JP5904426B2 - 強化ガラスおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、強化ガラスに関し、具体的には、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、タッチパネルディスプレイ、太陽電池のカバーガラス、或いはディスプレイの保護基板、更にはディスプレイ用基板に好適な強化ガラスに関する。
携帯電話、デジタルカメラ、PDA、或いはタッチパネルディスプレイ等のデバイスは、益々普及する傾向にある。
従来、これらの用途では、ディスプレイのカバーガラスとして、アクリル樹脂基板が用いられていた。しかし、アクリル樹脂基板は、ヤング率が低いため、指等でディスプレイを押すと、アクリル樹脂基板が撓み、ディスプレイに接触して表示不良が発生する場合があった。また、アクリル樹脂基板は、傷がつきやすく、視認性が低下しやすい。
保護部材にガラス基板を用いると、上記課題を解決することができる。保護部材にガラス基板を用いる場合、ガラス基板には、以下の特性が要求される。
(1)高い機械的強度を有すること、
(2)強度のばらつきが小さいこと、
(3)安価で多量に供給できること、
(4)泡品位に優れること。
従来、(1)の要求特性を満たすため、イオン交換等で強化したガラス基板(所謂、強化ガラス基板)が用いられている(特許文献1、非特許文献1参照)。
特開2006−83045号公報 特表2001−500098号公報 特開2008−105860号公報 特開平7−172862号公報
泉谷徹朗等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451−498
強化ガラスにおいて、ガラスの表面に形成される圧縮応力層の圧縮応力値を高め、圧縮応力層の厚みを大きくすれば、ガラスの機械的強度を高めることができる。
しかし、高い圧縮応力値と深い圧縮応力層を同時に形成することは困難である。深い圧縮応力層を得るためには、イオン交換温度を高くする、或いはイオン交換時間を長くする必要があるが、このような処理を実行すると、圧縮応力値が低下するからである。
従来、この問題を解決するために、ガラス組成中にAlやZrO等のイオン交換性能を向上させる成分を導入することが検討されてきた。しかし、これらの成分を多量に導入すると、ガラスの耐失透性が低下しやすくなるため、これらの成分の添加量には限界がある。
特に、オーバーフローダウンドロー法の場合、成形時における溶融ガラスの粘度が高いため、ガラスの耐失透性が低いと、ガラス基板の成形時にガラスが失透しやすくなり、ガラス基板の製造効率や表面品位等が低下しやすくなる。一方、フロート法等の成形方法は、成形時における溶融ガラスの粘度が低いため、このような問題が生じ難い。しかし、フロート法等の場合、表面精度が高いガラス基板を得るためには、成形後にガラス基板の表面を研磨する必要がある。ガラス基板の表面を研磨すれば、ガラス基板の表面に微小な欠陥が発生しやすくなり、ガラス基板の機械的強度を維持し難くなる。
そこで、本発明は、ガラスの耐失透性を維持した上で、イオン交換性能を向上させて、強化ガラスの機械的強度を向上させることを技術的課題とする。
本発明者は、種々の検討を行った結果、ガラス中の水分量、つまりβ−OH値が圧縮応力層の圧縮応力値や厚みに影響を与えることを見出し、同値を所定範囲に規制すれば、耐失透性を維持した上で、イオン交換性能を向上できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、圧縮応力層を有する強化ガラスにおいて、ガラス組成として、質量%で、SiO 45〜75%、Al 12〜25%、B 0〜10%、Li O 0〜1%、Na O 8〜20%、K O 0〜10%を含有し、β−OH値が0.01〜0.5/mmであり、且つ圧縮応力層の圧縮応力値に圧縮応力層の厚みを乗じた値は25000(MPa・μm)以上であることを特徴とする。ここで、「β−OH値」は、FT−IRを用いてガラスの透過率を測定し、下記の式を用いて求めた値を指す。
β−OH値 = (1/X)log10(T1/T2
X:ガラス肉厚(mm)
:参照波長3846cm−1における透過率(%)
:水酸基吸収波長3600cm−1付近における最小透過率(%)
β−OH値は、(1)含水量の高い原料(例えば水酸化物原料)を選択する、(2)原料中に水分を添加する、(3)ガラス中の水分量を減少させる成分(Cl、SO等)の使用量を低減したり、或いは使用しないようにする、(4)ガラスの溶融の際に酸素燃焼を採用したり、溶融炉内に直接水蒸気を導入したりして、炉内雰囲気中の水分量を増加する、(5)溶融ガラス中で水蒸気バブリングを行う、(6)大型溶融炉を採用したり、溶融ガラスの流量を遅くすることで高めることが可能になる。よって、上記操作(1)〜(6)とは逆の操作を行えば、β−OH値を低下させることが可能になる。すなわち、β−OH値は、(7)含水量の低い原料を選択する、(8)原料中に水分を添加しない、(9)ガラス中の水分量を減少させる成分(Cl、SO等)の使用量を増加する、(10)炉内雰囲気中の水分量を低下させる、(11)溶融ガラス中でNバブリングを行う、(12)小型溶融炉を採用したり、溶融ガラスの流量を速くすることで低下させることが可能になる。
従来の強化ガラスは、ガラス中のβ−OH値が0.5/mmより大きかったが、上記操作(7)〜(12)を適宜組み合わせると、β−OH値を0.5/mm以下にすることができる。
なお、ガラス中のβ‐OH値を規定する先行技術として、例えば特許文献2、3がある。特許文献2、3には、ガラスの清澄性を高めるために、ガラス中のβ−OH値を規制する技術が記載されている。しかし、特許文献2、3には、ガラスの機械的強度を高めるために、ガラス中のβ−OH値を規制する点は全く記載されていない。
また、特許文献4には、ガラス中の水分量を調整すれば、高い伝導率が得られることが記載されている。しかし、特許文献4には、ガラスの機械的強度を高めるために、ガラス中のβ−OH値を規制する点は全く記載されておらず、更にはオーバーフローダウンドロー法による成形についても全く考慮されていない。なお、特許文献4は、失透性が高いガラスセラミックに関する先行技術である。
発明の強化ガラスは、β−OH値が0.4/mm以下であることが好ましい
発明の強化ガラスは、ガラス組成中のSO+Cl(SOとClの合量)の含有量が0.0001〜0.5質量%であることが好ましい。このようにすれば、ガラス中の水分量が顕著に低下する。
発明の強化ガラスは、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上であり、且つ圧縮応力層の厚み(圧縮応力の深さ)が1μm以上であることが好ましい
発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 45〜75%、Al 12〜25%、 0〜10%、Li O 0〜1%、Na O 8〜20%、K O 0〜10%を含有することが好ましい
発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 45〜75%、Al 12〜25%、 0〜10%、Li O 0〜1%、Na O 8〜20%、K O 0〜6%を含有することが好ましい
発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜75%、Al 12〜22%、B 0〜5%、Li O 0〜1%、NaO 8〜15%、KO 0〜6%、MgO+CaO+SrO+BaO(MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量) 0〜10%含有することが好ましい
発明の強化ガラスは、歪点が450℃以上であることが好ましい。ここで、「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。
発明の強化ガラスは、熱膨張係数が60〜110×10−7/℃であることが好ましい。ここで、「熱膨張係数」とは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値を指す。
発明の強化ガラスは、液相温度が1200℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」とは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
発明の強化ガラスは、液相粘度が104.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」とは、液相温度におけるガラスの粘度を白金引き上げ法で測定した値を指す。
発明の強化ガラスは、基板形状を有することが好ましい
発明の強化ガラスは、未研磨の表面を有することが好ましい
発明の強化ガラスは、ディスプレイ用基板に用いることが好ましい
発明の強化ガラスは、タッチパネルディスプレイのカバーガラスに用いることが好ましい
発明の強化ガラスは、携帯電話のカバーガラスに用いることが好ましい
発明の強化ガラスは、太陽電池の基板またはカバーガラスに用いることが好ましい
発明に係るガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 45〜75%、Al 12〜25%、B 0〜10%、Li O 0〜1%、NaO 8〜20%、KO 0〜10%含有し、且つβ−OH値が0.01〜0.5/mmであることが好ましい
発明の強化ガラスの製造方法は、ガラス組成として、質量%で、SiO 45〜75%、Al 12〜25%、B 0〜10%、Li O 0〜1%、NaO 8〜20%、KO 0〜10%含有し、且つβ−OH値が0.01〜0.5/mmになるように、ガラス原料を溶融し、基板形状のガラスに成形した後、イオン交換処理を行うことにより、ガラスに対して、圧縮応力層の圧縮応力値に圧縮応力層の厚みを乗じた値が25000(MPa・μm)以上となる圧縮応力層を形成することが好ましい。なお、イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性等を考慮して決定すればよい。特に、KNO溶融塩中のKイオンをガラス基板中のNa成分とイオン交換すると、ガラスの表面に圧縮応力層を効率良く形成することができる。
発明の強化ガラスの製造方法は、ダウンドロー法で基板形状に成形することが好ましい
発明の強化ガラスの製造方法は、オーバーフローダウンドロー法で基板形状に成形することが好ましい
本発明の強化ガラスは、圧縮応力層を有する。ガラスに圧縮応力層を形成する方法には、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラスは、化学強化法で圧縮応力層を形成することが好ましい。化学強化法は、ガラスの歪点以下の温度でイオン交換によりガラス基板の表面にイオン半径の大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラス基板の板厚が薄くても、イオン交換処理を実行することができ、所望の機械的強度を得ることができる。さらに、化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、風冷強化法等の物理強化法とは異なり、強化後にガラス基板を切断しても、ガラス基板が容易に破壊することがない。
本発明の強化ガラスは、β−OH値が0.01〜0.5/mmである。β−OH値が0.01/mmより小さいと、ガラスの溶融性が低下し、ガラス基板の生産性が低下する。このため、β−OH値の下限値は0.01/mm以上、0.02/mm以上、0.03/mm以上、0.05/mm以上である。一方、β−OH値が0.5/mmより大きいと、ガラスのネットワーク構造が損なわれやすくなるため、ガラス中の応力が緩和しやすくなる。つまり、イオン交換温度を高くしたり、イオン交換時間を長くすると、圧縮応力層の圧縮応力が緩和しやすくなるため、圧縮応力層の圧縮応力値を高くすることが困難になり、その結果、強化ガラスの機械的強度を高めることが困難になる。このため、β−OH値の上限値は0.5/mm以下、0.45/mm以下、0.4/mm以下、0.35/mm以下、0.3/mm以下、0.25/mm以下、0.2/mm以下、0.18/mm以下である。
ガラス組成中にClを0.001〜0.5質量%(好ましくは0.005〜0.3質量%、より好ましくは0.01〜0.2質量%、更に好ましくは0.01〜0.1質量%、特に好ましくは0.01〜0.09質量%)添加すれば、ガラス中のβ−OH値を低減しやすくなる。Clの含有量が0.001質量%より少ないと、β−OH値が低下し難くなる。一方、Clの含有量が0.5質量%より多いと、強化ガラス上に金属配線パターン等を形成した時に金属配線が腐食しやすくなる。
ガラス組成中にSOを0.0001〜0.1質量%(好ましくは0.0003〜0.08質量%、より好ましくは0.0005〜0.05質量%、更に好ましくは0.001〜0.03質量%)添加すれば、ガラス中のβ−OH値を低減しやすくなる。SOの含有量が0.0001質量%より少ないと、β−OH値が低下し難くなる。一方、SOの含有量が0.1質量%より多いと、ガラスの溶融時にSOがリボイルして泡品位が低下しやすくなる。
ガラス組成中にCl+SOを導入すれば、ガラス原料として、溶解性が良好な水酸化物原料等を用いても、ガラス中のβ−OH値を低下させることができる。よって、ガラスの溶融性を向上させつつ、イオン交換性能の向上させることができる。
本発明の強化ガラスにおいて、圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは300MPa以上、より好ましくは500MPa以上、更に好ましくは600MPa以上、特に好ましくは700MPa以上である。圧縮応力が大きくなるにつれて、ガラスの機械的強度が高くなる。一方、ガラスの表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、基板表面にマイクロクラックが発生し、逆にガラスの強度が低下する虞がある。また、ガラスの表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、ガラス基板に内在する引っ張り応力が極端に高くなる虞があるため、圧縮応力層の圧縮応力は、1300MPa以下とするのが好ましい。なお、β−OH値を低下させる、或いはガラス組成中のAl、TiO、ZrO、MgOおよびZnOの含有量を増加、SrO、BaOの含有量を低減すると、圧縮応力層の圧縮応力値を上昇させることができる。さらに、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換温度を下げると、圧縮応力層の圧縮応力値を高めることができる。
圧縮応力層の厚みは、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましく、30μm以上が特に好ましく、40μm以上が最も好ましい。圧縮応力層の厚みが大きい程、ガラスに深い傷がついても、ガラスが割れ難くなる。一方、ガラスを切断加工し難くなるため、圧縮応力層の厚みは100μm以下とするのが好ましい。なお、β−OH値を低下させる、或いはガラス組成中のAl、TiO、ZrO、MgOおよびZnOの含有量を増加、SrO、BaOの含有量を低減すると、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。さらに、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換温度を上げると、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。
圧縮応力層の圧縮応力値に厚みを乗じた値は25000(MPa・μm)以上、28000(MPa・μm)以上、特に30000(MPa・μm)以上が好ましい。この値が大きい程、ガラスの機械的強度が高くなる。一方、この値が大き過ぎると、ガラスの内部に発生する引っ張り応力が大きくなり過ぎる。よって、圧縮応力層の圧縮応力値に厚みを乗じた値は100000(MPa・μm)以下、80000 (MPa・μm)以下、60000(MPa・μm)以下、特に50000(MPa・μm)以下が好ましい。
以下の式で計算されるガラス内部の引っ張り応力値は200MPa以下(望ましくは150MPa以下、より好ましくは100MPa以下、更に好ましくは50MPa以下)が好ましい。この値が小さい程、ガラス内部の欠陥によって、ガラスが破損する確率が低くなるが、極端に小さくし過ぎると、ガラス表面の圧縮応力層の圧縮応力値や厚みが低下しやすくなるため、ガラス内部の引っ張り応力値は1MPa以上、10MPa以上、15MPa以上が好ましい。
ガラス内部の引っ張り応力値=(圧縮応力層の圧縮応力値×圧縮応力層の厚み)/(板厚−圧縮応力層の厚み×2)
本発明の強化ガラスは、基板として用いる場合、板厚が3.0mm以下(望ましくは1.5mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.3mm以下)が好ましい。ガラス基板の板厚が薄い程、ガラス基板を軽量化することできる。また、本発明の強化ガラスは、板厚を薄くしても、ガラスが破壊し難い利点を有している。つまり、ガラス基板の板厚が薄い程、本発明の効果を享受しやすくなる。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形すれば、研磨処理等を行うことなく、薄いガラス基板を得ることができる。
本発明の強化ガラスは、基板として用いる場合、未研磨の表面を有することが好ましく、未研磨の表面の平均表面粗さ(Ra)は10Å以下、好ましくは5Å以下、より好ましくは2Å以下である。ここで、「表面の平均表面粗さ(Ra)」は、SEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法で測定した値を指す。ガラスの理論強度は、本来非常に高いのであるが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破壊に至ることが多い。これは、ガラス基板の表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥がガラスの成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。よって、強化ガラス基板の表面を未研磨とすれば、本来のガラス基板の機械的強度を損ない難くなり、ガラス基板が破壊し難くなる。また、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、ガラス基板の製造工程で研磨工程を省略できるため、ガラス基板の製造コストを低廉化することができる。本発明の強化ガラスにおいて、ガラス基板の両面全体を未研磨とすれば、ガラス基板が更に破壊し難くなる。さらに、本発明の強化ガラスにおいて、ガラス基板の切断面から破壊に至る事態を防止するため、ガラス基板の切断面に面取り加工等を施してもよい。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形すれば、未研磨で表面精度が良好なガラス基板を得ることができる。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 45〜75%、Al 12〜25%、 0〜10%、Li O 0〜1%、Na O 8〜20%、K O 0〜10%を含有することが好ましい。本発明の強化ガラスにおいて、ガラス組成範囲を上記のように規制した理由を下記に示す。
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は45〜75%、好ましくは50〜75%、より好ましくは50〜70%、更に好ましくは50〜66%、特に好ましくは50〜60%である。SiOの含有量が多過ぎると、ガラスの溶融、成形が困難になることに加えて、ガラスの熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。一方、SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎ、耐熱衝撃性が低下しやすくなる。
Alは、イオン交換性能を高める成分であり、またガラスの歪点およびヤング率を高くする成分であり、その含有量は12〜25%である。Alの含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出しやすくなり、オーバーフローダウンドロー法等でガラス基板を成形し難くなる。また、Alの含有量が多過ぎると、ガラスの熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなったり、ガラスの高温粘性が高くなり、ガラスを溶融し難くなる。一方、Alの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。上記観点を総合的に判断すると、Alの好適な上限範囲は、23%以下、22%以下、20%以下、19%以下、18%以下である。また、Alの好適な下限範囲は13%以上、14%以上である。
LiO+NaO+KOは、イオン交換成分であり、ガラスの高温粘度を低下させて、ガラスの溶融性や成形性を向上させる成分である。LiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、ガラスが失透しやすくなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また、LiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、ガラスの歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られ難くなる場合がある。さらに、LiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、液相温度付近の粘性が低下し、高い液相粘度を確保し難くなる場合がある。それ故、LiO+NaO+KOの含有量は30%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下である。一方、LiO+NaO+KOの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能やガラスの溶融性が低下する場合がある。それ故、LiO+NaO+KOの含有量は8%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは13%以上、更に好ましくは15%以上である。
LiOは、イオン交換成分であり、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を向上させる成分である。また、LiOは、ガラスのヤング率を向上させる成分である。さらに、LiOは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が高い。しかし、LiOの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透しやすくなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。さらに、LiOの含有量が多過ぎると、低温粘性が低下し過ぎて、応力緩和が起こりやすくなり、逆に圧縮応力値が低くなる場合がある。したがって、LiOの含有量は0〜1%である。
NaOは、イオン交換成分であり、ガラスの高温粘度を低下させて、ガラスの溶融性や成形性を向上させる成分であるとともに、ガラスの耐失透性を改善する成分であり、その含有量は〜20%(好ましくは8〜18%、8〜16%、8〜15%、9〜15%、10〜15%、11〜15%)である。NaOの含有量が多過ぎると、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また、NaOの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスが損なわれ、逆にガラスの耐失透性が低下する傾向がある。一方、NaOの含有量が少な過ぎると、ガラスの溶融性が低下したり、ガラス熱膨張係数が低くなり過ぎたり、イオン交換性能が低下する。
Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の厚みを大きくする効果が高い。また、KOは、ガラスの高温粘度を低下させて、ガラスの溶融性や成形性を高める成分である。さらに、KOは、耐失透性を改善する成分でもある。KOの含有量は0〜10%である。KOの含有量が多過ぎると、ガラスの熱膨張係数が高くなり、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また、KOの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスが損なわれ、逆にガラスの耐失透性が低下する傾向がある。上記点を考慮すると、KOの上限範囲は、10%以下(望ましくは8%以下、7%以下、6%以下、5%以下)が好ましい。一方、圧縮応力層を深くするためには、KOの下限範囲を0.1%以上(好ましくは0.5%以上、1%以上、2%以上)とするのが好ましい。
本発明の強化ガラスは、上記成分のみでガラス組成を構成してもよいが、ガラスの特性を大きく損なわない範囲で他の成分を40%まで添加してもよい。
MgO+CaO+SrO+BaOは、ガラスの高温粘度を低下させて、ガラスの溶融性や成形性を高めたり、ガラスの歪点やヤング率を高めたりする成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜8%、より好ましくは0〜6%、更に好ましくは0〜5%である。しかし、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多過ぎると、ガラスの密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が低下することに加えて、イオン交換性能が低下する傾向がある。
MgOは、ガラスの高温粘度を低下させて、ガラスの溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特にアルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜6%、より好ましくは0〜4%、更に好ましくは0〜3%である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、ガラスの密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。
CaOは、ガラスの高温粘度を低下させて、ガラスの溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特にアルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0.1〜8%、より好ましくは0.5〜6%、更に好ましくは1〜4%である。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、ガラスの密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなったり、更にはイオン交換性能が低下する傾向がある。なお、CaOを少量添加すれば、ガラスの失透性が改善される傾向がある。
SrOやBaOは、ガラスの高温粘度を低下させて、ガラスの溶融性や成形性を向上させたり、歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は各々0〜5%である。SrOやBaOの含有量が多過ぎると、イオン交換性能が低下する傾向があることに加えて、ガラスの密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。特に、SrOの含有量は3%以下(好ましくは2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.2%以下)が望ましい。また、BaOの含有量は3%以下(好ましくは2%以下、1%以下、0.8%以下、0.5%以下、特に0.2%以下)が望ましい。
SrO+BaO(SrOとBaOの合量)を0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜2.5%、更に好ましくは0〜2%、特に好ましくは0〜1%、最も好ましくは0〜0.2%に規制すれば、イオン交換性能がより効果的に向上する。既述の通り、SrO+BaOは、イオン交換反応を阻害する作用があるため、SrO+BaOが過剰であると、強化ガラスの機械的強度を高め難くなる。
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高くする効果が大きい成分であるとともに、ガラスの低温粘性を低下させずに高温粘性を低下させる成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜6%、より好ましくは0〜4%、更に好ましくは0〜3%である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、失透性が低下したり、密度が高くなる。
MgO+CaO+SrO+BaOをLiO+NaO+KOの合量で除した値、つまり(MgO+CaO+SrO+BaO)/(LiO+NaO+KO)の値が大きくなると、ガラスの耐失透性が低下する傾向が現れる。それ故、質量分率で(MgO+CaO+SrO+BaO)/(LiO+NaO+KO)の値を0.5以下、0.4以下、0.3以下に規制することが望ましい。
ZrOは、イオン交換性能を顕著に向上させるとともに、ガラスの液相粘度付近の粘性や歪点を高くする成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜9%、より好ましくは0.01〜8%、更に好ましくは0.1〜7%、特に好ましくは1〜7%である。ZrOの含有量が多過ぎると、ガラスの耐失透性が極端に低下する場合がある。
は、ガラスの液相温度、高温粘度、密度を低下させる効果を有するとともに、イオン交換性能、特に圧縮応力値を向上させる効果のある成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%である。Bの含有量が多過ぎると、イオン交換によってガラスの表面にヤケが発生したり、ガラスの耐水性が低下したり、液相粘度が低下する虞がある。また、Bの含有量が多過ぎると、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。さらに、ガラス中にアルカリ金属成分が含まれる場合に、B含有量が多くなると、ガラスの溶融時にアルカリ成分が揮発しやすくなり、その結果、揮発したアルカリ成分がレンガ等に付着して、レンガの寿命が短くなり、溶融コストが高騰するおそれがある。
TiOは、イオン交換性能を向上させる成分であるとともに、ガラスの高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり耐失透性が低下するため、その含有量を1%以下、0.5%以下、0.1%以下に規制することが好ましい。
は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の厚みを大きくする効果が大きい成分であり、その含有量は0〜8%(好ましくは5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、特に1%以下)である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性が低下する。
清澄剤としてAs、Sb、CeO、SnO、F、Cl、SOの群から選択された一種または二種以上を0〜3%添加することができる。ただし、As、SbおよびF、特にAsおよびSbは、環境的観点から、その使用を極力控えるべきであり、各々の含有量を0.1%未満に制限すべきである。したがって、好ましい清澄剤は、SnO、SOおよびClである。SnOの含有量は0〜1%、0.01〜0.5%、特に0.05〜0.4%が好ましい。なお、SOおよびClの好適な含有量は既述である。
NbやLa等の希土類酸化物は、ガラスのヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に含有させると、ガラスの耐失透性が低下する。よって、希土類酸化物の含有量は3%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下である。
Co、Ni等の遷移金属酸化物は、ガラスを強く着色させて、ガラスの透過率を低下させる。特に、タッチパネルディスプレイ用途の場合、遷移金属酸化物の含有量が多いと、タッチパネルディスプレイの視認性が損なわれる。よって、遷移金属酸化物の含有量が0.5%以下(好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下)になるように、ガラス原料および/またはカレットの使用量を調整することが望ましい。
PbOやBiは、環境的観点から、使用は極力控えるべきであり、その含有量を0.1%未満に制限すべきである。
各成分の好適な含有範囲を適宜選択し、好ましいガラス組成範囲とすることができるが、その中でも、より好適なガラス組成範囲は、
(1)質量%で、SiO 50〜75%、Al 12〜22%、LiO 0〜%、NaO 8〜15%、KO 0〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜10%、B 0〜5%含有、
(2)質量%で、SiO 50〜75%、Al 12〜22%、LiO 0〜%、NaO 8〜15%、KO 0〜6%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜10%、B 0〜5%含有、
(3)質量%で、SiO 50〜75%、Al 12〜22%、LiO 0〜%、NaO 8〜15%、KO 1〜5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜10%、MgO 0〜3%、BaO 0〜4% B 0〜5%含有、
(4)質量%で、SiO 45〜75%、Al 12〜25%、LiO 0〜%、Na〜15%、KO 0〜10%、SrO+BaO 0〜7%、B 0〜8%、TiO 0〜1%含有
(5)質量%で、SiO 45〜75%、Al 12〜22%、LiO 0〜%、Na〜15%、KO 0〜10%、SrO+BaO 0〜5%、B 0〜5%、TiO 0〜1%含有
(6)質量%で、SiO 50〜75%、Al 12〜22%、LiO 0〜%、Na〜15%、KO 1〜8%、SrO+BaO 0〜1%、B 0〜2%、TiO 0〜0.5%含有である。
本発明の強化ガラスにおいて、歪点は450℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましく、520℃以上がより好ましい。歪点が高い程、ガラスの耐熱性に優れ、強化ガラスを熱処理しても、圧縮応力層が消失し難くなる。また、歪点が高いと、イオン交換処理中に応力緩和が生じ難くなるため、高い圧縮応力値を得ることができる。歪点を高くするためには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物の含有量を低減、或いはアルカリ土類金属酸化物、Al、ZrO、Pの含有量を増加すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、熱膨張係数は70〜110×10−7/℃が好ましく、75〜100×10−7/℃がより好ましく、80〜100×10−7/℃が更に好ましい。ガラスの熱膨張係数を上記範囲とすれば、金属、有機系接着剤等の部材と熱膨張係数が整合しやすくなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止することができる。熱膨張係数を上昇させるには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すればよく、逆に低下させるには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、液相温度は1200℃以下、1050℃以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下が好ましく、860℃以下が特に好ましい。液相温度を低下させるには、ガラス組成中のNaO、KO、Bの含有量を増加、或いはAl、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、ガラスの液相粘度は104.0dPa・s以上が好ましく、104.5dPa・s以上がより好ましく、105.0dPa・s以上が更に好ましく、105.5dPa・s以上が特に好ましく、106.0dPa・s以上が最も好ましい。液相粘度を上昇させるには、ガラス組成中のNaO、KOの含有量を増加、或いはAl、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すればよい。
なお、液相温度が低い程、ガラスの耐失透性およびガラス基板の成形性に優れている。また、液相粘度が高い程、ガラスの耐失透性およびガラス基板の成形性に優れている。
本発明の強化ガラスにおいて、密度が2.7g/cm以下が好ましく、2.6g/cm以下がより好ましく、2.55g/cm以下が更に好ましい。密度が小さい程、ガラスの軽量化を図ることができる。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。密度を低下させるには、ガラス組成中のSiO、P、Bの含有量を増加、或いはアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は1500℃以下が好ましく、1450℃以下がより好ましく、1430℃以下がより好ましく、1420℃以下がより好ましく、1400℃以下が更に好ましい。高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、溶融炉等のガラスの製造設備への負担が小さくなるとともに、ガラスの泡品位を向上させることができる。つまり、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、ガラスを安価に製造することができる。なお、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、ガラスの溶融温度に相当しており、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、ガラスを低温で溶融することができる。高温粘度102.5dPa・sにおける温度を低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加、或いはSiO、Alの含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスは、ディスプレイ用基板、タッチパネルディスプレイのカバーガラス、携帯電話のカバーガラス、太陽電池の基板またはカバーガラスに用いることが好ましい。本発明の強化ガラスは、本明細書の段落[0004]の要求特性(1)〜(4)を満たし、特に機械的強度が高いため、本用途に好適である。
本発明に係るガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 45〜75%、Al 3〜25%、B 0〜10%、Li O 0〜1%、NaO 8〜20%、KO 0〜10%含有し、且つβ−OH値が0.01〜0.5/mmである。
本発明の強化ガラスの製造方法は、ガラス組成として、質量%で、SiO 45〜75%、Al 12〜25%、B 0〜10%、Li O 0〜1%、NaO 8〜20%、KO 0〜10%含有し、且つβ−OH値が0.01〜0.5/mmになるように、ガラス原料を溶融し、基板形状のガラスに成形した後、イオン交換処理を行うことにより、ガラスに対して、圧縮応力層の圧縮応力値に圧縮応力層の厚みを乗じた値が25000(MPa・μm)以上となる圧縮応力層を形成することが好ましい。なお、本発明の強化ガラスの製造方法は、その技術的特徴(好適な数値範囲、好適な態様等)が既に記載されているため、ここでは、便宜上、その記載を省略する。
本発明の強化ガラスは、所定のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを成形し、徐冷することにより製造することができる。
本発明の強化ガラスは、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板に成形することが好ましい。このようにすれば、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を製造することができる。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されるからである。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融ガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を製造する方法である。樋状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、ガラス基板に使用できる品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うためにガラス基板に対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラス基板に接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラス基板の端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。本発明の強化ガラスは、耐失透性に優れるとともに、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形することができる。
オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等の様々な成形方法を採用することができる。例えば、プレス法でガラス基板を成形すれば、小型のガラス基板を効率良く製造することができる。
強化ガラスを製造するには、まずガラスを成形した後、強化処理を行う必要がある。強化処理は、イオン交換処理で行うことが望ましい。イオン交換処理は、例えば400〜550℃の硝酸カリウム溶液中にガラスを1〜8時間浸漬することで行うことができる。イオン交換条件は、ガラスの粘度特性や、用途、板厚、ガラス内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。
ガラスの切断加工を強化処理前に行ってもよいが、ガラスの切断加工を強化処理後に行うと、製造コストを低廉化することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
表1、2は本発明の実施例(試料No.1〜12)および比較例(試料No.13、14)を示している。なお、試料No.13は、従来品のβ−OH値の水準を示すものである。
表中の各試料は、次のようにして作製した。まず、表中のガラス組成およびβ−OH値になるように、ガラスバッチ等を調合(例えば、Alの導入原料として、酸化物原料と水酸化物原料の比率を変更する等)し、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。その後、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して、基板形状に成形した。得られたガラス基板について、種々の特性を評価した。なお、試料No.9、10は、ガラスバッチとして、試料No.4のガラスバッチ(Cl、SOを除く)を用いた。
ガラスのβ−OH値は、FT−IRを用いてガラスの透過率を測定し、下記の式を用いて求めた。
β−OH値 = (1/X)log10(T/T
X:ガラス肉厚(mm)
:参照波長3846cm−1における透過率(%)
:水酸基吸収波長3600cm−1付近における最小透過率(%)
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した。
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した。
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定を行った。
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した。
熱膨張係数は、ディラトメーターで測定した値であり、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を示している。
液相温度は、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定したものである。
液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
なお、未強化ガラスと強化ガラスは、ガラスの表層において微視的にガラス組成が異なっているものの、ガラス全体としてガラス組成が実質的に相違していない。したがって、密度、粘度などの特性値については未強化ガラスと強化ガラスは、上記特性が実質的に相違していない。
試料No.1〜14の両表面に光学研磨を施した後、イオン交換処理を行った。イオン交換は、440℃のKNO溶融塩中に各試料を6時間浸漬することで行った。次に、各試料の表面を洗浄した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)で干渉縞の本数とその間隔を観察し、ガラス表面の圧縮応力値と圧縮応力層の厚みを算出した。算出に際し、各試料の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。
試料No.1〜12は、β−OH値が0.5/mm以下であったため、表面の圧縮応力値が700MPa以上であった。一方、試料No.13、14は、β−OH値が0.5/mmより大きかったため、表面の圧縮応力値が700MPa未満であった。
なお、試料No.1〜12は、本発明の説明の便宜上、溶融ガラスを流し出し、基板形状に成形した後、イオン交換処理前に光学研磨を行ったが、工業的規模で強化ガラスを生産する場合には、オーバーフローダウンドロー法等でガラス基板を成形し、ガラス基板の両面が未研磨の状態でイオン交換処理することが望ましい。
以上の説明から明らかなように、本発明の強化ガラスは、携帯電話、デジタルカメラ、PDA、タッチパネルディスプレイ等のカバーガラスに好適である。また、本発明の強化ガラスは、これらの用途以外にも、高い機械的強度が要求される用途、例えば、窓ガラス、磁気ディスク用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池の基板およびカバーガラス、固体撮像素子用カバーガラス、食器への応用が期待できる。

Claims (13)

  1. 圧縮応力層を有する強化ガラスにおいて、
    ガラス組成として、質量%で、SiO 45〜75%、Al 12〜25%、B 0〜10%、Li O 0〜1%、Na O 8〜20%、K O 0〜10%を含有し、β−OH値が0.01〜0.5/mmであり、且つ圧縮応力層の圧縮応力値に圧縮応力層の厚みを乗じた値は25000(MPa・μm)以上であることを特徴とする強化ガラス。
  2. β−OH値が0.4/mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス。
  3. ガラス組成中のSO+Clの含有量が0.0001〜0.5質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の強化ガラス。
  4. 歪点が450℃以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の強化ガラス。
  5. ガラス組成中の質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li O+Na O+K O)が0.5以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の強化ガラス。
  6. 液相温度が1200℃以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の強化ガラス。
  7. 液相粘度が104.0dPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の強化ガラス。
  8. 基板形状を有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の強化ガラス。
  9. 未研磨の表面を有することを特徴とする請求項に記載の強化ガラス。
  10. タッチパネルディスプレイのカバーガラスに用いることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の強化ガラス。
  11. 携帯電話のカバーガラスに用いることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の強化ガラス。
  12. 太陽電池の基板またはカバーガラスに用いることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の強化ガラス。
  13. ガラス組成として、質量%で、SiO 45〜75%、Al 12〜25%、B 0〜10%、Li O 0〜1%、NaO 8〜20%、KO 0〜10%含有し、且つβ−OH値が0.01〜0.5/mmになるように、ガラス原料を溶融し、基板形状のガラスに成形した後、イオン交換処理を行うことにより、ガラスに対して、圧縮応力層の圧縮応力値に圧縮応力層の厚みを乗じた値が25000(MPa・μm)以上となる圧縮応力層を形成することを特徴とする強化ガラスの製造方法。
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