JP5524993B2 - フッ化物溶射皮膜の形成方法およびフッ化物溶射皮膜被覆部材 - Google Patents

フッ化物溶射皮膜の形成方法およびフッ化物溶射皮膜被覆部材 Download PDF

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Description

本発明は、フッ化物溶射皮膜の形成方法およびフッ化物溶射皮膜被覆部材に関し、特に、各種のハロゲンガスやハロゲンが存在する環境下においてプラズマエッチング加工が施される半導体加工装置用部材などの表面に、炭化物サーメットのプライマー部を介して耐食性や耐プラズマエッチング特性に優れたフッ化物溶射皮膜を強固に付着被覆する方法と、この方法の実施によって得られるフッ化物溶射皮膜被覆部材について提案する。
上記の半導体加工装置類に多く採用されている耐食性表面処理皮膜の代表的適用例が溶射皮膜被覆部材である。この部材が、ハロゲンやハロゲン化合物が存在する環境下でプラズマ処理されたり、プラズマ処理によって発生する微細なパーティクルを洗浄除去することが必要となる半導体加工装置の分野において使用される場合、さらに、以下のような表面処理の検討が必要であり、そのための従来技術についても幾つかの提案がある。
即ち、半導体加工プロセスや液晶製造プロセスに使用されるドライエッチヤー、CVD、PVDなどの装置類は、シリコンやガラスなどの基板に形成する回路の高集積化に伴う微細加工の精度を向上させる必要性から、加工環境については一段と高い清浄性が求められている。その一方で、微細加工用の各種プロセスにおいては、フッ化物、塩化物をはじめとする腐食性の強いガスあるいは水溶液が用いられるため、これらのプロセス装置に配設されている部材類の腐食損耗が速く、その結果として、腐食生成物による二次的な環境汚染も無視できない状況になっている。
半導体ディバイスの製造・加工工程は、SiやGa、As、Pなどからなる化合物半導体を主体としたものを用いて、真空中もしくは減圧環境の中で処理されるいわゆるドライプロセスに属している。このようなドライプロセスで用いられる装置・部材としては、酸化炉、CVD装置、PVD装置、エピタキシャル成長装置、イオン注入装置、拡散炉、反応性イオンエッチング装置およびこれらの装置に付属している配管、給排気ファン、真空ポンプ、バルブ類などの部材、部品がある。しかも、これらの装置類は、BF、PF、PF、NF、WF、HFなどのフッ化物、BCl、PCl、PCl、POCl、AsCl、SnCl、TiCl、SiHCl、SiCl、HCl、Clなどの塩化物、HBrなどの臭化物、NH、CHFなど腐食性の強い薬剤およびガスを用いることで知られている。
また、ハロゲン化物を用いる前記ドライプロセスでは、反応の活性化と加工精度を向上させるため、しばしばプラズマ(低温プラズマ)が用いられる。プラズマ使用環境中では、各種のハロゲン化物は、腐食性の強い原子状またはイオン化したF、Cl、Br、Iとなって半導体素材の微細加工に大きな効果を発揮するが、その一方で、プラズマ処理(特に、プラズマエッチング処理)された半導体素材の表面からは、エッチング処理によって削り取られた微細なSiO、Si、Si、Wなどのパーティクルが処理環境中に浮遊し、これらが加工中あるいは加工後のディバイスの表面に付着してその品質を著しく低下させるという問題があった。
これらの問題に対する対策の一つとして、従来、半導体製造・加工装置用部材の表面をアルミニウム陽極酸化物(アルマイト)によって表面処理する方法がある。その他、Al、Al・Ti、Yなどの酸化物をはじめ、周期律表IIIa族金属の酸化物を溶射法や蒸着法(CVD法、PVD法)などによって、該部材の表面を被覆したり、また、これらを焼結体として利用する技術がある(特許文献1〜5)。
さらに最近では、Y、Y−A1溶射皮膜の表面をレーザービームや電子ビームを照射して該溶射皮膜の表面を再溶融することによって、耐プラズマエロージョン性を向上させる技術も出現している(特許文献6〜9)。
また、高性能半導体加工分野では、その加工環境の清浄化を図る手段として、Y溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性能を凌駕する材料として、YF(フッ化イットリウム)を成膜状態で使用する方法の提案がある。例えば、YAGなどの焼結体をはじめ周期律表IIIa族元素の酸化物の表面に、YF膜を被覆したり(特許文献10〜11)、YやYb、YFなどの混合物を成膜材料とする方法(特許文献12〜13)、あるいはYFそのものを成膜材料として溶射法によって被覆形成する方法(特許文献14〜15)などの提案がそれである。
特開平6−36583号公報 特開平9−69554号公報 特開2001−164354号公報 特開平11−80925号公報 特開2007−107100号公報 特開2005−256093号公報 特開2005−256098号公報 特開2006−118053号公報 特開2007−217779号公報 特開2002−293630号公報 特開2002−252209号公報 特開2008−98660号公報 特開2005−243988号公報 特開2004−197181号公報 特開2002―037683号公報 特開2007−115973号公報 特開2007−138288号公報 特開2007−308794号公報
特許文献10〜15に記載されている従来のフッ化物溶射皮膜というのは、優れた耐ハロゲン性を有しているものの、延性に乏しいうえ、表面エネルギーが小さいため、基材が僅かに変形してもクラックが発生したり、基材に対する密着性が悪いという欠点がある。しかし、上掲の各文献には、この欠点を克服するための対策については言及していない。その理由としては、フッ化物(YF、AlFなど)は、溶射加工技術の基盤となる日本工業規格(JIS)や国際標準化機構(ISO)の中では溶射材料としては考えられていなかったことから、フッ化物溶射皮膜用の作業標準方法は規定されていないため、慣習として、単に、金属(合金)やセラミック、サーメット材料などの溶射作業と同じ基準に従って施工されてきたことが考えられる。
一般に、溶射作業においては、その溶射処理に先駆けて基材表面を粗面化する工程が必須である。前記日本工業規格(JIS)には、成膜材料種ごとに、下記のようなブラスト粗面化処理方法が規定されている。
(1)金属皮膜系:JIS H300「亜鉛、アルミニウムおよびそれらの合金溶射−溶射作業標準には、鉄鋼基材を対象とし、まず酸化物(スケール)除去用としてJIS Z0312に規定されている高炉スラグ、製鋼スラグなどによって酸化物を除去した後、さらにその除去面に対して、JIS Z311に規定する鋳鋼製グリットまたはJIS Z0312に規定する溶融アルミナ(Al)グリットによる粗面化処理を行なうこととなっている。
(2)セラミック皮膜:JIS H9302「セラミック溶射作業標準」では、前記酸化物除去用ブラスト処理を行なった後、その表面に対して、JIS R6111の人造研削材(Al、SiC)によって粗面化処理を行なうこととなっている。
(3)サーメット皮膜系:JIS H830「サーメット溶射」では、JIS G5903に準拠して製造された鋳鉄グリッド、若しくは、JIS R6111に準拠して製造された人造研削材を用いて粗面化することが規定されている。
このように、溶射加工分野では、成膜材料ごとに、基材表面のブラスト粗面化処理に使用するブラストおよび粗面化状態が厳格に規定されている。一方、フッ化物溶射皮膜に関する前掲の特許文献10〜15には粗面化の条件や粗面化の程度については開示していない。開示していても、単に、ブラスト粗面化処理するという単純な内容であり、そこにはフッ化物溶射皮膜の密着性を向上させようという意図は認められない。例えば、特許文献14、16、17では、コランダム(鋼玉、化学式Al)による粗面化が開示されている。
さらに、特許文献18ではAlによる通常の粗面化処理が開示されているのみか、またはフッ化物皮膜の密着性についてはあまり考慮したものではない。例えば、これらの従来技術では、時として基材の表面にフッ化物溶射皮膜を直接、形成するプロセスを採用しており、フッ化物溶射皮膜の形成に先立って行なう前処理の重要性についての記載がないことも含めて、フッ化物溶射皮膜の密着性を重要視していない。即ち、このことが実用環境下における皮膜の剥離現象が頻発する原因であろうと推定される。
そこで、本発明の目的は、基材の表面に炭化物サーメットのプライマー部を介在させることで、フッ化物の溶射皮膜を強固に密着させてなるフッ化物溶射皮膜被覆部材の提供と、その皮膜を強固に付着させ被覆するための皮膜形成方法とを提案することにある。
本発明は、従来技術が抱えている上述した問題点を克服して前記目的を確実に実現するための方法について鋭意研究した結果、次のような視点に立った新しい溶射皮膜の形成方法の採用が有利であることを知見し、本発明に想到した。即ち、
(1)フッ化物溶射皮膜の密着性を向上させるための手段として、基材(被処理体)の表面に対し、新しい発想に基づく粗面化構造(皮膜の密着性向上のため)の形成と、アンダーコート層的な役割を担う炭化物サーメット粒子の吹き付けによって発生する植毛構造からなるプライマー部を介してトップコートであるフッ化物溶射皮膜の形成を行なう。
(2)基材の表面をブラスト処理による粗面化だけではなく、炭化物サーメット粒子を吹き付けることにより、該基材表面に炭化物サーメット粒子を突き立てて疎らに林立させた状態の植毛構造からなるプライマー部を形成した上で、そのプライマー部を介して、フッ化物溶射皮膜を被覆形成して皮膜密着性を向上させる。
(3)フッ化物の溶射に先立って、該基材を80℃〜700℃の温度に予熱することによって、フッ化物溶射皮膜の密着性を向上させる。
(4)基材表面に、直接または粗面化処理した後に、WC−CoやWC−Ni−Crなどの炭化物サーメット粒子を高速フレーム溶射法もしくは低温溶射法にて吹き付けることにより、該基材表面を、少なくとも一部の炭化物サーメット粒子の突起状物が疎らに突き刺って林立した植毛構造からなるプライマー部を形成することを基本とし、このプライマー部は必要に応じてさらに該炭化物サーメット粒子の他の一部のものが基材中に埋没した状態を導くことによって、“炭化物サーメット粒子の植毛構造からなるプライマー部を形造るようにしたものが好ましく、このようなプライマー部を介してプラズマ炎や化石燃料の燃焼炎を熱源とする溶射方法によってフッ化物溶射皮膜を重ねて成膜する。
(5)基材表面を粗面化処理し、引続き、炭化物サーメット粒子を吹き付けてこれらの一部の粒子が林立した状態(完全に皮膜化したものではなく)すると共に、他の一部の粒子を基材表面に強固に付着し、あるいは埋没状態にした炭化物サーメット粒子の植毛構造からなるプライマー部を形成した後、その基材を80℃〜700℃の温度に予熱してから、フッ化物溶射材料粒子を大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法(液体の化石燃料を酸素で燃焼し、その燃焼炎を熱源とする溶射法および空気を酸素供給源とした燃焼炎を熱源とする溶射法)によって、該基材表面に付着・堆積させることが好ましい。
上述した視点に立って開発した本発明は、Ra:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μmの表面粗さを有する基材表面に、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびSiから選ばれる1種以上の金属炭化物と、質量で5〜40%の割合のCo、Ni、Cr、AlおよびMoから選ばれる1種以上の金属とからなり、かつ粒径が5〜80μmの大きさである炭化物サーメット粒子を溶射ガンを使って吹き付けることにより、この炭化物サーメット粒子が基材表面に対して8〜50%の面積率にて疎らに突き刺さって林立した状態の植毛構造からなるプライマー部を形成し、次いで、フッ化物粒子を溶射することにより、該フッ化物粒子を上記プライマー部を構成している炭化物サーメットの林立粒子に対する投錨効果を導いて成膜することを特徴とするフッ化物溶射皮膜の形成方法である。
また、本発明は、Ra:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μmの表面粗さを有する基材と、その基材の粗面化表面に被覆形成されたフッ化物溶射皮膜とからなるものであって、そのフッ化物溶射皮膜は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、WおよびSiから選ばれる1種以上の金属炭化物と、質量で5〜40mass%の割合のCo、Ni、Cr、AlおよびMoから選ばれる1種以上の金属・合金とからなり、かつ粒径が5〜80μmの大きさの炭化物サーメット粒子が、該基材表面に対し8〜50%の面積率にて疎らに突き刺さって林立した状態の植毛構造からなるプライマー部を介し、かつ該プライマー部の炭化物サーメットの林立粒子に対する投錨効果を導いて成膜されたものであることを特徴とするフッ化物溶射皮膜被覆部材を提案する。
なお、本発明においては、
(1)基材表面への炭化物サーメット粒子の吹き付け処理が、高速フレーム溶射法または低温溶射法のいずれかであること、
)前記基材が、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、ステンレス鋼を含む合金鋼、炭素鋼、Niおよびその合金、酸化物、窒化物、炭化物、珪化物、炭素などの焼結体、プラスチックから選ばれるいずれかであること、
)トップコートに用いられるフッ化物が、元素の周期律表IIa族のMg、IIIa族のY、IIIb族のAlおよび原子番号57〜71のランタノイド系金属のフッ化物であること、
)フッ化物のトップコートを形成するための溶射方法が、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法および低温溶射法から選ばれるいずれか一の成膜方法であること、
)前記フッ化物粒子の溶射に先立ち、基材を80〜700℃に予熱すること、
)前記フッ化物溶射皮膜は、30〜500μmの厚さを有すること、
が、より好ましい解決手段となる。
上述した構成を有する本発明によれば、つぎのような効果が期待できる。
(1)本発明の適用によって炭化物サーメットのプライマー部を介して形成されたフッ化物溶射皮膜は、基材との高い密着力を有し、かつ該フッ化物溶射皮膜本来の優れた耐食性(耐ハロゲンガス性)、耐ハロゲンガスプラズマエロージョン性を発揮することから、長期間にわたる使用によく耐える半導体加工用部材などとして有効である。
(2)粗面化していない基材表面であっても、その表面に高速フレーム溶射法などによって、WC−Ni−Cr、Cr−Ni−Crなどの硬質の炭化物サーメット粒子を吹き付け突き立てて疎らに林立させた植毛構造からなるプライマー部を形成しているので、一段と高いフッ化物溶射材料粒子の付着率の向上と密着力の向上とが得られる。
(3)フッ化物はそもそも表面エネルギーが小さいため、皮膜を構成するフッ化物粒子の相互結合力や基材との密着性が低く、しばしば剥離するという欠点がある。この点、本発明によれば、フッ化物と炭化物サーメット粒子(主成分は炭素)とは、互いに相性がよく化学的親和力も大きく、かつよく濡れ合う特性があるため、前記炭化物サーメット粒子の疎らに林立した植毛構造部を介した投錨効果、即ち、溶射ガンから噴射されたフッ化物粒子の物理的付着機構(かみ合い)に加え、上記化学的親和力とが相乗的に作用して、皮膜(トップコート)密着力の向上を図ることができる。
なお、フッ化物は、金属(アルミニウム、チタン、鋼鉄など)とは化学的に濡れ難く、接合性に乏しいが、炭化物(主成分は炭素)サーメットとは、化学的親和力が大きく、化学的にも炭化物サーメット粒子が分散状態となって存在する基材表面に強く接合する特徴がある。
なお、基材表面に炭化物サーメット粒子の植毛構造部を介してフッ化物粒子を溶射すると、基材表面に疎らに突き刺さった炭化物サーメットの林立粒子に、フッ化物粒子が絡みつきかつかみ合った状態となって、基材表面に強く固定されるが、本発明ではこれを、高い密着力を有する溶射皮膜の投錨効果(JIS H8200“溶射用語”より)と称する。
(4)フッ化物溶射皮膜を被成するための基材表面をブラストによる粗面化処理に加え、80℃〜700℃に予熱した場合、基材表面に衝突するフッ化物粒子の付着・堆積効果のより一層の向上と密着力の向上が図れる。
(5)前記炭化物サーメット粒子が基材表面近傍に埋没した状態の金属基材では、基材に強い圧縮の残留応力を発生させるので、基材は変形、歪に対して強い抵抗力を発揮し、使用環境中におけるフッ化物溶射皮膜を被覆した部材の機械的な負荷や振動などが原因するフッ化物溶射皮膜の剥離が抑制される効果もある。
(6)以上の結果、本発明に係る技術によって形成されたフッ化物溶射皮膜は、実用環境において、繰り返される急激な温度変化による熱衝撃をはじめ、微振動、曲げ応力の付加などの物理的条件の変動にもよく耐え、長期間にわたってフッ化物溶射皮膜本来の優れた化学的性質を発揮させることができる。
本発明方法を実施するための工程の流れを示した図である。 高速フレーム溶射法によって、WC−12mass%Coサーメット粒子を疎らに林立させた状態に吹き付けた基材表面の植毛構造部と、同部分の断面SEM像を示したものである。(a)は、前記炭化物サーメット粒子を吹き付けた表面、(b)は、同上の拡大写真、(c)は、炭化物サーメット粒子を吹き付けた基材の断面 本発明を適用して形成されたYF溶射皮膜の写真である。(a)皮膜表面の写真、(b)皮膜断面の写真
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明方法を実施するための工程の流れを示したものである。以下、この工程順に従って本発明を説明する。
(1)基材
本発明で使用することができる基材は、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、ステンレス鋼を含む各種の合金鋼、炭素鋼、Niおよびその合金などである。その他、酸化物や窒化物、炭化物、珪化物などのセラミック焼結体、焼結炭素材料、プラスチックなどの高分子材料であってもよい。
(2)前処理
基材表面は、次の成膜工程に先立って、以下の処理を行なうことが好ましい。この処理は、JIS H9302に規定されているセラミック溶射作業標準に準拠して実施する。例えば、基材表面の錆や油脂類などを除去した後、鋼球などではなくAl、SiCなどの研削粒子を吹き付けて粗面化して、単に後述する炭化物サーメット粒子やフッ化物粒子が付着しやすい状態にする。従って、粗面化後の粗さは、Ra:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μm程度にすることが好ましい。
(3)基材表面に炭化物サーメット粒子による植毛構造からなるプライマー部を形成する方法
必要に応じて粗面化処理した基材表面に、高速フレーム溶射法または高速低温溶射法(≧500m/sec)方法によって、粒径5〜80μmの硬質の炭化物サーメット粒子を溶射ガンを使って吹き付け、該炭化物サーメット粒子の先端部をそれぞれ独立した状態で該基材表面に突き刺して疎らに林立しているような状態になる植毛構造を形成する。そして、炭化物サーメット粒子の他の一部は基材の内部に埋没した状態にすることで、全体として疎ら模様状の植毛構造を呈するようにする。この場合において、炭化物サーメット粒子の粒径が5μmより小さいと、溶射ガンへの供給量が不均等となって均等な吹き付けができない他、突き刺さり量が少なくなる。一方、80μm超の粒径では、植毛の効果が飽和する。
この処理工程における疎ら模様状の炭化物サーメット粒子の植毛構造からなるプライマー部とは、次のような構造を形造っている。即ち、図2は、WC−12mass%Coの炭化物サーメット粒子を、SUS310鋼基材の表面に吹き付けた際の外観状態を示すものであり、図2(a)、(b)に明らかように、吹き付けたWC−Coサーメット粒子の一部が、基材の表面にそれぞれ減り込むように突き刺さって林立した状態の植毛構造を形造る一方、他の一部のWC−Coサーメット粒子が、基材表面への衝突エネルギーによって、粉砕された状態で分散付着しており、さらに他の一部は基材中に完全に埋没したようになって、基材表面に炭化物サーメット粒子による強化層を形成した状態になっている。
また、図2(c)は、基材表層部に存在する吹き付けられたWC−Coサーメット粒子の分布状態を断面状態で観察したものである。この写真から明らかなように、WC−Coサーメット粒子は、基材表面に打ち込まれて疎らに林立した状態で存在していると共に、他の一部は浅く、また、深く埋没した状態となっている。本発明では、このような状態の基材表面、即ち、疎ら模様状の炭化物サーメット粒子による植毛構造からなるプライマー部(これは、完全な層を形造るものではない)を介して、その上に、フッ化物粒子を溶射し、硬質炭化物サーメット粒子との投錨効果を利用して密着性の高いフッ化物溶射皮膜を形成しようというものである。
なお、前記疎ら模様状の植毛構造からなるプライマー部について、本発明では、図2(a)または図2(b)のSEM写真を用いて画像解析装置によって、白色部を炭化物サーメット粒子、黒色部を基材の露出面として、炭化物サーメット粒子の面積率(面積占有率)を求めた。その結果は、面積率は、8〜50%の範囲が好適であることを確認した。8%以下では、炭化物サーメット粒子による投錨効果が弱く、一方、0%以上では、炭化物サーメット粒子がアンダーコート層と同様な作用機構となり、フッ化物粒子の投錨効果が小さくなるからである。本発明では、炭化物サーメット粒子が面積率で8〜50%の範囲で吹き付けられた基材表面の状態を「疎ら模様状の植毛構造からなるプライマー部」と呼ぶことにした。
なお、金属(合金)の粒子、例えば、セラミック溶射皮膜形成時に汎用されているAl、Ni−Al、Ni−Crなどの粒子については、これらを高速フレーム溶射法によって、基材表面に吹き付けても、融点の低い金属粒子は、融体や軟化状態となるため、高融点で硬質の炭化物サーメット粒子のように、基材中に埋没することがないので、本発明のサーメット植毛構造からなるプライマー部のような作用機構は期待できない。
本発明で使用できる炭化物は、前掲のWC、Crに限定されず、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびSiなどから選ばれる1種以上の金属炭化物が適用可能である。これらの金属炭化物はいずれも硬く、フッ化物との化学的親和力をもっているからである。また、この炭化物に加える金属合金成分としては、Co、Ni、Cr、AlおよびMoから選ばれるいずれか1種以上が好適である。この炭化物サーメット粒子に占める金属成分の割合は、5〜40mass%の範囲がよく、特に10〜30mass%が好適である。金属成分が5mass%より少ないと、硬質の炭化物は小さな粉体となって飛散し、一方、金属成分が40mass%以上と多くなると、硬度および耐食性が低下し、投錨効果が低下したり、フッ化物溶射皮膜の貫通気孔か侵入する腐食性ガスによって、基材が腐食されるおそれがある。
前記炭化物サーメット粒子の植毛構造からなるプライマー部の形成用材料としては、例示した前記WC−Coに加え、WC−Ni−Cr、WC−Co−Cr、Cr−Ni−Crなどの炭化物サーメットも用いることができる。
(4)基材の予熱
前記粗面化処理後の基材及び炭化物サーメット粒子の吹き付け処理に伴う疎ら模様状の炭化物サーメット粒子による植毛構造部を形成した後の基材は、フッ化物溶射に先駆けて予熱を行う。予熱の温度は、基材質によって管理することが好ましく、下記の温度が推奨される。
(i)Al、Ti及びそれらの合金:80℃〜250℃
(ii)鋼鉄(低合金鋼):80℃〜250℃
(iii)ステンレス鋼:80℃〜250℃
(iv)酸化物・炭化物などのセラミック焼結体:120℃〜500℃
(v)焼結炭素:200℃〜700℃
また、この予熱は、大気中、真空中、不活性ガス中のいずれであってもよいが、基材質が予熱によって酸化され、表面に酸化膜が生成するような雰囲気は避ける必要がある。
(5)フッ化物溶射皮膜(トップコート)の形成
a.フッ化物溶射材料
本発明において用いられるフッ化物溶射材料としては、元素の周期律表IIa族のMg、周期律表IIIb族のAl、周期律表IIIa族のY、原子番号57〜71に属するランタノイド系金属のフッ化物である。原子番号57〜71の金属元素名は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジズプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の1種である。
そして、溶射材料としては、前記金属のフッ化物粒子を5〜80μmの粒径に調整したものを使用する。それは、溶射材料が5μm以下の細粒では、基材表面に衝突した際、成膜するより飛散するものが多くなる欠点があり、また80μmより大きい粒子では、溶射ガンへの送給速度を均一化しにくくなる一方、成膜された皮膜の気孔が大きくなる傾向が顕著となるからである。
前記粗面化後のもしくは炭化物サーメットの林立粒子による植毛構造からなるプライマー部(さらに予熱後)上に形成されるフッ化物粒子による溶射皮膜は、20〜500μmの厚さにすることがよく、特に50〜200μmの範囲が好適である。それは、20μmより薄い膜では、均等な膜厚が得られず、また、500μmより厚くすると、フッ化物溶射皮膜の形成時における残留応力が大きくなって、基材から剥離しやすくなるからである。
本発明では、炭化物サーメット粒子の吹き付け用溶射ガンとして、高速フレーム溶射法、または発明者らが先に提案した特許番号第4628578号に記載の低温溶射皮膜被覆部材およびその製造方法に使用した装置を用いるのが好適である。その理由は、これらの溶射法の熱源温度はプラズマフレーム温度に比較して相当に低いため、炭化物サーメット粒子が熱分解することなく、高速の飛行速度で基材表面に衝突し、基材中に一部は突き刺さり一部は埋没するほどの運動エネルギーを付与しやすいからである。炭化物サーメット粒子の飛行速度は、150m/s以上、好ましくは250m/s以上がよい。100m/s未満の飛行速度では、基材中に埋没する粒子が少ないうえ、埋没したとしても浅く、基材に対する機械的作用(圧縮残留応力の発生)やフッ化物粒子を強固に捕捉して、皮膜全体の密着力向上の効果が十分でなくなるからである。
一方、トップコートとなるフッ化物の皮膜を形成するための溶射法としては、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、発明者らが提案した前記低温溶射法などを用いることが好ましい。その他、薄膜のフッ化物皮膜を形成する場合にも、前記炭化物サーメット粒子の植毛構造部を利用できるので、フッ化物皮膜の形成方法としては特に上記の溶射法に制約されるものでない。
b.フッ化物溶射皮膜の特徴
まず、フッ化物自体の物理化学的性質としては、次の点を指摘することができる。即ち、フッ化物の膜は、金属皮膜やセラミック皮膜と比較して、ハロゲン系ガスに対する化学的安定性を有するものの、表面エネルギーが小さいため、皮膜を構成するフッ化物粒子の相互結合力及び基材の密着強さが弱い点が挙げられる。また、成膜時に大きな残留応力を発生しやすいため、基材が成膜後の僅かな変形によって、容易に皮膜の剥離が起こることが多い。加えて、フッ化物は延性に乏しい性質を示すために皮膜が容易に“ひび割れ”し、前記成膜時に発生する気孔部とともに、酸やアルカリ洗浄液などの内部浸入によって、基材の腐食原因となるなど、フッ化物そのものの耐食性は良好であっても、その性質を防食膜としては利用できないという問題点もある。
この点、本発明によれば、溶射皮膜を構成している粒子どうしの相互結合力が向上し、特に、基材表面に炭化物サーメット粒子による植毛構造からなるプライマー部を設けた場合には、皮膜の密着性も向上して、フッ化物が抱えている上述した問題点を解消することができる。即ち、皮膜の剥離やひび割れの防止、それに伴う洗浄液の侵入を阻止して基材の腐食を防ぐという効果が発生するのである。
なお、本発明を適用して形成された図3(a)、(b)に示すようなフッ化物溶射皮膜は、成膜状態のままでも使用できるが、必要に応じて成膜後250℃〜500℃の熱処理を行って、残留応力を開放したり、アモルファス状のものを結晶化(斜方晶系)することも容易である。従って、本発明では、これらの処理の実施について、特に制限するものではない。なお、この熱処理の温度を上記の範囲に限定する理由は、250℃以下では皮膜の残留応力の解放に長時間を要するだけでなく結晶化も不十分になり、一方、500℃以上の高温ではフッ化物溶射皮膜の物理化学的性質の変化を助長させる可能性があるからである。
(実施例1)
この実施例は、フッ化物溶射皮膜の密着性に及ぼす基材表面に施す前処理の影響に関するものである。
(1)前処理の種類
基材:Al3003合金(「JIS H4000」寸法:直径25mm×厚さ5mm)の片面に、次のような前処理を行なった。
(i)脱脂した後、ワイヤーブラシで軽く研磨する。
(ii)脱脂後、Ni−20mass%Crを大気プラズマ溶射法によって、50μmの厚さの金属アンダーコートを施工
(iii)脱脂後、WC−12mass%Coを高速フレーム溶射法によって疎ら模様状に吹き付けてプライマー部を形成(面積率22%)
(iv)脱脂後、Al研削材にてブラスト粗面化処理
(v)ブラスト粗面化面に、WC−12mass%Coを高速フレーム溶射法によって、疎ら模様状に吹き付け(面積率18%)
(vi)ブラスト粗面化面上に、Ni−20mass%Crのアンダーコート層を大気プラズマ溶射法によって80μmの厚さに施工
(2)フッ化物溶射皮膜の形成
前記前処理後の基材表面に対して、大気プラズマ溶射法によって、YF溶射皮膜を140μmの厚さに形成した。
(3)皮膜の密着性試験方法
皮膜の密着性は、JIS H8666セラミック溶射試験方法に規定されている密着強さ試験方法によって測定した。
(4)試験結果
試験結果を表1に示した。この試験結果から明らかなように、基材表面を脱脂後、ワイヤブラッシングした面に形成したフッ化物溶射皮膜(No.1)は、密着力に乏しく、0.5〜1.2MPaで皮膜は剥離した。また、金属アンダーコートを施工した面に形成したフッ化物溶射皮膜(No.2)は、若干の密着力の向上は認められるものの、基材/アンダーコートの境界から剥離したもの(1供試体)が認められた。これに対して、WC−12Coを疎ら模様状植毛構造のプライマー部の上に形成した面に被覆されたフッ化物溶射皮膜(No.3)は13〜16MPaの密着力を示し、使用条件によっては、ブラスト粗面化処理を省略できる可能性がうかがえる。
一方、Al研削材によって、ブラスト処理化し、その上にフッ化物溶射皮膜を直接形成した膜(No.4)の密着力は4〜6MPaを示し、また、ブラスト粗面化処理後に金属アンダーコートを施工後、その上にフッ化物溶射皮膜を形成したもの(No.6)の密着力は、No.1、No.2に比較すると向上するが、その程度は比較的低く、フッ化物溶射皮膜の密着力は、金属基材面に対しては、たとえ粗面化された面であっても十分でないことが認められる。これに対して、WC−12Coを疎ら模様状の植毛構造からなるプライマー部にした面に形成したフッ化物溶射皮膜を形成したもの(No.5)は、13〜15MPaもの高い密着力を示し、炭化物サーメット粒子との接合面の有効性が確認された。
(実施例2)
この実施例では、Al合金基材(寸法:幅30mm×縦50mm×厚さ3mm)の表面に、本発明に適合する方法によって、フッ化物溶射皮膜を形成し、その皮膜の耐プラズマエッチング特性を評価した。
(1)基材:Al合金(JIS H4000規定のA3003)の表面をブラスト粗面化処理した後、本発明に係る炭化物サーメット粒子の吹き付けによる疎ら模様状植毛構造からなるプライマー部となる前処理を施し(面積率12%)、その後、180℃に予熱したのちフッ化物溶射皮膜を形成した。
(2)成膜用フッ化物:YF、DyF、CeF(粒径5〜45μm)を用い、
大気プラズマ溶射法によって、膜厚180μmの皮膜とした。また、比較例の皮膜として、Y、Dy、CeOなどと酸化物系皮膜を大気プラズマ溶射法によって180μm厚さに形成したものを供試した。
(3)プラズマエッチング雰囲気ガス組成とプラズマ出力
(i)雰囲気ガスと流量条件
(a)含Fガス:CHF/O/Ar=80/100/160(1分間当たりの流量cm
(b)含CHガス:C/Ar=80/100(1分間当たりの流量cm
(ii)プラズマ照射出力
高周波電力:1300W
圧力:4Pa
温度:60℃
(iii)プラズマエッチング試験の雰囲気
(a)含Fガス雰囲気中で実施
(b)含CHガス雰囲気中で実施
(C)含Fガス雰囲気1h⇔含CHガス雰囲気1hを交互に繰り返す雰囲気中で実施
(4)評価方法
耐プラズマエロージョン試験の評価は、エッチング処理によって供試皮膜から飛散する皮膜成分のパーティクル数を計測することによって、耐プラズマエロージョン性と耐環境汚染性を調査した。パーティクルは、試験容器内の配設した直径8インチのシリコンウェハーの表面に付着する粒径0.2μm以上の粒子数が30個に達するまでの時間を測定することにより実施した。
(5)試験結果
試験結果を表2に示した。この結果から明らかなように比較例の酸化物系皮膜(No.1、3、5)は、含CHガス中では最もパーティクルの発生が少なく、含Fガス中ではやや多くなり許容値に達する時間が短くなる状況が見られる。しかし、含Fガスと含CHガスを交互に繰り返す雰囲気下におけるパーティクルの発生数は一段と多くなって、許容値に達する時間が非常に短くなることが判明した。この原因は、含Fガス中におけるフッ化ガスの酸化作用とCHガスの還元作用の繰り返しによって、酸化物セラミック皮膜の表面の酸化膜が常に不安定な状態となって飛散するためと考えられる。これに対して、No.2、4、6のフッ化物溶射皮膜は、含Fガス中、含CHガス中及びこれらのガスを交互に繰り返し供給した雰囲気中でも化学的に安定な状態を維持し、パーティクルの発生を抑制したものと考えられる。
(実施例3)
この実施例では、本発明に適合する方法で処理された基材の表面に、フッ化物溶射皮膜について、ハロゲン系酸の蒸気に対する耐食性を評価した。
(1)基材:SS400鋼基材(寸法:横30mm×縦50mm×厚さ3.2mm)を用い、その表面をブラスト粗面処理を行なった後、Cr−18mass%Ni−8mass%Crからなる炭化物サーメット粒子を高速フレーム溶射法によって吹き付け、基材の表面に炭化物サーメット粒子の疎ら模様状(面積率28%)の植毛構造部を形成し、その後、その基材を200℃に加熱した。
(2)成膜用フッ化物:MgF、YF(粒径10〜60μm)を用いて、減圧プラズマ溶射法によって、膜厚250μmの厚さに形成したものを準備した。また、比較用の皮膜として、MgO、Yを減圧プラズマ溶射法によって、膜厚250μmに形成したものを作製し、同条件で試験した。
(3)腐食試験方法
(a)HCl蒸気による腐食試験は、化学実験用のデーシケ一夕ーの底部に30%HCl水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊すことによってHCl水溶系から発生するHCl蒸気に曝露する方法を採用した。腐食試験温度は30℃〜50℃、時間は96hrである。
(b)HF蒸気による腐食試験は、SUS316製のオートクレーブの底部にHF水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊すことによってHF蒸気による腐食試験を実施した。腐食試験温度は30℃〜50℃、曝露時間は96hrである。
(4)試験結果
試験結果を表3に示した。この結果から明らかなように、比較例の酸化物系皮膜(No.2、4)は、多量の赤錆がすべての皮膜表面にまで達していた。即ち、酸化物系皮膜には多くの貫通気孔が存在するため、HCl、HFなどの蒸気は、この貫通気孔を通って皮膜の内部に達してSS400鋼基材を腐食し、その腐食生成物としての鉄成分が貫通気孔を通して皮膜表面に達して赤錆状を呈したものと考えられる。これに対して、本発明適合例のフッ化物溶射皮膜(No.1、3)は、赤錆の発生は認められるものの、その程度は比較例の30〜40%程度にとどまっていた。この結果からフッ化物溶射皮膜に貫通気孔は存在するものの、酸化物系溶射皮膜に比較すると少なく、さらにフッ化物溶射皮膜そのものにも優れた耐食性があるため、総合的な耐ハロゲン系酸の蒸気に対して良好な耐食性を発揮したものと思われる。
本発明に係る技術は、高度な耐ハロゲン腐食性と耐プラズマエロージョン性が要求されている半導体の精密加工装置用部材に対して有効である。例えば、ハロゲンおよびその化合物を含む処理ガスを用いて、プラズマ処理される装置に配設されているデポシールド、バッフルプレート、フォーカスリング、インシュレ一夕リング、シールドリング、ベローズカバー、電極などに加え、類似のガス雰囲気の化学プラント装置部材などの耐食性皮膜として利用できる。

Claims (9)

  1. Ra:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μmの表面粗さを有する基材表面に、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびSiから選ばれる1種以上の金属炭化物と、質量で5〜40%の割合のCo、Ni、Cr、AlおよびMoから選ばれる1種以上の金属とからなり、かつ粒径が5〜80μmの大きさである炭化物サーメット粒子を溶射ガンを使って吹き付けることにより、この炭化物サーメット粒子が基材表面に対して8〜50%の面積率にて疎らに突き刺さって林立した状態の植毛構造からなるプライマー部を形成し、次いで、フッ化物粒子を溶射することにより、該フッ化物粒子を上記プライマー部を構成している炭化物サーメットの林立粒子に対する投錨効果を導いて成膜することを特徴とするフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  2. 基材表面への炭化物サーメット粒子の吹き付け処理が、高速フレーム溶射法または低温溶射法のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  3. トップコートに用いられるフッ化物が、元素の周期律表IIa族のMg、IIIa族のY、IIIb族のAlおよび原子番号57〜71のランタノイド系金属のフッ化物であることを特徴とする請求項1または2に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  4. フッ化物のトップコートを形成するための溶射方法が、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法および低温溶射法から選ばれるいずれか一の成膜方法であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  5. 前記フッ化物粒子の溶射に先立ち、基材を80〜700℃に予熱することを特徴とする請求項1〜のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  6. Ra:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μmの表面粗さを有する基材と、その基材の粗面化表面に被覆形成されたフッ化物溶射皮膜とからなるものであって、そのフッ化物溶射皮膜は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、WおよびSiから選ばれる1種以上の金属炭化物と、質量で5〜40mass%の割合のCo、Ni、Cr、AlおよびMoから選ばれる1種以上の金属・合金とからなり、かつ粒径が5〜80μmの大きさの炭化物サーメット粒子が、該基材表面に対し8〜50%の面積率にて疎らに突き刺さって林立した状態の植毛構造からなるプライマー部を介し、かつ該プライマー部の炭化物サーメットの林立粒子に対する投錨効果を導いて成膜されたものであることを特徴とするフッ化物溶射皮膜被覆部材。
  7. 前記フッ化物溶射皮膜は、30〜500μmの厚さを有することを特徴とする請求項に記載のフッ化物溶射皮膜被覆部材。
  8. 前記炭化物サーメット粒子は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびSiから選ばれる1種以上の金属炭化物と、質量で5〜40%の割合のCo、Ni、Cr、AlおよびMoから選ばれる1種以上の金属とからなり、かつ粒径が5〜80μmの大きさであることを特徴とする請求項またはに記載のフッ化物溶射皮膜被覆部材。
  9. 前記フッ化物溶射皮膜が、元素の周期律表IIa族のMg、IIIa族のY、IIIb族のAlおよび原子番号57〜71のランタノイド系金属のフッ化物にて構成されていることを特徴とする請求項のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜被覆部材。
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