JP6278172B1 - フェライト系ステンレス鋼材、セパレーター、セルおよび燃料電池 - Google Patents

フェライト系ステンレス鋼材、セパレーター、セルおよび燃料電池 Download PDF

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Abstract

母材の化学組成が、質量%で、C:>0.03%〜0.15%、Si:0.05〜1.5%、Al:0.001〜1.0%、Mn:0.01〜1.0%、P≦0.045%、S≦0.01%、N≦0.05%、V≦0.5%、Cr:13.0〜28.5%、Nb:0.05〜(6.5×C)%、Mo:0〜4.0%、Ni:0〜5.5%、Cu:0〜0.8%、Sn:0〜2.5%、In:0〜0.1%、REM:0〜0.1%、B:0〜0.0030%、Ti:0〜(3×N)%、残部:Feおよび不純物であり、フェライト相からなる母材中に、結晶粒内に析出したNb系炭化物を析出核として、その表面にM23C6型Cr系炭化物が析出した複合析出物を有し、複合析出物は、その一部が母材表面から突出している、フェライト系ステンレス鋼材。

Description

本発明は、フェライト系ステンレス鋼材、セパレーター、セルおよび燃料電池に関する。なお、ここでいう燃料電池とは、固体高分子形燃料電池である。
燃料電池は、水素および酸素を利用して直流電流を発電する電池であり、固体電解質形、溶融炭酸塩形、リン酸形および固体高分子形に大別される。それぞれの形式は、燃料電池の根幹部分を構成する電解質部分の構成材料に由来する。
現在、商用段階に達している燃料電池としては、200℃付近で動作するリン酸形、および650℃付近で動作する溶融炭酸塩形がある。近年の技術開発の進展とともに、室温付近で動作する固体高分子形と、600℃以上で動作する固体電解質形が、自動車搭載用電源、または事業用もしくは家庭用小型分散電源として注目されている。
はじめに、固体高分子形燃料電池およびセパレーターの概要について説明を行う。
図1は、固体高分子形燃料電池の構造を示す説明図であり、図1(a)は、固体高分子形燃料電池セル(単セル)の分解図、図1(b)は固体高分子形燃料電池全体の斜視図である。
図1(a)および図1(b)に示すように、固体高分子形燃料電池1は単セルの集合体である。単セルは、図1(a)に示すように固体高分子電解質膜2の1面に燃料電極膜(アノード)3を、他面には酸化剤電極膜(カソード)4が積層され、その両面にセパレーター5a、5bが重ねられた構造を有する。
代表的な固体高分子電解質膜2として、水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系イオン交換樹脂膜がある。
燃料電極膜3および酸化剤電極膜4は、それぞれ、拡散層と、該拡散層の固体高分子電解質膜2側の表面に設けられる触媒層とを備える。拡散層は、カーボン繊維で構成されるカーボンペーパまたはカーボンクロスからなり、触媒層は、粒子状の白金触媒、黒鉛粉、水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素樹脂からなる。そして、燃料電極膜3および酸化剤電極膜4が有する触媒層は、拡散層を透過した燃料ガスまたは酸化性ガスとそれぞれ接触する。
セパレーター5aに設けられている流路6aから燃料ガス(水素または水素含有ガス)Aが流されて燃料電極膜3に水素が供給される。また、セパレーター5bに設けられている流路6bからは空気のような酸化性ガスBが流され、酸素が供給される。これらガスの供給により電気化学反応が生じて直流電力が発生する。なお、セパレーターは、バイポーラプレートと呼ばれることもある。
固体高分子形燃料電池用セパレーターに求められる機能は、(1)燃料極側で、燃料ガスを面内均一に供給する“流路”としての機能、(2)カソード側で生成した水を、燃料電池より反応後の空気、酸素といったキャリアガスとともに効率的に系外に排出させる“流路”としての機能、(3)長時間にわたって電極として低電気抵抗、良電導性を維持する単セル間の電気的“コネクタ”としての機能、および(4)隣り合うセルで一方のセルのアノード室と隣接するセルのカソード室との“隔壁”としての機能などである。
これまで上記の機能を発揮するセパレーターの基材について、種々の研究がなされてきた。セパレーターに用いられる材料は、金属系材料とカーボン系材料とに大別される。
カーボン系材料として、カーボン板材のセパレーターへの適用が、実験室レベルで鋭意検討されてきている。しかしながら、カーボン板材には割れ易いという問題があり、さらに表面を平坦にするための機械加工コストおよびガス流路形成のための機械加工コストが非常に嵩むという問題がある。それぞれが大きな問題であり、燃料電池の商用化そのものを難しくしてきたのが実情である。
カーボン板材に替えて、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂をバインダとした炭素複合材を適用しようとする動きがある。導電性炭素質粉末としては、鱗片状黒鉛、土魂状黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、膨張黒鉛、人造黒鉛の粉末などが用いられており、その平均粒径としては、10nm〜100μm程度のものが用いられている。バインダとしての樹脂開発は盛んに行なわれており、昨今の性能改善は著しく、かつ、生産性およびコスト面での改善には目覚ましいものがある。
例えば、特許文献1には、燃料電池のガス拡散電極間に挟まれる固体高分子電解質型燃料電池用セパレーターであって、平均粒径が5〜12μm、粉末全粒子の内の80%以上の粒径が0.1〜20μmの範囲に属する膨張黒鉛粉末と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂あるいはその焼成物よりなり、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂或いはその焼成物中に膨張黒鉛粉末が分散されている炭素複合材料の片面または両面に、酸化剤ガスまたは燃料ガス供給溝を形成した固体高分子電解質型燃料電池用セパレーターが開示されている。
特許文献1には、平均粒径を規定する理由として、以下のように記載されている。膨張黒鉛の平均粒径が5μmより小さい場合には、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が膨張黒鉛の粒子間に浸透することが困難となる。そのため、ガスバリア性が大きく損われてしまう。逆に、平均粒径が12μmより大きい場合には、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が膨張黒鉛の粒子間を埋めることが困難となる。その結果、ガスバリア性が大きく損なわれてしまうばかりか、充填密度が落ちて電気的接続が十分でなくなり、導電性が低下してしまう。
特許文献2には、少なくともバインダ、平均粒径10nm〜100μmの粉末状炭素フィラーおよび平均繊維長0.07〜3.0mmの短繊維よりなるとともに、これら成分の量比が、バインダ100重量部に対して、前記粉末状炭素フィラーが200〜800重量部、前記短繊維が68〜300重量部であるから得られる基材により形成されるとともに、そのJIS K 6911による曲げ撓み量が0.5から1.0mmである燃料電池セパレーターが開示されている。
特許文献3には、耐衝撃性あるいは靭性に優れた燃料電池用セパレーター基体とするために、少なくとも導電性粉末とバインダとを含む混合物を成形してなる燃料電池用セパレーター基体において、バインダとしてゴム変性フェノール樹脂を使用することが開示されている。
ゴム変性フェノール樹脂の割合は、導電性粉末100重量部に対して5〜50重量部とされている。曲げ弾性率が40〜1GPa、曲げ試験の際の破断時のたわみ量が0.1〜3mmとされている。導電性粉末の平均粒径としては、10nm〜100μm、好ましくは、3μm〜80μmとされており、10nm以上であれば成形性を向上させることができ、100μm以下であれば導電性を向上させることができるとされている。
ゴム変成フェノール樹脂とは、未加硫ゴムとフェノール樹脂とを反応させることにより得ることができるものであって、未加硫ゴムとしては、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ニトリルクロロプレンゴム、塩素化ブチルゴム、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイドゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アクリルグリシジエーテル3次元共重合体、ウレタンゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、スチレンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴム等より選ばれた1種類または2種類以上の混合物を挙げられている。
特許文献4には、黒鉛とエポキシ樹脂と硬化剤としてポリカルボジイミド樹脂と硬化促進剤と離型剤とからなる燃料電池セパレーター用組成物を成形してなる燃料電池セパレーターにおいて、黒鉛の平均粒径が50〜500μmであり、黒鉛100質量部に対してエポキシ樹脂を10質量部以下と、ポリカルボジイミド樹脂9質量部以下と、硬化促進剤0.3質量部以下と、離型剤0.5〜3質量部とを添加した燃料電池セパレーターが開示されている。
特許文献5には、金属材料あるいは金属複合材料による導電性コア部と、該導電性コア部を被覆する導電性接着層と、この導電性接着層上に形成した導電性スキン部とよりなり、導電性コア部と導電性スキン部とが導電性接着層により接着されている燃料電池用セパレーターが開示されている。
導電性接着層は、2種以上の炭素粉末を導電性フィラーとし、樹脂をバインダとするとともに、導電性フィラー100重量部に対して樹脂を10〜67重量部とした炭素含有導電性接着剤により形成され、導電性スキン部は、炭素粉末を導電性フィラーとし、樹脂をバインダとするとともに、導電性フィラー100重量部に対して樹脂を3〜20重量部とした炭素含有複合材料により形成されている。
導電性コア部を構成する金属材料としては、チタン、アルミニウム、ステンレス等、具体的には例えばアルミニウム板あるいはステンレス板や、これら金属材料に貴金属やカーボン材料をコーティングした金属複合材料が例示されており、導電性スキン部との密着性を高めるために、ブラスト処理、放電処理、ラッピング、ポリッシング等の機械的な研磨方法による表面処理を施してもよいとされている。
特許文献6には、導電材と結合剤と添加剤とを主成分とする燃料電池セパレーター用組成物を混合、造粒、乾燥した後、整粒してなる造粒物を金型内に充填して加熱加圧成形する燃料電池セパレーターの製造方法であって、上記造粒物の平均粒径が60〜160μmであり、かつ下記粒度分布を有するとともに、この造粒物の残留揮発分が4質量%以下である燃料電池セパレーターの製造方法が示されている。
粒径 割合
5μm以上100μm未満 :10〜80%
100μm以上300μm未満 :10〜40%
300μm以上500μm未満 : 残部
しかしながら、炭素複合材には、依然として高温耐久性、加水分解耐久性に問題があり、燃料電池適用中に生じる経年的な結着用有機樹脂の劣化の問題は大きな課題である。また、ますます厳しくなる寸法精度および薄肉化への対応、電池運転条件の影響を受けて進行するカーボン腐食、ならびに燃料電池組み立て時と使用中とに起こる予期せぬ割れ事故等の問題も、今後に解決すべき課題として残されている。
一方、金属系材料として、ステンレス鋼をセパレーターに用いる研究も数多くなされている。加えて、カーボン系材料の問題点を解決するため、ステンレス鋼等の金属材料からなるコア材(芯材)を備え、その表面に導電性を有するカーボン層が形成されたカーボン系セパレーターについても開発が進められている。
例えば、特許文献7には、固体電解質型燃料電池のセパレーターとして好適なステンレス鋼が開示されている。また、特許文献8および9には、フェライト系ステンレス鋼からなるセパレーターを備えた固体高分子形燃料電池が開示されている。
特許文献10には、鋼中に0.01〜0.15質量%のCを含有し、Cr系炭化物が析出した固体高分子形燃料電池のセパレーター用フェライト系ステンレス鋼およびこれを適用した固体高分子形燃料電池が開示されている。
特許文献11には、ステンレス鋼表面に、導電性を有するM23型、MC型、MC型、MC型炭化物系金属介在物およびMB型硼化物系介在物のうちの1種以上が分散、露出している固体高分子形燃料電池のセパレーター用ステンレス鋼が開示されており、質量%で、C:0.15%以下、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.01〜1.5%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:15〜36%、Al:0.001〜6%、N:0.035%以下を含有し、かつCr、MoおよびB含有量が17%≦Cr+3×Mo−2.5×Bを満足し、残部Feおよび不可避不純物からなるフェライト系ステンレス鋼が記載されている。
特許文献12には、ステンレス鋼材の表面を酸性水溶液により腐食させて、その表面に導電性を有するM23型、MC型、MC型、MC型炭化物系金属介在物およびMB型硼化物系金属介在物のうちの1種以上を露出させる固体高分子形燃料電池のセパレーター用ステンレス鋼材の製造方法が示されており、質量%で、C:0.15%以下、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.01〜1.5%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:15〜36%、Al:0.001〜1%、B:0〜3.5%、N:0.035%以下、Ni:0〜5%、Mo:0〜7%、Cu:0〜1%、Ti:0〜25×(C%+N%)、Nb:0〜25×(C%+N%)を含有し、かつCr、MoおよびB含有量は17%≦Cr+3×Mo−2.5×Bを満足しており、残部Feおよび不純物からなるフェライト系ステンレス鋼材が開示されている。
さらに、特許文献13には、表面にMB型の硼化物系金属化合物が露出しており、かつ、アノード面積およびカソード面積をそれぞれ1としたとき、アノードがセパレーターと直接接触する面積、およびカソードがセパレーターと直接接触する面積のいずれもが0.3から0.7までの割合である固体高分子形燃料電池が示されており、ステンレス鋼表面に、導電性を有するM23型、MC型、MC型、MC型炭化物系金属介在物およびMB型硼化物系介在物のうちの1種以上が露出しているステンレス鋼が開示されている。
特許文献13には、さらに、セパレーターを構成するステンレス鋼が、質量%で、C:0.15%以下、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.01〜1.5%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:15〜36%、Al:0.2%以下、B:3.5%以下(ただし0%を除く)、N:0.035%以下、Ni:5%以下、Mo:7%以下、W:4%以下、V:0.2%以下、Cu:1%以下、Ti:25×(C%+N%)以下、Nb:25×(C%+N%)以下で、かつCr、MoおよびBの含有量が、17%≦Cr+3×Mo−2.5×Bを満足するフェライト系ステンレス鋼材が示されている。
そして、特許文献14には、フェライト相のみからなる母相中に、少なくとも、MB型硼化物系金属析出物を析出核としてその表面ならびにその周囲にM23型Cr系炭化物金属析出物が析出した複合金属析出物が分散して表面に露出している、フェライト系ステンレス鋼材が開示されている。
特許第4028890号 特開2000−182630号公報 特開2000−90941号公報 特開2001−216976号公報 特開2000−299117号公報 特開2001−325967号公報 特開2000−239806号公報 特開2000−294255号公報 特開2000−294256号公報 特開2000−303151号公報 特開2003−193206号公報 特開2001−214286号公報 特開2002−151111号公報 国際公開第2016/052623号
Metal Treatment、(1964)、p.230、245
特許文献7〜9に開示されるステンレス鋼材は、不動態皮膜を有し耐食性に優れるため、燃料電池内の環境で金属イオンの溶出を抑制することが可能である。しかし、ステンレス鋼材の表面に形成される不動態皮膜は導電性が低い。そのため、ステンレス鋼材を金属系セパレーターまたはカーボン系セパレーターのコア材として用いる場合、皮膜の影響により、電極膜またはカーボン層との電気的な接触抵抗(接触電気抵抗)が高くなるという問題がある。特許文献7〜9では、接触電気抵抗の問題について検討がなされていない。
そこで、特許文献10〜14では、鋼材表面に導電性の金属析出物を析出させることにより導電性パスを確保することとしている。しかしながら、特許文献10に記載されるようにCr系炭化物のみを析出させる場合、接触電気抵抗は改善されるものの、十分な析出量を確保するのが難しく、さらなる改善が望まれる。
また、特許文献11〜13ではMB型硼化物系介在物を分散させており、特許文献14では、MB型硼化物系介在物を析出核としてM23型Cr系炭化物金属析出物が析出した複合金属析出物を分散させている。しかしながら、接触電気抵抗は大幅に改善されるものの、MB型硼化物系介在物は硬度が高いため、金型を用いてプレス成形を行う場合に、金型が損耗する場合があり、改善の余地が残されている。
本発明は、上記の課題を解決し、燃料電池内の環境での耐食性に優れ、かつ、接触電気抵抗が低く、金属系セパレーターまたはカーボン系セパレーターのコア材として用いるのに好適なフェライト系ステンレス鋼材およびそれを備えるセパレーター、セル、ならびに燃料電池を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、下記のフェライト系ステンレス鋼材、セパレーター、セルおよび燃料電池を要旨とする。
(1)母材の化学組成が、質量%で、
C:0.03%を超えて0.15%以下、
Si:0.05〜1.5%、
Al:0.001〜1.0%、
Mn:0.01〜1.0%、
P:0.045%以下、
S:0.01%以下、
N:0.05%以下、
V:0.5%以下、
Cr:13.0〜28.5%、
Nb:0.05〜(6.5×C)%、
Mo:0〜4.0%、
Ni:0〜5.5%、
Cu:0〜0.8%、
Sn:0〜2.5%、
In:0〜0.1%、
REM:0〜0.1%、
B:0〜0.0030%、
Ti:0〜(3×N)%、
残部:Feおよび不純物であり、
フェライト相からなる母材中に、結晶粒内に析出したNb系炭化物を析出核として、その表面にM23型Cr系炭化物が析出した複合析出物を有し、
前記複合析出物は、その一部が母材表面から突出している、
フェライト系ステンレス鋼材。
(2)前記化学組成が、下記(i)式を満足する、
上記(1)に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
15≦γ980≦60 ・・・(i)
ただし、上記(i)式中のγ980は、下記(ii)式で定義される値である。また、(ii)式中の[A]および[B]は、それぞれ下記(iii)式および(iv)式で算出される値であり、当該値が0未満と算出される場合には0を代入する。さらに、(ii)〜(iv)式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
γ980=420×[A]+470×[B]+23×Ni+7×Mn+9×Cu−11.5×(Cr+Si)−52×Al−69×Sn+189 ・・・(ii)
[A]=C−0.13×Nb ・・・(iii)
[B]=N−0.29×Ti ・・・(iv)
(3)前記化学組成が、質量%で、
Mo:0.2〜4.0%、
Ni:0.3〜5.5%、
Cu:0.3〜0.8%、
Sn:0.05〜2.5%、
In:0.002〜0.1%、
REM:0.002〜0.1%、
B:0.0002〜0.0030%、および
Ti:0.03〜(3×N)%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)または(2)に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
(4)固体高分子形燃料電池用の金属系セパレーターであって、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼材を備える、
固体高分子形燃料電池用セパレーター。
(5)固体高分子形燃料電池用のカーボン系セパレーターであって、
コア材の表面に、導電性接着層を介してカーボン層を有し、
前記コア材として、上記(1)から(3)までのいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼材を備える、
固体高分子形燃料電池用セパレーター。
(6)上記(4)または(5)に記載のセパレーターを備える、
固体高分子形燃料電池用セル。
(7)上記(6)に記載のセルを備える、
固体高分子形燃料電池。
本発明によれば、燃料電池内の環境での耐食性に優れ、かつ、接触電気抵抗が低いフェライト系ステンレス鋼材が得られる。本発明に係るフェライト系ステンレス鋼材は、金属系セパレーターまたはカーボン系セパレーターのコア材といった、固体高分子形燃料電池セパレーター用材料として好適に用いることができる。
図1は、固体高分子型燃料電池の構造を示す説明図であり、図1(a)は、燃料電池セル(単セル)の分解図、図1(b)は燃料電池全体の斜視図である。 図2は、本発明に係る固体高分子形燃料電池カーボンセパレーターの製造方法を示す説明図である。 図3は、本発明に係る固体高分子形燃料電池カーボンセパレーターの製造方法を示す説明図である。 図4は、本発明に係る固体高分子形燃料電池カーボンセパレーターの製造方法を示す説明図である。 図5は、本発明に係る固体高分子形燃料電池カーボンセパレーターの製造方法を示す説明図である。
本発明者は、長年に亘り、固体高分子形燃料電池のセパレーターとして長時間使用しても、金属セパレーター表面からの金属溶出が極めて少なく、拡散層、高分子膜および触媒層から構成されるMEA(Membrane Electrode Assembly)の金属イオン汚染がほとんど進行することがなく、さらに、触媒性能の低下および高分子膜性能の低下を起こし難いステンレス鋼材の開発に専念してきた。
具体的には、汎用のSUS304、SUS316L、それらの金めっき処理材、MBおよび/またはM23型導電性金属析出物型ステンレス材、導電性微粒粉塗布もしくは塗装処理ステンレス材、表面改質処理ステンレス材等を用いた燃料電池適用を検討してきた。その結果、以下の知見を得るに至った。
(a)鋼中に微細に分散し、母材表面から突出したM23型Cr系炭化物を有する鋼材は、特殊な表面処理を施すこともなく、そのままの状態で、固体高分子形燃料電池用セパレーターとして適用しても良好な性能を発揮する。
(b)M23型Cr系炭化物の析出場所としては、結晶粒界と結晶粒内とがある。結晶粒界への析出は鋭敏化による耐食性低下を起し易く、かつ、接点数を多数確保して電気的な接触抵抗値を下げるという目的からは好ましい分布形態ではない。電気的な接触抵抗値を下げるためには、M23型Cr系炭化物は、結晶粒内に微細に分散させる必要がある。
(c)Nbを含有させたフェライト系ステンレス鋼では、Nb系炭化物であるNbCが凝固後に分散析出する。そして、M23型Cr系炭化物は、その後の温度低下とともに析出するようになる。その結果、粒内に細かく分散析出しているNbCを析出核として、その表面にM23型Cr系炭化物を析出するようになる。すなわち、NbCの分散状態を制御することで、M23型Cr系炭化物を結晶粒内に微細に分散制御することが可能となる。
(d)NbC、M23型Cr系炭化物ともに硬質析出物ではないため、鋼材がNbCを析出核としその表面にM23が析出した複合析出物を有していても、成形加工の際の金型または抜き刃物の損耗を生じにくい。
(e)鋼中のNbをほぼ全量NbCとして析出させて、NbCとならなかった残りのCをM23型Cr系炭化物として析出させることが可能である。
(f)さらに、金属素材(薄板)を固体高分子形燃料電池のカーボン系セパレーターのコア材として用いる場合には、上記の性能に加えて以下の性能も必要となる。
(g)固体高分子形燃料電池適用中に、コア材から金属イオン溶解を伴う腐食が生じると、金属イオン汚染によって、固体高分子膜の劣化と触媒被毒によるMEA性能低下をもたらす。特に、コア材は、燃料電池運転中にカーボン層および導電性接着層のミクロ欠陥部を介した電池内環境への曝露と露出した端面からの腐食、不可避に進行する膨潤した樹脂からの溶出成分による腐食に曝されることとなる。そのため、燃料電池内の熱水環境に曝された環境にあっても耐食性を有する必要がある。
(h)固体高分子形燃料電池適用中に、コア材と、コア材に接する導電性炭素粉および樹脂からなる導電性接着層との間で剥離が生じると、界面での良好な接触電気抵抗性能が維持できなくなる。そのため、接着層との接着強度を高く保つことが望まれる。
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
(A)化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.03%を超えて0.15%以下
Cは、M23型Cr系炭化物を析出させ、鋼材表面での接触電気抵抗性を向上させるのに必要な元素である。C含有量が0.03%以下であると、M23型Cr系炭化物の析出量が十分に確保できず、所望の電気的接触抵抗性能が得られない。しかし、Cを過度に含有させると製造性が著しく悪化する。そのため、C含有量は0.03%を超えて0.15%以下とする。上記効果を得るためには、C含有量は0.04%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
Si:0.05〜1.5%
Siは、溶鋼段階で脱酸を行うために添加する元素である。Si含有量が0.05%未満では、鋼の脱酸制御が困難となり、可能であったとしても量産性が低下し、かつ製造コストが増大する。しかし、Si含有量が1.5%を超えると、脱酸元素としての効果が飽和するだけでなく、素材としての加工性が低下する。そのため、Si含有量は0.05〜1.5%とする。Si含有量は、0.25%以上であるのが好ましい。また、Si含有量は、1.0%以下であるのが好ましく、0.6%以下であるのがより好ましい。
なお、後述するSnおよび/またはInを含有させる場合において、Siは、SnおよびInの表面濃化を促進する効果がある。特に、Si含有量が0.25%以上である場合に、SnおよびInの表面濃化の促進効果を顕著に発揮する。この理由は、現時点では必ずしも明瞭でないが、Siには、本発明で用いる鋼の表面粗さの調整を行う塩化第二鉄溶液または硫酸水溶液中でのフェライト系ステンレス鋼の自然浸漬電位を下げる働きがあり、表面電位が下がることによりSnおよびInの金属または酸化物としての表面濃化が促進されるためと推定される。
Al:0.001〜1.0%
AlもSiと同様に、溶鋼段階で脱酸を行うために添加する元素である。Al含有量が0.001%未満では脱酸元素としての効果が安定しない。しかし、Al含有量が1.0%を超えても脱酸元素としての効果が飽和するだけでなく、溶鋼中での脱酸能力がかえって低下する。そのため、Al含有量は、0.001〜1.0%とする。Al含有量は、0.005%以上であるのが好ましい。また、Al含有量は、0.10%以下であるのが好ましく、0.05%以下であるのがより好ましく、0.02%以下であるのがさらに好ましい。
Mn:0.01〜1.0%
Mnは、鋼中のSをMn系硫化物として固定する作用があり、熱間加工性を改善する効果がある。Mn含有量が0.01%未満では上記効果は得られない。しかし、1.0%を超える量のMnを含有させても、上記の効果は飽和する。そのため、Mn含有量は0.01〜1.0%とする。Mn含有量は、0.20%以上であるのが好ましく、0.25%以上であるのがより好ましく、0.35%以上であるのがさらに好ましい。また、Mn含有量は、0.80%以下であるのが好ましく、0.60%以下であるのがより好ましい。
P:0.045%以下
Pは、Sと並んで有害な不純物元素であり、その含有量が0.045%を超えると、製造性が低下する。そのため、P含有量は0.045%以下とする。P含有量は、0.035%以下であるのが好ましく、0.030%以下であるのがより好ましい。
S:0.01%以下
Sは、耐食性にとって極めて有害な不純物元素である。このため、S含有量は0.01%以下とする。Sは、鋼中共存元素および鋼中のS含有量に応じて、Mn系硫化物、Cr系硫化物、Fe系硫化物、Ti系硫化物、もしくは、これらの複合硫化物および酸化物または窒化物との複合非金属析出物としてそのほとんどが鋼中に析出している。また、Sは、必要に応じて含有させるREM(希土類元素)系の硫化物を形成することもある。
固体高分子型燃料電池のセパレーター環境においては、いずれの組成の硫化物系非金属析出物であっても、程度の差はあるものの腐食の起点として作用し、不動態皮膜の維持、金属イオン溶出抑制にとって有害である。通常の量産鋼のS含有量は、0.005%超〜0.008%前後であるが、上記の有害な影響を抑制するためには、S含有量は0.003%以下であるのが好ましく、0.002%以下であるがより好ましく、0.001%未満であるのがさらに好ましい。したがって、S含有量は低ければ低い程、望ましい。工業的量産レベルで0.001%未満とすることは現状の精錬技術をもってすれば製造コストの上昇もわずかであり、量産製造上の問題にはならない。
N:0.05%以下
Nは、オーステナイト相(以下の説明において、「γ相」ともいう)の安定化元素であり、高温に加熱された状態での鋼材の組織制御に活用し、最終製品における結晶粒度調整に用いる。しかし、N含有量が0.05%を超えると、製造性が低下し、素材としての加工性が低下する。そのため、N含有量は0.05%以下とする。N含有量は0.035%以下であるのが好ましく、0.030%以下であるのがより好ましい。
なお、後述するTiを含有させる場合において、Nは、溶鋼中または凝固末期の液相側でTi系窒化物として析出し、結晶粒の微細化により常温靭性を向上させる効果を発揮する場合がある。上記効果を得るためには、N含有量を0.003%以上とするのが好ましく、0.005%以上とするのがより好ましい。
V:0.5%以下
Vは、意図的に含有させる必要はないが、量産時に用いる溶解原料として使用するCr源中に不純物として含有されている。V含有量は0.5%以下とする。V含有量は0.30%以下であるのが好ましく、0.20%以下であるのがより好ましい。
Cr:13.0〜28.5%
Crは、母材の耐食性を向上させる作用を有する合金元素である。また、本発明で用いる鋼材は、高温域で析出し、結晶粒内に微細析出するNb系炭化物を析出核として、M23型Cr系炭化物をマクロ的に均一に析出分散させて、所望の電気的な表面接触抵抗性能を確保することを前提としている。そのため、所定量以上のCrを含有させる必要がある。
また、鋼材をカーボン系セパレーターのコア材として用いる場合、鋼材は、導電性炭素質粉末と樹脂バインダとからなるカーボン層、および、カーボン層とコア材との固着性を改善する炭素含有導電性接着層に被覆される。運転中の固体高分子形燃料電池内ではカーボン層と接着層とは、電池反応により生成する60〜100℃程度の熱水に曝され、樹脂部分の膨潤は避けられない。
そのため、本発明においては、上記の環境で用いられることを前提として、鋼材の耐食性を設計する必要がある。換言すれば、膨潤した樹脂からの樹脂劣化に伴う溶出物に対する耐食性を確保する必要がある。また、工業製品では、カーボン層および接着層に不可避的に発生するミクロ欠陥部からの腐食に対する耐食性も確保する必要がある。
Cr含有量が13.0%未満では、M23型Cr系炭化物の析出量が不十分となるだけでなく、Cr以外の元素量を調整しても耐食性の維持が困難となる。一方、Cr含有量が28.5%を超えると、熱間圧延性能および常温靱性の悪化による量産性低下を招く。また、28.5%を超えるCrは、耐食性確保の上で不要であり、コスト上昇に繋がるだけである。
そのため、Cr含有量は13.0〜28.5%とする。Cr含有量は、16.0%以上であるのが好ましく、18.0%以上であるのがより好ましい。また、Cr含有量は、27.0%以下であるのが好ましく、26.0%以下であるのがより好ましい。
Nb:0.05〜(6.5×C)%
Nbは、鋼中のCを部分的に安定化する効果を発揮する元素である。NbはNb系炭化物として鋼中に微細に分散析出し、M23型Cr系炭化物の析出核として機能する。Nb含有量が0.05%未満では、M23型Cr系炭化物の析出核としてのNb系炭化物としての析出量(分散)が不十分である。しかし、C含有量との関係において、6.5×C%を超えて含有させると、Nbにより安定化されていない残りの固溶C量が少なくなり、M23型Cr系炭化物の析出量が不十分となる。そのため、Nb含有量は0.05〜(6.5×C)%とする。
なお、従来のNb含有高純度フェライト系ステンレス鋼などでは、鋭敏化を防止するために、ほぼすべての鋼中CをNb系炭化物として析出させて安定化するために、当量以上の十分な量のNb等を含有させることを常としている。本発明においては、一部の鋼中Cのみを固定化できる量のNbしか含有させない。この点において、従来のNb含有高純度フェライト系ステンレス鋼と本発明鋼材とは材料設計上の思想が異なる。
本発明の鋼材には、上記の元素に加えてさらに、下記に示す量のMo、Ni、Cu、Sn、In、REM、BおよびTiから選択される1種以上の元素を含有させてもよい。
Mo:0〜4.0%
Moは、Crと比較して、少量で耐食性を改善する効果があるので、必要に応じて含有させてもよい。また、Moは溶出したとしても、アノードおよびカソード部に担持されている触媒の性能に対する影響が比較的軽微である。このことは、溶出したMoが、陰イオンであるモリブデン酸イオンとして存在するため、水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系イオン交換樹脂膜のプロトン伝導性を阻害する影響が小さいためと考えられる。しかし、4.0%を超えてMoを含有させても上記効果は飽和する。そのため、Mo含有量は4.0%以下とする。Moは高価な添加元素である。Mo含有量は、3.5%以下であるのが好ましく、3.0%以下であるのがより好ましく、2.5%以下であるのがさらに好ましい。上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.2%以上であるのが好ましく、0.4%以上であるのがより好ましく、0.5%以上であるのがさらに好ましい。
Ni:0〜5.5%
Niは、凝固時および900℃以上の高温域でのα、γ相変態挙動および相バランス調整に有効であり、耐食性および靭性を改善する効果も有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、5.5%を超えてNiを含有させると、その他元素ならびに焼鈍条件を工夫してもフェライト単相組織とすることが難しくなる。そのため、Ni含有量は5.5%以下とする。Ni含有量は、4.5%以下であるのが好ましく、3.5%以下であるのがより好ましく、2.5%以下であるのがさらに好ましい。上記効果を得るためには、Ni含有量は、0.3%以上であるのが好ましく、0.5%以上であるのがより好ましい。
Cu:0〜0.8%
Cuは、耐食性を改善する効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、0.8%を超えてCuを含有させても上記効果は飽和する。そのため、Cu含有量は、0.8%以下とする。Cu含有量は、0.7%以下であるのが好ましく、0.65%以下であるのがより好ましい。上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.03%以上であるのが好ましく、0.3%以上であるのがより好ましい。
なお、本発明で用いるステンレス鋼材においては、Cuは固溶状態で存在している。熱処理条件によっては、Cu系析出物を析出させることもできるが、析出させると、電池内でCu溶出の起点となり燃料電池性能を低下させるため有害である。Cuは固溶状態で存在していることが好ましい。
Sn:0〜2.5%
鋼中にSnを含有させると、マトリクス中に固溶しているSnが燃料電池内で表面に金属スズまたは酸化スズとして濃化することにより、マトリクスの表面接触抵抗を低減する効果を発揮する。また、マトリクスからの金属イオンの溶出を顕著に抑制し耐食性を改善する効果を有する。よって、Snを必要に応じて含有させてもよい。
しかし、Sn含有量が、2.5%を超えると製造性が著しく低下する。そのため、Sn含有量は2.5%以下とする。Sn含有量は、1.2%以下であるのが好ましく、1.0%以下であるのがより好ましい。上記効果を得るためには、Sn含有量は、0.02%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましく、0.10%以上であるのがさらに好ましい。
In:0〜0.1%
Inは希少金属のひとつであり、非常に高価な元素であるが、Snと並んで表面接触抵抗を低下させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、0.1%を超えてInを含有させると鋼材の製造性を著しく損ねる。そのため、In含有量は0.1%以下とする。In含有量は、0.05%以下であるのが好ましい。上記効果を得るためには、In含有量は、0.002%以上であるのが好ましい。
REM:0〜0.1%
REMは、熱間製造性を改善する効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、過度の含有は、製造コストの増加につながるため、REM含有量は0.1%以下とする。REM含有量は、0.02%以下であるのが好ましく、0.01%以下であるのがより好ましい。上記効果を得るためには、REM含有量は、0.001%以上であるのが好ましく、0.002%以上であるのがより好ましく、0.005%以上であるのがさらに好ましい。
ここで、本発明において、REMはSc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、前記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。なお、ランタノイドは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加される。
B:0〜0.0030%
Bは、発明鋼の熱間加工性を改善する効果を有するとともに、結晶粒微細化に有効なため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、B含有量が0.0030%を超えると、MB析出に伴う製造性の低下が顕在化しやすくなる。そのため、B含有量は0.0030%以下とする。B含有量は、0.0020%以下であるのが好ましく、0.0010%以下であるのがより好ましく、0.0006%以下であるのがさらに好ましい。上記効果を得るためには、B含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
Ti:0〜(3×N)%
Tiは、溶鋼中または凝固末期の液相側でTi系窒化物として析出し、常温靭性を向上させる効果を発揮する。また、鋼中のSをTi系硫化物として固定して耐食性の低下を低減する働きもある。よって、Tiを必要に応じて含有させてもよい。TiはNとの化学的な結合力が強く、ほとんどのTiは溶鋼中でTiNとして析出する。3×N%を超えて含有させると、TiNとしての析出が完了後も、TiN生成に消費されない固溶Ti量が多くなる。その結果、冷却過程で固溶Cと反応して、Ti系炭窒化物またはTi系炭化物を生成する。固溶C量が低減すると、M23型Cr系炭化物の析出量が不十分となるおそれがある。そのため、Ti含有量は3×N%以下とする。上記効果を得るためには、Ti含有量は、0.03%以上であるのが好ましい。
本発明の鋼板の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。
ここで「不純物」とは、鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
また、本発明においては、各元素の含有量が上述の範囲を満足することに加えて、下記(i)式を満足することが好ましい。
15≦γ980≦60 ・・・(i)
上記(i)式中のγ980は、下記(ii)式で定義される値である。γ980は、非特許文献1に記載されるγ相の最大相分率を推定する経験式を本発明者が改変したものであり、980℃加熱時に生成するオーステナイト量を表わす指標である。上記(i)式を満足することによって、後述する好適なα−γ二相組織での制御圧延を行うことが可能となる。
なお、(ii)式中の[A]および[B]は、それぞれ下記(iii)式および(iv)式で算出される値であり、当該値が0未満と算出される場合には0を代入する。また、(ii)〜(iv)式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
γ980=420×[A]+470×[B]+23×Ni+7×Mn+9×Cu−11.5×(Cr+Si)−52×Al−69×Sn+189 ・・・(ii)
[A]=C−0.13×Nb ・・・(iii)
[B]=N−0.29×Ti ・・・(iv)
(B)複合析出物
本発明に係る鋼材は、フェライト相(以下の説明において、「α相」ともいう)からなる母材中に、複合析出物を有する。本発明において、複合析出物とは、結晶粒内に細かく分散して析出したNb系炭化物を析出核として、その表面にM23型Cr系炭化物が析出したものを指す。その結果として内部にNb系炭化物を内包するようになったM23型Cr系炭化物も指す。なお、Nb系炭化物とは、主にNbCからなる炭化物をいう。また、M23型Cr系炭化物中のMは、Cr、またはCrおよびFeであり、Cの一部は、Bに置換されていてもよい。
Nbは溶鋼中で析出することはなく、そのほとんどが凝固完了後の冷却過程でNb系炭化物として鋼中に微細に分散析出する。その後、温度の低下とともに、Nbにより安定化されていない残りの固溶Cは、鋼中Crと反応してM23型Cr系炭化物として析出する。この際に、Nb系炭化物は、M23型Cr系炭化物の析出核として機能する。析出したM23型Cr系炭化物は、曝される温度変動により一部が熱分解(固溶)、析出、凝集肥大化することがある。再析出または凝集するにあたっても、微細分散しているNb系炭化物は、M23型Cr系炭化物の析出核として機能する。
そして、上記の複合析出物は、その一部が母材表面から突出している。母材表面から突出したM23型Cr系炭化物が導電性パスとしての機能を発揮し、接触電気抵抗値を低減させる効果を有する。なお、M23型Cr系炭化物の表面にも、不動態皮膜(酸化物皮膜)は形成されている。しかし、M23型Cr系炭化物中のCr濃度は、マトリクス中のCr濃度よりも高い。そのことに加え、Cr系炭化物表面に形成される不動態皮膜の厚さは、マトリクス表面を覆っている不動態皮膜よりも薄い。そのため、Cr系炭化物は電子伝導性に優れ、導電性パスとして機能する。
また、導電性パスとしての機能をより効果的に発揮するためには、Nb系炭化物の表面にM23型Cr系炭化物が単に析出しているだけでなく、M23型Cr系炭化物の内部にNb系炭化物が内包される状態であることが好ましい。
なお、母材表面から突出する複合析出物の母材表面からの突出高さまたは分散状態については特に規定は設けない。ただし、鋼材表面における、JIS B 0601にて規定されている算術平均粗さRaの値が大きいほど、上記の複合析出物が突出する頻度が高くなり、かつ、導電性パスとして機能する接触機会が増加するため好ましい。
鋼材の表面粗さを高くすることによって、鋼材をカーボン系セパレーターのコア材として用いる場合において、コア材と接着層との密着性および両者界面の導電性を好適な状態とすることが可能になる。そのため、鋼材の表面粗さは、Ra値で0.25〜3.0μmであることが好ましい。表面粗さはRa値で0.6μm以上であるのがより好ましく、0.85以上であるのがさらに好ましく、2.5μm以下であるのがより好ましい。
また、上記の複合析出物の大きさについても特に制限は設けないが、平均粒径が0.5〜5.0μmであることが望ましい。平均粒径が0.5μm未満では、母材表面から突出しにくくなり、導電性パスとしての機能が不十分となるおそれがある。一方、5.0μmを超えると、結果的に複合析出物の個数密度が低下することになるため、接触電気抵抗を低下させることが困難になる。平均粒径は0.8μm以上であるのがより好ましく、2.0μm以上であるのがさらに好ましい。また、平均粒径は2.5μm以下であるのがより好ましい。
本発明において、複合析出物の平均粒径は、以下の手順により求めるものとする。まず、鋼材を10体積%アセチルアセトン−1質量%塩化テトラメチルアンモニウム−メタノール溶液(10%AA系電解液と呼ばれる)を用いた電解法により溶解する。その後、溶解液からフィルターを用いることで、抽出残渣を捕集する。そして、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて、抽出残渣の球相当径を測定し、その値を複合析出物の平均粒径とする。
(C)鋼材の製造方法
本発明に係るフェライト系ステンレス鋼材の製造条件について特に制限はなく、例えば、上記の化学組成を有する鋼に対して、熱延工程、焼鈍工程、冷延工程および最終焼鈍工程を順に行い、それに続いて粗面化処理工程を行うことによって製造することができる。各工程について以下に説明する。
(C−1)熱延工程
圧延前の加熱温度:1180〜1250℃
圧延前の加熱温度が1180℃未満では、熱間圧延機への負荷が大きくなり、また、本発明において所望とする複合析出物を好適に分散させることが困難になる。一方、1250℃を超えると、スラブ加熱時のスラブ表面での高温酸化スケール生成が顕著となり、素材製造コストの上昇およびコイル表面疵の発生を招く。そのため、圧延前の加熱温度は1180〜1250℃とするのが好ましい。
均熱時間:1〜12時間
均熱時間が1時間未満では、スラブ温度が不均一となる。一方、12時間を超えると、スラブ加熱時のスラブ表面での高温酸化スケール生成が顕著となり、コイル表面での疵の発生を招きやすい。そのため、圧延前の均熱時間は1〜12時間とするのが好ましい。
圧延開始温度:1120〜1250℃
圧延開始温度が1120℃未満では、熱間圧延機への負荷が大きくなり、また、本発明において所望とする複合析出物を好適に分散させることが困難になる。一方、圧延開始前の加熱温度を1250℃以下とするため、必然的に、圧延開始温度は1250℃以下となる。そのため、圧延開始温度は1120〜1250℃とするのが好ましい。
最終パス開始温度:940〜860℃
最終パス開始温度が860℃未満では、熱間圧延機への負荷が大きくなり、また、本発明において所望とする複合析出物を好適に分散させることが困難になる。一方、940℃を超えても同様に、所望とする複合析出物を好適に分散させることが困難になる。そのため、最終パス開始温度は940〜860℃とするのが好ましい。
圧延終了温度(巻取温度):920〜600℃
圧延終了温度が600℃未満では、コイル巻き取り機への負荷が大きくなるとともに、コイル巻き取り形状およびコイル端面形状が悪くなる。一方、920℃を超えると、本発明において所望とする複合析出物を好適に分散させることが困難になる。そのため、圧延終了温度(巻取温度)は920〜600℃とするのが好ましい。
なお、熱延工程においては、高温でのα相とγ相との相変態を活用して、結晶粒度調整を行うとともに、M23型Cr系炭化物の析出制御を行うことが好ましい。すなわち、γ相中へのC固溶量が多く、α相中へのC固溶量が少ないことを活用した温度管理を行い、Nb系炭化物を析出核としてその表面にM23型Cr系炭化物が析出するように制御圧延するとともに、熱処理を行うことが好ましい。具体的には、圧延途中でα−γの二相組織となるように制御することによって、結晶粒径および粒内析出物の制御が可能となる。
すなわち、熱間圧延は、少なくとも1パスはα−γ二相組織状態で行う必要がある。Cが固溶しやすいγ相とCが固溶し難いα相とが共存の二相組織状態で熱間圧延を行うことで、M23型Cr系炭化物の固溶および再析出の挙動を活用したM23型Cr系炭化物の析出制御が可能となる。
熱間圧延中におけるα−γ相変態は、α相とγ相との二相組織中のγ相比率が増加または減少しながら進行する。具体的には、α相から新たな成分を有するα相とγ相とに二相分離、または、熱間圧延に伴う加工熱によりγ相がα相化した後に再度α相とγ相とに二相分離しながら進行する。または、γ相から新たな成分を有するγ相とα相とが生成する場合もある。Cは、α相中には固溶し難く、γ相には固溶しやすい。拡散しやすいCは、α−γ相状態では、γ相側に固溶しており、γ相がα−γ相に変態する場合には、生成するα相よりCが排出される。排出されたCは、γ相側に拡散して固溶するが、拡散が遅れる場合には、α/γ相境界部、α結晶粒界にM23型Cr系炭化物として析出することとなる。
相変態挙動とM23型Cr系炭化物の析出挙動とは、素材温度、鋼中元素濃度、元素拡散、再結晶挙動、圧延加工歪の影響を受けながら、非常に速い速度で進行する。発明者は、好適な相変態を行わせるための必要条件指標として、上記(i)式を満足することとした。
上述したγ980の値が15未満では、Cが固溶し難いフェライト相割合が高くなり過ぎて、M23型Cr系炭化物の再固溶と再析出とが進行し難く、最終焼鈍後の組織でのM23型Cr系炭化物の分散が局所的となる。一方、γ980の値が60を超えると、熱間圧延途中でCが固溶するオーステナイト相比率が高くなり過ぎて、M23型Cr系炭化物の再析出が進行し難く、最終焼鈍後の組織でのM23型Cr系炭化物の分散が局所的となる。いずれの場合も、M23型Cr系炭化物の分散状態が好適でなくなる。
(C−2)焼鈍工程
焼鈍温度:600〜920℃
焼鈍温度が600℃未満では、鋼材の組織調整処理時間が長くなり過ぎて生産性を著しく害する。一方、920℃を超えると、鋼材の耐食性を低下させる。そのため、焼鈍温度は600〜920℃とするのが好ましい。
焼鈍時間(焼鈍温度での加熱保持時間):60秒〜12時間
焼鈍時間が60秒未満では、鋼材の機械的特性が安定しない。一方、12時間を超えると、処理時間が長くなり過ぎて生産性を害する。そのため、焼鈍時間(焼鈍温度での加熱保持時間)は60秒〜12時間とするのが好ましい。
冷却条件:空冷〜徐冷
加熱保持後の冷却は、空冷から徐冷の条件で行うことが好ましい。水冷により冷却すると、鋭敏化が生じる。これは、M23型Cr系炭化物の析出に伴い低下した析出物周囲のCr濃度の、熱拡散による上昇が、水冷による冷却では不十分となるためである。
(C−3)冷延工程
冷延工程においては、特に制限はなく、公知の方法により冷間圧延を行えばよい。
(C−4)最終焼鈍工程
焼鈍温度:600〜900℃
焼鈍温度が600℃未満では、焼鈍保持時間が長くなり生産性が著しく低下する。一方、900℃を超えると、析出しているM23型Cr系炭化物が熱的に不安定となり一部が再固溶することとなる。再固溶したM23型Cr系炭化物は焼鈍後の冷却過程で再析出するが、耐食性低下を起す場合がある。そのため、最終焼鈍工程における焼鈍温度は600〜900℃とするのが好ましい。
焼鈍時間:2秒〜5分
焼鈍時間が2秒未満では、性能が安定しない。一方、5分を超えると、製造性が著しく低下して製造コストが高くなる。そのため、最終焼鈍工程における焼鈍時間は2秒〜5分とするのが好ましい。焼鈍雰囲気については特に制限はなく、例えば、板厚が0.3mm以下の場合には光輝焼鈍で行うことができ、0.3mmを超える場合には、通常の連続焼鈍炉で行うことができる。
冷却条件:強制空冷〜空冷
最終焼鈍工程における加熱保持後の冷却は、強制空冷から空冷の条件で行うことが好ましい。
(C−5)粗面化処理工程
続いて、複合析出物が母材表面から突出するよう、表面を粗面化する処理を施すことが望ましい。粗面化処理方法について特に限定は設けないが、酸洗(エッチング)処理が最も量産性に優れている。特に、塩化第二鉄水溶液をスプレー処理するエッチング処理が本発明での用途には好ましい。高濃度の塩化第二鉄水溶液を用いるスプレーエッチング処理は国内でもステンレス鋼のエッチング処理法として広く用いられており、使用後の処理液の再利用も可能となっている。濃厚な塩化第二鉄水溶液を用いるスプレーエッチング処理は、マスキング処理を行なった後の局所的な減肉処理または貫通穴開け処理として行なわれることが多いが、本発明においては表面粗化のための溶削処理に用いる。
スプレーエッチング処理について、さらに詳しく説明する。使用する塩化第二鉄溶液は非常に高濃度の酸溶液である。塩化第二鉄溶液濃度は、ボーメ比重計で測定される示度で定量されるボーメ度で濃度の定量が行なわれている。エッチング処理は、静置状態の塩化第二鉄溶液中に浸漬、または流れのある塩化第二鉄溶液中に浸漬することで行なってもよいが、スプレーエッチングにより表面粗化することが望ましい。これは、工業的規模での生産を行なうに当たって、効率よくかつ精度よく、エッチング深さ、エッチング速度、表面粗化の程度を制御することが可能なためである。スプレーエッチング処理は、ノズルから吐出する圧力、液量、エッチング素材表面での液流速(線流速)、スプレーの当たり角度、液温により制御できる。
適用する塩化第二鉄溶液は、液中の銅イオン濃度、Ni濃度が低いことが望ましいが、国内で一般流通している工業品を購入して用いることで問題はない。用いる塩化第二鉄溶液濃度は、ボーメ度にて40〜51°の溶液である。40°未満の濃度では、穴あき腐食傾向が強くなり、表面粗化には不向きである。一方、51°を超えるとエッチング速度が著しく遅くなり、液の劣化速度も速くなる。大量生産を行なう必要がある燃料電池用素材表面の粗化処理液としては不向きである。
塩化第二鉄溶液濃度をボーメ度で40〜51°とするが、42〜46°とすることがより好ましい。また、塩化第二鉄溶液の温度は20〜60℃とするのが好ましい。温度が低下するとエッチング速度が低下し、温度が高くなるとエッチング速度が速くなる。温度が高いと液劣化も短時間で進行するようになる。
液劣化の程度は塩化第二鉄溶液中に浸漬した白金板の自然電位を測定することで連続的に定量評価が可能である。液が劣化した場合の液能力回復法の簡便な方法としては、新液注ぎ足し、または新液による全液交換がある。また、塩素ガスを吹き込んでもよい。
塩化第二鉄溶液によるエッチング処理後はすぐに多量の清浄な水で表面を強制的に洗浄する。洗浄水で希釈された塩化鉄第二鉄溶液由来の表面付着物(沈殿物)を洗い流すためである。素材表面における流速が上げられるスプレー洗浄が望ましく、また、スプレー洗浄後も流水中にしばらく浸漬する洗浄を併用することが望ましい。
洗浄中およびその後の乾燥過程において、表面に付着している各種金属塩化物、水酸化物は、大気中でより安定な金属またはその酸化物に変化する。Snおよび/またはInを含有させた場合には、金属Snもしくは金属In、またはそれらの酸化物が表面で濃化する。いずれも、導電性を有しており、表面に濃化して存在することで接触電気抵抗を下げる働きをする。
塩化第二鉄水溶液による表面粗化処理の後に、さらに硫酸水溶液を用いるスプレー洗浄、または浸漬処理を行なってもよい。前工程で行なう塩化第二鉄溶液はpHが非常に低く、流速もあるため、Sn、In等の金属またはその酸化物はどちらかといえば表面濃化し難い状態にある。しかし、塩化第二鉄溶液によるスプレー洗浄を施したエッチング素材表面に対して、例えば、20%の硫酸水溶液を用いるスプレー洗浄または浸漬処理を行うと、酸化スズまたは酸化インジウムの表面濃化が促進される。
適用する硫酸水溶液の濃度は、処理を行なう素材の耐食性により異なる。浸漬した際に、表面に気泡発生が認められ始める程度の腐食性に濃度調整する。腐食を伴いながら激しく気泡が発生するような濃度条件は望ましくない。前述の金属またはその酸化物が表面で濃化するのに支障をきたし、固体高分子形燃料電池適用直後の表面接触抵抗を下げる働きを低下するおそれがあるためである。
(D)カーボン系セパレーター
前述したフェライト系ステンレス鋼材は、金属系セパレーターの素材として用いてもよいが、カーボン系セパレーターのコア材の素材として用いてもよい。本発明に係る鋼材をコア材として備えるカーボン系セパレーターの構造について特に制限はない。
通常、コア材は、カーボン層の中芯としてカーボンセパレーターに内挿され、カーボン層に覆われた状態で用いられる。中芯としてのコア材の主たる役割は、カーボンセパレーターとしての強度を高める構造材としての働き、燃料ガスがクロスリーク(透過)することを防止する隔壁としての働きである。カーボン層は、導電性炭素質粉末と樹脂バインダとからなり、接着層を介して、コア材に固着している。
導電性炭素質粉末としては、導電性を付与する目的に使用し得るものであれば特に制限はないが、例えば、リン片状黒鉛、土塊状黒鉛等の天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アモルファスカーボンなどが挙げられる。
樹脂バインダとしては、導電性を向上させるとともに、カーボン層とコア材との接合を強化する目的に使用し得るものであれば特に制限はない。例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴムから選択される1種または2種以上の混合物を挙げることができ、これらは液状のものであっても、エマルジョン状のものであってもよい。必要に応じて、分散剤、増粘剤、安定剤、消泡材等の添加剤を添加してもよい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、フルフリルアルコール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、芳香族ポリイミド樹脂から選択される1種または2種以上の混合物を挙げることができる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリオキサメチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルクロライド、ポリフェニールサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン、フッ素系樹脂、ポリオキシベンゾイルエステル樹脂、液晶ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリアリルスルホン、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルニトリル、ポリチオエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルから選択される1種または2種以上の混合物を挙げることができる。
さらにゴムとしては、例えば、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ニトリルクロロプレンゴム、塩素化ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイドゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アクリルグリシルエーテル3次元共重合体、ウレタンゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、スチレンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴムから選択される1種または2種以上の混合物を挙げることができる。
カーボン層の炭素粉末と樹脂との量比としては、炭素粉末100重量部に対して、樹脂2〜20重量部という範囲を挙げることができる。なお、樹脂が2重量部未満の場合には、カーボン層が十分な機械的強度を保つことが難しくなる。また、20重量部を超える場合には、固有抵抗が高くなるという問題がある。
接着層は、カーボン層と同じ組成物であってもよいし、より樹脂分が多いものであってもよい。
また、カーボン層には通常は燃料ガス、酸化性ガスの通り道としての流路が形成される。
カーボン系セパレーターの製造方法については、特に限定はしないが、カソード側、アノード側、または冷却水側の流路を片面のみに成形し形状を固定したカーボン層をコア材の両面に貼り合わせる方法(図2および図3)、コア材を射出成型用金型内部に支持した状態で流動性のある固化前のカーボン層を金型内部に押し込み、型から取り出し、その後に乾燥、必要に応じて焼成する方法(図4)、固化する前のカーボン層を上下ふたつの割り型それぞれの内部に事前挿入しておいて製造する方法(図5)などがある。
各方法についてより詳しく説明を加える。なお、コア材表面、または、成形し形状を固定したカーボン層には、炭素含有導電性接着剤を事前に塗布しておいてもよい。コア材とカーボン層の密着性を高める効果がある。接着剤を塗布する方法は特に限定されないが、ディップコーティング、スプレー、刷毛塗り、スクリーン印刷などが好適である。ただし、カーボン層の性能によって、またはコア材表面の粗さ調整により、カーボン層とコア材との密着性および導電性が接着層を介することなく所望の仕様を満足するのであれば、接着剤の使用は省略してもよい。
また、コア材には、必要に応じて、抜き穴加工、せん断加工、張り出し成型加工が施されていてもよい。抜き穴は、燃料電池として構成された時の燃料ガス、酸化性ガス、冷却水の流れるマニホールドとなったり、締結のためのボルト穴となったりする。せん断加工は、具体的にはコルゲーション加工であってもよい。張り出し成型加工で形成される凹凸形状含めて、カーボン層とコア材との機械的な固着効果を高める効果がある。
(1)図2の方式について
本方式は、炭素含有導電性接着剤10をコア材11表面に塗布した後に(図2(a)参照)、成形し形状を固定したカーボン層12を貼り合わせる方式である(図2(b),(c)参照)。コア材11端面部分にも接着剤10が塗布されていてもよい。また、カーボン層12がコア材11よりも幅広に設計されていて、貼り合わせた際に、コア材11端面部がカーボン層12内部に完全に内挿されるように設計されていてもよい。
接着は、接着剤の軟化温度以上の温度に加温、保持された状態で、加圧圧着されればよい。圧着後は、乾燥と必要に応じて焼成を行えばよい。焼成は、トンネル型焼成炉を用いて搬送しながら焼き固めてもよいし、複数枚を、バッチ型焼成炉を用いて焼き固めてもよい。
(2)図3の方式について
本方式は、成形し形状を固定したカーボン層12の接着しようとする面に接着剤10を塗布した後に(図3(a)参照)、コア材11を貼り合わせる方式である(図3(b),(c)参照)。接着面ではないカーボン層12表面にも接着剤10が塗布されていてもよい。
また、カーボン層12がコア材11よりも幅広に設計されていて、貼り合わせた際に、コア材11端面部がカーボン層12内部に完全に内挿されるように設計されていてもよい。
接着は、接着剤の軟化温度以上の温度に加温、保持された状態で、加圧圧着されればよい。圧着後は、乾燥と必要に応じて焼成を行えばよい。焼成は、トンネル型焼成炉を用いて搬送しながら焼き固めてもよいし、複数枚を、バッチ型焼成炉を用いて焼き固めてもよい。
(3)図4の方式について
本方式は、炭素含有導電性接着剤10をコア材11表面に塗布した後に(図4(a)参照)、射出成型用金型13a,13b内部にコア材11を所望の位置に支持した状態で(図4(b)参照)、流動性を有するカーボン層12を金型13a,13b内部に導入して一体成型する方式である(図4(c)参照)。離型後に、乾燥と必要に応じて焼成を行えばよい。焼成は、トンネル型焼成炉を用いて搬送しながら焼き固めてもよいし、複数枚を、バッチ型焼成炉を用いて焼き固めてもよい。最も量産性に優れており、大量生産時には、コスト低減が期待できる。
(4)図5の方式について
本方式は、形状保持が可能な未固化のカーボン層12を成型型14a,14b内部に型込めした後に(図5(a)参照)、炭素含有導電性接着剤10を塗布したコア材11表面に加圧圧着する方式である(図5(b)参照)。離型後に、乾燥と必要に応じて焼成を行えばよい。焼成は、トンネル型焼成炉を用いて搬送しながら焼き固めてもよいし、複数枚を、バッチ型焼成炉を用いて焼き固めてもよい。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する鋼No.1〜21を180kg真空溶解炉にて溶解し、インゴット頂部の最大外径が280mmの丸型インゴットに造塊した。
Figure 0006278172
インゴット鋳肌表面を機械削りにより取り除き、1220℃に加熱した都市ガスバーナー燃焼加熱炉内にて加熱して、2時間均熱保持した後に、鋼塊の表面温度が1180℃から870℃の温度範囲において、厚さ35mm、幅160mmの熱間圧延用スラブに鍛造し、放冷した。鍛造スラブより厚さ30mm、幅150mm、長さ200mmの鋼片を鋸切断および表面切削により作製し、熱間圧延用鋼片とした。
熱間圧延用鋼片は、1220℃に設定した電気炉内で加熱を行ない、7パスでの熱間圧延と冷却とを行なった。1050℃を超える温度域での総圧下率は55%で一定とした。また、最終パスはすべての鋼材について鋼片表面温度が920℃となった時点で開始した。
熱間圧延終了直後の鋼片は、熱延コイルの放冷パターンを模擬した方法により、冷却した。具体的には、熱間圧延材を熱間圧延直後に、市販の断熱材である『イソウール』(イソライト工業株式会社製高温断熱材の商品名)の間に挟み込んで16時間かけて緩やかに放冷した後に、イソウールを外して空冷した。使用したイソウール厚みは30mmである。
16時間放冷後でもイソウールを外す前の鋼材表面温度は500℃を超える温度にあり、概ね、量産製造する際の8トン熱間圧延コイルの放冷の温度履歴と類似している。いずれの素材についても熱間圧延途中で割れが生じることはなく、熱間圧延鋼材の外観は健全であった。熱間圧延仕上げ板厚は3mmで一定とした。
さらに、熱間圧延後の鋼材に、箱焼鈍を想定した820℃×6時間保持の熱処理を施した。その後、鋼材表面温度が300℃以下となるまでイソウールの間に挟み込んで徐冷を行ない、その後は強制空冷を行なった。
鋼No.1〜21の試料についてミクロ組織観察を行った結果、全ての鋼材でNb系炭化物析出物が結晶粒内に分散析出していることを確認した。また、鋼No.21を除く鋼No.1〜20の試料において、Cr系炭化物の析出が確認された。さらに、鋼No.1〜21の試料について、10%AA系電解液中で溶解し、フィルター径0.05マイクロメータのNuclepore membrane R(商品名)を用いることで、抽出残渣を捕集した。そして、残渣に含まれるC、NbおよびCrの量を分析した。
後述のように、残渣のほとんどは、Nb系炭化物を析出核としその表面にM23型Cr系炭化物が析出した複合型析出物であった。定量したNbの全量がNb系炭化物の形で存在するとみなし、定量したC量とNb量とから、M23型Cr炭化物として存在するC量を求めた。試験No.21については、微細なNbCのみが析出していたため、残渣を全て捕集することができず、定量評価として適切な組成の分析ができなかった。
さらに、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−700)を用いて、抽出残渣の球相当径を測定し、その値を複合析出物の平均粒径とした。それらの結果を表2に示す。
Figure 0006278172
なお、抽出残渣のSEM観察およびEDX(Energy Dispersive X−rayspectroscopy)分析を行った結果、M23型Cr系炭化物のほとんどがNb系炭化物を析出核としその表面に析出した複合析出物を形成していること、および残渣のほとんどが前記複合析出物であることが確認された。また、Tiを含有する鋼材の残渣中には、Ti系窒化物、Ti系炭窒化物、Ti系硫化物が認められた。多くが複合型であり、Nb系炭化物、M23型Cr系炭化物と共存していた。
表面の酸化スケールを機械加工により完全に除去した後、JIS G 0575に準拠した粒界腐食試験を行なった。ただし、基材の全面腐食を抑制して粒界腐食性のみを評価するために、試験温度を90℃に下げた改良評価試験としている。その結果、粒界腐食は認められなかった。
その後、ショットブラストによる表面酸化スケール除去を行ない、さらに、8%硝酸+6%ふっ酸を含む、60℃加温の硝ふっ酸溶液中に浸漬し、脱スケール処理を行ない、冷間圧延用素材とした。冷間圧延は仕上げ板厚を0.8mmで一定とし、圧延終了後に、820℃×3分の条件で保持する焼鈍処理を行なった。
その後、再度、M23型Cr系炭化物の観察を行った。その結果、鋼No.21を除く鋼No.1〜20において、Nb系炭化物とM23型Cr系炭化物とからなる複合炭化物が確認できた。析出は、粒内析出であり、結晶粒界析出は確認することができなかった。粒内に細かく分散するNb系炭化物を析出核として、その表面にM23型Cr系炭化物が析出、成長、肥大化している様子が認められた。なお、Ti系の窒化物および炭窒物もわずかながら確認された。Ti系の窒化物および炭窒物の一部で、その表面にM23型Cr系炭化物が析出、成長、肥大化していた。
続いて、ショットブラストによる表面酸化スケール除去を行ない、さらに、8%硝酸+6%ふっ酸を含む、60℃加温の硝ふっ酸溶液中に浸漬し、脱スケール処理を行ない性能評価用試験片とした。性能評価用試験片から80mm×120mmの板材を切断にて切り出した後に、湿式600番エメリー研磨紙で表面を湿式ベルト方式研磨機で研磨処理した。さらに、板表面を、液温35℃の密度規準濃度で46°ボーメの塩化第二鉄水溶液を噴霧することにより片側8μm溶削を行ない、その後、水洗した。噴霧時間は、35秒で一定とした。処理後の試験片を用いて、各種性能評価試験を行なった。評価結果は表2に併せて示す。
表面粗さの測定は、JIS B 0601にて規格化されているRa評価方法に拠る。
各試験片の電気的な接触抵抗値は、東レ製カーボンペーパ“トレカ(商品名)TGP−H−90”を用いる四端子法による接触抵抗値測定方法にて評価した。この方法は、最も一般的な金属セパレーター用素材表面の接触抵抗測定方法である。測定時の付加荷重は5kg/cmから25kg/cmまでの範囲で変化させて測定したが、表2には15kg/cm付加時の測定値を示す。接触電気抵抗値は低いことが望ましい。本発明においては、接触電気抵抗値が20mΩ・cm以下の場合に、接触抵抗性能が優れると判断することとした。なお、同じ方式での金めっき表面の電気的な接触抵抗値は2mΩ・cmである。
エッチング処理後の試験片単体としての耐食性は、燃料電池内を模擬するpH3、液温80℃の硫酸水溶液中に浸漬する試験により評価した。当該環境は、コア材がカーボン層から構造的に不可避に、またはカーボン層欠陥部から不可避に直接露出している場合を想定したものである。具体的には、1200mL容量の石英ガラス製試験容器に600mLの硫酸水溶液を入れて、30mm×60mmの大きさの試験片2枚をPTFE製治具に立て掛けた状態で浸漬試験を行い、試験後の溶液分析を行なった。浸漬試験時間は24時間である。溶液中の金属イオン量の定量は、FeおよびCrを対象として行なった。
表2には、FeおよびCrの溶出イオン濃度の合計(ppm)を示している。また、溶出したFeおよびCrの合計量が150ppm以上である場合を「×」、150ppm未満20ppm以上である場合を「○」、20ppm以下である場合を「◎」で示した。燃料電池性能に悪影響を及ぼすおそれのある金属イオンの溶出量は低ければ低いほど好ましい。
その後、上記のエッチング処理後の試験片の表面に、コア材とカーボン層との密着性改善のための接着層を形成した。接着剤として、市販のリン片状黒鉛(平均粒径3μm)50重量部、アセチレンブラック(平均粒径40nm)50重量部および導電性アモルファスカーボン0.1重量部に、フェノール樹脂32重量部をボールミルにて混合したものを作製した。そして、該接着剤をスプレー塗布し、自然乾燥させ、評価用素材を作製した。その後、該評価用素材を用いて、80℃温水浸漬試験による密着性評価を行なった。評価用素材の大きさは30mm×120mmであった。n数は2である。接着層厚みは片側30μmである。
ここで、80℃温水浸漬試験について説明する。80℃温水浸漬試験とは、イオン交換水中に浸漬した状態で8時間浸漬放置を行なった後の表面状態評価を行なう剥離試験である。なお、浸漬試験を行う前に、100mmφの磨き丸鋼(棒)表面に沿わせて試験片を曲げるベンド加工評価を行なっている。この際に、試験片が硬すぎるか、または延性不足のため破断が生じ、曲げ加工そのものができなかったものは「×破断」で表記した。
接着層の密着性が劣るものはベンド加工のみで剥離および脱落が起こる。浸漬試験前のベンド加工時点で導電性スキンが剥離と脱落が起こったものを「×剥離」、浸漬試験後も固着して残っているものを「○」で表記した。剥離には、表面凹凸形状による固着効果と接着層下でのコア材の腐食による界面剥離とが影響する。浸漬試験中に剥離する主たる原因は、接着層下でのコア材腐食である。結果をまとめて表2に示す。
接着層の上にさらに、カーボン層を設けた試験用カーボンセパレーターを作製し、性能評価に供した。カーボン層として、市販のリン片状黒鉛(平均粒径3μm)70重量部、アセチレンブラック(平均粒径40nm)20重量部、導電性アモルファスカーボン0.5重量部、およびフェノール樹脂20重量部からなる導電性樹脂を用いた。そして、接着層を形成した後のコア材を、金型を用いて厚さ方向中央部に位置するように配置し、射出成型法によってコア材の両面にカーボン層を被覆した。カーボン層厚みは平均で片側0.3mmとした。
なお、表2中に−印で示した鋼材は、ベンド加工時点で素材が硬すぎて導電性コア材として適用が難しいと判断したものである。そのため、これらの試料については、カーボン層の被覆を行わなかった。硬すぎる鋼材は、必要に応じて行われる流路形成のための成形加工が困難であるため、コア材としては不向きであると見なせる。
性能評価は、導電性コアの耐食性評価方法と同じ条件で評価した。すなわち、燃料電池内を模擬するpH3、液温80℃の硫酸水溶液中に浸漬する試験により評価した。ただし、試験時間を96時間とした。なお、コア材の端面は、露出させて評価を行っている。
実施した素材については、いずれの場合も、カーボン層、炭素含有導電性接着層の剥離は確認されなかった。溶液中の金属イオン量の定量は、CrとFeの定量評価を行なった。表2には、FeとCrの金属溶出イオンの総和を基準に、20ppm以上である場合を「×」、20ppm未満5ppm以上である場合を「△」、5ppm未満である場合を「○」として表記している。金属イオンの溶出量は低ければ低いほど好ましい。
以上の評価を通じて、本発明の規定を満足する鋼材は、固体高分子形燃料電池セパレーター用材料として問題のない性能を有していると判断された。
表3に示した鋼No.22を、通常の量産に用いる80トン規模真空精錬炉にて溶解し、厚み200mm、幅1030mmのスラブに連続鋳造した。スラブ表面温度が350℃以下とならないように保持しつつ、1220℃に加熱したガスバーナー燃焼方式のスラブ加熱炉内に挿入して6時間均熱保持した。その後、スラブ表面温度が1170℃から920℃までの温度範囲でタンデム式熱間圧延機を用いて、厚さ3.2mm、コイル単重9トンの熱延コイルとして巻き取った。巻取り開始温度は、625℃であった。巻取り後はコイル空冷とした。
Figure 0006278172
熱間圧延コイル材は、連続式コイル焼鈍ラインにて820℃×150秒保持の焼鈍処理を行ない、強制空冷処理して冷却した。その後に、ショットブラストによる表面酸化スケール除去を行ない、さらに、8%硝酸+6%ふっ酸を含む、60℃加温の硝ふっ酸溶液中浸漬にて脱スケール処理を行ない、冷間圧延用素材とした。
冷間圧延では、コイル幅を960mmまでスリット加工した後に上下各10段ロールのゼンジミア式冷間圧延機を用いて、厚み0.1mm、幅400mmの冷間圧延コイルに仕上げた。
最終焼鈍は、露点を−50〜−53℃に調整した75体積%H−25体積%N雰囲気の光輝焼鈍炉内にて行った。均熱ゾーンの加熱温度は820℃、保持時間は120秒間である。この際、顕著な端面割れ、コイル破断、コイル表面疵、コイル穴あきは認められなかった。
組織はフェライト単相組織であり、粒内にNb系炭化物が分散析出し、M23型炭化物がNb系炭化物を析出核としてその表面に析出している様子が確認された。
また、鋼No.23〜27は、市販のJIS規格適合冷間圧延コイルであり、光輝焼鈍(BA)仕様材である。板厚は0.1mmである。鋼No.25および26にはNb系炭化物が析出しており、鋼No.23および24にはM23型Cr系炭化物の析出が認められた。
これらの試料について、実施例1と同様の方法で、複合析出物中に含まれるNbおよびCrの量、M23型Cr炭化物として存在するC量ならびに平均粒径を求めた。その結果を表4に示す。
Figure 0006278172
表面の光輝焼鈍皮膜を600番エメリー紙研磨で除いた後に洗浄し、JIS G 0575に準拠した粒界腐食試験を行った。ただし、基材の全面腐食を抑制して粒界腐食性のみを評価するために、試験温度を90℃に下げた改良評価試験としている。その結果、粒界割れは発生しなかった。
厚み0.1mm、幅400mm、長さ300mmの切り板を採取し、30℃、43°ボーメの塩化第二鉄溶液によるスプレーエッチング処理を切り板の上下面全面に同時に行った。噴霧によるエッチング処理時間は約30秒間である。通板速度で調整を行ない、溶削量は片面5μmとした。試験片を採取し、実施例1で行なった評価と同じ評価を行なった。評価結果は表4に併せて示す。
本発明によれば、燃料電池内の環境での耐食性に優れ、かつ、接触電気抵抗が低いフェライト系ステンレス鋼材が得られる。本発明に係るフェライト系ステンレス鋼材は、金属系セパレーターまたはカーボン系セパレーターのコア材といった、固体高分子形燃料電池セパレーター用材料として好適に用いることができる。
本発明のステンレス鋼製セパレーターは、高価な元素を含有することもなく、かつ導電性付与のための特殊な表面処理を行うこともない。表面に露出した、Nb系炭化物を析出核として析出したM23型Cr系炭化物により良好な電気的な導電性を有している。固体高分子形燃料電池用セパレーターとしての耐食性能も安定しており、量産性にも優れている。また、回収されたセパレーターはそのまま汎用ステンレス鋼溶解用スクラップ原料としてリサイクル使用することも可能である。
1.燃料電池
2.固体高分子電解質膜
3.燃料電極膜(アノード)
4.酸化剤電極膜(カソード)
5a,5b.セパレーター
6a,6b.流路
10 接着剤
11 コア材
12 カーボン層
13a,13b 金型
14a,14b 成型型

Claims (7)

  1. 母材の化学組成が、質量%で、
    C:0.03%を超えて0.15%以下、
    Si:0.05〜1.5%、
    Al:0.001〜1.0%、
    Mn:0.01〜1.0%、
    P:0.045%以下、
    S:0.01%以下、
    N:0.05%以下、
    V:0.5%以下、
    Cr:13.0〜28.5%、
    Nb:0.05〜(6.5×C)%、
    Mo:0〜4.0%、
    Ni:0〜5.5%、
    Cu:0〜0.8%、
    Sn:0〜2.5%、
    In:0〜0.1%、
    REM:0〜0.1%、
    B:0〜0.0030%、
    Ti:0〜(3×N)%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    フェライト相からなる母材中に、結晶粒内に析出したNb系炭化物を析出核として、その表面にM23型Cr系炭化物が析出した複合析出物を有し、
    前記複合析出物は、その一部が母材表面から突出している、
    フェライト系ステンレス鋼材。
  2. 前記化学組成が、下記(i)式を満足する、
    請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
    15≦γ980≦60 ・・・(i)
    ただし、上記(i)式中のγ980は、下記(ii)式で定義される値である。また、(ii)式中の[A]および[B]は、それぞれ下記(iii)式および(iv)式で算出される値であり、当該値が0未満と算出される場合には0を代入する。さらに、(ii)〜(iv)式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
    γ980=420×[A]+470×[B]+23×Ni+7×Mn+9×Cu−11.5×(Cr+Si)−52×Al−69×Sn+189 ・・・(ii)
    [A]=C−0.13×Nb ・・・(iii)
    [B]=N−0.29×Ti ・・・(iv)
  3. 前記化学組成が、質量%で、
    Mo:0.2〜4.0%、
    Ni:0.3〜5.5%、
    Cu:0.3〜0.8%、
    Sn:0.05〜2.5%、
    In:0.002〜0.1%、
    REM:0.002〜0.1%、
    B:0.0002〜0.0030%、および
    Ti:0.03〜(3×N)%、
    から選ばれる1種以上を含有する、
    請求項1または請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
  4. 固体高分子形燃料電池用の金属系セパレーターであって、
    請求項1から請求項3までのいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼材を備える、
    固体高分子形燃料電池用セパレーター。
  5. 固体高分子形燃料電池用のカーボン系セパレーターであって、
    コア材の表面に、導電性接着層を介してカーボン層を有し、
    前記コア材として、請求項1から請求項3までのいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼材を備える、
    固体高分子形燃料電池用セパレーター。
  6. 請求項4または請求項5に記載のセパレーターを備える、
    固体高分子形燃料電池用セル。
  7. 請求項6に記載のセルを備える、
    固体高分子形燃料電池。
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