JP2008150586A - 海産および淡水産動物の組織から脂質を抽出する方法 - Google Patents

海産および淡水産動物の組織から脂質を抽出する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】海産および淡水産動物由来の原料から、脂質画分を抽出する方法の提供。
【解決手段】海産および淡水産動物由来の原料をケトン溶媒にて抽出を行い、リン脂質含有脂質画分の第一の液体成分および第一の固体成分を得、該固体成分をさらにアルコールまたは酢酸エステル(好ましくは酢酸エチル)を用いる溶媒抽出に付し、残存する可溶性脂質画分の抽出を行う。尚、残った不溶性の粒子状成分は、タンパク質が富化され、有用な量の活性を有する酵素を含むのでこれも回収する。
【選択図】なし

Description

本発明は、海産(marine)および淡水産(aquatic)動物、例えばオキアミ(krill)、カラヌス(Calanus)、魚類、海産哺乳類などからの脂質画分の抽出に関する。より詳細には、本発明は、溶媒によって脱水された、活性を有する酵素を豊富に含む固形残渣をも回収しうる点において改良されている、脂質画分の抽出方法に関する。
オキアミ、カラヌス、魚類、海産哺乳類などの海産および淡水産動物から得られる脂質画分は、以下のような種々の用途に適用することができる。
・医療への適用
海産および淡水産動物から得られる脂肪油やそれを含む脂質画分は、治療効果を有する種々の物質を含む。例えば、種々の海産および淡水産動物から得られる油は抗炎症作用を示すことが報告されている。また、海産および淡水産動物から得られる油は、心血管系疾患の発生率を低下させる上で有益であるとの報告もある。さらに、海産および淡水産動物から得られる油の中には、ある種の狼瘡(lupus)や腎疾患の進行を抑えるものもあることが報告されている。また、オキアミは潰瘍や創傷の除去に関与する酵素や、食物の消化を促進する酵素の原料となりうる生物である。さらに、海産および淡水産動物から得られる油には種々の酸化防止剤が含まれており、それらは治療効果を有する可能性がある。
・栄養補給食品(Nutraceuticals)
ω−3系脂肪酸(omega-3 fatty acids)の有益な作用を考慮すると、オキアミ、カラヌスおよび魚類から得られる油は、ヒトの食物における補助食(dietary supplements)として使用し得る。これらの脂肪酸は、脳や目の正常な発生に必須である。また、海産および淡水産動物から得られる油は、脂溶性ビタミンであるビタミンA、DおよびEや、カロテノイド類を豊富に含んでいる。
・化粧品
種々の海産および淡水産動物から得られる油が、モイスチャライジングクリーム(moisturizing cream)の製造に用いられている。
・魚類の養殖
オキアミ、カラヌスおよび魚類から得られる油には、高濃度の20:5(エイコサペンタエン酸)や22:6(ドコサヘキサエン酸)が含まれている。これらの脂肪酸は必須栄養素であり、魚類の飼料として有益である。その上、そのような飼料を与えられて育った魚類を摂取することにより、これらの必須栄養素がヒトの食物中に取り込まれる。
・動物用飼料
ω−3系脂肪酸に富む動物用飼料を用いると、食肉中の不飽和脂肪酸レベルを向上し、且つコレステロールレベルを低下しうる。このような特性は、家禽養殖業(poultry industry)において卵の品質を向上させる目的で既に活用されている。
海産および淡水産動物から油を抽出する方法としては、種々のものが知られている。例えば、ヘキサンやエタノールなどの有機溶媒を用いて魚油を抽出することが知られている。またアセトンなどの溶媒を用いて、魚類の筋肉組織における脂肪含有量を測定することが知られている。
米国特許第4,331,695号公報には、プロパン、ブタン、ヘキサンなどの、室温ではガス状となる溶媒を加圧下で用いる方法が記載されている。この方法では、植物や動物を細切したものを、好ましくは15〜80℃で抽出に付す。抽出された油を、高圧下、温度を50〜200℃まで上昇させることにより沈殿させる。しかし、オキアミのような海産動物が原料である場合、ヘキサンは抽出力の乏しい溶媒(poor extraction solvent)である。その上、沈殿の段階における高温は脂質に悪影響を及ぼす。
カナダ国特許出願第2,115,571号公報には、種々の褐藻および紅藻から油を抽出する方法が記載されている。ここでは、例えばほぼ純粋なエタノールを用いて、40時間ソックスレー抽出を行う方法が提供されている。
米国特許第5,006,281号公報には、魚類などの、海産および淡水産動物から油を抽出する方法が記載されている。この方法では、海産および淡水産動物を酸化防止剤化合物で処理した後細切し、遠心分離に付して水相および固体相から油相を分離する。得られた油相をさらに酸化防止剤化合物で処理し、不快な匂いや味を除去する。
カナダ国特許第2,115,571号公報には、オキアミから油を抽出する方法が記載されている。この方法では、新鮮な、または解凍したオキアミを水性媒体中に分散させて乳液状にする。油画分は遠心分離によって回収する。
フォルチ(Folch)は、1957年に発行された論文(J. Biol. Chem. 226: 497-509 “A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues”)中において、クロロホルムとメタノールを用いる抽出法を提案している。この方法は、溶媒の毒性のため工業的に実施することはできない。
従来の方法は、通常工業的に実施することができないか、脂質の収率が低い。従って本発明の目的は、海産および淡水産動物の油を抽出する方法であって、有用な脂質画分と共に、タンパク質が豊富で、活性を有する酵素を含む有用な固形残渣を別途回収することが可能な方法を提供することにある。
本発明の他の諸目的および本発明の更なる適用範囲に関しては、以下の詳細な説明の記載から明らかになる。ただし、本発明の意図および範囲内での種々の変更・修正は当業者にとって明白である。従って、詳細な説明において本発明の好ましい態様が示されるが、それらは単なる例示と理解されるべきものである。
本発明の好ましい態様に関する詳細な説明
以降、本発明に関し詳細に説明するが、その前に、本発明は、以下に詳述する方法に対してのみ適用されるものではないと理解されねばならない。本発明は下記以外の種々の態様によって実施可能である。また、以下の記述において用いられる表現法または用語は、表記のために用いられるものであり、制限のために用いられるものではないと理解されねばならない
本発明は、新たに採集された海産または淡水産動物をアセトン中に懸濁させることを含む。脂質はアセトンなどのケトンによって抽出される。このことにより、動物の組織は脱水され、また脂質画分は溶媒(ケトン)中に移行する。乾燥(脱水)された残渣は、活性を有する酵素を豊富に含む有用な産物である。
本発明の好ましい態様においては、抽出はアセトンの後アルコールを用いて行う。アルコールとしては、イソプロパノールおよびt−ブタノールが好ましい。また、アルコールに代えて酢酸エチルなどの酢酸エステルを用いてもよい。この手順によれば、2種類の脂質画分が相次いで得られると共に、タンパク質に富み、活性を有する酵素を含む乾燥残渣が得られる。総脂質の回収率は、「発明の背景」の項で述べたフォルチらの方法(1957)に匹敵する。この手順を、オキアミ、カラヌス、魚類およびサメの組織を用いて試行した。
驚くべきことに、本発明において提案される連続的な抽出処理は、単一の溶媒系を用いる抽出処理に比して、脂質抽出における収率が優れていることが判明した。2種類の溶媒を用いて連続して抽出を行い、その抽出をアセトンなどのケトンによる抽出から開始するこの方法は、アセトンが動物の組織を脱水する作用を有しているので特に好ましい。動物の組織が脱水されていることにより、第二の溶媒、即ちアルコールまたは酢酸エステル(酢酸エチルなど)による抽出が大いに促進される。
オキアミ、カラヌスなどの動物プランクトンや、魚類解体時に生じる副生物、例えば魚の内臓を用いる場合、高い費用対効果をもって脂質画分を回収すると共に、タンパク質に富み、活性を有する酵素を含む乾燥残渣を別に得るためには、アセトンによる抽出を一回行うのみで充分である。
以降、本発明における一般的な抽出方法について記載する。新たに採集され、好ましくは細切された海産または淡水産動物由来の原料よりなる出発物質を約2時間、好ましくは一晩アセトン抽出に付す。しかし、脂質抽出における収率に対し、抽出時間に臨界性はない。抽出を促進させるためには、出発物質を直径約5mm未満の粒子状とすることが好ましい。また、抽出は不活性ガス雰囲気下、約5℃またはそれ以下の温度で行うことが好ましい。
抽出の開始から10〜40分間、好ましくは20分間にわたり、攪拌を行うことが好ましい。また、海産または淡水産動物由来の原料の体積に対するアセトンの体積を6:1とし、2時間にわたって抽出することが最も適切であることが判明した。ただし、抽出時間に臨界性はない。
可溶化された脂質画分は、通常の方法、例えば濾過、遠心分離、沈降などの方法により固形の原料(残渣)から分離する。これらの方法のうち、濾過による分離が好ましい。
残渣は、有機溶媒耐性の(すなわち、金属、ガラスまたは紙製の)フィルターを用いて濾別した後、純粋なアセトンで洗浄し、残渣中に残留する脂質を回収することが好ましい。このとき純アセトンの使用量は、原料の元の体積の2倍とすることが好ましい。洗浄により得られた洗液を濾液と混合し、減圧下で溶媒を留去する。溶媒の除去はフラッシュ蒸発や噴霧乾燥によって行ってもよい。溶媒を留去した後に残る水性の残留物は、低温下で放置することにより油相(以降「画分I」とする)から分離することができる。
フィルター上に回収された固形の残渣を、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等のアルコールまたは酢酸エチル中に懸濁させて抽出する。このときアルコールまたは酢酸エチルの使用量は、原料の元の体積の2倍とすることが好ましい。
得られた濾液の溶媒を留去することにより、第二の脂質画分(以降「画分II」とする)が得られる。抽出時間は約30分で充分であることが判明した。ただし、抽出時間に臨界性はない。
上記の有機溶媒(t−ブタノールを除く)および試料の温度は臨界性のあるパラメーターではないが、できるだけ低温にすることが好ましい。しかし、室温では固体であるt−ブタノールを用いる場合には、t−ブタノールを使用前に加温しておき、抽出を25℃で手早く行うことが重要である。
比較例
抽出の効率を比較するため、クロロホルムとメタノールを用いる従来の方法(フォルチら、1957)をオキアミに対して適用した。この方法を、抽出工程の効率を求める際の参照とした。また、ヘキサンを抽出溶媒として用いる方法とも比較を行った。脂質の回収率は、脂質画分を少量の元の(抽出に用いた)溶媒に懸濁させ、得られた懸濁液の一部を少量とって溶媒留去し、重量を測定することにより求めた。
ここで示される実施例の全てに関し、アセトン抽出とそれに続く第2の溶媒(例えば酢酸エチル)による抽出を行なう本発明の方法により得られる脂肪油は、半透明で、従来のフォルチらの方法(1957)により得られる脂肪油に比して魅力ある特性を有している。
脂質の組成分析は、780μgの抽出物を薄層クロマトグラフィー(TLC)用シリカゲルプレートに付着させ、次のような展開溶媒を用いて分画することにより行なった(Bowyerら、1962)。
中性脂質:ヘキサン:エチルエーテル:酢酸=90:10:1(v/v)
リン脂質:クロロホルム:メタノール:水=80:25:2(v/v)
E.pacificaにおける脂肪酸組成は、原報(Bowyerら、1962)に記載の方法を若干変更(1時間、80℃のところを2時間、65℃、ヘキサンにて3回洗浄するところを2回洗浄、水による洗浄を省略)し、気液クロマトグラフィー(GLC)により行なった。
痕跡量の有機溶媒を除去するため、脂質画分IおよびIIは不活性ガス雰囲気下125℃で15分間加熱した。
脂肪の分析は、米国油化学会(American Oil Chemist’s Society, AOCS)の方法に従って行なった。抽出された脂質の分析においては、けん化価、ウィイス(Wijs)ヨウ素価、水分−揮発性物質含量(moisture-volatile matter levels)を基準として用いた。また、コレステロール含量をPlummerの方法(1987)により測定した。
またこれとは独立に、ロバート アックマン(Robert Ackman)教授の監督下、上記およびその他の分析を、ダルハウジー大学 ダルテックのカナダ漁業技術研究所(所在地:カナダ国ノバスコシア州ハリファックス市)(Canadian Institute of Fisheries Technology, Daltech, Dalhousie University, Halifax, Nova Scotia, Canada)において行なった。これには、ウィイスヨウ素価、過酸化物価、アニシジン価、脂質クラス組成、脂肪酸組成、並びに遊離脂肪酸、FAME(脂肪酸メチルエステル)、コレステロール、トコフェロール、全トランス−レチノール、コレカルシフェロール、アスタキサンチンおよびカンタキサンチンの含量が含まれる。
表1は、アセトン処理してからエタノール処理することにより、フォルチら(1957)の従来の方法よりも多量の脂質を乾燥オキアミから抽出できることを示す。
表2は、冷凍したEuphausia pacifica(太平洋産のオキアミの1種)からの脂質抽出の結果を示す。冷凍オキアミの水分含量を80%と仮定すると、その脂質含量は表1に示す乾燥オキアミについての結果に匹敵する。イソプロパノール、t−ブタノール又は酢酸エチルを第2抽出の溶媒に用いると、収率はエタノールには及ばないが、エタノールを用いるとイソプロパノール、t−ブタノール又は酢酸エチルに比べて不純物が多くなるので、脂質回収におけるイソプロパノール、t−ブタノール又は酢酸エチルの効果が必ずしもエタノールより劣るとはいえない。また、これらは、アセトンの後に第2溶媒としても使用できる。
アセトン抽出の結果にばらつきがあるのは、主に水−油分離工程によるものである。水−油分離工程は、アセトン蒸発後の水−油溶液中の残留アセトンの量に影響される。この残留アセトン量は実験の度に異なるが、その理由は、小さなスケールで用いられる蒸発系は再現性が低いからである(工業的スケールでは、蒸発工程が最適化された条件下で行なわれる)。単独の溶媒を用いてオキアミから全脂質を抽出する実験も行なった。その結果、酢酸エチル(抽出率1.37%)やへキサン(抽出率0.23%)は、アセトン単独と比較して、良溶媒ではないことがわかる(アセトン単独での抽出率は1.86%で、効率的なアセトン蒸発系を用いると抽出率は更に向上する)。
本発明の方法の主な利点の1つは、抽出物(脂質画分と、高タンパク含量の固形物)からのバクテリアの除去である。E.pacificaを種々の量のアセトン中、4℃で112時間インキュベートして得られるサンプルを、BactoTM牛肉抽出物0.3%、BactoTMペプトン0.5%及びBactoTM寒天1.5%を含むNA培地(Difco Laboratories社、米国デトロイト市)に接種して、室温又は4℃で18日間インキュベートした。その結果、オキアミ1グラム当たりアセトン1容量を用いた場合には、細菌の有意な増殖は見られなかった。アセトンの量がそれより大きい場合(2容量や5容量)は、細菌の増殖は全く見られなかった。このことは、アセトンでオキアミのサンプルを保存できるということを意味する。アセトンは、効率的な殺菌・殺ウイルス剤として知られている(Goodmann et al., 1980)。
表3は、M.norvegicaからの脂質の収率を示す。その脂質の%値(3.67%)は、表2に示すE. pacificaについての値(3.11%)に匹敵するものである。値の違いは、両種のオキアミの餌や採取時期(季節)の違いによるものと考えられる。
表4は、M.norvegicaからの脂質の抽出効率において、試料の磨砕が与える影響を示す。これらの抽出実験は最適条件下で行なわれたもので、本発明の方法が従来の方法より明確に優れていることを示す(本発明の方法が4.46%であるのに対し、従来の方法では3.30%)。表4はまた、大型種のオキアミでは磨砕が重要な要素であることを示す(4.46%対3.53%)。
表5は、カラヌス(Calanus)からの脂質抽出の結果を報告するものである。相当な量の脂質が得られた。実験1と実験2の間に見られる結果のばらつき(新鮮重量の8.22%と10.90%)は、カラヌス種における組成の何らかのばらつきによるものであろう。
表6〜8は、魚の組織からの抽出した脂質の合計量を報告するものである。本発明の方法を、サバ、マスおよびニシンについて実施した。実験に用いたのは、周辺組織(主に筋肉)と内臓である。好ましいことに、魚から身を取った後の、通常は廃棄される不使用部分から貴重な脂質画分を回収できるので、有利である。本発明の方法により、人間の消費用に魚を加工した後に残る上記の不使用部分をアセトン中に保存し、それから脂質を抽出することができる。
このときフォルチの方法(1957)を用いると、本発明の方法よりも多量の脂質を回収できるかもしれない。実際、アセトンとエタノールを用いて本発明の方法で抽出を行った後、フォルチの方法を実施することにより、サバから少量(内臓から0.52%、組織から1.45%)の脂質を抽出することができた。また、マスとニシンについて本発明の方法による抽出とフォルチの方法による抽出の比較実験を行なうと、後者の方が優れた回収率を示す。しかしフォルチの方法は、(毒性のために)商業目的での脂質抽出には利用できない、という点に注目すべきである。
表9〜11は、サメの肝臓からの脂質の抽出結果を示す。同一種については、抽出法が違っても結果に顕著な差は見られない。
表12は、オキアミ(E.pacifica)油の画分I(アセトン)と画分II(アルコール又は酢酸エチル)の特徴の一部を示す。まず、画分Iのけん化価(130.6)から、画分Iが、画分II(185.7)よりも鎖長の長い脂肪酸を含有することがわかる。画分Iのウィイスヨウ素価からは、この画分が、ウィイスヨウ素価が81.1であるオリーブ油と比較して、高度不飽和脂肪酸含量が高いことがわかる。このことが、画分Iが室温で液状である理由である。不飽和脂肪酸の融点が飽和のホモローグ(対応する飽和脂肪酸)の融点よりも低いことは周知である。同じことが、ヨウ素価が127.2である画分IIについてもいえる。表14に示す脂肪酸組成はこれらのヨウ素価を裏付けるものである。即ち、画分Iは高度不飽和脂肪酸(ペンタエン類+へキサエン類)の比率が高く(30.24%)、画分IIも同様である(22.98%)。
最後に、表12はまた、画分IIは溶媒蒸発後に10.0%の揮発性物質と水分を含有することを示す。画分IIについては、この値は6.8%である。痕跡量の溶媒を除去するためには、油を窒素雰囲気下で短時間加熱(約125℃で約15分)することが重要である。
本発明の方法を用いて得られたオキアミ油(画分Iはアセトン抽出、画分IIは酢酸エチル抽出により得られた)についての分析結果を表12、13、14、15、16及び17に示す。注目すべき点として、表18に示すように、2種類のカロテノイド、即ちアスタキサンチンとカンタキサンチンに関して測定したカロテノイド含量が有意に高かったことに言及することができる。実際、二種の画分の分析の結果、アスタキサンチン含量は92および124μg/g(脂質画分)、カンタキサンチン含量は262および734μg/g(脂質画分)であった。従って、本発明の意図するところにおいて、上記のようなオキアミ抽出物はアスタキサンチンを少なくとも75μg/g、好ましくは少なくとも90μg/g含むといえる。またカンタキサンチンについては、少なくとも250μg/g、好ましくは少なくとも270μg/g含むといえる。
過酸化物価やアニシジン価が低いことも好ましいことであり、これは天然の酸化防止剤(即ちアスタキサンチンとカンタキサンチン)を高濃度で含有することによるものである。高濃度のカロテノイド類は、経皮的移行に関する特性を良好にすることから、これらの物質は、上記のようなオキアミ抽出物は薬学的または化粧品学的に好ましい特性を有することを示している。従って、オキアミ抽出物は薬物の経皮的送達のために好ましく用いうるものである。
表18は、本発明の水性動物から脂質を抽出する方法における、最も好ましい態様を示す。
表19は、本発明の方法によれば、固体画分における酵素活性が維持されることを示すものである。これを実証するため、アセトン、次いで酢酸エチルによる抽出を行った後の固形のオキアミ残渣に関して実験を行なった。
o−フタルジアルデヒドを試薬として用い、遊離したアミノ基の量を分光光度法によって測定することにより、タンパク質加水分解活性を測定した。タンパク質濃度は、ブラッドフォード(Bradford)法により測定した。
可溶性タンパク質を水で抽出し、限外濾過により得られた10%乳漿タンパク質濃縮物(10 % lactoserum protein concentrate obtained by ultrafiltration)に添加した。これを50mMリン酸カリウム緩衝液中37℃でインキュベートし、最後にトリクロロ酢酸を添加し、Churchらの方法(1983, J Dairy Sci 66: 1219-1227)により上清中のNH3基の量を測定した。
図1〜6は、E.pacificaの脂質の脂肪酸組成のクロマトグラムを示す。各々のクロマトグラムにおいて、20:5脂肪酸と22:6脂肪酸の比率が高い(海産及び淡水産動物油に特徴的である)ことが顕著であり、2つの明確なピークで表わされている。
動物種の違いによる中性脂質の脂質パターンの変異(図7〜11)は、栄養源の違いによるものである。同一種内(例えばE.pacifica)では、脂質抽出方法を変えて得た脂質パターンの間に顕著な差異は見られない。リン脂質(図12〜16)については、正反対の結果が観察される。即ち、同一種において脂質パターンが同じにならないことから、脂質パターンの差異は脂質の抽出方法の違いによるものであることになる。サメから得られる脂質(上記の方法により抽出)と市販のタラ肝油(サンプルはカナダ国ケベック州のUniprixドラッグストアーズから入手可能)は、主として中性脂質からなり、リン脂質ではない。
溶媒の容量とインキュベーション時間がE.pacificaからのアセトンによる脂質抽出の効率に与える影響を、図17と図18にそれぞれ示す。比率1:6(w/v)において最適の収率となり、2時間でほぼ完全に抽出できる。第2抽出工程の実験にはエタノールを用いた。エタノールの容量を変えても収率が変わらないので、この溶媒の容量には臨界性が無いようである(図19)が、図20に示す結果から分かるように、エタノール中でのインキュベーション時間は少なくとも30分は必要である。
本発明者らの一人であるアドリアン ボドワン博士は、種々のオキアミ脂質画分を摂取したが、副作用は見られなかった。
本発明を特定の態様について説明してきたが、この態様は様々なやり方で改変や改良が可能であることは当業者には明らかである。従って、本発明の範囲は、本願の特許請求の範囲の記載によって定義される以外には何ら限定されないことを理解されたい。
アセトンと酢酸エチルによる抽出を行なった後に得られるオキアミの残渣はタンパク質分解酵素活性を有する。タンパク質分解活性は、o-フタルジアルデヒドを試薬として用いる分光光度法によりアミノ基の遊離を測定することによって調べた。タンパク質濃度はブラッドフォード法により測定した。
酵素源として、アセトンと酢酸エチルによる脂質抽出を行なった後に得られる残渣を用いた。可溶性タンパク質を水で抽出し、限外濾過により得られた10%乳漿タンパク質濃縮物に加えた。
50mMリン酸カリウム緩衝液中37℃でインキュベートし、最後にトリクロロ酢酸を加えてから、上清中のNH3基の量をChurchらの方法(1983)により測定した。
Figure 2008150586
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図1は、乾燥オキアミから抽出(溶媒:クロロホルム−メタノール)された脂肪酸の気液クロマトグラムである。 図2は、乾燥オキアミから抽出(溶媒:アセトン)された脂肪酸の気液クロマトグラムである。 図3は、凍結オキアミから抽出(溶媒:アセトン)された脂肪酸の気液クロマトグラムである。 図4は、凍結オキアミから抽出(溶媒:エタノール)された脂肪酸の気液クロマトグラムである。 図5は、凍結オキアミから抽出(溶媒:t−ブタノール)された脂肪酸の気液クロマトグラムである。 図6は、凍結オキアミから抽出(溶媒:酢酸エチル)された脂肪酸の気液クロマトグラムである。 図7は、カラヌス種(Calanus sp.)およびM.norvegicaの中性脂質の薄層クロマトグラムである。 図8は、オキアミE.pacificaの中性脂質の薄層クロマトグラムである。 図9は、サメM.schmittiの中性脂質の薄層クロマトグラムである。 図10は、サメG.galeusの中性脂質の薄層クロマトグラムである。 図11は、カスザメ(Angel shark)の中性脂質の薄層クロマトグラムである。 図12は、カラヌス種(Calanus sp.)およびM.norvegicaのリン脂質の薄層クロマトグラムである。 図13は、オキアミE.pacificaのリン脂質の薄層クロマトグラムである。 図14は、サメM.schmittiのリン脂質の薄層クロマトグラムである。 図15は、サメG.galeusのリン脂質の薄層クロマトグラムである。 図16は、カスザメ(Angel shark)のリン脂質の薄層クロマトグラムである。 図17は、脂質抽出(原料:E.pacifica)に対するアセトン使用量の影響を示すグラフである。 図18は、脂質抽出(原料:E.pacifica)に対するアセトン中でのインキュベーション時間の影響を示すグラフである。 図19は、脂質抽出(原料:E.pacifica)に対するエタノール使用量の影響を示すグラフである。 図20は、脂質抽出(原料:T. raschii)に対するエタノール中でのインキュベーション時間の影響を示すグラフである。

Claims (24)

  1. 下記の段階(a)〜(f)を含むことを特徴とする、海産および淡水産動物由来の原料から、該原料中に存在する脂質をまとめて含有する、リン脂質含有脂質画分を抽出する方法。
    (a)海産または淡水産動物由来の原料をケトン溶媒中に入れて、該原料から可溶性脂質画分の抽出を行うことにより、第一の液体成分および第一の固体成分を得、
    (b)該第一の液体成分を該第一の固体成分から分離し、
    (c)段階(b)で分離された該第一の液体成分に含まれる該ケトン溶媒を留去することにより、油相を第一のリン脂質含有脂質画分として回収し、
    (d)該第一の固体成分をアルコール、酢酸エステルおよびアセトンよりなる群から選ばれる有機溶媒中に入れて、該第一の固体成分中に残存する可溶性脂質画分の抽出を行うことにより、第二の液体成分および第二の固体成分を得、
    (e)該第二の液体成分を該第二の固体成分から分離し、
    (f)段階(e)で分離された該第二の液体成分に含まれる該有機溶媒を留去することにより、油相を第二のリン脂質含有脂質画分として回収する。
  2. 段階(a)で行う抽出を、該原料の磨砕後に撹拌下で行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. 段階(d)で行う抽出を、該原料の磨砕後に撹拌下で行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  4. 段階(a)および(d)を不活性ガス雰囲気下で行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 段階(b)および(e)を濾過、遠心分離、沈降のいずれかにより行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 段階(c)および(f)を減圧下での蒸発、フラッシュ蒸発、噴霧乾燥のいずれかにより行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 段階(b)の後、段階(c)に入る前に、該第一の固体成分を該ケトン溶媒で洗浄し、得られた洗液を段階(b)で得られた該第一の液体成分に添加することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. 段階(e)の後、段階(f)に入る前に、該第二の固体成分を、段階(d)において用いられた該有機溶媒で洗浄することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
  9. 段階(a)に入る前に、該原料を細分することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
  10. 段階(a)および(b)を、該ケトン溶媒の温度を5℃またはそれ以下として行うことを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
  11. 該原料が動物プランクトンであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
  12. 該動物プランクトンがオキアミであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
  13. 該動物プランクトンがカラヌスであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
  14. 該原料が魚類であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
  15. 分離した固体成分が回収され、該固体成分が活性な酵素を含有する脱水残渣からなることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
  16. 下記の段階(a)〜(f)を含むことを特徴とする、海産および淡水産動物由来の原料から、該原料中に存在する脂質をまとめて含有する、リン脂質含有脂質画分を抽出する方法。
    (a)海産または淡水産動物由来の原料をアセトン中に入れて、該原料から可溶性脂質画分の抽出を行うことにより、第一の液体成分および第一の固体成分を得、
    (b)該第一の液体成分を該第一の固体成分から分離し、
    (c)段階(b)で分離された該第一の液体成分に含まれる該アセトンを留去することにより、油相を第一のリン脂質含有脂質画分として回収し、
    (d)該第一の固体成分をアルコール中に入れて、該第一の固体成分中に残存する可溶性脂質画分の抽出を行うことにより、第二の液体成分および第二の固体成分を得、
    (e)該第二の液体成分を該第二の固体成分から分離し、
    (f)段階(e)で分離された該第二の液体成分に含まれる該有機溶媒を留去することにより、油相を第二のリン脂質含有脂質画分として回収する。
  17. 分離した固体成分が回収され、該固体成分が活性な酵素を含有する脱水残渣からなることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
  18. 請求項1〜17のいずれかに記載の方法により得られる、リン脂質含有脂質抽出物。
  19. 医療への適用、栄養補給食品としての適用、化粧品としての適用、魚類の養殖への適用および動物用飼料としての適用よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項18に記載のリン脂質含有脂質抽出物の用途。
  20. 医薬品、栄養補給食品、化粧品、魚類養殖用製品および動物用飼料よりなる群から選ばれる製品の製造における、請求項18に記載のリン脂質含有脂質抽出物の用途。
  21. 該ケトン溶媒がアセトンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  22. 該有機溶媒がエタノール、イソプロパノール、t−ブタノールおよび酢酸エステルよりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  23. 該有機溶媒が酢酸エチルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  24. 該原料を平均粒子径が5mm以下に細分することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
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