明細書 逐次成形装置 技術分野
この出願は、 逐次成形に用いる装置に関する。 逐次成形とは棒状又は凸型もし くは凹型形状をなす押圧部材を、 金属製薄板等へ押し当てながら板材と押圧部材 を相対的に移動させることにより、 シェル形状等の所定立体形状を成形する公知 方法をいう。 なお、 本願発明においては、 成形前の板材平面内における直交 2軸 方向を X Y、 これらとそれぞれ直交する軸方向を Ζとする。 背景技術
このような逐次成形及び装置は WO 9 9 / 3 8 6 2 7号等により公知であり、 例えば特開平 5— 4 2 3 2 8号には板材の四辺をしわ押さえにより水平に保持し 、 下方から凸型状をなす下押圧部材を押し上げて大まかな形状に予備絞り成形し 、 上方から棒状の上押圧部材を押し当てながら板材を Χ Υ方向へ移動させ、 かつ 押圧部材を Ζ方向へ移動することにより所望の立体形状を成形するようになって いる。
従来の逐次成形では、 棒状の押圧部材で板材を延ばしながら凸型として構成さ れた下押圧部材の表面に倣わせて成形する。 このとき成形面の形状は一般に一様 でないため板余りが生じる。 このため、 なだらかな緩曲面であまり形状に剛性の ないもの、 例えば自動車用外板などでは、 周囲にしわが寄ってしまう。 また、 硬 剛性の押圧部材は板材へ点接触状に押しつけられるため、 板材表面に筋条のツー ル痕 (加工痕) が生じやすい。 そこで本願発明の目的は、 このようなしわやツー ル痕の発生を防止できる逐次成形装置を提供することにある。 発明の開示
上記課題を解決するため本願発明の逐次成形装置に係る請求項 1は、 周 "囲を支 持された板材を挾んで一面側から棒状の押圧部材を押しつけながら、 板材と棒状
押圧部材との接触部を 3次元方向へ移動させることにより板材を所定の立体形状 に成形する逐次成形のための装置において、 前記棒状押圧部材の前記扳材と接触 する部分を可撓性部材としたことを特徴とする。
請求項 2は、 周囲を支持された板材を挟んで一面側から棒状の押圧部材を押し つけ、 反対面側から型状押圧部材を押しつけながら、 板材と棒状押圧部材との接 触部を 3次元方向へ移動させることにより板材を所定の立体形状に成形する逐次 成形のための装置において、 前記型状押圧部材を凹型としたことを特徴とする。 請求項 3は、 請求項 1又は 2において、 前記可撓性部材が半球形であることを 特徴とする。
請求項 4は、 請求項 1又は 2において、 前記可撓性部材が円筒状をなし、 前記 押圧部材の先端部へ回転自在に軸支されることを特徴とする。
請求項 1の発明によれば、 棒状押圧部材の板材と接触する部分を可撓性部材と したので、 成形時における板材表面に対して点接触状にならないためツール痕の 発生を抑制できる。
請求項 2の発明によれば、 型状押圧部材を凹型にしたので、 棒状押圧部材によ り板材を下型の凹空間内へ押し広げながら成形できる。 このため、 成形部周辺に おけるしわの発生を抑制できる。 しかも板材との接触部を可撓性部材としたので ツール痕の発生も同時に抑制できる。
請求項 3の発明によれば、 可撓性部材を半球形にしたので、 板材とは球面接触 となるから、 押圧部材と板材との接触部分が大きくなりかつ移動が滑らかになる ため、 さらにツール痕の発生を少なくできる。
請求項 4の発明によれば、 可撓性部材を円筒形として、 押圧部材の先端部へ回 転自在に軸止したので、 可撓性部材は板材の表面へ転がり接触するから、 より一 層、 押圧部材と板材との摩擦が小さくかつ移動が滑らかになる。 図面の簡単な説明
第 1図は、 逐次成形によって成形された製品の外観図、 第 2図は、 逐次成形装 置を原理的に示す断面図、 第 3図は、 成形凹部における逐次成形を原理的に示す 図、 第 4図は、 逐次成形における等高線の描き方を示す図、 第 5図は、 成形凸部
における逐次成形を原理的に示す図、 第 6図は、 押圧部材の構造を示す図、 第 7 図は、 押圧部材の別構造を示す図、 第 8図は、 押圧部材のさらに別の構造を示す 図である。 発明を実施するための最良の形態
以下、 図面に基づいて一実施例を説明する。 図 1は、 本逐次成形によって得ら れる成形品の外観を示し、 図 2は逐次成形装置を原理的に示し、 図 3は成形凹部 における逐次成形を原理的に示す部分拡大断面図、 図 4は板材と上側押圧部との 接触部が描く等高線を説明する図、 図 5は成形凸部における逐次成形を原理的に 示す部分拡大断面図、 図 6は押圧部材の先端部における可撓性部材を示す図、 図 7及び図 8はそれぞれ可撓性部材の別実施例を示す図である。
まず、 図 1において、 ボンネット 1は本願発明の逐次成形製品であり、 鉄板か ら自動車用ボンネットの表面形状となる立体形状に形成されている。 ボンネット 1の上面 2は緩やかな曲面をなし、 その一部に上方へ凸の平面視略楕円形をなす 凸部 3を備え、 かつ端部に通気孔 4が複数開口されている。 周囲はフランジ状の 周囲壁 5をなし、 全体として立体的なシェル形状に形成される。
図 2に示すように、 逐次成形装置は、 板材 1 0の周囲を支持枠 1 1の上へ置い てクランプ 1 2で固定するようにし、 板材 1 0の下方に下押圧部材 1 3を配置し て昇降軸 1 4により昇降自在とし、 板材 1 0の上方には、 棒状の上押圧部材 2 0 を昇降自在に配置してある。 板材 1 0の下方から下押圧部材 1 3を押し当て、 上 方から上押圧部材 2 0を下降させて押し当て、 板材 1 0を X Y Z方向へ移動させ ることにより、 板材 1 0を下押圧部材 1 3の表面へ倣って塑性成形させるように なっている。
上押圧部材 2 0と下押圧部材 1 3は、 それぞれ本願発明における棒状押圧部材 及び型状押圧部材に相当し、 いずれか一方または双方が同一平面内の直交 2方向 X · Yへ移動自在であり、 かつ上押圧部材 2 0及び下押圧部材 1 3はこれら X Y と直交する Z方向へ移動 (図示状態では昇降) 自在である。 これらの移動機構の 詳細は省略するが、 前記従来技術等により種々公知である。
なお、 以下の説明では、 下押圧部材 1 3側が板材 1 0及び支持枠 1 1やクラン
プ 1 2と共に X Y方向へ自由に移動するとともに、 下押圧部材 1 3のみが板材 1 0及び支持枠 1 1やクランプ 1 2に対して Z方向へ昇降自在になっているものと する。 また、 上押圧部材 2 0はこれらとは独立して板材 1 0の上方空間にて適当 な支持部材により Z方向へ昇降自在に支持されているものとする。
さらに、 上押圧部材 2 0と下押圧部材 1 3のいずれか一方又は双方は、 板材 1 0を塑性変形させるに足るだけの押圧力を与えられるようになっている。 以下の 説明では、 この押圧力を下押圧部材 1 3側から与えられ、 上押圧部材 2 0はこの 押圧力を十分に受け止めるように板材 1 0の上方で支持される構造とする。
板材 1 0は、 鉄系又はその他の金属等からなる板状材料であり、 例えば、 0 . 数 mm〜数 m m程度の板厚を有する鉄製薄板である。 但し、 板材 1 0の材料はァ ルミなどの軽合金その他の金属等、 塑性加工に適したものであれば任意に選択で き、 その板厚も同様である。
支持枠 1 1は矩形状等の適宜枠形状をなし、 その内側空間内に下押圧部材 1 3 が配置される。 支持枠 1 1はクランプ 1 2とともに、 下押圧部材 1 3と共通の支 持台に支持され、 この支持台は X Y方向へ自由に移動自在である。 下押圧部材 1 3のみはこの支持台上で支持枠 1 1やクランプ 1 2と別に Z方向へ昇降軸 1 4に より昇降自在であり、 下押圧部材 1 3を押し上げると、 板材 1 0の下面へ当接す る。 '
下押圧部材 1 3はボンネット 1の上面側を成形する大きさと形状の成形凹部を 有する凹型であり、 凸部 3に対応する中央側が大きく深い略楕円弧状の成形凹部 1 5及び通気孔 4に対応する周縁部に小段部をなす成形凸部 1 6が形成されてい る。 図中の符号 1 7は凸部 3や通気孔 4部分を除く上面 2に対応する浅くかつ緩 い曲面の成形凹部、 1 8は周囲壁 5に対応する周壁である。
図 6に示すように、 上押圧部材 2 0は超硬材等の板材 1 0よりも遙かに硬剛性 な適宜材料からなる丸棒状の本体部 2 1と、 その先端に適宜方法により一体化さ れた半球状の可撓性部材 2 2を有する。 図 6の Aは上押圧部材 2 0をその軸直交 方向から示し、 Bは Aの矢示方向から可撓性部材 2 2を示したものである。
可撓性部材 2 2は、 本体部 2 1よりも柔らかい適度な硬さとより高い弾性を有 して耐摩耗性に優れる、 例えば硬質ポリウレタン等の適宜材料からなり、 半球形
に形成され、 先端が板材 1 0へ球面接触するようになっている。 本体部 2 1に対 する取付構造は任意であるが、 例えば、 本体部 2 1に形成した小径凸部 2 3を対 応して設けられた可撓性部材 2 2の穴へ嵌合して接着等により結合一体化する。 次に本実施例の作用を説明する。 図 2において、 上押圧部材 2 0を押し下げて 可撓性部材 2 2を板材 1 0の上面へ当接させるとともに、 下押圧部材 1 3を押し 上げて成形凹部 1 5の中央が可撓性部材 2 2の下方となるように X Y Z方向の各 位置を調整する。
この状態からさらに下押圧部材 1 3を押し上げると、 図 3に示すように、 可撓 性部材 2 2で上面を押しつけられている板材 1 0の一部部分が成形凹部 1 5内の 中央部へ押し込まれ、 可撓性部材 2 2で押された部分が図示の例では成形凹部 1 5の最深部へ押し当てられる。
この状態で仮想線に示すように、 上押圧部材 2 0が略その太さ分程度ずれるよ うに、 板材 1 0を横 (X Y) 方向へ移動させ、 かつ下押圧部材 1 3を Z方向へ移 動させて高さを調節し、 可撓性部材 2 2の接触部が、 例えば等高線を描くように 板材 1 0を X Y方向へ移動させる。 このよう して隣接部分が成形凹部 1 5の内面 へ密接するように塑性変形される。 これを外側へ向かって繰り返せば成形凹部 1 5の内面に つた凸部を形成できる。
図 4はこの等高線状の移動について説明するものであり、 可撓性部材 2 2と板 材 1 0の接触部 Pが閉じた等高線 Lを描くように、 可撓性部材 2 2と板材 1 0を 相対移動させる。 一つの等高線 Lを描き終えるとその外側へずらして再び略相似 形の等高線 Lを描き、 これを成形凹部 1 5の外縁部へ達するまで繰り返す。 これにより、 板材 1 0のうち成形凹部 1 5の上方に位置していた部分は、 可撓 性部材 2 2により板材 1 0が成形凹部 1 5内へ押し広げられつつ下方へ凸に成形 され、 成形凹部 1 5の内面に倣った凸部が形成され、 図 1に示すボンネット 1の 凸部 3となる。
なお、 逐次成形において可撓性部材 2 2と板材 1 0の接触部を移動させるにあ たり、 成形部の中央から外側へ向かって次第に等高線 Lが広がるように移動させ てもよく、 逆に外側から中央へ向かって移動させてもよい。 また下押圧部材 1 3 を固定し、 上押圧部材 2 0側を X Y Z方向へ移動させるようにしてもよく、 さら
には双方を同時に移動させてもよい。
続いて、 成形凸部 1 6に対応する部分ついても同様に逐次成形する。 図 5はこ の工程について説明するものであり、 板材 1 0の一部は最初に下押圧部材 1 3を 押し上げたとき成形凸部 1 6によって既に上方へ突出して予備成形される。 そこ で可撓性部材 2 2を成形凸部 1 6の肩部へ移動させて、 可撓性部材 2 2と板材 1 0の接触部が成形凸部 1 6の周囲を移動するように、 下押圧部材 1 3及び板材 1 0を X Y Z方向へ適宜移動させれば、 通気孔 4を形成するための段部 1 9が形成 さ τる。
その後同様にして、 成形凹部 1 5及び成形凸部 1 6を除く成形凹部 1 7に倣う ように板材 1 0を逐次成形して上面 2に相当する部分を緩曲面に形成し、 さらに 周壁 1 8の内側を成形して周囲璧 5に相当する部分を形成する。
さらに、 板材 1 0を支持枠 1 1から外して、 プレス成形することにより段部 1 9の平面部を打ち抜いてカツトすれば通気孔 4が形成され、 図 1のボンネッ ト 1 が得れる。 その後所定温度及び時間で加熱することにより、 応力集中の大きな凸 部 3や段部 1 9部分を中心とする成形後の残留応力を解放して歪みを取る場合が ある。 このとき板材 1 0が鋼材の場合、 1 5 0 ° C〜3 0 0 ° C程度が好ましい なお、 上記プレス成形時に上面 2と周囲璧 5を同時に形成することもできる。 このようにすれば比較的時間のかかる逐次成形の範囲を最小限にするとともに、 成形凹部 1 5及び成形凸部 1 6を省略してプレス型を簡単にでき、 ト一タルコス トを低減できる。
このように、 本逐次成形によれば、 可撓性部材 2 2が本体部 2 1よりも柔らか く、 かつ半球状をなすため、 板材 1 0へ柔らかく球面接触する。 このため、 従来 のような点接触状ではなくなり、 かつ移動方向にエッジで接触しなくなるから、 ツール痕の発生が少なくなる。
そのうえ、 下押圧部材 1 3を凹型としたので、 棒状の上押圧部材 2 0により板 材 1 0を成形凹部 1 5や成形凹部 1 7内へ押し広げながら成形することにより、 周囲にしわが発生しにく くなる。 したがって逐次成形に好適な成形方法となる。 このため大量生産には不向きなものの、 少量多種類の製品を成形するには比較的
低コストで成形できる。
図 7の Aは別案の上押圧部材 2 0を軸直交方向から示し、 Bは Aの矢示方向か ら可撓性部材 2 2を示し、 Cは軸方向断面 (Aの C一 C線断面図) である。 これ らの図において、 可撓性部材 2 2は前実施例と同様材料からなる円筒状をなし、 本体部 2 1の先端に形成された二又部 2 4内へ入れられて、 軸 2 5により回転自 在に支持されている。 また、 二又部 2 4が設けられている下部 2 1 aは本体部 2 1に対してその軸線回りに回動自在に取付けられ、 可撓性部材 2 2が本体部 2 1 の軸線回りに回動自在になっている。
したがって、 この上押圧部材 2 0を用いれば、 可撓性都材 2 2が板材 1 0の表 面へ転がり接触しながら成形することになるので、 ツール痕をより発生しにくく 、 もしくは目立たない程度にすることができる。
図 8は上抻圧部材 2 0のさらに別案であって最も簡略構造のものを示す図 5と 対応する図であり、 Aは上押圧部材 2 0を軸直交方向から示し、 Bは Aの B— B 線断面図である。 この可撓性部材 2 2は前記各実施例と同様材料からなる単純な 円筒状をなしている。
このようにすると移動方向において板材 1 0とエッジで接触することになるが 、 材料の弾性により実際にはエッジ接触しない。 したがって、 このようにしても 前記各実施例同様にある程度のツール痕低減効果を期待できる。
なお、 本願発明は上記の各実施例に限定されるものではなく、 発明の原理内に おいて種々に変形や応用が可能である。 例えば、 可撓性部材を設けた棒状押圧部 材と凹型状の型状押圧部材を両方同時に用いず、 いずれか一方を採用しただけの ものであってもよレ、。