JP6789123B2 - 平滑表面黒鉛膜およびその製造方法 - Google Patents

平滑表面黒鉛膜およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は極めて表面平滑性に優れ、薄く大面積で、なおかつa−b面方向、すなわち膜面方向の電気伝導度が8000S/cm以上である高品質の黒鉛膜およびその製造方法に関する。
黒鉛膜は優れた耐熱性、耐薬品性、高熱伝導性、高電気伝導性等のため工業材料として重要な位置を占め、電気伝導体、熱拡散材料、耐熱シール材、ガスケット、発熱体、等として広く利用されている。電子機器等のさらなる小型化、薄型化、高性能化が進んでいく中で、黒鉛膜に対して、より優れた表面平滑性、薄さ、均一性、大面積、高電気伝導性、高熱伝導性、等が益々強く求められている。
黒鉛結晶の基本的な構造は、六角網目状に結ばれた炭素原子の作る基底面が規則正しく積み重なった層状構造(積み重なった方向をc軸と言い、六角網目状に結ばれた炭素原子の作る基底面の広がる方向をa−b面方向と言う)である。基底面内の炭素原子は共有結合で強く結ばれ、その原子間隔は1.421Åである。一方、積み重なった層間の結合は弱いvan der Waals力によっており、層間隔は3.354Åである。理想的な黒鉛結晶は層間の積み重なり方によって、六方晶系に属するものと菱面体晶系に属すものとがあるが、普通の構造は六方晶系である。黒鉛における電気伝導度はこのような異方性を反映してa−b面方向に大きく、この方向の電気伝導度は六角網目状に結ばれた炭素原子が作る層の構造の良否、従って黒鉛の品質を判定する良い指標となる。
従来知られた高品質の黒鉛のa−b面方向の電気伝導度の例としては、天然に産出する単結晶と見なされる黒鉛、あるいはキッシュ黒鉛と呼ばれる溶融金属に溶解した炭素から得られる黒鉛の25000S/cmが挙げられる(非特許文献1、2)。
また、これらの黒鉛とは別に特殊な高分子を直接熱処理、炭素化、黒鉛化する方法が開発されている(特許文献1、2)。この目的に使用される高分子としてはポリイミド、ポリオキサジアゾール、ポリパラフェニレンビニレン、などがある。これらの方法では塗布や多層押し出し法により薄い高分子膜を形成し、これを炭素化、黒鉛化することで20000S/cm以上の高いa−b面方向の電気伝導度を持つ黒鉛膜を作ることができる。
また、蒸着重合法を用いて溶媒やキュア剤等の不純物を含まずに作製した極めて薄いポリイミド膜を焼成する事により、極めて薄く厚みが均一で、なおかつa−b面方向の電気伝導度が極めて高い黒鉛膜を作製できることが知られている(特許文献3)。
しかし、図1(a)に示す様にこれらの方法で得られる黒鉛の単独膜1aは、大面積であり、シワやうねりを除いた正味の厚み(d1,d2,d3)の均一性には優れるものの、シワが多く有り、本発明が目指す図1(b)に示す様な単独の黒鉛膜1bに比べると、表面平滑性には改良の余地があった。特に原料の高分子膜が薄くなればなるほど自己支持性が弱くなるため、従来の得られる黒鉛膜1aは、厚さに対するシワの凹凸の高さの割合が大きくなり、これをガラス基板、シリコン基板、PETフィルムなどの平滑な基板表面上に隙間無く積層させる必要がある場合等、一部の用途には適用が難しいという問題があった。例えば図1(c)は、従来の黒鉛膜1aを基板1d上に転写した積層型の黒鉛膜を示しており、転写された黒鉛膜1cであってもシワ、うねりを無くすことは困難であった。またカーボン基板など、黒鉛化温度に耐える基板1d上に貼り付いた状態の高分子を黒鉛化して得られた黒鉛膜1cも存在したが、従来技術では、これを剥離、転写するに際して、やはりシワ、うねり、破れなどが発生しやすく、表面平滑性に優れた単独の黒鉛膜1bは得ることが出来なかった。
上記の一例として、特許文献1の手法で得られた黒鉛膜2aの表面および断面のSEM写真をそれぞれ図2(a)および図2(b)に示す。従来の黒鉛膜は、図2(a)に示す様に、シワやうねりを除いた正味の厚み自体は均一である。またシワの山部分のみや谷部分のみなど、狭い範囲に限定すれば、数百μm角、数十μm角といった領域にて算術平均粗さRa(ただし、所定の評価長さを確保できない点で正しくは算術平均粗さRaと異なる)が100nm以下、50nm以下、20nm以下を満足し、極めて平滑な表面を部分的に有するもの(図2(b)の2b参照)は従来の黒鉛膜にもあった。しかし5mm角以上のような大面積にて隅々まで表面のRaが200nm以下という単独の黒鉛薄膜は未知であった。
また特許文献3には蒸着重合によってグラッシーカーボン基板上に形成したポリアミド酸薄膜をグラッシーカーボンと共に加熱することで、極めて厚み均一性に優れた黒鉛薄膜を形成できることが記載されており、確かにこの状態における黒鉛薄膜の表面平滑性は高い。しかし、このように黒鉛化の際に使用できる基板は3000℃などの極めて高温に耐えられる必要があるので、実質的に使用可能なのはカーボン基板、黒鉛基板やタングステン基板などいずれも導電性のものに限られている。さらにコストなどを考慮すれば、現実的にはカーボン基板と黒鉛基板に限られる。一方で黒鉛薄膜を、本出願や特許文献3に記載されている高い電気伝導度等を活かした導電材料等として使用するためには、絶縁性や半導体の基板上に貼り合わせて使用するか、あるいは例えば両端のみを固定して宙に浮いた状態で使用する必要がある。すなわち特許文献3に記載されている、グラッシーカーボンのような導電性の基板上に貼り付いた黒鉛薄膜は、表面平滑性が優れていても、そのままの状態では、現実的には黒鉛膜は材料としての応用範囲が制限される場合がある。これを解決するためには、導電性の基板とは離れた、独立の膜として、黒鉛膜を製造する必要がある。むろん石英などの基板上に直接的に表面平滑で基板との密着に優れ、電気伝導度等にも優れる高品質な黒鉛を形成できるのが理想ではある。しかし黒鉛化温度に実質的に耐えられる絶縁性基板、半導体基板は存在しないので、実質的には一度、単独で表面平滑性と電気伝導度等の物性に優れた黒鉛膜を作製するしかない。
また特許文献3には、グラッシーカーボン上に形成した黒鉛膜の上にポリメタクリル酸メチル(PMMA)溶液を塗布してPMMA膜ごと黒鉛薄膜をグラッシーカーボンから剥離させ、PMMA膜と黒鉛薄膜との複合膜を得ることが開示されている。ここで得られた複合膜の黒鉛薄膜部分は、シワやうねりを除外した正味の厚み(図1(a)のd1、d2、d3の意味)に関しては均一性が高く、表面平滑性も悪くないレベルである。しかし剥離の際に黒鉛薄膜にはどうしても細かいシワやうねりが生じるため、5mm角以上の面積にて隅々までシワのない、表面の算術平均粗さRaが200nm以下の表面平滑性を実現するには至っていなかった。この原因は剥離方法にもあると思われるが、蒸着重合で得たポリイミドは、溶液塗布によって得られるポリイミド膜に比べて膜面に平行な方向への高分子鎖の配向が相対的に少し低めであり、結果として得られる黒鉛膜の強靭性が低めになる傾向にあるためと推測される。すなわち5mm角以上の単独の黒鉛膜において算術平均粗さRaを200nm以下にすることは、特許文献3の方法といえども、出来なかった。
また特許文献4では、基板上に形成した高分子膜を黒鉛に挟みこんで炭素化、黒鉛化処理を行うことにより、円盤状の剥れが0〜10個/0.01cm2、表面に形成されたシワの高さが0〜50nm、グレインサイズが1μm以上、厚さが1μm以下であるグラファイト(黒鉛)フィルムが得られることが開示されている。しかし、黒鉛に挟み込み炭素化、黒鉛化する方法は、特許文献5、6、7と同様の方法である。そして、こうした方法では狭い範囲ではシワ高さを0〜50nmに低減できたとしても、5mm角以上という広い面積の単独の黒鉛膜において算術平均粗さRaを200nm以下にすることが出来ない事は後述の比較例で示した通りである。
また特許文献6,7にはステンレスの枠に高分子膜を固定して炭素化することにより、最終的に得られる黒鉛の黒鉛化度や電気伝導度を向上させられることが示されている。これは炭素化プロセスの初期段階の一定の時間に、膜に引っ張る力を作用させ、膜内での高分子鎖の配向性を向上させることを意図した手法である。この手法は、得られる黒鉛の黒鉛化度や電気伝導度を改善する効果は高いが、炭素化工程ではステンレス枠の大きさが変化しない一方で、高分子膜は炭素化の為に収縮する結果、炭素化膜は引き延ばされ過ぎて歪みや亀裂などに帰因するシワが発生する。そのため後述の比較例1や比較例10でも示すように、小さいRaを達成することはできない。
すなわち、従来は特に12μm以下の厚さの単独の黒鉛膜に関して、高い表面平滑性、薄さ、大面積、およびa−b面方向、すなわち膜面方向の電気伝導度をどのようにしてバランスよく高レベルで実現するか、について具体的開示はされておらず、未知の領域であった(図1)。さらに、特にポリイミドのような市場で入手しやすい高分子原料を用いて、12μm以下という広い厚み範囲にわたって、5mm角以上という大面積の全域に関してシワ、うねりを含めた表面凹凸として、表面の算術平均粗さRaが200nm以下という高いレベルでの表面平滑性を実現し、なおかつ8000S/cm以上という高い電気伝導度の黒鉛薄膜を、効率よく製造する手法についても、未知の技術領域であった。
特開2004−299919号公報 特開2005−53719号公報 特開2013−212938号公報 特開2013−121894号公報 特開平02−120218号公報 特開昭61−275116号公報 特開昭61−275117号公報
L.Spain,A.R.Ubbelohde, and D. A. Young "Electronic properties of oriented graphite" PHILOSOPHICAL TRANSACTIONS OF THE ROYALSOCIETY T. C. Chieu, M. S. Dresselhaus and M. Endo,Phys. Rev. B26, 5867(1982)
本発明の課題は、極めて表面平滑性に優れ、薄く大面積で、なおかつa−b面方向、すなわち膜面方向の電気伝導度が8000S/cm以上である高品質の黒鉛膜(単独の黒鉛膜)を提供することである。
本発明者らは鋭意研究の結果、高分子膜を焼成中に、高分子膜に膜面に沿って外側に向けて引っ張るよう力を掛けることにより、極めて表面平滑性に優れ、薄く大面積で、なおかつa−b面方向の電気伝導度が8000S/cm以上である高品質の単独の黒鉛膜が得られることを見出し、本発明を成すに至った。本発明の黒鉛膜は特に小型、薄型の電気伝導体、熱伝導材料、耐熱シール材、ガスケット、発熱体、Micro Electro Mechanical Systems (MEMS)の構成材料として極めて優れている。
すなわち本発明は以下の通りである。
1)厚み10nm〜12μm、面積5×5mm2以上、電気伝導度8000S/cm以上、表面の算術平均粗さRaが200nm以下である、単独の黒鉛膜。
2)厚み20nm〜12μm、面積10×10mm2以上、電気伝導度9000S/cm以上、表面の算術平均粗さRaが100nm以下である、単独の黒鉛膜。
3)厚み30nm〜12μm、面積20×20mm2以上、電気伝導度10000S/cm以上、表面の算術平均粗さRaが50nm以下である、単独の黒鉛膜。
4)厚み50nm〜12μm、面積40×40mm2以上、電気伝導度11000S/cm以上、表面の算術平均粗さRaが40nm以下である、単独の黒鉛膜。
5)厚み80nm〜12μm、面積50×50mm2以上、電気伝導度12000S/cm以上、表面の算術平均粗さRaが30nm以下である、単独の黒鉛膜。
6)TEMによる断面観察によって黒鉛膜面に平行なグラフェンが隙間なく積み重なった層状構造であることを特徴とする1)〜5)のいずれかに記載の黒鉛膜。
7)SEMによる断面観察によって黒鉛膜面に平行な空隙のない層状構造を有することを特徴とする1)〜6)のいずれかに記載の黒鉛膜。
8)厚み10nm〜12μm、面積5×5mm2以上、電気伝導度8000S/cm以上であり、
TEM断面像及び/又はSEM断面像で平坦なグラフェンの隙間の無い積層構造が観察され、この平坦積層部分の算術平均粗さRaが200nm以下である、単独の黒鉛膜。
9)高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を炭素化、あるいは黒鉛化、あるいは炭素化および黒鉛化を行う際に、膜面方向の寸法を規定する事により黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、1)〜8)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
10)炭素化の際に最終的に規定する膜面方向の寸法が、元の高分子膜を寸法規定せずに自然に収縮できる状態で炭素化した場合に得られる炭素化膜の膜面方向の寸法の100.2%〜112%であることを特徴とする、9)に記載の黒鉛膜の製造方法。
11)黒鉛化の際に最終的に規定する膜面方向の寸法が、元の炭素化膜を寸法規定せずに自然に伸縮できる状態で黒鉛化した場合に得られる黒鉛膜の膜面方向の寸法の100.2%〜109%であることを特徴とする、9)又は10)に記載の黒鉛膜の製造方法。
12)前記高分子が芳香族ポリイミドである事を特徴とする9)〜11)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
13)炭素化の際に最終的に規定する膜面方向の寸法が、元の高分子膜の膜面方向の寸法の75%〜87%であることを特徴とする、9)〜12)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
14)黒鉛化の際に最終的に規定する膜面方向の寸法が、元の高分子膜の膜面方向の寸法の85%〜97%であることを特徴とする、9)〜13)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
15)高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を炭素化、あるいは黒鉛化、あるいは炭素化および黒鉛化を行う際に、膜面方向に引っ張る力を加える事により黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、1)〜8)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
16)炭素化時に膜面方向に引っ張る力が、高分子膜の総断面積あたりの引っ張る力の合計として、8gf/mm2〜180gf/mm2の範囲であることを特徴とする、15)に記載の黒鉛膜の製造方法。
17)黒鉛化時に膜面方向に引っ張る力が、高分子膜の総断面積あたりの引っ張る力の合計として、8gf/mm2〜1500gf/mm2の範囲であることを特徴とする、15)に記載の黒鉛膜の製造方法。
18)炭素化時に膜面方向に引っ張る力が、高分子膜の総断面積あたりの引っ張る力の合計として、8gf/mm2〜180gf/mm2の範囲であり、
黒鉛化時に膜面方向に引っ張る力が、高分子膜の総断面積あたりの引っ張る力の合計として、8gf/mm2〜1500gf/mm2の範囲であることを特徴とする、15)に記載の黒鉛膜の製造方法。
19)高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を自己支持性のある基板と一体化した状態で炭素化、あるいは炭素化と黒鉛化の両方を行う事により黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、1)〜8)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
20)自己支持性の基板の融点が1000℃以上であり、高分子膜を自己支持性の基板と一体の状態で950℃以上に加熱する事を特徴とする、19)に記載の黒鉛膜の製造方法。
21)自己支持性の基板の融点が2600℃以上であり、高分子膜を自己支持性の基板と一体の状態で2500℃以上に加熱する事を特徴とする、19)に記載の黒鉛膜の製造方法。
22)高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
この炭素化・黒鉛化工程は、厚み20nm〜40μmの高分子膜を複数枚積層し、膜面方向に垂直な方向から30°以内の方向に加圧した状態で、炭素化、あるいは炭素化と黒鉛化の両方を行う事により黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含み、
黒鉛化後、得られた複数枚の黒鉛膜を一枚づつ剥離することを特徴とする、1)〜8)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
23)加圧の圧力が0.01kgf/cm2以上、60kgf/cm2以下である事を特徴とする22)に記載の黒鉛膜の製造方法。
24)前記高分子膜を複数枚積層する時に、各高分子膜の間に離形層を介在させることを特徴とする、22)又は23)に記載の黒鉛膜の製造方法。
25)前記離形層がオイル、有機溶媒、樹脂ペースト、紙、不織布、樹脂フィルム、樹脂粉、炭素粉、黒鉛粉、又はダイヤモンド粉、であることを特徴とする、24)に記載の黒鉛膜の製造方法。
26)前記高分子が芳香族ポリイミドである事を特徴とする、22)〜25)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
27)前記自己支持性の基板が高分子素材であり、該自己支持性高分子基板の厚さが高分子膜よりも厚く、高分子膜を自己支持性高分子基板と一体の状態で2500℃以上に加熱する事を特徴とする、19)に記載の黒鉛膜の製造方法。
28)前記高分子膜と自己支持性高分子基板の高分子がともに芳香族ポリイミドである事を特徴とする、27)に記載の黒鉛膜の製造方法。
29)高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
この炭素化・黒鉛化工程は、高分子素材で形成されかつ前記高分子膜よりも厚い自己支持性の高分子基板を複数枚用い、これら自己支持性高分子基板の間に高分子膜を挟んで積層し、膜面に対して垂直方向から30°以内の方向に圧力をかけながら炭素化、黒鉛化を行う事を特徴とする、1)〜8)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
30)加圧の圧力が0.01kgf/cm2以上、60kgf/cm2以下である事を特徴とする、29)記載の黒鉛膜の製造方法。
31)自己支持性基板と高分子膜の間に離形層を介在させる事を特徴とする、27)〜30)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
32)前記離形層がオイル、有機溶媒、樹脂ペースト、紙、不織布、樹脂フィルム、樹脂粉、炭素粉、黒鉛粉、又はダイヤモンド粉、である事を特徴とする、31)に記載の黒鉛膜の製造方法。
33)前記高分子膜と自己支持性高分子基板の高分子がともに芳香族ポリイミドであり、
高分子膜としての芳香族ポリイミド膜が厚み20nm〜40μmの範囲であり、自己支持性基板となる芳香族ポリイミドフィルムの厚さが5μm〜150μmの範囲である事を特徴とする、27)〜32)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
34)高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を、この高分子膜より自己支持性の強い高分子フィルムの枠あるいは基板と一体化した状態で炭素化と黒鉛化の両方を行う事により表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、1)〜8)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
35)高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を予め炭素化あるいは黒鉛化したものと、この高分子膜より自己支持性の強い高分子フィルムの枠あるいは基板を予め炭素化あるいは黒鉛化したものを、前記高分子膜の炭素化あるいは黒鉛化の後に一体化させ、炭素化と黒鉛化の両方、あるいは黒鉛化を行う事により黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、1)〜8)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
36)高分子膜の厚みが100nm以上15μm以下であり、枠あるいは基板の高分子フィルムが厚み5μm以上300μm以下であり、なおかつ枠あるいは基板の高分子フィルムの厚みは高分子膜の厚みの8倍以上であることを特徴とする、34)又は35)に記載の黒鉛膜の製造方法。
37)高分子膜の種類がポリイミドであり、黒鉛化の際の加熱温度が2600℃以上であることを特徴とする、34)〜36)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
38)高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を黒鉛化する際に、2200℃以上にて少なくとも曲面基板1枚を含む2枚の基板の間に挟んだ状態でプレスする事により、黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、1)〜8)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
39)高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を黒鉛化する際に、2200℃以上にて2枚の曲面基板の間に挟んだ状態でプレスする事により、黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、1)〜8)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
40)高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を黒鉛化する際に、2200℃以上にて、一部のみを接触させた2枚の平行でない平面基板同士の隙間に挟み、プレス開始後に徐々に2枚の平面基板を平行にしつつ2枚の平面基板同士の隙間を無くすようにプレスする事により、黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、1)〜8)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
41)プレスの圧力が0.03kgf/cm2以上30kgf/cm2以下であることを特徴とする、38)〜40)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
42)高分子膜の種類が芳香族ポリイミドであり、黒鉛化の際の加熱温度が2600℃以上であることを特徴とする、38)〜41)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
43)前記炭素化・黒鉛化工程で2枚の基板の間に高分子膜を挟むとき、これら基板と高分子膜の間に離形層を介在させる事を特徴とする38)〜42)のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
44)前記離形層がオイル、有機溶媒、樹脂ペースト、紙、不織布、樹脂フィルム、樹脂粉、炭素粉、黒鉛粉、又はダイヤモンド粉である事を特徴とする43)に記載の黒鉛膜の製造方法。
ところで、本発明の黒鉛膜はグラファイトの一種であるが、グラファイトはグラフェンの積層体である。すなわち本発明の黒鉛膜はグラフェンの積層体である。このことは、例えば「炭素学−基礎物性から応用展開まで」(株式会社化学同人 2011年10月15日発行)の72〜73ページで説明されている。本発明は、黒鉛膜の表面にあるグラフェンのシワを減少させる(すなわち表面を平滑にする)と同時に、黒鉛膜の内部にあるグラフェンのシワをも減少させるものである。つまり本発明の「平滑表面黒鉛膜」は「平滑なグラフェンが積層した積層体」であるということもできる。このことは図1を参照すれば容易に理解できるし、本発明の黒鉛膜の製造方法からして、黒鉛膜の内側のグラフェンについてもシワが減少することは自明である。最外層のグラフェンのシワだけを減少させるためには、むしろ特別な工夫が必要であろう。これはまた図3に示すように、本発明の「平滑表面黒鉛膜」の断面TEM画像からも明らかである。
図1(a)は従来の高品質黒鉛膜1aの断面模式図を示し、図1(b)は本発明の表面平滑黒鉛1bの断面模式図を示す。従来の高品質黒鉛膜1aとしては極めて薄く厚み(d1、d2、d3)が均一であるものが知られているが、大面積のものはシワ、うねりがあり、表面平滑性には改善の余地があった。これに対して、本発明の表面平滑黒鉛1bは厚さが均一で、なおかつシワやうねりが極めて少ない。特に微細配線材料やMicro Electro Mechanical Systems(MEMS)などの精密な加工精度が求められる用途への応用には、このような極めて高い表面平滑性が必須である。またThermal Interface Materials(TIM)としても極めて優れている。
また、本発明の黒鉛膜はグラファイトの一種であるが、シワやうねりが無く厚みが均一で破れなどの欠陥が極めて少ない極薄黒鉛膜が、規則正しく膜面方向と平行に隙間無く積層した積層構造体でもある。このことは図4〜6の断面SEM画像とRaの値から明らかである。上記のように本発明の方法によれば黒鉛膜内部を構成する極薄黒鉛膜のシワをもほぼ完全に伸ばせることは、容易に理解できる。そしてこの構造は、天然の黒鉛をシート状に成形したものや、等方性黒鉛、グラッシーカーボン、黒鉛蒸着膜、フラーレン、カーボンナノチューブやそれらの複合材料をプレス、切削、表面研磨しても到底作製不可能なものであり、従来に無かった極めて優れた表面平滑性と極めて高い電気伝導度、熱伝導度、曲げ耐性、破れにくさ、切断加工の容易さ等の良好な特性を同時に備えた黒鉛膜を実現するものである。
本発明により、特に小型、薄型の電気伝導体、熱伝導材料、Thermal Interface Materials(TIM)、耐熱シール材、ガスケット、発熱体、Micro Electro Mechanical Systems(MEMS)の構成材料として極めて優れた、極めて表面平滑性の高い黒鉛膜(単独の黒鉛膜)を提供できる。
図1(a)は、従来の高品質黒鉛膜(単独膜)の断面模式図を示し、図1(c)は、従来の高品質黒鉛膜の積層体の断面模式図を示し、図1(b)は本発明の表面平滑黒鉛(単独膜)の断面模式図を示す。 図2(a)は、従来の高品質黒鉛膜の断面のSEM写真(倍率100倍)であり、図2(b)は従来の高品質黒鉛膜の表面のSEM写真(倍率60倍)である。 図3は、実施例で得られた本発明の表面平滑黒鉛膜の断面のTEM写真(倍率300万倍)である。 図4は、別の実施例で得られた本発明の表面平滑黒鉛膜の断面のSEM写真(倍率1万倍)である。 図5は、実施例で得られた本発明の表面平滑黒鉛膜の断面のSEM写真(倍率1万倍)である。 図6は、他の実施例で得られた本発明の表面平滑黒鉛膜の断面のSEM写真(倍率3.5万倍)である。 図7は、従来の炭素化膜及び黒鉛膜の収縮・膨張挙動を示すと共に、本発明の表面平滑黒鉛の作製方法の一例を示す模式図である。 図8は、本発明の表面平滑黒鉛の作製方法の一例を示す模式図(正方形サンプル)である。 図9は、本発明の表面平滑黒鉛の作製方法の他の例を示す模式図(円形サンプル)である。 図10は、本発明の表面平滑黒鉛の作製方法の別の例を示す模式図である。 図11は、本発明の引っ張り強さについて説明するための一の模式図(正方形サンプル)である。 図12は、本発明の引っ張り強さについて説明するための他の模式図(円形サンプル)である。 図13は、本発明の表面平滑黒鉛の作製方法のさらに別の例を示す模式図である。 図14は、本発明の表面平滑黒鉛の作製方法の他の例を示す模式図である。 図15は、本発明の表面平滑黒鉛の作製方法の別の例を示す模式図である。 図16は、本発明の表面平滑黒鉛の作製方法のさらに他の例を示す模式図(円形サンプル)である。 図17は、本発明の表面平滑黒鉛の作製方法のさらに別の例を示す模式図(正方形サンプル)である。 図18は、本発明の表面平滑黒鉛の作製方法の他の例を示す模式図である。 図19は、本発明の表面平滑黒鉛の作製方法の別の例を示す模式図である。 図20は、高分子膜の厚み測定位置を示す模式図である。 図21は、黒鉛膜の表面粗さ(算術平均粗さRa)の測定位置(5箇所の黒い線)、および電気抵抗、厚みの測定位置(4箇所の黒い正方形)を示す模式図である。
以下で本発明を詳細に説明するが、むろん本発明は以下に限定されるものではない。
[黒鉛膜の薄さ]
黒鉛膜は、原料となる高分子膜が薄いほど、薄くなる。薄い黒鉛膜ほど小型、薄型の用途に利用できる。また、本発明の方法では、他の条件が同じであれば薄い高分子膜を焼成したほうがa−b面方向、すなわち膜面方向の電気伝導度に優れた黒鉛膜が得られる傾向にあるため、高電気伝導度の黒鉛膜を得るという観点から、薄い高分子膜を用いる方が好ましい。高電気伝導度であることは黒鉛が結晶性に優れ、ヒビ割れや欠陥が少ないことを意味するので、これは同時に熱伝導度が高いことも意味する。
また、ある程度薄い膜のほうが、比較的小さな力で膜面方向の外側に向けて引っ張るだけで膜のシワを伸ばせるので、優れた表面平滑性を実現しやすい傾向にある。
これらの観点から、本発明の黒鉛膜の厚さは12μm以下であり、8μm以下であることが好ましく、5μm以下であることはさらに好ましく、3μm以下、2μm以下、1.5μm以下であることはさらに好ましい。
一方で、黒鉛膜は厚いほど破れにくく、焼成時に黒鉛の昇華により局所的に穴が開くなどの不測の事態が起こりにくく、生産、取り扱い、加工も容易である。また膜厚に対する厚み誤差の割合が小さく、製品の品質保証上も有利である。これらの観点から、黒鉛膜の厚さは10nm以上又は20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることはより好ましく、50nm以上、80nm以上、100nm以上であることはさらに好ましい。
上記のことから、本発明の黒鉛膜の厚さは20nm〜8μmの間であることが好ましい。30nm〜5μmの間であることはさらに好ましく、50nm〜3μmの間であることはなお一層好ましく、100nm〜1.5μmの間であることは最も好ましい。
[厚み測定の方法]
厚みの測定方法としては公知の装置を用いて測定できるが、例えばノギス等の接触式の測定方法や、レーザー変位計、分光エリプソメトリー等の光学的測定方法、SEM(Scanning Electron Microscope)やTEM(Transmission Electron Microscope)による断面観察による方法、等により測定する事ができる。
[黒鉛膜の表面平滑性]
特に小型、薄型の電気伝導材料、電磁波シールド材料、静電気対策材料、微細配線材料、熱伝導材料、耐熱シール材料、ガスケット、発熱体、Micro Electro Mechanical Systems (MEMS)の構成材料等として使用する場合には、黒鉛膜には高い表面平滑性が求められる。
黒鉛膜にシワ、うねり等の凹凸があると、基板等へ積層する際にうまく積層できず剥がれる可能性が高くなる。また積層できたとしても、元のシワやうねりを強引に伸ばすことになり、結果として割れ、破れ、欠け、穴、別の箇所へのシワ寄せなどの原因となり、本来の高い電気伝導、熱伝導、弾性率などの優れた性質を発現できなくなる。また、積層させたときの厚みがシワの分だけ厚くなり、機器の薄型化、小型化を阻害する。また密着させるべき位置への密着性が悪くなり、所望の密着強度、接触面積やシール性(密閉性)を実現できない可能性が高い。このため、本発明の黒鉛膜の表面平滑性は算術平均粗さ(Ra)が200nm以下であり、150nm以下であることはより好ましく、100nm以下であることはさらに好ましく、50nm以下であることは一層好ましい。さらに40nm以下又は30nm以下や10nm以下であれば工業的に生産される高分子膜や高分子板、ガラス板、石英板、シリコンウエハ、サファイア板などの基板と同レベルの表面平滑性となるため、これらとの積層材料が容易に作製可能であるという点で、最も好ましい。
[表面平滑性の評価方法]
表面平滑性の評価は既存の方法、すなわち触針式表面粗さ計や、レーザー顕微鏡等の光学的方法や、STM(Scanning Tunneling Microscope)、AFM(Atomic Force Microscope)等の方法により評価する事が出来る。表面平滑性の指標としては算術平均粗さRa、輪郭曲線要素の平均長さRsm、最大高さRz、十点平均粗さRzjisなどにより表すことができる。これらに関する規定としては、例えばJIS B0601−2001を適用または準用することができる。
[黒鉛膜の面積]
黒鉛膜の面積はある程度広くなければ部材としての応用範囲が限定されるため、一定以上の面積である必要がある。特に熱拡散シートやディスプレイ、有機EL、太陽電池、配線回路基板、電磁波シールド材料、ガスケット等の用途に適用するためには、大面積化が求められる。このため、黒鉛膜の面積は5×5mm2以上が望ましく、より好ましくは10×10mm2以上であり、さらに好ましくは20×20mm2以上であり、なお一層好ましくは30×30mm2以上又は40×40mm2以上である。さらに50×50mm2以上や100×100mm2以上であることは最も好ましい。
[黒鉛膜の電気伝導度]
黒鉛膜の電気伝導度は、用途にもよるが、電気伝導体、熱拡散部材、電子回路用部材、電磁波シールド部材などの場合は、一般的に高いほど良い。これらの用途の場合、黒鉛膜の電気伝導度は8000S/cm以上であることが好ましいが、より好ましくは9000S/cm以上、さらに好ましくは10000S/cm以上、なお好ましくは11000S/cm、一層好ましくは12000S/cm以上又は13000S/cm以上であり、16000S/cm以上や18000S/cm以上であることは最も好ましい。電気伝導度は、例えばvan Der Pauw法や一般的な4端子法など既知の手法により電気抵抗を測定すれば、あとはサンプルの寸法、厚みから計算することができる。
以上の様な特徴を有する本発明の黒鉛膜は、TEM断面像及び/又はSEM断面像の結果から、黒鉛膜と同等の表面平滑性(平坦性)を持ったグラフェンが隙間無く積層した、グラフェンの積層体という事もできる。すなわち、算術平均粗さRaが200nm以下であるグラフェンの積層体であるという事もできる。算術平均粗さRaは、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは40nm以下、特に好ましくは30μm以下である。このような黒鉛膜内部のグラフェン層の算術平均粗さRaは、触針やレーザー光線を用いた通常の測定機器により直接的に測定はできない。しかし断面がきれいな平面状とみなせる場合には、TEMまたはSEMによる黒鉛膜面に垂直方向の断面の画像は、黒鉛膜内部のグラフェン層の、グラフェン層に対して垂直方向の凹凸曲線を示しているのであるから、断面画像から直接的にRaの値を評価することが可能である。SEMによる断面画像で見えるのは厳密には個々のグラフェン層ではなく、グラフェン層の積層体である極薄黒鉛層が積み重なった積層構造である。しかしこの極薄黒鉛層から、これを構成するグラフェン層がはみ出して、上下の別の極薄黒鉛層に至ることはないので、断面SEM画像で見られる極薄の黒鉛層に関して、断面画像からRaを算出すれば、グラフェン層のRaの値が得られることになる。このことは後述の実施例で得られる断面TEM画像、断面SEM画像からも明らかである。
また本発明の黒鉛膜は、断面SEM画像から、黒鉛膜と同等の表面平滑性(平坦性)を持った極薄の黒鉛層が隙間無く積層した、極薄の黒鉛の積層体という事もできる。すなわち本発明の黒鉛膜は、好ましくは
(特徴1)黒鉛膜の膜面に垂直な方向の断面において、その断面積の70%以上の位置に関して、算術平均粗さRaが200nm以下である;
(特徴2)厚みのばらつきが100nm以下であり、黒鉛膜の膜面に対して5°以内の平行な方向にある、極薄の黒鉛層が、黒鉛膜の一方の表面から他方の表面まで隙間無く積層した積層体構造である;
(特徴3)該極薄の黒鉛層が、黒鉛膜の厚みにもよるが100層以上であることもあり、また大抵10層以上である;
(特徴4)黒鉛膜の密度が1.8g/cm3以上である
といった4つの特徴を備えているということもできる。
前記特徴1(黒鉛膜面に垂直な方向の断面の断面積の70%以上の位置に関して、示される算術平均粗さRa)は、150nmRa以下であることが好ましく、より好ましくは100nmRa以下、さらに好ましくは50nmRa以下、特に好ましくは20nmRa以下である。
前記特徴2(極薄の黒鉛層の厚みばらつき)は、70nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下、特に好ましくは10nm以下である。
なお単にグラフェン層を平坦に積層するだけであれば従来も可能である。本発明が優れているのは、Ra200nm以下(評価長さ1.25mm)であるか否かを判定可能な広い面積で優れた平坦性(Ra200nm以下)を示し、この平坦な表面に対して全体に亘って広い面積でグラフェン層が平行に積層される事で、グラフェン層自体も広い面積で平坦になっている事である。ここで個々のグラフェンのドメインサイズは例えば100μm未満(例えば、数十μm程度)、特に10μm未満(例えば、数μm程度)などのように小さくても構わない。
また本発明の黒鉛膜は、基板と積層してもよいが、単独の膜として(基板などと積層しない状態で)既に上記諸特性を備えている点に特徴がある。単独の黒鉛膜で上記諸特性を備えることは、従来、不可能であった。大きなシワのある(大きなRaの)黒鉛膜であっても、表面にカーボン蒸着したり、カーボンペーストを塗布したり、表面研磨するなどして、見かけ上、高い表面平滑性を実現することは可能である。しかしこれでは黒鉛膜に上述の優れた特徴を持たせることはできず、作製の手間もかかり、応用できる用途も限定される。また本発明の単独の黒鉛膜は、TEM断面像及び/又はSEM断面像で平坦なグラフェンの隙間の無い積層構造が観察され、この平坦積層部分の算術平均粗さRaが200nm以下(好ましくは、150nm以下、100nm以下、50nm以下、40nm以下、30nm以下、または10nm以下)である限り、必ずしも表面のRaが200nm以下でなくてもよい。こうした黒鉛膜でも優れた特性を達成できる。例えば、本発明の単独の黒鉛膜の作製過程で予め黒鉛製フィラーを添加したり、粒径の大きな研磨剤で表面を粗化したり、型押しなどで意図的に表面に凹凸形状を付与したりして、敢えてRaが200nmを超える、表面平滑性を落とす処理をしても良い。平滑な表面を持つ基板への過度に強い貼りつきを防止したり、表面の滑りと引っかかりの程度のバランスを取るために、これらの工夫をすることは用途によっては有効である。本発明の表面平滑性に優れる単独の黒鉛膜に対して、このような処理をしたものは無論、本発明の範囲に含まれる。
[原料高分子]
本発明に用いることができる原料高分子の種類は、焼成により良質の黒鉛になるものであれば特に限定はされないが、中でも芳香族系高分子は好ましい。この芳香族系高分子としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリパラフェニレンビニレン、ポリキノキサリン、ポリオキサジアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリキナゾリンジオン、ポリベンゾオキサジノン、ポリキナゾロン、ベンズイミダゾベンゾフェナントロリンラダーポリマー、およびこれらの誘導体から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの高分子原料からなる膜は公知の製造方法で製造すればよい。特に好ましい原料高分子として芳香族ポリイミド、ポリパラフェニレンビニレン、ポリオキサジアゾールを例示する事ができる。中でも以下に記載する酸二無水物(特に芳香族酸二無水物)とジアミン(特に芳香族ジアミン)からポリアミド酸を経て作製される芳香族ポリイミドは、本発明の黒鉛膜作製のための原料高分子として特に好ましい。
[酸無水物]
前記芳香族ポリイミドの合成に用いられ得る酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を含み、それらを単独または任意の割合の混合物で用いることができる。 特に剛直な構造を有した高分子構造を持つほどポリイミド膜の配向性が高くなり結晶性に優れた黒鉛が得られやすいこと、さらには入手性の観点から、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
[ジアミン]
前記芳香族ポリイミドの合成に用いられるジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、p−フェニレンジアミン(PDA)、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニル−N−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル−N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を含み、それらを単独で、または任意の割合の混合物で用いることができる。さらにポリイミド膜の配向性が高くなり結晶性に優れた黒鉛が得られやすいこと、入手性の観点から、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、p−フェニレンジアミン(PDA)を用いることが好ましい。
[ポリアミド酸の調製方法]
ポリアミド酸の調製方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができるが、特に好ましい重合方法として次のような方法が挙げられる。すなわち、
1)芳香族ジアミンを極性有機溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法、
2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを極性有機溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法、
3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを極性有機溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここに芳香族ジアミン化合物を追加添加後、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法、
4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を極性有機溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法、
5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を極性有機溶媒中で反応させて重合する方法、
などのような方法である。
例えば、前記酸二無水物とジアミンからのポリアミド酸の調製方法としては、通常、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種を有機溶媒中に溶解させ、得られたポリアミド酸の有機溶媒溶液を、制御された温度条件下で、上記の酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌する方法が挙げられる。これらのポリアミド酸溶液の濃度は通常5〜35重量%であり、好ましくは10〜30重量%の濃度である。この範囲の濃度である場合に、適当な分子量と溶液粘度を得る事が出来る。ポリアミド酸溶液の濃度が低すぎると分子量が十分でなく、得られるポリイミド膜の強度が十分でない場合があり、粘度が低すぎてポリイミド膜の製膜が困難となる場合もある。一方、ポリアミド酸溶液の濃度が高すぎると粘度が非常に高く、ポリイミド膜の製膜が困難となる。
前記ポリアミド酸溶液中の酸二無水物とジアミンは実質的に等モル量にすることが好ましく、モル比(酸二無水物:ジアミン)は、例えば、1.5:1〜1:1.5、好ましくは1.2:1〜1:1.2、より好ましくは1.1:1〜1:1.1である。
[ポリアミド酸を合成するための溶媒]
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒はアミド系溶媒、すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられる。
<ポリイミドの合成、製膜>
ポリイミドの製造方法には、前駆体である上記ポリアミド酸を加熱によりイミド化を行う熱キュア法や、ポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用い、イミド化を行うケミカルキュア法がある。本発明ではいずれを用いても良い。得られるポリイミド膜が焼成中に張力をかけたとしても破損しにくく、また、高電気伝導度など品質の良い黒鉛膜を得やすいという観点からは、ケミカルキュア法が好ましい。一方で熱キュア法は、ポリアミド酸を加熱しなければイミド化が起こりにくいので、時間をかけてポリイミド製膜したい場合にも比較的容易に使用でき、例えばスピンコートなど様々なポリイミド製膜方法に適用しやすく、製造プロセス上の自由度が高いという利点がある。
例えば、ケミカルキュアによるポリイミド膜の製造法は以下のようになる。まず上記ポリアミド酸の有機溶媒溶液に化学量論量以上の脱水剤と触媒量のイミド化促進剤を加え、アルミ箔等の支持基板やPET等の高分子膜、ドラム又はエンドレスベルト等の支持体上に流延又は塗布して膜状とし、加熱により有機溶媒を乾燥させることにより、自己支持性を有する膜を得る。次いで、これを更に加熱して乾燥させつつイミド化させ、ポリイミド膜を得る。加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲が好ましい。
上記のようにイミド化促進剤を加えず、単純に加熱によりイミド化を行い、ポリイミド膜を得ても良い(熱キュア)。この場合の加熱温度も150℃から550℃の範囲が好ましい。
さらに、ポリイミドの製造工程中に、収縮を防止したり高分子鎖の膜面方向の配向性を高めるために、膜を固定したり、延伸したりする工程を含む事は好ましい。これは、膜面方向の配向性が高いポリイミド膜を用いる事で、黒鉛の結晶性が高くなりやすく、結果として高電気伝導度や高熱伝導度の黒鉛膜が得やすいためである。この理由は、黒鉛化の際には黒鉛前駆体中にて炭素原子が黒鉛結晶の構造に再配列する必要があるが、元々膜面方向の配向性に優れたポリイミドでは、その再配列が少なくて済むために、焼成によりスムーズに黒鉛への転化が進むためである。
また、銅箔、アルミ箔、石英板、グラッシーカーボン板などの基板上へ直接ポリイミド膜を得たい場合には、バーコーターやスピンコーターを用いて所望の基板上にポリアミド酸の膜を形成し、加熱してイミド化させ、基板付きポリイミド膜を得れば良い。この場合も、蒸着重合法以外の手法であれば、ケミカルキュア法、熱キュア法のいずれも用いることができる。
<原料高分子膜の厚み範囲>
本発明の厚み範囲の黒鉛膜を得るためには、原料高分子膜の厚さは40μm〜20nmの範囲である事が好ましい。これは、最終的に得られる黒鉛膜の厚さは、一般に原料高分子膜が1μm以上では、原料高分子膜の厚さの60〜30%程度となり、1μm以下では50%〜20%程度となる場合が多いためである。従って、最終的に本発明の10nmから12μmの厚さの黒鉛膜を得るためには、原料高分子膜の厚さは40μm以下、20nm以上の範囲である事になるが、大抵の場合には30μm以下、30nm以上である。
[炭素化]
本発明では原料である高分子膜を不活性ガス中あるいは真空中で加熱し、炭素化を行う。不活性ガスは、窒素、アルゴンあるいはアルゴンと窒素の混合ガスが好ましく用いられる。炭素化は通常800℃〜1800℃程度の温度で行う。例えば、10℃/分の昇温速度で昇温して800℃〜1800℃程度に加熱し、そのまま10分間程度の温度保持を行う方法などが好ましく用いられる。昇温速度に特に制限は無いが、生産性向上の観点からは0.5℃/分以上が好ましく、また、十分な炭素化を行うためには100℃/分以下が好ましい。一般的には1℃/分〜50℃/分の間が好ましい。炭素化の際の加熱方式としては特に制限はないが、黒鉛ヒーター等の抵抗加熱式のヒーターによる方式や、赤外線照射による方式を好ましく用いることができる。
[黒鉛化]
上記の方法で炭素化された炭素化膜を黒鉛化炉内にセットし、黒鉛化を行う。黒鉛化に必要な2200℃以上の高温を作り出すために、通常黒鉛ヒーターに電流を流し、そのジュール熱を利用して加熱を行う。黒鉛化は不活性ガス中で行うが、不活性ガスとしてはアルゴンが最も適当であり、アルゴンに少量のヘリウムを加えるとさらに好ましい。
加熱温度は高ければ高いほど高電気伝導度の黒鉛膜を得やすいが、特に厚さ5μm以下の高分子膜は比較的低温でも黒鉛に転化しやすいため、本発明の黒鉛膜を得るために必要な加熱温度は比較的低めであり、2200℃以上である。このように比較的低い温度で黒鉛化が可能であることは、黒鉛化炉の簡略化や電力節減によるコストダウンが可能という点で有利である。無論、高電気伝導度を実現したい場合には黒鉛化時の温度は高温であるほど良い。また本発明の、膜に膜面方向に外側に向けて引っ張るように力をかけることにより、黒鉛膜の表面平滑性を向上させる方法では、比較的広い温度範囲、比較的長い時間、あるいは比較的高温域で力をかける場合に、得られる黒鉛膜の表面平滑性が優れる傾向にある。したがって、この観点からも黒鉛化時の温度は高温であるほうが有利である。このため黒鉛化では2600℃以上の温度で加熱することが好ましく、さらに2800℃以上であることが好ましく、3000℃以上である事は最も好ましい。
[焼成時の寸法変化]
芳香族ポリイミドの場合、炭素化後の炭素化フィルムの膜面方向の寸法は、炭素化時に膜を自然収縮させた場合には、元の高分子膜の75〜85%程度に収縮することが多い。また、最終的な黒鉛膜の膜面方向の寸法は、炭素化時及び黒鉛化時の膜の収縮・膨張を自然に任せた場合には、元の高分子膜の寸法の85〜95%程度となることが多い。こうした自然の収縮・膨張に対して、種々の制限をかけることが本発明の特徴となる。以下、本発明で採用可能な制限について、順に説明する。
[寸法規定によるシワの改善]
原料高分子膜を焼成中、すなわち炭素化時又は黒鉛化時、あるいは炭素化および黒鉛化を行う際に、膜面に沿って外側に向けて引っ張るように力を掛けることにより、極めて表面平滑性に優れ、薄く大面積で、なおかつa−b面方向、すなわち膜面方向の電気伝導度が8000S/cm以上である高品質の黒鉛膜が得られる。
膜面に沿って外側に向けて引っ張るための方法としては、基本的には膜面内に沿って、高分子膜の中心から放射状に外側に向かって引っ張るのが良いが、この方向から45°以内で角度がずれていても問題ない。この角度のずれは、膜面内のずれだけでなく、膜面内から外れる方向であっても良い。特に高分子膜の配向性に異方性がある場合には、中心(例えば、重心)から放射状ではなく、意図的に放射状からずれた方向に引っ張ることは有効である。また、意図的に黒鉛膜の構造や電気伝導度等の特性に異方性を持たせたい場合にも放射状からずれた方向に引っ張ることは有効である。
このための一つの方法として、焼成中の高分子膜、炭素化膜、あるいは黒鉛膜の寸法を機械的に規定する方法がある。例えば芳香族ポリイミド膜7aの場合、収縮・膨張を自然に任せると、1000℃での炭素化後には、炭素化膜7bの膜面方向の寸法は元のポリイミド膜7aの約80%程度の寸法に収縮し、次の約3000℃での黒鉛化で得られる黒鉛化膜7cでは元のポリイミド膜7aの約90%程度の寸法まで膨張する(図7)。この複雑な収縮、膨張のために、特に薄い膜を作製する際には多くのシワが生じる。そこで本発明では、例えば、図7で矢印7f、7gで示す様に、炭素化膜又は黒鉛化膜の中心7d、7eから放射状に延びる方向に膜を適度に広げる力をかけることで、シワが大幅に改善される。この際に例えば炭素化後の自然な収縮による寸法よりも大きな寸法になるように、炭素化時に機械的に膜の寸法を固定する。あるいは膜の寸法を徐々に所定の寸法に変化させていく(引っ張られた状態を作りながら、縮む方向へ徐々に動かす)ようにする。こうすれば炭素化の際の不均一な収縮によって生じる膜のシワを伸ばして、得られる炭素化膜の表面平滑性を高めることができる。なお規定寸法が自然収縮寸法よりも大きすぎても小さすぎても却ってシワが生じるため、表面の算術平均粗さRaを小さくするには、適度な範囲に寸法規定することが求められる。この範囲は炭素化膜や黒鉛化膜の厚みや強度に応じて変化する為に一義的に定めることは困難であるが、通常、炭素化工程では炭素化前と同じ寸法未満にすることが推奨され、また炭素化工程及び/又は黒鉛化工程で自然収縮寸法より大きい寸法にすることが推奨される。具体的な好ましい数値範囲については後述する。
膜の寸法を規定するためには、例えば膜の縁をジグに固定する必要などがある。このための方法として、例えば板状の炭素部材で膜の縁を上下から挟みこむ方法や、膜の縁に複数の穴をあけて、穴にカーボン製のフックや、カーボン製の紐を引っ掛ける方法がある。後者の場合には、膜の縁の穴を物理的に破壊から守るために、カーボンや紙、不織布、ポリイミド等の樹脂で作ったハトメを付けることや、穴の数を増やして1つの穴あたりにかかる力を弱めることは有効である。また寸法を機械的に規定する手段としては、黒鉛製の固定された枠を用いる方法や、黒鉛製の可動式のアームを用いる方法がある(図8、9)。可動式のアームを用いる方法は、機械が大掛かりになるが、様々な制御や微調整ができるので汎用性が高い。
これは黒鉛化のプロセスについても同じで、黒鉛化の際に機械的に炭素化膜あるいは黒鉛膜の縁をジグに固定するなどした状態で、膜の寸法を規定することにより、不均一な膨張によって生じるシワを低減し、得られる黒鉛膜の表面平滑性を向上させられる。黒鉛化の際は自然に寸法が伸びるので、膜の縁を引っ張っていき所定の寸法にまで伸ばすように制御することが望ましい。
図8の例では、角形(図示例では四角形)の高分子膜又は炭素化膜8aの各角に、黒鉛製(CIP(Cold Isotropic Press:冷間静水圧プレス)材)のL字型に曲がった円柱状のアーム8bを挿入し、各アーム8bを膜8aの中心8dから放射状に延びる方向8cに沿って拡大方向又は収縮方向に移動させることで、適切な張力を作用させることができる。
図9の例では、円形(図示例は真円形であるが、楕円形でもよい)の高分子膜又は炭素化膜9aの周辺の複数箇所に、黒鉛製(CIP材)のL字型に曲がった円柱状のアーム9bを挿入し、各アーム9bを膜9aの中心9dから放射状に延びる方向9cに沿って拡大方向又は収縮方向に移動させることで、適切な張力を作用させることができる。
なお図8、9の例では、同一形状の膜8a又は9aを複数枚重ねてからアームで寸法規定しているが、一枚の膜8a、9aだけをアームによって寸法規定してもよい。
図10は放射状からずれた方向に引っ張る場合の一例を示す概念図である。この図示例では、角形(図示例では四角形)の膜10aである高分子膜又は炭素化膜の各角に、それぞれ複数(図示例では2つ)のアーム取り付け箇所10bを設けている。そして各取り付け箇所において、最も近い辺10eに対して直交する方向10cにアームを移動させており、この方向10cは、膜10aの中心10dから放射状に延びる方向10fとは異なるものの、この放射状方向10fに対して角度θを有しており、このθが45°以内になっている。
炭素化、黒鉛化のいずれのプロセスでシワを伸ばしても効果があるが、最終プロセスである黒鉛化の際に寸法規定することによりシワを伸ばすほうが、より表面平滑性向上の効果が高い。無論、シワを伸ばすためには適切な寸法規定を行うことが不可欠であって、逸脱した寸法に規定した場合には効果が無いばかりでなく、逆効果となる場合もあることは言うまでもない。また、炭素化時と黒鉛化時の両方で機械的な寸法規定により膜のシワを伸ばすことは、さらに効果が高い。これは、黒鉛化時のみの寸法規定でも十分に高い表面平滑性向上の効果は得られるが、より優れた表面平滑性の実現のためには、予め炭素化時にも寸法規定により表面平滑性を向上させておいて、これにより黒鉛化時の表面平滑性向上の効果をより高められるからである。黒鉛化時のみに機械的な寸法規定を行いシワを伸ばす場合には、炭素化時と黒鉛化時の両方で寸法規定によりシワを伸ばす場合に比べて、より強く膜を引っ張るように、より大きめの寸法に寸法規定をすることが、より効果的にシワ低減を行う観点から好ましいが、膜が破れるリスクが高くなるので、慎重に制御する必要がある。
この際に加熱による本来の自然な寸法と殆ど同じか小さい寸法に規定してしまうとシワを伸ばす効果が無いばかりか、逆にシワを発生させてしまう場合もある。一方で、加熱による本来の自然な寸法よりも非常に大きな寸法に規定しようとすると、膜が引張りに耐えられなくなり、破れてしまう。
炭素化のプロセスでは、加熱による本来の(すなわち収縮を自然に任せた時の)最終的な自然な寸法(100%)よりも0.2〜12%大きな寸法(すなわち100.2〜112%)に規定するとシワを伸ばすことができ、それ以上大きな寸法に規定すると破れる可能性が高くなる。好ましくは0.5〜8%の間であり、より好ましくは0.8〜6%の間であり、さらに好ましくは1〜5%の間であり、最も好ましくは2〜4%の間である。
また、黒鉛化のプロセスでは、加熱による本来の(すなわち膨張を自然に任せた時の)最終的な自然な寸法(100%)よりも0.2〜9%大きな寸法(すなわち100.2〜109%)に規定するとシワを伸ばすことができ、それ以上大きな寸法に規定すると破れる可能性が高くなる。好ましくは0.5〜7%の間であり、さらに好ましくは1〜5%の間であり、最も好ましくは2〜4%の間である。
また炭素化の際に最終的に規定する膜面方向の寸法を、或いは黒鉛化の際に最終的に規定する膜面方向の寸法を元の高分子膜の膜面方向の寸法に対して規定することでもシワを伸ばすことが可能であり、炭素化の際及び黒鉛化の際の両方で寸法を規定してもよい。炭素化の際の膜面方向の規定寸法は、元の高分子膜の膜面方向の寸法に対して、例えば、75%〜87%であり、好ましくは77〜87%であり、より好ましくは79〜86%である。黒鉛化の際の膜面方向の規定寸法は、元の高分子膜の膜面方向の寸法に対して、例えば、85%〜97%であり、好ましくは87〜97%であり、より好ましくは89〜97%である。ここでいう寸法とは、膜の中心(8d、9d、10d)に対して対称の位置になる2点間距離(8g、9g、10g)を基準とした寸法である。複数の基準寸法が存在する場合は、計測や制御がしやすい部分の寸法を基準に行えば良い。例えば膜にあけた穴にアームを入れて引っ張る場合には、対角線上にある対になっている、アームによる引っ張り用の円形穴の、内径の円周上にある、引っ張られる方向側の点同士を結ぶ線分の長さを基準にすれば、アームの変位制御と寸法の規定をリアルタイムに直接関連付けられるため、便利である。
加熱中常に引っ張った状態にしていても良いし、一部の加熱時間や一部の温度範囲でのみ引っ張った状態にしても良い。常に引っ張った状態にした方が表面平滑性向上の効果が高いが、膜が引っ張りに耐えられなくなる可能性もあるので、膜の破断強度、厚さも考慮しながら寸法規定のタイミングや時間をうまくバランスさせる必要がある場合もある。
この方法はむろん1枚のみではなく多数枚の膜を同時に焼成しながら表面平滑性を向上できるので、生産性に優れた方法である。また機械的に任意のタイミングで寸法の微調整を行うことができるので、精密な制御がしやすい利点がある。
この方法は一度黒鉛化を済ませた黒鉛膜に対して、再度黒鉛化温度で(例えば、2200℃以上に)加熱処理しながら行うこともできるが、生産性の観点からは黒鉛化の際に同時に行うほうが好ましい。
[所定の力をかけることによるシワの改善]
膜を膜面に沿って外側に向けて引っ張るための方法としては、焼成中の膜に機械的に所定の力をかける方法がある。この場合は、炭素化時又は黒鉛化時、或いは炭素化時、黒鉛化時ともに膜の縁を膜の外側に向かって所定の力で引っ張ることになる(図8、9)。基本的には膜面内に沿って、膜の中心から放射状に外側に向かって引っ張るのが良いが、この方向から45°ほど角度がずれていても問題ない。この角度のずれは、膜面内のずれだけでなく、膜面から外れる方向であっても良い。特に高分子膜の配向性に異方性がある場合には、中心から放射状ではなく、意図的に放射状からずれた方向に引っ張ることは有効である。また、意図的に黒鉛膜の構造や電気伝導度等の特性に異方性を持たせたい場合にも有効である。例えば、膜の8箇所を引っ張って伸ばす場合に、放射状に8方向ではなく、隣り合う2箇所を同じ方向に引っ張り、4方向に広げるようにしても構わない(図10)。
所定の力をかける手段としては、重りによる方法、バネによる方法、可動式のアームにより制御する方法などがあるが、可動式のアームを用いる方法は、機械が大掛かりになるが、様々な制御や微調整ができるので汎用性が高い。この方法も炭素化時のみに適用しても、黒鉛化時のみに適用しても効果があるが、最終プロセスである黒鉛化時に適用するほうが、表面平滑性向上の効果が高い。また炭素化時と黒鉛化時の両方に適用するほうが、表面平滑性向上の効果がより高い。引っ張る力は適宜変化させても良いし、一定の力をかけ続けてもよい。膜が破れにくくするという観点からは、膜に急に所定の力をかけるのではなく、所定の力に到達するまで徐々にかける力を強くしていくのが好ましい。また、一部の加熱時間や一部の温度範囲でのみ力をかけても良い。常に力をかけた状態にした方が表面平滑性向上の効果が高いが、膜が引っ張る力に耐えられなく可能性もあるので、膜の破断強度、厚さも考慮しながら力をかけるタイミングや時間をうまくバランスさせる必要がある場合もある。例えば炭素化が進んだ炭素化膜は脆い傾向にあるので、大きな力はかけない方が良い場合がある。一方でかける力が弱すぎるとシワを低減する効果が十分でないので、ある程度以上の力はかける必要がある。
かける力の強さの範囲は、元のポリイミド膜の断面(裏表の最も広い2つの膜面を除く全ての方向の断面)の総面積あたりの、かけられる力(張力)の合計として定義することができる(図11、12)。図11は正方形のサンプルでの張力の定義を説明する図である。図11には、正方形の膜11aを示しており、断面の総面積とは、膜11aの各断面11b、11c、11d、11eの合計面積である。この膜11aの4つの角にそれぞれ1本づつ、合計で4本のアームを挿入して膜11aを引っ張った時、それぞれのアームにかける張力の合計を、断面の合計面積で除した値を、「膜の総断面積あたりの、引っ張る力の合計」とする。図12は、円形のサンプルでの張力の定義を説明する図である。図12には、円形の膜12aを示しており、断面の総面積とは、膜12aの側面12bの面積である。この膜12aの周辺に等間隔で複数本(図9の様にして引っ張るなら8本)のアームを挿入して膜12aを引っ張った時、それぞれのアームにかける張力の合計を、断面の合計面積で除した値を、「膜の総断面積あたりの、引っ張る力の合計」とする。
炭素化膜は比較的脆く破れやすいので、炭素化の際の引っ張りの程度としては比較的弱く、元のポリイミド膜の総断面積あたりの、引っ張る力の合計として、8gf/mm2〜180gf/mm2であれば良い。10gf/mm2〜100gf/mm2はさらに良く、15gf/mm2〜70gf/mm2であることはより好ましく、20gf/mm2〜50gf/mm2であることはさらに好ましく、30gf/mm2〜40gf/mm2であることはなお好ましい。黒鉛化が進むにつれて膜は比較的強く破れにくくなるので、黒鉛化が進んだ膜を引っ張る場合は、比較的強く引っ張っても良く、元のポリイミド膜の総断面積あたりの、引っ張る力の合計として、8gf/mm2〜1500gf/mm2であれば良い。8gf/mm2〜1200gf/mm2が好ましく、10gf/mm2〜800gf/mm2がより良く、15gf/mm2〜600gf/mm2であることはより好ましく、20gf/mm2〜400gf/mm2であることはさらに好ましく、30gf/mm2〜300gf/mm2であることはなお好ましく、40gf/mm2〜200gf/mm2であることはなお一層好ましい。また炭素化時と同等の引っ張り強さでもよい。
この方法も多数枚の膜を同時に焼成しながら表面平滑性を向上できるので、生産性に優れた方法である。また機械的に任意のタイミングで力の微調整を行うことができるので、精密な制御がしやすい利点がある。
この方法は一度黒鉛化を済ませた黒鉛膜に対して、再度黒鉛化温度(例えば、2200℃以上に)加熱しながら行うこともできるが、生産性の観点からは黒鉛化の際に同時に行うほうが好ましい。
[基板との一体焼成(1)]
膜を膜面に沿って外側に向けて力をかける手段としては、高分子膜を自己支持性の強い基板と一体の状態で炭素化、黒鉛化を行う方法もある(図13)。すなわち図13に示す様に、高分子膜13aを自己支持性のある基板13bと一体化し、この一体化物13cを炭素化して炭素化膜13dを得る。この炭素化膜13dを基板13bと一体化したまま黒鉛化、あるいは炭素化膜13dを基板13bから分離した後で黒鉛化することで、黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくできる。高分子膜13aや炭素化膜13dは、基板13bに貼り付いた状態で焼成されている間は、シワ、うねりが生じない。このため得られる黒鉛膜の表面平滑性を向上できる。
使用する基板としては銅箔、ニッケル箔、石英ガラス、シリコンウエハ、SiC板、黒鉛膜、黒鉛板、グラッシーカーボン板など、一定以上の焼成温度に耐えられ、一定以上の表面平滑性を持つものであれば、特に問題なく用いることができる。また自己支持性基板として、高分子素材を使用することも可能であり、この高分子素材基板の厚さは高分子膜よりも厚いことが好ましい。具体的には、高分子膜と自己支持性高分子基板の高分子がともに芳香族ポリイミドである場合には、高分子膜としての芳香族ポリイミド膜が厚み20nm〜40μmの範囲であり、自己支持性基板となる芳香族ポリイミドフィルムの厚さが5μm〜150μmの範囲である事が好ましい。
具体的には上記のような基板上にバーコーター、スピンコーターなどを用いて高分子膜を形成し、そのまま基板が耐えられる温度まで炭素化、あるいは黒鉛化を行えばよい。自己支持性高分子基板を用いる場合には、高分子膜と自己支持性高分子基板を積み重ねるだけでも良い。例えばポリイミドの形成方法としては、前述のケミカルキュア、熱キュアのいずれも用いることができる。ケミカルキュアの場合は得られるポリイミドと黒鉛の配向性が優れ、黒鉛の電気伝導度などの特性が優れる利点がある。一方で熱キュアの場合は室温でのイミド化の速度が遅いため、時間をかけてコーティングできるので、作製プロセス上、融通を利かせやすい。
基板として黒鉛やグラッシーカーボンなどの様に融点が2600℃以上の基板を用いる場合には、基板と一体のままで、例えば、2600℃以上、好ましくは最終的な黒鉛化まで行えるので、きわめて表面平滑性に優れた黒鉛膜を得ることができる。また基板として、黒鉛に転化可能な特定の高分子素材を使用する場合も、該基板自身が高分子膜と同様に炭素化及び黒鉛化するため、基板と一体のままで、例えば、2500℃以上、好ましくは最終的な黒鉛化まで行える。この場合、高分子膜と自己支持性高分子基板の高分子がともに芳香族ポリイミドである事が好ましい。
それ以外の基板、例えば、融点が1000℃以上である基板(特に融点が2600℃未満の基板)を用いる場合には、基板が耐えられる温度、例えば、950℃以上(特に基板の融点より100℃以上低い温度まで)までの加熱(炭素化あるいは黒鉛化)を行い、その後はエッチングや物理的な剥離などにより炭素化膜あるいは黒鉛膜を基板から取り外し、単体でより高温の加熱(炭素化あるいは黒鉛化)を行うことになる。
黒鉛膜のシワは加熱中の不均一な収縮、膨張によるものなので、できるだけ高温まで基板付きで加熱することが、表面平滑性向上の観点から好ましい。本発明では、例えば、950℃以上まで基板付きで高分子膜を加熱する。1000℃以上まで基板付きで加熱することは好ましく、1200℃以上であることはさらに好ましく、1300℃以上であることはなお好ましく、1500℃以上であることは一層好ましく、2500℃以上であることはより好ましく、2800℃以上であることは、最も好ましい。
この方法も一度に多数枚の黒鉛膜を焼成することができ、生産性に優れる。また、金属箔など曲げられる基板を用いる場合にはロール トゥ ロールのプロセスによりさらなる生産性向上の可能性もある。また大掛かりな装置がなくても基板さえ準備すれば、プレスや引っ張り等の機能が無い単純な焼成炉を用いて比較的簡単にこの方法を使うことができる。
なお自己支持性の基板として高分子素材を用いる場合、自己支持性基板と高分子膜の間に離形層を介在させてもよく、離形層としては、下記「基板との一体焼成(2)」で例示のものと同様のものが使用できる。
[基板との一体焼成(2)]
図14に示す様に、高分子膜(サンプル膜)14a自体を多数枚重ねて合計厚みを厚くし、この積層体を第2の基板(図示例では、黒鉛板)14cに挟み、膜面に垂直な方向から30°以内の方向に加重をかけることにより、互いに他のサンプル膜14aを自己支持性に優れた第1の基板として利用できる状態にすることができる。そしてこの状態で、炭素化、あるいは炭素化と黒鉛化の両方を行い、黒鉛化後、得られた複数枚の黒鉛膜を一枚ずつ剥離することで、表面平滑性の優れた黒鉛膜を製造できる。この様にして他のサンプル膜を第1の基板として利用する場合は炭素化時、黒鉛化時に自己支持性基板相当部分(第1の基板)もサンプル膜と同様の膜面方向の収縮、膨張をする。このため上記で述べた、寸法が殆ど変わらない金属箔などの自己支持性基板を用いる場合とは異なり、膜面への加重と自己支持性の強化によりシワを抑制しつつ、微妙な強さで膜面方向の外側に向かって引っ張る作用も同時に活用する事が可能である。その結果、得られる黒鉛膜の反りや割れ、不均一なシワ、内部の微細なヒビや欠陥をより効果的に防ぐことができる。
なお図示例では、高分子膜14aは4枚であるが、高分子膜14aの枚数は特に制限されず、例えば、100枚以上でもよく、1000枚以上でもよい。
荷重をかける方法は重りによる方法、プレスによる方法など既知の方法を適宜用いれば良い。重りによる方法は、炭素化、黒鉛化に使用する炉にプレスなどの特殊な機構を追加する必要がなく、既存の炉をそのまま利用できる点で優れている。またプレスなど機械的な方法を用いる場合には、適切なタイミングで適度な加重をかけられるので、精密な制御がしやすいメリットがある。加重の大きさとしては、シワの発生を抑えつつ、積み重ねた膜の焼成中の一体化を実現し、焼成後の黒鉛膜同士の固着が酷すぎないように制御する必要がある。そのための加重の大きさとしては0.01kgf/cm2以上、60kgf/cm2以下が適切である。0.02kgf/cm2以上、30kgf/cm2以下であることはより好ましく、0.05kgf/cm2以上、15kgf/cm2以下であることはさらに好ましく、0.1kgf/cm2以上、8kgf/cm2以下であることはなお好ましく、0.5kgf/cm2以上、4kgf/cm2以下であることはより一層好ましい。
加重をかける方向としては膜面に垂直方向が一般的には良いが、膜面方向にわずかにずれる力をかける事により、斜め方向に押し伸ばすようにして、より高いシワ低減効果を狙う場合には、膜面に垂直方向から30°以内の斜め方向に加重を掛けても良い。ただし、そのための機構や制御は若干複雑にはなる。またサンプル膜の積層体は、一定の合計厚みごとに硬い黒鉛板やグラッシーカーボン板に挟み込めば、より表面平滑性向上の効果が高い。
この「基板との一体焼成(2)」の場合も原料高分子膜の厚さは他の方法の場合と同様に、40μm以下、20nm以上の範囲である事になるが、大抵の場合には30μm以下、30nm以上である。
ただし、加重が大きな場合には焼成後に黒鉛膜同士が貼りついており、剥がす際に破損してしまう場合もあるので、慎重に剥離を行う必要がある場合もある。また膜同士の貼りつきを防止するために、膜14aと膜14aの間に離形層14dを設けると良い(図14)。離形層14dは黒鉛膜の形成を妨げず、膜の貼りつきを防止できるものであれば特に制限はないが、例えば、オイル、有機溶媒などの流動性があるもの、樹脂ペーストなどのペースト状のもの、紙、不織布、樹脂フィルムなどのシート状のもの、樹脂粉、炭素粉、黒鉛粉、ダイヤモンド粉などの粉を好ましく用いることができる。一般的にはいずれも比較的高温まで耐えられるものが好ましいが、一定温度で分解、気化などして膜の間から消滅するオイル、有機溶媒、樹脂ペースト、樹脂フィルム、樹脂粉などは、得られる黒鉛膜に不純物が付かないという点で優れている。また黒鉛粉や加熱により黒鉛となる樹脂シート、樹脂粉などは、黒鉛化プロセスの最後まで安定的に離形層としての効果を発揮するという利点がある。むろんこの方法は多数枚の黒鉛膜を同時に焼成することが可能であり、生産性に極めて優れている。
前記離形層は、第2の基板(黒鉛板)14cと高分子膜14aとの間に形成してもよい。
[基板との一体焼成(3)]
図15に示す様に、高分子膜(サンプル膜)15aを、このサンプル膜よりも厚く、加熱により黒鉛に転化する複数枚の高分子フィルム(自己支持性基板)15bの間に挿入して重ね、この積層体を一対の第2の基板(図示例では、黒鉛板)15cの間に挟み、膜面に垂直な方向から30°以内の方向に加重をかけることにより、サンプル膜に自己支持性を与えた状態にすることができる。そしてこの状態で、炭素化と黒鉛化の両方を行い、黒鉛化後、得られた黒鉛膜15aを黒鉛化した自己支持性基板15bから剥離することで、表面平滑性の優れた黒鉛膜15aを製造できる。この様にして高分子フィルムを自己支持性基板として利用する場合も炭素化時、黒鉛化時に自己支持性基板相当部分がサンプル膜と類似の膜面方向の収縮、膨張をする。このため上記で述べた、寸法が殆ど変わらない金属箔などの自己支持性基板を用いる場合とは異なり、膜面への加重と自己支持性の強化によりシワを抑制しつつ、微妙な強さで膜面方向の外側に向かって引っ張る作用も同時に活用する事が可能である。その結果、得られる黒鉛膜の反りや割れ、不均一なシワ、内部の微細なヒビや欠陥をより効果的に防ぐことができる。
なお図示例では、自己支持性高分子基板15bを3枚用い、それらの間(2カ所)に高分子膜15aが挿入されているが、高分子膜15aの挿入箇所の数は、自己支持性高分子基板15bの枚数に応じて適宜設定でき、3カ所以上でもよく、4カ所以上でもよい。また各挿入箇所で高分子膜15aは1枚でもよく、複数枚を積層してもよい。高分子膜15aの積層枚数は特に制限されず、例えば、100枚以上でもよく、1000枚以上でもよい。
加重をかける方法は重りによる方法、プレスによる方法など既知の方法を適宜用いれば良い。重りによる方法は、炭素化、黒鉛化に使用する炉にプレスなどの特殊な機構を追加する必要がなく、既存の炉をそのまま利用できる点で優れている。またプレスなど機械的な方法を用いる場合には、適切なタイミングで適度な加重をかけられるので、精密な制御がしやすいメリットがある。加重の大きさとしては、シワの発生を抑えつつ、積み重ねた膜の焼成中の一体化を実現し、焼成後の黒鉛膜の固着が酷すぎないように制御する必要がある。そのための加重の大きさとしては0.01kgf/cm2以上、60kgf/cm2以下が適切である。0.02kgf/cm2以上、30kgf/cm2以下であることはより好ましく、0.05kgf/cm2以上、15kgf/cm2以下であることはさらに好ましく、0.1kgf/cm2以上、8kgf/cm2以下であることはなお好ましく、0.5kgf/cm2以上、4kgf/cm2以下であることはより一層好ましい。加重をかける方向としては膜面に垂直方向が一般的には良いが、膜面方向にわずかにずれる力をかける事により、斜め方向に押し伸ばすようにして、より高いシワ低減効果を狙う場合には、膜面に垂直方向から30°以内の斜め方向に加重を掛けても良い。ただし、そのための機構や制御は若干複雑にはなる。
自己支持性基板として用いる高分子フィルムは、サンプル膜と交互に積層しても良いし、サンプル膜の両面から挟み込むようにして、サンプル膜1枚に対して高分子フィルムを2枚用いても良い。前者の方がサンプル部分の厚み割合が大きいので生産性に優れ、後者の場合は得られる黒鉛膜の表面平滑性の向上に有利である。またサンプル膜と高分子フィルムの積層体は、一定の合計厚みごとに硬い黒鉛板やグラッシーカーボン板に挟み込めば、より表面平滑性向上の効果が高い。
この場合も原料高分子膜の厚さは他の方法の場合と同様に、40μm以下、20nm以上の範囲である事になるが、大抵の場合には30μm以下、30nm以上である。自己支持性基板として用いる高分子フィルムの厚さは、薄すぎるとサンプル膜を引っ張る力が弱いため、表面平滑性向上の効果がそれほど高くなく、厚すぎると積み重ねた際にサンプル膜部分の体積が相対的に小さくなり、焼成時の生産性が低くなってしまう。このような観点から自己支持性基板として用いるの高分子フィルムの厚さは、高分子膜よりも厚いことが好ましく、例えば、5μm〜150μmの範囲で設定するのが好ましく、10μm〜100μmであることはより好ましい。自己支持性基板として用いる高分子フィルムは、加熱により黒鉛フィルムや炭素化フィルムに転化するものであれば特に問題なく用いることができ、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリパラフェニレンビニレン、ポリキノキサリン、ポリオキサジアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリキナゾリンジオン、ポリベンゾオキサジノン、ポリキナゾロン、ベンズイミダゾベンゾフェナントロリンラダーポリマー、およびこれらの誘導体を好ましく用いることができる。特に芳香族ポリイミド、ポリパラフェニレンビニレン、ポリオキサジアゾールは好ましく用いることができる。好ましい態様においては、自己支持性基板として用いる高分子フィルムと高分子膜は、ともに芳香族ポリイミドである。
ただし、加重が大きな場合には高分子フィルムが黒鉛化してなる黒鉛膜15bが焼成後に高分子膜(サンプル膜)が黒鉛化してなる黒鉛膜15aに貼りついており、剥がす際に破損してしまう場合もあるので、慎重に剥離を行う必要がある場合もある。またサンプル膜の貼りつきを防止するために、サンプル膜15aと自己支持性基板15bの間に離形層15dを設けると良い。離形層は黒鉛膜の形成を妨げず、膜の貼りつきを防止できるものであれば特に制限はないが、例えばオイル、有機溶媒などの流動性があるもの、樹脂ペーストなどのペースト状のもの、紙、不織布、樹脂フィルムなどのシート状のもの、樹脂粉、炭素粉、黒鉛粉、ダイヤモンド粉などの粉を好ましく用いることができる。一般的にはいずれも比較的高温まで耐えられるものが好ましいが、一定温度で分解、気化などして膜や基板の間から消滅するオイル、有機溶媒、樹脂ペースト、樹脂フィルム、樹脂粉などは、得られる黒鉛膜に不純物が付かないという点で優れている。また黒鉛粉や加熱により黒鉛となる樹脂シート、樹脂粉などは、黒鉛化プロセスの最後まで安定的に離形層としての効果を発揮するという利点がある。むろんこの方法は多数枚の黒鉛膜を同時に焼成することが可能であり、生産性に極めて優れている。
前記離形層は、第2の基板(黒鉛板)15cと自己支持性基板15bとの間に形成してもよい。さらに、高分子膜15aを一カ所で複数枚積層して用いる場合には、高分子15a間に離形層を形成してもよい。
[焼成基板との一体焼成(4)]
図16、17では、サンプル高分子膜16a、17aに、膜面に沿って外側に向けて力をかける手段として、最終的な黒鉛化後の寸法収縮率がより小さく、自己支持性に優れた厚い高分子フィルム枠16b、17bを、枠あるいは基板として用いる方法を例示する。この図示例では、加重を加える以外の方法を主な手段としてサンプル高分子膜16a、17aと高分子フィルム枠16b、17bとを一体化させ、この一体化を保った状態で炭素化、黒鉛化を行う。この様にすれば、枠16b、17b部分がサンプル高分子膜16a、17a部分を外側に向けて引っ張る働きをする事によって、表面平滑性に優れた黒鉛膜16c、17cが得られる。また基板を用いる場合(図示せず)でも、高分子膜の周縁で基板と一体化し、高分子膜の他の部分は基板と一体化させないことで基板に実質的に枠と同様の機能を持たせることができ、高分子膜の周縁部分を膜の外側に向けて引っ張ることが可能となる。
またサンプル高分子膜16a、17aと、高分子フィルム枠16b、17bあるいは基板を別々に炭素化又は黒鉛化しておき、炭素化膜又は黒鉛化膜と炭素化した又は黒鉛化した枠(基板状の枠を含む。以下、同様)を一体化させた後、炭素化及び黒鉛化、又は黒鉛化しても良い。好ましくはサンプル高分子膜16a、17aと、高分子フィルム枠16b、17bあるいは基板を別々に炭素化しておき、炭素化膜と炭素化した枠(基板)を一体化させた後、炭素化及び黒鉛化、又は黒鉛化する。例えばポリイミドでも組成や厚み、製膜方法によって、焼成時の膜面方向の寸法変化(炭素化時は収縮、黒鉛化時は膨張)の程度が異なる。自己支持性に優れる厚い高分子フィルムで、なおかつ最終的な黒鉛化後の寸法収縮率が小さい枠(基板)と、サンプルとしての薄い高分子膜を一体化させて焼成すれば、サンプルの薄い膜は、最終的に寸法収縮率が小さめの枠(基板)によって膜面方向の外側向きに引っ張られ、シワが伸ばされることになる。
サンプル高分子膜および、枠あるいは基板として用いる高分子フィルムは、ポリイミドであっても良いし、最終的に焼成により黒鉛または炭素となる別の種類の高分子であっても良い。ポリイミド以外の高分子としては、例えばポリパラフェニレンビニレン、ポリオキサジアゾール等を挙げることができる。
ところで枠及び枠的に使用する基板は、高分子であることが重要である。例えばステンレス製枠に高分子膜を貼り合わせて炭素化すると、ステンレス製枠は全く収縮しない為に、炭素化膜が強く引っ張られ過ぎてかえってシワが発生する。適切な種類、厚さの高分子枠は高分子膜より自己支持性が高いために収縮の程度は高分子膜よりも低いものの、ステンレス製枠に比べると適度に収縮するため、ステンレス製枠の様な不具合を回避できる。
サンプルの薄い高分子膜(あるいは炭素化膜)を、枠あるいは基板としての厚い高分子フィルム(あるいは炭素化フィルム)と一体化させる方法としては、黒鉛紐で縫う方法、黒鉛製のピンを刺す方法、接着剤で貼り付ける方法、溶融したポリマーを接着剤として使用する方法、ポリマー溶液を塗布して乾燥させ接着剤として使用する方法、ポリアミド酸を塗布して乾燥、加熱してイミド化し接着剤として使用する方法など、適宜工夫すれば良い。この方法では膜面に垂直方向への加重を加えなくても、基本的には自己支持性の枠あるいは基板の収縮、膨張を利用するだけで、得られる黒鉛膜のシワを効果的に伸ばすことができ、表面平滑性に優れた黒鉛膜を実現できる。ただし、炭素化時、黒鉛化時に膜面から外れる方向にサンプル膜や自己支持性の枠、基板が反ることを防止するために、黒鉛製ガスケットなどでサンプル膜と枠(基板)を一体化したものを挟みこんでも良いし、その上から黒鉛製などの重りを置いても良い。このように直接的なシワ低減効果や、直接的なサンプル膜と自己支持性の枠(基板)との一体化効果を意図しない程度の、軽い加重をかけても良い。ただし、炭素化、黒鉛化の際の枠(基板)部分の膜面方向の収縮、膨張を妨げるほどの強い加重をかけると、黒鉛膜のシワ低減効果が十分に発揮されない場合がある。このため、膜面に垂直方向にかける加重は1kgf/cm2以下であることが適切である。0.5kgf/cm2以下であることは好ましく、0.2kgf/cm2以下であることはさらに好ましく、0.1kgf/cm2以下であることはなお好ましく、0.05kgf/cm2以下であることはより一層好ましい。
枠は、通常、枠の内側が中空であるが、内側が中実である枠(すなわち基板)であっても、枠として使用できる。こうした基板(枠)であっても、サンプル高分子膜の周囲と基板とを一体化する一方で、その内側では高分子膜と基板とを一体化させない事によって、枠として使用できる。枠(基板状の枠を含む)の形状は正方形、長方形、六角形、円形、正方形の枠状、長方形の枠状、六角形の枠状、ドーナツ形の枠状など適宜工夫すれば良い。枠内が中空である枠状のものは、サンプルの膜が宙に浮いた状態になるので、余計な干渉を気にせず焼成することができる。
基板状の枠は、焼成後に枠内部分で黒鉛膜が貼りついており、剥がす際に黒鉛膜が破損してしまう場合もあるので、慎重に剥離を行う必要がある場合もある。またサンプル膜の貼りつきを防止するために、サンプル膜と基板状枠の間に離形層を設けると良い。離形層は黒鉛膜の形成を妨げず、膜の貼りつきを防止できるものであれば特に制限はないが、例えばサンプル膜と基板との間に離形層としてオイル、有機溶媒などの流動性があるもの、樹脂ペーストなどのペースト状のもの、紙、不織布、樹脂フィルムなどのシート状のもの、樹脂粉、炭素粉、黒鉛粉、ダイヤモンド粉などの粉を挿入すれば良い。一般的にはいずれも比較的高温まで耐えられるものが好ましいが、一定温度で分解、気化などして膜や基板の間から消滅するオイル、有機溶媒、樹脂ペースト、樹脂フィルム、樹脂粉などは、得られる黒鉛膜に不純物が付かないという点で優れている。また黒鉛粉や加熱により黒鉛となる樹脂シート、樹脂粉などは、黒鉛化プロセスの最後まで安定的に離形層としての効果を発揮するという利点がある。
枠は1枚で用いても良いし、複数枚用いても良いし、表と裏からサンプル膜を挟み込むようにしても良い。枠(基板)の形状や枚数に特に限定はないが、枠の幅が細すぎるとサンプル膜部分を引っ張る力が弱いため表面平滑性向上の効果が低く、太すぎるとサンプル膜部分の面積が相対的に小さくなり、生産性が低くなってしまう。枠の太さは、例えばドーナツ型の枠の場合、外径10cmであれば、内径9cm〜6cm程度が好ましい。正方形の枠の場合も外の1辺が10cmの場合、内側の1辺は9cm〜6cm程度が好ましい。また複雑な形状のものは作製の手間がかかるので、比較的簡単な正方形やドーナツ形が好ましい場合が多い。
枠(基板)の厚さは、薄すぎるとサンプル膜を引っ張る力が弱いため、黒鉛膜の表面平滑性向上の効果が低く、厚すぎると積み重ねた際にサンプル膜部分の体積が相対的に小さくなり、焼成時の生産性が低くなってしまう。このような観点から枠(基板)の高分子フィルムの厚さは5μm〜300μmが好ましく、8μm〜200μmであることはより好ましく、10μm〜150μmであることはさらに好ましく、15μm〜100μmであることはより好ましい。また高分子膜の厚みは、例えば、100nm以上15μm以下が好ましく、1μm以上13μm以下がより好ましい。
枠となる高分子フィルムの厚みは、サンプルとなる高分子膜の厚みに対して、例えば、8倍以上、好ましくは10倍以上であり、例えば、100倍以下、好ましくは30倍以下である。
この方法は高分子膜と枠(基板)としての高分子フィルムの一体化に多少の手間が掛かるが、特に大掛かりな装置を必要とせず、マイルドな張力をかけつつシンプルに黒鉛膜の表面平滑性の向上が可能である。また多数枚を積み重ねて一度に焼成できるため生産性も高い。この方法では膜を引っ張る力が大きくないため黒鉛膜の表面平滑性は極めて優れたレベルにはなりにくいが、十分に高い表面平滑性を実現することが可能である。
[プレスによるシワの改善]
膜に、膜面に沿って外側に向けて力をかける手段としては、曲面基板を利用したプレスを利用する事も出来る。曲面基板を利用した一例を、図18に示す。図18の例では、加熱により可撓性を示すドーム状曲面基板18bで上下から高分子膜18aを挟み込み、さらにこれらをプレス板18cの間に挟んで、高温に加熱しながら曲面基板18bが平板状、あるいは平板状に近い形状に変形するまで上下からプレスする。これにより例えば最初、高分子膜18aは曲面基板同士の接点である1点(図示例では、ドーム状曲面基板18bの頂点付近)18dのみで押さえられるが、曲面基板がプレスにより平板状に変形していくに従い、基板同士の間隔18e、18fが狭まっていき、徐々にその接点18dを中心として周囲に押し広げられるように膜を全体のシワの伸ばすことが出来る(図18)。基本的には膜面内に沿って、黒鉛膜の中心から放射状に外側に向かって押し伸ばすようにプレスするのが良いが、必ずしも等方的でなくても良い。この方向のずれは、膜面内のずれだけでなく、膜面から外れる方向であっても良い。特に高分子膜の配向性に異方性がある場合には、中心から放射状ではなく、意図的に放射状からずれた方向に押し伸ばすことは有効である。また、意図的に黒鉛膜の構造や電気伝導度等の特性に異方性を持たせたい場合にも有効である。使用する基板は、曲面を有している限り、ドーム状の曲面基板以外であってもよく、例えば、円柱の側面のように1方向にのみ曲がっている曲面を持つ基板を用いても良い。また曲面基板は、少なくとも1枚用いればよく、例えば、曲面基板と平面基板の間に高分子膜(それを炭素化膜あるいは黒鉛膜にしたものを含む)を挟みこんでも良い。黒鉛化前の炭素化膜は脆いためプレスで割れてしまうことが多いので、プレスは黒鉛化プロセスにて、ある程度黒鉛化が始まった(ある程度高温まで加熱された)膜に対して行うのが好ましく、例えば、2200℃以上になってから行うのが好ましい。単純に2枚の平行な平面基板の間に挟んで膜をプレスするだけでは、炭素化時にできたシワをある程度押し潰すことができるが、膜の別の場所にしわ寄せがいくだけである場合や、大きなシワが小さめのシワになるだけである場合が多く、根本的にシワを伸ばして表面平滑性を大きく向上させることは難しい。このように平行な平面状の表面を持つ物体同士の間に膜を挟んでプレスするのでは、十分な表面平滑性は実現しづらい。
そこで、本発明では曲率が異なる面の間(あるいは曲率が同じでも、凸面同士が向かい合う間)で、ある程度黒鉛化が始まった膜をプレスするのが好ましい。例えば初めは膜の中心、あるいは一部のみがプレスされ、そこを起点として徐々に膜の周辺部分に広がるようにプレスされる領域が広がっていき、シワが徐々にプレスの起点から広がるように押し伸ばされる。これにより得られる黒鉛膜の表面平滑性を向上させられる。プレスに使う板としては黒鉛板やグラッシーカーボン板等の、黒鉛化時の加熱温度に耐えられるものが好ましく用いられる。プレスに使う板の形状としては、例えば僅かに反ったドーム状や、反りの浅い円柱の側面の一部のような形状(例えばカマボコの背のような形)が好ましく用いられる。
また曲面基板を使用しなくても、上記のようにサンプル膜の一部分のみが最初にプレスされ、そこから領域を広げるように徐々にプレスされる面積が増えるようにすれば、シワを大幅に低減し、黒鉛膜の表面平滑性を向上させることが可能である。図19は、この変更例を示す模式図である。図19に示す様に、例えば高分子膜(それを炭素化膜あるいは黒鉛膜にしたものを含む)19aを黒鉛化温度(例えば、2200℃以上)に加熱する際に、一部19dのみを接触させた2枚の平行でない平面基板19c同士の隙間に前記高分子膜(それを炭素化膜あるいは黒鉛膜にしたものを含む)19aを挟み、プレス開始後に徐々に2枚の平面基板19cを平行にしつつ2枚の平面基板同士の隙間19eを無くすようにプレスする事により、黒鉛膜を端から順に押し伸ばすようにして、黒鉛膜のシワを伸ばすことができる(図19)。
プレスの圧力は弱すぎると表面平滑性向上の効果が無く、強すぎると膜の破れや、穴、ひび割れの原因となる。また、プレスに使用した板に膜が密着して剥がれなくなる等の問題が生じる可能性が高くなる。また、強力なプレス機構が必要になると炉の装置自体も大掛かりになる。このためプレスの圧力は0.03kgf/cm2以上、30kgf/cm2以下が好ましく、0.1kgf/cm2以上、20kgf/cm2以下がより好ましい。0.2kgf/cm2以上、10kgf/cm2以下であることは、さらに好ましい。0.5kgf/cm2以上、5kgf/cm2以下であることは、なお一層好ましい。
炭素化膜は比較的脆く割れやすいので、プレスのタイミングは、黒鉛化がある程度始まる2200℃以上の温度にて行うことが好ましい。高分子膜が芳香族ポリイミドの場合は、2600℃以上の温度にて行うことがより好ましい。プレスの圧力は一定の圧力でも良いし、変化させても良い。ただし、上記のように、シワが徐々に黒鉛膜全体にわたって膜面方向に押し広げられるようにして伸ばされる必要があるため、プレスの板の反りが徐々に平らになるようにするのが良い。このため、プレスの圧力は変化させるのであれば、徐々に強くすることが基本である。また、プレスは長時間しても良いし、短時間で行っても良く、複数回のプレスを行ってもよい。ただし、最高温度になるまで黒鉛膜の膜面方向の寸法は伸びるので、黒鉛化のための加熱中で、あまり早い段階でプレスを終えると、黒鉛化の最終段階の不均一な伸びにより発生する黒鉛膜のシワは改善できない。また、あまり早い段階でプレスを行って、そのままプレスを続けると、本来黒鉛膜は膜面方向に伸びるはずのところを、伸びられなくしてしまうので、これも最終的な黒鉛膜の表面凹凸発生の原因となりうる。このため、最高温度付近まで加熱した段階でプレスを行うか、短時間のプレスを繰り返して最高温度付近でもプレスを行うことが基本となる。このような基本を踏まえた上で、プレスの圧力、時間、タイミングなどの細部は適宜、最適化すれば良い。
プレスによる表面平滑性向上は、多少の押しムラができることがあり、隅々まで極めて優れたレベルで表面平滑性を高くするのは難しい場合がある。しかし多数枚を重ねて一度に焼成できるため、生産性に優れる方法である。また、上記の寸法規定または所定の力による表面平滑性向上に比べると、サンプルが厚さ200nm以下など極めて薄く、物理的に引っ張りに弱い場合にも適用しやすい利点がある。
プレスに使用した基板と黒鉛膜が貼りついており、剥がす際に黒鉛膜が破損してしまう場合もあるので、慎重に剥離を行う必要がある場合もある。またサンプル膜の貼りつきを防止するために、サンプル膜とプレスに使用する基板の間に離形層を設けても良い。離形層は黒鉛膜の形成を妨げず、膜の貼りつきを防止できるものであれば特に制限はないが、例えばサンプル膜と基板との間に離形層としてオイル、有機溶媒などの流動性があるもの、樹脂ペーストなどのペースト状のもの、紙、不織布、樹脂フィルムなどのシート状のもの、樹脂粉、炭素粉、黒鉛粉、ダイヤモンド粉などの粉を挿入すれば良い。一般的にはいずれも比較的高温まで耐えられるものが好ましいが、一定温度で分解、気化などして膜や基板の間から消滅するオイル、有機溶媒、樹脂ペースト、樹脂フィルム、樹脂粉などは、得られる黒鉛膜に不純物が付かないという点で優れている。また黒鉛粉や加熱により黒鉛となる樹脂シート、樹脂粉などは、黒鉛化プロセスの最後まで安定的に離形層としての効果を発揮するという利点がある。
本願は、2015年2月12日に出願された日本国特許出願第2015−025580号、及び2015年7月22日に出願された日本国特許出願第2015−145328号に基づく優先権の利益を主張するものである。2015年2月12日に出願された日本国特許出願第2015−025580号、及び2015年7月22日に出願された日本国特許出願第2015−145328号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
なお実施例で得られる黒鉛膜の表面粗さRaは、JIS B 0601に基づいて得られた値である。具体的には、表面粗さ測定機Surfcorder ET4300((株)小坂研究所製)を使用し、室温雰囲気下で表面粗さRaを測定した。黒鉛膜の表面粗さRaは、黒鉛膜の下記所定の位置、所定の長さ部分にて、評価長さ1.25mm、基準長さL(カットオフ値)0.25mm、送り速度0.5mm/分としてチャートを描かせ、基準長さLの部分を切り取り、その切り取り部分の中心線をX軸、縦方向をY軸として、粗さ曲線Y=f(X)で表したとき、次の式(1)で得られる値をnmで表したものである。なお下記のように黒鉛膜の5箇所にて長さ2.5mmの線分を規定し、この線分を上記基準長さLにて10等分し、各10箇所の基準長さLにてRaの値を測定した。得られた10個のRaの値のうち最大の値を、その線分の最大Raとした。さらに黒鉛膜上の5箇所の線分で得られた各々の線分の最大Raの中で最も大きいものを、黒鉛膜の最大のRaとした。
また黒鉛膜の電気伝導度の測定はvan der Pauw法によって行った。この方法は薄膜状の試料の電気伝導度を測定するのに最も適した方法である。この測定法の詳細は(第四版)実験化学講座9 電気・磁気(社団法人日本化学会編、丸善株式会社発行(平成3年6月5日発行))(P170)に記載されている。この手法の特徴は、任意の形状の薄膜試料端部の任意の4点に電極を取り付け測定を行うことが出来る事であり、試料の厚さが均一であれば正確な測定が行える。本発明においては正方形に切断した試料を用い、それぞれの4つの角(稜)に銀ペースト電極を取り付けて行った。測定は(株)東洋テクニカ製、比抵抗/DC&ACホール測定システム、ResiTest 8300を用いて行った。
(実施例1)
<ポリイミドの製膜>
ピロメリット酸二無水物(PMDA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、をモル比で1/1(すなわち4/4)の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液100gに無水酢酸20gとイソキノリン10gからなるイミド化促進剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を100℃、250℃、450℃で各60秒間加熱した後、アルミ箔をエッチングにより除去し、10cm×10cmの正方形のポリイミド膜を作製した。
<ポリイミドの厚み測定>
得られたポリイミド膜の厚さを、図20のように5点にて接触式厚み計により測定したところ、厚さの平均値は15.3μmであった。図20は正方形又は円形の高分子膜の平面図であり、厚さ測定箇所を黒丸(●)で示した。具体的には、正方形の高分子膜の場合は、各コーナー近傍であって最も近い2辺からの距離がそれぞれ1cmとなる箇所(合計4箇所)と正方形の重心1箇所の合計5箇所で測定した。また円形の高分子膜の場合は、円周から1cm内側に円の中心から90°おきの方向に設けられる箇所(合計4箇所)と円の重心1箇所の合計5箇所で測定した。
<炭素化>
得られたポリイミド膜の4隅に円形の穴をあけ、そこに円柱状のCIP材(黒鉛製)のアームの先端を通した(図8)。これを、電気炉を用いて窒素ガス雰囲気中、5℃/分の速度で950℃まで昇温し、950℃で10分間保ったのち自然冷却させ、ポリイミド膜を炭素化した。この際に、CIP材のアーム先端の位置を膜面方向に機械的に動かすことにより、ポリイミド膜(炭素化膜)の膜面方向の寸法を規定した。室温から600℃までは、ポリイミド膜(炭素化膜)の膜面方向の寸法が、元のポリイミド膜の膜面方向の寸法の100%となるように、CIP材のアーム先端の位置は固定した。600℃到達後から950℃で10分間の加熱が終了するまでの間は、ポリイミド膜(炭素化膜)の膜面方向の寸法が、元のポリイミドの膜の膜面方向の寸法の100%から81%に変化するように、膜の中心に向かって縮む方向に一定速度でCIP材のアームを動かした。
<黒鉛化>
得られた炭素化膜を、アルゴンガス雰囲気中で5℃/分の速度で2800℃まで昇温し、2800℃で20分間保ったのち自然冷却させ、黒鉛化した。この際に、CIP材のアーム先端の位置を膜面方向に機械的に動かすことにより、炭素化膜(黒鉛膜)の膜面方向の寸法を規定した。室温から2200℃までは、炭素化膜(黒鉛膜)の膜面方向の寸法が、元のポリイミド膜の膜面方向の寸法の81%となるように、CIP材のアーム先端の位置を固定した。2200℃到達後から2800℃で20分間の加熱が終了するまでの間は、炭素化膜(黒鉛膜)の膜面方向の寸法が、元のポリイミドの膜の膜面方向の寸法の81%から92%に変化するように、膜の中心から放射状に広がる方向に一定速度でCIP材のアームを動かした。
<黒鉛膜の表面粗さ測定>
得られた正方形の黒鉛膜から、中心部分の5cm角の正方形部分を切り出し、触針式段差計Surfcorder ET4300((株)小坂研究所製)を用いて、図21のような5箇所で長さ2.5mmにて表面粗さ(算術平均粗さRa)の測定を行ったところ、Raの5箇所での最大値、すなわち黒鉛膜上の全ての測定位置での最大のRaの値は8nmであった。図21は正方形又は円形の黒鉛膜の平面図であり、表面粗さ測定箇所を線分21aで示した。電気抵抗及び厚さ測定箇所を白四角(□)21bで示した。図中、αは、正方形の黒鉛膜の一つの辺の中点、又は円形の黒鉛膜に内接する正方形の一つの辺の中点であり、βは電気抵抗及び厚さ測定箇所を示す白四角(□)の一つの辺の中点であり、γは黒鉛膜の重心である。Raの測定法の詳細は上述の通りである。
<黒鉛膜の電気伝導度測定>
上記5cm角の正方形の黒鉛膜について、図21のように4箇所にて5mm角の正方形を切り出し、4隅に銀ペーストで電極を形成して、van der Pauw法を用いて膜面方向の電気抵抗(シート抵抗)を測定し、さらに下記の厚み測定値より電気伝導度を計算したところ、4箇所での膜面方向の電気伝導度の平均値は17000S/cmであった。
<黒鉛膜の厚み測定>
上記の電気抵抗測定で切り出した4つの5mm角の正方形の黒鉛の厚みを、接触式厚み計にて測定した。その結果、4つの5mm角の正方形の黒鉛の厚みの平均値は7.5μmであった。
このように本発明の方法を用いれば、従来は厚さが均一でもシワによる凹凸が多かった厚み12μm以下の黒鉛膜にて、Raの最大値が8nmという極めて高い表面平滑性が実現できる。また電気伝導度も17000S/cmと極めて良好である。
(実施例2)
平均厚さ15.5μmのポリイミド膜を用い、炭素化および黒鉛化の際の最終的な炭素化膜(黒鉛膜)の膜面方向の寸法を、それぞれ元のポリイミド膜の寸法の84%、95%とした他は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は6nm、電気伝導度の平均値は12000S/cm、厚みの平均値は7.0μmであった。
実施例1に比べると表面平滑性は若干良好であり、電気伝導度は低めであるが十分良好であり、厚みは少し薄くなった。焼成時の寸法を大きめに規定した結果、実施例1に比べてより強く炭素化膜(黒鉛膜)が膜面方向の外側に向けて引っ張られ、より強く伸ばされたためと考えられる。また黒鉛膜内の黒鉛結晶間の隙間が若干広がるなどしたため、電気伝導度が少し低めになったと考えられる。
(実施例3)
平均厚さ15.4μmのポリイミド膜を用い、炭素化および黒鉛化の際の最終的な炭素化膜(黒鉛膜)の膜面方向の寸法を、それぞれ元のポリイミド膜の寸法の79%、89%とした他は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は11nm、電気伝導度の平均値は19000S/cm、厚みの平均値は7.8μmであった。
実施例2とは逆に、実施例1に比べて表面平滑性は若干低下し、電気伝導度は高くなり、厚みは少し厚くなった。焼成時の寸法を小さめに規定した結果、実施例1に比べてより弱く炭素化膜(黒鉛膜)が膜面方向の外側に向けて引っ張られ、より弱く伸ばされたためと考えられる。また黒鉛膜内の黒鉛結晶間の隙間が若干小さいなどの理由のため、電気伝導度が少し高めになったと考えられる。
(実施例4)
平均厚さ15.0μmのポリイミド膜を用い、黒鉛化の際には機械的な寸法規定は行わず、炭素化膜を黒鉛製ガスケットに挟むのみとして自然な寸法伸長に任せた他は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は190nm、電気伝導度の平均値は17000S/cm、厚みの平均値は8.1μmであった。 実施例1に比べて表面平滑性は低下し、厚みは少し厚くなった。黒鉛化時の寸法規定を行わなかった結果、黒鉛化時に生じたシワが殆ど伸ばされなかったためと考えられる。
(実施例5)
平均厚さ15.7μmのポリイミド膜を用い、炭素化の際には機械的な寸法規定は行わず、ポリイミド膜を黒鉛製ガスケットに挟むのみとして自然な寸法収縮に任せた他は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は106nm、電気伝導度の平均値は15000S/cm、厚みの平均値は8.0μmであった。実施例1に比べて表面平滑性は低下し、厚みは少し厚くなった。炭素化時の寸法規定を行わなかった結果、炭素化時に生じたシワも、黒鉛化時にまとめて伸ばさなければならなかった分だけ、シワ低減効果が低めであったためと考えられる。
(実施例6)
実施例1と同様にして、直径10cmの円形のポリイミド膜を得た。
<ポリイミドの厚み測定>
得られたポリイミド膜の厚さを、図20のように5点にて接触式厚み計により測定したところ、厚さの平均値は25.0μmであった。
<炭素化>
得られたポリイミド膜の縁の部分に均等に8箇所に円形の穴をあけ、そこに円柱状のCIP材のアームの先端を通した(図9)。これを、8本のアームを用いて実施例1と同様に寸法規定をしながら炭素化した。
<黒鉛化>
得られた炭素化膜の縁の部分の8箇所の円形の穴に、円柱状のCIP材のアームの先端を通した(図9)。8本のアームを用いて実施例1と同様に寸法規定をしながら黒鉛化を行った。
<黒鉛膜の表面粗さ測定>
得られた円形の黒鉛膜から、中心部分の直径5cmの円形部分を切り出し、触針式段差計Surfcorder ET4300((株)小坂研究所製)を用いて、図21のような5箇所で長さ2.5mmにて表面粗さ(算術平均粗さRa)の測定を行ったところ、Raの5箇所での最大値は13nmであった。
<黒鉛膜の電気伝導度測定>
上記直径5cmの円形の黒鉛膜について、図21のように4箇所にて5mm角の正方形を切り出し、4隅に銀ペーストで電極を形成して、van der Pauw法を用いて膜面方向の電気抵抗(シート抵抗)を測定し、さらに下記の厚み測定値より電気伝導度を計算したところ、4箇所での膜面方向の電気伝導度の平均値は18000S/cmであった。
<黒鉛膜の厚み測定>
上記の電気伝導度測定で切り出した4つの5mm角の正方形の黒鉛の厚みを、接触式厚み計により測定した。その結果、4つの5mm角の正方形の黒鉛の厚みの平均値は11.6μmであった。
このように円形の高分子膜を用いて、8方向に引っ張るように寸法規定した場合にも、薄く、極めて高い表面平滑性と高い電気伝導度を持つ黒鉛膜を得ることができる。用いたポリイミド膜の厚みが25.0μmと厚く、寸法規定によるシワ伸ばし効果が比較的低かったためか、実施例1に比べるとRaの最大値は大きめであった。
(実施例7)
ピロメリット酸二無水物(PMDA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、p−フェニレンジアミン(PDA)をモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み15.7μmのポリイミド膜を使用した他は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は12nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は7.6μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例8)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/2/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み15.8μmのポリイミド膜を使用した他は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は12nm、電気伝導度の平均値は19000S/cm、厚みの平均値は7.7μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例9)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/1/3の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み15.5μmのポリイミド膜を使用した他は、実施例6と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は16nm、電気伝導度の平均値は11000S/cm、厚みの平均値は7.5μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例10)
平均厚み15.4μmのポリイミド膜を使用し、炭素化および黒鉛化の際の最終的な炭素化膜(黒鉛膜)の膜面方向の寸法を、それぞれ元のポリイミド膜の寸法の83%、90%に規定した他は、実施例9と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は33nm、電気伝導度の平均値は15000S/cm、厚みの平均値は7.2μmであった。規定する寸法を変えることで、Ra、電気伝導度、平均厚みを微調整することができる。また、ポリイミド膜の組成が違えば、規定すべき寸法も微調整する必要がある。
(比較例1)
平均厚み15.2μmのポリイミド膜を使用し、炭素化の際の最終的な炭素化膜の膜面方向の寸法を、元のポリイミド膜の寸法の90%に規定した他は、実施例6と同様の実験を行った。その結果、炭素化膜が破れてしまった。破れた炭素化膜には多くのシワや亀裂があり、表面のRaが200nmより大きいことは目視でも明らかであった。炭素化時に規定した寸法が大きすぎたため、膜が引っ張りに耐えられなかったためと考えられる。
なおポリイミド膜が自然に収縮できる状態で、他は同じ条件で炭素化すると、炭素化膜の寸法は元のポリイミド膜の寸法の80%になる。炭素化時の寸法規定90%は、この自然膨張寸法(80%)の112.5%(=90/80)となって、112%を超えている為に、破れてしまった。
(比較例2)
平均厚み15.2μmのポリイミド膜を使用し、炭素化および黒鉛化の際の最終的な炭素化膜(黒鉛膜)の膜面方向の寸法を、それぞれ元のポリイミド膜の寸法の81%、100%に規定した他は、実施例6と同様の実験を行った。その結果、黒鉛膜が破れてしまった。黒鉛化時に規定した寸法が大きすぎたため、膜が引っ張りに耐えられなかったためと考えられる。
なお元のポリイミド膜に対する寸法が81%となった前記炭素膜を、自然に収縮、膨張できる状態で他は同じ条件で黒鉛化すると、91.1%(=81×112.5%)の大きさになる(112.5%の根拠については実施例20を参照)。黒鉛化時の寸法規定100%は、この自然膨張寸法(91.1%)の110%(=100/91.1)となって、109%を超えている為に、破れてしまった。
(比較例3)
平均厚み15.2μmのポリイミド膜を使用し、炭素化および黒鉛化の際の最終的な炭素化膜(黒鉛膜)の膜面方向の寸法を、それぞれ元のポリイミド膜の寸法の70%、92%に規定した他は、実施例6と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は653nm、電気伝導度の平均値は12000S/cm、厚みの平均値は7.7μmであった。この場合は、炭素化時には元のポリイミド膜の寸法に対して80%程度に収縮するところを、元のポリイミド膜の70%とより小さい寸法に規定してしまったため、結果として膜を縮める方向の力を加えたと考えられる。すなわち引っ張りの作用により膜の表面凹凸を小さくするという効果は得られず、逆に炭素化膜に大きなシワを発生させてしまい、その結果、その後の黒鉛化時の寸法規定により引っ張りの作用を与えても、炭素化時に生じた大きなシワを十分に伸ばすには至らなかったためと考えられる。
(比較例4)
平均厚み15.2μmのポリイミド膜を使用し、炭素化および黒鉛化の際の最終的な炭素化膜(黒鉛膜)の膜面方向の寸法を、それぞれ元のポリイミド膜の寸法の81%、85%に規定した他は、実施例6と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は844nm、電気伝導度の平均値は13000S/cm、厚みの平均値は7.9μmであった。黒鉛化時には本来ポリイミド膜の寸法に対して90%程度にまで伸びるところを、元のポリイミド膜の85%とより小さい寸法に規定してしまったため、結果として膜を縮める方向の力を加えたと考えられる。すなわち引っ張りの作用により膜の表面凹凸を小さくするという効果は得られず、逆に黒鉛化時に黒鉛膜にシワを発生させる結果になったためと考えられる。
(実施例11)
平均厚み4.5μmのポリイミド膜を使用し、黒鉛化の際の最終的な黒鉛膜の膜面方向の寸法を、元のポリイミド膜の寸法の91%に規定した他は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は20nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は1.6μmであった。ポリイミド膜を薄くしても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例12)
黒鉛化の際に寸法規定を行わずに炭素化膜を黒鉛製ガスケットに挟むのみとして自然な寸法伸長に任せた他は、実施例11と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は172nm、電気伝導度の平均値は19000S/cm、厚みの平均値は1.7μmであった。黒鉛化の際に炭素化膜(黒鉛膜)を伸ばす力がかからない分だけ、実施例11に比べるとRaの最大値は大きく、電気伝導度の平均値は高く、厚みの平均値は大きくなったと考えられる。
(実施例13)
炭素化の際に寸法規定を行わずにポリイミド膜を黒鉛製ガスケットに挟むのみとして自然な寸法収縮に任せた他は、実施例11と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は95nm、電気伝導度の平均値は20000S/cm、厚みの平均値は1.6μmであった。炭素化の際にポリイミド膜(炭素化膜)を伸ばす力がかからない分だけ、実施例11に比べるとRaの最大値は大きく、電気伝導度の平均値は高くなったと考えられる。
(実施例14)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.7μmのポリイミド膜を使用した他は、実施例12と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は191nm、電気伝導度の平均値は15000S/cm、厚みの平均値は1.8μmであった。比較的薄い膜の場合でも、組成を変えたポリイミド膜を使用して良好な結果が得られた。ただし、黒鉛化時に寸法規定を行わなかったので、Raの最大値は比較的大きくなったと考えられる。
(実施例15)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/2/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.6μmのポリイミド膜を使用した他は実施例11と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は24nm、電気伝導度の平均値は16000S/cm、厚みの平均値は1.7μmであった。比較的薄い膜の場合でも、組成を変えたポリイミド膜を使用して良好な結果が得られた。
(実施例16)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/1/3の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.6μmのポリイミド膜を使用した他は実施例13と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は110nm、電気伝導度の平均値は14000S/cm、厚みの平均値は1.7μmであった。比較的薄い膜の場合でも、組成を変えたポリイミド膜を使用して良好な結果が得られた。ただし、炭素化時に寸法規定を行わなかったので、Raの最大値は比較的大きくなったと考えられる。
(実施例17)
平均厚み1.1μmのポリイミド膜を使用した他は実施例13と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は74nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は0.3μmであった。薄い膜の場合でも良好な結果が得られた。ただし、炭素化時に寸法規定を行わなかったので、Raの最大値は比較的大きくなったと考えられる。
(実施例18)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをモル比で1/1(すなわち4/4)の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液に、さらにDMFを加えて6重量%の溶液とした。この溶液をイミド化促進剤は加えずに、アルミ箔上に滴下し、7000rpmで5分間スピンコートして、アルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を作製した。その後、実施例6と同様にして直径10cmの円形で、平均厚み0.5μmのポリイミド膜を得た。このポリイミド膜を用いて、実施例6に倣い黒鉛を焼成した。ただし実施例6とは異なり、炭素化の際に寸法規定は行わずにポリイミド膜を黒鉛製ガスケットに挟むのみとして自然な寸法収縮に任せ、黒鉛化の際の最終的な黒鉛膜の膜面方向の寸法を、元のポリイミド膜の寸法の91%に規定した。
その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は127nm、電気伝導度の平均値は11000S/cm、厚みの平均値は0.2μmであった。熱キュアにより作製したポリイミド膜を用いても良好な結果が得られた。また平均厚み1μm以下の薄いポリイミド膜を用いても良いことがわかる。ただし、炭素化時に寸法規定を行わなかったので、Raの最大値は比較的大きい傾向にある。
(実施例19)
炭素化の際の最終的な炭素化膜の膜面方向の寸法を、元のポリイミド膜の寸法の81%に規定した他は、実施例18と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は55nm、電気伝導度の平均値は11000S/cm、厚みの平均値は0.2μmであった。熱キュアにより作製したポリイミド膜を用いても良好な結果が得られた。また平均厚み1μm以下の薄いポリイミド膜を用いても良いことがわかる。
(実施例20)
平均厚さ15.4μmのポリイミド膜を用い、炭素化および黒鉛化の際の最終的な炭素化膜(黒鉛膜)の膜面方向の寸法を、それぞれ元のポリイミドフィルムの寸法の86%、103%とした他は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は4nm、電気伝導度の平均値は10000S/cm、厚みの平均値は5.9μmであった。なお、本実施例で用いたポリイミド膜は、寸法規定を行わずに自然に収縮、膨張できる状態で炭素化、黒鉛化を行ったところ、炭素化後には膜面方向の寸法は元のポリイミド膜の80%にまで収縮し、黒鉛化後には膜面方向の寸法は、元のポリイミド膜の90%にまで膨張した。すなわち、本実施例では炭素化時には本来の自然な寸法の107.5%の寸法に規定したことになる(86%は80%に対して、107.5%に相当する)。また炭素化膜は黒鉛化によって本来は膜面方向に112.5%の膨張をする(80%から90%への膨張率は112.5%である)。このため、炭素化時の寸法を86%に規定した場合、その後自然に膨張できる状態で黒鉛化をすれば、膜面方向の寸法は元のポリイミド膜の寸法の96.8%となるはずである(86%の112.5%は、96.8%である)。したがって、本実施例では黒鉛化時には本来の自然な寸法の106.4%の寸法に規定したことになる(103%は96.8%に対して、106.4%に相当する)。このように炭素化、黒鉛化の各プロセスにおいて、本来の自然な膜面方向の寸法よりも、それぞれ112%以内、及び109%以内の大きさにまで、大きく寸法規定することにより、黒鉛膜の表面平滑性を向上させることができる。
実施例1〜19に比べると表面平滑性は若干良好であり、電気伝導度は低めであるが十分良好であり、厚みは少し薄めになった。焼成時の寸法を大きめに規定した結果、実施例1〜19に比べてより強く炭素化膜(黒鉛膜)が膜面方向の外側に向けて引っ張られ、より強く伸ばされたためと考えられる。また黒鉛膜内の黒鉛結晶間の隙間が若干広がるなどしたため、電気伝導度が少し低めになったと考えられる。また黒鉛膜の密度は2.05g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例21)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み12.0μmのポリイミド膜を使用し、炭素化時には寸法規定はせずにポリイミド膜を黒鉛製ガスケットに挟むのみとして自然な寸法収縮に任せ、黒鉛化の際の最終的な黒鉛膜の膜面方向の寸法を、元のポリイミドフィルムの寸法の97%とした他は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は3nm、電気伝導度の平均値は10000S/cm、厚みの平均値は5.1μmであった。なお、本実施例で用いたポリイミド膜は、寸法規定を行わずに自然に収縮、膨張できる状態で炭素化、黒鉛化を行ったところ、炭素化後には膜面方向の寸法は元のポリイミド膜の81%にまで収縮し、黒鉛化後には膜面方向の寸法は、元のポリイミド膜の90%にまで膨張した。すなわち、本実施例では黒鉛化時には本来の自然な寸法の107.8%の寸法に規定したことになる(97%は90%に対して、107.7%に相当する)。このように黒鉛化プロセスにおいて、本来の自然な膜面方向の寸法よりも109%以内の大きさにまで、大きく寸法規定することにより、黒鉛膜の表面平滑性を向上させることができる。
実施例1〜19に比べると表面平滑性は若干良好であり、電気伝導度は低めであるが十分良好であり、厚みは少し薄めになった。焼成時の寸法を大きめに規定した結果、実施例1〜19に比べてより強く黒鉛膜が膜面方向の外側に向けて引っ張られ、より強く伸ばされたためと考えられる。また黒鉛膜内の黒鉛結晶間の隙間が若干広がるなどしたため、電気伝導度が少し低めになったと考えられる。また黒鉛膜の密度は2.10g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
これは得られた黒鉛膜の断面SEM画像からも明らかである(図4)。図4の4aが本発明の表面平滑黒鉛の断面を表している。断面4aでは、厚みが均一で表面平滑性に優れる極薄の黒鉛層が、膜面と平行に、一方の表面側から他方の表面側まで隙間無く積層している。こうした黒鉛膜の断面SEM画像から分かるように、黒鉛膜の内部は、黒鉛膜の膜面と平行で、厚みの均一性に優れ、膜面と垂直方向の凹凸が殆どない表面平滑性に優れる、多数の極薄黒鉛が積層した構造であることが分かる。この構造は、天然の黒鉛をシート状に成形したものや、等方性黒鉛、グラッシーカーボン、黒鉛蒸着膜、フラーレン、カーボンナノチューブやそれらの複合材料をプレス、切削、表面研磨しても到底作製不可能なものであり、従来に無かった極めて優れた表面平滑性と極めて高い電気伝導度、熱伝導度、曲げ耐性、破れにくさ、切断加工の容易さ等の良好な特性を同時に備えた黒鉛膜を実現するものである。
(実施例22)
実施例1と同様にして10cm角の正方形で、平均厚み15.5μmのポリイミド膜を得た。これを実施例1に倣い膜面に沿って外側に向けて力をかけながら焼成し、黒鉛膜を得た。ただし実施例1とは異なり、炭素化時、黒鉛化時に膜面に沿って外側に向けて力をかける方法として、一定の力をかけ続けた。具体的には以下の通りである。
<炭素化>
得られたポリイミド膜の4隅に円形の穴をあけ、そこに円柱状のCIP材のアームの先端を通した(図8)。これを、電気炉を用いて窒素ガス雰囲気中、5℃/分の速度で950℃まで昇温し、950℃で10分間保ったのち自然冷却させ、ポリイミド膜を炭素化した。加熱開始から950℃で10分間の加熱が終了するまでの間は、4本のCIP材のアームを用いて、膜の中心から放射状に広がる方向に均等に、一定の力で引っ張り続けた。引っ張る力は、元のポリイミド膜の総断面積あたりの全てのCIP材アームの力の合計として30gf/mm2となるようにした(図11)。
<黒鉛化>
得られた炭素化膜を、アルゴンガス雰囲気中で5℃/分の速度で2800℃まで昇温し、2800℃で20分間保ったのち自然冷却させ、黒鉛化した。加熱開始から2800℃で20分間の加熱が終了するまでの間は、4本のCIP材のアームを用いて、膜の中心から放射状に広がる方向に均等に、一定の力で引っ張り続けた。引っ張る力は、元のポリイミド膜の総断面積あたりの全てのCIP材アームの力の合計として30gf/mm2となるようにした。
<測定>
実施例1と同様にして、黒鉛化後に切り出した5cm角の正方形の黒鉛膜に関して表面粗さ(Ra)、電気伝導度、厚みを測定した。
その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は49nm、電気伝導度の平均値は13000S/cm、厚みの平均値は6.7μmであった。膜面に沿って外側に向けて一定の力をかけながら焼成する方法でも、良好な結果が得られた。比較的制御がしやすく、量産性にも優れた方法である。
(実施例23)
平均厚みが15.0μmのポリイミド膜を用い、炭素化および黒鉛化の際に膜面に沿って外側に向けて一定の力をかけるときに、力の大きさを、元のポリイミド膜の総断面積あたりの全てのCIP材アームの力の合計として20gf/mm2となるようにした他は、実施例22と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は54nm、電気伝導度の平均値は14000S/cm、厚みの平均値は6.9μmであった。力の大きさを少し弱くしても、良好な結果が得られた。
(実施例24)
平均厚みが15.8μmのポリイミド膜を用い、炭素化および黒鉛化の際に膜面に沿って外側に向けて一定の力をかけるときに、力の大きさを、元のポリイミド膜の総断面積あたりの全てのCIP材アームの力の合計として50gf/mm2となるようにした他は、実施例22と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は18nm、電気伝導度の平均値は11000S/cm、厚みの平均値は6.4μmであった。電気伝導度は少し低い傾向にあるが、ある程度かける力が大いほうが表面平滑性は優れる傾向にある。
(実施例25)
平均厚みが15.2μmのポリイミド膜を用い、炭素化の際はCIP材アームによる引っ張りは行わないようにした他は、実施例22と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は102nm、電気伝導度の平均値は16000S/cm、厚みの平均値は7.3μmであった。炭素化の際に引っ張りを行わないと電気伝導度は少し高く、Raの最大値は大きめであった。
(実施例26)
平均厚みが15.0μmのポリイミド膜を用い、炭素化の際にCIP材アームによる引っ張りは行わないようにした他は、実施例23と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は123nm、電気伝導度の平均値は17000S/cm、厚みの平均値は7.2μmであった。炭素化の際に引っ張りを行わないと電気伝導度は少し高く、Raの最大値は大きめであった。
(実施例27)
平均厚みが15.3μmのポリイミド膜を用い、炭素化の際はCIP材アームによる引っ張りは行わないようにした他は、実施例24と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は109nm、電気伝導度の平均値は15000S/cm、厚みの平均値は7.0μmであった。炭素化の際に引っ張りを行わないと電気伝導度は少し高く、Raの最大値は大きめであった。
(実施例28)
平均厚みが15.1μmのポリイミド膜を用い、黒鉛化の際はCIP材アームによる引っ張りは行わないようにした他は、実施例22と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は189nm、電気伝導度の平均値は13000S/cm、厚みの平均値は7.2μmであった。黒鉛化の際に引っ張りを行わないとRaの最大値は大きめであった。
(実施例29)
平均厚みが15.1μmのポリイミド膜を用い、黒鉛化の際はCIP材アームによる引っ張りは行わないようにした他は、実施例23と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は186nm、電気伝導度の平均値は14000S/cm、厚みの平均値は7.4μmであった。黒鉛化の際に引っ張りを行わないとRaの最大値は大きめであった。
(実施例30)
平均厚みが15.2μmのポリイミド膜を用い、黒鉛化の際はCIP材アームによる引っ張りは行わないようにした他は、実施例24と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は175nm、電気伝導度の平均値は12000S/cm、厚みの平均値は7.0μmであった。黒鉛化の際に引っ張りを行わないとRaの最大値は大きめであった。
(比較例5)
平均厚みが15.4μmのポリイミド膜を用い、炭素化および黒鉛化の際に膜面に沿って外側に向けて一定の力をかけるときに、力の大きさを、元のポリイミド膜の総断面積あたりの全てのCIP材アームの力の合計として5gf/mm2となるようにした他は、実施例22と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は9043nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は7.4μmであった。かける力が弱すぎると表面平滑性は悪くなってしまう。
(比較例6)
平均厚みが15.9μmのポリイミド膜を用い、炭素化の際に膜面に沿って外側に向けて一定の力をかけるときに、力の大きさを、元のポリイミド膜の総断面積あたりの全てのCIP材アームの力の合計として200gf/mm2となるようにした他は、実施例28と同様の実験を行った。その結果、炭素膜は破れた。かける力が強すぎて膜が引っ張りに耐えられなかったためと考えられる。
(実施例31)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み15.7μmのポリイミド膜を使用した他は、実施例22と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は52nm、電気伝導度の平均値は17000S/cm、厚みの平均値は6.6μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例32)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/2/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み15.6μmのポリイミド膜を使用した他は、実施例22と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は50nm、電気伝導度の平均値は17000S/cm、厚みの平均値は6.5μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例33)
実施例9に倣い、直径10cm、平均厚み15.5μmのポリイミド膜を得た。これを、実施例9の要領で、8本のCIP材のアームを用いて膜面方向の外側に向けて放射状に広げるようにして、炭素化、黒鉛化を行った。ただし、膜を放射状に広げるための機械的制御や力の大きさは実施例22に倣い、膜の中心から放射状に広がる方向に均等に、一定の力で引っ張り続けた。引っ張る力は、元のポリイミド膜の総断面積あたりの全て(8本)のCIP材アームの力の合計として30gf/mm2となるようにした(図12)。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は58nm、電気伝導度の平均値は16000S/cm、厚みの平均値は6.7μmであった。ポリイミドの組成や形状、アームの本数を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例34)
平均厚みが4.5μmのポリイミド膜を用いた他は、実施例22と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は47nm、電気伝導度の平均値は17000S/cm、厚みの平均値は1.8μmであった。薄いポリイミド膜を用いても良好な結果が得られた。
(実施例35)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.7μmのポリイミド膜を使用し、黒鉛化の際はCIP材アームによる引っ張りは行わないようにした他は、実施例22と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は183nm、電気伝導度の平均値は17000S/cm、厚みの平均値は2.0μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例36)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/2/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.6μmのポリイミド膜を使用した他は、実施例22と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は40nm、電気伝導度の平均値は16000S/cm、厚みの平均値は1.8μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例37)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/1/3の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.6μmのポリイミド膜を使用し、炭素化の際はCIP材アームによる引っ張りは行わないようにした他は、実施例22と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は108nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は2.1μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。Raの最大値は大きめであった。
(実施例38)
平均厚み1.3μmのポリイミド膜を使用し、炭素化の際はCIP材アームによる引っ張りは行わないようにした他は、実施例22と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は104nm、電気伝導度の平均値は20000S/cm、厚みの平均値は0.4μmであった。薄いポリイミド膜を使用しても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例39)
実施例18と同様にして、熱キュア法にて直径10cmの円形で、平均厚み0.3μmのポリイミド膜を得た。これを実施例33と同様にして炭素化、黒鉛化した。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は32nm、電気伝導度の平均値は19000S/cm、厚みの平均値は0.1μmであった。厚さ1μm以下のきわめて薄いポリイミド膜を使用しても良好な結果が得られることが分かった。また熱キュア法で作製したポリイミド膜でも良好な結果が得られることが分かった。
(実施例40)
平均厚み0.5μmのポリイミド膜を用い、炭素化の際はCIP材アームによる引っ張りは行わないようにした他は、実施例39と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は98nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は0.2μmであった。厚さ1μm以下のきわめて薄いポリイミド膜を使用しても良好な結果が得られることが分かった。また熱キュア法で作製したポリイミド膜でも良好な結果が得られることが分かった。
(実施例41)
実施例1と同様にして10cm角の正方形で、平均厚み15.5μmのポリイミド膜を得た。これを膜面に沿って外側に向けて力をかけながら焼成し、黒鉛膜を得た。炭素化時、黒鉛化時に膜面に沿って外側に向けて力をかける方法として、具体的には以下の通りとした。
<炭素化>
得られたポリイミド膜の4辺に2つずつ円形の穴をあけ、そこに8本の円柱状のCIP材のアームの先端を通した(図10)。これを、電気炉を用いて窒素ガス雰囲気中、5℃/分の速度で950℃まで昇温し、950℃で10分間保ったのち自然冷却させ、ポリイミド膜を炭素化した。300℃到達から950℃に至るまで、8本のCIP材のアームを用いて、膜の辺と垂直な方向に膜面を広げるように均等に、徐々に力を大きくしながら引っ張った。引っ張る力の程度は、元のポリイミド膜の総断面積あたりの全てのCIP材アームの力の合計として15gf/mm2から175gf/mm2とし、時間の経過にしたがい直線的に力を大きくした。950℃に到達後は、950℃にて10分間の加熱が終了するまで175gf/mm2にて引っ張り続けた。
<黒鉛化>
得られた炭素化膜を、アルゴンガス雰囲気中で5℃/分の速度で2800℃まで昇温し、2800℃で20分間保ったのち自然冷却させ、黒鉛化した。2200℃到達から2800℃に至るまで、8本のCIP材のアームを用いて、膜の辺と垂直な方向に膜面を広げるように均等に、徐々に力を大きくしながら引っ張った。引っ張る力の程度は、元のポリイミド膜の総断面積あたりの全てのCIP材アームの力の合計として15gf/mm2から750gf/mm2とし、時間の経過にしたがい直線的に力を大きくした。2800℃に到達後は、2800℃にて20分間の加熱が終了するまで750gf/mm2にて引っ張り続けた。
<測定>
実施例1と同様にして、黒鉛化後に切り出した5cm角の正方形の黒鉛膜に関して表面粗さ(Ra)、電気伝導度、厚みを測定した。
その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は8nm、電気伝導度の平均値は10000S/cm、厚みの平均値は5.4μmであった。膜面に沿って外側に向けて少しずつ力を大きくしながら引っ張りつつ、焼成する方法でも、良好な結果が得られた。炭素化、黒鉛化の各プロセスでの最終的な引っ張る力が大きいため、Raの最大値は小さく良好な表面平滑性が実現している。また黒鉛膜内の黒鉛結晶間の隙間が若干広がるなどしたため、電気伝導度が少し低めになったと考えられる。また黒鉛膜の密度は2.10g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例42)
炭素化時には膜の引っ張りはせず、黒鉛化時の2200℃〜2800℃における膜を引っ張る力の範囲を10gf/mm2から500gf/mm2とした他は、実施例41と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は15nm、電気伝導度の平均値は15000S/cm、厚みの平均値は5.6μmであった。膜面に沿って外側に向けて少しずつ力を大きくしながら引っ張りつつ、焼成する方法でも、良好な結果が得られた。黒鉛化プロセスでの最終的な引っ張る力が大きいため、Raの最大値は小さく良好な表面平滑性が実現している。黒鉛膜の密度は2.15g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例43)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.3μmのポリイミド膜を使用し、炭素化時の300℃〜950℃における膜を引っ張る力の範囲を10gf/mm2から120gf/mm2とし、黒鉛化時の2200℃〜2800℃における膜を引っ張る力の範囲を50gf/mm2から250gf/mm2とした他は、実施例41と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は9nm、電気伝導度の平均値は12000S/cm、厚みの平均値は1.0μmであった。膜面に沿って外側に向けて少しずつ力を大きくしながら引っ張りつつ、焼成する方法でも、良好な結果が得られた。炭素化、黒鉛化の各プロセスでの最終的な引っ張る力が大きいため、Raの最大値は小さく良好な表面平滑性が実現している。黒鉛膜の密度は2.16g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例44)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.3μmのポリイミド膜を使用し、炭素化時には膜の引っ張りはせず、黒鉛化時の2200℃〜2800℃における膜を引っ張る力の範囲を10gf/mm2から125gf/mm2とした他は、実施例41と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は23nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は1.1μmであった。膜面に沿って外側に向けて少しずつ力を大きくしながら引っ張りつつ、焼成する方法でも、良好な結果が得られた。黒鉛化プロセスでの最終的な引っ張る力が大きいため、Raの最大値は小さく良好な表面平滑性が実現している。黒鉛膜の密度は2.20g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
これは得られた黒鉛膜の断面SEM画像からも明らかである(図5、6)。図5の5aおよび図6の6aが本発明の表面平滑黒鉛の断面を表している。断面5a、6aでは、厚みが均一で表面平滑性に優れる極薄の黒鉛層が、膜面と平行に、黒鉛膜の一方の表面側から他方の表面側まで隙間無く積層している。図2は、従来の高品質黒鉛膜の断面のSEM画像であり、極めて薄く厚みが均一であるが、大面積のものはシワやうねりがあり、表面平滑性にはまだ改善の余地があることを示している。こうした黒鉛膜の断面SEM画像から分かるように、本発明の黒鉛膜の内部は、黒鉛膜の膜面と平行で、厚みの均一性に優れ、膜面と垂直方向の凹凸が殆どない表面平滑性に優れる、多数の極薄黒鉛が積層した構造であることが分かる。この構造は、天然の黒鉛をシート状に成形したものや、等方性黒鉛、グラッシーカーボン、黒鉛蒸着膜、フラーレン、炭素繊維、カーボンナノチューブやそれらの複合材料をプレス、切削、表面研磨しても到底作製不可能なものであり、従来に無かった極めて優れた表面平滑性と極めて高い電気伝導度、熱伝導度、曲げ耐性、破れにくさ、切断加工の容易さ等の良好な特性を同時に備えた黒鉛膜を実現するものである。
また、得られた黒鉛膜の断面TEM画像を見ると(図3)、黒鉛膜の内部は、黒鉛膜の膜面と平行で、膜面と垂直方向の凹凸が殆どない表面平滑性に優れる、多数のグラフェンが積層した構造であることが分かる。このように表面のみでなく、内部までナノメートルのレベルの層構造制御、凹凸抑制がなされた黒鉛膜は、他の方法では作製不可能であり、本発明の方法は極めて優れている。
(実施例45)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で20/13/7の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み2.5μmのポリイミド膜を使用し、炭素化時には膜の引っ張りはせず、黒鉛化時の2200℃〜2800℃における膜を引っ張る力の範囲を300gf/mm2から1450gf/mm2とした他は、実施例41と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は7nm、電気伝導度の平均値は21000S/cm、厚みの平均値は0.7μmであった。膜面に沿って外側に向けて少しずつ力を大きくしながら引っ張りつつ、焼成する方法でも、良好な結果が得られた。黒鉛化プロセスでの最終的な引っ張る力が大きいため、Raの最大値は小さく良好な表面平滑性が実現している。黒鉛膜の密度は2.21g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例46)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で5/3/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み12.5μmのポリイミド膜を使用し、炭素化時には膜の引っ張りはせず、黒鉛化時の2200℃〜2800℃における膜を引っ張る力の範囲を10gf/mm2から80gf/mm2とした他は、実施例41と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は35nm、電気伝導度の平均値は20000S/cm、厚みの平均値は4.7μmであった。膜面に沿って外側に向けて少しずつ力を大きくしながら引っ張りつつ、焼成する方法でも、良好な結果が得られた。黒鉛化プロセスでの最終的な引っ張る力が大きいため、Raの最大値は小さく良好な表面平滑性が実現している。黒鉛膜の密度は2.24g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例47)
実施例1においてアルミ箔の代わりに銅箔を用いて、銅箔とポリアミド酸溶液の積層体を100℃、250℃、450℃で各60秒間加熱し、銅箔上にポリイミド膜を形成した(図13)。これを10cm角の正方形に切り出し、実施例1に倣い、銅箔とポリイミド膜の積層体に関して、5点の厚みを測定した。銅箔単体に関しても同様に予め5点の厚みを測定しておき、それぞれの箇所の厚みの差の平均値を計算すると12.6μmであった。これをポリイミド膜の平均膜厚とした。
得られた10cm角の正方形の銅箔とポリイミド膜の積層体を、黒鉛製ガスケットに挟み込み、実施例1の加熱条件にて炭素化を行った。無論、CIP材アームによる引っ張りは行わなかった。その後、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチングして除去し、単体の炭素膜を得た。これを黒鉛製のガスケットに挟み込み、実施例1の加熱条件にて黒鉛化を行った。無論、CIP材アームによる引っ張りは行わなかった。
得られた黒鉛膜に関して、実施例1と同様に中心から5cm角の正方形の部分を切り出し、各種測定を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は196nm、電気伝導度の平均値は9000S/cm、厚みの平均値は4.3μmであった。黒鉛化時にはシワを伸ばす工夫は行わなかったが、銅箔と一体化した状態で炭素化を行うので、炭素化時に生じるシワは防止され、同時に平滑な炭素膜の状態で黒鉛化を開始できるため、薄く、良好な表面平滑性(小さいRa)、高い電気伝導度を持つ黒鉛膜が実現できる。また本手法では膜を引っ張るための機械等を必要とせず、簡便に表面平滑性を実現できる。ただ、上記の実施例に比べると比較的Raの最大値は大きい。
(実施例48)
イミド化促進剤を使用せず、加熱のみによりイミド化を行い、平均厚み12.8μmのポリイミド膜を銅箔上に形成した以外は、実施例47と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は189nm、電気伝導度の平均値は9000S/cm、厚みの平均値は4.5μmであった。熱キュア法により形成したポリイミド膜を用いても良好な結果が得られることが分かった。
(比較例7)
銅箔とポリイミド膜の積層体を炭素化する際の最高温度を700℃とし、700℃で10分間保持した他は、実施例47と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は3643nm、電気伝導度の平均値は10000S/cm、厚みの平均値は4.8μmであった。
銅箔と一体化した状態での炭素化温度が十分高くなかったため(700℃)、黒鉛化時に700℃〜950℃に加熱された時に、実施例47に比べて大きなシワが発生してしまい、結果として、得られた黒鉛膜の表面平滑性が低くなったと考えられる。
(比較例8)
イミド化促進剤を使用せず、加熱のみによりイミド化を行い、平均厚み12.5μmのポリイミド膜を銅箔上に形成した以外は、比較例7と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は15823nm、電気伝導度の平均値は10000S/cm、厚みの平均値は4.8μmであった。銅箔と一体化した状態での炭素化温度が十分高くなかったため(700℃)、黒鉛化時に700℃〜950℃に加熱された時に、実施例48に比べて大きなシワが発生してしまい、結果として、得られた黒鉛膜の表面平滑性が低くなったと考えられる。
(比較例9)
平均厚み2.0μmのポリイミド膜をアルミ箔上に形成し、アルミ箔とポリイミド膜の積層体を炭素化する際の最高温度を600℃とし、600℃で10分間保持した他は、実施例47と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は33900nm、電気伝導度の平均値は13000S/cm、厚みの平均値は0.7μmであった。アルミ箔と一体化した状態での炭素化温度が十分高くなかったため(600℃)、黒鉛化時に600℃〜950℃に加熱された時に、実施例47に比べて大きなシワが発生してしまい、結果として、得られた黒鉛膜の表面平滑性が低くなったと考えられる。
(実施例49)
平均厚み2.1μmのポリイミド膜をニッケル箔上に形成し、ニッケル箔とポリイミド膜の積層体を炭素化する際の最高温度を1200℃とし、1200℃で10分間保持した他は、実施例47と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は149nm、電気伝導度の平均値は8000S/cm、厚みの平均値は0.6μmであった。ニッケル箔と一体化した状態での炭素化温度が十分高かったため、得られた黒鉛膜のシワを良好に低減できたと考えられる。
(実施例50)
平均厚み2.2μmのポリイミド膜を石英ガラス上に約10cm角の正方形に形成し、石英ガラスとポリイミド膜の積層体を炭素化する際の最高温度を1000℃とし、1000℃で10分間保持した他は、実施例47と同様の実験を行った。ただし、ポリイミド膜の厚みは、触針式段差計を用いて、石英ガラスが露出している部分と、ポリイミド膜で覆われている部分の高さの差から測定した。また単体の炭素化膜を得るために、石英ガラスと炭素化膜の積層体を水に漬けてピンセットで端部を少し剥がし、水中で揺らしながら剥離した。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は170nm、電気伝導度の平均値は9000S/cm、厚みの平均値は0.6μmであった。石英ガラスと一体化した状態での炭素化温度が十分高かったため、得られた黒鉛のシワを良好に低減できたと考えられる。
(実施例51)
平均厚み2.2μm、直径約10cmの円形のポリイミド膜をシリコンウエハ上に形成した他は、実施例50と同様の実験を行った。実施例6に倣い、焼成した円形の黒鉛膜の中心部分から切り出して得た、直径5cmの黒鉛膜に関して、実施例6と同様の測定を行った。その結果、得られた直径5cmの黒鉛膜のRaの最大値は172nm、電気伝導度の平均値は10000S/cm、厚みの平均値は0.6μmであった。シリコンウエハと一体化した状態での炭素化温度が十分高かったため、得られた黒鉛のシワを良好に低減できたと考えられる。
(実施例52)
平均厚み2.2μmのポリイミド膜をSiC基板上に形成した他は、実施例50と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は180nm、電気伝導度の平均値は9000S/cm、厚みの平均値は0.7μmであった。SiC基板と一体化した状態での炭素化温度が十分高かったため、得られた黒鉛のシワを良好に低減できたと考えられる。
(実施例53)
平均厚み2.1μmのポリイミド膜を、表面研磨した黒鉛基板上に、約10cm角の正方形に形成し、黒鉛基板と一体化した状態でガスケットに挟み込み、実施例47の加熱条件にて炭素化および黒鉛化を行った。黒鉛基板上に貼り付いた状態で得られた黒鉛膜に上から粘着テープを貼り、黒鉛基板ごと水に漬けて徐々に粘着テープを端から順に剥がし取り、粘着テープの粘着剤をアセトンで溶かし、単体の黒鉛膜を得た。実施例47と同様にして、得られた5cm角の正方形の黒鉛膜に関して各種測定を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は90nm、電気伝導度の平均値は8000S/cm、厚みの平均値は0.7μmであった。黒鉛化完了まで基板と一体で加熱したため、Raの最大値は比較的小さい。なお特許文献3において得られる、PMMA膜上に転写した黒鉛膜の場合には、細かいシワがあり、5mm角の範囲でのRaの最大値は、目測のみでも本実施例より大きいことは明らかであった。この違いの理由としては剥離方法が異なることはもちろん挙げられるが、本発明のポリイミド膜の形成方法は塗布によるものであり、蒸着重合法に比べると、膜面方向の配向性の高いポリイミド膜が得られ、結果としてより強靭な黒鉛の層構造が発達しやすく、基板からの剥離の際に本質的にシワができにくい黒鉛膜が形成されているためと考えられる。
(実施例54)
平均厚み2.1μmのポリイミド膜をグラッシーカーボン基板上に形成し、グラッシーカーボンとポリイミド膜の積層体を炭素化する際の最高温度を1300℃とし、1300℃で10分間保持した他は、実施例50と同様の実験を行った。すなわちグラッシーカーボン上でポリイミド膜を炭素化した後、炭素化膜をグラッシーカーボン基板から剥がし、黒鉛製ガスケットに挟み込んで黒鉛化した。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は177nm、電気伝導度の平均値は11000S/cm、厚みの平均値は0.5μmであった。グラッシーカーボンと一体化した状態での炭素化温度が十分高かったため、得られた黒鉛膜のシワを良好に低減できたと考えられる。
(実施例55)
平均厚み2.3μmのポリイミド膜をグラッシーカーボン基板上に形成し、グラッシーカーボンとポリイミド膜の積層体を炭素化する際の最高温度を1800℃とし、1800℃で10分間保持した他は、実施例50と同様の実験を行った。すなわちグラッシーカーボン上でポリイミド膜を炭素化した後、炭素化膜をグラッシーカーボン基板から剥がし、黒鉛製ガスケットに挟み込んで黒鉛化した。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は165nm、電気伝導度の平均値は10000S/cm、厚みの平均値は0.5μmであった。グラッシーカーボンと一体化した状態での炭素化温度が十分高かったため、得られた黒鉛膜のシワを良好に低減できたと考えられる。
(実施例56)
平均厚み2.0μmのポリイミド膜をグラッシーカーボン基板上に形成した他は、実施例53と同様の実験を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は8nm、電気伝導度の平均値は8000S/cm、厚みの平均値は0.7μmであった。黒鉛化完了まで表面平滑性に優れたグラッシーカーボン基板と一体で加熱したため、Raの最大値は非常に小さい。なお特許文献3において得られる、PMMA膜上に転写した黒鉛膜の場合には、細かいシワがあり、5mm角の範囲でのRaの最大値は、目測のみでも本実施例より大きいことは明らかであった。この違いの理由としては剥離方法が異なることはもちろん挙げられるが、本発明のポリイミド膜の形成方法は塗布によるものであり、蒸着重合法に比べると、膜面方向の配向性の高いポリイミド膜が得られ、結果としてより強靭な黒鉛の層構造が発達しやすく、基板からの剥離の際に本質的にシワができにくい黒鉛膜が形成されているためと考えられる。
(比較例10)
実施例6と同様にして、平均厚み2.0μm、直径10cmの円形のポリイミド膜を得た。これを、外径10cmのグラッシーカーボン円板に、中心に直径7cmの円形の穴を開けたドーナツ状のグラッシーカーボン基板上に貼り付けた。具体的には、実施例6と同様にして作製したポリアミド酸溶液を、円形のポリイミド膜とドーナツ状のグラッシーカーボン基板の間に塗布し、450℃に加熱し、円形のポリイミド膜とドーナツ状のグラッシーカーボンを一体化させた。これを、実施例47と同様の加熱条件で炭素化した。その結果、炭素化膜は破れた。上記実施例のように、平面状の基板を覆うようにポリイミド膜を形成した場合には、基板と一体化したままで炭素化しても炭素化膜は破れなかったが、ポリイミド膜が宙に張られた状態で炭素化すると破れてしまった。ポリイミド膜(炭素化膜)の全面を支える基板が無いためポリイミド膜(炭素化膜)の収縮による張力が膜全面で均一ではなく、しかも収縮しない枠に固定してしまったため、非常に強い張力が局所的なシワや、固定された縁周辺の部分のみに集中したためと考えられる。すなわち、比較例1や2と本質的に同様の状況になったと考えられる。
(実施例57)
実施例6と同様にして得た、平均厚み2.4μm、直径10cmの円形のポリイミド膜を、直径10cm、平均厚み50.2μmのポリパラフェニレンビニレンの円形フィルムの中心に直径7cmの円形の穴を開けてドーナツ状(外径10cm、内径7cm)にした枠2枚で挟み込んだものを作製した(図16)。具体的には、実施例6と同様にして作製したポリアミド酸溶液を、ポリイミド膜とドーナツ状のポリパラフェニレンビニレンフィルムの間に塗布し、450℃に加熱し、円形のポリイミド膜とドーナツ状のポリパラフェニレンビニレン枠を一体化させた。これを黒鉛製ガスケットに挟み込み、実施例1と同様の炭素化、黒鉛化の加熱プログラム(昇温速度、温度キープ)にて焼成し、ポリイミド膜を枠と一体化したままで炭素化、黒鉛化した。その後、ドーナツ状の枠部分を切り離し、平均厚み2.4μmのポリイミド由来の直径約6cmの黒鉛膜を単体で得、実施例6に倣い各種測定を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は45nm、電気伝導度の平均値は17000S/cm、厚みの平均値は1.1μmであった。黒鉛化完了まで厚く、自己支持性が高く、黒鉛に転化するため黒鉛化温度でも焼失しない枠と一体で加熱したため、焼成時のシワが効果的に低減され、Raの最大値は比較的小さく良好である。
(実施例58)
実施例57と同様にして(即ち実施例6と同様にして)、平均厚み5.2μm、直径10cmの円形のポリイミド膜を得た。また、実施例57と同様にして(即ち実施例6と同様にして)平均厚み55.0μm、直径10cmの円形のポリイミドフィルムを得、実施例57と同様にしてドーナツ状の枠とした。このドーナツ状の枠2枚で上記の平均厚み5.2μmのポリイミド膜を挟み込み、実施例57と同様に貼り合せ、炭素化、黒鉛化、および得られた直径約6cmの円形の黒鉛膜に関する各種測定を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は76nm、電気伝導度の平均値は17000S/cm、厚みの平均値は2.5μmであった。黒鉛化完了まで厚く、自己支持性が高く、黒鉛に転化するため黒鉛化温度でも焼失しない枠と一体で加熱したため、Raの最大値は比較的小さく良好である。
(実施例59)
平均厚み2.2μmのポリイミド膜をサンプルとして使用し、ドーナツ状の枠の代わりに直径10cm、厚さ55.0μmの中心に穴が無い円板状の基板を用いた以外は、実施例58と同様の実験を行った。サンプルのポリイミド膜と、ポリイミドの円板状の基板は、円の周縁部のみにポリアミド酸溶液を塗布して貼り合わせた。黒鉛化後に、周縁の貼り合わせ部分のみをハサミで切り取り、黒鉛化したサンプル膜と円板状基板を切り離した。その結果、得られた直径約6cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は66nm、電気伝導度の平均値は17000S/cm、厚みの平均値は1.0μmであった。黒鉛化完了まで厚く、自己支持性が高く、黒鉛に転化するため黒鉛化温度でも焼失しない枠(基板)と一体で加熱したため、Raの最大値は比較的小さく良好である。またドーナツ状の枠ではなく円板状の基板を用いても良好な結果が得られることが分かる。
(実施例60)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み2.3μmのポリイミド膜をサンプルとして使用した以外は、ポリイミドのドーナツ状の枠を含めて実施例58と同様の実験を行った。その結果、得られた直径約6cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は25nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は1.1μmであった。黒鉛化完了まで厚く、自己支持性が高く、黒鉛に転化するため黒鉛化温度でも焼失しない枠と一体で加熱したため、Raの最大値は比較的小さく良好である。また、実施例57〜59に比べるとRaの最大値は比較的小さい。これは、サンプル部分と枠部分のポリイミドの組成が異なるので、元々の寸法に比べて最終的に黒鉛化が完了した際の、サンプル部分の寸法収縮率が、僅かながら枠部分の寸法収縮率よりも大きくなり、結果としてサンプルを膜面内で外側に向かって引っ張る力が少し大きくかかるためと推測される。
(実施例61)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/2/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み2.4μmのポリイミド膜をサンプルとして使用した以外は、ポリイミドのドーナツ状の枠を含めて実施例58と同様の実験を行った。その結果、得られた直径約6cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は26nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は1.1μmであった。黒鉛化完了まで厚く、自己支持性が高く、黒鉛に転化するため黒鉛化温度でも焼失しない枠と一体で加熱したため、Raの最大値は比較的小さく良好である。また、実施例57〜59に比べるとRaの最大値は比較的小さい。サンプル部分と枠部分のポリイミドの組成が異なるので、元々の寸法に比べて最終的に黒鉛化が完了した際の、サンプル部分の寸法収縮率が、僅かながら枠部分の寸法収縮率よりも大きくなり、結果としてサンプルを膜面内で外側に向かって引っ張る力が少し大きくかかるためと推測される。
(実施例62)
実施例8と同様にして、ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/2/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて、10cm角の正方形で、平均厚み2.3μmのポリイミド膜を作製した。また実施例1と同様にして、ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをモル比で1/1(すなわち4/4)の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて、10cm角の正方形で、平均厚み55.0μmのポリイミド膜を作製した。平均厚み55.0μmの正方形のフィルムの中心に7cm角の正方形の穴を開けて正方形の額縁状にした枠2枚を作製し、その間に平均厚み2.3μmの正方形のポリイミド膜を挟み込んで、貼り合わせた(図17)。具体的には、実施例6と同様にして作製したポリアミド酸溶液を、平均厚み2.3μmのポリイミド膜と額縁状のポリイミド枠の間に塗布し、450℃に加熱し、ポリイミド膜と額縁状ポリイミド枠を一体化させた。これを黒鉛製ガスケットに挟み込み、実施例1と同様の炭素化、黒鉛化の加熱プログラム(昇温速度、温度キープ)にて焼成し、ポリイミド膜を枠と一体化したままで炭素化、黒鉛化を行った。その後、黒鉛化した額縁状の枠部分を切り離し、平均厚み2.3μmの正方形のポリイミド由来の1辺約6cmの単体の正方形の黒鉛膜を得、実施例1と同様に各種測定を行った。その結果、得られた約6cm角の正方形の黒鉛膜のRaの最大値は21nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は1.1μmであった。黒鉛化完了まで厚く、自己支持性が高く、黒鉛に転化するため黒鉛化温度でも焼失しない枠と一体で加熱したため、Raの最大値は比較的小さく良好である。また、実施例57〜59に比べるとRaの最大値は比較的小さい。サンプル部分と枠部分のポリイミドの組成が異なるので、元々の寸法に比べて最終的に黒鉛化が完了した際の、サンプル部分の寸法収縮率が、僅かながら枠部分の寸法収縮率よりも大きくなり、結果としてサンプルを膜面内で外側に向かって引っ張る力が少し大きくかかるためと推測される。
(実施例63)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/1/3の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み2.2μmのポリイミド膜をサンプルとして使用した以外は、ポリイミドのドーナツ状の枠を含めて実施例58と同様の実験を行った。その結果、得られた直径約6cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は18nm、電気伝導度の平均値は16000S/cm、厚みの平均値は1.1μmであった。黒鉛化完了まで自己支持性が高く、厚く、黒鉛に転化するため黒鉛化温度でも焼失しない枠と一体で加熱したため、Raの最大値は比較的小さく良好である。また、実施例57〜59に比べるとRaの最大値は比較的小さい。サンプル部分と枠部分のポリイミドの組成が異なるので、元々の寸法に比べて最終的に黒鉛化が完了した際の、サンプル部分の寸法収縮率が、僅かながら枠部分の寸法収縮率よりも大きくなり、結果としてサンプルを膜面内で外側に向かって引っ張る力が少し大きくかかるためと推測される。
(実施例64)
実施例61と同様にしてピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/2/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて、平均厚み12.5μm、直径10cmの円形のポリイミド膜を得た。また実施例6と同様にして作製した、直径10cm、平均厚み251.0μmのポリイミドの円形フィルムの中心に直径7cmの円形の穴を開けてドーナツ状枠(外径10cm、内径7cm)としたものを2枚作製した。次に円形のポリイミド膜とドーナツ状枠の間にエポキシ系接着剤を塗布して貼り合わせ、円形ポリイミド膜の両面からドーナツ枠を貼り合わせたものを作製した(図16)。これを黒鉛製ガスケットに挟み込み、実施例1と同様の炭素化、黒鉛化の加熱プログラム(昇温速度、温度キープ)にて焼成し、ポリイミド膜を枠と一体化したままで炭素化、黒鉛化を行った。その後、ドーナツ状枠の部分を切り離し、平均厚み12.5μmのポリイミド膜由来の直径約6cmの黒鉛膜を単体で得、実施例6に倣い各種測定を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は18nm、電気伝導度の平均値は16000S/cm、厚みの平均値は5.1μmであった。黒鉛化完了まで厚く、自己支持性が高く、黒鉛に転化するため黒鉛化温度でも焼失しない枠と一体で加熱したため、焼成時のシワが効果的に低減され、Raの最大値は比較的小さく良好である。黒鉛膜の密度は1.96g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例65)
実施例61と同様にしてピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/2/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて、平均厚み2.4μm、直径10cmの円形のポリイミド膜を得た。また実施例6と同様にして作製した、直径10cm、平均厚み55.0μmのポリイミドの円形フィルムの中心に直径7cmの円形の穴を開けてドーナツ状枠(外径10cm、内径7cm)としたものを2枚作製した。これらの円形のポリイミド膜とドーナツ状枠2枚を、それぞれ単独で実施例1に倣い炭素化した。次に炭素化した円形のポリイミド膜と、炭素化したドーナツ状枠の間にエポキシ系接着剤を塗布して貼り合わせ、炭素化した円形のポリイミド膜の両面から炭素化したドーナツ枠を貼り合わせたものを作製した(図16)。これを黒鉛製ガスケットに挟み込み、実施例1と同様の黒鉛化の加熱プログラム(昇温速度、温度キープ)にて焼成し、膜とドーナツ枠が一体化したままで黒鉛化した。その後、ドーナツ状枠の部分を切り離し、平均厚み2.4μmのポリイミド膜由来の直径約6cmの黒鉛膜を単体で得、実施例6に倣い各種測定を行った。その結果、得られた黒鉛膜のRaの最大値は18nm、電気伝導度の平均値は16000S/cm、厚みの平均値は1.1μmであった。黒鉛化プロセスにて厚く、自己支持性が高く、黒鉛に転化するため黒鉛化温度でも焼失しない枠と一体で加熱したため、焼成時のシワが効果的に低減され、Raの最大値は比較的小さく良好である。黒鉛膜の密度は2.00g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例66)
実施例6と同様にして、平均厚み15.8μm、直径10cmの円形のポリイミド膜を得た。これを、黒鉛製ガスケットに挟み込み、電気炉を用いて窒素ガス雰囲気中、5℃/分の速度で950℃まで昇温し、950℃で10分間保ったのち自然冷却させ、ポリイミド膜を炭素化した。得られた炭素化膜を、直径12cmのドーム形の2枚のグラッシーカーボン板を同じ向きに重ねた間に挟みこんだ(図18)。ドーム形のグラッシーカーボン板は、片面(ドームの内面)の曲率半径が100cmで、もう片方の面(ドームの外面)の曲率半径が80cmである。この炭素化膜を2枚のドーム形のグラッシーカーボン板に挟んだものを、プレス機能付き電気炉で黒鉛化した。黒鉛化は、アルゴンガス雰囲気中で5℃/分の速度で2800℃まで昇温し、2800℃で20分間保ったのち自然冷却させることにより行った。2800℃到達時から20分間、炭素化膜(黒鉛膜)を2枚のドーム形のグラッシーカーボン板に挟んだものを、直径12cmの円形を面積の基準として、0.04kgf/cm2の圧力で炭素化膜(黒鉛膜)の膜面に対して垂直方向にプレスした。得られた黒鉛膜の中心から切り出した直径5cmの円形の黒鉛膜に関して、実施例6と同様に各種測定を行った。その結果、Raの最大値は114nm、電気伝導度の平均値は19000S/cm、厚みの平均値は7.0μmであった。黒鉛化の際にプレスすることでも、シワを低減した高電気伝導度の黒鉛膜が得られることが分かった。この方法は多数枚の炭素化膜とグラッシーカーボン板を積み重ねても同様の効果が得られ、生産性に優れる方法である。
(実施例67)
プレスの圧力を0.1kgf/cm2とした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は109nm、電気伝導度の平均値は20000S/cm、厚みの平均値は6.9μmであった。
(実施例68)
ポリイミド膜の平均厚さを15.9μmとし、黒鉛化の際に2200℃、2400℃、2600℃、2800℃に到達後、それぞれ1分間、1.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は102nm、電気伝導度の平均値は19000S/cm、厚みの平均値は6.5μmであった。
(実施例69)
炭素化膜をドーム形のグラッシーカーボン板の凸面と、平板状の直径12cmのグラッシーカーボン円板の間に挟み込み、黒鉛化の際に2600℃、2800℃に到達後、それぞれ1分間、1.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は138nm、電気伝導度の平均値は19000S/cm、厚みの平均値は6.6μmであった。
(実施例70)
ポリイミド膜の平均厚さを15.6μmとし、炭素化膜を2枚のドーム型グラッシーカーボン板の凸面同士を向かい合わせた間に挟み込み、黒鉛化の際に2600℃、2800℃に到達後、それぞれ1分間、1.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は123nm、電気伝導度の平均値は19000S/cm、厚みの平均値は6.4μmであった。
(実施例71)
ポリイミド膜の平均厚さを15.7μmとし、黒鉛化の際に2800℃に到達後1分間、1.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は124nm、電気伝導度の平均値は19000S/cm、厚みの平均値は6.8μmであった。
(実施例72)
ポリイミド膜の平均厚さを15.6μmとし、10.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は165nm、電気伝導度の平均値は17000S/cm、厚みの平均値は6.4μmであった。
(実施例73)
25.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は178nm、電気伝導度の平均値は16000S/cm、厚みの平均値は6.1μmであった。
(比較例11) ポリイミド膜の平均厚さを15.6μmとし、0.02kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は262nm、電気伝導度の平均値は19000S/cm、厚みの平均値は6.4μmであった。プレスの圧力が弱すぎて十分に炭素化膜のシワを伸ばせなかったためと考えられる。
(比較例12)
ポリイミド膜の平均厚さを15.9μmとし、40.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は456nm、電気伝導度の平均値は14000S/cm、厚みの平均値は6.2μmであった。プレス圧力が強すぎたため、逆にある程度のシワが発生したと考えられる。
(実施例74)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み15.8μmのポリイミド膜をサンプルとして使用し、0.5kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は120nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は6.8μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例75)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/2/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み15.9μmのポリイミド膜をサンプルとして使用し、2.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は108nm、電気伝導度の平均値は21000S/cm、厚みの平均値は6.8μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例76)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/1/3の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み15.7μmのポリイミド膜をサンプルとして使用し、10.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は100nm、電気伝導度の平均値は20000S/cm、厚みの平均値は6.5μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例77)
ポリイミド膜の平均厚さを4.5μmとし、0.05kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は99nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は2.1μmであった。ポリイミド膜を薄くしても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例78)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.6μmのポリイミド膜をサンプルとして使用し、1.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は97nm、電気伝導度の平均値は20000S/cm、厚みの平均値は2.2μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例79)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/2/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.6μmのポリイミド膜をサンプルとして使用し、1.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は95nm、電気伝導度の平均値は20000S/cm、厚みの平均値は2.1μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例80)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/1/3の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.6μmのポリイミド膜をサンプルとして使用し、10.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は105nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は2.2μmであった。ポリイミドの組成を変えても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例81)
ポリイミド膜の平均厚さを1.3μmとし、1.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は85nm、電気伝導度の平均値は11000S/cm、厚みの平均値は0.4μmであった。ポリイミド膜を薄くしても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例82)
実施例18と同様にして、イミド化促進剤は加えずにスピンコート法により得た平均厚み0.1μmの直径10cmの円形のポリイミド膜を用い、0.5kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は99nm、電気伝導度の平均値は9000S/cm、厚みの平均値は0.03μmであった。ポリイミド膜を薄くしても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例83)
実施例18と同様にして、イミド化促進剤は加えずにスピンコート法により得た平均厚み0.05μmの直径10cmの円形のポリイミド膜を用い、10.0kgf/cm2の圧力でプレスした以外は、実施例66と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は98nm、電気伝導度の平均値は10000S/cm、厚みの平均値は0.01μmであった。ポリイミド膜を薄くしても良好な結果が得られることが分かった。
(実施例84)
実施例6と同様にして、平均厚み15.7μm、直径10cmの円形のポリイミド膜を得た。これを、黒鉛製ガスケットに挟み込み、電気炉を用いて窒素ガス雰囲気中、5℃/分の速度で950℃まで昇温し、950℃で10分間保ったのち自然冷却させ、ポリイミド膜を炭素化した。得られた炭素化膜を、12cm角の正方形のグラッシーカーボン製平面基板2枚を、1辺同士だけ接触させ、蝶番状に斜めに配置したものの間に挟みこんだ(図19)。このグラッシーカーボン製平面基板2枚で炭素化膜を挟みこんだものを、プレス機能付き電気炉で黒鉛化した。黒鉛化は、アルゴンガス雰囲気中で5℃/分の速度で2800℃まで昇温し、2800℃で20分間保ったのち自然冷却させることにより行った。2800℃到達時から20分間、炭素化膜を2枚の正方形のグラッシーカーボン製平面基板に挟んだものを、12cm角の正方形を面積の基準として、15.0kgf/cm2の圧力でプレスした。その際、蝶番状に斜めに配置した上側のグラッシーカーボン製平面基板の、蝶番状に接しているのとは反対側の辺が、プレスによって下側に向かって動くスピードが1mm/秒となるようにした。その結果、得られた黒鉛膜の中心から切り出した直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は118nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は6.3μmであった。平面基板同士の間でプレスすることでも、黒鉛膜のシワを効果的に低減することができる。
(実施例85)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/2/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.6μmのポリイミド膜を用い、プレスの圧力を0.2kgf/cm2とした他は、実施例84と同様の実験を行った。その結果、得られた直径5cmの円形の黒鉛膜のRaの最大値は91nm、電気伝導度の平均値は17000S/cm、厚みの平均値は2.1μmであった。平面基板同士の間でプレスすることでも、黒鉛膜のシワを効果的に低減することができる。
(実施例86)
実施例1と同様にして10cm角の正方形で、平均厚み15.5μmのポリイミド膜を得た。このポリイミド膜を100枚重ね、ポリイミド膜の間には黒鉛粉をまぶして離形層とした(図14)。100枚重ねたポリイミド膜を等方性黒鉛(CIP材)の板で両面から挟みこんで、50.0kgf/cm2の圧力で膜面と垂直方向にプレスした状態を保ちつつ、実施例1と同様の昇温条件にて炭素化、黒鉛化を行った。ポリイミド膜と等方性黒鉛板の間にも黒鉛粉をまぶして離形層とした。その後、得られた100枚の黒鉛膜を剥離して1枚ずつ観察したところ、等方性黒鉛(CIP材)の板に最も近い2枚の黒鉛膜の表面には等方性黒鉛(CIP材)の板の表面の凹凸が転写されていたが、他の98枚の黒鉛膜は目視で殆ど違いは無かった。一方の等方性黒鉛(CIP材)の板側から数えて5枚目の黒鉛膜から中心の5cm角の部分を切り取った正方形の黒鉛膜について、実施例1と同様に各種測定を行った。その結果、Raの最大値は85nm、電気伝導度の平均値は15000S/cm、厚みの平均値は7.4μmであった。黒鉛膜の密度は1.84g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例87)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、平均厚み4.6μmのポリイミド膜を使用し、ポリイミド膜同士の間およびポリイミド膜と等方性黒鉛板の間には方眼紙を1枚ずつ挟みこんで離形層とし、プレスの圧力を1.0kgf/cm2とした他は、実施例86と同様の実験を行った。得られた100枚の黒鉛膜を剥離して1枚ずつ観察したところ、等方性黒鉛(CIP材)の板に最も近い2枚の黒鉛膜の表面には等方性黒鉛(CIP材)の板の表面の凹凸が転写されていたが、他の98枚の黒鉛膜は目視で殆ど違いは無かった。一方の等方性黒鉛(CIP材)の板側から数えて5枚目の黒鉛膜から中心の5cm角の部分を切り取った正方形の黒鉛膜について、実施例1と同様に各種測定を行った。その結果、Raの最大値は80nm、電気伝導度の平均値は15000S/cm、厚みの平均値は1.8μmであった。黒鉛膜の密度は1.82g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例88)
実施例1と同様にして、10cm角の正方形で平均厚み15.5μmのポリイミド膜と、10cm角の正方形で平均厚み55.0μmの自己支持性ポリイミド基板を得た。このポリイミド膜100枚と自己支持性ポリイミド基板101枚を交互に重ね、ポリイミド膜と自己支持性ポリイミド基板の間にはミシンオイルを塗布して離形層とした(図15)。ポリイミド膜と自己支持性ポリイミド基板の積層体を、等方性黒鉛(CIP材)の板で両面から挟みこんで、25.0kgf/cm2の圧力で膜面と垂直方向にプレスした状態を保ちつつ、実施例1と同様の昇温条件にて炭素化、黒鉛化を行った。自己支持性ポリイミド基板と等方性黒鉛板の間にも、ミシンオイルを塗布して離形層とした。その後、得られた100枚の黒鉛膜を剥離して1枚ずつ観察したところ、等方性黒鉛(CIP材)の板に最も近い2枚の黒鉛膜の表面には少しのシワや破れが見られたが、他の98枚の黒鉛膜は特にシワや破れはなく、目視で殆ど違いは無かった。一方の等方性黒鉛(CIP材)の板側から数えて5枚目の黒鉛膜から中心の5cm角の部分を切り取った正方形の黒鉛膜について、実施例1と同様に各種測定を行った。その結果、Raの最大値は48nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は7.4μmであった。黒鉛膜の密度は1.89g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例89)
実施例1と同様にして、10cm角の正方形で平均厚み15.4μmのポリイミド膜を得た。また実施例7と同様にピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、10cm角の正方形で平均厚み75.2μmの自己支持性ポリイミド基板を得た。このポリイミド膜100枚と自己支持性ポリイミド基板101枚を交互に重ね、ポリイミド膜と自己支持性ポリイミド基板の間にはポリスチレン微粒子を塗布して離形層とした。ポリイミド膜と自己支持性ポリイミド基板の積層体を、等方性黒鉛(CIP材)の板で両面から挟みこんで、0.03kgf/cm2の圧力で膜面と垂直方向にプレスした状態を保ちつつ、実施例1と同様の昇温条件にて炭素化、黒鉛化を行った。自己支持性ポリイミド基板と等方性黒鉛板の間にも、ポリスチレン微粒子を塗布して離形層とした。その後、得られた100枚の黒鉛膜を剥離して1枚ずつ観察したところ、等方性黒鉛(CIP材)の板に最も近い2枚の黒鉛膜の表面には少しのシワや破れが見られたが、他の98枚の黒鉛膜は特にシワや破れはなく、目視で殆ど違いは無かった。一方の等方性黒鉛(CIP材)の板側から数えて5枚目の黒鉛膜から中心の5cm角の部分を切り取った正方形の黒鉛膜について、実施例1と同様に各種測定を行った。その結果、Raの最大値は37nm、電気伝導度の平均値は17000S/cm、厚みの平均値は7.5μmであった。黒鉛膜の密度は1.90g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例90)
実施例7と同様にピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて作製した、10cm角の正方形で平均厚み4.5μmのポリイミド膜を得た。実施例1と同様にして、10cm角の正方形で平均厚み55.0μmの自己支持性ポリイミド基板を得た。このポリイミド膜100枚と自己支持性ポリイミド基板101枚を交互に重ね、ポリイミド膜と自己支持性ポリイミド基板の間には不織布を1枚ずつ挿入して離形層とした。ポリイミド膜と自己支持性ポリイミド基板の積層体を、等方性黒鉛(CIP材)の板で両面から挟みこんで、10.0kgf/cm2の圧力で膜面と垂直方向にプレスした状態を保ちつつ、実施例1と同様の昇温条件にて炭素化、黒鉛化を行った。自己支持性ポリイミド基板と等方性黒鉛板の間にも不織布を1枚ずつ挿入して離形層とした。その後、得られた100枚の黒鉛膜を剥離して1枚ずつ観察したところ、等方性黒鉛(CIP材)の板に最も近い2枚の黒鉛膜の表面には少しのシワや破れが見られたが、他の98枚の黒鉛膜は特にシワや破れはなく、目視で殆ど違いは無かった。一方の等方性黒鉛(CIP材)の板側から数えて5枚目の黒鉛膜から中心の5cm角の部分を切り取った正方形の黒鉛膜について、実施例1と同様に各種測定を行った。その結果、Raの最大値は143nm、電気伝導度の平均値は14000S/cm、厚みの平均値は1.9μmであった。黒鉛膜の密度は1.85g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例91)
実施例7と同様にピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて、10cm角の正方形で平均厚み4.5μmのポリイミド膜と、10cm角の正方形で平均厚み75.2μmの自己支持性ポリイミド基板を得た。このポリイミド膜100枚と自己支持性ポリイミド基板101枚を交互に重ね、ポリイミド膜と自己支持性ポリイミド基板の間にはダイヤモンド粉を塗布して離形層とした。ポリイミド膜と自己支持性ポリイミド基板の積層体を、等方性黒鉛(CIP材)の板で両面から挟みこんで、0.05kgf/cm2の圧力で膜面と垂直方向にプレスした状態を保ちつつ、実施例1と同様の昇温条件にて炭素化、黒鉛化を行った。自己支持性ポリイミド基板と等方性黒鉛板の間にも、ダイヤモンド粉を塗布して離形層とした。その後、得られた100枚の黒鉛膜を剥離して1枚ずつ観察したところ、等方性黒鉛(CIP材)の板に最も近い2枚の黒鉛膜の表面には少しのシワや破れが見られたが、他の98枚の黒鉛膜は特にシワや破れはなく、目視で殆ど違いは無かった。一方の等方性黒鉛(CIP材)の板側から数えて5枚目の黒鉛膜から中心の5cm角の部分を切り取った正方形の黒鉛膜について、実施例1と同様に各種測定を行った。その結果、Raの最大値は21nm、電気伝導度の平均値は15000S/cm、厚みの平均値は1.7μmであった。黒鉛膜の密度は1.92g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
(実施例92)
実施例8と同様にピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/2/2の割合で合成したポリアミド酸の18重量%のDMF溶液を用いて、10cm角の正方形で平均厚み1.8μmのポリイミド膜を得た。実施例1と同様にして、10cm角の正方形で平均厚み55.0μmの自己支持性ポリイミド基板を得た。このポリイミド膜100枚と自己支持性ポリイミド基板101枚を交互に重ね、ポリイミド膜と自己支持性ポリイミド基板の間にはワセリンを塗布して離形層とした。ポリイミド膜と自己支持性ポリイミド基板の積層体を、等方性黒鉛(CIP材)の板で両面から挟みこんで、5.0kgf/cm2の圧力で膜面と垂直方向にプレスした状態を保ちつつ、実施例1と同様の昇温条件にて炭素化、黒鉛化を行った。自己支持性ポリイミド基板と等方性黒鉛板の間にも、ワセリンを塗布して離形層とした。その後、得られた100枚の黒鉛膜を剥離して1枚ずつ観察したところ、等方性黒鉛(CIP材)の板に最も近い2枚の黒鉛膜の表面には少しのシワや破れが見られたが、他の98枚の黒鉛膜は特にシワや破れはなく、目視で殆ど違いは無かった。一方の等方性黒鉛(CIP材)の板側から数えて5枚目の黒鉛膜から中心の5cm角の部分を切り取った正方形の黒鉛膜について、実施例1と同様に各種測定を行った。その結果、Raの最大値は51nm、電気伝導度の平均値は18000S/cm、厚みの平均値は0.7μmであった。黒鉛膜の密度は1.90g/cm3であり、内部に空隙が殆ど無い緻密な黒鉛膜が得られたことが分かる。
上記の実施例と比較例のまとめを以下に示しておく。
本発明は、小型、薄型の電気伝導体、熱伝導材料、Thermal Interface Materials(TIM)、耐熱シール材、ガスケット、発熱体、Micro Electro Mechanical Systems(MEMS)の構成材料として有用な表面平滑性の高い黒鉛膜(単独の黒鉛膜)を提供するのに利用できる。
7a、8a、9a、10a、11a、12a、13a、14a、15a、16a、17a、18a,19a 高分子膜
1a、1b、1c、2a、4a、5a、6a、7c、13d、16c、17c 黒鉛膜

Claims (24)

  1. 厚み10nm〜12μm、面積5×5mm2以上、電気伝導度8000S/cm以上、表面の算術平均粗さRaが200nm以下であることを特徴とする、単独の黒鉛膜。
  2. TEMによる断面観察によって黒鉛膜面に平行なグラフェンが隙間なく積み重なった層状構造である、請求項1に記載の黒鉛膜。
  3. SEMによる断面観察によって黒鉛膜面に平行な空隙のない層状構造を有する、請求項1又は2に記載の黒鉛膜。
  4. 厚み10nm〜12μm、面積5×5mm2以上、電気伝導度8000S/cm以上であり、
    TEM断面像及び/又はSEM断面像で平坦なグラフェンの隙間の無い積層構造が観察され、この平坦積層部分の算術平均粗さRaが200nm以下であることを特徴とする、単独の黒鉛膜。
  5. 厚み30nm以上、面積30×30mm2以上、電気伝導度16000S/cm以上、及び表面の算術平均粗さRa100nm以下から選ばれる少なくとも1つを有する、請求項1〜4のいずれかに記載の黒鉛膜。
  6. 高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
    この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を炭素化、または黒鉛化、あるいは炭素化および黒鉛化を行う際に、膜面方向の寸法を規定する事により黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
  7. 炭素化の際に最終的に規定する膜面方向の寸法が、元の高分子膜を寸法規定せずに自然に収縮できる状態で炭素化した場合に得られる炭素化膜の膜面方向の寸法の100.2%〜112%である、請求項6に記載の黒鉛膜の製造方法。
  8. 炭素化の際に最終的に規定する膜面方向の寸法が、元の高分子膜の膜面方向の寸法の75%〜87%である、請求項7に記載の黒鉛膜の製造方法。
  9. 高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
    この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を炭素化、または黒鉛化、あるいは炭素化および黒鉛化を行う際に、膜面方向に引っ張る力を加える事により黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
  10. 炭素化時に膜面方向に引っ張る力が、高分子膜の総断面積あたりの引っ張る力の合計として、8gf/mm2〜180gf/mm2の範囲である、請求項9に記載の黒鉛膜の製造方法。
  11. 黒鉛化時に膜面方向に引っ張る力が、高分子膜の総断面積あたりの引っ張る力の合計として、8gf/mm2〜1500gf/mm2の範囲である、請求項9に記載の黒鉛膜の製造方法。
  12. 高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
    この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を自己支持性の基上に塗布し、一体化した状態で炭素化、あるいは炭素化と黒鉛化の両方を行う事により黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
  13. 前記自己支持性の基板の融点が1000℃以上であり、前記高分子膜を前記自己支持性の基板と一体の状態で950℃以上に加熱する、請求項12に記載の黒鉛膜の製造方法。
  14. 高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
    この炭素化・黒鉛化工程は、厚み20nm〜40μmの高分子膜を複数枚積層し、膜面方向に垂直な方向から30°以内の方向に0.5kgf/cm 2 以上、4kgf/cm 2 以下の圧力を加圧した状態で、炭素化、あるいは炭素化と黒鉛化の両方を行う事により黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含み、
    黒鉛化後、得られた複数枚の黒鉛膜を一枚づつ剥離することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
  15. 前記高分子膜を複数枚積層する時に、各高分子膜の間に離形層を介在させる、請求項14に記載の黒鉛膜の製造方法。
  16. 前記自己支持性の基板が高分子素材であり、該自己支持性高分子基板の厚さが前記高分子膜よりも厚く、前記高分子膜を前記自己支持性高分子基板と一体の状態で2500℃以上に加熱する、請求項12に記載の黒鉛膜の製造方法。
  17. 高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
    この炭素化・黒鉛化工程は、高分子素材で形成されかつ前記高分子膜よりも厚い自己支持性の高分子基板を複数枚用い、これら自己支持性高分子基板の間に高分子膜を挟んで積層し、膜面に対して垂直方向から30°以内の方向に0.5kgf/cm 2 以上、4kgf/cm 2 以下の圧力をかけながら炭素化、黒鉛化を行う事を特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
  18. 前記自己支持性基板と前記高分子膜の間に離形層を介在させる、請求項16又は7に記載の黒鉛膜の製造方法。
  19. 高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
    この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を、この高分子膜より自己支持性の強い高分子フィルムの枠と一体化した状態で炭素化と黒鉛化の両方を行う事により表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
  20. 高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
    この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を予め炭素化あるいは黒鉛化したものと、この高分子膜より自己支持性の強い高分子フィルムの枠を予め炭素化あるいは黒鉛化したものを、前記高分子膜の炭素化あるいは黒鉛化の後に一体化させ、炭素化と黒鉛化の両方、あるいは黒鉛化を行う事により黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
  21. 高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
    この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を黒鉛化する際に、2200℃以上にて少なくとも曲面基板1枚を含む2枚の基板の間に挟んだ状態で曲面基板が平板状あるいは平板状に近い形状に変形するまでプレスする事により、黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
  22. 高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
    この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を黒鉛化する際に、2200℃以上にて2枚の曲面基板の間に挟んだ状態で曲面基板が平板状あるいは平板状に近い形状に変形するまでプレスする事により、黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
  23. 高分子膜を炭素化、黒鉛化することにより黒鉛膜を得る工程を含み、
    この炭素化・黒鉛化工程は、高分子膜を黒鉛化する際に、2200℃以上にて、一部のみを接触させた2枚の平行でない平面基板同士の隙間に挟み、プレス開始後に徐々に2枚の平面基板を平行にしつつ2枚の平面基板同士の隙間を無くすようにプレスする事により、黒鉛膜の表面の算術平均粗さRaを小さくするプロセスを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
  24. 前記炭素化・黒鉛化工程で2枚の基板の間に高分子膜を挟むとき、これら基板と高分子膜の間に離形層を介在させる、請求項2123のいずれかに記載の黒鉛膜の製造方法。
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