JP4898913B2 - 光学部品用積層フィルムの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高密度光ディスク、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等の光学部品の部材として用いられる基材フィルムとこれを保護するフィルムとからなる光学部品用積層フィルムに関する。また、この積層フィルムを巻き上げたフィルムロール、この光学部品用積層フィルムを使用した光ディスクに関する。
文字情報、画像情報、音声情報を大量に記録・再生するため、Compact Disc(CD)、Digital Versatile Disc(DVD)等の光情報記録媒体(光ディスク)の記録密度の更なる向上が求められている。特に、青紫色レーザーが開発されて以来、デジタル・ハイ・ビジョンTV放送の録画に対応するため、この青紫色レーザーと高NAピックアップとを使用した光ディスクシステムが開発されてきた。その一つに片面から情報を読み出す膜面入射方式の光ディスクの技術が提案され、特許文献1および非特許文献1等が公表されている。
そして、現在Blu−ray Discとして、高密度光ディスクシステムが市販されている。このBlu−ray Discは、1.1mm厚のディスク基板上に情報記録層としてピットないしはグルーブ等の凹凸パターンを伴う反射膜ないしは記録膜があり、その上にカバー層と呼ばれる厚さ0.1mmの光透過層が設けられていることを特徴とする。情報の読み取り・書き込みは光透過層側から青紫色レーザー光を用いて行われる。
この光透過層は、ポリカーボネート等からなるプラスチックフィルムを、接着剤等を介して情報記録層に接着し形成する。情報の読出または書き込みのエラー防止のために、プラスチックフィルムには小さい複屈折、良好な表面平滑性などの高い光学的等方性が要求される。また、Blu−ray Discは高密度・大容量であり、光透過層への僅かな傷、異物付着によって情報の読み取り・書き込みが出来なくなるおそれがある。そこで、カートリッジなどで保護されないベアディスクとして用いる場合には、光透過層の保護のためにハードコート層が設けられる。
光ディスクの製造においては、光透過層となるプラスチックフィルムを巻き上げたフィルムロールからプラスチックフィルムを引き出しながら光ディスク基板に貼合することが生産性の点で好ましい。しかし、一般に表面が非常に平坦であることが要求されるプラスチックフィルムは、滑り性が悪く、通常はそれ単独ではロール状に巻き取って均一なフィルムロールにすることはできない。
そこで、光学用途のフィルムロールを得るには、粘着性を有する保護フィルムをプラスチックフィルムに積層して巻き上げている。すなわち、光学用途の極めて平坦なプラスチックフィルム(本発明では基材フィルムと呼ぶ)に、粘着性を有する保護フィルムを貼り付けて積層し、その表面を保護すると同時に、保護フィルムの反対側の面は適度に粗面化されていて滑りやすい構造とし、この積層フィルムをロール状に巻き上げることができるようにしている。
通常、このフィルムロールから積層フィルムを引き出し、保護フィルムを剥離した後に基材フィルムをディスク状に打ち抜き、これを成形した光ディスク基板と貼りあわせ、Blu−ray Discを製造する。しかし、この方法においては、基材フィルムに凹凸が発生し、この凹凸が光ディスクの電気信号の変動を大きくする原因の一つとなっていた。このような電気信号の変動が大きい光ディスクは、情報の記録再生に支障をきたす恐れがあるため、製造時の検査において不合格品として判定され廃棄される。そのため、表面凹凸の多い光学部品用積層フィルムを使用して光ディスクを生産すると、廃棄される光ディスクが大量に発生し、経済的損失につながるばかりか、資源の有効活用の点でも負の影響を与えていた。このため、表面凹凸が少なく、生産性の高い光学部品用積層フィルムが求められていた。
そこで、これらの表面凹凸を改善するために、基材フィルムと、保護フィルムとを、その間に弱粘着性の接着剤を用いずに積層し、巻き上げることで凹凸を改善する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、この方法では、例えば幅1,000mmの基材フィルムを製膜し、保護フィルムを積層して巻き上げてロールを得た後に、このロールからスリッターを通して幅140mmの積層フィルムロールを巻き出す場合、保護フィルムが粘着性を有していないために基材フィルムがこすれて傷がつく等の問題が発生する。
また、基材フィルムと保護フィルムとを、その間に弱粘着性の粘着剤を用いて積層して巻き上げる方法も提案されている(特許文献3)。しかし、この方法は、保護フィルムに対して強粘着性であり、基材フィルムに対して弱粘着性をもたせた粘着剤を均一に塗布加工した保護フィルムが必要であり経済的でない。
また、基材フィルムを形成している樹脂が可溶な溶媒を塗布して乾燥することで基材フィルムの凹凸を縮小または軽減する方法も提案されている(特許文献4)。しかしながら、フィルムの使用前に溶剤の塗布・乾燥工程が必要であり経済的でない。
特開平08−235638号公報 特開2001−243659号公報 国際公開第2003/004270号パンフレット 特開2007−016076号公報
片面12Gbyteの大容量光ディスク OplusE、20巻、No.2、183ページ(1998年2月)
本発明の目的は、小さい複屈折、良好な表面平滑性を有し、優れた光学的等方性を示す基材フィルムを有する積層フィルムを提供することにある。また本発明の目的は、滑り性に優れた積層フィルムを提供することにある。また本発明の目的は、光ディスクなどの部材として用いた場合に、光ディスク生産において不良品の発生率の少ない積層フィルムを提供することにある。
また本発明の目的は、該積層フィルムをロール状に巻き取ったフィルムロールを提供することにある。また本発明の目的は、ジッター、エラーレート等の電気信号特性に優れた光ディスクを提供することにある。さらに本発明の目的は、保護フィルムを剥離したときに、極めて良好な表面平滑性を有するフィルムとなる積層フィルムの製造方法を提供することにある。
本発明者は、光学用部品として使用可能な、微細な凹凸のない基材フィルムが得られる積層フィルムを製造する方法について鋭意検討した。その結果、厚み斑の小さい良好な表面平滑性を有する基材フィルムと、厚み斑の小さい保護フィルムを用いること、さらには、基材フィルムと保護フィルムとを積層する際に、各フィルムにかかる張力を所定の範囲にすることで、保護フィルムの凹凸が基材フィルムへ転写することを防止できることを見い出し、本発明に達した。
即ち本発明は、基材フィルムと保護フィルムとを積層することからなる光学部品用積層フィルムの製造方法であり、基材フィルムはポリカーボネート樹脂からなり、
(i)厚みが10〜150μm、
(ii)厚み斑が±2μm以下、
(iii)面内の複屈折率(Δn)の平均値が0.00001〜0.00017、
(iv)厚み方向の複屈折率(Δnth)の平均値が0.00001〜0.001、
を満足し、保護フィルムは、
(i)厚みが10〜100μm、
(ii)厚み斑が±1.5μm以下、
を満足し、積層を下記式(1)〜(3)
10<T<200 (1)
10<T<150 (2)
≦T/T≦10 (3)
(但し、Tは、積層するときの基材フィルムにおける単位幅あたりの張力(N/m)を表す。Tは、積層するときの保護フィルムにおける単位幅あたりの張力(N/m)を表す。)
を満足する条件で行う製造方法である。
また、本発明は、上記記載の製造方法で得られた光学部品用積層フィルムを、下記式(4)を満足する条件で巻き上げることからなるフィルムロールの製造方法。
20<Tw<200 (4)
(Twは単位幅当りの巻き取り張力(N/m)である。)
本発明の積層フィルムは、保護フィルムを剥離すると、小さい複屈折、良好な表面平滑性を有し、優れた光学的等方性を示すフィルムとなる。また本発明の積層フィルムは、滑り性に優れるので容易にロール状に巻き取ることができ、外観に優れたフィルムロールとなる。また本発明の積層フィルムは、光ディスクなどの部材として用いた場合に光ディスクにおいて不良品の発生率が少ない。また本発明の積層フィルムから保護フィルムを剥離したフィルムは、優れた光学的等方性を示し、光ディスクの光透過層として好適に用いることができる。また本発明の積層フィルムから保護フィルムを剥離したフィルムを光透過層とする光ディスクは、ジッター、エラーレート等の電気信号特性に優れる。さらに本発明の積層フィルムの製造方法によれば、保護フィルムを剥離したときに、良好な表面平滑性を有するフィルムとなる積層フィルムを提供することができる。
実施例で用いた製膜装置の略図である。 実施例で用いた製膜装置の第1冷却ロールとダイリップ先端の位置を示す略図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、基材フィルムに、保護フィルムが積層された光学部品用積層フィルムの製造方法である。なお、本明細書で使用する下記用語は次の意味を持つ。
「基材フィルム」とは、光学的に均一なことを特徴とする、光学部品に用いられるフィルムのことを指す。
「保護フィルム」とは、基材フィルムの表面傷つきを抑えると共に、巻き上げたフィルムロールを作る際に、いわゆるフィルムロールのロールフォーメーションを良好に保つために、基材フィルムに積層して用いるフィルムを意味する。
「光ディスク」とは、主にポリカーボネート樹脂より形成されたディスク状の記憶媒体のことで情報記録層が付与されたものを言う。
「光透過層」とは、光ディスクの記録情報層を透明な材料で覆い、情報記録層を保護するとともに、この透明な材料を通してレーザー光を照射し、記録再生を行う働きをするものである。
〈基材フィルム〉
基材フィルムは、高密度光ディスク、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等の光学部品として使用可能なフィルムである。これらの製品は偏光を用いることで機能が発現され、製品の高性能化のためには透過する偏光に影響を及ぼさないよう光学的に均一なフィルムの使用が求められている。特に光ディスクではレーザー光が波長の短い青紫色レーザーになり、記録密度が高くなり、光ディスクの光透過層として使用する光学フィルムには高い光学的均一性が求められる。
(ポリカーボネート樹脂)
本発明の基材フィルムは、ポリカーボネート樹脂からなる。光ディスク基板には一般的にポリカーボネート樹脂が使われており、得られる光ディスクの特性を考えると、光透過層用フィルムの品質上の要求として、物理特性を光ディスク基板に極力合わせることが好ましいためである。
ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ成分とカーボネート前駆体とを界面重合法または溶融重合法で反応させて得られる。
ジヒドロキシ成分の代表的な例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレンおよびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。これらの二価フェノールは単独または2種以上を混合して使用できる。なかでも、ビスフェノールAを少なくとも50モル%以上有するジヒドロキシ成分から得られるポリカーボネート樹脂が好ましい。ジヒドロキシ成分中のビスフェノールAの含有量は、より好ましくは少なくとも60モル%、さらに好ましくは少なくとも75モル%、特に好ましくは少なくとも90モル%である。
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法または溶融重合法によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。またポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよく、また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
ポリカーボネート樹脂の分子量は粘度平均分子量で表して、好ましくは10,000〜40,000、より好ましくは11,000〜30,000、さらに好ましくは12,000〜19,000の範囲である。
光ディスク基板には粘度平均分子量15,000程度のポリカーボネート樹脂を使用することから、光透過層として用いるポリカーボネートフィルムが上述の範囲であれば、得られるフィルムが脆くなり難く、ディスク状に打ち抜く等の際に端面にノッチを発生したりすることが少なくなる。また、溶融押出し時に異物が発生し難く、厚み斑を発生し難くなる点で好ましい。また、ロール状に巻き上げた後、ロールを解きほぐす際に、たとえばディスク状に打ち抜いて機械的に搬送する場合においても平面性が良好となり、記録層に貼り合わせる際にトラブルを生じ難くなるので好ましい。
最も好ましいポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量の範囲は14,500〜17,500である。また、ポリカーボネート樹脂としては極力高分子量の異物や熱劣化物等が含まれないものを使用することが好ましい。
粘度平均分子量(M)は、塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求める。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]
[η]=1.23×10−40.83
(但しc=0.7、[η]は極限粘度)
また、光透過層には光ディスク基板を形成するものと同一特性の(すなわち、同一原料で近似の粘度平均分子量を有する)ポリカーボネート樹脂からなるフィルムを用いるのが最適である。光透過層用フィルムの品質上の要求として、光ディスク基板の物理特性と光透過層の物理特性を極力合わせることが好ましい。物理特性としては、熱膨張率、吸湿膨張率、熱収縮率、粘弾性挙動等が挙げられる。光ディスク基板と光透過層の熱や吸湿による膨張特性、熱伸縮特性が異なる場合や、両者の粘弾性挙動が異なる場合には情報記録層を有する光ディスク基板と光透過層とを貼りあわせた後の光ディスクが耐久性の促進テストや長期の経時変化によって不等に変形して歪んでしまいスキュー現象が起こる場合がある。
(厚み)
基材フィルムの厚みは、10〜150μmである。フィルムの厚みはフィルムを光学部品として使用する製品の設計によって変わるので一概に言えないが、一般に厚みが薄すぎると取り扱い性が悪くなるので好ましくなく、厚すぎると光線透過率が悪くなるなど、光学部品としての要求特性を満たせなくなる場合があるので好ましくない。特に高密度光ディスクの光透過層として用いる場合の厚みは50〜100μmの範囲が好ましい。
(厚み斑)
基材フィルムの厚み斑は、±2μm以下であり、好ましくは±1.5μm以下であり、より好ましくは±1μm以下である。厚み斑が大きすぎると光学的に不均一となるため好ましくない。特に高密度光ディスクの光透過層として用いる場合は、この厚み斑によって光ディスクの信号レベルの変動が大きくなるため好ましくない。
(全光線透過率)
基材フィルムの全光線透過率は、好ましくは85%以上、より好ましくは89%以上、さらに好ましくは90%以上である。特に高密度光ディスクの光透過層として用いる場合は、光信号の劣化を防止するために全光線透過率は高いほど良い。
(面内の複屈折率(Δn)の平均値)
基材フィルムの面内の複屈折率(Δn)の平均値は、0.00001〜0.00017である。Δnの平均値の下限は、好ましくは0.00003、より好ましくは0.00005である。また、Δnの平均値の上限は、好ましくは0.00012、より好ましくは0.00009である。Δnはフィルム面内における光学的遅相軸方向の屈折率をnx、これと直行する方向の屈折率をnyとすると、Δn=|nx−ny|として求めることが出来る値であり、フィルム面内の複屈折の大きさを表す。Δnが大きくなると光透過層として使われる光ディスクの信号レベルの変動が大きくなるため好ましくない。
また、面内の複屈折率の斑は好ましくは±0.00005以下であり、より好ましくは±0.00003以下である。
(厚み方向の複屈折率(Δnth)の平均値)
基材フィルムの厚み方向の複屈折率(Δnth)の平均値は、0.00001〜0.001である。Δnthの平均値の下限は、好ましくは0.00003、より好ましくは0.00005である。また、Δnthの平均値の上限は、好ましくは0.0006、より好ましくは0.0004である。
Δnthはフィルム面内における光学的遅相軸方向の屈折率をnx、これと直行する方向の面内の屈折率をny、フィルム厚み方向の屈折率をnzとすると、Δnth=|(nx+xy)/2−nz|として求めることが出来る値であり、フィルム厚み方向の複屈折の大きさを表す。特許文献1および非特許文献1〜2に記載されているように、高密度光ディスクシステムには、ピックアップ用対物レンズの開口数の大きなものが用いられている。従って、CD、DVD等の従来の光ディスクに比べて、レーザー光の斜め入射角が大きく、光ディスクの厚み方向の複屈折率の影響が増大している。この為、Δnthが大きいと、光ディスクの信号レベルの変動が大きくなるため好ましくない。
また、厚み方向の複屈折率の斑は好ましくは±0.00005以下であり、より好ましくは±0.00003以下である。
これらのフィルムの厚み、厚み斑、全光線透過率、Δnの平均値、Δnthの平均値等は、実施例に記載の方法により測定できる。なおサンプルの大きさが実施例に記載の条件を満たさない場合には、実施例のサンプルの大きさを比例配分して測定する。
〈基材フィルムの製造〉
基材フィルムの製膜には、溶液キャスト法、溶融押出法、カレンダー法等の公知の成膜方法を用いることができる。基材フィルムは、溶融押出し法により形成された基材フィルムであることが好ましい。
ダイから溶液を押出す溶液キャスト法で用いられる溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルム、ジオキソラン、トルエン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の有機溶媒が好ましく用いられる。溶液濃度は10重量%以上、好適には15重量%以上の溶液が好ましく用いられる。
これに対し、溶融押出法は溶媒を使用しないため生産性に優れる。本発明の基材フィルムに好ましく用いられるポリカーボネート樹脂は成形加工性に優れ、溶融押出法によっても十分な光学的均一性を有するフィルムが得られるため、溶融押出法が好ましい。
溶融押出機としては、均一なフィルムを得るためにノンベント方式の溶融押出機を使用できる。また、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有する溶融押出機を使用しても良い。ベントには、発生する水分や揮発ガスを効率よく溶融押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また、押出原料中に混入した異物等を除去するためのスクリーンを溶融押出機ダイ部前のゾーンに設置し、異物を取り除くことも可能である。このようなスクリーンとしては、金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルター等)等が挙げられる。
(ダイ)
溶融押出法で用いるダイは、ダイの幅方向の中央部から樹脂を供給するタイプのT−ダイ(コートハンガー型ダイ)、ダイの幅方向の一端部から樹脂を流入させるタイプのI−ダイ等を用いることができる。
冷却ロールは、1個のロールのみを使用して冷却するもの、複数個のロールを使用して冷却するもののいずれも用いることができるが、フィルムを均一に冷却するために、ロールの表面温度を均一に精密制御できるものが好ましい。複数個のロールを使用して冷却する場合、溶融樹脂が最初に接触する冷却ロール(第1冷却ロールと呼ぶ)と、次に接触する冷却ロール(第2冷却ロールと呼ぶ)との間に溶融樹脂を流下する方法と、第1冷却ロールの、第2冷却ロールとは反対側に溶融樹脂を流下する方法があるが、以下では後者の方法について例示する。
(樹脂温度)
溶融押出時の樹脂温度は、その温度で100(1/s)の剪断速度における樹脂の溶融粘度が50〜600Pa・sの範囲、好ましくは70〜300Pa・sの範囲となる温度が好ましい。この温度範囲となるように押出機のシリンダおよびダイの温度を設定することにより、溶融樹脂は、適度な流動性を示し、押出機、ダイ内部およびダイリップでの剪断応力が小さく抑えられる為、複屈折率を小さくすることが可能となる。同時に押出機のシリンダ内、フィルター内での偏流、滞留が発生し難く、ゲル等の熱劣化異物の発生を抑制する効果もある。
(ダイリップ先端と冷却ロールとの距離)
溶融押出時に、ダイから押し出された溶融樹脂が冷却されフィルム状態となる際に、ダイリップ先端と冷却ロール(特に溶融樹脂が最初に接触する冷却ロールを指す)との間での収縮や雰囲気空気の乱れなどの影響を受け、厚み斑やダイ筋が生じ易い。そこで、ダイリップ先端と冷却ロールとの間隔を十分に狭くして溶融樹脂の空間でのゆれをなくすことによって、厚み斑を抑制したフィルムを得ることができる。すなわち、ダイリップ先端と冷却ロールとの距離(図2中のL1)を5〜70mmの範囲とすることが好ましく、5〜50mmの範囲とすることがより好ましく、5〜30mmの範囲とすることがさらに好ましい。
また、ダイより吐出された溶融樹脂は、冷却ロール−ダイリップ間の流下の際に流れ方向の張力を受ける。一方、冷却ロールに接触し、冷却される際に熱収縮が生じるが、急速に固化する為、収縮が拘束され、幅方向に張力が生じる。この直交する張力をフィルムが受けることで、複屈折が生じるが、溶融樹脂の冷却ロールへの落下位置、冷却ロール温度等を調整し、張力のバランスを取ることで、複屈折を低下させることができる。ダイリップ先端と冷却ロールとの距離は上記の通り厚み斑を抑制する観点からも5〜70mmの範囲が好ましい。
(ダイリップ先端と冷却ロールの水平方向の距離)
また、ダイリップ先端と冷却ロールの水平方向の距離(図2中のL2)は、冷却ロールの回転が時計回りに見える位置からみて、ダイリップ先端が冷却ロールの中心から冷却ロール右端までの位置にあることが好ましい。その位置は冷却ロールの大きさ、その他の製膜条件によって異なるため一概には言えないが、得られるフィルムの複屈折率がフィルムの幅方向に大きい場合は、ダイリップ先端の位置をより右側に変更して、フィルムの流れ方向に張力をかけることで得られるフィルムの複屈折率が小さくなるよう、位置を調整することが可能である。
(冷却ロールの温度)
ダイから押し出された溶融樹脂が冷却されフィルム状態となる際に接する冷却ロールの温度は、使用する樹脂のガラス転移温度(Tg)に対して(Tg−45)〜(Tg−1)℃の範囲であり、好ましくは(Tg−35)〜(Tg−1)℃の範囲である。冷却ロールの温度を上記範囲とすることにより、冷却により生じる歪を抑えられる点で好ましい。これにより、冷却歪により生じる複屈折率を低減することが可能である。
(ダイリップの開度)
また、ダイリップの開度は、フィルムの厚みt(μm)に対して5t〜25t(μm)が好ましい。具体的には、100μmの厚みのフィルムを押出し製膜する場合はダイリップを0.5〜2.5mm程度とすることが好適である。かかる範囲にダイリップを調整することにより、吐出する樹脂がダイリップで受ける剪断応力が軽減され、得られるフィルムの複屈折率を小さく抑えられるので好ましい。また、この範囲であれば、フィルム厚みに対して、十分に広い為、フィルムがダイリップのキズや付着物等との接触により生じるダイ筋が軽減されるという効果もある。
(添加剤)
基材フィルムには、安定剤、紫外線吸収剤、調色剤、帯電防止剤等を溶融製膜したフィルムの特性、例えば、フィルムの透明性などを損なわない範囲で含んでいても良い。
〈保護フィルム〉
本発明の基材フィルムは、表面が平坦すぎて滑り性が悪く、単独ではきれいにロール状に巻き取ることが難しい。そのため、一方の面を粗面化した保護フィルムを基材フィルムに積層して滑り性を付与してロール状に巻き取ることが行なわれる。
保護フィルムは、厚みが10〜100μmである。厚みがこれよりも薄いと取り扱い性が悪くなるので好ましくない。厚すぎると基材フィルムに貼合して積層フィルムとした際の厚みが増大し取り扱い性が悪化するので好ましくない。
保護フィルムの厚み斑は±1.5μm以下であり、好ましくは±1μm以下である。厚み斑がこれより大きいと基材フィルムに保護フィルムの凹凸が転写され、積層フィルムから保護フィルムを剥離して基材フィルムを光学用部品として使用する際に問題となるので好ましくない。特に高密度光ディスクの光透過層として用いる場合には保護フィルムの厚み斑はより小さいほうが好ましい。
保護フィルムは、50重量%以上のポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂からなり、その片面が粘着性を有する保護フィルムが好ましい。ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂は、ヤング率が低く一般的に保護フィルムの原料として使用されており、経済的に好ましい。保護フィルムはベースとなるフィルムを製膜した後、片面に粘着加工することで保護フィルムとしてもよいし、複数の樹脂を共押し出しすることで片面に粘着性を有する保護フィルムを一括製膜しても良い。市販品としては、シーアイ化成(株)製エクセルガードFS等が好ましく使用できる。
保護フィルムの粘着性は弱いほうが好ましい。粘着性が強いと保護フィルムを剥離した後の基材フィルムに粘着成分が残る場合がある。また保護フィルムを剥離する際に基材フィルムを変形させる恐れがあり、基材フィルムの均一性を損なう恐れがある。
〈積層フィルムの製造方法〉
本発明の積層フィルムは、前述の基材フィルムと前述の保護フィルムとを下記式(1)〜(3)を満たす条件下で積層することにより製造することができる。
(基材フィルム)
基材フィルムは、ポリカーボネート樹脂からなり、厚みが10〜150μm、厚み斑が±2μm以下、面内の複屈折率(Δn)の平均値が0.00001〜0.00017、厚み方向の複屈折率(Δnth)の平均値が0.00001〜0.001である。
(保護フィルム)
保護フィルムは、厚みが10〜100μm、厚み斑が±1.5μm以下である。
(積層条件)
積層は、基材フィルムと保護フィルムそれぞれについて、張力をかけてシワのない状態にしておいてからゴムロールなどで押し付けることによって行うことが出来る。
この積層は、下記式(1)〜(3)を満たす条件下で行う。
10<T<200 (1)
10<T<150 (2)
≦T/T≦10 (3)
式中、Tは、積層するときの基材フィルムにおける単位幅あたりの張力(N/m)を表す。Tは、積層するときの保護フィルムにおける単位幅あたりの張力(N/m)を表す。
基材フィルムは、平坦すぎて滑り性が悪く単独ではロール状に巻き取ることが難しい。そのため、一方の面を粗面化した保護フィルムを基材フィルムに積層して滑り性を付与してロール状に巻き取ることが行なわれている。しかし、積層フィルムにすると滑り性は改良されるが、保護フィルムの粗面の凹凸が転写され、基材フィルムに微細な凹凸が生じ、この凹凸が基材フィルムの光学的性能を低下させる。
本発明によれば、基材フィルムに微細な凹凸が生じないようにするために、特定の厚み斑の保護フィルムを用いると共に、積層の際に、基材フィルムおよび保護フィルムにかかる張力を所定の範囲にすることで、微細な凹凸のない基材フィルムが得られる。TおよびTの好ましい範囲は以下の通りである。
30<T<150 (1−1)
30<T<100 (2−1)
≦T/T≦5 (3−1)
およびTが大きすぎると、保護フィルムの凹凸が基材フィルムに転写され、基材フィルムに微細な凹凸が生じる。またTおよびTが小さすぎると積層の際にシワが発生するなど均一に積層できないので好ましくない。
(フィルムロール)
本発明は、前記積層フィルムを巻き上げた光学部品用フィルムロールを包含する。フィルムロールにおけるフィルム幅は生産性の面からは広いほうが好ましい。フィルム幅は、好ましくは600〜2,000mm、より好ましくは800〜2,000mmの範囲である。フィルムロールにする前にエッジトリミングを行う場合には、これら好ましいフィルム幅の値はエッジトリミング後の値として理解されるべきである。また、光学部品として適しているフィルム幅はその使用目的によって異なるため、上記フィルムロールをスリットするなど、適宜フィルム幅を変更して用いることができる。
本発明の積層フィルムをフィルムロールに巻き上げる際の、単位幅当たりの巻き取り張力T(N/m)における好ましい範囲は以下の通りである。
20<T<200 (4)
は、下記式(4−1)を満たすことがより好ましい。
20<T<120 (4−1)
が小さいとフィルムロールに巻きずれが発生するなど均一なフィルムロールを得ることが難しいので好ましくない。Tが大きすぎると基材フィルムに微細な凹凸が発生するので好ましくない。
フィルムロールの巻き長(フィルムの巻き取り長さ)は取り扱い面、生産性の面で決めればよく、特に制限はないが、100〜4,000mの範囲が好適である。
(光学部品)
本発明の積層フィルムは、保護フィルムを剥離した後、光ディスク、タッチパネル等の部材として用いることができる。
光ディスクは、前述の積層フィルムから、保護フィルムを剥離した基材フィルムを基板上に貼合して得られる。基材フィルムは、光ディスクの光透過層としてしての役割を果たす。
本発明における基材フィルムを光透過層とする光ディスクとしては、Blu−ray discが挙げられる。その種類としては情報記録層が読み出しだけ可能なROM型、読み出しと一度の書き込みが可能なR型、読み出し、書き込み、および消去が可能なRE型がある。光ディスクの基板としては、例えばポリカーボネート樹脂、非晶性ポリオレフィン系樹脂、メタクリル樹脂等を溶融押し出しして形成されたもの、熱硬化性樹脂より形成されたものをあげることができるが、特にポリカーボネート樹脂が好ましい。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例における物性の測定および評価は次の方法によった。
(1)粘度平均分子量
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、濃度0.7g/dlの塩化メチレン溶液の20℃での粘度測定から極限粘度[η]を求め、下記式より算出した。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]
[η]=1.23×10−40.83
(但しc=0.7、[η]は極限粘度)
(2)フィルム厚み
保護フィルムを積層する前の基材フィルム(ポリカーボネートフィルム)、および保護フィルムについて、フィルム幅方向での中心から幅方向に両側500mm長さで50mm幅の短冊状となるよう、1,000mm×50mmサイズのサンプルを採取した。この短冊状サンプルをフィルムの流れ方向について500mm間隔で5本採取した。この短冊状サンプルの長尺方向(1,000mm長)について50mm間隔で、短尺方向(50mm長)の中心部分の厚みを(株)ミツトヨ製のマイクロメーターを用いて測定した(フィルム端から25mm離れたところから50mm間隔で測定し、1つの短冊状サンプルで20点測定)。そして測定点100点の厚みの平均値を求めて、これをフィルムの厚みとした。また、これらの短冊状サンプルは、後述するフィルム厚み斑、面内の複屈折率(Δn)、および厚み方向の複屈折率(Δnth)の測定にも用いた。
(3)フィルム厚み斑
上記(2)のマイクロメーターによる測定方法では、測定点以外に存在する可能性のある厚み斑、例えば広幅の帯状や細い筋状の厚み斑を見逃すおそれがあるため、厚み斑をアンリツ(株)製フィルムシックネステスターKG601で連続測定した。測定フィルムは、(2)の測定で用いた5枚の短冊状フィルムを使用した。このそれぞれのサンプルについて長尺方向に厚み分布を上記フィルムシックネステスターで連続測定した。記録された厚みの最大値と最小値との差(厚みの範囲)を上記5枚のフィルム(1,000mm×50mm)について求め、この内、厚みの範囲が最大であるものをこのフィルムの厚み斑とした。
(4)面内の複屈折率(Δn)および厚み方向の複屈折率(Δnth
(2)の測定で用いた5枚の基材フィルム(ポリカーボネートフィルム)の短冊状フィルムから、(2)の測定箇所がほぼ中心にくるように50mm平方の測定サンプルを作成した。フィルム幅方向には20個のサンプルが得られ、短冊状サンプルが5枚あるので、全部で100個の測定用サンプルを得た。これらのサンプルにつき、王子計測器(株)製の複屈折測定機であるKOBRA−21ADHを用い、その遅相軸または進相軸で回転させて入射角度を変えてレターデーションを測定した。各入射角度でのレターデーションの値と測定箇所のフィルム厚みdから屈折率nx、ny並びにnzを求めた。更にこれらの値から下記式により、面内の複屈折率ΔnおよびΔnthを求めた。すべての測定データの平均からΔnの平均値を求めこのフィルムのΔnとした。また、Δnの最大値と最小値との差をこのΔnの斑(ばらつき)とした。同様にしてΔnthについても平均値および斑を求めた。
Δn=|nx−ny|
Δnth=|(nx+ny)/2−nz|
(nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyは進相軸方向の屈折率、nzは厚み方向の屈折率を示す。)
なお、上記(2)〜(4)の測定の順序としては、(3)のフィルム厚み斑の測定、(4)面内および厚み方向の複屈折率測定、(2)の厚み測定の順で実施した。(2)の測定は、マイクロメーターによる接触式の評価であるので、サンプルにキズが入る可能性があるからである。
(5)基材フィルムの全光線透過率
フィルムの幅方向3ヵ所から50mm×150mmサイズのサンプルを採取し、日本電色工業(株)製 濁度測定器COH−300Aを用いて測定した。各サンプルについて5点測定し、計15点の平均値を全光線透過率とした。
(6)光学部品用積層フィルムを用いた光ディスク製造における収率評価
光ディスク媒体(Blu−ray Disc)は、次のように作成した。
(ディスク基板の成形)
まず、光ディスク基板用樹脂として粘度平均分子量が15,000のポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製 パンライト AD−5503)を用い、光ディスク用射出成形機(住友重機械工業(株)製 SD−40E)により、外径120mmφ、内径15mmφ、厚み1.1mmのディスク基板を成形した。尚、射出成形の際に、片面表面にデータ情報が記録されたピットを形成するため、Blu−ray Disc ROM用のスタンパーを金型に装着して成形した。
(Blu−ray Discの作成)
このディスク基板をBlu−ray Disc貼合装置(芝浦メカトロニクス(株)製 メビウス F−1)に供給し、Blu−ray Discを作成した。メビウス F−1には、このディスク基板以外に、反射膜形成用に(株)コベルコ科研製 Ag合金のマグネトロンスパッタ用ターゲット、光透過層形成用フィルムとして、後述の積層フィルム、該フィルムとディスク基板との接着用樹脂として大日本インキ化学工業(株)製 EX−8410、Blu−ray Discのハードコート用樹脂としてソニーケミカル&インフォメーションデバイス(株)製 SK−1110を供給した。メビウス F−1ではスパッタによってディスク基板にAg合金の反射膜を形成した後、接着用樹脂がスピンコーティングされる。
これに、別途供給されている光透過層形成用の積層フィルムロールから基材フィルムのみが引き出された後に、ディスク状に打ち抜かれ、この打ち抜かれたフィルムが上述の基板に貼合され、紫外線照射されることで光透過層が形成される。続けて、ハードコート用樹脂がスピンコーティング・紫外線照射により硬化されることでBlu−ray Discが得られる。
(Blu−ray Discの検査)
こうして得られたディスク1枚1枚について、dr.Schwab Inspection Technology GmbH製 IQPC−Bluを用いて光透過層面の異物、凹凸を欠点として検出し、その長さまたは幅が300μm以上の凹凸があるディスクを不合格とする設定にて合否判定し、ディスク製造の収率を得た。収率は約300枚のディスクを製造した際の収率を用いた。
(7)光学部品用積層フィルムを用いた光ディスクの電気信号特性評価
上記(6)で得られた検査合格ディスクについてパルステック工業(株)製 ODU−1000を用いてジッター、エラーレート(SER)等の電気信号特性を評価した。評価にあたっては、光透過層の平均厚みに合わせて収差補正量を調整して実施した。
(8)ポリカーボネート樹脂の溶融粘度
製膜に用いるポリカーボネート樹脂ペレットの溶融粘度は、(株)東洋精機製のキャピログラフ1Dで測定した。キャピラリーは、径1.0mm、長さ10mmのものを使用した。剪断速度が100s−1になるようにピストンスピードを調整し、任意の温度の溶融粘度を測定した。
(9)張力
基材フィルムおよび保護フィルムにかかる張力は、それぞれの工程に設置された張力測定機での測定値とその時のフィルム幅から求めた。
実施例1
(基材フィルムの製膜)
帝人化成(株)製のビスフェノールAのホモポリマーである、光学グレードのポリカーボネート(商品名AD−5503、Tg;145℃、粘度平均分子量;15,000)のペレットを減圧乾燥式の棚段乾燥機を用いて、120℃で3時間乾燥した。これを110℃に加熱した溶融押出機の加熱ホッパーに投入して、押出機シリンダ温度260℃で溶融押出した。溶融ポリマーの異物を除去するため、平均目開きが10μmのステンレス不織布製のディスク状フィルターを用いた。
製膜は、図1に示す製膜装置を用いて行なった。ダイ(1)には、溶融樹脂温度が260℃になるように設定したリップ開度1mmのT−ダイを用いた(ポリカーボネート樹脂の溶融粘度260Pa・s)。冷却ロール(2、3、4)は、直径350mmのものを3本用い、溶融樹脂が最初に接する冷却ロール(第1冷却ロール(2))の温度は140℃、第2冷却ロール(3)の温度は135℃、残りのロール(3)の温度は130℃に設定した。ダイリップ先端部と第1冷却ロール面との距離(図2中L1)は15mm、第1冷却ロール(2)とダイリップの水平位置(図2中L2)は、第1冷却ロールの回転が時計回りに見える位置からみて、ダイリップ先端が冷却ロールの中心から70mm右側の位置とした。フィルムの厚みが92μmとなるようポリカーボネート樹脂の吐出量とフィルムの搬送速度を調節し、速度10m/分で実施した。
(保護フィルムの積層)
基材フィルムと保護フィルムの積層は図1中の7で示す貼合装置で実施した。積層の際の基材フィルムの張力は図1中の5および8で示すニップロール間の速度差で調整し、90N/mとなるように実施した。保護フィルムは図1中6で示す位置から、厚さが30μmの保護フィルム(シーアイ化成(株)製 エクセルガードFS)を、張力40N/mをかけ貼合装置に供給した。保護フィルムの張力は、保護フィルム(6)とニップロール(8)間の速度差で調整した。貼合前の基材フィルムおよび保護フィルムの特性は表1に示すとおりであった。
(巻き取り)
積層フィルムは両端部を切り除いて1,000mm幅のフィルムとして、図1中の9で示される巻取機によってフィルムロール(巻き長500m)とした。この時の巻き取り張力は図1中の8で示されるニップロールと巻き取り機(9)との速度差で調整でき、80N/mで実施した。
(スリット)
得られた幅1,000mmのフィルムロールから片岡機械(株)製スリッター KE−70を用いて、140mm幅×400m長さにスリットした。スリット時の巻き取り張力は80N/mとした。
(Blu−ray Discの製造)
メビウス F−1を使ってBlu−ray Discを製造した。その結果、高い収率でディスクが得られた。合格判定されたディスクについて、電気信号特性評価を行ったところ、Blu−ray Disc Association発行のBD−ROM White Paperに記載されている、ジッター、エラーレート等の電気信号特性規格を満たすことが確認できた。一方、不良判定されたものはエラーレートなどが規格外となっていた。
以上のことから、本発明の積層フィルムは光学部品用として優れており、特に高密度光ディスクの光透過層を形成するのに適していることが分かる。
実施例2
基材フィルムであるポリカーボネートフィルムの平均厚みが78μmとなるように引き取り速度を調整した以外は実施例1と同様にして積層フィルムのロールを得た。貼合前の基材フィルムおよび保護フィルムの特性は表1に示すとおりであった。
積層時の基材フィルムにかかる張力は90N/mで、保護フィルムにかかる張力は40N/mであった。
実施例1と同様にスリットした後、Blu−ray Disc作成を行った。その結果、高い収率でディスクが得られた。合格判定されたディスクはジッター、エラーレート等の電気信号特性規格を満足していた。
実施例3
基材フィルムであるポリカーボネートフィルムの平均厚みが67μmとなるように引き取り速度を調整した以外は実施例1と同様にして積層フィルムのフィルムロールを得た。貼合前の基材フィルムおよび保護フィルムの特性は表1に示すとおりであった。積層時の基材フィルムにかかる張力は80N/mで、保護フィルムにかかる張力は40N/mであった。
実施例1と同様にスリットした後、Blu−ray Disc作成を行った。その結果、高い収率でディスクが得られた。合格判定されたディスクはジッター、エラーレート等の電気信号特性規格を満足していた。
比較例1
保護フィルムとして東レ加工フィルム(株)製 トレテック 7332を使用した以外は実施例1と同様にして積層フィルムのフィルムロールを得た。貼合前の基材フィルムおよび保護フィルムの特性は表1に示すとおりであった。
実施例1と同様にスリットした後、Blu−ray Disc作成を行った。その結果、低い収率であった。
比較例2
保護フィルムとして(株)サンエー化研製 サニテクト PAC−2を使用した以外は実施例1と同様にして積層フィルムのフィルムロールを得た。貼合前の基材フィルムおよび保護フィルムの特性は表1に示すとおりであった。
実施例1と同様にスリットした後、Blu−ray Disc作成を行った。その結果、低い収率であった。
以上の実験により、本発明の光学部品用積層フィルムは、高密度光ディスクの光透過層形成に適した光学的特性を有しており、高収率で光ディスク製造が可能であることが分かる。
Figure 0004898913
Figure 0004898913
本発明の積層フィルムは、光ディスクなどの光学部品の製造に有用である。
1 ダイ
2 第1冷却ロール
3 第2冷却ロール
4 第3冷却ロール
5 ニップロール
6 保護フィルム
7 貼合装置
8 ニップロール
9 巻取機

Claims (7)

  1. 基材フィルムと保護フィルムとを積層することからなる光学部品用積層フィルムの製造方法であり、基材フィルムはポリカーボネート樹脂からなり、
    (i)厚みが10〜150μm、
    (ii)厚み斑が±2μm以下、
    (iii)面内の複屈折率(Δn)の平均値が0.00001〜0.00017、
    (iv)厚み方向の複屈折率(Δnth)の平均値が0.00001〜0.001、
    を満足し、保護フィルムは、
    (i)厚みが10〜100μm、
    (ii)厚み斑が±1.5μm以下、
    を満足し、積層を下記式(1)〜(3)
    10<T<200 (1)
    10<T<150 (2)
    ≦T/T≦10 (3)
    (但し、Tは、積層するときの基材フィルムにおける単位幅当たりの張力(N/m)を表す。Tは、積層するときの保護フィルムにおける単位幅当たりの張力(N/m)を表す。)
    を満足する条件で行う製造方法。
  2. ポリカーボネート樹脂が、ビスフェノールAを少なくとも50モル%有するジヒドロキシ成分から得られた樹脂である請求項1記載の製造方法
  3. ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、12,000〜19,000である請求項1または2に記載の製造方法
  4. 基材フィルムの全光線透過率が、85%以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法
  5. 基材フィルムが、溶融押出し法により形成されたフィルムである請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法
  6. 保護フィルムが、50重量%以上のポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂からなり、その片面が粘着性を有するフィルムである請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法
  7. 請求項1記載の製造方法で得られた光学部品用積層フィルムを、下記式(4)を満足する条件で巻き上げることからなるフィルムロールの製造方法。
    20<Tw<200 (4)
    (Twは単位幅当りの巻き取り張力(N/m)である。)
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