JP5286528B2 - 半導体加工装置用部材の製造方法 - Google Patents

半導体加工装置用部材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、半導体加工装置用部材の製造方法に関し、とくにハロゲンやハロゲン化合物が存在するような環境下でのプラズマ処理時に発生する微細なパーティクルを洗浄除去することが必要となる半導体加工装置に用いられる各種の構成部材として用いて有効な技術についての提案である。
半導体の製造および加工のプロセスにおいて用いられる各種の装置は、各工程で弗化物、塩化物をはじめとする腐食性の強い有害ガスあるいは水溶液が用いられるため、これらの装置の構成部材は腐食損耗が激しいということが知られている。
特に、半導体デバイスは、その素材がSiやGa、As、Pなどからなる化合物半導体を主体としたものであり、その製造工程では、成膜、不純物の注入、エッチング、アッシング、洗浄等の処理が行われるが、その多くは、真空もしくは減圧中で処理するいわゆるドライプロセスによる処理である。
このドライプロセスに属する装置としては、酸化炉、CVD装置、エピタキシャル成長装置、イオン注入装置.拡散炉、反応性イオンエッチング装置、プラズマエッチング装置などおよびこれらの装置に付属している配管、給・排気ファン、真空ポンプ、バルブ類などの部材、部品等がある。
そして、これらの装置類については、次のような腐食性ガス種を用いることが知られている。例えば、BFやPF、PF、NF、WF、HFなどの弗化物、BClやPCl、PCl、POCl、AsCl、SnClTiCl、SiHCl、SiCl、HCl、Clなどの塩化物、HBrなどの臭化物、その他、NHやClFなどである。
ところで、これらのハロゲン化物を用いるドライプロセスでは、反応の活性化を図るため、プラズマ(低温プラズマ)が用いられる。こうしたプラズマ使用環境では、腐食性の強い原子状またはイオン化したF、Cl、Br、Iなどのハロゲン化物となる他、プラズマエッチング時などには、気相中にSiO、Si、Si、Wなどのパーティクルと呼ばれる微粉末状固形物が生成することから、それへの対策が必要であった。
例えば、その対策の1つに、アルミニウム陽極酸化物(アルマイト)による表面処理がある。その他、AlやAl・TiO、Yなどのアルカリ土類金属、IIIa族金属の酸化物を、溶射法や蒸着法などによって部材表面に被覆したり、焼結する技術がある(特許文献1〜4)。
さらに、最近では、Y溶射皮膜をレーザ照射や電子ビーム照射して該溶射皮膜の表面を再溶融することによって、耐食性や耐プラズマエロージョン性を向上させる技術(特許文献5)もある。
一方、防食目的ではないが、ハロゲン系ガスを含む環境で使用される静電チャックにおいて、エッチング加工用のSi薄膜をジョンソンラーベック力を利用して吸着するのに適したダイヤモンドライク・カーボン(DLC)を電極表面に形成する表面処理技術も提案されている(特許文献6〜10参照)。
特公平6−036583号公報 特開平9−69554号公報 特開2001−164354号公報 特開平11−80925号公報 特開2005−256098号公報 特開平5−144929号公報 特開2002−246455号公報 特開平10−158815号公報 特開平10−64986号公報 特開平6−200377号公報
最近の半導体加工技術の分野では、より高度で高い精密加工を目指すという観点から、半導体加工装置あるいはそれの部材、部品を、各種のハロゲンやハロゲン化合物による厳しい腐食環境に曝すことが多い。このような装置等では、プラズマエッチング時に発生する腐食性の強いハロゲンイオンの存在によって、使用環境がより厳しいものになる。さらに、高い精密加工が要求される最近の半導体加工装置用部材については、微細な環境汚染物質(パーティクル)でさえも、忌避されるようになってきた。
発明者らの研究によると、前記環境汚染物質(パーティクル)の主成分は、半導体加工装置内に配設されている部材およびその表面に被覆されている表面処理皮膜の構成成分であることがわかってきた。従って、現在、耐ハロゲン腐食用部材あるいは耐プラズマエロ一ジョン用表面処理皮膜として用いられている部材および皮膜についてはもっと改良が必要であると考えられる。即ち、最近の研究対象となっている各種の半導体デバイス加工用装置では、薄膜成分中のSi以外の元素、金属、非金属化合物類等はすべて汚染物質であると考えられているからである。
したがって、特許文献1〜4に開示されているような各種の耐食・耐プラズマエロージョン用皮膜、およびSi薄膜の吸・脱着用の静電チャック部材を構成する酸化物、珪化物、窒化物などの皮膜や焼結体は、現在ではむしろ汚染源の一つである。
また、特許文献6〜10に開示されている炭素と水素を主成分とするDLCおよびその皮膜は、金属成分を含まない非金属材料で形成されているため、ハロゲンおよびハロゲン化合物に対しても十分な耐食性を発揮する。しかし、このDLCおよびその皮膜は、静電チャックの電極面にSi薄膜を吸・脱着することを目的として開発され、硬質で高い電気抵抗率(10〜1013Ωcm)が付与されているため、急激な温度変化やそれに伴う変形によって損傷や剥離が発生しやすく、これを半導体加工装置用各部材に使用することには多くの問題があった。
本発明は、従来技術が抱えている、例えば、以下に示すような問題点を解決することを目的として開発された技術である。
(1)炭素を主成分とするDLCは、非常に硬く(特に電気抵抗率が10〜1013Ωcmと高いものについて)延性に乏しいため、基材が加熱されるような環境では、基材とDLCとの間に大きな熱応力が発生して容易に剥離する。即ち、僅かな熱的・機械的衝撃や曲げ応力がかかっても剥離する他、時として室内に放置しただけでも室温の変化などによって剥離する。とくに、電気抵抗率の高いDLCは、成膜中に大きな残留応力が生じるため、厚膜にすることができないと同時に、ピンホールも多く存在する。従って、DLC自体は腐食性に優れた材料であったとしても、薄膜しかできないことおよびピンホールから侵入する腐食成分によって、基材が容易に腐食される。
(2)DLC自体は、耐ハロゲン腐食性に優れているものの、プラズマエッチング処理を受けたり、プラズマによって励起されたハロゲンイオンによって、簡単に剥離するのみならず、DLCが残留応力の影響を受けて丸い小さな筒状片となって周囲に飛散し、これが環境汚染源となる。そして、このような原因で剥離したDLCは、酸、アルカリ、ハロゲンなどによって腐食されず、また、蒸気化もしないために、HF、ClFなどの薬液による装置の洗浄技術では除去できず、このことが、却って環境汚染源となる。
(3)また、先行特許文献6〜10などに開示されている従来のDLC膜の形成方法では、10μm以上の厚さの膜形成が困難で、複雑な形状の部材表面に均等な厚さのDLCを形成することができなし、溶射皮膜や気孔を有するセラミック焼結体のような基材上への形成技術としては不十分である。
本発明は、上述した問題点を解決することを目的として開発されたものであって、反応容器内に被処理基材を保持し、その容器内に有機金属化合物のガスを導入すると共に、該基材には高周波電力と高電圧パルスとを重畳印加して、上記導入有機金属化合物系のガスから炭化水素系ガスプラズマを発生させることにより、15〜40at%の水素を含有するアモルファス状炭素・水素固形物の微粒子を気相析出させると同時に、金属の超微粒子を共析させ、これらを該基材の表面に吸着させて、金属粒子含有アモルファス状炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜を形成し、該気相析出蒸着膜中に含まれる金属超微粒子の一部またはそのすべてを酸化物の超微粒子へ変化させる酸化処理を行うことを特徴とする半導体加工装置用部材の製造方法を提案する。
本発明の上記製造方法においては、
a.前記アモルファス状炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜は、炭素含有量85〜60at%および水素含有量15〜40at%の微小固体粒子の堆積層からなり、かつこの膜中にはSi、Y、Mg、Alおよび周期律表IIIA族のランタン系列の金属から選ばれる1種以上の1×10−9m以下の超微粒子を3〜30at%分散含有し、80μm以下の厚さを有する薄膜層であること、
b.アモルファス状炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜を形成した後に行う酸化処理が、前記気相析出蒸着膜に対し、酸素ガスプラズマを照射か、この膜を酸素を含む環境で100℃〜500℃の加熱酸化処理をすることによって行うこと、
c.前記基材は、金属材料または非金属材料製基材、またはこれらの基材表面に形成されたセラミック焼結体、溶射皮膜、めっき皮膜、PVD皮膜、CVD皮膜,陽極酸化皮膜および再溶融処理皮膜のうちから選ばれるいずれか1種以上のアンダーコート層によって構成されていること
d.前記基材または前記アンダーコート層は、その表面に、該表面を下記高エネルギー照射処理によって形成される2次再結晶層を有すること、
(イ)電子ビーム照射:
照射雰囲気:1×10 −1 〜5×10 −3 MPa
照射出力:10〜30KeV
照射速度:1〜20mm/S
(ロ)レーザー照射:
レーザー出力:2〜4kw
ビーム面積:5〜10mm
ビーム走査速度:5〜20mm/S
e.前記気相析出蒸着膜は、プラズマCVD処理の他、PVD処理、イオンプレーティング処理、スパッタリング処理、有機金属化学気相成長法などのいずれかの方法によって得られた皮膜であること、
がより好ましい解決手段を与える。
(1)本発明によれば、高周波電力と高電圧パルスとを重畳する気相析出蒸着法の処理によって、被処理基材の表面部分に、金属酸化物の超微粒子を含む炭素と水素からなるアモルファス状の微小固体粒子を被覆して層を形成するのみならず、この層を被処理基材、特に溶射皮膜の場合には、その気孔中にも侵入充填させることにより、被処理基材の欠陥を補修できるとともに、金属酸化物の超微粒子を含むアモルファス状炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜を一定の厚さに容易に形成することができる。
(2)本発明によれば、被処理基材に負電圧を印加することによって、正に帯電した金属イオンとラジカル状態の炭素と水素からなる微小固体粒子が、基材のあらゆる表面部分に均等に吸着して堆積するので、複雑な形状をした該基材のあらゆる部分、とくに隠れた部分にも、また微小な気孔内に対しても侵入するので、均等な膜を形成することができると共に、開気孔を確実に封孔することができるようになる。
(3)本発明によれば、基材表面に被覆された金属酸化物の微粒子を含むアモルファス状の炭素・水素固形物の層(気相析出蒸着膜)は、緻密で密着性に優れるほか、成膜時の残留応力が小さく、化学的にも安定しているため、海水、酸、アルカリ、有機溶剤に冒されず化学的に安定しており、基材の封孔と耐食被覆を同時に実現できる。
(4)本発明によれば、金属または金属酸化物のナノオーダー級の超微粒子を含むバルク材としてのアルモファス状炭素・水素固形物からなる皮膜は硬度が比較的低く(Hv:500〜2300)延性を有し、電気抵抗率が10Ωcm未満であるため、基材に熱的・機械的な曲げ変形が加わっても剥離するようなことがない。
(5)本発明によれば、基材表面に被覆した金属酸化物の超微粒子を含むアモルファス状炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜が80μm以下、好ましくは0.5μm〜50μmの厚さに成膜した場合であっても、基材表面に耐剥離性に優れた皮膜を形成することができる。
(6)本発明によれば、前記金属酸化物の超微粒子を含むアモルファス状炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜は、密着性および延性に優れる他、環境のハロゲン化合物の種類によって、金属酸化物粒子の種類を選択使用することによって、アモルファス状炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜の特性を活かしつつ、金属酸化物が有する機能をそのまま発揮させることができるため、パーティクルの発生源となる腐食生成物の発生を根絶させることができる。
従って、上述したアモルファス状炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜にて被覆された半導体加工処理装置用部材は、例えば、反応容器内部材等が常に清浄な環境に維持されるため、高度かつ高精密な半導体加工処理を長時間にわたって効率よく行うことができるようになる。
プラズマCVD処理装置の略線図である。 本発明方法により製造したSiO酸化物粒子を共析させたDLC膜の断面例である。(電子顕微鏡写真) 本発明方法により製造した皮膜の断面構造例である。 セラミック溶射皮膜を電子ビーム照射したものの断面ミクロスケッチ例である。 ハロゲン化合物を含むガスを活性化させた腐食試験装置の略線図である。
初めに、本発明において重要な役割を担うアモルファス状炭素・水素固形物からなる気相析出蒸着膜(以下、単に「DLC膜」という)および金属酸化物の超微粒子を含むDLC膜(以下、単に「酸化物粒子含有DLC膜」という)を形成するための気相析出蒸着膜装置について説明する。図1は、基材の表面にDLC膜を形成するための装置(以下、「プラズマCVD装置」の例を示す)を示す。このプラズマCVD処理装置は、接地された反応容器1と、この反応容器1内の所定の位置に配設される被処理基材2に接続される導体3と、この反応容器1内に成膜用の炭化水素ガスおよび有機系金属化合物のガスを導入する装置(図示せず)や反応容器1を真空引きする真空装置(図示せず)等を介して、高電圧パルスを印加するための高電圧パルス発生電源4等を備えてなるものである。そして、この装置には、また、被処理基材2の周囲に炭化水素系ガスプラズマを発生させるためのプラズマ発生用電源5が配設されている他、前記導体3および被処理基材2に高電圧パルスおよび高周波電圧の両方を同時に印加するために、高電圧パルス発生電源4およびプラズマ発生用電源5との間に重畳装置6が配設されている。なお、ガス導入装置および真空装置は、それぞれバルブ7aと7bを介して反応容器1に接続され、導体3は高電圧導入部9を介して重畳装置6に接続されている。
上記装置を用い。電気導伝性の被処理基材2の表面に、アモルファス状炭素・水素固形物を吸着させてこれらの堆積層を形成するには、被処理体2を反応容器1内の所定の位置に設置し、真空装置を稼動させて該反応容器1中の空気を排出して脱気したあと、ガス導入装置によって有機系ガスを該反応容器1内に導入する。次いで、プラズマ発生用電源5からの高周波電力を被処理基材2に印加する。そうすると、反応容器1は、アース線8によって電気的に中性状態にあるため、被処理基材2は、相対的に負の電位を有することになる。このため、印加によって発生する有機系ガスのプラズマ中のプラスイオンは、負に帯電した被処理基材2のまわりに発生することになる。
この状態において、高電圧パルス発生電源4からの高電圧パルス(負の高電圧パルス)を被処理基材2に印加すると、有機系(炭化水素系)ガスプラズマ中のプラスイオンの性質をもつアモルファス状炭素・水素固形物の微粒子が、該被処理基材2の表面に誘引吸着されることとなって付着堆積し、時間の経過にともなって膜状に成長して皮膜を形成する。即ち、反応容器1内では、最終的には炭素と水素とからなるアモルファス状炭素・水素固形物の微粒子が、被処理基材2のまわりに気相析出し、次いで基材表面全体に亘ってDLC膜を形成するものと考えられる。
即ち、このようなプラズマCVD処理装置(方法)によって、溶射皮膜上にアモルファス状炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜が形成されるプロセスは、以下の(a)〜(c)を経て形成されるものと考えられる。
(a)導入された炭素水素系ガスのイオン化(ラジカルと呼ばれる活性な中性粒子も存在する)が起り、
(b)炭化水素系ガスから変化したイオンおよびラジカルは、負の電圧が印加された被処理体の面に衝撃的に衝突し、
(c)衝突時のエネルギーによって、結合エネルギーの小さいC−H間が切断され、その後、活性化されたCとHが重合反応を繰り替えして高分子化し、炭素と水素を主成分とするアモルファス状の炭素・水素固形物を、基材の表面や溶射皮膜の気孔内に気相析出する。
上記装置では、高電圧パルス発生電源4の出力電圧を、下記(a)〜(d)のように変化させることによって、被処理剤2に対して金属等のイオン注入も可能である。特に基材やアンダーコートの表面に、Si、C、Taなどのイオンを注入しておくと、DLC膜の密着性が向上するので好適である。
(a)イオン注入を重点的に行う場合:10〜40kV
(b)イオン注入と皮膜形成の両方を行う場合:5〜20kV
(c)皮膜形成のみを行う場合:数百V〜数kV
(d)スパッタリングなどで重点的に行う場合:数百V〜数kV
なお、前記高電圧パルス発生電源4では、パルス幅:1μsec〜10msecで、1〜複数回のパルスを繰り返し発生させることができる。また、プラズマ発生用電源5の高周波電力の出力周波数は、数十kHzから数GHzの範囲で変化させることができる。
この装置の反応容器1内に導入するDLC膜形成用の有機系ガスとしては、炭素と水素からなる炭化水素系ガスが好適である。例えば、次のようなものが用いられる。
(イ)常温(18℃)で気相状態のもの
CH、CHCH、C、CHCHCH、CHCHCHCH
(ロ)常温で液相状態のもの
CH、CCHCH、C(CH、CH(CHCH
なお、常温で液相状態のものは、加熱して発生したガスによって行えば、DLC膜を形成することができる。
次に、金属の超微粒子を含むDLC膜の形成方法とこの金属超微粒子の酸化物への転換方法について説明する。
(1)金属の超微粒子を含むDLC膜の形成方法
金属の超微粒子を含むDLC膜は、前記炭化水素系のものに金属元素を結合させた有機金属化合物を用いることによって形成できる。この有機金属化合物の大部分は、常温で液相状態を示すものが多い。したがって、液相状態の有機金属化合物を加熱してガス状とした後、反応容器1に導入して電圧を印加すると、基材表面に炭素と水素を主成分とする固形状態のアモルファス膜中に金属の超微粒子が共析する。このDLC膜中に共析する金属の超微粒子の大きさは、すべてナノオーダー(1×10−9m以下)であるため、光学顕微鏡はもとより、電子顕微鏡においても判別困難なほどである。
この目的に使用する有機金属化合物としては、例えば、Siの粒子を析出させるには、(CO)Si、(CHO)Si、(CHO)Si、[(CHSi]Oなどが好適であり、他の金属を共析させるには、前記有機化合物のSiの位置にAl、Y、Mgおよび周期律表IIIA族のランタン系列元素を付加したものを使用することによって可能となる。例えば、ランタン系列金属の析出には、(C1119)や(C1221)基に、ランタン系金属が結合した有機金属化合物を用いることによって得られる(例えば、Sm(C1119、Yb(C1119、Sm(C1221、Gd(C1221など)。また、合金や2種以上の金属粒子を共析させる場合には、それぞれの有機金属化合物のガス(蒸気)を処理容器中に導入することによって得られる。
本発明の方法によって得られるDLC膜中の金属超微粒子の共折量は、Siの場合を例にとると、3〜30at%の範囲が本発明の目的には好適である。その共析量が30at%以上では、品質管理が困難なうえ、これ以上濃度を上げても効果の向上が得られないためであり、また3at%未満では、これを酸化させた際、均等な酸化膜の形成が得られないからである。なお、Y、Mg、Alおよびランタン系列金属の場合も上記と同様な範囲の共析率が適当である。
(2)DLC膜に含まれる金属について
DLC膜中に金属酸化物の微粒子を共存させる方法については、後述するが、本発明の目的に適した金属粒子として次のものが好適である。
Si、Y、Mg、Alおよび周期律表IIIA族に属する原子番号51〜71までのランタン系列元素が適当である。具体的には、ランタンLa、セリウムCe、プラセオジムPr、ネオジムNd、プロメチウムPm、サマリウムSm、ユウロビウムEu、ガドリニウムGd、テルビウムTb、ジスプロシウムDy、ホルミウムHo、エルビウムEr、ツリウムTm、イッテルビウムYb、ルテチウムLu、15元素である。
これらのランタン系列金属は、酸化されやすく、水分とも容易に反応して水素ガスを発生し、水素、窒素、ハロゲンとも反応するので、金属自体の耐食性は非常に低い。しかし、これらの金属を酸化物に変化させると耐食性が格段に向上するとともに、特にSi、Y、Mg、Alなどの金属の酸化物が混在すると、従来のDLC膜のみのものに比較すると、優れた耐ハロゲン性と耐プラズマ・エロージョン性とを発揮する特徴がある。
なお、金属酸化物の微粒子を含まないDLC膜は、次に示すような特性を示す。
(1)一般的なDLC膜は、高電気抵抗性および化学的安定性には優れているものの、励起されたハロゲン系のプラズマイオンの衝撃を受けると、容易に損傷を受け膜が破壊される。
(2)DLC膜は、成膜時に大きな残留応力をもっているため、熱衝撃や該プラズマイオンによって破壊されやすい。
(3)DLC膜は、破壊されると円筒状のように丸くなって飛散し、Siウエハー上に落下して、製品不良の原因となる。
(4)DLC膜を単体で使用する場合、しばしば膜に存在するピンホールによって、腐食が加速されることがあり、信頼性に欠ける傾向がある。
これに対してナノオーダー級の超微粒子である金属酸化物粒子を含む酸化物粒子含有DLC膜は、次に示すような特徴と作用効果を発揮する。
(1)この酸化物粒子含有DLC膜は、残留応力が少ない上、電気抵抗率が10cm未満であるため、この層を形成しても下層の通常のDLC膜のジョンソンラーベック作用に大きな影響を与えず、熱衝撃によっても剥離することがない。
(2)プラズマによって励起されたハロゲンイオンの衝撃に強く、高いプラズマ・エロージョン性を発揮する。
(3)高精度・高清浄化してい現在の半導体加工装置では、ウエハー材質のSi以外はすべて環境汚染物質であると考えられているような環境でも、SiOのような酸化物粒子含むDLC膜であれば、たとえプラズマエッチングされたとしても汚染物質の発生源とはならない。
(3)DLC膜に含まれている金属の超微粒子の酸化方法
DLC膜中に含まれている金属の超微粒子は、次のような方法の採用によって酸化物に変化させることができる。
a.酸素ガスを含む雰囲気中で加熱する
金属の超微粒子を含むDLC膜を空気中または酸素ガスを含む雰囲気炉などの環境で加熱すると、このDLC膜に含まれている金属の超微粒子は膜の表面から酸化して、酸化物に変化する。具体的にはSi→SiO、Al−Al、Y→Yなど化学的に安定な酸化物に変化して、耐食性と耐プラズマ・エロージョン性を発揮することとなる。この場合の加熱温度は、上限を500℃とする。加熱時間は、DLC膜中に含まれている金属微粒子の酸化物の変化速度に応じて決定されるが、例えば、0.1〜1.0h程度である。なお、DLC膜中に含まれている金属の超微粒子がすべて酸化物に変化している場合には、それ以上加熱時間を長くすると、DLC膜自体が熱的に劣化するおそれがある。
上記加熱温度について、これを500℃以上にするとDLC膜が劣化して、化学的安定性が低下すると共に、物理的特性も低下し、場合によっては膜にクラックが発生することがある。一方、100℃以下の温度では、金属超微粒子の酸化速度が遅く生産的でない。
b.酸素ガスプラズマによって酸化させる
例えば、図1のプラズマCVD装置を用い、雰囲気ガスとして酸素ガスまたはAr、Heなどに酸素ガスを含ませたガスを導入し、金属超微粒子を含むDLC膜を有する基材を負に帯電させてプラズマを発生させると、DLC膜に含まれる金属超微粒子は励起された酸素イオンの衝撃を受け、表面から次第に酸化物へと変化する。この方法はDLC膜の形成後、直に実施できるうえ、DLC膜が過熱されるおそれがないため、加熱酸化法に比較すると、品質が安定しており、また生産性の向上に繋がるので有利である。
図2は、基材の表面に中間層として絶縁性を有するDLC膜を形成した後、その上にSi酸化物の超微粒子を含むDLC膜を被覆し、これを酸素ガスプラズマ照射法によって酸化処理したDLC膜の断面を示したものである。中間層である通常のDLC膜とSiOの微粒子を含む酸化物粒子含有DLC膜との接合部は殆ど確認できないほどよく密着している。また、SiO粒子の大きさは、高倍率の電子顕微鏡で観察しても明らかでないほど微細(理論値として直径3.57×10−10m)であり、これらの粒子が無数に層状に集合して耐食性を発揮している状況がわかる。
図3(a)〜図3(d)は、本発明方法を適用して製造した金属酸化物の微粒子を含むDLC膜の構造例を示すものである。
図3(a)は、金属または非金属基材31の表面に直接、金属酸化物の超微粒子を含む酸化物粒子含有DLC膜32を積層した場合の基本的な構造である。
図3(b)は、上記基材の表面に、金属酸化物を含まない通常のDLC膜33を中間層として形成した後、その上に、金属酸化物の超微粒子を含む酸化物粒子含有DLC膜を被覆した例である。
図3(c)は、前記基材の表面に、溶射皮膜、めっき皮膜、PVD皮膜、CVD皮膜、陽極酸化皮膜および再溶融処理膜などのアンダーコート34を形成した後、その上に金属酸化物の超微粒子を含む酸化物粒子含有DLC膜を被覆した例であり、現行の技術によって皮膜形成されている半導体加工装置に配設されている各種の部材用防食皮膜として適用した場合の例である。
図3(d)は、前記基材の表面に、溶射皮膜、めっき皮膜、PVD皮膜、CVD皮膜、陽極酸化皮膜および再溶融処理膜などのアンダーコートを形成した後、その表面に通常のDLC膜33を形成し、さらにその上に、最外層膜として、金属酸化物の微粒子を含む酸化物含有DLC膜を被覆したものである。
本発明方法を適用して製造した半導体加工装置用部材においては、次に示すような密着性向上機能が付加されているため、耐食性に加え、優れた耐熱衝撃性を発揮するものが得られる。即ち、プラズマCVD法等によって被覆形成されるDLC膜は、金属の超微粒子の有無にかかわらず、有機金属化合物の蒸気(ガス)が、プラズマエネルギーによって分解して励起されたナノオーダー級の大きさ(1×10−9m以下)の粒子、金属イオンとなって、負に帯電している基材またはアンダーコート表面に電気的な衝撃によって付着するという特徴がある。このため、基材やアンダーコート表面に、ピンホール、微小なひび割れなどが存在しても、これらの欠陥内部へ侵入して、これを充填・封孔するミクロ的な補修作用を発揮する。このような封孔作用は、この上に積層する金属粒子含有DLC膜のアンカー効果(投錨効果)としても極めて有効に寄与するため、優れた密着性を発揮する原因となっているものと考えられる。
(実施例1)
この実施例では、Al基材の表面に形成したアモルファス状炭素・水素固形物の層(DLC膜)の水素含有量と基材の曲げ変形に対する抵抗およびその後の耐食性の変化について調査した。
(1)供試基材および試験片
供試基材は、Al(JIS−H4000規定の1085)とし、この基材から、寸法:幅15mm×長さ70m×厚さ1.8mmの試験片を作製した。
(2)DLC膜の形成方法およびその性状
試験片の全面にわたって、DLC膜を1.5μmm厚さに形成した。このとき、DLC膜中の水素含有量を5at%〜50at%(残部は炭素)の範囲に制御したものを用いた。
(3)試験方法およびその条件
DLC膜を形成した試験片を、90°に曲げ変形を与え、曲げ部のDLC膜の外観状況を20倍の拡大鏡で観察した。また、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験に供し、96時間曝露した。
(4)試験結果
表1に試験結果を示した。この試験結果から明らかなように、DLC膜中の水素含有量は少なく、炭素含有量の多いもの(No.1〜3)では、90°の曲げ変形を与えると、膜が剥離もしくは局部的に剥離した。一方、これらの剥離試験片を塩水噴霧試験に供すると、基材にAlが腐食され、多量の白さびが発生し、耐食性を完全に消失していることが判明した。これに対して、水素含有量が15at%以上〜50at%(No.4〜8)のDLC膜は、曲げ変形によっても剥離せず、塩水噴霧試験にもよく耐え、優れた耐食性を継持していることが確認された。
Figure 0005286528
(実施例2)
この実施例では、DLC膜と金属酸化物の超微粒子を含む酸化物粒子含有DLC膜の膜厚と耐食性との関係について調査した。
(1)供試基材と皮膜
a.供試基材として、腐食作用によって赤さびを発しやすいSS400鋼(寸法:幅30mm×長5mm×厚さ3.2mm)を用いた。
b.DLC膜:図1に示した装置を用いて、基材の全表面に対して、膜厚0.5μm、1.0μm、3.0μm、8.0μm、15.0μmの厚みに形成したDLC膜と、このDLC膜に同じ膜厚に形成したSiO酸化物粒子を、22at%含む酸化物粒子含有DLC膜の2種類の供試膜を準備した。なお、SiO酸化物は酸素ガスプラズマ照射によって作成した。
(2)腐食試験条件
a.湿度95%の恒温槽(30℃)の雰囲気中に800時間放置して、DLC膜の変化を調査した。
b.JIS Z2371に規定されている塩水噴霧試験を800時間行いDLC膜の一般耐食性を調査した。
c.3mass%HCl水溶液中に48時間浸漬しDLC膜の耐酸性を調査した。なお、上記の試験には、比較例としてそれぞれ無処理のSS400鋼試験片を同条件で試験した。
(3)試験結果
試験結果を要約し、表2に示した。この結果から明らかなように、無処理のSS400鋼試験片は、95%湿度中でも赤さびを発生し、塩水噴霧試験後では赤さびが黒変化するなど腐食が進行すると共に、3%HCl水溶液中では化学的に溶出するなど極めて耐食性に乏しいことがわかる。これに対して、DLC膜は、これを3μm以上の厚さに形成すると、腐食性の強い3%HCl水溶液に対しても、十分な耐食性を発揮することが確認された。また、これらの試験条件では、DLC膜の中でも、この膜中に含まれるSiO酸化物粒子が含まれているものは、優れた耐食性を示し、酸化物粒子を含まないDLC膜の耐食性に比較して、遜色のないことが判明した。
Figure 0005286528
(実施例3)
この実施例では、半導体加工装置に使用される各種装置の基材および表面処理皮膜に対する酸化物微粒子含有DLC膜の形成について調査した。
(1)供試基材および表面処理皮膜
(a)石英
(b)ソーダ硝子
(c)焼結材料(SiO、Al、AlN)
(d)ポリカーボネート(有機高分子材料)
(e)PVD法(Al、TiN、TiC厚さ1.5μm)
(f)CVD法(Al、TiC厚さ1.8μm)
(g)陽極酸化アルミニウム((Al、8μm)
(2)酸化物粒子含有DLC膜の形成方法
図1に示したプラズマCVD装置を用い、有機珪素化合物を成膜材料として供試皮膜の表面に、それぞれ5μm厚に被覆したDLC膜中の水素含有量は、18at%であり、また、SiO含有量は21.2at%である。また、SiOの酸化方法は、酸素ガスプラズマ法を用いた。
(3)試験結果
表3に試験結果を示した。この試験結果から明らかなように、SiO微粒子を含むDLC膜は、石英、硝子、ポリカーボネートなどの被金属材料はもとより、焼結体、PVD、CVD、陽極酸化膜などに対して良好な密着性を示すことが確認され、これらの基材の保護皮膜として有利であることが確認された。
なお、金属酸化物として、Y、Al、MgO、CeO、Ybなどの微粒子を含むアモルファフ状固形物皮膜も供試基材に対して良好な密着性を示した。
Figure 0005286528
(実施例4)
この実施例では、基材の表面に、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどのアンダーコートを施工した後、その上に、直接、または酸化物の微粒子を含まないDLC膜を形成した後に、その上に、酸化物粒子含有DLC膜を被覆したものの耐熱衝撃性を調査した。
(1)供試基材と皮膜
a.供試基材として、Al合金(JIS H400規定6061合金)Ti合金(JIS H4600規定60種合金)Mg合金(JIS H4201規定1種合金)からそれぞれ試験片(寸法:幅30mm×長さ50mm×厚さ2.0mm)を採取した。
b.アンダーコートとして、供試基材の表面にAl(溶射皮膜50μm)AlN(PVD法5μm)を形成後、実施例2と同じ方法によって、これらのアンダーコートの全表面を、DLC膜および酸化物粒子含有DLC膜によって被覆した皮膜試験片を作製した。
(2)熱衝撃試験条件
(i)熱衝撃試験として、それぞれの皮膜試験片を大気中で加熱後、20℃の水道水中に投入する操作を1サイクルとして10回繰り返した後、皮膜の表面を拡大鏡を用いて観察した。
試験条件(a)200℃×15分間加熱→20℃水道水中投入
(b)350℃×10分間加熱→20℃水道水中投入
(3)試験結果
熱衝撃試験結果を表4に要約して示した。この結果から明らかなように、従来のDLC膜(金属酸化物粒子を含まないDLC膜:No.1、3、5、7、9、11)は、加熱温度の比較的低い200℃→水冷の条件では健全な状態を維持したが、加熱温度が350℃に上昇するとDLC膜の一部に亀裂が発生するとともに、局部的ながら剥離する傾向が認められた。
これに対して、本発明に特有のSiOを含む酸化物粒子含有DLC膜は、350℃→水冷の条件でも健全な状態を維持しており、膜に亀裂はもとより剥離も認められなかった。
このような結果は、通常のDLC膜は、成膜状態における残留応力が大きいため、熱衝撃の負荷によって亀裂を発生しやすいのに対し、SiO粒子を含む酸化物粒子含有DLC膜では残留応力が小さく、熱衝撃をはじめ基材やアンダーコートの物理的変化の影響を受け難い様子がうかがえる。
Figure 0005286528
(実施例5)
この実施例では、SS400鋼基材で製作した試験片の表面に、酸化物系セラミック溶射皮膜を直接、形成した後、その表面にY微粒子を15at%含む酸化物粒子含有DLC膜を被覆した後、塩水噴霧試験に供してその耐食性を調査した。
(1)基本および試験片寸法
SS400鋼(寸法:幅50mm×長さ70mm×厚さ3.2mm)
(2)溶射皮膜の種類と溶射法
試験片の表面に直接、下記酸化物系セラミックを大気プラズマ溶射法によって70μm厚さに形成した。セラミック溶射皮膜をやや薄く施工したのは、DLC膜の封孔・被覆効果を短時間の試験によって判別するためである。
(a)Al
(b)Cr
(c)8mass%Y・92mass%ZrO
(d)98mass%Al・MgOスピネル
(e)98mass%Al・2mass%TiO
(f)Y
(3)酸化物粒子含有DLC膜の形成と厚さ
実施例1と同じ装置を用い膜厚5μmに形成した(水素含有量16〜26at%)。
(4)腐食試験条件
JIS Z2371規定の塩水噴射試験方法により、96時間の腐食試験を行った。
(5)評価方法
腐食試験の評価は、試験前後における酸化物系セラミックの表面における赤さびの発生の有無によって判定した。なお、比較として、酸化物粒子含有DLC膜を被覆しない溶射皮膜を同条件で試験した。
(6)腐食試験結果
表5に腐食試験結果を示した。この試験結果から明らかなように、無処理の溶射皮膜(No.2、4、6、8、10、12)には、すべて赤さびの発生が認められた。即ち、セラミック溶射皮膜の気孔から塩水が内部に浸入してSS400鋼を基材を腐食し、溶出した鉄イオンが皮膜表面に浮上して赤さびを発生したものと考えられる。これに対して、酸化物粒子含有DLC膜を被覆した試験片(No.1、3、5、7、9、11)は、いずれのセラミック皮膜に対しても良好な封孔性と被覆性能を発揮し、赤さびの発生は認められなかった。
Figure 0005286528
(実施例6)
この実施例では、SUS316基材の表面に直接、SiO粒子量の異なる酸化物粒子含有DLC膜を形成した後、これに曲げ変形を与えた試験片を作製した。その後、この試験片を用いて活性化されたハロゲンガス雰囲気中の腐食試験を行って、DLC膜および酸化物粒子含有DLC膜の耐食性を調査した。
(1)供試基材と皮膜
a.供試基材として、SUS316鋼(寸法:幅10mm×長さ60mm×厚さ2.0mm)を用いた。
b.DLC膜、図1に示した装置によって、基材の全表面に対してSiO含有量が1〜32at%の範囲にある酸化物粒子含有DLC膜を被覆した。
(2)試験方法と条件
(i)曲げ試験:DLC膜を被覆した試験片の中央部を90°に曲げ変形を与え、曲げ部における皮膜の損傷の有無を拡大鏡(×5倍)を用いて観察した。
(ii)活性ハロゲンガス試験:この試験には図5に示す装置を用いた。この試験では、試験片51を電気炉52の中心部に設けられたステンレス鋼管53の内部の設置台56上に静置した後、腐食性のガス54を左側から流した。配管途中に設けた石英放電管45に出力600Wのマイクロ波を付加させて、腐食性ガスの活性化を促した。また活性化した腐食性ガスは電気炉中に導き、試験片51を腐食した後、右側から系外に放出させた。
また、この試験では、試験片温度200℃、腐食性ガスHCl300ppm、NF15ppm、O100ppm、残りArを75ml/minを流しつつ、30時間の腐食試験を行った。
(3)試験結果
試験結果を表6に要約した。この結果から明らかなように、曲げ試験では、金属酸化物粒子の有無にかかわらず、皮膜に割れの発生は認められなかった。しかし、曲げ試験後のDLC膜を腐食試験を行うと、SiO酸化物粒子を含まない皮膜(No.1)およびSiO含有量1at%の皮膜(No.2)の表面では、直径1〜3mm程度の丸い剥離現象が数カ所に発生した。この原因は、拡大鏡では発見できない小さなピンホールを通して、腐食性のガスが内部へ侵入し、基材を腐食することによって、DLC膜の密着性を低下させたものと考えられる。これに対して、SiO酸化物粒子を3〜30at%含むDLC膜(No.3〜6、9〜12)では、試験後も全く異常は認められず、健全状態を維持していた。ただ、SiO酸化物粒子を32at%含むDLC膜(No.7、13)では、表面に僅かながら赤さびが認められたので、皮膜に基材表面に達するピンホールもしくは割れの存在がうかがえる。この原因は、SiO酸化物粒子含有量が多くなると、曲げ変形によって皮膜が脆くなる傾向にあるためと考えられる。
Figure 0005286528
(実施例7)
この実施例では、Al合金基上に直接、各種の金属酸化物を含むDLC膜を形成したものと、中間層として金属酸化物粒子を含まないDLC膜を形成した後、その上に本発明に係る各種の金属酸化物粒子を含むDLC膜を積層させたものの耐食性を調査した。
(1)供試基材と皮膜
a.供試基材として、Al合金(JIS H4000規定の6061)の試験片(寸法:幅30mm×長さ50mm×厚さ2mm)を用いた。
b.供試皮膜として、基材に直接SiO、Y、Al、Yb、CeOを含むDLC膜を5μmの厚さに形成したものと、中間層として酸化物粒子を含まないDLC膜を5μm形成後、酸化物粒子含有DLC膜を形成した試験片を作製した。
(2)試験条件
腐食試験条件として、次の3種類の試験を実施した。
a.活性ハロゲン試験:実施例6と同じ要領で実施
b.HCl蒸気試験:HClを300ppm含む空気中で60℃、100時間の腐食試験を実施
(3)試験結果
試験結果を表7に要約した。この結果から明らかなように、DLC膜中に酸化物粒子を含まない試験片(No.1、7)では、ピンホールを通して内部に浸入した腐食成分によって基材が腐食され、皮膜の一部が剥離した。
これに対して、酸化物粒子含有DLC膜は、基材に直接またはDLC膜の中間層の上に積層した試験片(No.2〜6、8〜12)はすべて優れた耐食性を発揮し、異常は認められなかった。これらの結果から、酸化物粒子含有DLC膜は、金属微粒子の酸化によって体積が膨張することによって、DLC膜に存在するピンホールを封孔する一方、金属酸化物自体が優れた耐食性を保有するためと考えられる。
Figure 0005286528
(実施例8)
この実施例では、複数の酸化物粒子を含む酸化物粒子含有DLC膜の耐熱衝撃性と耐ハロゲン腐食を調査した。
(1)供試基材と皮膜
a.供試基材として、市販されているグラファイト板(寸法:幅30mm×長さ50mm×厚さ5mm)を用いた。
b.供試皮膜の構造および厚は、実施例5に同じ。だだし、DLC膜に含ませる金属酸化物粒子は複数とし、その混在比を0.4〜0.5/0.6〜0.5at%比となるように成膜した。
金属酸化物の組合せ:SiO/Al、Al/Y、Y/CeO
(2)試験方法と条件
a.熱衝撃試験:大気中で350℃×10分間加熱した後、これを20℃の水道水中に投入する操作を操作を10回繰り返した。
b.活性ハロゲンガス腐食:実施例5と同じ条件で実施した。
(3)試験結果
試験結果を表8に要約した。この結果から明らかなように、グラファイト基材に対して、直接または酸化物粒子を含まないDLC膜の中間層上に、複数の金属酸化物粒子を含む酸化物粒子含有DLC膜を積層させても、熱衝撃試験に耐えるとともに、活性化されたハロゲン化合物のガスに対しても優れた耐食性を発揮することが確認された。
Figure 0005286528
(実施例9)
この実施例では、腐食性の厳しい雰囲気や有機溶剤を取扱う環境で使用する場合を考慮して、耐食性の乏しいSS400鋼基材の表面に、金属系のアンダーコートを施した際の酸化物セラミック溶射皮膜に対する酸化物粒子(Al)を含むDLC膜の防食効果を調査した。
(1)基材:実施例2と同じ寸法のSS400鋼板を供試した。
(2)溶射皮膜の種類と溶射法(数字はmass%)
(a)アンダーコート:80mass%Ni−20mass%Cr(大気プラズマ溶射法)
(b)トップコート:Al、Y、8mass%Y−92mass%ZrO(大気プラズマ溶射法)
なお、膜厚は、アンダーコート50μm、トップコート150μmである。
(3)酸化物粒子含有DLC膜の形成方法と膜厚
実施例3と同じ方法で膜厚5μmにした(水素含有量26〜34at%)。
(4)腐食条件
(イ)5%HCl:5%HCl水溶液を入れたピーカを20〜23℃に維持し、試験片を浸漬し、耐酸性を評価した。
(ロ)2%NaOH:2%NaOH水溶液を入れたビーカ中に試験片を浸漬し、20〜23℃の温度で24時間の耐アルカリ性を評価した。
(ハ)95%トルエン:試薬用の95%トルエン溶液中(15〜20℃)に試験片を24時間浸漬して、耐有機溶剤性を評価した。
(5)腐食試験結果
表9に腐食試験結果を示した。この試験結果から明らかように、アンダーコートおよびAlを含む酸化物粒子含有DLC膜の有無にかからず、5%NaOHと有機溶剤中では、赤さびの発生はなく、外観状態に変化は認められなかった。一方、5%HCl水溶液中では、アンダーコートを施工していても、酸化物粒子含有DLC膜が被覆されていない皮膜(No.2、4、6、8、10、12)では、トップコートの種類に関係なく、すべて腐食され、HCl水溶液の色調が黄色〜淡黄色に変化し、基材のSS400鋼およびアンダーコート成分の溶解が推定された。これに対して、DLC膜(No.1、3、5、7、9、11)を浸漬したHCl水溶液の色調は変化せず、皮膜は健全な状態を維持していた。
Figure 0005286528
(実施例10)
この実施例では、酸化セラミック溶射皮膜の表面を電子ビームおよびレーザーなどの高エネルギーを照射して、皮膜表面の成膜粒子を溶融させたものに対する金属酸化物の微粒子を含むDLC膜の防食効果について調査した。
(1)基材および試験片寸法
SS400鋼を用い、幅20mm×長さ30mm×厚さ3.2mmの試験片を採取した。
(2)溶射皮膜の種類と溶射法
溶射皮膜の種類:Y
大気プラズマ溶射法を用いて膜厚100μmに形成した。
(3)高エネルギー照射の種類とその条件
(a)電子ビーム照射:下記仕様の電子ビーム照射装置を用い、皮膜表面深さ3μmを再溶融した。
照射雰囲気:1×10−1〜5×10−3MPa
照射出力:10〜30KeV
照射速度:1〜20mm/S
(b)レーザー照射:下記仕様のレーザー照射装置を用い、皮膜表面から10μm再溶融した。
レーザー出力:2〜4kw
ビーム面積:5〜10mm
ビーム走査速度:5〜20mm/S
(4)金属酸化物粒子含有DLC膜の形成と膜厚
実施例2と同じ方法でY、Al、CeO各金属酸化物の超微粒子を含むDLC膜を5μm厚さに形成した。DLC膜中の炭素72at%、水素28at%である。
(5)腐食試験条件
(イ)塩水噴霧試験:JIS Z2371規定により96時間の試験実施
(ロ)活性ハロゲンガス試験:実施例4と同じ条件で実施
(ハ)HCl蒸気試験:化学実験用デシケ一夕ーの底部に30%HCl水溶液を入れ、その上部に多孔質ガラス板を配設した後、そのガラス板の上に試験片を静置し、この環境では蒸気圧の大きいHCl溶液から多量のHCl蒸気が発生し、SS400鋼は1hの暴露によって全面赤さびが発生するほどの腐食環境である。
(6)腐食試験結果
アンダーコートのY溶射皮膜を電子ビーム照射した試験片に対する酸化物粒子含有DLC膜の被覆防食効果を表10に、レーザ照射面に対する防食効果を表11に示した。この腐食試験結果から明らかなように、Y溶射皮膜を電子ビームおよびレーザ照射しても、そのままの状態の皮膜(No.1、5)では、すべての腐食試験に赤さびの派生が認められ、腐食成分の内部侵入を完全に防ぐことができない。
この原因を解明するため、電子ビームおよびレーザ照射した溶射皮膜の表面と断面を拡大鏡で観察すると、セラミック溶射皮膜特有の気孔は、溶融現象によって消失しているが、微小な割れが多数発生していることが判明した。図4はその代表的事例として、電子ビーム照射後のY溶射皮膜の断面ミクロ組織状況をスケッチしたものである。電子ビーム照射された溶射皮膜では、表層部近傍のみが溶融して緻密化する一方、冷却して凝固する際に微小な割れが発生していることが判明した。また、皮膜内部の非照射部では、溶射成膜時の多孔質性状を残存しているため、赤さびの発生原因は、微小な割れ部から内部へ侵入した腐食成分によって、基材のSS400鋼が腐食されたものと考えられるとともに、電子ビーム、レーザ照射によるセラミック溶射皮膜の封孔処理は十分でないことがうかがえる。
これに対して、酸化物粒子含有DLC膜は、これを溶射皮膜の照射面に被覆すると、腐食性の環境を遮断して、赤さびの発生を完全に防ぐことが認められた。
また、皮膜中に含まるY、Al、CeO酸化物粒子自体が各種ハロゲン系ガスに耐えるとともに、その粒子径が非常に小さい(ナノオーダ級1×10−9m以下)ため、DLC膜中に存在していても、マトリックスの炭素水素アモルファス状固形物との濡れ性がよく、酸化物粒子と炭素/水素を主成分とするアモルファス状固形物の両特性を複合的に発揮しているものと考えられる。
Figure 0005286528
Figure 0005286528
本発明の技術は、静電チャック、デポシールド、バッフルプレート、フォーカスリング、インシュレータリング、シールドリング、ベローズカバー、電極などの半導体加工装置用部材として用いられる。その他、本発明は、Si薄膜やSi薄膜の加工品などの搬送用部材の表面処理として好適であり、また、液晶デバイスなどのプラズマ処理容器内部材、部品に対しても適用が可能である。さらに、本発明は、鏡面研磨した溶射皮膜製品への用途、具体的には印刷用ロール、フィルム用ロール、感光紙用ロールなどの技術としても有効であるほか、液送ポンプ、真空ポンプ、送風機などのインペラー、ケーシングにも適用可能である。
1 反応容器
2 静電チャック用基材
3 導体
4 高電圧パルス発生電源
5 プラズマ発生用電源
6 重畳装置
7a、7b バルブ
8 アース
9 高電圧導入部
31 基材
32 酸化物粒子含有DLC膜
33 酸化物の微粒子を含まないDLC膜
34 アンダーコート
41 基材
42 セラミック溶射皮膜
43 貫通気孔
44 開気孔
45 金属酸化物の微粒子を含むDLC膜
46 空隙部
51 試験片
52 電気炉
53 ステンレス鋼管
54 腐食性ガス
55 石英放電管
56 試験片設置台

Claims (5)

  1. 反応容器内に被処理基材を保持し、その容器内に有機金属化合物のガスを導入すると共に、該基材には高周波電力と高電圧パルスとを重畳印加して、上記導入有機金属化合物系のガスから炭化水素系ガスプラズマを発生させることにより、15〜40at%の水素を含有するアモルファス状炭素・水素固形物の微粒子を気相析出させると同時に、金属の超微粒子を共析させ、これらを該基材の表面に吸着させて、金属粒子含有アモルファス状炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜を形成し、該気相析出蒸着膜中に含まれる金属超微粒子の一部またはそのすべてを酸化物の超微粒子へ変化させる酸化処理を行うことを特徴とする半導体加工装置用部材の製造方法。
  2. 前記アモルファス状炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜は、炭素含有量85〜60at%および水素含有量15〜40at%の微小固体粒子の堆積層からなり、かつこの膜中にはSi、Y、Mg、Alおよび周期律表IIIA族のランタン系列の金属から選ばれる1種以上の1×10−9m以下の超微粒子を3〜30at%分散含有し、80μm以下の厚さを有する薄膜層であることを特徴とする請求項1に記載の半導体加工装置用部材の製造方法。
  3. アモルファス状炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜を形成した後に行う酸化処理が、前記気相析出蒸着膜に対し、酸素ガスプラズマを照射か、この膜を酸素を含む環境で100℃〜500℃の加熱酸化処理をすることによって行うことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体加工装置用部材の製造方法。
  4. 前記基材は、金属材料または非金属材料製基材、またはこれらの基材表面に形成されたセラミック焼結体、溶射皮膜、めっき皮膜、PVD皮膜、CVD皮膜,陽極酸化皮膜および再溶融処理皮膜のうちから選ばれるいずれか1種以上のアンダーコート層を有するものによって構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の半導体加工装置用部材の製造方法。
  5. 前記基材または前記アンダーコート層は、その表面に、該表面を下記高エネルギー照射処理によって形成される2次再結晶層を有することを特徴とする請求項に記載の半導体加工装置用部材の製造方法。
    (イ)電子ビーム照射:
    照射雰囲気:1×10 −1 〜5×10 −3 MPa
    照射出力:10〜30KeV
    照射速度:1〜20mm/S
    (ロ)レーザー照射:
    レーザー出力:2〜4kw
    ビーム面積:5〜10mm
    ビーム走査速度:5〜20mm/S
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