本発明の強化ガラス基板は、その表面に圧縮応力層を有する。表面に圧縮応力層を形成する方法として、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラス基板は、化学強化法で作製されてなることが好ましい。化学強化法は、ガラスの歪点以下の温度でイオン交換処理によりガラスの表層にイオン半径が大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、板厚が小さい場合でも、圧縮応力層を適正に形成できると共に、圧縮応力層を形成した後に、強化ガラス基板を切断しても、風冷強化法等の物理強化法のように、強化ガラス基板が容易に破壊しない。
本発明の強化ガラス基板において、ΔCS(ボトム面の圧縮応力値−トップ面の圧縮応力値)は、好ましくは5〜39MPa、8〜30MPa、特に10〜25MPaである。ΔCSが小さ過ぎると、強化ガラス基板がトップ面側に凸に反り易くなるため、強化ガラス基板の反り量が大きくなり易い。一方、ΔCSが大き過ぎると、強化ガラス基板がボトム面側に凸に反り易くなるため、強化ガラス基板の反り量が大きくなり易い。
本発明の強化ガラス基板において、反り率は、好ましくは0.20%未満、0.15%未満、0.1未満、0.05%未満、特に0.03%未満である。反り率が大きいと、強化ガラス基板の歩留まりが低下し、特に大型及び/又は薄型の強化ガラス基板の場合、その傾向が顕著になる。
本発明の強化ガラス基板は、ガラス組成として、質量%で、SiO2 40〜71%、Al2O3 7〜21%、Li2O 0〜1%、Na2O 7〜20%、K2O 0〜15%を含有することが好ましい。上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、特に断りがある場合を除き、%表示は質量%を指す。
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiO2の含有量は、好ましくは40〜71%、40〜70%、40〜63%、45〜63%、50〜59%、特に55〜58.5%である。SiO2の含有量が多くなり過ぎると、ガラスの溶融、成形が難しくなったり、熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。一方、SiO2の含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなる。また熱膨張係数が高くなり、耐熱衝撃性が低下し易くなる。
Al2O3はイオン交換性能を高める成分である。また歪点やヤング率を高める効果もあり、その含有量は7〜21%である。Al2O3の含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなってフロート法による成形が困難になる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなったり、高温粘性が高くなり溶融し難くなる。Al2O3の含有量が少な過ぎると、十分なイオン交換性能を発揮できない虞が生じる。上記観点から、Al2O3の好適な上限範囲は、20%以下、19%以下、18%以下、17%以下、特に16.5%以下であり、またAl2O3の好適な下限範囲は、7.5%以上、8.5%以上、9%以上、10%以上、11%以上、特に12%以上である。
Li2Oは、イオン交換成分であると共に、高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高める成分である。さらにLi2Oは、ヤング率を高める成分である。またLi2Oはアルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が高い。しかし、Li2Oの含有量が多くなり過ぎると液相粘度が低下してガラスが失透し易くなる。また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。更に、低温粘性が低下し過ぎて応力緩和が起こり易くなると、かえって圧縮応力値が低くなる場合がある。よって、Li2Oの含有量は、好ましくは0〜1%、0〜0.5%、0〜0.1%であり、実質的に含有しないこと、つまり0.01%未満に抑えることが望ましい。
Na2Oは、イオン交換成分であると共に、高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高める成分である。また、Na2Oは、耐失透性を改善する成分でもある。Na2Oの含有量は、好ましくは7〜20%、10〜20%、10〜19%、12〜19%、12〜17%、13〜17%、特に14〜17%である。Na2Oの含有量が多くなり過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成のバランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。一方、Na2Oの含有量が少ないと、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低くなり過ぎたり、イオン交換性能が低下し易くなる。
K2Oは、イオン交換を促進する効果があり、アルカリ金属酸化物の中では応力深さを大きくする効果が高い成分である。また高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高める成分である。また、K2Oは、耐失透性を改善する成分でもある。K2Oの含有量は0〜15%が好ましい。K2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。さらに歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成のバランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、K2Oの好適な上限範囲は12%以下、10%以下、8%以下、特に6%以下である。
アルカリ金属酸化物R2O(RはLi、Na、Kから選ばれる1種以上)の合量が多くなり過ぎると、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また、アルカリ金属酸化物R2Oの合量が多くなり過ぎると、歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られない場合がある。更に液相温度付近の粘性が低下し、高い液相粘度を確保することが困難となる場合がある。よって、R2Oの合量は、好ましくは22%以下、20%以下、特に19%以下である。一方、R2Oの合量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下する場合がある。よって、R2Oの合量は、好ましくは8%以上、10%以上、13%以上、特に15%以上である。
上記成分以外にも、以下の成分を添加してもよい。
例えばアルカリ土類金属酸化物R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上)は、種々の目的で添加可能な成分である。しかし、アルカリ土類金属酸化物R’Oが多くなると、密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が低下することに加えて、イオン交換性能が低下する傾向がある。よって、アルカリ土類金属酸化物R’Oの合量は、好ましくは0〜9.9%、0〜8%、0〜6%、特に0〜5%である。
MgOは、高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が高い。しかし、MgOの含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。MgOの含有量は、好ましくは0〜9%、特に1〜8%である。
CaOは、高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が高い。CaOの含有量は0〜6%が好ましい。しかし、CaOの含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなったり、更にはイオン交換性能が低下する場合がある。したがって、CaOの含有量は、好ましくは0〜4%、0〜3%、0〜2%、0〜1%、特に0〜0.1%である。
SrO及びBaOは、高温粘度を低下させて溶融性や成形性を向上させたり、歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は各々0〜3%が好ましい。SrOやBaOの含有量が多くなると、イオン交換性能が低下する傾向がある。また密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。SrOの含有量は、好ましくは2%以下、1.5%以下、1%以下、0.5%以下、0.2%以下、特に0.1%以下である。またBaOの含有量は、好ましくは2.5%以下、2%以下、1%以下、0.8%以下、0.5%以下、0.2%以下、特に0.1%以下である。
ZrO2は、イオン交換性能を顕著に高めると共に、ヤング率や歪点を高くし、高温粘性を低下させる効果がある。また液相粘度付近の粘性を高める効果があるため、所定量含有させることで、イオン交換性能と液相粘度を同時に高めることができる。ただし、ZrO2の含有量が多くなり過ぎると、耐失透性が極端に低下する場合がある。よって、ZrO2の含有量は、好ましくは0〜10%、0.001〜10%、0.1〜9%、0.5〜7%、0.8〜5%、1〜5%、2.5〜5%である。
B2O3は、液相温度、高温粘度、密度を低下させる効果を有すると共に、イオン交換性能、特に圧縮応力値を高める効果を有する。しかし、B2O3の含有量が多過ぎると、イオン交換によって表面にヤケが発生したり、耐水性が低下したり、液相粘度が低下する虞がある。また応力深さが低下する傾向にある。よって、B2O3の含有量は、好ましくは0〜6%、0〜3%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
TiO2は、イオン交換性能を高める効果がある成分である。また高温粘度を低下させる効果がある。しかし、TiO2の含有量が多くなり過ぎると、ガラスが着色したり、失透性が低下したり、密度が高くなる。特にディスプレイのカバーガラスとして使用する場合、TiO2の含有量が多くなると、溶融雰囲気や原料を変更した時、透過率が変化し易くなる。そのため紫外線硬化樹脂等の光を利用して強化ガラス基板をデバイスに接着する工程において、紫外線照射条件が変動し易くなり、安定生産が困難となる。よって、TiO2の含有量は、好ましくは10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、4%以下、2%以下、0.7%以下、0.5%以下、0.1%以下、特に0.01%以下である。
P2O5は、イオン交換性能を高める成分であり、特に、応力厚みを大きくする効果が高い成分である。しかし、P2O5の含有量が多くなると、ガラスが分相したり、耐水性や耐失透性が低下し易くる。よって、P2O5の含有量は、好ましくは5%以下、4%以下、3%以下、特に2%以下である。
清澄剤としてAs2O3、Sb2O3、CeO2、F、SO3、Clの群から選択された一種又は二種以上を0.001〜3%含有させてもよい。ただし、As2O3及びSb2O3は環境に対する配慮から、使用は極力控えることが好ましく、各々の含有量を0.1%未満、更には0.01%未満に制限することが望ましい。またCeO2は、透過率を低下させる成分であるため、その含有量を0.1%未満、更には0.01%未満に制限することが望ましい。またFは、低温粘性を低下させ、圧縮応力値の低下を招く虞があるため、その含有量を0.1%未満、特に0.01%未満に制限することが好ましい。よって、好ましい清澄剤は、SO3とClであり、SO3とClの1者又は両者を、0.001〜3%、0.001〜1%、0.01〜0.5%、更には0.05〜0.4%添加することが好ましい。
Nb2O5やLa2O3等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に含有させると耐失透性が低下する。よって、それらの含有量は、好ましくは3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下である。
Co、Ni等のガラスを強く着色するような遷移金属元素は、強化ガラス基板の透過率を低下させる虞がある。特に、タッチパネルディスプレイ用途に用いる場合、遷移金属元素の含有量が多いと、タッチパネルディスプレイの視認性が損なわれる。具体的には、それらの含有量が0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下となるように、原料又はカレットの使用量を調整することが望ましい。
本発明の強化ガラス基板は、表面に圧縮応力層を有している。圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは300MPa以上、400MPa以上、500MPa以上、特に600MPa以上である。圧縮応力値が大きい程、強化ガラス基板の機械的強度が高くなる。一方、表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、表面にマイクロクラックが発生して、かえって強化ガラス基板の機械的強度が低下する虞がある。また、内部引っ張り応力が極端に高くなる虞がある。このため、圧縮応力層の圧縮応力値は1500MPa以下が好ましい。なお、ガラス組成中のAl2O3、TiO2、ZrO2、MgO、ZnOの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を下げれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。
応力厚みは、好ましくは10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、35μm以上、40μm以上、45μm以上、特に50μm以上である。応力厚みが大きい程、強化ガラス基板に深い傷が付いても、強化ガラス基板が割れ難くなると共に、機械的強度のばらつきが小さくなる。一方、圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラス基板を切断し難くなる。このため、応力厚みは、好ましくは500μm以下、200μm以下、150μm以下、90μm以下、70μm以下、60μm以下、特に50μm以下である。なお、ガラス組成中のK2O、P2O5の含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の厚みが大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を上げれば、応力厚みが大きくなる傾向がある。
内部引っ張り応力は、好ましくは200MPa以下、150MPa以下、120MPa以下、100MPa以下、70MPa、50MPa以下、特に30MPa以下である。内部引っ張り応力が大きくなると、イオン交換処理後に、切断又は面取り加工を行うと、強化ガラス基板が自己破壊する虞がある。しかし、内部引っ張り応力が極端に小さくなると、圧縮応力層の圧縮応力値、応力厚みが小さくなる。よって、内部引っ張り応力は、好ましくは1MPa以上、5MPa以上、10MPa以上、15MPa以上である。
本発明の強化ガラス基板において、密度は2.6g/cm3以下、特に2.55g/cm3以下が好ましい。密度が小さい程、強化ガラスを軽量化することができる。なお、ガラス組成中のSiO2、B2O3、P2O5の含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO2、TiO2の含有量を低減すれば、密度が低下し易くなる。
本発明の強化ガラス基板において、熱膨張係数は、好ましくは80×10−7〜120×10−7/℃、85×10−7〜110×10−7/℃、90×10−7〜110×10−7/℃、特に90×10−7〜105×10−7/℃である。熱膨張係数を上記範囲に規制すれば、金属、有機系接着剤等の部材の熱膨張係数に整合し易くなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止し易くなる。ここで、「熱膨張係数」は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値を指す。なお、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すれば、熱膨張係数が高くなり易く、逆にアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すれば、熱膨張係数が低下し易くなる。
本発明の強化ガラス基板において、歪点は、好ましくは500℃以上、520℃以上、530℃以上、特に550℃以上である。歪点が高い程、耐熱性が向上し、強化ガラス基板を熱処理する場合、圧縮応力層が消失し難くなる。また、歪点が高い程、イオン交換処理の際に応力緩和が生じ難くなるため、圧縮応力値を維持し易くなる。更にタッチパネルセンサー等のパターニングにおいて、高品位な膜を形成し易くなる。なお、ガラス組成中のアルカリ土類金属酸化物、Al2O3、ZrO2、P2O5の含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物の含有量を低減すれば、歪点が高くなり易い。
本発明の強化ガラス基板において、104.0dPa・sにおける温度は、好ましくは1280℃以下、1230℃以下、1200℃以下、1180℃以下、特に1160℃以下である。104.0dPa・sにおける温度が低い程、成形設備への負担が軽減されて、成形設備が長寿命化し、結果として、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。なお、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B2O3、TiO2の含有量を増加させたり、SiO2、Al2O3の含有量を低減すれば、104.0dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
本発明の強化ガラス基板において、102.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1620℃以下、1550℃以下、1530℃以下、1500℃以下、特に1450℃以下である。102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温溶融が可能になり、溶融窯等のガラス製造設備への負担が軽減されると共に、泡品位を高め易くなる。よって、102.5dPa・sにおける温度が低い程、強化ガラス基板の製造コストを低廉化し易くなる。なお、102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当する。また、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B2O3、TiO2の含有量を増加させたり、SiO2、Al2O3の含有量を低減すれば、102.5dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
本発明の強化ガラス基板において、液相温度は、好ましくは1200℃以下、1150℃以下、1100℃以下、1050℃以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下、特に880℃以下である。なお、液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNa2O、K2O、B2O3の含有量を増加させたり、Al2O3、Li2O、MgO、ZnO、TiO2、ZrO2の含有量を低減すれば、液相温度が低下し易くなる。
本発明の強化ガラス基板において、液相粘度は、好ましくは104.0dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.4dPa・s以上、105.6dPa・s以上、106.0dPa・s以上、106.2dPa・s以上、特に106.3dPa・s以上である。なお、液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNa2O、K2Oの含有量を増加させたり、Al2O3、Li2O、MgO、ZnO、TiO2、ZrO2の含有量を低減すれば、液相粘度が高くなり易い。
本発明の強化ガラス基板において、板厚は、好ましくは3.0mm以下、2.0mm以下、1.5mm以下、1.3mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、0.8mm以下、特に0.7mm以下である。一方、板厚が小さ過ぎると、反り量が大きくなる傾向があり、また所望の機械的強度を得難くなる。よって、板厚は、好ましくは0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、特に0.4mm以上である。
本発明に係る強化用ガラス基板は、フロート法で成形されてなる強化用ガラス基板において、440℃のKNO3溶融塩に6時間浸漬した時に、ボトム面の圧縮応力値が、トップ面の圧縮応力値より大きくなることを特徴とする。また、本発明に係る強化用ガラス基板は、フロート法で成形されてなる強化用ガラス基板において、440℃のKNO3溶融塩に6時間浸漬した時に、反り率が0.20%未満(好ましくは0.15%未満)になることを特徴とする。なお、本発明に係る強化用ガラス基板の技術的特徴は、本発明の強化ガラス基板の技術的特徴と同様になる。ここでは、便宜上、その記載を省略する。
イオン交換処理の際、KNO3溶融塩の温度は350〜550℃、特に400〜500℃が好ましく、イオン交換時間は0.1〜10時間、2〜10時間、特に4〜8時間が好ましい。このようにすれば、圧縮応力層を適正に形成し易くなる。なお、上記のようにガラス組成範囲を規制すれば、KNO3溶融塩とNaNO3溶融塩の混合物等を使用しなくても、圧縮応力値や応力厚みを大きくすることができる。
以下のようにして、本発明に係る強化用ガラス基板、本発明の強化ガラス基板を作製することができる。
まず上記のガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して、1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、フロート法で板状等に成形し、徐冷することにより、強化用ガラス基板を作製することができる。
次に、必要に応じて、強化用ガラス基板のトップ面及び/又はボトム面を研磨処理する。その後、強化用ガラス基板を強化処理することにより、強化ガラス基板を作製する。続いて、所定形状に切断加工又は面取り加工を行う。なお、切断加工又は面取り加工は、強化処理前に行っても良いが、強化処理後に行う方が、製造効率の点で好ましい。
強化処理として、イオン交換処理が好ましい。イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性、用途、板厚、内部引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。例えば、イオン交換処理は、400〜550℃のKNO3溶融塩中に、強化用ガラス基板を1〜8時間浸漬することで行うことができる。特に、KNO3溶融塩中のKイオンをガラス中のNa成分とイオン交換すると、圧縮応力層を効率良く形成することが可能になる。
本発明に係る強化ガラス基板の製造方法は、(1)フロート法で板状に成形して、強化用ガラス基板を得る工程と、(2)強化用ガラス基板のトップ面及び/又はボトム面を研磨する工程と、(3)強化用ガラス基板をイオン交換処理して、ボトム面の圧縮応力値をトップ面の圧縮応力値より大きくする工程を有することを特徴とする。本発明に係る強化ガラス基板の製造方法の技術的特徴は、本発明の強化ガラス基板の技術的特徴と同様になる。ここでは、便宜上、その記載を省略する。
本発明に係る強化ガラス基板の製造方法は、前記工程(2)が、トップ面の研磨厚みがボトム面の研磨厚みより大きくなるように、トップ面及び/又はボトム面を研磨する工程であることが好ましい。特に、トップ面の研磨厚みを1〜35μm、特に10〜30μmにすることが好ましく、ボトム面の研磨厚みを0〜9μm、特に0〜5μmにすることが好ましい。このようにすれば、ボトム面の圧縮応力値がトップ面の圧縮応力値より大きくなり易く、強化ガラス基板の反り量を低減し易くなる。なお、研磨処理は、公知の方法で行えばよい。
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
表1は、実験に用いた強化用ガラスのガラス組成及びガラス特性を示している。
表2は、本発明の実施例(試料No.3〜7)及び比較例(試料No.1、2、8〜10)を示している。
次のようにして、表中の強化用ガラス基板A、Bを作製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合し、1580℃で8時間溶融した。その後、得られた溶融ガラスをフロート法で板状に成形して、寸法400mm×500mm×0.7mm厚の強化用ガラス基板A、Bを得た。得られた強化用ガラス板について、種々の特性を評価した。
密度ρは、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
熱膨張係数αは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値である。
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
液相粘度log10ηTLは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
なお、強化処理の前後で、表層におけるガラス組成が微視的に異なるものの、ガラス全体として見た場合、ガラス組成は実質的に同一である。
次に、表1記載の強化用ガラス基板に対して、表2に記載の研磨処理を行った後、必要最小限の範囲で光学研磨を行った。続いて、表2に記載の条件でKNO3溶融塩中に強化用ガラス基板を浸漬することにより、イオン交換処理を行い、強化ガラス基板を得た。続いて、イオン交換処理後に強化ガラス基板を洗浄した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から圧縮応力層の圧縮応力値と応力厚みを算出した。算出に当たり、各測定試料の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。
ΔCSは、ボトム面の圧縮応力値からトップ面の圧縮応力値を引いた値である。
反り率は、レーザー変位計(株式会社キーエンス製 LK−G35)で測定した値であり、最大変位量/ガラス幅(500mm)の式から算出した平均値(n数=10)である。なお、トップ面方向に凸の場合を「+」、ボトム面方向に凸の場合を「−」として表記した。
表2から明らかなように、試料No.3〜7は、ボトム面の圧縮応力値がトップ面の圧縮応力値より大きいため、反り率が小さかった。一方、試料No.1、2、8〜10は、ボトム面の圧縮応力値がトップ面の圧縮応力値より小さいため、反り率が大きかった。