JP5560533B2 - 固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼およびそれを用いた固体高分子形燃料電池 - Google Patents
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Description
(a)発電温度が80℃程度であり、格段に低い温度で発電できる、
(b)燃料電池本体の軽量化,小型化が可能である、
(c)短時間で立上げができ、燃料効率,出力密度が高い、
等の利点を有している。このため、固体高分子形燃料電池は、電気自動車の搭載用電源,家庭用あるいは業務用の定置型発電機,携帯用の小型発電機として利用するべく、今日もっとも注目されている燃料電池である。
なお膜−電極接合体1は、MEA(すなわち Membrane-Electrode Assembly )と呼ばれており、高分子膜とその膜の表裏面に白金系触媒を担持したカーボンブラック等の電極材料を一体化したものであり、厚さは数10μm〜数100μmである。ガス拡散層2,3は、膜−電極接合体1と一体化される場合も多い。
セパレータ4,5には、
(A)単セル間を隔てる隔壁
としての役割に加え、
(B)発生した電子を運ぶ導電体、
(C)O2 (すなわち空気)とH2 が流れる空気流路,水素流路、
(D)生成した水やガスを排出する排出路
としての機能が求められる。さらに固体高分子形燃料電池を実用に供するためには、耐久性や電気伝導性に優れたセパレータ4,5を使用する必要がある。
現在までに、セパレータ4,5としてグラファイトを用いた固体高分子形燃料電池が実用化されている。このグラファイトからなるセパレータ4,5は、接触抵抗が比較的低く、しかも腐食しないという利点がある。しかしながら衝撃によって破損しやすいので、小型化が困難であり、しかも空気流路6,水素流路7を形成するための加工コストが高いという欠点がある。グラファイトからなるセパレータ4,5が有するこれらの欠点は、固体高分子形燃料電池の普及を妨げる原因になっている。
たとえば特許文献1には、ステンレス鋼またはチタン合金等の不動態皮膜を形成しやすい金属をセパレータとして用いる技術が開示されている。しかし不動態皮膜の形成は、接触抵抗の上昇を招くことになり、発電効率の低下につながる。このため、これらの金属素材は、グラファイト素材と比べて接触抵抗が大きく、しかも耐食性が劣る等の改善すべき問題点が指摘されていた。
また特許文献3には、フェライト系ステンレス鋼基材にカーボン粉末を分散させて、電気伝導性を改善(すなわち接触抵抗を低下)したセパレータを得る方法が開示されている。しかしながらカーボン粉末を用いた場合も、セパレータの表面処理には相応のコストがかかることから、依然としてコストの問題が残っている。 また、表面処理を施したセパレータは、組立て時にキズ等が生じた場合に、耐食性が著しく低下するという問題点も指摘されている。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、Cr:16〜45質量%,Si:3質量%以下,Mn:3質量%以下,C:0.03質量%以下,N:0.4質量%以下を含有するとともに、V:0.1〜2質量%およびZr:0.1〜2質量%から選ばれる1種または2種を含有し、さらにNi:40質量%以下,Ti:2質量%以下,Nb:2質量%以下,Mo:7質量%以下およびW:7質量%以下のうちの1種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつCr,Si,Ti,V,Zr,Nb,Mo,Wの含有量を用いて下記の(1)式で算出されるQ値が18を超える組成と、σ相を表面近傍に析出させて表面に露出したσ相の面積率が5.1%以上であり、かつ結晶粒径が5.0μm以上である組織と、を有する固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼である。
[Cr]:Cr含有量(質量%)
[Si]:Si含有量(質量%)
[Ti]:Ti含有量(質量%)
[V]:V含有量(質量%)
[Zr]:Zr含有量(質量%)
[Nb]:Nb含有量(質量%)
[Mo]:Mo含有量(質量%)
[W]:W含有量(質量%)
また本発明は、固体高分子膜,電極,ガス拡散層およびセパレータを有し、セパレータが上記した固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼からなる固体高分子形燃料電池である。
Cr:16〜45質量%
Crは、セパレータ用ステンレス鋼としての基本的な耐食性を確保するために必要な元素であるとともに、σ相を形成する元素である。Cr含有量が16質量%未満では、σ相の析出に長時間を要する。一方、45質量%を超えると、セパレータ用ステンレス鋼の製造過程でσ相が析出してしまうので、所定の形状を有するセパレータを製造するのが困難になる。したがって、Crは16〜45質量%の範囲内とする。好ましくは18〜40質量%であり、より好ましくは20〜35質量%である。
Siは、製鋼工程における脱酸のために有効な元素であり、その目的で添加されるが、過度に含有させるとセパレータ用ステンレス鋼の硬質化と延性低下を招く。したがって、Siの含有量は3質量%以下とする。また、Siはσ相の析出を促進する元素であるが、0.05質量%未満ではこの効果は得られない。そのため、Siは0.05〜3質量%の範囲内が好ましい。より好ましくは0.1〜1.5質量%である。
Mnは、Sと結合してMnSを生成し、固溶Sを低減することによってSの粒界偏析を抑制し、熱間圧延時の割れを防止するのに有効な元素である。ただし過度に含有させるとセパレータ用ステンレス鋼の硬質化と延性低下を招く。したがって、Mnの含有量は3質量%以下とする。また、Mnはσ相の析出を促進する元素であるが、0.05質量%未満ではこの効果は得られない。そのため、Mnは0.05〜3質量%の範囲内が好ましい。より好ましくは0.1〜2質量%である。
Tiは、セパレータ用ステンレス鋼中のC,Nを炭窒化物として固定し、プレス成形性を改善するのに有効な元素である。本発明では、この効果に加えて、σ相の析出を促進するために添加する。ただし、Ti含有量が2質量%を超えると、セパレータ用ステンレス鋼が著しく脆化して加工性が劣化し、生産が困難になる。したがって、Tiは2質量%以下とする。一方、Ti含有量が0.1質量%未満では、プレス成形性を改善する効果,σ相の析出を促進する効果が得られない。そのため、0.1〜2質量%の範囲内が好ましい。
Nbは、セパレータ用ステンレス鋼中のC,Nを炭窒化物として固定し、プレス成形性を改善するのに有効な元素である。本発明では、この効果に加えて、σ相の析出を促進するために添加する。ただし、Nb含有量が2質量%を超えると、セパレータ用ステンレス鋼が著しく脆化して加工性が劣化し、生産が困難になる。したがって、Nbは2質量%以下とする。一方、Nb含有量が0.1質量%未満では、プレス成形性を改善する効果,σ相の析出を促進する効果が得られない。そのため、0.1〜2質量%の範囲内が好ましい。
Zrは、セパレータ用ステンレス鋼中のC,Nを炭窒化物として固定し、プレス成形性を改善するのに有効な元素である。本発明では、この効果に加えて、σ相の析出を促進するために添加する。ただし、Zr含有量が2質量%を超えると、セパレータ用ステンレス鋼が著しく脆化して加工性が劣化し、生産が困難になる。したがって、Zrは2質量%以下とする。一方、Zr含有量が0.1質量%未満では、プレス成形性を改善する効果,σ相の析出を促進する効果が得られない。そのため、0.1〜2質量%の範囲内とする。
Vは、セパレータ用ステンレス鋼中のC,Nを炭窒化物として固定し、プレス成形性を改善するのに有効な元素である。本発明では、この効果に加えて、σ相の析出を促進するために添加する。ただし、V含有量が2質量%を超えると、セパレータ用ステンレス鋼が著しく脆化して加工性が劣化し、生産が困難になる。したがって、Vは2質量%以下とする。一方、V含有量が0.1質量%未満では、プレス成形性を改善する効果,σ相の析出を促進する効果が得られない。そのため、0.1〜2質量%の範囲内とする。
Moは、セパレータ用ステンレス鋼の耐食性を改善するのに有効な元素である。本発明では、その効果に加えて、σ相の析出を促進するために添加する。ただし、Mo含有量が7質量%を超えると、セパレータ用ステンレス鋼が著しく脆化して加工性が劣化し、生産が困難になる。したがって、Moは7質量%以下とする。一方、Mo含有量が0.2質量%未満では、σ相の析出を促進する効果が得られない。そのため、0.2〜7質量%の範囲内が好ましい。
Wは、セパレータ用ステンレス鋼の耐食性を改善するのに有効な元素である。本発明では、これらの効果に加えて、σ相の析出を促進するために添加する。ただし、W含有量が7質量%を超えると、セパレータ用ステンレス鋼が著しく脆化して生産が困難になる。したがって、Wは7質量%以下とする。一方、W含有量が0.2質量%未満では、σ相の析出を促進する効果が得られない。そのため、0.2〜7質量%の範囲内が好ましい。
Q=[Cr]+[Si]+[Ti]+[V]+1.5([Zr]+[Nb]+[Mo])+0.5[W] ・・・(1)
[Cr]:Cr含有量(質量%)
[Si]:Si含有量(質量%)
[Ti]:Ti含有量(質量%)
[V]:V含有量(質量%)
[Zr]:Zr含有量(質量%)
[Nb]:Nb含有量(質量%)
[Mo]:Mo含有量(質量%)
[W]:W含有量(質量%)
また本発明のセパレータ用ステンレス鋼は、上記した元素に加えて、C,N,Niを含有しても良い。
Cは、セパレータ用ステンレス鋼中のCrと結合してCr炭化物を形成して粒界に析出し、耐食性の低下をもたらす。しかもCは、σ相の析出を抑制する作用も有する。このため、Cの含有量は小さいほど好ましく、C:0.03質量%以下であれば、セパレータ用ステンレス鋼の耐食性の低下を抑制できる。したがって、Cは0.03質量%以下とする。より好ましくは0.015質量%以下である。
Nは、セパレータ用オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性を改善するのに有効な元素である。ところがN含有量が0.4質量%を超えると、σ相の析出が抑制される。したがって、セパレータ用ステンレス鋼がオーステナイト系ステンレス鋼である場合のN含有量は、0.4質量%以下とする。また、セパレータ用ステンレス鋼がフェライト系ステンレス鋼である場合は、Crと結合してCr窒化物を形成して粒界に析出し、耐食性の低下をもたらす。N含有量が0.03質量%以下であれば、十分な耐食性が得られる。そのためセパレータ用ステンレス鋼がフェライト系ステンレス鋼である場合のN含有量は、0.03質量%以下がより好ましく、0.015質量%以下が一層好ましい。
Niは、セパレータ用ステンレス鋼の耐食性を向上する元素である。ところがNi含有量が40質量%を超えると、セパレータ用ステンレス鋼の製造コストの上昇を招く。したがって、Niは40質量%以下が好ましい。ただし、セパレータ用ステンレス鋼がオーステナイト系ステンレス鋼である場合は、Ni含有量が7質量%未満では、オーステナイト相が不安定になる。そのためセパレータ用ステンレス鋼がオーステナイト系ステンレス鋼である場合のNi含有量は、7〜40質量%の範囲内がより好ましい。また、セパレータ用ステンレス鋼がフェライト系ステンレス鋼である場合は、Ni含有量が4質量%以下であれば、フェライト相を安定化しつつ、かつ十分な耐食性が得られる。そのためセパレータ用ステンレス鋼がフェライト系ステンレス鋼である場合のNi含有量は、4質量%以下がより好ましい。
次に、本発明のセパレータ用ステンレス鋼の組織を説明する。
表面に露出したσ相の面積率:5.1%以上
σ相は、FeとCrがほぼ1:1の組成比である金属間化合物であり、セパレータ用ステンレス鋼の表面近傍に析出して、表面に露出することによって接触抵抗を低減する効果が発揮される。セパレータ用ステンレス鋼をセパレータとして使用すると空気極側の不動態皮膜が著しく成長するが、表面に占めるσ相の面積率が5.1%以上であれば、導電性を確保できる。
σ相は結晶粒の粒界に優先的に析出する。セパレータ用ステンレス鋼の結晶粒が小さすぎると、σ相も小さくなり、セパレータ用ステンレス鋼の十分な耐久性が得られない。したがって、セパレータ用ステンレス鋼の結晶粒径は5.0μm以上とする。
次に、本発明のセパレータ用ステンレス鋼の製造方法について説明する。
また、熱延鋼板をセパレータの素材とする場合には、熱間圧延の圧下率と熱延板焼鈍の温度を調整して、結晶粒径を5.0〜200μmとする。冷延鋼板をセパレータの素材とする場合には、熱間圧延の圧下率と熱延板焼鈍の温度に加えて、冷間圧延の圧下率と冷延板焼鈍の温度を調整して、結晶粒径を5.0〜200μmとする。
なお時効熱処理によって酸化スケールが発生するので、その酸化スケールを除去するために酸洗を行なう。
次に、各セパレータを王水でエッチングした後、光学顕微鏡で観察し、100個以上の結晶粒が占める面積から円相当径を算出し、さらにその平均値を求めて結晶粒径とした。その結果を表2に示す。
各冷延鋼板から切り出した6枚の試験片をセパレータの形状に加工し、時効熱処理と酸洗を施した。高分子膜,電極,ガス拡散層が一体化された有効面積50cm2 の膜−電極接合体(すなわちMEA,エレクトロケム社製FC50-MEA)を用いて図1に示す形状の単セルを作成した。空気流路6,水素流路7の溝は、高さ0.5mm,幅2mmの矩形として17列設けた。
なお、ここではプレス加工の後で時効熱処理を行なってσ相を析出させたが、セパレータの加工前に時効熱処理を行なっても良い。また所定の形状に加工する際には、切削加工やコイニング等を採用しても良い。
2 ガス拡散層
3 ガス拡散層
4 セパレータ
5 セパレータ
6 空気流路
7 水素流路
8 試験片
9 カーボンペーパ
10 電極
Claims (2)
- Cr:16〜45質量%、Si:3質量%以下、Mn:3質量%以下、C:0.03質量%以下、N:0.4質量%以下を含有するとともに、V:0.1〜2質量%およびZr:0.1〜2質量%から選ばれる1種または2種を含有し、さらにNi:40質量%以下、Ti:2質量%以下、Nb:2質量%以下、Mo:7質量%以下およびW:7質量%以下のうちの1種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつCr,Si,Ti,V,Zr,Nb,Mo,Wの含有量を用いて下記の(1)式で算出されるQ値が18を超える組成と、σ相を表面近傍に析出させて表面に露出した前記σ相の面積率が5.1%以上であり、かつ結晶粒径が5.0μm以上である組織と、を有することを特徴とする固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼。
Q=[Cr]+[Si]+[Ti]+[V]+1.5([Zr]+[Nb]+[Mo])+0.5[W] ・・・(1)
[Cr]:Cr含有量(質量%)
[Si]:Si含有量(質量%)
[Ti]:Ti含有量(質量%)
[V]:V含有量(質量%)
[Zr]:Zr含有量(質量%)
[Nb]:Nb含有量(質量%)
[Mo]:Mo含有量(質量%)
[W]:W含有量(質量%) - 固体高分子膜、電極、ガス拡散層およびセパレータを有し、前記セパレータが請求項1に記載の固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
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