JP5170796B2 - 自動車用駒式ボールねじ - Google Patents

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本発明は、自動車の電動パワーステアリングやアクチュエータ等に使用されるボールねじに関し、特に、ボール循環部品である駒部材の強度・耐久性を向上させた自動車用駒式ボールねじに関する。
ボールねじは、外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、対向する両ねじ溝により形成された転動路に収容された多数のボールと、転動路を周回経路とする循環機構とを備え、例えば、ナットを回転運動させることでねじ軸を直線運動させる運動変換機構として使用されている。
一般的にボールねじは、ボールの循環機構が異なる種々の形式のものがあり、その一つに駒式と呼ばれるものがある。この駒式ボールねじはねじ溝の連結路を有し、転動路を周回経路とする循環用の駒部材がナットに装着されている。この駒式ボールねじは構成が比較的簡素で、かつコンパクトに構成できる利点がある。
このような駒式ボールねじの代表的な一例を図4に示す。この駒式ボールねじにおいて、回転ナット50のナット本体50aは、駒部材嵌合用開口51が内外周面に貫通して設けられて、この駒部材嵌合用開口51に駒部材52が内径側から嵌め込まれる。
駒部材52は、内ねじ溝53の隣り合う一周部分同士を連結する連結溝52aが形成され、回転ナット50の内ねじ溝53に係合してこの駒部材52をナット本体50aに対して軸方向に位置決めする一対のアーム54、54を一体に有している。これら一対のアーム54、54は、駒部材52の軸方向の両端に互いに円周方向逆向きに突出して設けられ、内ねじ溝53に嵌合する半円状の断面形状に形成されている。ここで、内ねじ溝53におけるアーム54が係合した部分は非ボール循環部となる。
駒部材52における回転ナット50の周方向両側縁は、他の部分よりも外径面が凹む凹み部55とされ、これら凹み部55から外径側へ立ち上がり、駒部材52の周方向を向く側面に沿って一対のガイド壁56が設けられている。ナット本体50aの駒部材嵌合用開口51は、対向する一対の内側面における開口縁に係合段部57が設けられ、この係合段部57よりも開口側部分の幅が若干幅広に形成されている。
駒部材52は、ナット本体50aの駒部材嵌合用開口51に内径側から嵌め込まれ、一対のアーム54が内ねじ溝53に係合されると共に、ガイド壁56を塑性変形させることによりナット本体50aに固定される。この塑性変形による固定は、ガイド壁56を駒部材嵌合用開口51の対向する一対の内側面に加締固定することにより行われる。具体的には、ガイド壁56を係合段部57に加締めて係合させることにより、駒部材52の固定の確実性を図っている。このようなアーム54付きの駒部材52は、アーム54により駒部材52の抜け止めと位置決めとがなされ、高精度で高強度の性能が得られると共に、簡単に、かつ確実に駒部材52の固定ができる(例えば、特許文献1参照。)。
特開2001−289301号公報
この従来の駒式ボールねじにおいて、駒部材52は、その外径面に形成された一対のガイド壁56を塑性変形させることによりナット本体50aに加締固定されるが、駒部材52は、こうした加締作業時に割れが発生しないよう、一般的に80〜130Hv程度の生材で形成されている。
然しながら、こうした駒式ボールねじが自動車の電動パワーステアリングやアクチュエータ等に使用された場合、回転ナット50あるいはねじ軸(図示せず)に振動荷重が作用することが多い。振動荷重がモーメント荷重として作用した場合等、ボールねじ内部の負荷分布が崩れて回転ナット50内のボール59の公転速度がバラツキ、その結果、駒部材52内をボール59が通過する際に、連結溝52aに大きな応力が発生する恐れがある。
こうした状況において、耐圧痕性や耐摩耗性を向上させて駒部材52の耐久性を高めるには、駒部材52の表面硬さを上げて強度を高めることが考えられるが、前記したように、塑性変形によってナット本体50aに固定される駒部材52では難しい。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、強度・耐久性と靭性という相反する特性を有する駒部材を備えた自動車用駒式ボールねじを提供することを目的としている。
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、対向する両ねじ溝により形成される転動路に収容された複数のボールと、前記ナットの胴部に穿設された駒窓に嵌合され、前記転動路を周回経路とする連結溝が形成されると共に、前記ナットのねじ溝に係合して位置決めするアームと、前記駒窓の両側縁に加締固定されるガイド壁が一体形成された駒部材とを備えたモーメント荷重が作用する自動車用駒式ボールねじにおいて、前記駒部材がMIMによって成形される焼結金属からなり、前記ガイド壁の塑性変形が可能な靭性を有する析出硬化系ステンレスで形成されると共に、当該駒部材が固溶化熱処理によって硬化処理され、その表面硬さが30HRC以上に設定されている構成を採用した。
このように、駒部材がナットに加締固定されたモーメント荷重が作用する自動車用駒式ボールねじにおいて、駒部材がMIMによって成形される焼結金属からなり、ガイド壁の塑性変形が可能な靭性を有する析出硬化系ステンレスで形成されると共に、当該駒部材が固溶化熱処理によって硬化処理され、その表面硬さが30HRC以上に設定されているので、加工度が高く複雑な形状であっても容易に、かつ精度良く所望の形状・寸法に成形することができると共に、大きな応力が発生する連結溝は耐圧痕性や耐摩耗性を充分有し、かつ、加締部となるガイド壁の靭性を確保し、駒部材をナットに固定する際に割れ等が発生するのを防止することができる。したがって、強度・耐久性と靭性という相反する特性を有する駒部材を備えた自動車用駒式ボールねじを提供することができる。
本発明に係る駒式ボールねじは、外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、対向する両ねじ溝により形成される転動路に収容された複数のボールと、前記ナットの胴部に穿設された駒窓に嵌合され、前記転動路を周回経路とする連結溝が形成されると共に、前記ナットのねじ溝に係合して位置決めするアームと、前記駒窓の両側縁に加締固定されるガイド壁が一体形成された駒部材とを備えたモーメント荷重が作用する自動車用駒式ボールねじにおいて、前記駒部材がMIMによって成形される焼結金属からなり、前記ガイド壁の塑性変形が可能な靭性を有する析出硬化系ステンレスで形成されると共に、当該駒部材が固溶化熱処理によって硬化処理され、その表面硬さが30HRC以上に設定されているので、加工度が高く複雑な形状であっても容易に、かつ精度良く所望の形状・寸法に成形することができると共に、大きな応力が発生する連結溝は耐圧痕性や耐摩耗性を充分有し、かつ、加締部となるガイド壁の靭性を確保し、駒部材をナットに固定する際に割れ等が発生するのを防止することができる。したがって、強度・耐久性と靭性という相反する特性を有する駒部材を備えた自動車用駒式ボールねじを提供することができる。
(a)は、本発明に係る自動車用駒式ボールねじの一実施形態を示す平面図、(b)は、同上縦断面図である。 本発明に係る駒部材を示す平面図である。 本発明に係る駒部材の断面図である。 (a)は、従来の駒式ボールねじにおける回転ナットの概念構成を示す破断正面図、(b)は、同上破断側面図である。
外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、対向する両ねじ溝により形成される転動路に収容された複数のボールと、前記ナットの胴部に穿設された駒窓に嵌合され、前記転動路を周回経路とする連結溝が形成されと共に、前記ナットのねじ溝に係合して位置決めするアームと、前記駒窓の両側縁に加締固定されるガイド壁が一体形成された駒部材とを備えたモーメント荷重が作用する自動車用駒式ボールねじにおいて、前記駒部材がMIMによって成形され、前記ガイド壁の塑性変形が可能な靭性を有する析出硬化系ステンレスで形成され、固溶化熱処理によって硬化処理され、その表面硬さが30HRC以上に設定されている。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る自動車用駒式ボールねじの一実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。また、図2は循環部材となる駒部材の平面図、図3は断面図である。
ねじ軸1は螺旋状のねじ溝2が外周に形成され、このねじ軸1に外嵌されるナット3の内周にはねじ溝2に対応する螺旋状のねじ溝4が形成されている。そして、両ねじ溝2、4の間に多数のボール5が収容されている。
各ねじ溝2、4の断面形状は、サーキュラアーク形状であってもゴシックアーク形状であっても良いが、ここではボール5との接触角が大きくとれ、アキシアルすきまが小さく設定できるゴシックアーク形状に形成されている。これにより、軸方向荷重に対する剛性が高くなり、かつ振動を抑制することができる。
円筒状のナット3の胴部には、内外の周面に貫通してねじ溝4の一部を切欠く楕円状の駒窓6が穿設され、この駒窓6に楕円状の駒部材7が嵌合されている。駒部材7の内方には、ねじ溝4の隣合う1周分同士を連結する連結溝8が形成され、この連結溝8とねじ溝4の略1周の部分とでボール5の転動路を構成している。転動路内の内外のねじ溝2、4間に介在された多数のボール5はねじ溝2、4に沿って転動し、駒部材7の連結溝8に案内され、ねじ軸1のねじ山を乗り越えて隣接するねじ溝4に戻り、再びねじ溝2、4に沿って転動する。
図2に示すように、部材7の連結溝8は、ナット3の隣接するねじ溝4間を滑らかに接続するようにS字状に湾曲して形成されている。したがって、その両端開口縁8aは、ナット3の隣接するねじ溝4の窓開口縁部6aに合致するように連結溝8がねじ溝4に接続されている(図1(b)参照)。また、連結溝8の深さは、ボール5が連結溝8内でねじ軸1におけるねじ溝2のねじ山を越えることができる深さとされている。
駒部材7は、その両側に略蒲鉾状に形成されたアーム9が突設され、ナット3のねじ溝4に所定の径方向すきまを介して係合されている。アーム9は、駒部材7がナット3に対して軸方向に位置決めされ、また、駒部材7が駒窓6から径方向外方に抜け出すのを防止するために設けられている。また、駒部材7の周方向両側縁は、他の部分よりも外径面が凹む凹み部10とされ、これら凹み部10から外径側へ立ち上がる一対のガイド壁11が駒部材7の周方向に対向して設けられている。
ボール5の組み込みは、ナット3の駒窓6に駒部材7をナット3の内径側から装着した後、ねじ軸1の軸端からナット3を当てがい、ボール5を両ねじ溝2、4間に順次挿入しながらナット3を回転させ、ナット3をねじ軸1に移動させることによって行う。これ以外にも、ナット3の駒窓6に駒部材7を装着した後、仮軸を用いてボール5を同様に挿入するようにしても良い。
駒部材7は金属粉末を可塑状に調整し、射出成形機で成形される焼結合金からなる。この射出成形に際しては、まず、金属粉と、プラスチックおよびワックスからなるバインダとを混練機で混練し、その混練物をペレット状に造粒する。造粒したペレットは、射出成形機のホッパに供給し、金型内に加熱溶融状態で押し込む、所謂MIM(Metal Injection Molding)により成形されている。こうしたMIMによって成形される焼結合金であれば、加工度が高く複雑な形状であっても容易に、かつ精度良く所望の形状・寸法に成形することができる。
本実施形態では、前記金属粉として、後に浸炭焼入が可能な材質、例えば、C(炭素)が0.13wt%、Ni(ニッケル)が0.21wt%、Cr(クロム)が1.1wt%、Cu(銅)が0.04wt%、Mn(マンガン)が0.76wt%、Mo(モリブデン)が0.19wt%、Si(シリコン)が0.20wt%、残りがFe(鉄)等からなるSCM415を例示することができる。また、これ以外にも、Cが0.07wt%、Crが17wt%、Niが4wt%、Cuが4wt%、残りがFe等からなる析出硬化系ステンレスSUS630であっても良い。このSUS630は、固溶化熱処理で表面硬さを適切に上げることができ、強靭性と高硬度を確保することができる。
駒部材7をSCM415等の浸炭材で形成する場合は、駒部材7は浸炭焼入れによって表面硬さが30〜40HRCの範囲になるように硬化処理されると共に、高周波テンパー装置を用いて、図3に示す加締部、すなわち、ガイド壁11が焼きなましされ、表面硬さが15〜23HRCの範囲になるように設定されている。
ここで、浸炭焼入れによる硬化層の表面硬さが30HRC未満であれば、連結溝8の耐圧痕性や耐摩耗性が不足し、40HRCを超えると駒部材7の熱処理変形が大きくなって好ましくない。また、焼きなましによるガイド壁11の表面硬さが15HRC未満であれば加締部強度が不足し、23HRCを超えると、加締加工時にクラック等が発生する恐れがあって好ましくない。
一方、駒部材7をSUS630等の析出硬化系ステンレスで形成する場合は、固溶化熱処理で表面硬さが30HRC以上になるように設定されている。このSUS630は、所定の温度に加熱した後急冷することにより、合金元素が容易に固溶化する特徴を有している。
駒部材7がこれら浸炭材あるいは析出硬化系ステンレスをMIMにより成形された焼結合金からなるので、大きな応力が発生する少なくとも連結溝8は耐圧痕性や耐摩耗性を充分有する。また、加締部となるガイド壁11の靭性が高く、駒部材7をナット3に固定する際に割れ等の発生を防止することができる。したがって、強度・耐久性と靭性という相反する特性を有する駒部材を備えた駒式ボールねじを提供することができる。
駒部材7の材質として、MIMによって成形される前記した焼結合金以外に、S45C等の中炭素鋼であっても良い。この場合、予め調質によって表面硬さを15〜23HRCの範囲に設定し、高周波焼入れによって少なくとも連結溝8の表面に表面硬さが30HRC以上の硬化層を形成することができる。これにより、前記した材質と同様、強度・耐久性と靭性という相反する特性を確保することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
本発明に係る駒式ボールねじは、自動車の電動パワーステアリングやアクチュエータ等に使用される自動車用駒式ボールねじに適用することができる。
1 ねじ軸
2、4 ねじ溝
3 ナット
5 ボール
6 駒窓
6a 窓開口縁部
7 駒部材
8 連結溝
8a 開口縁
9 アーム
10 凹み部
11 ガイド壁
50 回転ナット
50a ナット本体
51 駒部材嵌合用開口
52 駒部材
52a 連結溝
53 内ねじ溝
54 アーム
55 凹み部
56 ガイド壁
57 係合段部
58 繋ぎ部
59 ボール

Claims (1)

  1. 外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
    このねじ軸に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、
    対向する両ねじ溝により形成される転動路に収容された複数のボールと、
    前記ナットの胴部に穿設された駒窓に嵌合され、前記転動路を周回経路とする連結溝が形成されると共に、前記ナットのねじ溝に係合して位置決めするアームと、前記駒窓の両側縁に加締固定されるガイド壁が一体形成された駒部材とを備えたモーメント荷重が作用する自動車用駒式ボールねじにおいて、
    前記駒部材がMIMによって成形される焼結金属からなり、前記ガイド壁の塑性変形が可能な靭性を有する析出硬化系ステンレスで形成されると共に、当該駒部材が固溶化熱処理によって硬化処理され、その表面硬さが30HRC以上に設定されていることを特徴とする自動車用駒式ボールねじ。
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