WO2013114942A1 - 白色フッ化物溶射皮膜の黒色化方法および表面に黒色層を有するフッ化物溶射皮膜被覆部材 - Google Patents
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Abstract
Description
(1)前記基材と白色フッ化物溶射皮膜との間に、Al、Al-Ni、Al-Zn、Ni-CrおよびNi-Cr-Alから選ばれるいずれか1以上の金属・合金のアンダーコートを、50~150μmの膜厚で形成すること、
(2)前記黒色のイオン注入層は、減圧下の前記注入ガス雰囲気中において、表面に白色フッ化物溶射皮膜を有する基材に高周波電力を印加し、その白色フッ化物溶射皮膜を負に帯電させると共に、該溶射皮膜表面に正の電荷を有する前記注入ガスのイオンを、イオン濃度が、1×1010~1×1020/cm2の範囲になるように注入することにより、該溶射皮膜表面を黒色に変化させて形成すること、
(3)前記黒色のイオン注入層は、白色フッ化物溶射皮膜の表面から10μm未満の深さまでの厚さを有すること、
(4)前記黒色のイオン注入層は、白色フッ化物溶射皮膜表面の、前記注入ガスのイオン注入部分のみを黒色に変化させて形成すること、
(5)前記黒色のイオン注入層は、白色フッ化物溶射皮膜表面に文字、数字、図形または模様を表示した層であること、
(6)前記白色フッ化物溶射皮膜は、粒径5~80μmの白色のフッ化物溶射用粉末を溶射して形成された膜厚が20~500μmの皮膜であること、
(7)前記白色フッ化物溶射皮膜は、元素の周期律表IIIa族、IIIb族および原子番号57~71のランタノイド系金属元素から選ばれる1種以上の金属のフッ化物であること、
(8)前記F含有ガスは、Fガスまたは、FガスとN2、Ar,HeおよびNeから選ばれる1種以上の不活性ガスとの混合ガスのいずれかであること。
(1)白色のフッ化物溶射皮膜表面の外観色を、該溶射皮膜表面への注入ガスのイオンを注入することによって、その表面の一部のみ、もしくは全部を黒色に変化させることができる。
(2)白色フッ化物溶射皮膜を黒色化させることによって、該溶射皮膜に対して熱放射特性を付与したり受熱作用を増加させることができる。
(3)白色フッ化物溶射皮膜を黒色化させることによって、半導体加工装置内で発生する微細なパーティクルの皮膜表面への付着、およびその量の多寡を目視により判断できるようになる。これにより、装置の洗浄時期を的確に判断することができ、半導体加工製品の生産性の向上に資することができる。
(4)本発明に従って表面を黒色化してなるフッ化物溶射皮膜は、フッ化物本来の耐食性や耐プラズマエロージョン性を備えるだけでなく、白色フッ化物溶射皮膜と同等の特性を有するので、従来どおりのフッ化物溶射皮膜として使用することができる。
(5)白色フッ化物溶射皮膜の全表面が黒色に変化したイオン注入層を有する被覆部材では、該イオン注入層が、表面から僅か10μm未満の深さに限定されているため、実際の半導体加工装置内で使用すると、ハロゲンガスによる腐食作用やプラズマエロージョンなどの物理的作用によって発生する不均等な皮膜の消耗状態(早期消耗部は黒色から白色へ変化する)が可視化できる利点がある。これによって、消耗の不均等性を是正するための部材形状の設計変更や皮膜厚さの増減などの対策が容易となる。
(6)フッ化物溶射皮膜表面の黒色のイオン注入層が、腐食やエロージョン作用によって消耗し、白色部が露出しても、熱放射特性以外のフッ化物本来の物理化学的性能を発揮することができる。
(7)基材表面に予め、図形や文字、数字、社名、商標、製品番号、その他の識別記号などを切り抜いた高分子テープなどを貼布し、その上から注入ガスのイオンを注入すると、文字や数字のみを黒色に変化させることができるので、これを利用して、部材に各種の識別記号を表示して製品や工業的デザイン特性を向上させることができる。
(1)基材の選定
本発明に適用する基材は、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、ステンレス鋼を含む各種の合金鋼や炭素鋼、Niおよびその合金鋼などが好適である。その他、酸化物、窒化物、炭化物、珪化物などの焼結体や炭素材料を用いることができる。
前記基材表面は、JIS H9302に規定されているセラミックス溶射作業標準に準拠して処理することが好ましい。例えば、該基材表面の錆や油脂類などを除去した後、A12O3、SiCなどの研削粒子を吹き付けて粗面化し、フッ化物溶射粒子が付着しやすい状態に前処理する。粗面化後の粗さは、Ra:0.05~0.74μm、Rz:0.09~2.0μm程度にすることが好ましい。
前処理(ブラスト粗面化処理)後の基材および金属のアンダーコートを形成してなる基材は、好ましくはフッ化物の溶射処理に先駆けて予熱を行なう。この予熱の温度は、基材質によって管理するのがよく、下記の温度とすることが好ましい。この予熱は、大気中、真空中、不活性ガス中のいずれにおいても適用できるが、基材質が予熱によって酸化され、表面に酸化膜が生成するような雰囲気は避ける必要がある。
b.鋼鉄(低合金鋼):80℃~250℃
c.各種ステンレス鋼:80℃~250℃
d.酸化物・炭化物などの焼結体:120℃~500℃
e.焼結炭素:200℃~700℃
a.フッ化物溶射材料
本発明において用いることのできるトップコート用のフッ化物溶射材料粉末は、元素の周期律表IIIa族、IIIb族および原子番号57~71の属するランタノイド系金属から選ばれるいずれか1種以上の金属のフッ化物である。原子番号57~71の金属元素とは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジズプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の15種である。これらの金属フッ化物は、半導体が加工される環境中で使用される各種のハロゲンガス、ハロゲン化合物、酸、アルカリなどの腐食作用に対して、強い抵抗力を有するため、加工装置部材の腐食損耗を防ぎ、腐食生成物の発生に伴う、環境汚染を低下させるとともに半導体加工製品の品質の向上などの効果を発揮するため好適に用いることができる。
基材の表面に、直接また予めアンダーコートを形成した後、その上にトップコートとしてのフッ化物溶射皮膜を形成する。フッ化物溶射皮膜の形成方法としては、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、低温溶射法などが好適に用いられる。
図2は、イオン注入装置の一例を示す。この装置は、前記白色フッ化物溶射皮膜の表面に、F含有ガス、即ち、Fガスまたは、FガスとN2、Ar、He、Neから選ばれる1種以上の不活性ガスとの混合ガス、酸素ガスまたは不活性ガスからなる注入ガスを接触させ、このとき該溶射皮膜表面で発生するガスイオンを、その溶射皮膜内に注入し、白色のフッ化物溶射皮膜の表面層を黒色化するために用いられる装置である。なお、本発明において”黒色”とはマンセル値でN-1~N-7程度のものを指す。
まず、被処理部材22を反応容器21内の所定位置に設置し、該反応容器21内の空気を、真空装置を稼動させて脱気し、その後、この反応容器21内にガス導入装置によってFガスもしくはF含有不活性ガスを導入する。
(a)注入ガスの種類
(i)Fイオン注入用:F2、HF、CHF3、CF4など
(ii)含F・不活性ガスイオン注入用:NF3、(i)+N2、(i)+Ar、(i)+He、(i)+Ne、NF3+Ar、NF3+He
上記(ii)の含F・不活性ガスイオン注入用F/不活性ガスの比率は、容量比で20~80/80~20の割合が好適である。
なお、(i)Fイオンを注入したフッ化物溶射皮膜の外観色は灰黒色~黒色、(ii)の不活性ガスイオンを注入した溶射皮膜の外観色は黒色となるが、両皮膜(i)、(ii)ともF成分の増加によって、フッ化物の化学的特性、特に耐食性が向上する。
(b)ガス圧力:真空引き後の反応容器内に流入したガス圧力:0.5~1.0Pa
(c)ガス流量:80~100ml/min
(d)高圧パルス印加電圧:10~40kV
(e)注入時間:0.5~5時間
<酸素ガスイオン>
(a)注入ガスの種類:O2
(b)ガス圧力:真空引き後の反応容器内に流入したガス圧力:0.5~1.0Pa
(c)ガス流量:80~100ml/min
(d)高圧パルス印加電圧:10~40kV
(e)注入時間:0.5~5時間
<不活性ガスイオン>
(a)注入ガスの種類:N2、Ar、He、Ne
(b)ガス圧力:真空引き後の反応容器内に流入したガス圧力:0.5~1.0Pa
(c)ガス流量:80~100ml/min
(d)高圧パルス印加電圧:10~40kV
(e)注入時間:0.5~5時間
イオン注入によるフッ化物溶射皮膜表面の外観色の変化は、注入イオン種の種類及びイオン注入量によって変化するので、外観色では規制しない。本発明の条件内におけるイオン注入量では、マンセル値でN-1~N-7程度の範囲で外観色が変化する。以下、外観色の変化の一例について紹介する。
図3は、各種イオンの注入前後におけるYF3溶射皮膜の外観色の変化を示したものである。
図3(a)は、成膜直後のYF3溶射皮膜の外観を示したもので、白色(乳白色:マンセル値-N8.5程度)である。
図3(b)はYF3溶射皮膜の表面に、Fガスイオンのみを注入した場合の皮膜外観を示したものである。(黒色:マンセル値-N5.5程度)
図3(c)は、同上の溶射皮膜の表面に、NF3ガスを用いて(F+N)イオンを注入した場合の皮膜外観を示したものである。(黒色:マンセル値-N5程度)
図3(d)は、同上の溶射皮膜の表面に、NF3+Arの混合ガスを用いて(F+N+Ar)イオンを注入した場合の皮膜外観を示したものである。(黒色:マンセル値-N4.5程度)
図3(e)は、同上の溶射皮膜の表面に、F+Heの混合ガスを用いて(F+Ne)イオンを注入した場合の皮膜外観を示したものである。(黒色:マンセル値-N5.25程度)
図3(f)は、同上の溶射皮膜の表面に、酸素イオンを注入した場合の皮膜外観を示したものである。(黒色:マンセル値-N4.75程度)
図3(g)は、同上の溶射皮膜の表面に、Nイオンを注入した場合の皮膜外観を示したものである。(黒色:マンセル値-N5.5程度)
図3(h)は、同上の溶射皮膜の表面に、Arイオンを注入した場合の皮膜外観を示したものである。(黒色:マンセル値-N6.75程度)
図3(i)は、同上の溶射皮膜の表面に、Heイオンを注入した場合の皮膜外観を示したものである。(黒色:マンセル値-N5.25程度)
この実施例では、白色のフッ化物溶射皮膜の表面に、本発明に従ってFガスおよびF含有不活性ガスのイオン注入を行い、黒色化した溶射皮膜について、耐プラズマエロージョン性を、従来技術(ガスイオンを注入していない)の大気プラズマ溶射皮膜(比較例)と比較検討を行なった。
(1)供試皮膜
Al基材(寸法:幅20mm×長さ30mm×厚さ3mm)の表面に、YF3、DyF3およびCeF3の各フッ化物溶射皮膜を、大気プラズマ溶射法によって、膜厚100μmに形成し、その後、そのフッ化物溶射皮膜表面にそれぞれF、F-N、F-Ar、F-Heのガス雰囲気下でイオン注入処理を2時間実施し、イオン注入面を黒色に変化させた。なお、比較例としてイオン注入処理をしないYF3、DyF3およびCeF3の大気プラズマ溶射皮膜を準備し、同条件で試験に供した。
(2)雰囲気ガスと流量条件
含Fガス雰囲気:CHF3/O2/Ar=80/100/160(1分間当りの流量cm3)
含CHガス雰囲気:C2H2/Ar=80/100(1分間当りの流量cm3)
(3)プラズマ照射出力
高周波電力:1300W
圧力:4Pa
温度:60℃
(4)プラズマエッチング試験の雰囲気
a.含Fガス雰囲気中での実施
b.含CHガス雰囲気中での実施
c.含Fガス雰囲気1h⇔含CHガス雰囲気1hを交互に繰返す雰囲気中で実施
エッチング処理によって供試皮膜から飛散する皮膜成分のパーティクル数を計測することによって、耐プラズマエロージョン性と耐環境汚染性を調査した。なお、パーティクル数は、試験容器内に配置した直径8インチのシリコンウエハーの表面に付着する粒径0.2μm以上の粒子数が30個に達するまでに要する時間を測定することによって評価した。
試験結果を表1に示した。この表1に示す結果から明らかなように、比較例のフッ化物溶射皮膜(No.5、10、15)は、含Fガス雰囲気中におけるパーティクル発生量が多く、一方、含CHガス雰囲気中ではパーティクル発生量が少なくなっており、前者のガス雰囲気中におけるプラズマエロージョン作用が激しいことが窺える。さらに、含Fガス雰囲気と含CHガス雰囲気とを交互に繰返した雰囲気下では、パーティクル発生量が一段と多くなっている。この原因は、含Fガス雰囲気中におけるフッ化ガスの酸化作用と、CHガスの還元作用の繰返しによって、フッ化物溶射皮膜表面が不安定な状態となり、プラズマによって皮膜が削られ易くなっているためと推定される。
この実施例では、本発明に適合する方法で、F含有ガスのイオン注入処理を行ったフッ化物溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性を、従来のY2O3およびA12O3溶射皮膜と比較した。
(1)供試皮膜
基材としては、JIS H4000規定のA3003〔寸法:幅30mm×縦50mm×厚さ5mm〕を用い、その表面に大気プラズマ溶射法によって、Ni-20mass%Crのアンダーコートを形成し、その上に大気プラズマ溶射法によってYF3を120μm、および減圧プラズマ溶射法によってEuF3を120μmの厚さに成膜し、さらに、該フッ化物溶射皮膜の表面に実施例1と同じ要領で、各種のF含有ガスイオンを注入した。
また、比較例としては、イオン注入処理をしないフッ化物溶射皮膜(YF3、EuF3)および、従来、耐プラズマエロージョン性皮膜として使用されているY2O3およびA12O3溶射皮膜を供試した。
耐プラズマエロージョン試験は、実施例1と同じ含Fガス雰囲気中において、実施例1と同条件で実施した。評価は試験前後における供試皮膜の厚さを表面粗さ計によって測定することによって行なった。
試験結果を表2に要約した。この表に示す結果から明らかなように、イオン注入処理を行っていない比較例のフッ化物溶射皮膜(No.5、11)においても、酸化物溶射皮膜(No.6、12)と比較するとエロージョン損失量は少なく、優れた耐プラズマエロージョン性を有していることが認められる。一方、FガスおよびF含有不活性ガスのイオンを注入した本発明の実施例である供試皮膜(No.1~4、7~10)では、さらに一段と高い耐プラズマエロージョン性を示し、F含有ガスのイオン注入による耐エロージョン性の向上が確認された。
この実施例では、本発明に適合する方法で、F含有ガスのイオン注入処理を施したフッ化物溶射皮膜のハロゲン系酸の蒸気に対する腐食性を調査した。
(1)供試皮膜
基材としては、SUS304鋼〔寸法:横30mm×縦50mm×厚さ3.2mm〕を用いて、その表面に直接、大気プラズマ溶射法によって、YF3フッ化物皮膜を250μmの厚さに形成した後、Fおよび(F-N)、(F-Ar)、(F-He)ガスなどの雰囲気中でそれぞれイオン注入処理を施したものを準備した。また比較例のフッ化物溶射皮膜としては、大気プラズマ溶射皮膜(YF3、Y2O3)を250μmの厚さに形成したものを同条件で供試した。
(a)HCl蒸気による腐食試験は、化学実験用のデシケーターの底部に30%HCl水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊し、これをHCl水溶液から発生するHCl蒸気に曝露させる方法を採用した。腐食試験温度は30℃~50℃、時間は96hrである。
(b)HF蒸気による腐食試験は、SUS316L製のオートクレーブの底部にHF水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊し、これをHF水溶液から発生するHFに曝露させる方法により実施した。腐食試験温度は30℃~50℃、時間は96hrである。
試験結果を表3に要約した。この表3に示す結果から明らかなように、比較例のYF3皮膜(No.5)では試験前の白色から灰色へ変化する傾向が見られた。また、Y2O3皮膜(No.6)も試験前の白色から薄い褐色系の変色を呈しており、酸蒸気によって化学変化が生じたものと推定される。これらの変色原因は、供試皮膜の貫通気孔を通じて侵入したハロゲン系酸蒸気によって基材が腐食したことによるものと考えられるが、その詳細は明らかでない。
これに対し、Fガスイオンのみを注入したYF3(No.1)では、外観色の変化は殆んど認められず、Fと不活性ガス(N、Ar、He)のイオンを同時に注入したYF3溶射皮膜(No.2~4)では、外観色そのものが供試前から黒色に変化しているため、この種のハロゲン系酸蒸気による腐食作用の変化に鈍感である。しかし、Fガスイオンのみを注入した供試皮膜(No.1)の結果から見て、Fと不活性ガスのイオンを同時に注入したYF3皮膜(No.2~4)もまた、優れた耐食性を発揮していることが予想される。
この実施例では、本発明に適合する方法で、酸素ガスイオンのイオン注入によって黒色化したフッ化物溶射皮膜について、耐プラズマエロージョン性を、酸素ガスイオンを注入していない大気プラズマ溶射皮膜(比較例)と比較して検討を行なった。
(1)供試皮膜
Al基材(寸法:幅20mm×長さ30mm×厚さ3mm)の表面にYF3、DyF3およびCeF3のフッ化物溶射皮膜を大気プラズマ溶射法によって膜厚100μmに形成した後、その皮膜表面にそれぞれ、酸素ガスイオンを1、3、5時間注入して注入面を黒色変化させた。なお、比較例としては、酸素ガスイオンを注入しないYF3、DyF3およびCeF3の大気プラズマ溶射皮膜を準備し、同条件で試験した。
(2)雰囲気ガスと流量条件
含Fガス雰囲気:CHF3/O2/Ar=80/100/160(1分間当りの流量cm3)
含CHガス雰囲気:C2H2/Ar=80/100(1分間当りの流量cm3)
(3)プラズマ照射出力
高周波電力:1300W
圧力:4Pa
温度:60℃
(4)プラズマエッチング試験の雰囲気
a.含Fガス雰囲気中での実施
b.含CHガス雰囲気中での実施
c.含Fガス雰囲気1h⇔含CHガス雰囲気1hを交互に繰返す雰囲気中で実施
エッチング処理によって供試皮膜から飛散する皮膜成分のパーティクル数を計測することによって、耐プラズマエロージョン性と耐環境汚染性を調査した。なお、パーティクル数は、試験容器内に配置した直径8インチのシリコンウエハーの表面に付着する粒径0.2μm以上の粒子数が30個に達するまでに要する時間を測定することによって評価した。
試験結果を表4に示した。この表4に示す結果から明らかなように、比較例のフッ化物溶射皮膜(No.4、8、12)では、含Fガス雰囲気中におけるパーティクル発生量が許容値を超えるまでの時間が短いため、パーティクルの発生量が多いことがわかる。また、含CHガス雰囲気中ではパーティクル発生量が少なくなっており、前者のガス雰囲気中におけるプラズマエロージョン作用が激しいことが窺える。さらに、含Fガス雰囲気と含CHガス雰囲気とを交互に繰返す雰囲気下におけるパーティクル発生量は、一段と多くなっている。この原因は、含Fガス雰囲気中におけるフッ化ガスの酸化作用と、CHガス雰囲気下による還元作用との繰返しによって、フッ化物溶射皮膜の表面が不安定な状態となり、プラズマによって皮膜が削られ易くなっているためと推定される。
この実施例では、本発明に適合する方法で、酸素ガスイオンのイオン注入処理をしたフッ化物溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性を、従来のY2O3およびA12O3溶射皮膜と比較したものである。
(1)供試皮膜
基材としては、JIS H4000規定のA3003〔寸法:幅30mm×縦50mm×厚さ5mm〕を用い、その表面に大気プラズマ溶射法によって、Ni-20mass%Crのアンダーコートを形成した後、その上に大気プラズマ溶射法によってYF3を120μm、および減圧プラズマ溶射法によってEuF3を120μmの厚さにそれぞれ形成し、さらに、該フッ化物溶射皮膜の表面に実施例4と同じ要領で、酸素ガスイオンを1~5時間注入した。
また、比較例としては、酸素ガスイオンを注入しないフッ化物溶射皮膜(YF3、EuF3)および従来、耐プラズマエロージョン性皮膜として使用されているY2O3およびA12O3溶射皮膜を供試した。
耐プラズマエロージョン試験は、実施例4と同じ含Fガス雰囲気中において、実施例4と同じ条件で実施したが、評価は試験前後における供試皮膜の厚さを、表面粗さ計によって測定することにより行なった。
試験結果を表5に要約した。この表5に示す結果から明らかなように、比較例のイオン注入処理を行っていないフッ化物溶射皮膜(No.4、9)においては、酸化物溶射皮膜(No.5、10)と比較するとエロージョン損失量が少なく、優れた耐プラズマエロージョン性を有していることが認められる。一方で、酸素ガスイオンをイオン注入した本発明に適合する黒色のフッ化物溶射皮膜(No.1、2、3、6、7、8)では、イオン注入処理を行っていないフッ化物溶射皮膜(No.4、9)と同等の耐プラズマエロージョン性を発揮しており、酸素ガスイオンの注入によって黒色に変化した溶射皮膜も、白色のフッ化物溶射皮膜と同等の耐食性を有することが確認された。
この実施例では、本発明に適合する方法で黒色化したフッ化物溶射皮膜のハロゲン系酸の蒸気に対する耐食性を調査した。
(1)供試皮膜
基材としては、SS400鋼〔寸法:横30×縦50mm×厚さ3.2mm〕を用い、その表面に大気プラズマ溶射法によってYF3溶射皮膜を250μm厚さに形成したのち、酸素ガスイオンを注入して、外観色を白色から黒色へ変化させた溶射皮膜を準備した。また、比較例の溶射皮膜としては、大気プラズマ溶射法によってY2O3皮膜を250μmの厚さに形成したものを用いて、同じ条件の試験に供した。
(a)HCl蒸気による腐食試験は、化学実験用のデシケーターの底部に30%HCl水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊し、これをHCl水溶液から発生するHCl蒸気に曝露させる方法を採用した。腐食試験温度は30℃~50℃、時間は96hrである。
(b)HF蒸気による腐食試験は、SUS316L製のオートクレーブの底部にHF水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊し、これをHF水溶液から発生するHF蒸気に曝露させることにより実施した。腐食試験温度は30℃~50℃、時間は96hrである。
試験結果を表6に示した。この表6に示す結果から明らかなように、比較例のY2O3溶射皮膜(No.5)の表面には多量の赤さびの発生が認められた。この赤さびは、HCl、HFなどの蒸気が、Y2O3溶射皮膜中にある貫通気孔を通って皮膜の内部へ侵入し、基材のSS400鋼を腐食することによって発生したものと考えられる。一方、YF3溶射皮膜(No.1~4)においても、僅かながら赤さびの発生が認められたが、その度合いは小さく、フッ化物溶射皮膜の貫通気孔は、Y2O3溶射皮膜に比較して少ないと推定される。また、腐食試験後の皮膜の外観状況を見ると、比較例のYF3溶射皮膜(No.4)は、白色を呈しているため、赤さびの発生がより鮮明に認められるのに対し、黒色YF3溶射皮膜(No.1~3)では赤さびの存在が確認でき難い状況にあった。
この実施例では、不活性ガスイオンのイオン注入によって表面を黒色化させたフッ化物溶射皮膜について、それの耐プラズマエロージョン性を、不活性ガスイオンを注入していない大気プラズマ溶射皮膜(比較例)と比較して検討を行なった。
(1)供試皮膜
Al基材(寸法:幅20mm×長さ30mm×厚さ3mm)の表面にYF3、DyF3およびCeF3のフッ化物溶射皮膜を大気プラズマ溶射法によって膜厚100μmに形成した後、その皮膜表面にそれぞれN2、Ar、Heの不活性ガスのイオンを1時間注入して注入面を黒色変化させた。なお、比較例としては、不活性ガスイオンを注入しないYF3、DyF3およびCeF3大気プラズマ溶射皮膜を準備し、同条件で試験に供した。
(2)雰囲気ガスと流量条件
含Fガス雰囲気:CHF3/O2/Ar=80/100/160(1分間当りの流量cm3)
含CHガス雰囲気:C2H2/Ar=80/100(1分間当りの流量cm3)
(3)プラズマ照射出力:
高周波電力:1300W
圧力:4Pa
温度:60℃
(4)プラズマエッチング試験の雰囲気
a.含Fガス雰囲気中での実施
b.含CHガス雰囲気中での実施
c.含Fガス雰囲気1h⇔含CHガス雰囲気1hを交互に繰返す雰囲気中で実施
エッチング処理によって供試皮膜から飛散する皮膜成分のパーティクル数を計測することによって、耐プラズマエロージョン性と耐環境汚染性を調査した。なお、パーティクル数は、試験容器内に配置した直径8インチのシリコンクエハーの表面に付着する粒径0.2μm以上の粒子数が30個に達するまでに要する時間を測定することによって評価した。
試験結果を表7に示した。この結果から明らかなように、比較例のフッ化物溶射皮膜(No.4、8、12)は、含Fガス雰囲気中におけるパーティクルの発生量が多く、含CH雰囲気ガス中ではパーティクル発生量が少なくなっており、前者のガス雰囲気中におけるプラズマエロージョン作用が激しいことが窺える。さらに、含Fガスと含CHガスを交互に繰返す雰囲気下におけるパーティクル発生量は一段と多くなっている。この原因は、含Fガス雰囲気中におけるフッ化ガスの酸化作用と、CHガス雰囲気の還元作用との繰返しによって、フッ化物溶射皮膜の表面が不安定な状態となり、プラズマによって皮膜が削られ易くなっているためと推定される。
この実施例では、本発明に適合する方法でイオン注入処理したフッ化物溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性を、従来のY2O3およびA12O3溶射皮膜と比較した。
(1)供試皮膜
基材としては、JIS H4000規定のA3003〔寸法:幅30mm×縦50mm×厚さ5mm〕を用い、その表面に大気プラズマ溶射法によって、Ni-20mass%Crのアンダーコートを形成し、その上に大気プラズマ溶射法によってYF3を120μm、及び減圧プラズマ溶射法によってEuF3を120μmの厚さに形成し、さらに、フッ化物溶射皮膜の表面に実施例7と同じ要領で、不活性ガスイオンを注入した。
また、比較例としては、不活性ガスイオンを注入しないフッ化物溶射皮膜及び従来、耐プラズマエロージョン性皮膜として使用されているY2O3およびA12O3溶射皮膜を供試した。
耐プラズマエロージョン試験は、実施例7の含Fガス雰囲気中において、実施例7と同条件で実施したが、評価は試験前後における供試皮膜の厚さを、表面粗さ計によって測定することによって行なった。
試験結果を表8に要約した。この結果から明らかなように、比較例のイオン注入処理を行っていないフッ化物溶射皮膜(No.4、9)であっても、酸化物溶射皮膜(No.5、10)に比較するとプラズマエロージョン損失量が少なく、優れた耐プラズマエロージョン性を有していることが認められる。また、不活性ガスイオンを注入した本発明に係る黒色のフッ化物溶射皮膜(No.1、2、3、6、7、8)では、比較例のフッ化物溶射皮膜と同等の耐プラズマエロージョン性を発揮しており、不活性ガスイオンのイオン注入によって黒色に変化した溶射皮膜であっても、白色のフッ化物溶射皮膜と遜色のない耐食性を有することが確認された。
この実施例では、本発明に適合する方法によって黒色化させたフッ化物溶射皮膜の、ハロゲン系酸の蒸気に対する耐食性を調査した。
(1)供試皮膜
基材としては、SS400鋼〔寸法:横30×縦50mm×厚さ3.2mm〕を用い、その表面に大気プラズマ溶射法によってYF3溶射皮膜を250μm厚さに形成したのち、N、Ar、HeまたはNeからなる不活性ガスイオンを注入し、これによって外観色を白色から黒色へ変化させた溶射皮膜を準備した。また、比較例の溶射皮膜としては、不活性ガスイオンの注入処理を行っていない、YF3溶射皮膜と大気プラズマ溶射法によって形成したY2O3皮膜を、それぞれ250μmの厚さに形成したものを同じ条件の試験に供した。
(a)HCl蒸気による腐食試験は、化学実験用のデシケーターの底部に30%HCl水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊し、これをHCl水溶液から発生するHCl蒸気に曝露させる方法により行った。腐食試験温度は30℃~50℃、時間は96hrである。
(b)HF蒸気による腐食試験は、SUS316L製のオートクレーブの底部にHF水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊し、これをHF水溶液から発生するHF蒸気に曝露させることによって行った。腐食試験温度は30℃~50℃、時間は96hrである。
試験結果を表9に示した。この結果から明らかなように、比較例のY2O3溶射皮膜(No.6)では、表面に多量の赤さびの発生が認められた。この赤さびは、HCl、HFなどの蒸気がY2O3皮膜中にある貫通気孔を通って、皮膜内部へ侵入し、基材のSS400鋼を腐食することによって発生したものと考えられる。一方、YF3溶射皮膜(No.1~5)においては、僅かながら赤さびの発生が認められるものの、その度合いが小さく、YF3溶射皮膜の貫通気孔は、Y2O3溶射皮膜に比較して少ないことが推定される。また、腐食試験後の皮膜の外観状況を見ると、比較例のYF3溶射皮膜(No.5)では白色を呈しているため、赤さびの発生がより鮮明に認められるのに対し、黒色のYF3溶射皮膜(No.1~4)では、赤さびの存在が確認でき難い状況にあった。
Claims (10)
- 基材の表面に形成された白色のフッ化物溶射皮膜に対し、F含有ガス、酸素ガスおよび不活性ガスから選ばれるいずれか1以上の注入ガスのイオンを注入することにより、該白色フッ化物溶射皮膜表面の少なくとも一部を黒色に変化させて黒色のイオン注入層を形成することを特徴とする白色フッ化物溶射皮膜の黒色化方法。
- 前記基材と白色フッ化物溶射皮膜との間に、Al、Al-Ni、Al-Zn、Ni-CrおよびNi-Cr-Alから選ばれるいずれか1以上の金属・合金のアンダーコートを、50~150μmの膜厚で形成することを特徴とする請求項1に記載の白色フッ化物溶射皮膜の黒色化方法。
- 前記黒色のイオン注入層は、減圧下の前記注入ガス雰囲気中において、表面に白色フッ化物溶射皮膜を有する基材に高周波電力を印加し、その白色フッ化物溶射皮膜を負に帯電させると共に、該溶射皮膜表面に正の電荷を有する前記注入ガスのイオンを、イオン濃度が、1×1010~1×1020/cm2の範囲になるように注入することにより、該溶射皮膜表面を黒色に変化させて形成することを特徴とする請求項1または2に記載の白色フッ化物溶射皮膜の黒色化方法。
- 前記黒色のイオン注入層は、白色フッ化物溶射皮膜の表面から10μm未満の深さまでの厚さを有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の白色フッ化物溶射皮膜の黒色化方法。
- 前記黒色のイオン注入層は、白色フッ化物溶射皮膜表面の、前記注入ガスのイオン注入部分のみを黒色に変化させて形成することを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載の白色フッ化物溶射皮膜の黒色化方法。
- 前記黒色のイオン注入層は、白色フッ化物溶射皮膜表面に文字、数字、図形または模様を表示した層であることを特徴とする請求項5に記載の白色フッ化物溶射皮膜の黒色化方法。
- 前記白色フッ化物溶射皮膜は、粒径5~80μmの白色のフッ化物溶射用粉末を溶射して形成された膜厚が20~500μmの皮膜であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1に記載の白色フッ化物溶射皮膜の黒色化方法。
- 前記白色フッ化物溶射皮膜は、元素の周期律表IIIa族、IIIb族および原子番号57~71のランタノイド系金属元素から選ばれる1種以上の金属のフッ化物であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1に記載の白色フッ化物溶射皮膜の黒色化方法。
- 前記F含有ガスは、Fガスまたは、FガスとN2、Ar,HeおよびNeから選ばれる1種以上の不活性ガスとの混合ガスのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の白色フッ化物溶射皮膜の黒色化方法。
- 基材と、その基材表面に形成した、元素の周期律表IIIa族、IIIb族および原子番号57~71のランタノイド系金属元素のいずれか1以上のフッ化物溶射用材料を溶射して形成された白色フッ化物溶射皮膜とからなる部材であって、該白色フッ化物溶射皮膜の表面の少なくとも一部が、前記請求項1~9のいずれか1項に記載の黒色化方法によって、黒色に変化した黒色のイオン注入層によって構成されていることを特徴とする表面に黒色層を有するフッ化物溶射皮膜被覆部材。
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