JP3397168B2 - 固体高分子型燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼および固体高分子型燃料電池 - Google Patents
固体高分子型燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼および固体高分子型燃料電池Info
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Description
小さく、耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼であ
って、自動車搭載用や家庭用等の小型分散型電源として
用いられる固体高分子型燃料電池セパレータ用のステン
レス鋼、およびそのステンレス鋼からなるセパレータ
(バイポーラプレートと呼ばれることもある)を備えた
固体高分子型燃料電池に関する。
に不働態体皮膜が形成されているため耐食性に優れてい
る。しかし、表面の不働態体皮膜は電気抵抗が大きいた
め、小さい接触電気抵抗が要求される通電して使用され
る電気部品には適していない。不働態体皮膜の厚さが厚
くなれば耐食性はより優れたものとなるが、電気抵抗は
より大きくなる傾向にある。
を小さくすることができれば、フェライト系ステンレス
鋼を耐食性が要求される通電電気部品として使用するこ
とが可能となる。優れた耐食性と小さい接触電気抵抗が
要求される通電電気部品の一つに固体高分子型燃料電池
のセパレータがある。
流電力を発電する電池であり、固体電解質型燃料電池、
溶融炭酸塩型燃料電池、リン酸型燃料電池および固体高
分子型燃料電池などがある。燃料電池の名称は、電池の
根幹をなす『電解質』部分の構成材料に由来している。
は、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池がある。
燃料電池のおおよその運転温度は、固体電解質型燃料電
池で1000℃、溶融炭酸塩型燃料電池で650℃、リ
ン酸型燃料電池で200℃および固体高分子型燃料電池
で80℃である。
℃前後と低く起動−停止が容易であり、エネルギー効率
も40%程度が期待できることから、小事業所、電話局
などの非常用分散電源、都市ガスを燃料とする家庭用小
型分散電源、水素ガス、メタノールあるいはガソリンを
燃料とする低公害電気自動車搭載用電源として、世界的
に実用化が期待されている。
言う共通の呼称で呼ばれているものの、それぞれの電池
構成材料を考える場合には、全く別物として捉えること
が必要である。使用される電解質による構成材料の腐食
の有無、380℃付近から顕在化し始める高温酸化の有
無、電解質の昇華と再析出、凝結の有無等により求めら
れる性能、特に耐食性能が、それぞれの燃料電池で全く
異なるためである。実際、使用されている材料も様々で
あり、黒鉛系素材から、Niクラッド材、高合金、ステ
ンレス鋼と多様である。
炭酸塩型燃料電池に使用されている材料を、固体高分子
質型燃料電池の構成材料に適用することは全く考えるこ
とができない。
す図で、図1(a)は、燃料電池セル(単セル)の分解
図、図1(b)は燃料電池全体の斜視図である。同図に
示すように、燃料電池1は単セルの集合体である。単セ
ルは、図1(a)に示すように固体高分子電解質膜2の
1面に燃料電極膜(アノード)3を、他面には酸化剤電
極膜(カソード)4が積層されており、その両面にセパ
レータ5a、5bが重ねられた構造になっている。
水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系イオン
交換樹脂膜がある。
粒子状の白金触媒と黒鉛粉、必要に応じて水素イオン
(プロトン)交換基を有するフッ素樹脂からなる触媒層
が設けられており、燃料ガスまたは酸化性ガスと接触す
るようになっている。
から燃料ガス(水素または水素含有ガス)Aが流されて
燃料電極膜3に水素が供給される。また、セパレータ5
bに設けられている流路6bからは空気のような酸化性
ガスBが流され、酸素が供給される。これらガスの供給
により電気化学反応が生じて直流電力が発生する。
れる機能は、(1)燃料極側で、燃料ガスを面内均一に
供給する“流路”としての機能、(2)カソード側で生
成した水を、燃料電池より反応後の空気、酸素といった
キャリアガスとともに効率的に系外に排出させる“流
路”としての機能、(3)長時間にわたって電極として
低電気抵抗、良電導性を維持する単セル間の電気的“コ
ネクタ”としての機能、および(4)隣り合うセルで一
方のセルのアノード室と隣接するセルのカソード室との
“隔壁”としての機能などである。
板材の適用が鋭意検討されてきているが、カーボン板材
には“割れやすい”という問題があり、さらに表面を平
坦にするための機械加工コストおよびガス流路形成のた
めの機械加工コストが非常に高くなる問題がある。それ
ぞれが宿命的な問題であり、燃料電池の商用化そのもの
を難しくさせかねない状況がある。
格段に安価であることから、固体高分子型燃料電池セパ
レータ用素材として最も注目されている。しかしなが
ら、ガス透過性を低減して前記隔壁としての機能を付与
するためには、“複数回”に及ぶ樹脂含浸と焼成を実施
しなければならない。また、平坦度確保および溝形成の
ための機械加工コスト等今後も解決すべき課題が多く、
実用化に至っていない。こうした黒鉛系素材の適用の検
討に対峙する動きとして、コスト削減を目的に、セパレ
ータにステンレス鋼を適用する試みが開始されている。
属製部材からなり、単位電池の電極との接触面に直接金
めっきを施した燃料電池用セパレータが開示されてい
る。金属製部材として、ステンレス鋼、アルミニウムお
よびNi−鉄合金が挙げられており、ステンレス鋼とし
ては、SUS304が用いられている。この発明では、
セパレータは金めっきが施されているので、セパレータ
と電極との接触抵抗が低下し、セパレータから電極への
電子の導通が良好となるため、燃料電池の出力電圧が大
きくなるとされている。
に形成される不働態膜が大気により容易に生成される金
属材料からなるセパレータが用いられている固体高分子
電解質型燃料電池が開示されている。金属材料としてス
テンレス鋼とチタン合金が挙げられている。この発明で
は、セパレータに用いられる金属の表面には、必ず不働
態膜が存在しており、金属の表面が化学的に侵され難く
なって燃料電池セルで生成された水がイオン化される度
合いが低減され、燃料電池セルの電気化学反応度の低下
が抑制されるとされている。また、セパレータの電極膜
等に接触する部分の不働体膜を除去し、貴金属層を形成
することにより、電気接触抵抗値が小さくなるとされて
いる。
ている表面に不働態膜を備えたステンレス鋼のような金
属材料をそのままセパレータに用いても、耐食性が十分
でなく金属の溶出が起こり、溶出金属イオンにより担持
触媒性能が劣化(以下、担持触媒の被毒と記す)する。
また、溶出後に生成するCr-OH、Fe-OHのような腐食生成
物により、セパレータの接触抵抗が増加するという問題
があるので、金属材料からなるセパレータには、コスト
を度外視した金めっき等の貴金属めっきが施されている
のが現状である。
は、適用したという実績があるにすぎず、実用化にはほ
ど遠い状況にある。
ない“無垢”で適用でき、電池環境での接触電気抵抗が
小さいと共に、耐食性に優れたステンレス鋼の開発が極
めて強く望まれており、ステンレス鋼製セパレータの実
用化が固体高分子型燃料電池の商用化、適用拡大の成否
を握っていると言っても過言ではない。
電気抵抗が小さく、耐食性に優れた、特に固体高分子型
燃料電池のセパレータ環境で、高価な表面処理を施すこ
となく、無垢のままで使用しても、溶出金属イオンの少
ないフェライト系ステンレス鋼、およびそのステンレス
鋼からなるセパレータを備えた固体高分子型燃料電池を
提供することにある。
本発明の要旨は、以下の通りである。
%、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.01〜1
%、P:0.035%以下、S:0.01%以下、C
r:10〜35%、Ni:0.01〜1%、Cu:0.
01〜1%、N:0.05%以下、V:0.3%以下お
よびAl:0.001〜0.2%を含有し、かつCr+
3Moが13〜43%であって、残部Feおよび不可避
不純物からなり、Cr系炭化物として析出しているC量
および鋼中の全C量が、下記の式を満足している接触
電気抵抗の小さい固体高分子型燃料電池のセパレータ用
フェライト系ステンレス鋼。
0.01〜1.5%、Mn:0.01〜1%、P:0.
035%以下、S:0.01%以下、Cr:10〜35
%、Ni:0.01〜1%、Cu:0.01〜1%、
N:0.05%以下、V:0.3%以下、Al:0.0
01〜0.2%、ならびにMo:6%以下、W:4%以
下および希土類元素:0.1%の中の1種以上を含有
し、かつCr+3Moが13〜43%であって、残部F
eおよび不可避不純物からなり、Cr系炭化物として析
出しているC量および鋼中の全C量が、上記の式を満
足している接触電気抵抗の小さい固体高分子型燃料電池
のセパレータ用フェライト系ステンレス鋼。
料電極膜と酸化剤電極膜を重ね合わせた単位電池を複数
個、単位電池間にセパレータを介在させて積層した積層
体に、燃料ガスと酸化剤ガスを供給して直流電力を発生
させる固体高分子型燃料電池であって、セパレータが上
記(1)または(2)に記載のフェライト系ステンレス
鋼からなる固体高分子型燃料電池。
を有するものである。すなわち、a)燃料極側で、燃料
ガスを面内均一に供給する"流路"としての機能、b)カ
ソード側で生成した水を、燃料電池より反応後の空気、
酸素といったキャリアガスとともに効率的に系外に排出
させる"流路"としての機能、c)長時間にわたって電極
として低電気抵抗、良電導性を維持する単セル間の電気
的"コネクタ"としての機能、およびd)隣り合うセルで
一方のセルのアノード室と隣接するセルのカソード室と
の"隔壁"としての機能を有するものである。これらの機
能を複数枚のプレートで機能分担させる構造にする場合
もある。本発明でいうセパレータとは、少なくとも上記
C)の機能を有するプレートをセパレータと言う。
されるCrを含む炭化物をいう。炭化物中にFe、Mo
などのCrと並んでCとの化学的親和力の強い金属元素
を微量含有している場合もある。
電気部品用のフェライト系ステンレス鋼、特に固体電解
質型燃料電池セパレータ環境において、鋼表面から溶出
する金属イオンができるだけ少なく、長時間にわたって
セパレータとして使用しても、電極用黒鉛との接触電気
抵抗が大きくならないステンレス鋼の開発を目指して種
々の試験を実施した。その結果、以下の知見を得て本発
明を完成するに至った。
ンレス鋼は比較的良好な耐食性を発揮するが、一般のフ
ェライト系ステンレス鋼では金属溶出が起こる。
eを主体とする水酸化物)が生成し、接触電気抵抗の増
大をもたらし、かつ担持触媒性能に著しい悪影響を及
す。起電力に代表される電池性能が短時間で劣化し、水
素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系イオン交
換樹脂膜のプロトン伝導性が劣化する。 c)表面に形成される不働態皮膜の電気抵抗はステンレ
ス鋼固有のものであり、電池性能を確保するのに十分小
さい不働態皮膜電気抵抗を安定して維持させることは容
易でない。
レータとしての耐食性を確保するためには、不働態皮膜
は必要不可欠である。
にしても、被膜厚が厚くなると接触電気抵抗が増大し、
電池効率が著しく低下する。
電気伝導性に優れた接触点として作用しており、ステン
レス鋼をセパレータとして用いた際に問題となる接触電
気抵抗は、接触単位面積当りの接触点数と面積、表面に
形成される不働態皮膜の電気抵抗に依存している。
ステンレス鋼は、鋼表面の不働態皮膜の如何によらず、
接触電気抵抗を継時的に低く維持することができる。た
だし、Cr含有炭化物として析出しているC量および鋼
中の全C量が下記式を満足していなければならない。
×100/(鋼中全C重量%)-0.00015%)≧80 h)不働態被膜を強固にして、セパレータ環境で金属の
溶出を抑制するためには、CrとMoの含有量は(Cr
+3Mo)が17〜43%の範囲内になるようにする必
要がある。
性が確保される。Moは溶出したとしても、アノードお
よびカソード部に担持されている触媒の性能に対する影
響は比較的軽微である。
ンレス鋼の化学組成を規定した理由を詳しく説明する。
なお、下記の%表示は重量%を示す。
元素である。Cr系主体の炭化物として分散析出するこ
とで、不働態皮膜で覆われるステンレス鋼表面の接触電
気抵抗を下げる効果がある。
化物の析出は、“鋭敏化”として知られる耐食性低下の
主原因となり少ないほどよいとされている。しかし、本
発明ではクロム系炭化物を積極的に析出させて利用する
ものである。
薄い不働態皮膜が生成しており優れた耐食性を示すが、
母材に比べて電気伝導性が劣り、接触電気抵抗を高め
る。不働態皮膜を薄くすることで、電気抵抗を小さくす
ることも可能ではあるが、特に固体高分子型燃料電池内
部では、安定して不動態皮膜を薄い状態で維持すること
は容易ではない。
皮膜に覆われることなく表面に直接露出することが、ス
テンレス鋼表面の電気伝導性を長時間にわたって低く安
定させるのに極めて有効である。すなわち、Cr系炭化
物は耐食的に安定で、かつ表面に不働態皮膜を形成しな
いため、たとえ固体高分子型燃料電池内部で表面の不働
態皮膜が厚くなったとしても、鋼表面に露出しているC
r系炭化物を介して良電導性が確保されることとなり、
鋼表面の接触電気抵抗が高くなるのを抑制することがで
きる。言いかえるならば、不働態皮膜に覆われることな
く露出している微細なクロム系炭化物が『電気の通り道
(迂回路)』として機能することで、接触電気抵抗を低
く維持することができる。
多量に含有させると、強度および硬度が高くなり、延性
も低下する。また常温靱性の低下も大きくなる。固体高
分子型燃料電池用セパレータ材としての成形性を確保す
るためにも、鋼中のCを炭化物として析出させて、固溶
C量を下げる必要がある。炭化物として、Cを析出させ
ることで、鋼の成形性が改善される。すなわち、成形性
確保の点からも、鋼中のCを炭化物として析出させるこ
とが必要である。さらに、炭化物を熱処理で凝集粗大化
させることも、加工性を一層改善させるのに有効であ
る。長時間保持することで、炭化物は凝集、粗大化す
る。
るためにCを0.01%以上、0.15%以下の量で含
有させる。0.15%を超えて含有させると、固体高分
子型燃料電池セパレータ用としての成形性を確保するこ
とができなくなる。
×100/(鋼中全C重量%-0.0015%)≧80 :不働態被膜を表面に有するフェライト系ステンレス鋼
をセパレータとして用いた場合、電極との接触電気抵抗
を小さくするためには、Cr含有炭化物として析出して
いるC重量と鋼中全C重量を下記式を満足するように調
整する必要がある。
×100/(鋼中全C重量%-0.0015%)≧80 以下、この(Cr含有炭化物として析出しているC重量%)×
100/(鋼中全C重量%-0.0015 %)をI値という。
物が析出している効果がなく、通常のフェライト系ステ
ンレス鋼の接触電気抵抗と同程度になる。
として500〜950℃の温度域に保持する熱処理を施
せばよい。950℃を超える温度域では、Cr系炭化物
は熱的に不安定となり再固溶する。一方、500℃以下
では鋼中C,Crの拡散速度が遅く、量産での析出処理
時間が長くなり工業的な観点より好ましくない。Cr系
炭化物析出に好適な処理温度域は650℃以上、900
℃以下であり、さらに好ましくは800℃以上、900
℃以下である。ただし、温度が高いほど析出量は少なく
なる。
が、析出しやすい結晶粒界に優先析出する傾向がある。
接触電気抵抗を低くする上で、クロム系炭化物が粒界、
粒内いずれに析出するかはさほどの影響はないが、均一
に分散させるとの観点より考えるると、粒内にも分散析
出していることが望ましい。
炭化物を析出させた状態で、Cr系炭化物が再固溶しな
い温度域および時間内に熱間圧延あるいは冷間圧延で加
工歪を付与した後、再度500℃以上、950℃以下の
Cr系炭化物析出温度域に保持すればよい。再固溶した
鋼中Cが、粒界あるいは粒内に固溶せず残留している炭
化物を核として再度析出する。新粒界が形成されること
で旧粒界に析出していた炭化物が新粒内に析出すること
となる。
は、鋭敏化により母材耐食性を低下させる可能性があ
る。鋭敏化とは、Cr系炭化物が析出することでその周
囲にCr欠乏層が生成することで起こる耐食性の低下で
ある。Cr系炭化物析出処理で500℃以上、950℃
以下の温度域に長時間保持し、緩冷却することで鋭敏化
を回避、あるいは鋭敏化度を小さくすることができる。
一般的に、冷却速度は遅いほど望ましい。ただし、鋭敏
化抑制の熱処理時間は、鋼中のC量および材料の履歴に
より異なる現象がある。すなわち、鋭敏化抑制の熱処理
は、炭化物析出処理の熱処理前での炭化物での析出状
況、残留加工歪量および保持温度などにより一概に規定
することが困難である。一例としては、830℃×6時
間炉冷などがある。析出熱処理をおこなった直後に冷却
することなく継続して処理をおこなってもよい。また、
いったん冷却した後、再度500℃以上、950℃以下
の温度域に加熱保持し、緩冷却してもよい。
るC重量%)値の定量は、例えば試験材を、AA液(1
0%アセチルアセトン−1%テトラメチルアンモニウム
クロライド−残りメタノール)を用いる非水溶媒溶液中
での定電流電解をおこない、地金を溶解して得られた
“抽出残渣”中のCrの定量分析結果から、Crがすべ
てCr23C6であるとして等量計算によりおこなうこと
ができる。
は、赤外線吸収法を用いて定量することができる。すな
わち、試験片を酸素気流中で加熱、溶解して、鋼中の炭
素を十分に加熱して二酸化炭素とし、これを酸素と共に
赤外線吸収セルに送り、二酸化炭素による赤外線吸収量
で定量分析する。この方法は、現在では最も一般的な鋼
中C定量法である。
内であることが必要である。Siは、量産鋼においては
Alと同様に有効な脱酸元素である。0.01%未満で
は脱酸が不十分となり、一方1.5%を超えると成形性
が低下するので、Si含有量は0.01〜1.5%とし
た。0.1%から0.5%が生産性、成形性の改善およ
び生産コスト低減の観点からは最も望ましい。
化物として固定する作用があり、熱間加工性を改善する
効果がある。また脱酸元素あるいはNiバランス調整元
素として積極的に添加してもよい。これらの効果を得る
には、0.01%以上が必要である。一方、上限は1%
とするのは、不動態を維持している状態においても金属
の溶出がわずかづつ進行するが、1%を超える量になる
と、溶出したMnイオンが、アノードおよびカソード触
媒層の被毒に対して少なからず影響を及ぼすためであ
る。
必要である。セパレータにとっては、PはSと並んで最
も有害な不純物である。低ければ低い程望ましい。
必要である。Sは、鋼中共存元素および鋼中のS量に応
じて、Mn系硫化物、Cr系硫化物、Fe系硫化物、こ
れらの複合硫化物および酸化物との複合非金属介在物と
してほとんどは析出している。しかしながら、セパレー
タ環境においては、いずれの組成の非金属介在物であっ
ても、程度の差こそあれ腐食の起点として作用し、不働
態化の維持、腐食溶出抑制にとって有害である。
て、フェライト系ステンレス鋼からなるセパレータとM
EA(Membrane Electrode Assembly)間の隙間内は、
電池反応および/または酸素濃度差電池腐食が起こるこ
とにより隙間内のpHが低下し、ミクロ電池腐食を起こ
しやすい状況となる。硫化物系非金属介在物はその際の
腐食起点、加速因子として大きな影響を及ぼす。通常の
量産鋼の鋼中S量は、0.005%超え0.008%前
後であるが、上記の有害な影響を防止するためには0.
004%以下に低減することが望ましい。望ましくは
0.002%以下で、さらに望ましい量は、0.001
%未満であり、低ければ低い程よい。
で極めて重要な基本合金元素である。含有量は高いほど
高耐食となるが、高Cr化するに伴い常温靭性が低下す
る傾向となる。Cr量で35%を超えると量産規模での
生産は困難となる。また、10%未満では、その他の元
素を変化させてもセパレータとして必要な耐食性の確保
が困難となる。
0.01%以上、1%以下とする必要がある。フェライ
ト系ステンレス鋼は、不働態皮膜が不安定となる臨界p
H以上のpH環境においては、Niを多量に含有するオ
ーステナイト系ステンレス鋼に比べて優れた耐食性質を
示し、不働態膜維持状態における溶出速度も小さい特徴
を有している。この特徴は、フェライト系ステンレス鋼
中に微量のCu、および、あるいはNiを添加すること
により、一層改善される。すなわち、固体高分子型燃料
電池用セパレータ環境含め、不働態膜保持状態にある素
材からの金属溶出を低減させるために、適正量のCu、
Niを含有させると不働態化が促進され、不働態保持電
流密度が低まる。同時に両元素を含有させることにより
効果は高まる。不働態の程度が顕著に改善されること
は、溶出金属イオン量を低減することにとって極めて有
効なことであり、ひいては溶出金属イオンによる触媒被
毒の程度を顕著に改善するために有効である。ただし、
溶出したCuおよびNiはともに、アノードおよびカソ
ード部に担持されている触媒の性能に対する影響が大き
く、また、水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ
素系イオン交換樹脂膜のプロトン伝導性に対する影響も
無視できないレベルで大きい。このような観点からそれ
ぞれ0.01%以上、1%以下の範囲とした。
形成元素であり高温での相バランスに多大の影響を及ぼ
すので0.05%以下とした。相のバランス調整に用い
るこTがある。
際の必須溶解原料であるCr源中に不純物として含有さ
れており、ある程度の混入は不可避である。ただし、セ
パレータ環境で溶出したVは、アノードおよびカソード
部に担持されている触媒の性能に対して少なからず悪影
響を及ぼす。電池特性維持の上から、許容できる上限は
0.3%であり、低ければ低いほどよい。
を得るためには0.001%以上が必要である。しか
し、0.2%を超えると一層の効果が認められなくなる
とともに、製造コストアップが大きくなり過ぎるため
0.2%以下とした。
を改善する効果があり、必要により含有させる。含有さ
せる場合、6%を超えると、シグマ相、χ相といった金
属間化合物が析出し、鋼の脆化の問題から生産が困難と
なるので上限を6%とする。
タ環境で溶出したとしても、アノードおよびカソード部
に担持されている触媒の性能に対する影響は小さい。水
素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系イオン交
換樹脂膜の陽イオン伝導度に対する影響も小さい。
効果があり、必要により含有させる。含有させる場合、
多量に含有させると加工性が劣化するので上限を4%と
した。Wは、Moと同様に溶出したとしても、アノード
およびカソード部に担持されている触媒の性能に対する
影響は比較的軽微である。水素イオン(プロトン)交換
基を有するフッ素系イオン交換樹脂膜の陽イオン伝導度
に対する影響も小さい。
ス鋼としては、固体高分子型燃料電池の作動温度である
70℃から高々100℃の環境において不働態化の状態
にあり、かつ、継時的にも接触電気抵抗値が低いことが
必要である。不働態皮膜厚さ増加と腐食生成物生成を実
用的な範囲で抑制する必要がある。そのための必要条件
として、少なくとも、CrおよびMoの含有量は、腐食
指数である(Cr%+3×Mo%)が13〜43%の範
囲内にあることが必要である。
鋼段階でSとの結合力が極めて強いので、Sを無害化す
る効果がある。必要によりミッシュメタルのような形で
添加する。含有量は、0.1%以下の微量で十分効果が
得られる。
明する。
ト系ステンレス鋼を高周波誘導加熱方式の150kg真空
溶解炉で溶解した。溶解原料としては、市販の溶解原料
を使用し、鋼中の不純物量を調整した。
気中で1280℃に3時間加熱した後、プレス方式鍛造
機で熱間鍛造し、各インゴットを下記2種の寸法の試験
用スラブに仕上げた。
し、次いで実生産での熱延終了直後の温度履歴を模擬し
た断熱材巻き付け条件で徐冷した。次いで、この熱延鋼
板に、大気雰囲気の800℃に恒温保持された加熱炉中
で16時間保持した後、48時間をかけて炉冷する焼鈍
を施し供試材(以下、素材Aと記す)とした。
を切削加工して、表面の酸化スケールを除去し、厚さ6
2mmのスラブに仕上げた。このスラブを大気中で12
00℃に加熱し、熱間圧延して厚さ4mmに仕上げた
後、と同様、実生産での熱延終了直後の温度履歴を模
擬した断熱材巻き付け条件で徐冷した。次いで、この熱
延鋼板に、大気雰囲気の800℃に恒温保持された加熱
炉中で16時間保持した後、48時間をかけて炉冷する
焼鈍を施した。次いで、酸洗した後冷間圧延機を用いて
冷間圧延をおこない厚さ0.3mmの冷延鋼板(以下、
素材Bと記す)とした。
素材Bから、接触電気抵抗測定試験片、試験用固体
高分子型燃料電池セパレータ、粒界腐食試験片、およ
びC量の分析試験片を作製した。これらの各試験片
に、表2および表3の最終熱処理欄に示す条件でCr炭
化物析出処理を施し、各試験に供した。試験片および試
験条件は以下に示す通りとした。なお、素材Bから作製
したセパレータは、セパレータの形状に冷間成形する前
にCr炭化物析出処理を施した。
0mm、長さ:40mm 接触電気抵抗は、電極として厚さ0.6mmの市販のグ
ラッシーカーボン板を用い、そのカーボン板に、接触面
積1cm2として上記試験片を接触させた。接触電気抵
抗の測定は、4端子法とし、各試験片について2箇所測
定した。なお、試験片表面は、試験直前に湿式600番
エメリー研磨し、表面を洗浄後評価に供試した。負荷荷
重は12kg/cm2とした。負荷荷重により接触電気抵
抗は変化するが、12kg/cm2ではほぼ一定値が得ら
れる。
を装填した状態での特性評価 素材AおよびBから製作したセパレータは、下記の通り
で、固体高分子型燃料電池セル装填による性能評価をお
こなった。
(機械加工) 素材B 厚さ0.3mm、縦80mm、横80mm ガス流路:高さ0.8mm、山と山との間隔1.2mm
(コルケ゛ート加工) b)セパレータ表面仕上げ:表面をショット加工用Si
C砥粒を用いて機械的にショット研磨仕上げし、5%H
NO3+3%HF、40℃中で15分間の超音波洗浄を
行い、さらに、試験直前に6%水酸化ナトリウム水溶液
を用いたアルカリ噴霧脱脂処理をおこない、流水で簡易
水洗後、バッチ型水槽で蒸留水浸漬洗浄を3回行い、さ
らに蒸留水噴霧洗浄を4分間行って冷風ドライアー乾燥
させた後、各試験に供した。
として装填した状態での特性評価は、電池内に燃料ガス
を流してから1時間経過後に単セル電池の電圧を測定
し、初期の電圧と比較することにより電圧の低下率を調
べて行った。なお、低下率は、1−(1時間経過後の電
圧V/初期電圧v)により求めた。
は、米国Electrochem社製市販電池セルFC50を改造して
用いた。
999%水素ガスを用い、カソード極側ガスとしては空
気を用いた。電池本体は全体を78±2℃に保温すると
共に、電池内部の湿度制御を、セル出側の排ガス水分濃
度測定をもとに入り側で調整した。電池内部の圧力は、
1気圧である。水素ガス、空気の電池への導入ガス圧は
0.04〜0.20barで調整した。セル性能評価
は、単セル電圧で500(+−100)mA/cm2−0.
62(+−0.03)Vが確認できた状態より継時的に
測定を行った。
スクリブナー社製890 シリーズを基本とした燃料電池計
測システムを改造して用いた。電池運転状態により、特
性に変化があると予想されるが、同一条件で比較評価し
た。
0575の規定に従って、硫酸−硫酸銅腐食試験を実施
した。
切り出し、下記の方法でCr含有炭化物として析出して
いるC量および鋼中全C量を求めた。その分析結果から
求めたI値を表2および表3に示す。
量%)値の定量は、試験材を、AA液(10%アセチル
アセトンー1%テトラメチルアンモニウムクロライド−
残りメタノール)を用いる非水溶媒溶液中での定電流電
解を行うことで得られる“抽出残渣”中Cr定量分析結
果に基づき求めた。すなわち、AA非水溶媒液中にて、
20mA/cm2の電流密度にて約3〜5時間の定電流電
解をおこなうことで約0.4g相当を溶解し、電解後す
みやかに電解試験片を超音波洗浄した際に用いたAA非
水溶媒液と電解に用いたAA非水溶媒溶液をフィルター
径0.2μmのCoster Scientific Corporation 社製
“商品名 Nuclepore”で濾し取り、フィルター上の残渣
を硫りん酸(特級りん酸:特級硫酸:蒸留水=1:1:
1)中で溶解し、これを島津製作所製誘導結合プラズマ
発光分光分析装置“商品名ICPV-1014”にて金属成分を
分析し、Cr濃度を定量した。CrがすべてCr23C6
であるとして等量計算にてC量を定量した。また、(鋼
中全C重量%)の定量については、一般に用いられてい
る赤外線吸収法にて定量した。
の場合、接触電気抵抗は0.21Ω・cm2以下と低いの
に対し、比較例では0.33〜1.12Ω・cm2とかな
り高い。
析出のための熱処理条件によって化学組成が同じ鋼板で
あっても炭化物の析出状態が異なり、クロム欠乏層形成
度により耐食性、接触電気抵抗値および固体高分子型燃
料電池内部での性能に差異出る。
〜15、18〜21では、炭化物析出量が少ないため接
触抵抗値が大きい。
して析出している割合が高いが、80未満では、カーボ
ン板との接触電気抵抗、固体高分子型燃料電池セルでの
性能ともに十分でない。また、この傾向は、鋼中C量が
低い程I値の影響を大きく受け、低い場合には性能が劣
っている。
装填した状態での特性は、本発明例では電圧低下率は全
て0.05未満であるのに対し、本発明で規定した化学
組成を外れた比較例では、電圧低下率が0.2〜>0.
8と極めて大きかった。
接触電気抵抗が小さく、特に固体高分子型燃料電池のセ
パレータ用として、極めて優れた電気特性を発揮する。
また、このセパレータを用いた固体高分子型燃料電池は
安価で電気特性に優れている。
固体高分子型燃料電池のセパレータ用として、極めて優
れた電気特性を発揮するので、安価な固体高分子型燃料
電池の製造に貢献するところ大である。
Claims (3)
- 【請求項1】重量%で、C:0.01〜0.15%、S
i:0.01〜1.5%、Mn:0.01〜1%、P:
0.035%以下、S:0.01%以下、Cr:10〜
35%、Ni:0.01〜1%、Cu:0.01〜1
%、N:0.05%以下、V:0.3%以下およびA
l:0.001〜0.2%を含有し、かつCr+3Mo
が13〜43%であって、残部Feおよび不可避不純物
からなり、Cr系炭化物として析出しているC量および
鋼中の全C量が、下記式を満足していることを特徴とす
る接触電気抵抗の小さい固体高分子型燃料電池のセパレ
ータ用フェライト系ステンレス鋼。 (Cr含有炭化物として析出しているC重量%)×100/(鋼
中全C重量%−0.0015%)≧80 - 【請求項2】重量%で、C:0.01〜0.15%、S
i:0.01〜1.5%、Mn:0.01〜1%、P:
0.035%以下、S:0.01%以下、Cr:10〜
35%、Ni:0.01〜1%、Cu:0.01〜1
%、N:0.05%以下、V:0.3%以下、Al:
0.001〜0.2%、ならびにMo:6%以下、W:
4%以下および希土類元素:0.1%以下の1種以上を
含有し、かつCr+3Moが13〜43%であって、残
部Feおよび不可避不純物からなり、Cr系炭化物とし
て析出しているC量および鋼中の全C量が、下記式を満
足していることを特徴とする接触電気抵抗の小さい固体
高分子型燃料電池のセパレータ用フェライト系ステンレ
ス鋼。 (Cr含有炭化物として析出しているC重量%)×100/(鋼
中全C重量%−0.0015%)≧80 - 【請求項3】固体高分子電解質膜を中央にして燃料電極
膜と酸化剤電極膜を重ね合わせた単位電池を複数個、単
位電池間にセパレータを介在させて積層した積層体に、
燃料ガスと酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる
固体高分子型燃料電池であって、セパレータが請求項1
または請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼から
なることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
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