アルミニウム電解コンデンサは、表面に酸化アルミニウム皮膜を有するアルミニウム箔からなる陽極と、アルミニウム箔からなる陰極と、陽極と陰極との間に配置された電解液を保持したセパレータとが密封ケース内に収容された構造を有しており、巻回型、積層型等の形状のものが広く使用されている。
そして、小型、低圧用のアルミニウム電解コンデンサの駆動用電解液として、エチレングリコールを主溶媒とし、アジピン酸、安息香酸などのカルボン酸又はそのアンモニウム塩などを電解質とした電解液と、γ−ブチロラクトンを主溶媒とし、フタル酸、マレイン酸などのカルボン酸の四級化環状アミジニウム塩などを電解質とした電解液とが従来から知られている。
このようなアルミニウム電解コンデンサには、近年の電子機器の小型化に伴い、低インピーダンス特性が要求されている。また、高周波数条件下でのコンデンサの使用においても低インピーダンス特性が要求される。この要求に対応するには、比抵抗の低い高電導度の電解液の使用が望ましいため、エチレングリコールを主溶媒とし、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩を電解質とした電解液を基礎として、電解液の水含有量を増加させることにより比抵抗を低下させる検討がなされてきた。
しかし、電解液中の水や電解質のカルボン酸及び/又はカルボン酸塩は、アルミニウム箔からなる陽極及び陰極にとっては化学的に活性な物質である。電極表面の酸化アルミニウム皮膜がカルボン酸アニオンとの反応により溶解し、アルミニウムのカルボン酸錯体が生成する。また、水が電極の酸化アルミニウム皮膜を通してアルミニウムに達すると、アルミニウムが溶解して水酸化物が生成し、この反応と同時に水素ガスが発生する。そのため、電解液の水含有量を増加させると、電極箔が劣化し、漏れ電流が増加し、コンデンサの短寿命化を招くという問題があった。特に105℃以上の高温寿命試験においては、溶媒の水含有量が15質量%を超えると、急激な上記反応により水素ガスが大量に発生し、コンデンサ内の圧力が増加し、安全弁の開弁に至り、使用に耐えなくなるという問題があった。
このような電極箔の劣化の防止のために、リン酸を電解液に添加する方法が従来から知られている。リン酸イオンが電解液中に適量存在すると、陽極及び陰極のアルミニウムの溶解、アルミニウムの水酸化物等の生成が抑制され、水素ガスの発生も抑制される。
しかしながら、電解液にリン酸を添加しても、リン酸イオンが電解液に溶解したアルミニウムイオンと結合して電解液に不溶な化合物を形成し、この不溶性化合物が電極箔に付着し、リン酸イオンが電解液中から消失してしまうため、リン酸イオンによる電極箔の劣化防止効果は十分なものとはいえなかった。また、電解液に対するリン酸の添加量が多すぎても、電極表面の酸化アルミニウム皮膜がリン酸イオンとの反応により溶解し、アルミニウム電解コンデンサの漏れ電流が増大するという問題が発生する。このような問題に対し、出願人は、リン酸イオンが電解液中に適量存在する間はコンデンサ特性が良好に保たれることに着目し、特許文献1(WO00/55876号パンフレット)において、水を含む電解液に水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物とアルミニウムに配位して水溶性アルミニウムキレート錯体を形成するキレート化剤とを添加し、電極箔から溶出したアルミニウムイオンと上記キレート化剤とリン酸イオンとの反応により水溶性アルミニウムキレート錯体とリン酸イオンとの結合体を電解液中で形成させる方法を開示している。
水溶性アルミニウムキレート錯体とリン酸イオンとの結合体は、電解液に溶解した状態或いは電極箔に付着した状態で電解液中のリン酸イオンと化学平衡を保つため、電解液中にリン酸イオンを適量で存在させる時間を長期化させることができ、陽極及び陰極の劣化を長期間防止することができる。そして、特許文献1の実施例によると、アルミニウム電解コンデンサ用電解液として、水とエチレングリコールとからなる混合溶媒中に、電解コンデンサの低インピーダンス化のために有用なアジピン酸アンモニウムを溶解させ、さらに水溶性アルミニウムキレート錯体とリン酸イオンとの結合体とを併存させた電解液を使用すると、最も過酷な寿命試験のひとつである高温無負荷試験において1000時間以上の長寿命を示すコンデンサが得られている。
また、電極箔の劣化の防止のための別の方法として、カルボン酸との塩を構成する塩基性化合物をアンモニアからアミン或いはアンモニアとアミンとの混合物に変更する方法も検討されてきた。
特許文献2(特開2002−207473号公報)は、水とエチレングリコールを含む溶媒にカルボン酸の第2級アミン塩又は第3級アミン塩を溶解した電解コンデンサ用電解液を提案している。そして、特許文献2の実施例と比較例によると、水とエチレングリコールとからなる混合溶媒に安息香酸アンモニウムを溶解した電解液を使用したアルミニウム電解コンデンサは、105℃での無負荷試験を1000時間経験する前に安全弁の開弁に至っているが、安息香酸アンモニウムに代わって安息香酸トリエチルアミンを溶解した電解液を使用したアルミニウム電解コンデンサは、105℃での無負荷試験を1000時間経験しても初期特性からの大きな変化を示していない。
特許文献3(特開2004−14666号公報)は、水を主溶媒とし、電解質の酸成分をカルボン酸及び/又は無機酸とし、塩基成分をアンモニアとした電解コンデンサ用電解液において、アミンなどのアンモニア以外の塩基性化合物を添加することにより30℃でのpHを6.0〜8.5にした電解コンデンサ用電解液を開示している。そして、特許文献3の実施例1と比較例1によると、水とエチレングリコールとからなる混合溶媒にギ酸アンモニウム及びアジピン酸アンモニウムを溶解した電解液を使用したアルミニウム電解コンデンサは、105℃での負荷試験を500時間経過した後に安全弁の開弁に至っているが、ギ酸アンモニウム及びアジピン酸アンモニウムに加えてトリエタノールアミンを溶解した電解液を使用したアルミニウム電解コンデンサは、105℃での負荷試験を3000時間経験しても初期特性からの大きな変化を示していない。この文献には他に、カルボン酸との塩を構成する塩基性化合物としてトリエチルアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ジエタノールアミンを使用した実施例及び比較例が存在する。しかしながら、より過酷な寿命試験である無負荷試験の結果は示されていない。
特許文献1(WO00/55876号パンフレット)に開示された方法によると、電解液の水含有量を増加させても電極箔のアルミニウムの溶解とアルミニウムの水酸化物等の生成及び水素ガスの発生を抑制することができるため、アルミニウム電解コンデンサの低インピーダンス化及び長寿命化を達成することができる。しかしながら、アルミニウム電解コンデンサに対するさらなる低インピーダンス化及び長寿命化の要請は常に存在する。現在では、低インピーダンス特性を有する上に、アルミニウム電解コンデンサにとって最も過酷な寿命試験の一つである105℃無負荷試験において8000時間を超える極めて長い寿命が求められるようになっている。
しかしながら、特許文献1に開示された、水とエチレングリコールとからなる混合溶媒中にアジピン酸アンモニウムを溶解させ、さらに水溶性アルミニウムキレート錯体とリン酸イオンとの結合体とを併存させた電解液は、低インピーダンス化の要請を十分に満足しているが、多量の水とアジピン酸アニオンとによる電極劣化作用のために、コンデンサの長寿命化の要請に十分に応えるものではなかった。
そこで、長寿命化に対する要請に答えるために、アジピン酸との塩を構成する塩基性化合物をアンモニアからアミンへと変更することが考えられる。しかしながら、アミンへの変更は電解液の比抵抗を大きく上昇させるおそれがある。このことは、特許文献2の比較例1に示された水25部、エチレングリコール65部及び安息香酸アンモニウム10部からなる電解液の比抵抗が106Ωcmであるのに対し、実施例3に示された水25部、エチレングリコール65部及び安息香酸トリエチルアミン10部からなる電解液の比抵抗が2倍以上の240Ωcmであることからも理解される。そのため、低インピーダンスで長寿命なコンデンサを得るためのこれまでの検討において、塩基性化合物としてのアミンの使用はむしろ回避されており、アミンを使用するにしても特許文献3に示されているようにアンモニアとアミンとが併用されていた。さらに、以下に詳述するが、発明者らによる検討では、アミンとアンモニアの併用では、現在のアルミニウム電解コンデンサの長寿命に対する要請に答えることができないことが判明した。
そこで、本発明の目的は、上述した現在のアルミニウム電解コンデンサに対する要請に答えるべく、比抵抗が低く且つ電極箔からのアルミニウムの溶出を効果的に抑制可能なアルミニウム電解コンデンサ用電解液を提供することである。本発明のさらなる目的は、このような好適な電解液を用いた低インピーダンス特性を有し且つ従来のコンデンサより寿命の長いアルミニウム電解コンデンサを提供することである。
発明者らは、鋭意検討した結果、アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物として、疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンのみを使用し、このアミンにより電解液のpHを5.6〜7.0の範囲に調整すると、電解液の比抵抗の大幅な上昇を回避することができ、アルミニウム電解コンデンサの寿命に対する現在の要請にも応えることができることを発見した。
したがって、本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電解液は、水とエチレングリコールとから成る混合溶媒に、カルボン酸電解質としてのアジピン酸と、アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物と、水溶液中でリンオキソ酸イオンを生成可能なリンオキソ酸イオン生成性化合物と、アルミニウムに配位することにより水溶性アルミニウムキレート錯体を形成可能なキレート化剤とを溶解させた電解液であって、上記塩基性化合物として、疎水性置換基を有する第1級アミン及び第2級アミンから成る群から選択された少なくとも1種の化合物のみを含み、電解液のpHが5.6〜7.0の範囲であることを特徴とする。
本発明の電解液において、「リンオキソ酸イオン」には、リン酸イオンの他、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、これらの異性体であるホスホン酸イオン、ホスフィン酸イオンが含まれ、「リンオキソ酸イオン生成性化合物」には、この化合物を上記溶媒に溶解した段階でリンオキソ酸イオンを生成する化合物のほか、電解液をアルミニウム電解コンデンサに導入した後の陽極での酸化を介してリンオキソ酸イオンを生成する化合物も含まれる。また、本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電解液は、水を多く含有するため、水溶液中でリンオキソ酸イオンを生成する化合物は上記電解液中でもリンオキソ酸イオンを生成し、アルミニウムに配位して水溶性アルミニウムキレート錯体を形成するキレート化剤は上記電解液に溶解するアルミニウムキレート錯体を形成する。
本発明の電解液は、水とエチレングリコールとから成る混合溶媒に、上記リンオキソ酸イオンと上記キレート化剤とカルボン酸電解質としてのアジピン酸とを溶解し、このアジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物として、疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンのみを添加し、この疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンによって電解液のpHを5.6〜7.0、好ましくは5.7〜6.4の範囲に調整することによって得ることができる。疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンの少なくとも一部をアジピン酸との塩の形態で電解液に導入することもできる。pHが5.6未満であるか、或いはpHが7.0より大きいと、電極箔の劣化により電解コンデンサに対する長寿命化の要請に応えられない場合がある。カルボン酸電解質としてのアジピン酸は、特許文献1にも示されているが、コンデンサの低インピーダンス化のために好適である。
本発明の電解液では、電解液中にアルミニウムイオンが共存すれば、アルミニウムイオンと、上記キレート化剤と、上記リンオキソ酸イオン生成性化合物から生成したリンオキソ酸イオンとの反応により、リンオキソ酸イオンと水溶性アルミニウムキレート錯体との結合体が電解液中に形成される。アルミニウム塩などを電解液に添加することにより電解液中に予めアルミニウムイオンを含有させても良いが、上記キレート化剤とリンオキソ酸イオン生成性化合物を含有しているがアルミニウムイオンを含有していない電解液をアルミニウム電解コンデンサ内に導入しても、アルミニウムイオンが電極箔から溶出するため、アルミニウム電解コンデンサ内の電解液にはリンオキソ酸イオンと水溶性アルミニウムキレート錯体との結合体が含まれることになる。
本発明の電解液では、アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物として、アンモニアを使用せず、ヒドロキシル基などの非疎水性置換基を有するアミンを使用せず、第3級アミンを使用しない。疎水性置換基を有する第1級アミン及び第2級アミンは、第3級アミンに比較して電解液の比抵抗を上昇させる作用が少ない上に、アルミニウム電解コンデンサの陽極及び陰極からのアルミニウムの溶出を効果的に抑制する。
図1は、塩基性化合物の種類の影響を調査するための加速試験の結果を示している。この加速試験では、水60重量部とエチレングリコール18重量部とから成る混合溶媒に、ギ酸6部とアジピン酸9部とを溶解させ、塩基性化合物としてのアンモニア、アンモニアとジメチルアミン(DMA)との3:1の比率の混合物、アンモニアとジメチルアミンとの1:1の比率の混合物、ジメチルアミン、又はジエチルアミン(DEA)をそれぞれ添加し、pHを約6に調整した浸漬液を用意し、表面に酸化アルミニウム皮膜を有するアルミニウム箔からなる電極箔をこれらの浸漬液に浸漬し、電極から溶解したアルミニウムイオン量をICP発光分析法により測定した。加速試験であるため、電極劣化抑制効果があるリンオキソ酸イオン生成性化合物とキレート化剤とを浸漬液中に含めず、また電極箔を劣化させる作用がアジピン酸よりも大きいギ酸を併用した。
図1より、ジメチルアミン又はジエチルアミンで中和した場合、したがって、カルボン酸との塩を構成する塩基性化合物としてジメチルアミン又はジエチルアミンを使用した場合には、ギ酸及びアジピン酸が共存していても、長期にわたって溶液中にアルミニウムイオンがほとんど認められないことがわかる。一方、アンモニアで中和した場合、したがって、カルボン酸との塩を構成する塩基性化合物としてアンモニアを使用した場合には、たとえジメチルアミンと併用していても電極箔からアルミニウムが浸漬液中に溶解し、ジメチルアミンの量を調整しても、アンモニアのみを塩基性化合物として使用した場合と略同様の結果であった。ジメチルアミン又はジエチルアミンで中和した場合にアルミニウムイオンがほとんど認められない理由は、電極箔の酸化アルミニウム皮膜の表面にジメチルアミン或いはジエチルアミンが結合して疎水性層が形成され、この疎水性層がアルミニウムの溶出を抑制するためであると思われる。アンモニアが含まれていると、この疎水性層が形成されない部分が生じ、その部分から水和が進行するため、図1からわかるように、アミンの効果がほぼ消失するものと思われる。
また、別途、水50重量部とエチレングリコール45重量部とから成る混合溶媒にアジピン酸5部を溶解させ、塩基性化合物としてアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、又はヒドロキシルアミンをそれぞれ添加し、pHを約6.4に中和した浸漬液を用意し、表面に酸化アルミニウム皮膜を有するアルミニウム箔からなる電極箔をこれらの浸漬液に浸漬し、液を60℃に保温して電極箔から溶解したアルミニウムイオン量をICP発光分析法により測定する加速試験を行った。実験開始後468時間経過した時点で、ヒドロキシルアミンで中和した浸漬液のみにアルミニウムの溶出が認められ、非疎水性置換基を有するヒドロキシルアミンは、電極劣化作用がアンモニアよりもむしろ大きいことがわかった。また、水とエチレングリコールとから成る混合溶媒に、これらの塩基性化合物と、アジピン酸と、リンオキソ酸イオン生成性化合物としてのリン酸と、キレート化剤としてのジエチレントリアミン五酢酸とを溶解させようとしたが、塩基性化合物としてヒドロキシルアミンを使用した場合のみ不溶物が残存し、アルミニウム電解コンデンサ用電解液として使用可能な液を得ることができなかった。
これらの知見から、アルミニウム電解コンデンサに対する低インピーダンス化及び長寿命化の要請に応えるためには、アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物として疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンのみを使用することが不可欠であると判断された。この疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンにより、電解液の比抵抗の大幅な上昇を回避することができる上に、アルミニウム電解コンデンサの陽極及び陰極のアルミニウムの溶解、水酸化物等の生成とこれに伴う水素ガスの発生を抑制することができる。さらに、リンオキソ酸イオンと水溶性アルミニウムキレート錯体との結合体を電解液中に共存させることにより、この結合体が電解液に溶解した状態或いは電極箔に付着した状態で電解液中のリンオキソ酸イオンと化学平衡を保ち、電解液中にリンオキソ酸イオンを適量で存在させる時間を長期化させることができるため、このリンオキソ酸イオンによっても、アルミニウム電解コンデンサの陽極及び陰極のアルミニウムの溶解、水酸化物等の生成とこれに伴う水素ガスの発生を抑制することができる。そして、疎水性置換基を有するアミンと上記結合体との複合効果により、陽極及び陰極のアルミニウムの溶解、水酸化物等の生成及び水素ガスの発生が驚くほど抑制される。その結果、電解液の低比抵抗化のために、電解液の水含有量を増加させ、アジピン酸をカルボン酸電解質として多量に使用しても、極めて長寿命なアルミニウム電解コンデンサを得ることができる。
本発明の電解液では、上記混合溶媒に溶解する電解質として、アジピン酸に加えて、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、及びテトラデカン二酸から成る群から選択された少なくとも1種の長鎖ジカルボン酸を溶解するのが好ましい。
これらの長鎖ジカルボン酸は、単に電解質として作用しているだけでなく、疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンと同様に、陽極及び陰極からのアルミニウムの溶出を抑制することがわかっている(本出願時には未公開であるPCT/JP2009/003262の国際公開公報及び特願2010−084657の公開公報参照)。この抑制作用は、これらの長鎖ジカルボン酸がアルミニウム電解コンデンサの陽極及び陰極の表面に付着して保護層を形成することによりもたらされていると考えられる。
特にアゼライン酸は、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、及びテトラデカン二酸と比較して、上記混合溶媒への溶解量が多く、電解液の低比抵抗化にも貢献するため好ましい。また、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸は、アゼライン酸に比較して上記混合溶媒に溶解しにくいため電解液の低比抵抗化の点では不利であるが、アゼライン酸のモル量の約1/10だけ電解液中に添加しただけでアルミニウム電解コンデンサを長寿命へと導くため経済的に有利であり、約2倍モル量のセバシン酸又はテトラデカン二酸よりも優れた溶出抑制効果を示すため好ましい。
ところで、低圧用のアルミニウム電解コンデンサのためには、電解液の30℃における比抵抗が100Ωcm以下である電解液が望ましく、とくに50WV級以下のコンデンサのためには、電解液の30℃における比抵抗が70Ωcm以下、好ましくは50Ωcm以下である電解液が望ましい。
この低圧用のアルミニウム電解コンデンサのために好適な比抵抗が低い電解液を得るためには、塩基性化合物として、モノメチルアミン、モノエチルアミン及びジメチルアミンからなる群から選択された少なくとも1種の化合物を使用するのが好ましい。これらのアミンは塩基性化合物としてアンモニアを使用した電解液と略同等の低い比抵抗を示す電解液を与える。
また、低圧用のアルミニウム電解コンデンサのために好適である比抵抗が低い電解液を得るためには、電解液における水の含有量は、全体の35〜70質量%、好ましくは45〜60質量%の範囲である。電解液全体に対する水の含有量が35質量%未満では、アジピン酸の解離が十分でなくなるために電解液の比抵抗が上昇する傾向にあり、また電解液の粘度が高くなって取り扱いにくくなる。電解液全体に対する水の含有量が70質量%を超えると、本発明の電解液における他の要件が満たされていても高温無負荷試験における寿命が短縮する傾向にある。
アジピン酸は、電解液に対して50℃での飽和溶解量まで添加することができる。通常のアルミニウム電解コンデンサの使用条件下ではコンデンサ内の電解液の温度が50℃以上であるので、通常のコンデンサの使用条件下ではアジピン酸は電解液に完全に溶解して電解質として作用する。アジピン酸が上記電解液における50℃での飽和溶解量より多いと、低温でのアジピン酸の電解液からの析出が顕著になるため好ましくない。アジピン酸の電解液に対する50℃での飽和溶解量は、共存する他の成分の種類と量によっても多少変化するが、本発明では、水とエチレングリコールとから成る混合溶媒に、アジピン酸以外の成分を溶解した液を調製し、この液を70℃に加温した状態で所望量のアジピン酸を添加して溶解させた後、液の温度を50℃に低下させ、50℃で1時間放置後にも沈殿物が認められなかった場合に、添加したアジピン酸は上記電解液における50℃での飽和溶解量以下の量であるとした。
水の含有量が少ないほど比抵抗の低い電解液を得るためには多くのアジピン酸が必要となるが、低圧用のアルミニウム電解コンデンサのために好適である比抵抗が低い電解液を得るためには、アジピン酸の含有量は、少なくとも電解液全体の8質量%以上であり、好ましくは10〜12質量%の範囲である。電解液全体に対するアジピン酸の含有量が8質量%未満では、電解質量の減少により電解液の比抵抗が上昇する傾向にある。
そして、水の含有量が電解液全体の35〜70質量%、好ましくは45〜60質量%であり、アジピン酸の含有量が、電解液全体の8質量%から50℃での飽和溶解量の範囲、好ましくは10〜12質量%の範囲であると、低圧用のアルミニウム電解コンデンサのために好適である、30℃における比抵抗が100Ωcm以下、好ましくは70Ωcm以下、特に好ましくは50Ωcm以下の電解液が得られ、この電解液の使用により、低インピーダンス特性を有し且つ極めて長寿命な、特に105℃無負荷試験8000時間経過後も安全弁が開弁しない、低圧用アルミニウム電解コンデンサに対する現在の低抵抗化及び長寿命化の要請に十分に答えることができるアルミニウム電解コンデンサが得られる。
本発明において、上記リンオキソ酸イオン生成性化合物は、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、及びこれらと疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩;リン酸及びアルキルリン酸のエステル、ホスホン酸及びジホスホン酸のエステル及び誘導体、ホスフィン酸エステル、及びこれらと疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩;並びにこれらの縮合体及びこれらの縮合体と疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩;から成る群から好適に選択することができ、上記キレート化剤は、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、α−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシマロン酸、α−メチルリンゴ酸、ジヒドロキシ酒石酸、γ−レゾルシル酸、β−レゾルシル酸、トリヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸、ジヒドロキシフタル酸、フェノールトリカルボン酸、アルミノン、エリオクロムシアニンR、スルホサリチル酸、タンニン酸、ジシアンジアミド、ガラクトース、グルコース、リグノスルホン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、及びこれらと疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩から成る群から好適に選択することができる。
本発明の電解液をアルミニウム電解コンデンサ内に導入することにより、低インピーダンス特性を有し且つ寿命の長いアルミニウム電解コンデンサが得られる。したがって、本発明はまた、表面に酸化アルミニウム皮膜を有するアルミニウム箔からなる陽極と、アルミニウム箔からなる陰極と、陽極と陰極との間に配置された電解液を保持したセパレータとを備えたアルミニウム電解コンデンサであって、電解液として上述した本発明の電解液が使用されており、従って、コンデンサの電解液中に、カルボン酸電解質としてのアジピン酸と、アジピン酸との塩を構成可能な疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンと、リンオキソ酸イオンと水溶性アルミニウムキレート錯体との結合体とが含まれていることを特徴とするアルミニウム電解コンデンサを提供する。
水とエチレングリコールとから成る混合溶媒に、水溶液中でリンオキソ酸イオンを生成可能なリンオキソ酸イオン生成性化合物と、アルミニウムに配位することにより水溶性アルミニウムキレート錯体を形成可能なキレート化剤とを溶解させ、電解液の低比抵抗化のために有用なカルボン酸電解質としてアジピン酸を溶解させ、さらに、アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物として、電極劣化抑制作用を有する疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンを使用し、このアミンを液に添加してpHを5.6〜7.0の範囲に調整した本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電解液によると、アルミニウム電解コンデンサ内に導入された電解液中にリンオキソ酸イオンと水溶性アルミニウムキレート錯体との結合体が形成され、この結合体と疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの複合効果により、アルミニウム電解コンデンサの陽極及び陰極のアルミニウムの溶解、水酸化物等の生成とこれに伴う水素ガスの発生が驚くほど抑制される。その結果、本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電解液の使用により、低インピーダンス特性を有し、且つ従来のコンデンサより寿命の長いアルミニウム電解コンデンサが得られる。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電解液は、水とエチレングリコールとから成る混合溶媒に、カルボン酸電解質としてのアジピン酸と、アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物と、水溶液中でリンオキソ酸イオンを生成可能なリンオキソ酸イオン生成性化合物と、アルミニウムに配位することにより水溶性アルミニウムキレート錯体を形成可能なキレート化剤とを溶解させた電解液であって、上記塩基性化合物として疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンのみを含み、電解液のpHが5.6〜7.0の範囲であることを特徴とする。
本発明の電解液では、溶媒として、水とエチレングリコールとからなる混合溶媒を使用する。水とエチレングリコールとの混合溶媒は、各種溶質の溶解度が高く、温度特性に優れる電解液を与える。
本発明の電解液における水の含有量は、電解液全体の35〜70質量%であるのが好ましく、45〜60質量%であるのが特に好ましい。電解液全体に対する水の含有量が35質量%未満では、アジピン酸の解離が十分でなくなるために電解液の比抵抗が上昇する傾向にあり、また電解液の粘度が高くなって取り扱いにくくなる。電解液全体に対する水の含有量が70質量%を超えると、本発明の電解液における他の要件が満たされていても、高温無負荷試験における寿命が短縮する傾向にある。電解液における水の含有量が全体の35〜70質量%、好ましくは45〜60質量%であると、この電解液の使用により、低インピーダンス特性を有し且つ極めて長寿命な、特に高温無負荷試験においても長寿命なアルミニウム電解コンデンサを得ることができる。電解液における上記混合溶媒の含有量は、アジピン酸の溶解度の観点から、電解液全体の60〜90質量%であるのが好ましい。
本発明の電解液は、カルボン酸電解質として、アジピン酸を使用する。アジピン酸は、酸の形態で上記混合溶媒に溶解させても良く、後に詳述する疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩の形態で上記混合溶媒に溶解させても良い。アジピン酸には電極劣化抑制作用を期待することはできないが、アルミニウム電解コンデンサの低インピーダンス化のためには好適である。
アジピン酸は、電解液に対して50℃での飽和溶解量まで添加することができる。通常のアルミニウム電解コンデンサの使用条件下ではコンデンサ内の電解液の温度が50℃以上であるので、通常のコンデンサの使用条件下ではアジピン酸は電解液に完全に溶解して電解質として作用する。アジピン酸が上記電解液における50℃での飽和溶解量より多いと、低温でのアジピン酸の電解液からの析出が顕著になるため好ましくない。アルミニウム電解コンデンサ内の電解液からアジピン酸が析出すると、電解液のpHが大きくなり、電極箔のアルミニウムの溶解が進行する場合がある。これらの化合物の含有量が50℃での飽和溶解量以下であれば、低温でアジピン酸が析出しても、電解液のpHが電極箔のアルミニウムの溶解を進行させるほどには変化しない。
水の含有量が少ないほど比抵抗の低い電解液を得るためには多くのアジピン酸が必要となるが、本発明の電解液において、アジピン酸の含有量は、少なくとも電解液全体の8質量%以上であるのが好ましく、10〜12質量%の範囲であるのが特に好ましい。アジピン酸が電解液全体に対して8質量%未満では、電解質量の減少により電解液の比抵抗が上昇する傾向にある。
水の含有量が電解液全体の35〜70質量%、好ましくは45〜60質量%である電解液において、アジピン酸の含有量が、電解液全体の8質量%から50℃での飽和溶解量の範囲、好ましくは10〜12質量%の範囲であると、低圧用のアルミニウム電解コンデンサのために好適な30℃における比抵抗が100Ωcm以下、好ましくは70Ωcm以下、特に好ましくは50Ωcm以下の電解液が得られ、この電解液の使用により、低インピーダンス特性を有し且つ極めて長寿命な、特に105℃無負荷試験8000時間経過後も安全弁が開弁しないアルミニウム電解コンデンサを得ることができる。
本発明の電解液では、アジピン酸に加えて、電解質として作用しうるアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、及びテトラデカン二酸から成る群から選択された少なくとも1種の長鎖ジカルボン酸を溶解するのが好ましい。これらの長鎖ジカルボン酸は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良く、酸の形態で上記混合溶媒に溶解させることができ、後に詳述する疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩の形態で上記混合溶媒に溶解させることもできる。これらの長鎖ジカルボン酸は、単に電解質として作用しているだけでなく、疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンと同様に、陽極及び陰極からのアルミニウムの溶出を抑制することがわかっている。この抑制作用は、これらの長鎖ジカルボン酸がアルミニウム電解コンデンサの陽極及び陰極の表面に付着して保護層を形成することによりもたらされていると考えられる。
特にアゼライン酸は、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、及びテトラデカン二酸と比較して、上記混合溶媒への溶解量が多く、電解液の低比抵抗化にも貢献するため好ましい。アゼライン酸は、アジピン酸の約1/4の質量まで電解液に添加することができる。セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、及びテトラデカン二酸は、アゼライン酸に比較して上記混合溶媒に溶解しにくいため、電解液の低比抵抗化の点では不利であるが、50℃での飽和溶解量まで電解液に添加することができる。特に、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸は、アゼライン酸のモル量の約1/10だけ電解液中に添加しただけでアルミニウム電解コンデンサを長寿命へと導くため経済的に有利であり、約2倍モル量のセバシン酸又はテトラデカン二酸よりも優れた溶出抑制効果を示すため好ましい。
本発明の電解液では、アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物として、疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンのみを使用し、このアミンによって電解液のpHを5.6〜7.0、好ましくは5.7〜6.4の範囲に調整する。疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンも、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良く、アミンの形態で上記混合溶媒に溶解させることができ、少なくとも一部をアジピン酸及び/又は上述した長鎖ジカルボン酸との塩の形態で電解液に導入することもできる。pHが5.6未満であるか或いは7.0より大きいと、電極箔の劣化により電解コンデンサに対する長寿命化の要請に応えられない場合がある。また、pHが7.0より大きいと、初期の漏れ電流が大きくなるため好ましくない。
本発明では、アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物として、アンモニアを使用せず、ヒドロキシルアルキル基などの非疎水性置換基を有するアミン(ヒドロキシルアミン、ジエタノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタンなど)を使用せず、第3級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミンなど)を使用しない。疎水性置換基を有する第1級アミン及び第2級アミンは、第3級アミンに比較して電解液の比抵抗を上昇させる作用が少ない(実施例1〜4及び比較例4参照)。電解液の比抵抗を上昇させる作用が大きい第3級アミンを使用して低比抵抗を有する電解液を得ようとすると、より多くの水及びアジピン酸が必要となる。しかし、この増量した水及びアジピン酸は電極箔を劣化させる。したがって、低比抵抗を有する電解液を得るためには、第1級アミン及び/又は第2級アミンの使用が好ましい。また、図1に示したように、疎水性置換基を有する第1級アミン及び第2級アミンは、アルミニウム電解コンデンサの電極箔からのアルミニウムの溶出を効果的に抑制する。
第1級アミンの例としては、アルキルアミン、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、t−ブチルアミン;アリールアミン、例えば、アニリン、キシリルアミン、1−ナフチルアミンを挙げることができる。第2級アミンの例としては、ジアルキルアミン、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N−メチルエチルアミン、メチルn−プロピルアミン、メチルイソプロピルアミン、エチルn−プロピルアミン、エチルイソプロピルアミン、ジn−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジn−ブチルアミン、N−エチルイソブチルアミン、ジt−ブチルアミン;ジアリールアミン、例えば、ジフェニルアミン、ジキシリルアミン、N−フェニルナフチルアミン;アルキルアリールアミン、例えば、N−メチルフェニルアミン、N−エチルフェニルアミン、N−メチルナフチルアミン;脂環式アミン、例えば、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン;を挙げることができる。
なかでも、アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物として、モノメチルアミン、モノエチルアミン及びジメチルアミンからなる群から選択された少なくとも1種の化合物を使用するのが好ましい。これらのアミンは、他の疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンに比較して、低い比抵抗を示す電解液を与え、塩基性化合物としてアンモニアを使用した電解液と略同等の比抵抗を示す電解液を与える。
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電解液は、さらに、水溶液中でリンオキソ酸イオンを生成可能なリンオキソ酸イオン生成性化合物を含有する。
リンオキソ酸イオン生成性化合物としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、及びこれらと疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩;リン酸及びアルキルリン酸のエステル、ホスホン酸及びジホスホン酸のエステル及び誘導体、ホスフィン酸エステル、及びこれらと疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩;並びにこれらの縮合体及びこれらの縮合体と疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩から選択して使用することができる。リンオキソ酸イオン生成性化合物としての塩も、疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩が選択され、塩を構成する第1級アミン及び/又は第2級アミンは上で例示したものを使用することができる。
まず、リンオキソ酸イオン生成性化合物として、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸及びこれらと疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩を用いることができる。リン酸及びその塩は、水溶液中で分解してリン酸イオンを生じる。また、亜リン酸、次亜リン酸、及びこれらの塩は、水溶液中で、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、これらの異性体であるホスホン酸イオン、ホスフィン酸イオンを生じ、さらにアルミニウム電解コンデンサの陽極での酸化を介してリン酸イオンを生ずる。
また、リンオキソ酸イオン生成性化合物として、リン酸エチル、リン酸ジエチル、リン酸ブチル、リン酸ジブチル等のリン酸及びアルキルリン酸のエステル;ホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、フェニルホスホン酸等のホスホン酸及びジホスホン酸、ホスホン酸及びジホスホン酸のエステル及び誘導体;メチルホスフィン酸等のホスフィン酸、ホスフィン酸ブチル等のホスフィン酸エステル;及び、これらと疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩を使用することができる。これらのうちで好ましいのは、リン酸ジブチル、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、又はこれらの塩である。
また、リンオキソ酸イオン生成性化合物として、リン酸の縮合体である縮合リン酸及びこれらと疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩が用いられる。この縮合リン酸としては、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸等の直鎖状の縮合リン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸等の環状の縮合リン酸、及びこのような鎖状、環状の縮合リン酸が結合したものを用いることができる。これらのうちで好ましいのは、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸及びこれらの塩であり、さらに好ましいのは、ピロリン酸、トリポリリン酸及びこれらの塩であり、最も好ましいのは、トリポリリン酸及びその塩とである。
さらに、上述のリンオキソ酸イオン生成性化合物の縮合体又はこの縮合体と疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩を使用することもできる。
上述のリンオキソ酸イオン生成性化合物は、水溶液中でリン酸イオンを生ずるか、若しくは、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、これらの異性体であるホスホン酸イオン、ホスフィン酸イオンを生じ、さらにアルミニウム電解コンデンサの陽極での酸化を介してリン酸イオンを生ずる。
これらの中でも、容易にリン酸イオンを生ずるリン酸及びリン酸と疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩、縮合リン酸、及びリン酸の誘導体、例えばリン酸及びアルキルリン酸のエステル、が好ましい。さらに、添加量に対して比較的速やかに多くのリン酸イオンを生じるリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の直鎖状の縮合リン酸及びこの縮合リン酸と疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩も好ましい。なお、これらのリンオキソ酸イオン生成性化合物以外でも、水溶液中でリンオキソ酸イオンを生ずる物質であり、且つ、塩である場合には、塩を構成する塩基性化合物として疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンのみを含む物質であれば、本発明の効果を得ることができる。
リンオキソ酸イオン生成性化合物も、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用しても良い。リンオキソ酸イオン生成性化合物の量は、電解液全体の0.01〜5.0質量%、好ましくは0.2〜3.0質量%である。この範囲外では効果が低減する。
アルミニウム電解コンデンサ用電解液は、さらに、アルミニウムに配位することにより水溶性アルミニウムキレート錯体を形成可能なキレート化剤を含有する。
上記キレート化剤としては、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、α−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシマロン酸、α−メチルリンゴ酸、ジヒドロキシ酒石酸等のα−ヒドロキシカルボン酸類、γ−レゾルシル酸、β−レゾルシル酸、トリヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸、ジヒドロキシフタル酸、フェノールトリカルボン酸、アルミノン、エリオクロムシアニンR等の芳香族ヒドロキシカルボン酸類、スルホサリチル酸等のスルホカルボン酸類、タンニン酸等のタンニン類、ジシアンジアミド等のグアニジン類、ガラクトース、グルコース等の糖類、リグノスルホン酸塩等のリグニン類、そして、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)等のアミノポリカルボン酸類、及びこれらと疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩を挙げることができる。キレート化剤としての塩も、疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩が選択され、塩を構成する第1級アミン及び/又は第2級アミンは上で例示したものを使用することができる。
これらのうちで好ましいのは、アルミニウムとのキレート錯体を形成しやすい、タンニン酸、トリヒドロキシ安息香酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、アウリントリカルボン酸、γ−レゾルシル酸、DTPA、EDTA、GEDTA、HEDTA、TTHA、及びこれらと疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩であり、さらに好ましいのは、タンニン酸、トリヒドロキシ安息香酸、クエン酸、酒石酸、γ−レゾルシル酸及びアウリントリカルボン酸、DTPA、GEDTA、HEDTA、TTHA、及びこれらと疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの塩である。
これらのキレート化剤も、単一の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用しても良い。そして、これらのキレート化剤の添加量は、電解液全体の0.01〜3.0質量%、好ましくは0.1〜2.0質量%である。この範囲外では効果が低減する。
電解液作成時に添加するキレート化剤とリンオキソ酸イオン生成性化合物は、電解液中のキレート化剤とリンオキソ酸イオンが、モル比にしてキレート化剤:リンオキソ酸イオン=1:20〜3:1、好ましくは、1:10〜1:1になるように添加される。キレート化剤がこの比率より少ないとアルミニウム電解コンデンサの漏れ電流特性が低下する。また、キレート化剤がこの比率より多いと、理由は定かではないがアルミニウム電解コンデンサの高温寿命特性が劣化する。
電解液にアルミニウムイオンが共存すれば、上記キレート化剤とリンオキソ酸イオン生成性化合物から生成したリンオキソ酸イオンとアルミニウムイオンとの反応により、リンオキソ酸イオンと水溶性アルミニウムキレート錯体との結合体が電解液中に形成される。アルミニウム塩などの添加により電解液に予めアルミニウムイオンを含有させることにより、電解液中にリンオキソ酸イオンと水溶性アルミニウムキレート錯体との結合体を形成させ、この電解液をアルミニウム電解コンデンサ内に導入することができる。しかしながら、キレート化剤とリンオキソ酸イオン生成性化合物を含有しているがアルミニウムイオンを含有していない電解液をアルミニウム電解コンデンサ内に導入しても、アルミニウムイオンが電極箔から溶出するため、アルミニウム電解コンデンサ内の電解液にはリンオキソ酸イオンと水溶性アルミニウムキレート錯体との結合体が含まれることになる。そして、この結合体が電解液に溶解した状態或いは電極箔に付着した状態で電解液中のリンオキソ酸イオンと化学平衡を保ち、電解液中のリンオキソ酸イオンを適量に保つ。その結果、電解液中のリンオキソ酸イオンと結合体中のリンオキソ酸イオンが、コンデンサの放置後長期間にわたって検出される。この電解液中に適量存在するリンオキソ酸イオンが、陽極及び陰極のアルミニウムの溶解、アルミニウムの水酸化物等の生成を抑制し、水素の発生を抑制するので、アルミニウム電解コンデンサの放置特性が向上する。そして、本発明の電解液では、この結合体と疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとの複合効果により、さらには、上記結合体と疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンとアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、及びテトラデカン二酸から選択された長鎖ジカルボン酸との複合効果により、陽極及び陰極のアルミニウムの溶解、水酸化物等の生成及び水素ガスの発生が驚くほど抑制される。
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電解液は、本発明の効果に悪影響を与えない範囲内で、上述の各成分に加えて他の成分を含んでいても良い。
例えば、本発明の電解液の溶媒は、水とエチレングリコールのみから成るのが好ましいが、本発明の効果に悪影響を与えない少量であれば、他の有機溶媒、例えば、プロトン性極性溶媒である一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール及びオキシアルコール化合物類(プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1,3−ブタンジオール、メトキシプロピレングリコール等)、非プロトン性溶媒であるアミド類(N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等)、ラクトン類、環状アミド類、カーボネート類(γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、ニトリル類(アセトニトリル)、オキシド類(ジメチルスルホキシド等)が1種以上含まれていても良い。
また、本発明の電解液のカルボン酸電解質は、アジピン酸のみ或いはアジピン酸と上記長鎖ジカルボン酸の混合物のみから成るのが好ましいが、本発明の効果に悪影響を与えない少量であれば、これらの化合物以外のカルボン酸、例えば、酢酸、ブタン酸、コハク酸、ピメリン酸、マロン酸、安息香酸、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、トルイル酸、エナント酸、1,6−デカンジカルボン酸、5,6−デカンジカルボン酸等の分枝状デカンジカルボン酸、1,7−オクタンジカルボン酸等の分枝状オクタンジカルボン酸が1種以上含まれていても良い。
また、カルボン酸以外の電解質として、ホウ酸、ホウ酸と多価アルコールより得られるホウ酸の多価アルコール錯化合物、炭酸、ケイ酸等の無機酸を含んでいても良く、耐電圧の向上を図る目的で、マンニット、ノニオン性界面活性剤、コロイダルシリカ等を電解液に添加しても良い。
さらに、特に高温下で急激に発生する水素を吸収する目的で、p−ニトロフェノール、m−ニトロフェノール、o−ニトロフェノール、p−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、o−ニトロ安息香酸、p−ニトロアニソール、m−ニトロアニソール、o−ニトロアニソールなどのニトロ化合物を含んでいても良い。
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電解液は、水とエチレングリコールとから成る混合溶媒に、カルボン酸電解質としてのアジピン酸と、アジピン酸との塩を構成可能な疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンと、水溶液中でリンオキソ酸イオンを生成可能なリンオキソ酸イオン生成性化合物と、アルミニウムに配位することにより水溶性アルミニウムキレート錯体を形成可能なキレート化剤を、必要に応じて、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、及びテトラデカン二酸から選択された長鎖ジカルボン酸及び/又は他の添加物と共に溶解することによって得ることができる。電解液のpHは、アジピン酸等の酸成分及び疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンの量を調整することにより、5.6〜7.0、好ましくは5.7〜6.4の範囲に調整される。
上述の本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電解液は、陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に配置された電解液を保持したセパレータとを備えたアルミニウム電解コンデンサにおいて好適に使用される。
陽極及び陰極を構成する高純度アルミニウム箔には、その表面積を増大させるため、化学的或いは電気化学的なエッチング処理が施され、次いで、陽極を構成するアルミニウム箔に対して化成処理が施され、表面に酸化アルミニウム皮膜が形成される。化成処理は、ホウ酸アンモニウム水溶液、アジピン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液等の化成液を使用して行われる。
このようにして得られた陽極及び陰極間に、マニラ麻、クラフト紙等のセパレータを介在させてコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電解液を含浸させ、さらに密封ケース内に収容してアルミニウム電解コンデンサを構成する。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されない。
アルミニウム電解コンデンサの作成
純度99.9%の帯状のアルミニウム箔にエッチング処理を施して拡面処理した後、アルミニウム箔をアジピン酸アンモニウム溶液(濃度:150g/L、pH4.7〜7.0)で化成電圧13Vの条件で30分間化成処理し、表面に酸化アルミニウム皮膜を形成した。
上記陽極と、純度99.9%の帯状のアルミニウム箔にエッチング処理を施して拡面処理した陰極とを、マニラ麻のセパレータを介して巻回し、以下の表1〜表5に示す電解液を含浸させ、有底筒状のアルミニウムよりなる外装ケースに収納し、外装ケースの開口端部に、ブチルゴム製の封口体を挿入し、さらに外装ケースの端部を絞り加工して電解コンデンサの封口を行い、径10mm、高さ20mm、定格6.3V、2200μFのアルミニウム電解コンデンサを作成した。なお、表1〜表5に示す電解液におけるアジピン酸その他の溶質はいずれも50℃の電解液に完全に溶解していた。
アルミニウム電解コンデンサの特性評価
得られたアルミニウム電解コンデンサについて、初期の120Hzにおける静電容量及び誘電損失(tanδ)、インピーダンス、2分後における漏れ電流と、105℃無負荷試験8000時間経過後の誘電損失とを評価した。また、105℃無負荷試験8000時間前に開弁に至ったコンデンサについては、開弁に至った時間を寿命として記録した。105℃無負荷試験前後の誘電損失の変化率が大きいほどコンデンサの寿命が短くなる傾向にある。また、誘電損失の変化率が200%を超えると、その後早期に開弁に至ることもわかっている。
(1)塩基性化合物の種類の影響
アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物の種類が異なる電解液を使用してアルミニウム電解コンデンサを作成し、特性評価を行った。以下の表1に、各アルミニウム電解コンデンサに使用した電解液の組成、塩基性化合物の種類、電解液の30℃でのpHと比抵抗、アルミニウム電解コンデンサの初期の静電容量、インピーダンス、漏れ電流及び誘電損失(tanδ)、105℃無負荷試験8000時間後の誘電損失、8000時間経過前後の誘電損失の変化率及びコンデンサが開弁した場合には開弁に至った時間をまとめて示す。
電解液中に、疎水性置換基を有する第2級アミンとしてのジメチルアミンと、リン酸とジエチレントリアミン五酢酸と電極箔から溶出したアルミニウムイオンとから形成されるリンオキソ酸イオンと水溶性アルミニウムキレート錯体との結合体(以下、リンオキソ酸イオンと水溶性アルミニウムキレート錯体との結合体を、単に「結合体」と表す。)とを含む実施例1のコンデンサは、105℃無負荷試験8000時間経過後も安全弁が開弁せず、誘電損失の変化も少なかった。また、電解液中に疎水性置換基を有する第1級アミン又は第2級アミンと結合体との両方を含む実施例2〜4のコンデンサにおいても、105℃無負荷試験8000時間経過後も安全弁が開弁しなかった。しかしながら、電解液中にジメチルアミンを含むものの結合体を含まない比較例6のコンデンサは、105℃無負荷試験2500時間経過後には開弁した。このことから、電解液中に併存する疎水性置換基を有する第1級アミン又は第2級アミンと結合体との複合効果により、105℃無負荷試験8000時間を超えるコンデンサ寿命がもたらされていることがわかる。なお、コンデンサの寿命試験としては無負荷試験の方が負荷試験より過酷であることが良く知られているが、本発明のコンデンサは、105℃負荷試験においても8000時間を超える極めて長い寿命を示す。
実施例1〜4を比較すると、ジエチルアミンを含む実施例2における電解液は、ジメチルアミン、モノメチルアミン、モノエチルアミンを含む実施例1、3、4における電解液と比較して比抵抗が高かった。実施例1、3、4における電解液は、アンモニアとジメチルアミンとを併用した比較例1、2における電解液と略同等の低い比抵抗を示し、これらの電解液を使用したコンデンサは、105℃無負荷試験8000時間経過前後の誘電損失の変化が小さく、長寿命であった。したがって、コンデンサに対する低インピーダンス化及び長寿命化の要請に答えるためには、モノメチルアミン、モノエチルアミン又はジメチルアミンを塩基性化合物として使用すると有利であることがわかる。
比較例1〜3は、アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物として、アンモニア又はアンモニアとジメチルアミンとの混合物を使用した例である。電解液中に塩基性化合物としてアンモニアのみを含む比較例3のコンデンサは、105℃無負荷試験7000時間経過後に開弁した。電解液中にアンモニアとジメチルアミンとが併存している比較例1、2のコンデンサも、105℃無負荷試験8000時間経過後には、誘電損失の変化率が200%を超え、開弁間近であった。このことから、塩基性化合物としてアンモニアを全く使用しないことが有利であることがわかる。
比較例4は、アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物として、第3級アミンであるトリエチルアミンを使用した例である。比較例4における電解液は、実施例1〜4における電解液の比抵抗よりも一層高い比抵抗を示し、コンデンサに対する低インピーダンス化の要請に答えるためには、第3級アミンの使用は不利であることがわかる。
比較例5は、アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物として、ヒドロキシルアミンを使用した例である。電解液の調製過程で不溶物が発生し、使用可能な電解液が得られなかった。
これらの実施例及び比較例から把握されるように、電解液中に疎水性置換基を有する第1級アミン及び/又は第2級アミンと結合体とを併存させることにより、コンデンサに対する低インピーダンス化及び長寿命化の要請に答えることが可能となった。
(2)pHの影響
アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物としてジメチルアミンを使用し、その添加量によってpHを変更した電解液を使用してアルミニウム電解コンデンサを作成し、特性評価を行った。以下の表2に、各アルミニウム電解コンデンサに使用した電解液の組成、塩基性化合物の種類(ジメチルアミン)、電解液の30℃でのpHと比抵抗、アルミニウム電解コンデンサの初期の静電容量、インピーダンス、漏れ電流及び誘電損失(tanδ)、105℃無負荷試験8000時間後の誘電損失、及び8000時間経過前後の誘電損失の変化率をまとめて示す。
比較例7、8と実施例5〜7との比較から、pHが低すぎても高すぎてもコンデンサの寿命が短縮することがわかる。また、比較例8のコンデンサは、初期に大きな漏れ電流を示した。これらの結果と以下に示す実施例16、17の試験結果とを考慮し、pHの範囲を5.6〜7.0の範囲に調整すべきであることがわかった。
特に、実施例5〜7における電解液は50Ωcm以下の比抵抗を示し、これらの電解液を用いたコンデンサは105℃無負荷試験においても8000時間を超える極めて長い寿命を示した。したがって、これらのコンデンサは現在の要請に十分に答えるものであった。
(3)水含有量の影響
アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物としてジメチルアミンを用い、水の含有量を変更した電解液を使用してアルミニウム電解コンデンサを作成し、特性評価を行った。以下の表3に、各アルミニウム電解コンデンサに使用した電解液の組成、塩基性化合物の種類(ジメチルアミン)、電解液の30℃でのpHと比抵抗、アルミニウム電解コンデンサの初期の静電容量、インピーダンス、漏れ電流及び誘電損失(tanδ)、105℃無負荷試験8000時間後の誘電損失、及び8000時間経過前後の誘電損失の変化率をまとめて示す。
表3から把握されるように、電解液中の水含有量が増加するにつれて、比抵抗が大幅に減少した。実施例8〜15の全てのコンデンサが、105℃無負荷試験において8000時間を超える極めて長い寿命を示し、水を75%まで増量したコンデンサにおいても開弁は認められなかった。したがって、ジメチルアミンと結合体との複合効果により、極めて長い寿命がもたらされることがわかる。50WV級のコンデンサに対する70Ωcm以下の比抵抗と長寿命への要求を満足するためには、水含有量を35〜70質量%に調整するのが好ましい。
(4)アジピン酸含有量の影響
アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物としてジメチルアミンを用い、アジピン酸の含有量を変更した電解液を使用してアルミニウム電解コンデンサを作成し、特性評価を行った。以下の表4に、各アルミニウム電解コンデンサに使用した電解液の組成、塩基性化合物の種類(ジメチルアミン)、電解液の30℃でのpHと比抵抗、アルミニウム電解コンデンサの初期の静電容量、インピーダンス、漏れ電流及び誘電損失(tanδ)、105℃無負荷試験8000時間後の誘電損失、及び8000時間経過前後の誘電損失の変化率をまとめて示す。
表4から把握されるように、アジピン酸が電解液全体の8質量%以上存在すれば、100WV級コンデンサのために要求される100Ωcm以下の比抵抗を示す電解液が得られることがわかる。また、実施例16〜18の全てのコンデンサが、105℃無負荷試験において8000時間を超える極めて長い寿命を示した。
(5)アゼライン酸併用の影響
アジピン酸との塩を構成可能な塩基性化合物としてジメチルアミンを用い、アジピン酸とアゼライン酸との併用効果を調査した。以下の表5に、各アルミニウム電解コンデンサに使用した電解液の組成、塩基性化合物の種類(ジメチルアミン)、電解液の30℃でのpHと比抵抗、アルミニウム電解コンデンサの初期の静電容量、インピーダンス、漏れ電流及び誘電損失(tanδ)、105℃無負荷試験8000時間後の誘電損失、及び8000時間経過前後の誘電損失の変化率をまとめて示す。実施例22はアゼライン酸を併用しない場合の例であり、実施例19−21はアゼライン酸を併用した場合の例である。
アゼライン酸の含有量が増加するにつれて、電解液の比抵抗が低下し、同時に105℃無負荷試験8000時間経過前後の誘電損失の変化が小さくなった。特に、アゼライン酸を全体の1質量%或いは3質量%添加した電解液を用いた実施例19、20のコンデンサは、105℃無負荷試験8000時間経験後であっても、誘電損失の変化がほとんど認められなかった。このことから、ジメチルアミンと結合体とアゼライン酸との複合効果により、著しく長寿命で且つ低いインピーダンスを有するコンデンサが得られることがわかる。