JP6926923B2 - ステンレス鋼材、構成部材、セルおよび燃料電池スタック - Google Patents

ステンレス鋼材、構成部材、セルおよび燃料電池スタック Download PDF

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Description

本発明は、ステンレス鋼材、構成部材、セル、および燃料電池スタックに関する。なお、ここでいう燃料電池とは、固体酸化物形燃料電池である。構成部材には、セパレータ、インターコネクタ、およびセル芯材が含まれる。
燃料電池は、水素と酸素を利用して直流電流を発電する電池であり、固体酸化物形、溶融炭酸塩形、リン酸形および固体高分子形に大別される。それぞれの形式は、電解質部分の構成材料に由来する。
これらのうち、現在、商用段階に達しているのは、200℃付近で動作するリン酸形、および650℃付近で動作する溶融炭酸塩形である。近年、室温付近で動作する固体高分子形と、600℃以上で動作する固体酸化物形が、自動車搭載用電源、事業用または家庭用の分散型電源として注目されている。
固体酸化物形燃料電池の構造形式には、円筒型、平板型、および平板円筒型等がある。電解質の組成について、作動温度を下げるための検討が行われている。例えば、スカンジア安定化ジルコニア(Scandia−Stabilised Zirconia:SSZ)系電解質では約650℃、ガドリニアドープのセリア(Gadolinia−doped Ceria:CGO)系電解質では約450℃での作動が報告されている。
これらの電解質の作動温度は、従来のジルコニアベースの電解質、例えばイットリア安定化ジルコニア(Yttria−Stabilized Zirconia:YSZ)の作動温度である約1000℃に比べ、顕著に低い。そして、作動温度が1000℃近傍の従来型と区別するために、中温域作動型の固体酸化物形燃料電池(Intermediate Temperature Solid Oxide Fuel Cells、略して、IT−SOFCs)と呼ばれる。
より低温での動作を可能とするために、電解質の厚みを薄くすることも行われており、形成方法として、スクリーン印刷法、テープキャスティング法、真空スリップキャスティング法、電気泳動堆積法、カレンダ成形法、噴霧熱分解法、スパッタリングおよびプラズマ溶射法などが開発されている。
薄い電解質膜を使用するには、必要な強靭さを有する燃料電池用構成部材が必要である。具体的には、高合金鋼材、またはオーステナイト系ステンレス鋼材が適用され始めている。さらに、作動温度の低下に伴い、電解質部のセラミクスとの熱膨張差がより小さいフェライト系ステンレス鋼材も適用され始めている。
固体酸化物形燃料電池の構成部材として用いられる鋼材には、作動温度域で長時間にわたって良好な耐酸化性および電気伝導性(45mΩ・cm以下)を有すること、およびセラミクス系の固体酸化物と同等の熱膨張係数(室温〜800℃で13×10−6(1/K)程度)を有することに加えて、起動停止を頻繁に繰り返す場合の耐熱疲労特性および耐スケール剥離性能を有することが要求される。
これまでにも、種々のステンレス鋼材が燃料電池用構成部材として適用されてきた。
例えば、特許文献1には、金属基板を利用し、焼結によるセラミック電解質膜の製造を可能にし、かつ脆化シールを使用する必要を回避する固体酸化物燃料セルおよび固体酸化物燃料セルの製造方法が開示されている。
特許文献2には、特に、固体酸化物形燃料電池を含む高温および中温域動作の燃料電池、ならびに450〜650℃の範囲で作動する金属支持型中温域動作のSOFCの製造に有効な、セラミック膜のセラミックまたは金属表面上への堆積、特に、セリウムガドリニウム酸化物(CGO)のような安定化ジルコニアおよびドープセリアの膜などのサブミクロン厚のセラミック膜の堆積方法が開示されている。
特許文献3および4には、固体電解質型燃料電池の固体電解質セパレータ材等として利用される安定化ジルコニアと熱膨張係数が近似し、極めて高温における耐熱性、耐食性にすぐれた金属材料が開示されている。
特許文献5には、1000℃付近において良好な電気伝導性を有する酸化被膜を形成するとともに、長時間の使用においても良好な耐酸化性、特に耐剥離性を有し、かつ電解質との熱膨張差が小さい安価な固体電解質型燃料電池セパレータ用鋼が開示されている。
特許文献6には、約750〜1000℃において良好な電気伝導性を有する酸化被膜を形成するとともに、長時間加熱においても良好な耐酸化性、耐酸化膜剥離性を安定して有する固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼が開示されている。
特許文献7には、高い集電性能と長期安定性を有し、軽量であるとともに低コストという実用化に必須な条件を同時に満たすセパレータを具備する車載用燃料電池が開示されている。
特許文献8には、600℃以上の高温酸化雰囲気中においても優れた耐酸化性と電気伝導性を示す固体電解質型燃料電池用オ−ステナイト系ステンレス鋼が開示されている。
特許文献9には、耐高温酸化性が要求される用途、中でも特に固体酸化物型燃料電池の集電部材用途として、好適な高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
特許文献10には、高温で良好な電気伝導性を有する酸化皮膜を形成するとともに、長期使用においても優れた皮膜密着性を兼備した、固体酸化物型燃料電池のセパレータおよびその周辺の高温部材に適したフェライト系ステンレス鋼板が開示されている。
特許文献11には、600〜800℃の温度域で高い電気伝導性を呈し、かつ熱疲労特性に優れた、固体酸化物型燃料電池のセパレータに使用されるフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
特許文献12には、Cr酸化物による空気極と電解質の劣化を回避する、Fe−Cr−Al系耐熱性合金からなる固体酸化物形燃料電池用インターコネクタ材料が開示されている。
特表2004−512651号公報 特表2011−524844号公報 特開平8−35042号公報 特開平8−277441号公報 特開平9−157801号公報 特開2005−320625号公報 特開2000−182640号公報 特開平6−264193号公報 特開2011−174152号公報 特開2014−31572号公報 特開2006−9056号公報 特開2005−76040号公報
本発明は、400〜860℃といった温度域で作動する固体酸化物形燃料電池内の環境において、耐酸化性に優れ、かつ、電気的接触抵抗(以下、接触抵抗という)が低く、さらにCrの揮発による電池性能の低下を抑制しうるステンレス鋼材、前記ステンレス鋼材を適用した構成部材、セルおよび燃料電池スタックを提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、下記のステンレス鋼材、構成部材、セルおよび燃料電池スタックを要旨とする。
(1)フェライト系ステンレス鋼からなる基材と、該基材の表面に形成された酸化物層とを備え、
前記基材の化学組成が、下記(i)式を満足し、
前記酸化物層が、α−Alを80%以上含み、
前記基材中に、M23型Cr系炭化物、MB型Cr系硼化物、MB型Cr系硼化物を析出核として、その表面にM23型Cr系炭化物が析出した複合析出物、およびNbC炭化物を析出核として、その表面にM23型Cr系炭化物が析出した複合析出物から選択される1種以上を含む析出物を有し、
前記析出物は、その一部が前記酸化物層の表面から突出している、
ステンレス鋼材。
16.0≦Cr+1.5×Al−2.5×B−17×C≦35.0 ・・・(i)
但し、式中の各元素記号は、基材中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味する。
(2)前記基材の化学組成が、質量%で、
C:0.02%を超えて0.15%以下、
Si:0.15%以下、
Al:0.025〜6.0%、
Mn:0.01〜1.0%、
P:0.045%以下、
S:0.010%以下、
N:0.05%以下、
V:0.5%以下、
Cr:17.0〜30.5%、
Mo:0〜4.5%、
Ni:0〜2.5%、
Cu:0〜0.8%、
W:0〜4.0%、
Co:0〜4.0%、
Ti:0〜6.5×C、
Nb:0〜6.5×C、
Sn:0〜0.05%、
In:0〜0.05%、
Sb:0〜0.01%、
Ca:0〜0.10%、
Mg:0〜0.10%、
REM:0〜0.10%、
B:0〜1.0%、
残部:Feおよび不純物である、
(1)に記載のステンレス鋼材。
(3)前記基材のフェライト結晶粒度番号が4〜8である、
(1)または(2)に記載のステンレス鋼材。
(4)(1)から(3)までのいずれかに記載のステンレス鋼材を備える、
固体酸化物形燃料電池用構成部材。
(5)(4)に記載の固体酸化物形燃料電池用構成部材を備える、
固体酸化物形燃料電池用セル。
(6)(5)に記載の固体酸化物形燃料電池用セルを備える、
固体酸化物形燃料電池スタック。
本発明によれば、固体酸化物形燃料電池に好適なステンレス鋼材、ならびにこれを適用した構成部材、セルおよび燃料電池スタックを得ることができる。
本発明者らは、固体酸化物形燃料電池の構成部材として用いるのに好適なステンレス鋼材の開発に専念してきた。その結果、以下の知見を得るに至った。
固体酸化物形燃料電池の製造コスト低減は、緊喫な課題であり、特に、燃料電池本体に用いられるステンレス鋼材のコスト低減は大きな課題である。
固体酸化物形燃料電池に用いられるステンレス鋼材は、数万時間にわたり高温酸化環境下で使用されるため、表面は酸化物層によって覆われた状態となる。そのため、燃料電池内に適用されるステンレス鋼材には、高温での優れた耐酸化特性を有すること、酸化物層に覆われた状態でも表面の接触抵抗が低く、良好な導電性を有することが要求される。
また、生成した高温酸化物層が燃料電池内で剥離して固体酸化物部に付着すると、発電性能が低下する。このため、酸化物層が運転温度変動に伴う熱膨張と収縮によっても剥離せず、揮発しないことが好ましい。
固体酸化物形燃料電池の作動温度は、適用される固体酸化物で所望の性能が得られる温度に依存する。例えば、高温域作動型では1000℃付近、中温域作動型では850℃以下の温度域である。近年における中温域作動型の固体酸化物形燃料電池の作動温度の低温化は顕著であり、作動温度は450〜600℃、さらには430〜550℃程度まで低下し始めている。
中温域作動型の固体酸化物形燃料電池における著しい作動温度低下に伴い、燃料電池内部に適用可能な材料の選択肢が広がっている。これまで適用されてきた高価なNi基合金、または、高Ni含有オーステナイト系ステンレス鋼に替わり、より安価なフェライト系ステンレス鋼が適用され始めている。これは、フェライト系ステンレス鋼においては、Ni等の高価な元素の含有量が低く、安価であるためである。
加えて、フェライト系ステンレス鋼は、セラミクスである固体酸化物との熱膨張差が小さい。そのため、フェライト系ステンレス鋼を構成部材として用いることにより、昇温時および降温時における固体酸化物部側の割れ発生を抑制できる。これは、固体酸化物部と金属との間で生じ得る熱膨張差が、フェライト系ステンレス鋼を用いた場合は小さいからである。
なお、酸化物層の厚膜化(成長)は電池性能の低下等の大きな原因となる。本願のように、作動温度が400℃付近と低い場合であっても、酸化物層の成長を完全に阻止することは難しい。
スピネル型遷移金属酸化物(以下、「スピネル型酸化物」ともいう。)は、高温で比較的優れた導電性を有している。そのため、固体酸化物形燃料電池における優れた導電性確保の観点から、鋼材の表面に生成する酸化物層をスピネル型酸化物とすることが好ましいとされている。
換言すれば、曝される雰囲気環境を考慮して鋼材の合金設計を行うことにより、固体酸化物形燃料電池内で作動中に生成する酸化物層をスピネル型酸化物主体の酸化物層とすることが好ましい。具体的には、フェライト系ステンレス鋼においてはCr、MnおよびFe等を含有したスピネル型酸化物層を形成させる。
さらに、耐酸化性および高い導電性の維持という点から、スピネル型酸化物に加えて、Cr酸化物が含まれることも好ましい。Cr酸化物中に含まれる酸素および金属イオンの拡散速度は、スピネル型酸化物に比べて遅い。そのため、Cr酸化物は、高温でもその成長が抑えられて安定に存在する。さらに、酸化物層中にCr酸化物が含まれることによって、スピネル型酸化物も安定して維持される。
しかしながら、本発明者らが検討を行ったところ、上述のCrを含む酸化物が素材の表面に形成されると、フェライト系ステンレス鋼においては、電池性能が低下する場合があることが分かった。
フェライト系ステンレス鋼は、Cr含有量が高く、上述のCrを含む酸化物層を形成しやすい。そして、燃料電池作動時に、空気と水蒸気を含む環境と、Crを含む酸化物層の表面が反応し、Crの揮発、いわゆる、Cr被毒の問題が発生する。この結果、電池性能を低下させる場合がある。
このようなCr被毒による電池性能の低下に対し、特許文献2では、素材の表面に導電性材料をコーティングする処理が有効であるとされている。しかしながら、コーティング処理の場合、固体酸化物形燃料電池として作動、停止を繰り返すうちにコーティング層が剥離する。そのため、経時的にCr被毒を抑制する効果が失われる。
また、特許文献12には、Alを含む酸化物層を形成させることがCr被毒に対して有効であると記載されている。しかしながら、本発明者らは、Alを含む酸化物層を素材の表面に形成させたとしても、耐酸化性を低下させる場合があることを知見した。
このように耐酸化性が低下する原因は、以下のようなものが考えられる。素材の表面に形成するAlは、α−Al、γ−Alおよびθ−Alに大別される。
ここで、α−Alは安定相であり、γ−Alおよびθ−Alは準安定相である。安定相であるα−Alと比較して、準安定相であるγ−Alおよびθ−Alは、成長速度が著しく速い。そのため、γ−Alおよび/またはθ−Alを多く含んだ酸化物層は、層の厚さが厚く、不均一となりやすい。その結果、酸化物層の剥離を生じ、耐酸化性を低下させる。
そこで、本発明者らは耐酸化性を具備させるため、安定相であるα−Alを主体とした酸化物層(以下、「α−Al層」と記載する。)を形成させることが有効であると知見した。上述したように、α−Alは安定相であるため、成長速度が著しく遅い。したがって、α−Al層として形成させた場合、薄く均一で、密着性の良好な酸化物層となる。
しかしながら、常法では、α−Alよりγ−Alまたはθ−Alが形成しやすい。このため、素材表面にα−Alを形成させるためには、後述するように、所定の条件で行なわれる予備的な酸化処理(以下、「予備酸化処理」と記載する。)を行なう必要がある。
なお、α−Alは、他のAl酸化物と同様に絶縁体である。このため、Crを含む酸化物と比較し、大きく導電性が劣る。したがって、α−Al層を形成できたとしても、導電性を補う必要がある。ここで、本発明者らは素材中に導電性を有する析出物を分散させ、その一部をα−Al層の表面から突出させることが有効であることも知見した。これは、上記の酸化物層に覆われた状態でも導電性を有する析出物が、導電性パスとしての機能を発揮するためである。
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
本発明に係るステンレス鋼材は、フェライト系ステンレス鋼からなる基材と、該基材の表面に形成された酸化物層とを備える。
1.基材の化学組成
基材はフェライト系ステンレス鋼であり、かつ、その化学組成が下記(i)式を満足する。
16.0≦Cr+1.5×Al−2.5×B−17×C≦35.0 ・・・(i)
但し、式中の各元素記号は、基材中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味する。
上述のように、本発明の基材は、基材中にMB型Cr系硼化物、またはM23型Cr系炭化物等の析出物を微細に分散させることで、所望の電気的接触抵抗特性を確保することとしている。これらの析出物を形成することによって、母相中で耐酸化性に寄与するCr濃度が低下する。上記(i)式中辺値(以下、「有効Cr量」ともいう。)が16.0未満であると、上記析出物の形成と耐酸化性の両立が困難になる。
一方、有効Cr量が35.0を超えると、酸化物層としてCr酸化物が形成し、薄い酸化物層の維持が困難となる。この結果、Cr被毒の問題が顕著になる。加えて、熱間圧延性の低下、常温靱性の低下、鋼材のコスト上昇および量産性の低下が生じる。したがって、有効Cr量が、上記(i)式を満足するように化学組成を調整する必要がある。有効Cr量は、18.0以上であるのが好ましく、20.0以上であるのがより好ましい。また、有効Cr量は、30.0以下であるのが好ましく、26.0以下であるのがより好ましい。
また、上記の基材の化学組成は、質量%で、C:0.02%を超えて0.15%以下、Si:0.15%以下、Al:0.025〜6.0%、Mn:0.01〜1.0%、P:0.045%以下、S:0.010%以下、N:0.05%以下、V:0.5%以下、Cr:17.0〜30.5%、Mo:0〜4.5%、Ni:0〜2.5%、Cu:0〜0.8%、W:0〜4.0%、Co:0〜4.0%、Ti:0〜6.5×C、Nb:0〜6.5×C、Sn:0〜0.05%、In:0〜0.05%、Sb:0〜0.01%、Ca:0〜0.10%、Mg:0〜0.10%、REM:0〜0.10%、B:0〜1.0%、残部:Feおよび不純物であることが好ましい。
ここで、「不純物」とは、基材を工業的に製造する際に用いる溶解原料、添加元素、スクラップ、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
上記の基材の好ましい化学組成における、各元素の含有量の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.02%を超えて0.15%以下
Cは、M23型Cr系炭化物を析出させ、鋼材表面での接触抵抗を低減させるのに必要な元素である。C含有量が、0.02%以下であると、M23型Cr系炭化物の析出量が十分に確保できず、接触抵抗を十分に低減できない恐れがある。一方で、Cを過度に含有させると、具体的には、0.15%超含有させると、製造性が悪化する。このため、C含有量は、0.02%を超えて、0.15%以下とする。
Si:0.15%以下
Siは、溶鋼段階で脱酸を行うために含有させる元素である。Si含有量が、0.15%を超えると、Si酸化物層の形成によってα−Al層の形成が阻害される可能性がある。加えて、Si含有量を0.15%以下にすることで、昇温時または高温保持中のSi酸化物の生成を抑制できる。
このため、Si含有量は0.15%以下とする。Si含有量は鋼の性能等を考慮し、0.12%以下であるのが好ましい。一方で、Si含有量が0.05%未満であると、真空精錬時のC脱酸とAl脱酸により溶鋼段階での脱酸精錬を実施することで脱酸制御は可能であるものの、量産性に欠ける。このため、Si含有量は、0.05%以上であるのが好ましい。
Al:0.025〜6.0%
Alは、Siと同様に溶鋼段階で脱酸を行うために含有させる元素である。また、本発明においては、Alは、α−Al層の形成を促し、耐酸化性の向上に寄与する。Al含有量が0.025%未満であると、α−Al層を形成させることが難しくなる恐れがある。このため、Al含有量は、0.025%以上とする。
一方、Al含有量が、6.0%を超えると、製造コストが嵩むとともに安定的に量産することが難しくなる。また、Alを過度に含有させると、本発明で目的とする安定相のα−Alではなく、準安定なγ−Alまたはθ−Alが形成しやすくなる。このため、Al含有量は6.0%以下とする。Al含有量は、0.80%以上であるのが好ましく、1.80%以上であるのがより好ましく、2.8%以上であるのが、さらに好ましい。また、Al含有量は、5.2%以下であるのが好ましい。
Mn:0.01〜1.0%
Mnは、鋼中のSをMn系硫化物として固定する作用があり、熱間加工性を改善する効果がある。このため、Mn含有量は、0.01%以上とする。一方で、Mnを含むスピネル型酸化物は、Cr被毒を誘発し固体酸化物の導電性を劣化させる。さらに、Mnを含むスピネル型酸化物は、Cr酸化物に比べて耐酸化性に劣るため、Mn含有量が過剰になると、耐酸化性が低下する。このため、Mn含有量は、1.0%以下とする。また、Mn含有量は、0.2%以上であるのが好ましく、0.9%以下であるのが好ましい。
P:0.045%以下
Pは、Sと並んで有害な不純物元素であり、その含有量が、0.045%を超えると、製造性が低下する。このため、P含有量は、0.045%以下とする。P含有量は、0.035%以下であるのが好ましく、0.030%以下であるのがより好ましい。一方で、Pの過度な低減は、製造コストを増加させるため、0.018%以上であるのが好ましい。
S:0.010%以下
Sは、耐酸化性にとって有害な不純物である。したがって、S含有量は、低ければ低いほどよい。また、Sは、鋼中の共存元素および鋼中のS含有量に応じて、鋼中で析出物を形成する。例えば、析出物の一例として、Mn、Cr、Fe、Tiの硫化物または複合硫化物が例示される。加えて、上述の元素(Mn、Cr、Fe、もしくはTi)の酸化物または窒化物と、上述の硫化物との複合物についても、同様に析出する場合がある。さらに、Sは、必要に応じて含有させるREM(希土類元素)とも硫化物を形成することがある。このため、S含有量は、0.010%以下とする。
また、固体酸化物型燃料電池のセパレータ環境においては、上述のいずれの硫化物系析出物であっても、酸化進行の起点として作用し、薄い酸化物層の維持にとって有害となる。通常の量産鋼のS含有量は、0.005%超〜0.008%前後であるが、上記の有害な影響を抑制するためには、S含有量は、0.003%以下であるのが好ましく、0.001%未満であるのがより好ましい。工業的量産レベルで、S含有量を、0.001%未満とすることは、現状の精錬技術をもってすれば、わずかな製造コストの上昇で可能である。
N:0.05%以下
Nは、高温に加熱された状態での本発明鋼の組織制御に活用し、最終製品における結晶粒度調整に用いる。しかし、N含有量が0.05%を超えると、製造性が低下し、素材としての加工性が低下する。このため、N含有量は、0.05%以下とする。N含有量は、0.04%以下であるのが好ましく、0.01%以下であるのがより好ましい。一方で、Nの過度な低減は、製造コストを増加させるため、0.0010%以上であるのが好ましい。
V:0.5%以下
Vは、意図的に含有させる必要はないが、量産時に用いる溶解原料として使用するCr源中に不純物として含有されている。Vの過度な含有は、鋼の加工性を劣化させるため、V含有量は、0.5%以下とする。V含有量は0.4%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。
Cr:17.0〜30.5%
本発明の基材は、鋼材中にMB型Cr系硼化物、M23型Cr系炭化物等の析出物を形成させ、α−Al層から、上記析出物を突出させることで、所望の導電性(接触抵抗特性)を確保する。また、Crは、α−Al層の形成を促進する効果がある。
上記の効果および本発明鋼の性能を十分得るためには、Cr含有量は、17.0%以上とする。一方で、表面状態と温度によっては、Cr被毒が問題となる。Cr含有量が30.5%を超える場合には製造性が低下し、さらに、Cr酸化物およびCr含有スピネル型酸化物の形成により、Cr被毒の問題が生じやすい。このため、Cr含有量は、30.5%以下とする。
Mo:0〜4.5%
Moは固溶強化により、高温での強度を高める働きがあるため、必要に応じて含有させる。しかしながら、4.5%を超えて、Moを含有させても上記効果は飽和する。このため、Mo含有量は、4.5%以下とする。一方で、上記の効果を得るためには、Mo含有量は、0.2%以上であるのが好ましい。
Ni:0〜2.5%
Niは固溶強化により鋼の強度を改善し、凝固時および900℃以上の高温域におけるフェライト−オーステナイトの相変態挙動および相バランス調整に有効であり、靭性を改善する効果も有する。このため、必要に応じて含有させる。しかしながら、2.5%を超えて、Niを含有させても、上記効果は飽和する。そのため、Ni含有量は、2.5%以下とする。一方で上記の効果を得るためには、Ni含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
Cu:0〜0.8%
Cuは、耐食性を改善する効果を有するため、必要に応じて含有させる。しかしながら、0.8%を超えて、Cuを含有させても上記効果は飽和する。このため、Cu含有量は、0.8%以下とする。一方で上記の効果を得るためには、Cu含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
なお、本発明で用いるステンレス鋼材においては、Cuは固溶状態で存在している。熱処理条件によっては、Cu系金属析出物を析出させることもできるが、析出させると、電池内で加速酸化の起点となり、燃料電池性能を低下させるため有害である。Cuは、固溶状態で存在していることが好ましい。
W:0〜4.0%
Co:0〜4.0%
WおよびCoは、Mo、Niと同様に固溶強化により鋼の強度を改善する効果を有するため、必要に応じて含有させる。また、上記両元素は、酸化物層と鋼との界面に濃化し、導電性を向上させる効果も有する。しかしながら、いずれの元素も、4.0%を超えて含有させても上記効果は飽和する。このため、WおよびCoの含有量は、それぞれ4.0%以下とする。一方で上記効果を得るためには、W:0.1%以上、およびCo:0.01%以上の一方または両方を含有させることが好ましい。
Ti:0〜6.5×C
Tiは、鋼中CおよびNの安定化元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。Tiは、Nとの化学的な結合力が強く、本発明鋼においてはほとんどのTiは、溶鋼中でNと反応して、TiNとして析出する。ただし、Tiは、Cとの結合力も強く、凝固後の固相中でTiCまたはTiCNとして析出することがある。
固溶Ti含有量が6.5×Cを超えると、鋼中のC含有量にもよるが、TiCまたは、TiCNとして析出しやすい。TiN、TiCまたはTiCNの生成に消費されない残余のTiは固溶している。また、固溶Ti量が多くなり、冷却過程で固溶Cと反応してしまうと、後述するM23型Cr系炭化物として析出するC量が消費されてしまうことがある。このため、Ti含有量は、6.5×C以下とする。ただし、上記Cは、鋼中のC含有量(質量%)である。一方で上記の効果を得るためには、Ti含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
Nb:0〜6.5×C
Nbは鋼中のCの部分安定化元素であるため、必要に応じて含有させる。Nbは、溶鋼中で析出することはなく、そのほとんどが凝固完了後の冷却過程でNb系炭化物として鋼中に微細に分散析出する。析出したNb系炭化物は、より低温で生成するM23型Cr系炭化物の析出核として機能する。
鋼中C量にもよるが、Nb含有量が、6.5×Cを超えると、残余の固溶C量が少なくなり、M23型Cr系炭化物として析出するC量が消費されてしまうことがある。このため、Nb含有量は、6.5×C以下とする。ただし、上記Cは、鋼中のC含有量(質量%)である。一方で、上記の効果を得るためには、Nb含有量は、0.02%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
Sn:0〜0.05%
鋼中にSnを含有させると、固体酸化物形燃料電池内において、表面に生成した酸化スズ層の表面被覆効果により、高温での酸化物層の成長が抑制される。また、酸化スズは、高温域では導電性も有し、基材としての導電性を改善する。このため、Snを必要に応じて含有させる。しかし、Sn含有量が過剰であると、製造性が低下する。そのため、Sn含有量は、0.05%以下とする。一方で、上記の効果を得るためには、Sn含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
In:0〜0.05%
Inは、Snと並んで表面接触抵抗を低下させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させる。しかしながら、In含有量が過剰であると製造性が低下するため、In含有量は、0.05%以下とする。一方で上記の効果を得るためには、In含有量は、0.002%以上であるのが好ましい。
Sb:0〜0.01%
Sbは、耐食性を向上させるため、必要に応じて含有させる。しかしながら、Sb含有量が過剰であると、析出または偏析により、製造性を低下させる。このため、Sb含有量は、0.01%以下とする。一方で、上記の効果を得るためには、Sb含有量は、0.001%以上が好ましい。
Ca:0〜0.10%
Mg:0〜0.10%
CaおよびMgは、熱間加工性を改善する効果を有するため、必要に応じて含有させる。しかしながら、CaおよびMgを過剰に含有させると、製造性を低下させる。このため、CaおよびMg含有量は、それぞれ0.10%以下とする。一方で、上記の効果を得るためには、Ca:0.01%以上およびMg:0.01%以上の一方または両方を含有させることが好ましい。
REM:0〜0.10%
REMは、耐酸化性および熱間製造性を改善する効果を有するため、必要に応じて含有させる。しかしながら、REMを過剰に含有させると、製造コストが増加する。このため、REM含有量は、0.10%以下とする。一方で上記の効果を得るためには、REM含有量は、0.005%以上であるのが好ましい。
ここで、本発明において、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、前記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加される。
B:0〜1.0%
Bは、MBとして析出、分散することで、導電性を改善するとともに、M23を析出制御するための析出核としての役割も果たすため、必要に応じて含有させる。しかしながら、B含有量が1.0%を超えると、MBの析出量が過剰になり、量産性が低下する。このため、B含有量は、1.0%以下とし、0.8%以下であるのが好ましい。一方で、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0003%超であるのが好ましい。また、MBの析出分散を積極的に活用する場合には、B含有量は、0.3%以上であることが好ましい。
2.酸化物層
基材の表面に形成される酸化物層は、α−Alを主体とした酸化物層であるが、不可避に生成するFe酸化物(Fe,Fe,FeO等)、Cr酸化物(Cr)、Si酸化物(SiO)、スピネル型酸化物等を含むことがある。
2−1.酸化物層中のα−Al
本発明鋼においては、表面に形成する酸化物層は、優れた耐酸化性、導電性、および耐Cr被毒性を具備させるため、α−Al層とする。上述のように、α−Al層は、薄く均一でかつ密着性が良好である。これにより、本発明鋼は優れた耐酸化性を有する。
また、酸化物層から導電性パスとなる析出物を突出させるためにも、α−Al層を形成させる必要がある。これは、形成する酸化物層の厚さが厚過ぎると、酸化物層から析出物が突出せず、導電性を確保できないためである。加えて、酸化物層が剥離しやすいと、本発明鋼で所望する特性を得ることができないため、薄く均一で密着性の良好なα−Al層である必要がある。
また、Cr被毒についても、α−Al層は有効に作用する。Cr被毒は、Crを含む酸化物の表面が空気および水蒸気を含む環境と反応し、CrO(OH)の蒸気が発生することで生じる。そして、その結果、燃料電池における空気極の性能が低下する。このため、α−Al層を優先的に形成させることで、要因となるCrを含む酸化物の形成を抑制することができる。
固体酸化物形燃料電池運転中に、水素がアノード側からカソード側へ金属素材内部を固体内拡散する現象がある。上記の水素拡散により酸化物層中のカチオン(Cr、Feイオン等)の外方拡散が促進され、酸化物層の成長速度が増加するとともに導電性の低いヘマタイト(Fe)が形成し易くなる。
さらに、拡散した水素と酸化物層とが反応して、水蒸気を生成することにより酸化物層が多孔質になる。その結果、酸化物層の導電性が低下しやすい。しかしながら、α−Al層が表面を覆っている場合には、水素の拡散そのものが、上記酸化物層によって遮断されることから、これらの問題に対しても有効である。
2−2.酸化物層中のα−Alの割合
本発明鋼においては、目的とする特性を確保するために、酸化物層中のα−Alの割合は、80%以上であることが必要である。α−Alの割合が80%未満であると、酸化物層が厚くなり、酸化物層の剥離を生じ、耐酸化性を低下させる。なお、酸化物層中のα−Al以外の酸化物は後述する。
ここで、α−Alの割合については、以下のように求めることができる。例えば、酸化物層を有するステンレス鋼材の表面にX線を入射するXRD法(X線回折)によって酸化物を同定し、各酸化物の割合を算出してもよい。XRD法ではX線管球としてCo管球を利用してもよいし、他の管球を用いてもよい。酸化物層中の各酸化物の割合は、XRD法により同定された各酸化物の最大回折ピーク強度の積分の比から算出することができる。
2−3.酸化物層中のα−Al以外の酸化物
上述のように、酸化物として、Fe酸化物、Cr酸化物、Si酸化物、スピネル型酸化物、ペロブスカイト型酸化物ならびにその複合酸化物が、不可避的に形成する場合がある。これらの酸化物は、α−Al層を形成させる上では有害である。よって、α−Al以外の酸化物は、形成量が少ないことが好ましく、形成させないことがより好ましい。
不可避に形成したCr酸化物は、高温でもその成長が抑えられて安定に存在するため、許容される酸化物とみなす。さらに、酸化物層中にCr酸化物が含まれると、不可避に形成したスピネル型酸化物も安定に維持されるようになる。
本発明鋼においては、Si酸化物は、Al酸化物と母相との密着性を改善する効果を有するが、その形成量は少ないことが好ましい。
スピネル型酸化物とは、XYで表わされる構造を有する酸化物である。XY中のXは、Mn、Fe、Ni、Zn等であり、Yは、Fe、Cr、Al等である。スピネル型酸化物として、例えば、MnCr等が一例として挙げられる。
不可避に生成するスピネル型酸化物は、Al酸化物の欠陥部あるいは欠損部で生成し、発明鋼の性能低下を抑制する効果があると考えられる。このため、生成が許容される酸化物とみなす。
ペロブスカイト型酸化物は、後述する予備酸化処理時において、形成する可能性があるが、α−Al層を優先的に形成させるため、できるだけ形成させないほうがよい。
2−4.酸化物層の厚さ
酸化物層の厚さについては、特に制限は設けないが、0.1〜2.0μmであるのが好ましい。厚さが0.1μm未満の酸化物層を均一に形成するのは困難である。また、酸化物層の厚さが2.0μmを超えると、上述のように析出物が酸化物層から突出しにくくなり、導電性パスとしての機能を発揮しにくくなる。
なお、酸化物の厚さは、以下の手順により求めるものとする。まず、ステンレス鋼材の厚さ方向に、平行な任意の断面が観察面になるように試料を切り出す。そして、酸化物層の断面において、Al、Cr、Fe、Siおよび酸素等の各元素の分布をEPMA(Electron Probe Micro Analyser)を用いて分析することで、Al酸化物、Cr酸化物、Fe酸化物、Si酸化物およびスピネル型酸化物の厚さをそれぞれ測定する。厚さの測定は、1試料あたり観察視野3か所以上、1視野の断面あたり10か所以上で行い、その平均値を用いるものとする。
3.基材中の析出物
本発明で用いられる基材は、基材中に、微細に分散析出した導電性金属析出物を有する。上記析出物は、M23型Cr系炭化物(以下、単に「M23」ともいう。)、MB型Cr系硼化物(以下、単に「MB」ともいう。)、MBを析出核としてその表面にM23が析出した複合析出物およびNbC炭化物(以下、単に「NbC」ともいう。)を析出核として、その表面にM23が析出した複合析出物から選択される1種以上を含む。
23中のMは、Cr、またはCrおよびFe等であり、Cの一部は、Bに置換されていてもよい。MB中のMは、CrまたはCrおよびFe等であり、Bの一部は、Cに置換されていてもよい。なお、これらの析出物については、酸化物の同定と同様に、XRD法を用いてその種類の同定をした。XRD法については、上述のとおりである。
そして、上記の析出物は、その一部が、基材上に形成した酸化物層の表面から突出している。酸化物層の表面から突出したM23、またはMB等の析出物が導電性パスとしての機能を発揮し、接触抵抗を低減させる。
基材中にBを含有させる場合には、Bは凝固完了時点で共晶反応によりMBとして析出する。熱間鍛造、熱間圧延、冷間圧延時に破砕を行うことで、均一に分散させることができ、分散状況は圧延条件により制御可能である。MBは導電性を有し、破砕されたとしても非常に大型の金属析出物であるため、酸化物層の表面から突出させることが可能である。この結果、接触抵抗を低減させ、導電性を確保することができる。
基材のC含有量にもよるが、概ね920℃を超える温度領域で長時間保持されると、基材中のM23は熱力学的に不安定となる。その結果、M23の一部または全てが、熱分解し、CrおよびCがマトリクス中に再固溶することがある。
一方、MBは、熱的に極めて安定であり、その後の製造履歴によらず固溶、消失または再析出もしない。このため、析出後に破砕分散されたMBを析出核として、M23を固溶後に、再析出させることが有効である。M23をMB表面に再析出させると、導電性パスとして作用する接触面積が大きくなり、接触抵抗特性を改善させることができる。
すなわち、基材中にBを含有させる場合には、MBが再析出するM23の析出核として機能する。この結果、接触抵抗特性を容易に、かつ安定して維持させることができる。また、M23の固溶と再析出は、可逆的に起こる挙動である。そのため、起動および停止を含む運転を行い、温度が上下変動する固体酸化物形燃料電池内の環境下においても、接触抵抗特性が維持されやすい。
また、M23は、熱力学的に概ね安定であるとみなせる860℃未満の温度領域であっても、曝される時間が長ければ長いほど、また、適用温度が高めであればあるほど、拡散により凝集粗大化しやすい。
凝集粗大化したM23は、凝集粗大化する前と同様に、接触抵抗特性を改善する効果を有する。すなわち、燃料電池の運転中にM23の凝集粗大化が進行したとしても、表面の接触抵抗特性は維持される。M23の凝集粗大化によって、接触抵抗特性が向上する場合もある。
さらに、基材中にNbを含有させる場合には、Nbは溶鋼中で析出することはなく、そのほとんどが凝固完了後の冷却過程でNbCとして鋼中に、微細に分散析出する。その後、温度の低下とともに、Nbにより安定化されていない残りの固溶Cは、鋼中のCrと反応してM23として析出することとなる。この際に、析出しているNbCは、新たに析出するM23の析出核として機能する。
上述のように、析出したM23は、曝される温度変動により一部が熱分解(固溶)、析出、凝集肥大化することがある。また、再析出または凝集するにあたっても、微細分散しているNbCは、M23の析出核として機能する。
23の析出は、粒界腐食による耐酸化性低下を回避するために、結晶粒内に析出させることが好ましい。不可避的にM23の一部が結晶粒界に析出することもあり得る。M23の結晶粒界への析出に伴うCr欠乏層は、析出後に適切な熱処理条件を適用することにより回復させることができる。なお、M23の析出に伴うCr欠乏層の存在は、JIS G 0575に規定されている『硫酸―硫酸銅腐食試験』のような粒界腐食性評価試験法により容易に確認することができる。
3−1.導電性金属析出物の表面被覆率
本発明鋼の表面における、粗面化処理後予備酸化処理前の上記析出物の表面被覆率は10%以上であるのが好ましく、15〜25%程度であるのがより好ましい。なお、析出物の表面被覆率は鋼表面のSEM観察を実施し、画像解析から各析出物の面積を測定し、全体の面積に対する各析出物の面積率を表面被覆率として算出する。面積の測定は、1試料あたり5視野以上で行ない、その平均値を求めることで算出した。
また、酸化物層表面から突出する前記析出物の鋼表面からの突出高さ、または分散状態については特に規定は設けない。ただし、酸化物層形成前の鋼表面における、JIS B 0601にて規定されている算術平均粗さRaの値が大きいほど、酸化物層形成後の前記析出物が酸化物層から突出する頻度が高くなり、導電性パスとして機能する接触機会が増加するため好ましい。したがって、酸化物層形成前のRaは、0.25〜3.0μmであることが好ましく、0.85〜3.0μmであることがより好ましい。
4.基材の結晶粒度
基材の結晶粒径を細かくすることで、加熱中のAlの外方拡散を促進することができ、α−Al層を形成させることが容易になる。そして、結晶粒度番号が4未満では、Alの外方拡散の促進効果が十分得られない。このため、基材の結晶粒度は4以上であるのが好ましい。
一方、フェライト系ステンレス鋼は結晶粒径が大きくなりやすいため、結晶粒度の番号が8を超えるものを得ることは、製造条件上非常に困難となる。このため、本発明鋼の結晶粒度は、8以下であることが好ましい。また、結晶粒度は5以上8以下がより好ましい。なお、結晶粒度の測定はJIS G 0567に準拠して行うことができ、上記の結晶粒度は、JIS G 0552で規定されている結晶粒度番号である。
5.基材の製造方法
フェライト系ステンレス鋼からなる基材の製造条件について特に制限はない。例えば、上記の化学組成を有する鋼に対して、熱延工程、焼鈍工程、冷延工程および最終焼鈍工程を順に行うことによって、製造することができる。
なお、熱延工程においては、高温でのフェライト相とオーステナイト相との相変態を活用して、結晶粒度の調整を行うとともに、M23の析出制御を行うことが好ましい。具体的には、圧延途中でフェライト−オーステナイトの二相組織となるように制御することによって、結晶粒度および結晶粒内析出物の制御が可能となる。
上述の工程に続いて、析出物が酸化物層表面から突出するよう、酸化物層を形成する前に鋼材表面を粗面化する処理を施すことが好ましい。粗面化処理方法について特に限定しないが、酸洗(エッチング)処理が最も量産性に優れている。特に、塩化第二鉄水溶液をスプレー処理するエッチング処理が好ましい。
高濃度の塩化第二鉄水溶液を用いるスプレーエッチング処理は、ステンレス鋼のエッチング処理法として広く用いられており、使用後の処理液の再利用も可能である。高濃度の塩化第二鉄水溶液を用いるスプレーエッチング処理は、一般に、マスキング処理を行なった後の局所的な減肉処理または貫通穴開け処理として行なわれることが多い。しかしながら、本発明においては表面粗化のための溶削処理に用いる。
スプレーエッチング処理について、さらに詳しく説明する。使用する塩化第二鉄溶液は、非常に高濃度の酸溶液である。塩化第二鉄溶液濃度は、ボーメ比重計で測定される示度であるボーメ度で定量が行なわれている。表面粗面化のためのエッチング処理は、静置状態、または、流れのある塩化第二鉄溶液中に浸漬することで行なってもよいが、スプレーエッチングにより表面粗化することが好ましい。
これは、工業的規模での生産を行なうに当たって、効率よくかつ精度よく、エッチング深さ、エッチング速度、表面粗化の程度を制御することが可能なためである。スプレーエッチング処理は、ノズルから吐出する圧力、液量、エッチング素材表面での液流速(線流速)、スプレーの当たり角度、液温により制御できる。
使用する塩化第二鉄溶液は、液中の銅イオン濃度、Ni濃度が低いことが好ましいが、一般流通している工業製品を用いても問題はない。用いる塩化第二鉄溶液濃度は、ボーメ度にて40〜51°の溶液である。40°未満の濃度では、穴あき腐食傾向が強くなり、表面粗化には不向きである。一方、51°を超えるとエッチング速度が著しく遅くなり、液の劣化速度も速くなる。
塩化第二鉄溶液濃度は、ボーメ度で、42〜46°とすることがより好ましい。塩化第二鉄溶液の温度は、20〜60℃とするのが好ましい。温度が低くなると、エッチング速度が低下し、温度が高くなるとエッチング速度が速くなる。温度が高いと、液劣化も短時間で進行するようになる。
液劣化の程度は、塩化第二鉄溶液中に浸漬した白金板の自然電位を測定することで連続的に定量評価が可能である。液が劣化した場合の液能力回復法の簡便な方法としては、新液注ぎ足し、または新液による全液交換がある。また、塩素ガスを吹き込んでもよい。
塩化第二鉄溶液によるエッチング処理後は、すぐに多量の清浄な水で表面を強制的に洗浄する。洗浄水で希釈された塩化鉄第二鉄溶液由来の表面付着物(沈殿物)を洗い流すためである。素材表面における流速が上げられるスプレー洗浄が好ましく、また、スプレー洗浄後も流水中にしばらく浸漬する洗浄を併用することが好ましい。
6.ステンレス鋼材の製造方法(予備酸化処理)
上記の処理を施した基材に対して、所定の条件で予備酸化処理を行い、α−Al層を形成させる。これにより、本発明に係るステンレス鋼材が得られる。この際に、予備酸化処理条件を制御することによって、α−Al、α−Al以外のAl酸化物、不可避に生成するFe酸化物、Cr酸化物、およびスピネル型酸化物の厚さを好適な範囲に調整することが可能になる。以下に詳しく説明する。
α−Al層を表面に形成させる予備酸化処理は、析出物が酸化物層表面から突出するよう、鋼材表面を粗面化する処理を施した後であって、かつ燃料電池に使用される前に行われるのが好ましい。また、制御が可能であれば、基材が燃料電池に組み込まれた後に、予備酸化処理を行なってもよい。具体的には、使用開始時の昇温中に電池内雰囲気を制御しつつ、昇温制御することで行ってもよい。
なお、予備酸化処理を行なう際の、基材の形状はコイル(鋼帯)であってもよいし、切り板であってもよい。また、基材は、所望の形状に成形加工されていてもよく、燃料電池内に組み込む直前の最終部品であってもよい。予備酸化処理で表層に生成させた、α−Al層は、その後の取り扱いで損傷させないことが好ましい。
予備酸化処理は、Fe酸化物、Cr酸化物、Si酸化物がステンレス鋼材表面に生成しない、または成長し難い低露点雰囲気で、α−Al層が優先的に生成する加熱雰囲気条件で行う。設定すべき好適な炉内雰囲気、温度、炉内露点(以下、「目標露点」と記述する。)は、熱力学計算により求められる。
しかしながら、実際の熱処理炉では、素材表面に付着して炉内に持ち込まれる湿分によって、素材表面の露点が目標露点よりも高くなる。この結果、素材の昇温過程で不可避にα−Al以外の酸化物の生成が進行する。
上述のように、これらの酸化物は、具体的には、Fe酸化物、Cr酸化物、Si酸化物、ペロブスカイト型酸化物、またはその複合酸化物である。そして、いずれの酸化物も、密着性に優れたα−Alを緻密に形成させるためには有害である。このため、素材の昇温過程で生成するα−Al以外の酸化物層は薄いことが望ましく、生成させないことがより好ましい。したがって、予備酸化処理条件においては、炉内露点を目標露点以下とすること、および素材の昇温速度を速くすることが有効である。
6−1.炉内の露点および雰囲気
炉内の露点は、−70℃〜−40℃とするのが好ましい。炉内の露点は、低いほど好ましいが、炉内の露点を−70℃以下に制御することは、工業的に困難であるためである。一方で、−40℃以上の炉内露点制御では、素材表面に生成する酸化物層が、Fe酸化物、Cr酸化物、またはその複合酸化物主体となりやすい。このため、本発明において所望するα−Al層とはなりにくい。炉内の露点は、−70℃〜−58℃に制御されることがより好ましく、−70℃〜−62℃に制御されることがさらに好ましい。
また、炉内の雰囲気は非酸化性雰囲気であり、工業用水素、工業用窒素ガスこれらの混合ガス、またはアンモニア分解ガス(AXガス)雰囲気とすることが好ましい。そして、炉内の酸素分圧は、Feが酸化されない酸素分圧以下であるのが好ましい。例えば1000℃では1.2×10-10Pa以下である。この酸素分圧以下では耐酸化性を大きく低下させるFeの酸化が抑制できる。また、光輝焼鈍処理炉を用いるのが好ましい。
6−2.最高加熱温度
本発明鋼においては、予備酸化処理における最高加熱温度は、950℃以上であるのが好ましく、1000℃以上であるのがより好ましい。また、最高加熱温度は、1150℃以下であるのが好ましい。
ここで、最高加熱温度が高いほど、焼鈍後の素材結晶粒度は粗大になりやすいが、本発明鋼において規定するα−Al層の生成は有利である。これは、準安定相であるγ−Alおよびθ−Alの形成を抑制し、安定相であるα−Al層を形成させることができるためである。ここで、素材の昇温速度は、速ければ速いほど好ましい。そして、上述したように、本発明では、α−Al層を形成させる。
6−3.昇温速度
加えて、成長速度が速い準安定なγ−Alおよびθ−Alの形成を抑制し、成長速度が遅いα−Al層を優先的に形成させるために、昇温速度を制御する必要がある。このため、素材の昇温速度は5℃/s以上であるのが好ましい。
なお、素材を最高加熱温度で保持した後の冷却速度については特に制限は設けないが、素材の表面温度が300℃以下となるまで強制冷却することが好ましい。
加熱処理温度および加熱保持時間は、表面に生成するα−Al層の厚みと焼鈍後の結晶粒径に応じて調整することが好ましい。具体的には、導電性金属析出物の一部が酸化物層から突出している酸化物層厚さになるよう、上述の酸化物層の放物線速度定数から酸化物層の成長速度を算出し、決定すればよい。結晶粒径はJIS G 0552(1997)に準拠した測定方法において、粒度番号5以上に制御することが好ましい。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する鋼種No.1〜16を75kg真空溶解炉にて溶解し、インゴット頂部の最大外径が220mmの丸型インゴットとした。
Figure 0006926923
インゴット鋳肌表面を機械削りにより取り除き、1180℃に加熱した都市ガスバーナー燃焼加熱炉内にて加熱して、2時間均熱保持した後に、鋼塊の表面温度が1180℃から870℃の温度範囲において、厚さ35mm、幅160mmの熱間圧延用スラブに鍛造し、放冷した。鍛造スラブより厚さ30mm、幅150mm、長さ200mmの鋼片を鋸切断および表面切削により作製し、熱間圧延用鋼片とした。
熱間圧延用鋼片は、1180℃に設定した電気炉内で加熱を行ない、7パスでの熱間圧延と冷却とを行なった。1050℃を超える温度域での総圧下率は55%で一定とした。また、最終パスは、すべての鋼材について鋼片表面温度が900℃となった時点で開始した。
熱間圧延終了直後の鋼片は、熱延コイルの放冷パターンを模擬した方法により、冷却した。具体的には、熱間圧延材を熱間圧延直後に、市販の断熱材である『イソウール』(イソライト工業株式会社製高温断熱材の商品名)の間に挟み込んで16時間かけて緩やかに放冷した後に、イソウールを外して空冷した。使用したイソウール厚みは30mmである。
16時間放冷後でもイソウールを外す前の鋼材表面温度は500℃を超える温度にあり、概ね、量産製造する際の8トン熱間圧延コイルの放冷の温度履歴と類似している。いずれの素材についても熱間圧延途中で割れが生じることはなく、熱間圧延鋼材の外観は健全であった。熱間圧延仕上げ板厚は3mmで一定とした。
さらに、熱間圧延後の鋼材に、箱焼鈍を想定した820℃×6時間保持の熱処理を施した。その後、鋼材表面温度が300℃以下となるまでイソウールの間に挟み込んで徐冷を行ない、その後は強制空冷を行なった。
表面の酸化スケールを機械加工により完全に除去した後、JIS G 0575に準拠した粒界腐食試験を行なった。ただし、基材の全面腐食を抑制して粒界腐食性のみを評価するために、試験温度を90℃に下げた改良評価試験としている。その結果、粒界腐食は認められなかった。
熱間圧延後、ショットブラストによる表面酸化スケール除去を行ない、さらに、8%硝酸+6%ふっ酸を含む、60℃加温の硝弗酸溶液中に浸漬し、脱スケール処理を行ない、冷間圧延用素材とした。冷間圧延は仕上げ板厚を0.8mmで一定とし、圧延終了後に、820℃×3分の条件で保持する焼鈍処理を行なった。
その後、SEMを用いたミクロ組織観察を行い、析出物の種類を確認した。また、基材の結晶粒度についても組織観察により測定を行なった。なお、組織観察に用いたSEMは、日本電子製JXA−8530Fである。結晶粒度の測定はJIS G 0567に準拠して行い、表2中の結晶粒度は、JIS G 0552で規定されている結晶粒度番号である。
焼鈍処理後、ショットブラストによる表面酸化スケール除去を行ない、さらに、8%硝酸+6%ふっ酸を含む、60℃加温の硝ふっ酸溶液中に浸漬し、脱スケール処理を行ない性能評価用試験片とした。性能評価用試験片から80mm×120mmの板材を切断にて切り出した後に、湿式600番エメリー研磨紙で表面を研磨し、さらに、板表面を、液温30℃の密度規準濃度で43°ボーメの塩化第二鉄水溶液噴霧により片側6μm溶削を行ない、水洗した。また、酸化物層が形成する前の各試料の表面粗さについても測定を行なった。表面粗さは、JIS B0601に準拠した方法で測定した。
粗面化処理後、予備酸化処理前の組織観察において、析出物の表面被覆率についても測定した。表面被覆率は、SEMによる組織観察から得られた、酸化物層が形成される面の画像の解析に基づき各析出物の面積を測定した。そして、全体の面積に対する各析出物の面積率を表面被覆率として算出した。面積の測定は、1試料あたり5視野以上で行ない、その平均値を求めることで算出した。
その後、予備酸化処理として、雰囲気の酸素分圧を5.0×10−14Paに制御し、表2に示す条件で、昇温した電気炉内に試験片を挿入し、10時間保持した。比較として、大気雰囲気で予備酸化処理した試験片(試験No.17〜19)も準備し、評価した。
処理後の試験片を用いて、性能評価試験を行なった。酸化物層が形成された表面に対して、XRD法を用いて、酸化物層を構成する酸化物、酸化物層中のα−Alの割合、および析出物を同定した。XRD法ではCo管球を用いた。測定に使用したXRDは、Rigaku社製のRINT-2500である。各酸化物の最大回折ピーク強度の積分の比から各酸化物の割合を算出した。なお、他の条件については、表2に記載のとおりである。
なお、予備酸化処理後においては本発明例の全てで、析出物が酸化物層の表面から突出していることが確認されたが、比較例である試験No.17〜No.19においては、析出物の酸化物層表面からの突出は観察されなかった。
予備酸化した試験片から、0.8mm×φ24mmの試料を切り出し、片面を10%水素+90%水蒸気、もう片面を大気+3%水蒸気の雰囲気下で、800℃、1000時間の酸化試験を行った。酸化試験前後の重量変化を測定し、両面合わせた単位面積当たりの重量増加量にて各試料の耐酸化性を評価した。単位面積当たりの重量増加量が0.2mg/cm以下の場合に、耐酸化性が優れると判断することとした。
性能評価用試験片から、0.8mm×15mm×25mmの試料を切り出し、予備酸化処理まま、空気に3%水蒸気を添加した雰囲気で1000時間および3000時間酸化試験をした後の各試験片の電気的な接触抵抗値を測定した。
触抵抗測定は、10mm×10mm角のPtメッシュを酸化試験後の試料の上下それぞれにLSCFペースト(LSCF粉末にバインダーを混合)で固定し、上下のPtメッシュに電流印加用、電圧測定用のPt線を接合して、四端子法で測定した。
Ptメッシュを付けた試料を800℃の炉に1時間放置し、0.8Aの電流を流した場合の電圧を測定し、接触抵抗値を求めた。各試料について3回ずつ測定し、それらの平均値を接触抵抗値とした。本発明においては、接触抵抗値が45mΩ・cm以下の場合に、接触抵抗特性が優れると判断することとした。
また、Cr揮発量の測定は、下記手順で測定した。0.8mm×15mm×25mmの試料を切り出し、予備酸化処理まま、石英製の反応管を設置した加熱炉に試料を設置し、空気に3%水蒸気を添加した雰囲気で1000時間酸化試験をした。酸化試験後、石英管内に付着したCr酸化物を希塩酸にて溶解し、ICP発光分光分析法にて希塩酸中のCr量を測定し、試料表面積と試験時間からCr揮発量を算出した。Cr揮発量は8×10-5mg・cm−2・hr−1以下である時、良好と判断した。
これらの結果を表2にまとめて示す。
Figure 0006926923
試験No.13では、予備酸化処理における最高加熱温度が本発明の好ましい範囲より低く、このため、α−Alが十分に形成されず、耐酸化性に劣る。また、試験No.14では、予備酸化処理における昇温速度が遅かったため、α−Al以外の酸化物の形成量が増加し、耐酸化性に劣る。
試験No.15、16では、α−Alの割合が80%未満であり、酸化試験後の単位面積当たりの重量増加量が大きくなり、耐酸化性に劣る。さらに、接触抵抗値の変化を見ても、予備酸化処理後は比較的小さな値を示しているが、時間経過に伴い接触抵抗値が増加した。さらに、Cr揮発量も大きくなった。これら試料では、本発明が所望する良好な酸化物層の維持が不十分であったためだと考えられる。
試験No.17〜19では、耐酸化性は比較的よいものの、時間経過に伴い接触抵抗値が大きく増加した。これら試料では、酸化物層中のα−Alの割合が80%未満である。このため、酸化物層の厚さが時間の経過とともに増加し、析出物を酸化物層が覆ってしまったためだと考えられる。
試験No.20〜21では、析出物がM23、MB、MBを析出核としたM23、またはNbCを析出核としたM23のいずれも含まないため、予備酸化処理後の時点で接触抵抗値が高い。特に、試験No.21は、酸化物層中のα−Alの割合が80%未満となっているため、時間が経過するにつれて接触抵抗値が大きく増加した。
それに対し、本発明例である試験No.1〜12では、耐酸化性も良好で、接触抵抗値も45mΩ・cm以下を維持する結果となった。
本発明によれば、400〜860℃の温度域で作動する固体酸化物形燃料電池内の環境での耐酸化性に優れ、かつ、電気的接触抵抗が低いステンレス鋼材、ならびにこれを適用した構成部材、セルおよび燃料電池スタックを得ることが可能となる。
本発明のステンレス鋼材は、高価な添加元素を含有することもなく、かつ導電性付与のための特殊な表面処理を行うこともない。また、回収された鋼材はそのまま汎用ステンレス鋼溶解用スクラップ原料としてリサイクル使用することも可能である。

Claims (5)

  1. フェライト系ステンレス鋼からなる基材と、該基材の表面に形成された酸化物層とを備え、
    前記基材の化学組成が、質量%で、
    C:0.02%を超えて0.15%以下、
    Si:0.15%以下、
    Al:0.025〜6.0%、
    Mn:0.01〜1.0%、
    P:0.045%以下、
    S:0.010%以下、
    N:0.05%以下、
    V:0.5%以下、
    Cr:17.0〜30.5%、
    Mo:0〜4.5%、
    Ni:0〜2.5%、
    Cu:0〜0.8%、
    W:0〜4.0%、
    Co:0〜4.0%、
    Ti:0〜6.5×C、
    Nb:0〜6.5×C、
    Sn:0〜0.05%、
    In:0〜0.05%、
    Sb:0〜0.01%、
    Ca:0〜0.10%、
    Mg:0〜0.10%、
    REM:0〜0.10%、
    B:0〜1.0%、
    残部:Feおよび不純物であり、かつ下記(i)式を満足し、
    前記酸化物層が、α−Alを80モル%以上含み、
    前記基材中に、M23型Cr系炭化物、MB型Cr系硼化物、MB型Cr系硼化物を析出核として、その表面にM23型Cr系炭化物が析出した複合析出物、およびNbC炭化物を析出核として、その表面にM23型Cr系炭化物が析出した複合析出物から選択される1種以上を含む析出物を有し、
    前記析出物は、その一部が前記酸化物層の表面から突出している、
    ステンレス鋼材。
    16.0≦Cr+1.5×Al−2.5×B−17×C≦35.0 ・・・(i)
    但し、式中の各元素記号は、基材中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味する。
  2. 前記基材のフェライト結晶粒度番号が4〜8である、
    請求項1に記載のステンレス鋼材。
  3. 請求項1または2に記載のステンレス鋼材を備える、
    固体酸化物形燃料電池用構成部材。
  4. 請求項に記載の固体酸化物形燃料電池用構成部材を備える、
    固体酸化物形燃料電池用セル。
  5. 請求項に記載の固体酸化物形燃料電池用セルを備える、
    固体酸化物形燃料電池スタック。
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