JP5093373B2 - Pbフリーはんだペースト - Google Patents
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Description
本発明は、鉛(Pb)を含まないPbフリーはんだペーストに関し、特に高温用に用いられるPbフリーはんだペーストに関する。
近年、環境に有害な化学物質に対する規制がますます厳しくなってきており、この規制は電子部品等を基板に接合する目的で使用されるはんだ材料に対しても例外ではない。はんだ材料には古くからPbが主成分として使われ続けてきたが、すでにRohs指令などで規制対象物質になっている。このため、Pbを含まないはんだ(Pbフリーはんだ)の開発が盛んに行われている。
電子部品を基板に接合する際に使用するはんだは、その使用限界温度によって高温用(約260℃〜400℃)と中低温用(約140℃〜230℃)に大別され、それらのうち、中低温用はんだに関してはSnを主成分とするものでPbフリーが実用化されている。例えば、特許文献1にはSnを主成分とし、Agを1.0〜4.0質量%、Cuを2.0質量%以下、Niを0.5質量%以下、Pを0.2質量%以下含有するPbフリーはんだ合金組成が記載されている。また、特許文献2にはAgを0.5〜3.5質量%、Cuを0.5〜2.0質量%含有し、残部がSnからなる合金組成のPbフリーはんだが記載されている。
一方、高温用のPbフリーはんだ材料に関しては、様々な機関で開発が行われている。例えば特許文献3には、Biを30〜80質量%含み、溶融温度が350〜500℃のBi/Agろう材が開示されている。また、特許文献4には、Biを含む共晶合金に2元共晶合金を加え、さらに添加元素を加えたはんだ合金が開示されており、このはんだ合金は、4元系以上の多元系はんだではあるものの、液相線温度の調整とばらつきの減少が可能となることが示されている。
さらに特許文献5には、BiにCu−Al−Mn、Cu、またはNiを添加したはんだ合金が開示されており、これらはんだ合金は、Cu層を表面に備えたパワー半導体モジュールや絶縁体基板に使用した場合、はんだとの接合界面において不要な反応生成物が形成されにくくなるため、クラックなどの不具合の発生を抑制できると記載されている。
また、特許文献6には、はんだ組成物100質量%のうち、94.5質量%以上のBiからなる第1金属元素と、2.5質量%のAgからなる第2金属元素と、Sn:0.1〜0.5質量%、Cu:0.1〜0.3質量%、In:0.1〜0.5質量%、Sb:0.1〜3.0質量%、およびZn:0.1〜3.0質量%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を合計0.1〜3.0質量%含む第3金属元素とからなるはんだ組成物が示されている。
また、特許文献7には、副成分としてAg、Cu、ZnおよびSbのうちの少なくとも1種を含有するBi基合金に、0.3〜0.5質量%のNiを含有するPbフリーはんだ組成物が開示されており、このPbフリーはんだは、固相線温度が250℃以上であり、液相線温度が300℃以下であることが記載されている。さらに特許文献8にはBiを含む2元合金が開示されており、この2元合金は、はんだ付け構造体内部において、クラックの発生を抑える効果を有していることが記載されている。
さらに特許文献9には、270℃以上の溶融温度を有し、0.2〜0.8質量%のCuと0.2〜0.02質量%のGeとを含んだBi合金に関して記載されており、特許文献10には、少なくとも262.5℃の固相線温度を有し、2〜18質量%のAgと98〜82質量%のBiを含むBi合金に関して記載されている。また、特許文献11には、260℃以上の固相線温度を有し、Biを少なくとも80質量%含有するBi合金に関して記載されている。
また、特許文献12には、金属合金粉末としてのBiを30重量%以上含むBi−Sn系ソルダペーストにおいて、接合後に高い接合強度が得られるとともに、接合対象物がAuを含む場合においても空隙が発生しないソルダペースト、およびそのソルダペーストを用いて接合された接合物品について述べられており、例えば、Biが30〜98重量%、Al、Mnのいずれか一方が0.01〜0.5重量%、残部がSnからなるソルダペーストが記載されている。
また、特許文献13にはビスマスまたはビスマスを主成分とする合金からなり、固相線温度が250℃以上かつ液相線温度が370℃以下であるはんだ粉末と、このはんだ粉末の固相線温度以上の温度において溶融するものであって、はんだ付け後に残留してはんだの強度を補うように作用する熱可塑性樹脂と、フラックスとを含有するソルダーペーストについて記載されている。
高温用のPbフリーはんだ材料に関しては、上記のようにさまざまな機関で開発されてはいるものの、未だ実用化の面で十分に満足できる特性を有するはんだ材料は見つかっていないのが実情である。
すなわち、一般的に電子部品や基板には熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの比較的耐熱温度の低い材料が多用されているため、作業温度を400℃未満、望ましくは370℃以下にする必要がある。しかしながら、例えば特許文献3に開示されているBi/Agろう材では、液相線温度が400〜700℃と高いため、接合時の作業温度も400〜700℃以上になると推測され、接合される電子部品や基板の耐熱温度を超えてしまうことになる。
また、高温用はんだに一般的に求められる特性としては、高い固相線温度、適度な液相線温度、低温と高温のヒートサイクルに対する高耐久性、良好な熱応力緩和特性、良好な濡れ広がり性などが挙げられるが、はんだ合金の主成分がBiの場合は、これらの諸特性に加えて、Bi系はんだに特有の問題を解決する必要がある。
すなわち、Bi系はんだは脆弱な機械的特性を有しているという問題があり、加えて、はんだとの接合性を高めるために電子部品の表面にNi層が設けられている場合、このNi層がはんだに含まれるBiと急激に反応してNiとBiとの脆い合金を生成する上、Ni層に破壊や剥離が生じてBi中に拡散し、接合強度を著しく低下させることがある。Ni層の上にはAgやAuなどの層が設けられることもあるが、この場合のAgやAuはNi層の酸化防止や濡れ性向上を目的としているため、すぐにはんだ合金中に拡散してしまい、Ni拡散を抑制する効果はほとんどない。
このように、Bi系はんだはNi拡散の問題を有しているが、特許文献4にはかかる問題を解決する手段が示されていない。また、Bi系はんだの脆弱な機械的特性に対して改善をはかることについても、何ら示されていない。同様に、特許文献6〜11のいずれにおいても、Bi中へのNi拡散の防止対策に対しては何も触れられていない。
特許文献5においては、はんだとの接合表面がCu層ではなくNi層である場合が比較例としてとりあげられており、BiにCu−Al−Mn、Cu、またはNiを添加したはんだ合金では接合界面に多量のBi3Niが形成され、その周囲には多数の空隙が観察されると記載されている。また、このBi3Niは非常に脆い性質を有し、過酷な条件のヒートサイクルに対して信頼性が得られにくいことが確認できたとも記載されている。
特許文献12には、前述したように、Biが30〜98重量%、Al、Mnのいずれか一方が0.01〜0.5重量%、残部がSnからなるソルダペーストが記載されている。しかし、このようにBiやSnの組成範囲が広い場合、全ての範囲において液相温度、固相温度、濡れ性や応力緩和性が必要最低限以上になるとは考えにくい。例えば、Biを95%、残部が上記元素からなるはんだを使用して、電子部品等を接合した場合、はんだが非常に脆くなってクラックが入り易くなり、本発明者の実験では−50/125℃のヒートサイクル試験を行った場合、200回でクラックが入ったことを確認している。そして、この原因はSnと電子部品のNi層の反応がヒートサイクル試験中に進行し、脆いはんだからSnが抜けていき、さらに脆いBi単体に近づいたためであることを突き止めている。
特許文献13には、ビスマスまたはビスマスを主成分とする合金からなり、固相線温度が250℃以上かつ液相線温度が370℃以下であるはんだ粉末を含んだソルダーペーストについて記載されているが、特許文献13に記載されているCu、Ag、SbはNi拡散を抑制する効果はなく、この点において実用性に乏しい材料であると考えられる。さらにZnの添加量については固相線温度が250℃以上かつ液相線温度が370℃以下になる範囲として0.01〜0.1重量%程度との記載があるが、Zn添加量が0.2重量%以下ではNi拡散を抑制する効果は不十分であり、十分な信頼性を得ることができないことを本発明者らは確認している。
さらにBi系はんだの場合、濡れ性と加工性が問題になりやすい。すなわち、BiはCuにほとんど固溶せず、Cu面などに接合できないため、非常に悪い濡れ性を示す。また、Biは前述したように非常に脆く、その伸び率は1%以下であるため、そのままではワイヤ等に加工できない。例えば、外径0.2mm程度の細いワイヤを製造する際、使用する材料は加工性に優れたものであることが要求される。しかしながら、特許文献3〜11には、これら濡れ性や加工性の問題を克服するための解決策に関して詳しい記述はない。
以上述べたように、Biを主成分とするPbフリーはんだにおいては、機械的特性の改善をはかることに加えて、電子部品に設けられたNi層のBi系はんだ中への拡散を防ぐことを考慮しなければならない。さらに、濡れ性を大きく改善することも必要となる。Biを主成分とするPbフリーはんだでは、これらの課題を解決できなければ電子部品と基板との接合に必要な強度と耐久性が得られず、実質的にはんだとして使用することはできない。
すなわち、本発明は、実質的に固相温度が260℃以上で高温用として使用できるBi系はんだ合金において、Bi系はんだに特有の課題である脆弱な機械的特性、濡れ性、そしてBi中へのNi拡散といった問題を解決できるはんだペーストを提供することを目的としている。
上記目的を達成するため、本発明が提供するはんだペーストは、はんだ合金粉末とフラックスとを混合してなるはんだペーストであって、該はんだ合金粉末はその合計を100質量%としたとき、Znを0.4質量%以上13.5質量%以下含有するとともに、Cuを0.01質量%以上2.0質量%以下および/またはAlを0.03質量%以上0.7質量%以下含有し、残部が不可避的に含まれる不純物を除いてBiからなり、該フラックスはその合計を100質量%としたとき、ロジンを20〜30質量%、活性剤を0.2〜1質量%及び溶剤を70〜80質量%含んでいることを特徴としている。
上記した本発明のはんだペーストでは、はんだ合金粉末にZnが13.1質量%を超えて含まれるかまたはCuが1.9質量%%を超えて含まれる場合は、不可避的に含まれる場合を除いてAlが含まれていないのが好ましい。
本発明によれば、電子部品と基板との接合に必要な強度を有し、かつ濡れ性および加工性に優れた高温用のPbフリーはんだペーストを提供することができる。そして、本発明は、実質的にリフロー温度260℃以上の耐熱温度を有し、かつ電子部品等が有するNi層とはんだ合金中のBiとの反応や、Bi系はんだ中へのNi拡散を抑えることが可能なBi系はんだペーストを提供することができる。すなわち、本発明のはんだペーストを使用することにより高温でのPbフリーのはんだ付けの信頼性を著しく高めることができる。
一般に、高温用のPbフリーはんだ合金は、約260℃のリフロー温度に耐える必要がある。さらにBi系はんだの場合は、BiとNiとの反応やBi中へのNi拡散を抑えなければならない。これが不十分であると、電子部品等に一般的に設けられているNi層がはんだに含まれるBiと反応し、脆いBi−Ni合金を生成するとともにBi中にNiが拡散して接合部を脆化させるおそれがある。その結果、接合強度が低下し、このはんだ合金で接合されている電子基板を備えた装置の信頼性が損なわれてしまう。
そこでNiとの反応性について様々な元素を調べた結果、ZnがBiよりも優先的にNi層と反応し、合金化することを見出した。また、BiにZnのみを添加した2元系合金の場合は、加工性はある程度確保できるものの、Znは還元性が強いため濡れ性が悪くなり、接合性が低下するという知見を得た。
これら知見の下、Ni拡散の抑制に加えて加工性や濡れ性、さらには信頼性を向上させるための方策について鋭意研究を重ねた結果、このBi−Zn合金をベースとし、各種元素を添加することが有効であるという知見を得た。具体的には、はんだの信頼性、すなわち、強度およびヒートサイクルに対する耐久性などを向上させるためにはCuおよびAlの内の少なくとも1種を添加することが非常に有効であることが確認できた。
また、CuやAlを添加することによって濡れ性が向上することも分かった。しかし、接合条件によってはさらに優れた濡れ性が要求される場合がある。例えば、電子部品等の接合時の酸素濃度が1000ppm以上と高い場合や、接合温度が380℃を越えるような場合などは、電子部品やはんだ表面の酸化が進行し易く、その結果濡れ性が低下して接合性を大きく下げてしまうことがあった。
このような状況下であっても高い濡れ性を確保するためには、はんだ表面で酸化膜等が形成するのを制御することが望ましく、その方策として、はんだペーストという形態をとることが有効であることが分かった。すなわち、はんだをペースト化することにより、それに含まれるフラックスによって酸化膜を還元除去でき、さらに酸化の進行を防ぐことができる。また、合金形状は粉末でよいので、脆い合金にとっては加工に困難を伴うワイヤやシートなどの形状にする必要がなくなる。
以下、これら特徴的な効果を有する本発明のPbフリーはんだペーストに含まれている元素、必要に応じて含まれる元素、およびフラックスに関して説明を行う。
<Bi>
Biは本発明の高温用Pbフリーはんだ合金の主成分である。BiはVa族元素(N、P、As、Sb、Bi)に属し、その結晶構造は対称性の低い三方晶(菱面体晶)で非常に脆い金属であり、引張試験などを行うとその破面は脆性破面であることが容易に見て取れる。つまり純Biは延性的な性質に乏しい金属であり、本発明者の実験ではBi単体のワイヤの伸び率は1%以下であった。
Biは本発明の高温用Pbフリーはんだ合金の主成分である。BiはVa族元素(N、P、As、Sb、Bi)に属し、その結晶構造は対称性の低い三方晶(菱面体晶)で非常に脆い金属であり、引張試験などを行うとその破面は脆性破面であることが容易に見て取れる。つまり純Biは延性的な性質に乏しい金属であり、本発明者の実験ではBi単体のワイヤの伸び率は1%以下であった。
このようなBiの脆さを克服するため、後述する各種元素が添加され、さらにフラックスと混合してペースト化している。添加する元素の種類や量は、Biが有する脆さ等の諸特性のうち、どの特性をどの程度改善するかによって異なる。したがって、添加する元素の種類やその含有量に応じて、はんだ合金中のBiの含有量は必然的に変化する。なお、Va族元素の中からBiを選定した理由は、Va族元素はBiを除き、半金属、非金属に分類され、Biよりもさらに脆いためである。また、Biは融点が271℃であり、高温はんだの使用条件である約260℃のリフロー温度を超えているからである。
<Zn>
Znは本発明の高温用Pbフリーはんだ合金において、必須の添加元素である。BiにZnを添加することによって、脆さを克服することができる上、Bi中にZnが固溶して加工性が改善される。ZnをBiとの共晶点よりも多く添加する場合は、Znリッチな相がより多く発現されることになって、より一層加工性が向上する。
Znは本発明の高温用Pbフリーはんだ合金において、必須の添加元素である。BiにZnを添加することによって、脆さを克服することができる上、Bi中にZnが固溶して加工性が改善される。ZnをBiとの共晶点よりも多く添加する場合は、Znリッチな相がより多く発現されることになって、より一層加工性が向上する。
また、Znの添加により、BiとNiとの反応の抑制や、Bi系はんだ中へのNiの拡散の抑制が可能になるという重要な効果も得られる。このような効果が得られる理由は、ZnはNiとの反応においてBiよりも反応性が高く、Ni層の上面に薄いZn−Ni層を作り、これがバリアーとなってNiとBiの反応を抑えることによる。その結果、脆いBi−Ni合金が生成されず、さらにはNiがBi中に拡散することもなく、強固な接合性を実現することができる。
このような優れた効果を発揮するZnの好適な含有量は、Ni層の厚さやリフロー温度、リフロー時間等に左右されるものの、概ね0.4質量%以上13.5質量%以下である。この含有量が0.4質量%未満では、Ni拡散の抑制効果が不十分であったり、Ni拡散の抑制にZnが消費されて良好な加工性が得られなかったりする。一方、この含有量が13.5質量%より多いと、液相線温度が400℃を超えてしまい、良好な接合ができなくなってしまう。
さらに、この組成範囲内のZnが含まれるはんだ合金に、後述するAlを適宜調整して添加することによって、Znリッチ相の加工性をより一層改善することが可能となり、Znの添加による効果をより大きく引き出すことができる。
<Cu>
Cuは、本発明の高温用鉛フリーはんだ合金において、CuおよびAlの内の少なくとも一方が含有されなければならない元素の一つである。Cuの添加によりZnとCuの金属間化合物が形成される。このZn−Cu金属間化合物は、Bi中に微細に分散し、母合金を微結晶化するとともにフィラー的な役割を担い、強度および加工性を向上させる。すなわち、組織の微細化とフィラーとしての効果によりBiの脆性改善効果が期待できる。はんだの脆性的な性質が改善されると、当然の結果として接合強度が向上し、ヒートサイクルに対する耐久性も大きく向上する。よって、はんだの接合信頼性が著しく向上する。
Cuは、本発明の高温用鉛フリーはんだ合金において、CuおよびAlの内の少なくとも一方が含有されなければならない元素の一つである。Cuの添加によりZnとCuの金属間化合物が形成される。このZn−Cu金属間化合物は、Bi中に微細に分散し、母合金を微結晶化するとともにフィラー的な役割を担い、強度および加工性を向上させる。すなわち、組織の微細化とフィラーとしての効果によりBiの脆性改善効果が期待できる。はんだの脆性的な性質が改善されると、当然の結果として接合強度が向上し、ヒートサイクルに対する耐久性も大きく向上する。よって、はんだの接合信頼性が著しく向上する。
さらに、はんだにCuを添加すると、このはんだが接合する母材の接合面がCuである場合、同じ金属同士となるため良好な濡れ性が得られる。母材の接合面がNi面であっても同様に良好な濡れ性が得られるが、この場合の理由は、Cuは酸化しにくいため、はんだ母相が酸化しにくくなるからであると考えられる。
はんだ合金中のCuの含有量は、Bi等への固溶量も加味しつつ加工性や濡れ性等の特性を考慮して定められる。具体的なCuの含有量は0.01質量%以上2.0質量%以下であり、0.05質量%以上1.0質量%未満であれば上記効果がより一層現れ好ましい。この量が2.0質量%より多くなると、融点の高いCuが偏析してしまい、接合性を落とすなどの問題を生じてしまう。
一方、下限値の0.01質量%未満では期待した加工性や濡れ性向上の効果は実質的に得られないことを確認している。なお、Cuの含有量は、0.01質量%以上2.0質量%以下であれば、はんだ合金全体に比べてさほど多くはないため、はんだに要求される他の特性に悪影響を及ぼすことはない。
<Al>
Alは、前述したように、CuおよびAlの内の少なくとも一方が含有されなければならない元素の一つである。Alは、加工性や濡れ性をより一層向上させたい場合に添加するのが好ましい。Alの添加で濡れ性が向上する理由は、Alは還元性が強いため自ら酸化し、少量の添加ではんだ母相の酸化を抑制することができるからである。一方、Alの添加で加工性が向上する理由は、以下に示す2つメカニズムによる。
Alは、前述したように、CuおよびAlの内の少なくとも一方が含有されなければならない元素の一つである。Alは、加工性や濡れ性をより一層向上させたい場合に添加するのが好ましい。Alの添加で濡れ性が向上する理由は、Alは還元性が強いため自ら酸化し、少量の添加ではんだ母相の酸化を抑制することができるからである。一方、Alの添加で加工性が向上する理由は、以下に示す2つメカニズムによる。
第1のメカニズムはCuの添加の際と同様である。すなわち、Alの添加によりZnとAlとの金属間化合物が形成され、このZn−Al金属間化合物がBi中に微細に分散し、母合金を微結晶化するとともにフィラー的な役割を担う。これにより、はんだ合金の強度および加工性を向上させる。つまり、組織の微細化とフィラーとしての効果によってBiの脆性を改善するものである。
第2のメカニズムは、ZnとAlとが合金化し、とくにZn−Al共晶組成付近で微細化して加工性を向上させるものである。このように、Alの添加による加工性の向上は、2つの異なるメカニズムにより効果が発揮されるのである。Alを添加する場合の好適な含有量は、0.03質量%以上0.7質量%以下である。この量が0.03質量%未満では少なすぎて添加の意味をなさない。一方、0.7質量%を超えると融点が高くなりすぎたりAlの偏析が生じたりする。さらには、Zn−Alの共晶組成からずれて、加工性の向上の効果を奏しなくなる。
Alは、上記したZnもしくはCuまたはそれら両方が、はんだ合金中に許容される含有量の範囲の上限近くまで添加されている場合は、含まれていないのが好ましい。例えば、Znの含有量が13.1質量%を超えたり、Cuの含有量が1.9質量%を超えた場合は不可避的に含まれる場合を除いてAlが含まれていないのが好ましい。なぜなら、ZnやCuが上限近くまで添加されている場合は、すでにはんだ合金の液相温度がかなり高くなっており、さらに融点の高いAlを添加してしまうと液相温度が高くなりすぎて良好な接合ができなくなるおそれがあるからである。
<フラックス>
本発明のはんだペーストに使用するフラックスの種類はとくに限定がなく、例えば、樹脂系、無機塩化物系、有機ハロゲン化物系などを用いてよい。ここでは最も一般的なフラックスである、ベース材にロジンを使用してこれに活性剤および溶剤を添加したものについて述べる。
本発明のはんだペーストに使用するフラックスの種類はとくに限定がなく、例えば、樹脂系、無機塩化物系、有機ハロゲン化物系などを用いてよい。ここでは最も一般的なフラックスである、ベース材にロジンを使用してこれに活性剤および溶剤を添加したものについて述べる。
このフラックスは、フラックス全量を100質量%とした場合、ベース材であるロジンが20〜30質量%、活性剤が0.2〜1質量%、溶剤が70〜80質量%程度となるように配合するのが好ましく、これにより良好な濡れ性および接合性を有するはんだペーストを得ることができる。ベース材としてのロジンには、例えばウッドレジンロジン、ガムロジン、トール油ロジンなどの天然の未変性なロジンを使用してもよいし、ロジンエステル、水素添加ロジン、ロジン変性樹脂、重合ロジンなどの変性ロジンを使用してもよい。
溶剤には、アセトン、アミルベンゼン、n−アミンアルコール、ベンゼン、四塩化炭素、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、トルエン、テレピン油、キシレン、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどを使用することができる。
活性剤には、アニリン塩酸塩、ヒドラジン塩酸塩、臭化セチルピリジン、フェニルヒドラジン塩酸塩、テトラクロルナフタレン、メチルヒドラジン塩酸塩、メチルアミン塩酸塩、エチルアミン塩酸塩、ジエチルアミン塩酸塩、ブチルアミン塩酸塩、ジフェニルグアニジンHBrなどを使用することができる。
これらの溶剤および活性剤の中から目的に合った物質を選択し、それらの添加量を適宜調整することによって好適なフラックスが得られる。例えば、はんだ合金や基板等の接合面の酸化膜が強固である場合は、ロジンや活性剤を多めに添加し、溶剤で粘性や流動性を調整するのが好ましい。
上記したはんだ合金とフラックスとを混合することによって得られるはんだペーストは、フラックスの作用によって非常に優れた濡れ性を備えている上、はんだ合金については加工に困難を伴うシート形状等に加工する必要がなく、加工しやすい粉末状で使用することができる。さらに、上記した合金組成とすることでNiとBiの反応を抑制することができる。
そして、本発明の高温用Pbフリーはんだペーストを、電子部品と基板との接合に使用することによって、ヒートサイクルが繰り返される環境などの過酷な条件下で使用される場合であっても、耐久性のある信頼性の高い電子基板を提供することができる。よって、この電子基板を、例えば、サイリスタやインバータなどのパワー半導体装置、自動車などに搭載される各種制御装置、太陽電池などの過酷な条件下で使用される装置に搭載することによって、それら各種装置の信頼性をより一層高めることができる。
まず、原料として、それぞれ純度99.99質量%以上のBi、Zn、Cu、およびAlを準備した。とくに大きな薄片やバルク状の原料については、溶解後の合金においてサンプリング場所による組成のバラツキが生じないように、切断、粉砕等により3mm以下の大きさに細かくした。高周波溶解炉用グラファイトるつぼに、これら原料から所定量を秤量して入れた。
原料の入ったるつぼを高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素を原料1kg当たり0.7L/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属が溶融しはじめたら混合棒でよく攪拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混ぜた。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかにるつぼを取り出してるつぼ内の溶湯をはんだ母合金の鋳型に流し込んだ。鋳型には、はんだ合金の製造の際に一般的に使用している形状と同様のものを使用した。
このようにして各原料の混合比率を変えることにより試料1〜15のはんだ母合金を作製した。これら試料1〜15のはんだ母合金の組成を、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100)を用いて分析した結果を下記の表1に示す。
(はんだ合金粉の製造)
ペースト用はんだ合金粉の製造方法はとくに限定されないが、アトマイズ法により製造するのが一般的である。アトマイズ法は気相中、液相中どちらで行ってもよく、目的とするはんだ粉の粒径や粒度分布等を考慮し選定すればよい。本実施例では、生産性が高く、比較的細かい粉末の製造ができる気相中アトマイズ法によりはんだ合金の粉末を作製した。
ペースト用はんだ合金粉の製造方法はとくに限定されないが、アトマイズ法により製造するのが一般的である。アトマイズ法は気相中、液相中どちらで行ってもよく、目的とするはんだ粉の粒径や粒度分布等を考慮し選定すればよい。本実施例では、生産性が高く、比較的細かい粉末の製造ができる気相中アトマイズ法によりはんだ合金の粉末を作製した。
具体的には、気相中アトマイズ装置(日新技研株式会社製)を用いて、高周波溶解式によって気相中アトマイズを行った。まず、上記した試料1〜15のはんだ母合金を、それぞれ別々に高周波溶解るつぼに投入し、蓋をして密閉した後、窒素フローし、実質的に酸素が無い状態にした。試料排出口や回収容器部分も同様に窒素フローして酸素が無い状態にした。
この状態で高周波電源のスイッチを入れ、はんだ母合金を350℃以上に加熱し、合金が十分溶融した状態で溶融したはんだ母合金に窒素で圧力を加え、アトマイズした。このようにして作製されたはんだ微粉を容器に回収し、この容器中で十分に冷却してから大気中に取り出した。十分に冷却してから取り出す理由は、高温状態で取り出すと発火したり、はんだ微粉が酸化して濡れ性等の効果を下げてしまうからである。
(はんだペーストの製造)
次に、はんだ母合金の試料からそれぞれ作製したはんだ微粉をそれぞれフラックスと混合し、はんだペーストを作製した。フラックスには、ベース材としてロジンを、活性剤としてジエチルアミン塩酸塩((C2H5)2NH・HCl)を、溶剤としてエチルアルコールを用いた。それぞれの含有量はフラックスを100質量%として、ロジンが23質量%、ジエチルアミン塩酸塩が0.3質量%、残部をエチルアルコールとした。このフラックスと上記はんだ微粉とをフラックス9.2質量%、はんだ微粉90.8質量%の割合で調合し、小型ブレンダーを用いて混合してはんだペーストとした。
次に、はんだ母合金の試料からそれぞれ作製したはんだ微粉をそれぞれフラックスと混合し、はんだペーストを作製した。フラックスには、ベース材としてロジンを、活性剤としてジエチルアミン塩酸塩((C2H5)2NH・HCl)を、溶剤としてエチルアルコールを用いた。それぞれの含有量はフラックスを100質量%として、ロジンが23質量%、ジエチルアミン塩酸塩が0.3質量%、残部をエチルアルコールとした。このフラックスと上記はんだ微粉とをフラックス9.2質量%、はんだ微粉90.8質量%の割合で調合し、小型ブレンダーを用いて混合してはんだペーストとした。
このようにして、上記表1に示す試料1〜15のはんだ母合金からそれぞれ試料1〜15のはんだペーストを作製した。そして、これら試料1〜15のはんだペーストの各々に対して、下記に示す濡れ性(接合性)評価、EPMAライン分析(Ni拡散防止効果の評価)、ヒートサイクル試験を行った。
<濡れ性(接合性)評価>
濡れ性(接合性)評価は、上記はんだペーストを用いて行った。まず、濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)を起動し、加熱されるヒーター部分に2重のカバーをしてヒーター部の周囲4箇所から窒素を流した(窒素流量:各12L/分)。その後、ヒーター設定温度を340℃にして加熱した。
濡れ性(接合性)評価は、上記はんだペーストを用いて行った。まず、濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)を起動し、加熱されるヒーター部分に2重のカバーをしてヒーター部の周囲4箇所から窒素を流した(窒素流量:各12L/分)。その後、ヒーター設定温度を340℃にして加熱した。
ヒーター温度が340℃で安定した後、Ni膜(膜厚:約2.5μm)を形成させたCu基板(板厚:約0.70mm)をヒーター部にセッティングし、25秒加熱した。次に、はんだペーストを上記Cu基板の上に載せ、25秒加熱した。25秒経過後、Cu基板をヒーター部から取り上げて、その横の窒素雰囲気が保たれている場所に一旦移して冷却した。
十分に冷却した後、大気中に取り出して接合部分を確認した。はんだが薄く濡れ広がり、金属の偏析等が見られなかった場合を「○」、はんだに凸凹した金属の偏析が見られた場合を「△」とした。なお、濡れ広がっても偏析がある場合を「△」と評価した理由は、偏析があると接合部に気泡が取り込まれ易くなってボイド発生率が高くなるからである。つまり、はんだと基板の境界に接合できていない部分が多く生じるからである。
<EPMAライン分析(Ni拡散防止効果の評価)>
Cu基板に設けたNi膜がBiと反応して薄くなったり、NiがBi中に拡散したりする問題が生じているか否かを確認するためにEMPAによるライン分析を行った。なお、この分析は、上記濡れ性評価と同様にして得たはんだ合金が接合されたCu基板を用いて行った。
Cu基板に設けたNi膜がBiと反応して薄くなったり、NiがBi中に拡散したりする問題が生じているか否かを確認するためにEMPAによるライン分析を行った。なお、この分析は、上記濡れ性評価と同様にして得たはんだ合金が接合されたCu基板を用いて行った。
まず、濡れ性評価と同様にして得たはんだ合金が接合されたCu基板を樹脂に埋め込み、研磨機を用いて粗い研磨紙から順に細かいものを用いて研磨し、最後にバフ研磨を行った。その後、EPMA(装置名:SHIMADZU EPMA−1600)を用いてライン分析を行い、Niの拡散状態等を調べた。
測定方法ははんだ合金が接合されたCu基板の断面を横から見たときのCu基板とNi膜の接合面を原点Oとしてはんだ側をX軸のプラス方向とした(図1参照)。測定においては任意に5箇所を測定して最も平均的なものを採用した。Ni膜が反応してNi膜厚が10%以上減少していたり、Niが層状ではんだ中に拡散している場合を「×」、Ni膜の厚みが初期状態とほとんど変わらずNiがはんだ中に拡散していない場合を「○」と評価した。
<ヒートサイクル試験>
はんだ接合の信頼性を評価するためにヒートサイクル試験を行った。なお、この試験は、上記濡れ性評価と同様にして得たはんだ合金が接合されたCu基板を用いて行った。まず、はんだ合金が接合されたCu基板に対して、−50℃の冷却と150℃の加熱を1サイクルとして、これを所定のサイクル繰り返した。
はんだ接合の信頼性を評価するためにヒートサイクル試験を行った。なお、この試験は、上記濡れ性評価と同様にして得たはんだ合金が接合されたCu基板を用いて行った。まず、はんだ合金が接合されたCu基板に対して、−50℃の冷却と150℃の加熱を1サイクルとして、これを所定のサイクル繰り返した。
その後、はんだ合金が接合されたCu基板を樹脂に埋め込み、断面研磨を行い、SEM(装置名:HITACHI S−4800)により接合面の観察を行った。接合面に剥がれが生じていたり、はんだにクラックが入っていた場合を「×」、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」とした。上記の評価および試験の結果を表2に示す。
上記表2から分かるように、本発明の要件を満たしている試料1〜10のはんだペーストは、全ての評価項目において良好な特性を示した。つまり、濡れ性評価では偏析することなく薄く良好に広がり、EPMAライン分析ではBi中へのNiの拡散は生じておらず、ヒートサイクル試験では500サイクル経過しても不良が発生しなかった。
一方、本発明の要件を満たしていない比較例の試料11〜15のはんだペーストは、少なくともいずれかの特性において好ましくない結果となった。具体的には、試料12〜15では、はんだが良好に広がらずに偏析が生じたため濡れ性の評価は「△」であった。試料11ではEPMAライン分析においてNi拡散が認められた。また、ヒートサイクル試験では全ての比較例の試料11〜15において200サイクルまでに不良が発生した。
Claims (2)
- はんだ合金粉末とフラックスとを混合してなるはんだペーストであって、該はんだ合金粉末はその合計を100質量%としたとき、Znを0.4質量%以上13.5質量%以下含有するとともに、Cuを0.01質量%以上2.0質量%以下および/またはAlを0.03質量%以上0.7質量%以下含有し、残部が不可避的に含まれる不純物を除いてBiからなり、該フラックスはその合計を100質量%としたとき、ロジンを20〜30質量%、活性剤を0.2〜1質量%及び溶剤を70〜80質量%含んでいることを特徴とするPbフリーはんだペースト。
- 前記はんだ合金粉末にZnが13.1質量%を超えて含まれるかまたはCuが1.9質量%を超えて含まれる場合は、不可避的に含まれる場合を除いてAlが含まれていないことを特徴とする、請求項1に記載のPbフリーはんだペースト。
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