JP2004232074A - 燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【構成】Cr:16.0〜40.0%,Cu:0.01質量%以上,必要に応じてMo:0.2〜6.0%,Nb:0.05〜1.0%,Ti:0.05〜1.0%,Al:0.01〜1.0%,V:0.01〜1.0%,Zr:0.01〜1.0%,B:0.0001〜1.0の1種又は2種以上を含み、残部が実質的にFeの組成をもつフェライト系ステンレス鋼板を燃料電池セパレータの基材に使用している。基材の電気伝導性は、Cuリッチ相を0.005体積%以上で分散析出させ、或いは表層にCu/(Si+Mn)≧0.5でCuを濃化させることにより改善される。Cuリッチ相の分散析出や表層へのCuを濃化は、露点−30℃以下の雰囲気での光輝焼鈍や大気焼鈍後の混酸酸洗で得られる。
【選択図】 なし
Description
【産業上の利用分野】
本発明は、固体高分子型等の燃料電池に適し、表面接触抵抗が低く耐食性に優れた燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池には、リン酸型燃料電池,溶融炭酸塩型燃料電池,固体電解質型燃料電池,固体高分子型燃料電池等がある。なかでも、固体高分子型燃料電池は、100℃以下の温度で動作可能であり、短時間で起動する長所を備えている。また、各部材が固体であるため、構造が簡単でメンテナンスが容易であり、振動や衝撃に曝される用途にも適用できる。更に、出力密度が高いため小型化に適し、燃料効率が高く、騒音が小さい等の長所を備えている。これらの長所から、車両搭載用動力源としての用途が検討されている。ガソリン自動車と同等の走行距離を出せる燃料電池を自動車に搭載できると、NOx,SOxの発生がほとんどなく、CO2の発生が半減する等、環境に対して非常にクリーンな動力源になる。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、分子中にプロトン交換基をもつ固体高分子樹脂膜がプロトン導電性電解質として機能することを利用しており、他の形式の燃料電池と同様に固体高分子膜の一側に水素等の燃料ガスを流し、他側に空気等の酸化性ガスを流す構造になっている。
具体的には、固体高分子膜1は、両側に酸化極2及び燃料極3が接合され、それぞれガスケット4を介してセパレータ5を対向させている(図1a)。酸化極2側のセパレータ5には空気供給口6,空気排出口7が形成され、燃料極3側のセパレータ5には水素供給口8,水素排出口9が形成されている。
【0004】
水素g及び酸素又は空気oの導通,均一分配のため、水素g及び酸素又は空気oの流動方向に延びる複数の溝10がセパレータ5に形成されている。また、発電時に発熱があるため、給水口11から送り込んだ冷却水wをセパレータ5の内部に循環させた後、排水口12から排出させる水冷機構をセパレータ5に内蔵させている。水素供給口8から燃料極3とセパレータ5との間隙に送り込まれた水素gは、電子を放出したプロトンとなって固体高分子膜1を透過し、酸化極2側で電子を受け、酸化極2とセパレータ5との間隙を通過する酸素又は空気oによって燃焼する。そこで、酸化極2と燃料極3との間に負荷をかけるとき、電力を取り出すことができる。
【0005】
燃料電池は、1セル当りの発電量が極く僅かである。そこで、セパレータ5,5で挟まれた固体高分子膜を1単位とし、複数のセルをスタックすることによって取出し可能な電力量を大きくしている(図1b)。多数のセルをスタックした構造では、セパレータ5の抵抗が発電効率に大きな影響を及ぼす。発電効率を向上させるためには、導電性が良好で接触抵抗の低いセパレータが要求され、リン酸塩型燃料電池と同様に黒鉛質のセパレータが使用されている。
黒鉛質のセパレータは、黒鉛ブロックを所定形状に切り出し、切削加工によって各種の孔や溝を形成している。そのため、材料費や加工費が高く、全体として燃料電池の価格を高騰させると共に、生産性を低下させる原因になっている。しかも、材質的に脆い黒鉛でできたセパレータでは、振動や衝撃が加えられると破損する虞が大きい。そこで、プレス加工,パンチング加工等で作製した金属板製セパレータが期待されている(特開2000−239806号公報,特開2000−265248号公報等参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
酸素又は空気oが通過する酸化極2側は、酸性度がpH2〜3の酸性雰囲気にある。このような強酸性雰囲気に耐え、しかもセパレータに要求される特性を満足する金属材料は、これまでのところ実用化されていない。たとえば、強酸に耐える金属材料としてステンレス鋼等の耐酸性材料が考えられる。ステンレス鋼は表面の不動態皮膜によって優れた耐食性を呈するが、不動態皮膜はCrの酸化物を主体としFe,Si,Mnの酸化物を含む比電気抵抗の高い複合皮膜であるため、電気伝導性に劣っている。比電気抵抗、換言すれば接触抵抗が高くなると、接触部分で多量のジュール熱が発生して大きな熱損失となり、燃料電池の発電効率を低下させる。他の金属板でも、接触抵抗を高くする酸化膜が表面に存在するものがほとんどである。
【0007】
表面に酸化皮膜や不動態皮膜を形成しない金属材料としてはAuが知られている。Auは酸性雰囲気にも耐えうるが、非常に高価な材料であるため燃料電池のセパレータ材としては実用的でない。Ptは酸化皮膜や不動態皮膜が形成されにくい金属材料であり、酸性雰囲気にも耐えうるが、Auと同様に非常に高価な材料であるため燃料電池のセパレータ材としては実用的でない。汎用のステンレス鋼に導電性塗料を塗布したものも用いられているが、コスト高になること,塗料の劣化による接触抵抗の増加等が懸念される。
以上のことから、燃料電池のセパレータに対してはステンレス鋼板を無垢で適用することが好ましい。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Cu含有フェライト系ステンレス鋼板を基材に用い、基材表面の不動態皮膜又は表層を改質することにより、低い表面接触抵抗及び優れた耐食性を長期にわたって維持でき、固体高分子型等の燃料電池に好適なステンレス鋼製燃料電池セパレータを提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、Cr:16.0〜40.0質量%,Cu:0.01質量%質量%以上,残部が実質的にFeの組成をもつフェライト系ステンレス鋼板を燃料電池セパレータの基材に使用している。基材・ステンレス鋼板は、必要に応じてMo:0.2〜6.0質量%,Nb:0.05〜1.0質量%,Ti:0.05〜1.0質量%,Al:0.01〜1.0質量%,V:0.01〜1.0質量%,Zr:0.01〜1.0質量%,B:0.0001〜1.0質量の1種又は2種以上を含む。
【0010】
基材・ステンレス鋼板の電気伝導性はCuリッチ相の分散析出や表層へのCu濃化によって改善され、接触抵抗が低減する。燃料電池用セパレータとして有効な低接触抵抗は、マトリックスにCuリッチ相が0.005体積%以上(好ましくは、0.2体積%以上)の割合で分散析出した金属組織や原子比Cu/(Si+Mn)≧0.5にCu濃化した表層で達成される。Cuリッチ相の分散析出及び表層へのCu濃化を併用すると、接触抵抗が一層低下する。
【0011】
Cuリッチ相は、最終焼鈍までの鋼板製造過程でたとえば800℃前後の温度で1〜24時間加熱する時効処理によってマトリックスに分散析出する。時効処理条件に応じてCuリッチ相の析出量を0.2体積%以上に調整できる。表層にCuを濃化させる手段には、最終焼鈍として露点−30℃以下の雰囲気で光輝焼鈍する方法,大気焼鈍後にフッ酸−硝酸又は硫酸−硝酸の混酸を用いて酸洗仕上げする方法等が採用される。
【0012】
【作用及び実施の形態】
ステンレス鋼板表面の不動態皮膜は、優れた耐食性の発現に有効であるものの、比電気抵抗が高い酸化物、水酸化物等からなるため表面接触抵抗を増大させる原因である。そこで、本発明者等は、電気伝導性に優れた物質を不動態皮膜に含ませ、或いはステンレス鋼表層に濃化させることによって不動態皮膜を改質し、表面接触抵抗を下げる方法を調査検討した。
調査検討の過程で、Cu含有ステンレス鋼が低い表面接触抵抗を示すことを見出した。なかでも、Cu含有量が0.01質量%以上で、0.005体積%以上の割合でCuリッチ相が分散析出しているステンレス鋼板では表面接触抵抗が大幅に低下した。Cuリッチ相が分散析出しているステンレス鋼板でも他のステンレス鋼板と同様に不動態皮膜が鋼板表面に形成されるが、Cuリッチ相が表面に露出した部分では、その上下にCr,Si,Mn等を含む不動態皮膜が形成されずCuリッチ相が導通路になるため、表面接触抵抗が著しく低下したものと推定される。
【0013】
鋼板表面にCuリッチ相が露出していない場合でも、最表層又は不動態皮膜中のCu濃度がSi,Mn濃度に対して高いと、同様に表面接触抵抗が低くなる。比電気抵抗が低いCuの酸化物を多く含む不動態皮膜は、比電気抵抗の高いMnやSiの酸化物を多く含む不動態皮膜に比較して低い表面接触抵抗を示し、後述の実施例からも明らかなように原子比Cu/(Si+Mn)≧0.5で燃料電池セパレータに要求される低表面接触抵抗を満足する。
表面接触抵抗の低下に有効なCuリッチ相の分散析出又はCu濃化した表層を得る上で、基材・ステンレス鋼板のCu含有量0.01質量%以上が必要であるが、安定して表面接触抵抗を低下させるには1.0質量%以上のCu含有量が好ましい。Cu含有量が多くなるほど、Cuリッチ相の分散析出量が増加し、不動態皮膜又は表層のCu濃化が進行する。しかし、過剰量のCu添加は熱間加工性,製造性に悪影響を及ぼすので、Cu含有量の上限を5質量%に規制することが好ましい。
【0014】
最終焼鈍で表層にCuを濃化させる場合、露点−30℃以下の焼鈍雰囲気における光輝焼鈍が有効である。比電気抵抗の高いMn等の酸化物は、焼鈍雰囲気の露点が高くなると増量し、露点が−30℃を超える焼鈍雰囲気ではSi,Mn等の酸化進行に応じて母材内部から表層へのSi,Mn等の拡散が促進され、Cu濃度が低い最表層又は不動態皮膜が形成される。これに対し、露点−30℃以下の焼鈍雰囲気では、Mn等の金属酸化物の増量を抑えられ、結果として金属CuやCuの酸化物が最表層又は不動態皮膜に濃化される。
【0015】
光輝焼鈍に替え大気焼鈍後の酸洗仕上げによってもCuリッチ相の分散析出又は表層へのCu濃化が図られる。ステンレス鋼板を大気焼鈍するとCr,Fe,Mn,Si,Cu等の酸化物を含むスケールが鋼板表面に形成されるが、スケールは酸洗によって除去され、その後に不動態皮膜が生成する。このとき、焼鈍後のステンレス鋼板を電解酸洗すると、スケール剥離後の鋼板表面に存在するCu又はCuリッチ相が電解反応で母材よりも優先的に溶出する。そのため、電解酸洗後の鋼板表面には、Cu濃度の低い不動態皮膜が形成される。これに対し、フッ酸−硝酸,硫酸−硝酸等の混酸を用いた酸洗では、Cu又はCuリッチ相の優先的な溶出がなく、酸洗後に生成する不動態皮膜にCu濃度の低下がない。
【0016】
Cuリッチ相の分散析出,表層へのCu濃化により基材・ステンレス鋼板の表面接触抵抗を低下させる条件下で、燃料電池セパレータの腐食環境に耐え得る耐食性を有するステンレス鋼の成分を検討した。燃料電池用セパレータは、pH2〜3の酸性雰囲気に曝され、起動時に約70℃に昇温することもある。しかも、セパレータ間に電位差がかかるので、酸性液に対する自然浸漬時の耐食性に加えて電位が貴化した場合の酸性高電位環境における耐食性も要求される。
【0017】
自然電位環境及び酸性高電位環境における耐食性は、16.0〜40.0質量%の範囲にCr含有量を調整することにより向上する。更に、Mo:0.2〜6.0質量%,Nb:0.05〜1.0質量%,Ti:0.05〜1.0質量%,Al:0.01〜1.0質量%,V:0.01〜1.0質量%,Zr:0.01〜1.0質量%,B:0.0001〜1.0質量の1種又は2種以上を添加すると、自然電位及び酸性高電位何れの環境下における耐食性も向上する。
【0018】
以上の合金成分の他にC,Si,Mn等も含まれるが、燃料電池用セパレータの用途では、C,Si,Mn等の含有量を低減し、加工性,製造性にとって不利な硬質化を抑制することが好ましい。表面接触抵抗を低減する上でも、C,Si,Mn等の含有量を低く抑えることが有効である。
たとえば、鋼材を硬質化させるCを過剰に含ませるとプレス加工が困難になるので、C含有量を好ましくは0.08質量%以下に規制する。Siは、鋼材の硬質化及び表面接触抵抗の増加に作用するので、好ましくは1.00質量%以下の含有量に規制する。Mnは、耐食性の低下,接触抵抗の増加に作用するので、好ましくは2.00質量%以下の含有量に規制する。
【0019】
Cuリッチ相:0.005体積%以上
Cuリッチ相を均一微細に析出させ、表面に露出させた部分では、その上下にCr,Si,Mn等を含む不動態皮膜が形成されず、表面接触抵抗が低下する。Cuリッチ相の分散析出と表面接触抵抗の低下との関係を詳細に調査・検討した結果、Cuリッチ相:0.005体積%以上で燃料電池用セパレータに要求される低表面接触抵抗を示す。表面接触抵抗の低減は、0.5体積%以上のCuリッチ相で顕著になる。
Cuリッチ相を分散析出させる熱処理は、ステンレス鋼のCu含有量によっても異なるが、一般的には800℃前後で1〜24時間の時効処理を施す条件が採用される。時効処理により微細なCuリッチ相が分散析出し、Cuリッチ相の析出量は時効処理条件によって調節される。
【0020】
表層へのCu濃化:Cu/(Si+Mn)≧0.5(原子比)
不動態皮膜又は最表層のSi,Mnに対するCuの濃度比を高くすると、表面接触電気抵抗が低下する。表層へのCu濃化は、不動態皮膜又は最表層における原子比Cu/(Si+Mn)で定量化でき、原子比Cu/(Si+Mn)が0.5以上になると、燃料電池用セパレータとして満足できる程度に表面接触抵抗が低下する。Cu/(Si+Mn)≧0.5は、乾燥雰囲気下での光輝焼鈍や大気焼鈍後の混酸酸洗で達成される。
【0021】
光輝焼鈍:露点−30℃以下の雰囲気で加熱
焼鈍雰囲気の露点が高くなると、比抵抗の高いSi,Mnの酸化物が多くなり不動態皮膜の表面接触抵抗が増加する。Cu/(Si+Mn)≧0.5で表層にCuを濃化させるため上では、後述の実施例からも明らかなように露点−30℃以下の焼鈍雰囲気で、好ましくは850〜1100℃にステンレス鋼板を焼鈍する。光輝焼鈍により、マトリックスにCuリッチ相が均一に分散析出し、或いは表層にCuが濃化して表面接触抵抗の低い表層に改質される。
【0022】
大気焼鈍後の混酸酸洗:
光輝焼鈍に代えて大気焼鈍後の混酸酸洗によっても、不動態皮膜又は最表層にCuを濃化できる。大気焼鈍では、Cuリッチ相の分散析出又は表層へのCu濃化のため、850〜1100℃の温度域にステンレス鋼板を加熱する。大気焼鈍されたステンレス鋼板の酸洗には、酸の種類や濃度に特段の制約が加わるものではないが、一般的に濃度10体積%程度のフッ酸−硝酸,硫酸−硝酸等が使用される。混酸酸洗では、電解酸洗で生じるCu又はCuリッチ相の優先溶解がなく、Cu濃化の低下がない不動態皮膜が酸洗後に生成する。
【0023】
【実施例】
表1に示した組成をもつ各種フェライト系ステンレス鋼を真空溶解炉で溶製し、鋳造,熱間鍛造,熱間圧延,焼鈍・酸洗,冷間圧延を経て板厚1.0mmの冷延鋼帯を製造した。一部の冷延鋼帯については、最終焼鈍前までの工程で800℃×24時間のCuリッチ相析出処理を施した。
【0024】
【0025】
製造された冷延鋼帯を光輝焼鈍仕上げし、或いは大気焼鈍後に酸洗仕上げした。光輝焼鈍では、露点が異なる焼鈍雰囲気で1000℃に10秒加熱し、雰囲気の露点が焼鈍材の特性に及ぼす影響を調査した。酸洗仕上げでは、5%硝酸を用いた電解酸洗,6%硝酸+2%フッ酸の混酸酸洗を採用し、酸洗形態の相違が焼鈍材の特性に及ぼす影響を調査した。
光輝焼鈍又は酸洗仕上げされた冷延鋼帯から切り出された試験片を透過型電子顕微鏡で観察し、マトリックスに分散析出しているCuリッチ相の析出量(体積%)を算出した。また、グロー発光分析で分析全元素量に対するCu,Si,Mnの濃度(原子%)を求め、原子比Cu/(Si+Mn)に従って表層のCu濃度を算出した。更に、純金製の対極及び測定端子を試験片の表面に接触させ、測定端子に100gの荷重を付加した条件下で表面接触抵抗を測定した。
【0026】
表2の調査結果にみられるように、Cu含有量が0.01質量%未満のF1や、Cuを0.01質量%以上含んでいてもCu/(Si+Mn)<0.5の表層又はCuリッチ相の析出量が0.005体積%未満の試験番号5〜7は、高い表面接触抵抗を示した。他方、0.01質量%以上のCuを含み、Cuリッチ相の析出量が0.2体積%以上又はCu/(Si+Mn)≧0.5で表層がCu濃化した試験番号4,8〜19は、低い表面接触抵抗を示した。なかでも、Cuリッチ相の析出量0.005体積%以上,Cu/(Si+Mn)≧0.5にCu濃化した表層の双方を満足する試験番号8,9,11,14は、表面接触抵抗が一層低下していた。
【0027】
【0028】
【実施例2】
表1の鋼種F4,F6,F7,F13に実施例1と同じCuリッチ相析出処理を施したステンレス鋼板を供試材とし、電気化学試験で燃料電池セパレータ環境における耐食性を調査した。
電気化学試験では、供試材を樹脂に埋め込んで被測定面10mm×10mmの試験片を用意した。pH2に調整した硫酸水溶液(試験液)を70℃に保持し、走査速度20mV/分で自然電位から1300mV,SCEまでのアノード分極を測定した。燃料電池セパレータが曝される雰囲気には、電位が付加されない自然電位環境,電位が付加される高電位環境がある。自然電位環境における耐食性はアノード分極の不動態化電流密度の低さ、高電位環境における耐食性は1000mV,SCE時の腐食電流の低さから評価できる。
【0029】
図2に示したアノード分極曲線の測定結果から、Cr:13質量%のF4は自然電位側の不導態化限界電流密度が他の供試材の値より高く、耐酸性に不足していることが判る。Cr:41.2質量%のF13は、不動態化限界電流密度が低いものの、高電位側での電流値が他の供試材と比較して極めて高く、セパレータに電位がかかった状態では耐食性に劣っていた。Cr:16.6質量%のF6,30.5質量%のF7は、不導態化限界電流密度,高電位環境下の電流値共に他の供試材より低く、セパレータ環境で優れた耐食性を示すことが期待できる。
【0030】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の燃料電池用ステンレス鋼製セパレータは、Cr,Cuの添加量を適正管理し、析出量0.005体積%以上のCuリッチ相又はCu/(Si+Mn)≧0.5でCu濃化した表層により、ステンレス鋼本来の耐食性を確保しながら表面接触抵抗の低い表面状態に改質している。そのため、黒鉛質セパレータに比較して加工性,生産性が格段に優れた燃料電池用セパレータとなり、複数の燃料電池セルをスタックした状態にあっても、表面接触抵抗に起因する内部損失が少なく、発電効率の高い燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の固体高分子膜を電解質として使用した燃料電池の内部構造を説明する断面図(a),分解斜視図(b)
【図2】アノード分極曲線の測定結果
Claims (7)
- Cr:16.0〜40.0質量%,Cu:0.01質量%以上を含み、Cuを主体とする第2相が0.005体積%以上の割合でマトリックスに分散析出していることを特徴とする燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼。
- Cr:16.0〜40.0質量%,Cu:0.01質量%以上を含み、Si,Mnに対するCuの原子比Cu/(Si+Mn)が0.5以上で表層がCu濃化していることを特徴とする燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼。
- Cr:16.0〜40.0質量%,Cu:0.01質量%以上を含み、Cuを主体とする第2相が0.005体積%以上の割合でマトリックスに分散析出し、更にSi,Mnに対するCuの原子比Cu/(Si+Mn)が0.5以上で表層がCu濃化していることを特徴とする燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼。
- 更にMo:0.2〜6.0質量%,Nb:0.05〜1.0質量%,Ti:0.05〜1.0質量%,Al:0.01〜1.0質量%,V:0.01〜1.0質量%,Zr:0.01〜1.0質量%,B:0.0001〜1.0質量の1種又は2種以上を含有する請求項1〜3何れかに記載の燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼。
- 請求項1〜4何れかに記載のフェライト系ステンレス鋼を基材とする燃料電池セパレータ。
- Cr:16.0〜40.0質量%,Cu:0.01質量%以上を含むフェライト系ステンレス鋼板を露点−30℃以下の雰囲気下で光輝焼鈍することを特徴とする燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼の製造方法。
- Cr:16.0〜40.0質量%,Cu:0.01質量%以上を含むフェライト系ステンレス鋼板を大気焼鈍した後、フッ酸−硝酸又は硫酸−硝酸の混酸を用いて酸洗仕上げすることを特徴とする燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼の製造方法。
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