JP3844943B2 - ボールねじおよびそれを具備する電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、駒式のボールねじ、およびこのボールねじを具備する電動パワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
自動車の電動パワーステアリング装置は、ハンドルの操舵力を電動モータで補うものであり、種々の形式のものがある。その一つとして、車輪の操舵機構に連結された進退自在な操舵軸に対して、ハンドルからラックピニオン機構等の変換機構を介して軸方向移動力を与えると共に、電動モータの出力を、ボールねじを介して軸方向移動力として与えるようにしたものがある。このボールねじには、電動パワーステアリング装置の全体の小型化、ひいては自動車全体の軽量化のため、コンパクトで負荷容量の大きいものが要望されている。
ボールねじには、ボールの循環形式が異なる種々の形式のものがあり、その一種として、駒式と呼ばれるものがある。
【0003】
図13は、従来の駒式ボールねじ機構の一例を示す。ボールねじ軸51は、外ねじ溝52を外面に有し、回転ナット53は、外ねじ溝52に対応する内ねじ溝54を有していて、両ねじ溝52,54の間に嵌合した多数のボール55を介してボールねじ軸51に螺合している。回転ナット53の円筒胴部には、内外の周面に貫通して内ねじ溝54の一部を切欠く楕円状の嵌合孔56が穿設され、この嵌合孔56に、楕円状の駒57が嵌合している。駒57は、内ねじ溝54の隣合う1周部分同士を連結する連結溝58を形成した部品であり、内ねじ溝54の略1周の部分と連結溝58とで、ボール55の転動路が構成される。転動路内の内外のねじ溝52,54間に介在した多数のボール55は、ねじ溝52,54に沿って転動して、駒57の連結溝58に案内され、ボールねじ軸51のねじ山を乗り越えて隣接する内ねじ溝54に戻り潤滑可能とされている。
【0004】
駒式のボールねじは、回転ナット53の外径を小さくできる利点はあるが、駒57の多数必要なため、構成部品の点数が多いという欠点がある。また、負荷容量を大きくしようとした場合に、次の課題がある。
すなわち、ボールねじにおいて、負荷容量を大きくする手段としては、次の各手段があるが、いずれも駒式のボールねじでは、次のように採用が難しい。
▲1▼ピッチを小さくしてボール循環個数を増やす。この手段を採る場合、ボール径が小さくなると、逆に負荷容量が小さくなる。そのため、ボール径を変えずにピッチを小さくすることが必要であるが、駒式では、1ピッチ(ねじ溝の間隔)に一つの駒57が必要となるため、ボール径を変えずにピッチを小さくすることはできない。
▲2▼リード間に溝を入れて多条ねじとし、循環数を増やした場合と同様の効果を出す。ただし、多条ねじでは、リード(1回転で進む距離)が制限され、リードを小さくできない。また、多条ねじは、エンドキャップ方式では可能であるが、駒式では、前記のように1ピッチ毎に一つの駒57が必要となるため、多条ねじは採用できない。
このため、駒式のボールねじにおいて、負荷容量を大きくしたい場合、ナット長さを長くしてボール循環個数を増やすしかなく、ナットが小径になるという利点がある反面、ナットが長くなってコンパクト化が得られない。また、ナット長さを長くすると、その分、駒57の個数が増えて、加工工数と部品点数がさらに増え、コストアップになる。
【0005】
このような課題を解消するものとして、本出願人は、図14,図15に示すように、駒部材57Aに複数の連結溝58を有するものを提案した(特願平11−313518号)。駒部材57Aは、回転ナット円周方向の両側縁に、外径側へ立ち上がる一対のガイド壁68を設け、これらガイド壁68は、回転ナット53に形成された駒部材嵌合用開口56Aの対向する内側面の段差部69に、先端の抜け止め用突部68aで弾性的に係合させる。この係合により、駒部材57Aの脱落防止を果している。駒部材57Aは、射出成形技術を用いた焼結合金製とし、上記ガイド壁68を含めて一体に形成する。
しかし、上記のような先端に抜け止め用突部68aを有するガイド壁68を駒部材57Aに一体に成形する場合、ガイド壁68が偏肉でかつ薄肉であるため、変形が大きくて、製作が難しい等といった課題がある。
【0006】
この発明の目的は、部品点数が少なく、コンパクトで、かつ負荷容量が大きく得られ、かつ駒部材が簡単な構成で回転ナットに取付けられるボールねじを提供することである。
この発明の他の目的は、駒部材の構成を簡素化して駒部材の成形を容易にすることである。
この発明の他の目的は、電動モータの出力を伝えるボールねじがコンパクトでかつ負荷容量が大きくできて、製造も簡単であり、装置全体のコンパクト化が図れる電動パワーステアリング装置を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明の第1の発明のボールねじは、ボールねじ軸と、このボールねじ軸に対向して内周に内ねじ溝を有する回転ナットと、上記ボールねじ軸と内ねじ溝との間に形成された転動路に連なって配置され、上記回転ナットとボールねじ軸の間で力を伝達するための複数のボールと、上記回転ナットに取付けられて内ねじ溝同士を連結する連結溝を有する駒部材とを備え、この駒部材を塑性変形により上記回転ナットと一体に固定したものである。
この構成によると、駒部材は、塑性変形により回転ナットと一体に固定するため、駒部材を簡単な構成で回転ナットに一体化することができる。すなわち、塑性変形させるため、駒部材に係合用の複雑な形状部分を設けることで不要で、駒部材の形状が簡素化される。そのため、駒部材を焼結金属の射出成形等により成形する場合にも、成形が容易に行える。また、複数の連結溝を一つの駒部材に設けると、内ねじ溝のピッチを小さくすることができ、そのため回転ナットの長さを長くすることなく、ボール循環個数を増やし、負荷容量を増大させることができる。このため、従来の駒式のボールねじと同様にナットが小径にできることと相まって、コンパクトで負荷容量の大きいものとできる。しかも、複数の連結溝が一つの駒部材に設けられるため、駒部品の個数が少なくて済み、部品点数が少なく、加工が簡単で、コスト低下が図れる。さらに、複数の連結溝が一つの駒部材に設けられることから、精度向上も図り易い。
【0008】
上記駒部材には、回転ナットの内ねじ溝に係合してこの駒部材を回転ナットに対して軸方向に位置決めするアームを設ける。
このように、回転ナットのボール転走面として形成される内ねじ溝に駒部材のアームを係合させることで、駒部材の高精度の位置決めが行える。
【0009】
この発明において、上記駒部材における回転ナット円周方向の両側縁に、外径側へ立ち上がる一対のガイド壁を設け、これらガイド壁は、回転ナットに形成された駒部材嵌合用開口の対向する一対の内側面に加締固定する。具体的には、上記駒部材における回転ナット円周方向の両側縁は、他の部分よりも外径面側の凹む凹み部とし、これら凹み部から外径側へ立ち上がる一対のガイド壁を設け、前記回転ナットに形成された駒部材嵌合用開口の対向する一対の内側面における回転ナット外径側の開口縁に、開口幅を広げる係合段部を設け、前記一対のガイド壁は、回転ナットの前記駒部材嵌合用開口の対向する一対の内側面における前記各係合段部に先端を加締固定する。
このように、駒部材にガイド壁を設け、このガイド壁を加締固定する構成とすることにより、駒部材の固定が簡単に、かつ確実に行える。特に、ガイド壁を加締固定する構成とすることにより、ガイド壁の先端に抜け止め用突部を形成することが不要となり、駒部材の形状が簡素化される。そのため、駒部材を焼結金属の射出成形等で成形する場合に、成形が容易になる。
【0014】
この発明において、上記駒部材を焼結合金によって形成しても良い。このように焼結合金製とすることで、射出成形等の成形と焼結によって製造でき、旋削や研削等の機械加工が不要で、量産性が良い。これにより、安価な製作が可能である。
【0015】
この発明の電動パワーステアリング装置は、ハウジングと、車輪を操舵する操舵機構に連結された操舵軸と、ハンドルからの回転力を、上記操舵軸を長手方向に移動させるための力に変換する変換機構と、上記操舵軸の一部がボールねじ軸となるボールねじと、このボールねじの回転ナットに嵌合された電動モータとを備えたものであって、上記ボールねじを、この発明の上記いずれかの構成のボールねじとしたものである。
この構成により、電動モータの出力を伝えるボールねじが、コンパクトでかつ負荷容量の大きいものとできて、電動パワーステアリング装置の全体のコンパクト化が図れる。
【0016】
【発明の実施の形態】
この発明の一実施形態を図1ないし図5と共に説明する。図1に示すように、このボールねじ20は、ボールねじ軸21と、回転ナット22と、複数のボール23とを備え、回転ナット22は、ナット本体22aに駒部材24を取付けて構成されている。ボールねじ軸21は外ねじ溝25を有する。回転ナット22は、円筒状に形成されたナット本体22aの内周に、外ねじ溝25に対向する内ねじ溝26を有する。ボール23は、ボールねじ軸21の外ねじ溝25と回転ナット22の内ねじ溝26との間に形成された転動路27に連なって配置される。回転ナット22は、外周面における周方向の一部に、ローレット加工等による粗面部29が形成してあり、モータロータへの結合等に利用される。
【0017】
駒部材24は、内ねじ溝26の隣合う1周部分同士を連結する連結溝28を設けた部材であり、一つの駒部材24に、連結溝28が複数設けられている。各連結溝28は、各々内ねじ溝26の互いに異なる1周部分同士の連結を行うものとされ、この実施形態では、内ねじ溝26の順次隣合う1周部分同士を連結溝28で連結している。回転ナット22の内ねじ溝26は、連結溝28で連結されることで、1周の連続した周回経路となる。したがって、回転ナット22の内ねじ溝26は、駒部材24が設けられた軸方向長さの範囲で、複数条並んだ周回経路に分離される。各連結溝28の深さは、ボール23が、連結溝28内でボールねじ軸21の外ねじ溝25のねじ山を越えることができる深さとされている。
【0018】
駒部材24は、軸方向に離れた2か所でナット本体22aに取付けられ、これら2個の駒部材24は、互いに周方向位置が180°離れた位置とされている。2個の駒部材24の連結溝28の本数は、互いに異なっていても良い。図1では一つの駒部材24については連結溝28を3本とし、他の一つの駒部材24については連結溝28を2本としている。なお、一つの回転ナット22に設けられる駒部材24の個数は、1個であっても、3個以上であっても良い。
【0019】
図2は回転ナット22の具体例を示し、図3は駒部材24の具体例を示す。図4は回転ナット22の概念構成を示す説明図である。なお、図2において、回転ナット22の外径形状は簡略化して図示してある。
回転ナット22のナット本体22aは、駒部材嵌合用開口30が内外周面に貫通して設けられて、この駒部材嵌合用開口30に、駒部材24が内径側から嵌め込まれる。
【0020】
駒部材24は、回転ナット22の内ねじ溝26に係合してこの駒部材24を回転ナット22のナット本体22aに対して軸方向に位置決めする一対のアーム31,31を有している。これらアーム31,31は、駒部材24の軸方向の両端に、互いに円周方向の逆方向に突出して設けられている。回転ナット22の内ねじ溝26におけるアーム31が係合した部分は、非ボール循環部となる。
【0021】
各アーム31は、内ねじ溝26に嵌合する半円状の断面形状に形成され、先端から基端側へ延びるスリット32が設けられている。なお、内外のねじ溝25,26の断面形状は、詳しくはゴシックアーチ状である。各アーム31は裏面に断面半円状の裏側溝33が形成され、スリット32はアーム31の表面から裏側溝33に貫通している。また、各アーム31の表面には、裏側溝33に達しない深さの縦溝34が複数設けられている。
【0022】
駒部材24における回転ナット周方向の両側縁は、他の部分よりも外径面側が凹む凹み部35(図3(E))とされ、これら凹み部35から外径側へ立ち上がる一対のガイド壁36が、駒部材24の周方向を向く側面に沿って設けられている。
図4(B)に示すように、ナット本体22aの駒部材嵌合用開口30は、対向する一対の内側面における開口縁に係合段部39が設けられ、この係合段部39よりも開口側部分の幅が若干幅広に形成されている。
【0023】
駒部材24は、ナット本体22aの駒部材嵌合用開口30に内径面側から嵌め込まれ、一対のアーム31が内ねじ溝26に嵌合すると共に、ガイド壁36を塑性変形させることにより、ナット本体22aに固定される。この塑性変形による固定は、ガイド壁36を駒部材嵌合用開口30の対向する一対の内側面に加締固定することにより行われている。具体的には、ガイド壁36を係合段部39に加締で係合させることにより、駒部材24の固定の確実を図っている。
【0024】
図5は、ガイド壁36の加締手順を示す。同図(A)に示すように、ナット本体22aの駒部材嵌合用開口30に駒部材24を内径面側から嵌め込む。この状態で、同図(B)のようにナット本体22a内にコア48を入れ、外径側からパンチ49を押し込む。パンチ49は、テーパ状の加圧面を有しており、駒部材24の一対のガイド壁36は、その先端が外側へ斜めに折れ曲がるように加締られ、駒部材嵌合用開口30の係合段部39に係合状態になる。
【0025】
駒部材24の材質は、焼結合金としても良い。駒部材24を焼結合金製とする場合、金属粉末を可塑状に調整し、射出成形機で成形することにより行われる。この射出成形に際しては、まず、金属粉と、プラスチックおよびワックスからなるバインダとを混練機で混練し、その混練物をペレット状に造粒する。造粒したペレットは、射出成形機のホッパに供給し、金型内に加熱溶融状態で押し込むことにより成形する。前記金属粉としては、後に浸炭焼入が可能な材質が好ましく、例えば、炭素(C)が0.3%、ニッケル(Ni)が1〜2%、残りが鉄(Fe)からなるものとする。
回転ナット22のナット本体22aも、駒部材24と同様に焼結合金製としても良い。
【0026】
この構成のボールねじ20によると、駒部材24にガイド壁36を設け、このガイド壁36を加締固定する構成としたため、駒部材36の固定が簡単に、かつ確実に行える。このように加締固定する構成としたため、ガイド壁36の先端に抜け止め用突部を形成することが不要となり、駒部材24の形状が簡素化される。そのため、駒部材24を焼結金属の射出成形等で成形する場合に、成形が容易に行える。駒部材24を焼結合金製とした場合は、射出成形等の成形と焼結によって製造でき、旋削や研削等の機械加工が不要で、量産性が良い。これにより、安価な製作が可能である。
駒部材24は、ナット本体22aの駒部材嵌合用開口30に内径側から嵌め込み、アーム31を内ねじ溝26に係合させると共に、ガイド壁36を駒部材嵌合用開口30の開口縁に加締によって係合させるため、駒部材24は、内外の両方に対して抜け止め状態に固定される。また、駒部材24は、アーム31を設け、回転ナット22のボール転走面として形成される内ねじ溝26に係合させるため、高精度の位置決めが行える。アーム31にはスリット32が設けられているため、アーム31に弾性を持たせることができ、アーム31を内ねじ溝26の内面に隙間なく沿わせることができる。
【0027】
図6,図7は、参考提案例にかかるボールねじを示す。この参考提案例のボールねじ20は、第1の実施形態(図1〜図5の実施形態)において、駒部材24にガイド壁36を一体に設けた構成に代えて、別体の固定部材41を駒部材24に設けたものである。
固定部材41は、駒部材24における回転ナット円周方向の両側縁で外径側へ立ち上がる一対のガイド壁41bを有するものであって、ナット本体22aに形成された駒部材嵌合用開口30の対向する一対の内側面に弾性的に接する。これにより、駒部材24がナット本体22aに固定される。
【0028】
固定部材41は鋼板をプレス加工したものであり、底片部41aa(図7(B))の両端に立ち下り片41abを有する溝形の固定部材本体41aと、立ち下がり片41abの先端からU字状に折り返し状態に形成された上記ガイド壁41bとでなる。駒部材24の外径面部の側面形状は矩形状とされていて、この矩形状部分24aに固定部材41の溝形の固定部材本体41aが嵌合している。駒部材24の平坦となった外径面部には、固定部材41が嵌まる幅の嵌合溝43が形成され、この嵌合溝43に固定部材41の溝形の固定部材本体41aの底片部41aaが嵌まり込んでいる。
固定部材41は、駒部材24に設けた複数の加締部42で駒部材24に固定されている。この加締部42は、駒部材24に設けられた嵌合溝43の両側の側壁部を押え込むように塑性変形させた部分からなる(図7(A))。
この実施形態におけるその他の構成は第1の実施形態と同じである。
【0029】
この構成の場合、駒部材24に設けられた別体の固定部材41の一対のガイド壁41bが、回転ナット22の駒部材嵌合用開口30の対向する一対の内側面に弾性的に接することで駒部材24の固定が行われる。このように固定部材41を別部品化することで、駒部材24の形状がより一層簡素化される。そのため、駒部材24を焼結金属の射出成形等により成形する場合にも、成形が容易に行える。固定部材41は、駒部材24と別体であるが、予め駒部材24に固定して一体の部品として取り扱うことができるため、ボールねじ20の組み立て時における組み立て工数の増加の問題がなく、組み立て性が良い。
【0030】
なお、固定部材41は、上記のように加締部42を設けて駒部材24に一体固定する代わりに、固定部材41の持つ弾性で駒部材24に一体固定しても良い。その各例を図8(A),(B)にそれぞれ示す。
図8(A)の例は、固定部材41の溝形の固定部材本体41aを、駒部材24の矩形状部分24aに嵌合させ、溝形の固定部材本体41aの持つ弾性で駒部材24に挟み込み状態に固定したものである。駒部材24に、図7の例の嵌合溝43は設けていない。
同図(A)の例において、同図(C)に示すように、固定部材41にピン状等の突出部41eを設け、一方、駒部材24にはその突出部41eが嵌合する孔24eを設けて両者を嵌合させても良い。駒部材24を焼結金属の射出成形品とし、上記の嵌合状態で駒部材24を焼結する場合、焼結時に駒部材24が収縮することにより、突出部41eが強固に締め付けられて駒部材24に固定される。
【0031】
図8(B)の例は、同図(A)の例において、固定部材41の固定部材本体41aの両側縁に折曲片からなる挟持片41dを設け、これら挟持片41d間で駒部材24の一部を挟み込むようにしたものである。この構成の場合、固定部材41は、固定部材本体41aの一対の立ち下がり片41abと、一対の挟持片41dとで直交する2方向に挟み込むことができ、より堅固に固定部材41を固定することができる。また、一対の挟持片41dにより、固定部材41の駒部材24に対する軸方向の位置決めが行える。
これら図8(A)〜(C)の例における上記の他の構成は、図6,図7の実施形態と同じである。
【0032】
図9〜図11は、さらに他の参考提案例を示す。この参考提案例のボールねじ20は、第1の実施形態において、駒部材24にガイド壁36を一体に設けた構成に代えて、鋼線等の線材からなる固定部材45を設けたものである。回転ナット22の駒部材嵌合用開口30の対向する一対の内側面には係合段部46を設け、この係合段部46に対向する溝47を駒部材24に設ける。線材からなる固定部材45は、これら係合段部46と溝47とに係合して駒部材24を回転ナット22に固定する。駒部材嵌合用開口30の対向する一対の内側面は、上記係合段部46よりも外径側部分が内径側部分よりも幅広となっている。線材からなる固定部材45は、図11に示すようにコ字状に屈曲されたものであり、自然状態では同図に鎖線で示すように先端間が開き状態となる。
【0033】
組み立て時において、この固定部材45は、その弾性に抗して図11に実線で示すように狭めた状態で溝47内に入れる。駒部材24をナット本体22aの駒部材嵌合用開口30に内径側から所定位置まで挿入すると、コ字状の固定部材45が弾性で復元しようとし、駒部材嵌合用開口30の内側面を押し付けた状態で係合段部46に係合する。この係合により、駒部材24がナット本体22aに固定される。このように、線材からなる固定部材45を設けた場合も、駒部材24の形状が簡素化され、駒部材24を焼結金属の射出成形等により成形する場合にも、成形が容易に行える。
この実施形態におけるその他の構成は第1の実施形態と同じである。
【0034】
つぎに、このボールねじ20を具備した電動パワーステアリング装置の一例を説明する。図12は、この電動パワーステアリング装置の破断側面図である。同図において、ハウジング1は、図示しないブラケットを有していて、車体に固定される。ハウジング1内には操舵軸2が貫通し、操舵軸2はその両端にタイロッド3,4が連結されている。タイロッド3,4は、車輪を操舵する操舵機構(図示せず)に連結される。
ハウジング1の一端の近傍から斜め上方に延びるようにハンドル軸5が設けられ、ハンドル軸5は上端にハンドルが連結される。ハンドル軸5は、回転自在に支持されていて、ハンドル軸5の回転は、その下端から変換機構6を介して操舵軸2に、軸方向の移動力として伝達される。変換機構6は、操舵軸2の長手方向の一部で形成されるラック7と、ハンドル軸5の下端に設けられたピニオン(図示せず)とからなり、上記ピニオンは、ハウジング1内でラック7に噛み合う。ハンドル軸5に対して、その操舵トルクを検出する操舵トルク検出器(図示せず)が設けられている。
【0035】
ハウジング1は、円筒状に形成されたものであり、中央の筒体1aの両端に端部材1b,1cを結合して構成される。ハウジング1内の軸方向の中央部には、電動モータ8のステータ9が設けられている。ステータ9は、コアおよびステータコイルで構成される。ステータ9の内周側には、電動モータ8のロータ10がギャップを介して設けられている。ロータ10は、磁性体により円筒状に形成されていて、スリーブ11の外周に、このスリーブ11と一体に回転するように取付けられる。このスリーブ11内に、操舵軸2が軸方向移動自在に挿通されている。電動モータ8は、図示しないモータ制御回路により、前記操舵トルク検出器の検出値に従って制御される。
【0036】
スリーブ11の一端、この例ではハンドル軸5側の端部は、軸受12によりハウジング1内に回転自在に支持されている。軸受12は、単独の軸受であっても、複数個を組み合わせて配置したものであっても良く、全体としてラジアル荷重およびスラスト荷重の支持が可能なものとされる。
【0037】
電動モータ8の回転は、ボールねじ20を介して、操舵軸2に軸方向に移動させる力として伝えられる。ボールねじ20は、操舵軸2の軸方向の一部がボールねじ軸21となるものである。ボールねじ20の回転ナット22は、その外径部が軸受16でハウジング1内に回転自在に支持され、かつ電動モータ8のロータ10の一端が外径面に嵌合している。ロータ10の回転ナット22側の端部は、スリーブ11よりも突出していて、この突出部分が回転ナット22に嵌合する。また、回転ナット22は、前記のように外径面に粗面部29(図1(A))を有していて、この粗面部29にロータ10の内径面に嵌合する。
軸受16は、単独の軸受であっても、複数個を組み合わせて配置したものであっても良く、全体としてラジアル荷重およびスラスト荷重の支持が可能なものとされる。軸受16は、例えばアンギュラ玉軸受等の転がり軸受が用いられ、内輪、外輪、および両輪間に介在した転動体を有するものとされる。
【0038】
上記構成の動作および作用を説明する。車両が直進状態にあり、ハンドルの回転を停止しているときは、ハンドル軸5の操舵トルク検出器(図示せず)からトルク信号が出力されず、モータ制御手段(図示せず)により電動モータ8は回転停止状態とされる。したがって、この電動パワーステアリング装置は補助操舵力を出力しない状態にある。
ハンドルを操舵すると、ハンドル軸5の操舵トルク検出器からトルク信号が出力され、モータ制御回路の制御により、電動モータ8はロータ10を回転させる。ロータ10が回転すると、ロータ10と共にボールねじ20の回転ナット22が回転し、ボールねじ軸21で一部が構成される操舵軸2が軸方向に移動させられ、補助操舵力が発生する。
このとき、ボールねじ20のボール23は、回転ナット22の回転に伴い、内外のねじ溝25,26間で形成される転動路内で転動する。
このようにして、ハンドルの操舵力が電動モータ8で補われる。
【0039】
この電動パワーステアリング装置は、このように主要な構成部品であるモータ出力の伝達用のボールねじ20を上記の構成のものとしたため、ボールねじ20がコンパクトでかつ負荷容量が大きいものとできることに伴い、電動パワーステアリング装置の全体のコンパクト化が図れる。
【0040】
【発明の効果】
この発明のボールねじは、駒部材を塑性変形により上記回転ナットと一体に固定したため、駒部材を簡単な構成で回転ナットに一体化することができ、駒部材を焼結金属の射出成形等で成形する場合にも成形が容易になる。特に、駒部材における回転ナット円周方向の両側縁に、外径側へ立ち上がる一対のガイド壁を設け、これらガイド壁を、回転ナットに形成された駒部材嵌合用開口の対向する一対の内側面に加締固定したため、駒部材の固定がより一層簡単に、かつ確実に行える。また、上記駒部材に、回転ナットの内ねじ溝に係合してこの駒部材を回転ナットに対して軸方向に位置決めするアームを設けたため、回転ナットのボール転走面として形成される内ねじ溝に駒部材のアームを係合させることで、駒部材の高精度の位置決めが行える。
この発明の電動パワーステアリング装置は、電動モータの出力を伝えるボールねじに、この発明のボールねじを用いたため、ボールねじがコンパクトでかつ負荷容量の大きいものとできて、装置全体のコンパクト化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)〜(C)は、各々この発明の一実施形態にかかるボールねじの正面図、断面図、およびその駒部材の概略斜視図である。
【図2】(A)〜(C)は、各々その回転ナットの断面図、部分破断側面図、および背面図である。
【図3】(A)〜(E)は、各々同ボールねじにおける駒部材の正面図、平面図、背面図、斜視図、および側面図である。
【図4】(A),(B)は、各々同ボールねじにおける回転ナットの概念構成を示す破断正面図および破断側面図である。
【図5】同ボールねじの駒部材組み込み過程の説明図である。
【図6】 参考提案例にかかるボールねじの断面図である。
【図7】(A)はその駒部材の正面図、(B)は同側面図である。
【図8】 (A)〜(C)はそれぞれさらに他の参考提案例にかかるボールねじの駒部材の側面図である。
【図9】 さらに他の参考提案例にかかるボールねじの断面図である。
【図10】その一部の拡大断面図である。
【図11】同ボールねじにおける固定部材の平面図である。
【図12】この発明の一実施形態にかかる電動パワーステアリング装置の破断正面図である。
【図13】(A)〜(C)は、各々従来のボールねじの正面図、断面図、およびその駒の斜視図である。
【図14】ボールねじの提案例の破断正面図である。
【図15】同提案例のボールねじにおける駒部材の斜視図である。
【符号の説明】
1…ハウジング
2…操舵軸
5…ハンドル軸
6…変換機構
7…ラック
8…電動モータ
9…ステータ
10…ロータ
11…スリーブ
20…ボールねじ
21…ボールねじ軸
22…回転ナット
23…ボール
24…駒部材
25…外ねじ溝
26…内ねじ溝
28…連結溝
30…駒部材嵌合用開口
31…アーム
36…ガイド壁
39…係合段部
41…固定部材
41b…ガイド壁
45…固定部材
46…係合段部
47…溝
Claims (4)
- ボールねじ軸と、このボールねじ軸に対向して内周に内ねじ溝を有する回転ナットと、上記ボールねじ軸と内ねじ溝との間に形成された転動路に連なって配置され、上記回転ナットとボールねじ軸の間で力を伝達するための複数のボールと、上記回転ナットに取付けられて内ねじ溝同士を連結する連結溝を有する駒部材とを備え、上記駒部材に、回転ナットの内ねじ溝に係合してこの駒部材を回転ナットに対して軸方向に位置決めするアームを設け、上記駒部材における回転ナット円周方向の両側縁は、他の部分よりも外径面側の凹む凹み部とし、これら凹み部から外径側へ立ち上がる一対のガイド壁を設け、前記回転ナットに形成された駒部材嵌合用開口の対向する一対の内側面における回転ナット外径側の開口縁に、開口幅を広げる係合段部を設け、前記一対のガイド壁は、回転ナットの前記駒部材嵌合用開口の対向する一対の内側面における前記各係合段部に先端を加締固定したボールねじ。
- 上記駒部材を焼結合金により形成した請求項1に記載のボールねじ。
- 前記駒部材は、内ねじ溝同士を連結する連結溝を複数有するものとした請求項1または請求項2に記載のボールねじ。
- ハウジングと、車輪を操舵する操舵機構に連結された操舵軸と、ハンドルからの回転力を、上記操舵軸を長手方向に移動させるための力に変換する変換機構と、上記操舵軸の一部がボールねじ軸となるボールねじと、このボールねじの回転ナットに嵌合された電動モータとを備えた電動パワーステアリング装置において、上記ボールねじを、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のボールねじとしたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
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