JP4586949B2 - 電解コンデンサ用電解液とその製造方法、およびそれを用いた電解コンデンサ。 - Google Patents
電解コンデンサ用電解液とその製造方法、およびそれを用いた電解コンデンサ。 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は電解コンデンサ用電解液とその製造方法、およびそれを用いた電解コンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
電解コンデンサは一般的には以下のような構成を取っている。すなわち、帯状に形成された高純度のアルミニウム箔を化学的あるいは電気化学的にエッチングを行って拡面処理するとともに、拡面処理したアルミニウム箔をホウ酸アンモニウム水溶液等の化成液中にて化成処理することによりアルミニウム箔の表面に酸化皮膜層を形成させた陽極箔と、同じく高純度のアルミニウム箔を拡面処理した陰極箔をセパレータを介して巻回してコンデンサ素子が形成される。そしてこのコンデンサ素子には駆動用の電解液が含浸され、金属製の有底筒状の外装ケースに収納される。さらに外装ケースの開口端部は弾性ゴムよりなる封口体が収納され、さらに外装ケースの開口端部を絞り加工により封口を行い、電解コンデンサを構成する。
【0003】
そして、小型、低圧用の電解コンデンサの、コンデンサ素子に含浸される電解液としては、従来より、エチレングリコールを主溶媒とし、アジピン酸、安息香酸などのアンモニウム塩を溶質とするもの、または、γ−ブチロラクトンを主溶媒とし、フタル酸、マレイン酸などの四級化環状アミジニウム塩を溶質とするもの等が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、このような電解コンデンサを放置すると、静電容量が減少し、漏れ電流特性が劣化し、さらには、安全弁の開弁にいたることがあるという問題点があり、このような負荷もしくは無負荷での長時間経過後の特性である放置特性は、電解コンデンサの信頼性に大きな影響を与えている。
【0005】
そこで、長時間放置して劣化した電解コンデンサを分析したところ、電解液のpHが高くなっており、また、電極箔表面に溶質のアニオン成分が付着していることが分かった。このことから、電極箔表面のアルミニウムが溶質のアニオン成分と反応して電極箔に付着し、さらに、アルミニウムが溶解して水酸化物等となり、一部は溶質のアニオン成分と反応し、この際に水素ガスが発生する。この反応がくり返されて、pHが上昇し、電極箔の劣化、開弁にいたるということが明らかになった。
【0006】
ところで、リン酸がこのような電極箔の劣化の防止に効果があることはよく知られているが、十分なものではない。これは、このリン酸を電解液に添加しても、添加したリン酸は電解液中のアルミニウムと錯体を形成して電極箔に付着し、リン酸は電解液中から消失してしまうことによるものである。さらに、添加量が多過ぎると、漏れ電流が増大するという問題もある。ところが、リン酸イオンが消失する段階の適量残存している間は、電解コンデンサの特性は良好に保たれる。これらのことを明らかにしたことから、本発明にいたったもので、放置特性の良好な電解コンデンサ用電解液とその製造方法およびそれを用いた電解コンデンサを提供することをその目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の電解コンデンサ用電解コンデンサは、水溶性の金属錯体にリン酸イオンが結合した結合体を添加したことを特徴とする。
【0008】
そして、本発明の電解コンデンサ用電解液の製造方法は、キレート化剤と、溶媒中でリン酸イオンを生成する化合物と、金属または金属化合物とからなる溶液を作成し、キレート化反応とリン酸イオン結合反応を完結させて、水溶性の金属錯体にリン酸イオンが結合した結合体を生成した後、この結合体を電解液に添加することを特徴とする。
【0009】
ここで、前記の溶媒中でリン酸イオンを生成する化合物が、一般式(化2)で示されるリン化合物又はこれらの塩もしくはこれらの縮合体又はこれらの縮合体の塩であることを特徴とする。
【0010】
そして、本発明の電解コンデンサは、前記の電解コンデンサ用電解液を用いたことを特徴とする。
【0011】
また、前記の電解コンデンサ用電解液において金属錯体がアルミニウム錯体であり、その製造方法において金属または金属化合物がアルミニウムまたはアルミニウム化合物であることを特徴とする。
【化2】
(式中、R1 、R2 は、−H、−OH、−R3 、−OR4 :R3 、R4 は、アルキル基、アリール基、フェニル基、エーテル基)
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の電解コンデンサ用電解液は、水溶性の金属錯体にリン酸イオンが結合した結合体を添加している。そして、本発明の電解コンデンサ用電解液は、この製造直後から、水溶性の金属錯体にリン酸イオンが結合した結合体(以下、水溶性結合体)が、電解液中にリン酸イオンを徐々に放出し、電解液中のリン酸イオンを長期間にわたって適正量に保持する。そして、この電解コンデンサ用電解液を用いた電解コンデンサにおいては、この適正量に保持されたリン酸イオンによって、放置特性が良好となる。
【0013】
この水溶性結合体は、キレート化剤と金属または金属化合物と溶媒中でリン酸イオンを生成する化合物とを溶媒に溶解することによって得ることができる。この溶液中では、キレート化剤と溶媒中に溶解した金属イオンとが錯体を形成し、この錯体にリン酸イオンが結合して水溶性結合体が形成される。そして、この結合体を電解液に添加して本発明の電解コンデンサ用電解液が製造される。また、ここで用いる溶媒は、キレート化剤、金属または金属化合物、溶媒中でリン酸イオンを生成する化合物を溶解する溶媒であればよく、なかでも水、エチレングリコール、γ−ブチロラクトン等が好ましい。
【0014】
本発明に用いるキレート化剤としては、以下のものが挙げられる。すなわち、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、α−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシマロン酸、α−メチルリンゴ酸、ジヒドロキシ酒石酸等のα−ヒドロキシカルボン酸類、γ−レゾルシル酸、β−レゾルシル酸、トリヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸、ジヒドロキシフタル酸、フェノールトリカルボン酸、アウリントリカルボン酸、エリオクロムシアニンR等の芳香族ヒドロキシカルボン酸類、スルホサリチル酸等のスルホカルボン酸類、タンニン酸等の加水分解性タンニンや縮合型タンニンを含むタンニン類、ジシアンジアミド等のグアニジン類、ガラクトース、グルコース等の糖類、リグノスルホン酸塩等のリグニン類、そして、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)等のアミノポリカルボン酸類またはこれらの塩である。これらの中では、タンニン酸、グルコン酸、DTPA、GEDTA、TTHAが好適である。そして、これらの塩としては、アンモニウム塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等を用いることができる。
なお、これらのキレート化剤を二以上用いてもよい。
【0015】
金属としては、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、マンガン、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、バリウム、鉛、チタン、ニオブ、タンタル等、キレート化剤と錯体を形成する金属を用いることができる。また、金属化合物としては、酸化物、水酸化物、塩化物、また硫酸塩、炭酸塩等の金属塩など、溶媒中で金属イオンを生成する化合物を用いることができる。
【0016】
そして、水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物(以下、リン酸生成性化合物)を添加する。このリン酸生成性化合物として、一般式(化2)で示されるリン化合物又はこれらの塩もしくはこれらの縮合体又はこれらの縮合体の塩を挙げることができる。
【0017】
これらのリン酸生成性化合物としては、以下のものを挙げることができる。正リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、及びこれらの塩、これらの塩としては、アンモニウム塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩である。正リン酸及びこの塩は、水溶液中で分解してリン酸イオンを生じる。また、亜リン酸、次亜リン酸、及びこれらの塩は、水溶液中で分解して、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオンを生じ、その後に酸化してリン酸イオンとなる。
【0018】
また、リン酸エチル、リン酸ジエチル、リン酸ブチル、リン酸ジブチル等のリン酸化合物、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、フェニルホスホン酸等のホスホン酸化合物等が挙げられる。また、メチルホスフィン酸、ホスフィン酸ブチル等のホスフィン酸化合物が挙げられる。
【0019】
さらに、以下のような、縮合リン酸又はこれらの塩をあげることができる。ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸等の直鎖状の縮合リン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸等の環状の縮合リン酸、又はこのような鎖状、環状の縮合リン酸が結合したものである。そして、これらの縮合リン酸の塩として、アンモニウム塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩等を用いることができる。
【0020】
これらも、水溶液中でリン酸イオンを生ずるか、もしくは、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオンを生じ、その後に酸化してリン酸イオンとなる、リン酸生成性化合物である。
【0021】
なお、これらの中でも、容易にリン酸イオンを生ずる正リン酸またはその塩、縮合リン酸、またはリン酸化合物が好ましい。さらに、添加量に対して、比較的速やかに、多くのリン酸イオンを生ずる正リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の直鎖状の縮合リン酸、またはその塩が好ましい。なお、これらの化合物以外でも、水溶液中でリン酸イオンを生ずる物質であれば、本発明の効果を得ることができる。
【0022】
また、電解液に含まれる溶質としては、通常電解コンデンサ用電解液に用いられる、酸の共役塩基をアニオン成分とする、アンモニウム塩、アミン塩、四級アンモニウム塩および環状アミジン化合物の四級塩が挙げられる。アミン塩を構成するアミンとしては一級アミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン等)、二級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミン、ジフェニルアミン等)、三級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルアミン、1,8─ジアザビシクロ(5,4,0)─ウンデセン─7等)が挙げられる。第四級アンモニウム塩を構成する第四級アンモニウムとしてはテトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム等)、ピリジウム(1─メチルピリジウム、1─エチルピリジウム、1,3─ジエチルピリジウム等)が挙げられる。また、環状アミジン化合物の四級塩を構成するカチオンとしては、以下の化合物を四級化したカチオンが挙げられる。すなわち、イミダゾール単環化合物(1─メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4─ジメチル─2─エチルイミダゾール、1─フェニルイミダゾール等のイミダゾール同族体、1−メチル−2−オキシメチルイミダゾール、1−メチル−2−オキシエチルイミダゾール等のオキシアルキル誘導体、1−メチル−4(5)−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5(4)−アミノイミダゾール等のニトロおよびアミノ誘導体)、ベンゾイミダゾール(1−メチルベンゾイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルベンゾイミダゾール等)、2−イミダゾリン環を有する化合物(1─メチルイミダゾリン、1,2−ジメチルイミダゾリン、1,2,4−トリメチルイミダゾリン、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾリン、1−メチル−2−フェニルイミダゾリン等)、テトラヒドロピリミジン環を有する化合物(1−メチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン、1,2−ジメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ〔4.3.0〕ノネン−5等)等である。
【0023】
アニオン成分としては、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、安息香酸、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、蟻酸、1,6−デカンジカルボン酸、5,6−デカンジカルボン酸等のデカンジカルボン酸、1,7−オクタンジカルボン酸等のオクタンジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の有機酸、あるいは、硼酸、硼酸と多価アルコールより得られる硼酸の多価アルコール錯化合物、リン酸、炭酸、けい酸等の無機酸の共役塩基を挙げることができる。これらの中で好ましいのは、デカンジカルボン酸、オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、安息香酸、イソフタル酸、蟻酸等の有機カルボン酸、または、硼酸、硼酸の多価アルコール錯化合物である。
【0024】
そして、溶媒としては、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、水、及びこれらの混合物を用いることができる。プロトン性極性溶媒としては、一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール、ベンジルアルコール、等)、多価アルコール及びオキシアルコール化合物類(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1,3−ブタンジオール、メトキシプロピレングリコール等)などがあげられる。非プロトン性極性溶媒としては、アミド系(N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等)、ラクトン類(γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン等)、環状アミド類(N−メチル−2−ピロリドン等)、カーボネート類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、ニトリル類(アセトニトリル等)、オキシド類(ジメチルスルホキシド等)、2−イミダゾリジノン系〔1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジ(n−プロピル)−2−イミダゾリジノン等)、1,3,4−トリアルキル−2−イミダゾリジノン(1,3,4−トリメチル−2−イミダゾリジノン等)〕などが代表としてあげられる。
【0025】
ここで、通常、電解コンデンサ用電解液の溶媒が水を含んでいると電極箔の劣化は顕著になるが、この場合にも水溶性結合体からリン酸イオンが適正量放出されるので、本発明の電解コンデンサの放置特性は良好である。さらに、水を主成分とした溶媒を用いた場合にも放置特性が劣化することはなく、このような溶媒を用いることによって、電解コンデンサ用電解液の比抵抗が低減でき、そのことによって電解コンデンサの低インピーダンス化を図ることができる。ここで、溶媒中の水の含有率は、35〜100wt%、好ましくは、35〜65wt%である。この下限以上であるとインピーダンス特性が良好であり、この上限以下では低温特性が良好である。また、水を主成分とした溶媒を用いた場合、高電圧使用などの規格外の使用によってコンデンサが故障した際にも、発火が生じるなどの問題点がなく、耐環境性も良好である。
【0026】
そして、溶質としてアジピン酸またはその塩の少なくとも一種を用いると、さらにインピーダンスが低減する。このアジピン酸またはその塩の含有率は電解液中、5〜23wt%であり、好ましくは8〜18wt%である。この範囲以上では、比抵抗が低下し、この範囲以下では、低温特性が良好である。その他の上記溶質の含有率も電解液全体の約5〜23wt%、好ましくは8〜18wt%である。
【0027】
また、電解コンデンサの寿命特性を安定化する目的で、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン、ニトロベンジルアルコール、2−(ニトロフェノキシ)エタノール、ニトロアニソール、ニトロフェネトール、ニトロトルエン、ジニトロベンゼン等の芳香族ニトロ化合物を添加することができる。
【0028】
また、電解コンデンサの安全性向上を目的として、電解液の耐電圧向上を図ることができる非イオン性界面活性剤、多価アルコールと酸化エチレン及び/または酸化プロピレンを付加重合して得られるポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル化合物、ポリビニルアルコールを添加することもできる。
【0029】
また、本発明の電解コンデンサ用電解液に、硼酸、多糖類(マンニット、ソルビット、ペンタエリスリトールなど)、硼酸と多糖類との錯化合物、コロイダルシリカ等を添加することによって、さらに耐電圧の向上をはかることができる。
【0030】
また、漏れ電流の低減の目的で、オキシカルボン酸化合物等を添加することができる。
【0031】
以上の本発明の電解液を含有した電解コンデンサは、放置特性、すなわち、長期間にわたる負荷、無負荷試験後の特性が良好である。
【0032】
以下、本発明について説明する。本発明の電解コンデンサ用電解液は、水溶性の金属錯体にリン酸イオンが結合した結合体を添加しているが、この水溶性結合体によって、電解液中のリン酸イオンを長時間にわたって適正量に保つことができる。すなわち、電解液中のリン酸イオンは、電極箔から溶出するアルミニウムと反応して減少するが、この減少にともなって、水溶性結合体がリン酸イオンを放出して、電解液中のリン酸イオンを適正量に保つ作用をする。そして、この適正量のリン酸イオンはアルミニウムの溶解、またアルミニウムの水酸化物等の生成を抑制して、電極箔の劣化を抑制するので、電解コンデンサの放置特性が向上する。
【0033】
すなわち、電解液にリン酸イオンを添加したのみでは、リン酸イオンはアルミニウムと反応して電解液中から消失してしまうので、放置特性が劣化する。また、多量に添加した場合はさらに漏れ電流特性が劣化する。しかしながら、本発明の電解コンデンサにおいては、電解液中に適正量のリン酸イオンが長期間経過しても消失することなく存在して、良好な放置特性を維持することができ、漏れ電流特性も劣化することなく、良好である。
【0034】
以下の実験はこれらのことを明らかにした。本発明の電解コンデンサを分解し、コンデンサ素子に含浸された電解液を洗浄、除去した。その後、このコンデンサ素子にリン酸イオンを含まない電解液を含浸して電解コンデンサを作成したところ、この電解コンデンサの放置特性は良好であった。そして、この電解コンデンサの電解液からはリン酸イオンが検出され、アルミニウムはほとんど検出されなかった。すなわち、電極箔に付着した水溶性結合体が、リン酸イオンを含まない電解液中にリン酸イオンを放出し、その後も一定のリン酸イオンを長時間にわたって適正に保つことによって、コンデンサの放置特性を向上させたものである。また、このようにして作成した電解コンデンサについて、上記の操作を数度おこなっても、同じく、電解液からはリン酸イオンが検出され、電解コンデンサの放置特性は良好であった。なお、アルミニウム錯体が水溶性でない、つまり難溶性または不溶性の場合は、本発明のような電解液中のリン酸イオンを適正量に保つ作用がないためと思われるが、本発明の効果を得ることはできない。また、アルミ電解コンデンサについて説明したが、タンタル電解コンデンサ等、その他の電解コンデンサについても同様である。
【0035】
以上のように、本発明に用いる水溶性結合体はリン酸イオンを放出する特性を有している。ここで、錯体に結合し得るリン酸イオンの数はキレート化剤、金属の配位数によって異なるが、所望の特性が得られる適正な数だけ結合していることが好ましい。すなわち、水溶性結合体に結合したリン酸イオンが適正でないと、放置中に放出し得るリン酸イオンの数が減少して、所望の効果が得られない。
したがって、本発明のように、キレート化剤とリン酸生成性化合物と金属または金属化合物の溶液を作成して、この溶液中で水溶性の金属錯体にリン酸イオンが結合した結合体を生成することによって、キレート化反応及びリン酸イオン結合反応を完結させ、適正な数のリン酸イオンが結合した水溶性結合体を得ることができる。そして、この結合体を電解液に添加することによって、本発明の電解コンデンサ用電解液を製造することができる。これに対して、電解液中にキレート化剤、リン酸イオン生成性化合物、金属または金属化合物を添加しても、キレート化剤、電解液中で生成したリン酸イオンが電極箔と反応するので、金属錯体に結合するリン酸イオンの数の調整が難しい。したがって、電解液中のリン酸イオンを長時間にわたって適正に保つことはできず、所望の放置特性を得ることはできない。
【0036】
さらに、電解液中で水溶性結合体を生成するためにキレート化剤を電解液に添加すると、キレート化剤が電極箔を溶解してしまうことが判明している。しかしながら、本発明の電解液においてはキレート化反応が終了した水溶性結合体を添加するので、この結合体が電極箔を溶解するということもない。
【0037】
そして、本発明の電解液はpHが上昇せず、5〜7(水溶液として50倍に希釈して測定)に維持されていることが判明した。これは、電解液中に保持されたリン酸イオンによって、電極箔の溶解が抑制され、したがって、電解質のアニオン成分が電極箔と反応することが抑制されて、pHの上昇が抑制されているものと思われる。
【0038】
【実施例】
以下実施例を挙げて詳細に説明する。コンデンサ素子は陽極箔と、陰極箔をセパレータを介して巻回して形成する。陽極電極箔は、純度99.9%のアルミニウム箔を酸性溶液中で化学的あるいは電気化学的にエッチングして拡面処理した後、アジピン酸アンモニウムの水溶液中で化成処理を行い、その表面に陽極酸化皮膜層を形成したものを用いる。陰極箔として、純度99.9%のアルミニウム箔をエッチングして拡面処理した箔を用いた。
【0039】
上記のように構成したコンデンサ素子に、アルミ電解コンデンサの駆動用の電解液を含浸する。この電解液を含浸したコンデンサ素子を、有底筒状のアルミニウムよりなる外装ケースに収納し、外装ケースの開口端部に、ブチルゴム製の封口体を挿入し、さらに外装ケースの端部を絞り加工することによりアルミ電解コンデンサの封口を行う。
【0040】
ここで用いる電解液は以下のように作成した。まず水10部に(表1)に示すキレート化剤、金属化合物、リン酸二水素アンモニウムを添加し、キレート化反応及びリン酸イオン結合反応を完結させ、水溶性結合体を作成した。次いで、この水溶性結合体の水溶液を、(表2)に示す、水、エチレングリコール、アジピン酸アンモニウムからなる電解液に添加して、本発明の電解液を作成した。また、比較例1として、水10部に水酸化アルミニウム0.2部、リン酸二水素アルミニウム1部を添加した水溶液を作成し、この水溶液を(表1)の電解液に添加した。なお、組成は部で示した。その比抵抗を(表2)に示す。また、従来例として、γ−ブチロラクトン75部、フタル酸エチルジメチルイミダゾリニウム25部の電解液を用いた。比抵抗は81Ωcmであった。
【0041】
以上のように構成したアルミ電解コンデンサの高温寿命試験を行った。アルミ電解コンデンサの定格は、6.3WV−5600μFである。試験条件は、105°C、定格電圧負荷、無負荷、1000時間である。そして、試験後のコンデンサを分解し、その電極箔をpH7以上の緩衝溶液に浸漬、加熱してリン酸イオンを抽出し、その濃度を測定した。なお、リン酸イオン濃度の測定下限は1ppmである。それぞれの結果を(表3)〜(表4)に示す。
【0042】
【表1】
(注)TaA :タンニン酸〔CAS:1401−55−4〕
GluA:グルコン酸
DTPA:ジエチレントリアミン六酢酸
AlOH:水酸化アルミニウム
FeSO:硫酸第二鉄
NiSO:硫酸ニッケル
CaCO:炭酸カルシウム
2PA :リン酸二水素アンモニウム
【0043】
【表2】
(注)EG :エチレングリコール
AAd :アジピン酸アンモニウム
【0044】
【表3】
(注)Cap:静電容量(μF)、tanδ:誘電損失の正接、
LC:漏れ電流(μA)、ΔCap:静電容量変化率(%)
リン酸:リン酸濃度(ppm)
【0045】
【表4】
【0046】
(表2)〜(表4)ならびに従来例の特性から分かるように、実施例の比抵抗は18〜68Ωcmと、従来例の81Ωcmよりはるかに低く、初期のtanδも0.060〜0.081と、従来例の0.101より低い。
【0047】
そして、(表3)、(表4)から分かるように、実施例の1000時間経過後のリン酸濃度は、それぞれの試験条件で4〜12ppmであり、105℃の放置特性も良好であった。
【0048】
また、溶媒中の水の含有率が40〜85%である実施例1、3、5では、リン酸濃度は4〜12ppmであり、放置特性も良好である。さらに、アジピン酸アンモニウムの含有量が10〜18部の実施例2〜4でのリン酸濃度は5〜8ppmであり、放置特性も良好である。
【0049】
これに比べて、リン酸水素二アンモニウムのみを添加した比較例2、3は、それぞれ、電解液に、50ppm、10000ppmのリン酸水素二アンモニウムを添加したが、開弁にいたっており、さらに、開弁した時点での電解液からはリン酸根が検出されない。このことは電解液中のリン酸イオンが消失したことを示している。また、リン酸水素二アンモニウムを1.2部添加した比較例3の初期の漏れ電流は高い。
【0050】
さらに、水酸化アルミニウムとリン酸水素二アンモニウムを反応させて得た水溶液を添加した比較例1でも、開弁にいたっており、さらに、開弁した時点での電解液からはリン酸根が検出されず、本発明の水溶性結合体の効果が分かる。
【0051】
また、キレート化剤のみを電解液に添加した電解コンデンサについて、電極箔の皮膜電圧を測定したところ、皮膜電圧が低下していた。これはキレート化剤によって電極箔の酸化皮膜が溶解したことを示している。これに対して、実施例ではこのような皮膜電圧の低下は見られない。さらに、初期の漏れ電流も良好である。これらから、あらかじめ作成した水溶性結合体の水溶液にはキレート化剤及び過剰のリン酸が含まれず、キレート化反応及びリン酸イオンの結合反応が完結していることが分かる。
【0052】
【発明の効果】
以上のように、本発明においては、水溶性の金属錯体にリン酸イオンが結合した結合体を電解コンデンサ用電解液に添加しているので、電解液中のリン酸イオンを適正量に長時間にわたって保つことができ、放置後の電極箔の劣化を抑制することによって、良好な放置特性有する電解コンデンサ用電解液とその製造方法およびそれを用いた電解コンデンサを提供することができる。
Claims (6)
- 水溶性の金属錯体にリン酸イオンが結合した結合体を添加した電解コンデンサ用電解液。
- キレート化剤と、溶媒中でリン酸イオンを生成する化合物と、金属または金属化合物とからなる溶液を作成し、キレート化反応とリン酸イオン結合反応を完結させて、水溶性の金属錯体にリン酸イオンが結合した結合体を生成した後、この結合体を電解液に添加することを特徴とする電解コンデンサ用電解液の製造方法。
- 前記の溶媒中でリン酸イオンを生成する化合物が、一般式(化1)で示されるリン化合物又はこれらの塩もしくはこれらの縮合体又はこれらの縮合体の塩である請求項2記載の電解コンデンサ用電解液の製造方法。
- 請求項1記載の電解コンデンサ用電解液を用いた電解コンデンサ。
- 金属錯体がアルミニウム錯体である請求項1記載の電解コンデンサ用電解液。
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