JP6353262B2 - 多層グラフェンの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は高品質で大面積の多層グラフェンおよびその製造方法に関し、特に極めて高品質な多層グラフェンの大量製造法に関する。
近年、多層グラフェンは種々の優れた電気的特性、熱的特性、あるいは光学的特性を有するため、エレクトロニクス分野を始めとする広範な分野での利用が期待されている。多層グラフェンを製造する方法としてはグラファイトからの機械的剥離法、グラファイトを原料とした化学的剥離法、銅やニッケルなどの金属基板上へのCVD(Chemical Vapor Deposition、化学蒸着)法、等が知られている。
このうち、グラファイトからの機械的剥離法は、HOPG(Highly Oriented Pyrolytic Graphite) などの高品質グラファイト母材からスコッチテープなどを用いてグラファイト層を剥離する方法であり、きわめて高品質の多層グラフェンを得ることができる。しかしながら、この方法ではグラファイト母材のどの部分で層間剥離が起きるか分からないために、厚さの異なるいろいろな多層グラフェンが剥離される事になる。図1(a)にはこの様な状況のイメージを示す。さらに、この方法で得られる多層グラフェンは極めて面積が小さく、その大きさはマイクロメートル(以下、μmと記載)のオーダーであり、工業的な製造法と呼べるものではない。
一方、グラファイトを原料として用いた化学的剥離法はグラファイト結晶から多層グラフェンを化学的、あるいは電気化学的な手法で剥離する方法であって、通常液体中で作製される。この方法では大量の多層グラフェンが得られるが、剥離の際にグラファイト層にダメージを与える事が避けられず、結果として高品質の多層グラフェンを得ることは難しい。例えばこの方法ではHOPGから剥離されたグラフェンと比較して電気伝導度は2桁以上低い事が知られている。また剥離の際に多層グラフェンが細かく破壊されるため、得られる試料は粉末状となり、大面積の試料を得ることはできない。
CVD法は所定の条件下で、銅やニッケルなどの金属基板上にメタン等の炭素源を含むガスを接触させることによって、その基板上に多層グラフェンを形成する手法である。この方法では大面積の多層グラフェンが比較的容易に得られると言う特徴がある。しかし、CVD法には以下に述べる幾つかの問題点がある。その第一は、金属基板上に形成される第1層目のグラフェンと、その上に形成される2層目以降のグラフェンとの品質が異なるという点である。それは、CVD法では炭素源が、金属基板上に先に形成されたグラフェン層の上に堆積されるので、単層グラフェンの上に積み重なった炭素源には金属基板の触媒作用が働きにくくなるため、金属基板から2層目以上のグラフェン層は、金属基板から離れた層ほど格子欠陥が多く特性が悪くなる。図1(b)にはこの様な状況のイメージを示す。例えば、銅基板上にCVD法でグラフェンを製造する場合、高品質の単層グラフェンは製造されるが、3〜4層以上の高品質多層グラフェンを製造することは難しい。また、ニッケル基板を用いた場合には1〜10層程度のグラフェンが製造されるが、グラフェン層の格子欠陥は銅基板を用いた場合よりも多い傾向にあり、特に10層以上の場合は、子の傾向が強い。このように、CVD法で得られる多層グラフェンの特性は、HOPGからの機械的剥離法によって得られる多層グラフェンの特性に比べて劣る傾向にある。例えば、CVD法で得られる多層グラフェンの電気伝導度やキャリア移動度の大きさは、HOPGからの剥離法によって得られる多層グラフェンに比べて1桁以上劣っている事が知られている。
CVD法による多層グラフェン製造方法の第二の問題点は、基板からの剥離の際に生じる品質劣化である。多層グラフェンを透明導電体や導電体、半導体などの電子デバイス材料として利用する場合、金属基板から剥離する必要がある。例えば透明導電体として使用する場合には、透明ガラスや透明高分子フィルムと多層グラフェンとを接着後、金属基板をエッチングで除去する等が必要となる。このような例として熱CVD法によって銅基板上に形成されたグラフェン層を、エッチングによる銅基板の除去を含む方式によって透明高分子フィルムに転写させる方法が報告されている(非特許文献1)。一方で金属基板から多層グラフェンを直接透明高分子フィルムに転写する事が出来れば、製造プロセス的に、より有効である。この様な試みとして、例えば、ニッケル基板上に形成された多層グラフェンを、直接ニッケル基板から剥離する方法が報告されている(非特許文献2)。しかし直接剥離の際にどうしてもグラフェン層に欠陥が生じるため、現在CVD法で作製されたグラフェン層を品質劣化なく金属基板から直接剥離する技術は確立されていない。
Sukang Bae et. al., Roll-to-roll production of 30-inch graphene films for transparent electrodes, Nature Nanotechnology, Volume:5, p.574-578, 2010 K. Yoo, et. al., Direct physical exfoliation of few-layer graphene from graphite grown on a nickel foil using polydimethylsiloxane with tunable elasticity and adhesion. Nanotechnology Volume:24, p.205302, 2013.
本発明は上記の多層グラフェン製造法の問題点を解決するためになされたものであって、低コストで大面積の高品質多層グラフェン、およびその製造方法に関し、特に多層グラフェンにおいて、グラフェン層の数が増えても各グラフェン層の品質が低下しない、きわめて高品質の多層グラフェンの製造方法に関する。

本発明者らは上記課題に鑑み、優れた物性値を有する多層グラフェンを製造する方法を鋭意検討した。その結果、人工的に作製された高品質グラファイトを、ニッケルや鉄などの特定の金属の基板、あるいは少なくともそれらの特定の金属の元素を含む合金基板で挟み、加熱しながら圧力を印加する事により、高品質グラファイトから2〜50層の、層数範囲が均一な多層グラフェンを効率よく金属基板上に形成出来る事を発見し本発明を成すに至った。
具体的には、本発明者らは以下の発明を提供する。
(1)金属基板とグラファイトを積層し、加熱下において圧力印加を行う事により、該金属基板表面にグラファイト表面から多層グラフェンを剥離・形成する事を特徴とする多層グラフェンの製造方法である。
(2)多層グラフェンが、2層以上、50層以下の多層グラフェンである、(1)記載の多層グラフェンの製造方法である。
(3)多層グラフェンが5mm角以上のサイズであり、面内位置によるグラフェン層数のばらつきが5層以下の多層グラフェンである、(2)記載の多層グラフェンの製造方法である。
(4)金属基板の金属が、ニッケル、鉄、アルミニウム、コバルト、モリブデン、タンタル、あるいは少なくともこれらの金属元素の1種類を5重量%以上含む合金の中から選択された事を特徴とする、(1)記載の多層グラフェンの製造方法である。
(5)加熱温度が、用いられる金属の融点以下であり、ニッケルの場合には750℃以上、鉄の場合には500℃以上、アルミ二ウムの場合には600℃以上、ステンレスの場合には800℃以上、コバルトの場合には900℃以上、モリブデンの場合には1500℃以上、タンタルの場合には2000℃以上である事を特徴とする、(1)記載の多層グラフェンの製造方法である。
(6)印加圧力の大きさが、0.2kgf/cm〜200kgf/cmの範囲である、(1)記載の多層グラフェンの製造方法である。
(7)グラファイトが、グラファイトa−b面方向の電気伝導度が10000S/cm以上である事を特徴とする、(1)に記載の多層グラフェンの製造方法である。
(8)グラファイトが、高分子フィルムを2400℃以上の温度で熱処理して得られたグラファイトフィルムである事を特徴とする、(1)に記載の多層グラフェンの製造方法である。
(9)(1)に記載の方法で金属基板表面に転写された多層グラフェンを、金属基板をエッチングにより除去する事により単離する工程を含む事を特徴とする、多層グラフェンの製造方法である。
(10)(1)に記載の方法で金属基板表面に転写された多層グラフェンを、粘着/接着機能を有する高分子フィルムを用いて金属基板表面から剥離する工程を含む事を特徴とする、多層グラフェンの製造方法である。
本発明の多層グラフェンの製造方法は、高品質グラファイトから特定の金属基板を用いて2層以上、50層以内の高品質多層グラフェンを製造する方法である。本発明の方法は大面積多層グラフェンを低コストで大量に製造する事ができ、得られる多層グラフェンは極めて高い電気伝導度、熱伝導度、キャリア移動度等の優れた特性を有する。
(a)グラファイト結晶からスコッチテープなどを用いて剥離した場合に得られる多層グラフェンのイメージ図、(b)銅基板などの上にCVD法を用いて作製した多層グラフェンのイメージ図、(c)本発明の方法によるグラファイトから剥離した多層グラフェンのイメージ図。 本発明の一実施形態におけるグラフェン製造工程。(a)グラファイトフィルム、(b)金属基板、(c)積層した状態での加熱・加圧処理、(d)加熱・加圧処理後の金属基板、(e)(d)の部分拡大図、(f)剥離された多層グラフェン、(g)金属基板のエッチング除去により単離された多層グラフェン、(h)接着性を付与した高分子フィルム上等の上に剥離・形成された多層グラフェン。 多層グラフェンサンプル(2.5cm角)における5箇所のレーザーラマン顕微鏡および可視光線透過率の測定点(丸印)。 グラファイトフィルム/ニッケル箔の積層体を1100℃、圧力:5kgf/cmで30分間処理後にニッケル基板上に剥離された多層グラフェンのレーザーラマンスペクトル。 グラファイトフィルム/ニッケル箔積層体を1100℃、圧力0.1kgf/cmの条件下、30分間処理後のニッケル基板表面の顕微鏡写真。圧力が十分でないため、(a)多層グラフェンが剥離された部分、(b)ニッケル基板が露出している部分、(c)グラファイトの塊部分、が観察される。なお、写真中の石垣状の模様はニッケル金属の結晶ドメインを示している。
本発明の一実施形態について、以下に詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得るものである。
<グラフェン>
本明細書において、グラフェンとはベンゼン環構造が二次元的につながった、六角網面状の炭素原子1原子分の厚さのシートをいう。具体的には、グラフェンはグラファイトの形態の2次元結晶であり、その中で原子は六角形構造の規則的秩序に従って配置されている。その厚みは炭素原子の厚みに相当し、結果的に1ナノメートル(nm)未満の厚みとなる。グラフェンは、平面状六角形格子の形態であり、各炭素原子が3つの炭素原子に結合されている。その結果、化学結合に用いられる4つの外殻電子のうち1つの電子は自由に動ける状態になっており、これらの自由電子は、結晶格子に沿って移動することができるためグラフェンは面方向に高い電気伝導度を有している。
<多層グラフェン>
本明細書において多層グラフェンとは、グラフェンを複数層有するものをいい、グラファイト超薄膜とも言えるものである。特に本発明が提供するのは2層以上50層以下のグラフェン層を有する多層グラフェンである。
<多層グラフェン剥離に供するグラファイト母材>
本発明に用いられる多層グラフェン剥離に供される高品質グラファイト母材としては特に制限はないが、グラファイト母材の品質が高いほど高品質な多層グラフェンが得られる。したがって、出来る限り高品質のグラファイトである事が好ましい。ここで高品質とは、グラファイト結晶中の欠陥が少なく、結果的に高電気伝導度、高キャリヤ移動度、高熱伝導度などの優れた特性を発現するものである。
具体的な特性として、グラファイトの品質を評価するための一つの有効な指標である、グラファイトフィルム面方向(a‐b面方向)の電気伝導度の値で記載すると、本発明で用いるグラファイト母材としては、10000S/cm以上である事が好ましく、14000S/cm以上である事はより好ましく、16000S/cm以上である事は最も好ましい。フィルム面方向の電気伝導度が大きい事は、グラファイト層構造が2次元的に欠陥が少なく発達している事を示しており、高品質で、グラファイト結晶からの均一なグラフェン層数の剥離が起こり易い事も意味している。
グラファイト母材として、本発明の多層グラフェン剥離に好ましく用いられるものとしては、HOPG,キッシュグラファイト、エキスパンド法により得られるグラファイトフィルム、高分子熱処理法により得られる高品質グラファイトフィルム、などがある。これらは市販品として入手が可能である。HOPGやキッシュグラファイトは大面積では得られないが、高品質多層グラフェンを得るための本発明のグラファイト母材として好ましい。エキスパンド法は天然グラファイトを濃硫酸と濃硝酸の混合液に浸漬し、その後に急激に加熱することによって天然グラファイト層間を膨張させる方法であり、膨張した天然グラファイトはその後洗浄によって酸が除去された後に、高圧プレスよってフィルム状に加工される。この方法で得られるグラファイトフィルムは、以下に述べる高分子熱処理法によって得られるグラファイトフィルムに比べると、剥離される多層グラフェンの品質が劣る傾向にあるが、大面積フィルムとして入手が可能であり、本発明のグラファイト母材として好ましく用いられる。
<高分子熱処理法によるグラファイトフィルム>
これに対して特に、ポリイミドなどの特殊な高分子フィルムを2400℃以上の温度で炭素化・グラファイト化して得られる高品質グラファイトフィルムは、(1)大面積で得られる事、(2)厚さ方向にもフィルム面方向にも極めて均一である事、(3)HOPGに匹敵するほど高品質である事、(4)金属基板と高品質グラファイトフィルムを多層に積層する事により大量の多層グラフェン製造が可能になる事、などの理由から、本発明の多層グラフェン製造のために用いる高品質グラファイト母材として特に好ましい。
高分子熱処理法に使用される高分子フィルムとしては、ポリオキサジアゾール、芳香族ポリイミド、ポリフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリチアゾール、ポリアミドなどのフィルムを例示できる。中でも芳香族ポリイミド類は最も好ましい高分子フィルムである。高分子熱処理法は単結晶グラファイトに近い、優れた熱伝導度や電気伝導度を持つグラファイトが作製できるという特徴がある。しかもグラファイトが大面積のフィルム状として得られるので、本発明の目的に使用されるグラファイト作製方法として好ましい。
<金属基板>
本発明では、上記グラファイト母材と特定の金属基板を配置・積層し、加熱・加圧することにより、金属基板上に多層グラフェンを剥離・形成する。本発明に用いる特定の金属とは、ニッケル、鉄、アルミ二ウム、コバルト、モリブデン、タンタルであり、特にニッケル、鉄は好ましく用いられる。なお本発明において、構成成分の99重量%以上が上記金属元素である純金属基板は好ましく用いられる。また、前記金属元素の1種類が5重量%以上含まれる合金基板も好ましく用いることができる。従って、これらの金属を1種類以上含むステンレスなどの合金基板は本発明のために好ましく用いられる。また、炭素、シリコン、ホウ素、ベリリウムのうちの一つあるいは複数を含む上記金属基板も本発明に好ましく用いることができる。
<合金基板>
本発明においては、例えばニッケル−クロム−鉄から成るオーステナイト系ステンレス、クロム−鉄からなるステンレス、あるいは上記金属元素を含む銅合金、ニッケル合金などは本発明に好ましく用いられる。また、銅合金の場合、銅75%−ニッケル25%からなる白銅、洋白、アルミニウム青銅、などはいずれも本発明に好ましく用いられる。
また、本発明のグラフェンの製造方法において用いる金属基板の表面粗さは出来る限り平坦である事が好ましく、表面研磨により凹凸を小さくする事が好ましい。具体的には機械的研磨や電解研磨などの方法により、上記金属基板の表面粗さ(Ra)を4μm以下にする事が好ましく、2μm以下である事はより好ましく、1μm以下である事は最も好ましい。これにより製造過程において印加される圧力を基板上で一定にする事が出来、グラファイト母材から均一な厚さの多層グラフェンの剥離が可能となる。また、形成された多層グラフェンを金属基板から直接剥離しやすい、という観点からも、金属基板表面の凹凸は小さい事が好ましい。
剥離に用いる金属基板の厚さについては特に制限はないが、金属基板をエッチングにより取り除く場合には薄い方が好ましい。1μm〜50μmの範囲の鉄箔、ニッケル箔などは本発明のための金属基板として好ましく用いられる。場合によっては、金属薄膜をスパッタリングや蒸着などの方法でグラファイト母材の表面に形成し、本発明の多層グラフェン剥離・形成プロセスを行い、しかる後に金属薄膜をエッチングにより取り除く事でも良い。
金属基板上とグラファイト母材の間に、炭素−金属結合の生成や、炭素原子の金属基板への固溶・析出といった、多層グラフェンの形成・剥離のために効果的と考えられる作用を発現させるためには、金属基板表面を水素ガスで処理し、あらかじめ表面の有機物や金属酸化物を取り除いておくことが好ましい。金属酸化物や有機物を除く事によって金属表面とグラファイト間の相互作用を大きく、均一にする事ができる。水素ガスによる処理は加熱雰囲気で行う事が望ましく、例えばニッケル基板の場合、減圧下、水素ガス雰囲気中、800℃で5分間処理すれば表面の有機物を取り除く事が出来る。水素ガスによる処理において、水素ガスの流量は、1sccm以上、100sccm以下の範囲内であることが好ましく、2sccm以上、40sccm以下の範囲内であることがより好ましく、3sccm以上、20sccm以下の範囲内であることが特に好ましい。水素ガス流量が小さすぎると、金属酸化物や有機物の除去効果が小さく、大きすぎると金属中に水素が吸収されて金属基板の脆化が起こるなど、好ましくない現象が生じるためである。
<多層グラフェン剥離・形成工程>
本発明では、使用する高品質グラファイトの種類、金属基板の種類、加熱温度、印加圧力などの条件を一定にする事で、層数分布が均一な大面積かつ高品質な多層グラフェンを剥離・形成できる。
本発明ではグラフェン各層の品質が揃った高品質グラファイト母材から剥離を行うので、形成された多層グラフェンの各層の品質は、いずれも均一で優れている。すなわち本発明では、形成される多層グラフェンがその層数が増えるにしたがって特性が低下するという、CVD法で金属箔上に形成されたグラフェンの課題が解決できる。図1に、本発明によって作製された多層グラフェンと、他の方法で作製された多層グラフェンのイメージを示す。
また、本発明において金属基板上に剥離・形成された多層グラフェンと、該金属基板の間の密着力は、CVD法で銅箔などの金属箔上に形成されたグラフェンと金属箔との密着力に比べて小さいため、多層グラフェンを品質低下させずに、金属基板から直接剥離することが可能である。この事は本発明の手法では、CVD法で金属箔上に形成されたグラフェンの課題である、金属基板から物理的剥離する際に起こる品質低下の問題を解決できることを意味する。
具体的なグラファイトフィルムからの多層グラフェン剥離・形成プロセスの一例を図2に示す。図2において(a)はグラファイトフィルム、(b)は金属基板であり、(c)はグラファイトフィルムと金属基板の加熱・加圧処理の際の積層状態の1例を示し、(d)は加熱・加圧処理後の金属基板の状況を示す。また、(e)は加熱・加圧処理後の金属基板の部分拡大図であり、(f)は剥離・転写された多層グラフェン、(g)は金属基板のエッチング除去により単離された多層グラフェン、(h)は接着性を付与した高分子フィルム等の上に剥離・転写された多層グラフェンを示している。
まず、金属基板(b)に接するようにグラファイトフィルム(a)を配置し、本発明の条件で不活性ガス中で加熱しながら圧力を印加する。これにより2層以上50層以下の多層グラフェンが金属基板上に剥離・形成できるようになる。特に、剥離される多層グラフェンが5層以上20層以下の場合に、本発明の方法は好ましい結果を与える。逆に高品質の単層グラフェンの剥離・形成には適さず、逆に層数が50層よりも多いと高精度な層数制御と、きわめて高い品質の実現が、徐々に難しくなる。
この処理においては、金属表面とグラファイト母材表面の間に部分的に金属−炭素結合が生じたり、炭素が一部金属表面と合金を作る形で金属表面中に固溶し、冷却後に再び一部が金属表面に高品質多層グラフェンとして析出等の現象が起こっていると考えられる。本発明に適した金属が先に述べた特定の金属に限られ、これらの金属はいずれも金属炭化物を形成する金属である事から、金属基板表面への多層グラフェンの剥離・形成には、金属−炭素間の相互作用が関与していると考えられる。
金属基板とグラファイト間の金属−炭素結合の多さや、炭素の金属基板中への固溶量は、金属基板の種類と加熱温度、印加圧力によって決定され、これにより剥離・形成される多層グラフェンの層数も決まると考えられる。本発明の方法で、一定の厚さの多層グラフェンが剥離される理由は必ずしも明らかではないが、上記の金属−炭素間の相互作用の及ぶ範囲が金属基板の種類と熱処理条件(加熱温度、加熱時間、印加圧力)により決まるためであると考えられる。
この時、グラファイトと金属基板を交互に積み重ねるのではなく、図2(c)のようにグラファイト/金属基板/金属基板/グラファイト/金属基板/金属基板、の様に積み重ねれば金属基板の片面にのみ多層グラフェン層を形成させる事が出来る。片面にのみ多層グラフェン層が形成された場合には、特にエッチングによる金属基板の除去を容易に行う事が出来る。直接剥離により別の基板に転写する場合には、むろん金属基板の両面に多層グラフェンを形成しても良い。
本発明の多層グラフェンの剥離・形成プロセスにおける加熱は、金属基板の融点以下で行われる。従って、例えば鉄では1538℃以下、ニッケルでは1455℃以下、ステンレスでは約1500℃以下、アルミニウムでは660℃以下、コバルトでは1495℃以下、モリブデンでは2623℃以下、タンタルでは3020℃以下以下が本発明における有効な温度範囲の最大値となる。一方、加熱温度の下限は、グラファイトと金属との間に金属−炭素間の好ましい相互作用が発現する温度で決まると考えられる。種々の検討の結果、例えば鉄の場合には500℃以上、ニッケルの場合には750℃以上、ステンレスの場合には800℃以上、アルミ二ウムの場合には600℃以上、コバルトの場合には900℃以上、モリブデンの場合には2000℃以上、タンタルの場合には1500℃以上の温度で熱処理する事が好ましい事がわかった。各種金属基板における最適温度は基本的には上記の範囲で決められるが、例えば鉄のようにグラファイトとの反応性が高い金属の場合には、グラファイトとの反応が進みすぎるために1300℃以上の温度は好ましくなく、好ましい温度範囲は500℃〜1200℃の間である。また、ニッケルの場合には750℃〜1200℃が、ステンレスの場合には800℃〜1400℃が好ましい温度範囲である。
昇温の速度としては特に制限は無いが、最高温度まで1℃/分〜100℃/分の速度で昇温する事が好ましく、2℃/分〜50℃/分の速度で昇温する事はより好ましい。昇温速度は速すぎると炉内やサンプルの温度分布が不均一になりやすいため均一な層数の多層グラフェンの剥離が難しくなり、遅すぎると生産性が悪くなるので好ましくない。
最高温度では5分間以上加熱することが好ましい。最高温度の時に金属−炭素間の相互作用は最大になると考えられるので、最高温度では一定時間以上の温度保持をすることが好ましいと考えられる。
最高温度で処理後の、降温の速度については特に制限はなく、最高温度に到達後にヒーターの電源を切断し、自然冷却する事でも特に問題はない。
本発明において用いられる圧力は機械的圧力である事が好ましく、圧力は積層されたグラファイト/金属基板の面に対して垂直方向に加える事が好ましい。本発明の加熱処理時に印加される圧力は、金属基板表面とグラファイト表面を均一に接触させて、界面の各位置において同じ強さの金属−炭素間の相互作用を発現させるために必要と考えられる。
この時加えられる圧力の大きさは0.2kgf/cm〜200kgf/cmの範囲である事が好ましく、0.8kgf/cm〜150kgf/cmの範囲である事がより好ましく、1.0kgf/cm〜100kgf/cmの範囲である事がさらに好ましい。同じ加熱温度の場合には、圧力が高いほど形成される多層グラフェンの層数が多くなる傾向にある。これよりも弱い圧力の場合、形成される多層グラフェンの層数が均一でなかったり、穴のある多層グラフェンになることがあり、好ましくない。
また、圧力は熱処理プロセスの全工程で印加していても良く、特定の温度に到達してから印加しても良く、最高温度到達後に印加しても良い。ただし、少なくとも最高温度領域においては加圧する事が好ましい。最高温度の時に金属−炭素間の相互作用は最大になると考えられるので、最高温度にて均一に圧力をかけることが重要であるためと推測される。加圧は連続的な加圧でも良く、断続的な加圧でも良い。
本発明の加熱・加圧処理を行う場合の雰囲気条件は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス中、または真空中で行う事が好ましい。空気中などの酸素が存在する雰囲気下での処理は、グラファイトの焼失や金属基板表面の酸化が起きるため好ましくない。
<グラフェン単離、転写工程>
熱処理、圧力印加を行った後に室温まで冷却する。冷却後、積層したグラファイトフィルム、金属基板を加圧機能のある加熱炉から取り出し剥離する。この際、金属基板とその上に形成された一定層数の多層グラフェンは一体化しており、残りの黒鉛フィルムから容易に剥離することができる。次に金属基板表面の多層グラフェンが形成された側の面を柔らかい布で軽く擦り、余分なグラファイトのかたまりを取り除く事が好ましい。金属基板上に剥離・形成された多層グラフェンは、柔らかい布による摩擦を行う程度では剥がれる事は無く、一定厚さの多層グラフェンを金属基板上に残す事ができる。
本発明の方法によって金属基板上に剥離・形成された多層グラフェンは、エッチングによる金属基板の除去によって単離する事ができる。エッチングの方法は特に制限は無く、鉄基板やニッケル基板は公知の方法で除去する事が出来る。例えば、ニッケル基板のエッチング除去には過酸化水素タイプのエッチング液が好ましく用いられる。エッチング時に発生する泡の影響によって多層グラフェンが損傷する事の無い様に、多層グラフェンが形成された面をエッチング液中で下面になる様に置くなどの工夫をする事が好ましい。
金属基板のエッチング除去後、剥離された多層グラフェンを純水で洗浄する。多層グラフェンは水中、または水面に存在し、その厚さがおよそ20層以上である場合には自立膜としてピンセット等で取り扱う事ができる。一方、およそ20層より薄い場合にはガラスや高分子フィルムなどの基板上に多層グラフェンをすくい上げ、基板つき多層グラフェンとして取り出す事ができる。
本発明による多層グラフェンは、エッチングによる金属基板除去法を用いないで、高分子基板上に直接転写することも可能である。この場合は金属基板上に形成した多層グラフェンに接着/粘着機能を持つ高分子基板を密着させ、その後に金属基板と多層グラフェン間を剥離し、高分子基板上に多層グラフェンを転写する。この時に基本的に剥離は金属基板と多層グラフェンの界面のみで進行し、多層グラフェンの層間での剥離はほとんど起きないために、均一な層数の多層グラフェンの転写が可能である。
金属基板との間で形成された密着力によってグラファイト母材内でのグラファイト層間剥離が出来るのにもかかわらず、多層グラフェンを高分子基板に転写する場合には、金属基板と多層グラフェンの間でのみ剥離が進行する事は、一見矛盾している様に思われる。しかしながら、これは高品質グラファイトフィルムから金属基板を用いて剥離を行う場合には、グラファイトフィルムのうち金属基板から2〜50層以内の特定の層間において、上述の金属−炭素間の相互作用による炭素原子の再配列などの現象のために、特に剥離しやすくなるためと考えられる。すなわち、金属基板から多層グラフェンを剥離・形成する際には、特定のグラファイトフィルム層間が結合力が最も弱く剥離しやすいが、金属基板から多層グラフェンを粘着剤/接着剤を用いて高分子基板などに転写する際には、既に多層グラフェン内の全てのグラフェン層は互いに強固な結合で繋がっているため、相対的に金属−炭素間の界面が最も密着力が弱く、剥離しやすいためと考えられる。
本発明における金属基板上に剥離・形成された多層グラフェンの高分子フィルムへの転写は、高分子フィルムを多層グラフェンの表面に圧着することによって行う。圧着する高分子フィルムの表面には粘着剤や接着剤を塗布して多層グラフェンとの粘着性/接着性を高めておくことが好ましい。高分子フィルムの表面の粘着力/接着力は、金属基板と多層グラフェンとの密着力よりも強くする。これにより、金属基板上の多層グラフェンを金属基板と多層グラフェンの界面で剥離し、多層グラフェンを高分子フィルム上に転写する事ができる。
本発明における転写用の高分子フィルムについては、特に制限はない。好ましく用いる事のできる高分子フィルムの例として、熱硬化型エポキシ接着剤と透明ポリエステルフィルムとからなる2層構造のフィルムを挙げることができる。具体的な熱硬化型エポキシ接着剤の例として、芳香族系エポキシ樹脂ビスフェノールA型や 脂環式エポキシ樹脂3’,4'-エポキシシクロヘキシルメチル−3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(商品名:セロキサイド2012P)などを示す事ができる。これらの硬化剤としては酸無水物系硬化剤が好ましく用いられる。また、イミダゾール系硬化触媒をもちいる事はより好ましい。このような構成の高分子フィルムの接着剤層を金属基板上に形成された多層グラフェンに圧着し、ポリエステル側から赤外線を照射する事によってエポキシ接着剤層を硬化させ、多層グラフェンをエポキシ接着剤層上に転写することが出来る。
本実施形態における多層グラフェン/高分子フィルム積層体は、上記高分子フィルムが透明であり、転写された多層グラフェンが薄い場合には、透明導電フィルムとなる。グラフェンにおける可視光線の透過率は97.7%であるので、多層グラフェンのみの可視光線透過率は、2層グラフェンでは95.5%。3層では93.3%、4層では91.1%、5層では89.0%となる。透明性を利用する応用の場合には、デバイスの目的により多層グラフェンの層数を制御して用いればよい。また、可視光線透過率は剥離・形成された多層グラフェンの層数を推定するための有力な手段となる。
(実施例1)
<ニッケル箔を用いたグラファイトフィルムからの多層グラフェンの剥離・形成>
多層グラフェン剥離に供されるグラファイト母材として、(株)カネカ製のグラファイトフィルム(厚さ25μm、商品名:グラフィニティ)を準備し、これを25mm×25mmの大きさにカットした。このグラファイトフィルムはフィルム面方向に16000S/cmの電気伝導度を有する極めて高品質のグラファイトフィルムである。多層グラフェンの剥離に用いるニッケル基板としてニッケル箔((株)ニラコ、品番NI−313213、厚さ20μm)を準備した。このニッケル箔をエメリー紙をもちいて表面研磨し、その表面凹凸をRaで2μm以下にした。次に、上記グラファイトフィルムとニッケル箔を、ニッケル箔2枚おきにグラファイトフィルム1枚となるように積層し、プレス機能付きの炉にセットした。炉はグラファイトヒーターで加熱する方式の高温炉である。アルゴンガス雰囲気中で加熱しながら加圧した。加熱条件は、室温から1100℃まで20℃/分の速度で昇温し、1100℃に到達後30分保持したのち自然冷却した。加熱中全ての温度領域で加圧し、その圧力は5kgf/cmとした。
加熱・加圧処理終了後にニッケル箔を取り出し、その表面を柔らかい布で軽く擦って、余分のグラファイト粉末を取り除きレーザーラマンスペクトル測定を行った。測定は図3に示すように、サンプルの中心と4隅の4点の、合計5点について行った。5点におけるラマンスペクトルはすべて同じであった。得られたラマンスペクトルを図4に示す。ラマンスペクトルにはグラフェン層構造の乱れに由来するDバンド(通常1300cm−1付近に出現)は全く観察されず、鋭いグラファイトのGバンド(1600cm−1)と左右非対称な2Dバンド(2700cm−1)が観察された。この様なラマンスペクトルが得られたことは、剥離された多層グラフェンが極めて欠陥の少ない高品質なものである事を示している。また。ニッケル基板上の5点のラマンスペクトルが同じであった事から、剥離された多層グラフェンは隅々まで高品質である事が分かった。
次に、ニッケル箔をエッチングにより除去した。エッチングは過酸化水素系のエッチング液(日本化学産業(株)製 ニッケルエッチング液−H)を用いて行った。30℃に保持したエッチング液に、形成された多層グラフェン層が下面になるようにニッケル箔を浸漬した。エッチング処理によりニッケル基板を除去後、エッチング液を除き、多層グラフェンを繰り返し水洗してエッチング液の残渣を取り除いた。水面に浮かんだ単離された多層グラフェンは、自立膜としてピンセットで取り扱うことが出来た。これを石英ガラス上にすくい取り乾燥させた。作製された多層グラフェンの可視光線透過率はおよそ62.7〜60.0%であった。グラフェン1層の可視光線透過率が97.7%である事から、多層グラフェンの層数は20〜22層であり、層数がきわめて均一であることが分かった。
上記にて石英ガラス上に作製された多層グラフェンの面の中心を5mm角に切り出し、4隅に電極を取り付けてvan der Pauw法によって電気伝導度を測定した。その結果、多層グラフェンの面方向(a−b面)の電気伝導度は16000S/cmであった。この事はグラファイトフィルム母材から品質が全く劣化する事無く、多層グラフェンが剥離できた事を示しており、本発明の優位性が証明できた。
(実施例2)
<印加圧力の検討>
加熱処理時の印加圧力の大きさを0.2kgf/cm、2.0kgf/cm、20.0kgf/cm、200.0kgf/cmと変更した以外は、実施例1と同様にしてニッケル箔上に多層グラフェンを形成した。得られた4種のサンプルについて実施例1と同様にしてレーザーラマンスペクトルを測定したところ、4種のサンプルともニッケル箔上の多層グラフェンは隅々まで高品質であった。
4種のサンプルについて、ニッケル箔上に剥離・形成された多層グラフェンに、熱硬化型の透明エポキシ層(芳香族ビスフェノールA型(エピコート828))を備えたPETフィルムを圧着し、120℃で1時間加熱して透明エポキシ層を硬化させた。用いた硬化剤は4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸であり、用いた硬化触媒は2−エチル−4−メチルイミダゾールである。
次に透明エポキシ層を備えたPETフィルムをニッケル箔から剥離した。剥離後のニッケル箔表面のレーザーラマンスペクトル測定を行ったが、全てのサンプルについて多層グラフェンや単層グラフェンに基づくピークは全く見られなかった。すなわち、剥離は完全にニッケル表面と多層グラフェンの間で起こり、多層グラフェンは完全にPETフィルム上に転写できた。
形成された4種の多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、図3のようにサンプルの中心および4隅の4点にて可視光線透過率を測定した値から、使用したPETフィルムの可視光線透過率を差し引いた値は、上記の各印加圧力で得たサンプルに対して、それぞれ79.1〜77.4%、70.6〜67.1%、65.8〜64.1%、36.1〜33.0%であった。これらの値から、多層グラフェンの層数はそれぞれ10〜11層、15〜17層、18〜19層、44〜48層であり、層数がきわめて均一であることが分かった。
また、それぞれの多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、実施例1と同様に面の中心を5mm角に切り出し、4隅に電極を取り付けてvan der Pauw法によって電気伝導度を測定した。それぞれの電気伝導度は15000S/cm、16000S/cm、16000S/cm、15000S/cm、であり、極めて高品質であった。
(実施例3)
<加熱温度の検討>
加熱処理時の最高温度を750℃、800℃、900℃、1000℃、1200℃と変更した以外は、実施例1と同様にしてニッケル箔上に多層グラフェンを形成した。得られた5種のサンプルについて実施例1と同様にしてレーザーラマンスペクトルを測定したところ、5種のサンプルともニッケル箔上の多層グラフェンは隅々まで高品質であった。
次に、5種のサンプルについて実施例2と同様に、多層グラフェンを透明エポキシ層を備えたPETフィルム上に転写した。剥離後のニッケル箔表面のレーザーラマンスペクトル測定を行ったが、いずれのサンプルも多層グラフェンや単層グラフェンに基づくピークは全く見られなかった。すなわち、剥離は完全にニッケル表面と多層グラフェンの間で起こり、多層グラフェンは完全にPETフィルム上に転写できた。
形成された5種の多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、図3のようにサンプルの中心および4隅の4点にて可視光線透過率を測定した値から、使用したPETフィルムの可視光線透過率を差し引いた値は、上記の各最高熱処理温度で得たサンプルに対して、それぞれ95.5〜93.5%、84.9〜79.1%、77.4〜75.7%、67.9〜66.8%であった。これらの値から、多層グラフェンの層数はそれぞれ2〜3層、7〜10層、11〜12層、17層、46〜50層であり、層数がきわめて均一であることが分かった。
また、それぞれの多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、実施例1と同様に面の中心を5mm角に切り出し、4隅に電極を取り付けてvan der Pauw法によって電気伝導度を測定した。それぞれの電気伝導度は16000S/cm、17000S/cm、16500S/cm、16000S/cm、15000S/cmであり、極めて高品質であった。一部のサンプルで元のグラファイトフィルムよりも電気伝導度が高いのは、金属−炭素間の相互作用により多層グラフェン層内の炭素原子の再配列などが起こり、多層グラフェン内の欠陥が一部修復されるなどの高品質化作用が僅かながら発現したためと考えられる。
(実施例4)
<鉄基板の使用>
使用する金属基板を鉄箔((株)ニラコ、品番FE−223278、厚さ20μm)とし、加熱処理時の最高温度を500℃、1200℃と変更した以外は、実施例1と同様にして鉄箔上に多層グラフェンを形成した。得られた2種のサンプルについて実施例1と同様にしてレーザーラマンスペクトルを測定したところ、2種のサンプルとも鉄箔上の多層グラフェンは隅々まで高品質であった。
次に、2種のサンプルについて実施例2と同様に、多層グラフェンを透明エポキシ層を備えたPETフィルム上に転写した。剥離後の鉄箔表面のレーザーラマンスペクトル測定を行ったが、いずれのサンプルも多層グラフェンや単層グラフェンに基づくピークは全く見られなかった。すなわち、剥離は完全に鉄表面と多層グラフェンの間で起こり、多層グラフェンは完全にPETフィルム上に転写できた。
形成された2種の多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、図3のようにサンプルの中心および4隅の4点にて可視光線透過率を測定した値から、使用したPETフィルムの可視光線透過率を差し引いた値は、上記の各最高熱処理温度で得たサンプルに対して、それぞれ91.4〜87.0%、77.2〜72.2%であった。これらの値から、多層グラフェンの層数はそれぞれ4〜6層、11〜14層であり、層数がきわめて均一であることが分かった。
また、それぞれの多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、実施例1と同様に面の中心を5mm角に切り出し、4隅に電極を取り付けてvan der Pauw法によって電気伝導度を測定した。それぞれの電気伝導度は16000S/cm、14500S/cmであり、極めて高品質であった。
(実施例5)
<ステンレス基板の使用>
使用する金属基板をステンレス箔((株)ニラコ、品番753173、SUS304、厚さ10μm)とし、加熱処理時の最高温度を800℃と変更した以外は、実施例1と同様にしてステンレス箔上に多層グラフェンを形成した。得られたサンプルについて実施例1と同様にしてレーザーラマンスペクトルを測定したところ、ステンレス箔上の多層グラフェンは隅々まで高品質であった。
次に、得られたサンプルについて実施例2と同様に、多層グラフェンを透明エポキシ層を備えたPETフィルム上に転写した。剥離後のステンレス箔表面のレーザーラマンスペクトル測定を行ったが、多層グラフェンや単層グラフェンに基づくピークは全く見られなかった。すなわち、剥離は完全にステンレス表面と多層グラフェンの間で起こり、多層グラフェンは完全にPETフィルム上に転写できた。
形成された多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、図3のようにサンプルの中心および4隅の4点にて可視光線透過率を測定した値から、使用したPETフィルムの可視光線透過率を差し引いた値は、70.5〜68.9%であった。この値から、多層グラフェンの層数は15〜16層であり、層数がきわめて均一であることが分かった。
また、得られた多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、実施例1と同様に面の中心を5mm角に切り出し、4隅に電極を取り付けてvan der Pauw法によって電気伝導度を測定した。電気伝導度は15500S/cmであり、極めて高品質であった。
(実施例6)
<アルミニウム基板の使用>
使用する金属基板をアルミニウム箔((株)ニラコ、品番AL−013191、厚さ18μm)とし、加熱処理時の最高温度を600℃と変更した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム箔上に多層グラフェンを形成した。得られたサンプルについて実施例1と同様にしてレーザーラマンスペクトルを測定したところ、アルミニウム箔上の多層グラフェンは隅々まで高品質であった。
次に、得られたサンプルについて実施例2と同様に、多層グラフェンを透明エポキシ層を備えたPETフィルム上に転写した。剥離後のアルミニウム箔表面のレーザーラマンスペクトル測定を行ったが、多層グラフェンや単層グラフェンに基づくピークは全く見られなかった。すなわち、剥離は完全にアルミニウム表面と多層グラフェンの間で起こり、多層グラフェンは完全にPETフィルム上に転写できた。
形成された多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、図3のようにサンプルの中心および4隅の4点にて可視光線透過率を測定した値から、使用したPETフィルムの可視光線透過率を差し引いた値は、86.8〜83.3%であった。この値から、多層グラフェンの層数は6〜8層であり、層数がきわめて均一であることが分かった。
また、得られた多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、実施例1と同様に面の中心を5mm角に切り出し、4隅に電極を取り付けてvan der Pauw法によって電気伝導度を測定した。電気伝導度は14000S/cmであり、極めて高品質であった。
(実施例7)
<コバルト基板の使用>
使用する金属基板をコバルト箔((株)ニラコ、品番CO−103178、厚さ15μm)とし、加熱処理時の最高温度を900℃、1100℃、1300℃、と変更した以外は、実施例1と同様にして鉄箔上に多層グラフェンを形成した。得られた3種のサンプルについて実施例1と同様にしてレーザーラマンスペクトルを測定したところ、3種のサンプルともコバルト箔上の多層グラフェンは隅々まで高品質であった。
次に、3種のサンプルについて実施例2と同様に、多層グラフェンを透明エポキシ層を備えたPETフィルム上に転写した。剥離後のコバルト箔表面のレーザーラマンスペクトル測定を行ったが、いずれのサンプルも多層グラフェンや単層グラフェンに基づくピークは全く見られなかった。すなわち、剥離は完全にコバルト表面と多層グラフェンの間で起こり、多層グラフェンは完全にPETフィルム上に転写できた。
形成された3種の多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、図3のようにサンプルの中心および4隅の4点にて可視光線透過率を測定した値から、使用したPETフィルムの可視光線透過率を差し引いた値は、上記の各最高熱処理温度で得たサンプルに対して、それぞれ81.1〜81.2%、62.9〜61.2%、51.0〜48.5%であった。これらの値から、多層グラフェンの層数はそれぞれ9層、20〜21層、29〜31層であり、層数がきわめて均一であることが分かった。
また、それぞれの多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、実施例1と同様に面の中心を5mm角に切り出し、4隅に電極を取り付けてvan der Pauw法によって電気伝導度を測定した。それぞれの電気伝導度は16500S/cm、16000S/cm、16000S/cmであり、極めて高品質であった。一部のサンプルで元のグラファイトフィルムよりも電気伝導度が高いのは、金属−炭素間の相互作用により多層グラフェン層内の炭素原子の再配列などが起こり、多層グラフェン内の欠陥が一部修復されるなどの高品質化作用が僅かながら発現したためと考えられる。
(実施例8)
<モリブデン基板の使用>
使用する金属基板をモリブデン箔((株)ニラコ、品番MO−293201、厚さ15μm)とし、加熱処理時の最高温度を1500℃と変更した以外は、実施例1と同様にしてモリブデン箔上に多層グラフェンを形成した。得られたサンプルについて実施例1と同様にしてレーザーラマンスペクトルを測定したところ、モリブデン箔上の多層グラフェンは隅々まで高品質であった。
次に、得られたサンプルについて実施例2と同様に、多層グラフェンを透明エポキシ層を備えたPETフィルム上に転写した。剥離後のモリブデン箔表面のレーザーラマンスペクトル測定を行ったが、多層グラフェンや単層グラフェンに基づくピークは全く見られなかった。すなわち、剥離は完全にモリブデン表面と多層グラフェンの間で起こり、多層グラフェンは完全にPETフィルム上に転写できた。
形成された多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、図3のようにサンプルの中心および4隅の4点にて可視光線透過率を測定した値から、使用したPETフィルムの可視光線透過率を差し引いた値は、79.3〜75.7%であった。この値から、多層グラフェンの層数は10〜12層であり、層数がきわめて均一であることが分かった。
また、得られた多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、実施例1と同様に面の中心を5mm角に切り出し、4隅に電極を取り付けてvan der Pauw法によって電気伝導度を測定した。電気伝導度は15500S/cmであり、極めて高品質であった。
(実施例9)
<タンタル基板の使用>
使用する金属基板をタンタル箔((株)ニラコ、品番TA−413201、厚さ15μm)とし、加熱処理時の最高温度を2000℃と変更した以外は、実施例1と同様にしてタンタル箔上に多層グラフェンを形成した。得られたサンプルについて実施例1と同様にしてレーザーラマンスペクトルを測定したところ、タンタル箔上の多層グラフェンは隅々まで高品質であった。
次に、得られたサンプルについて実施例2と同様に、多層グラフェンを透明エポキシ層を備えたPETフィルム上に転写した。剥離後のタンタル箔表面のレーザーラマンスペクトル測定を行ったが、多層グラフェンや単層グラフェンに基づくピークは全く見られなかった。すなわち、剥離は完全にタンタル表面と多層グラフェンの間で起こり、多層グラフェンは完全にPETフィルム上に転写できた。
形成された多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、図3のようにサンプルの中心および4隅の4点にて可視光線透過率を測定した値から、使用したPETフィルムの可視光線透過率を差し引いた値は、86.9〜81.1%であった。この値から、多層グラフェンの層数は6〜9層であり、層数がきわめて均一であることが分かった。
また、得られた多層グラフェン/PETフィルム複合体に関して、実施例1と同様に面の中心を5mm角に切り出し、4隅に電極を取り付けてvan der Pauw法によって電気伝導度を測定した。電気伝導度は15000S/cmであり、極めて高品質であった。
(比較例1)
<低温での処理>
加熱処理時の最高温度を700℃と変更した以外は、実施例1と同様にしてニッケル箔上に多層グラフェンの形成を試みた。しかし得られたサンプルについて実施例1と同様にしてレーザーラマンスペクトルを測定したところ、ニッケル箔上に多層グラフェンや単層グラフェンの形成は確認できなかった。処理温度が低すぎると金属−炭素間の相互作用が十分でないため、ニッケル箔上への多層グラフェンの剥離・形成に至らなかったものと考えられる。
(比較例2)
<低圧力での処理>
加熱処理時の印加圧力を0.0kgf/cm、0.1kgf/cmと変更した以外は、実施例1と同様にしてニッケル箔上に多層グラフェンの形成を試みた。しかし印加圧力が0.0kgf/cmの場合には、ニッケル基板表面にはニッケル金属が露出し部分が殆どで、部分的な剥離しか出来なかった。また印加圧力が0.1kgf/cmの場合には、顕微鏡観察によってニッケル基板表面の80%程度が剥離された多層グラフェンで覆われていたが、まだ部分的に金属表面が露出した部分が観察された。図5にはこの時のニッケル表面の顕微鏡写真を示す。印加圧力が低すぎると金属−炭素間の相互作用が十分均一でないため、ニッケル箔表面全体を覆う多層グラフェンの形成には至らなかったものと考えられる。
(比較例3)
<銅基板の使用>
使用する金属基板を銅箔((株)ニラコ、品番CU−113173、厚さ10μm)とし、加熱処理時の最高温度を800℃、1000℃と変更した以外は、実施例1と同様にして銅箔上に多層グラフェンの形成を試みた。しかし得られた2種のサンプルについて実施例1と同様にしてレーザーラマンスペクトルを測定したところ、銅箔上に多層グラフェンや単層グラフェンの形成は確認できなかった。銅のように金属−炭素間の相互作用が弱い金属基板を用いた場合には、金属基板上への多層グラフェンの剥離・形成は難しいものと考えられる。
以上、幾つかの実施例について記述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせた実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
上記実施例1〜9および比較例1〜3について表1にまとめた。
本発明は高品質多層グラフェンの製造方法であり、エレクトロニクス分野、電池などのエネルギー分野等での広範な分野に利用することができる。

Claims (11)

  1. 金属基板とグラファイトを積層し、加熱下において圧力印加を行う事により、該金属基板表面と該グラファイトの間に多層グラフェンを形成し、形成した多層グラフェンをグラファイトから剥離する事を特徴とする多層グラフェンの製造方法。
  2. 前記圧力が、機械的圧力である請求項1記載の多層グラフェンの製造方法。
  3. 多層グラフェンが、2層以上、50層以下の多層グラフェンである、請求項1記載の多層グラフェンの製造方法。
  4. 多層グラフェンが5mm角以上のサイズであり、面内位置によるグラフェン層数のばらつきが5層以下の多層グラフェンである、請求項記載の多層グラフェンの製造方法。
  5. 金属基板の金属が、ニッケル、鉄、アルミニウム、コバルト、モリブデン、タンタル、あるいは少なくともこれらの金属元素の1種類を5重量%以上含む合金の中から選択された事を特徴とする、請求項1記載の多層グラフェンの製造方法。
  6. 加熱温度が、用いられる金属の融点以下であり、ニッケルの場合には750℃以上、鉄の場合には500℃以上、アルミニウムの場合には600℃以上、ステンレスの場合には800℃以上、コバルトの場合には900℃以上、モリブデンの場合には1500℃以上、タンタルの場合には2000℃以上である事を特徴とする、請求項1記載の多層グラフェンの製造方法。
  7. 印加圧力の大きさが、0.2kgf/cm2〜200kgf/cm2の範囲である、請求項1記載の多層グラフェンの製造方法。
  8. グラファイトが、グラファイトa−b面方向の電気伝導度が10000S/cm以上である事を特徴とする、請求項1に記載の多層グラフェンの製造方法。
  9. グラファイトが、高分子フィルムを2400℃以上の温度で熱処理して得られたグラファイトフィルムである事を特徴とする、請求項1に記載の多層グラフェンの製造方法。
  10. 請求項1に記載の方法で金属基板表面に転写された多層グラフェンを、金属基板をエッチングにより除去する事により単離する工程を含む事を特徴とする、多層グラフェンの製造方法。
  11. 請求項1に記載の方法で金属基板表面に転写された多層グラフェンを、粘着/接着機能を有する高分子フィルムを用いて金属基板表面から剥離する工程を含む事を特徴とする、多層グラフェンの製造方法。
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