JP4078966B2 - 固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼および固体高分子型燃料電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、接触電気抵抗が低い固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼、およびそのステンレス鋼からなるセパレータを備えた固体高分子型燃料電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼は、その表面に不働態皮膜が形成されているため耐食性に優れている。しかし、表面の不働態皮膜は電気抵抗が大きいため、小さい接触電気抵抗が要求される通電用として使用される電気部品には適していない。不働態皮膜の厚さが厚くなれば耐食性はより優れたものとなるが、電気抵抗はより大きくなる傾向にある。
【0003】
ステンレス鋼の接触電気抵抗を小さくすることができれば、ステンレス鋼を耐食性が要求される通電電気部品として使用することが可能となる。優れた耐食性と小さい接触電気抵抗が要求される通電電気部品の一つに固体高分子型燃料電池のセパレータ(バイポーラプレートと呼ぶこともある)がある。
【0004】
燃料電池は、水素および酸素を利用して直流電力を発電する電池であり、固体電解質型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、リン酸型燃料電池および固体高分子型燃料電池などがある。燃料電池の名称は、電池の根幹をなす『電解質』部分の構成材料に由来している。
【0005】
現在、商用段階に達している燃料電池には、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池がある。燃料電池のおおよその運転温度は、固体電解質型燃料電池で1000℃、溶融炭酸塩型燃料電池で650℃、リン酸型燃料電池で200℃および固体高分子型燃料電池で80℃である。
【0006】
固体高分子型燃料電池は、運転温度が80℃前後と低く起動−停止が容易であり、エネルギー効率も40%程度が期待できることから、小規模事業所、電話局などの非常用分散電源、都市ガスを燃料とする家庭用小型分散電源、水素ガス、メタノールあるいはガソリンを燃料とする低公害電気自動車搭載用電源として、世界的に実用化が期待されている。
【0007】
上記の各種の燃料電池は、『燃料電池』と言う共通の呼称で呼ばれているものの、それぞれの電池構成材料を考える場合には、全く別物として捉えることが必要である。使用される電解質による構成材料の腐食の有無、380℃付近から顕在化し始める高温酸化の有無、電解質の昇華と再析出、凝結の有無等により求められる性能、特に耐食性能が、それぞれの燃料電池で全く異なるためである。実際、使用されている材料も様々であり、黒鉛系素材から、Niクラッド材、高合金、ステンレス鋼と多様である。
【0008】
商用化されているリン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池に使用されている材料を、固体高分子質型燃料電池の構成材料にそのまま適用することは全く考えることができない。
【0009】
図1は、固体高分子型燃料電池の構造を示す図で、図1(a)は、燃料電池セル(単セル)の分解図、図1(b)は燃料電池全体の斜視図である。同図に示すように、燃料電池1は単セルの集合体である。単セルは、図1(a)に示すように固体高分子電解質膜2の1面に燃料電極膜(アノード)3を、他面には酸化剤電極膜(カソード)4が積層されており、その両面にセパレータ5a、5bが重ねられた構造になっている。
【0010】
代表的な固体高分子電解質膜2としては、水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系プロトン伝導膜がある。
【0011】
燃料電極膜3および酸化剤電極膜4には、粒子状の白金触媒と黒鉛粉、必要に応じて水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素樹脂からなる触媒層が設けられており、燃料ガスまたは酸化性ガスと接触するようになっている。
【0012】
セパレータ5aに設けられている流路6aから燃料ガス(水素または水素含有ガス)Aが流されて燃料電極膜3に水素が供給される。また、セパレータ5bに設けられている流路6bからは空気のような酸化性ガスBが流され、酸素が供給される。これらガスの供給により電気化学反応が生じて直流電力が発生する。
【0013】
固体高分子型燃料電池セパレータに求められる機能は、(1)燃料極側で、燃料ガスを面内均一に供給する“流路”としての機能、(2)カソード側で生成した水を、燃料電池より反応後の空気、酸素といったキャリアガスとともに効率的に系外に排出させる“流路”としての機能、(3)長時間にわたって電極として低電気抵抗、良伝導性を維持する単セル間の電気的“コネクタ”としての機能、および(4)隣り合うセルで一方のセルのアノード室と隣接するセルのカソード室との“隔壁”としての機能などである。
【0014】
これまで、固体高分子型燃料電池のセパレータ材料としてカーボン板材の適用が鋭意検討されてきているが、カーボン板材には“割れやすい”という問題があり、さらに表面を平坦にするための機械加工コストおよびガス流路形成のための機械加工コストが非常に高くなる問題がある。それぞれが宿命的な問題であり、燃料電池の商用化そのものを難しくさせかねない状況がある。
【0015】
カーボンの中でも、熱膨張性黒鉛加工品は格段に安価であることから、固体高分子型燃料電池セパレータ用素材として最も注目されている。しかしながら、ガス透過性を低減して前記隔壁としての機能を付与するためには、“複数回”に及ぶ樹脂含浸と焼成を実施しなければならない。また、平坦度確保および溝形成のための機械加工コスト等今後も解決すべき課題が多く、実用化に至っていない。
【0016】
こうした黒鉛系素材の適用の検討に対峙する動きとして、コスト削減を目的に、セパレータにステンレス鋼を適用する試みが開始されている。
【0017】
特許文献1(特開平10−228914号公報)には、金属製部材からなり、単位電池の電極との接触面に直接金めっきを施した燃料電池用セパレータが開示されている。金属製部材として、ステンレス鋼、アルミニウムおよびNi−鉄合金が挙げられており、ステンレス鋼としては、SUS304が用いられている。この発明では、セパレータは金めっきが施されているので、セパレータと電極との接触抵抗が低下し、セパレータから電極への電子の導通が良好となるため、燃料電池の出力電圧が大きくなるとされている。
特許文献2(特開平8−180883号公報)には、表面に形成される不働態膜が大気により容易に生成される金属材料からなるセパレータが用いられている固体高分子電解質型燃料電池が開示されている。金属材料としてステンレス鋼とチタン合金が挙げられている。この発明では、セパレータに用いられる金属の表面には、必ず不働態膜が存在しており、金属の表面が化学的に侵され難くなって燃料電池セルで生成された水がイオン化される度合いが低減され、燃料電池セルの電気化学反応低下が抑制されるとされている。また、セパレータの電極膜等に接触する部分の不働体膜を除去し、貴金属層を形成することにより、電気接触抵抗値が小さくなるとされている。
【0018】
しかしながら、上記の特許文献に開示されている表面に不働態膜を備えたステンレス鋼のような金属材料をそのままセパレータに用いても、耐食性が十分でなく金属の溶出が起こり、溶出金属イオンにより担持触媒性能が劣化(以下、担持触媒の被毒と記す)する。また、溶出後に生成するCr-OH、Fe-OHのような腐食生成物により、セパレータの接触抵抗が増加するという問題があるので、金属材料からなるセパレータには、コストを度外視した金めっき等の貴金属めっきが施されているのが現状である。
【0019】
【特許文献1】
特開平10−228914号公報
【特許文献2】
特開平8−180883号公報
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、接触電気抵抗が低い固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼、およびそのステンレス鋼からなるセパレータを備えた固体高分子型燃料電池を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0021】
(1)ステンレス鋼表面に、導電性を有するM23C6型、M4C型、M2C型、MC型炭化物系金属介在物およびM2B型硼化物系金属介在物のうちの1種以上が分散、露出しており、ステンレス鋼表面粗さが中心線平均粗さRaで0.06〜5μmである固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
【0022】
(2)ステンレス鋼表面に分散、露出しているM23C6型、M2C型、MC型炭化物系金属介在物およびM2B型硼化物系金属介在物中の金属元素(M)が、クロム、モリブデン、タングステンの1種以上を含んでいる上記(1)の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
【0023】
(3)ステンレス鋼が、質量%で、C:0.15%以下、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.01〜1.5%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:15〜36%、Al:0.001〜6%、N:0.035%以下を含有し、かつCr、MoおよびB含有量は下記式を満足しており、残部Feおよび不可避不純物からなるフェライト系ステンレス鋼である上記(1)または(2)の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
17%≦Cr+3×Mo−2.5×B
ただし、式中の各元素記号は含有量(質量%)を示す。
【0024】
上記固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼には、Feの一部に代えて、更に、質量%で、B:3.5%以下を含有させてもよい。また、上記ステンレス鋼には、Feの一部に代えて、更に、質量%で、Ni:7%以下を含有させてもよい。また、上記ステンレス鋼には、Feの一部に代えて、更に、質量%で、Mo:7%以下を含有させてもよい。また、上記ステンレス鋼には、Feの一部に代えて、更に、質量%で、Cu:1%以下を含有させてもよい。また、上記ステンレス鋼には、Feの一部に代えて、更に、質量%で、Ti:25×(C%+N%)以下およびNb:25×(C%+N%)以下の1種以上を含有させてもよい。
【0025】
(4)ステンレス鋼が、質量%で、C:0.005〜0.2%、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.01〜2.5%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:17〜30%、Ni:7〜50%、Al:0.001〜6%を含有し、かつCr、MoおよびB含有量は下記式を満足しており、残部Feおよび不可避不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼である上記(1)または(2)の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
17%≦Cr+3×Mo−2.5×B
ただし、式中の各元素記号は含有量(質量%)を示す。
【0026】
上記固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼には、Feの一部に代えて、更に、質量%で、B:3.5%以下を含有させてもよい。また、上記ステンレス鋼には、Feの一部に代えて、更に、質量%で、N:0.4%以下を含有させてもよい。また、上記ステンレス鋼には、Feの一部に代えて、更に、質量%で、Cu:2%以下を含有させてもよい。また、上記ステンレス鋼には、Feの一部に代えて、更に、質量%で、Mo:7%以下を含有させてもよい。
【0027】
(5)固体高分子電解質膜を中央にして燃料電極膜と酸化剤電極膜を重ねあわせた単位電池を複数個、単位電池間にセパレータを介在させて積層した積層体に、燃料ガスと酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池にであって、セパレータが上記(1)から(4)までのいずれかのステンレス鋼からなる固体高分子型燃料電池。
【0028】
ここで、M23C6型、M4C型、M2C型、MC型炭化物系金属介在物またはM2B型硼化物系金属介在物の“M”は金属元素を示すが、特定の金属元素ではなく、CあるいはBとの化学的親和力の強い金属元素を示す。一般に、Mは鋼中共存元素との関係より、Cr、Feを主体とし、Ni、Moを微量含有することが多い。M23C6型としては、Cr23C6、(Cr、Fe)23C6、M2C型としてMo2C、MC型炭化物系金属介在物としてWC、また、M2B型硼化物系金属介在物としては、Cr2B、(Cr、Fe)2B、(Cr、Fe、Ni)2B、(Cr、Fe、Mo)2B、(Cr、Fe、Ni、Mo)2B、Cr1.2Fe0.76Ni0.04Bといったものがある。M4C型には、B4Cなどがある。基本的に、電気伝導性が良好である金属系の分散物であれば類似の性能が期待できると推察される。“M2B”型表記の添え字指数が“2”であるのは、“硼化物中の金属元素であるCr、Fe、Mo、Ni、X(ここで、XはCr、Fe、Mo、Ni以外の鋼中金属元素)とB量との間において、“(Cr質量%/Cr原子量+Fe質量%/Fe原子量+Mo質量%/Mo原子量+Ni質量%/Ni原子量+X質量%/X原子量)/(B質量%/B原子量)が約2”となる化学量論的関係が成立しているからである。これがM2Bと表記する理由である。本表記法は、特殊なものではなく、極めて一般的な表記法である。
【0029】
また、セパレータとは一般に前述した4つの機能を有するものである。すなわち、
a)燃料極側で、燃料ガスを面内均一に供給する"流路"としての機能、
b)カソード側で生成した水を、燃料電池より反応後の空気、酸素といったキャリアガスとともに効率的に系外に排出させる"流路"としての機能、
c)長時間にわたって電極として低電気抵抗、良電導性を維持する単セル間の電気的"コネクタ"としての機能、および
d)隣り合うセルで一方のセルのアノード室と隣接するセルのカソード室との"隔壁"としての機能を有するものである。これらの機能を複数枚のプレートで機能分担させる構造にする場合もある。本発明でいうセパレータとは、少なくとも上記c)の機能を有するプレートをである。
【0030】
表面粗さの定義として用いた“中心線平均粗さRa”、“最大高さRmax.”とは、JIS B 0601−1982において定義されている二次元的な表面粗さの程度を表す値である。
【0031】
本発明者らは、接触電気抵抗が低く耐食性に優れたステンレス鋼、特に長時間にわたって固体高分子型燃料電池のセパレータとして使用しても、電極用黒鉛との接触電気抵抗が増加しないステンレス鋼を開発するため種々の試験をおこなった結果、以下の知見を得るに至った。
【0032】
a)ステンレス鋼表面に形成される不働態皮膜の電気抵抗は、ステンレス鋼固有のものであり、固体高分子型燃料電池のセパレータとして用いて電気抵抗を電池性能を発揮するのに十分低い値に安定して維持させることは容易でない。
【0033】
b)接触電気抵抗は、単位面積当りの接触面積に依存している。すなわち、単位面積当りの接触点数、接触点総面積、個々の接触点の電気抵抗に依存している。
【0034】
c)そこで、ステンレス鋼表面に導電性を有する炭化物や硼化物の金属介在物を不働態被膜を突き破るようにして分散、露出させ、かつ表面粗度を所定の範囲にすると接触電気抵抗を大きく下げることができ、接触電気抵抗を継時的に低く維持することができる。この炭化物や硼化物系金属介在物は、“電気の通り道”として機能する。
【0035】
d)セパレータ環境で、ステンレス鋼は比較的良好な耐食性を発揮するが、金属溶出、腐食が起こり、腐食生成物(大部分は、Feを主体とする水酸化物)が生成し、接触電気抵抗の増大をもたらし、かつ、担持触媒性能に著しい悪影響を及ぼす。その結果、起電力に代表される電池性能が短時間で劣化し、水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系イオン交換樹脂膜のプロトン伝導性が劣化する。
【0036】
e)一方で、電池本体内環境におけるステンレス鋼の耐食性を確保するためには、不働態皮膜は必要不可欠であるが、不働態皮膜を強固にしても、皮膜厚が厚くなると接触電気抵抗が増大し、電池効率が著しく低下する。そのため、ジュール熱の発生が大きくなる。
【0037】
f)不働態皮膜を強固にして、セパレータ環境で金属の溶出を抑制するためには、CrとMoの含有量は(Cr%+3×Mo%)、Bを含有する場合には(Cr%+3×Mo%−2.5B%)が17%以上になるようにする必要がある。
【0038】
g)積極的にMoを添加することで、耐食性が確保される。Moは溶出したとしても、アノードおよびカソード部に担持されている触媒の性能に対する影響が比較的軽微である。このことは、溶出したMoが、陰イオンであるモリブデン酸イオンとして存在するため、水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系イオン交換樹脂膜のプロトン伝導性を阻害する影響が小さいためと考えられる。Wについてもタングステン酸イオンとして存在し、同様の挙動が認められる。Vについても、同様の挙動が期待できる。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。なお、以下に示す%表示は質量%を示す。
【0040】
金属介在物:ステンレス鋼の表面に、導電性を有するM23C6型、M4C型、M2C型、MC型炭化物系金属介在物およびM2B型硼化物系金属介在物の1種以上を分散、露出させる。露出とは、金属介在物がステンレス鋼表面に生成している不働態被膜で覆われることなく外面に出ていることである。金属介在物を分散、露出させるのは金属介在物を電気の通り道(迂回路)として、接触電気抵抗を下げるためである。
【0041】
一般に、ステンレス鋼におけるM23C6 型炭化物系金属介在物は、耐食性低下の原因であり厄介者扱いされることが多い。本発明では、これまで厄介者扱いされてきたM23C6 型炭化物系金属介在物をも積極的に析出させ、不働態皮膜形成により増大する接触電気抵抗を減じさせる『電気の通り道(迂回路)』として活用する。
【0042】
金属介在物の分散、露出させる方法には以下のような方法がある。
【0043】
(1)鋼中の炭素をクロム系炭化物などとして析出させる
(2)鋼中の硼素をクロム系硼化物として析出させる
(3)B4C、WC、Mo2Cのような導電性を有する金属微粉末の投射(以 下、ショットと記す)、研磨および研削などの機械加工時に“鋼表面 にめり込ませて残留させる”
(4)蒸着、イオンインプランテーションなどの表面改質と呼ばれる表面処理方法と析出処理のための熱処理を組み合わせる
このなかで、(4)は工業的な手法としては高価であるが、最表層部分を除いて、板厚方向の特性がほとんど変化しないので有効である。
【0044】
M23C6型、M2C型、MC型炭化物系金属介在物およびM2B型硼化物系金属介在物中の金属元素(M)が、クロム、モリブデン、タングステンの1種以上を含んでいる場合、これらの炭化物、硼化物がいずれも金属介在物として熱力学的に安定であり、導電性に優れるとともに、母材並みに優れた耐食を有する。また、いずれも硬度が高いので、ショット、研磨、および研削といった機械加工を用いて鋼表面にめり込ませて残留させて、その機能を発揮させようとする本発明の目的には望ましい。さらに、これらの金属介在物が万が一溶出したとしても、溶出金属イオンがいずれもステンレス鋼の不働態化を促進する耐食性改善元素であり、また、モリブデン、タングステンなどは金属イオンでありながらモリブデン酸イオン、タングステン酸イオンといった陰イオンを形成し、電解質膜であるプロトン伝導性への影響が小さいという特徴を有している。
【0045】
鋼中に析出した金属介在物をステンレス鋼表面に生成した不働態被膜の外面に露出させる方法には以下のような方法がある。
【0046】
1)酸洗処理する方法
2)ロール表面をショット加工あるいはエッチング加工した微小凹凸を有する圧延ロール(通称、“ダルロール”)で圧延する方法
3)ステンレス鋼板を直接ショット加工する方法。
【0047】
酸洗処理する方法では、地金をわずかに溶解して、耐食的に優れる金属介在物を残留させたまま少し突出させればよい。好ましい酸洗条件の一例として、5−15%硝酸に1−10%ふっ酸を加えた混酸溶液がある。1%から15%未満の濃度の塩酸、硫酸溶液でも可能である。地金をわずかに溶解して、耐食的に優れる金属介在物を残留させたまま少し突出させることができれば、浸漬する酸液はどのような液でもよく、電解等を併用させてもよい。
【0048】
図2は、金属介在物を露出させたステンレス鋼の表面と他の通電体面と接触させた場合の断面図を示す。
【0049】
この図は、ステンレス鋼10の表面には不働態被膜12が存在しており、析出させた硼化物系金属介在物13、炭化物系金属介在物15、および投射した金属介在物14がそれぞれ表面から露出しており、カーボン板11と接している状態を示している。
【0050】
表面粗さ:
表面粗さは接触電気抵抗に影響するために規定するもので、Raが0.06μm未満では表面が平滑過ぎて、導電性金属介在物が鋼表近傍に存在しても改善効果が認められない。平滑過ぎるとかえって接触点が少なくなるようである。一方、Raが5μmを超えると単位面積当りの接触点数が著しく減少し接触電気抵抗が大きくなる。したがって、Raは0.06〜5μmとした。好ましいのは0.06〜2.5μmである。
【0051】
化学組成:
本発明のステンレス鋼の好ましい化学組成は、以下の通りである。
【0052】
C:
Cは、本発明においてBと並んで重要な元素で、Cr系主体の炭化物として分散析出させることで、不働態皮膜で覆われているステンレス鋼表面の接触電気抵抗を下げる効果がある。このことは、Cr系炭化物が金属的性質を有しており、不動態皮膜よりも良好な電気伝導性を有していることにより説明できる。Bを含有させたステンレス鋼の場合、多量の硼化物が析出するので、硼化物中にも取り込まれて析出する場合がある。
【0053】
一般にステンレス鋼表面には、数十Å程度の極々薄い不働態皮膜が生成し優れた耐食性を示すが、多かれ少なかれ不働態皮膜は母材に比べて電気伝導性が劣り、接触電気抵抗を高める。不働態皮膜を薄くすることで、電気抵抗を小さくすることも可能ではあるが、特に固体高分子型燃料電池内部で用いられた場合、安定して不動態皮膜を薄い状態で維持することは容易ではない。電気電導性に優れたCr系炭化物が不働態皮膜に覆われることなく表面に直接露出することが、ステンレス鋼表面の電気伝導性を長時間にわたって低く安定させることにとって極めて有効である。すなわち、Cr系炭化物は耐食的に安定で、かつ、表面に不働態皮膜を形成しない。したがって、たとえ固体高分子型燃料電池内部で表面の不働態皮膜が厚くなったとしても、鋼表面に露出しているCr系炭化物を介して良電導性が確保されることとなり、鋼表面の接触電気抵抗が高くなるのを抑制することができる。言いかえるならば、不働態皮膜に覆われることなく露出している微細なクロム系炭化物が『電気の通り道(迂回路)』として機能することで、接触電気抵抗を低く維持できる。
【0054】
一般に、Cを多量に含有させると、ステンレス鋼は強度、硬度が高くなって延性が低下し、製造性が低下する。固体高分子型燃料電池用セパレータ材としての成形性を確保するためにも、鋼中のCを炭化物として析出させて、固溶C量を下げるのが好ましい。炭化物としてCを析出させることで、鋼の成形性が改善される。すなわち、成形性確保の点からも、鋼中のCを炭化物として析出させることは有効である。さらに、炭化物を熱処理で凝集粗大化させることも、加工性を一層改善させるのに有効である。長時間保持することで、炭化物は凝集し粗大化する。凝集粗大化熱処理前に、あらかじめ冷間圧延、金属微粉末をショットしたり、研磨、研削加工することにより残留歪を加えれば、炭化物の析出時間、凝集時間を短くすることができる。また、炭化物析出に伴い顕在化する鋭敏化に対しても、耐食性が母材並みに回復するまでの時間が短くなる。
【0055】
フェライト系ステンレス鋼では、0.15%を超えて含有させると、固体高分子型燃料電池セパレータ用としての成形性が確保できなくなるので、C含有は0.15%以下にするのが好ましい。さらに、炭化物析出により生じる鋭敏化を防止するためには(Cr系炭化物として析出しているC質量%)×100/[(鋼中全C質量%)−0.0015%]の値を80以上とすることが望ましい。
【0056】
炭化物を析出させてステンレス鋼表面に分散、露出させるには、Cを0.02%以上含有させるのが好ましく、さらに好ましくは0.04%以上である。また、炭化物の析出を促進するためには500〜950℃の温度域に保持する熱処理を施すのがよい。950℃を超える温度域では、Cr系炭化物は熱的に不安定となり再固溶する。一方、500℃未満の温度では鋼中C、Crの拡散速度が遅くなり量産での析出処理時間が長くなり工業的な観点より好ましくない。Cr系炭化物を析出させるのに、より好適な処理温度域は650〜900℃であり、最も望ましい温度域は800〜900℃である。
【0057】
オーステナイト系ステンレス鋼では、積極的に炭化物を析出させるためには0.005〜0.2%の範囲でCを含有させるのがよい。0.2%を超えて含有させると、固体高分子型燃料電池セパレータ用としての成形性を確保することができなくなる。炭化物をより多く析出させてステンレス鋼表面に分散、露出させるには、0.06%以上含有させるのが好ましい。また、炭化物析出による鋭敏化を防止するためには、(Cr系炭化物として析出しているC質量%)×100/((鋼中全C質量%)−0.012%)の値を85以上とすることが望ましい。
【0058】
炭化物の析出を促進させるには500℃〜950℃の温度域に保持する熱処理を施すのがよい。ただし、950℃を超える温度域では、Cr系炭化物は熱的に不安定となり再固溶する。一方、500℃未満では鋼中C、Crの拡散速度が遅く、量産での析出処理時間が長くなり工業的な観点より好ましくない。Cr系炭化物析出により好適な処理温度域は600〜900℃である。
【0059】
Cr系炭化物は鋼中に微細に分散析出するが、析出しやすい結晶粒界に優先的に析出する傾向がある。接触電気抵抗を低くする上で、クロム系炭化物が粒界、粒内いずれに析出するかはさほどの影響はないが、均一に分散させるとの観点より考えて、粒内にも分散析出していることが望ましい。
【0060】
粒内に分散させるためには、一旦Cr系炭化物を析出させた状態で、Cr系炭化物が再固溶しない温度域、時間内に熱間圧延あるいは冷間圧延で加工歪を付与した後、再度500℃以上、950℃以下のCr系炭化物析出温度域に保持すればよい。付与する冷間加工度は数%から効果を確認することができるが、20〜30%程度以上が望ましい。表層付近にのみ加工歪を付与し、表層付近にのみ炭化物を析出させることも可能である。いずれにしても、再固溶した鋼中Cが、粒界あるいは粒内に固溶せず残留している炭化物を核として再度析出し、新粒界が形成されることで粒内にも炭化物が析出することとなる。
【0061】
表層付近にのみ加工歪を付与し、析出処理を施した場合、先に示したフェライト系では、(Cr系炭化物として析出しているC質量%)×100/((鋼中全C質量%)−0.0015%)の値が80以上なる関係、オーステナイト系では(Cr系炭化物として析出しているC質量%)×100/((鋼中全C質量%)−0.012%)の値が85以上なる関係を成立させることは困難となるが、定性的には露出している表面でこれら関係式を満足させるのが望ましい。
【0062】
周知のように、Cr系炭化物析出処理では、鋭敏化により母材耐食性を低下させる可能性がある。鋭敏化とは、Cr系炭化物が析出することでその周囲にCr欠乏層が生成することで起こる耐食性の低下である。鋭敏化は、500℃以上、950℃以下の温度域に長時間保持し、緩冷却することで回避、あるいは改善することができる。一般的に、冷却速度は遅いほど望ましい。
【0063】
ただし、鋭敏化抑制の熱処理時間は、鋼中のC量および材料の履歴により異なるので、条件を特定することは難しい。すなわち、鋭敏化抑制の熱処理は、炭化物析出処理の熱処理前での炭化物の析出状況、残留加工歪量、保持温度などにより異なるので一概に規定することが困難である。
【0064】
一例として、830℃×6時間炉冷を挙げることができる。析出熱処理をおこなった直後に冷却をおこなうことなく、鋭敏化抑制のための熱処理を継続しておこなってもよい。また、一旦冷却した後、再度500℃以上、950℃以下の温度域に加熱保持し、緩冷却することで鋭敏化を回避、あるいは改善してもよい。一つの目安として、フェライト系では、(Cr系炭化物として析出しているC質量%)×100/((鋼中全C質量%)−0.0015%)の値で80以上なる関係、オーステナイト系では(Cr系炭化物として析出しているC質量%)×100/((鋼中全C質量%)−0.012%)の値で85以上なる関係を満足させるのがよい。鋭敏化することなく、鋭敏化現象が回復し、耐食性が確保されているかどうかは、JIS G−0575に規定されている『硫酸−硫酸銅腐食試験』のような粒界腐食検出法により容易に確認することができる。
【0065】
(Cr系炭化物として析出しているC質量%)の値の定量に際しては、試験材から8mm直径の丸棒を加工し、AA液(10%アセチルアセトン−1%テトラメチルアンモニウムクロライド−残りメタノール)を用いる非水溶媒溶液中での定電流電解をおこなうことにより得られる抽出残渣中のCr定量分析結果より、CrがすべてCr23C6であるとして等量計算にてC量を定量評価できる。
【0066】
すなわち、AA非水溶媒液中にて、20mA/cm2の電流密度にて約3時間の定電流電解をおこなうことで約0.4g相当を溶解し、電解後すみやかに電解試験片を超音波洗浄したAA非水溶媒液と電解に用いたAA非水溶媒溶液をフィルター径0.2μmのCoster Scientific Corporation社製“商品名Nuclepore”で濾し取り、フィルター上の残渣を硫りん酸(特級りん酸:特級硫酸:蒸留水=1:1:1)中で溶解し、これを島津製作所製誘導結合プラズマ発光分光分析装置“商品名ICPV-1014”にて金属成分を分析することによりCr系炭化物中のCr濃度を求めることができる。
【0067】
また、(鋼中全C質量%)の定量については、赤外線吸収法を用いて定量することができる。なわち、試験片を酸素気流中で加熱、溶解して、鋼中の炭素を十分に加熱して二酸化炭素とし、これを酸素と共に赤外線吸収セルに送り、二酸化炭素による赤外線吸収量で定量分析する。現状では、最も一般的な鋼中C定量法である。
【0068】
Si:
鋼中のSi量は、0.01〜1.5%の範囲で含有させるのがよい。Siは、量産鋼においてはAlと同様に有効な脱酸元素である。0.01%未満では脱酸が不十分となり、一方1.5%を超えると成形性が低下する。
【0069】
Mn:
フェライト系ステンレス鋼においては、0.01〜1.5%の範囲内で含有させるのがよい。通常、Mnは鋼中のSをMn系の硫化物として固定する作用があり、熱間加工性を改善する効果がある。オーステナイト系ステンレス鋼では、Mnは0.01〜2.5%含有させる。Mnは、有効なオーステナイト相安定化元素である。ただし、2.5%を超えて含有させる必要はない。
【0070】
P:
鋼中のP量は、0.04%以下とするのが好ましい。本発明のステンレス鋼においては、PはSと並んで最も有害な不純物である。低ければ低い程望ましい。
【0071】
S:
鋼中のS量は、0.01%以下とするのが好ましい。本発明のステンレス鋼において、SはPと並んで最も有害な不純物である。低ければ、低いほど望ましい。鋼中共存元素および鋼中のS量に応じて、Mn系硫化物、Cr系硫化物、Fe系硫化物、あるいはこれらの複合硫化物および酸化物との複合非金属介在物としてほとんどが析出する。しかしながら、固体高分子型燃料電池のセパレータ環境においては、いずれの組成の非金属介在物も、程度の差はあるものの腐食の起点として作用し、不働態皮膜の維持、腐食溶出抑制に有害である。通常の量産鋼の鋼中S量は、0.005%超え0.008%前後であるが、上記の有害な影響を防止するためには0.004%以下に低減することが望ましい。より、望ましい鋼中S量は0.002%以下であり、最も望ましい鋼中S量レベルは、0.001%未満であり、低ければ低い程よい。工業的量産レベルで0.001%未満とすることは、現状の精錬技術をもってすれば製造コストの上昇もわずかであり、全く問題ない。
【0072】
Cr:
Crは、母材の耐食性を確保する上で極めて重要な基本合金元素である。含有量は高いほど高耐食となる。フェライト系においてはCr量が36%を超えると量産規模での生産が難しくなる。オーステナイト系では30%を超えるとオーステナイト相がその他合金成分の調整によっても不安定性になる。フェライト系では15%未満、オーステナイト系では17%未満のCr含有量では、その他の元素を変化させてもセパレータとして必要な耐食性の確保が困難になる。
【0073】
硼化物、炭化物が析出することにより、耐食性向上に寄与する鋼中Cr量が、溶鋼段階でのCr量に比べて低下して母材耐食性が劣化する場合がある。固体高分子型燃料電池内部での耐食性を確保するためには、M2B型硼化物が析出している本発明鋼の場合は、(Cr%+3×Mo%−2.5×B%)≧17%なる関係式を満たす鋼中Cr量であることが望ましい。また、M23C6型炭化物が析出した場合にも、炭化物析出量に見合うだけの固溶Cr量が低下するため、(鋼中Cr%−M23C6型炭化物として析出したCr%)+3×Mo%≧17%なる関係式を満たす鋼中Cr量であることが望ましい。
【0074】
Al:
Alは、脱酸元素として溶鋼段階で添加する。本発明鋼でBを含有させる場合は、Bは溶鋼中酸素との結合力が強い元素であるので、Al脱酸により酸素濃度を下げておくのがよい。そのため、0.001〜6%の範囲で含有させるのがよい。
B:
Bは、必要に応じて含有させるが、重要な添加元素のひとつである。含有させる場合、3.5%以下とするのがよい。B含有鋼においては、BはCr、Feを主体とし、Ni、Moを微量含有する(Cr,Fe)2B、(Cr,Fe,Ni)2BといったM2B型硼化物として析出させることにより、不働態皮膜で覆われるステンレス鋼表面の接触電気抵抗を下げる効果がある。一方、B4Cといった微粒子粉末をショットしたり、研磨、研削する際に“めり込ませて残留物させる”ことで、接触電気抵抗を継時的に低く維持することができる。
【0075】
このことは、これらの硼化物は金属的性質を有しており、不働態皮膜よりも良好な電気伝導性を有していることにより説明できる。
【0076】
電気電導性に優れた硼化物を、不働態皮膜に覆われることなく表面に直接露出させることにより、ステンレス鋼表面の電気伝導性を長時間にわたって低く安定させることに極めて有効である。
【0077】
すなわち、硼化物は炭化物と同様に耐食的に安定で、かつ、表面に不働態皮膜を形成しない。したがって、たとえ固体高分子型燃料電池内部で表面の不働態皮膜が厚くなったとしても、鋼表面に露出している硼化物を介して良電導性が確保されることとなり、鋼表面の接触電気抵抗が高くなるのを抑制することができる。換言すれば、不働態皮膜に覆われることなく露出している微細な金属性質を有する硼化物が『電気の通り道(迂回路)』として機能することで、接触電気抵抗を低く維持することができる。
【0078】
一般に、Bを多量に含有すると、ステンレス鋼は強度、硬度が高くなって延性も低下し、製造性の低下が大きくなる。固体高分子型燃料電池用セパレータ材としての成形性を確保するためにも、鋼中のBを硼化物として析出させて、固溶B量を下げるのが好ましい。硼化物としてBを析出させることにより鋼の成形性が改善される。
【0079】
すなわち、成形性確保の点からも鋼中のBを硼化物として析出させることが有効である。さらに、1200℃近傍の温度で長時間保持することにより、硼化物を凝集し粗大化させることができ、加工性を一層改善させるのに有効である。ただし、保持温度が高いため素材が変形しやすい難点がある。
【0080】
また、製造過程において、熱間での鍛造比(鍛錬比)を高めて強加工することにより、変形能が低下する原因である硼化物を砕いて微細に分散させることが可能である。微細に破砕することで靭性劣化を軽減することができる。
【0081】
3.5%を超えるBを含有させることは、通常の溶解法での製造では困難である。また、固体高分子型燃料電池セパレータ用としての常温での成形性が確保できなくなる。したがって、Bを含有させる場合は3.5%以下とするのが好ましい。
【0082】
周知のごとく、鋼中のBはそのほとんどが硼化物として析出する。1125℃においても0.01%以下程度固溶するのみである。低温側では、固溶量はさらに低くなる。
【0083】
硼化物析出温度は、含有量にもよるが、ステンレス鋼の凝固温度近傍にあり、一旦析出すると、ほとんど再固溶しない挙動を示す。Bの含有量と共に液相線が低下し、熱間での鍛造可能温度範囲も狭くなる問題もある。硼化物そのものの変形能が極めて劣ることから、B含有量が多く硼化物析出が顕著になるほど製造時、加工時の割れ問題が大きくなり、量産性が悪くなる。ただし、B量が1.5%以上、3.5%までは、相当の困難さを伴うものの工業的規模での製造は可能である。
【0084】
加工変形能をほとんど有しないM2B型硼化物は、圧延方向に砕けて分散するような様相で分散しながら圧延される。硼化物の分散状態が成形性を左右する。鋼中における硼化物分散状態の制御は、鍛造条件、熱間圧延条件を工夫することで可能である。特に、熱間での強圧下圧延が有効である。
【0085】
B含有量が、数十ppm程度である場合には、硼化物は結晶粒界に析出する傾向が大きい。接触電気抵抗を低くする上で、硼化物が粒界、粒内いずれに析出するかはさほどの影響はないが、常温での加工性、割れ問題回避の点から均一に分散させる方が好ましいことは言うまでもない。
【0086】
硼化物析出により、母材耐食性が低下する可能性がある。硼化物析出による母材の耐食性低下は、硼化物が析出することで母材中のCr、Moが消費されるために起こる。あらかじめ、硼化物形成により消費されるCr量相当およびMo量相当を溶鋼の段階で含有させておくことが耐食性低下軽減に対して極めて重要である。冷却速度の影響は比較的小さい。
【0087】
固体高分子型燃料電池本体内部での耐食性を確保するために、Cr%+3×Mo%−2.5×B%≧17%を満足させることが好ましい。各元素のかかる係数は、実験則で規定したものである。
【0088】
鋼中B量は、試験材から8mm直径の丸棒を加工し、AA液(10%アセチルアセトンー1%テトラメチルアンモニウムクロライド−残りメタノール)を用いる非水溶媒溶液中での定電流電解をおこなうことで得られる抽出残渣よりB定量分析を行うことで定量することができる。すなわち、AA非水溶媒液中にて、20mA/cm2の電流密度にて約3時間の定電流電解をおこなうことで約0.4g相当を溶解し、電解後すみやかに電解試験片を超音波洗浄したAA非水溶媒液と電解に用いたAA非水溶媒溶液をフィルター径0.2μmのCoster Scientific Corporation社製のNuclepore(商品名)で濾し取り、フィルター上の残渣を用いて定量をおこなうことができる。鋼中の硼化物量が少なく残渣量が40μg以下と少ない場合には、蒸留分離した後クルクミン吸光光度法により、40μg以上の場合には硫りん酸(特級りん酸:特級硫酸:蒸留水=1:1:1)中で溶解した後、これを島津製作所製誘導結合プラズマ発光分光分析装置(商品名ICPV-1014)にて金属成分を分析し、硼化物として析出しているB量を定量することができる。
【0089】
上記でのAA液中での定電流電解で得られる残渣は、M2Bの化合物としてフィルター上に捕集される。硼化物としてBと結合している金属元素の定量は、誘導結合プラズマ発光分光分析法を利用する上記要領により可能である。定性分析は、X線回折法により可能である。
【0090】
N:
フェライト系ステンレス鋼におけるNは不純物である。Nは常温靭性を劣化させるので上限を0.035%とするのがよい。低ければ低い程望ましい。工業的には0.007%以下とすることが最も望ましい。オーステナイト系のステンレス鋼においては、Nはオ−ステナイト形成元素として、オーステナイト相バランスの調整に有効な元素である。しかし、加工性を劣化させないために上限を0.4%とするのがよい。
【0091】
Ni:
オーステナイト系ステンレス鋼においては、Niはオーステナイト相安定のために極めて重要な合金元素である。フェライト系ステンレス鋼においても、耐食性、靭性を改善する効果がある。オーステナイト系ステンレス鋼においては、下限を7%とし、上限を50%とするのが好ましい。7%以下では、オーステナイト相安定が困難となり、一方、50%を超えて含有させると、製造が困難となるからである。フェライト系ステンレス鋼は、上限を7%とするのが好ましい。7%を超えるとフェライト系組織とすることが困難となり、その他元素の影響も受けるが、フェライト及びオーステナイト二相組織となるからである。二相組織では薄板成形性に方向性があり、固体高分子型燃料電池セパレータ用素材として十分な加工性を確保することができなくなる。
【0092】
Mo:
MoはCrに比べ、少量で耐食性を改善する効果がある。7%以下の量で必要により含有させるのがよい。7%を超えて含有させると、シグマ相等の金属間化合物の析出回避が困難であり、鋼の脆化の問題から生産が困難となるので上限を7%とするのがよい。
【0093】
また、Moの特徴として、固体高分子型燃料電池内部で、たとえ腐食により鋼中Moの溶け出しが起こったとしても、アノードおよびカソード部に担持されている触媒の性能に対する影響は比較的軽微である特徴がある。Moが、金属陽イオンとして存在せず、モリブデン酸陰イオンとして存在するため、水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系イオン交換樹脂膜の陽イオン伝導度に対する影響も小さいことで説明できる。
【0094】
Moは、耐食性を維持するために極めて重要な添加元素であり、(Cr%+3×Mo%−2.5×B%)≧17%なる関係式を満たす鋼中Mo量であることが望ましい。
【0095】
鋼中あるいは、鋼表面にMo2C型炭化物として、ショット加工、あるいは研磨、研削などの機械加工後の残留物として、あるいは析出物として存在させることができる。導電性金属としてステンレス鋼の表面に分散、露出させることで、不働態皮膜で覆われるステンレス鋼表面の接触電気抵抗を下げる効果がある。このことは、Mo系炭化物が金属的性質を有しており、不動態皮膜よりも良好な電気伝導性を有していることにより説明できる。電導性に優れたMo系炭化物を不働態皮膜に覆われることなく表面に直接露出させることで、微細なMo系炭化物が『電気の通り道(迂回路)』として機能することで、接触電気抵抗を低く維持すことができる。
【0096】
また、工業的にはコスト高となるが、イオン注入等でステンレス鋼表層部分のMo濃度を高め、その後の熱処理により鋼中のCと反応させて、表層でMo2Cを形成させることも可能である。
【0097】
Cu:
Cuは必要に応じて含有させることができる。しかし、フェライト系ステンレス鋼では、Cuは1%以下で含有させるのがよい。1%を超えて含有させると、熱間での加工性を減ずることとなり、量産性の確保が難しくなるからである。オーステナイト系ステンレス鋼では、2%以下の範囲で含有させるのがよい。Cuは、有効なオーステナイト相安定化元素であり、不働態保持に際して有効な働きをする。
【0098】
Ti、Nb:
TiおよびNbは、フェライト系ステンレス鋼の靭性劣化を軽減する効果がある。必要に応じて25×(C%+N%)以下で含有させる。Ti、Nbの複合で含有させても靭性改善の効果は得られる。
【0099】
以下、具体的な実施例により本発明の効果を詳細に説明する。
【0100】
【実施例1】
表1に示した16種の化学組成のステンレス鋼を高周波誘導加熱方式の150kg真空溶解炉で溶解しインゴットに造塊した。溶解原料としては、市販の原料を使用し、鋼中の不純物量を調整した。B添加には市販のFe−B合金鉄を用いた。aからi、およびpはフェライト系ステンレス鋼であり、jからoはオーステナイト系ステンレス鋼である。
【0101】
【表1】
【0102】
各インゴットから下記の工程により冷間圧延鋼板を製造した。
【0103】
インゴット → 鍛造 → 切削加工 → 熱間圧延 → 焼鈍 → 冷却→ ショットブラストで脱スケール → 酸洗 → 冷間圧延(中間焼鈍)→ 焼鈍 → 酸洗
各製造工程における詳細は以下の通りである。
【0104】
インゴット:
[鋼記号] [インゴット形状]
a〜f、p : 丸型
g〜i : 角型扁平
j〜m : 丸型
n、o : 角型扁平
鍛造(プレス方式、加熱は大気中):(仕上げ寸法の厚さ、幅、長さの単位はmm)
[鋼記号] [加熱温度(℃)][加熱時間(hr)][厚さ 幅 長さ]
a〜f、p : 1220 3 70 400 600
g〜i : 1180 3 50 400 600
j〜m : 1260 3 70 400 600
n、o : 1180 3 50 400 600
切削加工:
上記スラブを切削加工して表面の酸化スケールおよび端面の割れを除去
[鋼記号] [切削後の仕上げ厚さ(mm)]
a〜f、p : 60
g〜i : 42
j〜m : 60
n、o : 42
熱間圧延:
[鋼記号] [スラブ加熱温度(℃)大気中] [仕上げ厚さ(mm)]
a〜f、p : 1220 3.8
g〜i : 1180 2.6
j〜m : 1260 3.8
n、o : 1180 2.6
いずれも熱間圧延後、量産での熱延終了直後の温度履歴を模擬して断熱材
を巻き付けて徐冷した。
【0105】
鋼記号gからi、およびn、oについては、0.6%以上のBを含有しているステンレス鋼である。鋼中Bは、固相線以下、1200℃付近で析出する。M2B型硼化物は金属間化合物でありながら常温域、高温域ともに変形能が極めて悪いので、おおよそ、1000℃以上、1200℃以下の温度範囲で再加熱を繰り返しながら鍛造、圧延をおこなった。また、コイル端面の温度は低下しやすく、耳割れを発生しやすいので、コイル端面を保熱、必要に応じて加熱しながら熱間圧延をおこなった。
【0106】
熱間圧延後の焼鈍(大気中):
[鋼記号] [焼鈍温度℃] [冷却]
a、e、f、g、h、i、p : 840 空冷
b : 925 水冷
c、d : 1000 水冷
j、k、l、m、n、o : 1080 空冷
保持時間は、いずれも20分
表面の高温酸化スケールは、ショットにて除去、酸洗
冷間圧延:
全て0.3mmに仕上げた。
【0107】
必要に応じて、冷間圧延途中で810℃で軟化焼鈍と酸洗を実施した。
【0108】
冷延コイルは、上記熱延材と同じ温度で最終焼鈍をおこない供試材とし、下記の方法によりステンレス鋼板の表面に金属介在物を分散、露出させた後、表面粗さ、接触電気抵抗を測定すると共に、セパレータを製作して固体高分子型燃料電池に組み込み性能評価をおこなった。
【0109】
各試験に用いた冷延鋼板の表面の金属介在物の分散、露出および表面粗さは、酸洗液条件(液組成、温度)、酸洗時間を変えることによりおこなった。用いた酸洗液は下記の4種類であった。
【0110】
▲1▼ 硝酸:15%、ふっ酸:3%、水:残部
▲2▼ 硝酸:10%、ふっ酸:8%、水:残部
▲3▼ 硝酸:10%、ふっ酸:4%、水:残部
▲4▼ 硝酸: 8%、ふっ酸:3%、水:残部
なお、酸洗液の温度は60℃一定とした。
【0111】
また、ステンレス鋼板表面に金属介在物を分散、露出させる手段として、析出させる以外にWC、Mo2C、B4Cの導電性を有する硬質微粉末をショットする方法を用いた。ショット条件は以下の通りであった。
【0112】
ショットした微粉末は、いずれも工業的に製造された粉末であり、平均粒径は約200μmであった。WCで99%以上、Mo2Cで90%、B4Cで95%以上の高純度品で、それぞれMC型、M2C型、M4C型炭化物に該当する。投射条件は以下の通りであった。
【0113】
投射圧力:5kg/cm2
投射距離:200mm
投射量 :5kg/min
投射角度:80度
実施した試験は、下記の(1)〜(4)である。
(1)冷延鋼板に導電性粉末を投射することにより金属介在物を分散、露出させたステンレス鋼板の試験
表2に示した鋼記号の各冷延鋼板を、同表に示す酸洗条件で酸洗した後、WC、Mo2C、B4Cの導電性を有する硬質微粉末をショットした後、蒸留水中で15分間の超音波洗浄をおこなった。冷風ドライアーで乾燥させた後、JIS B 0601−1982に規定の表面粗さ(中心平均粗さRaおよび最大高さRmax)と、接触電気抵抗を測定した。その結果を表2に示す。ショット前に酸洗を実施しない場合にも、ほぼ同様の効果が確認できた。
【0114】
【表2】
【0115】
表2に示したNo.1〜13は、ショットを施した場合で、No.14〜18はショットを施さなかった例で、表面に金属介在物が露出していない比較例である。
【0116】
本発明例のNo.5〜7および比較例の15〜18は、M23C6型導電性金属析出物の影響を避けるために炭素含有量が少ない鋼を用いた。
【0117】
表2でM23C6、M2B型析出物の有無については、光学顕微鏡にて表面にマクロ的に均一分散していることが容易に目視確認できるものをもって析出ありと表記した。同定については、透過電子顕微鏡の回折像よりおこなった。
【0118】
接触電気抵抗の測定は、0.3mm厚の上記酸洗後の冷延鋼板と厚さ0.6mmの市販のグラッシーカーボン板(昭和電工製、商品名“SG3”)を用い、評価用ステンレス試験片接触面積を1cm2とし、4端子法にて測定した。評価用試験片表面は、評価直前に、表面を洗浄後評価に供試した。酸洗処理をおこなわない場合は、湿式600番エメリー研磨面である。負荷荷重は11.2kg/cm2とした。負荷荷重により接触電気抵抗は変化するが、10kg/cm2以上でほぼ一定値が得られるようになることを確認している。
【0119】
表2より明らかなように、導電性粉末をショット加工によってステンレス鋼板表面にめり込ませて残留させた場合、全て接触抵抗は8.45mΩ・cm2以下となった。一方、ショットを施さない比較例では、接触電気抵抗が107.9mΩ・cm2以上と高かった。ここで、No.14は鋼中に導電性金属介在物であるM23C6が析出しているにもかかわらず接触抵抗が高い。これは、No.14では中心線平均粗さが0.03μmと極めて平滑であるために導電性介在物が表面から突出しておらず、導電性介在物が“電気の通り道”として十分に機能しなかったためと考えられる。ステンレス鋼表面粗さが中心線平均粗さRaで0.06〜5μmである必要がある。ショット加工は、▲1▼表面に導電性粉末をめり込ませて残留させること、▲2▼表面粗さを中心線平均粗さRaで0.05〜5μmに調整することの双方を満足させる極めて有効な工業的手段のひとつであることが明かである。なお、ショット加工によりめり込ませて残留させた導電性粒子の「電気の通り道」としての機能は時間経過によらないと判断されるが、実際にショットを施した鋼板表面の接触抵抗は、300hr経過後もほぼ同じ接触抵抗値を示すことが確認できた。
【0120】
M23C6、M2B型といった導電性金属析出物が鋼中に析出している場合も、No.1〜4、8〜10、12、13に示すように良好な接触抵抗が得られた。両者の改善効果は、重畳の関係にあると判断している。
(2)金属介在物を析出させて分散、露出させたステンレス鋼の試験
電気伝導性微粉末を投射しないで、析出した金属介在物のみによる効果を確認するため、炭素含有量が比較的高くM23C6型炭化物が析出しているステンレス鋼、および、硼素含有量が高くM2B型硼化物が析出しているステンレス鋼を用いて、表3に示す種々の酸洗条件で酸洗して金属介在物を分散、露出させた。また、比較例として、炭素含有量が少なく、硼素含有量も低いか、含有しないステンレス鋼も同じ条件で酸洗した。これらの酸洗した冷延鋼板の表面粗さと接触電気抵抗を上記と同じ方法により測定した測定結果を表3に示す。
【0121】
【表3】
【0122】
表3より明らかなように、M23C6、M2B型析出物を分散、露出させた本発明例の全てが接触電気抵抗は15.6mΩ・cm2以下と小さいが、比較例の析出物が鋼板表面に分散、露出していない場合は、表面粗さが本発明で規定する範囲内であっても101.6mΩ・cm2以上と高いことが明かである。分散析出の効果が顕著である。M23C6型炭化物とM2B型硼化物の改善効果は、重畳の関係にあると判断している。
【0123】
(3)金属介在物を分散、露出させ、かつ表面粗さを変化させたステンレス鋼板の試験
表面粗さの接触電気抵抗におよぼす影響を確認するため、表4に示すように酸洗条件を種々変化させて酸洗して冷延鋼板の表面粗さを変化させた後、表面粗さと接触電気抵抗の測定をおこなった。その結果を表4に示す。
【0124】
図3および図4は、湿式600番エメリー紙研磨した鋼記号n(表1)を、10%硝酸−3%ふっ酸中で5分間酸洗した後の表面粗さ状態を示す。図3は二次元での測定結果で、図4は三次元測定結果である。Ra=0.2133、0.2147μmであった。これらの測定は、市販の粗さ計を用いた。
【0125】
【表4】
【0126】
表4から明らかなように、たとえ、鋼中にM23C6、M2B型析出物がステンレス鋼板表面に分散、露出していたとしても、表面粗さが本発明で規定する範囲になっていなければ接触電気抵抗が45.3mΩ・cm2以上と高い。このことは、接触が面では起こらず、表面が非常に平滑な面であってもいくつかの点での接触しか起こっていないことを示す。言いかえるならば、表面が非常に平滑である場合には、接触点数が少ないことから、鋼板表面に露出している導電性金属介在物を介した接触機会が十分に得られず、結果として接触抵抗値が高くなると解釈できる。
【0127】
図5は、鋼記号n(表1中)のミクロ写真(1000倍)を示す。白い線で囲まれているのが分散相のM2B型硼化物である。断面をSEM観察したものであり、上方には、表面にM2Bが“頭を出して”突出、分散している状況が判別できる。
【0128】
(4)金属介在物を分散、露出させたステンレス鋼からなるセパレータを固体
高分子型燃料電池に組み込んだ試験
本発明のステンレス鋼を固体高分子型燃料電池にセパレータとして装填した場合の性能評価のために、表5に示す各鋼記号の最終焼鈍した冷延鋼板からコルゲート形状のセパレータ板を作製した。
【0129】
セパレータ板は、図1に示す形状で両面(アノード極側、カソード極側)に機械加工により溝幅2mm、溝深さ1mmのガス流路を切削加工し、固体高分子型単セル電池内部にセパレータとして装填した状態で評価した。特性評価は、電池内に燃料ガスを流してから1時間経過後に単セル電池の電圧を測定し、初期の電圧と比較することにより電圧の低下率を調べて行った。なお、低下率は、
1−(1時間経過後の電圧V/初期電圧v)
により求めた。
【0130】
評価に用いた固体高分子型燃料単セル電池は、米国Electrochem社製市販電池セルFC50を改造して用いた。
【0131】
アノード極側燃料用ガスとしては99.9999%水素ガスを用い、カソード極側ガスとしては空気を用いた。電池本体は全体を78±2℃に保温すると共に、電池内部の湿度制御を、セル出側の排ガス水分濃度測定をもとに入り側で調整した。電池内部の圧力は、1気圧である。水素ガス、空気の電池への導入ガス圧は0.04〜0.20barで調整した。セル性能評価は、単セル電圧で500±20mA/cm2−0.62±0.04Vが確認できた状態より継時的に測定を行った。
【0132】
単セル性能測定用システムとしては、米国スクリブナー社製890シリーズを基本とした燃料電池計測システムを改造して用いた。電池運転状態により、特性に変化があると予想されるが、同一条件での比較評価である。その結果を表5に示す。
【0133】
【表5】
【0134】
本発明で規定するステンレス鋼は、表5から明らかなように、固体高分子型燃料電池セルに装填した状態においても、接触電気抵抗を小さく維持することができた。
【0135】
【発明の効果】
本発明の通電部品用ステンレス鋼は、接触電気抵抗が低く腐食環境においても長時間の間接触電気抵抗を低く維持することができ、特に固体高分子型燃料電池のセパレータ用として好適であり、安価な固体高分子型燃料電池の製造に貢献するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】固体高分子型燃料電池の構造を示す図である。
【図2】金属介在物が露出したステンレス鋼の表面と他の通電体面と接触させた状態を示す図である。
【図3】酸洗後のステンレス鋼板の二次元の表面粗さ状態を示す図である。
【図4】酸洗後のステンレス鋼板の三次元の表面粗さ状態を示す図である。
【図5】分散したM2B型硼化物を示す図である。
【符号の説明】
1…燃料電池
2…固体高分子電解質膜
3…燃料電極膜
4…酸化剤電極膜
5a、5b…セパレータ
10…ステンレス鋼
11…カーボン板
12…不働態被膜
13…硼化物系金属介在物
14…投射した金属介在物
15…炭化物系金属介在物
Claims (14)
- ステンレス鋼表面に、導電性を有するM23C6型、M4C型、M2C型、MC型炭化物系金属介在物およびM2B型硼化物系金属介在物のうちの1種以上が分散、露出しており、ステンレス鋼表面粗さが中心線平均粗さRaで0.06〜5μmであることを特徴とする固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
- ステンレス鋼表面に分散、露出している M23C6型、M2C型、MC型炭化物系金属介在物およびM2B型硼化物系金属介在物中の金属元素(M)が、クロム、モリブデン、タングステンの1種以上を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
- ステンレス鋼が、質量%で、C:0.15%以下、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.01〜1.5%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:15〜36%、Al:0.001〜6%、N:0.035%以下を含有し、かつCr、MoおよびB含有量は下記式を満足しており、残部Feおよび不可避不純物からなるフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
17%≦Cr+3×Mo−2.5×B
ただし、式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を示す。 - ステンレス鋼が、Feの一部に代えて、更に、質量%で、B:3.5%以下を含有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
- ステンレス鋼が、Feの一部に代えて、更に、質量%で、Ni:7%以下を含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
- ステンレス鋼が、Feの一部に代えて、更に、質量%で、Mo:7%以下を含有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
- ステンレス鋼が、Feの一部に代えて、更に、質量%で、Cu:1%以下を含有することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
- ステンレス鋼が、Feの一部に代えて、更に、質量%で、Ti:25×(C%+N%)以下およびNb:25×(C%+N%)以下の1種以上を含有することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
- ステンレス鋼が、質量%で、C:0.005〜0.2%、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.01〜2.5%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:17〜30%、Ni:7〜50%、Al:0.001〜6%を含有し、かつCr、MoおよびB含有量は下記式を満足しており、残部Feおよび不可避不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
17%≦Cr+3×Mo−2.5×B
ただし、式中の各元素記号は含有量(質量%)を示す - ステンレス鋼が、Feの一部に代えて、更に、質量%で、B:3.5%以下を含有することを特徴とする請求項9に記載の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
- ステンレス鋼が、Feの一部に代えて、更に、質量%で、N:0.4%以下を含有することを特徴とする請求項9または請求項10に記載の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
- ステンレス鋼が、Feの一部に代えて、更に、質量%で、Cu:2%以下を含有することを特徴とする請求項9から請求項11までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
- ステンレス鋼が、Feの一部に代えて、更に、質量%で、Mo:7%以下を含有することを特徴とする請求項9から請求項12までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼。
- 固体高分子電解質膜を中央にして燃料電極膜と酸化剤電極膜を重ねあわせた単位電池を複数個、単位電池間にセパレータを介在させて積層した積層体に、燃料ガスと酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池であって、セパレータが請求項1から請求項13までのいずれかに記載のステンレス鋼からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
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