JP5167491B2 - 耐食性と耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜被覆部材および高エネルギー照射処理する溶射皮膜のひび割れ防止方法 - Google Patents

耐食性と耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜被覆部材および高エネルギー照射処理する溶射皮膜のひび割れ防止方法 Download PDF

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Description

本発明は、耐食性と耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜被覆部材および高エネルギー照射処理する溶射皮膜のひび割れ防止方法に関し、とくにハロゲンやハロゲン化合物が存在する環境下でプラズマ処理したり、プラズマ処理によって発生する微細なパーティクルを洗浄除去することが必要になる半導体加工装置の分野で使用して有効な表面処理技術についての提案である。
半導体加工プロセスあるいは液晶製造プロセスにおいて使用されるドライエッチャーやCVD、PVDなどの加工装置類は、シリコンやガラスなどの基板回路の高集積化に伴う微細加工やその精度向上の必要性から、加工環境について一段と高い清浄性が求められている。
その一方で、微細加工用の各種プロセスにおいては、弗化物、塩化物をはじめとする腐食性の強い有害ガスあるいは水溶液が用いられるため、これらのプロセスで使用される部材類は、腐食損耗の速度が速く、そのため、腐食生成物による二次的な環境汚染も無視できない状況になっている。
一般に、半導体ディバイスは、その素材が、SiやGa、As、Pなどからなる化合物半導体を主体としたものであり、これらの製造工程の多くは、真空もしくは減圧下で処理されるいわゆるドライプロセスに属し、こうした環境の中において、成膜、不純物の注入、エッチング、アッシング、洗浄などの処理が繰返し行なわれる作業である。
このようなドライプロセスに属する装置、部品類としては、酸化炉やCVD装置、PVD装置、エピタキシャル成長装置、イオン注入装置、拡散炉、反応性イオンエッチング装置、プラズマエッチング装置およびこれらの装置に付属している配管、給排気ファン、真空ポンプ、バルブ類などがある。そして、これらの装置類は、次に示すような腐食性の強い薬剤やガスの存在下で使用されることが知られている。基本的には、BFやPF、PF、NF、WF、HFなどの弗化物、BClやPCl、PCl、POCl、AsCl、SnCl、FiCl、SiHCl、SiCl、HCl、Clなどの塩化物、HBrなどの臭化物、NH、ClFなどである。
ところで、これらのハロゲン化物を用いるドライプロセスでは、反応の活性化と加工精度向上のため、しばしばプラズマ(低温プラズマ)が用いられる。プラズマ使用環境において、各種のハロゲン化物は、腐食性の強い原子状またはイオン化したF、Br、Iとなって半導体素材の微細加工に大きな効果を発揮する。その一方で、プラズマ処理(特に、プラズマエッチング処理)された半導体素材の表面からは、エッチング処理によって削りとられた微細なSiOやSi、Si、Wなどのパーティクルが気相中に浮遊し、これらが加工中あるいは加工後のディバイスの表面に付着して、製品品質を著しく低下させるという問題がある。
これらの対策の一つとして、被加工物表面をアルミニウム陽極酸化物(アルマイト)によって表面処理する方法がある。その他、AlやAl−TiO、Yなどの酸化物、あるいは周期律表IIIa族金属の酸化物を、溶射法や蒸着法(CVD法、PVD法)などによって該被加工物表面を被覆したり、また焼結材として利用する技術もある。(特許文献1〜5)
さらに最近では、Y、Y−Alの溶射皮膜表面を、レーザービームや電子ビームなどの高エネルギー照射処理して該溶射皮膜の表面を再溶融することによって、耐プラズマエロージョン性を向上させる技術も開発されている。(特許文献6〜9)
溶射皮膜の表面にレーザービームや電子ビームなどの高エネルギーを照射し、皮膜表面の溶射粒子を再溶融するという技術思想は、特許文献10に開示されているように、皮膜表面に存在する気孔(特に貫通気孔)を消滅させることによって腐食成分が皮膜内部へ侵入するのを防止する技術である。また、特許文献11のように、ZrO系セラミック溶射皮膜の表面を高エネルギー照射して再溶融現象を利用し、冷却・凝固過程において、溶融部が収縮する際に発生する縦割れを熱衝撃時に発生する急激な応力の緩衝体として利用しようとする提案もある。
特公平6−36583号公報 特開平9−69554号公報 特開2001−164354号公報 特開平11−80925号公報 特開2007−107100号公報 特開2005−256093号公報 特開2005−256098号公報 特開2006−118053号公報 特開2007−217779号公報 特開昭61−104062号公報 特開平9−316624号公報 特開2006−118053号公報
前述した従来技術、とくに、半導体加工装置用部材の表面に被覆形成されている従来の表面処理皮膜は、次のような解決すべき課題があった。
a. 溶射法によって形成されたY、Alなどの酸化物系セラミック(酸化物)皮膜をはじめ、Ni、Ni−Cr合金などの皮膜は、ハロゲンによるプラズマエッチング環境において比較的良好な耐久性を示す。しかし、溶射皮膜というのは、基本的に貫通気孔が存在いているため、このことがとくに、ウエットプロセスにおいて致命的な欠点となることが少なくない。
b. 半導体加工装置では、プラズマエッチング加工などのドライプロセス専用であっても、エッチングによって削り取られた微細なパーティクルが装置内に残り、これが高品質半導体製品の製造を阻害していた。そのために従来、該加工装置を酸やアルカリ、純水などを用いて洗浄していた。このような装置洗浄時において、これらの水溶液が、皮膜表面の貫通気孔を通って内部に侵入し、基材および皮膜のアンダーコートを腐食し、被覆部材の耐久性を低下させるという問題がある。
c. 従来、溶射皮膜の欠点を改善するため、酸化物系セラミックス皮膜の表面を、電子ビームやレーザービームなどの高エネルギー照射処理して、トップコートの最表層を溶融し、融着させて慣通気孔を消滅させる緻密化の技術がある。この技術の場合、皮膜表面の開気孔(含貫通気孔)を消滅させるとともに、耐プラズマエロージョン性を向上させることができるものの、高エネルギー照射面では、再溶融後の冷却過程における体積の収縮現象によって、肝心な皮膜の最表層面が“ひび割れ”状態になることが知られている。しかも、このひび割れが新しい貫通気孔の役割を果たすことになるため、ウエットプロセスや洗浄作業に使用される各種薬液・洗浄水の皮膜内部への侵入を防止できず、トップコートとしての機能を果たせないという問題がある。
d. しかも、酸化物系セラミック溶射皮膜などを高エネルギー照射処理したときに発生する上記“ひび割れ現象”は、発生当初は微小であっても、使用中に加熱と冷却とが繰り返されると、そのひび割れが次第に大きくかつ深く成長するため、洗浄水などの皮膜内部への侵入による弊害を解消することができない。
e. 高エネルギー照射処理面に発生する上記“ひび割れ”部分から該溶射皮膜内部へ侵入した薬液や洗浄液は、腐食損傷の原因となる一方、ドライプロセスによる半導体加工装置においては、環境の真空化時間を長くする必要が生じるため、生産性の低下を招く。
本発明の目的は、溶射皮膜表面の再溶融処理(高エネルギー照射処理)時に発生する、ひび割れを阻止することにより、耐食性と耐プラズマエロージョン性に優れる、半導体加工装置用溶射皮膜被覆部材と、高エネルギー照射処理する溶射皮膜のひび割れを防止する方法とを提案することにある。
本発明は、上掲の技術的課題を克服すること、および上記目的を実現するために、以下に要約するような新規な着想の下に開発した技術である。
(1) 高エネルギー照射処理する溶射皮膜被覆部材の耐食性を向上させるには、まず、その溶射皮膜として、延性が大きくかつ割れた感受性の小さい金属・合金(以下、「合金」を含めて金属という)と酸化物(酸化物セラミック)の混合粉末材料とからなるサーメットを用いて溶射したサーメット溶射皮膜を用いることである。この場合、サーメット溶射皮膜の表面を、電子ビームあるいはレーザービームなどの高エネルギー照射処理し、該サーメット溶射皮膜の表面を一定の厚さで再溶融させると共に再結晶させ、このことによって、成膜直後の皮膜表面に存在する気孔(特に開気孔、貫通気孔)を消滅させることができる。
(2) 本発明では、延性が大きくかつ割れ感受性の小さい金属として、NiあるいはNi−Cr系合金を用いる一方、酸化物(酸化物)としては、周期率表のIIIb族のAlの酸化物、例えばAl、Yの酸化物、例えばY、あるいはAl−Y複酸化物、および原子番号57〜71に属するランタノイド系元素の酸化物、のうちのいずれかの酸化物を用いる。これらの構成成分からなるサーメット溶射皮膜の好ましい組成としては、金属成分を5〜95mass%、酸化物成分を95〜5mass%とする。また、膜厚は、50〜500μm程度の皮膜となるように成膜する。
(3) 溶射に当たっては、上記組成のサーメット材料を用いて、大気プラズマ溶射法や減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、爆発溶射法などから選ばれるいずれかの溶射法によって、溶射皮膜を形成する。
(4) 高エネルギー照射処理による前記サーメット溶射皮膜の再溶融層は、皮膜表面から1〜30μmの厚さ(深さ)にすることが好ましく、溶射皮膜の下層部分には高エネルギー照射の影響を受けていない多孔質層を残存させる。
(5) 上記高エネルギー照射処理したサーメット溶射皮膜の表面は、溶射粒子の再溶融と融合作用によって、表面の気密・液化すると同時に溶射粒子どうしの結合力が向上して緻密化、平滑化するため、皮膜の表面に存在していた気孔がは消滅する。その結果、サーメット溶射皮膜表面は、ほぼ完全な気密・液密状態(以下、単に「気密」とのみ表記する)となって、酸、アルカリなどの腐食成分の皮膜内部への侵入を確実に阻止することができるようになる。
このような知見に基づき開発した本発明は、基材の表面に被覆形成した溶射皮膜の表面に対し、高エネルギー照射処理を施して該皮膜表面のサーメット溶射粒子を再溶融し、30μm以内の厚さの気密再溶融層を形成してなる部材において、上記溶射皮膜を、金属と酸化物とからなるサーメット材料にて構成すると共に、この溶射皮膜は、皮膜の表面側ほど金属成分が多く、基材側ほど酸化物成分が多くなるように、金属と酸化物の配合割合を傾斜的に変化させた皮膜であることを特徴とする耐食性と耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜被覆部材である。
また、本発明は、基材の表面に被覆形成された溶射皮膜に対し、高エネルギー照射処理を施すに際し、溶射材料として、金属と酸化物とからなるサーメット粉末を用いて溶射すると共に、皮膜の表面側ほど金属成分が多く、基材側ほど酸化物成分が多くなるように、金属と酸化物の配合割合を傾斜的に変化させた皮膜とし、得られる溶射皮膜の表面に対して行う高エネルギー照射処理を、皮膜の表面からの深さにして30μm以内の厚さ部分を再溶融させることを特徴とする高エネルギー照射処理する溶射皮膜のひび割れ防止方法を提案する。
なお、本発明においては、下記の構成を採用することが、より好ましい実施の形態となる。
(1) 前記サーメット材料は、95〜5mass%のNiまたはNi−Cr系Ni基合金と、5〜95mass%のY、Al、Y−Alおよび原子番号57〜71のランタノイド系元素から選ばれるいずれか1種以上の金属の酸化物との混合物であること。
(2) 前記サーメット溶射皮膜は、金属と酸化物との粒径が、それぞれの5〜60μmの溶射材料を用いて溶射された、膜厚:50〜500μmの皮膜であること
本発明は、前記のように構成された場合、以下に述べるような効果が期待できる。
(1) 溶射皮膜を、延性が大きくかつ割れ感受性の小さい金属と酸化物とからなるサーメット材料を使用して成膜することによって、皮膜表面に高エネルギー照射処理を施したときに不可避に発生する“ひび割れ現象”を、上記金属の作用によって防止することができる。従って、溶射皮膜の表面を高エネルギー照射処理した際に発生する“ひび割れ”部から皮膜内部へ侵入する各種の酸、アルカリ、洗浄水などに起因する基材および皮膜内部の腐食損傷を防ぐことができる。その結果、半導体加工装置用部材として好適な耐食性と耐プラズマエロージョン性とを兼備した溶射皮膜被覆部材を得ることができる。
(2) 前記のようなサーメット溶射皮膜被覆部材を用いた半導体加工装置の場合、高度な清浄環境を維持しつつ、長時間にわたる作業が可能となるため、高い品質の半導体加工製品を効率よく生産することができるようになる。
(3) 本発明によれば、金属や酸化物などの成膜材料種の選択自由度が高いサーメットを用い、かつ成膜速度の大きい溶射法を利用して成膜するので、半導体加工用装置の稼動条件(例えば、ハロゲン化合物の種類と濃度、プラズマ発生条件、洗浄液の種類、濃度など)に適合した寿命の長い皮膜構成にすることができ、しかも効率よく製造することができる。
(4) 本発明によれば、高エネルギー照射処理されたサーメット溶射皮膜の表面を、緻密で平滑にすることができると同時に、皮膜の内部については、溶射皮膜特有の気孔(隙間)を残存させているため、これらが使用環境の急熱・急冷などの変化時において発生する皮膜の熱応力を緩和させる機能を発揮することとなる。従って、緻密な表面を形成したとしても、溶射皮膜本来の多孔質機能を消失することのない部材を製造するのに有効である。
(5) 半導体をプラズマエッチング加工する時、被処理体は負の電位を示すように設計されているため、プラズマ化した正イオンが皮膜表面粗さの凸部に集中的に衝突して、エロージョン損失量の増加とともに、削りとられた微細なパーティクルが環境中に飛散して汚染原因となる。この点、本発明のように、高エネルギー照射処理したサーメット溶射皮膜の表面は、再溶融反応によって平滑化すると同時に、溶射粒子が相互に融合状態にあるため、これらの形状・形態変化が、半導体加工装置用部材の耐食性と耐プラズマエッチング性の向上に大きく貢献する。
従来技術に係る電子ビーム照射処理したY溶射皮膜の表面(A)と断面(B)の電子顕微鏡写真である。 本発明に係る電子ビーム照射処理したY−Niサーメット溶射皮膜の表面(A)と断面(B)の電子顕微鏡写真である。 実施例2にて供試した金属(Ni−50Cr)とYの割合を傾斜的に変化させたサーメット溶射皮膜の断面模式図である。(A)の皮膜構造は、皮膜表面側ほど金属成分が多く、(B)の皮膜構造は、逆にセラミック成分を多くした場合の例を示す。
以下、本発明に係る溶射皮膜被覆部材と高エネルギー照射処理する溶射皮膜のひび割れ防止方法について具体的に説明する。
(1) 成膜用溶射材料の選定
本発明において重要な構成である溶射皮膜の形成には、下記の如き金属と酸化物(酸化物セラミックス)とからなるサーメットが用いられる。
1. 金属:延性が大きくかつ割れ感受性の小さい金属として、NiあるいはNi−Cr系Ni基合金が好適である。Ni−Cr系Ni基合金におけるCr含有量は、Ni−10〜80mass%Cr合金の組成を有するものが好適である。Ni−Cr合金に含まれる他の成分の許容量は次の通りである。
(イ). Fe:Feの許容量は15mass%以下である。具体的には、Ni−Cr系Ni基合金に含まれる、Cr含有量が20mass%を超える場合、Feは15mass%であっても合金の耐食性は余り低下しないが、Cr含有量が20%未満の合金においては、耐食性の低下、特に塩酸による侵食量が増加するので好ましくない。
(ロ). Mo:Ni−Cr系Ni基合金中にMoが含まれていると、酸に対する抵抗が著しく増加する。特に、半導体加工用装置の洗浄に使用される塩酸に対して強く、サーメット溶射皮膜の金属成分として用いた場合においても、耐プラズマエロージョン性に悪影響を与えないので好都合である。Moの含有量は18mass%を上限とし、下限は2mass%程度の含有量でも耐食性を向上させる効果がある。
(ハ). Al、Co、Si、W、Ti、Cu:これらの金属成分は、特に規定しないが、それぞれ5mass%未満であることが好ましい。具体的には、Alは酸にもアルカリにも溶出し、Siは酸には強いがアルカリに溶解し、Coは酸に弱く、W、Cuは重金属成分として僅かな量でも装置内を汚染して、半導体加工製品の品質を低下するので、好ましくない。
2. 酸化物:元素の周期律表IIIb族のAl、同IIIa族のYおよび原子番号57〜71に属するランタノイド系元素などによる金属の酸化物をはじめ、Y−Alの混合酸化物、YAGで表示される複酸化物なども好適に用いられる。
(2) サーメット溶射粉末材料の組成
前記の金属と酸化物とは、これらを直接混合してなるサーメット混合溶射材料としたものが使用できるが、その他、金属および酸化物(酸化物セラミックス)をそれぞれ、粒径3〜40μmの粉末とし、これらをビニルなどの高分子粘結剤を用いて予め粒径5〜60μmに造粒し、乾燥したもの、あるいはさらに、真空中又は不活性ガス雰囲気中で加熱して焼結したものが使用できる。なお、金属と酸化物との混合割合は、皮膜の使用目的に応じて、金属を5〜95mass%、酸化物セラミックスを95〜5mass%になるように調整する。好ましくは、金属を20〜50mass%、酸化物を80〜50mass%となるようにする。
(3) 溶射方法
前記サーメット溶射粉末材料を用いて、大気プラズマ溶射法や減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、爆発溶射法などによって、膜厚50〜500μmのサーメット溶射皮膜を形成する。膜厚が50μm未満では、形状の複雑な部材への均等な成膜が困難であり、一方、500μmより厚いと、その効果が飽和して経済的でない。なお、サーメット溶射皮膜は、基材の表面を所定の前処理(例えば、脱脂、異物の除去、ブラスト処理など)を施した後、直接形成することができる。ただし、酸化物含有量の多いサーメット溶射皮膜を形成する場合には、NiあるいはNi−Cr系Ni基合金をアンダーコートとして施工することが好ましい。
なお、溶射皮膜を形成するための基材は、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、炭素鋼、ステンレス鋼のような特殊鋼をはじめ、石英、黒鉛などの炭素質、酸化物および窒化物などの焼結材などが使用できる。
(4) 高エネルギー照射処理
この処理は、サーメット溶射皮膜の表面に、下記条件の電子ビーム又はレーザービームを照射して、皮膜の表層部分を構成している溶射粒子を再溶融し、さらに再結晶させるために行う。ただし、この処理では、冷却過程において、皮膜表面に“ひび割れ”が発生しないように、サーメット溶射皮膜中には延性が大きくかつ割れ感受性の小さい金属であるNi、あるいはNi−Cr系Ni基合金を含むサーメットを用いることが重要である。
A. 電子ビーム照射処理
これは、サーメット溶射皮膜を、減圧下の不活性ガス雰囲気中で電子ビーム照射を行う処理である。不活性ガス雰囲気中における溶融反応では、金属成分の酸化が抑制されるため、照射後の皮膜表面は、成膜時のサーメット状態を維持しているので、成分的な変化はない。なお、電子ビーム照射条件としては、下記のようなものが推奨される。
a.照射雰囲気:1×10−1〜5×10−3MPaの不活性ガス雰囲気
b.照射出力:10〜30KeV
c.照射速度: 1〜50mm/Sec.
d.照射回数: 1〜100回(連続又は不連続)
B. レーザービーム照射処理
これは、サーメット溶射皮膜の表面に対して、COレーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、エキシマレーザーなどの既存のレーザービーム熱源を照射して、溶射粒子を再溶融・再結晶化させる処理である。この処理は、前記電子ビーム照射処理と同様、皮膜表面に存在する気孔(貫通気孔)を“ひび割れ”が発生しないように消滅させるために行う。なお、レーザービーム照射処理の雰囲気は、空気中、不活性ガス中、減圧中など自由に選択できるが、溶射皮膜中に金属成分が多く含まれる場合は、不活性ガス中で照射することが好ましい。
レーザービーム照射条件として、下記のようなものが推奨される。
a.レーザー出力:1〜10KW
b.ビーム面積:2〜10mm
c.ビーム走査速度:2〜20mm/s
d.照射回数:1〜100回(連続又は不連続)
電子ビームまたはレーザービームの照射によってサーメット溶射皮膜表面部分に形成される気再溶融層、即ち高エネルギー照射処理層は、皮膜表面からの深さにして1〜30μmとなる厚みの範囲がよい。発明者らの実験によると、金属成分の多いサーメット溶射皮膜を爆発溶射法、減圧プラズマ溶射法などによって形成すると、皮膜表面のごく薄い層を再溶融しただけで、貫通気孔の開口部を消滅させることができることがわかったからである。また、この気密再溶融層の厚さは30μm以内とする。それは、この厚さ以上にしても、高エネルギー照射処理の効果が飽和するだけでなく、この再溶融層の下層部(非照射影響部)に存在する気孔や粒子間の隙間を残して多孔質部分を確保することで、使用環境下において熱応力の吸収−緩和作用をより効果的に発揮させるためである。
(5) 高エネルギー照射処理したサーメット溶射皮膜の性状
高エネルギー照射されたサーメット溶射皮膜の表面、即ち気密再溶融層は、以下のような特徴がある。本来、溶射法によって形成された平滑化した溶射皮膜は、金属一酸化物ともそれぞれ3〜40μm、造粒粒子であっても、粒径が5〜60μmの溶射粒子が集合し堆積した積層体にて構成されている。ただし、溶射粒子は一般に、高温のプラズマ熱源中を飛行するときでも飛行の速度が速いため、粒子中心までが溶融し流動化することはない。また、酸化物の粒子は、たとえ溶融したとしても粘度が大きいため、粒子の偏平度が小さいこともあって、皮膜表面は比較的粗な状態である。しかし、このような粗い表面を有する溶射皮膜に対し、本発明のように高エネルギー照射処理を施すと、溶射粒子は溶融するだけでなく、多数の粒子が相互に融合一体化して緻密化と同時に平滑化した気密再溶融層となる。発明者らの知見によると、この気密再溶融層は、大気プラズマ溶射法で形成されたAl溶射皮膜の場合、最大表面粗さ(Ry)は、16〜32μmであったが、電子ビーム照射処理した上記気密再溶融層の粗さ(Ry)は、6〜15μm程度になることが認められている。
一般に、溶射皮膜に対するプラズマエッチング作用は、皮膜表面粗さの凸部の部分に集中し、この部分をミクロ的に削り取って、微細なパーティクルを作業環境中に放出する現象があるが、溶射皮膜を構成している堆積粒子の融合一体化を伴う平滑化した前記気密再溶融層の場合、その凸部が小さいのでパーティクル発生源を少なくする効果がある。
また、高エネルギー照射処理して平滑化した前記気密再溶融層は、平滑化しているためこれの表面に付着したパーティクル、各種の化学薬剤などの汚染物質を、洗浄作業によって効率よく除去することもできる、緻密化しているので水溶液などの侵入を阻止して気密化した層となる。
なお、上記サーメット溶射皮膜表面の平滑化のための高エネルギー照射処理は、サーメット溶射皮膜表面に存在している気孔(貫通気孔)を完全に消滅させる。一方においてサーメットの成分として含まれている金属成分が溶融し流動状態になるため、たとえ冷却凝固反応などの温度変化時においても、“ひび割れ”が発生するのを抑制するのを助ける。しかも、Ni、Ni基合金のような延性が大きくかつ割れ感受性の大きい金属・合金をサーメット金属成分として用いると、酸化物セラミックス溶射皮膜表面に認められるような従来の“ひび割れ”は、本発明の場合、認められない。
図1は、電子ビーム照射処理した従来のY溶射皮膜の表面および断面を示すSEM像(電子顕微鏡写真)である。皮膜表面のY粒子は、溶融し互いに融合一体化する一方、照射前の表面には見られなかった“ひび割れ”が発生し、その先端は皮膜内部へも伝播して貫通気孔と同じような構造になっていることがうかがえる。これに対し、本発明に適合する実施形態である気密再溶融層(サーメット溶射皮膜への高ネルギー照射面)では、図2に示すように、溶射粒子どうしの融合一体化による表面平滑化は観察されるものの、“ひび割れ”の発生はない。
(6) 高エネルギー照射処理に伴う溶射皮膜の結晶型の変化
金属粒子と酸化物粒子との混合溶射粒子の堆積層からなるサーメット溶射皮膜に対し、その表面を高エネルギー照射処理すると、溶融した部分は二次再結晶相が生成し、非照射皮膜面と比較すると、冶金的にまた残留応力の点からも大きな変化が観察される。即ち、冶金的には安定した結晶型へ移行するとともに、物理的には皮膜の残留応力を開放できると共に、照射面の平滑化粒子の融合一体化によって耐摩耗性、耐食性、耐プラズマエロージョン性などの諸性質が向上する。以下、金属粒子と酸化物セラミックス粒子の結晶相の変化について説明する。
a. 金属粒子:一般に、溶射用金属粒子の結晶は、この粒子の製造条件に由来して、さまざまな結晶型を示す。しかし、粒子結晶は基本的には、溶射熱源中における急速加熱と基材表面に衝突したときの急速冷却に起因して決まるものである。例えば、溶射粒子は、プラズマ溶射熱源中では短時間(1/500〜1/1000秒)のうちに急速加熱されて溶融する一方、吹き付けられた基材表面では、逆に急速冷却されるうえ、衝突エネルギーによる変形(偏平化)圧力を受ける。そのため、変形応力の残留とともにその結晶型は非平衡状態になる。
これに対し、高エネルギー照射処理というのは、溶射熱源環境に比べると、皮膜の溶融時間および冷却時間がはるかに長いため、この期間中に残留応力が開放され、結晶型もより平衡状態に移行し易く、結晶の粗大化を伴いながら、安定した状態に落ち着くこととなり、耐食性を発揮しやすい結晶形態となる。
b. 酸化物(セラミック)粒子:ここでは代表的な酸化物粒子としてAlとYの例で説明する。
Al粒子:例えば、プラズマ溶射法で形成されたAl溶射皮膜の結晶型をX線回折すると、溶射前の結晶型に関係なくγ−Al(立方晶型スピネル)を示すが、高エネルギー照射処理を施すと、大部分がα−Al(三方晶系鋼玉型)に変態し、結晶レベルでは粒子の物理化学的性質は安定する。
粒子:溶射用のY粒子の結晶構造は、正方晶系に属する立方晶のものが多い、この結晶のY粒子をプラズマ溶射すると、プラズマ熱源による急速加熱溶融と、基材表面での急速冷却の熱履歴を受けて、結晶構造が、立方晶の他に単斜晶を含む混晶からなる一次変態を行う。この皮膜を高エネルギー照射処理すると、正方晶系の結晶に二次変態し、前者に比較して安定した結晶状態に移行する。
この実施例は、溶射皮膜に対する高エネルギー照射処理の有無と、皮膜の耐食性について調査した結果を述べる。
(1) 供試基材:塩水噴霧試験用としてSS400鋼(寸法:50mm×50mm×3.2mm)を用い、塩酸浸漬試験用および苛性ソーダ浸漬試験用として同寸法のAl合金(JISH4000−A3003)を用いた。
(2) 溶射皮膜材料:基材表面への成膜材料として下記粉末材料を用いた。溶射は、大気プラズマ溶射方法によって行い、アンダーコートの膜厚は100μm、トップコートは150mm厚に形成した。(数字はmass%を示す)
アンダーコート:Ni−20Cr合金
トップコート:(a) Ni(50)−Al(50)の混合サーメット
(b) [Ni−20Cr](50)−Y(50)の混合サーメット
(3) 高エネルギー照射処理
上記の溶射皮膜の表面に対して、電子ビーム(出力:12KeV、速度:20mm/s)およびレーザービーム(出力:3W、速度:5mm/s)を照射し、皮膜表面から5μm深さまでの領域を完全に再溶融させた試験片を作製した。なお、比較用の試験片として、電子ビームおよびレーザービームを照射しない皮膜の試験片も準備した。
(4) 腐食試験方法と条件
供試皮膜の耐食性を評価するため、下記に示す3種類の試験を実施したが、いずれの試験においても、溶射皮膜を形成した試験片の裏面側に相当する基材の露出部には耐薬品性の塗料を塗装し、皮膜のみの耐食性が調査できるようにした。
a. 塩水噴霧試験:JISZ2371に規定されている塩水噴霧試験を連続96時間行った後、室内にて24時間放置し、その後に溶射皮膜に発生した赤さびの有無を目視観察することによって、皮膜の耐食性を評価した。
b. 塩酸浸漬試験:試薬一級の塩酸(HCl)を純水で3mass%に調整した水溶液中(25℃)に1時間浸漬し、溶射皮膜の表面から発生する水素ガスの有無を観察した。なお、この試験の目的は、溶射皮膜に貫通気孔が存在すると、塩酸が気孔を通して皮膜内部へ浸入して基材表面に達した後、基材のAl合金と下記のように反応して水素ガスを発生させるか否かを調査することにある。なお、皮膜に貫通気孔が存在しない場合には、塩酸は皮膜成分と反応しないため、水素ガスの発生はない。

Al+3HCl→AlCl+1・1/2H
c. 苛性ソーダ浸漬試験:試薬一級の苛性ソーダ(NaOH)を純水で5mass%になるように調整した後、この水溶液中(40℃)に1時間浸漬し、溶射皮膜の表面から発生する水素ガスの有無を観察した。
この試験の目的は、前記塩酸浸漬試験と同様、溶射皮膜に貫通気孔が存在すると苛性ソーダ水溶液が皮膜内部に浸入して基材表面に達した後、基材のAl合金と反応して水素ガスを発生する反応を利用したものである。なお、この浸漬試験において、皮膜に貫通気孔が存在しない場合には、苛性ソーダ水溶液は、皮膜成分と反応せず水素ガスを発生させない。
2Al+6NaOH→2NaAlO+3H

(5) 試験結果
試験結果を表1に要約した。この試験結果から明らかなように、大気プラズマ溶射法によって形成されたセラミック溶射皮膜か、照射処理をしない例である皮膜(No.1、4、7、10)、および皮膜表面を電子ビームまたはレーザービームによって溶融処理を施した酸化物系セラミック溶射皮膜(No.2、3、5、6、8、9)の場合、皮膜表面に赤さびが発生するか、または水素ガスが発生するなどの現象により、皮膜表面に貫通気孔の存在が明瞭に確認された。ただし、無処理の皮膜(No.1、4、7、10)の貫通気孔については、成膜時にすでに存在していた溶射皮膜特有のものであり、照射処理皮膜(No.2、3、5、6、8、9)の貫通気孔については、高エネルギー処理によって、溶融した皮膜表面が冷却過程における収縮現象によって発生した“ひび割れ”によるものである。
なお、塩水噴霧試験によって認められる赤さびの発生状況についても、比較例の溶射皮膜(No.1〜13、16)については、Ni−Cr系Ni基合金によるアンダーコートを施工しても、そのアンダーコートにも貫通気孔が存在している場合、塩水の皮膜内部への侵入を防ぐことができないことがわかった。
これに対し、本発明適合例であるサーメット溶射皮膜に対し、その表面を電子ビームやレーザービームによって照射して気密再溶融層を形成してなる皮膜(No.14、15、17、18)については、塩水噴霧試験による赤さびの発生はもちろんのこと、塩酸、苛性ソーダ水溶液に浸漬しても水素ガスの発生は認められず、皮膜表面は液状態にあることがわかった。
この実施例は、サーメット溶射皮膜を構成する金属成分と酸化物成分との配合比率を傾斜的に変化させた皮膜について、高エネルギー照射の有無と、その皮膜の耐食性および耐熱衝撃性を調べた。
(1) 供試基材:耐食性試験用には実施例1に記載のAl合金、耐熱衝撃性試験用には、SUS304鋼(寸法:50mm×50mm×5.0mm厚さ)を用いた。
(2) 成膜材料:Ni−50CrとYを用い、それぞれの配合比率を10〜90mass%の割合で傾斜的に変化させた皮膜を形成した。図3は、その皮膜の断面構造を示したものである。即ち、基材と接触している最下層皮膜部の金属成分とYの割合を50mass%:50mass%とし、皮膜(A)は、皮膜の表面に近くなるほど金属成分が多くなるようにその割合を傾斜的に変化させ、最表層部では金属(90):Y(l0)になるようにした。一方、皮膜(B)は、皮膜(A)とは逆に、Y成分の割合を傾斜的に変化させ、最表層部ではY(90):金属(10)の割合になるように調整した。
(3) 溶射法:成膜には大気プラズマ溶射法を用い(A)、(B)溶射皮膜とも厚さ230μmになるように形成した。
(4) 高エネルギー照射処理:実施例1と同じ方法、条件とし、傾斜配合したサーメット溶射皮膜の表面に電子ビーム(EB)とレーザービームとを照射して皮膜表面を再溶融させた。なお、比較例の皮膜試験片として、高エネルギー照射しないサーメット溶射皮膜試験片も準備した。
(5) 評価試験方法:供試サーメット溶射皮膜の評価は、次に示す方法により実施した。
a. 腐食試験:実施例1に記載の5%HCl水溶液中への浸漬試験を適用した。
b. 熱衝撃試験:大気開放型の電気中で500℃×30分加熱し、その後22℃の炉外へ取り出して40分間冷却する操作を1サイクルとし、このサイクルを10回実施後の皮膜表面を目視観察し、熱衝撃に対する抵抗性を評価した。
(6) 試験結果
試験結果を表2に示した。この結果から次のことが確認できる。
a. 腐食試験:供試サーメット溶射皮膜の表面を高エネルギー照射処理を施していない場合(No.1、4)では、気孔の存在によって3%HCl水溶液が皮膜内部へ侵入して、基材のAl合金と激しく反応し水素ガスが発生していることが認められた。これに対して高エネルギー照射したサーメット溶射皮膜(No.2、3、5、6)では、水素ガスの発生は見られず、良好な耐食性を発揮している状況が観察された。
b. 熱衝撃試験:加熱−冷却の繰返しによる熱衝撃試験によると、高エネルギー照射処理の有無に関係なく、サーメット溶射皮膜の場合、剥離は全く観察されず、良好な熱衝撃抵抗を有することが判明した。高エネルギー照射処理によるサーメット溶射皮膜表面の再溶融処理は、皮膜の気孔を消滅させるものの、その効果は皮膜の表面近傍にとどまり、非照射部の下層部では溶射皮膜特有の気孔が多数存在しているため、この気孔部が熱衝撃時に発生する皮膜の応力を吸収する効果を発揮したものと思われる。なお、試験後の全試験片について500℃×30分の加熱後22℃の水道水中へ投入する過激な条件の熱衝撃試験を実施したが、全試験片とも皮膜の剥離は見られなかった。
この実施例は、溶射皮膜に対する高エネルギー照射処理の有無と、皮膜の耐食性および弗素系ガスによる耐プラズマエロージョン性との関係を調べた。
(1) 供試基材:実施例1と同じAl合金、同寸法の基材を用いた。
(2) 溶射成膜材料:大気プラズマ溶射法によって、下記組成のサーメット材料を基材表面に直接150μm厚さの皮膜を形成した。(数字はmass%を示す)
金属:Ni−20Cr
酸化物セラミックス:(a).Cr、 (b).Al−40TiO、 (c).Y、 (d).YAG(YAl12複酸化物)
金属と酸化物セラミックスとの混合比を30/70に調整した。
(3) 高エネルギー照射処理:実施例1と同じ要領で実施した。また、比較例の皮膜として照射処理を実施しない溶射皮膜も準備した。
(4) 腐食試験方法と条件:実施例1にて実施した3%HClおよび5%NaOH水溶液浸漬試験を同条件で実施した。
(5) プラズマエロージョン試験:供試皮膜の表面を10mm×10mmの範囲が露出するように、他の部分をマスクし、下記条件にて20時間照射してプラズマエロージョンによる損傷量を減肉厚さとして求めた。
ガス雰囲気と流量条件
CF、Ar、Oの混合ガスを用い1分間当たり、CF(100cm)/Ar(1000cm/O10cm3)の割合で流した。
プラズマ照射出力
高周波電力:1300W、環境圧力:133.3Pa
(6) 試験結果
a. 浸漬試験:試験結果を表3に示した。この結果から明らかなように、5%HCl、10%NaOH水溶液中への浸漬試験では、高エネルギー照射処理をしない皮膜(No.1、4、7、10)では、皮膜の種類に関係なく、それぞれの皮膜の表面から、水素ガスを発生し、皮膜に貫通気孔の存在が確認された。一方、高エネルギー照射処理皮膜(No.2、3、5、6、8、9、11、12)では、水素ガスの発生は見られず、良好な耐食性を発揮していることが確認された。
b. プラズマエロージョン試験:プラズマエロージョン損傷量は、酸化物セラミックスの種類によって大きく相違し、Y、YAG系セラミックスを含むサーメット溶射皮膜の損傷量は少なく、Al−40TiO、Crでは比較的大きな損傷量が見られた。さらに、エロージョン損傷量について詳しく観察すると、高エネルギー照射処理を施すとすべての皮膜の耐エロージョン性は向上する傾向が見られ、有効な処理方法であることがうかがえる。
この実施例の結果を総括すると、Y、YAGなどの酸化物セラミックスを含むサーメット溶射皮膜の高エネルギー照射処理面は、酸、アルカリによる腐食試験によく耐えるとともに優れたプラズマエロージョン抵抗を発揮することが判明した。
この実施例は、ランタノイド系酸化物を含むサーメット溶射皮膜の高エネルギー照射処理の有無と耐プラズマエロージョン性との関係を調べた。
(1) 供試基材:実施例1と同じAl合金、同寸法の基材を用いた。
(2) 溶射成膜材料:大気プラズマ溶射法によって、下記組成のサーメット材料を基材表面に直接、180μm厚さの皮膜を形成した。(数字はmass%を示す)
金属成分:Ni
酸化物セラミック成分:Sc、CeO、Eu、Dy、Er、Y
上記金属成分と酸化物セラミックス成分の配合割合は30/70に調整した。
(3) 高エネルギー照射処理:実施例1と同じ要領で実施した。また、比較例の皮膜として照射処理を実施してない皮膜も準備した。
(4) 腐食試験方法と条件:実施例1にて実施した3%HCl水溶液中浸漬試験を同条件で実施した。
(5) プラズマエロージョン試験:実施例3にて実施した方法と条件で実施した。
(6) 試験結果
a. 5%HCl水溶液浸漬試験:試験結果を表4に示した。この結果から明らかなように、高エネルギー照射処理を施さないサーメット溶射皮膜(No.1、4、7、10、13、16)は、いずれも皮膜表面から多量の水素ガスを発生した。これに対して高エネルギー照射処理したサーメット溶射皮膜(No.2、3、5、6、8、9、11、12、14、15、17、18)では、水素ガスの発生は認められず良好な耐食性を示すことが確認された。
b. プラズマエロージョン試験:供試したランタノイド系酸化物を含むサーメット溶射皮膜は一般に、良好な耐プラズマエロージョン性を示すことがわかる。具体的には、前記実施例3(表3)に示したCr、Al−40TiOなどのサーメット溶射皮膜と比較すると、耐プラズマエロージョンによる損失量が平均的と大凡30%〜50%にとどまっている。これらのサーメット溶射皮膜を高エネルギー照射処理すると、一段と損失量が減少し、優れた耐プラズマエオージョン性を発揮することが判明した。
この実施例は、各種の溶射法で形成したサーメット溶射皮膜に対して、高エネルギー照射処理を行い、その照射皮膜の耐食性を実施例1と同条件で調査した。
(1) 供試基材:JISH4000規定のA3003Al合金を50mm×50mm×厚さ3.2mmの寸法に切断したものを用いた。
(2) 溶射材料:溶射材料として、金属成分と酸化物セラミックス成分の配合比が異なるサーメット材料を用いた(数字はmass%を示す)
サーメット成分:金属成分(Ni50−Cr50)/セラミックス成分(Al)=10/90および90/10の混合材料を使用した。
(3) 溶射法:大気プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法および減圧プラズマ溶射法によって、それぞれ基材表面に直接150μm厚さのサーメット溶射皮膜を形成した。
(4) 高エネルギー照射:実施例1と同じ方法・条件を用いて、供試サーメット溶射皮膜の表面を照射して両溶融させた。なお、比較例の皮膜試験片として、高エネルギー照射しないサーメット溶射皮膜試験片も作製した。
(5) 腐食試験方法と条件:実施例1における3%塩酸および5%苛性ソーダ水溶液中への浸漬試験を行い、皮膜表面から発生する水素ガスの有無によって、溶射皮膜表面の気密性を評価した。
(6) 試験結果
腐食試験結果を表5に示した。この結果から明らかなように、供試した大気プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、減圧プラズマ溶射法によって形成されたサーメット溶射皮膜では、サーメット成分の配合比が変化しても、成膜状態のままの皮膜(No.1、4、7、10、13、16)では、いずれも程度の差は認められるものの、皮膜表面からの水素ガスの発生が観察され、皮膜表面に貫通気孔の存在が明らかとなった。これに対して、高エネルギー照射したサーメット溶射皮膜(No.2、3、5、6、8、9、11、12、14、15、17、18)では、電子ビーム、レーザービーム熱源とも、皮膜表面の再溶融現象によって、表面の再溶融反応によって、開気孔部が完全に消滅するとともに“ひび割れ”が発生しないため、腐食性薬剤の皮膜内部への侵入が阻止されていることが確認された。
本発明の技術は、デポシールドやバッフルプレート、フォーカスリング、インシュレータリング、シールドリング、ベローズカバーなどの半導体加工装置用部材として好適である。また、本発明はSi薄膜やSi薄膜加工品などの搬送用部材の表面処理法としても好適である。その他、本発明の技術と皮膜は化学工業プラント、石油化学プラント用部材の耐食性、耐摩耗性表面としても有望である。

Claims (6)

  1. 基材の表面に被覆形成した溶射皮膜の表面に対し、高エネルギー照射処理を施して該皮膜表面のサーメット溶射粒子を再溶融し、30μm以内の厚さの気密再溶融層を形成してなる部材において、上記溶射皮膜を、金属と酸化物とからなるサーメット材料にて構成すると共に、この溶射皮膜は、皮膜の表面側ほど金属成分が多く、基材側ほど酸化物成分が多くなるように、金属と酸化物の配合割合を傾斜的に変化させた皮膜であることを特徴とする耐食性と耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜被覆部材。
  2. 前記サーメット材料は、95〜5mass%のNiまたはNi−Cr系Ni基合金と、5〜95mass%のY、Al、Y−Alおよび原子番号57〜71のランタノイド系元素から選ばれる1種以上の金属の酸化物との混合物であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性と耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜被覆部材。
  3. 前記サーメット溶射皮膜は、金属と酸化物との粒径が、それぞれ3〜40μmの溶材料もしくは5〜60μmの造粒粒子を用いて溶射された、膜厚50〜500μmの皮膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の耐食性と耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜被覆部材。
  4. 基材の表面に被覆形成された溶射皮膜に対し、高エネルギー照射処理を施すに際し、溶射材料として、金属と酸化物とからなるサーメット粉末を用いて溶射すると共に、皮膜の表面側ほど金属成分が多く、基材側ほど酸化物成分が多くなるように、金属と酸化物の配合割合を傾斜的に変化させた皮膜とし、得られる溶射皮膜の表面に対して行う高エネルギー照射処理を、皮膜の表面からの深さにして30μm以内の厚さ部分を再溶融させることを特徴とする高エネルギー照射処理する溶射皮膜のひび割れ防止方法。
  5. 前記、サーメット材料は、95〜5mass%のNiまたはNi−Cr系Ni基合金と、5〜95mass%のY、Al、Y−Alおよび原子番号57〜71のランタノイド系元素から選ばれる1種以上の金属の酸化物との混合物であることを特徴とする請求項に記載の高エネルギー照射処理する溶射皮膜のひび割れ防止方法。
  6. 前記サーメット溶射皮膜は、金属と酸化物との粒径がそれぞれ5〜60μmの溶射材料を用いて溶射された、膜厚50〜500μmの皮膜であることを特徴とする請求項またはに記載の高エネルギー照射処理する溶射皮膜のひび割れ防止方法。
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