JP3838866B2 - 運動変換装置及びその製造方法並びに動力舵取装置 - Google Patents

運動変換装置及びその製造方法並びに動力舵取装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転運動から直線運動へ、又は直線運動から回転運動への運動変換のために用いられる運動変換装置、及びこの運動変換装置の製造方法に関し、更には、操舵補助用のモータの回転を舵取り軸の直線運動に変換すべく前記運動変換装置を用いてなる動力舵取装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
モータ等の回転駆動源の回転運動を直線運動に変換するための運動変換装置、又はこれとは逆の運動変換を行わせるための運動変換装置が、種々の産業分野において用いられている。例えば、操舵補助用のアクチュエータとしてステアリング操作に応じて駆動されるモータを備える電動式の動力舵取装置においては、操舵補助用のモータの回転運動を、舵取り軸(ラック・ピニオン式舵取機構におけるラック軸等)の軸長方向の直線運動に変換すべく前述した運動変換装置が用いられている。
【0003】
このような動力舵取装置に適用される運動変換装置は、舵取機構周辺の限られたスペースに操舵補助用のモータを含めて配設し得るように、コンパクトな構成であることが要求され、また小型のモータにより可及的に大なる操舵補助力が得られるように、高い伝動効率を有することが要求されている。
【0004】
このような要求に応え得る簡素な構成の運動変換装置の一つとして、特開昭59−9351号公報等に開示された送りベアリングを用いてなる運動変換装置がある。図8は、この運動変換装置の縦断面図であり、ねじ軸1と、該ねじ軸1の外側を同軸上にて囲繞する保持筒2と、該保持筒2に内嵌保持された複数(図においては4個)の送りベアリングR1 〜R4 とを備えて構成されている。保持筒2は、その中途部を内輪として一体形成された4点接触玉軸受20により、筒形をなすハウジング3の内部に回転自在に支持され、図示しない回転駆動源からの伝動により、ねじ軸1と同軸上にて回転するようになしてある。
【0005】
ねじ軸1の外周には、半円形断面を有する螺旋状のねじ溝10が、保持筒2の内側を含む所定の長さ範囲に亘って形成されている。保持筒2内部の送りベアリングR1 〜R4 は、外輪と内輪との間に多数のボールを保持し、内側に挿通されたねじ軸1の外径よりも十分に大きい内径を有する玉軸受であり、各別の方向に偏心させてある。これらの送りベアリングR1 〜R4 の内輪の内周面には、前記ねじ溝10の断面に対応する半円形の突起が周設されており、各送りベアリングR1 〜R4 は、夫々の偏心によりねじ軸1に近づいた周方向位置において前記突起を介してねじ溝10に係合させてある。
【0006】
以上の如く構成された運動変換装置において、前記保持筒2が軸回りに回転すると、該保持筒2に保持された4個の送りベアリングR1 〜R4 の内輪が、前記ねじ軸1外周のねじ溝10との係合を保って転動し、該ねじ軸1は、各送りベアリングR1 〜R4 との係合位置にねじ溝10の傾斜に沿って加わる作用力の軸方向分力により押圧され、保持筒2の回転運動がねじ軸1の直線運動に変換される。従って、前記保持筒1を操舵補助用のモータにより回転駆動し、前記ねじ軸1を舵取りのための舵取り軸とすることにより前述した動力舵取装置への適用が可能である。
【0007】
一方、ねじ軸1が軸長方向に移動せしめられた場合には、逆方向の伝動により保持筒2が軸回りに回転せしめられることとなり、ねじ軸1の直線運動が保持筒2の回転運動に変換される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
さて、以上の如く構成された従来の運動変換装置において、保持筒2内への送りベアリングR1 〜R4 の保持は、該保持筒2の一側半部の外観を略示する図9に示す如く行われている。
【0009】
図9に示す保持筒2の一側端部には、同側の送りベアリングR1 を保持させるための保持孔2aが形成されている。この保持孔2aは、送りベアリングR1 の外径と略等しい内径を有する円孔であり、保持筒2の軸心に対して所定長偏心した位置に、同側の端面に連続して形成されている。この保持孔2aへの送りベアリングR1 の保持は、保持筒2の一側から、図9中に矢符により示す如く圧入し、図8に示す如く、保持孔2aの底面に一側を突き当て、他側を保持孔2aの内面に係着された止め輪2eに当接させて、軸方向への移動不可に拘束して実現されている。なお他側の送りベアリングR4 は、保持筒2の他側端部に形成された保持孔2dに同様にして保持されている。
【0010】
また保持筒2の中途部には、送りベアリングR2 及び送りベアリングR3 の保持のための保持部2b,2cが形成されている。図9に示す如く保持部2bは、対象となる送りベアリングR2 の外形に対応する半円形断面の凹所を保持筒2の内部に形成し、該凹所の開放側を接線方向に延長して保持筒2の外周面に送りベアリングR2 の側断面形状に対応する矩形の開口に連通せしめて構成されている。
【0011】
このような保持部2bへの送りベアリングR2 の保持は、該送りベアリングR2 を、図9中に矢符により示す如く、保持筒2外周の開口を経て保持部2b内に押し込み、該保持部2bの底部を形成する半円形の凹所に突き当て、この突き当て半部に対応する送りベアリングR2 の内面を、図8に示す如く、ねじ軸1外周のねじ溝10に係合せしめ、前記凹所を支持部として機能させることにより実現されている。なお他の1つの送りベアリングR3 は、前記保持部2bと同様の形態をなして形成された保持部2cに保持されている。
【0012】
このような従来の運動変換装置においては、保持筒2の中央に位置する送りベアリングR2 ,R3 の保持部2b,2cが、前述の如く、保持筒2の内側に設けた半円形の凹所を一側に延長して保持筒2の外周面に連通させた特殊な形態を有しており、これらは、以下の手順により形成されている。
【0013】
図10は、保持部2b(又は2c)の形成手順の説明図である。前述した形態をなす保持部2bは、まず、図10(a)に示す如く、保持筒2の内部に一側に偏心した円形断面の空洞部2fを形成し、次に、図10(b)に示す如く、前記空洞部2fの偏心側に連続し、該空洞部2fの接線間に挾まれた領域2gを保持筒2の周面に至るまで除去することにより、図10(c)に示す如く、前記空洞部2fの半部を送りベアリングR2 (又はR3 )を支持する半円形の凹所として残して実現される。
【0014】
ところが、以上の形成手順において、前記空洞部2fの形成は、例えば、保持筒2の端面からの中ぐり加工により高精度に実現されるが、このような空洞部2fに連続する前記領域2gを高精度に除去するためには、保持筒2の外側からの放電加工等の特殊な加工が必要であり、この加工に多大の工数を要するという問題があり、このことが、量産を難しくする要因となっている。
【0015】
また、複数の送りベアリングR1 〜R4 の所望の保持状態を得るため、これらの一部又は全部を各別の保持体に保持させ、これらの保持体を共通の筒体内に順次保持さえて保持筒を構成したものがある。この構成によれば、保持筒2の中央に位置する送りベアリングR2 ,R3 の保持が、特殊な加工を必要とせずに実現される反面、各送りベアリングR1 〜R4 の保持体、これらを一括して保持する筒体等の複数部品からなる保持筒の構成が複雑となり、また大型化が避けられないという問題がある。
【0016】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、単一の保持筒内への複数の送りベアリングの偏心保持を、特殊な加工を必要とすることなく高精度に実現することができ、簡素な構成により確実な運動変換動作を行わせることができ、量産が可能な運動変換装置、及びその製造方法を提供することを目的とし、更にはこの運動変換装置を用いてなる動力舵取装置を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1発明に係る運動変換装置は、軸長方向への移動自在に支持され、外周面にねじ溝が形成されたねじ軸と、該ねじ軸の外側に同軸上での回転自在に支持された保持筒と、該保持筒の内部に偏心して形成された各別の保持部に嵌合保持され、内周面の一か所を前記ねじ溝に係合させた複数の送りベアリングとを備え、駆動源からの伝動により生じる保持筒の回転又はねじ軸の移動を、前記ねじ溝を案内とする送りベアリングの転動により、ねじ軸の移動又は保持筒の回転に変換する運動変換装置において、前記複数の送りベアリングの保持部の少なくとも1つは、前記保持筒の該当位置に、前記送りベアリングと略対応する幅を有して形成され、径方向の一側に偏心した半円形の軸断面を有する支持部と、該支持部の半円形の開放側を接線方向に延長して形成された案内部と、該案内部の他側を径方向に横断して形成され、前記保持筒の周面に開口する導入部とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明においては、保持筒の内部に送りベアリングを保持する保持部を、該送りベアリングの半部を支持する半円形の支持部と、この支持部の半円形の端部を接線方向に延長した短寸の案内部と、この案内部の他側を径方向に横断して形成され、保持筒の周面に開口する導入部とにより構成し、該当する送りベアリングを導入部を経て差し込み、案内部により位置決めして支持部に突き当てた状態に保持させる。このような保持部において保持筒の周面に開口する導入部は、保持筒内側の案内部及び支持部を外部に連通させるためのものであり、案内部及び支持部の形状に対応させる必要はなく、案内部を横断する適宜の形状にて保持筒の外側から形成すればよく、特殊な加工を必要としない。
【0019】
また本発明の第2発明に係る運動変換装置は、第1発明における導入部が、前記案内部及び支持部よりも広幅に形成してあることを特徴とする。
【0020】
この発明においては、保持筒の周面に開口する導入部を、保持筒の内部に該当する送りベアリングに対応する幅を有して形成された案内部及び支持部よりも広幅とし、この導入部から前記案内部及び支持部への送りベアリングの差し込みを容易化する。
【0021】
また本発明の第3発明に係る運動変換装置の製造方法は、第1発明又は第2発明の運動変換装置の保持筒に前記送りベアリングの保持部を形成する方法であって、前記保持筒の端面からの中ぐり加工により、その一側半部を前記支持部として利用する円形断面の空洞部を形成する第1工程と、前記中ぐり加工を前記空洞部の他側にオフセットしつつ継続し、オフセットの方向に前記案内部を形成する第2工程と、前記保持筒の前記オフセットの方向の外側周面を、軸断面内において大曲率の円弧又は直線に沿って移動する工具に径方向の送りを加えつつ前記案内部を適長余す位置まで切削し、前記導入部を形成する第3工程とを含むことを特徴とする。
【0022】
この発明においては、保持筒の端面から中ぐり加工を行う第1工程により、円形断面の空洞部を形成し、続いて行われる第2工程において、前記空洞部を一側にオフセットして案内部を形成し、更に第3工程において、保持筒の外側周面をオフセットの方向に対応する側から切削し、保持筒内側の空洞部を第2工程において形成された案内部を適長余す位置まで露出させて導入部を形成し、空洞部の他側に残された半円部分を支持部として、送りベアリングを保持する保持部を特殊な加工を要さずに形成する。
【0023】
更に本発明の第4発明に係る動力舵取装置は、軸長方向への移動自在に支持された舵取り軸と、該舵取り軸の外側に同軸上での回転自在に支持され、操舵補助用のモータからの伝動により回転する回転筒とを備え、該回転筒の回転を前記舵取り軸の移動に変換して舵取りを補助する動力舵取装置において、前記舵取り軸を前記ねじ溝とし、前記回転筒を前記保持筒として構成された第1発明又は第2発明に係る運動変換装置を備えることを特徴とする。
【0024】
この発明においては、操舵補助用のモータの回転を舵取り軸の移動に変換すべく、簡素な構成でありながら確実な運動変換が可能であり、量産が可能な第1又は第2発明の運動変換装置を用いる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明に係る運動変換装置の第1の実施の形態を示す縦断面図である。
【0026】
この運動変換装置は、図8に示す従来の運動変換装置と同様、その外周面に半円形断面を有するねじ溝10が形成されたねじ軸1と、該ねじ軸1の外側を同軸上にて囲繞する円筒形をなす保持筒2と、該保持筒2の内部に保持された4個の送りベアリングR1 〜R4 とを備えて構成されている。保持筒2は、その中途部を内輪として一体形成された4点接触玉軸受20により、筒形をなすハウジング3の内部に回転自在に支持され、図示しない回転駆動源からの伝動により、ねじ軸1と同軸上にて回転するようになしてある。
【0027】
送りベアリングR1 〜R4 は、外輪と内輪との間に多数のボール(転動体)を保持する玉軸受であり、内側に挿通されたねじ軸1の外径よりも大なる内径を有しており、夫々の内輪の内周面には、ねじ軸1外周のねじ溝10の断面に対応する半円形の突起が周設されている。
【0028】
前記送りベアリングR1 〜R4 は、保持筒2の軸心と直交する面内において各別の方向に偏心した状態に保持されている。この偏心は、保持筒2の長手方向両側に位置する2個の送りベアリングR1 ,R4 が略同方向となり、同じく中央に位置する2個の送りベアリングR2 ,R3 が略同方向となるように、夫々略等しい量だけ設定されており、各送りベアリングR1 〜R4 は、夫々の偏心により最も近づいた周方向位置において、内輪に設けた前記突起を介してねじ軸1外周のねじ溝10に係合せしめられている。
【0029】
なお図においては、送りベアリングR1 ,R4 の係合位置がねじ軸1の周方向において一致し、同様に送りベアリングR2 ,R3 の係合位置が一致するかのように図示されているが、これらの係合位置は、周方向にずらせて設定し、夫々の位置でのねじ溝10への係合が、他の送りベアリングにより3方から支えられた状態下にて確実に生じるようにしてある。
【0030】
図2は、以上の如く構成された運動変換装置の動作説明図であり、ねじ軸1と一個の送りベアリングR1 との係合関係が示されている。送りベアリングR1 は、ねじ軸1外周のねじ溝10に、図中にaとして示す位置にて係合させてある。この状態で前記保持筒2が軸回りに回転した場合、該保持筒2に保持された送りベアリングR1 が前記ねじ溝10との係合を保って転動し、この転動によりねじ軸1には、ねじ溝10に沿った摩擦力Fが加わり、この摩擦力Fの軸方向分力F1 により押圧される。同様の軸方向分力は、他の送りベアリングR2 〜R4 との係合位置においても加えられ、前記ねじ軸1は、図中に白抜矢符にて示す如く、前記押圧の方向、即ち、軸長方向に移動せしめられる。この移動の方向は、保持筒2の回転方向に応じて定まり、保持筒2の回転運動がねじ軸1の直線運動に変換される。
【0031】
また、前記ねじ軸1が軸長方向に移動した場合、逆方向の伝動により保持筒2が軸回りに回転せしめられることとなり、ねじ軸1の直線運動が保持筒2の回転運動に変換される。
【0032】
以上の運動変換を高効率にて行わせるには、ねじ軸1外周のねじ溝10と各送りベアリングR1 〜R4 とが良好な係合状態を保つ必要があり、このために、保持筒2内部の送りベアリングR1 〜R4 が高精度に位置決めされることが要求されている。更には、以上の如き送りベアリングR1 〜R4 の位置決めが、特殊な加工を要することなく簡素な構成により実現されることが、量産性の面から要求されている。
【0033】
本発明に係る運動変換装置においては、以上の要求に応えるべく、保持筒2内部の送りベアリングR1 〜R4 の保持、特に、保持筒2の中央部に位置する送りベアリングR2 ,R3 の保持を以下の如くに実現している。
【0034】
図3は、保持筒2の一側半部を略示する外観斜視図であり、同側半部の送りベアリングR1 ,R2 の保持構造が示されている。本図に示す如く保持筒2の一側端部には、同側の送りベアリングR1 のための保持孔21が形成されている。この保持孔21は、図9に示す従来の運動変換装置における保持孔2aと同様、保持対象となる送りベアリングR1 の外径と略等しい内径を有する円孔であり、保持筒2の軸心に対して所定長偏心した位置に、同側の端面に全面を開口させて形成されている。この保持孔21に対し送りベアリングR1 は、図中に2点鎖線により示す如く、保持筒2端面の開口を経て圧入され、図1に示す如く、保持孔21の底面に一側を突き当て、他側を保持孔21の内面に係着された止め輪25に当接させて、軸方向への移動不可に拘束して保持されている。
【0035】
また、保持筒2の他側端部に位置する送りベアリングR4 は、前記送りベアリングR1 と全く同様に、保持筒2の同側端部に形成された保持孔24(図1参照)に内嵌され、止め輪25により抜け止めして保持されている。このような送りベアリングR1 ,R4 の保持構造は、図8及び図9に示す従来の運動変換装置における保持構造と同じであり、前記保持孔21及び24は、保持筒2の両端部からの中ぐり加工により、夫々の偏心位置を含めて高精度に形成することができるから、両側の送りベアリングR1 ,R4 は、保持筒2内に正しく位置決めして保持させることができる。
【0036】
一方、保持筒2の中途部には、送りベアリングR2 のための保持部22が、図3中に破線により示す如く形成されている。この保持部22は、前記送りベアリングR2 の外形に対応する半円形断面を有し、また該送りベアリングR2 と略等しい幅を有する凹所として、保持筒2内部の該当位置に径方向の一側に偏心して形成された支持部 22aと、該支持部 22aの半円形の開放端の夫々を接線方向に延長し、相互に平行をなして形成された短寸の案内部 22bと、該案内部 22bの他側を径方向に横断する態様をなして保持筒2の外側から形成され、該保持筒2の外面に開口する導入部 22cとを備えている。
【0037】
このような保持部22への送りベアリングR2 の保持は、該送りベアリングR2 を、図3中に矢符により示す如く、保持筒2の外側から前記導入部 22cの開口を経て前記案内部 22bに差し込み、短寸の直線状をなす案内部 22bにより径方向及び幅方向に位置決めさせつつ内奥に導き、該案内部 22bに連続する半円形の支持部 22aに半部を突き当て、更に、ねじ軸1外周のねじ溝10に対する係合位置を、図1に示す如く、前記支持部 22aへの突き当て側半部の内面に設定して実現されている。このように送りベアリングR2 は、ねじ溝10との係合部の逆側を半円形の支持部 22aにより支えて保持されており、保持筒2内に正しく位置決めされた状態にある。更に、残りの1つの送りベアリングR3 の保持は、保持筒2の該当部位に前記保持部22と同様に形成された保持部23に対して実現されている。
【0038】
図4は、保持部22の形成手順の説明図である。前述した形態をなす保持部22は、まず、図4(a)に示す如く、保持筒2の内部に、対象となる送りベアリングR2 の外径に等しい内径を有し、一側に所定長偏心した円形断面の空洞 22dを形成する。このような空洞 22dは、保持筒2の同側端部に形成された前記保持孔21の開口からの中ぐり加工により形成される。
【0039】
次に、前記空洞 22dの形成のための中ぐり加工を一側、即ち、前記偏心の側にオフセットしつつ継続し、図4(b)に示す如く、円形断面の空洞 22dを前記一側に延ばした長円形断面をなす空洞 22eを形成する。最後に、前記保持筒2の前記オフセットの側の外周面を、軸断面内において大曲率の円弧又は直線に沿って移動する工具に径方向の送りを加えつつ切削して少なくとも前記空洞 22eの同側半円部を除去する。これにより、図4(c)に示す如く、前記空洞 22eの他側の半円部が前記支持部 22aとして残り、また、前記半円部の開放側に連続する短寸の直線部分が前記案内部 22bとして残り、これらが、最後の加工による除去部分として形成された導入部 22cにより保持筒2の外部に連通されて、図3に示す如き保持部22が形成される。
【0040】
以上の手順により形成される保持部22において、半円形の支持部 22aと、これの開放側に連続する案内部 22bとは、前述の如く、保持筒2の端面からの中ぐり加工により高い精度下にて容易に形成することができる。また導入部 22cは、例えば、図4(b)中に2点鎖線により示す如く、保持筒2の外周面にこれよりも十分に大径の回転砥石Aを当て、保持筒2の軸心に向けて図4(c)に示す位置まで送る間に、軸断面内において大曲率の円弧に沿って移動する前記回転砥石Aの周面により、内側の支持部 22a及び案内部 22bと略対応する保持筒2の外側部分を切削除去せしめて形成される。
【0041】
このように導入部 22cは、前記回転砥石Aを用いた切削等の一般的な加工法により、保持筒2内側の前記支持部 22a及び案内部 22bの正確な形状及び位置に依存することなく簡易に形成することができる。また、このように形成される導入部 22cは、前述の如く、対象となる送りベアリングR2 の導入口としての機能を果たすのみであり、送りベアリングR2 の導入を容易に行わせるため、図3に示す如く、前記案内部 22b及び支持部 22aよりも広幅に形成するのがよく、この場合においても保持筒2内の送りベアリングR2 は、支持部 22a及び案内部 22bにより安定して支持される。
【0042】
このように、導入部 22cの前述した形成に高精度での加工は不要であり、送りベアリングR2 の確実な保持を、多大の工数を要することなく安定して実現することができ、該送りベアリングR2 を、図1に示す如く保持筒2の内側に同軸的に挿通されたねじ軸1外周のねじ溝10に良好に係合させることができ、前述した運動変換を、確実に、しかも高効率にて行わせることが可能となる。このような利点は、保持筒2の中央に位置するもう一つの送りベアリングR3 についても全く同様に得られる。
【0043】
なお前記導入部 22cは、直線運動する工具を備える平削り盤により、前記案内部 22bの他側を径方向に横断する態様に形成することもできる。図5は、平削り盤により形成された導入部 22cを備える保持筒2の斜視図であり、前記図3との対照により、直線運動する工具により切削された前記導入部 22cの底面が平坦となっていることが明らかである。このような導入部 22cに対する送りベアリングR2 の組み付けも全く同様に行わせることができる。
【0044】
また、保持筒2の両側の送りベアリングR1 ,R4 についても、夫々の該当位置に前記保持部22,23と同様に形成された保持部に保持させ、全ての送りベアリングR1 〜R4 について共通の保持構造とすることも可能である。
【0045】
図6は、以上の如く構成された運動変換装置を用いた動力舵取装置の要部の構成を示す一部破断正面図であり、操舵補助用のモータ5の回転を本発明に係る運動変換装置を介して舵取り軸としてのラック軸4に伝え、該ラック軸4を軸長方向に移動させて操舵を補助する構成となっている。
【0046】
前記ラック軸4は、筒形をなすラックハウジング40の内部に軸長方向への移動自在に支承され、図示しない車体の左右方向に延設されており、ラックハウジング40の両側に夫々突出するラック軸4の両端は、各別のタイロッドを介して図示しない操向用車輪(一般的には左右の前輪)に連結されている。
【0047】
ラックハウジング40の中途部には、これと軸心を交叉させてピニオンハウジング41が連設され、該ピニオンハウジング41の内部には、その軸心回りでの回転自在にピニオン軸42が支承されている。図1においてピニオン軸42は、ピニオンハウジング41の上部への突出端のみが図示してあり、この突出端を介して図示しない舵輪(ステアリングホィール)に連結され、舵取りのための舵輪の操作に応じて軸回りに回転するようになしてある。
【0048】
ピニオンハウジング41の内部に延設されたピニオン軸42の下部には、図示しないピニオンが一体的に形成してある。また、ラックハウジング40内に支承されたラック軸4には、ピニオンハウジング41との交叉位置を含めた適長に亘って、ラック歯43が形成され、ピニオン軸42の下部の前記ピニオンに噛合させてある。而して、舵輪の操作に伴うピニオン軸42の回転が、前記ピニオン及びラック歯43の噛合によりラック軸4の軸長方向の移動に変換され、更に、ラックハウジング40内でのラック軸4の移動が、前記タイロッドを介して左右の操向用車輪に伝達されて、これらの車輪が前記舵輪の操作に応じて操舵されるラック・ピニオン式の舵取り機構が構成されている。
【0049】
以上の如く行われる操舵を補助する操舵補助用のモータ5は、前記ラックハウジング40の中途部を適長に亘って拡径して一体的に構成された円筒形のモータハウジング50の内部に、該モータハウジング50の内周面に固設されたステータ51と、該ステータ51の内側に同軸的に配されたロータ52とを備える3相ブラシレスモータとして構成されている。
【0050】
前記ロータ52は、ラック軸4の外径よりも大なる内径を有する円筒の外周に、前記ステータ51の内面にわずかな隙間を有して対向する磁極53を保持して構成されており、左右一対の玉軸受54,55により、モータハウジング50の軸心回りに回転自在に支承され、前記ステータ51への通電に応じて正逆両方向に回転するようになしてある。このようなモータ5の回転は、ロータ52の一側に構成された本発明に係る運動変換装置の動作により、前記ラック軸5の軸長方向の移動に変換されて伝達されるようにしてある。
【0051】
運動変換装置は、モータハウジング50を同側に延長してなる筒形のハウジング3の内部に4点接触玉軸受20により支持された保持筒2と、該保持筒2の内部に前述の如く保持された4個の送りベアリングR1 〜R4 と、これらを係合させるべく前記ラック軸4の外周に適長に亘って形成されたねじ溝10とを備えて構成されている。保持筒2は、前記ロータ52の一側(玉軸受55による支持側)端部に連結ブラケット56を介して同軸的に連結され、前記モータ5の回転に応じてラック軸4と同軸上にて回転する回転筒として構成されている。
【0052】
このように本発明に係る運動変換装置は、操舵補助用のモータ5からに伝動により回転する保持筒2を備え、外周にねじ溝10を備えるラック軸4を前記ねじ軸1として構成されており、舵取り操作に応じて駆動される前記モータ5の回転をラック軸4の軸長方向の移動に変換し、この移動に応じて前述の如くなされる操舵を補助する動力舵取装置が構成されている。
【0053】
以上の如く構成された動力舵取装置においては、ラック軸4外周のねじ溝10に対する4個の送りベアリングR1 〜R4 の係合状態が、保持筒2の内部における各送りベアリングR1 〜R4 の前述した保持により良好に実現されていることから、前記モータ5からの伝動による保持筒2の回転運動をラック軸4の軸長方向の直線運動に高効率に変換することができ、前述した操舵補助を確実に行わせることができる。
【0054】
なお図6には、操舵補助用のモータ5の回転をラック軸4の軸長方向の移動に変換して操舵補助するラック・ピニオン式の動力舵取装置への適用例を示しているが、本発明に係る運動変換装置は、軸長方向への移動により舵取りを行わせる舵取り軸に操舵補助用のモータの回転を伝達する構成とした各種の形式の動力舵取装置に適用可能である。更に本発明に係る運動変換装置は、以上の如き動力舵取装置に限らず、回転運動から直線運動への運動変換、又は直線運動から回転運動への運動変換のために種々の産業分野において適用可能であることは言うまでもない。
【0055】
また以上の実施の形態においては、4個の送りベアリングR1 〜R4 を備える構成について述べたが、本発明に係る運動変換装置は、3個、又は5個以上の送りベアリングを備えて構成とすることもできる。図7は、3個の送りベアリングをR1 〜R3 を備えて構成された本発明に係る運動変換装置の第2の実施の形態を示す縦断面図である。
【0056】
この運動変換装置において、3個の送りベアリングR1 〜R3 は、保持筒2の内部に偏心保持された玉軸受であり、ねじ軸1外周のねじ溝10に対し、両側の2個の送りベアリングR1 ,R3 を半径方向の同側から、中央の1個の送りベアリングR2 を他側から夫々係合させてある。
【0057】
以上の如き送りベアリングR1 〜R3 の保持は、保持筒2の両端部に形成された円形断面の保持孔26,28に送りベアリングR1 ,R3 を内嵌固定し、保持筒2の中間部に前記保持部22と同様の形態をなして形成された保持部27に、保持筒2の外側から送りベアリングR2 を差し込み支持させて実現されている。このように保持された送りベアリングR1 〜R3 は、保持筒2の軸心に対する位置関係を正しく保っており、各送りベアリングR1 〜R3 が前記ねじ溝10に良好に係合した状態にあり、高効率での運動変換を行わせることができる。
【0058】
このとき、中央の送りベアリングR2 の保持部27は、特殊な加工を要さずに形成することができ、良好な係合状態を簡易に実現することができる。なお、5個以上の送りベアリングを備える運動変換装置も同様に実現可能であり、多くの送りベアリングの使用は、大負荷での用途に有効である。
【0059】
【発明の効果】
以上詳述した如く本発明の第1発明に係る運動変換装置においては、保持筒の内部に送りベアリングを保持する保持部を、該送りベアリングの半部を支持する半円形の支持部と、この支持部の半円形の端部を接線方向に延長した短寸の案内部と、この案内部の他側を径方向に横断して形成され、保持筒の周面に開口する導入部とにより構成し、導入部を経て差し込まれる送りベアリングを、案内部により位置決めして支持部に突き当てた状態に保持させる構成としたから、単一の保持筒内への複数の送りベアリングの偏心保持を、特殊な加工を必要とせずに高精度に実現することができ、確実な運動変換を行わせ得る運動変換装置を、量産可能に提供することが可能となる。
【0060】
また第2発明に係る運動変換装置においては、保持筒の周面に開口する導入部を案内部及び支持部よりも広幅としたから、この導入部を経て行われる送りベアリングの前記案内部及び支持部への差し込みが容易であり、組立て工程の簡素化により、量産性の一層の向上を図ることができる。
【0061】
また第3発明に係る製造方法においては、保持筒の端部から径方向一側へのオフセットを伴って行われる第1,第2工程の中ぐり加工により、前記支持部及び案内部を一括して形成し、次いで軸断面内において大曲率の円弧又は直線に沿って移動する工具により保持筒外側の該当部位の周面を加工する第3工程により、保持筒の外部に案内部及び支持部を露出させる前記導入部を形成するから、保持筒内に送りベアリングを保持する保持部を、特殊な加工を要さずに高精度に形成することができ、第1発明又は第2発明に係る運動変換装置を高い量産性下にて製造することが可能となる。
【0062】
更に第4発明に係る動力舵取装置においては、操舵補助用のモータの回転を舵取り軸の移動に変換する用途に第1又は第2発明の運動変換装置を用いたから、操舵補助用のモータから舵取り軸への伝動を高効率下にて安定して行わせることができる動力舵取装置を安価に提供することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る運動変換装置の第1の実施の形態を示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る運動変換装置の動作説明図である。
【図3】保持筒の一側半部における送りベアリングの保持構造を略示する外観斜視図である。
【図4】送りベアリングの保持部の形成手順の説明図である。
【図5】保持筒の一側半部における送りベアリングの保持構造の他の実施の形態を略示する外観斜視図である。
【図6】本発明に係る運動変換装置を用いた動力舵取装置の要部の構成を示す一部破断正面図である。
【図7】3個の送りベアリングを備える本発明に係る運動変換装置の第2の実施の形態を示す縦断面図である。
【図8】従来の運動変換装置の縦断面図である。
【図9】従来の運動変換装置における保持筒の一側半部での送りベアリングの保持構造を略示する外観斜視図である。
【図10】従来の運動変換装置における送りベアリングの保持部の形成手順の説明図である。
【符号の説明】
1 ねじ軸
2 保持筒
3 ハウジング
4 ラック軸
5 モータ
10 ねじ溝
22 保持部
22a 支持部
22b 案内部
22c 導入部
1 〜R4 送りベアリング

Claims (4)

  1. 軸長方向への移動自在に支持され、外周面にねじ溝が形成されたねじ軸と、該ねじ軸の外側に同軸上での回転自在に支持された保持筒と、該保持筒の内部に偏心して形成された各別の保持部に嵌合保持され、内周面の一か所を前記ねじ溝に係合させた複数の送りベアリングとを備え、駆動源からの伝動により生じる保持筒の回転又はねじ軸の移動を、前記ねじ溝を案内とする送りベアリングの転動により、ねじ軸の移動又は保持筒の回転に変換する運動変換装置において、
    前記複数の送りベアリングの保持部の少なくとも1つは、
    前記保持筒の該当位置に、前記送りベアリングと略対応する幅を有して形成され、径方向の一側に偏心した半円形の軸断面を有する支持部と、
    該支持部の半円形の開放側を接線方向に延長して形成された案内部と、
    該案内部の他側を径方向に横断して形成され、前記保持筒の周面に開口する導入部と
    を備えることを特徴とする運動変換装置。
  2. 前記導入部は、前記案内部及び支持部よりも広幅に形成してある請求項1記載の運動変換装置。
  3. 請求項1又は2記載の運動変換装置の保持筒に前記送りベアリングの保持部を形成する方法であって、
    前記保持筒の端面からの中ぐり加工により、その一側半部を前記支持部として利用する円形断面の空洞部を形成する第1工程と、
    前記中ぐり加工を前記空洞部の他側にオフセットしつつ継続し、オフセットの方向に前記案内部を形成する第2工程と、
    前記保持筒の前記オフセットの方向の外側周面を、軸断面内において大曲率の円弧又は直線に沿って移動する工具に径方向の送りを加えつつ前記案内部を適長余す位置まで切削し、前記導入部を形成する第3工程と
    を含むことを特徴とする運動変換装置の製造方法。
  4. 軸長方向への移動自在に支持された舵取り軸と、該舵取り軸の外側に同軸上での回転自在に支持され、操舵補助用のモータからの伝動により回転する回転筒とを備え、該回転筒の回転を前記舵取り軸の移動に変換して舵取りを補助する動力舵取装置において、前記舵取り軸を前記ねじ溝とし、前記回転筒を前記保持筒として構成された請求項1又は請求項2記載の運動変換装置を備えることを特徴とする動力舵取装置。
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