JPWO2003012899A1 - 2次電池正極材料の製造方法、および2次電池 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、2次電池正極材料の製造方法及びその正極材料を有する2次電池に関し、より詳しくは、例えば、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属や、これらの化合物を活物質とする、金属リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等に代表される2次電池に用いる正極材料の製造方法、および該方法により製造される正極材料を有する2次電池に関する。
背景技術
金属リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等の2次電池に用いられる金属酸化物、及びこれらにおいて金属原子が部分置換された酸化物や、LiFePO4、LiCoPO4等のリン酸塩、Fe2(SO4)3等の硫酸塩などの正極材料は、放電あるいは充電の過程で、リチウム等のアルカリ金属イオンのドープ/脱ドープを伴う形で電極酸化還元反応が進行する。こうした2次電池は、大容量電池として近年脚光を浴びている。しかし、これらの電池の正極においては、固相拡散によって電極材料内部を移動するアルカリ金属イオンの速度が電極反応速度を制限するために、充放電時の電極反応分極が一般に大きく、比較的大きな電流密度での充放電が困難である。また、この分極が特に大きい場合には、通常の電圧・電流密度条件では充放電が十分進行せず、理論容量よりはるかに小さい容量しか利用できなくなってしまう。また、これら正極材料に用いられることが多い金属酸化物、燐酸塩、硫酸塩、金属オキソ酸塩等は一般に導電率が小さく、この点も電極反応の分極を増大させる要因となる。
上記の諸問題を改善するには、正極材料の結晶粒子を細粒化し、アルカリ金属イオンを粒子内部へ出入りし易くさせることが有効である。また、結晶粒子を細粒化すれば、通例正極材料と混合して用いられるカーボンブラックなどの導電性付与材と正極材料との接触面積が増大するため導電性が改善され、その結果、正極反応分極の低減とともに電圧効率と実効電池容量の向上を図ることができる。
この目的のため、焼成による正極材料の合成に際し、近年、反応性の高い原料を用いて焼成温度を下げ、さらに焼成時間を制限することによって正極材料の結晶成長を押さえ、粒径の小さい正極材料を得る試みが報告されている。例えば、リチウム2次電池用正極材料であるLiFePO4の製造に際しては、リチウム原料として反応性の高いLiOH・H2Oを用い、焼成温度を従来(通常800〜900℃程度)より低い675℃に下げて、アルゴン中で比較的短時間(24時間程度)焼成を行うことにより、正極材料粉末の焼結(粒径増大)を抑え、大きな放電容量を得たという報告[第40回 電池討論会 発表3C14(同予稿集、p349、1999);社団法人電気化学会(日本)]がなされている。
また、電極材料の結晶成長を抑制する方法ではないが、特開2001−15111号公報では、化学式AaMmZzOoNnFf(式中、Aはアルカリ金属、MはFe、Mn、V、Ti、Mo、Nb、Wその他の遷移金属、ZはS、Se、P、As、Si、Ge、B、Snその他の非金属)で表わされる複合酸化物(硫酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩等のオキソ酸塩を含む)の粒子表面に炭素を析出させて表面導電性を上げることにより、これらの複合体を電池等の電極系に用いた場合、電極酸化還元反応の過程で前記複合酸化物粒子、集電(導電性付与)材および電解質界面一帯の電場を均一化・安定化して効率を向上させるという方法が開示されている。そこでは、炭素を前記複合酸化物の粒子表面に析出させる方法として、熱分解により炭素を析出する有機物(高分子、モノマー、低分子等)を共存させ、あるいは一酸化炭素を添加して、これらを熱分解する方法が提案されている(前記複合酸化物の原料にこれらを共存させ、還元的条件で一度に熱反応させて、前記複合酸化物と表面炭素の複合体を得ることもできる、とされている)。これらの手段により、特開2001−15111号公報では、前述のような複合酸化物粒子表面の導電率向上を実現し、例えばLiFePO4等の正極材料粒子表面に炭素を析出させた複合体を作成してLiポリマー電池を構成した場合などにおいて、大きな放電容量等の高い電極性能が得られている。
前記第40回電池討論会発表3C14(同予稿集p349、1999)の方法のように、焼成による正極材料の合成に際し、温度を下げたり、焼成時間を短くしたりする方法では、焼成が不十分となって最終製品にまで化学変化しなかったり、中間生成物が残留したりする恐れがあるため、細粒化の方法としては限界がある。
また、特開2001−15111号公報の方法は、電極材料の表面導電性を向上させるものとしては有効であるが、電極材料の合成時における結晶成長の抑制については全く記述がなく、また、電極材料への炭素の析出を、電極性能上、より好適に制御する方法についても全く記述がない。
従って、焼成により目的の正極材料を原料から確実に合成し、しかも該正極材料の1次粒子の結晶成長を抑制して細粒化するとともに優れた導電性を付与することが可能な2次電池用正極材料の新規な製造方法の提供が望まれている。さらには、正極材料の細粒化および導電性付与の最適化によって正極材料粒子内部と電解質との間でリチウムを初めとするアルカリ金属イオンの出入りを促進させ、電極反応分極を抑制するとともに、正極材料と導電性付与材との接触面積を増大させて導電性を改善し、電圧効率と実効電池容量を向上させた高性能2次電池の提供が望まれている。
発明の開示
本発明に係る2次電池正極材料の製造方法は、水素、水および水蒸気よりなる群から選ばれる1種または2種以上と、導電性炭素および/または加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質と、を添加して、原料を焼成することを特徴とする。
これにより、正極材料の1次粒子の結晶成長を抑制して、得られる正極材料の結晶粒子を細粒化することができる。特に加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質を添加する場合は、正極材料への導電性炭素の析出状態を正極性能上、良好に制御し、正極材料に高い導電性と、電極性能の安定性を付与することができる。また、本発明方法によれば、原料の焼成が不十分で最終製品にまで化学変化しなかったり、中間生成物が残留したりする恐れはなく、焼成によって目的の正極材料を原料から確実に合成できる。
また、水素および/または水分は、強い結晶成長抑制作用および加熱分解により導電性炭素を析出する物質の正極材料への付着状態を改善する強い作用を持つとともに、取り扱いが容易であり、しかも安価であるため、効率的である。
本発明方法の好ましい態様においては、焼成過程は、常温から300℃ないし450℃に至る第一段階と、常温から焼成完了温度に至る第二段階と、を含み、水素、水および水蒸気よりなる群から選ばれる1種または2種以上を、少なくとも第二段階の焼成における500℃以上の温度において添加する。このように水素および/または水分(水または水蒸気)を少なくとも第二段階の焼成における500℃以上の温度において供給しながら正極材料の原料を焼成することにより、生じる正極材料の1次粒子を効率的に細粒化させ、さらに均一かつ安定に導電性炭素を正極材料粒子上に析出させ、より高い正極性能を得ることができる。
本発明方法の別の好ましい態様においては、導電性炭素を、第一段階の焼成前の原料に添加した後、焼成を行う。
これにより、加熱反応する原料と該導電性炭素との接触時間を長く取ることができ、その間に反応によって生じる正極材料の構成元素の拡散により、該炭素の粒界に正極材料が入り込み、より均一で安定な炭素−正極材料複合体を形成するとともに、正極材料粒子同士の焼結を効果的に防止できる。
本発明方法のさらに別の好ましい態様においては、加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質を、第一段階の焼成後の原料に添加した後、第二段階の焼成を行う。
焼成過程で原料の分解により発生するガスの大半は第一段階の焼成(仮焼成)過程で放出されるため、加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質を第一段階の焼成後の原料に添加することによって、加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質が第二段階の焼成(本焼成)中に、当該ガスにより発泡することを防ぐことができる。よって、加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質がより均一に正極材料の表面に溶融状態で広がり、より均一に熱分解炭素を析出させることができる。このため、得られる正極材料の表面導電性がさらに良好になり、また接触が強固に安定化される。この過程において、水素(水分から生じる水素を含む)が加熱により融解・熱分解する物質に接触すると、恐らくは水素の付加反応によって該物質の融液粘性を低下させるため、さらに良好な炭素析出状態が実現されるものと考えられる。
本発明方法のさらに別の好ましい態様においては、前記正極材料が、アルカリ金属、遷移金属及び酸素を含み、酸素ガス不存在下において前記原料を焼成して合成し得る化合物(以下、「遷移金属化合物」と記すことがある)である。
これにより、酸素ガス不存在下で水素、水および水蒸気よりなる群から選ばれる1種または2種以上を添加して原料を焼成すると、得られる正極材料の結晶粒子がより細粒化され、また特に、加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質の析出状態を正極性能上良好に制御できる。また、水素は還元性を併せ持つため、酸素ガス不存在下での焼成においても避けがたい残存酸素による酸化で生成したり、あるいは原料中に元々存在していた酸化態不純物(例えば、正極材料LiFe2+PO4中におけるリチウム欠損酸化態不純物Fe3+PO4や酸化態酸化物Fe2O3等;これらの混在は、一般に電池の放電容量の低下を招く)は、還元性を有する水素の作用により還元されて目的の正極材料に変化するので、酸化態不純物が正極材料に混入することを防ぐこともできる。また、水または水蒸気(以下、「水分」とする)を添加する場合は、導電性炭素または加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質と水分が焼成中に反応して水素を生じるため、いわゆる水性ガス反応と同様の効果を生じる。
また、原料の選定の仕方によっては、原料中の前記遷移金属元素が正極材料中の遷移金属元素より高い価数を有しており、酸素ガス不存在下で焼成される過程だけでは、目的の正極材料中の遷移金属元素と同一の価数を持つには至らないような場合もあり得る。このような場合でも、原料に対して必要かつ十分な還元性を併せ持つ水素(または水分から二次的に生じる水素)を添加することによって、生じる正極材料を必要十分なだけ還元することが可能となり、目的とする正極材料を得ることができる。
本発明方法のさらに別の好ましい態様においては、前記加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質が、ビチューメン類である。ビチューメン類は、加熱分解により導電性炭素を生じるため、焼成により得られる正極材料に導電性を付与することができる。
また、より好ましくは、前記ビチューメン類が、軟化温度80℃から350℃の範囲内にあり、加熱分解による減量開始温度が350℃から450℃の範囲内にあり、かつ、500℃から800℃の加熱分解・焼成により導電性炭素を析出し得る石炭ピッチである。かかる性質を備えた石炭ピッチは、非常に安価であるとともに、焼成中に融解して焼成中の原料粒子の表面に均一に広がり、熱分解後、高い導電性を発現する炭素析出物となるため、導電性炭素を生じ得る物質として優れた性質を有する物質である。さらに、かかる石炭ピッチが加熱により融解・熱分解する過程で水素を添加すると、得られる正極材料粒子上に析出する導電性炭素の析出状態が正極性能上、より良好な状態に改善される。
本発明方法のさらに別の好ましい態様においては、前記加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質が、糖類である。糖類を用いることによって、より優れた結晶成長抑制効果と導電性付与効果を同時に得ることができる。糖類は加熱分解によって導電性炭素を生じて正極材料に導電性を付与するだけでなく、糖類に含まれる多くの水酸基が原料および生じた正極材料粒子表面に強く相互作用することにより、結晶成長抑制作用も併せ持つと推測されるためである。また、より好ましくは前記糖類が、250℃以上500℃未満の温度域において分解を起こし、かつ150℃から分解までの昇温過程において一度は少なくとも部分的に融液状態をとり、さらに500℃以上800℃以下までの加熱分解・焼成によって導電性炭素を生成する糖類である。かかる特定の性質を有する糖類は、融解により加熱反応中の正極材料粒子の表面に好適にコートされ、加熱分解後生じた正極材料粒子表面に導電性炭素を良好に析出させる。また、この過程で前記したように結晶成長を抑制する。このため、上記特定の性質の糖類は、特に優れた結晶成長抑制効果と導電性付与効果を奏する。さらに、かかる糖類が加熱により融解・熱分解する過程で水素を添加すると、得られる正極材料粒子上に析出する導電性炭素の析出状態が正極性能上、より良好な状態に改善される。
本発明方法のさらに別の好ましい態様においては、前記正極材料が、M(1)aM(2)xAyOz[ここで、M(1)はLiまたはNaを示し、M(2)はFe(II)、Co(II)、Mn(II)、Ni(II)、V(II)またはCu(II)を示し、AはPまたはSを示し、aは0〜3から選ばれる数、xは1〜2から選ばれる数、yは1〜3から選ばれる数、zは4〜12から選ばれる数、をそれぞれ示す]の一般式で示される物質またはこれらの複合体であり、特に好ましい態様においては、前記正極材料が、LiqFePO4、LiqCoPO4またはLiqMnPO4(ここで、qは0〜1から選ばれる数を示す)の一般式で示される物質またはこれらの複合体である。
これらの正極材料については、目的の正極材料中と同一価数の遷移元素を有する化合物をその原料として採用でき、該原料から、酸素不存在条件(例えば不活性ガス中)における焼成によって目的の正極材料を合成することが可能である。このため、還元性を有する水素ガス等を焼成中に添加しても、それが燃焼・消費されてしまうことを避けることができ、また局所温度の著しい上昇を起こすこともなく焼成を安定して制御できる。その上、特にこれらの正極材料系の場合には、水素等の還元力によって中心金属元素[Fe、Co、Mn、Ni、V、Cuなど]の価数がさらに低下して正極材料中に不純物(例えば金属状態)を生じたりすることも起こりにくい。
本発明に係る2次電池は、前記本発明方法により製造された正極材料を構成要素に持つ。本発明方法によって製造された正極材料を用いた2次電池は、正極材料の結晶粒子が細粒化されているので、正極材料と電解質との界面においてリチウムイオンを初めとするアルカリ金属イオンの脱ドープ/ドープを伴う電気化学的酸化/還元を該正極材料が受ける際の表面積が大きく、正極材料の粒子内部と電解質との界面でアルカリ金属イオンが容易に出入りできるため、電極反応分極が抑制される。さらに、正極材料に通例混合されるカーボンブラック等の導電性付与材と正極材料との接触が著しく向上するため導電性が改善されており、正極材料の活物質としての利用率が高く、セル抵抗の小さい、電圧効率と有効電池放電容量が著しく向上した2次電池である。
発明を実施するための最良の形態
本発明の2次電池正極材料の製造方法は、水素、水および水蒸気よりなる群から選ばれる1種または2種以上と、導電性炭素および/または加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質(以下、「導電性炭素前駆物質」と記す)と、を添加して、原料を焼成することにより実施される。
なお、本発明において、気体である水素や水蒸気を「添加する」ことには、水素等のガスの存在下(つまり、水素雰囲気下等)で原料の焼成を行うことが含まれる。
<正極材料>
本発明における正極材料としては、例えば、アルカリ金属、遷移金属及び酸素を含み、酸素ガス不存在下において原料を焼成して合成し得る化合物が好ましい。より具体的には、正極材料としては、例えば、M(1)aM(2)xAyOz[ここで、M(1)はLiまたはNaを示し、M(2)はFe(II)、Co(II)、Mn(II)、Ni(II)、V(II)またはCu(II)を示し、AはPまたはSを示し、aは0〜3から選ばれる数、xは1〜2から選ばれる数、yは1〜3から選ばれる数、zは4〜12から選ばれる数、をそれぞれ示す]の一般式で示される物質またはこれらの複合体を挙げることができる。ここで、(II)、(III)等は遷移金属元素M(2)の価数を示し、x、y、zは、該材料の化学量論的(電気的)な中性条件を満たす値をとる。また、M(2)としては、上記で例示されている遷移金属元素のうち、同一価数のものの複数の組合せも含むものとする[例えば、M(2)がFe(II)Co(II)あるいはFe(II)Mn(II)である場合などが該当する。この時、Fe(II)とCo(II)、あるいはFe(II)とMn(II)の合計含有モル数が、Li 1モルに対しxモルの比率となる(上記M(1)=Li、かつa=1の場合)]。
これらの物質は、一般に酸素ガス不存在下(すなわち、例えばアルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気中)における焼成によってその原料から合成され得るもので、その結晶骨格構造(スピネル型、オリビン型、ナシコン型等を一般にとる)が電気化学的酸化還元によってほとんど変化しない場合、繰返し充放電が可能なアルカリ金属系2次電池用の正極材料として用いることができる。正極材料としては、これらの物質のそのままの状態は放電状態に相当し、電解質との界面での電気化学的酸化によって、アルカリ金属M(1)の脱ドープを伴いながら中心金属元素M(2)が酸化され、充電状態になる。充電状態から電気化学的還元を受けると、アルカリ金属M(1)の再ドープを伴いながら中心金属元素M(2)が還元され、元の放電状態に戻る。
好ましい正極材料としては、LiqFePO4、LiqCoPO4またはLiqMnPO4(ここで、qは0〜1から選ばれる数を示す)の一般式で示される物質またはこれらの複合体を例示することができ、特に、LiqFePO4(ここで、qは前記と同じ意味を有する)の一般式で示される物質が好ましい。これらの物質は、酸素ガス不存在下における約900℃以下の温度での焼成によりその原料から合成され得るもので、例えばリチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等のリチウム系2次電池の正極材料として好適に使用できる。
<原料>
正極材料の原料としては、例えば、アルカリ金属、前記遷移金属および酸素を少なくとも含む化合物(遷移金属化合物)または複数の化合物を組合せて用いることができる。通例は、原料中の遷移金属元素は正極材料中の遷移金属元素と同一の価数を元々有しているか、あるいは所定の焼成温度および焼成時間において酸素ガス不存在下にて焼成される過程で還元され、正極材料中の遷移金属元素と同一の価数を持つに至る。この時、水素等を添加して原料を焼成すると、得られる正極材料の結晶粒子がより細粒化される。
より具体的には、正極材料の原料物質としては、例えば、アルカリ金属導入用の原料として、LiOH、NaOH等の水酸化物、Li2CO3、Na2CO3、NaHCO3等の炭酸塩や炭酸水素塩、LiClやNaCl等の塩化物を含むハロゲン化物、LiNO3、NaNO3等の硝酸塩等、その他、アルカリ金属のみ目的の正極材料中に残留するような分解揮発性化合物(例えば有機酸塩等)が用いられる。また、目的の正極材料が燐酸塩の場合には、例えばLi3PO4、Li2HPO4、LiH2PO4、Na3PO4、Na2HPO4、NaH2PO4等の燐酸塩や燐酸水素塩、さらに、目的の正極材料が硫酸塩の場合には、例えばLi2SO4、LiHSO4、Na2SO4、NaHSO4等の硫酸塩や硫酸水素塩を用いることもできる。
また、Fe、Co、Mn、V等の遷移金属導入用の原料としては、例えば水酸化物、炭酸塩や炭酸水素塩、塩化物等のハロゲン化物、硝酸塩、その他、該遷移金属のみが目的の正極材料中に残留するような分解揮発性化合物(例えば、シュウ酸塩や酢酸塩等の有機酸塩、アセチルアセトン錯体類や、メタロセン錯体等の有機錯体など)が用いられる。また、目的の正極材料が燐酸塩の場合には、燐酸塩や燐酸水素塩、さらに目的の正極材料が硫酸塩の場合には、硫酸塩や硫酸水素塩、およびこれら遷移金属オキソ酸塩とアンモニウム等との複塩を用いることもできる。
また、目的の正極材料が燐酸塩の場合には、無水燐酸P2O5、燐酸H3PO4、および燐酸イオンのみ目的の正極材料中に残留するような分解揮発性燐酸塩や燐酸水素塩(例えば、(NH4)2HPO4、NH4H2PO4、(NH4)3PO4等のアンモニウム塩)、さらに目的の正極材料が硫酸塩の場合には、硫酸H2SO4、および硫酸イオンのみ目的正極材料中に残留するような分解揮発性硫酸塩や硫酸水素塩(例えば、NH4HSO4、(NH4)2SO4等のアンモニウム塩)を用いることもできる。
これらの原料において、目的の正極材料中に残存した場合に好ましくない元素や物質を含む場合には、これらが焼成中に分解・揮発することが必要である。また、目的生成物が例えば燐酸塩の場合、原料には燐酸イオン以外の不揮発性オキソ酸塩等を用いるべきでないことは言うまでもない。なお、これらにおいては、その水和物を用いる場合もあるが(例えば、LiOH・H2O、Fe3(PO4)2・8H2O等)、上記においては水和物としての表記は全て省略している。
正極材料の原料は、必要に応じて焼成前に、粉砕したり、原料同士(場合によって添加される導電性炭素を含む)を混合、混練したりする処理を施すことができる。また、二段階に分けて焼成行う方法において第一段階の焼成後に導電性炭素前駆物質(加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質)を添加する場合には、その際にも粉砕、混合、混練等の処理を行うことができる。
以上の原料を、水素等を共存させて焼成するに際し、通例は特に問題が生じることはないが焼成の早期に両者が急激な反応を起こして目的の正極材料が得られなくなったり、不純物が生じたりすることがないよう、両者の選定および組合せには留意する必要がある。
<水素等の供給>
本発明方法においては、所定量の水素や水分(水、水蒸気等)を継続的に炉内に不活性ガスとともに供給しながら原料を焼成する。例えば、焼成過程の全時間に渡って、または特に500℃以下から焼成完了までの温度、好ましくは400℃以下から焼成完了までの温度、より好ましくは300℃以下から焼成完了までの焼成温度において、水素や水分を添加する。
気体である水素を用いる場合、対象となる正極材料にもよるが、一般に採用されるような300〜900℃に至る焼成過程において、適切な温度範囲及び時間を選んで必要十分な量の水素を供給でき、正極材料表面の酸素原子への付加や脱酸素、正極材料の還元等を効果的に起こすことが可能である。
本発明方法では、水素は、焼成時の、少なくとも500℃以上の温度範囲において添加することが好ましい。例えば500℃以下から焼成完了温度までの温度範囲にわたって添加することが好ましく、より好ましくは400℃以下から焼成完了温度まで、望ましくは、300℃以下から焼成完了温度までの範囲にわたって添加することができる。この範囲においては、恐らくは後述の理由から結晶成長の抑制が効果的に起こる。上記温度範囲における雰囲気中の水素の体積濃度は、およそ0.1%以上20%以下とすることができ、1%以上10%以下とすることが好ましい。これによって、前記遷移金属化合物からなる正極材料の結晶成長が好適に抑制される。
本発明者らによる研究では、正極材料の原料を、酸素ガス不存在下で水素および/または水分を供給しながら焼成すると、生じる正極材料の粒子の結晶性にわずかな乱れが生じ、生成する1次粒子がより細粒化されることが判明した。すなわち、水素および水分は有力な結晶成長抑制剤となることが実証された。このメカニズムは未だ明らかではないが、焼成中に原料から合成され成長する正極材料の結晶粒子の成長面において、表面酸素原子に水素が結合して水酸基を生じたり、その水酸基から生成した水分子が再脱離したりすることにより、結晶表面構造に乱れや不整合が生じる結果、粒子の成長が抑制されるものと考えられる。
水は、水素と同様に結晶成長抑制効果を有する。その理由は未だ明らかではないが、水素ガス添加時と同様に、原料および正極活物質の表面の金属−酸素間の結合を水分子が切断したり、あるいはそこに水分子が付加するなどの現象によって水酸基を生じさせ、これが結晶成長を遅らせるためではないかと推定される。また、水蒸気は、導電性炭素または熱分解により導電性炭素を生じ得る物質と高温(約500℃以上)で接触することによって、いわゆる水性ガス反応により水素と一酸化炭素を生じ、この水素によっても結晶成長抑制効果および還元効果が得られる。つまり、水分を連続的に供給し続けた場合、500℃以上の高温域においても、水性ガス反応によって、より多くの水素を確実に、かつ継続的に発生させることが可能であり、結晶成長抑制作用および還元作用を最大限に発揮させることが可能となる。
水分の供給方法としては、炉内に噴霧するか、好ましくは予気化して水蒸気の形で供給する。供給温度範囲および供給量は水素の場合と同様にすることができる。すなわち、水は、焼成時の、少なくとも500℃以上から焼成が完了する温度範囲において添加することが好ましい。例えば、好ましくは焼成時の500℃以下から焼成完了温度までの温度範囲にわたって、より好ましくは400℃以下から焼成完了温度までの範囲にわたって、望ましくは300℃程度から焼成完了温度までの範囲にわたって、添加することができる。
この範囲においては、恐らくは水酸基形成が良好に起こりやすいため(特に500℃以上の温度においては水性ガス反応によって生じた水素の前記遷移金属化合物の表面原子への付加が起こるため)、結晶成長の抑制が効果的に起こると考えられる。上記温度範囲における雰囲気中の水蒸気の体積濃度は、およそ0.1%以上20%以下とすることができ、1%以上10%以下とすることが好ましい。これによって、正極材料の結晶成長が好適に抑制される。
<導電性炭素>
本発明で用いられる導電性炭素としては、例えば、黒鉛質炭素、無定形炭素等を挙げることができる。ここで、黒鉛質炭素や無定形炭素には、いわゆる、すす、カーボンブラックなども含まれる。
<導電性炭素前駆物質(加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質)>
また、導電性炭素前駆物質としては、例えば、ビチューメン類(いわゆるアスファルト;石炭や石油スラッジから得られるピッチ類を含む)、糖類、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ABS樹脂、フェノール樹脂、その他芳香族基を有する架橋高分子などが挙げられる。これらの中でも、ビチューメン類(特に、精製された、いわゆる石炭ピッチ)および糖類が好ましい。これらのビチューメン類や糖類は加熱分解によって導電性炭素を生じて正極材料に導電性を付与する。特に精製された石炭ピッチは、非常に安価であり、かつ焼成中に融解して焼成中の原料粒子の表面に均一に広がり、また熱分解過程を経て比較的低温(650℃〜800℃)での焼成後、高い導電性を発現する炭素析出物となる。また、糖類の場合は、糖類に含まれる多くの水酸基が原料および生じた正極材料粒子表面に強く相互作用することにより、結晶成長抑制作用も併せ持つため、糖類を用いることによって、より優れた結晶成長抑制効果と導電性付与効果を得ることができるからである。
ここで、精製石炭ピッチとしては、軟化温度が80℃から350℃の範囲内にあり、熱分解による減量開始温度が350℃から450℃の範囲内にあり、500℃以上800℃以下までの加熱分解・焼成により、導電性炭素を生成するものが好適に用いられる。正極性能をより高めるためには、軟化温度が200℃〜300℃の範囲内にある精製石炭ピッチがより好ましい。また、精製石炭ピッチに含有される不純物は、正極性能に悪影響を与えることがないものが良いことは言うまでもないが、特に灰分が5000ppm以下であることが好ましい。
さらに、糖類としては、250℃以上500℃未満の温度域において分解を起こし、かつ150℃から前記温度域までの昇温過程において一度は少なくとも部分的に融液状態をとり、さらに500℃以上800℃以下までの加熱分解・焼成によって導電性炭素を生成する糖類が特に好ましい。かかる特定の性質を有する糖類は、融解により加熱反応中の正極材料粒子の表面に好適にコートされ、加熱分解後生じた正極材料粒子表面に導電性炭素を良好に析出するとともに、この過程で上記したように結晶成長を抑制するからである。ここで、良好な導電性を生じさせるために、加熱分解温度は、正極材料の種類にもよるが、好ましくは570℃以上850℃以下、より好ましくは650℃以上800℃以下に設定できる。また、上記糖類は加熱分解によって、該糖類の焼成前の乾燥重量に対し、少なくとも15重量%以上、好ましくは20重量%以上の導電性炭素を生じ得るものがよい。これは、生じる導電性炭素の量的な管理を容易にするためである。以上のような性質を有する糖類としては、例えばデキストリンなどのオリゴ糖や、可溶性でんぷん、加熱により融解しやすい架橋の少ないでんぷん(例えば50%以上のアミロースを含むでんぷん)等の高分子多糖類が挙げられる。
<導電性炭素前駆物質等の添加と焼成>
上記導電性炭素や、精製石炭ピッチ、糖類等に代表される導電性炭素前駆物質は、適切なタイミングで原料(中間生成物を含む)中に添加して混合される。添加時には、必要に応じて原料と充分に混合するための操作、例えば粉砕や混練を行うこともできる。
導電性炭素や導電性炭素前駆物質は、生じる正極材料中において、導電性炭素の重量濃度が0.1%以上10%以下、好ましくは0.5%以上7%以下、より好ましくは1%以上5%以下となるように添加することができる。
焼成は、対象となる正極材料にもよるが、一般に採用されるような300〜900℃に至る焼成過程において、適切な温度範囲及び時間を選んで実施することができる。また、焼成は、酸化態不純物の生成防止や、残存する酸化態不純物の還元を促すため、酸素ガス不存在下で行うことが好ましい。
焼成は一連の昇温およびこれに引き続く温度保持過程の一回のみにより実施することも可能であるが、第一段階のより低温域での焼成過程(通例常温〜300ないし450℃の温度範囲;以下、「仮焼成」と記すことがある)、および第二段階のより高温域での焼成過程[通例常温〜焼成完了温度(500℃ないし800℃程度);以下、「本焼成」と記すことがある]の2段階に分けて行うことが好ましい。この場合、以下のタイミングで導電性炭素や導電性炭素前駆物質の混合を行うことにより、得られる正極の性能をより向上させることができる。
仮焼成においては、正極材料の原料が加熱により最終的な正極材料に至る中間的な状態まで反応し、その際、多くの場合は熱分解によるガス発生を伴う。仮焼成の終了温度としては、発生ガスの大部分が放出し終わり、かつ最終生成物の正極材料に至る反応が完全には進行しない温度(すなわち、より高温域での第二段階の本焼成時に正極材料中の構成元素の再拡散・均一化が起こる余地を残した温度)が選択される。
仮焼成に続く本焼成では、構成元素の再拡散・均一化が起こるとともに、正極材料への反応が完了し、しかも焼結などによる結晶成長を極力防げるような温度域まで昇温および温度保持がなされる。
ここで既に導電性を有し、加熱による重量減少、形態変化やガス発生が最早殆ど起こらなくなった炭素(導電性炭素;例えば、スス、カーボンブラックなどの黒鉛質炭素や無定形炭素など)を添加する場合は、仮焼成前の原料にこれらの所定量を混合し、仮焼成から一連の焼成過程を開始することが好ましい。これにより、加熱反応する原料と該導電性炭素との接触時間を長く取ることができ、その間に反応によって生じる正極材料の構成元素の拡散により、導電性炭素の粒界に正極材料が入り込み、より均一で安定な炭素−正極材料複合体を形成するとともに、正極材料粒子同士の焼結を効果的に防止できるからである。
一方、導電性炭素前駆物質、特に加熱により融解する石炭ピッチや糖類を用いる場合、高性能の正極材料を得るには、仮焼成後の原料(既に原料からのガス発生の大半が終了し、中間生成物となった状態)に添加し、本焼成を行うことがより好ましい。つまり、焼成過程における仮焼成と本焼成との間に、原料への導電性炭素前駆物質の添加工程を設けることになる。
これにより、加熱により融解・熱分解する石炭ピッチや糖類等の導電性炭素前駆物質が、原料から発生するガスにより発泡することを防ぎ、より均一に正極材料の表面に溶融状態で広がり、より均一に熱分解炭素を析出させることができる。
これは以下の理由による。
すなわち、仮焼成において原料の分解により発生するガスの大半が放出されてしまう結果、本焼成ではガスの発生が殆ど起こらず、仮焼成後のタイミングで導電性炭素前駆物質を添加することにより、均一な導電性炭素の析出が可能になる。このため、得られる正極材料の表面導電性がさらに良好になり、また接触が強固に安定化される。これに対し、仮焼成前の原料に導電性炭素前駆物質を添加すると、仮焼成中に原料から旺盛に発生するガスにより、融解状態で未だ完全には熱分解していない導電性炭素前駆物質が発泡し、均一な析出が行われない場合がある。
また、導電性炭素前駆物質を焼成前の原料[二段階に分けて焼成行う方法においては第一段階の焼成前の原料もしくは第一段階の焼成後の原料(中間体)]に添加して焼成を行う場合、水素(水分と石炭ピッチや糖類等の導電性炭素前駆物質との反応で生じる水素を含む)を添加することにより、得られる正極材料の炭素析出が均一化する。このメカニズムも未だ明らかではないが、水素が、融解した状態の導電性炭素前駆物質に付加することにより、その粘性を低下させ、正極材料粒子に導電性炭素を均一に析出させる効果があるためと推測される。
例えば、導電性炭素前駆物質として、軟化温度が80℃から350℃の範囲内にあり、熱分解による減量開始温度が350℃から450℃の範囲内にあり、500℃以上800℃以下までの加熱分解により、導電性炭素を生成する精製石炭ピッチを用いる場合、焼成過程で融解状態になった石炭ピッチに水素(水分から生じる水素を含む)が作用すると、その粘性が低下し、流動性が向上して得られる正極材料中で極めて均一かつ被覆厚みの薄い析出状態が実現できる。
従って、水素(水分から生じる水素を含む)は、少なくとも本焼成中の500℃から焼成完了温度までの間、好ましくは400℃以下から焼成完了温度までの間、より好ましくは300℃から焼成完了温度までの間、あるいは本焼成中全域に渡って添加するのがよい。さらに、仮焼成中においても水素を添加すると、その還元性により正極材料の酸化が防止できる等の効果も期待できる。
もっとも、導電性炭素前駆物質を仮焼成前の原料に添加することも可能であり、この場合でも相応の正極性能向上効果が得られる。
また、導電性炭素と、導電性炭素前駆物質、例えば加熱により融解・熱分解する石炭ピッチや糖類等の物質の両方を添加することも、高い正極性能を持つ正極材料を得るのに有効である。この場合、前記した理由により導電性炭素は仮焼成前の原料に添加し、加熱により融解・熱分解する石炭ピッチや糖類等の物質は仮焼成後の原料に添加することが好ましい。
本発明による正極材料の製造方法の概要の例を示せば次のとおりである。
まず、単一の焼成工程のみを採用する場合は、[導電性炭素および/または導電性炭素前駆物質の添加を行う工程(必要に応じて原料とともに粉砕、混合、混練等を行うこともできる)]、[焼成工程]の順に実施される。以上において、水素または水分は、前記したタイミングで少なくとも焼成工程の一部において、あるいは焼成工程の全域において添加される。
一方、二段階に分けて焼成を行う方法における第一段階の仮焼成後に導電性炭素前駆物質を添加する場合は、[必要に応じて原料の粉砕、混合、混練等を行う工程]、[第一段階の焼成工程]、[導電性炭素前駆物質の添加(必要に応じて、粉砕、混合、混練等を行うこともできる)]、[第二段階の本焼成工程]の順に実施される。
また、二段階に分けて焼成行う方法における第一段階の仮焼成前に導電性炭素を添加し、かつ第一段階の仮焼成後に導電性炭素前駆物質を添加する場合は、[導電性炭素の添加を行う工程(必要に応じて原料とともに粉砕、混合、混練等を行うこともできる)]、[第一段階の仮焼成工程]、[導電性炭素前駆物質の添加(必要に応じて、原料(中間体)とともに粉砕、混合、混練等を行うことができる)]、[第二段階の本焼成工程]の順に実施される。
さらに、二段階に分けて焼成を行う方法における第一段階の仮焼成前に導電性炭素を添加する場合は、[導電性炭素の添加を行う工程(必要に応じて原料とともに粉砕、混合、混練等を行うこともできる)]、[第一段階の仮焼成工程]、[必要に応じて原料(中間体)の粉砕、混合、混練等を行う工程]、[第二段階の本焼成工程]の順に実施される。
以上において、水素または水分は、前記したタイミングで、少なくとも第二段階の本焼成工程の一部において、望ましくは第二段階の本焼成工程全域において、さらに望ましくは、これに加えて第一段階の仮焼成工程の少なくとも一部においても添加される。
<2次電池>
以上のようにして得られる本発明の正極材料を使用した2次電池としては、例えば、金属リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等を挙げることができる。
以下、アルカリ金属がリチウムの場合を例として、アルカリイオン電池の基本構成を説明する。リチウムイオン電池は、俗にロッキングチェア型とか、シャトルコック(バトミントンの羽根)型などと言われるように、充放電に伴い、負極、正極活物質の間をLi+イオンが往復することを特徴とする2次電池である(第1図参照)。なお、第1図中、符号10は負極を、符号20は電解質を、符号30は正極を、符号40は外部回路(電源/負荷)を、符号Cは充電している状態(充電時)を、符号Dは放電している状態(放電時)を、それぞれ示す。
充電時には負極(現行系は黒鉛などのカーボンが用いられる)の内部にLi+イオンが挿入されて層間化合物を形成し(この時、負極カーボンが還元され、Li+の抜けた正極が酸化される)、放電時には、正極(現行の主流は酸化コバルト系であるが第1図ではリン酸鉄リチウムなど鉄(II)/(III)の酸化還元系を例に挙げている)の内部にLi+イオンが挿入されて鉄化合物−リチウムの複合体を形成する(この時、正極の鉄が還元され、Li+の抜けた負極は酸化されて黒鉛等に戻る)。Li+イオンは充放電の間、電解質中を往復し、同時に電荷を運ぶ。電解質としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどの環状有機溶媒と、例えばジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状有機溶媒との混合溶液に、例えばLiPF6、LiCF3SO3、LiClO4等の電解質塩類を溶解させた液状電解質、これらの液状電解質を高分子ゲル状物質に含浸させたゲル電解質、部分架橋ポリエチレンオキシドに前記電解質を含浸させたもの等の固体ポリマー電解質等が用いられる。液状電解質を用いる場合には、正極と負極が電池内で短絡しないようにポリオレフィン製等の多孔質隔膜(セパレータ)をそれらの間に挟んで絶縁させる。正極および負極は、正極材料および負極材料にそれぞれカーボンブラック等の導電性付与剤を所定量加え、例えばポリ4弗化エチレンやポリ弗化ビニリデン、フッ素樹脂等の合成樹脂、エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴム等の結着剤、および必要な場合はさらに極性有機溶媒を加えて混練、薄膜化させたものを用い、金属箔や金属網等で集電して電池が構成される。一方、負極に金属リチウムを用いた場合、負極ではLi(O)/Li+の変化が充放電とともに起こり、電池が形成される。
本発明者による研究では、正極材料の原料を、酸素ガス不存在下で水素および/または水分を供給しながら焼成すると、生じる正極材料の粒子の結晶性にわずかな乱れが生じ、生成する1次粒子がより細粒化されることが判明した。すなわち、水素および水分は有力な結晶成長抑制剤となることが実証された。このメカニズムは未だ明らかではないが、焼成中に原料から合成され成長する正極材料の結晶粒子の成長面において、表面酸素原子に水素が結合したり、表面の金属−酸素間の結合を水分子が切断、付加するなどの現象によって水酸基を生じたり、その水酸基から生成した水分子が再脱離したりすることにより、結晶表面構造に乱れや不整合が生じる結果、粒子の成長が抑制されるものと考えられる。
また、導電性炭素前駆物質を焼成前の原料[二段階に分けて焼成行う方法においては第一段階の焼成前の原料もしくは第一段階の焼成後の原料(中間体)]に添加して焼成を行う場合、水素(水分と石炭ピッチや糖類等の導電性炭素前駆物質との反応で生じる水素を含む)を添加することにより、得られる正極材料の炭素析出が均一化し、放電容量の顕著な増加などより高い正極性能が得られることが判明した。このメカニズムも未だ明らかではないが、水素が、融解した状態の導電性炭素前駆物質に付加することにより、その粘性を低下させ、正極材料粒子に導電性炭素を均一に析出させる効果があるためと推測される。この効果は、原料に添加する導電性炭素前駆物質が、融解時に比較的低粘性となる石炭ピッチ等である場合に比べ、融解時に高粘性となる多糖類のデキストリン等である場合に、特に顕著に現れる。また、導電性炭素前駆物質の添加量を比較的少なく抑え、炭素の析出量を制限した場合(例えば、正極活物質中、炭素の重量濃度が約2%未満の場合)に、特に有利に作用する。
一般に、正極活物質表面への炭素の析出は、表面導電性を向上させる大きな効果があるが、反面、電極酸化還元反応に伴う正極活物質/電解液界面のLi+イオンなどのアルカリ金属イオンの移動を阻害するという問題がある。その点、水素添加に伴う前述の効果が得られると導電性炭素前駆物質の添加量を抑えることができるので、導電性炭素の均一な析出を可能にしながら、アルカリ金属イオンの移動阻害も防止できるため、正極のいっそうの高性能化が図れ、非常に有利である。
次に、実施例等により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって制約されるものではない。
実施例1
(1)正極材料の調製:
正極材料LiFePO4を、以下の手順で合成した。
5.0532gのFeC2O4・2H2O(和光純薬工業株式会社製)、3.7094gの(NH4)2HPO4(和光純薬工業株式会社製)、1.1784gのLiOH・H2O(和光純薬工業株式会社製)、および0.5500gの試薬デキストリン(和光純薬工業株式会社製)を夫々めのう乳鉢にて粉砕後混合してアルミナ製るつぼに入れ、5体積%水素(H2)/95体積%アルゴン(Ar)の混合ガスを200ml/分の流量で通気しながら、まず350℃にて5時間仮焼成した。得られた仮焼成物を取出して、めのう乳鉢にて粉砕後、さらに同雰囲気で675℃にて24h焼成した(混合ガスは、昇温開始前から焼成中、さらに放冷後まで流通しつづけた)。これにより合成された正極材料は、粉末X線回折によりオリビン型結晶構造を有するLiFePO4であると同定され、α−Fe2O3など酸化態不純物その他の不純物の回折ピークは全く認められなかった。
この正極材料に関する粉末X線回折の解析結果から、粒径既知のケイ素粉末を標準として、シェラーの式に従って求めた結晶子サイズ及び走査型電子顕微鏡観察によって求めた正極材料の1次粒子径は後記表1に示すとおりである。元素分析によると、この生成物中の炭素の含有量は4.02重量%であり、元のデキストリンから炭素に熱分解される過程での残留率は約31重量%と算出された。
(2)2次電池の調製:
この正極材料と、導電性付与材としてのアセチレンブラック[デンカブラック(登録商標);電気化学工業株式会社製、50%プレス品]と、結着材としての未焼成PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粉とを重量比で70.6/24.4/5となるように混合・混練して、厚さ0.7mmのシート状に圧延し、これを直径1.0cmに打抜いたペレットを正極とした。
その後、ステンレス製コイン電池ケース(型番CR2032)に金属チタン網、金属ニッケル網をそれぞれ正負極集電体としてスポット溶接し、前記正極及び金属リチウム箔負極を多孔質ポリエチレン製隔膜を介して組入れ、電解液として1MのLiPF6を溶解したジメチルカーボネート/エチレンカーボネートの1/1混合溶液を満たして封入し、コイン型リチウム2次電池を作製した。正負極、隔膜、電解液等の一連の電池組立ては、アルゴン置換されたグローブボックス内で行った。
以上のように、本発明の製造方法によって得た正極材料を組み込んだ2次電池に対して、正極ペレットの見かけ面積当たりの電流密度0.5mA/cm2および1.6mA/cm2にて、3.0V〜4.0Vの作動電圧範囲で充放電を繰り返したところ、1〜20サイクルの平均初期放電容量は表1に示すとおりであった(初期放電容量は、生成物中の正極活物質量で規格化した)。
また、このコイン型リチウム2次電池の上記条件における10サイクル目の充放電特性を第2図に示した。
比較例1
実施例1に対し、焼成時の流通ガスを、水素を含まない100体積%アルゴンガスとし、原料に試薬デキストリンを添加しなかった以外、全く同様の合成方法によって正極材料としてオリビン型LiFePO4を得た[本方法は、第40回電池討論会発表3C14(同予稿集p349、1999)の方法に基本的に従っている]。これに対する粉末X線回折解析結果及び走査型電子顕微鏡観察によって求めた生成物の1次粒子径を表1に記した。また、実施例1と同様に構成したコイン型リチウム2次電池を作製し、実施例1と同様にして充放電サイクル試験を実施した。この1〜20サイクルの平均初期放電容量も表1に示した。また、このコイン型リチウム2次電池の上記条件における10サイクル目の充放電特性を第3図に示した。
実施例1と比較例1とを比べると、X線回折解析結果から、いずれもほぼ全体がオリビン型LiFePO4であることが確認されたが、比較例1の結晶子サイズは、実施例1の約1.6倍大きいことが判る。一方、走査型電子顕微鏡観察によって求めた生成物の1次粒子径も、前記結晶子サイズと同様、実施例1より比較例1の方が大きいことが判る。さらに比較例1では、初期放電容量が実施例1に比べ小さくなった。また充放電の際の電池内部抵抗は、比較例1の方が実施例1より明らかに大きかった。
また、第2図と第3図とを比較すると、デキストリンを加えて水素存在下で焼成した実施例1は、デキストリンを添加せず、水素を供給しないで焼成した比較例1に比べて理論容量(170mAh/g)により近い値まで充放電電圧の平坦域を有しており、充放電特性に著しい差が見られる。また、実施例1では充電電圧と放電電圧との差も小さいため、内部抵抗が小さく、より高い電圧効率を示しており、充放電特性に優れていることが理解される。
以上の結果から、実施例1のように原料にデキストリンを添加し、かつ還元性結晶成長抑制剤である水素を添加して焼成することによって、正極材料LiFePO4の結晶の1次粒子径が細粒化されると同時に、導電性炭素が均一に析出したことにより、それを用いた2次電池の初期放電容量は増加し、高性能化されたことが示された。特に実施例1では、1.6mA/cm2という高い電流密度においても125mAh/gという大きな放電容量を示すことが注目され、この正極材料が、例えばハイブリット電気自動車等の移動体の駆動用、携帯電話用等の大電流を要する電源にも適用し得るものであることが示唆された。
実施例2
比較例1に対し、焼成時の流通ガスを5体積%水素/95体積%アルゴンガスの混合ガスとし、かつ原料に0.1000gのアセチレンブラック[電気化学工業株式会社製デンカブラック(登録商標;50%プレス品)をめのう製自動乳鉢にて1時間粉砕したもの]を予め添加・混合した以外、全く同様の合成方法によってアセチレンブラック由来の導電性炭素を含む正極材料としてオリビン型LiFePO4を得た。これに対する粉末X線回折解析結果及び走査型電子顕微鏡観察によって求めた生成物の1次粒子径を表1に記した。また、実施例1と同様に構成したコイン型リチウム2次電池を作製し、実施例1と同様にして充放電サイクル試験を実施した。この1〜20サイクルの平均初期放電容量も表1に示した。
X線回折解析結果から、実施例2はほぼ全体がオリビン型LiFePO4であることが確認されたが、比較例1の結晶子サイズは実施例2に比べて約2〜3割近く大きいことが判る。一方、走査型電子顕微鏡観察によって求めた生成物の1次粒子径も、前記結晶子サイズと同様、実施例2より比較例1の方が大きいことが判る。
さらに表1に示すように、初期放電容量については実施例1に比べ小さくなったものの、比較例1に比べると大きく改善されたことが判る。また充放電の際の電池内部抵抗は、比較例1の方が実施例2より明らかに大きかった。
以上の結果から、実施例2のように導電性炭素となるアセチレンブラックを原料に添加し、還元性結晶成長抑制作用を有する水素を雰囲気ガスに添加して焼成することによって、正極材料LiFePO4の結晶の1次粒子径が細粒化されるとともに正極材料粒子表面の導電性が改善され、またそれを用いた2次電池の初期放電容量は増加し、高性能化されたことが示された。
実施例3
比較例1に対し、焼成時の流通ガスを8体積%の水(予気化水蒸気)/92体積%アルゴンガスの混合ガスとし、かつ原料に0.1000gのアセチレンブラック[電気化学工業社製デンカブラック(登録商標;50%プレス品)をめのう製自動乳鉢にて1時間粉砕したもの]を予め添加・混合した以外、全く同様の合成方法によってアセチレンブラック由来の導電性炭素を含む正極材料としてオリビン型LiFePO4を得た。これに対する粉末X線回折解析結果及び走査型電子顕微鏡観察によって求めた生成物の1次粒子径を表1に記した。また、実施例1と同様に構成したコイン型リチウム2次電池を作製し、実施例1と同様にして充放電サイクル試験を実施した。この1〜20サイクルの平均初期放電容量も表1に示した。
X線回折解析結果から、実施例3は全体がオリビン型LiFePO4であることが確認されたが、比較例1の結晶子サイズは実施例3に比べ約2〜3割近く大きいことが判る。一方、走査型電子顕微鏡観察によって求めた生成物の1次粒子径も、前記結晶子サイズと同様、実施例3より比較例1の方が大きいことが判る。
さらに表1に示すように、初期放電容量については実施例1に比べ小さくなったものの、比較例1に比べると大きく改善されたことが判る。また充放電の際の電池内部抵抗は、比較例1の方が実施例3より明らかに大きかった。
以上の結果から、実施例3のように導電性炭素となるアセチレンブラックを原料に添加し、結晶成長抑制剤である水分(水蒸気)を添加して焼成することによって、正極材料LiFePO4の結晶の1次粒子径が細粒化されるとともに正極材料粒子表面の導電性が改善され、またそれを用いた2次電池の初期放電容量は増加し、高性能化されたことが示された。
実施例4
実施例1で用いたものと同一の正極材料に、同一のアセチレンブラック、及びPVDF(ポリ弗化ビニリデン)を重量比で80/15/5となるように加え、それらに対しN−メチルピロリドンを50重量%添加して混練し、アルミ箔に厚み0.15mmとなるように塗布して乾燥したものを正極シートとした。一方、負極材料として天然黒鉛を用い、PVDF(ポリ弗化ビニリデン)を重量比で90/10となるように加え、それらに対し同重量のN−メチルピロリドンを添加して混練、銅箔に厚み0.15mmとなるように塗布して乾燥したものを負極シートとした。これらを直径1.0cmに打ちぬき、ねじ込み式ステンレス製セルに実施例1と同一の多孔質ポリエチレン製隔膜を介し、同一の電解液を満たして組み入れ、リチウムイオン電池を作成した。この電池を見かけ面積あたりの電流密度0.5mA/cm2にて、2.8〜4.0Vの作動電圧範囲で充放電を繰り返した。1〜20サイクルの平均初期放電容量は表2に示すとおりであった。
比較例2
比較例1で用いたものと同一の正極材料を採用した以外、実施例4と同一の構成でリチウムイオン電池を作成した。この電池を見かけ面積あたりの電流密度0.5mA/cm2にて、2.8〜4.0Vの作動電圧範囲で充放電を繰り返したところ、1〜20サイクルの平均初期放電容量は表2に示すとおりとなり、水素およびデキストリンを添加しない比較例2に対し、水素およびデキストリンを添加した実施例4の方が大きな放電容量を示し、高性能化されたことが示された。
実施例5
(1)正極材料の調製:
正極材料LiFePO4を、以下の手順で合成した。
5.0161gのFe3(PO4)2・8H2O(添川理化学株式会社製)、1.1579gのLi3PO4(和光純薬工業株式会社製)、および0.1160gの軟化温度200℃精製石炭ピッチ(アドケムコ株式会社製:MCP−200)に略1.5倍体積のエタノールを加え、2mm径ジルコニアビーズおよびジルコニアポットを有する遊星ボールミルを用いて粉砕・混合後、減圧下50℃にて乾燥した。
乾燥後の粉砕・混合物をアルミナ製るつぼに入れ、5体積%H2/95体積%Arの混合ガスを200ml/分の流量で通気しながら、まず400℃にて5時間仮焼成し、取り出してめのう乳鉢にて粉砕後、さらに同雰囲気で675℃にて10時間焼成した(ガスは昇温開始前から焼成放冷後まで流通し続けた)。これにより合成された正極材料は、粉末X線回折によりオリビン型結晶構造を有するLiFePO4であると同定され、酸化態不純物であるα−Fe2O3やFePO4等や、それ以外の不純物の結晶回折ピークは認められなかった。
また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が1.61重量%含有されていることが判ったものの、粉末X線回折からは黒鉛結晶の回折ピークが認められなかったことから、非晶質炭素との複合体を形成していると推定された。
この正極材料に関する粉末X線回折の解析結果から求めた結晶子サイズを後記表3に示した。
(2)2次電池の調製:
この正極材料と、導電性付与剤としてのアセチレンブラック[デンカブラック(登録商標);電気化学工業株式会社製、50%プレス品]と、結着材としての未焼成PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粉とを重量比で70.3/24.7/5となるように混合・混練して、厚さ0.7mmのシート状に圧延し、これを直径1.0cmに打抜いたペレットを正極とした。
その後、実施例1と同様の条件でコイン型リチウム2次電池を作製した。正負極、隔膜、電解液等の一連の電池組立ては、アルゴン置換されたグローブボックス内で行った。
以上のように、本発明の製造方法によって得た正極材料を組み込んだ2次電池に対して、正極ペレットの見かけ面積当たりの電流密度0.5mA/cm2および1.6mA/cm2にて、3.0V〜4.0Vの作動電圧範囲で充放電を繰り返したところ、1〜20サイクルの平均初期放電容量は後記表3に示すとおりであった。また、このコイン型リチウム2次電池の上記条件における10サイクル目の充放電特性を第4図に示した。
比較例3
実施例5に対し、焼成時の流通ガスを、水素を含まない100体積%アルゴンガスとした以外、全く同様の合成方法によって正極材料オリビン型LiFePO4を得た。この正極材料に関する粉末X線回折の解析結果から求めた結晶子サイズを後記表3に示した。また、実施例5と同様に構成したコイン型リチウム2次電池を作製し、実施例5と同様にして充放電サイクル試験を実施した。この1〜20サイクルの平均初期放電容量も表3に示した。また、このコイン型リチウム2次電池の上記条件における10サイクル目の充放電特性を第5図に示した。
表3から、実施例5に示されるように水素を添加して焼成することによって、正極材料LiFePO4を用いた2次電池の初期放電容量は増加し、高性能化されたことが判る。また、実施例5と比較例3を比べると、水素添加により、確かに結晶子サイズは減少したものの、結晶成長の抑制効果は必ずしも顕著であるとは言えない程度にとどまっている。しかし、放電容量の増加は、表3にも見られるように極めて顕著であった。
また、第4図と第5図とを比較すると、原料に石炭ピッチを加えて水素存在下で焼成した実施例5は、水素を供給せずに石炭ピッチを加えて焼成した比較例3に比べて理論容量(170mAh/g)により近い値まで充放電電圧の平坦域を有しており、充電電圧と放電電圧との差も充分に少ないことから、充放電特性に優れていることが理解される。
比較例3に比し、実施例5における充放電特性が顕著に向上した理由は、焼成中において、融解した石炭ピッチに水素が付加してその粘性を低下させ、焼成で生じる正極活物質リン酸鉄リチウム粒子の表面に広がり易くなり、その結果、より均一な熱分解炭素の析出が起こったためと推定される。この効果は、原料に添加する導電性炭素前駆物質が、融解時に比較的低粘性になる石炭ピッチ等である場合に比べ、融解時に高粘性となる多糖類のデキストリン等である場合に、特に顕著に現れる。また同様に、この効果は、石炭ピッチやデキストリン等の導電性炭素前駆物質の添加量を本実施例5のように比較的少なく抑え、炭素の析出量を制限した場合(例えば、正極活物質中、析出した炭素の重量濃度が約2%未満)において、特に顕著に表れる。
一般に、正極活物質表面への炭素の析出は、表面導電性を向上させる大きな効果があるが、反面、電極酸化還元反応に伴う正極活物質/電解液界面のLi+イオンの移動を阻害するという問題がある。その点、水素添加に伴う前述の効果によって、加熱分解により導電性炭素を析出する石炭ピッチやデキストリン等の物質の添加量を抑えることができ、その結果、Li+イオンの移動阻害を防止できるため、非常に有利である。
実施例6
(1)正極材料の調製:
正極材料LiFePO4を、以下の手順で合成した。
5.0532gのFeC2O4・2H2O(和光純薬工業株式会社製)、3.7094gの(NH4)2HPO4(和光純薬工業株式会社製)、1.1784gのLiOH・H2O(和光純薬工業株式会社製)に略1.5倍体積のエタノールを加え、2mm径ジルコニアビーズおよびジルコニアポットを有する遊星ボールミルを用いて粉砕・混合後、減圧下50℃にて乾燥した。乾燥後の粉砕・混合物をアルミナ製るつぼに入れ、5体積%水素(H2)/95体積%アルゴン(Ar)の混合ガスを200ml/分の流量で通気しながら、まず400℃にて5時間仮焼成した。取出した仮焼成後の原料2.1364gに、0.1097gの軟化温度200℃の精製石炭ピッチ[アドケムコ株式会社製MCP−200(商品名)]を加え、めのう乳鉢にて粉砕後、さらに同雰囲気で775℃にて10時間本焼成を行った(混合ガスは、昇温開始前から焼成中、さらに放冷後まで流通しつづけた)。これにより合成された正極材料は、粉末X線回折によりオリビン型結晶構造を有するLiFePO4であると同定された。一方、酸化態不純物であるα−Fe2O3、FePO4などや、それ以外の不純物の結晶回折ピークは全く認められなかった。
また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.08重量%含有されていることが判ったものの、X線回折からは黒鉛結晶の回折ピークは認められなかったことから、非晶質炭素との複合体を形成していると推定された。また、結晶子サイズは、64nmであった。
(2)2次電池の調製:
この正極材料と、導電性付与材としてのアセチレンブラック[デンカブラック(登録商標);電気化学工業株式会社製、50%プレス品]と、結着材としての未焼成PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粉とを重量比で70.6/24.4/5となるように混合・混練して、厚さ0.7mmのシート状に圧延し、これを直径1.0cmに打抜いたペレットを正極とした。
その後、ステンレス製コイン電池ケース(型番CR2032)に金属チタン網、金属ニッケル網をそれぞれ正負極集電体としてスポット溶接し、前記正極及び金属リチウム箔負極を多孔質ポリエチレン製隔膜を介して組入れ、電解液として1MのLiPF6を溶解したジメチルカーボネート/エチレンカーボネートの1/1混合溶液を満たして封入し、コイン型リチウム2次電池を作製した。正負極、隔膜、電解液等の一連の電池組立ては、アルゴン置換されたグローブボックス内で行った。
以上のようにして得た正極材料を組み込んだ2次電池に対して、正極ペレットの見かけ面積当たりの電流密度0.5mA/cm2および1.6mA/cm2にて、3.0V〜4.0Vの作動電圧範囲で充放電を繰り返したところ、1〜20サイクルの平均初期放電容量は表4に示すとおりであった(初期放電容量は、生成物中の正極活物質量で規格化した)。
実施例7
実施例6に対し、軟化温度200℃の精製石炭ピッチを仮焼成前の原料に加えて仮焼成および本焼成を行った以外は、実施例6と同様の合成方法によって正極材料オリビン型LiFePO4を得た。
すなわち、実施例6と同量のFeC2O4・2H2O、(NH4)2HPO4、およびLiOH・H2Oに0.1940gの軟化温度200℃の精製石炭ピッチを加え、遊星ボールミルを用いて粉砕・混合、および乾燥後、アルミナ製るつぼ中で同一雰囲気にて400℃で5時間仮焼成し、粉砕後、さらに同雰囲気で775℃にて10時間本焼成した。得られた正極材料は、X線回折では実施例6とほとんど差異が見られず、また結晶子サイズは64nmであり、実施例6と差がなかった。また、元素分析から、精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.04重量%含有されており、析出炭素量も実施例6と大きな差はないことが判明した。
この正極材料について、実施例6と同様に構成したコイン型リチウム2次電池を作製し、実施例6と同様にして充放電サイクル試験を実施した。この1〜20サイクルの平均初期放電容量も表4に示した。
表4に示すように、実施例7の初期放電容量は、比較的良好であり、水素添加および精製石炭ピッチ添加による効果が認められるが、実施例6では初期放電容量がさらに大きくなることが判る。
以上から、実施例6に示されるように、水素を添加しながら原料を仮焼成および本焼成する際、軟化温度200℃の石炭ピッチを仮焼成後の原料に添加して本焼成することによって、正極材料LiFePO4を用いた2次電池の初期放電容量が一層増加し、高性能化されたことが判る。この際、実施例6と実施例7の正極材料中の析出炭素含有量がほぼ同量であり、また、結晶子サイズにも差がなかったことから、実施例6においては、本焼成中に石炭ピッチから生じる炭素の正極材料粒子表面への析出が実施例7に比べより良好な状態で起こり、その結果、より高い正極性能がもたらされたことになる。これは以下の理由によるものと推定される。
第1に、200℃の軟化温度を持つ精製石炭ピッチが本焼成の昇温中に良好に融解する一方、原料の分解により生成するガスの大部分は仮焼成過程で放出されてしまい、本焼成中には原料からのガスはもはや少量しか発生しないため、精製石炭ピッチの融液は発泡することがない。第2に、添加した水素が石炭ピッチの融液の粘性を低下させるため、生成する正極材料粒子の表面にいっそう均一に広がり、その状態で熱分解されることにより、非常に均一に導電性炭素が析出する。以上のことから、極めて高い正極性能が得られたものと考えられる。
実施例8
正極材料LiFePO4を、以下の手順で合成した。
5.0161gのFe3(PO4)2・8H2O(添川理化学株式会社製)、1.1579gのLi3PO4(和光純薬工業株式会社製)に略1.5倍体積のエタノールを加え、2mm径ジルコニアビーズおよびジルコニアポットを有する遊星ボールミルを用いて粉砕・混合後、減圧下50℃にて乾燥した。乾燥後の粉砕・混合物をアルミナ製るつぼに入れ、5体積%水素(H2)/95体積%アルゴン(Ar)の混合ガスを200ml/分の流量で通気しながら、まず400℃にて5時間仮焼成した。取出した仮焼成後の原料4.0712gに、0.1879gの軟化温度200℃の精製石炭ピッチ[アドケムコ株式会社製MCP−200(商品名)]を加え、めのう乳鉢にて粉砕後、さらに同雰囲気で725℃にて10時間本焼成を行った(混合ガスは、昇温開始前から焼成中、さらに放冷後まで流通しつづけた。)これにより合成された正極材料は、粉末X線回折によりオリビン型結晶構造を有するLiFePO4であると同定された。一方、酸化態不純物であるα−Fe2O3、FePO4などや、それ以外の不純物の結晶回折ピークは認められなかった。
また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が2.98重量%含有されていることが判ったものの、X線回折からは黒鉛結晶の回折ピークは認められなかったことから、非晶質炭素との複合体を形成していると推定された。また、結晶子サイズは、167nmであった。
この正極材料を用い、実施例6と同様の条件で正極ペレットおよびコイン型リチウム2次電池を作製した。
以上のようにして得た正極材料を組み込んだ2次電池に対して、正極ペレットの見かけ面積当たりの電流密度0.5mA/cm2および1.6mA/cm2にて、3.0V〜4.0Vの作動電圧範囲で充放電を繰り返したところ、1〜20サイクルの平均初期放電容量は表4に示すとおりであった(初期放電容量は、生成物中の正極活物質量で規格化した)。
実施例9
実施例8に対し、軟化温度200℃の精製石炭ピッチを仮焼成前の原料に加えて仮焼成および本焼成を行った以外は、実施例8と同様の合成方法によって正極材料オリビン型LiFePO4を得た。
すなわち、実施例8と同量のFe3(PO4)2・8H2O(添川理化学株式会社製)、およびLi3PO4(和光純薬工業株式会社製)に0.1940gの軟化温度200℃の精製石炭ピッチを加え、遊星ボールミルを用いて粉砕・混合、および乾燥後、アルミナ製るつぼ中で同一雰囲気にて400℃で5時間仮焼成し、粉砕後、さらに同雰囲気で725℃にて10時間本焼成した。得られた正極材料は、X線回折では実施例8とほとんど差異が見られず、また結晶子サイズは162nmであり、実施例8とほとんど差がなかった。また、元素分析から、精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.13重量%含有されており、析出炭素量にも実施例8と大きな差はないことが判明した。
この正極材料について、実施例8と同様に構成したコイン型リチウム2次電池を作製し、実施例8と同様にして充放電サイクル試験を実施した。この1〜20サイクルの平均初期放電容量も表4に示した。
表4に示すように、実施例9の初期放電容量は、比較的良好であり、水素添加および精製石炭ピッチ添加による効果が認められるが、実施例8では初期放電容量がさらに大きくなることが判る。この理由は実施例6の場合と同様であると考えられる。
実施例10
正極材料LiFePO4を、以下の手順で合成した。
実施例8と同量、即ち5.0161gのFe3(PO4)2・8H2O(添川理化学株式会社製)、および1.1579gのLi3PO4(和光純薬工業株式会社製)に略1.5倍体積のエタノールを加え、2mm径ジルコニアビーズおよびジルコニアポットを有する遊星ボールミルを用いて粉砕・混合後、減圧下50℃にて乾燥した。乾燥後の粉砕・混合物をアルミナ製るつぼに入れ、5体積%水素(H2)/95体積%アルゴン(Ar)の混合ガスを200ml/分の流量で通気しながら、まず400℃にて5時間仮焼成した。取出した仮焼成後の原料4.4762gに、0.5358gのデキストリン(和光純薬工業株式会社製)を加え、めのう乳鉢にて粉砕後、さらに同雰囲気で725℃にて10時間本焼成を行った(混合ガスは、昇温開始前から焼成中、さらに放冷後まで流通しつづけた)。これにより合成された正極材料は、粉末X線回折によりオリビン型結晶構造を有するLiFePO4であると同定された。一方、酸化態不純物であるα−Fe2O3、FePO4などや、それ以外の不純物の結晶回折ピークは認められなかった。
また、元素分析からデキストリンの熱分解により生じた炭素が3.43重量%含有されていることが判ったものの、X線回折からは黒鉛結晶の回折ピークは認められなかったことから、非晶質炭素との複合体を形成していると推定された。また、結晶子サイズは、170nmであった。
この正極材料を用い、実施例6と同様の条件で正極ペレットおよびコイン型リチウム2次電池を作製した。
以上のようにして得た正極材料を組み込んだ2次電池に対して、正極ペレットの見かけ面積当たりの電流密度0.5mA/cm2および1.6mA/cm2にて、3.0V〜4.0Vの作動電圧範囲で充放電を繰り返したところ、1〜20サイクルの平均初期放電容量は表4に示すとおりであった(初期放電容量は、生成物中の正極活物質量で規格化した)。
また、このコイン型リチウム2次電池の上記条件における10サイクル目の充放電特性を第6図に示した。
実施例11
実施例10に対し、デキストリンを仮焼成前の原料に加えて仮焼成および本焼成を行った以外は、実施例10と全く同様の合成方法によって正極材料オリビン型LiFePO4を得た。
すなわち、実施例10と同量のFe3(PO4)2・8H2O(添川理化学株式会社製)、およびLi3PO4(和光純薬工業株式会社製)に0.6600gのデキストリンを加え、遊星ボールミルを用いて粉砕・混合、および乾燥後、アルミナ製るつぼ中で同一雰囲気にて400℃にて5時間仮焼成し、粉砕後、さらに同雰囲気で725℃にて10時間本焼成した。得られた正極材料は、X線回折では実施例10とほとんど差異が見られず、また結晶子サイズは165nmであり、実施例10とほとんど差がなかった。また、元素分析から、デキストリンの熱分解により生じた炭素が3.33重量%含有されており、析出炭素量も実施例10と大きな差はないことが判明した。
この正極材料について、実施例10と同様に構成したコイン型リチウム2次電池を作製し、実施例10と同様にして充放電サイクル試験を実施した。この1〜20サイクルの平均初期放電容量も表4に示した。また、このコイン型リチウム2次電池の10サイクル目の充放電特性を第7図に示した。
表4に示すように、実施例11の初期放電容量は、比較的良好であり、水素添加およびデキストリン添加による効果が認められるが、実施例10では初期放電容量がさらに大きくなることが判る。また、第6図と第7図とを比較すると、仮焼成後の原料にデキストリンを加えた実施例10は、仮焼成前の原料にデキストリンを添加した実施例11に比べて理論容量(170mAh/g)により近い値まで充放電電圧の平坦域を有しており、充電電圧と放電電圧との差も充分に少ないことから、充放電特性に優れていることが理解される。これらの理由は実施例6の場合と同様であると考えられる。
実施例12
正極材料LiFePO4を、以下の手順で合成した。
5.0532gのFeC2O4・2H2O、3.7094gの(NH4)2HPO4、および1.1784gのLiOH・H2Oに0.1220gのアセチレンブラック[電気化学工業社製デンカブラック(登録商標;50%プレス品)]を加え、めのう製自動乳鉢を用いて粉砕・混合した。この粉砕・混合物をアルミナ製るつぼに入れ、5体積%水素(H2)/95体積%アルゴン(Ar)の混合ガスを200ml/分の流量で通気しながら、まず400℃にて5時間仮焼成し、取出してめのう乳鉢にて粉砕後、さらに同雰囲気で775℃にて10時間本焼成を行った(混合ガスは、昇温開始前から焼成中、さらに放冷後まで流通しつづけた)。これにより合成された正極材料は、粉末X線回折によりオリビン型結晶構造を有するLiFePO4であると同定された。一方、酸化態不純物であるα−Fe2O3、FePO4の結晶回折ピークは全く認められなかった。
また、元素分析からアセチレンブラック由来の炭素が2.84重量%含有されていることが判った。また、結晶子サイズは、111nmであった。
この正極材料を用い、実施例6と同様の条件で正極ペレットおよびコイン型リチウム2次電池を作製した。
以上のようにして得た正極材料を組み込んだ2次電池に対して、正極ペレットの見かけ面積当たりの電流密度0.5mA/cm2および1.6mA/cm2にて、3.0V〜4.0Vの作動電圧範囲で充放電を繰り返したところ、1〜20サイクルの平均初期放電容量は表4に示すとおりであった(初期放電容量は、生成物中の正極活物質量で規格化した)。
実施例13
実施例12に対し、同一のアセチレンブラックを仮焼成後の原料に加えて仮焼成および本焼成を行った以外は、実施例12と全く同様の合成方法によって正極材料オリビン型LiFePO4を得た。
すなわち、実施例12と同量のFeC2O4・2H2O、および(NH4)2HPO4、および1.1784gのLiOH・H2Oをめのう製自動乳鉢を用いて粉砕・混合し、この粉砕・混合物をアルミナ製るつぼに入れ、5体積%水素(H2)/95体積%アルゴン(Ar)の混合ガスを200ml/分の流量で通気しながら、まず400℃にて5時間仮焼成した。取出した仮焼成後の原料2.1856gに0.0707gのアセチレンブラック(50%プレス品)を加え、めのう製自動乳鉢にて粉砕、混合後、さらに同雰囲気で775℃にて10時間本焼成した(混合ガスは、昇温開始前から焼成中、さらに放冷後まで流通しつづけた)。これにより合成された正極材料は、粉末X線回折によりオリビン型結晶構造を有するLiFePO4であると同定された。一方、酸化態不純物であるα−Fe2O3、FePO4の結晶回折ピークは認められなかった。
また、元素分析からアセチレンブラック由来の炭素が2.76重量%含有されていることが判った。また、結晶子サイズは、122nmであった。従って、炭素含有量、結晶子サイズは実施例12と大差なかった。
この正極材料を用い、実施例12と同様の条件で正極ペレットおよびコイン型リチウム2次電池を作製し、実施例12と同様にして充放電サイクル試験を実施した。この1〜20サイクルの平均初期放電容量も表4に示した。
表4に示すように、実施例12の初期放電容量は比較的良好であり、導電性炭素としてのアセチレンブラックおよび水素添加による効果が認められる。また、実施例12では初期放電容量が実施例13に比べて大きくなっており、既に不融状態にあり、かつ炭化しているアセチレンブラックを添加する場合は、仮焼成前の原料に添加して本焼成を行う方が、正極性能が高くなることがわかる。
実施例14
正極材料LiFePO4を、以下の手順で合成した。
5.0532gのFeC2O4・2H2O、3.7094gの(NH4)2HPO4、および1.1784gのLiOH・H2Oに0.0610gのアセチレンブラック[電気化学工業株式会社製デンカブラック(登録商標;50%プレス品)]を加え、めのう製自動乳鉢を用いて粉砕・混合した。この粉砕・混合物をアルミナ製るつぼに入れ、5体積%水素(H2)/95体積%アルゴン(Ar)の混合ガスを200ml/分の流量で通気しながら、まず400℃にて5時間仮焼成した。取出した仮焼成後の原料2.2430gに0.0576gの軟化温度200℃精製石炭ピッチを加え、めのう乳鉢にて粉砕・混合後、さらに同雰囲気で775℃にて10時間本焼成を行った(混合ガスは、昇温開始前から焼成中、さらに放冷後まで流通しつづけた)。これにより合成された正極材料は、粉末X線回折によりオリビン型結晶構造を有するLiFePO4であると同定された。一方、酸化態不純物であるα−Fe2O3、FePO4の結晶回折ピークは全く認められなかった。
また、元素分析から、精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素、およびアセチレンブラック由来の炭素が合計3.27重量%含有されていることが判った。また、結晶子サイズは、74nmであった。
この正極材料を用い、実施例6と同様の条件で正極ペレットおよびコイン型リチウム2次電池を作製した。
以上のようにして得た正極材料を組み込んだ2次電池に対して、正極ペレットの見かけ面積当たりの電流密度0.5mA/cm2および1.6mA/cm2にて、3.0V〜4.0Vの作動電圧範囲で充放電を繰り返したところ、1〜20サイクルの平均初期放電容量は表5に示すとおりであった(初期放電容量は、生成物中の正極活物質量で規格化した)。このように仮焼成前に導電性炭素としてのアセチレンブラックを添加するとともに、仮焼成後に導電性炭素前駆物質としての精製石炭ピッチを添加することによって得られる正極材料は、2次電池の放電容量を大きくし、正極性能を向上させることが示された。
以上、本発明を種々の実施形態に関して述べたが、本発明は上記実施形態に制約されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、他の実施形態についても適用可能である。
産業上の利用可能性
本発明方法により得られる正極材料は、例えば、金属リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等に代表される2次電池の正極材料として利用できる。また、この正極材料を使用した2次電池は例えばハイブリット電気自動車等の移動体の駆動用や、携帯電話用等の大電流を要する電源としても適用が期待される。
【図面の簡単な説明】
第1図は、2次電池の充放電挙動の説明に供する模式図である。第2図は、実施例1で得たコイン型2次電池の充放電特性を示すグラフ図面である。第3図は比較例1で得たコイン型2次電池の充放電特性を示すグラフ図面である。第4図は実施例5で得たコイン型2次電池の充放電特性を示すグラフ図面である。第5図は、比較例3で得たコイン型2次電池の充放電特性を示すグラフ図面である。第6図は実施例10で得たコイン型2次電池の充放電特性を示すグラフ図面である。第7図は、実施例11で得たコイン型2次電池の充放電特性を示すグラフ図面である。
Claims (12)
- 水素、水および水蒸気よりなる群から選ばれる1種または2種以上と、導電性炭素および/または加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質と、を添加して、原料を焼成することを特徴とする、2次電池正極材料の製造方法。
- 請求の範囲第1項において、焼成過程は、常温から300℃ないし450℃に至る第一段階と、常温から焼成完了温度に至る第二段階と、を含み、
水素、水および水蒸気よりなる群から選ばれる1種または2種以上を、少なくとも第二段階の焼成における500℃以上の温度において添加することを特徴とする、2次電池正極材料の製造方法。 - 請求の範囲第2項において、導電性炭素を、第一段階の焼成前の原料に添加した後、焼成を行うことを特徴とする、2次電池正極材料の製造方法。
- 請求の範囲第2項または第3項において、加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質を、第一段階の焼成後の原料に添加した後、第二段階の焼成を行うことを特徴とする、2次電池正極材料の製造方法。
- 請求の範囲第1項から第4項のいずれか1項において、前記正極材料が、アルカリ金属、遷移金属及び酸素を含み、酸素ガス不存在下において前記原料を焼成して合成し得る化合物であることを特徴とする、2次電池正極材料の製造方法。
- 請求の範囲第1項から第5項のいずれか1項において、前記加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質が、ビチューメン類であることを特徴とする、2次電池正極材料の製造方法。
- 請求の範囲第6項において、前記ビチューメン類が、軟化温度80℃から350℃の範囲にあり、加熱分解による減量開始温度が350℃から450℃の範囲にあり、かつ、500℃から800℃の加熱分解・焼成により導電性炭素を析出し得る石炭ピッチであることを特徴とする、2次電池正極材料の製造方法。
- 請求の範囲第1項から第5項のいずれか1項において、前記加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質が、糖類であることを特徴とする、2次電池正極材料の製造方法。
- 請求の範囲第8項において、前記糖類が、250℃以上500℃未満の温度域において分解を起こし、かつ150℃から分解までの昇温過程において一度は少なくとも部分的に融液状態をとり、さらに500℃以上800℃以下までの加熱分解・焼成によって導電性炭素を生成する糖類であることを特徴とする、2次電池正極材料の製造方法。
- 請求の範囲第1項から第9項のいずれか1項において、前記正極材料が、M(1)aM(2)xAyOz[ここで、M(1)はLiまたはNaを示し、M(2)はFe(II)、Co(II)、Mn(II)、Ni(II)、V(II)またはCu(II)を示し、AはPまたはSを示し、aは0〜3から選ばれる数、xは1〜2から選ばれる数、yは1〜3から選ばれる数、zは4〜12から選ばれる数、をそれぞれ示す]の一般式で示される物質またはこれらの複合体であることを特徴とする、2次電池正極材料の製造方法。
- 請求の範囲第1項から第9項のいずれか1項において、前記正極材料が、LiqFePO4、LiqCoPO4またはLiqMnPO4(ここで、qは0〜1から選ばれる数を示す)の一般式で示される物質またはこれらの複合体であることを特徴とする、2次電池正極材料の製造方法。
- 請求の範囲第1項から第11項のいずれか1項に記載の方法により製造された正極材料を構成要素に持つことを特徴とする2次電池。
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