JP5405085B2 - 炭素質フィルムの製造方法 - Google Patents
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Δn=(フィルム面内の任意の方向の屈折率Nx)−(厚み方向の複屈折Nz)(1)
で定義される。かかる複屈折は、フィルム面方向の分子の配向性を直接反映する物性値であり、分子の配向性が高いほど、複屈折が大きくなる。ポリイミドフィルムの複屈折が大きいほど(たとえば、0.10以上であると)、製造されるガラス状炭素質フィルムは、その強靭性が高くなり、その内部には気孔をほとんど含まれず、高いガスバリヤ性を示す。さらに、このようなガラス状炭素質フィルムは、2400℃以上の熱処理により、良質のグラファイトフィルムに転化できる。
本発明において用いられる耐熱性フィルム11は、炭素質フィルム作製に用いられる高分子フィルムの熱分解温度以上の温度(すなわち、高分子フィルムが熱処理される温度)において、耐熱性を有すること(すなわち、熱分解しないこと)が必要である。ここで、高分子フィルムの熱分解温度は、その高分子フィルムを形成する高分子の種類によって異なるが、通常、高分子フィルムの熱分解および炭素化においては通常700℃以上の温度まで熱処理される。したがって、かかる熱処理温度、すなわち700℃以上の耐熱性を有することが好ましい。
本発明において炭素質フィルムの原料となる高分子フィルム13は、熱処理において、高分子中の炭素原子が、熱分解後もフィルム状の形態を保ったまま残存することが必要である。そのためには、熱処理において、高分子フィルム中の炭素原子は熱分解と同時に再結合して、高分子構造と炭素の六員環構造との中間の構造を有する炭素前駆体が形成される必要がある。したがって、熱処理工程において、熱分解により炭素原子のほとんどがガス化して炭素質フィルムが得られない様な高分子フィルムは適さない。たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリエステルフィルムなどの高分子フィルムでは、熱処理により高分子が分解して、炭素原子がほとんどがガス状となって散逸し、炭素質フィルムが得られない。良好な炭素質フィルムを得るためには、高分子フィルムが熱硬化性高分子であることが好ましい。かかる観点から、高分子フィルムとして、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリベンゾイミダゾールフィルム、ポリアミドフィルム、ポリオキサゾールフィルムなどの熱硬化性フィルムが好ましく挙げられる。さらに、強靭で高密度のガラス状炭素質フィルムが得られる観点から、高分子フィルムは、ポリイミドフィルムであることがより好ましい。こうして得られるガラス状炭素質フィルムは、さらに2400℃以上の高温で熱処理することにより、良質なグラファイトフィルムが得られる。
Δn=(フィルム面内の任意の方向の屈折率Nx)−(厚さ方向の屈折率Nz)(1)
で与えられる。具体的な測定方法は、以下のとおりである。すなわち、フィルムから試料片をくさび形に切り出して、試料片の切り出し面にナトリウム光を当てて、偏光顕微鏡で観察すると干渉縞がみられる。この干渉縞の数をnとすると、複屈折Δnは、
Δn=n×λ/d (2)
で表される。ここで、λはナトリウム光の波長589nm、dは試料片の巾(nm)である。詳しくは「新実験化学講座」第19巻(丸善(株))などに記載されている。
(3−1)積層工程
本発明の一実施形態である炭素質フィルムの製造方法は、図1(a)および図2(a)を参照して、1枚以上の高分子フィルム13と耐熱性フィルム11とを交互に積層して積層体10を得る積層工程を備える。
本発明の一実施形態である炭素質フィルムの製造方法は、図1(b)および(c)ならびに図2(b)および(c)を参照して、不活性ガス中あるいは真空中で、高分子フィルムの熱分解温度以上の温度で、積層体10を熱処理することにより、高分子フィルム13を炭素化して炭素質フィルム15を得る炭素化工程を備える。かかる炭素化工程により、積層体10中の高分子フィルム13(図1(b)および図2(b))が、熱処理により炭素化されて、積層体20中で炭素質フィルム15(図1(c)および図2(c))が得られる。
高分子フィルムとして、A4サイズ(210mm×297mm)にカットした東レ・デュポン社製ポリイミドフィルム(商品名:カプトンHフィルム、厚さ50μmおよび25μmの2種類)を準備した。このポリイミドフィルムの100〜200℃の範囲における平均線膨張係数は30×10-6℃-1であり、複屈折は0.10〜0.11であった。また、耐熱性フィルムとして、230mm×320mmの大きさの東洋炭素(株)製膨張グラファイトシート(商品名:PERMA−FOIL(グレード名:PF−UHPL)、厚さ200μm)を準備した。上記膨張グラファイトシート(耐熱性フィルム)と上記ポリイミドフィルム(高分子フィルム)とを、一枚ずつ交互に、ポリイミドフィルムが200枚となるまで積層して積層体を得た。このとき、積層体の最上層および最下層は膨張グラファイトシートとしたため、膨張グラファイトシートの枚数は201枚であった。
積層体を内寸が縦250mm×横340mm×高さ350mmのグラファイト製箱の中に配置し、その積層体の上に重さ50000g(7850Pa(80gf/cm2)に相当)の炭素製の重りを載せた以外は、実施例1と同様にして炭素質フィルムを作製した。得られた炭素質フィルムの皺、ひずみおよび割れを観察した。結果を表2にまとめた。
膨張グラファイトシート(耐熱性フィルム)間に挟まれる厚さ50μmのポリイミドフィルム(高分子フィルム)の枚数を、2枚、3枚、5枚、10枚、20枚、30枚、50枚として、最高熱処理温度1000℃または1400℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、炭素質フィルムを作製した。ここで、ポリイミドフィルムの総枚数は200枚であり、膨張グラファイトシート(耐熱性フィルム)間のポリイミドフィルム(高分子フィルム)の積層枚数が3枚の場合は最上部のみ2枚(図2を参照)、積層枚数が30枚の場合は最上部のみ20枚とした。得られた炭素質フィルムの皺、ひずみおよび割れの有無を観察した。結果を表3にまとめた。
膨張グラファイトシート(耐熱性フィルム)を用いることなく、厚さ50μmのポリイミドフィルム(高分子フィルム)を直接200枚積層したこと以外は、実施例1と同様にして炭素質フィルムを作製した。得られた炭素質フィルムには、いずれの最高熱処理温度でも大きな皺(不可)、ひずみ(不可)および割れ(不可)の発生が認められた。これは、ポリイミドフィルムを直接200枚積層したことで、フィルム面内が均一な炭素化が進行しなかったためと考えられる。
以下の6種類の耐熱性フィルム(A〜H)を準備し、厚さ50μmのポリイミドフィルムを用いて、最高熱処理温度を700℃または1200℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、炭素質フィルムの作製を行なった。ここで、準備した耐熱性フィルムは、A:厚さ1mmのステンレス板、B:厚さ1mmの圧延銅板、C:厚さ200μmの一般品膨張グラファイトシート(東洋炭素(株)製PERMA−FOIL(グレード名:PF))、D:厚さ200μmの耐熱向上品膨張グラファイトシート(東洋炭素(株)製PERMA−FOIL(グレード名:PF−R2))、E:厚さ200μmの高純度化品膨張グラファイトシート(東洋炭素(株)製PERMA−FOIL(グレード名:PF−UHPL))、F:厚さ1mmの等方性グラファイト板(東洋炭素(株)製、商品名:ISEM−3)、G:厚さ1mmの押し出し成型グラファイト板(SECカーボン(株)製、商品名:PSG−12)、H:厚さ0.9mmのC/Cコンポジット板(東洋炭素(株)製、商品名:CX−26)である。得られた炭素質フィルムの皺、ひずみおよび割れの有無を観察した。結果を表4にまとめた。
実施例1において、最高熱処理温度1400℃で作製したグラファイトフィルムが入ったグラファイト箱を炭素化炉から取り出し、グラファイト製の別の容器内に保持したものをグラファイト化炉に配置して、アルゴンガス雰囲気下でさらに高温で熱処理してグラファイト化させた。容器とヒータの加熱面とは、空間により、互いに非接触の状態に維持されており、これらの間隔は約5cmであった。グラファイト化のための熱処理最高温度を2000℃、2400℃、2600℃、2800℃、2900℃または3000℃とし、それぞれの最高熱処理温度で10分保持後、1600℃まで降温し、その後ヒーターをオフとして自然冷却した。実施例1と同じ方法で、得られたグラファイトフィルム(炭素質フィルム)の皺、ひずみおよび割れの有無を観察した。最高熱処理温度がいずれの場合でも、グラファイトフィルムの皺、ひずみおよび割れの発生は全く認められず、本発明の炭素質フィルムの製造方法は、グラファイトフィルムの製造にも有効であることがわかった。
ピロメリット酸二無水物、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルおよびp−フェニレンジアミンを、モル比で4:3:1の割合で反応させてポリアミド酸を合成した。このポリアミド酸の18質量%のDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)溶液100gに、無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合し、攪拌して、遠心分離により脱泡した後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは、溶液を0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層物を120℃で150秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを、300℃で30秒間、400℃で30秒間、500℃で30秒間、段階的に加熱して、ポリイミドフィルムPI−A(高分子フィルム)を製造した。得られたポリイミドフィルムPI−Aは、厚さが25μm、50μmの2種類であり、100℃〜200℃の平均線膨張係数が16×10-6℃-1、複屈折が0.13〜0.14であった。
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよびp−フェニレンジアミンを、モル比で3:2:1の割合で反応させてポリアミド酸を合成した。このポリアミド酸の18質量%のDMF溶液100gに、無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合し、攪拌して、遠心分離により脱泡した後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは、溶液を0℃に冷却しながら行った。その後は、実施例6と同様にしてポリイミドフィルムPI−B(高分子フィルム)を製造した。ポリイミドフィルムPI−Bを製造した。得られたポリイミドフィルムPI−Bは、厚さが25μm、50μmの2種類であり、100℃〜200℃の平均線膨張係数が10×10-6℃-1であり、複屈折が0.15〜0.16であった。このポリイミドフィルムPI−Bを用いたこと以外は、実施例6と同様にして、炭素質フィルムを作製した。得られた炭素質フィルムは、X線回折装置による回折X線を測定したところ、炭素原子がガラス状に配列しているガラス状炭素質フィルムであった。得られた炭素質フィルムの皺、ひずみおよび割れの有無を観察した。結果を表6にまとめた。また、表6には、得られた炭素質フィルムの密度、電気伝導度、および曲げ強度の値もあわせてまとめた。
ピロメリット酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、パラフェニレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを、モル比で1:1:1:1の割合で反応させてポリアミド酸を合成した。このポリアミド酸の18質量%のDMF溶液100gに、無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合し、攪拌して、遠心分離により脱泡した後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは、溶液を0℃に冷却しながら行った。その後は、実施例6と同様にしてポリイミドフィルムPI−C(高分子フィルム)を製造した。得られたポリイミドフィルムのPI−Cは、厚さが25μm、50μmの2種類であり、100℃〜200℃の平均線膨張係数が9×10-6℃-1、複屈折が0.16〜0.17であった。このポリイミドフィルムPI−Cを用いたこと以外は、実施例6と同様にして、炭素質フィルムを作製した。得られた炭素質フィルムは、X線回折装置による回折X線を測定したところ、炭素原子がガラス状に配列しているガラス状炭素質フィルムであった。得られた炭素質フィルムの皺、ひずみおよび割れの有無を観察した。結果を表7にまとめた。また、表7には、得られた炭素質フィルムの密度、電気伝導度、および曲げ強度の値もあわせてまとめた。
Claims (11)
- 2枚〜50枚の高分子フィルムと、前記高分子フィルムの熱分解温度以上の温度において耐熱性を有する耐熱性フィルムとを交互に積層して積層体を得る積層工程と、
不活性ガス中あるいは真空中で、前記高分子フィルムの熱分解温度以上の温度で、前記積層体を熱処理することにより、前記高分子フィルムを炭素化して炭素質フィルムを得る炭素化工程と、を備え、
前記炭素化工程において、前記積層体に前記高分子フィルムおよび前記耐熱性フィルムのフィルム面に垂直な方向の圧力を印加し、
前記炭素化工程において、前記高分子フィルムを最高熱処理温度700℃〜1600℃の温度で熱処理する炭素質フィルムの製造方法。 - 前記耐熱性フィルムは炭素フィルムである請求項1に記載の炭素質フィルムの製造方法。
- 前記耐熱性フィルムはグラファイトフィルムである請求項1に記載の炭素質フィルムの製造方法。
- 前記高分子フィルムは熱硬化性高分子フィルムである請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭素質フィルムの製造方法。
- 前記熱硬化性高分子フィルムはポリイミドフィルムである請求項4に記載の炭素質フィルムの製造方法。
- 前記ポリイミドフィルムは、100℃〜200℃の範囲におけるフィルム面方向の平均線膨張係数が32×10-6℃-1以下である請求項5に記載の炭素質フィルムの製造方法。
- 前記ポリイミドフィルムの複屈折が0.10以上である請求項5または6に記載の炭素質フィルムの製造方法。
- 前記ポリイミドフィルムは、以下の一般式(I)、(II)、(III)および(IV)
- 前記圧力の大きさは、0.98Pa以上9800Pa以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素質フィルムの製造方法。
- 前記耐熱性フィルムに挟まれる高分子フィルムの枚数は、2〜30枚である請求項1〜9のいずれか1項に記載の炭素質フィルムの製造方法。
- 前記耐熱性フィルムに挟まれる高分子フィルムの枚数は、2〜10枚である請求項1〜10のいずれか1項に記載の炭素質フィルムの製造方法。
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