鉛粒子の結着剤として作用する)とは、当該炭素質材料によって炭素質繊維および黒鉛粒子の表面および内部(炭素質繊維間、黒鉛粒子同士を含む)が強く結着されて、電極材全体としてみた場合に当該炭素質材料により炭素質繊維が被覆されつつ、黒鉛粒子の表面が露出しているように構成されていることを意味する。
但し、結着後の炭素質材料は被膜状態にならないことが好ましい。ここで「被膜状態にならない」とは、炭素質繊維(A)の繊維間において炭素質材料(C)が全蹼足(ボクソク)や蹼足のような水かき状態を形成しないことを意味する。被膜状態を形成した場合、電解液の通液性が悪化し、上記黒鉛粒子の反応表面積を有効利用できないためである。
参考のため、図3に、第2の電極材において炭素質繊維(A)と黒鉛粒子(B)の両方が結着された状態を示すSEM写真を示す。この図3は、後記する実施例3において、表3AのNo.1(第2の電極材の要件を満たす本発明例)のSEM写真(倍率100倍)である。図3より、炭素質材料(C)によって炭素質繊維(A)および黒鉛粒子(B)の表面および内部が強く結着されて、当該炭素質材料(C)により炭素質繊維(A)が被覆されつつ、黒鉛粒子(B)の表面が露出していることが分る。
一方、図4は、第2の電極材において炭素質繊維(A)と黒鉛粒子(B)の両方が結着されていない状態を示すSEM写真である。この図4は、後記する実施例3において、表3AのNo.13(第2の電極材の要件を満たさない比較例)のSEM写真(倍率100倍)である。
このような結着状態を得るためには、炭素質繊維と黒鉛粒子と炭素質材料の合計量に対する炭素質材料の含有比率を多くすることが好ましく、第2の電極材では、例えば20%以上とする。この点で、第2の電極材における炭素質材料は、前述した特許文献4に記載の炭素質材料とは相違する。特許文献4では、炭素質繊維と炭素微粒子とが元々接触していた部分のみを固定(接着)できれば良いという発想のもと、使用する炭素質材料は部分的な接着剤としての作用が発揮されれば良いとの認識しかないからである。そのため、特許文献4の実施例では、炭素質材料の含有率はせいぜい14.4%である。
このような結着性の炭素質材料を用いれば、炭素質材料が黒鉛粒子を介して炭素質繊維間などを強く結着するため、効率的な導電パスを形成でき、前述した黒鉛粒子添加による作用が一層有効に発揮されて、低抵抗と高耐酸化性の両方を達成できることが判明した。
更に上記(3)、(4)の高結晶性の炭素質材料を用いることにより、炭素質材料自体に高耐酸化性が付与されるだけでなく、炭素質繊維の酸化劣化に対する保護効果も高められることが判明した。前述した特許文献4では、特に上記(3)について全く考慮していないため、所望とする耐酸化性が得られないと考える。
更に第2の炭素電極材は下記(5)の要件を満足する。
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上
これにより、炭素のエッジ面や欠陥構造部に酸素原子を導入することができる。その結果、電極材の表面では、導入された酸素原子がカルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの反応基として生成されるため、これらの反応基が電極反応に大きく寄与し、十分な低抵抗を得ることが出来る。
第2の電極材は上記のように構成されているため、高耐酸化性を維持しつつ反応活性を高め、低抵抗かつ長寿命な電極が得られる。特に、正極マンガン系レドックスフロー電池の電解槽用電極材として用いた場合、初期充放電時のセル抵抗を低下させ、電池エネルギー効率を向上させることが可能であり、正極充電液に対する耐酸化性に優れた炭素電極材の提供が可能となる。
前述したとおり第2の電極材5は、炭素質繊維(A)を基材とし、黒鉛粒子(B)を高結晶な炭素質材料(C)で坦持する電極材であり、上記(1)~(5)の要件を満足する。各要件の詳細は以下のとおりである。
[炭素質繊維(A)]
第2の電極材に用いられる炭素質繊維は、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理(詳細は後述する。)して得られる繊維であって、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維を意味する(JIS L 0204-2)。炭素質繊維の原料となる有機繊維のプレカーサーとしては、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維;フェノール繊維;ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)等のPBO繊維;芳香族ポリアミド繊維;等方性ピッチ、異方性ピッチ繊維、メソフェーズピッチ等のピッチ繊維;セルロース繊維;等を使用することができる。中でも、耐酸化性に優れ、強度・弾性率に優れる等の観点から、有機繊維のプレカーサーとしては、アクリル繊維、フェノール繊維、セルロース繊維、等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維が好ましく、アクリル繊維がより好ましい。アクリル繊維は、アクリロニトリルを主成分として含有するものであれば特に限定されないが、アクリル繊維を形成する原料単量体中、アクリロニトリルの含有量が95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。
有機繊維の質量平均分子量は、特に限定されないが、10000以上、100000以下であることが好ましく、15000以上、80000以下であることがより好ましく、20000以上、50000以下であることがさらに好ましい。質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)や溶液粘度などの方法によって測定することができる。
炭素質繊維の平均繊維径は0.5~40μmであることが好ましい。平均繊維径が0.5μmより小さいと通液性が悪化してしまう。一方、平均繊維径が40μmよりも大きいと繊維部の反応表面積が低下してセル抵抗が高くなってしまう。通液性および反応表面積のバランスを考慮すると、より好ましくは3~20μmである。
第2の電極材では、上記炭素質繊維の構造体を基材として用いることが好ましく、これにより、強度が向上し、取扱いや加工性が容易になる。上記構造体として、具体的には、炭素質繊維よりなるシート状物である紡績糸、フィラメント集束糸、不織布、編物、織物、特開昭63-200467号公報などに記載の特殊編織物または炭素繊維からなる紙などを挙げることができる。これらのうち、炭素質繊維よりなる不織布、編物、織物、特殊織編物、及び炭素繊維からなる紙が、取り扱いや加工性、製造性等の点からより好ましい。
ここで不織布、編物、織物などを用いる場合、平均繊維長は30~100mmが好ましい。また炭素繊維からなる紙を用いる場合、平均繊維長は5~30mmが好ましい。上記の範囲内とすることで、均一な繊維構造体が得られる。
前述したように上記炭素質繊維は、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理して得られるが、上記「加熱炭素化処理」は、少なくとも、耐炎化工程、および炭素化(焼成)工程を含むことが好ましい。但し、これらのうち炭素化工程は、必ずしも上記のように耐炎化工程の後に行う必要はなく、後記する実施例に記載のように耐炎化された繊維に黒鉛粒子および炭素質材料を添着した後に炭素化工程を行っても良く、この場合は耐炎化工程後の炭素化工程を省略することができる。
このうち上記耐炎化工程は、空気雰囲気下、有機繊維のプレカーサーを好ましくは180℃以上350℃以下の温度で加熱し、耐炎化有機繊維を得る工程を意味する。加熱処理温度は、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。また、330℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがさらに好ましい。上記温度範囲で加熱することにより、有機繊維が熱分解することなく炭素質繊維の形態を保持したまま有機繊維中の窒素、水素の含有率を低減し、炭素化率を向上することができる。耐炎化工程の際、有機繊維が熱収縮し分子配向が崩壊して、炭素質繊維の導電性が低下する場合があることから、有機繊維を緊張下ないし延伸下で耐炎化処理することが好ましく、緊張下で耐炎化処理することがより好ましい。
上記炭素化工程は、不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)、上記のようにして得られた耐炎化有機繊維を好ましくは1000℃以上2000℃以下の温度で加熱し、炭素質繊維を得る工程を意味する。加熱温度は、1100℃以上であることがより好ましく、1200℃以上であることがさらに好ましい。また、より好ましくは1900℃以下である。上記温度範囲で炭素化工程を行うことにより、有機繊維の炭素化が進行し、擬黒鉛結晶構造を有する炭素質繊維を得ることができる。
有機繊維は、それぞれ異なる結晶性を有するため、炭素化工程における加熱温度は、原料とする有機繊維の種類に応じて選択することができる。例えば、有機繊維としてアクリル樹脂(好ましくはポリアクリロニトリル)を使用する場合、加熱温度は800℃以上2000℃以下であることが好ましく、1000℃以上1800℃以下であることがさらに好ましい。
前述した耐炎化工程および炭素化工程は、連続的に行うことが好ましく、耐炎化温度から炭素化温度へ昇温するときの昇温速度は、20℃/分以下であることが好ましく、より好ましくは15℃/分以下である。昇温速度を上記範囲とすることにより、有機繊維の形状を保持し、かつ機械的性質に優れた炭素質繊維を得ることができる。なお上記昇温速度の下限は、機械的性質などを考慮すると、5℃/分以上であることが好ましい。
なお、後記する炭素質材料(C)の欄で詳述するが、第2の電極材は、上記(4)に規定するように、炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさを、それぞれ、Lc(A)およびLc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0以上を満足する。よって第2の電極材では上記(4)を満足する限り、炭素質繊維(A)におけるLc(A)は特に限定されないが、1~15nmであることが好ましい。これにより、適度な電子伝導性、硫酸溶媒などに対する耐酸化性、酸素官能基が付与し易いなどの作用が有効に発揮される。Lc(A)は、2~10nmであることがより好ましい。Lc(A)の測定方法は後記する実施例の欄で詳述する。
[黒鉛粒子(B)]
第2の電極材において黒鉛粒子は、酸化還元による価数の変化(反応性)を高めて高耐酸化性を得るために必要である。反応場である炭素エッジ面は、高反応性を発現するのに必要であるが、過剰なエッジ面の露出は耐酸化性の低下を招く。本発明者らの検討結果によれば、黒鉛粒子について、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)の値が炭素エッジ面の露出度と相関していることを見出した。具体的には上記(2)に規定するようにLc(B)は35nm以上であり、好ましくは37nm以上である。これにより、反応場としての炭素エッジ面を過不足なく露出させることができ、低抵抗と高耐酸化性の両立が可能となる。上記値の上限は上記観点からは特に限定されないが、耐酸化性と低抵抗のバランスなどを考慮すると、おおむね、50nm以下であることが好ましい。
黒鉛粒子は、一般に天然黒鉛と人造黒鉛に大別される。天然黒鉛として、例えば鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛、球状黒鉛、薄片化黒鉛などが挙げられ、人造黒鉛として、例えば膨張黒鉛、酸化黒鉛などが挙げられる。第2の電極材では、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれも用いることができるが、これらのうち、酸化黒鉛、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛、薄片化黒鉛、膨張黒鉛は、反応場としての炭素エッジ面を有することから好ましい。中でも、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、膨張黒鉛は炭素エッジ面の露出が非常に大きく低抵抗が得られるだけでなく、低コストかつ資源量が豊富なため、より好ましい。これらの鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、膨張黒鉛は単独で添加しても良いし、2種以上を混合して用いても良い。ここで鱗片状黒鉛とは外観が葉片状のものを意味する。鱗片状黒鉛は、鱗状黒鉛(形状が塊状であり、塊状黒鉛と呼ばれる場合がある)と相違する。
上記(1)に規定するように第2の電極材に用いられる黒鉛粒子(B)の粒径は、1μm以上であり、3μm以上が好ましい。粒径が1μm未満になると、炭素質材料に埋没する比率が多くなり、かつ、少量ではあるが黒鉛粒子が表面に現れるため炭素質材料の比表面積が増えすぎてしまう。その結果、黒鉛粒子(B)添加による耐酸化性向上効果が有効に発揮されず、耐酸化性が低下する傾向にある。
ここで、炭素質材料の比表面積が大きくなると、耐酸化性向上効果が有効に発揮されない理由は以下のように推察される。
通常、黒鉛粒子が埋没すると、トレードオフで抵抗は高くなるものの耐久性も高くなると予想されるが、実際は抵抗が高く耐久性が低い結果となる。これは、黒鉛粒子の埋没により黒鉛粒子の添加効果が有効に発揮されずに高抵抗化し、炭素質材料(バインダー)が黒鉛粒子を被覆することで、炭素質材料の高比表面積化も招く結果、耐久性が低下すると推察される。
ここで「粒径」とは、動的光散乱法などで得られた粒径分布におけるメジアン50%径での平均粒径(D50)を意味する。黒鉛粒子は市販品を用いてもよく、その場合、カタログ記載の粒径を採用できる。
第2の電極材に用いられる黒鉛粒子は、前述した炭素質繊維(A)、黒鉛粒子(B)、後記する炭素質材料(C)の合計量に対する質量比率で、20%以上含まれていることが好ましく、25%以上であることがより好ましい。これにより、黒鉛粒子添加による上記効果が有効に発揮されて、特に耐酸化性が向上する。なお、その上限は、耐酸化性などの観点からは特に限定されないが、耐酸化性と低抵抗のバランスなどを考慮すると、おおむね、60%以下であることが好ましい。なお上記含有量の算出に用いる炭素質繊維(A)の含有量は、基材として不織布などの構造体を用いる場合は当該構造体の含有量である。
第2の電極材において、黒鉛粒子(B)に対する、後記する炭素質材料(C)の質量比は、0.2以上3.0以下であることが好ましく、0.3以上2.5以下であることがより好ましい。上記の比が0.2未満では、黒鉛粒子の脱落が多くなり、黒鉛添加による特に耐酸化性向上効果が有効に発揮されない。一方、上記の比が3.0を超えると、反応場である黒鉛粒子の炭素エッジ面が被覆されてしまい、所望とする低抵抗が得られなくなる。
第2の電極材に用いられる黒鉛粒子(B)の、窒素吸着量から求められるBET比表面積は、3~20m2/gが好ましく、5~15m2/gがより好ましい。BET比表面積が3m2/g未満になると、黒鉛粒子(B)のエッジ面の露出が減ってしまうため、所望とする低抵抗が得られなくなる。一方、BET比表面積が20m2/g以上になると、比表面積が増えすぎて黒鉛粒子(B)添加による耐酸化性向上効果が有効に発揮されず、耐酸化性が低下する傾向にある。ここで上記「窒素吸着量から求められるBET比表面積」は、気体分子を固体粒子に吸着させ、吸着した気体分子の量から算出される比表面積を意味する。
[炭素質材料(C)]
第2の電極材に用いられる炭素質材料は、本来、結着し得ない炭素質繊維と黒鉛粒子とを強く結着させるための結着剤(バインダー)として添加されると共に、耐酸化性に劣る炭素質繊維を保護する作用を有する。第2の電極材では、上記(3)に規定するように炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(C)としたとき、Lc(C)は10nm以上であり、且つ、上記(4)に規定するように、炭素質繊維(A)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0以上を満足する必要がある。
これらの要件を全て満足する結着性の炭素質材料を用いることにより、炭素質材料(C)自体に高い耐酸化性が付与されるだけでなく、炭素質繊維が高結晶な炭素質材料(C)で被覆されるようになって、炭素質繊維の酸化劣化に対する保護効果も高められ、その結果、電極材全体の耐酸化性も向上する。
上記観点から、Lc(C)は10nm以上であることが好ましく、12nm以上であることがより好ましい。なおLc(C)の上限は上記観点からは特に限定されないが、耐酸化性と低抵抗の両立などを考慮すると、おおむね、40nm以下であることが好ましい。
またLc(C)/Lc(A)の比が1.0を下回ると、上記効果が有効に発揮されない。上記の比は2以上が好ましく、3以上がより好ましい。一方、上記の比が10を超えると、低抵抗との両立が困難になる。上記の比は、8以下が好ましい。
第2の電極材に用いられる炭素質材料(C)は、前述した炭素質繊維(A)および黒鉛粒子(B)、炭素質材料(C)の合計量に対する質量比率で、20%以上含まれていることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。このように炭素質材料の含有率を多くすることによって炭素質繊維および黒鉛粒子の両方を十分結着することができ、炭素質材料添加による上記効果が有効に発揮されて、特に耐酸化性が向上する。なお、その上限は、耐酸化性などの観点からは特に限定されないが、通液圧損などを考慮すると、おおむね、60%以下であることが好ましい。より好ましくは50%以下である。
第2の電極材に用いられる炭素質材料(C)の種類は、炭素質繊維(A)および黒鉛粒子(B)を結着し得るものであれば良く、具体的には、第2の電極材作製時における炭化時に結着性を示すものであれば特に限定されない。このような例として、例えば、コールタールピッチ、石炭系ピッチ等のピッチ類;フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、エポキシド樹脂、フラン樹脂、ビニルエステル樹脂、メラニン-ホルムアルデヒド樹脂、尿素-ホルムアルデヒド樹脂、レソルシノール-ホルムアルデヒド樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリロニトリル等の樹脂;フルフリルアルコール;アクリロニトリル-ブタジエンゴム等のゴムなどが挙げられる。これらは市販品を用いても良い。
これらのうち、特に易結晶性であるコールタールピッチ、石炭系ピッチ等のピッチ類は、低い焼成温度で目的とする炭素質材料(C)が得られるため好ましい。また、ポリアクリロニトリル樹脂も、焼成温度を上げれば目的とする炭素質材料(C)が得られるため、好ましく用いられる。特に好ましいのはピッチ類である。
第2の電極材の好ましい態様によれば、フェノール樹脂を使用しないため、フェノール樹脂に伴う弊害(室温でのホルムアルデヒド発生およびホルムアルデヒド臭)は生じず、常温では臭気が発生しない等のメリットがある。これに対し、前述した特許文献4では接着剤としてフェノール樹脂を用いているため、上記弊害の他、作業場所におけるホルムアルデヒド濃度を管理濃度以下に制御するための設備が別途必要になる等、コスト面、作業面でのデメリットがある。
ここで、特に好ましく用いられるピッチ類について詳述する。前述したコールタールピッチや石炭系ピッチは、不融化処理の温度や時間によって、メソフェーズ相(液晶相)の含有率をコントロールすることができる。メソフェーズ相の含有量が少なければ、比較的低温で溶融、または室温で液体状態のものが得られる。一方、メソフェーズ相の含有率が高ければ、高温で溶融し、炭化収率の高いものが得られる。ピッチ類を炭素質材料(C)に適用する場合、メソフェーズ相の含有率が高い(すなわち炭化率が高い)ことが好ましく、例えば30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。これにより、溶融時の流動性を抑え、黒鉛粒子の表面を過剰に被覆することなく、黒鉛粒子を介して炭素質繊維間を結着することができる。なお、その上限は、結着性の発現などを考慮すると、例えば90%以下であることが好ましい。
上記と同様の観点から、ピッチ類の融点は、100℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。これにより、上記効果が得られる他、添着加工時の臭気を抑えることができ、加工性の面でも好ましい。なお、その上限は、結着性の発現などを考慮すると、例えば350℃以下であることが好ましい。
[II-2.第2の炭素電極材の特性]
第2の電極材は、炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上を満足する。以下、上記全炭素原子数に対する結合酸素原子数の比をO/Cで略記する場合がある。O/Cは、X線光電子分光法(XPS)や蛍光X線分析法などの表面分析にて測定できる。
O/Cが1.0%以上の電極材を用いることにより、電極反応速度を著しく高められるため、低抵抗が得られる。更にO/Cの制御により親水性も高められ、後記する電極材の通水速度(好ましくは0.5mm/sec以上)を確保することができる。これに対し、O/Cが1.0%未満の酸素濃度の低い電極材を用いると、放電時の電極反応速度が小さくなり、電極反応活性を高めることはできない。その結果、抵抗が増加する。このように電極材表面に酸素原子を多く結合させた電極材の使用により電極反応活性(換言すれば電圧効率)が高められる理由の詳細は明らかでないが、表面に多く存在する酸素原子が炭素質材料(C)と電解液との親和性、電子の授受、錯イオンの炭素質材料からの脱離、錯交換反応等に有効に作用しているためと考えられる。
第2の電極材は親水性に優れている。親水性は、上記電極材を乾式酸化処理後、水滴を垂らした時の通水速度によって確認することができる。第2の電極材の通水速度は、0.5mm/sec以上であることが好ましい。これにより、電解液に対する十分な親和性を有すると判断できる。上記電極材の通水速度は大きい程良く、より好ましくは1mm/sec以上、更に好ましくは5mm/sec以上、更により好ましくは10mm/sec以上である。
第2の電極材の目付量は、集電板1とイオン交換膜3に挟まれたスペーサー2の厚み(以下、「スペーサー厚み」と言う)を0.3~3mmで使用する場合、50~500g/m2が好ましく、100~400g/m2がより好ましい。目付を上記範囲内に制御することで、通液性を確保しつつ、イオン交換膜3の破損を防止することができる。特に、近年では低抵抗化の観点から、イオン交換膜3の厚みは薄くなる傾向にあり、イオン交換膜3へのダメージを軽減する処置及び使用方法は極めて重要である。また上記の観点から、第2の電極材として、片面に平坦加工が施された不織布や紙を基材として使用することもより好ましい。平坦加工方法は、公知の任意の方法を適用でき、例えばスラリーを炭素質繊維の片面に塗布、乾燥する方法;PETなどの平滑なフィルム上で含侵、乾燥するなどの手法が挙げられる。
第2の電極材の厚みは、少なくともスペーサー厚みより大きいことが好ましい。例えば炭素質繊維に不織布等のように密度の低いものを用い、これに第2の電極材に用いられる黒鉛粒子や結着性の炭素質材料を坦持した場合、スペーサー厚みの1.5~6.0倍が好ましい。しかしながら、厚みが厚すぎるとシート状物の圧縮応力によりイオン交換膜3を突き破ってしまうことがあるので、第2の電極材の圧縮応力が9.8N/cm2以下のものを使用するのが好ましい。第2の電極材の目付量・厚みに応じて、圧縮応力などを調整するために、第2の電極材を2層や3層など積層して用いることも可能である。或は、別の形態の電極材との組み合わせも可能である。
第2の電極材の、窒素吸着量から求められるBET比表面積は1.0~8m2/gが好ましく、1.5~6m2/gがより好ましい。BET比表面積が1.0m2/g未満になると、黒鉛粒子(B)のエッジ面の露出が減ってしまうため、所望とする低抵抗が得られなくなる。一方、BET比表面積が8m2/gを超えると、比表面積が増えすぎて黒鉛粒子(B)添加による耐酸化性向上効果が有効に発揮されず、耐酸化性が低下する傾向にある。
[II-3.第2の炭素電極材の製造方法]
次に、第2の電極材を製造する方法について説明する。第2の電極材は、炭素質繊維(基材)に黒鉛粒子、および炭素質材料の前駆体(炭化前のもの)を添着した後、炭素化工程、黒鉛化工程、酸化処理工程を経て製造することができる。各工程では、公知の方法を任意に適用することができる。
以下、各工程について説明する。
(炭素質繊維に黒鉛粒子、および炭素質材料の前駆体を添着する工程)
まず、炭素質繊維に黒鉛粒子および炭素質材料の前駆体を添着させる。炭素質繊維に黒鉛粒子及び炭素質材料の前駆体を添着させるには、公知の方法を任意に採用できる。例えば上記の炭素質材料前駆体を加熱して溶融させ、得られた溶融液中に黒鉛粒子を分散させ、この溶融分散液に炭素質繊維を浸漬した後、室温まで冷却する手法が挙げられる。或は、後記する実施例に示すように、上記の炭素質材料前駆体と黒鉛粒子を、ポリビニルアルコールなどのように炭化時に消失するバインダー(仮接着剤)を添加した水やアルコールなどの溶媒に分散させ、この分散液に炭素質繊維を浸漬した後、加熱して乾燥する手法を用いることができる。ここで、炭素質繊維を浸漬した上記溶融分散液や分散液のうち余分な液は、所定のクリアランスを設けたニップローラーに通すことで分散液に浸漬した際の余分な分散液を絞ったり、或は、ドクターブレード等で分散液に浸漬した際の余分な分散液の表面をかきとる等の方法で除去することができる。
その後、空気雰囲気下、例えば80~150℃で乾燥する。
(炭素化工程)
炭素化工程は、上記工程で得られた添着後の製造物を焼成するために行なわれる。これにより、黒鉛粒子を介して炭素質繊維間が結着されるようになる。炭素化工程では、炭化時の分解ガスを十分に除去することが好ましく、例えば、不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)、800℃以上2000℃以下の温度で加熱することが好ましい。加熱温度は1000℃以上がより好ましく、1200℃以上がさらに好ましく、1300℃以上がさらにより好ましく、また、1500℃以下がより好ましく、1400℃以下がさらに好ましい。
なお前述したとおり、上記炭素化工程に対応する処理を、繊維の耐炎化後にも行っても良いが、繊維の耐炎化後に行われる炭素化処理は省略しても良い。すなわち、第2の電極材を製造する方法は、下記方法1と方法2に大別される。
・方法1:繊維の耐炎化→繊維の炭素化→黒鉛粒子および炭素質材料の添着→炭素化→黒鉛化→酸化
・方法2:繊維の耐炎化→黒鉛粒子および炭素質材料の添着→炭素化→黒鉛化→酸化
上記方法1によれば、炭素化を2回行うため加工コストが上昇するものの、電極材として使用するシートは体積収縮比率の差による影響を受け難いため、得られるシートが変形(反り発生)し難いという利点がある。一方、上記方法2によれば、炭素化工程を1回行えば良いため加工コストを低減できるものの、各材料の炭素化時における体積収縮比率の差により得られるシートが変形し易くなる。上記方法1、2のいずれを採用するかは、これらを勘案して適宜決定すれば良い。
(黒鉛化工程)
黒鉛化工程は、炭素質材料の結晶性を十分に高め、高耐酸化性を発現するために行なわれる工程である。上記炭素化工程の後、さらに不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)で、1800℃以上の温度であって、上記炭素化工程における加熱温度よりも高い温度で加熱することが好ましく、2000℃以上がより好ましい。なお、その上限は、設備への負荷などを考慮すると、3000℃以下が好ましい。
これに対し、前述した特許文献4では、上記黒鉛化工程を行っていない点で第2の電極材の製造方法と相違する。そのため、上記特許文献4の電極材は、第2の電極材における要件[炭素質材料(C)のLcが10nm以上]を満足しない。
(酸化処理工程)
上記黒鉛化工程の後、さらに酸化処理工程を行うことにより、電極材表面に、ヒドロキシル基、カルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの酸素官能基が導入されるようになる。その結果、前述したO/C比≧1%を達成することができる。これらの酸素官能基は電極反応に大きく寄与するため、十分に低い抵抗が得られる。また水の通水速度も高められる。
酸化処理工程は、例えば湿式の化学酸化、電解酸化、乾式酸化などの各種処理工程を適用できるが、加工性、製造コストの観点から乾式酸化処理工程が好ましい。乾式酸化処理工程は、空気雰囲気下、例えば500℃以上、900℃以下で加熱(酸化処理)する工程を意味する。上記酸素官能基の導入による効果を有効に発揮させるためには、上記加熱温度は、600℃以上がより好ましく、650℃以上がさらに好ましい。また、800℃以下がより好ましく、750℃以下がさらに好ましい。
更に乾式酸化処理工程では、電極材の機械的強度を維持する観点から、酸化処理前後の電極材の質量収率を90%以上、96%以下に調整することが好ましい。これは、例えば、乾式空気酸化の処理時間や温度を適宜調整するなどの方法により調整することができる。
[III.本発明に係る第3の炭素電極材]
[III-1.第3の炭素電極材の構成]
本発明者らは、初期充放電時のセル抵抗が低減された炭素電極材を提供するに当たり、黒鉛粒子以外の炭素粒子を用いて検討を行なった。その結果、粒径が小さく、且つ、低結晶性の炭素粒子を用いれば、反応表面積が大きくなり、酸素官能基が付与され易くなって反応活性が上昇し、低抵抗が得られることが判明した。
具体的には第3の炭素電極材では、黒鉛粒子以外の炭素粒子として、下記(1)および(2)の要件を満足する炭素粒子を採用することにした。
(1)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の粒径は1μm以下
(2)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以下
上記(1)のように粒径の小さい炭素粒子を用いると反応表面積が大きくなり、低抵抗化が可能である。更に上記(2)のように低結晶性の炭素粒子は酸素官能基が導入され易く反応活性が向上するため、更なる低抵抗化が可能である。
更に第3の炭素電極材では炭素質材料(C)として、炭素質繊維(A)と黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の両方を結着する結着性の炭素質材料であって、下記(3)の要件を満足する、炭素質繊維(A)に対して高結晶性の炭素質材料を、下記(4)の範囲内で用いることにした。
(3)炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)、Lc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5
(4)炭素質繊維(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、および炭素質材料(C)の合計量に対する前記炭素質材料(C)の質量含有率は14.5%以上
ここで「炭素質繊維(A)と黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の両方を結着する」(換言すれば、第3の炭素電極材に用いられる炭素質材料は炭素質繊維と黒鉛粒子以外の炭素粒子の結着剤として作用する)とは、当該炭素質材料によって炭素質繊維および黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面および内部(炭素質繊維間、黒鉛粒子以外の炭素粒子同士を含む)が強く結着されて、電極材全体としてみた場合に当該炭素質材料により炭素質繊維が被覆されつつ、黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面が露出しているように構成されていることを意味する。
但し、結着後の炭素質材料は被膜状態にならないことが好ましい。ここで「被膜状態にならない」とは、炭素質繊維(A)の繊維間において炭素質材料(C)が全蹼足(ボクソク)や蹼足のような水かき状態を形成しないことを意味する。被膜状態を形成した場合、電解液の通液性が悪化し、上記炭素粒子の反応表面積を有効利用できないためである。
ここで前述した特許文献4との違いについて説明する。炭素質材料は黒鉛粒子以外の炭素粒子を介して炭素質繊維間などを強く結着するため、炭素粒子と炭素質繊維の効率的な導電パスを形成する。炭素質繊維と黒鉛粒子以外の炭素粒子と炭素質材料の合計量に対する炭素質材料の含有比率を多くすることが導電パスの形成には必要であり、そのため第3の炭素電極材では上記含有率を14.5%以上とする。これに対し、前述した特許文献4の実施例では炭素質材料の含有率がせいぜい14.4%であって第3の炭素電極材より少なく、この点で、両者は相違する。そもそも特許文献4では、炭素質繊維と炭素微粒子とが元々接触していた部分のみを固定(接着)できれば良いという発想のもと、使用する炭素質材料は部分的な接着剤としての作用が発揮されれば良いとの認識しかないからである。さらに、特許文献4では結着する炭素質材料の結晶性について具体的に明記されていないが、優れた導電パスを形成するには第3の電極材のように炭素質繊維に対して結晶性が高い炭素質材料を用いると電子伝導性が高まるため、より効率的な電子移動が可能となる。
更に第3の炭素電極材は下記(5)の要件を満足する。
(5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上
これにより、炭素のエッジ面や欠陥構造部に酸素原子を導入することができる。その結果、電極材の表面では、導入された酸素原子がカルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの反応基として生成されるため、これらの反応基が電極反応に大きく寄与し、十分な低抵抗を得ることが出来る。
第3の電極材は上記のように構成されているため、反応活性が高められて低抵抗かつ安価な電極が得られる。
前述したとおり第3の電極材5は、炭素質繊維(A)を基材とし、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)を高結晶な炭素質材料(C)で坦持する電極材であり、上記(1)~(5)の要件を満足する。各要件の詳細は以下のとおりである。
[炭素質繊維(A)]
第3の電極材に用いられる炭素質繊維は、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理(詳細は後述する。)して得られる繊維であって、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維を意味する(JIS L 0204-2)。炭素質繊維の原料となる有機繊維のプレカーサーとしては、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維;フェノール繊維;ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)等のPBO繊維;芳香族ポリアミド繊維;等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維、メソフェーズピッチ等のピッチ繊維;セルロース繊維;等を使用することができる。中でも、強度・弾性率に優れる等の観点から、有機繊維のプレカーサーとしては、アクリル繊維、フェノール繊維、セルロース繊維、等方性ピッチ繊維、異方性ピッチ繊維が好ましく、アクリル繊維がより好ましい。アクリル繊維は、アクリロニトリルを主成分として含有するものであれば特に限定されないが、アクリル繊維を形成する原料単量体中、アクリロニトリルの含有量が95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。
有機繊維の質量平均分子量は、特に限定されないが、10000以上、100000以下であることが好ましく、15000以上、80000以下であることがより好ましく、20000以上、50000以下であることがさらに好ましい。質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)や溶液粘度などの方法によって測定することができる。
炭素質繊維の平均繊維径は0.5~40μmであることが好ましい。平均繊維径が0.5μmより小さいと通液性が悪化してしまう。一方、平均繊維径が40μmよりも大きいと繊維部の反応表面積が低下し、セル抵抗が高くなってしまう。通液性および反応表面積のバランスを考慮すると、より好ましくは3~20μmである。
第3の電極材では、上記炭素質繊維の構造体を基材として用いることが好ましく、これにより、強度が向上し、取扱いや加工性が容易になる。上記構造体として、具体的には、炭素質繊維よりなるシート状物である紡績糸、フィラメント集束糸、不織布、編物、織物、特開昭63-200467号公報などに記載の特殊編織物または炭素繊維からなる紙などを挙げることができる。これらのうち、炭素質繊維よりなる不織布、編物、織物、特殊織編物、及び炭素繊維からなる紙が、取扱いや加工性、製造性等の点からより好ましい。
ここで不織布、編物、織物などを用いる場合、平均繊維長は30~100mmが好ましい。また炭素繊維からなる紙を用いる場合、平均繊維長は5~30mmが好ましい。上記の範囲内とすることで、均一な繊維構造体が得られる。
前述したように上記炭素質繊維は、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理して得られるが、上記「加熱炭素化処理」は、少なくとも、耐炎化工程、および炭素化(焼成)工程を含むことが好ましい。但し、これらのうち炭素化工程は、必ずしも上記のように耐炎化工程の後に行う必要はなく、後記する実施例に記載のように耐炎化された繊維に黒鉛粒子および炭素質材料を添着した後に炭素化工程を行っても良く、この場合は耐炎化工程後の炭素化工程を省略することができる。
このうち上記耐炎化工程は、空気雰囲気下、有機繊維のプレカーサーを好ましくは180℃以上350℃以下の温度で加熱し、耐炎化有機繊維を得る工程を意味する。加熱処理温度は、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。また、330℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがさらに好ましい。上記温度範囲で加熱することにより、有機繊維が熱分解することなく炭素質繊維の形態を保持したまま有機繊維中の窒素、水素の含有率を低減し、炭素化率を向上することができる。耐炎化工程の際、有機繊維が熱収縮し分子配向が崩壊して、炭素質繊維の導電性が低下する場合があることから、有機繊維を緊張下ないし延伸下で耐炎化処理することが好ましく、緊張下で耐炎化処理することがより好ましい。
上記炭素化工程は、不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)、上記のようにして得られた耐炎化有機繊維を好ましくは1000℃以上2000℃以下の温度で加熱し、炭素質繊維を得る工程を意味する。加熱温度は、1100℃以上であることがより好ましく、1200℃以上であることがさらに好ましい。また、より好ましくは1900℃以下である。上記温度範囲で炭素化工程を行うことにより、有機繊維の炭素化が進行し、擬黒鉛結晶構造を有する炭素質繊維を得ることができる。
有機繊維は、それぞれ異なる結晶性を有するため、炭素化工程における加熱温度は、原料とする有機繊維の種類に応じて選択することができる。例えば、有機繊維としてアクリル樹脂(好ましくはポリアクリロニトリル)を使用する場合、加熱温度は800℃以上2000℃以下であることが好ましく、1000℃以上1800℃以下であることがさらに好ましい。
前述した耐炎化工程および炭素化工程は、連続的に行うことが好ましく、耐炎化温度から炭素化温度へ昇温するときの昇温速度は、20℃/分以下であることが好ましく、より好ましくは15℃/分以下である。昇温速度を上記範囲とすることにより、有機繊維の形状を保持し、かつ機械的性質に優れた炭素質繊維を得ることができる。なお上記昇温速度の下限は、機械的性質などを考慮すると、5℃/分以上であることが好ましい。
なお、後記する炭素質材料(C)の欄で詳述するが、第3の電極材は、上記(3)に規定するように、炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさを、それぞれ、Lc(A)およびLc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5を満足する。よって第3の電極材では上記(3)を満足する限り、炭素質繊維(A)におけるLc(A)は特に限定されないが、Lc(A)は1~6nmであることが好ましい。これにより、適度な電子伝導性、硫酸溶媒などに対する耐酸化性、酸素官能基が付与し易いなどの作用が有効に発揮される。Lc(A)およびLc(C)の測定方法は後記する実施例の欄で詳述する。
[黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)]
第3の電極材において「黒鉛粒子以外の炭素粒子」は、反応表面積を高めて低抵抗を実現するために有用である。第3の電極材では、低抵抗化のため、上記(1)および(2)を満足するものを用いた。
まず第3の電極材に用いられる「黒鉛粒子以外の炭素粒子」の粒径は上記(1)に規定するように1μm以下であり、0.5μm以下が好ましい。粒径が1μmを超えると、反応表面積が小さくなって抵抗が増加する。ここで「粒径」とは、動的光散乱法などで得られた粒径分布におけるメジアン50%径での平均粒径(D50)を意味する。黒鉛粒子以外の炭素粒子は市販品を用いてもよく、その場合、カタログ記載の粒径を採用できる。好ましい下限は、0.005μm以上である。
第3の電極材に用いられる「黒鉛粒子以外の炭素粒子」の窒素吸着量から求められるBET比表面積は、20m2/g以上が好ましく、30m2/g以上がより好ましく、40m2/g以上が更に好ましい。BET比表面積が20m2/g未満になると、炭素粒子のエッジ露出が減少し、電解液との接触面積も減少するため、所望とする低抵抗が得られなくなる。なお、その上限は上記観点からは特に限定されないが、表面積が大きく嵩高い粒子では分散溶液の粘性が上昇しやすく、シートなどへの加工性が悪化することを考慮すると、おおむね、2000m2/g以下であることが好ましい。ここで上記「窒素吸着量から求められるBET比表面積」とは、窒素分子を固体粒子に吸着させ、吸着した気体分子の量から算出された比表面積を意味する。
更に第3の電極材に用いられる「黒鉛粒子以外の炭素粒子」におけるLc(B)は上記(2)に規定するように10nm以下である。Lc(B)が10nmを超える高結晶性の炭素粒子を用いると酸素官能基の導入が困難なため、水系電解液に対する炭素粒子近傍の親和性が低下し、反応活性が低下して抵抗が増加する。好ましくは6nm以下である。なお、その下限は上記観点からは特に限定されないが、電解液への耐酸化性などを考慮すると、おおむね、0.5nm以上が好ましい。Lc(B)およびLa(B)の測定方法は後記する実施例の欄で詳述する。
第3の電極材に用いられる「黒鉛粒子以外の炭素粒子」としては、例えば、アセチレンブラック(アセチレンの煤)、オイルブラック(ファーネスブラック、オイルの煤)、ケッチェンブラック、ガスブラック(ガスの煤)などのカーボンブラック類のように反応性および比表面積が高く、低結晶性のものがよく用いられる。上記の他、カーボンナノチューブ(CNT,carbon nanotube)、カーボンナノファイバー、カーボンエアロゲル、メソ多孔性炭素、グラフェン、酸化グラフェン、NドープCNT、ホウ素ドープCNT、フラーレンなどが挙げられる。原料価格などの観点から、カーボンブラック類が好ましく用いられる。
第3の電極材に用いられる「黒鉛粒子以外の炭素粒子」の含有量は、前述した炭素質繊維(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、後記する炭素質材料(C)の合計量に対する質量比率で5%以上であることが好ましく、10%以上が好ましい。これにより、黒鉛粒子以外の炭素粒子が炭素質材料で結着されるようになり、抵抗が低下するようになる。但し、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の量が過剰になると、炭素質材料による結着性が不十分となり粒子の脱落が発生し、また充填密度の向上により通液性が悪化するため、所望とする低抵抗が得られなくなる。そのため、上限はおおむね90%以下であることが好ましい。なお上記含有量の算出に用いる炭素質繊維(A)の含有量は、基材として不織布などの構造体を用いる場合は当該構造体の含有量である。
第3の電極材において、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)に対する、後記する炭素質材料(C)の質量比は、0.2以上10以下であることが好ましく、0.3以上7以下であることがより好ましい。上記の比が0.2未満では、黒鉛粒子以外の炭素粒子の脱落が多くなり、当該炭素粒子が炭素質材料に十分結着されなくなる。一方、上記の比が10を超えると、反応場である当該炭素粒子の炭素エッジ面が被覆されてしまい、所望とする低抵抗が得られなくなる。
[炭素質材料(C)]
第3の電極材において炭素質材料は、本来、結着し得ない炭素質繊維と、黒鉛粒子以外の炭素粒子とを強く結着させるための結着剤(バインダー)として添加されるものである。第3の電極材では、上記(3)に規定するように炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)およびLc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5を満足する必要がある。
このように炭素質繊維(A)に対して高結晶性の結着性炭素質材料を用いることにより上記炭素粒子(B)と炭素質繊維(A)との電子伝導抵抗が低くなって、当該炭素粒子(B)と炭素質繊維(A)の電子伝導パスがスムーズになる。また、炭素質材料が黒鉛粒子以外の炭素粒子を介して炭素質繊維間などを強く結着するため、効率的な導電パスを形成でき、前述した黒鉛粒子以外の炭素粒子添加による低抵抗化作用が一層有効に発揮されることが判明した。
Lc(C)/Lc(A)の比が1.0を下回ると、上記効果が有効に発揮されない。上記の比は1.5以上が好ましく、3.0以上がより好ましい。一方、上記の比が5を超えると、炭素質材料部分への酸素官能基が付与され難くなる。上記の比は、4.5以下が好ましく、4.0以下がより好ましい。
第3の電極材ではLc(C)/Lc(A)の比が上記範囲を満足する限り、Lc(C)の範囲は特に限定されないが、更なる低抵抗化の観点から、Lc(C)は10nm以下が好ましく、7.5nm以下がより好ましい。なおLc(C)の下限は上記観点からは特に限定されないが、電子伝導性などを考慮すると、おおむね、3nm以上が好ましい。
第3の電極材に用いられる炭素質材料(C)の含有量は、前述した炭素質繊維(A)および黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、炭素質材料(C)の合計量に対する質量比率で14.5%以上であり、15%以上が好ましく、17%以上がより好ましい。このように炭素質材料の含有率を多くすることによって炭素質繊維および黒鉛粒子以外の炭素粒子の両方を十分結着することができ、炭素質材料添加による結着作用が有効に発揮される。なお、その上限は、電解液の通液性などを考慮すると、おおむね、90%以下であることが好ましい。
第3の電極材に用いられる炭素質材料(C)の種類は、炭素質繊維(A)および黒鉛粒子(B)以外の炭素粒子を結着し得るものであれば良く、具体的には、第3の電極材の電極材作製時における炭化時に結着性を示すものであれば特に限定されない。このような例として、例えば、コールタールピッチ、石炭系ピッチ等のピッチ類;フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、エポキシド樹脂、フラン樹脂、ビニルエステル樹脂、メラニン-ホルムアルデヒド樹脂、尿素-ホルムアルデヒド樹脂、レソルシノール-ホルムアルデヒド樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリロニトリル等の樹脂;フルフリルアルコール;アクリロニトリル-ブタジエンゴム等のゴムなどが挙げられる。これらは市販品を用いても良い。
これらのうち、特に易結晶性であるコールタールピッチ、石炭系ピッチ等のピッチ類は、低い焼成温度で目的とする炭素質材料(C)が得られるため好ましい。また、フェノール樹脂も焼成温度によって結晶性の増減が少なく、結晶性の制御がし易いため、好ましく用いられる。また、ポリアクリロニトリル樹脂も、焼成温度を上げれば目的とする炭素質材料(C)が得られるため、好ましく用いられる。特に好ましいのはピッチ類である。
第3の電極材の好ましい態様によれば、フェノール樹脂を使用しないため、フェノール樹脂に伴う弊害(室温でのホルムアルデヒド発生およびホルムアルデヒド臭)は生じず、常温では臭気が発生しない等のメリットがある。これに対し、前述した特許文献4では接着剤としてフェノール樹脂を用いているため、上記弊害の他、作業場所におけるホルムアルデヒド濃度を管理濃度以下に制御するための設備が別途必要になる等、コスト面、作業面でのデメリットがある。
ここで、特に好ましく用いられるピッチ類について詳述する。前述したコールタールピッチや石炭系ピッチは、不融化処理の温度や時間によって、メソフェーズ相(液晶相)の含有率をコントロールすることができる。メソフェーズ相の含有量が少なければ、比較的低温で溶融、または室温で液体状態のものが得られる。一方、メソフェーズ相の含有率が高ければ、高温で溶融し、炭化収率の高いものが得られる。ピッチ類を炭素質材料(C)に適用する場合、メソフェーズ相の含有率が高い(すなわち炭化率が高い)ことが好ましく、例えば30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。これにより、溶融時の流動性を抑え、黒鉛粒子以外の炭素粒子の表面を過剰に被覆することなく、当該炭素粒子を介して炭素質繊維間を結着することができる。なお、その上限は、結着性の発現などを考慮すると、例えば90%以下であることが好ましい。
上記と同様の観点から、ピッチ類の融点は、100℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。これにより、上記効果が得られる他、添着加工時の臭気を抑えることができ、加工性の面でも好ましい。なお、その上限は、結着性の発現などを考慮すると、例えば350℃以下であることが好ましい。
[III-2.第3の炭素電極材の特性]
第3の電極材は、炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上を満足する。以下、上記全炭素原子数に対する結合酸素原子数の比をO/Cで略記する場合がある。O/Cは、X線光電子分光法(XPS)や蛍光X線分析法などの表面分析にて測定できる。
O/Cが1%以上の電極材を用いることにより、電極反応速度を著しく高められるため、低抵抗が得られる。更にO/Cの制御により親水性も高められ、後記する電極材の通水速度(好ましくは0.5mm/sec以上)を確保することができる。これに対し、O/Cが1%未満の酸素濃度の低い電極材を用いると、放電時の電極反応速度が小さくなり、電極反応活性を高めることはできない。その結果、抵抗が増加する。このように電極材表面に酸素原子を多く結合させた電極材の使用により電極反応活性(換言すれば電圧効率)が高められる理由の詳細は明らかでないが、表面に多く存在する酸素原子が炭素質材料(C)と電解液との親和性、電子の授受、錯イオンの炭素質材料からの脱離、錯交換反応等に有効に作用しているためと考えられる。
第3の電極材は親水性に優れている。親水性は、上記電極材を乾式酸化処理後、水滴を垂らした時の通水速度によって確認することができる。第3の電極材の通水速度は、0.5mm/sec以上であることが好ましい。これにより、電解液に対する十分な親和性を有すると判断できる。上記電極材の通水速度は大きい程良く、より好ましくは1mm/sec以上、更に好ましくは5mm/sec以上、更により好ましくは10mm/sec以上である。
第3の電極材の目付量は、集電板1とイオン交換膜3に挟まれたスペーサー2の厚み(以下、「スペーサー厚み」と言う)を0.3~3mmで使用する場合、50~500g/m2が好ましく、100~400g/m2がより好ましい。目付を上記範囲内に制御することで、通液性を確保しつつ、イオン交換膜3の破損を防止することができる。特に、近年では低抵抗化の観点から、イオン交換膜3の厚みは薄くなる傾向にあり、イオン交換膜3へのダメージを軽減する処置及び使用方法は極めて重要である。また上記の観点から、第3の電極材として、片面に平坦加工が施された不織布や紙を基材として使用することもより好ましい。平坦加工方法は、公知の任意の方法を適用でき、例えばスラリーを炭素質繊維の片面に塗布、乾燥する方法;PETなどの平滑なフィルム上で含侵、乾燥するなどの手法が挙げられる。
第3の電極材の厚みは、少なくともスペーサー厚みより大きいことが好ましい。例えば炭素質繊維に不織布等のように密度の低いものを用い、これに第3の電極材に用いられる黒鉛粒子以外の炭素粒子や結着性の炭素質材料を坦持した場合、スペーサー厚みの1.5~6.0倍が好ましい。しかしながら、厚みが厚すぎるとシート状物の圧縮応力によりイオン交換膜3を突き破ってしまうことがあるので、第3の電極材の圧縮応力が9.8N/cm2以下のものを使用するのが好ましい。第3の電極材の目付量・厚みに応じて、圧縮応力などを調整するために、第3の電極材を2層や3層など積層して用いることも可能である。或は、別の形態の電極材との組み合わせも可能である。
第3の電極材の、窒素吸着量から求められるBET比表面積は0.5m2/g以上が好ましく、1m2/g以上がより好ましい。BET比表面積が0.5m2/g未満になると、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)のエッジ面の露出の減少および電解液との接触面積の減少により、所望とする低抵抗が得られなくなる。なお上記BET比表面積の上限は、上記観点からは特に限定されないが、粒子同士の導電パス形成、黒鉛粒子以外の炭素粒子の繊維への接着性などを考慮すると、おおむね、1500m2/g以下であることが好ましい。
第3の電極材は、Mn/Ti系電解液を用いたレドックスフロー電池(Mn/Ti系レドックスフロー電池)の負極に用いられる。前述したようにMn/Ti系電解液は、正極にマンガン、負極にチタンを用いるものであり、これらの活物質を含む電解液であれば特に限定されない。
一方、Mn/Ti系レドックスフロー電池の正極に用いられる電極材の種類は、当該技術分野において通常用いられるものであれば特に限定されず、燃料電池に用いられるような炭素繊維ペーパー等を用いても良いし、第3の電極材をそのまま正極に用いても良い。例えば短期的な使用(例えば後記する実施例のように充放電試験の合計時間が3時間の場合)では、第3の電極材を正極に用いることができ、初期充放電時のセル抵抗を低下し得ることを確認している(後記する実施例を参照)。なお後記する実施例では、正極および負極に同一サンプルを用いたが、これに限定されず、第3の電極材の要件を満足するものであれば異なる組成のものを用いても良い。
但し、長期にわたる充放電の繰り返しにおいてはマンガンの強い酸化力により電極がCOやCO2に分解されてしまうため、正極には耐酸化性を有する電極(例えば2000℃以上で焼成されたポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルト等)を用い、負極側に第3の電極材を用いることが推奨される。
[III-3.第3の炭素電極材の製造方法]
次に、第3の電極材を製造する方法について説明する。第3の電極材は、炭素質繊維(基材)に黒鉛粒子以外の炭素粒子、および炭素質材料の前駆体(炭化前のもの)を添着した後、炭素化工程、黒鉛化工程、酸化処理工程を経て製造することができる。各工程では、公知の方法を任意に適用することができる。
以下、各工程について説明する。
(炭素質繊維に黒鉛粒子以外の炭素粒子、および炭素質材料の前駆体を添着する工程)
まず、炭素質繊維に黒鉛粒子以外の炭素粒子および炭素質材料の前駆体を添着させる。炭素質繊維に黒鉛粒子以外の炭素粒子及び炭素質材料の前駆体を添着させるには、公知の方法を任意に採用できる。例えば上記の炭素質材料前駆体を加熱して溶融させ、得られた溶融液中に黒鉛粒子以外の炭素粒子を分散させ、この溶融分散液に炭素質繊維を浸漬した後、室温まで冷却する手法が挙げられる。或は、後記する実施例に示すように、上記の炭素質材料前駆体と黒鉛粒子以外の炭素粒子を、ポリビニルアルコールなどのように炭化時に消失するバインダー(仮接着剤)を添加した水やアルコールなどの溶媒に分散させ、この分散液に炭素質繊維を浸漬した後、加熱して乾燥する手法を用いることができる。ここで、炭素質繊維を浸漬した上記溶融分散液や分散液のうち余分な液は、所定のクリアランスを設けたニップローラーに通すことで分散液に浸漬した際の余分な分散液を絞ったり、或は、ドクターブレード等で分散液に浸漬した際の余分な分散液の表面をかきとる等の方法で除去することができる。
その後、空気雰囲気下、例えば80~150℃で乾燥する。
(炭素化工程)
炭素化工程は、上記工程で得られた添着後の製造物を焼成するために行なわれる。これにより、黒鉛粒子以外の炭素粒子を介して炭素質繊維間が結着されるようになる。炭素化工程では、炭化時の分解ガスを十分に除去することが好ましく、例えば、不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)、800℃以上2000℃以下の温度で加熱することが好ましい。加熱温度は1000℃以上がより好ましく、1200℃以上がさらに好ましく、1300℃以上がさらにより好ましく、また、1500℃以下がより好ましく、1400℃以下がさらに好ましい。
なお前述したとおり、上記炭素化工程に対応する処理を、繊維の耐炎化後にも行っても良いが、繊維の耐炎化後に行われる炭素化処理は省略しても良い。すなわち、第3の電極材を製造する方法は、下記方法1と方法2に大別される。
・方法1:繊維の耐炎化→繊維の炭素化→黒鉛粒子以外の炭素粒子および炭素質材料の添着→炭素化→黒鉛化→酸化
・方法2:繊維の耐炎化→黒鉛粒子以外の炭素粒子および炭素質材料の添着→炭素化→黒鉛化→酸化
上記方法1によれば、炭素化を2回行うため加工コストが上昇するものの、電極材として使用するシートは体積収縮比率の差による影響を受け難いため、得られるシートが変形(反り発生)し難いという利点がある。一方、上記方法2によれば、炭素化工程を1回行えば良いため加工コストを低減できるものの、各材料の炭素化時における体積収縮比率の差により得られるシートが変形し易くなる。上記方法1、2のいずれを採用するかは、これらを勘案して適宜決定すれば良い。
(黒鉛化工程)
黒鉛化工程は、炭素質材料の結晶性を十分に高め、電子伝導性の向上ならびに電解液中の硫酸溶液などに対する耐酸化性を向上させるために行なわれる工程である。上記炭素化工程の後、さらに不活性雰囲気下(好ましくは窒素雰囲気下)で1300℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱することが好ましく、1500℃以上がより好ましい。なお、その上限は、炭素質材料に高い電解液親和性を付与することを考慮すると、2000℃以下が好ましい。
これに対し、前述した特許文献4では、上記黒鉛化工程を行っていない点で第3の電極材の製造方法と相違する。
(酸化処理工程)
上記黒鉛化工程の後、さらに酸化処理工程を行うことにより、電極材表面に、ヒドロキシル基、カルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などの酸素官能基が導入されるようになる。その結果、前述したO/C比≧1%を達成することができる。これらの酸素官能基は電極反応に大きく寄与するため、十分に低い抵抗が得られる。また水の通水速度も高められる。
酸化処理工程は、例えば湿式の化学酸化、電解酸化、乾式酸化などの各種処理工程を適用できるが、加工性、製造コストの観点から乾式酸化処理工程が好ましい。乾式酸化処理工程は、空気雰囲気下、例えば500℃以上、900℃以下で加熱(酸化処理)する工程を意味する。上記酸素官能基の導入による効果を有効に発揮させるためには、上記加熱温度は、600℃以上がより好ましく、650℃以上がさらに好ましい。また、800℃以下がより好ましく、750℃以下がさらに好ましい。
更に乾式酸化処理工程では、電極材の機械的強度を維持する観点から、酸化処理前後の電極材の質量収率を90%以上、96%以下に調整することが好ましい。これは、例えば、乾式空気酸化の処理時間や温度を適宜調整するなどの方法により調整することができる。
本願は、2017年9月7日に出願された日本国特許出願第2017-172122号、同日に出願された日本国特許出願第2017-172123号、同日に出願された日本国特許出願第2017-172124号に基づく優先権の利益を主張するものである。2017年9月7日に出願された日本国特許出願第2017-172122号、同日に出願された日本国特許出願第2017-172123号、同日に出願された日本国特許出願第2017-172124号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。以下において、%は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
本実施例では、以下の項目を測定した。測定方法の詳細は以下のとおりである。
(1)X線回折による、c軸方向の結晶子の大きさ(Lc)の測定
(1-1)第1の電極材について
第1の電極材における炭素質繊維のLc(A)および炭素質材料のLc(B)を以下のようにして測定した。
本実施例で用いた炭素質繊維、および炭素質材料のそれぞれ(単体)について、実施例1と同じ加熱処理を順次行い、最終処理されたサンプルを用いて測定した。基本的に炭素結晶性はそのサンプルに与えられる熱エネルギーの影響が支配的になり、サンプルに与えられる最高温の熱履歴がLcの結晶性を決定すると考えられるが、その後の酸化処理の度合いによっては、黒鉛化工程時に形成されたグラフェン積層構造を乱し、欠陥構造の発生などによる結晶性の低下が生じる可能性が考えられる。そのため、最終処理されたサンプルを用いた。
上記のようにして採取した各単体サンプルをメノウ乳鉢で、粒径10μm程度になるまで粉砕した。粉砕後のサンプルに対して約5質量%のX線標準用高純度シリコン粉末を内部標準物質として混合し、試料セルに詰め、CuKα線を線源として、ディフラクトメーター法によって広角X線を測定した。
第1の電極材に用いた炭素質繊維(A)および炭素質材料(B)は、上記広角X線測定で得られたチャートからピーク分離を行うことで、それぞれのLc値を算出した。具体的には、回折角θの2倍(2θ)が25.3°~25.7°の範囲に頂点が見られるピークを炭素質材料(B)とした。それぞれのピークトップから、正弦波としてピーク形状を決定した後、24.0°~25.0°付近にみられる裾野部分から、正弦波としたピーク形状を決定し、これを炭素質繊維(A)とした。以上の方法により分離した2つのピークより、下記方法によってそれぞれのLcを算出した。
曲線の補正には、いわゆるローレンツ因子、偏光因子、吸収因子、原子散乱因子等に関する補正を行わず、次の簡便法を用いた。すなわち、<002>回折に相当するピークのベースラインからの実質強度をプロットし直して<002>補正強度曲線を得た。このピーク高さの1/2の高さに引いた角度軸に平行な線が上記補正強度曲線と交わる線分の長さ(半値幅β)から、下式によってc軸方向の結晶子の大きさLcを求めた。
Lc=(k・λ)/(β・cosθ)
ここで、構造係数k=0.9、波長λ=1.5418Å、βは<002>回折ピークの半値幅を、θは<002>回折角を示す。
(1-2)第2の電極材について
第2の電極材における炭素質繊維のLc(A)、黒鉛粒子のLc(B)、および炭素質材料のLc(C)を以下のようにして測定した。
本実施例で用いた炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料のそれぞれ(単体)について、実施例2と同じ加熱処理を順次行い、最終処理されたサンプルを用いて測定した。基本的に炭素結晶性はそのサンプルに与えられる熱エネルギーの影響が支配的になり、サンプルに与えられる最高温の熱履歴がLcの結晶性を決定すると考えられるが、その後の酸化処理の度合いによっては、黒鉛化工程時に形成されたグラフェン積層構造を乱し、欠陥構造の発生などによる結晶性の低下が生じる可能性が考えられる。そのため、最終処理されたサンプルを用いた。
上記のようにして採取した各単体サンプルをメノウ乳鉢で、粒径10μm程度になるまで粉砕した。粉砕後のサンプルに対して約5質量%のX線標準用高純度シリコン粉末を内部標準物質として混合し、試料セルに詰め、CuKα線を線源として、ディフラクトメーター法によって広角X線を測定した。
第2の電極材に用いた炭素質繊維(A)および黒鉛粒子(B)、並びにこれらを結着する炭素質材料(C)は、上記広角X線測定で得られたチャートからピーク分離を行うことで、それぞれのLc値を算出した。具体的には、回折角θの2倍(2θ)が26.4°~26.6°の範囲に頂点が見られるピークを黒鉛粒子(B)、25.7°~26.2°の範囲に頂点が見られるピークを炭素質材料(C)とした。それぞれのピークトップから、正弦波としてピーク形状を決定した後、24.0°~25.0°付近にみられる裾野部分から、正弦波としたピーク形状を決定し、これを炭素質繊維(A)とした。黒鉛粒子(B)と炭素質材料(C)のピークトップが分離できない場合、24.0°~26.0°付近にみられる裾野部分から正弦波としたピーク形状を決定することで両者を分離した。以上の方法により分離した3つのピークより、下記方法によってそれぞれのLcを算出した。
曲線の補正には、いわゆるローレンツ因子、偏光因子、吸収因子、原子散乱因子等に関する補正を行わず、次の簡便法を用いた。すなわち、<002>回折に相当するピークのベースラインからの実質強度をプロットし直して<002>補正強度曲線を得た。このピーク高さの1/2の高さに引いた角度軸に平行な線が上記補正強度曲線と交わる線分の長さ(半値幅β)から、下式によってc軸方向の結晶子の大きさLcを求めた。
Lc=(k・λ)/(β・cosθ)
ここで、波長λ=1.5418Å、構造係数k=0.9、βは<002>回折ピークの半値幅を、θは<002>回折角を示す。
(1-3)第3の電極材について
第3の電極材における炭素質繊維のLc(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子のLc(B)およびLa(B)、炭素質材料のLc(C)を以下のようにして測定した。
本実施例で用いた炭素質繊維、黒鉛粒子以外の炭素粒子、炭素質材料のそれぞれ(単体)について、実施例1と同じ加熱処理を順次行い、最終処理されたサンプルを用いて測定した。基本的に炭素結晶性はそのサンプルに与えられる熱エネルギーの影響が支配的になり、サンプルに与えられる最高温の熱履歴がLcの結晶性を決定すると考えられるが、その後の酸化処理の度合いによっては、黒鉛化工程時に形成されたグラフェン積層構造を乱し、欠陥構造の発生などによる結晶性の低下が生じる可能性が考えられる。そのため、最終処理されたサンプルを用いた。
上記のようにして採取した各単体サンプルをメノウ乳鉢で、粒径10μm程度になるまで粉砕した。粉砕後のサンプルに対して約5質量%のX線標準用高純度シリコン粉末を内部標準物質として混合し、試料セルに詰め、CuKα線を線源として、ディフラクトメーター法によって広角X線を測定した。
第3の電極材に用いた炭素質繊維(A)および黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、並びにこれらを結着する炭素質材料(C)は、上記広角X線測定で得られたチャートからピーク分離を行うことで、それぞれのLc値を算出した。具体的には、回折角θの2倍(2θ)が26.4°~26.6°の範囲に頂点が見られるピークを黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、25.3°~25.7°の範囲に頂点が見られるピークを炭素質材料(C)とした。それぞれのピークトップから、正弦波としてピーク形状を決定した後、24.0°~25.0°付近にみられる裾野部分から、正弦波としたピーク形状を決定し、これを炭素質繊維(A)とした。以上の方法により分離した3つのピークより、下記方法によってそれぞれのLcを算出した。
曲線の補正には、いわゆるローレンツ因子、偏光因子、吸収因子、原子散乱因子等に関する補正を行わず、次の簡便法を用いた。すなわち、<002>回折に相当するピークのベースラインからの実質強度をプロットし直して<002>補正強度曲線を得た。このピーク高さの1/2の高さに引いた角度軸に平行な線が上記補正強度曲線と交わる線分の長さ(半値幅β)から、下式によってc軸方向の結晶子の大きさLcを求めた。
Lc=(k・λ)/(β・cosθ)
ここで、構造係数k=0.9、波長λ=1.5418Å、βは<002>回折ピークの半値幅を、θは<002>回折角を示す。
(2)XPS表面分析によるO/Cの測定
ESCAまたはXPSと略称されているX線光電子分光法の測定には、アルバック・ファイ5801MCの装置を用いた。
まず、試料をサンプルホルダー上にMo板で固定し、予備排気室にて十分に排気した後、測定室のチャンバーに投入した。線源にはモノクロ化AlKα線を用い、出力は14kV、12mA、装置内真空度は10-8torrとした。
全元素スキャンを行って表面元素の構成を調べ、検出された元素および予想される元素についてナロースキャンを実施し、存在比率を評価した。
全表面炭素原子数に対する表面結合酸素原子数の比を百分率(%)で算出し、O/Cを算出した。
(3)充放電試験
後記する方法で得られた各電極材を、上下方向(通液方向)に2.7cm、幅方向に3.3cmの電極面積8.91cm2に切り出し、正極側にのみ導入した。このとき、セル内目付が230~350g/m2となるように枚数を調整した。負極側には下記で作製した電極材を2枚積層し、図1のセルを組み立てた。イオン交換膜はナフィオン212膜を用い、スペーサー厚みは0.5mmとした。144mA/cm2で電圧範囲1.55~1.00Vで10サイクル後の電圧曲線から、下式によって全セル抵抗(Ω・cm2)を算出した。なお正極および負極の電解液には共に、オキシ硫酸チタン及びオキシ硫酸マンガンをそれぞれ1.0moL/Lずつ溶解した5.0moL/L硫酸水溶液を用いた。電解液量はセルおよび配管に対して大過剰とした。液流量は毎分10mLとし、35℃で測定を行った。
Figure 0007049350000001

ここで、
C50は、充電率が50%のときの電気量に対する充電電圧を電極曲線から求めたもの、
D50は、充電率が50%のときの電気量に対する放電電圧を電極曲線から求めたもの、
I=電流密度(mA/cm2
<負極材作製方法>
平均繊維径16μmのポリアクリロニトリル繊維からなる平織クロス(厚み1.0mm、目付600g/m2)を空気雰囲気下、300℃で加熱して耐炎化し、窒素雰囲気下1000℃で1時間焼成した。その後、空気雰囲気下、600℃で8分間加熱した後、窒素雰囲気下1800℃で1時間焼成した。更に空気雰囲気下、700℃で15分間処理することで、目付152g/m2、厚み0.73mmの負極用電極材を得た。
(4)耐酸化性試験
(4-1)炭素粒子(黒鉛粒子を含む)の耐酸化性
1.0moL/Lオキシ硫酸チタンの5.0moL/L硫酸水溶液と1.0moL/Lオキシ硫酸マンガンの5.0moL/L硫酸水溶液とからなる電解液で、作用極に白金線、参照極にAg/AgCl電極を用いた電池において、開放電圧1.266Vになるまで充電した。実施例で用いた炭素粒子を、炭素粒子に対して40倍量の上記電解液に浸漬して、75℃で16時間静置した。室温まで放冷した後、電解液の開放電圧(作用極に白金線、参照極にAg/AgCl)を測定し、1.266Vからの電圧低下度で耐酸化性を見積もった。
(4-2)電極材の耐酸化性
1.0moL/Lオキシ硫酸チタンの5.0moL/L硫酸水溶液と1.0moL/Lオキシ硫酸マンガンの5.0moL/L硫酸水溶液とからなる電解液で、作用極に白金線、参照極にAg/AgCl電極を用いた電位において、開放電圧1.266Vになるまで充電した。作製した電極材を、電極重量に対して40倍量の充電液に浸漬して、75℃で16時間静置した。室温まで放冷した後、電解液の開放電圧(作用極に白金線、参照極にAg/AgCl)を測定し、1.266Vからの電圧低下度で耐酸化性を見積もった。
(5)水の通水試験
電極からの高さ5cmの地点において、3mmφのピペットから1滴のイオン交換水を電極上に落とし、垂らした水滴が浸透するまでの時間を計測して、下式により水の通水速度を算出した。
水の通水速度(mm/sec)
=電極材の厚み(mm)÷水滴が浸透するまでの時間(sec)
[第1の電極材について]
実施例1
本実施例では、表1に記載の炭素質繊維(A)および炭素質材料(B)を用い、以下のようにして電極材を作製して各種項目を測定した。
(No.1)
<不織布への炭素質材料(バインダー)の添着>
炭素質材料としてAlfa Aesar製コールタール40%、トルエン60%を混合した溶液を作製し、これにポリアクリロニトリル繊維(平均繊維径10μm)からなるカーボンペーパー(日本ポリマー産業社製CFP-030-PE、目付30g/m、厚み0.51mm)を浸漬した後、マングルで絞り(ローラー設定圧力:1kgf、回転速度:1m/min)、コールタールが添着した不織布を得た。
<不織布の炭化>
このようにして得られた不織布を、空気雰囲気下、150℃で30分間乾燥した後、窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で1000℃±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持して炭素化(焼成)を行った後、冷却し、更に窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で2000℃±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持して黒鉛化を行ってから冷却した。次に空気雰囲気下、700℃で20分間酸化処理し、No.1の電極材(目付量53g/m2、厚み0.52mm)を得た。
(No.2)
No.1の<炭素質材料(バインダー)の添着>において、コールタール80%、トルエン20%の混合溶液を用いたこと以外は上記No.1と同様にして炭素質材料の添着、および不織布の炭化を行い、No.2の電極材(目付量82g/m2、厚み0.53mm)を得た。
(No.3)
No.1の<炭素質材料(バインダー)の添着>において、イオン交換水中に花王社製レオドールTW-L120を1.8%、ポリビニルアルコールを1.8%、炭素質材料としてJFEケミカル社製MCP250のピッチ類を14%となるように加え、メカニカルスターラーで1時間撹拌した溶液を用いたこと以外はNo.1と同様にして炭素質材料の添着、および不織布の炭化を行い、No.3の電極材(目付量87g/m2、厚み0.56mm)を得た。
(No.4)
No.1の<炭素質材料(バインダー)の添着>において、コールタール10%、トルエン90%の混合溶液を用いたこと以外は上記No.1と同様にして炭素質材料の添着、および不織布の炭化を行い、No.4の電極材(目付量35g/m2、厚み0.52mm)を得た。
(No.5)
No.1の<炭素質材料(バインダー)の添着>において、炭素質材料として群栄化学製フェノール樹脂PSK-2320を5%、アセトン95%の混合溶液を用いたこと以外は上記No.1と同様にして炭素質材料の添着、および不織布の炭化を行い、No.5の電極材(目付量52g/m2、厚み0.55mm)を得た。
(No.6)
No.1において、不織布の代わりにレーヨン製フェルト(目付量180g/m2、厚み1.5mm)を用いたこと以外は上記No.1と同様にして炭素質材料の添着、および不織布の炭化を行い、No.6の電極材(目付量223g/m2、厚み1.8mm)を得た。
(No.7)
No.7は、No.1において炭素質材料を使用しなかった例である。
詳細にはNo.1において、<炭素質材料(バインダー)の添着>を行なうことなく<不織布の炭化>を行なってNo.7の電極材(目付量30g/m2、厚み0.6mm)を得た。
このようにして得られたNo.1~7の電極材について各種項目を測定し、これらの結果を表1に併記した。
Figure 0007049350000002
Figure 0007049350000003
No.1~3は第1の電極材の要件を満足する電極材であり、炭素質材料を使用しないNo.7に比べて、ほぼ同程度の抵抗を維持しつつ、耐酸化性に一層優れる電極材が得られた。またNo.7ではO/Cの比が低いため水の通水速度が低下した。
これに対し、炭素質材料の含有量が少ないNo.4では、本発明例に比べて耐酸化性に劣り、No.7と同程度の効果しか得られなかった。この結果は、繊維を保護するには一定以上の炭素質材料が必要であることを示している。
またLc(B)が小さく、且つ、Lc(B)/Lc(A)の比も小さいNo.5はセル抵抗が増加し、耐酸化性もNo.7と同程度に低かった。この結果より、No.1~3の本発明例では、炭素質繊維表面をコートする炭素質材料として、炭素質繊維間を強く結着し、且つ、結晶性が十分高い炭素質材料を選択したと推察される。
またLc(B)/Lc(A)の比が大きいNo.6では、No.7に比べて耐酸化性が低下した。これは、基材である炭素質繊維の結晶性が低い場合、その表面のコートされていない部位から酸化されるためと推察される。この結果は、優れた耐酸化性を確保するためには一定以上の結晶性の炭素質繊維が必要であることを示している。
[第2の電極材について]
実施例2
本実施例では、表2に示す種々の炭素粒子(A~F、A’、a、b)を用いて、粒径、Lc、La、Lc/Laを測定すると共に、耐酸化性試験を行って耐酸化性を評価した。
A~FのうちA~Dは第2の電極材で規定する要件を満足する黒鉛であり、A、B、Cは鱗片状黒鉛、Dは薄片化黒鉛である。これに対し、EはLcが小さい鱗片状黒鉛、Fは粒径1μm未満で且つLcが小さい鱗片状黒鉛である。またA’は、Aを、アシザワファインテック社製のラボスターミニ機で6時間ビーズミル粉砕したものであり、Lcが小さい例である。a、bはカーボンブラックである。
炭素粒子はいずれも市販品を用い、表2に記載の粒径は、カタログに記載の値である。A’の粒径は、レーザー回折法により測定した。
これらの結果を表2に併記する。
Figure 0007049350000004
表2に示すように、第2の電極材で規定する黒鉛粒子の要件(粒径:1μm以上、Lcが35nm以上)を満足するA~Dはいずれも、耐酸化性に優れており、高い耐久性を示した。これらは、酸化劣化の起点となる過剰なエッジ面の露出を抑制できているためと考えられる。
これに対し、黒鉛でなくカーボンラックを用いたa、bはいずれも、耐酸化性が著しく低下した。これは、炭素結晶性が不十分なため、不定型炭素部が容易に酸化劣化してしまうためと考えられる。
また黒鉛粒子であってもE、F、A’のようにLcが35nm未満のものは、やはり耐酸化性に劣ることがわかった。これは、炭素エッジ面が過剰に露出しているためと考えられる。
実施例3
本実施例では、表2の一部の炭素粒子を用い、以下のようにして電極材を作製して各種項目を測定した。
(No.1)
No.1では、炭素質繊維としてポリアクリロニトリル繊維、黒鉛粒子として表2のC(第2の電極材の要件を満足する例)、炭素質材料としてJFEケミカル社製コールタールピッチMCP250のピッチ類を用い、以下のようにして電極材を作製した。
まず、イオン交換水中に、花王社製レオドールTW-L120(非イオン系界面活性剤)を1.8%、ポリビニルアルコール(仮接着材)を1.8%、JFEケミカル社製MCP250(炭素質材料)を14%、黒鉛粉末として表2のCを9.8%となるように加え、メカニカルスターラーで1時間撹拌して分散液とした。
このようにして得られた分散液中に、ポリアクリロニトリル繊維(平均繊維径10μm)からなるカーボンペーパー(日本ポリマー産業社製CFP-030-PE、目付30g/m、厚み0.51mm)を浸漬した後、ニップローラーに通して余分な分散液を除去した。
次に、空気雰囲気下、150℃で20分間乾燥した後、窒素雰囲気下、1000℃で1時間炭素化(焼成)した後、さらに2000℃で1時間黒鉛化した。黒鉛化の後、空気雰囲気下、700℃で20分間酸化処理して、厚み0.50mm、目付134.0g/m2の電極材(No.1)を得た。
(No.2)
No.1において、黒鉛粉末として表2のA(第2の電極材の要件を満足する例)を用いたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外は上記No.1と同様にしてNo.2(厚み0.48mm、目付144.0g/m2)の電極材を作製した。
(No.3)
No.1において、黒鉛粉末として表2のB(第2の電極材の要件を満足する例)を用いたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外は上記No.1と同様にしてNo.3(厚み0.45mm、目付126.0g/m2)の電極材を作製した。
(No.4)
No.1において、黒鉛粉末として表2のD(第2の電極材の要件を満足する例)を用い、且つ、イオン交換水中に上記Dを4.9%となるように加えたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外はNo.1と同様にしてNo.4(厚み0.53mm、目付177.1g/m2)の電極材を作製した。
(No.5)
No.4において、黒鉛粉末として表2のC(第2の電極材の要件を満足する例)を用いたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外は上記No.4と同様にしてNo.5(厚み0.51mm、目付164.0g/m2)の電極材を作製した。
(No.6)
No.1において、炭素質繊維として、ポリアクリロニトリル繊維(平均繊維径10μm)からなるカーボンペーパー(日本ポリマー産業社製CFP-010-PV、目付10g/m、厚み0.19mm)を用い、且つ、黒鉛粉末として表2のB(第2の電極材の要件を満足する例)を用いたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外はNo.1と同様にしてNo.6(厚み0.16mm、目付51.4g/m2)の電極材を作製した。
(No.7)
No.1において、炭素質繊維として異方性ピッチ繊維からなるカーボンペーパー(厚み0.61mm、目付30g/m2)を用いたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外はNo.1と同様にしてNo.7(厚み0.47mm、目付127.0g/m2)の電極材を作製した。
(No.8)
ここでは、黒鉛粉末の代わりに表2のaを用い、炭素質材料としてDIC株式会社製のTD―4304を用いた。
詳細には、No.1において、イオン交換水中に、黒鉛粉末の代わりにライオン社製ケッチェンブラック水分散液(W-311N)を5%、フェノール樹脂水分散体(TD4304)を10%となるように加えたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外はNo.1と同様にしてNo.8(厚み0.50mm、目付121.0g/m2)の電極材(比較例)を作製した。
(No.9)
No.1において、黒鉛粉末として表2のE(第2の電極材の要件を満足しない例)を用いたこと;炭素質繊維、黒鉛粒子、炭素質材料の合計量に対する黒鉛粒子および炭素質材料の含有率を表3のように変えたこと以外は上記No.1と同様にしてNo.9(厚み0.53mm、目付152.0g/m2)の電極材(比較例)を作製した。
(No.10)
No.1において、黒鉛粒子を使用しなかったこと以外は上記No.1と同様にしてNo.10(厚み0.49mm、目付87.0g/m2)の電極材(比較例)を作製した。
(No.11)
No.11では、黒鉛粒子および炭素質材料を使用せず、炭素質繊維を以下のように処理して電極材を得た。
具体的には、No.1において、耐炎化ポリアクリロニトリル繊維からなるマリフリース織布(厚み0.6mm、目付120g/m2)を窒素雰囲気下、1000℃で1時間炭素化(焼成)した後、2000℃で1時間黒鉛化し、酸化処理は行わずにNo.11(厚み0.6mm、目付55g/m2)の電極材(比較例)を作製した。なお、耐炎化温度から炭素化温度へ昇温するときの昇温速度は、No.1と同じである。
(No.12)
No.12は前述した特許文献3を模擬した比較例であり、黒鉛粒子および炭素質材料を使用せず、炭素質繊維を以下のように処理して電極材を得た。
具体的には、No.1において、耐炎化ポリアクリロニトリル繊維からなるマリフリース織布(厚み0.6mm、目付120g/m2)を窒素雰囲気下、1000℃で1時間炭素化(焼成)した後、1500℃で1時間黒鉛化し、700℃で15分間酸化処理して、No.12(厚み0.6mm、目付60g/m2)の電極材(比較例)を作製した。なお、耐炎化温度から炭素化温度へ昇温するときの昇温速度は、No.1と同じである。
(No.13)
No.1において、JFEケミカル社製MCP250(炭素質材料)を3質量%、黒鉛粉末として表2のCを2.1質量%となるように加えた以外は上記No.1と同様にしてNo.13(厚み0.42mm、目付40.0g/m2)の電極材(比較例)を作製した。
表3に、上記No.1~13における各種項目の測定結果を示す。
Figure 0007049350000005
Figure 0007049350000006
No.1~7は第2の電極材の要件を満足する電極材であり、いずれも低抵抗を維持しつつ、耐酸化性に優れる電極材が得られた。
これに対し、No.8は、黒鉛を使用せず結晶性(Lc)の低いカーボンブラックa(Lc=1.3nm)及び炭素質材料を用いたため、セル抵抗は最も低いものの、耐酸化性が著しく低下した。
No.9は、Lcが第2の電極材の要件を満足しない鱗片状黒鉛Eを使用した例であり、上記No.8と同様にセル抵抗は低いものの、耐酸化性が著しく低下した。
No.10は、黒鉛粒子を用いず、且つ、No.1に比べて高結晶な炭素質材料を用いた例であり、耐酸化性に優れるが、セル抵抗が高くなった。
No.11およびNo.12は、いずれも黒鉛粒子および炭素質材料の両方を使用せず、O/Cの比が低い例であり、共にセル抵抗が高くなった。またNo.11では水の通水速度も低下した。特に上記No.12は特許文献3を模擬した例であるが、抵抗、耐酸化性の両方において本発明例に比べて劣るものであった。
No.13は、第2の電極材の要件を満足する黒鉛粒子及び炭素質材料を使用したが、これらの含有量が少ないため、本発明例に比べて抵抗が増加し、耐酸化性も低下した。
[第3の電極材について]
実施例4
本実施例では、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)として表4に示すA~Dのカーボンブラック類、炭素質材料(C)として表5に示すa(JFEケミカル社製MCP250のピッチ類)、b(DIC株式会社製TD―4304のフェノール樹脂、固形分40%)またはc(Alfa Aesar製コールタール)を用い、以下のようにして炭素質シートからなる電極材を作製して各種項目を測定した。A~Dはいずれも市販品であり、表4に記載の平均粒径は、カタログに記載の値である。これらのうちAとCは、表4に示すように平均粒子径などは同じであるが、Cは市販粉体であり、一方、AはCの市販粉体を分散剤により水に分散させた市販の水分散体である。
(No.1)
イオン交換水:19.2%、ポリビニルアルコール:1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA(固形分16.5%、黒鉛粒子以外の炭素含有率約8.5%であり、第3の電極材の要件を満足する例):65.8%、炭素質材料として表5のa:14.0%(残炭化重量収率80%)を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
作製した分散液中に、炭化後のポリアクリロニトリル繊維(平均繊維径10μm)からなるカーボンペーパー(日本ポリマー産業社製CFP-030-PE、目付30g/m2、厚み0.51mm)を浸漬した後、浸漬前の不織布Aに対して浸漬後の不織布重量が13~15倍になるようにニップローラーに通して余分な分散液を除去し空気雰囲気下、150℃で20分間乾燥を行った。次に窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で1000℃±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持して炭素化(焼成)を行った後、冷却し、更に窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で1500℃±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持して黒鉛化して冷却した。次に空気雰囲気下、700℃で10分間酸化処理し、No.1の電極材(目付量91.0g/m2、厚み0.47mm)を得た。
(No.2)
イオン交換水:50.9%、ポリビニルアルコール(仮接着材):1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA:34.1%、炭素質材料として表52のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
作製した分散液中に、上記のカーボンペーパーを浸漬した後、No.1と同様の処理を行い、No.2の電極材(目付量90.0g/m2、厚み0.45mm)を得た。
(No.3)
イオン交換水:68.1%、ポリビニルアルコール:1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA:16.9%、炭素質材料として表5のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
作製した分散液中に、上記のカーボンペーパーを浸漬した後、No.1と同様の処理を行い、No.3の電極材(目付量89.0g/m2、厚み0.48mm)を得た。
(No.4)
イオン交換水:24.1%、ポリビニルアルコール:1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のB(固形分11.5%であり、第3の電極材の要件を満足する例):60.9%、炭素質材料として表5のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
作製した分散液中に、上記のカーボンペーパーを浸漬した後、No.1と同様の処理を行い、No.4の電極材(目付量88.0g/m2、厚み0.45mm)を得た。
(No.5)
No.5は、黒鉛粒子以外の炭素粒子も炭素質材料も使用せず炭素質繊維のみからなる例である。詳細には上記カーボンペーパーに対して直接、No.1と同様の加熱処理を行い、No.5の電極材(目付量27g/m2、厚み0.46mm)を得た。
(No.6)
No.6は、黒鉛粒子以外の炭素粒子を使用せず炭素質繊維および炭素質材料のみからなる例である。
まずイオン交換水:83.0%、ポリビニルアルコール:1.0%、花王株式会社製レオドールTW-L120を2.0%、炭素質材料として表5のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
作製した分散液中に、No.1におけるカーボンペーパーを浸漬した後、No.1と同様の処理を行い、No.6の電極材(目付量70.0g/m2、厚み0.45mm)を得た。
(No.7)
イオン交換水:76.0%、ポリビニルアルコール:1.0%、花王株式会社製レオドールTW-L120を2.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のD(第3の電極材の要件を満足しない例):7.0%、炭素質材料として表5のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
作製した分散液中に、No.1におけるカーボンペーパーを浸漬した後、No.1と同様の処理を行い、No.7の電極材(目付量89.0g/m2、厚み0.46mm)を得た。
(No.8)
イオン交換水:8.9%、ポリビニルアルコール:1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA:34.1%、炭素質材料として表5のb(固形分40%):56.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
作製した分散液中に、No.1におけるカーボンペーパーを浸漬した後、No.1と同様の処理を行い、No.8の電極材(目付量86.6g/m2、厚み0.48mm)を得た。
(No.9)
イオン交換水:42.6%、ポリビニルアルコール:1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA:42.4%、炭素質材料として表25のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
作製した分散液中に、No.1におけるカーボンペーパーを浸漬した後、No.1と同様にして炭素化および黒鉛化を行ったが、その後の空気雰囲気下での酸化処理は行なわず、No.9の電極材(目付量89.0g/m2、厚み0.44mm)を得た。
(No.10)
イオン交換水:42.6%、ポリビニルアルコール:1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA:42.4%、炭素質材料として表5のa:14.0%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
作製した分散液中に、No.1におけるカーボンペーパーを浸漬した後、浸漬前のカーボンペーパーに対して浸漬後のカーボンペーパーの重量が1.5~1.7倍になるようにニップローラーに通して余分な分散液を除去したこと以外はNo.1と同様の処理を行い、No.10の電極材(目付量31.0g/m2、厚み0.42mm)を得た。
(No.11)
イオン交換水:66.7%、ポリビニルアルコール(仮接着材):1.0%、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のA:16.6%、炭素質材料として表25のa:15.7%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。
作製した分散液中に、No.1におけるカーボンペーパーを浸漬した後、No.1と同様の処理を行い、No.11の電極材(目付量87.0g/m2、厚み0.43mm)を得た。
(No.12)
黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のC(第3の電極材の要件を満足する例):4.8%、炭素質材料として表5のc(コールタール):95.2%を、メカニカルスターラーで1時間撹拌し、分散液とした。No.12において、黒鉛粒子以外の炭素粒子として表4のC(粉体)を用いた理由は、表4のA(水分散体)を用いると、炭素質材料であるコールタール(表25のc)との相性が悪く混合し難いため、水に分散される前のCを用いた。
作製した分散液中に、No.1におけるカーボンペーパーを浸漬した後、No.1と同様の処理を行い、No.12の電極材(目付量89.0g/m2、厚み0.47mm)を得た。
表6に、上記No.1~12における各種項目の測定結果を示す。
Figure 0007049350000007
Figure 0007049350000008
Figure 0007049350000009
Figure 0007049350000010
No.1~4は第3の電極材の要件を満足する電極材であり、いずれもNo.5~12の比較例に比べて低抵抗な電極材が得られた。これは、黒鉛以外の炭素粒子として粒子径が小さい表4のA~Bを用いたため反応表面積が大きく、また炭素エッジ面の露出により電極活性が向上したためと考えられる。
これに対し、No.5は、黒鉛粒子以外の炭素粒子も炭素質材料も使用せず炭素質繊維のみからなる例であり、反応表面積が不足するため抵抗が著しく増加した。No.6は黒鉛粒子以外の炭素粒子を含有しないため、反応表面積が不足して抵抗が著しく増加した。
No.7は、炭素粒子として粒子径が大きく、Lc(B)も大きい表4のDを用いたため、抵抗が増加した。粒子径の大きい炭素粒子を用いると反応表面積が本発明例に比べて小さくなる他、炭素結晶性の高い炭素粒子を用いると酸素官能基の付与が困難なため、水系電解液に対する炭素粒子近傍の親和性が低下し、反応活性が向上しなかったためと考えられる。
No.8は、Lc(C)/Lc(A)の比が小さい例であり、抵抗が増加した。これは、炭素質材料の炭素結晶性が本発明例に比べて低いため、当該炭素粒子と炭素質繊維との電子伝導抵抗が高くなり、炭素粒子の反応活性を効率よく利用できなかったためと考えられる。
No.9は、O/Cの比が小さい例であり、抵抗が増加し、通水しなかった。これは、酸素官能基量が少ないため本発明例に比べて電解液との親和性が低下し、反応活性が低下したためと考えられる。
No.10は、黒鉛以外の炭素粒子の含有量が少ない例であり、抵抗が増加した。上記炭素粒子の含有量が少ないと反応表面積が低下し、且つ、含有量の低下に伴って電子伝導パスが不十分になるためと考えられる。
No.11は、黒鉛以外の炭素粒子に対する炭素質材料の比率が多い例であり、やはり抵抗が増加した。これは、炭素質材料の比率が黒鉛以外の炭素粒子よりも著しく多いため、上記炭素質材料が炭素粒子表面の反応活性点を被覆してしまい、反応表面積が有効利用されず抵抗が上昇したと推察される。
No.12は、Lc(C)/Lc(A)の比が7.2であり、炭素質繊維よりも炭素質材料の炭素結晶性が著しく高い例であり、やはり抵抗が増加した。非常に高結晶な炭素質材料に黒鉛以外の炭素粒子が被覆された場合、当該炭素粒子の反応表面積が有効利用されず、また一般的に高結晶な部位には酸素官能基が導入され難いため、電解液との親和性が低下し抵抗が上昇したと推察される。
第1の電極材によれば、抵抗の上昇を抑制しつつ、耐酸化性に優れた炭素電極材を提供できるため、特にMn-Ti系電解液を用いるレドックスフロー電池の電極材として有用である。第1の電極材の炭素電極材は、フロータイプおよびノンフロータイプのレドックスフロー電池や、リチウム、キャパシタ、燃料電池のシステムと複合化されたレドックスフロー電池などに好適に用いられる。
第2の電極材によれば、高耐酸化性を維持しつつ、低抵抗かつ長寿命な炭素電極材を提供できるため、特にMn-Ti系電解液を用いるレドックスフロー電池の電極材として有用である。第2の炭素電極材は、フロータイプおよびノンフロータイプのレドックスフロー電池や、リチウム、キャパシタ、燃料電池のシステムと複合化されたレドックスフロー電池などに好適に用いられる。
第3の電極材によれば、初期充放電時のセル抵抗を低下し得、電池エネルギー効率に優れた炭素電極材を提供できるため、Mn/Ti系レドックスフロー電池の負極に使用される炭素電極材として有用である。第3の炭素電極材は、フロータイプおよびノンフロータイプのレドックスフロー電池や、リチウム、キャパシタ、燃料電池のシステムと複合化されたレドックスフロー電池などに好適に用いられる。
1 集電板
2 スペーサー
3 イオン交換膜
4a,4b 通液路
5 電極材
6 正極電解液タンク
7 負極電解液タンク
8,9 ポンプ
10 液流入口
11 液流出口
12,13 外部流路

Claims (22)

  1. 炭素質繊維(A)と、前記炭素繊維(A)を結着する炭素質材料(B)と、からなり、下記の要件を満足することを特徴とするレドックスフロー電池用炭素電極材。
    (1)炭素質材料(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以上、
    (2)炭素質繊維(A)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(B)/Lc(A)は1.0以上、
    (3)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上。
  2. 前記炭素質繊維(A)、および前記炭素質材料(B)の合計量に対する前記炭素質材料(B)の質量含有率が20%以上である請求項1に記載の炭素電極材。
  3. 前記Lc(A)は1~10nmである請求項1または2に記載の炭素電極材。
  4. 前記Lc(A)は、2.3nm以上である請求項3に記載の炭素電極材。
  5. Lc(B)/Lc(A)が1.0~10であり、Lc(B)が15nm以上である請求項1~4のいずれかに記載の炭素電極材。
  6. 請求項1~のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
    前記炭素質繊維(A)に炭化前の炭素質材料(B)を添着する工程と、
    添着後の製造物を、不活性雰囲気下、800℃以上2000℃以下の温度で加熱する炭素化工程と、
    不活性雰囲気下、1800℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱する黒鉛化工程と、
    酸化処理工程と、をこの順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。
  7. 炭素質繊維(A)と、黒鉛粒子(B)と、これらを結着する炭素質材料(C)と、からなり、
    下記の要件を満足することを特徴とするレドックスフロー電池用炭素電極材。
    (1)黒鉛粒子(B)の粒径は1μm以上、
    (2)黒鉛粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)が35nm以上、
    (3)炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(C)としたとき、Lc(C)は10nm以上、
    (4)炭素質繊維(A)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(A)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0以上、
    (5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1.0%以上
  8. 前記炭素質繊維(A)、前記黒鉛粒子(B)、および前記炭素質材料(C)の合計量に対する前記黒鉛粒子(B)または前記炭素質材料(C)の質量含有率がそれぞれ20%以上であり、かつ、前記黒鉛粒子(B)に対する前記炭素質材料(C)の質量比が0.2~3.0である請求項に記載の炭素電極材。
  9. 前記炭素質繊維(A)、前記黒鉛粒子(B)、および前記炭素質材料(C)の合計量に対する前記黒鉛粒子(B)及び前記炭素質材料(C)の質量含有率がそれぞれ20%以上である請求項7または8に記載の炭素電極材。
  10. 前記Lc(A)は1~10nmである請求項7~9のいずれかに記載の炭素電極材。
  11. 窒素吸着量から求められるBET比表面積が1.0~8m2/gである請求項7~10のいずれかに記載の炭素電極材。
  12. 前記黒鉛粒子(B)が鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、および膨張化黒鉛よりなる群から選択される少なくとも1種以上を含む請求項7~11のいずれかに記載の炭素電極材。
  13. 請求項7~12のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
    前記炭素質繊維(A)に前記黒鉛粒子(B)および炭化前の炭素質材料(C)を添着する工程と、
    添着後の製造物を、不活性雰囲気下、800℃以上2000℃以下の温度で加熱する炭素化工程と、
    不活性雰囲気下、1800℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱する黒鉛化工程と、
    酸化処理工程と、をこの順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。
  14. マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられる炭素電極材であって、
    前記炭素電極材は、炭素質繊維(A)と、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)と、これらを結着する炭素質材料(C)と、からなり、
    下記の要件を満足することを特徴とするマンガン/チタン系レドックスフロー電池用炭素電極材。
    (1)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)の粒径は1μm以下、
    (2)黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをLc(B)としたとき、Lc(B)は10nm以下、
    (3)炭素質繊維(A)および炭素質材料(C)における、X線回折で求めたc軸方向の結晶子の大きさをそれぞれLc(A)、Lc(C)としたとき、Lc(C)/Lc(A)は1.0~5、
    (4)炭素質繊維(A)、黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)、および炭素質材料(C)の合計量に対する前記炭素質材料(C)の質量含有率は14.5%以上、
    (5)炭素電極材表面の結合酸素原子数が炭素電極材表面の全炭素原子数の1%以上
  15. 前記炭素粒子(B)に対する前記炭素質材料(C)の質量比が0.2~10である請求項14に記載の炭素電極材。
  16. 窒素吸着量から求められるBET比表面積が0.5m2/g以上である請求項14または15に記載の炭素電極材。
  17. 請求項14~16のいずれかに記載の炭素電極材を製造する方法であって、
    前記炭素質繊維(A)に前記黒鉛粒子以外の炭素粒子(B)および炭化前の炭素質材料(C)を添着する工程と、
    添着後の製造物を、不活性雰囲気下、800℃以上2000℃以下の温度で加熱する炭素化工程と、
    不活性雰囲気下、1300℃以上の温度であって、且つ、前記炭素化工程の加熱温度よりも高い温度で加熱する黒鉛化工程と、
    酸化処理工程と、をこの順序で含むことを特徴とする炭素電極材の製造方法。
  18. 前記炭素質繊維(A)は、90質量%以上が炭素で構成され、擬黒鉛結晶構造を有し、平均繊維径が0.5~40μmであり、平均繊維長が30~100mmであり、
    前記炭素電極材の目付量が50~500g/m 2 である請求項1~5、7~12、14~16のいずれかに記載の炭素電極材。
  19. 水滴を垂らした時の通水速度が0.5mm/sec以上である請求項1~7~1214~16、18のいずれかに記載の炭素電極材。
  20. マンガン/チタン系電解液を用いたレドックスフロー電池の負極に用いられるものである請求項1~5、7~12のいずれかに記載の炭素電極材。
  21. 請求項1~7~1214~1618~20のいずれかに記載の炭素電極材を備えたレドックスフロー電池。
  22. 請求項1~7~1214~1618~20のいずれかに記載の炭素電極材を用いたマンガン/チタン系レドックスフロー電池。
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