以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、各図面は説明用のために作成されたものであり、説明の対象部位を特に強調するように描かれている。そのため、図面における各部材の寸法比率は、必ずしも実際のものとは一致しない。
図1に示されるように、放射線画像取得システム1は、対象物Aの放射線画像を取得するための装置である。対象物Aは、たとえば、軽元素からなる組成を有する。ただし、対象物Aの組成はこれに限らない。
対象物Aとしては、放射線透過率がわずかに違う物質で構成された対象物でもよい。このような対象物としては、例えば、インクが印刷されたプラスチック類あるいはフィルムや、寄生虫や髪の毛などの異物が存在する食品、樹脂などの軽元素物質に含まれる空隙や気泡、炭素繊維やエンジニアリングプラスチックなど複合素材の内部構造、塗装の内部構造などである。また、対象物Aとしては、同じ放射線透過率の物質で構成され厚みが違う部分を有する対象物でもよい。このような対象物としては、プレスされたプラスチックや透かしを有する紙類、微細加工により作られた半導体デバイス、電池の構成材であるセパレータや電極、その周辺構造などである。このように、対象物Aは、従来の放射線画像では識別が難しいとされていた、放射線透過率が同程度の物質で構成されていてもよい。このような対象物Aは、従来の放射線画像取得システムでは撮像の対象とされていなかった。しかし、放射線画像取得システム1では、対象物Aが軽元素からなる組成を有していたり、放射線透過率が同程度の物質で構成されていたりしても、コントラストがある放射線画像を取得することを可能とする。放射線画像取得システム1によって取得された放射線画像によれば、上記したような対象物Aの外形や、その上に印刷された文字若しくは模様等を画像から識別することができる。
放射線画像取得システム1は、対象物Aに向けて白色X線等の放射線を出力する放射線源2と、放射線源2から出力されて対象物Aを透過した放射線の入力に応じてシンチレーション光を発生させるシンチレータ6と、シンチレータ6の放射線の入力面6aから出力されるシンチレーション光を撮像するカメラ(撮像手段)3と、放射線画像取得システム1のいくつかの機能を制御し、かつ放射線画像を作成するコンピュータ10と、を備えている。放射線画像取得システム1は、さらに、対象物Aを保持する対象物保持部7と、シンチレータ6を保持するシンチレータ保持部8とを備えている。
放射線源2、カメラ3、対象物保持部7およびシンチレータ保持部8は、図示しない筐体に収容され、筐体内で固定される。放射線源2、カメラ3、対象物保持部7およびシンチレータ保持部8のすべて又は少なくとも1つは、互いの相対的な位置関係を調節可能なように、移動可能であってもよい。コンピュータ10は、筐体に収容されてもよいし、筐体の外部に設置されてもよい。コンピュータ10には、表示装置(表示部)16および入力装置(入力部)17がそれぞれ接続されている。
光源である放射線源2は、対象物Aに照射されるX線を出射(出力)する。例えば、放射線源2は、X線出射点からコーンビームX線を出射(出力)する。放射線源2から出射されるX線は放射線束12を形成する。この放射線束12が存在する領域が、放射線源2の出射領域である。放射線源2は、20keV以下の特性X線(蛍光X線)を含む放射線を出力する。放射線源2は、10~20keVの特性X線を含む放射線を出力してもよい。放射線源2は、軟X線を含む放射線を出力してもよい。放射線源2は、管電圧および管電流を調整可能に構成されている。放射線源2における管電圧は、少なくとも10kV~1000kVの間で調整可能である。放射線源2における管電流は、少なくとも10μA~500mAの間で調整可能である。20keV以下の特性X線は、線源のターゲット材料によって異なり得る。たとえば、タングステン(W)では、L線の特性X線(9.8keV)を含み、モリブデン(Mo)では、K線の特性X線(17.4keV)を含む。
放射線源2は、放射線の光軸がシンチレータ6の入力面6aの法線に対して所定の角度をなすように配置されている。すなわち、放射線源2は、対象物Aおよび入力面6aに対峙すると共に、入力面6aの法線から外れた位置に配置されている。換言すれば、放射線源2は、その光軸と入力面6aとのなす角度が0度より大きく90度より小さくなるように配置されている。なお、放射線源2は、入力面6aの法線上に配置されてもよい。
対象物保持部7は、放射線源2とシンチレータ保持部8との間に配置されている。対象物保持部7は、対象物Aが少なくとも放射線束12内に位置する状態で、対象物Aを保持する。対象物保持部7は、放射線源2に対向する側に対象物Aを保持する。対象物Aと放射線源2との間には、20keV以下の特性X線(蛍光X線)を含む放射線を低減するフィルタ等は配置しないことが好ましい。これにより、対象物Aに対して、20keV以下の特性X線(蛍光X線)を含む放射線を照射することができる。対象物保持部7は、対象物Aを透過した放射線に与える影響が小さくなる(最小限となる)ように設けられている。例えば、カーボンなど炭素繊維を有するものやプラスチック類、フィルム、金属を含む薄膜など低元素の物質によるもので対象物保持部7を作成してもよい。また、対象物Aより小さな開口部を対象物保持部7に設けて観察視野に対象物保持部7が入らないようにしてもよい。対象物Aを対象物保持部7で保持する際に保持部を観察視野の外に置いてもよい。また、対象物Aと対象物保持部7が画像上で重ならないように、対象物Aと対象物保持部7を配置してもよい。
シンチレータ6は、板状(例えば、平板状)の波長変換部材である。シンチレータ6は、対象物Aを透過した放射線が入力される入力面6aを有する。入力面6aは、放射線源2に対面する表側の面(おもて面)である。この入力面6aは、放射線画像取得システム1における観察面になっている。放射線画像取得システム1は、シンチレータ6の入力面6aを観察面としている。
シンチレータ6は、対象物Aを透過し入力面6aに入力された放射線をシンチレーション光に変換する。シンチレータ6は、対象物Aを透過し、入力面6aに入力される、20keV以下の特性X線を含む放射線をシンチレーション光に変換する。比較的低いエネルギーの放射線は、入力面6a側で変換され、入力面6aから出射(出力)される。比較的高いエネルギーの放射線は、シンチレータ6の裏面で変換されるため、入力面6aから出射されにくい。そのため、入力面6aを観察面とする放射線画像取得システム1では、比較的低いエネルギーの放射線から変換されたシンチレーション光が、放射線画像の作成に用いられる。
本実施形態において、シンチレータ6は、シンチレーション光に対して不透明なシンチレータである。シンチレータ6は、たとえば、支持体上に蛍光物質が蒸着または、塗布、沈着、結晶成長されたシンチレータ、もしくはプラスチック容器に蛍光物質が内包されたシンチレータである。また、シンチレータ6は、例えば、粒状シンチレータや柱状シンチレータ等である。
シンチレータ6の厚みは、数μm~数cmの範囲において、適切な値に設定されている。特に本実施形態では、シンチレータ6の厚みは、放射線源2の管電圧に基づいて、適切な値に設定されている。シンチレータ6の厚みは、検出される放射線のエネルギー帯に基づいて、適切な値に設定されてもよい。シンチレータ6の厚みは、対象物Aの組成若しくは厚みに基づいて、適切な値に設定されてもよい。
より具体的には、シンチレータ6の厚みは、10μm~50000μmの範囲内である。放射線源2の管電圧が10kV~300kVの範囲内に設定される場合、シンチレータ6の厚みは、10μm~1000μmの範囲内の値とされる。放射線源2の管電圧が150kV~1000kVの範囲内に設定される場合、シンチレータ6の厚みは、100μm~50000μmの範囲内の値とされる。
シンチレータ6の不透明性についてより詳しく説明する。シンチレーション光に対して不透明なシンチレータとは、シンチレーション光がシンチレータ内部で散乱もしくは吸収されることにより、シンチレーション光の波長におけるシンチレータの光透過率が80%以下となるシンチレータである。このようなシンチレータでは、シンチレータ6の入力面6aにシンチレーション光と同じ波長の光を入力すると、シンチレータ6の裏面6bから出力される光の光量が入力光量の80%以下となる。シンチレータ6の光透過率は、たとえば厚み1000μm(1mm)において、0%~60%の範囲内であってもよい(シンチレーション光の波長:550nm)。放射線画像取得システム1では、不透明なシンチレータ6を用いることにより、放射線透過率が同程度の物質で構成された対象物Aに対して(特には、軽元素からなる対象物Aに対して)、おもて面観察の有用性が発揮される。
シンチレータ保持部8は、シンチレータ6が少なくとも放射線束12内に位置する状態で、シンチレータ6を保持する。シンチレータ保持部8は、シンチレータ6の裏面側を保持し、シンチレータ6の入力面6aを露出させる。これにより、入力面6aは、放射線源2に対面すると共に、カメラ3に対面する。シンチレータ保持部8の位置から見て、放射線源2とカメラ3とは重なっておらず、異なる方向に配置されている。シンチレータ保持部8は、使用される放射線源2の管電圧に合わせて、厚みや種類が異なるシンチレータ6を選択できるよう、保持されるシンチレータ6を交換可能に構成されている。すなわち、シンチレータ保持部8は、シンチレータ6が取り付けられる部分の大きさ(長さ、幅、高さ)および形状を変更可能になっている。シンチレータ保持部8は遮光性を有していてもよい。また、シンチレータ保持部8は反射防止策を施されているのが好適であるが、反射を生じてもよい。
カメラ3は、シンチレータ6に投影された対象物Aの投影像(すなわち放射線透過像)をシンチレータ6の入力面6a側から撮像する間接変換方式の撮像手段である。すなわち、カメラ3は、入力面6a側の撮像手段である。カメラ3は、シンチレータ6の入力面6aから出力されるシンチレーション光を結像するレンズ(レンズ部)3aと、レンズ3aにより結像されたシンチレーション光を撮像するイメージセンサ(撮像部)3bと、を有する。カメラ3は、レンズカップリング型の光検出器であってもよい。
カメラ3は、シンチレータ保持部8を基準として、入力面6aが面する側に配置されている。例えば、カメラ3は、シンチレータ6の入力面6aと対向するように配置されてもよい。この場合、少なくともレンズ3aは、入力面6aと対向するように配置され、レンズ3aにより、入力面6aとイメージセンサ3bは、光学的に結合される。また、カメラ3は、シンチレータ6の入力面6aから出射されるシンチレーション光を反射するミラー(不図示)を介してシンチレーション光を撮像できるように配置されてもよい。この場合、ミラー及びレンズ3aにより、入力面6aとイメージセンサ3bは、光学的に結合されている。
レンズ3aは、視野13のシンチレーション光を集光する。レンズ3aは、シンチレータ6の入力面6aに焦点が合わせられるように配置されている。そのため、シンチレータ6の比較的入力面6a側で変換されたシンチレーション光を集光することができる。また、レンズ3aは、入力面6aから出力されるシンチレーション光を集光し、シンチレーション光をイメージセンサ3bの受光面3cに結像する。イメージセンサ3bは、レンズ3aにより結像されたシンチレーション光を受光し、光電変換を行う。イメージセンサ3bは、コンピュータ10と電気的に接続されている。カメラ3は、撮像により得られた放射線画像データをコンピュータ10の画像処理プロセッサ10aに出力する。イメージセンサ3bとしては、例えばCCDエリアイメージセンサやCMOSエリアイメージセンサ等のエリアイメージセンサが用いられる。
カメラ3の配置の一例についてより詳しく説明する。カメラ3は、レンズ3aの光軸Lが入力面6aに対して直交するように配置されている。すなわち、カメラ3のレンズ3aは、入力面6aに対峙すると共に、入力面6aの法線上に配置されている。カメラ3は、放射線源2の光軸上から外して配置されている。すなわち、カメラ3は、放射線源2からの放射線の出射領域(放射線束12が存在する領域)から離れるように配置されている。これにより、放射線源2からの放射線によるカメラ3の被曝が防止され、カメラ3の内部で放射線の直接変換信号が生じてノイズが発生することが防止されている。カメラ3のレンズ3aは、レンズ3aの中心からシンチレータ6の入力面6aに降ろした垂線が入力面6aの範囲内であるように配置され、かつ、シンチレータ6の入力面6aの上方に配置されている。これにより、比較的多くのシンチレーション光を検出可能となる。
なお、シンチレータ6に対向する位置にミラー等を設け、シンチレーション光の光路を適宜変更することもできる。その場合、カメラ3は、シンチレータ6の入力面6aに対向するように配置されなくてもよいため、カメラ3は、シンチレータ保持部8を基準として、入力面6aとは反対側すなわち放射線源2とは反対側に配置されてもよい。シンチレーション光を適宜の光路に導くための光学素子として、一または複数のミラーが設けられてもよい。
なお、放射線源2およびカメラ3の配置は上記した態様に限定されない。放射線源2およびカメラ3は、対象物保持部7(対象物A)およびシンチレータ保持部8(シンチレータ6)との関係において、互いに干渉しない位置(または干渉の少ない位置)に設けられればよい。放射線源2およびカメラ3は、シンチレータ6の入力面6aの法線を含む平面上に配置されてもよいが、入力面6aの法線周りにおいて適宜3次元的に配置されてもよい。
コンピュータ10は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、および入出力インターフェイス等を有するコンピュータから構成される。コンピュータ10は、カメラ3から出力された放射線画像データに基づいて、対象物Aの放射線画像を作成する画像処理プロセッサ(画像作成部)10aと、放射線源2およびカメラ3を制御する制御プロセッサ(制御部)10bと、を有する。画像処理プロセッサ10aは、放射線画像データを入力し、入力した放射線画像データに対して画像処理等の所定の処理を実行する。画像処理プロセッサ10aは、作成した放射線画像を表示装置16に出力する。制御プロセッサ10bは、ユーザの入力等により記憶された放射線源2の管電圧や管電流の値に基づいて、放射線源2を制御する。制御プロセッサ10bは、ユーザの入力等により記憶されたカメラ3の露光時間等に基づいて、カメラ3を制御する。画像処理プロセッサ10aと制御プロセッサ10bとは、別々のプロセッサでもよいし、同じプロセッサでもよい。また、コンピュータ10は、画像処理プロセッサ10aの機能と制御プロセッサの機能を実行できるようにプログラムされていてもよい。
表示装置16は、放射線画像を表示するディスプレイである。表示装置16としては、公知のディスプレイが用いられ得る。表示装置16は、画像処理プロセッサ10aから出力された放射線画像を表示する。入力装置17は、たとえばキーボードやマウス等である。ユーザは、入力装置17を用いて、放射線源2の管電圧や管電流の値、或いはカメラ3の露光時間等といった各種パラメータを入力可能である。入力装置17によって入力された各種パラメータは、コンピュータ10に記憶される。
次に、放射線画像取得システム1の動作すなわち放射線画像の取得方法について説明する。まず、対象物Aを用意し、対象物Aを対象物保持部7に保持させる。対象物Aのおもて面観察を行うにあたり、予め、放射線源2の管電圧や管電流の値、および、カメラ3の露光時間などのパラメータを、入力装置17を用いて入力しておく(パラメータ入力工程)。また、シンチレータ6を選定する。この際、シンチレータ6の厚みや種類などを決定し、そのシンチレータ6をシンチレータ保持部8に保持させる。決定したシンチレータ6の厚みや種類は、入力装置17を用いて入力される(シンチレータ選定工程)。シンチレータ保持部8に対して、シンチレータ6および放射線源2、さらにはカメラ3の位置を調整し、これらを位置決めされている。カメラ3のレンズ3aの光軸Lが入力面6aに交差するように、カメラ3が設けられる。カメラ3のレンズ3aの焦点位置は、入力面6aに合わされる。
シンチレータ6の厚みは、10μm~1000μmの範囲内であってもよい。この場合、放射線源2の管電圧を10kV~300kVの範囲内としてもよい。また、シンチレータ6の厚みは、100μm~50000μmの範囲内であってもよい。この場合、放射線源2の管電圧を150kV~1000kVの範囲内としてもよい。このようにシンチレータ6に合わせて、放射線源2の管電圧などのパラメータを設定してもよい。
続いて、放射線源2の照射およびカメラ3による入力面6a(おもて面)の観察に移る。以下の動作および処理は、コンピュータ10の制御プロセッサ10bによって制御される。対象物Aに向けて、放射線源2から白色X線等の放射線を出力する(照射する)(放射線出力工程)。このとき、対象物Aに照射される放射線は、20keV以下の特性X線を含む放射線であることが好ましい。この場合、対象物Aを透過し、シンチレータ6に到達する放射線は、20keV以下の特性X線を含むことができる。対象物Aを透過した放射線は入力面6aに入力され、シンチレータ6によって放射線からシンチレーション光への変換が行われる(変換工程)。入力面6aから出力されるシンチレーション光は、カメラ3のレンズ3aによって、イメージセンサ3bに結像される(結像工程)。イメージセンサ3bは、レンズ3aにより結像されたシンチレーション光(シンチレーション像)を撮像する。カメラ3は、撮像により得られた放射線画像データをコンピュータ10の画像処理プロセッサ10aに出力する(撮像工程)。
コンピュータ10の画像処理プロセッサ10aは、放射線画像データを入力し、入力した放射線画像データに対して画像処理等の所定の処理を実行し、放射線画像を作成する(画像作成工程)。詳細に説明すると、画像処理プロセッサ10aは、入力されたパラメータ(放射線源2の管電圧や管電流の値、カメラ3の露光時間、シンチレータ6の厚みや種類)に対応した、コントラスト変換のためのLUT(ルックアップテーブル)を決定し、入力された放射線画像データに基づいて放射線画像を作成する。コンピュータ10は、複数のパラメータに対応した複数のLUTsを保存し、その中から入力されたパラメータに対応するLUTを選択してもよいし、入力されたパラメータに基づいてコンピュータ10がLUTを作成してもよい。また、ユーザがパラメータに対応したLUTを入力してもよい。発明者らは、シンチレータの厚みによって、おもて面撮像により得られる放射線画像のコントラストが変化することを確認している。従って、画像処理プロセッサ10aは、少なくともシンチレータの厚みに対応したコントラスト変換のためのLUTに基づいて、対象物の放射線画像を作成すれば、適切なコントラストを有する放射線画像を取得することができる。画像処理プロセッサ10aは、作成した放射線画像を表示装置16に出力する。表示装置16は、画像処理プロセッサ10aから出力された放射線画像を表示する。
以上の工程を経て、対象物Aのおもて面観察による放射線画像が得られる。放射線画像取得システム1によって取得される放射線画像は、たとえば文字や模様が印刷されたプラスチックやプレス処理されたプラスチック等のように、放射線透過率が同程度の物質で構成された対象物Aに対しても、対象物Aの形状(外形等)や印刷された模様をはっきりと識別可能である。特に、たとえばプラスチック等の、軽元素からなる対象物Aに対しても、対象物Aの形状(外形等)をはっきりと識別可能である。また、たとえば、同じ材料のわずかな厚みの違いでも放射線画像に反映され、対象物Aにおける細かい凹凸加工や、対象物A上に印刷された文字若しくは模様等を識別可能である。
放射線画像取得システム1および放射線画像取得方法によれば、放射線からシンチレーション光への変換には、不透明なシンチレータ6が用いられている。しかも、シンチレータ6の入力面6aから出力されるシンチレーション光が撮像されている。これらの特徴を備えることにより、放射線透過率が同程度の物質で構成された対象物Aに対しても、コントラストがある放射線画像を得ることができる。特に、軽元素からなる対象物の形状等をはっきりと識別可能な放射線画像を取得することができる。これによって、対象物Aの外形や、細かい凹凸、その上に印刷された文字若しくは模様等を画像から識別することができる。
シンチレータを用いた間接変換方式の放射線画像は、これまで、シンチレータ6の裏面から出力されたシンチレーション光の撮像によって得られることが前提とされている。本発明者らは、このような前提に立った従来の観察方式では、放射線透過率が同程度の物質で構成された対象物Aの鮮明な画像を得ることができないことを見出し、鋭意検討を行った。その結果、不透明なシンチレータ6を用い、入力面6aの観察を行うことで、この課題が解決されることを発見した。実施例および比較例については後述する。
放射線画像取得システム1では、レンズ3aは、入力面6aと対向するように配置されている。したがって、簡易な構成で、入力面6aから出力されるシンチレーション光を撮像することができる。
画像処理プロセッサ10aは、少なくともシンチレータ6の厚みに対応したコントラスト変換のためのLUTに基づいて対象物Aの放射線画像を作成する。したがって、シンチレータ6の厚みに応じて、おもて面の撮像で得られた放射線画像のコントラストが変化しても、適切にコントラスト変換することができる。
続いて、図2を参照して、第2実施形態に係る放射線画像取得システム1Aについて説明する。この放射線画像取得システム1Aが第1実施形態の放射線画像取得システム1と違う点は、対象物Aを静止させた状態で保持する対象物保持部7に代えて、対象物Aを所定の搬送方向Dに搬送する搬送装置20を備えた点と、カメラ3に代えて、ラインスキャンカメラであるカメラ3Aを備えた点である。図2に示されるように、搬送装置20は、周回軌道を移動するベルトコンベア21を有しており、ベルトコンベア21上に、対象物Aが載置または保持されている。搬送装置20は、ベルトコンベア21を駆動する図示しない駆動源を備えている。搬送装置20のベルトコンベア21は、放射線源2とシンチレータ保持部8(シンチレータ6)との間に配置されている。搬送装置20は、対象物Aを搬送方向Dに一定の速度で搬送するように構成されている。搬送装置20における対象物Aの搬送タイミングや搬送速度は、予め設定されており、コンピュータ10の制御プロセッサ10bによって制御される。
カメラ3Aは、ラインスキャンカメラであり、対象物Aの移動に合わせて撮像を行う。カメラ3Aは、イメージセンサ3bとして、ラインセンサやTDI(時間遅延積分)駆動が可能なエリアイメージセンサを備える。特に、イメージセンサ3bがTDI駆動可能なエリアイメージセンサである場合、イメージセンサ3bは、制御プロセッサ10bによって、対象物Aの移動に合わせて電荷転送を行うように制御される。すなわち、イメージセンサ3bは、搬送装置20による対象物Aの移動に同期して、受光面3cにおける電荷転送を行う。これにより、S/N比のよい放射線画像を得ることができる。なお、イメージセンサ3bがエリアイメージセンサである場合には、コンピュータ10の制御プロセッサ10bが放射線源2とカメラ3Aを制御して、カメラ3Aの撮像タイミングに合わせて放射線源2を点灯させる構成であってもよい。
シンチレータ6は、カメラ3Aのレンズ3aの光軸Lに対して、その入力面6aが所定の角度(例えば、45°)傾斜するようにして配置されている。また、シンチレータ6の入力面6aは、放射線源2の光軸に対して所定の角度(例えば、45°)傾斜するようにして配置されている。これにより、搬送装置20のベルトコンベア21と物理的な干渉を起こさず、カメラ3Aをコンパクトに配置することができる。この場合、レンズ3aにより、入力面6aとイメージセンサ3bは、光学的に結合される。ただし、このような形態に限らず、カメラ3Aは、シンチレータ6の入力面6aから出射されるシンチレーション光を反射するミラー(不図示)を介してシンチレーション光を撮像できるように配置されてもよい。この場合、ミラー及びレンズ3aにより、入力面6aとイメージセンサ3bは、光学的に結合される。
放射線画像取得システム1Aによる放射線画像取得方法は、上記した放射線画像取得システム1による放射線画像取得方法と基本的に同様であるが、放射線出力工程において搬送装置20を用いて対象物Aを搬送する搬送工程を備えた点と、撮像工程において対象物Aの移動に同期して電荷転送(TDI動作)を行う点とにおいて異なっている。
放射線画像取得システム1Aによれば、より高速に放射線画像を取得することができる。また、S/N比のよい放射線画像を取得することができる。
以下、図3(a)~図9(b)を参照して、実施例および比較例について説明する。以下の実施例および比較例では、図4に示されるように、軽元素からなる対象物Aの1つのサンプルとして、ポリエチレンで構成される袋(食品包装用の容器)の放射線画像について検討した。この袋は、透明であり、袋の一辺はギザギザな形状(ジグザグな形状)となっている。袋の端部には、文字が印字(印刷)されている。なお、この袋には、たとえば食品等の内容物が内包されている。
以下、実施例においては、図3(a)に示されるように、入力面6aの観察(おもて面撮影)を行った。比較例においては、図3(b)に示されるように、裏面6bの観察(うら面撮影)を行った。おもて面撮影に用いた装置構成は、第1実施形態の放射線画像取得システム1と同様であり、対象物Aを保持して静止させ、エリアイメージセンサを用いる形態を採用した。第5および第6比較例を除き、シンチレータとしては、いずれも不透明なシンチレータ6を用いた。なお、第5比較例においては、透明なシンチレータを用いつつ、入力面6aの観察(おもて面撮影)を行った。第6比較例においては、透明なシンチレータを用いつつ、裏面6bの観察(うら面撮影)を行った。
図5(a)は、第1実施例に係る放射線画像を示す図であり、図5(b)は、第1比較例に係る放射線画像を示す図である。第1実施例および第1比較例では、撮影面を反対にし、異なる露光時間で撮影を行った。放射線源は、20keV以下の特性X線を含む放射線を出力できる放射線源を用いた。シンチレータとしては、いずれも、厚みが85μmの、不透明なGOSシートを用いた。放射線源の管電圧は、いずれも、40kVとした。放射線源の管電流は、いずれも、200μAとした。露光時間は、おもて面の撮像において2秒、うら面の撮像において10秒とした。また、放射線源とシンチレータの間には、放射線を低減するフィルタを配置していない。
図5(a)に示されるように、おもて面の方がうら面よりも露光時間が短いにも関わらず、おもて面撮影を行った第1実施例に係る放射線画像では、対象物Aのジグザグ状の外形をはっきりと確認することができた。また、袋に印刷された文字を確認することもできた。このように、ポリエチレンに対するコントラストを得られることがわかった。一方、図5(b)に示されるように、うら面撮影を行った第1比較例に係る放射線画像では、袋の外形や文字をはっきりと確認することはできなかった。
図6(a)は、第2実施例に係る放射線画像を示す図であり、図6(b)は、第2比較例に係る放射線画像を示す図である。第2実施例および第2比較例では、撮影面を反対にしている点と、露光時間を変えた以外は、同じ撮影条件で撮影を行った。放射線源は、20keV以下の特性X線を含む放射線を出力できる放射線源を用いた。シンチレータとしては、いずれも、厚みが85μmの、不透明なGOSシートを用いた。放射線源の管電圧は、いずれも、100kVとした。放射線源の管電流は、いずれも、200μAとした。露光時間は、おもて面の撮像において1秒、うら面の撮像において2秒とした。また、放射線源とシンチレータの間には、放射線を低減するフィルタを配置していない。
図6(a)に示されるように、おもて面の方がうら面よりも露光時間が短いにも関わらず、おもて面撮影を行った第2実施例に係る放射線画像では、対象物Aのジグザグ状の外形をはっきりと確認することができた。また、袋に印刷された文字を確認することもできた。このように、ポリエチレンに対するコントラストを得られることがわかった。また、図5(a)に示された第1実施例の放射線画像と対比しても、電圧が40kVから100kVに高められた結果、いずれにおいても袋の形状と文字を確認できた。一般的に、管電圧を上げると放射線源2から出力される放射線のエネルギーが高エネルギーにシフトする。管電圧を上げても(高エネルギーとしても)袋の形状と文字が確認できるのは、おもて面観察に特有の現象であると考えられる。一方で、図6(b)に示されるように、うら面撮影を行った第2比較例に係る放射線画像では、2倍以上の露光時間を採用したにも関わらず、袋の外形や文字をはっきりと確認することはできなかった。
図7(a)は、第3実施例に係る放射線画像を示す図であり、図7(b)は、第3比較例に係る放射線画像を示す図である。第3実施例および第3比較例では、撮影面を反対にしている以外は、同じ撮影条件で撮影を行った。20keV以下の特性X線を含む放射線を出力できる放射線源を用いた。シンチレータとしては、いずれも、厚みが85μmの、不透明なGOSシートを用いた。放射線源の管電圧は、いずれも、40kVとした。放射線源の管電流は、いずれも、200μAとした。露光時間は、おもて面の撮像において2秒、うら面の撮像において10秒とした。また、放射線源とシンチレータの間には、放射線を低減するフィルタを配置していない。
図7(a)に示されるように、おもて面撮影を行った第3実施例に係る放射線画像では、おもて面の方がうら面よりも露光時間が短いにも関わらず、対象物Aのジグザグ状の外形をはっきりと確認することができた。また、袋に印刷された文字を確認することもできた。このように、ポリエチレンに対するコントラストを得られることがわかった。一方、図7(b)に示されるように、うら面撮影を行った第3比較例に係る放射線画像では、袋の外形や文字をはっきりと確認することはできなかった。
図8(a)は、第4実施例に係る放射線画像を示す図であり、図8(b)は、第4比較例に係る放射線画像を示す図である。第4実施例および第4比較例では、撮影面を反対にしている以外は、同じ撮影条件で撮影を行った。放射線源は、20keV以下の特性X線を含む放射線を出力できる放射線源を用いた。シンチレータとしては、いずれも、厚みが85μmの、不透明なGOSシートを用いた。放射線源の管電圧は、いずれも、130kVとした。放射線源の管電流は、いずれも、200μAとした。露光時間は、おもて面の撮像において1秒、うら面の撮像において2秒とした。また、放射線源とシンチレータの間には、放射線を低減するフィルタを配置していない。
図8(a)に示されるように、おもて面撮影を行った第4実施例に係る放射線画像では、おもて面の方がうら面よりも露光時間が短いにも関わらず、対象物Aのジグザグ状の外形をはっきりと確認することができた。また、袋に印刷された文字を確認することもできた。このように、ポリエチレンに対するコントラストを得られることがわかった。また、図7(a)に示された第3実施例の放射線画像と対比しても、電圧が40kVから130kVに高められた結果、いずれにおいても袋の形状と文字を確認できた。管電圧を上げても(高エネルギーとしても)袋の形状と文字が確認できるのは、おもて面観察に特有の現象であると考えられる。一方で、図8(b)に示されるように、うら面撮影を行った第4比較例に係る放射線画像では、袋の外形や文字をはっきりと確認することはできなかった。
図9(a)および図9(b)は、第5および第6比較例に係る放射線画像を示す図である。これらの比較例では、入力面6aの観察(おもて面撮影)を行った。ただし、透明なシンチレータを用いた。放射線源は、20keV以下の特性X線を含む放射線を出力できる放射線源を用いた。シンチレータとしては、いずれも、厚みが1400μm(1.4mm)の、透明なセラミックシンチレータを用いた。より具体的には、透明なGOS:Prシンチレータを用いた(Gd2O2S:Pr、「酸硫化ガドリニウム(プラセオジム添加)」)。放射線源の管電圧は、いずれも、130kVとした。放射線源の管電流は、いずれも、200μAとした。露光時間は、いずれも、0.5秒とした。また、放射線源とシンチレータの間には、放射線を低減するフィルタを配置していない。
図9(a)および図9(b)に示されるように、可視光透過率が高いシンチレータを用いた第5および第6比較例に係る放射線画像では、おもて面撮影、うら面撮影のいずれにおいても、はっきりとした画像は得られなかった。おもて面撮影とうら面撮影において、画像の鮮明度に差は付かなかった。
以上より、不透明なシンチレータ6の入力面6aから出力されるシンチレーション光を撮像した放射線画像には、これまでに認識されていなかった特異的な現象が現れることがわかった。また、おもて面観察では、40kV、100kV、および130kVのいずれにおいても、袋の形状や文字を認識できることがわかる。従って、この現象は、管電圧(つまり、放射線のエネルギー)に関係なく、おもて面観察特有の現象であることがわかる。また、透明なシンチレータを用いた場合、おもて面観察をしても、袋の形状も文字も識別することができなかった。従って、この特徴は、不透明なシンチレータを用いた場合に特有のものであることがわかる。
これまでは、放射線画像により、ポリエチレンなどの軽元素でできた対象物の形状を把握できることは知られていなかった。加えて、対象物に印刷された文字も認識できることは特に知られていない。発明者らの推測によれば、シンチレータ6の入力面6aから出力されるシンチレーション光は、対象物Aのわずかな厚みも反映していることが1つの要因になっていると考えられる。今回確認された特異的な現象は、たとえば、かみこみ検査(内容物が袋の接着部分に挟まっていないかどうかの検査)や、透かし検査、異物検査への応用が可能である。
さらに、発明者らは、ポリエチレン以外にも、他の材料に対しても上記の現象が現れないか、種々検討を行った。一例として、紙類の透かし部分に対し、不透明シンチレータを用いたおもて面撮影およびうら面撮影を行った。うら面撮影における露光時間は、おもて面撮影における露光時間の2倍とした。その結果、おもて面撮影による放射線画像では、透かし部分を十分に識別できるコントラストを得ることができた。一方、うら面撮影による放射線画像では、透かし部分のコントラストは劣っていた。おもて面撮影による放射線画像と、うら面撮影による放射線画像とでは、40kVの管電圧において、約1200のコントラスト差が認められた。これは、コントラストノイズ比(CNR)に換算して1.5程度であった。なお、うら面撮影による放射線画像において、輝度を30回積算した場合でも、おもて面撮影による放射線画像のコントラストには及ばなかった。このことから、露光時間を考慮すると、おもて面撮影は、うら面撮影の20~60倍以上の感度を有することが確認された。
紙類を対象物とした実験においても、管電圧を高くしても透かし像のコントラストは変わらず、ポリエチレンを対象物とした上記実施例と同様、おもて面観察の特異的な現象が現れた。従来の手法では、紙類の透かし像を認識するといったことは放射線画像の分野では着想さえされなかった。しかし、上記に開示した特徴を備えた放射線画像取得システムおよび放射線画像取得方法によれば、同じ材料におけるわずかな厚みの違いを反映できることがわかった。
また、上記実施形態によれば、放射線透過率が同程度の物質で構成された対象物に対しても、対象物の形状や模様等をはっきりと識別可能である。例えば、魚などの生鮮食品に存在する寄生虫や加工食品に存在する髪の毛を判別可能である。これまで、食品の放射線透過率と寄生虫や髪の毛などの異物の放射線透過率が同程度であるため、放射線画像による識別は難しいとされていた。しかし、不透明シンチレータのおもて面撮影では、放射線透過率が同程度でも厚みの違いを反映した放射線画像を取得できるため、食品と異物とを判別できる。
本開示の放射線画像取得システムおよび放射線画像取得方法において、20keV以下の特性X線を含む放射線をシンチレータ6の入力面6a(おもて面)でシンチレーション光に変換することが重要である。以下、シミュレーションによって明らかになった点を説明する。図10(a)は、シミュレーションに用いられたX線エネルギースペクトルを示す図である。図10(b)は、補正前のX線エネルギースペクトルで行ったシミュレーション結果を示す図である。図10(c)は、補正後のX線エネルギースペクトルで行ったシミュレーション結果を示す図である。
図10(a)に示されるように、一般的に、X線エネルギースペクトルは、Tuckerの式(Tucker法)などを用いて表され得る。図10(a)に示されるように、Tuckerの式を用いて得られた放射線のエネルギースペクトル(実線で示される)を用いてシミュレーションを行った。図10(b)に示されるように、アルミニウムの透過率のシミュレーション結果(破線で示される)は、おもて面観察によって得られたX線画像に基づいて計算された、アルミニウムの透過率の実測値(実線で示される)に一致しなかった。
そこで、図10(a)に示されるように、本発明者らは、エネルギースペクトルを補正し、20keV以下の領域において特性X線を相対的に高くした(すなわち特性X線が支配的である)エネルギースペクトル(破線で示される)を得た。この補正後のエネルギースペクトルを用いてシミュレーションを行った。図10(c)に示されるように、アルミニウムの透過率のシミュレーション結果(破線で示される)は、おもて面観察によって得られたX線画像に基づいて計算された、アルミニウムの透過率の実測値(実線で示される)とよく一致した。
以上より、シンチレータ6の入力面6a(おもて面)では、20keV以下の特性X線が、効率よくシンチレーション光に変換されていることがわかった。
本発明は、上記実施形態に限定されない。たとえば、レンズ部は、入力面と対向するように配置されなくてもよい。