JP4953547B2 - ジンセノサイド糖基を加水分解するジンセノサイドグリコシダーゼ及びその使用 - Google Patents

ジンセノサイド糖基を加水分解するジンセノサイドグリコシダーゼ及びその使用 Download PDF

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Description

本発明は、薬用人参(ginseng)中における含量が高いジンセノサイド(ginsenoside)の糖基を加水分解して、稀有なジンセノサイドを製造するジンセノサイド グルコシダーゼに関する。また、本発明は、該ジンセノサイド グリコシダーゼの使用に関する。
薬用人参は、有名な植物薬であり、古代から東洋の国々において高価な伝統薬として使用されてきた。薬として使用される主な薬用人参植物は、朝鮮人参(Panax ginseng C.A. Meyer)、米国人参(Panax quinquefolium L.)、三七参(Panax natoginseng)、竹節参(Panax japonicus)及びPanax属のその他の種である。
薬用人参植物中の重要な生理学的有効成分のひとつはサポニン(ジンセノサイドと呼ばれる)で、30種以上のジンセノサイドが知られている。ジンセノサイドは3種類、即ち、プロトパナキサジオール系(PPD)、プロトパナキサトリオール系(PPT)及びオレアノール酸系のサポニンに分類することができる。ジンセノサイド Ra1, Ra2, Ra3, Rb1, Rb2, Rb3, Rc, Rd, F2, Rg3, Rg5, Rh2及びRh3は、プロトパナキサジオール系のジンセノサイドで、ジンセノサイド Re, Rg1, Rg2, Rg4, Rh1及びRh4は、プロトパナキサトリオール系のジンセノサイドである。Roはオレアノール酸系のサポニンである。ジンセノサイド Ra1, Ra2, Ra3, Rb1, Rb2, Rb3, Rc, Rd, F2, Re及びRg1は、ダンマラン(dammarane)-20(S)-サポニンであるが、ジンセノサイド Rg3, Rh2, Rg2及びRh1は、20(S)-型及び20(R)-型を持つ。主要なジンセノサイドの構造は以下の通りである。
Figure 0004953547
薬用人参中での含量が高いジンセノサイドは、Ra, Rb1, Rb2, Rc, Rd, Re及びRg1であり、その他のジンセノサイド Rg3, Rg2, Rg5, Rh2, Rh1, Rh3, Rh4等は、紅参又は野山参にのみ見られる珍しいジンセノサイドである。これらの稀有ジンセノサイドは、しばしば特有の生理活性を有している。例えば、ジンセノサイド Rh2, Rh3, Rg3及びRh1は、良好な抗癌作用を有し、副作用がない。ジンセノサイド Rg3及びRg2は、抗血栓作用を有する。従って、これらの稀有ジンセノサイドは、薬品及び健康食品において重要な適用性を有する。しかし、これらの稀有ジンセノサイドは、紅参及び野山参中での含量が少ないため、紅参及び野山参から得ることは非常に困難である。
ジンセノサイド Rh2などの稀有なジンセノサイドを得るため、化学合成が試みられているが、収率が非常に低い(劉維差(Liu Weicha)等、陽薬学院学報(Journal of Shenyang Medical College)1, 14, 1988)。アルカリ又は酸で加水分解することによって稀有ジンセノサイドを得ることも提案されている(N. Kondo et al., Chem. Pharm. Bull., 21, 2702, 1973)。しかし、この方法は反応選択性が乏しく収率が低い。また、日本の研究者等が、ヒトの腸内におけるジンセノサイドの代謝について研究している(M. Kanaoka et al., J. Traditional Medicine, 11, 241, 1994)。
稀有なジンセノサイドの大規模生産において、今日まで満足な結果は得られておらず、それゆえ、稀有なジンセノサイドの大規模生産のための新たな方法が未だ求められている。本発明者等は、微生物、薬用人参植物、小麦のフスマ、アーモンド、麦芽及び動物の肝臓から、ジンセノサイドの糖基を加水分解することができる新規な酵素を見出した。このような酵素は、ジンセノサイド グルコシダーゼ(又はジンセノシダーゼ)と名付けられ、薬用人参中に高い含量で存在するジンセノサイド Ra, Rb1, Rb2, Rc, Rd, Re及びRg1を加水分解することができ、それゆえ稀有ジンセノサイドの大規模生産において有用である。
従って、本発明の目的は、ジンセノサイドの糖基を加水分解して、稀有なジンセノサイドを製造することができる新しい種類の酵素を提供することにある。該酵素は、ジンセノサイド グリコシダーゼと称されるものである。
本発明のさらなる目的は、本発明のジンセノサイド グリコシダーゼの様々な使用を提供することにある。
本発明は、ジンセノサイドの糖基を加水分解して稀有ジンセノサイドを生産することができる新規な酵素に関する。該酵素はジンセノサイド グルコシダーゼと呼ばれる。本発明の酵素は、微生物、薬用人参植物、小麦のフスマ、アーモンド、麦芽及び動物の肝臓から得ることができる。該酵素を使用することによって、薬用人参中での含量が高いジンセノサイド Ra, Rb1, Rb2, Rc, Rd, Re, Rg1等のジンセノサイドを加水分解して、ジンセノサイド Rh1, Rh2, C-K, Rg2, Rg3, F2, Rd等の珍しいジンセノサイド及びアグリコンを得ることができ、このようにして、紅参及び野山参の中にのみ存在するこれらの稀有ジンセノサイド及びその他の稀有ジンセノサイドを大量に製造することができる。
本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、その酵素反応によって、4つのグループ、即ち、ジンセノサイド グリコシダーゼ I、ジンセノサイド グリコシダーゼ II、ジンセノサイド グリコシダーゼ III及びジンセノサイド−α−ラムノシダーゼに分類することができる。
ジンセノサイド グリコシダーゼ Iは、ジンセノサイド Ra, Rb1, Rb2, Rc及びRdのβ−グルコシド結合、β−キシロシド結合及びα−アラビノシド結合を加水分解することができる。
ジンセノサイド グリコシダーゼ IIは、ジンセノサイド Ra, Rb1, Rb2, Rc及びRdのC-20(第20炭素原子)におけるβ−グルコシド結合、β−キシロシド結合及びα−アラビノシド結合を加水分解して、ジンセノサイド Rdを与えることができる。
ジンセノサイド グリコシダーゼ IIIは、ジンセノサイド RdのC-3におけるアグリコンと糖基との間のグリコシド結合を加水分解して、ジンセノサイド C-Kを与えることができる。
ジンセノサイド−α−ラムノシダーゼは、ジンセノサイド Re及びRg2それぞれのC-6におけるα−ラムノシド結合を加水分解して、ジンセノサイドRg1及びRh1それぞれを与えることができる。
上記の4種のジンセノサイド グルコシダーゼのうちの1種以上を使用して、ジンセノサイド Ra, Rb1, Rb2, Rc, Rd, Re, Rg1等の薬用人参植物中での含量が高いジンセノサイドを加水分解して、稀有なジンセノサイドを製造することができる。
本発明は、さらに、本発明のジンセノサイド グルコシダーゼの使用に関する。例えば、本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、薬用人参植物中での含量が高いジンセノサイド及びその他の入手が容易なジンセノサイドを処理して、稀有で有用なジンセノサイドを製造するのに用いることができる。本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、ジンセノサイド全体を処理して、稀有ジンセノサイド含量が高い混合ジンセノサイドを製造するのに用いることもできる。本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、薬用人参粉末を処理して、稀有ジンセノサイドの含量が高い薬用人参製品を製造するのに用いることもできる。
本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、従来のセルラーゼ又はヘミセルラーゼと以下の点で異なる。即ち、セルラーゼ又はヘミセルラーゼは、セルロース及びヘミセルロース等の多糖のグリコシド結合を加水分解するのみであるのに対して、本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、薬用人参ダンマラングリコシド結合を加水分解する。例えば、β−グルコシダーゼ(EC3.2.1.21)は、セルロース及びセロビオースのβ−グリコシド結合を加水分解するが、ジンセノサイドのC-3原子におけるβ−グリコシド結合をほとんど加水分解しない。この理由は、従来のセルラーゼ及びヘミセルラーゼは多糖のグリコシド結合を加水分解するが、本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは30個の炭素原子を有するグリコシドのグリコシド結合を加水分解することにある。
発明の詳細な説明
精製及び特性評価の後、本発明のジンセノサイドグリコシダーゼは、4つの種類、即ち、ジンセノサイド グリコシダーゼ I、ジンセノサイド グリコシダーゼ II、ジンセノサイド グリコシダーゼ III及びジンセノサイド−α−ラムノシダーゼを有することが分かった。ジンセノサイド グリコシダーゼ Iは、ジンセノサイド Ra, Rb1, Rb2, Rc及びRdのβ−グルコシド結合、β−キシロシド結合及びα−アラビノシド結合を加水分解することができる。ジンセノサイド グリコシダーゼ IIは、ジンセノサイド Ra, Rb1, Rb2, Rc及びRdのC-20(第20炭素原子)におけるβ−グルコシド結合、β−キシロシド結合及びα−アラビノシド結合を加水分解して、ジンセノサイド Rdを与えることができる。ジンセノサイド グリコシダーゼ IIIは、ジンセノサイド RdのC-3におけるアグリコンと糖基との間のグリコシド結合を加水分解して、ジンセノサイド C-Kを与えることができる。ジンセノサイド−α−ラムノシダーゼは、ジンセノサイド Re及びRg2それぞれのC-6におけるα−ラムノシド結合を加水分解して、ジンセノサイドRg1及びRh1それぞれを与えることができる。
本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、薬用人参の中で含量が高いジンセノサイド及びその他の入手容易なジンセノサイドを処理して、稀有で有用なジンセノサイドを製造するのに用いることができる。本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、ジンセノサイド全体を処理して、稀有ジンセノサイド含量が高い混合ジンセノサイドを製造するのに用いることもできる。本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、薬用人参粉末を処理して、稀有ジンセノサイドの含量が高い薬用人参製品を製造するのに用いることもできる。
本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、微生物培養物、薬用人参植物、小麦のフスマ、アーモンド、麦芽、動物の肝臓等から得ることができる。該微生物としては、細菌、ストレプトマイセス、酵母、アスペルギルス、担子菌等が挙げられる。微生物を用いてジンセノサイド グルコシダーゼを製造する場合、薬用人参抽出物又は薬用人参粉末を、酵素収量の向上のために、添加することができる。微生物は、液体又は固体の培地で培養することができる。固体培地で培養する場合、培養した固体培地を緩衝液で抽出し、遠心分離して酵素溶液を得ることができる。培養した液体培地は、直接遠心分離して酵素を含有する溶液を得ることができる。薬用人参植物又は動物の肝臓を用いて本発明のジンセノサイド グルコシダーゼを製造する場合、これらの材料が、粉砕され、緩衝液で抽出された後、遠心分離されて酵素溶液が得られる。小麦のフスマ、麦芽及びアーモンドの場合、これらが緩衝液で抽出され、遠心分離されて酵素を含有する溶液が得られる。任意で、このようにして得られた溶液中のジンセノサイド グルコシダーゼを、さらに、硫酸アンモニウム又はエタノールを加えることにより沈殿させた後、緩衝液に溶解して、濃縮された酵素溶液を得ることもできる。
酵素の起源の違いによって、本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、上述した4種のジンセノサイド グルコシダーゼそれぞれの含量が異なる。
本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、ジンセノサイドを直接処理して珍しいジンセノサイドを調製するのに用いることができる。精製された又は精製されていない酵素を、所望する生成物に応じて用いることができる。酵素反応は、pH2〜11、5〜70℃、ジンセノサイド基質0.001〜20%の条件で行なうことができる。該基質としては、プロトパナキサジオール系ジンセノサイド、プロトパナキサトリオール系ジンセノサイド等が挙げられる。酵素反応からの生成物は、部分的に又は完全に変化した糖基を有するジンセノサイド、例えば、Rh2、Rh1、C-K、Rg2、Rg3、F2、Rg1、Rd、及びこれらの異性体である。
本発明を図面及び実施例を参照してさらに詳細に説明する。
図1は、本発明のジンセノサイド グルコシダーゼ Iによるプロトパナキサジオール系ジンセノサイドの加水分解を示す。 図2は、本発明のジンセノサイド グルコシダーゼ IIによるプロトパナキサジオール系ジンセノサイドの加水分解を示す。 図3は、本発明のジンセノサイド グルコシダーゼ IIIによるジンセノサイドの加水分解を示す。 図4は、本発明のジンセノサイド−α−ラムノシダーゼによるジンセノサイドの加水分解を示す。 図5は、20(S)-及び20(R)-ジンセノサイドの構造を示す。
微生物からのジンセノサイド グルコシダーゼの調製
1.黒カビ(アスペルギルス ニガー;Aspergillus niger)からのジンセノサイド グルコシダーゼ
使用した菌株は、アスペルギルス ニガーFFCCDL-48g(大連軽工業学院菌種保存所(FFCCDL)から入手。アスペルギルス ニガーFFCCDL-48gは、大連軽工業学院が、中国普通微生物菌種保蔵中心、中国科学院微生物研究所(中国科学院微生物研究所、中国普通微生物菌種保蔵中心編輯:菌種目録、科学出版社、1982年出版)から入手した菌(Aspergillus niger AS3.40菌)である。)である。
1.1 酵素の製造
アスペルギルス ニガー FFCCDL-48gは、薬用人参抽出物1%及び小麦のフスマ抽出物3%を含有する培地中で、30℃にて54時間培養された。遠心分離により細胞を除去した後、細胞を含有しない上澄み液2000mlに、(NH4)2SO4粉末を65%飽和度まで攪拌しながら加えた。この溶液を4℃で一晩放置した後、沈殿した蛋白質を遠心分離により採取し、80mlの蒸留水に再び懸濁させ、pH5の0.01M酢酸緩衝液に対して透析した。不溶物を遠心分離により除去した後、この溶液をpH5の0.01M酢酸緩衝液を用いて200mlに調整した。この粗酵素溶液は、ジンセノサイドの加水分解又は酵素の精製に用いることができる。
1.2 ジンセノサイドの加水分解
ジンセノサイド Rb1、Rb2、Rc及びRdそれぞれ100mg並びにジンセノサイド Rg310mgを、pH5の0.01M酢酸緩衝液10mlが入っている分離管内で溶解させた。1.1において得られた粗酵素溶液10mlを各分離管に加え、30℃で18時間反応させた。次いで、n−ブタノール10mlを加えて反応を停止した。生成物は、薄層クロマトグラフィー(TLC)(Silica gel 60-F254, Merck;クロロホルム:メタノール:水 70:30:5)により測定した。島津製作所製TLC Scanner CS-930による検出結果を表1に示す。
Figure 0004953547
表1から明らかなように、アスペルギルス ニガーからの酵素は、プロトパナキサジオール系ジンセノサイドの糖基を、90%以上の変換率で加水分解することができる。Rg3からRh2への変換率は50%を超えている。酵素反応の主生成物は、ジンセノサイドF2、C-K、Rh2及びアグリコンであった。アスペルギルス ニガーからの酵素によるジンセノサイド Ra1, Ra2及びRa3の加水分解は、Rb1の加水分解に類似していた。
上述した実験結果から、アスペルギルス ニガーからのジンセノサイド グルコシダーゼは、少なくとも、C-3のβ-(1→2)-D-グルコシド、C-20のβ-(1→6)-D-グルコシド、C-20のα-(1→6)-L-アラビノシド、及びC-20のβ-(1→6)-D-キシロシドを加水分解する活性を有すると言える。
ジンセノサイド グルコシダーゼの製造は、薬用人参抽出物又はジンセノサイドの添加により誘導作用を受ける。即ち、酵素の収量は、薬用人参抽出物又はジンセノサイドを培地に添加すると増加し、これらの誘導物を添加しないと減少する。
1.3 アスペルギルス ニガーからのジンセノサイド グルコシダーゼの特性
酵素についてさらなる特性評価を行なうため、実験を行なって、温度、pH、金属イオン及び反応時間が酵素反応に対して与える影響を調べた。
酵素反応に対する温度の影響:
100mgのジンセノサイド Rb1を、1.2と同様の条件下での反応において用いた。温度の影響を表2に示す。
Figure 0004953547
表2に示されるように、Rb1は30〜60℃の温度範囲において、より良好に加水分解される。ジンセノサイド F2及びC-Kの収量は、20〜50℃の温度範囲において高い。20〜50℃においては、ジンセノサイド C-Kの収量は、温度が上昇するのに伴って高くなる。表2から、多量のジンセノサイド F2が要求される場合は、温度を好ましくは30〜40℃に保ち、多量のジンセノサイド C-Kが要求される場合は、温度を好ましくは40〜50℃の範囲に保つ。反応が20℃又は60℃で行なわれると、多量のジンセノサイド Rdが得られる。ジンセノサイド Rg3及びRh2並びにアグリコンの収量は、相対的に低い。Ra、Rb2、Rc及びRdの加水分解に対する温度の影響は、Rb1に対する影響と類似する。
酵素反応に対するpHの影響:
酵素反応に対する様々なpHの影響を表3に示した。
Figure 0004953547
表3に示されるように、ジンセノサイド F2の収量は、pH4〜7で高く、ジンセノサイド C-K及びRh2並びにアグリコンの収量は、pHの上昇に伴って高くなる。Ra、Rb2、Rc及びRdの加水分解に対するpHの影響は、Rb1に対する影響と類似する。
酵素反応に対する反応時間の影響:
酵素反応に対する様々な反応時間の影響を表4に示した。
Figure 0004953547
表4に示されるように、先ずジンセノサイド Rb1のC-20におけるグリコシドが加水分解されてRdが得られる。Rdの収量は、反応時間に伴って減少するのに対して、ジンセノサイド F2及びC-Kの含量は増加する。F2の収量は、反応が12〜24時間継続されたときに最も高くなる。ジンセノサイド C-K及びRh2並びにアグリコンの収量は、反応時間に伴って増加する。Ra、Rb2、Rc及びRdの加水分解に対する反応時間の影響は、Rb1に対する影響と類似する。
酵素反応に対する金属イオンの影響:
酵素反応に対する金属イオンの影響を表5に示した。
Figure 0004953547
表5に示されるように、Ca++及びMg++は、変換速度を僅かに加速することができるのに対して、Cu++及びPb++は、反応を阻害する。Ra、Rb2、Rc及びRdの加水分解に対する反応時間の影響は、Rb1に対する影響と類似する。
1.4 アスペルギルス ニガーからのジンセノサイド グルコシダーゼの精製
1.1において得られた酵素溶液10mlをDEAE-セルロース DE-52カラム(Pharamcia製、1.5×6.7cm)で処理して酵素蛋白質を吸着させた。次いで、該カラムをNaCl勾配(0.06, 0.12, 0.18, 0.24, 0.3, 0,4, 0.5及び0.6M)で溶出した。
DEAE-セルロースからのフラクション36及び54は、SDS-ポリアクリルアミドゲルにおいて単一の点として現れ、このことは精製された酵素であることを表す。この精製された酵素によるジンセノサイドの加水分解を表6に示した。
Figure 0004953547
DEAE-セルロースカラムから0.12M NaClで溶出されたフラクション36は、凍結乾燥され、SDS-ポリアクリルアミドゲルで泳動したとき、分子量51000ダルトンの単一の点として現れた。従って、これは精製された酵素であることを示し、ジンセノサイド グルコシダーゼIと命名し、その特性は表6に示す通りである。
表6から明らかなように、フラクション36(ジンセノサイド グルコシダーゼI)は、Rb1のC-20におけるβ-(1→6)-D-グルコシド、Rc及びRb2のC-20におけるα-(1→6)-L-アラビノシド、ジンセノサイドRaのC-20におけるβ-(1→6)-キシロシドを加水分解することができる。フラクション36はまた、Ra, Rb1, Rb2, Rc, Rd, Rg3等のプロトパナキサジオール系ジンセノサイドのC-3におけるβ-(1→2)-グルコシドを加水分解することができ、アグリコンのC-3におけるβ-D-グルコシル及びC-20におけるβ-グルコシルも僅かに加水分解することができる。ジンセノサイド グルコシダーゼIによる加水分解機構を図1に示す。ジンセノサイド グルコシダーゼIはまた、β−グルコシド、β−キシロシド、α−アラビノシド及びβ−ガラクトシドを加水分解するが、p−ニトロフェニル−α−ラムノシドは加水分解しない。
ジンセノサイド グルコシダーゼ II
DEAE-セルロースカラムから0.18M NaClで溶出されたフラクション54は、凍結乾燥され、SDS-ポリアクリルアミドゲルで泳動したとき、分子量90000ダルトンで単一の点として現れた。従って、これは精製された酵素であることを示し、ジンセノサイド グルコシダーゼ IIと命名した。この酵素は、Rb1のC-20におけるβ-(1→6)-D-グルコシド、ジンセノサイドRaのβ-(1→6)-キシロシド並びにRc及びRb2のC-20におけるα-(1→6)-L-アラビノシドを加水分解してRdを与え、Rdを僅かに加水分解してRg3を与えるが、プロトパナキサジオール系ジンセノサイドのC-3におけるβ-(1→2)-グルコシドは加水分解しない。ジンセノサイド グルコシダーゼ IIによる加水分解機構を図2に示す。
ジンセノサイド グルコシダーゼ IIIは、1.1において得られた粗酵素溶液からHPLC分離カラム:Bio-Scale Q (BioRad), 2ml/tubeで精製された。粗酵素溶液1mlを上記カラムに注入し、溶液A(pH7.4の25mM Tris-HCl緩衝液)及び溶液B(pH7.4の0.5M NaCl(溶媒:20mM Tris-HCl緩衝液))で溶出した。フラクション18は、SDS-ポリアクリルアミドゲルで泳動したとき、単一の点として現れ、従って精製された酵素であることを示した。この酵素をジンセノサイド グルコシダーゼ IIIと命名した。この酵素は、アグリコンのC-3におけるジグルコシル基を加水分解して、Rd及びRg3をC-K及びアグリコンに変換する。ジンセノサイド グルコシダーゼ IIIによる加水分解の機構を図3に示す。
上述したアスペルギルス ニガーからの3種類のジンセノサイド グルコシダーゼの特性を表7にまとめて示す。
Figure 0004953547
1.5 ジンセノサイド グルコシダーゼとセルロースβ−グルコシダーゼとの違い
本発明のジンセノサイド グルコシダーゼと既知のexo−セルラーゼとの違いを観察するため、本発明のジンセノサイド グルコシダーゼを、セルロースβグルコシダーゼ(EC3.2.1.21)と、0.5%ジンセノサイドRb1又はRdを基質とした2つの反応において比較した。反応はpH5.0、30℃で18時間行った。結果を表8に示す。
Figure 0004953547
クロストリディウム サーモコプリー(Chlostridium thermocopriae)及びバチルス(Bacillus)属AXからのセルロースβ−グルコシダーゼ(EC3.2.1.21)は、ジンセノサイドのいずれのグリコシドをも加水分解することができない。アーモンドからのセルロースβ−グルコシダーゼは、Rb1、Rb2及びRcのC-20グリコシドを僅かに加水分解してジンセノサイドRdを与えるが、C-3におけるグリコシドを加水分解することはできない。ジンセノサイド グルコシダーゼIIは、アーモンドからのセルロースβ−グルコシダーゼに類似しているが、Rdを僅かに加水分解するのみである。ジンセノサイド グルコシダーゼIIIの特性は、セルロースβ−グルコシダーゼの特性とは全く異なる。
クロストリディウム サーモコプリーからのexo-セルラーゼ(セロビオース生成酵素)は、セロデキストリンを切断してセロビオースを与えるが、ジンセノサイドRdのC-3におけるジグルコシド結合を加水分解することはできない。そのため、上記exo-セルラーゼは、ジンセノサイド グルコシダーゼIIIとは全く異なる。従って、本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、既知のセルロースβ−グルコシダーゼ及びセロビオース生成酵素とは異なる。
2. アスペルギルス オリゼー(Aspegillus oryzae)からのジンセノサイド グルコシダーゼ
2.1 酵素の製造
アスペルギルス オリゼーFFCCDL-39g(大連軽工業学院菌種保存所から入手。アスペルギルス オリゼーFFCCDL-39gは、大連軽工業学院が、中国普通微生物菌種保蔵中心、中国科学院微生物研究所(中国科学院微生物研究所、中国普通微生物菌種保蔵中心編輯:菌種目録、科学出版社、1982年出版)から入手した菌(Aspergillus oryzae AS3.951菌)である。)は、1%の薬用人参抽出物及び3%の小麦のフスマ抽出物を含有する培地中で、30℃にて64時間攪拌しながら培養された。遠心分離により細胞を除去した後、細胞を含有しない上澄み液2000mlに、(NH4)2SO4粉末を65%飽和度まで攪拌しながら加えた。この溶液を4℃で一晩放置した後、沈殿した蛋白質を遠心分離により採取し、80mlの蒸留水に再び懸濁させ、pH5の0.01M酢酸緩衝液に対して透析した。不溶物を遠心分離により除去した後、この溶液をpH5の0.01M酢酸緩衝液を用いて200mlに調整した。この粗酵素液は、ジンセノサイドの加水分解又は酵素の精製に用いることができる。
ジンセノサイド Rb1、Rb2、Rc、Re及びRdそれぞれ100mg並びにジンセノサイド Rg3及びRg2それぞれ10mgを、pH5.0の0.01M酢酸緩衝液10mlが入っている分離管内で溶解させた。上述のようにして得られた粗酵素溶液10mlを上記分離管それぞれに加え、30℃で18時間反応させた。次いで、n−ブタノール10mlを加えて反応を停止した。生成物は、薄層クロマトグラフィー(TLC)(Silica gel 60-F254, Merck;クロロホルム:メタノール:水 70:30:5)により測定した。島津製作所製TLC Scanner CS-930による検出結果を表9に示す。
Figure 0004953547
表9から明らかなように、プロトパナキサジオール系ジンセノサイドの加水分解におけるアスペルギルス オリゼーからのジンセノサイド グルコシダーゼのpH、温度、反応時間の影響等の特徴は、アスペルギルス ニガーからのジンセノサイド グルコシダーゼの特徴と全て類似している。唯一の違いは、アスペルギルス ニガーからの酵素はジンセノサイドRe及びRg2のC-6におけるα-(1→2)-L-ラムノシド結合を加水分解できないが、アスペルギルス オリゼーからのジンセノサイド グルコシダーゼは該結合を加水分解して、Rg1及びRh1を与えることができる点にある。このことは、アスペルギルス オリゼーからのジンセノサイド グルコシダーゼは、ジンセノサイド グルコシダーゼI、II及びIIIの活性に加えて、ジンセノサイド-α-(1→2)-L-ラムノシダーゼ(即ちジンセノサイド−α−ラムノシダーゼ)活性も有していることを示している。
2.2 ジンセノサイド−α−ラムノシダーゼの精製及び特性評価
アスペルギルス オリゼーからのジンセノサイド−α−ラムノシダーゼの特性を検討するため、この酵素をバイオロジカル ミディアム プレッシャー クロマトグラフィー(BioRad)によって精製した。パラメータは以下の通りである:カラム Bio-Scale Q2 (BioRad);粗酵素 1ml;流速 1ml/分;移動相 pH8.2の20mM Tris-HCl及び0.5M NaCl(溶媒:pH8.2の20mM Tris-HCl);2ml/tube
各フラクションの活性が試験され、フラクション16がジンセノサイド−α−ラムノシダーゼ活性を有することが見出された。ジンセノサイド−α−ラムノシダーゼは、SDS-ポリアクリルアミドゲルで泳動したとき、分子量53000の単一の点として現れた。このことは、フラクション16の酵素は精製された酵素であることを示している。
精製されたジンセノサイド−α−ラムノシダーゼは、ジンセノサイドRe及びRg2それぞれのC-6におけるα−L−ラムノシドを加水分解して、Rg1及びRh1それぞれを製造することができる。この酵素は、pH4〜7(最適pHは5)、30〜50℃(最適温度は40℃)でさらに活性である。精製されたジンセノサイド−α−ラムノシダーゼは、プロトパナキサトリオール系ジンセノサイドのC-6におけるα−L−ラムノシドを加水分解するのみで、ジンセノサイドの他のグリコシド結合は加水分解しない。ジンセノサイド−α−ラムノシダーゼによるRe及びRg2の加水分解機構を図4に示す。
3. 細菌からのジンセノサイド グルコシダーゼ
好熱性・好気性バチルス属JF(Fengxie. Jin et al., J. Gen. Appl. Microbiol., 36, 415-434, 1990)は、薬用人参抽出物0.5重量%、小麦のフスマ抽出物1重量%及びトリプトン0.3重量%を含有する培地で、pH7.2、60℃にて36時間通気し、攪拌しながら培養された。遠心分離により細胞を除去した後、細胞を含有しない上澄み液1000mlに、95%エタノール3000mlを加えた。この溶液を4℃で一晩放置した後、遠心分離してペレットを採取した。この酵素蛋白質ペレットを、pH5の0.01M酢酸緩衝液50mlに溶解した。不溶物を遠心分離により除去し、粗酵素溶液を得た。
この酵素溶液10mlを、0.5%Rd含有酢酸緩衝液(エタノールを20%含有)10mlと70℃で16時間反応させた。TLC分析により、60%のRdがジンセノサイドF2に変換されていることが明らかになった。このことは、微生物ジンセノサイド グルコシダーゼが、Rdの第3炭素原子におけるβ−(1→2)−グルコシドを加水分解できることを示している。この酵素は、Rg3のβ−(1→2)−グルコシドを加水分解してRh2を与えることもできる。
この酵素の最適反応温度は70℃で、最適pHは6.0である。
4. 酵母からのジンセノサイド グルコシダーゼ
カンジダ(Candida)属 FFCCDL-2g(大連軽工業学院菌種保存所から入手。カンジダ(Candida)属FFCCDL-2gは、大連軽工業学院が、中国普通微生物菌種保蔵中心、中国科学院微生物研究所(中国科学院微生物研究所、中国普通微生物菌種保蔵中心編輯:菌種目録、科学出版社、1982年出版)から入手した菌(Candida sp AS2.565菌)である。)は、薬用人参抽出物2重量%及び麦芽抽出物8重量%を含有する培地中で、30℃にて56時間振とう培養された。遠心分離により細胞を除去した後、細胞を含有しない上澄み液500mlに、(NH4)2SO4粉末を65%飽和度まで加えた。この溶液をpH5の0.01M酢酸緩衝液に対して透析した。不溶物を遠心分離により除去し、25mlの粗酵素溶液を得た。
この酵素溶液10mlを、0.5%Rd含有酢酸緩衝液10mlと60℃で12時間反応させた。TLC分析により、Rdの73%がジンセノサイドF2に変換されていることが明らかになった。このことは、上記酵素は、Rdの第3炭素原子におけるβ−(1→2)−グルコシドを加水分解できることを示している。この酵素は、Rg3のβ−(1→2)−グルコシドを加水分解してRh2を与えることもできる。
この酵素の最適反応温度は45℃で、最適pHは5.5である。
5. ストレプトマイセス(Streptomyces)からのジンセノサイド グルコシダーゼ
ストレプトマイセス属 FFCCDL-2g(大連軽工業学院菌種保存所から入手。ストレプトマイセス属 FFCCDL-2gは、大連軽工業学院が、中国普通微生物菌種保蔵中心、中国科学院微生物研究所(中国科学院微生物研究所、中国普通微生物菌種保蔵中心編輯:菌種目録、科学出版社、1982年出版)から入手した菌(Streptomyces属のAS4.260菌)である。)は、薬用人参抽出物1重量%及び小麦のフスマ抽出物3重量%を含有する培地で、30℃にて48時間培養された。遠心分離により細胞を除去した後、細胞を含有しない上澄み液300mlに、(NH4)2SO4粉末を70%飽和度まで加えて、酵素を沈殿させた。この溶液を4℃で一晩保存し、遠心分離してペレットを採取した。該ペレットを懸濁させ、この懸濁液をpH5の0.01M酢酸緩衝液に対して透析した。不純物を遠心分離により除去し、15mlの粗酵素溶液を得た。
この酵素溶液10mlを、1%Rd含有酢酸緩衝液(エタノールを20%含有)10mlと50℃で20時間反応させた。TLC分析により、Rdの50%がジンセノサイドF2に変換されていることが明らかになった。このことは、ストレプトマイセスからのジンセノサイド グルコシダーゼは、Rdの第3炭素原子におけるβ−(1→2)−グルコシドを加水分解することを示している。
この酵素の最適反応温度は50℃で、最適pHは5.5である。
5. 担子菌からのジンセノサイド グルコシダーゼ
トレメラ(Tremella)属 FFCCDL-12g(大連軽工業学院菌種保存所から入手。トレメラ(Tremella)属 FFCCDL-12gは、大連軽工業学院が、中国普通微生物菌種保蔵中心、中国科学院微生物研究所(中国科学院微生物研究所、中国普通微生物菌種保蔵中心編輯:菌種目録、科学出版社、1982年出版)から入手した菌(Tremella属のAS5.167菌)である。)は、薬用人参粉末125g、小麦のフスマ374g及び水500mlを含有する固体培地上で、5〜7日間培養された。次いで、pH5の0.01M酢酸緩衝液2500mlを上記固体培地に加え、2時間放置した。遠心分離により不溶物を除去し、約2000mlの液体を得た。該液体に、(NH4)2SO4粉末を70%飽和度まで攪拌しながら加えた。この溶液を4℃で一晩放置し、遠心分離してペレットを採取した。該ペレットを懸濁させ、この懸濁液をpH5の0.01M酢酸緩衝液に対して透析した。次いで、この溶液を0.01M酢酸緩衝液を用いて150mlまで希釈した。不純物を遠心分離により除去し、粗酵素溶液を得た。
この酵素溶液10mlを、1%Rb1含有酢酸緩衝液(エタノールを20%含有)10mlと40℃で20時間反応させた。TLC分析により、Rb1は、Rd25%、F240%及びC-K35%の混合物に変換されていることが明らかになった。この結果は、トレメラからのジンセノサイド グルコシダーゼは、第3炭素原子におけるβ−グルコシド及び第20炭素原子におけるグルコシドを加水分解できることを示している。この酵素の最適反応温度は50℃で、最適pHは5.5である。
上述した実験から、細菌、ストレプトマイセス、酵母、カビ、及び担子菌等の微生物は、ジンセノサイド グルコシダーゼを産出することができ、この酵素の収量は、これらの微生物が薬用人参抽出物を含有する培地で培養されると、増加し得ると結論付けることができる。本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、従来のセルラーゼ(例えば、セルロースβ−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)及びセロビオース生成酵素)とは、反応特性が異なる。本発明のジンセノサイド グルコシダーゼは、ジンセノサイド加水分解能力によって、4種類、即ち、ジンセノサイド グルコシダーゼI、ジンセノサイド グルコシダーゼII、ジンセノサイド グルコシダーゼIII及びジンセノサイド−α−ラムノシダーゼに分類することができる。
薬用人参植物からのジンセノサイド グルコシダーゼ
2.1 酵素の抽出及び精製
新鮮な薬用人参根200gを、小片に裁断し、PH5の0.02M酢酸緩衝液600mlに加えた。この混合物を40℃で2時間放置した後、濾過により上澄み液を得た。該上澄み液に、(NH4)2SO4を70%飽和度まで徐々に加え、この混合物を40℃で一晩放置した。次いで、蛋白質ペレットを、遠心分離により採取し、15mlの蒸留水に再び溶解した。この溶液をpH7.4の0.02M Tris-HClに透析した。不溶物を遠心分離により除去し、上澄み液の体積を20mlに調整した。
この酵素溶液5mlをDEAE-セルロース DE-25カラム(Whatman, 1.4×6.7cm)で処理した。該カラムをKCl勾配(0.06, 0.12, 0.18及び0.24M)で溶出した。溶出後、各フラクションをジンセノサイド加水分解活性について試験した。フラクション37は、C-3におけるジグルコースとアグリコンとの間のグリコシド結合を加水分解して、RdをC-Kに変換することが見出された。フラクション52は、Rdの第3炭素原子におけるβ−(1→2)−グルコシドを加水分解してF2を与えることが見出された。フラクション52はまた、Rb及びRcの第20炭素原子におけるグルコシド結合を加水分解して、ジンセノサイドF2を与えることができる。結果を表10に示す。
Figure 0004953547
表10から明らかなように、DEAE-セルロースカラムから溶出されたフラクション52は、ジンセノサイドRb1、Rb2及びRcの第20炭素原子におけるグルコシド結合及び第3炭素原子におけるβ−(1→2)−グルコシドを加水分解することができる。フラクション52は、SDS-ポリアクリルアミドゲルで泳動したときに単一の点として表れ、この酵素の分子量は59000と算出された。従って、フラクション52中の酵素はジンセノサイド グルコシダーゼIである。しかしながら、アスペルギルス ニガーからのジンセノサイド グルコシダーゼIと比較すると、薬用人参植物からのジンセノサイド グルコシダーゼIは、分子量が僅かに大きく、アグリコンと直接連結するグリコシド結合を加水分解することができない。フラクション37から精製された酵素は、第3炭素原子におけるジグルコースとアグリコンとの間のグリコシド結合を加水分解して、ジンセノサイドC-Kを与えることができ、このため、この酵素はジンセノサイド グルコシダーゼIIIと分類された。
カルシウムイオンは、これらの両方の酵素の増強作用を有するのに対して、銅イオンは阻害作用を有する。これらの精製された酵素の特性を表11にまとめる。
Figure 0004953547
小麦のフスマからのジンセノサイド グルコシダーゼ
3.1 酵素の抽出
小麦のフスマ500gを、pH5の0.02M酢酸緩衝液2500mlに加え、40℃で2時間抽出した。濾過により2000mlの上澄み液を得た後、該上澄み液に(NH4)2SO4を70%飽和度まで攪拌しながら徐々に加えた。この混合物を4℃で一晩放置した。次いで、蛋白質ペレットを、遠心分離により採取し、80mlの蒸留水に再び溶解した後、pH5.0の0.02M酢酸緩衝液に透析した。不溶物を遠心分離により除去し、上澄み液の体積を200mlに調整して粗酵素溶液を得た。
3.2 酵素の性質
上記酵素溶液10mlを1%ジンセノサイド基質10mlと40℃で20時間反応させた。生成物をTLCで検出した。その結果を表12に示す。
Figure 0004953547
表12から明らかなように、小麦のフスマからの酵素は、Rdの第3炭素原子におけるグルコシドを加水分解して、F2を与えることができ、Rb1、Rb2及びRcの第20及び第3炭素原子におけるグルコシドを加水分解して、F2を与えることができる。
この酵素の最適pHは5.0で、最適温度は40℃である。Fe++及びMg++は酵素の活性を高めることができ、これに対して、Cu++は阻害効果を有する。
その他の起源からのジンセノサイド グルコシダーゼ
4.1 麦芽からの酵素
麦芽200gを粉砕し、pH5の0.01M酢酸緩衝液1000mlを加え、室温で2時間抽出した。この混合物を濾過した。この上澄み液に3体積倍のエタノールを加え、一晩放置した。沈殿物を採取し、該沈殿物にpH5の0.01M酢酸緩衝液50mlを加えた。不溶物を除去して酵素溶液を得た。該酵素溶液10mlを、1%Rb1含有0.01M酢酸緩衝液(pH5、エタノールを20%含有)10mlと、40℃で20時間反応させた。反応生成物をTLCにより検出した。その結果、Rb1の95%以上が、Rd、F2、C-K、Rg3等に変換されていた。これらのデータは、上記酵素ジンセノサイドの第3炭素原子におけるβ−グルコシドを、第20炭素原子におけるグリコシドと同様に加水分解することができることを示している。
4.2 動物の肝臓からの酵素
牛の肝臓100gを細かく刻み、pH5の0.01M酢酸緩衝液300mlに加え、室温で2時間抽出した。この混合物を遠心分離し、(NH4)2SO4を上澄み液に70%飽和度まで加えて、酵素を沈殿させた。この混合物を4℃で一晩放置した。遠心分離により沈殿物を採取し、pH5の0.01M酢酸緩衝液に対して透析した。不純物を除去し、酵素溶液15mlを得た。酵素溶液10mlを、1%Rb1含有0.01M酢酸緩衝液(pH5、エタノールを20%含有)10mlと、40℃で20時間反応させた。TLC分析は、Rb1の50%が、糖含量が低いジンセノサイドに変換されたことを示し、このことは、動物の肝臓中にジンセノサイド グルコシダーゼが存在することを意味している。
4.3 植物の種子(アーモンド)からの酵素
アーモンド100gを粉砕し、pH5の0.01M酢酸緩衝液の300mlを加え、室温で2時間抽出した。この混合物を遠心分離した。(NH4)2SO4を上澄み液に60%飽和度まで加えて、酵素を沈殿させた。この混合物を4℃で一晩放置した。遠心分離により沈殿物を採取し、pH5の0.01M酢酸緩衝液に対して透析した。不純物を除去し、酵素溶液30mlを得た。酵素溶液10mlを、1%Rb1含有0.01M酢酸緩衝液(pH5、エタノールを20%含有)10mlと、50℃で14時間反応させた。TLC分析は、Rb1の40%が、糖含量が低いジンセノサイドに変換されたことを示し、このことは、アーモンド中にジンセノサイド グルコシダーゼが存在することを意味している。
ジンセノサイド グルコシダーゼによる、稀有ジンセノサイド含有量が高い混合ジンセノサイド及び薬用人参製品の製造
5.1 稀有ジンセノサイド含有量が高い混合ジンセノサイドの製造
薬用人参の葉からの混合ジンセノサイド4gを、pH5の0.01M酢酸緩衝液100mlに溶解し、実施例1の1.2の項において得られたアスペルギルス オリゼーからの酵素溶液100mlを添加した。反応を30℃にて4時間行なった後、水飽和ブタノール100mlで2回抽出を行なった。これらのブタノール層を合わせて、減圧下で乾燥するまで蒸発させた。3.3gのジンセノサイドが得られた。TLC分析は、稀有ジンセノサイドRg3、Rg2、Rh2及びRh1の含有量が数十倍上昇していることを示した。
5.2 稀有ジンセノサイド含量が高い薬用人参製品の製造
薬用人参粉末4gに、20%エタノール4ml、及び実施例1の1.2の項において得られたアスペルギルス オリゼーからの酵素溶液4mlを添加した。反応を30℃にて12時間行なった後、減圧下で乾燥するまで蒸発させた。稀有ジンセノサイド含量が高い薬用人参製品が得られた。TLC分析は、稀有ジンセノサイドRg3、Rg2、Rh2及びRh1の含有量が数十倍上昇していることを示した。
5.3 酵素反応から得られたジンセノサイドの化学構造
プロトパナキサジオール系ジンセノサイドの酵素変換から得られたジンセノサイドRd、Rg3、F2、Rh2、C-K及びアグリコン、並びにプロトパナキサトリオール系ジンセノサイドから得られたジンセノサイドRg1、Rg2、Rh1及びアグリコンを、中国人参、張書臣主編、上海科技教育出版社、1992、p108-110(China Ginseng, Zhang Shunchen (ed.), Shanghai Educational Press, 1992, p108-110)に記載されたように、シリカゲルカラムで処理し、様々な比のクロロホルム及びメタノールで溶出させて、再結晶により精製された各種の単一ジンセノサイドを単離した。
ジンセノサイドRg3、Rg2、Rh2及びRh1の20(S)-型及び20(R)-型が、検出器 Waters Programmable Multiwavelength、波長203nm、C-18カラムの Waters Model-520を用いたHCLPにより分離された。移動層はアセトニトリル:メタノール(6:4)である。
酵素反応から精製された各ジンセノサイドの構造は、d5−ピリジンを溶媒とし、Bruker DR X 400を用いた核磁気共鳴(NMR)と、JOEL DX X 400を用い、試料に衝撃を与える高速原子衝撃質量分析(FAB-MS)での質量分析によって分析した。
上記酵素反応から得られたジンセノサイドRd、Rg3、F2、Rh2、C-K、Rg1、Rg2、Rh1及びアグリコンの質量スペクトルデータ並びに1H-NMR及び13C-NMRのスペクトルデータは、従来技術(例えば、J.H. Park et al., A new processed ginseng with fortified activity in Advances in Ginseng Reseach-Proceedings of 7th International Symposium on Ginseng, Sep 22-25, 1998, p146-159; Tanak O., Kasai R.: (1984), Saponins of ginseng and related plants in Progress in the Chemistry of Organic Natural Products (HerzW., Grisebach H., Kirby G.W., Tamm Ch., eds), Vol.46, p1-65)に開示されているものと一致した。13C-NMRのスペクトルデータを表13に示す。表13に示されるように、上記酵素反応により産出されたジンセノサイドRd、F2、C-K及びRg1は、20(S)-型のジンセノサイドであるのに対して、酵素反応により得られたジンセノサイドRg3、Rg2、Rh2及びRh1は、20(S)-型及び20(R)-型の両方だった。これらのデータは、酵素反応によって産出されるジンセノサイドRd、F2、C-K及びRg1は、主に20(S)-型であるのに対して、酵素反応によって産出されるジンセノサイドRg3、Rg2、Rh2及びRh1は、20(S)-型及び20(R)-型の混合物であることを意味している。20(S)-ジンセノサイド及び20(R)-ジンセノサイドの構造を図5に示す。
Figure 0004953547

Claims (5)

  1. 基質がプロトパナキサジオール系ジンセノサイド及びプロトパナキサトリオール系ジンセノサイドであり、反応生成物がジンセノサイドの糖基の加水分解の後に生成されたジンセノサイドRh1、Rh2、C-K、Rg2、Rg3、F2、Rg1及びRd並びにアグリコンを含有するジンセノサイド グルコシダーゼ又はジンセノサイド ラムノシダーゼであって、次の4種類の酵素の何れかであり、
    ジンセノサイドRa、Rb1、Rb2、Rc、Rd及びRg3の第3炭素原子(C-3)及び第20炭素原子(C-20)におけるβ-グルコシド、β-キシロシド及びα-アラビノシド結合を加水分解するジンセノサイド グルコシダーゼであって、ジンセノサイドRa、Rb1、Rb2及びRcを加水分解してジンセノサイドRdを与え、更にジンセノサイドRdを加水分解してジンセノサイドF2を与え、更にジンセノサイドF2を加水分解してジンセノサイドC-K及びRh2並びにアグリコンを与えるジンセノサイド グルコシダーゼI
    ジンセノサイドRa、Rb1、Rb2、Rc及びRdの第20炭素原子(C-20)におけるβ-グルコシド、β-キシロシド及びα-アラビノシド結合を加水分解するジンセノサイド グルコシダーゼであって、ジンセノサイドRa、Rb1、Rb2及びRcを加水分解してジンセノサイドRdを与え、更にジンセノサイドRdを加水分解してジンセノサイドRg3を与えるジンセノサイド グルコシダーゼII
    ジンセノサイドRdの第3炭素原子(C-3)におけるアグリコンと糖基との間のグルコシド結合を加水分解して、ジンセノサイドC-Kを与えるジンセノサイド グルコシダーゼIII
    ジンセノサイドRe及びRg2それぞれの第6炭素原子(C-6)におけるα-ラムノシド結合を加水分解して、ジンセノサイドRg1及びRh1それぞれを与えるジンセノサイド-α-ラムノシダーゼ
    上記4種類の酵素の由来、最適温度、最適pH及び分子量は、それぞれ以下の通りであり、
    ジンセノサイド グルコシダーゼI;
    アスペルギルス ニガーを由来とし、最適温度が30〜40℃であり、最適pHが4〜6であり、分子量が51000である
    薬用人参植物を由来とし、最適温度が60℃であり、最適pHが4〜6であり、分子量が59000である
    ジンセノサイド グルコシダーゼII;
    アスペルギルス ニガーを由来とし、最適温度が30〜40℃であり、最適pHが5〜7であり、分子量が90000である
    ジンセノサイド グルコシダーゼIII;
    アスペルギルス ニガーを由来とし、最適温度が30〜45℃であり、最適pHが4〜5であり、分子量が34000である
    薬用人参植物を由来とし、最適温度が45〜55℃であり、最適pHが4〜5であり、分子量が36000である
    ジンセノサイド-α-ラムノシダーゼ;
    アスペルギルス オリゼーを由来とし、最適温度が40℃であり、最適pHが5であり、53000である
    上記4種類の酵素は、アスペルギルス ニガー又はアスペルギルス オリゼーら得られたジンセノサイド グルコシダーゼ又はジンセノサイド ラムノシダーゼ
  2. ジンセノサイドRh1、Rh2、C-K、Rg2、Rg3、F2、Rg1 Rd又はアグリコンの調製における請求項1に記載のジンセノサイド グルコシダーゼ又はジンセノサイド ラムノシダーゼの使用。
  3. 薬用人参からの全ジンセノサイドの処理によるジンセノサイドRh1、Rh2、C-K、Rg2、Rg3、F2、Rg1 Rd又はアグリコン含量が十倍以上に増加した混合ジンセノサイドの調製における請求項1に記載のジンセノサイド グルコシダーゼ又はジンセノサイド ラムノシダーゼの使用。
  4. ジンセノサイドRh1、Rh2、C-K、Rg2、Rg3、F2、Rg1 Rd又はアグリコン含量が十倍以上に増加した薬用人参製品の調製における請求項1に記載のジンセノサイド グルコシダーゼ又はジンセノサイド ラムノシダーゼの使用。
  5. 基質がプロトパナキサジオール系ジンセノサイド及びプロトパナキサトリオール系ジンセノサイドであり、反応生成物がジンセノサイドの糖基の加水分解の後に生成されたジンセノサイドRh 1 、Rh 2 、C-K、Rg 2 、Rg 3 、F 2 、Rg 1 及びRd並びにアグリコンを含有する酵素溶液であり、下記(1)〜(4)の何れかの特性を有し、
    (1)ジンセノサイドRa、Rb 1 、Rb 2 、Rc、Rd及びRg 3 の第3炭素原子(C-3)及び第20炭素原子(C-20)におけるβ-グルコシド、β-キシロシド及びα-アラビノシド結合を加水分解し、ジンセノサイドRa、Rb 1 、Rb 2 及びRcを加水分解してジンセノサイドRdを与え、更にジンセノサイドRdを加水分解してジンセノサイドF 2 を与え、更にジンセノサイドF 2 を加水分解してジンセノサイドC-K及びRh 2 並びにアグリコンを与える
    (2)ジンセノサイドRa、Rb 1 、Rb 2 、Rc及びRdの第20炭素原子(C-20)におけるβ-グルコシド、β-キシロシド及びα-アラビノシド結合を加水分解し、ジンセノサイドRa、Rb 1 、Rb 2 及びRcを加水分解してジンセノサイドRdを与え、更にジンセノサイドRdを加水分解してジンセノサイドRg 3 を与える
    (3)ジンセノサイドRdの第3炭素原子(C-3)におけるアグリコンと糖基との間のグルコシド結合を加水分解して、ジンセノサイドC-Kを与える
    (4)ジンセノサイドRe及びRg 2 それぞれの第6炭素原子(C-6)におけるα-ラムノシド結合を加水分解して、ジンセノサイドRg 1 及びRh 1 それぞれを与える
    上記酵素溶液は、下記(a)〜(g)の何れかの方法により製造されたものである酵素溶液。
    (a)アスペルギルス ニガー、アスペルス オリぜー又はストレプトマイセスを、薬用人参抽出物及び小麦のフスマ抽出物を含有する培地中で培養した後、培養物を遠心分離して得られる上澄み液に、(NH 4 2 SO 4 を加えて酵素蛋白質を沈殿させた後、沈殿させた該酵素蛋白質を酢酸緩衝液に溶解し、次いで不純物を除去して、酵素溶液を得る方法
    (b)好熱性・好気性バチルス属の細菌を、薬用人参抽出物、小麦のフスマ抽出物及びトリプトンを含有する培地中で培養した後、培養物を遠心分離して得られる上澄み液に、エタノールを加えて酵素蛋白質を沈殿させた後、沈殿させた該酵素蛋白質を酢酸緩衝液に溶解し、次いで不純物を除去して、酵素溶液を得る方法
    (c)カンジダ属の酵母を、薬用人参抽出物及び麦芽抽出物を含有する培地中で培養した後、培養物を遠心分離して得られる上澄み液に、(NH 4 2 SO 4 を加えて酵素蛋白質を沈殿させた後、沈殿させた該酵素蛋白質を酢酸緩衝液に溶解し、次いで不純物を除去して、酵素溶液を得る方法
    (d)トレメラ属の担子菌を、薬用人参粉末、小麦のフスマ及び水を含有する固体培地中で培養した後、酢酸緩衝液を、上記固体倍地に加えて得られる液体を、遠心分離し、不溶物を除去して得られる液体に、(NH 4 2 SO 4 を加えて酵素蛋白質を沈殿させた後、沈殿させた該酵素蛋白質を酢酸緩衝液に溶解し、次いで不純物を除去して、酵素溶液を得る方法
    (e)小麦のフスマを酢酸緩衝液で抽出した上澄み液に、(NH 4 2 SO 4 を加えて酵素蛋白質を沈殿させた後、沈殿させた該酵素蛋白質を酢酸緩衝液に溶解し、次いで不純物を除去して、酵素溶液を得る方法
    (f)麦芽を酢酸緩衝液で抽出した上澄み液に、エタノールを加えて酵素蛋白質を沈殿させた後、沈殿させた該酵素蛋白質を酢酸緩衝液に溶解し、次いで不純物を除去して、酵素溶液を得る方法
    (g)牛の肝臓を酢酸緩衝液で抽出した上澄み液に、(NH 4 2 SO 4 を加えて酵素蛋白質を沈殿させた後、沈殿させた該酵素蛋白質を酢酸緩衝液に溶解し、次いで不純物を除去して、酵素溶液を得る方法
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