JP2009138206A - ポリアリーレンスルフィド - Google Patents

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Abstract

【課題】不純物であるビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量が少なく、シランカップリング剤との反応性に優れ、着色が顕著に抑制され、かつ、コンパウンドの揮発分が少ないポリアリーレンスルフィドを提供する。
【解決手段】ガスクロマトグラフ分析により定量したビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量が50ppm未満であり、アミノシランとの反応により、温度310℃、剪断速度1,216sec−1で測定した反応前の溶融粘度値(MV1)に対する反応後の溶融粘度値(MV2)の比(MV2/MV1)が2.0超過であり、かつ、イエローインデックスが10以下であるポリアリーレンスルフィド。
【選択図】なし

Description

本発明は、重合反応時に副生する不純物のビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量が極めて少なく、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどのシランカップリング剤との反応性に優れ、コンパウンドの揮発分が少なく、さらには、色調が良好なポリアリーレンスルフィドに関する。
ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略記する)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、「PAS」と略記する)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れたエンジニアリングプラスチックである。PASは、押出成形、射出成形、圧縮成形などの一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能であるため、電気・電子機器、自動車機器等の広範な分野において汎用されている。
PASの代表的な製造方法としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを反応させる方法が知られている。硫黄源の原料としてアルカリ金属水硫化物をアルカリ金属水酸化物と組み合わせて使用する方法が知られている。しかし、この方法は、重合反応を安定して実施するための条件設定が難しい。しかも、この方法では、多量のアルカリ金属水酸化物を使用することもあって、副反応を抑制することが困難であり、揮発成分の含有量が多く、かつ、不純物であるビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量を低減することが困難である。
従来、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属水硫化物、アルカリ金属水酸化物、及びポリハロ芳香族化合物を2工程で反応させるPASの製造方法が提案されている〔例えば、特許文献1(特開平2−302436号公報)、特許文献2(特開平5−271414号公報)〕。特許文献1には、アルカリ金属水酸化物の使用量は、アルカリ金属水硫化物1モルに対して0.7〜1.3モル、好ましくは0.9〜1.1モルの範囲であることが記載されている。特許文献1の実施例には、水硫化ナトリウム1モルに対して0.92モルの割合で水酸化ナトリウムを使用した実験例が示されている。特許文献2にも、同様の技術的事項が開示されている。
しかし、これらの方法では、ビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量を低減することが困難で、シランカップリング剤との反応性を改良することも難しい。また、これらの文献の実施例に示されているように、水硫化ナトリウムに対する水酸化ナトリウムの使用モル比が小さいと、重合反応を安定的に実施することが難しく、高分子量ポリマーを高収率で製造することができない傾向にある。特許文献1には、ガス発生量が少ないと記載されているものの、ガス組成に関する分析結果は示されていない。
アルカリ金属水酸化物:アルカリ金属水硫化物のモル比を0.80:1〜0.98:1に調整して、1工程で重合するポリ(p−フェニルスルフィド)の製造方法が提案されている〔例えば、特許文献3(特公平6−51792号公報)〕。しかし、この方法では、副反応が起こり易く、重合反応を安定して実施することが困難であり、しかも、ビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量を低減することや、シランカップリング剤との反応性を改良することも難しい。
アルカリ金属水硫化物1モルに対して、アルカリ金属水酸化物を1モル以下となる割合で用いて、1工程で重合反応を行うPASの製造方法が提案されている〔例えば、特許文献4(特開2001−181394号公報)〕。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物とを用いて、各成分のモル比を特定した1工程でのPASの製造方法が提案されている〔例えば、特許文献5(特開平2−160834号公報)〕。アルカリ金属水酸化物の添加量をアルカリ金属水硫化物1モル当たり0.3〜4モルに調整して、1工程でPASを製造する方法も提案されている〔例えば、特許文献6(特公平6−51793号公報)〕。しかし、これらの方法も、前述の特許文献3と同様の問題点を抱えている。
特開平2−302436号公報 特開平5−271414号公報 特公平6−51792号公報 特開2001−181394号公報 特開平2−160834号公報 特公平6−51793号公報
本発明の目的は、重合反応時に副生する不純物のビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量が極めて少なく、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(すなわち、アミノシラン)などのシランカップリング剤との反応性に優れ、コンパウンドの揮発分が少なく、さらには、色調の良好なポリアリーレンスルフィドを提供することにある。
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合させるPASの製造方法において、水分量の調整のための脱水工程において、有機アミド溶媒中でアルカリ金属水硫化物1モル当たり0.95〜1.05モルのアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱し、反応して、脱水し、脱水工程後、系内に残存する混合物に、必要に応じてアルカリ金属水酸化物及び水を添加して、脱水時に生成した硫化水素に伴い生成するアルカリ金属水酸化物のモル数と脱水前に添加したアルカリ金属水酸化物のモル数と脱水後に添加するアルカリ金属水酸化物のモル数の総モル数が、脱水後に系内に存在するアルカリ金属水硫化物を含む硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たり1.00〜1.09となり、かつ、水のモル数が仕込み硫黄源1モル当たり0.5〜2.0となるように調整する仕込み工程を配置し、さらに、特定の2段階工程で重合反応を実施する製造方法に想到した。
本発明のポリアリーレンスルフィド(PAS)の製造方法では、脱水工程での仕込みアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物とのモル比を限定された特定の範囲内に調整し、さらに、重合工程前に硫黄源1モルに対するアルカリ金属水酸化物の割合を特定の限定された範囲内に調整する点に特徴を有する。さらに、本発明のPASの製造方法は、特定の2段階重合工程を採用する点にも特徴がある。
本発明のPASの製造方法によれば、重合反応を安定して実施することができ、熱分解などの不都合な反応が抑制される。本発明のPASの製造方法によれば、ビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量が50ppm未満のPASを得ることができる。
また、本発明のPASの製造方法によれば、アミノシランとの反応により、温度310℃、剪断速度1,216sec−1で測定した反応前の溶融粘度値(MV1)に対する反応後の溶融粘度値(MV2)の比(MV2/MV1)が2.0を超えるシランカップリング剤との反応性に優れたPASを得ることができる。
さらに、本発明のPASの製造方法によれば、着色が顕著に抑制され、コンパウンドの揮発分が少ないPASを得ることができる。
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
本発明によれば、ガスクロマトグラフ分析により定量したビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量が50ppm未満であり、アミノシランとの反応により、温度310℃、剪断速度1,216sec−1で測定した反応前の溶融粘度値(MV1)に対する反応後の溶融粘度値(MV2)の比(MV2/MV1)が2.0超過であり、かつ、イエローインデックスが10以下であるポリアリーレンスルフィドが提供される。
本発明によれば、重合反応時に副生する不純物のビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量が極めて少なく、アミノシランなどのシランカップリング剤との反応性に優れ、コンパウンドの揮発分が少なく、さらには、色調の良好なポリマーを与えることができるポリアリーレンスルフィドが提供される。
本発明のPASの製造方法は、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合させるポリアリーレンスルフィドの製造方法において、
(1)有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物、及びアルカリ金属水硫化物1モル当たり0.95〜1.05モルのアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して反応させ、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する脱水工程、
(2)脱水工程後、系内に残存する混合物に、必要に応じてアルカリ金属水酸化物及び水を添加して、脱水時に生成した硫化水素に伴い生成するアルカリ金属水酸化物のモル数と脱水前に添加したアルカリ金属水酸化物のモル数と脱水後に添加するアルカリ金属水酸化物のモル数の総モル数が、脱水後に系内に存在するアルカリ金属水硫化物を含む硫黄源(以下、「仕込み硫黄源」という)1モル当たり1.00〜1.09となり、かつ、水のモル数が仕込み硫黄源1モル当たり0.5〜2.0となるように調整する仕込み工程、
(3)混合物にジハロ芳香族化合物を添加し、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物とを170〜270℃の温度で重合反応させて、ジハロ芳香族化合物の転化率が50〜98%のプレポリマーを生成させる前段重合工程、及び
(4)前段重合工程後、仕込み硫黄源1モル当たり2.0モルを超え、10モル以下の水が存在する状態となるように反応系内の水量を調整すると共に、245〜290℃に加熱して、重合反応を継続する後段重合工程
の各工程を含むことを特徴とする製造方法である。
1.硫黄源
本発明のPASの製造方法では、硫黄源として、アルカリ金属水硫化物を使用する。アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物などを挙げることができる。アルカリ金属水硫化物は、無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で、水硫化ナトリウム及び水硫化リチウムが好ましい。また、アルカリ金属水硫化物は、水溶液などの水性混合物(すなわち、流動性のある水との混合物)として用いることが、処理操作や計量などの観点から好ましい。
アルカリ金属水硫化物の製造工程では、一般に、少量のアルカリ金属硫化物が副生する。本発明のPASの製造方法で使用するアルカリ金属水硫化物の中には、少量のアルカリ金属硫化物が含有されていてもよい。この場合、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との総モル量が、脱水工程後の仕込み硫黄源になる。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で、水酸化ナトリウム及び水酸化リチウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、水溶液などの水性混合物として用いることが好ましい。
本発明のPASの製造方法において、脱水工程で脱水されるべき水分とは、水和水、水溶液の水媒体、及びアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応などにより副生する水などである。
2.ジハロ芳香族化合物
本発明のPASの製造方法で使用されるジハロ芳香族化合物は、芳香環に直接結合した2個のハロゲン原子を有するジハロゲン化芳香族化合物である。ジハロ芳香族化合物の具体例としては、例えば、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等が挙げられる。
ここで、ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、同一ジハロ芳香族化合物において、2つのハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。これらのジハロ芳香族化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
ジハロ芳香族化合物の仕込み量は、脱水工程後に系内に残存する硫黄源(アルカリ金属硫化物及び/またはアルカリ金属水硫化物)1モルに対し、通常0.90〜1.50モル、好ましくは0.95〜1.20モル、より好ましくは1.00〜1.09モルである。
3.分子量調節剤、分岐・架橋剤
生成PASに特定構造の末端を形成したり、あるいは重合反応や分子量を調節する等のために、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)を併用することができる。分岐または架橋重合体を生成させるために、3個以上のハロゲン原子が結合したポリハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物、ハロゲン化芳香族ニトロ化合物等を併用することも可能である。分岐・架橋剤としてのポリハロ化合物として、好ましくはトリハロベンゼンが挙げられる。
4.有機アミド溶媒
本発明のPASの製造方法では、脱水反応及び重合反応の溶媒として、非プロトン性極性有機溶媒である有機アミド溶媒を用いる。有機アミド溶媒は、高温でアルカリに対して安定なものが好ましい。
有機アミド溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム化合物;N−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン化合物またはN−シクロアルキルピロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン等のN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。これらの有機アミド溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの有機アミド溶媒の中でも、N−アルキルピロリドン化合物、N−シクロアルキルピロリドン化合物、N−アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物が好ましく、特に、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、及び1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンが好ましく用いられる。
本発明のPASの製造方法の重合反応に用いられる有機アミド溶媒の使用量は、硫黄源1モル当たり、通常0.1〜10kgの範囲である。
5.重合助剤
本発明のPASの製造方法では、重合反応を促進させ、高重合度のPASを短時間で得るために、必要に応じて各種重合助剤を用いることができる。重合助剤の具体例としては、一般にPASの重合助剤として公知の有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウム、有機カルボン酸金属塩、リン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。これらの中でも、有機カルボン酸金属塩が安価であるため、特に好ましい。
重合助剤の使用量は、用いる化合物の種類により異なるが、仕込み硫黄源1モルに対し、一般に0.01〜10モルとなる範囲である。
6.脱水工程
重合工程の前工程として、脱水工程を配置して反応系内の水分量を調節する。脱水工程は、望ましくは不活性ガス雰囲気下、有機アミド溶媒とアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物とを含む混合物を加熱して反応させ、蒸留により水を系外へ排出する方法により実施する。
本発明のPASの製造方法では、脱水工程において、有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物、及びアルカリ金属水硫化物1モル当たり0.95〜1.05モルのアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、反応させ、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する。
この工程での仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が小さすぎると、脱水工程で揮散する硫黄成分(硫化水素)の量が多くなり、仕込み硫黄源量の低下による生産性の低下を招いたり、脱水後に残存する仕込み硫黄源に多硫化成分が増加することによる異常反応、生成PASの品質低下が起こり易くなる。仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が大きすぎると、有機アミド溶媒の変質が増大したり、重合反応を安定して実施することが困難になったり、生成PASの収率や品質が低下することがある。この工程での仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりのアルカリ金属水酸化物の好ましいモル比は、0.96〜1.04である。
アルカリ金属水硫化物には、多くの場合、少量のアルカリ金属硫化物が含まれており、硫黄源の量は、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との合計量になる。アルカリ金属水硫化物は、アルカリ金属硫化物を含有していても、PASの原料としては問題ないが、本発明の高品質PASを製造するためには、その含有量は、少ないほど好ましい。また、少量のアルカリ金属硫化物が混入していても、本発明のPASの製造方法では、アルカリ金属水硫化物の含有量(分析値)を基準に、アルカリ金属水酸化物とのモル比を算出し、そのモル比を調整する。
脱水工程では、水和水(結晶水)や水媒体、副生水などからなる水分を必要量の範囲内になるまで脱水する。脱水工程では、重合反応系の共存水分量が、硫黄源1モルに対して、0.5〜2.0モルになるまで脱水する。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、重合工程の前に水を添加して所望の水分量に調節してもよい。
これらの原料の反応槽への投入は、一般的には、常温(5〜35℃)から300℃、好ましくは常温から200℃の温度範囲内で行われる。原料の投入順序は、順不同でよく、さらには、脱水操作途中で各原料を追加投入してもかまわない。脱水工程に使用される溶媒としては、有機アミド溶媒を用いる。この溶媒は、重合工程に使用される有機アミド溶媒と同一であることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。有機アミド溶媒の使用量は、反応槽に投入する硫黄源1モル当たり、通常0.1〜10kg程度である。
脱水操作は、反応槽内へ原料を投入後の混合物を、通常、300℃以下、好ましくは100〜250℃の温度範囲で、通常、15分間から24時間、好ましくは30分間〜10時間、加熱して行われる。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両者を組み合わせた方法がある。脱水工程は、バッチ式、連続式、または両方式の組み合わせ方式などにより行われる。
脱水工程を行う装置は、後続する重合工程に用いられる反応槽(反応缶)と同じであっても、あるいは異なるものであってもよい。また、装置の材質は、チタンのような耐食性材料が好ましい。脱水工程では、通常、有機アミド溶媒の一部が水と同伴して反応槽外に排出される。その際、硫化水素は、ガスとして系外に排出される。
脱水工程においては、加熱処理によってアルカリ金属水酸化物と有機アミド溶媒とが反応して、アルカリ金属アルキルアミノアルカノエートを生成し、アルカリ金属水硫化物は、アルカリ金属アルキルアミノアルカノエートとのコンプレックス(錯体)を形成して、系内に存在すると推定される。一方、アルカリ金属水硫化物の一部は、水と反応して硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを生成し、生成した硫化水素は、系外に排出される。硫化水素の系外への排出は、系内の硫黄源の減量に直結する。したがって、脱水工程での硫化水素の揮散量を測定して、系内に残存する硫黄源の量を正確に算出することが、アルカリ金属水酸化物やジハロ芳香族化合物とのモル比を調整する上で重要となる。
7.仕込み工程
本発明のPASの製造方法では、脱水工程後、系内に残存する混合物に、必要に応じてアルカリ金属水酸化物及び水を添加して、脱水時に生成した硫化水素に伴い生成するアルカリ金属水酸化物のモル数と脱水前に添加したアルカリ金属水酸化物のモル数と脱水後に添加するアルカリ金属水酸化物のモル数の総モル数が、脱水後に系内に存在するアルカリ金属水硫化物を含む硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たり1.00〜1.09となり、かつ、水のモル数が仕込み硫黄源1モル当たり0.5〜2.0となるように調整する。
ここで、仕込み硫黄源の量は、[仕込み硫黄源]=[総仕込み硫黄モル]−[脱水後の揮散硫黄モル]の式により算出される。
また、脱水工程で硫化水素が揮散すると、平衡反応により、アルカリ金属水酸化物が生成し、系内に残存することになる。したがって、これらの量を正確に把握して、仕込み工程でのアルカリ金属水酸化物の硫黄源に対するモル比を決定する必要がある。
硫黄源1モル当たり、アルカリ金属水酸化物のモル比が大きすぎると、有機アミド溶媒の変質を増大させたり、重合時の異常反応や分解反応を引き起こしやすい。また、生成PASの収率の低下や品質の低下を引き起こすことが多くなる。硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比は、好ましくは1.01〜1.08モル、より好ましくは1.015〜1.075モルである。アルカリ金属水酸化物が少過剰の状態で重合反応を行うことが、重合反応を安定的に実施し、高品質のPASを得る上で好ましい。
8.重合工程
重合工程は、脱水工程終了後の混合物にジハロ芳香族化合物を仕込み、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物を加熱することにより行われる。脱水工程で用いた反応槽とは異なる重合槽を使用する場合には、重合槽に脱水工程後の混合物とジハロ芳香族化合物を投入する。脱水工程後、重合工程前には、必要に応じて、有機アミド溶媒量や共存水分量などの調整を行ってもよい。また、重合工程前または重合工程中に、重合助剤その他の添加物を混合してもよい。
脱水工程終了後に得られた混合物とジハロ芳香族化合物との混合は、通常、100〜350℃、好ましくは120〜330℃の温度範囲内で行われる。重合槽に各成分を投入する場合、投入順序は、特に制限なく、両成分を部分的に少量ずつ、あるいは一時に投入することにより行われる。
重合反応は、一般的に170〜290℃の範囲で2段階工程で行われる。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両方法の組み合わせが用いられる。重合反応時間は、一般に10分間〜72時間の範囲であり、望ましくは30分間〜48時間である。重合工程に使用される有機アミド溶媒は、重合工程中に存在する仕込み硫黄源1モル当たり、通常、0.1〜10kg、好ましくは0.15〜1kgである。この範囲であれば、重合反応途中でその量を変化させてもかまわない。
重合反応開始時の共存水分量は、仕込み硫黄源1モルに対して、0.5〜2.0モルの範囲内とする。重合反応の途中で共存水分量を増加させることが好ましい。
本発明のPASの製造方法では、重合工程において、
(1)有機アミド溶媒と硫黄源とジハロ芳香族化合物と所定モル比のアルカリ金属水酸化物とを含有する反応混合物を、仕込み硫黄源1モルに対して0.5〜2.0モルの水の存在下に、170〜270℃に加熱して重合反応を行い、ジハロ芳香族化合物の転化率50〜98%でプレポリマーを生成させる前段工程、及び
(2)仕込み硫黄源1モル当たり2.0モルを超え、10モル以下の水が存在する状態となるように反応系内の水量を調整すると共に、245〜290℃に加熱して、重合反応を継続する後段重合工程
を含む少なくとも2段階の重合工程により重合反応を行う。前段重合工程において、温度310℃、剪断速度1,216sec−1で測定した溶融粘度が0.5〜30Pa・sのプレポリマーを生成させることが望ましい。
生成ポリマー中の副生食塩や不純物の含有量を低下させたり、ポリマーを粒状で回収する目的で、重合反応後期あるいは終了時に水を添加し、水分を増加させてもかまわない。重合反応方式は、バッチ式、連続式、あるいは両方式の組み合わせでもよい。バッチ式重合では、重合サイクル時間を短縮する目的のために、2つ以上の反応槽を用いる方式を用いてもかまわない。
9.後処理工程
本発明のPASの製造方法において、重合反応後の後処理は、常法によって行うことができる。例えば、重合反応の終了後、冷却した生成物スラリーをそのまま、あるいは水などで希釈してから、濾別し、洗浄・濾過を繰り返して乾燥することにより、PASを回収することができる。本発明のPASの製造方法によれば、粒状ポリマーを生成させることができるため、スクリーンを用いて篩分する方法により粒状ポリマーを反応液から分離することが、副生物やオリゴマーなどから容易に分離することができるため好ましい。生成物スラリーは、高温状態のままでポリマーを篩分してもよい。
上記濾別(篩分)後、PASを重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)等の有機溶媒で洗浄することが好ましい。PASを高温水などで洗浄してもよい。生成PASを、酸や塩化アンモニウムのような塩で処理することもできる。
10.PAS
本発明のPASの製造方法によれば、本件明細書中で規定する測定法(実施例に記載)により定量したビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量が50ppm未満、好ましくは40ppm以下、より好ましくは30ppm以下のPASを得ることができる。ビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量が50ppm以上になると、このPASを用いたコンパウンドを射出成形する際に、揮発成分量が過多になり、成形物の外観に不良が発生し易くなったり、金型への不純物の付着量が増加し、成形加工における作業性が著しく低下する。ここで、ppmは、重量基準である。
また、本発明のPASの製造方法によれば、本件明細書中で規定するアミノシラン(すなわち、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)との反応により(実施例に記載)、温度310℃、剪断速度1,216sec−1で測定した反応前の溶融粘度値(MV1)に対する反応後の溶融粘度値(MV2)の比(MV2/MV1)が2.0超過、好ましくは2.1以上のPASを得ることができる。この比の上限は、通常3.0程度である。この比が大きいことは、PASとシランカップリング剤との反応性が高いことを示している。
アミノシランとの反応性が大きいということは、PASとアミノシランからなる組成物の溶融状態での粘度が大きくなり、また、剪断速度に対する粘度の関係がPAS単独とは異なり、溶融成形におけるバリの発生が減少するなどの効果があり、溶融加工条件の選択幅を広げることができる。MV2/MV1が2を超えないと、このような特性の発現効果が小さい傾向にある。本発明のPASの製造方法を用いると、MV2/MV1を安定化させることもできる。MV2/MV1が変動すると、PASとアミノシランとを含む組成物の溶融粘度が変動し易くなるため好ましくない。したがって、一定の範囲内に制御することが望まれており、本発明のPASの製造方法は、その要求にも応えることができる。
本発明のPASは、色調が良好であり、黄色度(イエローインデックス;YI)が通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは7以下であり、多くの場合、5〜6の範囲内にある。また、本発明のPASのコンパウンドは、揮発分の発生量が少なく、揮発分の抑制が期待される電子機器などの分野にも好適である。
後段重合工程後、反応液から回収して得られる本発明のPASは、温度310℃、剪断速度1,216sec−1で測定した溶融粘度が、前段工程でのプレポリマーの溶融粘度を超える値を示すものである。本発明のPASの溶融粘度(温度310℃、剪断速度1,216sec−1)は、特に限定されないが、好ましくは30〜800Pa・s、より好ましくは40〜500Pa・sの範囲内である。
本発明のPASは、そのままあるいは酸化架橋させた後、単独で、もしくは所望により各種無機充填剤、繊維状充填剤、各種合成樹脂を配合し、種々の射出成形品やシート、フィルム、繊維、パイプ等の押出成形品に成形することができる。PASとしては、PPSが特に好ましい。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。物性等の測定方法は、次のとおりである。
(1)収率:
ポリマーの収率は、脱水工程後の反応缶中に存在する有効硫黄成分の全てがポリマーに転換したと仮定したときのポリマー重量(理論量)を基準値とし、この基準値に対する実際に回収したポリマー重量の割合(重量%)を算出した。
(2)溶融粘度:
乾燥ポリマー約20gを用いて、東洋精機製キャピログラフ1−Cにより溶融粘度を測定した。この際、キャピラリーは、1mmφ×10mmLのフラットダイを使用し、設定温度は、310℃とした。ポリマー試料を装置に導入し、5分間保持した後、剪断速度1,216sec−1での溶融粘度を測定した。
(3)色調(黄色度):
ポリマーを室温において、電動プレス機を使用して15MPaで1分間加圧してタブレットを作成した。このタブレットを測定試料とし、東京電色技術センター製TC−1800を用いて、標準光C、2°視野、及び表色系の条件で、反射光測定法により色調の測定を行なった。測定に先立ち、標準白色板により校正を行った。各試料について3点ずつの測定を行ない、その平均値を算出した。色調は、黄色度(イエローインデックス;YI)値で示した。
(4)ポリマーの反応性:
ポリマー100重量部に対して、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(以下、「アミノシラン」と略記)0.8重量部を添加し、よくブレンドした。その後、ブレンド物20gを採取し、前記溶融粘度測定条件での溶融粘度値を測定した。ポリマーの反応性は、アミノシランを添加しないポリマーの同条件での溶融粘度値との比率で表わした。すなわち、ポリマーの溶融粘度値(MV1)に対するポリマーとアミノシランのブレンド物の溶融粘度値(MV2)の比率(MV2/MV1:溶融粘度の増大比率)により、ポリマーの反応性を評価した。この比率が大きいほど、ポリマーの反応性が高いことを示す。
(5)ビス4−クロロフェニルスルフィドの定量:
乾燥ポリマー30mgをネグチューブ(10mmφ×75mm)にとり、日本分析工業製JHS−100のキュリー点ヘッドスペースサンプラー(Curie point head space sampler)にセットする。装置を180℃で30分間、330℃で15分間加熱し、揮発分をヘリウム流通下で40℃でガラスウール内臓トラップ槽に通し、吸着させて捕集する。その後、トラップ槽を室温に戻し、さらに360℃で10秒間加熱し、揮発分を脱着させ、そのまま、ヘリウムガスを利用したガスクロマトグラフ分析を行ない、揮発成分を定量した。
<ガスクロマトグラフ分析条件>
装置:日立G−3000
気化室温度:300℃
カラム:HP−5〔0.32mmφ×25m df(膜厚み)=0.25μm〕
カラム温度:60℃5分間ホールド後8℃/分で300℃まで昇温し、その温度で10分間保持する。
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)310℃
キャリアーガス:ヘリウム2.5ml/分
スプリット比:1/14.6
定量:合成したビス4−クロロフェニルスルフィドを用いた検量線から求めた。
(6)コンパウンドの揮発付着成分:
乾燥ポリマー60重量%、繊維状充填剤(13μmのガラスファイバー)39.8重量%、及び離型剤0.2重量%を5分間混合した後、シリンダー温度320℃の2軸押出機で溶融混練してペレットを作成した。作成したペレット10gを10mmφの試験管に測り取り、8mm角(2mm厚)のSKD11金属片をペレット積層部の上部に置き、シリコン栓で封入した。その後、試験管をアルミブロックバスに入れて、340℃で4時間加熱した。試験前後の金属片の揮発付着物を目視により、以下の基準で判定した。
A:付着物なし、
B:付着物が極めて少ない、
C:付着物が見られる、
D:付着物が多い。
[実施例1]
1.脱水工程
ヨードメトリー法による分析値62.87重量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液2,000g〔硫黄分(S)として22.43モルになる。中和滴定法によるNaSH分析値が61.48重量%(21.93モル)であり、硫化ナトリウム(NaS)が0.50モル含まれることになる。〕、74.69重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1,200g(NaOH分として22.41モル)をN−メチル−ピロリドン(以下、「NMP」と略記)6,700gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に仕込んだ。水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/NaSHは、1.02(モル/モル)となり、NaOH/Sは、1.00(モル/モル)となる。
窒素ガスで置換後、3.5時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水940.0gとNMP1589.6gを留出させた。この際、0.31モルの硫化水素(HS)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、22.12モルとなった。HS揮散分は、仕込みSに対して1.39モル%に相当した。
2.仕込み工程
上記脱水工程の後、22.12モルの有効Sを含む反応缶を150℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(以下「pDCB」と略記)3,299g〔pDCB/有効S=1.015(モル/モル)〕、NMP3,736g、水118g〔缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕を加え、及び缶内NaOH/有効S=1.05(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH8.2gを加えた。反応缶内には、HSが揮散することにより生成したNaOH(0.62モル)が含まれている。
3.重合工程
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で1時間反応させ、その後30分間で230℃に昇温し、230℃で1.5時間反応させた(前段重合工程)。その後、攪拌機の撹拌数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、水517.5gを圧入し〔缶内の合計水量/有効S=2.80(モル/モル)〕、260℃に昇温して5.0時間反応させた(後段重合工程)。
4.後処理工程
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトン洗を2回、さらに水洗を3回行ない、洗浄ポリマーを得た。この洗浄ポリマーを0.6重量%酢酸水溶液に浸漬して、40℃で40分間処理した後、水洗した。粒状ポリマーは、105℃で3時間乾燥した。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、90%で、溶融粘度は、145Pa・sであった。重合条件及び物性の測定結果を表1及び2に示した。
[実施例2]
水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の仕込み量を1,200gから1,150gに変えたこと以外は、実施例1と同様に仕込んだ。したがって、脱水前のNaOH/NaSHは、0.98(モル/モル)になり、NaOH/Sは、0.96(モル/モル)になった。脱水工程において、実施例1と同様の条件で脱水したところ、水935.0g及びNMP1567.3gが留出し、HS0.34モルが揮散した。脱水工程後の缶内の有効Sは、22.09モルとなった。HS揮散分は、仕込みS量に対して1.52モル%に相当した。
その後、実施例1と同様に、pDCB3,296g〔pDCB/有効S=1.015(モル/モル)〕、NMP3,703g、水125.7g〔缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕、純度97%NaOH15.8g〔缶内NaOH/有効S=1.02(モル/モル)〕を加え、前段重合を行なった。引き続き、水516.9gを圧入し〔缶内の合計水量/有効S=2.80(モル/モル)〕、後段重合を行なった。重合終了後、実施例1と同様にポリマーを回収した。得られた粒状ポリマーの収率は、90%で、溶融粘度は、125Pa・sであった。重合条件及び物性の測定結果を表1及び2に示した。
[実施例3]
水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の仕込み量を1,200gから1,220gに変えたこと以外は、実施例1と同様に仕込んだ。したがって、脱水前のNaOH/NaSHは、1.04(モル/モル)になり、NaOH/Sは、1.02(モル/モル)になった。脱水工程において、実施例1と同様の条件で脱水したところ、水935.2gとNMP1595.0gが留出し、HS0.31モルが揮散した。脱水工程後の缶内の有効S量は、22.05モルとなった。HS揮散分は、仕込みS量に対して1.69モル%に相当した。
その後、実施例1と同様に、pDCB3,274g〔pDCB/有効S=1.010(モル/モル)〕、NMP3,715g、水108.5g〔缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕、純度97%NaOH15.6g〔缶内NaOH/有効S=1.075(モル/モル)〕を加え、220℃から260℃まで1.5時間かけて連続的に昇温しながら前段重合を行なった。引き続き、水516.0gを圧入し〔缶内の合計水量/有効S=2.80(モル/モル)〕、後段重合を行なった。重合終了後、実施例1と同様にポリマーを回収した。得られた粒状ポリマーの収率は、88%で、溶融粘度は、110Pa・sであった。重合条件及び物性の測定結果を表1及び2に示した。
[比較例1]
水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の仕込み量を1,200gから1,000gに変えたこと以外は、実施例1と同様に仕込んだ。したがって、脱水前のNaOH/NaSHは、0.85(モル/モル)になり、NaOH/Sは、0.83(モル/モル)になった。脱水工程において、実施例1と同様に脱水したところ、水965.8gとNMP1513.5gが留出し、HS0.40モルが揮散した。脱水工程後の缶内の有効S量は、22.03モルとなった。HS揮散分は、仕込みS量に対して1.78モル%に相当した。
その後、実施例1と同様に、pDCB/有効S=1.015(モル/モル)になるようにpDCB3,287g、NMP3,625g、缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)になるように水195.0g、缶内NaOH/有効S=0.90(モル/モル)になるように純度97%NaOH10.6gを加え、前段重合を行なった。引き続き、缶内の合計水量/有効S=2.80(モル/モル)になるように水515.5gを圧入し、後段重合を行なった。重合終了後、反応物は分解したのでポリマーは回収しなかった。重合条件と結果を表1及び2に示した。
[比較例2]
水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の仕込み量を1,200gから1,080gに変えたこと以外は、実施例1と同様に仕込んだ。したがって、脱水前のNaOH/NaSHは、0.92(モル/モル)になり、NaOH/Sは、0.90(モル/モル)になった。脱水工程において、実施例1と同様に脱水したところ、水944.4gとNMP1545.3gが留出し、HS0.38モルが揮散した。脱水工程後の缶内の有効S量は、22.05モルとなった。HS揮散分は、仕込みS量に対して1.69モル%に相当した。
その後、実施例1と同様に、pDCB/有効S=1.015(モル/モル)になるようにpDCB3,290g、NMP3,665g、缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)になるように水153.1g、缶内NaOH/有効S=1.0(モル/モル)になるように純度97%NaOH41.5gを加え、前段重合を行なった。引き続き、缶内の合計水量/有効S=2.80(モル/モル)になるように水516.0gを圧入し、後段重合を行なった。重合終了後、実施例1と同様にポリマーを回収した。得られた粒状ポリマーの収率は、90%で、溶融粘度は、90Pa・sであった。重合条件及び物性の測定結果を表1及び2に示した。
[比較例3]
水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の仕込み量を1,200gから1,220gに変えたこと以外は、実施例1と同様に仕込んだ。したがって、脱水前のNaOH/NaSHは、1.04(モル/モル)になり、NaOH/Sは、1.02(モル/モル)になった。脱水工程において、実施例1と同様に脱水したところ、水930.3gとNMP1590.7gが留出し、HS0.44モルが揮散した。脱水工程後の缶内の有効S量は、21.99モルとなった。HS揮散分は、仕込みS量に対して1.96モル%に相当した。
その後、実施例1と同様に、pDCB/有効S=1.015(モル/モル)になるようにpDCB3,281g、NMP3,687g、缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)になるように水104.1g、缶内NaOH/有効S=1.100(モル/モル)になるように純度97%NaOH19.5gを加え、前段重合を行なった。引き続き、缶内の合計水量/有効S=2.80(モル/モル)になるように水514.6gを圧入し、後段重合を行なった。重合終了後、実施例1と同様にポリマーを回収した。得られた粒状ポリマーの収率は、70%で、溶融粘度は、90Pa・sであった。重合条件及び物性の測定結果を表1及び2に示した。
[比較例4]
酢酸ナトリウム552gを追加したこと以外は、実施例1と同様に仕込み、脱水したところ、水935.3gとNMP1590.3gが留出し、HS0.31モルが揮散した。脱水工程後の缶内の有効S量は、22.12モルとなった。HS揮散分は、仕込みSに対して1.38モル%に相当した。脱水工程後、pDCB3,300g〔pDCB/有効S=1.015(モル/モル)〕、NMP3,738gを加え、水及びNaOHは加えなかったので、缶内の合計水量/有効Sは、1.22(モル/モル)、缶内NaOH/有効Sは、1.041(モル/モル)になった。
その後、重合工程において、220℃で2時間、次いで、260℃で5時間重合反応を行なった。重合終了後、実施例1と同様にポリマーを回収した。得られた粒状ポリマーの収率は、85%で、溶融粘度は、130Pa・sであった。重合条件及び物性の測定結果を表1及び2に示した。
[比較例5]
実施例1と同様に仕込み、脱水したところ、水941.5gとNMP1601.0gが留出し、HS0.31モルが揮散した。脱水工程後の缶内の有効S量は、22.12モルとなった。HS揮散分は、仕込みS量に対して1.38モル%に相当した。pDCB3,300g〔pDCB/有効S=1.015(モル/モル)〕、NMP3,749gを加え、水及びNaOHは加えなかったので、缶内の合計水量/有効Sは、1.20(モル/モル)、缶内NaOH/有効Sは、1.041(モル/モル)になった。
その後、重合工程において、220℃で2時間、次いで、260℃で5時間重合反応を行なった。重合終了後、反応液を260℃の温度で保持したまま、フラッシュ法によりポリマーを回収した。得られたポリマーを水により5回洗浄した。ポリマーの収率は、95%で、溶融粘度は、95Pa・sであった。重合条件及び物性の測定結果を表1及び2に示した。
Figure 2009138206
Figure 2009138206
脚注:
*)2量体:ビス4−クロロフェニルスルフィド
**)AS:アミノシラン(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)
本発明によれば、重合反応時に副生する不純物のビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量が極めて少なく、アミノシランなどのシランカップリング剤との反応性に優れ、コンパウンドの揮発分が少なく、さらには、色調の良好なポリマーを与えることができるポリアリーレンスルフィドが提供される。

Claims (2)

  1. ガスクロマトグラフ分析により定量したビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量が50ppm未満であり、アミノシランとの反応により、温度310℃、剪断速度1,216sec−1で測定した反応前の溶融粘度値(MV1)に対する反応後の溶融粘度値(MV2)の比(MV2/MV1)が2.0超過であり、かつ、イエローインデックスが10以下であるポリアリーレンスルフィド。
  2. ビス4−クロロフェニルスルフィドの含有量が30ppm以下であり、前記比(MV2/MV1)が2.1〜3.0であり、かつ、イエローインデックスが7以下である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド。
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