JP2017101256A - ポリエステル樹脂組成物および該樹脂組成物を含む成形体 - Google Patents

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Abstract

【課題】結晶化の遅いポリヒドロキシアルカノエートの欠点である結晶化の遅さを改善して、射出成形やブロー成形などの加工における加工性を改善し、加工速度を向上するとともに、結晶の微小化により、得られる成形品の機械物性の経時変化を抑制することを目的とする。
【解決手段】ポリヒドロキシアルカノエートおよびペンタエリスリトールを含有するポリエステル樹脂組成物を提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリエステル樹脂組成物に関するものであり、特に微生物の働きによって分解される生分解性ポリエステル樹脂を、種々の産業用資材として適用するためのポリエステル樹脂組成物およびそれから構成される成形品に関するものである。
石油由来プラスチックは毎年大量に廃棄されており、これらの大量廃棄物による埋立て処分場の不足や環境汚染が深刻な問題として取り上げられている。このため環境中や埋立て処分場、コンポスト中で微生物の作用によって分解される生分解性プラスチックが注目されてきた。生分解性プラスチックは環境中で利用される農林水産業用資材、使用後の回収・再利用が困難な食品容器、包装材料、衛生用品、ゴミ袋などへの幅広い応用を目指して開発が進められている。
その中でも、炭酸ガス排出量削減、固定化(カーボンニュートラル)という観点から、植物由来の脂肪族ポリエステルであるポリヒドロキシアルカノエート(以下、「PHA」と略記することもある。)が注目されている。
しかしながら、前記ポリヒドロキシアルカノエートは、結晶化速度が遅いことから、成形加工に際し、加熱溶融後、固化のための冷却時間を長くする必要があり、生産性が悪い、成形後に起こる2次結晶化により機械物性(特に、引張破断伸度などの靭性)が経時変化する、という問題点がある。
このため、従来から、ポリヒドロキシアルカノエートに、窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、金属リン酸塩などの無機物を配合して結晶化を促進しようとする提案があった。しかし、得られた成形体の引張伸びが低下する、成形体表面外観が悪化する、フィルムにした場合の透明性が損なわれる、などの弊害が多く、効果は不十分であった。
無機物を用いないでポリヒドロキシアルカノエートの結晶化を促進する試みとしては、エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、アラビトールのような天然物由来の糖アルコール化合物を添加する方法(特許文献1)、ポリビニルアルコール、キチン、キトサンを添加する方法(特許文献2)、ポリエチレンオキシドを添加する方法(特許文献3)、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステルを添加する方法(特許文献4、5、13)、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルセバケートのようなジカルボン酸誘導体を添加する方法(特許文献6)、インジゴ、キナクリドン、キナクリドンマゼンタのようなC=OとNH、SおよびOから選ばれる官能基とを分子内に有する環状化合物を添加する方法(特許文献7)、ビスベンジリデンソルビトールやビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトールのようなソルビトール系誘導体を添加する方法(特許文献8)、分子内にC=OとNH基を有する環状化合物を添加する方法(特許文献9)、ピリジン、トリアジン、イミダゾールのような窒素含有ヘテロ芳香族核を含む化合物を添加する方法(特許文献10)、リン酸エステル化合物を添加する方法(特許文献11)、高級脂肪酸のビスアミドおよび高級脂肪酸の金属塩を添加する方法(特許文献12)、分岐状ポリ乳酸を添加する方法(特許文献14)が挙げられている。しかしながら、実質的に効果の高い結晶核剤は未だ見出されていないのが現状である。
国際公開第2008/099586号パンフレット 特開2007−077232号公報 特開2010−229407号公報 特開平9−278991号公報 特開平11−005849号公報 特開平11−116783号公報 特開2003−238779号公報 特開平10−158369号公報 特開2003−327803号公報 特表2007−517126号公報 特開2003−192884号公報 特開平6−299054号公報 特開平8−27363号公報 特開2009−024058号公報
本発明は、微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解される生分解性ポリエステルの中でも、特にポリヒドロキシアルカノエートの欠点である結晶化の遅さを改善し、射出成形やブロー成形などの成形加工における結晶化・固化性を改善して加工速度を向上するとともに、結晶を微小化することにより、得られる成形品の機械物性の経時変化を抑制することを目的とする。
本発明者らは、結晶化の遅いポリヒドロキシアルカノエートに効果的な結晶核剤を見出すべく鋭意検討した結果、結晶核剤としてペンタエリスリトールを混合することにより、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化速度を著しく改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート(以下、「PHA」と略称する。)と、ペンタエリスリトール、を含有してなるポリエステル樹脂組成物に関する。
なお、本発明において、結晶核剤とは、PHAの単独重合体または共重合体などの脂肪族ポリエステル系重合体を結晶化する際の核として作用するものをいう。
即ち、本発明の第一は、ポリヒドロキシアルカノエートとペンタエリスリトールを含有するポリエステル樹脂組成物に関する。
好ましい実施形態では、ポリヒドロキシアルカノエートが100重量部に対して、ペンタエリスリトール0.05〜12重量部であることを特徴とする前記に記載のポリエステル樹脂組成物に関する。
更に好ましい実施形態では、ポリヒドロキシアルカノエートが、下記一般式(1)
[−CHR−CH−CO−O−] (1)
(式中、RはC2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数である。)、
で示される繰り返し単位を含むことを特徴とする前記に記載のポリエステル樹脂組成物に関する。
また、更に好ましい実施形態では、ポリヒドロキシアルカノエートが、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸−コ−3-ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸−コ−3-ヒドロキシ吉草酸−コ−3-ヒドロキシヘキサン酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸−コ−3-ヒドロキシヘキサン酸)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−4-ヒドロキシ酪酸)から選択される1種以上であることを特徴とする前記に記載のポリエステル樹脂組成物に関する。
本発明の第二は、前記に記載のポリエステル樹脂組成物を含むポリエステル樹脂成形体に関する。
本発明によれば、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化の速度が著しく改善され、射出成形やブロー成形の成形加工における固化性が改善されて加工速度が向上する。さらに、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶が微細化することにより、成形品の機械物性が安定になり経時変化が起こりにくくなる。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いられるポリヒドロキシアルカノエートは、微生物から生産される微生物産生PHAから選択される1種以上である。
微生物から生産される微生物産生PHAは、式(1) :[−CHR−CH−CO−O−](式中、RはC2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数である。)で示される繰り返し単位を含む脂肪族ポリエステルである。
微生物産生PHAを生産する微生物としては、PHA類生産能を有する微生物であれば特に限定されない。例えば、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(以下、「PHB」と略称する。)生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumが最初で、他にもカプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)などの天然微生物が知られており、これらの微生物ではPHBが菌体内に蓄積される。
また、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)(以下、「PHBV」と略称する。)およびポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、「PHBH」と略称する。)生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)などが知られている。特に、PHBHに関し、PHBHの生産性を上げるために、PHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP−6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821−4830(1997))などがより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にPHBHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また上記以外にも、生産したいPHAに合わせて、各種PHA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
本発明で用いられる微生物産生PHAの分子量は、目的とする用途で、実質的に十分な物性を示すものであれば、その分子量は特に制限されない。分子量が低いと得られる成形品の強度が低下する。逆に高いと加工性が低下し、成形が困難になる。それらを勘案して本発明に使用する微生物産生PHAの重量平均分子量の範囲は、50,000〜3,000,000が好ましく、100,000〜1,500,000がより好ましい。
前記重量平均分子量の測定方法は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(昭和電工社製「Shodex GPC−101」)を用い、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K−804」)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。この際、検量線は重量平均分子量31,400、197,000、668,000、1,920,000のポリスチレンを使用して作成する。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
本発明で使用する微生物産生PHAとしては、例えば、PHB〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ3−ヒドロキシ酪酸〕、PHBH〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−3−ヒドロキシヘキサン酸)〕、PHBV〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−3−ヒドロキシ吉草酸)〕、P3HB4HB〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−4−ヒドロキシ酪酸)〕、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタデカノエート)などが挙げられる。これらのなかでも、工業的に生産が容易であるものとして、PHB、PHBH、PHBV、P3HB4HBが挙げられる。
前記微生物産生PHAの繰り返し単位の平均組成比は、柔軟性と強度のバランスの観点から、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)の組成比が80モル%〜99モル%であることが好ましく、85モル%〜97モル%であることがより好ましい。ポリ(3−ヒドロキシブチレート)の組成比が80モル%未満であると剛性が不足する傾向があり、99モル%より多いと柔軟性が不足する傾向がある。
前記PHAの共重合樹脂中の繰り返し単位である各モノマー比率は、以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定できる。乾燥PHA約20mgに、2mlの硫酸/メタノール混液(15/85(重量比))と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、PHA分解物のメチルエステルを得る。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生が止まるまで放置する。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、上清中のPHA分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析することにより、共重合樹脂中の各モノマー比率を求められる。
前記ガスクロマトグラフとしては、島津製作所社製「GC−17A」を用い、キャピラリーカラムにはGLサイエンス社製「NEUTRA BOND−1」(カラム長:25m、カラム内径:0.25mm、液膜厚:0.4μm)を用いる。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧を100kPaとし、サンプルは1μl注入する。温度条件は、8℃/分の速度で初発温度100℃から200℃まで昇温し、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温する。
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物でポリヒドロキシアルカノエートの結晶化核剤としてペンタエリスリトールが用いられる。
ペンタエリスリトールとは、下記式(2)
Figure 2017101256
で示される多価アルコール類の一種であり、融点260.5℃の白色結晶の有機化合物である。ペンタエリスリトールは糖アルコールに分類されるが、天然物由来ではなく、アセトアルデヒドとホルムアルデヒドを塩基性環境下で縮合して合成することができる。
本発明で用いられるペンタエリスリトールは通常、一般に入手可能であるものであれば特に制限されず、試薬品あるいは工業品を使用し得る。試薬品としては、和光純薬工業株式会社、シグマ・アルドリッチ社、東京化成工業株式会社やメルク社などが挙げられ、工業品であれば、広栄化学工業株式会社品(商品名:ペンタリット)や東洋ケミカルズ株式会社品などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
一般に入手できる試薬や商品の中には不純物として、ペンタエリスリトールが脱水縮合して生成するジペンタエリスリトールやトリペンタエリスリトールなどのオリゴマーが含まれているものがある。上記オリゴマーはポリヒドロキシアルカノエートの結晶化には効果を有しないが、ペンタエリスリトールの結晶化効果を阻害しない。従い、オリゴマーが含まれていても構わない。
本発明で用いられるペンタエリスリトールの量は、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化を促進できれば特に制限されない。しかし、ペンタエリスリトールは、ポリヒドロキシアルカノエート100重量部に対して、0.05重量部〜12重量部であることが好ましく、0.1重量部〜10重量部であることがより好ましく、0.5重量部〜8重量部であることが更に好ましい。ペンタエリスリトールの量が少なすぎると、ペンタエリスリトールの結晶核剤としての効果が得られず、ペンタエリスリトールの量が多すぎると、溶融加工時の粘度が下がってしまい、加工し難くなる場合がある。
本発明のポリヒドロキシアルカノエートおよびペンタエリスリトールを含むポリエステル樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカノエート単独、あるいは、ポリヒドロキシアルカノエートとペンタエリスリトール以外の糖アルコール化合物を含む樹脂組成物に比べて、加工時の樹脂組成物の結晶化が幅広い加工条件で安定して進行する点で優れているので以下に示すような利点がある。
ポリヒドロキシアルカノエートの中でも、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(P(3HB−co−3HH))や、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート(P(3HB−co−3HV))などは、加熱溶融後に冷却して結晶化させる際、結晶化の進行は溶融時の樹脂温度の影響を受ける。すなわち、溶融時の樹脂温度が高いほど結晶化が進行し難くなる傾向がある。例えば、P(3HB−co−3HH)は、溶融時の樹脂温度が樹脂の融点から170℃程度の温度の場合では、溶融時の樹脂温度が高いほど冷却時の樹脂の結晶化は進み難くなる傾向がある。また溶融時の樹脂温度が180℃程度以上の温度の場合では、冷却時の結晶化が数時間に渡って進行する傾向が有る。したがって、良好に成形加工を行なうためには、溶融時の樹脂温度を170℃〜180℃程度の温度範囲に制御しなければならないが、一般的な成形加工では溶融時の樹脂温度は均一でないため、上記の温度範囲で制御することは非常に困難である。
本発明のポリヒドロキシアルカノエートおよびペンタエリスリトールを含むポリエステル樹脂組成物の結晶化は、樹脂の溶融時の幅広い温度範囲に対して安定的に進行する。すなわち、溶融時の樹脂温度が樹脂の融点以上から190℃程度の温度範囲の場合であっても結晶化が安定的に早く進むため、本発明の樹脂組成物は、幅広い加工条件に対して優れた加工特性を有している。尚、溶融時の樹脂温度が200℃以上の温度で溶融加工する事は、熱劣化の観点で好ましくない。
また、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化の進行は冷却温度にも依存している。例えば、P(3HB−co−3HH)は、加熱溶融後の冷却温度が50〜70℃で最も結晶化が進行する傾向があり、冷却温度が50℃より低い、または70℃より高い場合は、結晶化が進行しにくくなる傾向がある。一般的な成形加工では金型温度が冷却温度に相関し、金型温度を上記温度範囲、50℃〜70℃の範囲で制御しなければならないが、金型温度を均一に制御するためには、金型の構造や形状を緻密に設計する必要が有り、非常に困難である。
本発明のポリヒドロキシアルカノエートおよびペンタエリスリトールを含むポリエステル樹脂組成物の結晶化は、溶融後の樹脂の幅広い冷却温度範囲に対して安定的に進行する。すなわち、加熱溶融後の冷却温度が20℃〜80℃の温度範囲の場合であっても結晶化が安定的に早く進むため、本発明の樹脂組成物は、幅広い加工条件に対して優れた加工特性を有している。
本発明のポリヒドロキシアルカノエートおよびペンタエリスリトールを含むポリエステル樹脂組成物は、従来のポリヒドロキシアルカノエート樹脂、あるいは、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂とペンタエリスリトール以外の糖アルコール化合物を含む樹脂組成物では得られなかった、上記のような利点を有するので、溶融時の樹脂温度や金型などの冷却温度を幅広く設定できる点で、優れた加工特性を有している。
本発明のポリヒドロキシアルカノエートおよびペンタエリスリトールを含むポリエステル樹脂組成物には、結晶化が安定的に早く進行することによって、以下に記すような特性が発現される。
例えば、P(3HB−co−3HH)は、成形時に十分に結晶化が進行しないため、成形後も徐々に結晶化が進行し球晶が成長するため、機械物性が経時変化し、成形品が徐々に脆化してしまう傾向があった。ところが、本発明のポリヒドロキシアルカノエートおよびペンタエリスリトールを含むポリエステル樹脂組成物は、成形直後に多数の微結晶が生成するので、成形後には球晶が成長し難くなり、成形品の脆化も抑制されるため、製品の品質安定性の点で優れている。
また、射出成形用の成形金型のキャビティ部のあわせ部(例えば、パーティングライン部、インサート部、スライドコア摺動部など)には、隙間があり、射出成形時に、その隙間に溶融した樹脂が入り込んでできる「バリ」が成形品に付着してしまう。ポリヒドロキシアルカノエートは、結晶化の進行が遅く樹脂が流動性を有する時間が長いため、バリが起こり易く、成形品の後処理に多大な労力を要する。ところが、本発明のポリヒドロキシアルカノエートおよびペンタエリスリトールを含むポリエステル樹脂組成物では結晶化が早いのでバリができ難く、成形品の後処理の労力を低減できるため、実用上好ましい。
本発明にかかるポリエステル樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカノエートの融点以上にまで加熱し混錬できる装置であれば公知の溶融混練機により容易に製造できる。例えば、ポリヒドロキシアルカノエートとペンタエリスリトールと、さらに必要であれば他の成分とを押出機、ロールミル、バンバリーミキサーなどにより溶融混練してペレット状とし、成形に供する方法、ペンタエリスリトールの高濃度のマスターバッチを予め調製しておき、これをポリヒドロキシアルカノエートに所望の割合で溶融混練して成形に供する方法、などが利用できる。ペンタエリスリトールとポリヒドロキシアルカノエートは混錬機に同時に添加してもよいし、あるいは先にポリヒドロキシアルカノエートを溶融させた後に後からペンタエリスリトールを添加してもかまわない。
以上のようにして得られる、本発明にかかるポリエステル樹脂組成物は、各種の加工をされて製品が製造される。加工方法としては、公知のものでよく、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形などが挙げられる。加工条件としては、ポリヒドロキシアルカノエートの熱劣化が起こるような温度、すなわち、樹脂温度が200℃を超えるような条件でなければ、特に限定はない。
ポリヒドロキシアルカノエートは熱可塑性ポリエステル樹脂であるが、熱可塑性ポリエステル樹脂とペンタエリスリトール誘導体を含有する樹脂組成物には、以下に挙げる先行発明の事例がある。
例えば、特開2006−117736号公報では、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどの半芳香族である熱可塑性ポリエステル樹脂と、ペンタエリスリトール長鎖脂肪酸エステルの多量体およびペンタエリスリトール長鎖脂肪酸・二塩基酸複合エステルまたはその多量体から選択される1種以上の化合物を含む樹脂組成物が開示されているが、本発明ではペンタエリスリトール誘導体は用いていないので構成が異なる。
また、別の発明事例である特表平9−501450号公報では、生物分解可能なポリエステルと、ポリプロピレングリコールアジペートやヒマシ油、エポキシ化された大豆油、エポキシ化されたステアレート類、高沸点アジペートおよびセバケートエステル類、シトレート類ならびに多数のポリエチレングリコール誘導体からなる群より選択される1種以上の可塑剤を含む樹脂組成物が開示されている。上記可塑剤の中に、ペンタエリスリトール類および誘導体(エステルの酸誘導基は、典型的には、2〜10個の炭素原子を含有する)が例示されている。上記エステル誘導体と本発明のペンタエリスリトールとは異なるものである。また、発明の目的がポリエステル樹脂を可塑化することのできる物質、すなわち、ポリエステルの延性を改良することのできる物質、特に、PHBまたはPHBVを可塑化することのできる物質を添加してポリエステルに延性(ductility)を与えることであるので、本発明で核剤として効果を発揮するペンタエリスリトールとは発明の目的が異なるものである。
また、特許文献1ではポリヒドロキシアルカノエートの結晶化核剤として、エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、アラビトールのような天然物由来の糖アルコール化合物を添加する方法が開示されている。ペンタエリスリトールは天然物由来ではないが構造上、糖アルコール類に属するので文言上は上記先行事例に包含されるが、特許文献1には、ペンタエリスリトールは詳細説明の中に記載も示唆もされていない。特許文献1に記載されている糖アルコールとして、エリスリトールやマンニトールについて、本発明と同様の方法すなわち同方向噛合い型2軸押出機でポリヒドロキシアルカノエートと共に溶融混練し結晶性を評価したが、ペンタエリスリトールに比べて改善効果は非常に小さいことが判明した(比較例で示す)。
ポリヒドロキシアルカノエート(ポリ乳酸)にペンタエリスリトールを添加する先行事例として特開2000−169546号が挙げられる。しかしながら当該特許文献では、ポリ乳酸の末端基、未反応のイソシアネート化合物、ペンタエリスリトールのような多価アルコールを特定の条件で反応させることにより、安定した溶融粘度をもつ発泡成形に適した樹脂組成物を得ることを目的としており、本件とは異なるものである。
また、ペンタエリスリトールを用いた発明としては、以下に挙げる先行発明の事例がある。
例えば、特開2008−156665号公報では、脂肪族ヒドロキシカルボン酸とペンタエリスリトールのような3個以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコールと2個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸若しくはその無水物、又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸と3個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸若しくはその無水物とペンタエリスリトールのような2個以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコールを脱水重縮合反応して、低分子量プレポリマーを製造する工程、該プレポリマーを結晶化する工程、該結晶化したプレポリマーを、有機スルホン酸系化合物触媒の存在下、固相状態で脱水重縮合反応する工程、から構成される、高分子量脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸の製造方法が開示されている。しかしながら、本発明では脂肪族ヒドロキシカルボン酸を用いた脱水重縮合反応による低分子量プレポリマーを製造する工程は含まれない。また上記先行発明におけるプレポリマーの結晶化とは、後工程の固相重合時の高温によってプレポリマーが融着しないために行うものであり、本発明のペンタエリスリトールの結晶化促進効果とは全く異なるものである。
また、例えば、特開2001−192442号公報では、触媒として有機スルホン酸系化合物を含み、重量平均分子量が2,000〜100,000である、脂肪族ヒドロキシカルボン酸ユニット50%以上含有する脂肪族ポリエステルプレポリマーを、酸性化合物を添加した、脂肪族ポリエステルプレポリマーを溶解しない液体と接触させることにより結晶化させることを特徴とする、脂肪族ポリエステルの液中結晶化方法が開示されており、上記脂肪族ポリエステルプレポリマーが、L−乳酸とペンタエリスリトールとコハク酸を含むものからなるスターポリマー、が開示されている。しかしながら、本発明ではL−乳酸とペンタエリスリトールとコハク酸を含むものからなるスターポリマーは用いないし、上記の結晶化とは、固相重合を行うための前工程であるので、本発明のペンタエリスリトールの結晶化促進効果とは全く異なるものである。
以上、本発明のポリヒドロキシアルカノエートおよびペンタエリスリトールを含むポリエステル樹脂組成物は、従来開示された上記の先行事例とは全く異なるものであり、また本発明に記載した結晶化効果はより高いものである。
本発明にかかるポリエステル樹脂組成物は、上記ポリヒドロキシアルカノエートおよび結晶核剤として用いるペンタエリスリトールの他に、酸化防止剤;紫外線吸収剤;染料、顔料などの着色剤;可塑剤;滑剤;無機充填剤;または帯電防止剤などの他の成分を含有してもよい。これらの他の成分の添加量としては、前記ポリヒドロキシアルカノエートやペンタエリスリトールの効果を損なわない程度であればよく、特に限定はない。
他には、炭素繊維等の無機繊維や、人毛、羊毛等の有機繊維が挙げられる。また、竹繊維、パルプ繊維、ケナフ繊維や、類似の他の植物代替種、アオイ科フヨウ属1年草植物、シナノキ科一年草植物等の天然繊維も使用することが出来る。二酸化炭素削減の観点からは、植物由来の天然繊維が好ましく、特に、ケナフ繊維が好ましい。
本発明のポリエステル樹脂組成物からなるポリエステル樹脂成形体の製造方法を以下に例示する。
まず、PHAおよびペンタエリスリトール、さらには必要に応じて、他の成分を添加し、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどを用いて溶融混練して、ポリエステル樹脂組成物を作製し、それをストランド状に押し出してからカットして、円柱状、楕円柱状、球状、立方体状、直方体状などの粒子形状のポリエステル樹脂組成物からなるペレットを得る。
前記において、PHAとペンタエリスリトール等を溶融混練する温度は、使用するPHAの融点、溶融粘度等によるため一概には規定できないが、溶融混練物のダイス出口での樹脂温度が140〜200℃であることが好ましく、150〜195℃であることがより好ましく、160〜190℃がさらに好ましい。溶融混練物の樹脂温度が140℃未満であると、ペンタエリスリトールが分散不良となる場合があり、200℃を超えるとPHAが熱分解する場合がある。
前記方法によって作製されたペレットを、40〜80℃で十分に乾燥させて水分を除去した後、公知の成形加工方法で成形加工でき、任意の成形体を得ることができる。成形加工方法としては、例えば、フィルム成形、シート成形、射出成形、ブロー成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡等が挙げられる。
フィルム成形体の製造方法としては、例えば、Tダイ押出し成形、カレンダー成形、ロール成形、インフレーション成形が挙げられる。ただし、フィルム成形法はこれらに限定されるものではない。フィルム成形時の成形温度は140〜190℃が好ましい。また、本発明のポリエステル樹脂組成物から得られたフィルムは、加熱による熱成形、真空成形、プレス成形が可能である。
射出成形体の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。また、その他目的に合わせて、上記の方法以外でもインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM等を採用することもできる。ただし、射出成形法はこれらに限定されるものではない。射出成形時の成形温度は140〜190℃が好ましく、金型温度は20〜80℃が好ましく、30〜70℃であることがより好ましい。
本発明にかかるポリエステル樹脂組成物は、加工性に優れ、且つ短時間で加工が行え、例えば、食器類、農業用資材、OA用部品、家電部品、自動車用部材、日用雑貨類、文房具類、各種ボトル成形品、押出シートや異型押出製品、などの基材として好適に使用され得る。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術範囲を限定されるものではない。
・ポリヒドロキシアルカノエート原料A1:製造例1で得られたものを用いた。
<製造例1>
培養生産にはKNK−005株(米国特許US7384766参照)を用いた。
種母培地の組成は1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−Tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% NaHPO・12HO、0.15w/v% KHPO、(pH6.8)とした。
前培養培地の組成は1.1w/v% NaHPO・12HO、0.19w/v% KHPO、1.29w/v% (NHSO、0.1w/v% MgSO・7HO、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v% CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HOを溶かしたもの)、とした。炭素源はパーム油を10g/Lの濃度で一括添加した。
PHA生産培地の組成は0.385w/v% NaHPO・12HO、0.067w/v% KHPO、0.291w/v% (NHSO、0.1w/v% MgSO・7HO、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N 塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v% CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HOを溶かしたもの)、0.05w/v% BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
まず、KNK−005株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に種母培養液を1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
次に、前培養液を6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS−1000型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量6.0L/minとし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源としてパーム油、を使用した。培養は64時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥し、PHAを得た。得られたPHAの3HH組成分析は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥PHA20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、PHA分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度100から200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200から290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、化学式(1)に示すようなPHA、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(P(3HB−co−3HH))であった。3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)組成は5.6mol%であった。
培養後、培養液から国際公開番号:WO2010/067543に記載の方法にてPHBHを得た。GPCで測定した重量平均分子量は60万であった。
・ポリヒドロキシアルカノエート原料A2:製造例2で得られたものを用いた。
<製造例2>
KNK−005株の代わりにKNK−631株(WO2009/145164参照)を用いた他は、製造例1と同様にしてポリエステルA2、P(3HB−co−3HH)を得た。重量平均分子量Mw62万、3HH=7.8モル%であった。
・ポリヒドロキシアルカノエート原料A3:製造例3で得られたものを用いた。
<製造例3>
KNK−631株および炭素源としてパーム核油を用いた以外は、製造例1と同様の方法でポリエステルA3、P(3HB−co−3HH)を得た。重量平均分子量Mw65万、3HH=11.4モル%であった。
・ポリヒドロキシアルカノエート原料A4:シグマ・アルドリッチ社製のPHBVを用いた。重量平均分子量Mw65万、3−ヒドロキシバレレート(3HV)=5モル%であった。
<実施例1>
(ポリエステル樹脂組成物の製造)
100重量部のポリヒドロキシアルカノエート原料A1に対して、0.1重量部のペンタエリスリトール(和光純薬工業株式会社製)を、同方向噛合型2軸押出機(日本製鋼社製:TEX30)を用いて、設定温度120〜140℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練して、ポリヒドロキシアルカノエートとペンタエリスリトールを含有するポリエステル樹脂組成物を得た。樹脂温度はダイスから出てくる溶融した樹脂を直接K型熱電対で測定した。当該ポリエステル樹脂組成物はダイスからストランド状に引き取り、ペレット状にカットした。なお、表における〇は、ストランド状に引き取り、ペレット状にカットできたことを示す。
(射出成形)
得られた樹脂組成物は射出成形機(東芝機械社製:IS−75E)を用い、成形機のシリンダー設定温度は120〜140℃、金型の設定温度は50℃で、ASTM D−790に準拠したバー状の試験片およびD−638に準拠したダンベル状の試験片を成形した。成形時の樹脂温度の実温は射出した樹脂を、また金型の実温度は金型の表面をK型熱電対で接触測定した。
(離型時間)
本発明のポリエステル樹脂組成物の加工性は離型時間で評価した。金型内に樹脂を射出した後、金型を開いて突き出しピンによって試験片を変形させることなく突き出し、金型から離型させることができるまでに要する時間を離型時間とした。離型時間が短いほど結晶化が早く、成形加工性が良好で改善されていることを示す。
(機械物性の経時変化)
経時変化は引張破断伸びで評価した。射出成形で得られたダンベル状試験片は、ASTM D−638に準拠して、23℃における引張測定を行い、破断伸度を測定した。測定は成形後168時間後、336時間後、720時間後、1440時間後に行い、破断伸度の安定性を評価した。値が変わらないほど安定で良好であることを示す。
<実施例2〜5>
表1に示すような配合比(以下、表中の配合比は、重量部を示す)で、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、射出成形の離型時間および得られた試験片の引張破断伸びを測定した。結果は表1に示した。
<比較例1>
表1に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、射出成形の離型時間および得られた試験片の引張破断伸びを測定した。結果は表1に示した。
Figure 2017101256
表1に示すように、比較例1(原料A1のみ)では成形品の離型に49秒を要した。引張破断伸びは成形後168時間後に16%であったが1440時間が経過すると7%と半分以下にまで低下した。それに対して、ペンタエリスリトールを0.1重量部以上添加すると離型時間が25秒以下になり加工性が向上し、かつ引張破断伸びの経時変化がほとんど起こらず安定であることがわかった。
<実施例6、7>
原料A1の代わりに原料A2を用いた。100重量部の原料A2に対して、ペンタエリスリトールを表2に示した量を、同方向噛合型2軸押出機(日本製鋼社製:TEX30)
を用いて、設定温度115〜135℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練して、脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、実施例1と同様の方法で射出成形時の離型時間と引張破断伸びの経時変化を測定した。結果は表2に示した。
<実施例8、9>
原料A1の代わりに原料A3を用いた。100重量部の原料A3に対して、ペンタエリスリトールを表2に示した量を、同方向噛合型2軸押出機(日本製鋼社製:TEX30)を用いて、設定温度110〜130℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練して、脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、実施例1と同様の方法で射出成形時の離型時間と引張破断伸びの経時変化を測定した。結果は表2に示した。
<実施例10〜12>
原料A1の代わりに原料A4を用いた以外は実施例1と同様に実施した。結果は表2に示した。
<比較例2>
ペンタエリスリトールを用いない以外は、実施例6と同様の方法で実施した。結果は表2に示した。
<比較例3>
ペンタエリスリトールを用いない以外は、実施例8と同様の方法で実施した。結果は表2に示した。
<比較例4>
ペンタエリスリトールを用いない以外は、実施例10と同様の方法で実施した。結果は表2に示した。
Figure 2017101256
表2から明らかなように、ペンタエリスリトールによって金型からの離型に要する離型時間が短縮され、加工性が改善されていることがわかる。この効果は、ポリヒドロキシアルカノエートの共重合比や構造に依らず得られることが判る。
<実施例13〜15><比較例5〜7>
表3に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製した。次いで、金型設定温度を30℃、50℃、70℃の3水準に設定した以外は、実施例1と同様の方法で射出成形し離型時間を測定した。
<実施例16〜18><比較例8〜10>
表3に示すような配合比で、実施例6と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製した。次いで、金型設定温度を30℃、50℃、70℃の3水準に設定した以外は、実施例6と同様の方法で射出成形し離型時間を測定した。
Figure 2017101256
一般に広く用いられている水温調機で一般的な範囲で3水準の金型温度を設定した。表3から明らかなように、ペンタエリスリトールが無いと離型に要する時間が長くなるに加えて、そのような温度範囲でも金型温度が異なると離型時間も異なり離型性が不安定であった。その一方で、ペンタエリスリトールが配合されていると金型温度によらず離型時間は安定して短かいことが判った。
<比較例11〜14>
ペンタエリスリトールの代わりに、天然物由来の糖アルコールとしてエリスリトールとマンニトールを用いて、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のペレットを作製し、射出成形での離型時間と引張破断伸びの経時変化を測定した。結果は表4に示した。
Figure 2017101256
<比較例15〜20>
ペンタエリスリトールの代わりに、天然物由来の糖アルコールとしてエリスリトールとマンニトールを用いて、実施例13〜15と同様の方法で金型温度を変えて離型時間を測定した。結果は表5に示した。
Figure 2017101256
表4および表5から明らかなように、ペンタエリスリトール以外の、天然物由来の糖アルコールを用いると、離型時間や引張破断伸びの経時変化は改善されず、また金型温度によって離型時間が不安定になることが判った。
<比較例21〜27>
ペンタエリスリトールの代わりに、他の添加剤を用いて、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のペレットを作製し、射出成形での離型時間を測定した。結果は表6に示した。
Figure 2017101256
表6から明らかなように、ペンタエリスリトール以外の添加物を用いると、離型時間は改善されないことが判った。
表4〜表6に示した結果から明らかなように、ペンタエリスリトールと同じ糖アルコールに分類され、天然物由来であるエリスリトールやマンニトールを添加しても、また、PVAやキトサンのように分子内に複数の水酸基があったとしても、ポリヒドロキシアルカノエートの離型時間や引張破断伸びの経時変化への改善効果が得られなかった。したがって、本願で詳細に説明した効果はペンタエリスリトールに特有の効果であることがわかる。
<実施例19〜22>
(ポリエステル樹脂組成物の製造)
表7に示す配合で実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。
(ブロー成形)
得られたポリエステル樹脂組成物はブロー成形機(日本製鋼所社製:JB102/スクリュー径Φ40mm/ダイス径Φ23mm)で円筒形ボトル(外径60mm(口部径25mm)、高さ170mm(口部20mm))を成形した。設定温度は、成形機シリンダーとダイス温度を120〜140℃、金型温度を50℃とし、スクリュー回転数はパリソンの長さが170mm〜200mmになるようにおおよそ10〜15rpm程度で調整し、成形品胴体部分の厚みは0.8〜1.4mmになるように調整した。離型時間の測定は、パリソンに空気を吹き込む吹き込み時間と、出来上がった成形体から空気を逃がす排気時間の合計であり、ブロー成形体が変形せずに金型から離型できる時間を離型時間とした。離型時間が短い程、結晶化が早く、成形加工性が良好である事を示す。
尚、このブロー成形機では金型内でブロー成形している間に、次のブロー成形のためポリエステル樹脂組成物の溶融状態のパリソンが成形機シリンダーから排出されてくる。すなわち、一方で離型時間に長時間かかり60秒より長くなると、もう一方で次の成形のために成形機から排出されるパリソンのドローダウンが大きくなり過ぎて垂れきってしまい、次のブロー成形ができなくなった。
<比較例28>
表7に示すような配合比で、実施例19と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、ブロー成形の離型時間を測定した。結果は表7に示した。
Figure 2017101256
表7に示すように、原料A1のみを原材料として用いた場合、ブロー成形の離型時間は60秒を超え、加工性は改善されず連続成形できなかった。それに対して、ペンタエリスリトールを0.1重量部以上加えると離型時間が短縮され、加工性が改善された。
<実施例23>
原料A1の代わりに原料A2を用いた。100重量部の原料A2に対して、1重量部のペンタエリスリトールを、同方向噛合型2軸押出機(日本製鋼社製:TEX30)を用いて、設定温度115〜135℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練して、脂肪族ポリエステル樹脂組成物を得た。得られたペレットを用いて、実施例19と同様の方法でブロー成形時の離型時間を測定した。結果は表8に示した。
<実施例24>
原料A1の代わりに原料A3を用いた。100重量部の原料A3に対して、1重量部のペンタエリスリトールを、同方向噛合型2軸押出機(日本製鋼社製:TEX30)を用いて、設定温度110〜130℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練して、脂肪族ポリエステル樹脂組成物を得た。得られたペレットを用いて、実施例19と同様の方法でブロー成形時の離型時間を測定した。結果は表8に示した。
<実施例25>
原料A1の代わりに原料A4を用いた以外は実施例19と同様に実施した。結果は表8に示した。
<比較例29>
ペンタエリスリトールを用いない以外は、実施例23と同様の方法で実施した。結果は表8に示した。
<比較例30>
ペンタエリスリトールを用いない以外は、実施例24と同様の方法で実施した。結果は表8に示した。
<比較例31>
ペンタエリスリトールを用いない以外は、実施例25と同様の方法で実施した。結果は表8に示した。
Figure 2017101256
表8から明らかなように、ペンタエリスリトールによってブロー成形体が金型から離型できる離型時間が短縮され、加工性が改善されていることがわかる。従い、この効果は、ポリヒドロキシアルカノエートの共重合比や構造に依らず得られることが判る。
<比較例32〜35>
ペンタエリスリトールの代わりに、他の添加剤を用いて、実施例1と同様の方法で樹脂組成物のペレットを作製し、ブロー成形での離型時間を測定した。結果は表9に示した。
Figure 2017101256
表9から明らかなように、ペンタエリスリトールと同じ糖アルコールに分類され、天然物由来であるエリスリトールやマンニトールを添加しても、また、PVAのように分子内に複数の水酸基があったとしても、ポリヒドロキシアルカノエートの離型時間短縮への改善効果が得られなかった。したがって、本願で詳細に説明した効果はペンタエリスリトールに特有の効果であることがわかる。
ポリヒドロキシアルカノエート原料A5:SHENZHEN ECOMANN BIOTECHNOLOGIES社の製のP3HB4HB(EM5400A)を用いた。
<実施例26〜29、比較例36>
(ペレット生産性)
ペレット生産性は次のようにして評価した。
表10に示すような配合比(以下、表中の配合比は、重量部を示す)で、実施例1と同じ2軸押出機を用い、シリンダーの設定温度120〜160℃で、スクリュー回転数を100rpmから徐々に高め吐出量をあげた。押出機のダイスから出てくるストランド状の溶融樹脂は設定60℃の水で満たされた1.5m長の温浴槽内を通過して結晶化、固化して、ペレタイザーにてペレット状にカットされる。樹脂吐出量をあげてペレット生産性を上げるためには、押出機のスクリュー回転数をあげてストランドの線速をあげる必要がある。スクリュー回転数を上げると剪断発熱によって樹脂温度が高まり、かつ線速が上がるに従い温浴槽での滞留時間が短くなる。樹脂温度が高まると結晶化し難くなり、また、60℃温浴槽での滞留時間が短くなると、樹脂は結晶化しきれずに軟化したままになる。すなわち、樹脂温度が高まり温浴槽での滞留時間が短くなるとペレタイザーでカットできなくなる。ペレット化できる最大のストランド線速をペレット生産性と定義した。線速値が高いほどペレット生産性は優れることを意味する。線速を上げる際は押出機のスクリュー回転数も上げてストランド直径(長径と短径の平均)が3mm±0.2mmになるように調整した。尚、樹脂温度は押出機のダイスから出てくる溶融樹脂をK型熱電対で直接接触させて測定した。結果は表10に示した。
(シート生産性)
シート生産性は次のように評価した。得られたペレットを原料として、Tダイシート成形機(東洋精機製作所社製:ラボプラストミル)を用い、ダイスリップ厚=250μm、ダイスリップ幅=150mm、シリンダー設定温度=120〜140℃、ダイス設定温度=140〜150℃、冷却ロール設定温度60℃にて、100mm幅のシートを成形した。Tダイからシート状にでてきた溶融樹脂は冷却ロールに接触することで結晶化し、厚さ100μmのシートに成形される。樹脂が十分に結晶化した場合は、成形されたシートは冷却ロールから離型され、巻き取られるが、シートの線速が早まると冷却ロールに接触している時間が短くなるので結晶化せずに十分に固化しないのでロールから離型できなくなる。シートが離型できる最大のシート線速をシート生産性と定義した。線速値が高いほどシート生産性は優れることを意味する。
表10から明らかなように、ペンタエリスリトールを用いることによって、シート成形時の線速を高くすることができ、シート生産性に優れることが判った。
Figure 2017101256

Claims (4)

  1. ポリヒドロキシアルカノエートとペンタエリスリトールを含有し、
    前記ポリヒドロキシアルカノエートが、ポリヒドロキシアルカノエート共重合体である、脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
  2. ポリヒドロキシアルカノエートが100重量部に対して、ペンタエリスリトール0.05〜12重量部であることを特徴とする、請求項1に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
  3. ポリヒドロキシアルカノエートが、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−3−ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−3−ヒドロキシ吉草酸−コ−3−ヒドロキシヘキサン酸)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−3−ヒドロキシヘキサン酸)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−4−ヒドロキシ酪酸)から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
  4. 請求項1〜3の何れかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形してなるポリエステル樹脂成形体。
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