本発明は、高分子フィルムを2000℃以上の温度で熱処理して得られるグラファイトフィルムの少なくとも片面に粘着層、絶縁層、導電層のいずれかの層が形成されているグラファイト複合フィルムにおいて、グラファイトフィルムの密度が1.3g/cm3以上であることを特徴とするグラファイト複合フィルムである。
<グラファイトフィルム>
本発明のグラファイトフィルムは、天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛粉末をシート化して得られるグラファイトフィルム、高分子フィルムを熱処理して得られるグラファイトフィルムが挙げられる。グラファイトフィルムは、面方向に高い熱伝導性を有し、面方向の熱伝導性と厚み方向の熱伝導性に大きな異方性があり、電子機器・精密機器などのようにスポットで熱が高くなる電子部材において、有効に熱を拡散することできる。
<グラファイトフィルムの厚み>
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムの厚みの具体的レベルは、95μm以下、好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。また用いる原料高分子フィルムの厚みは、250μm以下、好ましくは180μm以下、さらに好ましくは130μm以下である。省スペース化が期待される電子機器においては、グラファイトフィルムの厚みが95μmよりも厚くなると、取り付けスペースを確保することが困難になる。一般に、厚みが薄くなると、強度に劣るものとなる。しかし、本発明のグラファイトは、厚みが薄くても十分強度を有し、作業性・取り扱い性に優れ、安定した取り付けが可能となり、熱輸送量が向上し、従来よりも優れた放熱性を発現することが可能となる。
<厚みのバラツキが10μm以下であることを特徴とするグラファイトフィルム>
本明細書中でいう厚みのばらつきとは、例えば、フィルムの任意の数点の厚みを測定した場合に、その際の最大値と最小値の差をいう。以下の明細書中で「厚みのばらつき」の記載は、これを意味するものである。
グラファイトフィルムの厚みのばらつきは小さいほうが好ましい。グラファイトフィルムを放熱材料およびヒートスプレッダとして用いた場合、厚みのバラツキが小さいほうが平坦性に優れることから、発熱部位との密着性が増すために、発熱部位から熱を速やかに移動するのに有利であるために好ましい。
また、グラファイトフィルム単体を樹脂層、セラミック層、金属層、絶縁層、導電層などと複合化した場合においても、グラファイトフィルム単体の厚みのばらつきが小さいほうが、グラファイトフィルム単体と複合化した層との密着性が増すために、強度に優れ、複合化した層と剥離しにくい複合化したグラファイトフィルムを得ることができる。
好ましい厚みのばらつきは、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm、さらに好ましくは2μm以下である。厚みのばらつきが10μm以下であれば、発熱部位との密着性に優れたグラファイトフィルムを得ることができるために好ましい。
<グラファイトフィルムの面方向の熱拡散率>
本発明のグラファイトフィルムの面方向の熱拡散率は、7.5×10-4m2/s以上、好ましくは9.0×10-4m2/s以上、さらに好ましくは10.0×10-4m2/s以上であると良い。7.5×10-4m2/s以上になると、熱伝導性が高いために、発熱機器から熱を逃がしやすくなり、発熱機器の温度上昇を抑えることが可能となる。一方、7.5×10-4m2/s未満になると、熱伝導性が悪いために、発熱機器から熱を逃がすことができなくなり、発熱機器の温度上昇を抑えることができなくなる。
<グラファイトフィルムの熱抵抗測定装置によって測定される接触式厚み方向の熱伝導率>
本発明のグラファイトフィルムの熱抵抗測定装置によって測定される接触式厚み方向の熱伝導率が1.4W/m・K以下であることを特徴とする。
熱抵抗測定装置は試料の片側表面を加熱した後の試料裏面温度を測定する装置である。
発熱部品からの熱を速やかに移動させるためには、グラファイトフィルムの十分な小さい厚み方向の熱伝導率が必要である。
例えば、面方向と厚み方向の熱伝導性の異方性が無くその熱伝導性も劣る場合、および面方向と厚み方向の熱伝導性の異方性があっても面方向に比べて厚み方向の熱伝導性が優れる場合、発熱部分からの熱を十分に拡散することができないために、発熱部分のスポットで熱が高くなった状態であるヒートスポットを生じてしまう。このヒートスポットが生じると、例えばノートパソコンや携帯電話などで生じた場合、低温火傷の原因となる。
しかしながら、グラファイトフィルムは、面方向と厚み方向で熱伝導性の異方性を有し、また面方向が厚み方向よりも熱伝導性に優れるという特徴を持つことから、発熱部分からの熱を優先的に面方向に拡散することが可能となり、ヒートスポットを抑制できる。したがって、発熱部分からの速やかな熱拡散を達成するためには、(1)面方向の高い熱伝導性、(2)厚み方向の十分に小さい熱伝導性、が必要であることがわかる。
特に、本発明のグラファイトフィルムは、厚み方向の熱伝導率が1.4W/m・Kで十分に小さいために、発熱部材からの速やかな熱拡散が可能である。
そのために、本発明のグラファイトフィルムの好ましい厚み方向の熱伝導率は1.4W/m・K以下、さらに好ましくは1.3W/m・K以下、さらに好ましくは1.2W/m・K以下である。1.4W/m・K以の厚み方向の熱伝導率であれば、発熱部分からの熱を十分に移動させることができ、ヒートスポットを緩和することができるために好ましい。
<グラファイトフィルムのレーザーフラッシュ法によって測定される厚み方向の熱拡散率>
本発明のグラファイトフィルムのレーザーフラッシュ法によって測定される厚み方向の熱拡散率は、8mm2/s以下であると好ましい。
レーザーフラッシュ法は試料表面をレーザーパルスにより均一に加熱した後の試料裏面温度変化から熱拡散率を算出する方法である。また、測定に際しては、サンプルの層間の空気層を取り除いて測定する。
発熱部品からの熱を速やかに移動させるためには、グラファイトフィルムの十分な小さい厚み方向の熱拡散性が必要である。
例えば、面方向と厚み方向の熱拡散性の異方性が無くその熱拡散性も劣る場合、および面方向と厚み方向の熱拡散性の異方性があっても面方向に比べて厚み方向の熱拡散性が優れる場合、発熱部分からの熱を十分に拡散することができないために、発熱部分のスポットで熱が高くなった状態であるヒートスポットを生じてしまう。このヒートスポットが生じると、例えばノートパソコンや携帯電話などで生じた場合、低温火傷の原因となる。
しかしながら、グラファイトフィルムは、面方向と厚み方向で熱拡散性の異方性を有し、また面方向が厚み方向よりも熱拡散性に優れるという特徴を持つことから、発熱部分からの熱を優先的に面方向に拡散することが可能となり、ヒートスポットを抑制できる。したがって、発熱部分からの速やかな熱拡散を達成するためには、(1)面方向の高い熱拡散性、(2)厚み方向の十分に小さい熱拡散性、が必要であることがわかる。
特に、本発明のグラファイトフィルムは、厚み方向の熱拡散率が8mm2/s以下で十分に小さいために、発熱部材からの速やかな熱拡散が可能である。
そのために、本発明のグラファイトフィルムの好ましい厚み方向の熱拡散率は8mm2/s以下、さらに好ましくは7mm2/s以下、さらに好ましくは5mm2/s以下である。8mm2/s以下の厚み方向の熱拡散率であれば、発熱部分からの熱を十分に移動させることができ、ヒートスポットを緩和することができるために好ましい。
<グラファイトフィルムの線膨張係数>
本発明のグラファイトフィルムの線膨張係数は、0ppm以下であることを特徴とする。本発明で述べる線膨張係数は、熱機械分析装置(TMA)により測定されるグラファイトフィルムの面方向の線膨張係数をいう。本発明のグラファイトフィルムは、線膨張係数が0ppm以下であることから、温度上昇に対してグラファイトフィルムの面方向は縮み、厚み方向が膨張していると考えられる。これは、本発明のグラファイトフィルムが面方向にグラファイト層が非常に発達しており、結晶性に優れているためである。
電子機器、精密機器などの発熱部位に対して放熱部材やヒートスプレッダ部材が使用される場合、その部材は加熱状態と冷却状態が繰り返されることになる。仮にこのような用途にグラファイトフィルムが用いられた場合、線膨張係数の値が大きいグラファイトフィルムでは、使用中の寸法変化が大きくなり、発熱部位との密着性の悪化、また寸法変化が大きいことに伴いグラファイト表層の黒鉛剥れ、およびグラファイトフィルムの破損が発生し機器内の汚染などが生じてしまう。このような問題を解決するためには、温度変化に対する寸法安定性に優れたグラファイトフィルムが好ましい。
本発明のような線膨張係数が0ppm以下であることを特徴とするグラファイトフィルムは、その線膨張係数が0ppm以下の小さな線膨張係数を有することから、温度変化に対して優れた寸法安定性を示し、放熱部位の加熱状態と冷却状態の繰り返しにさらされた場合においても、発熱部位との密着性の悪化、黒鉛剥れ、およびフィルムの破損を起こすようなことは無い。
また、発熱部位との密着性の向上、およびその他の特性の付与のために、本発明のグラファイトフィルムと樹脂層、セラミック層、金属層、絶縁層、導電層などを複合したような複合体が考えられる。
一般的にこのような複合材料にとって、熱膨張は頭の痛い問題である。体積が増えることにより変形をもたらし、異なる物質の接合界面における剥離や破壊の大きな原因となる。また、高い精度を要求する精密機器部品や光学部品では熱膨張をいかに抑えるかが大きな課題になっており、熱膨張をゼロにするニーズはきわめて高いといえる。これは、放熱材料やヒートスプレッダについても同様である。
これら課題について、通常の正の線膨張係数を示す材料にゼロ以下の線膨張係数を有する材料を複合化することにより、熱膨張を相殺してゼロにしてしまうということが考えられる。
例えば、電子機器の発熱部位のヒートスプレッダとしてグラファイトフィルムが用いられる形態を考えてみる。その際、グラファイトフィルムからの粉落ちや電磁波吸収のためにグラファイトフィルムと銅箔とを複合化して、さらに発熱部位であるシリコン層への接着などが考えられる。その場合、化学便覧(改訂3版基礎編II)によると、天然
黒鉛の線膨張係数は0.9ppmであり、銅は16ppm、シリコンは4ppmであるために、天然黒鉛を用いた場合では、大きな銅の線膨張係数を十分に相殺することができずに、熱履歴が多くなると各層が剥離もしくは破壊してしまう場合がある。
しかしながら、本発明のグラファイトフィルムは十分に小さい0ppm以下の線膨張係数を有することから、銅と複合化した場合においても、銅の大きな線膨張係数を相殺して小さくすることができ、加えてシリコンの線膨張係数に近づけることができるために、従来の正の線膨張係数の値を持つグラファイトフィルムを用いた場合に比べて、各層が剥離もしくは破壊しにくくなる場合が有る。
また、このように、本発明のグラファイトフィルムは0ppm以下の線膨張係数を有すために、複合化した場合に大きな線膨張係数を持つ材料であっても、複合化することで線膨張係数を相殺してゼロに近づけることができ、熱履歴による剥離および破壊がしにくい利点を有する。
これは、グラファイトフィルムが利用される一形態を示したものであって、他の複合した場合の利用形態においても、同様の効果の発現が期待できる。
例えば、ノートパソコンのMPUやメモリ(詳しくはLSI)など、また液晶バックライト、PDPの放熱材料として用いられる場合30℃以上、特に高密度なメモリ(詳しくはLSI)に用いられる場合には80℃以上、レーザープリンターの定着ロールなどに用いられる場合には200℃以上の温度にさらされることになるが、本発明のグラファイトフィルムの線膨張係数はそれら温度域において0ppm以下であるために、上記の効果が期待できる。
この使用例は、一例であって、これらだけに限定されるものではない。本発明のグラファイトフィルムは、室温〜400℃の平均線膨張係数が0ppm以下であるために、複合化した場合に、複合体の線膨張係数を相殺してゼロに近づけることができる特徴を持ち、その複合体は熱履歴に対して十分な安定性を有する。
なお、前記の銅箔とは、一部エッチング済みの銅箔など、銅箔の一部の厚みが異なる場合も含む、と想定している。
また本発明のグラファイトフィルムの線膨脹係数が0ppm以下であるから、0ppm以下の材料(材料Yとする)と、特定の温度履歴を有するような手法で2層状態で貼り合わせた場合に、グラファイトフィルムと材料Yとの界面で発生するひずみ(歪み)が少ない、という意味において、本発明のグラファイトフィルムは有用である。なお、その歪みが小さいのは、グラファイトフィルムと材料Yの線膨脹係数の差が小さい場合であるのが一般的であるが、上記に記載したとおり、3層以上で複合化することによって、線膨脹係数の差を相殺して結果としてゼロに近づくという例も有りうる。
従来の結晶性に劣るグラファイトフィルムを複合化した場合、複合化したことにより、グラファイトフィルム単体に比べ、その特性が著しく落ちることがある。しかしながら、本発明のグラファイトフィルムは結晶性に優れ、十分に小さい線膨張係数を有することから、その複合体の線膨張係数はグラファイトフィルム単体に比べて著しく大きくおよび小さくなることはなく、その複合体は温度変化に対する寸法安定性に優れている。これは、本発明のグラファイトフィルム単体との複合体として、セラミック層、金属層、絶縁層、導電層などを用いた場合も同様で寸法安定性に優れている。
特に本発明のグラファイトフィルムは、線膨張係数の値が0ppm以下であるために、片面および/または両面に樹脂層、セラミック層、金属層、絶縁層、導電層を形成した場合においても、複合化したときの線膨張係数の値が小さく、温度変化に対する寸法安定性に優れている。
したがって、好ましい線膨張係数の値としては、−20〜0ppm、さらに好ましくは−10〜0ppm、さらに好ましくは−5〜0ppmである。
通常のグラファイトフィルムの酸化雰囲気下での耐熱温度が400℃程度までであるため、酸化雰囲気下で使用されるような場合においては、室温〜400℃での平均線膨張係数および室温〜400℃の範囲における任意の温度範囲で平均線膨張係数の値が0ppm以下であればよいことはいうまでもない。
<グラファイトフィルムの引張弾性率>
本発明のグラファイトフィルムの引張弾性率は、1GPa以上であることを特徴とする。
本発明で述べる機械的強度である引張弾性率は、例えばオートグラフを用いた引張試験により測定されるグラファイトフィルムの面方向の引張弾性率である。機械的強度の弱いグラファイトを用いた場合、容易に破れ、破損することから取り扱いが困難なことが多く、また長時間使用中に破損することがある。しかし、本発明のグラファイトフィルムは、引張弾性率が1GPa以上であるために、その厚みが薄い場合においても、十分なフィルム強度を持つことから、取り扱い時や長期間使用中にフィルムが破れることなどない。これは、本発明のグラファイトフィルムが面方向にグラファイト層が非常に発達しており、結晶性に優れているためフィルム強度に優れると考えられる。また、例えば発熱部位との密着性の向上のために、グラファイトフィルムと樹脂層、例えばエポキシ樹脂を複合したような複合体では、グラファイトフィルム単体の厚みが薄い場合においても、グラファイトフィルム単体が十分なフィルム強度を持つことから、その複合体の強度が著しく弱くなることはなく、取り扱い時や長期間使用中にフィルムが破れることなどはない。これは、グラファイトフィルム単体との複合体に、セラミック層、金属層、絶縁層、導電層などを用いた場合も同様である。
したがって、好ましい引張弾性率の値としては、1GPa以上、さらに好ましくは5GPa以上、さらに好ましくは10GPa以上である。
これは、引張弾性率が1GPa未満では、フィルム強度が弱く取り扱い時に破損しやすいためである。
<グラファイトフィルムの線膨張係数と引張弾性率>
本発明のグラファイトフィルムの線膨張係数は、0ppm以下、引張弾性率が1GPa以上であることを特徴である。本発明のグラファイトフィルムは、上記<線膨張係数が0ppm以下であることを特徴とするグラファイトフィルム>および<引張弾性率が1GPa以上であることを特徴とするグラファイトフィルム>で記述した理由により、温度変化に対する寸法安定性に優れ、十分なフィルム強度を持つグラファイトフィルムを達成するものである。
<フィルム内における最短径0.1〜50μmの不定形形状の模様>
本発明のグラファイトフィルムは、内部に、最短径0.1〜50μmの不定形形状の模様を有する、グラファイトフィルムである。
本発明のフィルム内に存在する不定形形状の模様の大きさは、最短径が0.1〜50μmの範囲であることが好ましい。内部の不均一層・不均一相は硬度が高く、0.1μm以上であると、表面硬度を高める働きをするために好ましい。また50μm以下であると、フィルムの熱伝導性を悪化させないために好ましい。また、グラファイトフィルム内部は密な状態であり、不均一層・不均一相で層間が結合して形成されているため、硬度が高く、接着剤や粘着剤に対する表面の接着性に優れ、表面の緻密な剥がれのない外観に優れたグラファイトを得ることが出来る。また、0.1μm以上であると、フィルムに内部からの発生するガスをうまく逃がすことが出来、フィルム内の応力を緩和し、グラファイトの層間の相互作用を高め、フィルムが熱処理中に剥離するのを抑制され、表面及び内部でグラファイト化が進行し、熱伝導性に優れたグラファイトとなる。
本発明のグラファイトフィルムの表面硬度は、JIS K 5400に基づいて測定される鉛筆硬度の値で2B以上、好ましくはB以上、さらに好ましくはHB以上である。鉛筆硬度が2B以上では、グラファイトの取り付け時や取り扱い時に傷が入らない程度に十分な表面硬度となる。
本発明のグラファイトフィルムの、表面の接着性は、JIS Z 0237に基づいて測定される粘着テープ・粘着シート試験方法に基づいて測定される粘着力が3N/cm以上、好ましくは4N/cm以上、さらに好ましくは5N/cm以上である。鉛筆硬度が3N/cm以上では、グラファイトと発熱部品を接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、剥がれることなく、グラファイトが本来有する放熱特性を発揮することが出来る。
本発明のグラファイトフィルムの、表面の外観の具体的レベルは、JIS K 5400に基づいて測定されるXカットテープ法に基づいて測定される評価が6以上、好ましくは8以上である。外観が6以上では、グラファイトと発熱部品を接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、剥がれることなく、また、取り付け時の接触や装置に組み込んだ後にファンの風によって表面から黒鉛が剥がれ落ちることがなくなり、電子機器内を汚染しなくなる。
<表面層の断面模様と表面層以外の断面模様とが、少なくとも異なる部分>
本発明のグラファイトフィルムは、表面層の断面模様と表面層以外の断面模様とが、少なくとも異なる部分を有する、グラファイトフィルムである。
本明細書で使う「表面層」とは、グラファイトフィルムの断面を見た場合に、フィルム全体の厚みの外側30%以内の厚みの部分であるフィルム両表面からの範囲をいう。すなわち、片側(ここで上側とする)からの表面だけから表現すると、フィルム断面の上側(反対側は下側)から0〜30%の部分、および、上側から70%〜100%の部分)を、「表面層」という。
表面層以外とは、グラファイトフィルムの断面を見た場合に上記の表面層以外の部分をいう。片側(ここで上側とする)からの表面だけから表現すると、フィルム断面の上側(反対側は下側)から30%を越えて、70%未満の部分を、「表面層以外」という。
初めに断面模様について説明する。断面模様の観察には、一般に提供されているグラファイトフィルムの厚みを考慮すると、電子顕微鏡(SEM(走査型電子顕微鏡)を含む)を用いることが好ましいが、断面が観察できれば特に制限はない。また、ここでは断面模様についてのみ記述するものであって、これらは、表面層および/または表面層以外のどこの部分に存在してもよい。
グラファイトフィルムの断面模様としては、以下の(1)〜(6)が考えられる。
(1)グラファイト結晶子が面方向に発達し、これらがフィルム表面形状に平行に積層した高密度なグラファイト層の断面模様。
(2)グラファイト結晶子が面方向に発達し、これらが積層しているが、フィルム表面形状に平行ではなく、うねった状態で存在している高密度のグラファイト層の断面模様。
(3)グラファイト結晶子が面方向に発達しているが、これらは積層しておらず、フィルム表面形状に平行に存在している低密度な空気層に富んだグラファイト層の断面模様。
(4)グラファイト結晶子が面方向に発達しているが、これらは積層しておらず、またフィルム表面形状に平行ではなく、うねった状態で存在している低密度な空気層に富んだグラファイト層の断面模様。
(5)グラファイト結晶子が発達しておらず、燐片状のグラファイト層の断面模様。
(6)上記(1)〜(5)以外の断面模様。
上記(6)は、例えば、グラファイト化工程において不純物などの影響により形成された、グラフェン構造ではない炭素塊などの、グラファイト層を形成していないものをいう。
面方向の優れた熱伝導性には、グラファイト結晶子が面方向に発達し、これらが積層した高密度のグラファイト層が必要である。高密度のグラファイト層であれば、熱伝導のロスが少なく効率が良い。したがって、観察される上記(1)〜(6)の断面模様のなかで、高熱伝導性を示す断面模様として、好ましいのは(1)と(2)であり、次に好ましいのは(3)と(4)であり、次に好ましいのは(5)、次にこのましいのは(6)である。
一方で、フィルムの柔軟性のためには、空気層を含んだグラファイト層が必要である。これは、グラファイト層が高密度に積層し、空気層を含んでいないグラファイトフィルムでは、屈曲した場合、緩衝する部位がないために、フィルムが破損してしまうためである。また、放熱材料として使用時の形状の自由度から、柔軟性のあるグラファイトフィルムが好ましい。したがって、観察される上記(1)〜(6)の断面模様のなかで、柔軟性を示す断面模様として、好ましいのは(3)と(4)であり、次に好ましいのは(5)であり、次に好ましいのは(1)と(2)であり、次に好ましいのは(6)である。
<表面層の断面模様と表面層以外の断面模様が、少なくとも異なる部分>
本発明のグラファイトフィルムは、表面層の断面模様と表面層以外の断面模様とが、少なくとも異なる部分を有している。
なお、この<表面層の断面模様と表面層以外の断面模様が、少なくとも異なる部分>項目中でのすべての括弧内数字
((1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6))で示される断面模様は、
上記<断面模様について>項目中での括弧内数字
((1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6))で示される断面模様を意味している。
仮に、表面層の断面模様と表面層以外の断面模様が高密度なグラファイト層である(1)の断面模様だけであれば、熱拡散率に優れ、フィルムの強度にも優れるが、一方で、屈曲した場合などに緩衝する部位がないために、柔軟性に乏しいグラファイトフィルムになる。また、仮に、表面層の断面模様と表面層以外の断面模様が、空気層を含んだ低密度なグラファイト層である(3)の断面模様だけであれば、柔軟性に優れるが、熱拡散率に劣り、フィルムの強度も劣るグラファイトフィルムになる。したがって、高熱伝導性と柔軟性を兼ね備えたグラファイトフィルムには、表面層の断面模様と表面層以外の断面模様とが、上記の観察される断面模様(1)〜(6)で異なった組み合わせが好ましい。以下に示す、上記の観察される断面模様(1)〜(6)での異なった組み合わせは、表面層全体と表面層以外全体であっても、表面層の一部分、表面層以外の一部分であってもよい。
高熱伝導性と柔軟性を兼ね備えたグラファイトフィルムであるためには、組み合わせとして特に好ましくは、表面層に(1)の断面模様であって、表面層以外に(3)の断面模様である。この組み合わせにより、表面近傍に高密度なグラファイト層が存在することから面方向の熱拡散率に優れ、また表面層以外に空気層を含んだグラファイト層を有することで柔軟性を有することができる。また、表面近傍に高密度なグラファイト層が存在するために高強度のグラファイトフィルムである。
したがって、さらに拡張して一般的に、熱拡散率に優れ、柔軟性に富み、高強度のグラファイトフィルムを達成するためには、
表面層に高密度にグラファイト層が積層した(1)(2)の断面模様が存在し、表面層以外には空気層を含んだグラファイト層である(3)(4)の断面模様が存在することが好ましい。
上述したとおり、組み合わせとして特に好ましくは、
表面層に(1)の断面模様であって、表面層以外に(3)の断面模様の組み合わせである。
同様の理由で、次に好ましくは、
表面層に(1)の断面模様で、表面層以外に(4)の断面模様の組み合わせ、
次に好ましくは
表面層に(2)の断面模様で表面層以外に(3)の断面模様の組み合わせ、
次に好ましくは、
表面層に(2)の断面模様で表面層以外に(4)の断面模様の組み合わせである。
<表面層の断面模様の一部が、1μm未満の厚みの略長方形が略平行に積層した結果形成される短辺5μm以上の略長方形の形状>
本発明では、断面模様の一部として観測される層状の構造を、あえて略長方形で、表現したものである。従い、実際の層状の構造が、略長方形で囲まれた閉じた空間で有る必要は無い。層状の構造が半無限に拡がっているような場合であっても、略長方形という視点で切り出して、層状の構造を表現するものである。
本発明のグラファイトフィルムは、表面層の断面模様の一部が、1μm未満の厚みの略長方形が略平行に積層した結果形成される短辺5μm以上の略長方形の形状を有するグラファイトフィルムである。
少なくとも表面層の断面模様の一部に、1μm未満の厚みの略長方形が略平行に積層したグラファイト層が形成されていることが望ましい。略平行に積層すれば、1μm未満の厚みの略長方形が空気層を生じることなく、高密度に積層することができ、結果として高熱伝導性のグラファイトフィルムを得ることができる。
また、1μm未満の厚みの略長方形が略平行に積層した結果形成される略長方形の短辺は5μm以上であることが好ましい。これは、表面層の上記の略長方形の短辺が5μm以上であることで、面方向の熱伝導性に優れ、またフィルムの強度が十分なものとなるからである。
したがって、上記の略長方形の形状は、好ましくは短辺5μm以上、さらに好ましくは短辺10μm以上である。
1μm未満の厚みの略長方形が略平行に積層した結果形成される略長方形の長辺については、特に制限はないが、熱伝導性やフィルム強度を勘案すると、好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上、さらに好ましくは300μm以上であり、熱伝導性のためには上記の略長方形の長辺が長ければ長いほど好ましい。これは、上記の略長方形の長辺は、途切れることなく長ければ長いほうが、面方向の熱伝導の効率がよいためである。
<グラファイトフィルムの断面を出す・断面を形成する方法>
グラファイトフィルムの断面を出す・断面を形成するには、カッターナイフおよび/または剃刀で割断、ミクロトームで切削、樹脂に埋包した状態のグラファイトフィルムをミクロトームで切削すればよいが、表面層の断面模様と表面層以外の断面模様が観察できれば、これらだけに限定されることはない。
グラファイトフィルムの断面・切断面を出す・断面を形成する場合、グラファイトフィルムは一般に厚み方向の層構造を有するために、厚み方向から力を加えて切削すると、断面が潰れやすいために注意を要する。
カッターナイフおよび/または剃刀で割断してグラファイトフィルムの断面を出す・断面を形成する場合は、カッターナイフおよび/または剃刀などの鋭利な刃で、グラファイトフィルムの一端に微小な切り目をいれ、その切り目の反対側から力を加えることによりフィルムを割断させる。この割断する方法は、断面を切削することではないので、断面が潰れないために、好ましく、簡便性に優れる。
ミクロトームは、切片の厚さを調節でき、また切断面の平坦性も優れる。さらに、樹脂に埋包した状態のグラファイトフィルムであれば、ミクロトームで切削するときの固定安定性や操作性に優れるために、さらに好ましい。
したがって、グラファイトフィルムの断面を出す方法として、好ましくはカッターナイフおよび/または剃刀で割断、次に好ましくは樹脂に埋包した状態のグラファイトフィルムをミクロトームで切削、次に好ましくはミクロトームで切削である。ミクロトームは、滑走式と回転式のどちらであってもよい。ただし、表面層の断面模様と表面層以外の断面模様が観察できれば、これらだけに限定されることはない。
<高分子フィルム>
本発明で用いることができる高分子フィルムは、特に限定はされないが、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリオキサジアゾール(POD)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾビスオキサザール(PBBO)、ポリチアゾール(PT)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾビスチアゾール(PBBT)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリベンゾビスイミダゾール(PBBI)が挙げられ、これらのうちから選ばれる少なくとも1種を含む耐熱芳香族性高分子フィルムであることが、最終的に得られるグラファイトの熱伝導性が大きくなることから好ましい。これらのフィルムは、公知の製造方法で製造すればよい。この中でもポリイミドは、原料モノマーを種々選択することによって様々な構造および特性を有するものを得ることができるために好ましい。また、ポリイミドフィルムは、他の有機材料を原料とする高分子フィルムよりもフィルムの炭化、黒鉛化が進行しやすいため、結晶性、熱伝導性に優れたグラファイトとなりやすい。
<炭素化した高分子フィルム>
本発明で用いられる炭素化した高分子フィルムとしては、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは不活性ガス中で予備加熱処理して得られる。この予備加熱は通常1000℃程度の温度で行い、例えば10℃/分の速度で昇温した場合には1000℃の温度領域で30分程度の温度保持を行うことが望ましい。
<ポリイミドフィルム>
ポリイミドフィルムは、他の有機材料を原料とする原料フィルムよりもフィルムの炭化、黒鉛化が進行しやすいため、フィルムの電気伝導度が低温で均一に高くなりやすく、かつ電気伝導度そのものも高くなりやすい。その結果、後述の電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する場合には、フィルム部分に炭素化の進行に伴って均一に電流が流れ、表面及び内部での均一な発熱が起こり、厚みが薄い場合に加え、厚い場合においても熱伝導性の高いグラファイトとなる。また、出来上がるグラファイトの結晶性が優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトとなる。
<ポリイミドフィルムと複屈折>
本発明の高分子フィルムにおける分子の面内配向性に関連する複屈折Δnが、フィルム面内のどの方向に関しても0.08以上、好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.12以上、最も好ましくは0.14である。複屈折0.08以上であると、フィルムの炭化(炭素化)、黒鉛化が進行しやすくなる。その結果、グラファイトの結晶配向性がよくなり、熱伝導性が顕著に改善される。また、黒鉛化温度が低温でも十分高い熱伝導性のグラファイトフィルムとなり、厚みが厚くても、高い熱伝導性を有するグラファイトフィルムとなる。また、炭化が進行しやすいため、炭化中の昇温速度を速く、熱処理時間を短くしても、品質の優れたグラファイトとなる。また、黒鉛化が進行しやすいため、最高温度を下げて熱処理時間を短くしても品質の優れたグラファイトとなる。またさらに、後述の金属と接触させて熱処理した場合には、従来技術では改善の余地があった表面硬度、密度、表面の密着性が改善される。またさらに、複屈折が高くなるほど、フィルムの炭化(炭素化)、黒鉛化が進行しやすいため、後述のフィルムの電気伝導度が高くなりやすい。その結果、電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程では、フィルム部分に炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて均一に電流が流れ、また炭素化の進行に伴いフィルムに流れる電流量が増え、表面及び内部での均一な発熱が起こるため、均一な黒鉛化が進行しやすくなる。またフィルム面内で均一に電気伝導度が高くなるため、フィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、結果として表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。また、低温で炭化(炭素化)及び黒鉛化が進行するために、低温の熱処理中からフィルムの電気伝導度が高くなり、表面及び内部での均一な発熱が起こり、均一な黒鉛化が進行しやすくなる。また、厚みが薄い場合に加え、厚い場合においても熱伝導性の高いグラファイトとなる。また、複屈折が高くなるほど、結晶性に優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトフィルムとなる。
複屈折が高くなると黒鉛化しやすくなる理由は明らかではないが、グラファイト化のためには分子が再配列する必要があり、複屈折の高い分子配向性に優れたポリイミドフィルムでは分子の再配列が最小で済むことから、ポリイミドフィルムの中でも、より配向性に優れたポリイミドフィルムの方が、比較的低温の通電処理による熱発生に伴う最高処理温度で、厚みが厚くても、結晶性の高いグラファイトフィルムになると推測される。
<複屈折>
ここでいう複屈折とは、フィルム面内の任意方向の屈折率と厚み方向の屈折率との差を意味し、フィルム面内の任意方向Xの複屈折Δnxは次式(数式1)で与えられる。
図1と図2において、複屈折の具体的な測定方法が図解されている。図1の平面図において、フィルム1から細いくさび形シート2が測定試料として切り出される。このくさび形シート2は一つの斜辺を有する細長い台形の形状を有しており、その一底角が直角である。このとき、その台形の底辺はX方向と平行な方向に切り出される。図2は、このようにして切り出された測定試料2を斜視図で示している。台形試料2の底辺に対応する切り出し断面に直角にナトリウム光4を照射し、台形試料2の斜辺に対応する切り出し断面側から偏光顕微鏡で観察すれば、干渉縞5が観察される。この干渉縞の数をnとすれば、フィルム面内X方向の複屈折Δnxは、次式(数式2)で表される。
ここで、λはナトリウムD線の波長589nmであり、dは試料2の台形の高さに相当する試料の幅3である。
なお、前述の「フィルム面内の任意方向X」とは、例えばフィルム形成時における材料流れの方向を基準として、X方向が面内の0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向のどの方向においても、の意味である。サンプル測定個所・測定回数は、好ましくは、下記の通りである。例えば、ロール状の原料フィルム(幅514mm、)からサンプルを切り出す際には、幅方向で10cm間隔に6カ所サンプリングして、各部位で複屈折を測定する。その平均を複屈折とする。
<ポリイミドフィルムの熱的性質、機械的性質、物理的性質、化学的性質>
また、本発明に用いられるグラファイトの原料となるポリイミドフィルムは、100〜200℃の範囲において2.5×10-5/℃未満の平均線膨張係数を有しているとよい。線膨張係数が2.5×10-5/℃未満であれば、熱処理中の伸びが小さく、スムースに黒鉛化が進行し、脆くなく、種々の特性に優れたグラファイトを得ることができる。このようなポリイミドフィルムを原料に用いることで、グラファイトへの転化が2400℃から始まり、2700℃で十分結晶性の高いグラファイトに転化が生じ得る。なお、その線膨張係数は、2.0×10-5/℃以下であることがより好ましい。
なお、高分子フィルムの線膨張係数は、TMA(熱機械分析装置)を用いて、まず試料を10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させた後に一旦室温まで空冷し、再度10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させ、2回目の昇温時の100℃〜200℃における平均線膨張係数を測定することによって得られる。具体的には、熱機械分析装置(TMA:セイコー電子製SSC/5200H;TMA120C)を用いて、3mm幅×20mm長のサイズのフィルム試料を所定の治具にセットし、引張モードで3gの荷重をかけて窒素雰囲気下で測定が行われる。
また、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、その弾性率が3.4GPa以上であれば、グラファイト化をより容易に行い得るということから好ましい。すなわち、弾性率が3.4GPa以上であれば、熱処理中のフィルムの収縮によるフィルムの破損を防止することができ、種々の特性に優れたグラファイトを得ることができる。
なお、フィルムの弾性率は、ASTM−D−882に準拠して測定することができる。ポリイミドフィルムのより好ましい弾性率は3.9GPa以上であり、さらに好ましくは4.9GPa以上である。フィルムの弾性率が3.4GPaより小さければ、熱処理中のフィルムの収縮で破損および変形しやすくなり、得られるグラファイトの結晶性は劣り、熱伝導性が劣る傾向にある。
フィルムの吸水率は、下記のごとく測定した。フィルムを絶乾するために、100℃で30分乾燥して、25μm厚み10cm角のサンプルを作製した。この重量を測定してA1とする。25μm厚み10cm角のサンプルを蒸留水に23℃で24時間浸漬し、表面の水を拭いて除去し直ちに重量を測定した。この重量をA2とする。下記式より吸水率を求めた。
吸水率(%)=(A2−A1)÷A1×100
<ポリイミドフィルムの作製方法>
本発明で用いられるポリイミドフィルムは、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶液をイミド化促進剤と混合した後、エンドレスベルトまたはステンレスドラムなどの支持体上に流延し、それを乾燥および焼成してイミド化させることにより製造され得る。
本発明に用いられるポリアミド酸の製造方法としては公知の方法を用いることができ、通常は、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種が実質的に等モル量で有機溶媒中に溶解させられる。そして、得られた有機溶液は酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで制御された温度条件下で攪拌され、これによってポリアミド酸が製造され得る。このようなポリアミド酸溶液は、通常は5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に、適当な分子量と溶液粘度を得ることができる。
重合方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができるが、例えば次のような重合方法(1)−(5)が好ましい。
(1) 芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
(2) 芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対して過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマを得る。続いて、芳香族テトラカルボン酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
この好ましい1つの態様は、ジアミンと酸二無水物を用いて前記酸二無水物を両末端に有するプレポリマを合成し、前記プレポリマに前記とは異なるジアミンを反応させてポリアミド酸を合成する方法である。
(3) 芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマを得る。続いて、このプレポリマに芳香族ジアミン化合物を追加添加後に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
(4) 芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後に、その酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
(5) 実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
これらの中でも(2)、(3)に示すプレポリマを経由するシーケンシャル制御(シーケンスコントロール)(ブロックポリマー同士の組み合わせ・ブロックポリマー分子同士の繋がりの制御)をして重合する方法が好ましい。というのは、この方法を用いることで、複屈折が大きく、線膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得られやすく、このポリイミドフィルムを熱処理することにより、結晶性が高く、密度および熱伝導性が優れたグラファイトを得やすくなるからである。また、規則正しく、制御されることで、芳香環の重なりが多くなり、低温の熱処理でもグラファイト化が進行しやすくなると推定される。また複屈折を高めるために、イミド基含有量を増やすと、樹脂中の炭素比率が減り、黒鉛処理後の炭素化収率が減るが、シーケンシャル制御をして合成されるポリイミドフィルムは、樹脂中の炭素比率を落とすことなく、複屈折を高めることが出来るために好ましい。炭素比率が高まるために、分解ガスの発生を抑えることができ、外観上優れたグラファイトフィルムが得られやすくなる。また芳香環の再配列を抑えることができ、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
本発明においてポリイミドの合成に用いられ得る酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
本発明においてポリイミドの合成に用いられ得るジアミンとしては、4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−オキシジアニリン)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル(3,3’−オキシジアニリン)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−オキシジアニリン)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
特に、線膨張係数を小さくして弾性率を高くかつ複屈折を大きくし得るという観点から、本発明におけるポリイミドフィルムの製造では、下記式(1)で表される酸二無水物を原料に用いることが好ましい。
ここで、R1は、下記の式(2)〜式(14)に含まれる2価の有機基の群から選択されるいずれかであって、
ここで、R2、R3、R4、およびR5の各々は−CH3、−Cl、−Br、−F、または−OCH3の群から選択されるいずれかであり得る。
上述の酸二無水物を用いることによって比較的低吸水率のポリイミドフィルムが得られ、このことはグラファイト化過程において水分による発泡を防止し得るという観点からも好ましい。
特に、酸二無水物におけるR1として式(2)〜式(14)に示されているようなベンゼン核を含む有機基を使用すれば、得られるポリイミドフィルムの分子配向性が高くなり、線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が高く、さらには吸水率が低くなるという観点から好ましい。
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きく、吸水率を小さくするためには、本発明におけるポリイミドの合成に下記式(15)で表される酸二無水物を原料に用いればよい。
特に、2つ以上のエステル結合でベンゼン環が直線状に結合された構造を有する酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムは、屈曲鎖を含むけれども全体として非常に直線的なコンフォメーションをとりやすく、比較的剛直な性質を有する。その結果、この原料を用いることによってポリイミドフィルムの線膨張係数を小さくすることができ、例えば1.5×10-5/℃以下にすることができる。また、弾性率は500kgf/mm2(490GPa)以上に大きくすることができ、吸水率は1.5%以下に小さくすることができる。
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きくするためには、本発明におけるポリイミドは、p−フェニレンジアミンを原料に用いて合成されることが好ましい。
また、本発明においてポリイミドの合成に用いられる最も適当なジアミンは4,4’−オキシジアニリンとp−フェニレンジアミンであり、これらの単独または2者の合計モルが全ジアミンに対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。さらに、p−フェニレンジアミンが10モル%以上、さらには20モル%以上、さらには30モル%以上、またさらには40モル%以上を含むことが好ましい。これらのジアミンの含有量がこれらのモル%範囲の下限値未満になれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。但し、ジアミンの全量をp−フェニレンジアミンにすると、発泡の少ない厚みの厚いポリイミドフィルムを得るのが難しくなるため、4,4’−オキシジアニリンを使用するのが良い。また炭素比率が減り、分解ガスの発生量を減らすことができ、芳香環の再配列の必要が減り、外観、熱伝導性に優れたグラファイトを得ることができる。
本発明においてポリイミドフィルムの合成に用いられる最も適当な酸二無水物はピロメリット酸二無水物および/または式(15)で表されるp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)であり、これらの単独または2者の合計モルが全酸二無水物に対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。これら酸二無水物の使用量が40モル%未満であれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。
また、ポリイミドフィルム、ポリアミド酸、ポリイミド樹脂に対して、カーボンブラック、グラファイト等の添加剤を添加しても良い。
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒であるN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられ得る。
次に、ポリイミドの製造方法には、前駆体であるポリアミド酸を加熱でイミド転化する熱キュア法、またはポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤やピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用いてイミド転化するケミカルキュア法のいずれを用いてもよい。中でも、イソキノリンのように沸点の高いものほど好ましい。というのは、フィルム作製中の初期段階では蒸発せず、乾燥の最後の過程まで、触媒効果が発揮されやすいため好ましい。特に、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすく、また比較的低温で迅速なグラファイト化が可能で、品質のよいグラファイトを得ることができるという観点からケミカルキュアの方が好ましい。特に、脱水剤とイミド化促進剤を併用することは、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が大きくなり得るので好ましい。また、ケミカルキュア法は、イミド化反応がより速く進行するので加熱処理においてイミド化反応を短時間で完結させることができ、生産性に優れた工業的に有利な方法である。
具体的なケミカルキュアによるフィルムの製造においては、まずポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と触媒からなるイミド化促進剤を加えて、支持板、PET等の有機フィルム、ドラム、またはエンドレスベルト等の支持体上に流延または塗布して膜状にし、有機溶媒を蒸発させることによって自己支持性を有する膜を得る。次いで、この自己支持性膜をさらに加熱して乾燥させつつイミド化させてポリイミド膜を得る。この加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲内にあることが好ましい。加熱の際の昇温速度には特に制限はないが、連続的もしくは段階的に、徐々に加熱して最高温度がその所定温度範囲内になるようにするのが好ましい。加熱時間はフィルム厚みや最高温度によって異なるが、一般的には最高温度に達してから10秒から10分の範囲が好ましい。さらに、ポリイミドフィルムの製造工程中に、収縮を防止するためにフィルムを容器に接触させたり固定・保持したり延伸したりする工程を含めば、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすい傾向にあるので好ましい。
<グラファイト化の方法>
本発明の高分子フィルムのグラファイト化は、2000℃以上の温度で熱処理して行う。
熱処理は、高分子フィルムを炭素化させる工程と黒鉛化させる工程の二つの工程からなる。炭素化と黒鉛化は、別々に行っても良いし、連続的に行っても良い。
炭素化は、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは窒素ガス中で予備加熱処理して炭素化を行う。この予備加熱は通常800〜1500℃の温度で行われる。また、炭化の最高温度に達した時点で30分から1時間程度、最高温度のまま温度の保持を行っても良い。例えば10℃/分の速度で昇温した場合には1000℃の温度領域で30分程度の温度の保持を行っても良い。昇温の段階では、出発高分子フィルムの分子配向性が失われないように、フィルムの破損が起きない程度に膜面に垂直方向に圧力を加えてもよい。
次に、黒鉛化は、炭素化した高分子フィルムを一度取り出した後、黒鉛化用の炉に移し変えてからおこなっても良いし、炭素化から黒鉛化を連続的におこなっても良い。黒鉛化は、減圧下もしくは不活性ガス中でおこなわれるが、不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウムが適当である。熱処理温度としては最低でも2000℃以上が必要で、最終的には2400℃以上、より好ましくは、2600℃以上さらに好ましくは2800℃以上で熱処理することが、熱伝導性、表面硬度、密度、表面の接着性、外観に優れたグラファイトを得るためにはよい。
熱処理温度が高いほど良質のグラファイトへの転化が可能であるが、経済性の観点からはできるだけ低温で良質のグラファイトに転化できることが好ましい。2500℃以上の超高温を得るには、通常はグラファイトヒーターに直接電流を流して、そのジュ−ル熱を利用した加熱が行なわれる。グラファイトヒーターの消耗は2700℃以上で進行し、2800℃ではその消耗速度が約10倍になり、2900℃ではさらにその約10倍になる。したがって、原材料の高分子フィルムの改善によって、良質のグラファイトへの転化が可能な温度を例えば2800℃から2700℃に下げることは大きな経済的効果を生じる。なお、一般に入手可能な工業的炉において、熱処理可能な最高温度は3000℃が限界である。高分子フィルムを一旦炭素化して取り出した後、これを黒鉛化しても、炭素化と黒鉛化を連続的におこなっても良い。
<高分子フィルムの固定方法・保持方法>
本発明の熱処理では、容器に高分子フィルムを固定して行われてもよい。本発明のような2000℃の温度領域まで加熱されるような用途では、取り扱いの容易さや、工業的な入手の容易さ等を勘案すると、黒鉛製の容器が、特に好ましい。ここでいう黒鉛とは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、等方性黒鉛、押出製黒鉛、が挙げられ、電気伝導性、熱伝導性に優れ、均質性にも優れる等方性黒鉛が、繰り返し用いる場合には好ましい。容器の形状は、特に制約を受けず、単純な平板などの形状でよい。また容器は円筒状で、高分子フィルムを容器に巻きつける方法でも良い。容器の形状は、高分子フィルムを接触させることができる限りにおいて、特に制約を受けない。
なお、黒鉛製容器内に、高分子フィルムを接触させる方法(例えば、保持する方法・固定する方法を含む)とは、例えば、高分子フィルムをグラファイト板で挟んだ上で、グラファイト板の自重以外には特には加圧しない状態で容器壁や容器底に接するように接触させる方法(保持させたり、固定させたりしてもよい)や円筒の黒鉛容器に巻きつける方法が有るが、必ずしもこれらの方法だけに制約を受けるものではない。
<高分子フィルムのグラファイト化>
高分子フィルムのグラファイト化機構について説明する。
高分子フィルムのグラファイト化は、炭素化と黒鉛化の2段階を経由して起こる。まず、一般に炭素化とは、高分子フィルムを1000℃まで熱処理して、炭素分が主成分となる物質に変化させる過程のことを意味する。具体的には、高分子フィルムを分解温度で熱処理すると結合の開裂が起こり、分解成分は二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、水素等のガスとなって離脱し、1000℃まで熱処理されると、炭素が主成分の材料となる。次に黒鉛化とは、炭素質材料を2800℃以上の温度で熱処理し、芳香環が平面状に繋がったグラファイト層が多数積層した構造に変換させる過程のことを意味する。
しかし、高分子を熱処理して得られた炭素質材料が全て黒鉛になるわけではなく、エポキシやフェノール樹脂を熱処理して作製した炭素質材料は、2800℃以上の温度で熱処理しても黒鉛になることはなくガラス状炭素のままであり、ポリイミド、ポリオキサジアゾール等の芳香環を有する高分子で芳香環が面内にある程度配向し、耐熱性が高い限られた高分子材料を熱処理して得られる炭素質材料でのみが黒鉛となる。
<ポリイミドフィルムを含む、原料フィルムのグラファイト化>
高分子フィルムのグラファイト化は上述の通り、炭素化と黒鉛化の2段階を経由しておこり、熱処理により炭素化した後、さらに高温で熱処理することでグラファイト構造に転化させられる。この過程では炭素−炭素結合の開裂と再結合が起きなければならない。グラファイト化をできる限り起こしやすくするためには、その開裂と再結合が最小のエネルギーで起こるようにする必要がある。出発原料フィルム(例えば、上記に列記した高分子フィルム、特にポリイミドフィルム)の分子配向は炭素化フィルム中の炭素原子の配列に影響を与え、その分子配向はグラファイト化の際に炭素−炭素結合の開裂と再結合化のエネルギーを少なくする効果を生じ得る。したがって、高度な分子配向が生じやすくなるように分子設計を行うことによって、比較的低温でのグラファイト化が可能になる。この分子配向の効果は、フィルム面に平行な二次元的分子配向とすることによって一層顕著になる。
グラファイト化反応における第2の特徴は、原料フィルムが厚ければ低温でグラファイト化が進行しにくいということである。したがって、厚い原料フィルムをグラファイト化する場合には、表面層ではグラファイト構造が形成されているのに内部ではまだグラファイト構造になっていないという状況が生じ得る。原料フィルムの分子配向性はフィルム内部でのグラファイト化を促進し、結果的により低温で良質のグラファイトへの転化を可能にする。
原料フィルムの表面層と内部とでほぼ同時にグラファイト化が進行するということは、内部から発生するガスのために表面層に形成されたグラファイト構造が破壊されるという事態を避けることにも役立ち、より厚いフィルムのグラファイト化を可能にする。本発明において作製される原料フィルム(例えば、上記に列記した高分子フィルム、特にポリイミドフィルム)は、まさにこのような効果を生じるのに最適な分子配向を有していると考えられる。
<金属を含む物質と接触させる方法>
本発明の金属を含む物質と接触させる方法としては、熱処理中に<<1>>固体状、<<2>>液体状、<<3>>気体状の金属を含む物質と接触させることが挙げられる。
具体的な方法としては、例えば、次のような方法(1)−(4)が好ましい。
(1)熱処理する前に、高分子フィルムの表面に金属を含む物質を形成する方法。
表面に金属を含む物質を形成する方法としては、金属を含む物質を塗布したり、蒸着したりする方法が挙げられる。この方法では、熱処理を開始する前は、高分子フィルムと金属を含む物質が直接接している。熱処理中に、金属を含む物質が、直接高分子フィルムと相互作用し内部に不定形形状の模様が形成される。熱処理温度が高くなるに従い、金属を含む物質が液体状態および/または気体状態となり、さらにより活発かつ均一にフィルムと相互作用し内部に不定形形状の模様が形成されると推定する。
(2)黒鉛化する前に、炭素化した高分子フィルムの表面に金属を含む物質を形成する方法。
この方法では、操作としては(1)の方法と同じである。但し、金属を含む物質が接触するのは、高分子フィルムではなく、既に炭素化したフィルムとである。熱処理中に、金属を含む物質が、直接炭素化したフィルムと相互作用し内部に不定形形状の模様が形成される。熱処理温度が高くなるに従い、金属を含む物質が液体状態および/または気体状態となり、フィルムと相互作用し内部に不定形形状の模様が形成されると推定する。(2)の方法は、(1)の方法よりも好ましいと考えられる。(1)の方法では、炭素化中に高分子フィルムと直接接するため、炭素化過程で金属を含む物質が高分子フィルムと相互作用することとなり、炭素化と同時に副反応を起こす場合が考えられる。一方(2)の方法では、原料が既に炭素化しているため、熱処理中に副反応を起こすことがなくなり、より品質の高いグラファイトが得られると推定される。
(3)高分子フィルムまたは炭素化した高分子フィルムを、金属を含む容器に入れる方法。
金属を含む容器は、予め容器に金属が含有している容器、金属を含む物質や粉末を入れておいた容器等を挙げられる。この方法では、高分子フィルムまたは炭素化した高分子フィルムは、一部金属を含む物質と接触しているが、(1)(2)の方法よりもその接触の程度は低いものとも考えられる。(3)の方法では、熱処理中に金属を含む物質が、容器内で拡散し、順次原料フィルムと接触することになると考えられる。また、金属を含む物質の種類によっては、気体となり、気体状で原料フィルムに接触することになる。(3)の方法は、(1)の方法よりも好ましいと考えられる。(3)の方法では、低温では接触が少ないが、熱処理温度が高くなってはじめて、金属を含む物質と原料フィルムの十分な接触が起こる。その結果、原料に高分子フィルムを用いた場合には、熱処理温度が高くなる炭素化過程で金属を含む物質と相互作用しにくくなり、炭素化中に副反応を起こしにくくなると推定される。またさらに、(3)の方法では、熱処理温度が高くなり、金属を含む物質の拡散が高くなってはじめて、原料フィルムと金属を含む物質との接触が起こり、金属を含む物質の拡散の度合いが高いために、フィルムに表面全体に非常に均一に相互作用する。特に気体状態ではその相互作用の均一性がより高まる。その結果、非常に品質の高いグラファイトが得られる。
(4)高分子フィルムに金属を含む物質を添加する方法。
具体的な方法としては、粉末状の微粒子を添加する方法が挙げられる。但し、ポリイミドを作製する前のポリアミド酸溶液の状態に、金属を含む物質を溶かした溶液を添加する方法は好ましくない。というのは、原料フィルム全体に分子状に金属が分散すると、ポリイミドを作製する過程で、副反応が起こり、均一なポリイミドフィルムを得ることが困難となる。さらに、ポリイミドフィルムに均一に分散していると、炭素化過程の副反応がひどくなり、品質の高いグラファイトを得るのが困難となる。この方法は(1)の方法よりも好ましくない。
<金属を含む物質>
金属を含む物質としては、金属単体、の化合物(酸化物、窒化物、ハロゲン化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等が挙げられるが、これに限定されるものではない)、金属塩等が挙げられる。原料フィルムに直接接触させる場合には、金属を含む物質が溶媒に溶けることよい。というのは、塗布という簡単な方法で、原料フィルムの表面に均一に金属を含む物質を接触させることが出来るからである。金属の種類としては、IUPAC(国際純正・応用化学連合)無機化学命名法改訂版(1989年)による族番号4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、12族、13族、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ホウ素、シリコン、ゲルマニウム、セレン、錫、鉛、ビスマス、が挙げられる。中でも、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、リチウム、ベリリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ホウ素、シリコン、ゲルマニウムが良く、さらに好ましくは、チタン、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケルである。特に好ましくは、鉄、コバルトである。これらは、熱拡散率、表面硬度、表面の接着性、外観に優れるために好ましい。
<従来の原料フィルムの熱処理によるグラファイト化>
従来の原料フィルムの熱処理によるグラファイト化では、熱処理により熱伝導性に優れたグラファイトを得ることは可能であるものの、表面硬度、表面の接着性、外観においてはまだ改善の余地が有る、グラファイトフィルムになる。特に原料フィルムの厚みが厚くなるほど、この傾向は顕著になると考えられる。この理由について説明する。
従来のグラファイト化では、炭素化及び黒鉛化は、原料フィルムの内部よりも表面から優先的に起こると考えられる。その結果、表面の緻密な層が内部に残留した未炭化成分由来の分解ガスを閉じ込め、高温に加熱された時に、内部に残留したガスが表面層を破って抜け出し、表面がはがれ、外観においてまだ改善の余地が有る結果となる場合が有った。さらに、黒鉛化過程のグラフェン層の再配列で、配列しきれない余分なグラフェン層が分解ガスとして発生し、表面層を破って抜け出し、表面がはがれ、外観においてまだ改善の余地が有る結果となる場合が有った。またさらに、表面部分のみ黒鉛化が進行し、内部歪みを受け、表面の黒鉛層が脱落したり、全体に黒鉛化が進行しすぎた結果、面間の剥離を起こしやすくなり、黒鉛層が脱落しやすいという点で、まだ改善の余地が有る結果となる場合が有った。
その結果、表面の破損や表面の剥がれによって、表面に脆弱層ができ、その結果として、表面硬度、表面の接着性、外観にまだ改善の余地が有る結果となる場合が有った。このことから、表面硬度、表面の接着性、外観を兼ね備えた熱伝導性の高いグラファイトを得ることは依然として非常に困難な課題である。さらに、原料厚みが厚くなると、厚みの薄いものに比べて、熱処理における表面と内部の炭素化と黒鉛化の進行度により大きな差がでる傾向が有るため、各特性はまだ改善の余地が有る結果となる場合が多かった。
さらに、金属と接触させない場合では、面配向を高くすぎると、黒鉛化が進行しすぎ、表面から黒鉛がはがれることがあり、原料フィルムの面配向と均一にきれいなグラファイトを得ることを両立させることは非常に難しいことであった。
<本発明の、金属を含む物質を接触させるグラファイト化>
しかし、本発明の金属を含む物質を接触させるグラファイト化では、従来困難であった表面硬度、表面の密着性、外観を兼ね備えた熱伝導性の高いグラファイトを得ることができた。さらに、原料に面配向の高い高分子フィルムを用い、この原料を金属と接触させて熱処理をおこなえば、従来の技術では改善の余地のあった表面からの黒鉛剥がれという問題を改善するだけにとどまらず、熱伝導性にも優れ、表面硬度、密度、表面の密着性に優れたグラファイトを得ることが可能となる。面配向の高い高分子フィルムと、金属と接触させて熱処理することとを組み合わせることで、従来の技術では予見できない効果が得られた。この金属の影響について説明する。
従来の金属を含む物質と接触させない場合には、分解ガスや余分なグラフェン成分の気化による表層の破壊や表層の部分的な黒鉛化や黒鉛化の進行しすぎによる黒鉛脱離が生じた。
一方、本発明の金属を含む物質をフィルムに接触させて熱処理する場合には、(1)熱処理中に金属を含む物質が原料フィルムと相互作用し、熱処理中のフィルムを取り出しSEM断面観察をすると、該フィルム内部に当初の原料フィルムには観察されなかった最短径0.1〜50μmの不定形形状の模様が形成され、フィルムの表面および/または内部で不均一層・不均一相が形成される。不均一層・不均一相が形成される理由としては、熱処理中に分解ガスや余分なグラフェン成分の気化による表層や内部の破壊した部分に、金属を含む物質が浸透拡散し、部分的にフィルムと反応することが考えられる。また、フィルムの内部まで不均一層・不均一相が形成される理由としては、熱処理が高温でおこわれるために、フィルム内部に浸透拡散し、反応がおこったと考えられる。また原料フィルムに含まれるリン酸水素カルシウム、リン酸カルシウムとったフィラーと反応することやフィラーの抜け落ちた部分に金属を含む物質が浸透拡散し、不均一層・不均一相が形成されることが推定される。このような不均一層・不均一相が形成されることにより、グラファイト化過程で発生する分解ガスが不均一層・不均一相から抜け出すことにより、熱処理中にフィルムが破損することを防止したと考える。また従来のグラファイト過程では、グラフェン層が面に発達し、グラフェン層が層状に剥離するが、内部に不均一層・不均一相が形成されることにより、剥離を部分的に固定し、剥離を防止することが可能となる。またさらに、不均一層・不均一相が形成されることにより、熱処理中にたまる歪を緩和することができると考える。
(2)また別の効果として、金属を含む物質と接触されることにより、表面部分のグラファイト化の進行を抑えることなり、黒鉛化が進行しすぎることを防ぎ、フィルム全体が均一に黒鉛化することとなると推定される。表面の黒鉛化が進行しすぎることにより、表面部分が一部はがれかけたとしても、はがれ端部は反応性が高いため、金属を含む物質が接触することにより、端部と端部が金属を介してゆるい結合状態をもち、剥がれることを抑制するものと推定する。但し、このような金属によって表面の黒鉛層が保持・維持された状態では、金属が不純物となり、熱伝導性を悪化させることも考えられる。しかし、内部のガス発生が終了、表面と内部の黒鉛化の均一化がはかられる後では、熱力学的に安定な、金属を含まない黒鉛の状態となるために、端部と端部をつなぎとめていた金属がはずれ、端部の再結合が起こり、金属は炭素の結合から外れることになると推定する。さらに、2000℃以上という黒鉛化温度は、金属を含む化合物の沸点を超えるものであり、黒鉛化過程で、金属を含む物質が気化し、最終的には不純物を含まない炭素のみからなる物質となり、熱伝導性の優れたグラファイトとなると考えられる。
<通電しながらグラファイト化する工程>
本発明の通電しながらグラファイト化する工程は、原料フィルムによって、大きく下記の3つに分類できる。
後述する「電圧を印加し直接通電可能な容器」内に、
(その1)「炭素化した高分子フィルム」を保持し、または、
(その2)「高分子フィルム」を予備加熱処理することで「炭素化した高分子フィルム」を得た後、その「炭素化した高分子フィルム」を保持し、または、
(その3)絶縁体である「高分子フィルム」を保持し、
該容器に電圧を印加し通電しながら、グラファイト化する工程を含むことを特徴とする。
下記に、(その1)から(その3)について、具体的に説明する。
(その1)原料に炭素化した高分子フィルムを用い、該フィルムを電圧印加による直接通電が可能な容器内に保持し、該容器へ電圧印加することで通電してグラファイト化する場合、該フィルムは、発熱した容器からの直接熱伝導<<1>>及びフィルムの自己発熱<<2>>による2つの手段で加熱され、品質の優れたグラファイトフィルムとなる。詳細を説明すると以下の通りである。
従来の通常の雰囲気及び減圧下での熱処理では、加熱は、雰囲気ガスの熱伝導及び/またはヒーターからの輻射熱によりおこなわれるため、フィルムが加熱される手段は基本的には、フィルム表面から内部への熱伝導の1つのみである。
しかし本発明の方法では、炭素化した高分子フィルムと導電体(容器(黒鉛製容器であってもよい)及び/又はカーボン粉末)が接している部分がフィルムの一方の表面と他方の表面であるため、電圧印加により発生したジュール熱が、炭素化した高分子フィルムの一方の表面と他方の表面の両方から直ちに伝熱する。その結果、一方の表面と他方の表面の両方から、炭素化が進行する。発熱した容器からの直接熱伝導及び後述するフィルムの自己発熱による2つの手段で加熱されフィルム内部まで十分加熱され、フィルムの表層及び内部で均一に熱処理される。
本発明では、電圧を印加し直接通電可能な容器に通電にすると、通電による発熱が生じる。
また、出発原料に炭素化した高分子フィルムを用いた場合、容器に電圧を印加すると、該フィルムは既に炭素化しているために炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて電流が流れ、黒鉛化の進行に伴い、抵抗が低くなるために、より電流が流れ、フィルム自体が発熱する。特に、電流は表層及び内部の両方に流れるため、発熱は表層及び内部の両方で同時に進行する。その結果、均一な黒鉛化が起こる。
さらに、電流は、炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて流れ、黒鉛化の進行に伴い、抵抗が低くなるために、フィルムに流れる電流量が増え、フィルムの発熱量が増加し、黒鉛化が進行しやすくなる。特に、部分的に発熱が大きくなったとしても、フィルムそのものが発熱しかつ黒鉛化が進行するに従い熱伝導性が高まるために、フィルム全体に熱が伝わり、フィルムは均一に加熱される。
グラファイトになる前の炭素化した高分子フィルムは、グラファイトと比べて熱伝導性に劣る傾向が有る。そのため、従来のような通常の雰囲気及び減圧下での熱処理では加熱手段が熱伝導の1つのみであることから、内部まで熱が十分伝わりにくく、表層と内部で黒鉛化の状態に差ができやすく、表層のみ黒鉛化し、内部に黒鉛化の不十分な部分が残る傾向が有る。結果、従来の方法では、高温に熱処理した場合に、内部の不十分な部分が発泡破裂し、フィルムがボロボロになった。
一方、本発明の方法では、電圧を印加し直接通電可能な容器そのものが電圧印加に伴い発熱しているのと同時に、炭素化・黒鉛化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて、炭素化した高分子フィルムの炭素化部分に、電流が流れ、フィルム自体が発熱する。したがって、発熱した容器からの直接熱伝導及びフィルムの自己発熱による2つの手段によって、フィルムに十分熱を供給することが可能となり、内部の熱伝導性が悪い部分にも充分熱が供給され、表層のみ黒鉛化されることなく、表層と内部が同時に黒鉛化が進行する。
さらに、フィルム面内で均一に電気伝導度が高くなるため、フィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、結果として表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。また、熱処理後のグラファイトが結晶性に非常に優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトとなる。
(その2)また、原料フィルムとして絶縁体の高分子フィルムを用いる場合、該フィルムを、不活性ガス雰囲気下および/または減圧下で予備加熱処理して得られる、炭素化した高分子フィルムを使用できる。このようにして炭素化した高分子フィルムは、(その1)で上記記載したとおりの方法で、グラファイト化が可能である。
(その3)また、原料フィルムとして絶縁体の高分子フィルムを用いる場合、グラファイトに至るまでの炭素化過程の最初から通電によるため、炭素化も均一に起こりやすい。また、絶縁体の高分子フィルムであっても、本発明の製造方法によれば、その絶縁体の高分子フィルムと導電体(黒鉛製容器及び/又はカーボン粉末)が接している部分がフィルムの一方の表面と他方の表面であるため、電圧印加により発生したジュール熱が、絶縁体高分子フィルムの一方の表面と他方の表面の両方から直ちに伝熱する。従って、一方の表面と他方の表面の両方から、炭素化が進行する。
このように本発明では、絶縁体の高分子フィルムであっても、両方の表面に導電体が接しているため、電圧を印加し通電して加熱する場合、当初は、フィルムの両方の表面から炭素化が進行し、引き続き、フィルム内部の炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じてフィルム内部にも電流が流れ、また炭素化の進行に伴いフィルムに流れる電流量が増え、最終的に表面及び内部での均一な発熱が起こるため、均一な黒鉛化が進行しやすくなる。またフィルム面内で均一に電気伝導度が高くなるため、フィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、結果として表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。また、熱処理後のグラファイトの結晶性に非常に優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトとなる。
本発明によるグラファイトフィルムが従来製造方法によるグラファイトフィルムよりも優れた均一性を発現する理由や機構については、学術的詳細研究がさらに必要ではあるが、上記のとおり、推定できる。
<電圧を印加し通電する方法>
本発明において、電圧を印加し通電する方法としては、交流電圧および/又は直流電圧を印加し、通電することをいう。
本発明の原料フィルムのグラファイト化プロセスは、電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含むことによって行なわれる。例えば次のよう方法「1」−「4」で通電されるのが好ましい。ここでは特に、黒鉛製容器の場合について記載するが、必ずしも、黒鉛製容器にのみ制約されるものではない。
「1」黒鉛製容器内に、原料フィルムを保持し、該黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法。
「2」黒鉛製容器内に、原料フィルムを保持し、該黒鉛製容器の外部周辺をカーボン粉末で覆い(充填し)、カーボン粉末を介して、黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法。
「3」黒鉛製容器内に、カーボン粉末で覆った原料フィルムを保持し(黒鉛製容器と原料フィルムとの間に、カーボン粉末が充填されている状態で、保持し)、該黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法。
「4」黒鉛製容器内に、カーボン粉末で覆った原料フィルムを保持し(黒鉛製容器と原料フィルムとの間に、カーボン粉末が充填されている状態で、保持し)、さらに該黒鉛製容器をカーボン粉末で覆い(黒鉛製容器の外部周辺にカーボン粉末が充填されてい状態で)、カーボン粉末を介して、黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法。
直接通電可能な容器及び製造されたフィルムの電気伝導性から考えて、サンプルの大きさにもよるが、通電の結果、例えば原料フィルムには10mA以上の電流が流れ、ジュ−ル熱により容器および/またはフィルムが発熱する。特に、初期絶縁体で途中から導電体に変換する場合であっても、投入電力を制御することにより急激な温度上昇を防止することで、安定的に高品質のグラファイトフィルムを製造できる。
従来の雰囲気加熱や減圧下での加熱では、加熱は、ヒーターと接触している部分や雰囲気ガスからの熱伝導、ヒーターからの輻射熱によって原料フィルムの表面からおこなわれ、フィルムの内部と表面で不均一に黒鉛化が進行し、フィルム全体としての熱伝導性が低下した。特に、原料フィルムが厚い場合には、表面から黒鉛化が進行することで、内部からの分解ガスが出にくくなり、無理な分解ガス放出により、フィルムが破壊した。また破損しない場合であったとしても、フィルムが薄い場合に比べると内部の黒鉛化は十分進行せず、熱伝導性は非常に劣るものとなった。
しかし、本発明にある電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程では、結果として原料フィルムに電圧を印加し通電して加熱するため、原料フィルムそのものの発熱が寄与する。従って、フィルムの内部と表面で均一に加熱され、またフィルム周辺からも十分均一に加熱が行なわれるため、従来よりも電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。さらに、125μmや225μm程度の、従来より厚い原料フィルムを用いた場合にも、フィルムの内部、表面、周辺から均一に加熱されるため、表面と内部が同時に黒鉛化し、表層に分解ガスの発生を妨げる黒鉛層が形成されず、内部の分解ガスが抜けやすくなり、分解ガスによるフィルム破損が起こらず、厚みの厚い電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
通電方法「2」である、黒鉛製容器内に、原料フィルムを保持し、該黒鉛製容器の外部周辺をカーボン粉末で覆い、カーボン粉末を介して、黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法は、通電方法「1」である黒鉛製容器内に、原料フィルムを保持し、該黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法よりも、熱伝導性が高く、特性にバラツキのない優れたグラファイトフィルムを得るうえでは、優れている。というのは、黒鉛製容器をカーボン粉末で覆うことにより、黒鉛製容器および/または原料フィルムに加わる通電および加熱が均一におこるためである。
またさらに、通電方法「3」「4」にあるように、黒鉛製容器内に、カーボン粉末で覆った原料フィルムを保持することも、黒鉛製容器および/または原料フィルムに加わる通電および加熱が均一になるために好ましい。
通電の結果生じる熱から与えられ、原料フィルムに結果として与えられる熱処理温度としては最低でも2400℃以上が必要で、好ましくは2600℃以上、最終的には2700℃以上の温度で熱処理することが好ましく、2800℃以上で熱処理することがより好ましい。
<電圧を印加し直接通電可能な容器内に保持する方法>
電圧を印加し直接通電可能な容器(例えば黒鉛製容器)内に、原料フィルムを保持する方法とは、例えば、原料フィルムを金属板やグラファイト板で挟んだ上で、金属板やグラファイト板の自重以外には特には加圧しない状態で容器壁や容器底に接するように保持する方法が有るが、必ずしもこれらの方法だけに制約を受けるものではない。
<通電可能な容器(A)内に、原料フィルムを保持し、さらに該容器(A)を通電可能な容器(B)内に保持し、全体に通電しながらグラファイト化する方法>
本発明のグラファイトフィルムの通電加熱によるグラファイト化方法は、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを後述する「電圧を印加し直接通電可能な容器」(A)内に保持し、さらに該容器(A)を通電可能な容器(B)内に保持し、全体に通電しながらグラファイト化する工程を含むことを特徴とする。
<直接通電可能な容器(A)の直接通電可能な容器(B)内への保持方法>
まず、本発明の通電によるグラファイト化方法について述べる。容器(A)を容器(B)内に保持しないような場合、すなわち、容器を2つ使用せず1つの容器を使用して高分子フィルムまたは炭素化した高分子フィルムの直接通電によるグラファイトの製造方法では、原料フィルムを1つの直接通電可能な容器内に保持して、該容器一つ一つの外部周辺にカーボン粉末で充填し、全体に通電してグラファイトフィルムを作製する。この場合、多数の該容器をそれぞれカーボン粉末で覆って通電し、グラファイトフィルムを作製した場合には、カーボン粉末の充填密度や該容器自身それぞれの電気抵抗の差に起因して、作製したグラファイトフィルムの品質が、原料フィルムを保持した容器によって、品質に差が生じる場合があった。
しかしながら、本発明の原料フィルムのグラファイト化プロセスは、電圧を印加し、直接通電可能な容器内(A)に、該原料フィルムを保持し、さらに直接通電可能な容器(B)に該原料フィルムが保持されている容器(A)を保持する。例えば図3〜5のいずれかで示されている保持方法がある。ここでは、該容器(A)を直方体、該容器(B)を円筒として記載しているが、該容器(A)と該容器(B)の形状は、必ずしも、直方体と円筒に制約されるものではない。
1.図3は、該原料フィルムが保持されている直接通電可能な容器(A)の外部周辺をカーボン粉末で覆い(容器(A)の外部周辺にカーボン粉末が存在している状態)、直接通電可能な容器(B)内に、該容器(A)が該容器(B)と接触しないように保持されている状態である。
2.図4は、該原料フィルムが保持されている直接通電可能な容器(A)の外部周辺にカーボン粉末を覆い(容器(A)の外部周辺にカーボン粉末が存在している状態)、直接通電可能な容器(B)内に、該容器(A)が該容器(B)と接触するように保持されている状態である。
3.図5は、該原料フィルムが保持されている直接可能な容器(A)を、直接通電可能な容器(B)に、該容器(A)が該容器(B)と接触するように保持されている状態である。図5では該容器(B)内への該容器(A)の保持にはカーボン粉末が使われていない。
本発明では、原料フィルムを保持した該容器(A)を該容器(B)内に保持することで、該容器(A)に加わる電圧および/または熱を均一化でき該容器(A)間で作製されたグラファイトの品質には、差が生じないという特徴がある。さらに、原料フィルムを保持した該容器(A)の外部周辺のカーボン粉末の存在密度(充填する場合には充填密度)を均一にでき、多数の該容器(A)を用いた場合であっても、該容器(A)間で作製されたグラファイトの品質には、差が生じないという特徴がある。
該原料フィルムが保持されている直接通電可能な容器(A)を直接通電可能な容器(B)内に保持し、電圧を印加し、通電する場合には、該容器(A)と該容器(B)が接触していないほうが好ましい。その理由は以下に示す通りである。
該原料フィルムが保持されている直接通電可能な容器(A)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で(容器(A)の外部周辺にカーボン粉末が存在している(好ましくは、充填している状態で、))直接通電可能な容器(B)内に該容器(A)を該容器(B)と接触しないように保持していれば、電圧を印加し通電する場合、該原料フィルムを保持した該容器(A)への通電が、該容器(A)の外部周辺に存在する(好ましくは充填した)カーボン粉末を介して該容器(A)全面に均一に起きる。このために、該容器(A)には、部分的な電圧の偏りが生じず均一な通電発熱が発生し、該原料フィルムが品質のバラツキがない優れたグラファイトとなる。
一方で、該容器(A)と該容器(B)が接触している状態で、電圧を印加し通電すると、該容器(A)と該容器(B)が接触している部分からのみ該容器(A)への通電が起こるために、該容器(A)には均一な通電発熱の発生が達成されず、該原料フィルムのグラファイト化の均一性が1.の場合より不充分なものとなる。
該原料フィルムが保持されている直接通電可能な容器(A)の外部周辺にカーボン粉末を覆い(容器(A)の外部周辺にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填している)状態)、直接通電可能な容器(B)内に、該容器(A)が該容器(B)と接触するように保持されている状態では、該容器(A)への通電が、該容器(B)と接触している部分と、該容器(A)の外部周辺を覆っているカーボン粉末から2つの経路で通電が起きるが、該容器(B)とカーボン粉末とでは電気抵抗が異なるために、電気抵抗が低いほうから通電が起き、該容器(A)の通電発熱の均一性が2.の場合より不充分なものとなる。
従って、該容器(B)への該容器(A)の保持方法として、一番好ましいのは、前記1.であり、次に2.次に3.である。
また、図3〜5のいずれかの保持状態に加えて、さらに、原料フィルムの周辺をカーボン粉末で覆っている状態(該容器(A)と原料フィルムとの間にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態)、または、該容器(B)の外部周辺にカーボン粉末が覆っている状態(該容器(B)の外部周辺にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態)であっても良い。
<該原料フィルムを保持した直接通電可能な容器(A)に通電する方法>
本発明の原料フィルムのグラファイト化プロセス、特に、通電方法について説明する。
本発明において、電圧を印加し通電する方法としては、交流電圧および/又は直流電圧を印加し、通電することをいう。
該原料フィルムを保持した直接通電可能な容器(A)/原料フィルムへの通電方法は、例えば次のような方法(1)と(2)がある。ここでは特に、黒鉛製容器の場合について記載するが、必ずしも、黒鉛製容器にのみ制約されるものではない。また、該容器(A)を直方体、該容器(B)を円筒として記載しているが、該容器(A)と該容器(B)の形状は、必ずしも、直方体と円筒に制約されるものではない。
(1)図6に示すような該容器(A)の保持方法であり、黒鉛製容器(B)内に外部周辺をカーボン粉末で覆った黒鉛製容器(A)を黒鉛製容器(B)と接触しないように保持し(該容器(A)と該容器(B)の間にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態で、保持し)、直接、黒鉛製容器(B)に電圧を印加し、黒鉛製容器(B)およびカーボン粉末を介して、黒鉛容器(A)/または原料フィルムに通電する方法。
(2)図7に示すような保持方法であり、黒鉛製容器(B)内に黒鉛製容器(A)を黒鉛製容器(B)と接触しないように黒鉛製容器(A)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で保持し(該容器(A)と該容器(B)の間にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態で、保持し)、さらには、黒鉛製容器(B)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で、(黒鉛製容器Bの外部周辺にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態で、)該容器(B)の外部周辺に存在している(このましくは充填されている)カーボン粉末に電圧を印加し、該容器(B)を覆っているカーボン粉末、黒鉛製容器(B)、そして該容器Aと該容器Bの間のカーボン粉末を介して、黒鉛容器(A)/または原料フィルムに通電する方法。
図7に示す保持方法は、図6に示す保持方法よりも、熱伝導性が高く、特性にバラツキのない優れたグラファイトフィルムを得るうえでは、優れている。というのは、黒鉛製容器(B)をカーボン粉末で覆うことにより、黒鉛製容器および/または原料フィルムに加わる通電および加熱が均一におこるためである。
(1)〜(2)のいずれかに記載した、該容器(A)/原料フィルムへの通電方法に加えて、原料フィルムの周辺をカーボン粉末で覆っている状態(該容器(A)と原料フィルムとの間にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態)、または、該容器(A)と該容器(B)が接触している状態であっても良いことは、いうまでもない。
従来の雰囲気加熱や減圧下での加熱では、加熱は、ヒーターと接触している部分や雰囲気ガスからの熱伝導、ヒーターからの輻射熱によって原料フィルムの表面からおこなわれ、フィルムの内部と表面で不均一に黒鉛化が進行し、フィルム全体としての熱伝導性が低下した。特に、原料フィルムが厚い場合には、表面から黒鉛化が進行することで、内部からの分解ガスが出にくくなり、無理な分解ガス放出により、フィルムが破壊した。また破損しない場合であったとしても、フィルムが薄い場合に比べると内部の黒鉛化は十分進行せず、熱伝導性は非常に劣るものとなった。
しかし、本発明にある電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程では、結果として原料フィルムに電圧を印加し通電して加熱するため、原料フィルムそのものの発熱が寄与する。従って、フィルムの内部と表面で均一に加熱され、またフィルム周辺からも十分均一に加熱が行なわれるため、従来よりも電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。さらに、125μmや225μm程度の、従来より厚い原料フィルムを用いた場合にも、フィルムの内部、表面、周辺から均一に加熱されるため、表面と内部が同時に黒鉛化し、表層に分解ガスの発生を妨げる黒鉛層が形成されず、内部の分解ガスが抜けやすくなり、分解ガスによるフィルム破損が起こらず、厚みの厚い電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
通電の結果生じる熱から与えられ、原料フィルムに結果として与えられる熱処理温度としては最低でも2400℃以上が必要で、好ましくは2600℃以上、最終的には2700℃以上の温度で熱処理することが好ましく、2800℃以上で熱処理することがより好ましい。
なお、本発明で記載の温度は、例えば直接通電可能な容器の外壁や内部の一部などにおいて、放射温度計などを使用して計測することができる。
なお、本明細書で使う「熱処理」という言葉は、下記のような広義の意味で用いる。従来技術の場合は、概ね、「熱処理」とは、減圧下での加熱や、ガス雰囲気での加熱を指す。一方で、本発明の特徴である通電についても、通電の結果生じる熱が原料フィルムに伝わることを「熱処理」と概括的に表現している場合が有る。従来技術との対比で説明する場合に、従来の減圧下での加熱や、ガス雰囲気での加熱、通電の結果生じる熱が原料フィルムに伝わる場合を、区別なく説明する際に、特に注釈を付けずに複数の原理が有りうる「熱処理」という表現をすることが有る。
<通電方向と原料フィルムの法線との成す角度>
本発明では、通電方向と該原料フィルムの位置関係は、原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの法線との、成す角度が0度より大きく180度未満であればよい。ここでいう、成す角度とは、通電における正極から負極への通電方向を直線で表した場合の、原料フィルムの面方向に対する法線との成す角度を意味する。
原料フィルムの面方向に対する法線と、通電方向を示す直線との、成す角は、好ましくは60度以上120度以下、さらに好ましくは75度以上105度以下、最も好ましくは90度である。
原料フィルムへの通電方向と原料フィルムの法線の成す角と90度がもっとも好ましい理由としては、成す角が90度であれば、通電方向が原料フィルムの面方向であるために、原料フィルムに均一な通電が可能であり、品質の優れたグラファイトフィルムが得られる。
一方で、通電方向と原料フィルムの面方向に対する法線との成す角が0度で、通電方向が原料フィルムの厚み方向である場合、原料フィルムを容器(A)内に保持するために用いられている板状の通電可能な黒鉛を介して、原料フィルムに通電が起きるために、成す角が90度に比べて、原料フィルムへの通電が妨げられる場合がある。このために、成す角が0度に比べて、90度のほうが原料フィルム自身の通電による加熱には有利である。
また、成す角が0度では、通電方向が原料フィルムの厚み方向であるのに対して、成す角90度では、通電方向が原料フィルムの面方向であることから、成す角90度のほうが通電距離が長く、このために、成す角90度であるほうが通電時の原料フィルム自身の発熱にも有利である。
<電圧を印加し直接通電可能な容器>
本発明の、電圧を印加し直接通電可能な容器とは、例えば、タングステン製、モリブデン製、黒鉛製の容器である。容器の形状は、特に制約を受けず、単純な平板などの形状でよい。また容器は円筒状で、原料フィルムを容器に巻きつける方法でも良い。容器の形状は、原料フィルムを保持できる限りにおいて、特に制約を受けないが、作製の容易さ、工業的入手の容易さという観点から、例えば、直方体や立方体の形状をしており、ブロック状、蓋などが有る弁当箱状などの形状が、好ましい。
なお、使用される容器や、本明細書中に記載の容器(A)や容器(B)は、それぞれ独立に、容器内を密閉状態で使用してもよいし、密閉状態で使用しなくてもよい。
密閉状態にする方法としては、それぞれの容器に、密閉状態が実現できるような覆いを設ける方法が考えられる。密閉状態の場合には、加温・降温された結果膨張・収縮した気体の存在に伴って、容器内部が、常圧に比べて加圧されている状態や、常圧に比べて減圧されている状態を達成しうる。
密閉状態にしない方法は、それぞれの容器(容器(A)、容器(B)、それぞれ独立に)に覆い(例えば蓋など)を設けるものの、容器と覆い(例えば蓋など)との間を通じて、加温・降温された結果膨張・収縮した気体が、出入り可能な状態であるような状態を実現する方法などが有る。もちろん、容器(容器(A)、容器(B))をそのまま用いて、覆いを設けない方法も、密閉状態にしない方法の一態様である。
本発明においては、容器の内部が、密閉されても、密閉されなくても良い。
<黒鉛製容器>
本発明のような2500℃の温度領域まで通電によって加熱されるような用途では、取り扱いの容易さや、工業的な入手の容易さ等を勘案すると、使用される容器(A)や容器(B)としては、黒鉛製の容器が、特に好ましい。ここでいう黒鉛とは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、等方性黒鉛、押出製黒鉛、が挙げられ、電気伝導性、熱伝導性に優れ、均質性にも優れる等方性黒鉛が、電流を流しまた繰り返し用いる場合には好ましい。
<直接通電可能な容器(B)>
本発明では、該容器(B)は特に形状の限定はないが、円筒であることが好ましい。これは、通電時に、円筒であるほうが、角筒であるよりも、電圧の偏りが生じにくいため、該容器(A)の全体にわたって均一な通電加熱に有利であるためである。容器(А)については特には形状の制限はないが、工業的な入手の容易さ等を勘案すると立方体、直方体などの角筒、もしくは円筒の形状で、操作上の利便性から蓋つきのものが良い。
<原料フィルムが絶縁体>
また、製造工程の初期において原料フィルムが絶縁体であるとよい。というのは、炭化処理を通電加熱によって行われると、均一な炭化が起こり、その結果、黒鉛化中にフィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。その結果として、熱伝導性の優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
<カーボン粉末>
本発明において用いられるカーボン粉末は、下記に説明するカーボン粒子や、黒鉛粒子であってもよい。
<黒鉛粒子>
本発明において用いられる黒鉛粒子は、本発明のような2500℃の温度領域まで(通電によって)加熱される。ここでいう黒鉛粒子の素材である黒鉛とは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、グラファイトクロスを粉砕したもの、等方性黒鉛を粉砕したもの、押出製黒鉛を粉砕したもの、カーボンブラック、等が挙げられる。黒鉛粒子の粒子形状、粒子径、粒子径分布などは、特に制限されるものではない。
<カーボン粒子>
本発明において用いられるカーボン粒子は、本発明のような2500℃の温度領域まで(通電によって)加熱される。
ここでいうカーボン粒子とは、炭素を主に含む粒子である限りにおいて、特に限定されるものではない、広い概念である。例えば、有機物を主に含む物質や粉末や繊維を熱処理した後、粒子状に粉砕したものや、造粒したものでもよい。熱処理の温度は、200℃以上、好ましくは、500℃以上、さらに好ましくは1000℃以上や1500℃以上である。また、天然および/または人工のピッチ、コークス、カーボンブラックのような炭素を主に含む物質を用いてもよい。また、カーボン粉末は黒鉛であっても良い。ここでいうとは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、グラファイトクロスを粉砕したもの、等方性黒鉛を粉砕したもの、押出製黒鉛を粉砕したもの、等が挙げられる。カーボン粒子の粉末形状、粒子径、粒子径分布などは、特に制限されるものではない。
<通電加熱しながら金属を含む物質と接触させる方法>
また、原料フィルムと金属を含む物質とを接触させた状態(金属、金属を含むカーボン粉末、金属を含むカーボン容器が存在する)に通電がなされると、原料フィルムに加え、金属も加熱され、拡散が起こりやすくなり、原料フィルムと均一に相互作用をおこし、フィルム全体で均一なグラファイト化が進行する。さらに、金属に通電されると、金属の反応性が高まり、原料フィルムとの反応が促進されたために、各特性に優れたグラファイトフィルムが得られたと推定する。また、通電中は、フィルムが容器および/またはカーボン粉末で覆われているために、十分金属の効果が発揮しやすくなり好ましい。
<グラファイト複合フィルムの形態>
本発明のグラファイトフィルムは、熱拡散性、放熱性、固定性、取り扱い性、絶縁性を改善するために、少なくとも片面および/または両面に粘着層、絶縁層、導電層などを形成すると良い。
<粘着層>
粘着層の材料としては、アクリル系粘着材、シリコーン系粘着材等が挙げられ、これら材料は、耐熱性に優れ、発熱部品や放熱部品と複合化して使用した場合にも、十分な長期信頼性が得られる。また、取り付け位置の間違いや使用後の修理において、一度取り付けたグラファイト複合フィルムを取り外さなければならない場合がある。アクリル系粘着材、シリコーン系粘着材は、繰り返し使用や長期信頼性に優れるため、このような再利用性、再剥離性にも優れる。
粘着層の厚みは、50μm以下、好ましくは35μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。厚みが50μmより厚くなると、グラファイトフィルムと複合した際に、グラファイトフィルムが有する優れた熱伝導性を発揮することが困難となる。また、粘着層の厚みは、10μm以上であるとよい。10μm未満であると、発熱部品や放熱部品と複合化して使用した場合にも、十分な粘着性を保持することが出来ず、長期信頼性にも劣るものとなる。
また、粘着層は、基材を含む材料であることが好ましい。基材を含むことにより、グラファイト複合フィルムのコシが増え、剥離ライナーを剥がす際や一度取り付けたグラファイトフィルムを再剥離する際に、グラファイトフィルムが層剥離する事を抑制することができる。特に、本発明のように非常に、結晶性、熱拡散性が優れたグラファイトフィルムにおいては、フィルムが層状に剥離しやすい場合があるが、基材がある事により、剥離性を改善することが可能となる。また基材がある事により、グラファイト複合フィルムの強度が増し、取り付け時、機械的にカシメて固定する時やリワーク時にグラファイトフィルムが傷つくのを防止することが可能となる。本発明のグラファイトフィルムは、強度に優れ、傷つきにくい特徴をするが、基材のある粘着層を用いる事により、より傷つきを防止することができる。
粘着層の基材としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートを含む材料であると良い。ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートは、耐熱性、強度、寸法安定性に優れ、複合した際に、熱伝導性を落とすことなく、剥離性、傷つき防止性にも優れるグラファイト複合フィルムとなる。また、基材の厚みは、6μm以下であると良い。基材の厚みが薄いと、グラファイトが有する優れた熱拡散性を損なうことなく、複合化することが可能となる。また、基材の厚みが厚くなると、剥離ライナーを剥がす場合や折り曲げで使用する場合、粘着層の基材に力が加わりやすくなる。一般に基材は伸びに強いため、曲げに追従することが可能であるが、グラファイトフィルムは折り曲げに弱いため、基材と同程度に折り曲げをおこなうと、グラファイト層の引き剥がし部分や折り曲げ部分に皺が入りやすくなる。そのため、構成としては、粘着層の基材よりもグラファイトフィルムの方に力が加わるようにすること、すなわち、粘着層の基材を薄くすることで、剥離ライナーを剥がす場合や折り曲げて使用する際に、グラファイト複合フィルムに皺が入る皺を抑制することが可能となる。
これら絶縁層は、グラファイトフィルムに塗布、印刷、浸漬、蒸着等により直接形成しても良いし、ラミネートを使用して転写して形成しても良い。
<絶縁層>
絶縁層の材料としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ等が挙げられ、これら材料は、耐熱性に優れ、発熱部品や放熱部品と複合化して使用した場合にも、十分な長期信頼性が得られる。
絶縁層の厚みは、50μm以下、好ましくは35μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。厚みが50μmより厚くなると、グラファイトフィルムと複合した際に、グラファイトフィルムが有する優れた熱伝導性を発揮することが困難となる。また、絶縁層の厚みは、10μm以上であるとよい。10μm未満であると、発熱部品や放熱部品と複合化して使用した場合にも、十分な粘着性を保持することが出来ず、長期信頼性にも劣るものとなる。
これら絶縁層は、グラファイトフィルムに塗布、印刷、浸漬、蒸着等により直接形成しても良いし、粘着材や接着材を介して形成しても良い。
<導電層>
導電層の材料としては、銅、アルミニウム等が挙げられ、これら材料は、耐熱性に優れ、発熱部品や放熱部品と複合化して使用した場合にも、十分な長期信頼性が得られる。
導電層の厚みは、50μm以下、好ましくは35μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。厚みが50μmより厚くなると、グラファイトフィルムと複合した際に、グラファイトフィルムが有する優れた熱伝導性を発揮することが困難となる。また、導電層の厚みは、10μm以上であるとよい。10μm未満であると、発熱部品や放熱部品と複合化して使用した場合にも、十分な粘着性を保持することが出来ず、長期信頼性にも劣るものとなる。
これら導電層は、グラファイトフィルムに塗布、メッキ、スパッタ、蒸着等により直接形成しても良いし、粘着材や接着材を介して形成されても良い。
<グラファイト複合フィルムの面方向の熱伝導率>
前記グラファイト複合フィルムの面方向の熱伝導率は、600W/m・K以上、好ましくは800W/m・K以上、さらに好ましくは900W/m・K以上である。600W/m・K未満であると、省スペースの電子機器で使用する場合、熱量を十分逃がすことが困難となる。
<用途など>
本発明のグラファイトフィルムは、熱伝導性、温度に対する寸法安定性、フィルム強度、電気伝導性が高いために、例えば、サーバー、サーバー用パソコン、デスクトップパソコン等の電子機器、ノートパソコン、電子辞書、PDA、携帯電話、ポータブル音楽プレイヤー等の携帯電子機器、液晶ディスプレイ(バックライトを含む)、プラズマディスプレイ、LED、有機EL、無機EL、液晶プロジェクタ、時計等の表示機器、インクジェットプリンタ(インクヘッド)、電子写真装置(現像装置、定着装置、ヒートローラ、ヒートベルト)等の画像形成装置、半導体素子、半導体パッケージ、半導体封止ケース、半導体ダイボンディング、CPU、メモリ、パワートランジスタ、パワートランジスタケース等の半導体関連部品、リジッド配線板、フレキシブル配線板、セラミック配線板、ビルドアップ配線板、多層基板等の配線基板(以上左記の配線板とは、プリント配線板なども含む)、真空処理装置、半導体製造装置、表示機器製造装置等の製造装置、断熱材、真空断熱材、輻射断熱材等の断熱装置、DVD(光ピックアップ、レーザー発生装置、レーザー受光装置)、ハードディスクドライブ等のデータ記録機器、カメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、顕微鏡、CCD等の画像記録装置、充電装置、リチウムイオン電池、燃料電池等のバッテリー機器等の放熱材料、放熱部品、冷却部品、温度調節部品、電磁シールド部品として好適である。
以下において、本発明の種々の実施例がいくつかの比較例と共に説明される。
(ポリイミドフィルムAの作製方法)
4,4’−オキシジアニリンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ビロメリット酸二無水物の1当量を溶解してポリアミド酸溶液(18.5wt%)を得た。
この溶液を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、およびDMFを含むイミド化触媒を添加し脱泡した。次にこの混合溶液が、乾燥後に所定の厚さになるようにアルミ箔上に塗布された。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブン、遠赤外線ヒーターを用いて乾燥された。
出来上がり厚みが75μmの場合におけるフィルム作製用の乾燥条件を示す。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブンで120℃において240秒乾燥されて、自己支持性を有するゲルフィルムにされた。そのゲルフィルムはアルミ箔から引き剥がされ、フレームに固定された。さらに、ゲルフィルムは、熱風オーブンにて120℃で30秒、275℃で40秒、400℃で43秒、450℃で50秒、および遠赤外線ヒーターにて460℃で23秒段階的に加熱されて乾燥された。
以上のようにして、厚さ75μmのポリイミドフィルム(ポリイミドフィルムA:弾性率3.1GPa、吸水率2.5%、複屈折0.10、線膨張係数3.0×10-5/℃)が製造された。なお、その他厚みのフィルムを作製する場合には、厚みに比例して焼成時間が調整された。例えば厚さ225μmのフィルムの場合には、75μmの場合よりも焼成時間を3倍に設定した。また、厚みか厚い場合には、ポリイミドフィルムの溶媒やイミド化触媒蒸発による発泡を防ぐために低温での焼成時間を十分とる必要がある。
(炭素化フィルムAの作製方法)
厚さ75μmのポリイミドフィルムAを黒鉛板に挟み、電気炉を用いて窒素雰囲気下で、1000℃まで昇温された後、1000℃で1時間熱処理して炭化処理(炭素化処理)が行われた。この炭素化フィルムを炭素化フィルムAとする。
(炭素化フィルムBの作製方法)
厚さ175μmのポリイミドフィルムAを黒鉛板に挟み、電気炉を用いて窒素雰囲気下で、1000℃まで昇温された後、1000℃で1時間熱処理して炭化処理(炭素化処理)が行われた。この炭素化フィルムを炭素化フィルムBとする。
(グラファイトフィルムAの作製方法)
炭素化処理により得られた炭素化フィルムA(400cm2(縦200mm×横200mm)、を、縦270mm×横270mm×厚み3mmの板状の平滑なグラファイトで上下から挟み、図8に示す縦300mm×横300mm×厚み60mmの直接通電可能な黒鉛容器(容器(A))内に、保持した。
該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺をカーボン粉末で覆い(容器(A)と容器(B)の間にカーボン粉末を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルム1が作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との成す角度は、90度である。
なお前述した図10は、容器(B)に蓋をする前の模式図である。
熱処理後のグラファイトを、単板プレスの方法で圧縮することで、グラファイトフィルム1(厚み40μm)を得た。
(グラファイトフィルムBの作製方法)
炭素化処理により得られた炭素化フィルムBに硝酸鉄の10wt%メタノール溶液を塗布した後、黒鉛板に挟み、黒鉛容器(容器(A))にセットした以外はグラファイトフィルムAと同様にしてグラファイトフィルム2が作製された。
(グラファイトフィルムC:参考)
グラファイトフィルムCは、一般に入手可能な松下電器産業(株)製のPGSグラファイトシート「EYGS182310」である。
(グラファイトフィルムD:参考)
グラファイトフィルム4は、一般に入手可能なジャパンマテックス(株)製の膨張黒鉛ガスケットM/#8100ClaasBである。
今回、発明者・出願人が測定したグラファイトフィルムA、B、Cの厚み、厚みのばらつき、表面粗さRa、密度、線膨張係数、引張強度、引張弾性率、光交流法による面方向の熱拡散率が表1に示されている。
なお、線膨張係数の測定温度範囲は、グラファイトフィルム単体では室温〜400℃まで、グラファイトフィルム複合体では室温〜200℃まで測定しているが、その代表値として100℃〜200℃の平均線膨張係数を表1中に記載している。
また、グラファイトフィルム1〜4のレーザーフラッシュ法による厚み方向の熱拡散率および熱伝導率、熱抵抗測定装置による接触式厚み方向の熱抵抗および、熱抵抗測定装置による接触式厚み方向の熱伝導率が表1に示されている。
なお、表1に記載のグラファイトフィルムCの作製方法は、公知文献によって推定したものである。また、表1に記載のグラファイトフィルムCの原料は、ポリイミドフィルム(東レデュポン(株)製KAPTОN(登録商標)300Hであり、(株)カネカ製ではない)であると推定している。
以下に、表1記載の諸物性の測定方法を示す。
(グラファイトフィルムの密度測定)
グラファイトフィルムの密度は、グラファイトフィルムの重量(g)をグラファイトフィルムの縦、横、厚みの積で算出した体積(cm3)の割り算により算出された。なお、グラファイトフィルムの厚みは、任意の10点で測定した平均値を使用した。密度が高いほど、グラファイト化が顕著であることを意味している。
(光交流法によるフィルム面方向の熱拡散率測定)
グラファイトフィルムおよびグラファイト複合フィルム(粘着層、絶縁層、導電層)の面方向の熱拡散率は、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社から入手可能な「LaserPit」)を用いて、グラファイトフィルムを4×40mmのサンプル形状に切り取り、20℃の雰囲気下、10Hzにおいて測定された。グラファイト化の進行状況は、フィルム面方向の熱拡散率を測定することによって判定され、熱拡散率が高いほど、グラファイト化が顕著であることを意味している
(グラファイトフィルムの線膨張係数の測定)
グラファイトフィルム単体の面方向の線膨張係数の測定には、(株)島津製作所製の熱機械分析装置TMA―50を用いた。測定は、サンプルを3×20mm長にカットし、引張モードにおいて、窒素雰囲気下、初期加重10g、昇温速度10℃/分で、グラファイトフィルム単体では室温〜400℃まで昇温させた。表1中にはその代表値として、100℃〜200℃における平均線膨張係数を算出し、記載している。
(グラファイトフィルムの引張強度、引張弾性率の測定)
グラファイトフィルム単体および複合体の引張強度、引張弾性率の測定には、(株)東洋精機製作所製のストログラフVES1Dを用い、ASTM−D−882に準拠して測定を行った。測定は、チャック間距離100mm、引張速度50mm/分、室温下で行い、3回測定した際の平均値を使用した。
(レーザーフラッシュ法による厚み方向の熱拡散率および熱伝導率測定)
グラファイトフィルムのレーザーフラッシュ法による厚み方向の熱拡散率および熱伝導率測定には、JIS R1611−1997に準拠した京都電子工業(株)製のLFA−502を用いた。グラファイトフィルムを直径10mmにカットし、このフィルム両面を黒化処理した後、室温でレーザーフラッシュ法による厚み方向の熱拡散率測定を行った。また、グラファイトフィルムの熱容量を熱容量が既知である参照標準物質Moとの比較から算出した。これら測定したグラファイトフィルムの厚み方向の熱拡散率、密度、熱容量から厚み方向の熱伝導率を算出した。
厚み方向の熱拡散率および熱伝導率測定が大きいほど、厚み方向の熱伝導性に優れていることを意味する。
(熱抵抗測定装置による接触式厚み方向の熱抵抗および熱伝導率測定)
表1中の熱抵抗測定装置による接触式厚み方向の熱抵抗および熱伝導率測定は、(株)日立製作所 I―Engineeringにて実施された。グラファイトフィルムを10mm角にカットした。これをシリコンチップ(0.525mm厚)の鏡面間で挟み、加熱軸および冷却軸との間にオイルを塗布し、サンプル温度50℃、20Nの一定加重モードの条件で(株)日立製作所製の樹脂材料熱抵抗測定装置を用い、フィルムの厚み方向の熱抵抗を測定した。熱抵抗の値は、3回測定した際の平均値を使用した。また、得られた熱抵抗の値より、厚み方向の熱伝導率を算出した。
熱抵抗が低いほど、熱が伝わりやすいことを意味する。
(グラファイトフィルムの断面SEM像観察)
グラファイトフィルムを、縦20mm×横10mmの短冊状の大きさにカッターナイフで切り取った。さらにこのフィルムの一端に面方向に剃刀で微小な切り目を入れ、その切り目の反対側から力を加え、フィルムを割断させることで、グラファイトフィルムの断面を出し、SEMによるフィルムの断面の観察をおこなった。
なお、この割断の模式図を図12に示した。図12の6は短冊状のグラファイトフィルムである。図と対応して、再度説明すると、次の通りである。
グラファイトフィルムを、縦20mm×横10mmの短冊状の大きさにカッターナイフで切り取ったものが、図12の7である。さらにこのフィルムの一端に面方向に剃刀で微小な切り目を入れ、その切り目の反対側から力を加え(割断時に、グラファイトフィルムに軽く力をかける方向が、図12の8である)、剃刀刃がグラファイトフィルムに対して相対的に進む方向(図12の9)に向かって進む結果、フィルムを割断させることで、グラファイトフィルムの断面を出し、SEMによるフィルムの断面の観察をおこなった。
グラファイトフィルムの断面の観察装置には、日立製走査型電子顕微鏡S−4500型を用い、加速電圧5kVで観察した。
(グラファイトフィルムの厚みのばらつき測定)
グラファイトフィルムの任意の20点の厚みを、ハイデンハイン(株)製のMT1201、ND221Bを用いて測定した。測定した20点の厚みについて、その最大値と最小値の差を算出し、厚みのばらつきとした。厚みのばらつきの値が小さいほうが、グラファイトフィルムの表面平坦性に優れていることを意味する。
(グラファイトフィルムの表面粗さRaの測定)
グラファイトフィルムの表面粗さRaは、JISB0601に準拠して得られる値である。具体的には、表面粗さ 測定器SE3500((株)小坂研究所製)を使用し、表面粗さRaを測定した。グラファイトフィルムの表面粗さRaはグラファイトフィルムを長さ100mm×巾3mmのサイズに切り取り、カットオフ0.8mmおよび送り速度2mm/sとしてチャートを描かせ、基準長さLの部分を抜き取り、その抜き取り部分の中心線をX軸、縦方向をY軸として、粗さ 曲線をY=f(X)で表したとき、次の式で得られた値をμmで表したものである。
この測定は、基準長(L)を80mmとして、3個行ないその平均値を算出したものを表1中に記載している。以下、本明細書で「表面粗さ Ra」というときはこの測定値のことをいう。表面粗さRaの値が小さいほうが、グラファイトフィルムの表面平坦性に優れていることを意味する。
本発明のグラファイトフィルムは、発熱部位との密着性および複合化した場合のグラファイトフィルムと複合化した層との密着性の観点から、表面粗さ Raは、2.5μm以下が好ましく、さらに好ましくは1.0μm以下である。
(グラファイトフィルムの断面SEM観察)
グラファイトフィルムA、グラファイトフィルムB、グラファイトフィルムC、グラファイトフィルムDの断面SEM像を図13、図14、図15、図16に示す。
グラファイトフィルムAの断面SEM像は、図13である。グラファイトフィルムAは、表面層ではグラファイト結晶子が面方向に発達しこれらが積層した高密度なグラファイト層の断面模様であり、表面層以外ではグラファイト結晶子が面方向に発達しているがこれらは積層しておらず空気層に富んだグラファイト層の断面模様であるといえる。
また、このグラファイトフィルムAの断面模様は、フィルム全体にわたって、表面層に高密度にグラファイト層が積層しており(1μm未満の厚みの略長方形が略平行に積層した結果形成される短辺5μm以上の略長方形の形状を有する)、表面層以外では空気層に富んだグラファイト層であることがわかる。また、この表面層に積層したグラファイト層が非常に高密度であり、厚みが10μm以上(略長方形とみなすと、短辺10μm以上である)であることがわかる。この様にグラファイトフィルムAは、フィルム全体にわたって、表面層の断面模様と表面層以外の断面模様とが、少なくとも異なる部分を有する、グラファイトフィルムであり、このために、熱伝導特性に優れている。グラファイトフィルムAは、グラファイト層の結晶性に優れるために、その密度が1.9g/cm3以上であり、グラファイトフィルムC、D(参考)に比べ高い。
グラファイトフィルムBの断面模様は、図14のとおり、該グラファイトフィルム内部に、当初の原料フィルムには観察されなかった最短径0.1〜50μmの不定形形状の模様(不均一層)が形成されていた。さらに、グラファイトフィルムAおよびグラファイトフィルムC、Dのような層間に空気層はなくが密な状態であった。このような構造を有しているために、優れた熱伝導特性に加え、鉛事硬度はHB以上、密度1.9g/cm3以上と各特性に優れていた。
グラファイトフィルムCは、原料にポリイミドフィルムを熱処理して作製されていると推定され、図15のとおり、表面層および表面層以外の断面模様は、グラファイト結晶子が面方向に発達しているが、これらは積層しておらず、低密度なグラファイト層の断面模様であった。
グラファイトフィルムDは、原料に天然黒鉛を用いており、図16のとおり、表面層および表面層以外の断面模様は、グラファイト結晶子が発達しておらず、低密度なグラファイト層の断面模様であった。
グラファイトフィルムの面方向の熱拡散率の値は、グラファイトフィルムA、グラファイトフィルムB、グラファイトフィルムC、グラファイトフィルムDの順で優れていた。グラファイトフィルムAが最も優れており、その値は10.0×10-4m2/sであった。これは、グラファイトフィルムAは、表面層に非常に高密度に積層したグラファイト層が少なくとも5μm以上の厚みで形成されており、厚いものでは20μmの厚みを有しているため優れたと考えられる。グラファイトフィルムBでは、その面方向の熱拡散率は9.5×10-4m2/sであり、グラファイトフィルムAに比べ低かった。これはグラファイトフィルムBでは表面層および/または表面層以外で高密度に積層されたグラファイト層が観察されるが、グラファイトフィルムAには観察されなかった最短径0.1〜50μmのグラファイト質ではない不定形形状の模様(不均一層)が形成され、これが面方向の熱伝導性を阻害したためと考えられる。グラファイトフィルムCにおいても、表面層に積層したグラファイト層が見られるが、グラファイトフィルムAのほうが明らかに表面層に積層したグラファイト層が厚いことがわかる。グラファイトフィルムDは、表面層に積層したグラファイト層は観察されなかった。このために、本発明のグラファイトフィルムA、Bは従来のグラファイトフィルムに比べて面方向の熱拡散率に優れていると考えられる。
グラファイトフィルムの厚み方向の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法および熱抵抗測定装置による方法ともに、グラファイトフィルムD、グラファイトフィルムC、グラファイトフィルムA、グラファイトフィルムBの順で高かった。したがって、発熱部位から熱を拡散し、ヒートスポットを緩和できる能力としては、グラファイトフィルムB、グラファイトフィルムA、グラファイトフィルムC、グラファイトフィルムDの順で優れているといえる。これは、グラファイトフィルムAとグラファイトフィルムBのグラファイトフィルムがグラファイト層の結晶性が高く、グラファイトフィルムの面方向と厚み方向の熱伝導性の異方性が優れているためである。
このように、本発明のグラファイトフィルムは、グラファイトフィルムC、Dのグラファイトフィルムに比べ、フィルム面方向の熱伝導率に優れ、厚み方向との異方性が高い、結晶性に優れたグラファイトフィルムであることがわかる。
本発明のグラファイトフィルムAおよびグラファイトフィルムBは、測定温度範囲である室温〜400℃での平均線膨張係数がともに0ppm以下であった。線膨張係数の代表値として表1中に示した100℃〜200℃の間の平均線膨張係数はそれぞれー1.8、−3.4ppmであったことから、温度変化に対して優れた寸法安定性を有しているといえる。また、線膨張係数の値が0ppm以下であるのは、グラファイトフィルムAおよびグラファイトフィルムBが、非常に結晶性に優れることから、面方向に強固なグラフェン構造を有しているために、もはや面方向に伸びることはできず、弱いファンデルワールス結合である厚み方向で層間が伸びたためと考えられる。
機械強度である引張強度は、グラファイトフィルムB、グラファイトフィルムA、グラファイトフィルムC、グラファイトフィルムDの順で、また引張弾性率は、グラファイトフィルムB、グラファイトフィルムA、グラファイトフィルムD、グラファイトフィルムCの順で優れていた。グラファイトフィルムAとグラファイトフィルムBでは、引張弾性率が1GPaより高く、また引張強度は25MPaをこえており、十分な機械強度を有していることがわかった。これは、上述したように、グラファイトフィルムAとグラファイトフィルムBでグラファイト層の結晶性が非常に優れるために、機械的強度もグラファイトフィルムC、グラファイトフィルムDに比べ優れたと考えられる。また、特に機械強度に優れたグラファイトフィルムBは、その断面SEM像を見てわかるように、非常に密にグラファイト層が存在しており、この構造は機械強度の結果にも反映されている。
グラファイトフィルムの厚みのばらつきは、グラファイトフィルムB、グラファイトフィルムA、グラファイトフィルムC、グラファイトフィルムDの順で優れており、具体的には、グラファイトフィルムBで1μm、グラファイトフィルムAで2.5μmであり、従来のグラファイトフィルムに比べグラファイトフィルムA、グラファイトフィルムBでは優れた表面平坦性を示した。
また、表面粗さRaにおいても、厚みのばらつきのときと同様に、グラファイトフィルムB、グラファイトフィルムA、グラファイトフィルムC、グラファイトフィルムDの順で値が小さく、グラファイトフィルムAとグラファイトフィルムBの表面平坦性に優れていた。
(実施例1)
グラファイトフィルムAとアクリル系両面テープA(日東電工(株)No.5601:アクリル系4μm/PET2μm/アクリル系4μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面にアクリル系粘着層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
なお、実施例、比較例で作製したグラファイト複合フィルムの構成、面方向の熱伝導率、グラファイト複合フィルムの傷つきにくさの評価結果(評価方法は後述)を、表2にまとめた。
(実施例2)
グラファイトフィルムAとアクリル系両面テープB(寺岡製作所(株)707:アクリル系13μm/PET4μm/アクリル系13μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面にアクリル系粘着層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
(実施例3)
グラファイトフィルムBとアクリル系両面テープB(寺岡製作所(株)707:アクリル系13μm/PET4μm/アクリル系13μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面にアクリル系粘着層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
(実施例4)
グラファイトフィルムAとPET(ポリエチレンテレフタレート)テープA(寺岡製作所(株)631S:PET12μm/アクリル系18μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面にPET絶縁層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
(実施例5)
グラファイトフィルムAとポリイミドテープB(寺岡製作所(株)650S:PI12μm/アクリル系23μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面にPI絶縁層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
(実施例6)
グラファイトフィルムAとPET(ポリエチレンテレフタレート)テープA(寺岡製作所(株)631S:PET12μm/アクリル系18μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面にPET絶縁層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。つぎに、この複合フィルムとアクリル系両面テープB(寺岡製作所(株)707:アクリル系13μm/PET4μm/アクリル系13μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面にPET絶縁層、片面にアクリル系粘着層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
(実施例7)
グラファイトフィルムAとアルミテープ(アルミニウム25μm/アクリル系10μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面にアルミ導電層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
(実施例8)
グラファイトフィルムAと銅テープ(銅18μm/アクリル系10μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面に銅導電層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
(実施例9)
グラファイトフィルムAの両面に銅テープ(銅18μm/アクリル系10μm)をラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの両面に銅導電層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
(実施例10)
グラファイトフィルムAと銅テープ(銅18μm/アクリル系10μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面に銅導電層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。つぎに、この複合フィルムとアクリル系両面テープB(寺岡製作所(株)707:アクリル系13μm/PET4μm/アクリル系13μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面に銅導電層、片面にアクリル系粘着層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
(実施例11)
グラファイトフィルムBとPET(ポリエチレンテレフタレート)テープA(寺岡製作所(株)631S:PET12μm/アクリル系18μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面にPET絶縁層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
(実施例12)
グラファイトフィルムBと銅テープ(銅18μm/アクリル系10μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面に銅導電層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
(比較例1)
比較例1は、一般に入手可能な松下電器産業(株)製のPGSグラファイトシート「EYGC091210C」(グラファイトシートの片面に厚み10μmのアクリル粘着材が点状に塗布された製品)である。
(比較例2)
グラファイトフィルムCとアクリル粘着フィルム(アクリル系50μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面にアクリル粘着層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
(比較例3)
グラファイトフィルムCとPET(ポリエチレンテレフタレート)テープB(寺岡製作所(株)631S:PET25μm/アクリル系25μm)とをラミネーターで貼り合せ、グラファイトフィルムの片面にPET絶縁層が形成されたグラファイト複合フィルムを作製した。
<グラファイト複合フィルムの傷つきにくさの評価>
グラファイト複合フィルムの傷つきにくさは、(1)取り扱い時、(2)カシメ時、(3)リワーク時の外観を目視で確認した。
(1)取り扱い時の傷つきにくさ
グラファイト複合フィルムを発熱部品・放熱部品に取り付ける場合、使用形状に応じてカットする必要がある。また、粘着層が形成された複合フィルムについては剥離ライナーをはがす際に、粘着材の密着性が強いと、グラファイトに皺が入ったり、傷が入ったりする。これら取り扱い後の外観を目視により観察し、グラファイト複合フィルムに目視で確認できる傷があるものを「×」、少し傷が確認されるものを「△」、傷の入っていないものを「○」とした。
(2)カシメ時の傷つきにくさ
グラファイト複合フィルムを発熱部品・放熱部品と強固に固定する場合には、発熱部品と放熱部品の間にグラファイト複合フィルムを挟み、発熱部品と放熱部品をネジで固定し、グラファイト複合フィルムを締め付けるようにして機械的に固定する。また、粘着層が形成されていた複合フィルムについては、剥離ライナーを剥がして粘着材を介して固定した後、ネジで固定する。これら一連の固定をおこなった後、再びネジを緩め、放熱部品を外した後に外観を観察する事で、グラファイト複合フィルムの傷つきにくさを目視で確認した。グラファイト複合フィルムに目視で確認できる傷があるものを「×」、少し傷が確認されるものを「△」、傷の入っていないものを「○」とした。
(3)リワーク時の傷つきにくさ
一度、発熱部品・放熱部品に取り付けたグラファイト複合フィルムを、貼る位置を間違った場合や修理をおこなうために、一旦取り除き、その後再び取り付けるといったリワーク性が要求される。
このように一旦取り付けたものを取り外した後の傷つきにくさを目視で確認した。グラファイト複合フィルムに目視で確認できる傷があるものを「×」、少し傷が確認されるものを「△」、傷の入っていないものを「○」とした。
実施例1〜12、比較例1〜4について、面方向の熱伝導率を測定した結果、実施例1〜12では、いずれも600W/m・K以上と非常に優れた熱伝導性を示したのに対し、比較例1〜4では、いずれも600W/m・K未満であり、熱伝導性に劣るもので、省スペースでの熱拡散性を期待される電子機器の放熱材料としては不十分であった。
実施例1〜12、比較例1〜4について、傷つきやすさを確認した結果、実施例1〜12では、いずれも傷つきは確認されず優れた耐傷つき性を有していた。一方、比較例1では、点状にアクリル系粘着材が形成されているのみで、発熱部品・放熱部品との密着性が劣るのに加え、グラファイトフィルムCそのものの強度が弱いために、傷が入りやすく、取り扱い、カシメ、リワーク時いずれにおいても傷が入りやすかった。比較例2では、50μmアクリル系粘着材が形成されているのみで、グラファイトと粘着材が強くまた粘着材に基材が入っていないため、剥離ライナーを剥がす際に、グラファイトの層剥離やグラファイトが伸ばされることで、非常に傷つきやすかった。またカシメて固定した場合に、グラファイトが柔らかいため、傷が入りやすく、リワークをする際には、グラファイトが層剥離したり、伸ばされたりすることで、再度使用することができないほどであった。比較例3では、片面にPET絶縁層が形成されているが、グラファイトフィルムCそのものの強度が弱いために、傷が入りやすく、取り扱い時、カシメ時に傷が入りやすかった。
グラファイトフィルムA、Bは、硬度には優れるものの、結晶性が優れるため、構成によって、剥離ライナーを剥がす際に、グラファイトの層間が剥がれることがあった。しかし、本発明のように、粘着層、絶縁層、導電層の厚みが50μm以下とし、厚みを薄くすると、取り扱い時、剥離ライナーの剥がす時、リワーク時といったグラファイト複合フィルムに曲げや引っ張る力が加わる場合にグラファイトフィルムに加わる力をグラファイトと粘着層、絶縁層、導電層にうまく分散させることが可能となり、傷つきや破損を防止することが可能となる。特に粘着層がポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等の基材を含む材料を使用することで、取り扱い時、剥離ライナーの剥がす時、リワーク時といったグラファイト複合フィルムに曲げや引っ張る力が加わる場合でも、グラファイトフィルムが伸ばされたり、傷ついたり、破損したりすることを防止することができる。