JP4569730B2 - アルミ電解コンデンサ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明はアルミ電解コンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミ電解コンデンサは一般的には以下のような構成を取っている。すなわち、帯状に形成された高純度のアルミニウム箔を化学的あるいは電気化学的にエッチングを行って拡面処理するとともに、拡面処理したアルミニウム箔をホウ酸アンモニウム水溶液等の化成液中にて化成処理することによりアルミニウム箔の表面に酸化皮膜層を形成させた陽極箔と、同じく高純度のアルミニウム箔を拡面処理した陰極箔をセパレータを介して巻回してコンデンサ素子が形成される。そしてこのコンデンサ素子には駆動用の電解液が含浸され、金属製の有底筒状の外装ケースに収納される。さらに外装ケースの開口端部は弾性ゴムよりなる封口体が収納され、さらに外装ケースの開口端部を絞り加工により封口を行い、アルミ電解コンデンサを構成する。
【0003】
そして、小型、低圧用のアルミ電解コンデンサの、コンデンサ素子に含浸される電解液としては、従来より、エチレングリコールを主溶媒とし、アジピン酸、安息香酸などのアンモニウム塩を溶質とするもの、または、γ−ブチロラクトンを主溶媒とし、フタル酸、マレイン酸などの四級化環状アミジニウム塩を溶質とするもの等が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、このようなアルミ電解コンデンサを放置すると、静電容量が減少し、漏れ電流特性が劣化し、さらには、安全弁の開弁にいたることがあるという問題点があり、このような負荷もしくは無負荷での長時間経過後の特性である放置特性は、アルミ電解コンデンサの信頼性に大きな影響を与えている。
【0005】
そこで、長時間放置して劣化した電解コンデンサを分析したところ、電解液のpHが高くなっており、また、電極箔表面に溶質のアニオン成分が付着していることが分かった。このことから、電極箔表面のアルミニウムが溶質のアニオン成分と反応して電極箔に付着し、さらに、アルミニウムが溶解して水酸化物等となり、一部は溶質のアニオン成分と反応し、この際に水素ガスが発生する。この反応がくり返されて、pHが上昇し、電極箔の劣化、開弁にいたるということが明らかになった。
【0006】
ところで、リン酸がこのような電極箔の劣化の防止に効果があることはよく知られているが、十分なものではない。これは、このリン酸を添加しても、添加したリン酸は電解液中のアルミニウムと錯体を形成して電極箔に付着し、リン酸は電解液中から消失してしまうことによるものである。さらに、添加量が多過ぎると、漏れ電流が増大するという問題もある。ところが、リン酸イオンが消失する段階の適量残存している間は、アルミ電解コンデンサの特性は良好に保たれる。これらのことを明らかにしたことから、本願発明者らはリン酸イオンを適正量に保つことによって、低インピーダンス特性を有し、かつ、放置特性を良好に維持できるという知見を得た。しかしながら、さらなる放置特性の向上という要求があり、これらの要求に応えるための放置特性の良好なアルミ電解コンデンサを提供することをその目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のアルミ電解コンデンサは、タンニンおよび/またはタンニンの分解生成物とアルミニウムとからなる水溶性の錯体にリン酸イオンが結合した結合体を、水を含む溶媒とともに、表面にシランカップリング剤を付着させた陰極箔を用いたコンデンサ素子内に含有することを特徴とする。
【0008】
そして、前記の結合体が、水を含む溶媒にタンニンおよび/またはタンニンの分解生成物と水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物とを添加した電解液を、アルミニウムからなる電極箔を巻回したコンデンサ素子に含浸して生成されることを特徴とする。
【0009】
さらに、前記のアルミ電解コンデンサにおいて、水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物が、一般式(化2)で示されるリン化合物又はこれらの塩もしくはこれらの縮合体又はこれらの縮合体の塩であることを特徴とする。
【化2】
(式中、R1 、R2 は、−H、−OH、−R3 、−OR4 :R3 、R4 は、アルキル基、アリール基、フェニル基、エーテル基)
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のアルミ電解コンデンサは、タンニンおよび/またはタンニンの分解生成物(以下、タンニン等)とアルミニウムとからなる水溶性の錯体にリン酸イオンが結合した結合体を、水を含む溶媒とともに、表面にシランカップリング剤を付着させた陰極箔を用いたコンデンサ素子内に含有している。そして、この水溶性結合体は、水を含む溶媒にタンニン等と水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物とを添加した電解液を、アルミニウムからなる電極箔を巻回したコンデンサ素子に含浸して生成される。なお、陽極箔の表面にシランカップリング剤を付着させると、放置後の静電容量の減少が抑制されるので、好適である。
【0011】
ここで用いるシランカップリング剤は特に限定はないが、下記に一般式で表される化合物、またはこれらの塩からなるシランカップリング剤が代表的である。
【化3】
(式中、X1 は、ビニル基、アミノ基、エポキシ基、クロル基、メタクリロキシ基、メルカプト基、ケチミン基を有する原子団、X2 〜X4 は、アルキル基、アルコキシ基、クロル基) これらのシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩等を例示することができる。
【0012】
そして、通常、アルミ電解コンデンサは製造後、ある程度の期間常温で保管され、その後電子機器に搭載されて使用されることになるが、本発明のアルミ電解コンデンサは、この製造直後から使用の期間、コンデンサ素子に含有されたリン酸イオンが結合した水溶性のアルミニウム錯体が、電解液中のリン酸イオンを適正量に保持する。
【0013】
タンニンは加水分解性タンニンと縮合型タンニンに大別される。ここで、加水分解性タンニンは、酸、アルカリあるいは酵素によって加水分解され、ポリアルコールとフェノールカルボン酸を生成するタンニン群である。ポリアルコールとしてはD−グルコースが最も多く、フェノールカルボン酸としては没食子酸が多い。このような加水分解性タンニンの一部は、水溶液中でフェノールカルボン酸やこれらの縮重合体が分離し、結果として、分離後の残余生成物であるポリアルコールとフェノールカルボン酸やこれらの縮重合体からなる分解生成物を生成する。また、カリ溶融によってピロガロールを生ずるものは、ピロガロールタンニンと呼ばれる。これらの加水分解性タンニンの代表的なものは、五倍子から得られる五倍子タンニン、没食子から得られる没食子タンニンで、タンニン酸とも呼ばれる。
【0014】
なお、タンニン等とともにアルミニウムと錯体を形成するキレート化剤を用いてもよい。このキレート化剤としては、以下のものが挙げられる。すなわち、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、α−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシマロン酸、α−メチルリンゴ酸、ジヒドロキシ酒石酸等のα−ヒドロキシカルボン酸類、γ−レゾルシル酸、β−レゾルシル酸、トリヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸、ジヒドロキシフタル酸、フェノールトリカルボン酸、アウリントリカルボン酸、エリオクロムシアニンR等の芳香族ヒドロキシカルボン酸類、スルホサリチル酸等のスルホカルボン酸類、ジシアンジアミド等のグアニジン類、ガラクトース、グルコース等の糖類、リグノスルホン酸塩等のリグニン類、そして、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)等のアミノポリカルボン酸類またはこれらの塩である。そして、これらの塩としては、アンモニウム塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等を用いることができる。
【0015】
そして、水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物(以下、リン酸生成性化合物)を添加する。このリン酸生成性化合物として、一般式(化2)で示されるリン化合物又はこれらの塩もしくはこれらの縮合体又はこれらの縮合体の塩を挙げることができる。
【0016】
これらのリン酸生成性化合物としては、以下のものを挙げることができる。正リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、及びこれらの塩、これらの塩としては、アンモニウム塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩である。正リン酸及びこの塩は、水溶液中で分解してリン酸イオンを生じる。また、亜リン酸、次亜リン酸、及びこれらの塩は、水溶液中で分解して、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオンを生じ、その後に酸化してリン酸イオンとなる。
【0017】
また、リン酸エチル、リン酸ジエチル、リン酸ブチル、リン酸ジブチル等のリン酸化合物、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、フェニルホスホン酸等のホスホン酸化合物等が挙げられる。また、メチルホスフィン酸、ホスフィン酸ブチル等のホスフィン酸化合物が挙げられる。
【0018】
さらに、以下のような、縮合リン酸又はこれらの塩をあげることができる。ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸等の直鎖状の縮合リン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸等の環状の縮合リン酸、又はこのような鎖状、環状の縮合リン酸が結合したものである。そして、これらの縮合リン酸の塩として、アンモニウム塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩等を用いることができる。
【0019】
これらも、水溶液中でリン酸イオンを生ずるか、もしくは、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオンを生じ、その後に酸化してリン酸イオンとなる、リン酸生成性化合物である。
【0020】
なお、これらの中でも、容易にリン酸イオンを生ずる正リン酸またはその塩、縮合リン酸、またはリン酸化合物が好ましい。さらに、添加量に対して、比較的速やかに、多くのリン酸イオンを生ずる正リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の直鎖状の縮合リン酸、またはその塩が好ましい。なお、これらの化合物以外でも、水溶液中でリン酸イオンを生ずる物質であれば、本発明の効果を得ることができる。
【0021】
また、電解液に含まれる溶質としては、通常アルミ電解コンデンサ用電解液に用いられる、酸の共役塩基をアニオン成分とする、アンモニウム塩、アミン塩、四級アンモニウム塩および環状アミジン化合物の四級塩が挙げられる。アミン塩を構成するアミンとしては一級アミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン等)、二級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミン、ジフェニルアミン等)、三級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7等)が挙げられる。第四級アンモニウム塩を構成する第四級アンモニウムとしてはテトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム等)、ピリジウム(1−メチルピリジウム、1−エチルピリジウム、1,3−ジエチルピリジウム等)が挙げられる。また、環状アミジン化合物の四級塩を構成するカチオンとしては、以下の化合物を四級化したカチオンが挙げられる。すなわち、イミダゾール単環化合物(1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール等のイミダゾール同族体、1−メチル−2−オキシメチルイミダゾール、1−メチル−2−オキシエチルイミダゾール等のオキシアルキル誘導体、1−メチル−4(5)−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5(4)−アミノイミダゾール等のニトロおよびアミノ誘導体)、ベンゾイミダゾール(1−メチルベンゾイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルベンゾイミダゾール等)、2−イミダゾリン環を有する化合物(1−メチルイミダゾリン、1,2−ジメチルイミダゾリン、1,2,4−トリメチルイミダゾリン、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾリン、1−メチル−2−フェニルイミダゾリン等)、テトラヒドロピリミジン環を有する化合物(1−メチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン、1,2−ジメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ〔4.3.0〕ノネン−5等)等である。
【0022】
アニオン成分としては、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、安息香酸、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、蟻酸、1,6−デカンジカルボン酸、5,6−デカンジカルボン酸等のデカンジカルボン酸、1,7−オクタンジカルボン酸等のオクタンジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の有機酸、あるいは、硼酸、硼酸と多価アルコールより得られる硼酸の多価アルコール錯化合物、りん酸、炭酸、けい酸等の無機酸の共役塩基を挙げることができる。これらの中で好ましいのは、デカンジカルボン酸、オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、安息香酸、イソフタル酸、蟻酸等の有機カルボン酸、または、硼酸、硼酸の多価アルコール錯化合物である。
【0023】
そして、本発明のアルミ電解コンデンサに用いられる電解液の溶媒は水を含むものであるが、水以外に、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、及びこれらの混合物を用いることができる。プロトン性極性溶媒としては、一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール、ベンジルアルコール、等)、多価アルコール及びオキシアルコール化合物類(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1,3−ブタンジオール、メトキシプロピレングリコール等)などがあげられる。非プロトン性極性溶媒としては、アミド系(N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等)、ラクトン類(γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン等)、環状アミド類(N−メチル−2−ピロリドン等)、カーボネート類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、ニトリル類(アセトニトリル等)、オキシド類(ジメチルスルホキシド等)、2−イミダゾリジノン系〔1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジ(n−プロピル)−2−イミダゾリジノン等)、1,3,4−トリアルキル−2−イミダゾリジノン(1,3,4−トリメチル−2−イミダゾリジノン等)〕などが代表としてあげられる。
【0024】
また、電解コンデンサの寿命特性を安定化する目的で、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン、ニトロベンジルアルコール、2−(ニトロフェノキシ)エタノール、ニトロアニソール、ニトロフェネトール、ニトロトルエン、ジニトロベンゼン等の芳香族ニトロ化合物を添加することができる。
【0025】
また、電解コンデンサの安全性向上を目的として、電解液の耐電圧向上を図ることができる非イオン性界面活性剤、多価アルコールと酸化エチレン及び/または酸化プロピレンを付加重合して得られるポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル化合物、ポリビニルアルコールを添加することもできる。
【0026】
また、本発明のアルミ電解コンデンサに用いられる電解液に、硼酸、多糖類(マンニット、ソルビット、ペンタエリスリトールなど)、硼酸と多糖類との錯化合物、コロイダルシリカ等を添加することによって、さらに耐電圧の向上をはかることができる。
【0027】
また、漏れ電流の低減の目的で、オキシカルボン酸化合物等を添加することができる。
【0028】
以上の電解液を含有したアルミ電解コンデンサは、放置特性、すなわち、長期間にわたる負荷、無負荷試験後の特性が良好で、さらに、初期の静電容量も向上する。
【0029】
以下、本発明について説明する。本発明のアルミ電解コンデンサは、タンニン等とアルミニウムとからなる水溶性の錯体にリン酸イオンが結合した結合体(以下、水溶性結合体)を、水を含む溶媒とともに、表面にシランカップリング剤を付着させた陰極箔を用いたコンデンサ素子内に含有しているが、この水溶性結合体は、水を含む溶媒にタンニン等とリン酸生成性化合物を添加した電解液をコンデンサ素子に含浸して生成される。この電解液中では、加水分解性タンニンの場合、前述したように一部のタンニンからフェノールカルボン酸やこれらの縮重合体が分離し、結果として、分離後の残余生成物であるポリアルコールとフェノールカルボン酸やこれらの縮重合体からなる分解生成物を生成する。そして、コンデンサ素子中で、これらのタンニン等と、リン酸生成性化合物から生成されたリン酸イオンと、アルミニウム電極箔表面のアルミニウムの水和物や水酸化物から溶出したアルミニウムイオンとが反応して、水溶性結合体が生成される。そして、このように生成された水溶性結合体の大部分は表面にシランカップリング剤を付着させた陰極箔を用いた電極箔に付着した状態で、コンデンサ素子中に含有されることになる。このことは、電解液中にアルミニウムが少量しか検出されないことから推測される。また、縮合型タンニンの場合は、アルカリ溶融等によって分解し、この分解生成物を用いることができる。したがって、加水分解型タンニンは上述のように水溶液中で分解するので、水溶性結合体を形成しやすく好適である。なお、この水溶性結合体はアルミニウムにタンニン等とリン酸イオンが配位したキレート錯体であると考えられる。
【0030】
また、このように、本発明のアルミ電解コンデンサに用いられる電解液においては、水を含む溶媒に、タンニン等と、リン酸生成性化合物と、水溶液中でアルミニウムイオンを生成する化合物、すなわちアルミ電極箔表面に形成されたアルミニウムの水和物や水酸化物等とが添加された状態となって、水溶性結合体が形成される。
【0031】
そしてこの水溶性結合体によって、電解液中のリン酸イオンを長時間にわたって適正量に保つことができる。すなわち、電解液中のリン酸イオンは電極箔から溶出するアルミニウムと反応して減少していくが、そうなると、水溶性結合体がリン酸イオンを放出して、電解液中のリン酸イオンを適正量に保つ作用をする。そして、この適正量のリン酸イオンはアルミニウムの溶解、またアルミニウムの水酸化物等の生成を抑制して、電極箔の劣化を抑制するので、アルミ電解コンデンサの放置特性が向上する。
【0032】
すなわち、電解液にリン酸イオンを添加したのみでは、リン酸イオンはアルミニウムと反応して電解液中から消失してしまうので、放置特性が劣化する。また、多量に添加した場合はさらに漏れ電流特性が劣化する。しかしながら、本発明のアルミ電解コンデンサにおいては、電解液中に適正量のリン酸イオンが長期間経過しても消失することなく存在して、良好な放置特性を維持することができ、漏れ電流特性も劣化することなく、良好である。
【0033】
以下の実験はこれらのことを明らかにした。本発明のアルミ電解コンデンサを分解し、コンデンサ素子に含浸された電解液を洗浄、除去した。その後、このコンデンサ素子にリン酸イオンを含まない電解液を含浸して電解コンデンサを作成したところ、この電解コンデンサの放置特性は良好であった。そして、この電解コンデンサの電解液からは1〜30ppmのリン酸が検出され、アルミニウムはほとんど検出されなかった。すなわち、電極箔に付着した水溶性結合体が、リン酸イオンを含まない電解液中にリン酸イオンを放出し、その後も一定のリン酸イオンを長時間にわたって適正に保つことによって、コンデンサの放置特性を向上させたものである。また、このようにして作成した電解コンデンサについて、上記の操作を数度おこなっても、同じく、電解液からはリン酸イオンが検出され、電解コンデンサの放置特性は良好であった。なお、電解液中で生成されるアルミニウム錯体が水溶性でない、つまり難溶性または不溶性の場合は、本発明のような電解液中のリン酸イオンを適正量に保つ作用がないためと思われるが、本発明の効果を得ることはできない。
【0034】
陰極箔にシランカップリング剤を付着させることによって、放置特性が向上する理由は以下のようである。すなわち、シランカップリング剤を陰極箔に付着させることによって陰極箔が電解液と接触する面積が減少し、水和反応が減少する。さらに、電解コンデンサを作成後、陰極箔をpH7の緩衝溶液中で加熱し、溶出したアルミニウムイオンとリン酸イオンを測定したところ、シランカップリング剤を付着させた陰極箔からは、付着させない陰極箔より多くのアルミニウムイオンとリン酸イオンが検出された。これらのことから、水和抑制効果が持続し、これらの相乗効果によって放置特性が向上するものと推察される。
【0035】
また、電解液中の一定量のリン酸イオンは電解コンデンサ作成時に電極箔と反応して消費されるので、電解液作成時に添加する量は0.002モル重量%以上必要であり、また、0.04モル重量%以上添加すると初期的な皮膜溶解が激しく、電解コンデンサの放置特性は低下する。したがって、0.002〜0.04モル重量%が好ましく、さらに好ましくは、0.003〜0.03モル重量%である。
【0036】
そして、この電解液はpHが上昇せず、5〜7(水溶液として50倍に希釈して測定)に維持されていることが判明した。これは、電解液中に保持されたリン酸イオンによって、アルミニウムの溶解が抑制され、したがって、電解質のアニオン成分がアルミニウムと反応することが抑制されて、pHの上昇が抑制されているものと思われる。
【0037】
さらに、本発明のアルミ電解コンデンサにおいては、タンニン等の酸化皮膜を溶解する作用によって、電解コンデンサの作成時に、陰極箔の自然酸化皮膜が溶解されることによるものと思われるが、初期の静電容量が向上する。
【0038】
また、電解液に水が多量に含まれると電極箔の劣化が著しくなり、特に、電解液中の水の含有率が10%を越えると、105℃以上の放置条件では、電解コンデンサの特性の劣化は顕著になるという問題点があった。しかしながら、本発明においては、多量の水が含有される場合にも効果があることが判明しており、このような電解液を用いることによって、低抵抗特性を有するアルミ電解コンデンサを得ることができる。
【0039】
ここで、キレート化剤として知られている、EDTA、NTA等を用いても、放置後にはリン酸濃度が検出下限以下になってしまい、アルミ電解コンデンサの特性は劣化する。
【0040】
【実施例】
次にこの発明について実施例を示し、詳細に説明する。コンデンサ素子は陽極箔と、陰極箔をセパレータを介して巻回して形成する。陽極電極箔は、純度99.9%のアルミニウム箔を酸性溶液中で化学的あるいは電気化学的にエッチングして拡面処理した後、アジピン酸アンモニウムの水溶液中で化成処理を行い、その表面に陽極酸化皮膜層を形成したものを用い、陰極箔として、純度99.9%のアルミニウム箔をエッチングして拡面処理したものを用いた。そして、両極箔の表面にN−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液を塗布し、乾燥処理を行った。
【0041】
上記のように構成したコンデンサ素子に、アルミ電解コンデンサの駆動用の電解液を含浸する。この電解液を含浸したコンデンサ素子を、有底筒状のアルミニウムよりなる外装ケースに収納し、外装ケースの開口端部に、ブチルゴム製の封口体を挿入し、さらに外装ケースの端部を絞り加工することによりアルミ電解コンデンサの封口を行う。
【0042】
ここで用いる電解液の組成は、水52部、エチレングリコール34部、アジピン酸アンモニウム14部に対して、(表1)に示す添加剤を添加し、実施例1〜3の電解液を作成した。ここで用いたタンニンは加水分解性タンニンである、タンニン酸〔CAS:1401−55−4〕である。また、比較例として、実施例1で用いる電解液と従来の陰極箔を用いた電解コンデンサを、従来例として、添加剤を添加しない電解液と従来の陰極箔を用いた電解コンデンサを作成した。(表1)には、その特性を合わせて示す。
【0043】
以上のように構成したアルミ電解コンデンサの高温寿命試験を行った。アルミ電解コンデンサの定格は、6.3WV−5600μFである。試験条件は、105°C、定格電圧負荷、無負荷、10000時間である。そして、試験後のコンデンサを分解し、その電極箔をpH7以上の緩衝溶液に浸漬、加熱してリン酸イオンを抽出し、その濃度を測定した。なお、リン酸イオン濃度の測定下限は1ppmである。それぞれの結果を(表2)、(表3)に示す。
【0044】
【表1】
(注)TaA :タンニン酸
2PA :リン酸水素二アンモニウム
PA :正リン酸
PPA :ピロリン酸
【0045】
【表2】
(注)Cap:静電容量(μF)、tanδ:誘電損失の正接、
LC:漏れ電流(μA)、ΔCap:静電容量変化率(%)
リン酸根:リン酸根濃度(ppm)
【0046】
【表3】
【0047】
(表2)、(表3)から分かるように、リン酸生成性化合物としてリン酸水素二アンモニウム、正リン酸、ピロリン酸を1部添加した実施例1〜3のリン酸根濃度は3ppm以上に維持され、負荷、無負荷、10000時間後特性は良好で、10000時間保証が可能となっている。
【0048】
これに比べて、従来の陰極箔を用いた比較例は、10000時間後には、開弁にいたっており、本発明によって、さらに放置特性の良好な、従来にないアルミ電解コンデンサを実現していることがわかる。
【0049】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、タンニン等とアルミニウムとからなる水溶性の錯体にリン酸イオンが結合した結合体を、水を含む溶媒とともに、表面にシランカップリング剤を付着させた陰極箔を用いたコンデンサ素子に含有しているので、電解液中のリン酸イオンを適正量に長時間にわたって保つことができ、放置後の電極箔の劣化を抑制することによって、良好な放置特性と、初期の静電容量の向上を図ることができるアルミ電解コンデンサを提供することができる。
Claims (3)
- タンニンおよび/またはタンニンの分解生成物とアルミニウムとからなる水溶性の錯体にリン酸イオンが結合した結合体を、水を含む溶媒とともに、表面にシランカップリング剤を付着させた陰極箔を用いたコンデンサ素子内に含有するアルミ電解コンデンサ。
- 前記結合体が、水を含む溶媒にタンニンおよび/またはタンニンの分解生成物と水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物とを添加した電解液を、アルミニウムからなる電極箔を巻回したコンデンサ素子に含浸して生成される請求項1記載のアルミ電解コンデンサ。
- 前記の水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物が、一般式(化1)で示されるリン化合物又はこれらの塩もしくはこれらの縮合体又はこれらの縮合体の塩である請求項2記載のアルミ電解コンデンサ。
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