JP2007200693A - 固体酸化物型燃料電池材料の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】基板として用いる燃料極あるいは空気極の多孔性が維持される1300℃以下の温度で焼成しても電解質の緻密性を十分に向上させることができる固体酸化物型燃料電池材料を製造する。
【解決手段】組成式(Ln1−aAEa)1−dFe1−b−cCobMcO3−δ、,0<a≦0.5、0≦b≦1.0、0≦c≦0.1、0<d≦0.1、0≦b+c≦1.0で表されるBサイト過剰ペロブスカイト酸化物を主成分とした空気極基板の片側表面にセリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料として湿式法によりコーティングする工程と、空気極基板と電解質材料とを1300℃以下の温度で共焼成する工程とを含む。過剰なBサイト成分であるFeやCoを電解質中に拡散させることで電解質を所望の緻密度とすることができる。
【選択図】図12
【解決手段】組成式(Ln1−aAEa)1−dFe1−b−cCobMcO3−δ、,0<a≦0.5、0≦b≦1.0、0≦c≦0.1、0<d≦0.1、0≦b+c≦1.0で表されるBサイト過剰ペロブスカイト酸化物を主成分とした空気極基板の片側表面にセリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料として湿式法によりコーティングする工程と、空気極基板と電解質材料とを1300℃以下の温度で共焼成する工程とを含む。過剰なBサイト成分であるFeやCoを電解質中に拡散させることで電解質を所望の緻密度とすることができる。
【選択図】図12
Description
本発明は、固体酸化物型燃料電池材料の製造方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、固体酸化物型燃料電池の空気極に必要な多孔性が維持されるような1300℃以下の焼成温度においても電解質の緻密性を向上させることができる固体酸化物型燃料電池材料の製造方法に関する。
化学エネルギーを電気化学的な反応により電気エネルギーに変換する装置として固体酸化物型燃料電池が知られている。固体酸化物型燃料電池の構造は、平板型と円筒型の2種類に大別できる。平板型固体酸化物型燃料電池は、図1に示すように平板状の緻密な固体電解質を多孔質である空気極101と燃料極103とで挟持した単電池をガス流路となるスペーサとセパレータ104とを利用して積層したものであり、燃料極103に燃料ガスを、空気極101に空気を供給することにより発電を行う。円筒型固体酸化物型燃料電池は、図2に示すように平板型と同様の材料構成の単電池が円筒状となり、インターコネクタ105を介して束ねられることによりモジュールが構成されている。いずれの構造においても、高い発電効率を目指す場合には、導電率の高い空気極若しくは燃料極を基板とし、導電率の低い緻密な電解質薄膜を基板上に形成する必要がある。特に、500℃〜800℃の中温領域で作動する固体酸化物型燃料電池を考えた場合には、電極活性の優れたペロブスカイト酸化物であるLa1−xSrxFe1−yCoyO3−δなどにより空気極を作製するのが好ましいと考えられている。
空気極あるいは燃料極を基板として緻密な電解質薄膜を基板上に形成する手法が特許文献1で提案されている。具体的には、0.1〜5μmの開口径を有する多孔質空気極あるいは燃料極を基板とし、基板部を加熱すると共にバイアスを設定してスパッタリング法により緻密な電解質薄膜を形成している。また、スパッタリング法以外にも、例えば電気化学的気相析出法やプラズマ溶射法を用いることにより、多孔質空気極あるいは燃料極を基板として緻密な電解質薄膜を基板上に形成することも可能である。
特開2005−78951
しかしながら、スパッタリング法や電気化学的気相析出法、プラズマ溶射法を電解質薄膜形成に採用した場合には以下のような問題がある。即ち、大気と遮蔽された特殊な雰囲気下及び物理的条件下で膜形成を行う必要があるため、非常に高価で取り扱いも煩雑な装置を必要とする。また、基板である燃料極や空気極の大きさに応じて、これを収容するのに適した大きさの装置が必要となるため、大型の燃料極基板や空気極基板に電解質を成膜することが難しく、生産性も低くなる。したがって、低コストで生産性が高く、しかも基板の大きさに左右されない緻密電解質薄膜の形成手法の開発が望まれる。
そのような緻密電解質薄膜の形成手法として、スラリーコート法の様な湿式法を採用することが考えられるが、この場合には電解質の緻密性を向上させるために高温焼成することが必要である。しかしながら、高温焼成することにより、電解質の緻密性が向上すると共に基板として用いる燃料極あるいは空気極が焼結してしまい、燃料極や空気極に必要な多孔性が維持できないという問題があった。例えば、上述したLa1−xSrxFe1−yCoyO3−δは1200℃を超える温度で焼成すると焼結し易くなり、1400℃前後の焼成温度とした場合には著しく焼結が起こる。したがって、これらを基板として電解質材料を湿式法でコーティングした場合には1300℃以下で共焼成するのが好ましく、1200℃以下で共焼成することがより好ましいが、焼成温度を1300℃以下とした場合には電解質材料の緻密性を十分に向上させることができなかった。
そこで、本発明は、基板として用いる燃料極あるいは空気極の多孔性が維持される1300℃以下の温度で焼成しても電解質の緻密性を十分に向上させることが可能な固体酸化物型燃料電池材料の製造方法を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本願発明者は上述したLa1−xSrxFe1−yCoyO3−δについて、種々の実験、検討を行った。その結果、La1−xSrxFe1−yCoyO3−δのBサイトを過剰組成として1300℃で焼成しても、定比組成とした場合の多孔性と差がなく、固体酸化物型燃料電池の空気極としての使用に十分耐えうる程度に維持されることを知見した。
さらに、Bサイトを過剰組成としたペロブスカイト酸化物を焼成すると、ペロブスカイト酸化物の組成が定比に近づくと共に、過剰なBサイト成分であるFeやCoの酸化物が定比組成のペロブスカイト粒界に析出することを知見した。
そこで、FeやCoを添加することによりその焼結性が促進されることが報告されている(非特許文献1)セリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料をスラリーコートした前記のBサイト過剰組成ペロブスカイト酸化物を焼成したところ、過剰なBサイト成分であるFeやCoが、電解質中に拡散することが確認され、これにより電解質の緻密性が向上することを知見し、本発明に至った。(非特許文献1:M.Mori,E.Suda, B.Pacaud, K.Murai, T.Moriga、”Effect of components in electrodes on sintering characteristics of Ce0.9Gd0.1O1.95 electolyte in intermediate-temperature solid oxside fuel cells during fabrication,” Ninth Grove fuel cell symposium, 4th, October, 2005, London, UK.)
本発明はかかる知見に基づくものであって、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池材料の製造方法は、組成式(Ln1−aAEa)1−dFe1−b−cCobMcO3−δで表されるBサイト過剰ペロブスカイト酸化物を主成分とした空気極基板の片側表面にセリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料として湿式法によりコーティングする工程と、空気極基板と電解質材料とを共焼成する工程とを含むようにしている。ここで、LnはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる希土類元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、AEはCa、Sr及びBaからなるアルカリ土類金属元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、MはMg、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Cu及びNiからなるアルカリ土類金属元素及び遷移金属元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、0<a≦0.5、0≦b≦1.0、0≦c≦0.1、0<d≦0.1、0≦b+c≦1.0である。尚、組成式中のδは組成・温度等で種々変化する酸素量であり、規定することに意味の無い数値である。
また、本明細書における共焼成とは、空気極基板と当該空気極基板の片側表面に湿式法によりコーティングされた電解質材料とを同時に焼成することを意味している。
ペロブスカイト酸化物は一般式ABO3で表される。本発明の空気極の主成分であるペロブスカイト酸化物の組成式中においては、Aサイトの位置に存在する元素がLn1−aAEaであり、Bサイトの位置に存在する元素がFe1−b−cCobMcである。また、A:B=1−d:1、0<d≦0.1であることから、空気極の主成分であるペロブスカイト酸化物の組成式はBサイトが過剰で不定比である。このBサイト過剰ペロブスカイト酸化物を主成分とした空気極基板は、1300℃程度で焼成しても、主成分を定比(d=0)のペロブスカイトとした場合と比較して多孔性は変化せず、固体酸化物型燃料電池の空気極としての使用に十分耐えうる程度に維持される。また、このBサイト過剰ペロブスカイト酸化物は焼成することにより定比に近づくと共に、過剰なBサイト成分が主成分のペロブスカイト酸化物から析出し、空気極の主成分は定比に近い組成を有するペロブスカイト酸化物と、Bサイトから析出した遷移金属元素の酸化物との混合相となる。そして、Bサイトから析出した遷移金属の酸化物である酸化鉄や酸化コバルト、酸化銅は、定比組成の粒子の回りに存在し、共焼成中に電解質側に拡散する。セリウム系酸化物ナノ粒子は鉄やコバルト、銅によりその焼結性が促進されるため、共焼成中に酸化鉄や酸化コバルト、酸化銅が電解質側へ拡散することにより、これらがセリウム系酸化物ナノ粒子に対して焼結助剤として作用し、焼成温度を1300℃以下としても緻密性が十分に向上する。
請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池材料の製造方法は、Fe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素及び/又は当該元素を含む化合物を含ませた空気極基板あるいは燃料極基板の片側表面にセリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料として湿式法によりコーティングする工程と、空気極基板あるいは燃料極基板と電解質材料とを共焼成する工程とを含むようにしている。
この場合には、空気極基板あるいは燃料極基板に含ませたFe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素及び/又は当該元素を含む化合物が共焼成中に電解質側へ拡散することにより、これらがセリウム系酸化物ナノ粒子に対して焼結助剤として作用し、焼成温度を1300℃以下としても緻密性が十分に向上する。
請求項3に記載の固体酸化物型燃料電池材料の製造方法は、空気極基板あるいは燃料極基板の片側表面に、Fe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素を含む化合物を湿式法によりコーティングする工程と、コーティングした化合物上にセリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料として湿式法によりコーティングする工程と、空気極基板あるいは燃料極基板と電解質材料とを共焼成する工程とを含むようにしている。
この場合には、空気極基板あるいは燃料極基板の片側表面に湿式法によりコーティングしたFe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素を含む化合物が共焼成中に電解質側へ拡散することにより、これらがセリウム系酸化物ナノ粒子に対して焼結助剤として作用する。尚、この場合にはセリウム系酸化物ナノ粒子の焼結性促進効果が高く、焼成温度を1200℃以下としても緻密性が十分に向上する。
請求項4に記載の固体酸化物型燃料電池材料の製造方法は、請求項2または3に記載の固体酸化物型燃料電池材料の製造方法において、空気極基板は、組成式(Ln1−aAEa)1−dFe1−b−cCobMcO3−δ(但し、LnはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる希土類元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、AEはCa、Sr及びBaからなるアルカリ土類金属元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、MはMg、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Cu及びNiからなるアルカリ土類金属元素及び遷移金属元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、0<a≦0.5、0≦b≦1.0、0≦c≦0.1、0<d≦0.1、0≦b+c≦1.0である)で表されるBサイト過剰ペロブスカイト酸化物を主成分とするようにしている。
請求項5に記載の固体酸化物型燃料電池材料の製造方法は、請求項2または3に記載の固体酸化物型燃料電池材料の製造方法において、燃料極基板は、組成式Niy−(Ce1−xRxO2−δ)1−y(但し、RはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる希土類元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、0<x≦0.4、yはNiのCe1−zRzO2−δに対する体積割合が30〜60体積%となる値である。)で表される材料を主成分とするようにしている。
請求項1に記載の発明によれば、Bサイト過剰なペロブスカイト酸化物である(Ln1−aAEa)1−dFe1−b−cCobMcO3−δを主成分とした空気極基板は、1300℃程度で焼成しても、主成分を定比のペロブスカイトとした場合と比較して多孔性は変化せず、固体酸化物型燃料電池の空気極としての使用に十分耐えうる程度に維持される。また、このBサイト過剰ペロブスカイト酸化物は焼成することにより定比に近づくと共に、過剰なBサイト成分が主成分のペロブスカイト酸化物から析出し、空気極の主成分は定比に近い組成を有するペロブスカイト酸化物と、Bサイトから析出した遷移金属元素の酸化物との混合相となる。そして、Bサイトから析出した遷移金属の酸化物である酸化鉄や酸化コバルト、酸化銅は、定比組成の粒子の回りに存在し、共焼成中に電解質側に拡散する。セリウム系酸化物ナノ粒子は鉄やコバルト、銅によりその焼結性が促進されるため、共焼成中に酸化鉄や酸化コバルト、酸化銅が電解質側へ拡散することにより、これらがセリウム系酸化物ナノ粒子に対して焼結助剤として作用し、焼成温度を1300℃以下としても電解質の緻密性が十分に向上する。
請求項2に記載の発明によれば、空気極基板あるいは燃料極基板に含ませたFe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素及び/又は当該元素を含む化合物が共焼成中に電解質側へ拡散することにより、これらがセリウム系酸化物ナノ粒子に対して焼結助剤として作用し、焼成温度を1300℃以下としても電解質の緻密性が十分に向上する。
請求項3に記載の発明によれば、空気極基板あるいは燃料極基板の片側表面に湿式法によりコーティングしたFe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素を含む化合物が共焼成中に電解質側へ拡散することにより、これらがセリウム系酸化物ナノ粒子に対して焼結助剤として作用する。尚、この場合にはセリウム系酸化物ナノ粒子の焼結性促進効果が高く、焼成温度を1200℃以下としても電解質の緻密性が十分に向上する。
請求項4に記載の発明によれば、Bサイト過剰なペロブスカイト酸化物である(Ln1−aAEa)1−dFe1−b−cCobMcO3−δを主成分とした空気極基板に、Fe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素及び/又は当該元素を含む化合物を含ませたり、あるいはその表面にFe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素を含む化合物を塗布することで、Bサイト過剰なペロブスカイト酸化物からの酸化鉄や酸化コバルト、酸化銅の電解質側への拡散効果と相俟ってさらに低温、例えば1100℃以下でも電解質を緻密に焼成することが可能となる。
請求項5に記載の発明によれば、組成式Niy−(Ce1−xRxO2−δ)1−y(但し、RはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる希土類元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、0<x≦0.4、yはNiのCe1−zRzO2−δに対する体積割合が30〜60体積%となる値である。)で表される材料中の金属Niは、焼成後に酸化されて酸化物NiOとなる。この酸化物NiOは燃料電池作動時に燃料雰囲気に還元されて、再度金属Niとなり、還元の際に酸素が抜けて多孔質が形成される。したがって、造孔効果のある架橋アクリル単分散粒子等を添加せずに作製した緻密な基板を用いることができるので、架橋アクリル単分散粒子の燃焼・除去を目的とした熱処理も不用である。このような性質を持つ材料を燃料極基板とし、当該基板にFe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素及び/又は当該元素を含む化合物を含ませたり、あるいはその表面にFe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素を含む化合物を塗布することで、共焼成中に電解質側へ拡散することにより、これらがセリウム系酸化物ナノ粒子に対して焼結助剤として作用し、焼成温度を1300℃以下としても電解質の緻密性が十分に向上する。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
図3に本発明の固体酸化物型燃料電池材料の製造方法の実施の一形態を示す。本発明の固体酸化物型燃料電池材料の製造方法は、主成分の組成式が(Ln1−aAEa)1−dFe1−b−cCobMcO3−δで表されるBサイト過剰ペロブスカイト酸化物を主成分とした空気極基板の片側表面にセリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料として湿式法によりコーティングする工程と、空気極基板と電解質材料とを共焼成する工程とを含むものである。
図3において、(a)は空気極基板1を準備する工程、(b)は空気極基板1にセリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2を塗布する工程、(c)は空気極基板1とセリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2を共焼成する工程、(d)は空気極基板1にセリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2を塗布する2回目の工程、(e)は空気極基板1とセリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2を共焼成する2回目の工程、(f)は空気極基板1上に形成したセリウム系酸化物3の上に燃料極4を形成する工程である。
図3(a)で準備される空気極基板1の主成分はBサイト過剰ペロブスカイト酸化物(Ln1−aAEa)1−dFe1−b−cCobMcO3−δであり、LnはLa(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスブロシウム)、Ho(ホルミニウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)及びLu(ルテチウム)からなる希土類元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、AEはCa(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)及びBa(バリウム)からなるアルカリ土類金属元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、MはMg(マグネシウム)、Sc(スカンジウム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Cu(銅)及びNi(ニッケル)からなるアルカリ土類金属元素及び遷移金属元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、0<a≦0.5、0≦b≦1.0、0≦c≦0.1、0<d≦0.1、0≦b+c≦1.0である。
ここで、ペロブスカイト酸化物は一般式ABO3で表されるものである。上記組成中では、AサイトがLn1−aAEaであり、BサイトがFe1−b−cCobMcである。また、AサイトとBサイトの組成比はA:B=1−d:1、0<d≦0.1であり、Aサイトに比べてBサイトの組成比が過剰である。即ち、上記組成式で表されるペロブスカイト酸化物はBサイト過剰な不定比のペロブスカイト酸化物である。
上記組成式で表されるBサイト過剰ペロブスカイト酸化物は、上記組成式を構成する元素を含む原料により合成する。即ち、Lnを含む原料、AEを含む原料、Feを含む原料、Coを含む原料及びMを含む原料を出発原料とする。出発原料の形態としては、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、或いは構成元素そのもの等が挙げられるが、これらに限られるものではなく、上記組成式で表されるペロブスカイト酸化物を生成し得る原料であれば用いることができる。
次に、出発原料を上記組成式の組成比となる比で混合する。即ち、Ln:AE=1−a:a、(Ln+AE):Fe:Co:M=1−d:1−b−c:b:c、0<a≦0.5、0≦b≦1.0、0<c≦0.1、0<d≦0.1となるモル比で出発原料を混合する。ここで、出発原料は構成元素それぞれを単独で含むものと上述したが、2種以上の構成元素を含んでいる出発原料を用いて上記モル比で混合してもよい。例示すると、b=0.5、c=0の場合には、FeとCoとを等しいモル比で含む酸化物等を出発原料とすることができる。
ここで、上記組成式におけるa及びbの範囲は一般的に空気極材料として検討されている組成に基づいて決定されたものである。即ち、a=0、a>0.5では、触媒活性及び導電率が低下するため、0<a≦0.5であることが好ましい。bの範囲に関しては、0≦b≦1.0と幅を持たせているが、例えば、La1−aSraFeO3は熱膨張率が外の部材と一致しやすいのに対し、La1−aSraCoO3は触媒活性や導電率が高い。つまり、bが0に近づけば熱膨張率が外の部材と一致し易くなり、bが1に近づけば触媒活性や導電率が高まる。したがって、必要とする電極特性との兼ね合いによりbの値を決定すればよい。cについては、0<c≦0.1であれば導電特性は阻害されないが、この範囲を超える場合であっても、導電特性が阻害されない場合には、この範囲外の組成比をとることを否定するものではない。
dの範囲に関しては、0<d≦0.1であればよいが、0.05≦d≦0.1であることがより好ましく、d=0.1であることがさらに好ましい。dの値が0.1に近づく程、Bサイト過剰度が大きくなるが、空気極の多孔性は定比のペロブスカイト酸化物と比べて差がなく、しかも、Bサイトから析出する遷移金属元素の酸化物量が増加して、共焼成時に電解質材料の緻密性をより向上させやすくなるので、より低温でのプロセスが可能になる。また、Bサイト過剰度が大きくなるにつれて、Bサイト過剰分が析出しやすい状態となり、出発原料組成を所望のBサイト過剰ペロブスカイトを得るための比とした場合であっても、得られる生成物は所望のBサイト過剰度よりも若干小さい過剰度であるBサイト過剰ペロブスカイト酸化物と、過剰分のBサイト遷移金属酸化物の混合相となる場合があるが、この場合にも、共焼成時に電解質材料の緻密性を向上させることができる。
ここで、La−Fe−O系の場合の状態図を図13に示す(Yasumasa Goto, Toshio Kitamura, Toshio Takada and Sukeji Kachi, presented at Annual Meeting of Japan Soc. of Powder Metallurgy, tokyo, april 1980)。Feリッチの場合、つまり、Fe2O3のモル比が50%を超えるとき、LaFeO3+Fe2O3となり、Fe2O3が析出することが分かる。また、La−Co−O系の場合の状態図を図14に示す(A.N.Petrov, V.A.Cherepanov, E.M.Novitskii and V.M.Zhukovitskii. Zh. Fiz. khim.58[11]2662-2666(1984);Russ.J.Phys.Chem.(Engl. transt). 58[11]1618-1621(1984))。図14は1100oCでの酸素分圧依存性の状態図である。空気極雰囲気で考えた場合、縦軸が1(大気圧)から4(10−4atm)程度の領域となる。この場合にも、Coリッチの場合、つまり、XCoが0.5を超えるとき、LaCoO3+CoOとなり、CoOが析出する。
出発原料の混合は例えばエタノール等の有機溶媒を用いて湿式混合により行う。湿式混合後は乾燥して溶媒を揮発させる。次に、空気中で仮焼する。仮焼の条件としては、例えば900〜1200℃の温度で、5〜20時間程度行えばよいが、この条件に限られるものではない。仮焼後の試料は、乳鉢等を用いて50μm程度に粉砕し、再度、仮焼する。二度目の仮焼条件としては、例えば1200〜1350℃で、10〜20時間とすればよいが、この条件に限られるものではない。
二度目の仮焼成後の試料をエタノール等の有機溶媒を用いて湿式混合し、ボールミル等により粉砕して数μm程度の大きさにする。粉砕後に、粒径の揃った架橋アクリル単分散粒子をバインダーとして、試料粉に対して5〜15重量%程度混合し、これに一軸加圧をして、板状に成型する。加圧力は、20〜100MPaとすればよいが、この条件に限られるものではない。
ここで、成型した材料をそのまま空気極基板1として用いてもよい。または、100℃/min程度の昇温速度で550℃程度で一定時間保持してバインダーを燃焼・除去し、200℃/min程度の昇温速度で、1000℃〜1300℃程度で5〜20時間焼成したものを空気極基板1として用いてもよい。本発明のBサイト過剰ペロブスカイト酸化物は、余剰なBサイト成分が析出し、定比に近い組成を有するペロブスカイト酸化物と、Bサイトから析出した遷移金属元素の酸化物との混合相を主成分とする空気極基板となる。また、焼成処理した後に再度焼成処理を行っても、その多孔性の維持には影響を与えない。したがって、予め焼成処理した空気極基板を用いても、固体酸化物型燃料電池の空気極としての使用に十分耐えうる程度に維持しつつ、電解質の緻密性を向上させることができる。
ここで、空気極基板1には、Fe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素及び/又は当該元素を含む化合物、例えば、組成式TOαで表される遷移金属酸化物を含ませて、空気極基板1の主成分の組成式を((Ln1−aAEa)1−dFe1−b−cCobMcO3−δ)1−x−(TOα)xとしてもよい。ここで、TはFe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素である。また、LnはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる希土類元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、AEはCa、Sr及びBaからなるアルカリ土類金属元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、MはMg、Sc、Ti、V、Cr、Mn及びNiからなるアルカリ土類金属元素及び遷移金属元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、0<a≦0.5、0≦b≦1.0、0<c≦0.1、0<d≦0.1、0<d+x≦0.1である。この場合には、Bサイト過剰組成のペロブスカイト酸化物と、遷移金属元素の酸化物との混合相が空気極基板の主成分となっており、焼成後には、定比に近い組成を有するペロブスカイト酸化物と、Bサイトから析出した遷移金属元素の酸化物と、はじめから存在している遷移金属元素の酸化物との混合相となる。尚、TOαは単相であっても混合相であってもよい。
空気極基板1の主成分であるBサイト過剰ペロブスカイト酸化物のBサイトから析出した遷移金属元素の酸化物または空気極基板に含ませた組成式TOαで表される遷移金属酸化物は焼成時に熱拡散して電解質側へ移動する。したがって、Fe、Co、Cuにより焼結性が促進されるセリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料とすることで、空気極基板1の多孔性を維持しつつ、電解質の緻密性が向上する。
次に、空気極基板1の片側表面にセリウム系酸化物ナノ粒子スラリーを塗布する(図3(b))。セリウム系酸化物ナノ粒子とは、一次粒子が10nm以上200nm未満で、それらが凝集する二次粒子が0.05nm以上1μm未満の粒子である。セリウム系酸化物の組成式を例示すると、Ce1−yDyO2−δ(DはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる希土類元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、0<y≦0.3である)が挙げられる。このようなセリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料とすることで、電解質をより確実に緻密にすることができ、好適である。また、セリウム系酸化物ナノ粒子は、以下の文献により公知となっている方法や、一般的に知られている方法、新規な方法で得られたものを用いることができる(特開2004−107186、須田栄作、森 昌史、村井啓一郎、Pernard Pacaud、森賀俊広:「易焼結性Ce0.9Gd0.1O1.95ナノ粒子の量産技術の開発」、日本セラミックス協会学術論文誌、113[12], 793−798(2005).)。
セリウム系酸化物ナノ粒子をスラリー化するための溶媒は、特に限定されず、例えば水や水溶液(例えば硝酸水溶液、酢酸水溶液、有機酸塩水溶液など)あるいは有機溶媒(例えば、トルエン、イソプロパノールなど)のいずれを選択しても良い。また、水や水溶液を用いる場合には、結合剤、消泡剤、分散剤、増粘剤、界面活性剤などの添加剤を加えても良い。有機溶媒を用いる場合には、結合剤、解膠剤、消泡剤、分散剤などの添加物を加えても良い。有機系スラリーを調整する場合を例に挙げて説明すると、セリウム系酸化物ナノ粒子50gに対して、ポリビニルブチラール5g、ジブチルフタレート5ml、魚油1ml、オクチルフェニルエーテル1ml、トルエン300ml、イソプロパノール600mlを混合することで、セリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2が調整できる。尚、当該スラリーは、塗布だけでなくスプレーすることも可能である。本実施形態では、図3の(b)に示されるセリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2を塗布した空気極基板1を共焼成し、図3の(c)に示される状態となる。セリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2の収縮率は空気極基板1と比較して高いため、セリウム系酸化物層3が空気極基板1上に島状に堆積する。そこでさらに、セリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2を用いて、塗布・焼成を2〜7回程度繰り返しすことにより、緻密なセリウム系酸化物層3が形成される。
尚、セリウム系酸化物層3の膜厚は溶媒の主成分であるトルエンとイソプロパノールの比を保持したままその量を加減することにより、制御可能である。即ち、トルエンとイソプロパノールの量を多くすることで膜厚は薄くなり、トルエンとイソプロパノールの量を少なくすることで膜厚は厚くなる。
また、共焼成の際に空気極基板1に含まれている鉄やコバルト元素が、セリウム系酸化物層に拡散してくるため、比較的少ない塗布回数でも容易に緻密化を図ることが出来る。ここで、焼成は、200℃/minで昇温した後、1000℃〜1300℃で3〜20時間行う。ただし、共焼成温度に関して、より好ましくは1150℃〜1250℃、さらに好ましくは1100℃〜1200℃であり、この範囲で空気極の多孔性は固体酸化物型燃料電池の空気極としての使用に十分耐えうる程度に維持され、より確実に電解質の緻密化を図ることができ、しかも、高性能な固体酸化物燃料電池材料を得ることができる。
最後に、形成された緻密なセリウム系酸化物の上に燃料極4を塗布焼き付けする(図3(f))。燃料極4としては例えば、酸化ニッケル−セリウム系酸化物混合物を塗布焼付けする。この時、酸化ニッケル−セリウム酸化物混合物はクエン酸法や共沈法で作製された焼付け温度が低いものが望ましいが、焼き付け温度1300℃以下であれば、空気極基板1の多孔性は維持される。
次に、図4に示すセリウム系酸化物層3上にジルコニア系酸化物を形成する場合の固体酸化物型燃料電池の製造方法について説明する。電解質として用いるセリウム系酸化物は非常に高いイオン導電率を示すが、650℃以上では、還元雰囲気で電子導電性が高くなり、電解質としての性能が低下する。そこで、650℃以上の作動を目的とした燃料電池では、還元防止層として、ジルコニア系酸化物を燃料極側に形成する。尚、ジルコニア系酸化物は、イオン導電率がセリウム系酸化物よりも低いが、還元雰囲気においても電子導電性が発現しない特徴を有する。
図4においては(e)に示されるセリウム系酸化物層3の形成後、(f)〜(i)に示されるセリウム系酸化物層3上にジルコニア系酸化物層を形成する工程を含む点が図3と相違している。
ジルコニア系酸化物粉体はスラリー化し、セリウム系酸化物層3上に塗布する(図4(f))。ジルコニア系酸化物粉体は湿式法で1200℃の温度で焼成しても緻密化しやすいものが好ましく、例えば、東ソー製8YSZが挙げられるが、これに限られるものではない。ジルコニア系酸化物粉体をスラリー化するために用いる溶媒は、特に限定されず、セリウム系酸化物ナノ粒子をスラリー化するために用いた有機系スラリーと同条件としてもよい。スラリーを塗布した基板は200℃/min程度で昇温した後、1200℃5時間で焼成を行う(図4(g))。セリウム系酸化物ナノ粒子のスラリーを塗布した場合と同様、収縮率は緻密化しているセリウム系酸化物層3と比較して高いため、島状にジルコニア系酸化物層6がセリウム系酸化物層3に堆積する。さらに、スラリー塗布・焼成を2回〜7回程度繰り返し、緻密なジルコニア系酸化物による還元防止層6を形成する(図4(h)〜図4(i))。最後に、形成された緻密な還元防止層5の上に燃料極となる酸化ニッケル−セリウム酸化物混合物、または酸化ニッケル−ジルコニア系酸化物混合物を塗布焼付けする(図4(j))。
次に、図5に示す固体酸化物型燃料電池材料の製造方法について説明する。図5に示す固体酸化物型燃料電池材料の製造方法は、空気極基板1上にセリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2を塗布する前に、遷移金属酸化物TOα(TはFe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素)を塗布する点が図3における固体酸化物型燃料電池材料の製造方法と異なっている。例えば、Co3O4をスラリー化して塗布する。この時、スラリー化するために用いる溶媒は、特に限定されないが、次に形成するセリウム系酸化物薄膜の総モル数の5%以下が望ましい。セリウム系酸化物薄膜の総モル数の5%を超える濃度のスラリーを多孔質体の上にコーティングすると、焼結性がより高い電解質の焼結挙動が支配的になり、コーティングした電解質に割れを生じる虞がある。例えば有機系溶媒を用いてスラリー化する場合、Co3O4を10gに対して、ポリビニルブチラール5g、ジブチルフタレート5ml、魚油1ml、オクチルフェニルエーテル1ml、トルエン300ml、イソプロパノール600mlを混合することで、スラリーを調整できる。遷移金属酸化物TOαスラリー7を塗布(図5(b))した層は緻密化する必要はなく、基板と密着していれば特に焼付けする必要もない。次にスラリー化したセリウム系酸化物ナノ粒子を塗布する(図5(c))。このスラリーは上述したものと同様でよい。塗布・焼成を2回〜7回程度繰り返し、セリウム系酸化物の緻密電解質を得る(図5(d)〜図5(f))。焼成時に空気極基板1とセリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2の間に存在する遷移金属酸化物TOα層7の大部分はセリウム系酸化物へ拡散し、焼結助剤として機能する。この効果は、遷移金属酸化物TOα層7を設けない場合と比べて大きいので、焼成時の温度は、上記と同様に1000℃〜1300℃として3〜20時間行えばよいのは勿論のこと、1150℃〜1250℃、さらには1100℃〜1200℃の低い温度領域で5時間程度の焼成時間としても電解質が十分に緻密化する。最後に、形成された緻密なセリウム系酸化物の上に燃料極となる酸化ニッケル−セリウム系酸化物混合物を塗布焼付けする(図5(g))。
次に、図6に示す固体酸化物型燃料電池材料の製造方法においては、酸化ニッケル−セリウム系酸化物の混合物からなる燃料極を基板とする。酸化ニッケル−セリウム系酸化物の混合物は、Niy−(Ce1−xRxO2−δ)1−yで表され、RはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuであり、0<x≦0.4である。また、yはNiのCe1−zRzO2−δに対する体積割合が30体積%以上、60体積%以下になる値とする。この範囲を超えた値でNiとCe1−zRzO2−δを混合すると、電子導電性が低下するので好ましくない。NiとCe1−zRzO2−δを混合した後、Niy−(Ce1−zRzO2−δ)1−yに対して5〜15質量%比の、粒径のそろった架橋アクリル単分散粒子(例えば、綜研化学ケミスノーMX−150)を試料粉に均一に混合し、20〜100MPaの一軸加圧をかけて、板状に成型する。
成型された試料は、100℃/minで550℃まで、昇温し一定時間保持後、架橋アクリル単分散粒子を燃焼・除去した後、200℃/minで再度昇温し、1300℃10時間焼成して、燃料極基板9を得る(図6(a))。燃料極の場合、原料に金属Niを使用しても、焼成後には酸化され、酸化物NiOとなる。この酸化物NiOは燃料電池作動時に、燃料雰囲気に還元されて、再度金属Niとなり、酸素が抜けた分、自動的に多孔質になる。したがって、造孔効果のある架橋アクリル単分散粒子を添加せずに作製した緻密な基板を用いてもよい。この時は、架橋アクリル単分散粒子を燃焼・除去を目的とした熱処理も不用である。
次に燃料極基板9表面に、Fe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素及び/又は当該元素を含む化合物、例えば、遷移金属酸化物TOα(TはFe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素)を塗布する(図6(b))。例えば、Co3O4をスラリー化して塗布する。この時、スラリー化するために用いる溶媒は、特に限定されないが、次に形成するセリウム系酸化物薄膜の総モル数の5%以下が望ましい。例えば有機系溶媒を用いてスラリー化する場合、Co3O4を10gに対して、ポリビニルブチラール5g、ジブチルフタレート5ml、魚油1ml、オクチルフェニルエーテル1ml、トルエン300ml、イソプロパノール600mlを混合することで、スラリーを調整できる。遷移金属酸化物TOαスラリー7を塗布(図6(b))した層は緻密化する必要はなく、基板と密着していれば特に焼付けする必要もない。次にスラリー化したセリウム系酸化物ナノ粒子を塗布する(図6(c))。このスラリーは上述したものと同様でよい。塗布・焼成を2回〜7回程度繰り返し、セリウム系酸化物の緻密電解質を得る(図6(d)〜図6(f))。焼成時に燃料極基板9とセリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2の間に存在する遷移金属酸化物TOα層7の大部分はセリウム系酸化物へ拡散し、焼結助剤として機能し、例えば1100℃〜1200℃の低い温度領域で5時間程度の焼成時間としても電解質が十分に緻密化する。最後に、形成された緻密なセリウム系酸化物の上に空気極10を塗布焼付けする(図6(g))。焼き付け時には一般に知られている空気極材料を用いて、多孔性が失われない程度の温度で行えばよい。勿論、本発明の空気極材料を用いることも可能である。
ここで、図6では遷移金属酸化物TOαを燃料極上に形成したが、Fe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素を含む化合物、例えば、遷移金属酸化物TOα(TはFe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素)を燃料極基板に含ませて、(Niy−(Ce1−xRxO2−δ)1−y)1−z− (TOα)zとし、0<z≦0.1(x、yは上記と同様)を主成分とした燃料極基板としてもよい。この場合にも、燃料極基板9とセリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2の共焼成時に遷移金属酸化物TOαが燃料極基板9からセリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2に拡散し、セリウム系酸化物ナノ粒子スラリー2の緻密性を高めることができる。
尚、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に示すが、本発明はこれに限定されるものではなく、適宜発明の範囲内で変更できるものである。
<実施例1>
(La0.6Sr0.4)xFe0.5Co0.5O3−δについて、焼成による相対密度変化の不定比x依存性を調査した。x=0.95(試料1)、x=1.00(試料2)、x=1.05(試料3)の3種類の試料を固相反応法により合成した。出発原料をLa2O3、SrCO3、Fe2O3、Co3O4(ナカライテスク製99.9%)として、これら原料を所定の量、秤量した。以下に秤量した重量を示す。
(試料1)La2O3:8.5244g、SrCO3:5.1500g、 Fe2O3:3.6649g、Co3O4:3.6839g
(試料2)La2O3:8.7357g、SrCO3:5.2777g、 Fe2O3:3.5680g、Co3O4:3.5865g
(試料3)La2O3:8.9361g、SrCO3:5.3987g、
Fe2O3:3.4760g、Co3O4:3.4941g
秤量した原料をエタノールを溶媒として混合し、乾燥させた後、空気中で1100℃、10時間仮焼した。仮焼した試料は乳鉢で粉砕した後、空気中1200℃、20時間で2度目の仮焼を行った。次に、試料をエタノールを溶媒として混合し、遊星型ボールミルを用いて2時間粉砕し、乾燥させた後、試料の5質量%比の粒径のそろった架橋アクリル単分散粒子(綜研化学ケミスノーMX−150)を造孔剤として、試料粉に均一に混合し、26MPaの一軸加圧をかけて、板状に成型した。成型した試料は、100℃/minの昇温速度で550℃まで昇温し、5時間保持して架橋アクリル単分散粒子を燃焼・除去した後、200℃/minの昇温速度で再度昇温し、1100℃又は1300℃で10時間焼成して、空気極試料を得た。
(La0.6Sr0.4)xFe0.5Co0.5O3−δについて、焼成による相対密度変化の不定比x依存性を調査した。x=0.95(試料1)、x=1.00(試料2)、x=1.05(試料3)の3種類の試料を固相反応法により合成した。出発原料をLa2O3、SrCO3、Fe2O3、Co3O4(ナカライテスク製99.9%)として、これら原料を所定の量、秤量した。以下に秤量した重量を示す。
(試料1)La2O3:8.5244g、SrCO3:5.1500g、 Fe2O3:3.6649g、Co3O4:3.6839g
(試料2)La2O3:8.7357g、SrCO3:5.2777g、 Fe2O3:3.5680g、Co3O4:3.5865g
(試料3)La2O3:8.9361g、SrCO3:5.3987g、
Fe2O3:3.4760g、Co3O4:3.4941g
秤量した原料をエタノールを溶媒として混合し、乾燥させた後、空気中で1100℃、10時間仮焼した。仮焼した試料は乳鉢で粉砕した後、空気中1200℃、20時間で2度目の仮焼を行った。次に、試料をエタノールを溶媒として混合し、遊星型ボールミルを用いて2時間粉砕し、乾燥させた後、試料の5質量%比の粒径のそろった架橋アクリル単分散粒子(綜研化学ケミスノーMX−150)を造孔剤として、試料粉に均一に混合し、26MPaの一軸加圧をかけて、板状に成型した。成型した試料は、100℃/minの昇温速度で550℃まで昇温し、5時間保持して架橋アクリル単分散粒子を燃焼・除去した後、200℃/minの昇温速度で再度昇温し、1100℃又は1300℃で10時間焼成して、空気極試料を得た。
得られた試料の相対密度は実測した密度と格子定数値から得られた理論密度との比をとって算出した。結果を図7に示す。1100℃で焼結した場合には不定比xに依らず相対密度が60%と一定であった。一方、1300℃で焼結した場合には相対密度が不定比xに依存しており、不定比xが1.05の時に最も相対密度が低かった。しかし、不定比xが0.95の場合でも、定比(x=1.0)と比較して差が無かった事から、固体酸化物型燃料電池の空気極として十分な多孔性が維持できることが確認された。
1300℃で焼結した試料を粉砕して粉末X線回折法(X−ray Diffractometry、マックサイエンス社、MXP18VA HF22より測定した結果を図8に示す。尚、測定時のスキャンスピードは5°/分とした。x=1.00の場合は純粋な単相であったが、不定比x=1.05の場合には不純物相であるK2NiF4相が確認され、不定比x=0.95の場合にも矢印で示される領域(矢印で示す領域を拡大した図を図9に示す)にFe2O3、Co3O4と推定される非常に小さい不純物相の存在が確認された。この傾向は、1200℃焼結時、1250℃焼結時にも同様であることが確認された。したがって、試料の組成比が定比から外れた状態で焼成を行うと、定比に近づく傾向があり、これにより不純物相が析出することが確認された。
<実施例2>
セリウム系酸化物ナノ粒子であるCe0.9Gd0.1O1.95(以下、CGOと略する)をスラリー化し、(La0.6Sr0.4)0.95Fe0.5Co0.5O3−δを1300℃で焼成した多孔質基板に塗布した。スラリーは、セリウム系酸化物ナノ粒子50g、ポリビニルブチラール5g、ジブチルフタレート5ml、魚油1ml、オクチルフェニルエーテル1ml、トルエン300ml、イソプロパノール600mlを混合して調整した。スラリーを塗布した基板を200℃/minの昇温速度で昇温した後、1100℃、1200℃、1300℃で5時間焼成を行った。
セリウム系酸化物ナノ粒子であるCe0.9Gd0.1O1.95(以下、CGOと略する)をスラリー化し、(La0.6Sr0.4)0.95Fe0.5Co0.5O3−δを1300℃で焼成した多孔質基板に塗布した。スラリーは、セリウム系酸化物ナノ粒子50g、ポリビニルブチラール5g、ジブチルフタレート5ml、魚油1ml、オクチルフェニルエーテル1ml、トルエン300ml、イソプロパノール600mlを混合して調整した。スラリーを塗布した基板を200℃/minの昇温速度で昇温した後、1100℃、1200℃、1300℃で5時間焼成を行った。
得られた試料を粉砕して粉末X線回折法(X−ray Diffractometry、メーカー名マックサイエンス社、、製品名MXP18VA HF22)により測定した結果を図10に示す。尚、測定時のスキャンスピードは5°/分とした。1100℃、1200℃、1300℃で焼結しても他の相は現れなかった。したがって、CGOと(La0.6Sr0.4)xFe0.5Co0.5O3−δの間で反応物が形成されないことが確認された。したがって、本発明の固体酸化物型燃料電池材料の製造方法により製造された空気極/電解質界面では、1300℃で焼成しても固体酸化物型燃料電池の性能を低下させることがないことが確認された。
粉末X線回折法により測定した結果のうち、CGOの(111)結晶面のピークを拡大したものを図11に示す。焼成温度の上昇と供にピークが低角度側にシフトすることが確認された。次に、焼成温度に対するCGOの格子定数変化を示した結果を図12に示す。CGOの格子定数は焼成温度と共に大きくなっていることが確認された。これらの結果から、(La0.6Sr0.4)xFe0.5Co0.5O3−δ中に存在するいずれのカチオンも、Ce4+より低原子価であるため、その成分がCGO内に拡散して格子の膨張を引き起こし、高温になるにしたがってその傾向が顕著であることが判った。即ち、焼成により、FeやCoが電解質側に拡散することが判明し、FeやCoを添加することによりその焼結性が促進されることが報告されているセリウム系酸化物ナノ粒子の焼結性を基板中に含まれるFeやCo等を電解質側へ拡散させることで、高めることができることが判った。
1 空気極基板
2 セリウム系酸化物ナノ粒子スラリー
3 セリウム系酸化物層
7 遷移金属酸化物
9 燃料極基板
2 セリウム系酸化物ナノ粒子スラリー
3 セリウム系酸化物層
7 遷移金属酸化物
9 燃料極基板
Claims (5)
- 組成式(Ln1−aAEa)1−dFe1−b−cCobMcO3−δ(但し、LnはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる希土類元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、AEはCa、Sr及びBaからなるアルカリ土類金属元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、MはMg、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Cu及びNiからなるアルカリ土類金属元素及び遷移金属元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、0<a≦0.5、0≦b≦1.0、0≦c≦0.1、0<d≦0.1、0≦b+c≦1.0である)で表されるBサイト過剰ペロブスカイト酸化物を主成分とした空気極基板の片側表面にセリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料として湿式法によりコーティングする工程と、前記空気極基板と前記電解質材料とを共焼成する工程とを含むことを特徴とする固体酸化物型燃料電池材料の製造方法。
- Fe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素及び/又は当該元素を含む化合物を含ませた空気極基板あるいは燃料極基板の片側表面にセリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料として湿式法によりコーティングする工程と、前記空気極基板あるいは前記燃料極基板と前記電解質材料とを共焼成する工程とを含むことを特徴とする固体酸化物型燃料電池材料の製造方法。
- 空気極基板あるいは燃料極基板の片側表面に、Fe、Co及びCuからなる遷移金属の群より選ばれた1種または2種以上の元素を含む化合物を湿式法によりコーティングする工程と、前記化合物上にセリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料として湿式法によりコーティングする工程と、前記空気極基板あるいは前記燃料極基板と前記電解質材料とを共焼成する工程とを含むことを特徴とする固体酸化物型燃料電池材料の製造方法。
- 前記空気極基板は、組成式(Ln1−aAEa)1−dFe1−b−cCobMcO3−δ(但し、LnはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる希土類元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、AEはCa、Sr及びBaからなるアルカリ土類金属元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、MはMg、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Cu及びNiからなるアルカリ土類金属元素及び遷移金属元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、0<a≦0.5、0≦b≦1.0、0≦c≦0.1、0<d≦0.1、0≦b+c≦1.0である)で表されるBサイト過剰ペロブスカイト酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項2または3に記載の固体酸化物型燃料電池材料の製造方法。
- 前記燃料極基板は、組成式Niy−(Ce1−xRxO2−δ)1−y(但し、RはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる希土類元素の群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、0<x≦0.4、yはNiのCe1−zRzO2−δに対する体積割合が30〜60体積%となる値である。)で表される材料を主成分とすることを特徴とする請求項2または3に記載の固体酸化物型燃料電池材料の製造方法。
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