以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係るトナーは、静電潜像現像用のカプセルトナーである。本実施形態のトナーは、多数の粒子(以下、トナー粒子という)から構成される。以下、図1を参照して、本実施形態に係るトナー(特にトナー粒子)の構成について説明する。図1は、本実施形態に係るトナーを構成するトナー粒子10の構造を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、トナー粒子10は、アニオン性のコア11と、コア11の表面に形成されたカチオン性のシェル層12(カプセル層)と、外添剤13とから構成される。
コア11は、バインダー11a(結着剤)と、内添剤11b(着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉等)とから構成される。コア11は、シェル層12によって被覆されている。シェル層12の表面には外添剤13が付着している。
ただし、トナー粒子の構成は上記に限られない。例えば必要がなければ内添剤11b又は外添剤13を割愛してもよい。また、トナー粒子は、コア11の表面に複数のシェル層12を有していてもよい。トナー粒子が積層された複数のシェル層12を有する場合は、複数のシェル層12のうち最外のシェル層12がカチオン性を有することが好ましい。
コア11がアニオン性を有することで、シェル層12の形成時にカチオン性のシェル層12の材料をコア11表面に引き付けることが可能になる。詳しくは、例えば水性媒体中で負に帯電するコア11と水性媒体中で正に帯電するシェル層12の材料とが相互に電気的に引き寄せられ、コア11の表面にシェル層12が形成される。これにより、分散剤を用いて水性媒体中にコア11を高度に分散させずとも、コア11の表面に均一なシェル層12を形成し易くなる。
コア11においては、コア成分の大部分(例えば85%以上)をバインダー11aが占める。このため、バインダー11aの極性がコア11全体の極性に大きな影響を与える。例えばバインダー11aがエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、又はメチル基等を有している場合には、コア11はアニオン性になる傾向が強くなり、バインダー11aがアミノ基、アミン、又はアミド基等を有している場合には、コア11はカチオン性になる傾向が強くなる。
本実施形態においてコア11がアニオン性であることの指標は、pHが4に調整された水性媒体中で測定されるコア11のゼータ電位が負極性を示すことである。良好なアニオン性を得るためには、pH4におけるゼータ電位は−5mV以下の値を示すことが好ましい。
ゼータ電位の測定方法としては、電気泳動法、超音波法、又はESA法等が挙げられる。
電気泳動法は、粒子分散液に電場を印加して分散液中の帯電粒子を電気泳動させ、電気泳動速度に基づきゼータ電位を算出する方法である。電気泳動法としては、レーザードップラー法(電気泳動している粒子にレーザー光を照射し、得られた散乱光のドップラーシフト量から電気泳動速度を求める方法)等が挙げられる。レーザードップラー法は、分散液中の粒子濃度を高濃度とする必要がなく、ゼータ電位の算出に必要なパラメーターの数が少なく、加えて電気泳動速度を感度よく検出できるという利点を有する。
超音波法は、粒子分散液に超音波を照射して分散液中の帯電粒子を振動させ、この振動によって生じる電位差に基づきゼータ電位を算出する方法である。
ESA法では、粒子分散液に高周波電圧を印加して分散液中の帯電粒子を振動させて超音波を発生させる。そして、その超音波の大きさ(強さ)からゼータ電位を算出する。
超音波法及びESA法は、粒子濃度が高い(例えば20質量%を超える)粒子分散液であっても、ゼータ電位を感度よく測定することができるという利点を有する。
コア11がアニオン性であることの別の指標としては、標準キャリアとの摩擦帯電量が−10μC/g以下の値を示すことが挙げられる。摩擦帯電量は、コア11が正負のうちの何れの極性に帯電されるか、及びコア11の帯電され易さの指標となる。標準キャリアと摩擦させた場合のコア11の摩擦帯電量は、例えばQMメーター(例えば、TREK社製「MODEL 210HS−2A」)により測定することができる。
本実施形態ではコア11もシェル層12も分散剤(界面活性剤)を有さない。一般に、分散剤は排水負荷が高い。分散剤を用いなければ、トナー粒子10を製造する際に排出される排水を希釈することなく、排水の全有機炭素(TOC)濃度を15mg/L以下の低いレベルにすることが可能となる。
カーボンニュートラルの観点からは、バイオマス由来の材料から構成されるトナーが好ましい。具体的には、トナーに含まれる炭素中のバイオマス由来の炭素の比率が25%以上90%以下であることが好ましい。バイオマスの種類は特に限定されず、植物性バイオマスであってもよいし、動物性バイオマスであってもよい。ただし、バイオマス由来の材料の中では、大量に入手しやすく安価であることから、植物性バイオマス由来の材料がより好ましい。
炭素の比率に関して以下に述べる。大気中に存在するCO2のうち、放射性炭素(14C)を含むCO2の濃度は、大気中において一定に保たれている。一方、植物が大気中の14Cを含むCO2を光合成の過程において取り込むことで、植物自らの有機成分における炭素中の14Cの濃度は大気中における14Cを含むCO2の濃度と同じ比率となっている。その濃度は、具体的には107.5pMC(percent Modern Carbon)である。また、動物に含まれる炭素は植物に含まれる炭素に由来するため、動物の有機成分における炭素中の14Cの濃度も植物と同様の値となる。
トナー中の炭素のうちのバイオマス由来の炭素の比率は、例えば次の式1に従って求めることができる。
(式1)バイオマス由来の炭素の比率(%)=(X/107.5)×100
なお、式1中、X(pMC)は、トナー中に含まれる14Cの濃度である。石油化学製品の炭素元素中における14Cの濃度は、例えばASTM−D6866により測定できる。本実施形態では、式1及びASTM−D6866により、トナー中の炭素のうちのバイオマス由来の炭素の比率又は14Cの濃度を求めている。
また、含有炭素中のバイオマス由来の炭素の割合が25%以上であるプラスチック製品には、バイオマスプラマーク(日本バイオプラスチック協会認証)が与えられるため、カーボンニュートラルの観点で特に好ましい。含有炭素中のバイオマス由来の炭素の割合が25%以上であるトナーでは式1から14Cの濃度Xが26.9pMC以上となる。
以下、トナー粒子10を構成するコア11の全体構成、バインダー11a、内添剤11b(着色剤、離型剤、電荷制御剤、磁性粉)、シェル層12の全体構成、シェル層12の成分(電荷制御剤)、及び外添剤13について、順に説明する。
[コア]
本実施形態のトナー粒子10を構成するコア11は、バインダー11a及び内添剤11b(着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉)を含む。ただし、コア11が上記成分の全てを有していることは必須ではなく、トナーの用途等に応じて必要のない成分(着色剤、離型剤、電荷制御剤、又は磁性粉等)を割愛してもよい。
[バインダー(コア)]
以下、本実施形態に係るトナー粒子10のコア11を構成するバインダー11aについて説明する。
バインダー11aが強いアニオン性を得るためには、バインダー11aの水酸基価(OHV値)及び酸価(AV値)がそれぞれ10mgKOH/g以上であることが好ましい。
バインダー11aの溶解指数(SP値)は10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましい。上記SP値が10以上であると、水のSP値(23)に近づくので、バインダー11aの水性媒体への濡れ性が向上する。そのため、分散剤を用いなくともバインダー11aの水性媒体への分散性が向上し、後述のバインダー微粒子分散体が均一に水性媒体に分散し易くなる。
バインダー11aのガラス転移点(Tg)は、シェル層12に含まれる熱硬化性樹脂の硬化開始温度以下であることが好ましい。こうしたバインダー11aを用いれば、高速定着時においても十分な定着性が得られる。熱硬化性樹脂(特にメラミン系の樹脂)の硬化開始温度は55℃程度であることが多い。バインダー11aのTgは、20℃以上であることが好ましく、30℃以上55℃以下であることがより好ましく、30℃以上50℃以下であることがさらに好ましい。バインダー11aのTgが20℃以上であるとシェル層12の形成時にコア11が凝集しにくくなる。
バインダー11aのTgは、示差走査熱量計(例えば、セイコーインスツルメンツ社製「DSC−6200」)を用いてバインダー11aの吸熱曲線を測定することにより、吸熱曲線における比熱の変化点から求めることができる。詳細には、測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用し、測定温度範囲25〜200℃かつ昇温速度10℃/分の条件でバインダー11aの吸熱曲線を求め、得られた吸熱曲線に基づいてTgを求める方法が挙げられる。
バインダー11aの軟化点(Tm)は100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましい。バインダー11aのTmが100℃以下であることで、高速定着時においても十分な定着性を得ることが可能になる。また、異なるTmを有する複数のバインダー材料を組み合わせることで、バインダー11aのTmを調整することができる。
バインダー11aのTmの測定には、高架式フローテスター(例えば、島津製作所社製「CFT−500D」)を用いることができる。例えば、測定試料を高化式フローテスターにセットし、所定の条件で試料を溶融流出させてS字カーブ(温度(℃)/ストローク(mm)に関するS字カーブ)を求め、得られたS字カーブからバインダー11aのTmを読み取る。
ここで、図2を参照して、S字カーブからバインダー11aのTmを読み取る方法について説明する。図2はS字カーブの一例を示すグラフである。
図2において、S1はストロークの最大値を示し、S2は低温側のベースラインのストローク値を示す。S字カーブ中のストロークの値が(S1+S2)/2となる温度を測定試料のTmとする。
図1に示されるバインダー11aの説明を続ける。
バインダー11aは、例えば官能基としてエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、メチル基、カルボキシル基、又はアミノ基を有する樹脂から構成されることが好ましい。バインダー11aを構成する樹脂としては、分子中に水酸基、カルボキシル基、又はアミノ基のような官能基を持つ樹脂が好ましく、分子中に水酸基及び/又はカルボキシル基を持つ樹脂がより好ましい。このような官能基を有するコア11(バインダー11a)は、シェル層12の材料(例えば、メチロールメラミン)と反応して化学的に結合し易くなる。こうした化学的な結合が生じると、コア11とシェル層12との結合が強固になる。
バインダー11aを構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂の好適な例としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、N−ビニル系樹脂、又はスチレン−ブタジエン系樹脂等が挙げられる。中でも、スチレンアクリル系樹脂及びポリエステル樹脂はそれぞれ、トナー中の着色剤の分散性、トナーの帯電性、及び被記録媒体に対する定着性に優れる。
(スチレンアクリル系樹脂から構成されるバインダー)
以下、スチレンアクリル系樹脂から構成されるバインダー11aについて説明する。
バインダー11aを構成するスチレンアクリル系樹脂は、例えばスチレン系単量体とアクリル系単量体との共重合体である。
スチレン系単量体の好適な例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、又はp−エチルスチレン等が挙げられる。
アクリル系単量体の好適な例としては、(メタ)アクリル酸、特に(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)メタアクリル酸メチル、(メタ)メタアクリル酸エチル、(メタ)メタアクリル酸n−ブチル、又は(メタ)メタアクリル酸iso−ブチルが好ましい。
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシプロピルが好ましい。
スチレンアクリル系樹脂を調製する際に、水酸基を有する単量体(p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル等)を用いることで、スチレンアクリル系樹脂に水酸基を導入できる。例えば水酸基を有する単量体の使用量を適宜調整することで、得られるスチレンアクリル系樹脂の水酸基価を調整することができる。
スチレンアクリル系樹脂を調製する際に、(メタ)アクリル酸を単量体として用いることで、スチレンアクリル系樹脂にカルボキシル基を導入できる。例えば(メタ)アクリル酸の使用量を適宜調整することで、得られるスチレンアクリル系樹脂の酸価を調整することができる。
カーボンニュートラルの観点からは、バインダー11aが、バイオマス由来のアクリル酸又はアクリル酸エステル等から合成された樹脂から構成されることが好ましい。バイオマス由来のアクリル酸を調製するためには、例えばバイオマス由来のグリセリン(詳しくは後述する)を脱水してアクロレインを得て、アクロレインを酸化する。また、バイオマス由来のアクリル酸エステルを調製するためには、例えば上記バイオマス由来のアクリル酸を周知の方法でエステル化する。アクリル酸エステルを製造する際に使用されるアルコールがメタノールやエタノールである場合、これらのアルコールもバイオマスから周知の方法で製造されたものであることが好ましい。
コア11の強度及び定着性を向上させるためには、バインダー11aを構成するスチレンアクリル系樹脂の数平均分子量(Mn)が2000以上3000以下であることが好ましい。スチレンアクリル系樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)との比Mw/Mn)は10以上20以下であることが好ましい。バインダー11aのMnとMwの測定には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いることができる。
(ポリエステル樹脂から構成されるバインダー)
以下、ポリエステル樹脂から構成されるバインダー11aについて説明する。
バインダー11aを構成するポリエステル樹脂は、例えば2価又は3価以上のアルコール成分と2価又は3価以上のカルボン酸成分とを縮重合や共縮重合することで得られる。
バインダー11aを構成するポリエステル樹脂の2価又は3価以上のアルコール成分の好適な例としては、ジオール類、ビスフェノール類、又は3価以上のアルコール類等が挙げられる。
ジオール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが好ましい。
ビスフェノール類としては、例えばビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、又はポリオキシプロピレン化ビスフェノールAが好ましい。
3価以上のアルコール類としては、例えばソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが好ましい。
バインダー11aを構成するポリエステル樹脂の2価又は3価以上のカルボン酸成分の好適な例としては、2価カルボン酸又は3価以上のカルボン酸等が挙げられる。また、これらのカルボン酸成分は、エステル形成性の誘導体(酸ハライド、酸無水物、及び低級アルキルエステル等)として用いてもよい。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数1から6のアルキル基を意味する。
2価カルボン酸としては、例えばマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、又はアルキルもしくはアルケニルコハク酸が好ましい。さらに、アルケニルコハク酸としては、例えばn−ブチルコハク酸、n−ブテニルコハク酸、イソブチルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸が好ましい。
3価以上のカルボン酸としては、例えば1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が好ましい。
ポリエステル樹脂を製造する際に、2価又は3価以上のアルコール成分の使用量と2価又は3価以上のカルボン酸成分の使用量とをそれぞれ適宜変更することで、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価を調整することができる。また、ポリエステル樹脂の分子量を上げると、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は低下する傾向がある。
カーボンニュートラルの観点からは、バインダー11aが、バイオマス由来のアルコール(1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、又はグリセリン等)から合成されたポリエステル樹脂から構成されることが好ましい。バイオマスからグリセリンを製造する方法としては、植物性油脂又は動物性油脂に対して酸や塩基を用いる化学的方法、又は酵素や微生物を用いる生物学的手法で加水分解する方法等が挙げられる。また、グリセリンは、グルコース等の糖類を含む基質から発酵法を用いて製造することもできる。また、1,2−プロパンジオール、又は1,3−プロパンジオール等のアルコールを製造するために、上記グリセリンを原料として用い、周知の方法に従ってグリセリンを目的の物質に化学的に変換することができる。また、カーボンニュートラルの観点からは、ポリエステル樹脂の調製に際し、トナーに含まれる炭素の放射性炭素同位体14Cの濃度を26.9pMC以上とすることが特に好ましい。
コア11の強度及び定着性を向上させるためには、バインダー11aを構成するポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が1200以上2000以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)との比Mw/Mn)は9以上20以下であることが好ましい。バインダー11aのMnとMwの測定には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いることができる。
[着色剤(コア)]
以下、本実施形態に係るトナー粒子10のコア11(内添剤11b)を構成する着色剤について説明する。
着色剤としては、例えばトナー粒子10の色に合わせて公知の顔料や染料を用いることができる。着色剤の使用量は、100質量部のバインダー11aに対して1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、3質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。
(黒色着色剤)
本実施形態に係るトナー粒子10のコア11は、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤は、例えばカーボンブラックから構成される。また、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤等の着色剤を用いて黒色に調色された着色剤も利用できる。
(カラー着色剤)
本実施形態に係るトナー粒子10のコア11は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤等のカラー着色剤を含有していてもよい。
イエロー着色剤は、例えば縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、又はアリルアミド化合物から構成されることが好ましい。イエロー着色剤としては、例えばC.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、194等)、ネフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローが好ましい。
マゼンタ着色剤は、例えば縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、又はペリレン化合物から構成されることが好ましい。マゼンタ着色剤としては、例えばC.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、及び254等)が好ましい。
シアン着色剤は、例えば銅フタロシアニン化合物、銅フタロシアニン誘導体、アントラキノン化合物、又は塩基染料レーキ化合物から構成されることが好ましい。シアン着色剤としては、例えばC.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、及び66等)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーが好ましい。
[離型剤(コア)]
以下、本実施形態に係るトナー粒子10のコア11(内添剤11b)を構成する離型剤について説明する。
離型剤は、トナーの定着性及び耐オフセット性を向上させる目的で使用される。定着性及び耐オフセット性を向上させるためには、離型剤の使用量は100質量部のバインダー11aに対して1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
一例では、離型剤が、例えば低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、又はフィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックスから構成されることが好ましい。別の一例では、離型剤が、酸化ポリエチレンワックス、又は酸化ポリエチレンワックスのブロック共重合体等の脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物から構成されることが好ましい。別の一例では、離型剤が、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、又はライスワックス等の植物系ワックスから構成されることが好ましい。別の一例では、離型剤が、みつろう、ラノリン、又は鯨ろう等の動物系ワックスから構成されることが好ましい。別の一例では、離型剤が、オゾケライト、セレシン、又はベトロラクタム等の鉱物系ワックスから構成されることが好ましい。別の一例では、離型剤が、モンタン酸エステルワックス又はカスターワックス等の脂肪酸エステルを主成分とするワックス類から構成されることが好ましい。別の一例では、離型剤が、脱酸カルナバワックス等の脂肪酸エステルを一部又は全部を脱酸化したワックスから構成されることが好ましい。
[電荷制御剤(コア)]
以下、本実施形態に係るトナー粒子10のコア11(内添剤11b)を構成する電荷制御剤について説明する。
本実施形態ではコア11がアニオン性(負帯電性)を有するため、コア11では負帯電性の電荷制御剤が使用される。電荷制御剤は、帯電安定性や帯電立ち上がり特性を向上させ、耐久性や安定性に優れたトナーを得る目的で使用される。帯電立ち上がり特性は、所定の帯電レベルに短時間で帯電可能か否かの指標になる。
帯電安定性、帯電立ち上がり特性、耐久性、安定性、及びコストメリット等を向上させるためには、負帯電性の電荷制御剤の使用量は100質量部のバインダー11aに対して0.5質量部以上20.0質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以上15.0質量部以下であることがより好ましい。
負帯電性の電荷制御剤は、例えば有機金属錯体又はキレート化合物から構成されることが好ましい。
電荷制御剤を構成する有機金属錯体又はキレート化合物としては、アセチルアセトン金属錯体(例えばアルミニウムアセチルアセトナート又は鉄(II)アセチルアセトナート)、サリチル酸系金属錯体、又はサリチル酸系金属塩(例えば3,5−ジ−tert−ブチルサリチル酸クロム)等が好ましく、中でもサリチル酸系金属錯体又はサリチル酸系金属塩がより好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
[磁性粉(コア)]
以下、本実施形態に係るトナー粒子10のコア11(内添剤11b)を構成する磁性粉について説明する。
トナーを1成分現像剤として使用する場合、磁性及び定着性を向上させるためには、磁性粉の使用量は、トナー全量100質量部に対して35質量部以上60質量部以下であることが好ましく、40質量部以上60質量部以下であることがより好ましい。また、トナーを2成分現像剤として使用する場合、磁性及び定着性を向上させるためには、磁性粉の使用量は、トナー全量100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
磁性粉は、例えば鉄(フェライト又はマグネタイト等)、強磁性金属(コバルト又はニッケル等)、鉄及び/又は強磁性金属を含む合金、鉄及び/又は強磁性金属を含む化合物、熱処理等の強磁性化処理を施された強磁性合金、又は二酸化クロムから構成されることが好ましい。
磁性粉の粒子径は、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。こうした範囲に磁性粉の粒子径がある場合は、バインダー11a中に磁性粉を均一に分散させ易くなる。
[シェル層]
シェル層12は熱硬化性樹脂から構成されることが好ましく、強度、硬度、及びカチオン性を向上させるためには、アミノ基を有する樹脂又はその誘導体から構成されることがより好ましい。窒素原子を含むシェル層12は正帯電し易くなる。カチオン性を強くするためには、シェル層12中の窒素原子の含有量は10質量%以上であることが好ましい。
シェル層12を構成する熱硬化性樹脂としては、例えばメラミン樹脂、尿素樹脂、スルホアミド樹脂、グリオキザール樹脂、グアナミン樹脂、アニリン樹脂、又はこれら各樹脂の誘導体が好ましい。メラミン樹脂の誘導体では、例えばメチロールメラミンが好ましい。グアナミン樹脂の誘導体では、例えばベンゾグアナミン、アセトグアナミン、又はスピログアナミンが好ましい。
シェル層12を構成する熱硬化性樹脂としては、例えば窒素元素を分子骨格に有するポリイミド樹脂、マレイド系重合体、ビスマスイミド、アミノビスマスイミド、又はビスマスイミドトリアジンが好ましい。
シェル層12を構成する熱硬化性樹脂としては、アミノ基を含む化合物とアルデヒド(例えばホルムアルデヒド)との重縮合によって生成される樹脂(以下、アミノアルデヒド樹脂という)、又はアミノアルデヒド樹脂の誘導体が特に好ましい。なお、メラミン樹脂は、例えばメラミンとホルムアルデヒドとの重縮合物である。尿素樹脂は、例えば尿素とホルムアルデヒドとの重縮合物である。グリオキザール樹脂は、例えばグリオキザールと尿素との反応物とホルムアルデヒドとの重縮合物である。
シェル層12の厚さは、1nm以上20nm以下であることが好ましく、1nm以上10nm以下であることがより好ましい。
シェル層12の厚さが20nm以下であると、トナーを被記録媒体へ定着させる際の加熱加圧等よりシェル層12が容易に破壊されるようになる。その結果、コア11に含まれるバインダー11a及び離型剤の軟化又は溶融が速やかに進行し、低温域でトナーを被記録媒体に定着することが可能になる。さらに、シェル層12の厚さが20nm以下であるとシェル層12の帯電性が強くなり過ぎないため、画像形成が適正に行われるようになる。
一方、シェル層12の厚さが1nm以上であると、十分な強度を有するものとなり輸送時等の衝撃によってシェル層12が破壊されることを抑制することができる。
シェル層12の厚さは、市販の画像解析ソフトウェア(例えば三谷商事社製「WinROOF」)等を用いてトナー粒子10の断面のTEM撮影像を解析することによって計測できる。
シェル層12は、破壊箇所(機械的強度の弱い部位)を有することが好ましい。破壊箇所はシェル層12に局所的に欠陥等を生じさせることにより形成することができる。シェル層12に破壊箇所を設けることで、トナーを被記録媒体へ定着させる際に加熱加圧等よりシェル層12が容易に破壊されるようになる。その結果、シェル層12が熱硬化性樹脂から構成される場合でも、低温で定着させることが可能になる。破壊箇所の数は任意である。
[電荷制御剤(シェル層)]
以下、本実施形態に係るトナー粒子10のシェル層12を構成する電荷制御剤について説明する。
本実施形態ではシェル層12がカチオン性(正帯電性)を有するため、シェル層12では正帯電性の電荷制御剤が使用される。帯電立ち上がり特性、耐久性、安定性、及びコストメリット等を向上させるためには、正帯電性の電荷制御剤の使用量は、シェル層12を形成する樹脂100質量部に対して0.5質量部以上20.0質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以上15.0質量部以下であることがより好ましい。
正帯電性の電荷制御剤は、例えばアジン化合物(例えばアジン化合物からなる直接染料)、ニグロシン化合物(例えばニグロシン化合物からなる酸性染料)、ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩類、アルコキシル化アミン、アルキルアミド、又は4級アンモニウム塩から構成されることが好ましい。中でも、迅速な立ち上がり性が得られる点でニグロシン化合物が特に好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
アジン化合物としては、例えばピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オルトオキサジン、メタオキサジン、パラオキサジン、オルトチアジン、メタチアジン、パラチアジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−オキサジアジン、1,3,4−オキサジアジン、1,2,6−オキサジアジン、1,3,4−チアジアジン、1,3,5−チアジアジン、1,2,3,4−テトラジン、1,2,4,5−テトラジン、1,2,3,5−テトラジン、1,2,4,6−オキサトリアジン、1,3,4,5−オキサトリアジン、フタラジン、キナゾリン、又はキノキサリンが好ましい。アジン化合物からなる直接染料としては、例えばアジンファストレッドFC、アジンファストレッド12BK、アジンバイオレットBO、アジンブラウン3G、アジンライトブラウンGR、アジンダークグリ−ンBH/C、アジンディ−プブラックEW、又はアジンディープブラック3RLが好ましい。ニグロシン化合物としては、例えばニグロシン、ニグロシン塩、又はニグロシン誘導体が好ましい。ニグロシン化合物からなる酸性染料としては、例えばニグロシンBK、ニグロシンNB、又はニグロシンZが好ましい。4級アンモニウム塩としては、例えばベンジルメチルヘキシルデシルアンモニウム、又はデシルトリメチルアンモニウムクロライドが好ましい。
正帯電性の電荷制御剤は、官能基としての4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、又はカルボキシル基を有する樹脂から構成されてもよい。正帯電性の電荷制御剤は、例えば4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、及びカルボキシル基のいずれかを有するスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、又はポリエステル樹脂から構成されてもよい。これらの樹脂は、オリゴマーであってもポリマーであってもよい。
[外添剤]
以下、本実施形態に係るトナー粒子10を構成する外添剤13について説明する。以下、外添剤13により処理される前の粒子を「トナー母粒子」と記載する。
外添剤13は、トナー粒子10の流動性及び取扱性を向上させるために使用され、シェル層12の表面に付着する。流動性及び取扱性を向上させるためには、外添剤13の使用量は、トナー母粒子100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましく、2質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
外添剤13は、例えばシリカ、又はアルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、もしくはチタン酸バリウムのような金属酸化物から構成されることが好ましい。
流動性及び取扱性を向上させるためには、外添剤13の粒子径は0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
次に、本実施形態に係るトナーをキャリアと混合して2成分現像剤として使用する場合について説明する。所望する画像濃度を得、トナー飛散を抑制するためには、トナーの含有量は、2成分現像剤の質量に対して3質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
[キャリア]
以下、本実施形態に係るトナーを2成分現像剤として使用する場合のキャリアについて説明する。
例えば磁性キャリアを使用することが好ましい。磁性キャリアは、例えばキャリア芯材と、キャリア芯材を被覆する樹脂層とから構成される。キャリア芯材を被覆する樹脂層中に磁性粒子を分散させてもよい。
一例では、キャリア芯材が、鉄、酸化処理鉄、還元鉄、マグネタイト、銅、ケイ素鋼、フェライト、ニッケル、もしくはコバルト等の粒子、又はこれらの材料とマンガン、亜鉛、及びアルミニウム等の金属との合金の粒子から構成されることが好ましい。別の一例では、キャリア芯材が、鉄−ニッケル合金、又は鉄−コバルト合金等の粒子から構成されることが好ましい。別の一例では、キャリア芯材が、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸リチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、又はニオブ酸リチウム等のセラミックスの粒子から構成されることが好ましい。別の一例では、キャリア芯材が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、又はロッシェル塩等の高誘電率物質の粒子から構成されることが好ましい。
キャリア芯材を被覆する樹脂層は、例えば(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体、オレフィン系重合体(ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、又はポリプロピレン等)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、又はポリフッ化ビニリデン等)、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、又はアミノ樹脂から構成されることが好ましい。
磁性及び流動性を向上させるためには、キャリアの粒子径は、20μm以上120μm以下が好ましく、25μm以上80μm以下がより好ましい。粒子径は電子顕微鏡等で観察することにより測定することができる。
次に、本実施形態に係るトナーの製造方法について説明する。
トナーの製造に際しては、まず、アニオン性のコア11を形成(調製)する。続けて、コア11の表面にカチオン性のシェル層12を形成する。続けて、例えば水を用いてトナー母粒子を洗浄する。続けて、例えば乾燥機によりトナー母粒子を乾燥する。続けて、トナー母粒子の表面に外添剤13を付着させる。その結果、アニオン性のコア11と、コア11の表面を被覆するカチオン性のシェル層12とから構成されるトナー粒子10が形成され、ひいてはこうしたトナー粒子10を多数含むトナーが製造される。
以下、本実施形態に係るトナーの製造方法におけるコア11の形成、シェル層12の形成、洗浄、乾燥、及び外添について、順に説明する。
[コアの形成]
以下、コア11を形成する工程について説明する。本実施形態に係るトナーの製造方法では、トナー粒子10を構成するコア11が、例えば粉砕分級法(溶融混練法)又は凝集法により形成される。これらの方法によれば、バインダー11a中に内添剤11bを良好に分散させることが可能になる。
(粉砕分級法によるコアの形成)
以下、本実施形態に係るトナーの製造方法において、粉砕分級法によりコア11を形成する場合の手順について説明する。
粉砕分級法によりコア11を形成する場合には、まず、バインダー11aの材料と内添剤11bの材料とを混合する。続けて、混合物を溶融混練する。続けて、溶融混練物を粉砕し、分級することにより、所望の粒子径を有するコア11を得る。粉砕分級法によれば、凝集法よりも容易にコア11を形成することが可能になる。
(凝集法によるコアの形成)
以下、本実施形態に係るトナーの製造方法において、凝集法によりコア11を形成する場合の手順について説明する。
凝集法によりコア11を形成する場合には、まず、コア成分を含む微粒子を水性媒体中で凝集させる。詳しくは、バインダー11aの材料を水性媒体中で所望のサイズに微粒子化することで、バインダー微粒子を含む水性分散液(バインダー微粒子分散液)を得る。続けて、バインダー微粒子分散液中で微粒子を凝集させる。これにより、凝集粒子が形成される。
微粒子を凝集させる好適な方法としては、バインダー微粒子を含む水性分散液のpHを調整した後、水性分散液に凝集剤を添加し、水性分散液の温度を調整して微粒子を凝集させる方法等が挙げられる。また、凝集粒子が所望の粒子径となるまで凝集が進行した後に、凝集停止剤を添加してもよい。
凝集剤を添加する際の水性分散液のpHは8以上に調整されることが好ましい。また、凝集を良好に進行させるためには、微粒子を凝集させる際の水性分散液の温度は、バインダー11aのガラス転移点(Tg)以上で「バインダー11aのTg+10」℃未満の温度が好ましい。
凝集剤の添加量は、凝集を良好に進行させる観点から、水性分散液の固形分100質量部に対して1質量部以上50質量部以下が好ましい。凝集剤の添加量は、微粒子分散液中に含まれる分散剤の種類及び量に応じて適宜調整することができる。凝集剤は一時に添加してもよいし、逐次的に添加してもよい。
凝集剤としては、例えば無機金属塩、無機アンモニウム塩、又は2価以上の金属錯体が好ましい。また、4級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤又は含窒素化合物(例えばポリエチレンイミン)等も、凝集剤として使用できる。無機金属塩としては、例えば金属塩(例えば硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、又は硫酸アルミニウム)、又は無機金属塩重合体(例えばポリ塩化アルミニウム又はポリ水酸化アルミニウム)が好ましい。無機アンモニウム塩としては、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、又は硝酸アンモニウムが好ましい。
2種以上の凝集剤を用いる場合は、2価の金属の塩と1価の金属の塩とを併用することが好ましい。2価の金属の塩と1価の金属の塩とでは微粒子を凝集させる速度が異なるため、これらを併用することで、凝集粒子の粒子径を制御しつつ凝集粒子の粒度分布をシャープなものとしやすいからである。
凝集停止剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、又は塩化マグネシウムが好ましい。
バインダー微粒子を含む分散液は界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤を用いると、バインダー微粒子が水性媒体中で安定して分散する。微粒子の分散性を向上させるためには、界面活性剤の使用量はバインダー微粒子の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下が好ましい。界面活性剤としては、例えばアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、又はノニオン系界面活性剤が好ましい。中でも、アニオン系界面活性剤が特に好ましい。
アニオン系界面活性剤としては、例えば硫酸エステル塩型活性剤、スルホン酸塩型活性剤、リン酸エステル塩型界面活性剤、又は石鹸が好ましい。カチオン系界面活性剤としては、例えばアミン塩型界面活性剤、又は4級アンモニウム塩型界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、例えばポリエチレングリコール型界面活性剤、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物型界面活性剤、又は多価アルコール型界面活性剤(例えばグリセリン、ソルビトール、又はソルビタンの等の多価アルコールの誘導体)が好ましい。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
続けて、上記凝集工程により得た凝集粒子に含まれる成分を水性媒体中で合一化させてコア11を形成する。例えば凝集粒子を含む水性分散液を加熱することで、凝集粒子に含まれる成分を合一化することができる。合一化を良好に進行させるためには、例えば「バインダー11aのTg+10」℃以上かつバインダー11aの融点以下の温度で凝集粒子を含む水性分散液を加熱することが好ましい。これにより、コア11を含む水性分散液が得られる。
続けて、コア11を洗浄し、洗浄されたコア11を乾燥する。これにより、コア11を含む水性分散液からコア11を回収することができる。
上記洗浄工程では、例えばコア11を含む水性分散液から、固液分離を用いてコア11をウエットケーキとして回収し、得られたウエットケーキを水で洗浄する。ただしこれに限られず、洗浄方法は任意である。例えば、コア11を含む水性分散液中のコア11を沈降させ、上澄み液を水と置換し、置換後にコア11を水に再分散させるようにしてもよい。
上記乾燥工程では、乾燥機(スプレードライヤー、流動層乾燥機、真空凍結乾燥器、又は減圧乾燥機等)を用いてコア11を乾燥する。ただしこれに限られず、乾燥方法は任意である。
以上説明したコア11の形成方法は、コア11の構成又は要求される特性等に応じて任意に変更することができる。例えば必要のない工程(例えば洗浄工程又は乾燥工程)は割愛してもよい。また、コア成分等に応じて各工程を最適化することが望ましい。以下、凝集法によりバインダー11aと内添剤11bとしての着色剤及び離型剤とを含むコア11を形成する場合の凝集工程について説明する。
コア11がバインダー11a、着色剤、及び離型剤を含む場合には、例えばバインダー微粒子分散液、着色剤微粒子分散液、及び離型剤微粒子分散液をそれぞれ調整し、調整された3種類の分散液を混合する。続けて、混合分散液中でこれらの微粒子を凝集させることで、バインダー微粒子、着色剤微粒子、及び離型剤微粒子から構成される凝集粒子を含む水性分散液が得られる。
(バインダー微粒子分散液の調製方法)
以下、バインダー微粒子分散液(バインダー微粒子を含む分散液)の調製方法について説明する。
バインダー微粒子分散液の調製に際しては、まず、ターボミルのような粉砕装置を用いてバインダー11aの材料を粗粉砕する。続けて、得られた粗粉砕品をイオン交換水等の水性媒体に分散し、この分散状態で加熱する。加熱温度はバインダー11aのTmよりも10℃以上高い温度で200℃未満の温度が好ましい。そして、加熱完了後に高速剪断乳化装置(例えば、エム・テクニック社製のクレアミックス)等で強い剪断力を与えることによりバインダー微粒子分散液が得られる。
バインダー微粒子の体積平均粒子径(D50)は1μm以下であることが好ましく,0.05μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。体積平均粒子径(D50)がこうした範囲にあれば、粒度分布がシャープで形状が均一なコア11を調製しやすい。なお、本実施形態では、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製「SALD−2200」)を用いて体積平均粒子径(D50)を測定している。
バインダー11aの材料として酸性基を有する樹脂を用いる場合、樹脂をそのまま水性媒体中で微粒子化させると、バインダー微粒子の比表面積が増大してしまう。そのため、バインダー微粒子表面に露出した酸性基の影響で、水性媒体のpHが3〜4程度まで低下する可能性がある。水性媒体のpHが3〜4程度まで低下すると、バインダー微粒子が加水分解してしまうことや所望の粒子径のバインダー微粒子が得られなくなることが懸念される。
そこで、水性媒体中に塩基性物質を加えることが考えられる。塩基性物質の好適な例としては、アルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又は水酸化リチウム)、アルカリ金属炭酸塩(炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム)、アルカリ金属炭酸水素塩(例えば炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウム)、又は含窒素有機塩基(例えばN,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、イソプロピルアミン、モノメタノールアミン、モルホリン、メトキシプロピルアミン、ピリジン、又はビニルピリジン)が挙げられる。
(着色剤微粒子分散液の調製方法)
以下、着色剤微粒子分散液(着色剤微粒子を含む分散液)の調製方法について説明する。
着色剤微粒子分散液は、例えば分散機を用いて、界面活性剤を含む水性媒体中に着色剤の微粒子を分散させることにより調製する。
界面活性剤としては、例えばバインダー微粒子分散液の調製で用いた界面活性剤を用いることができる。微粒子の分散性を向上させるためには、界面活性剤の使用量は着色剤100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
分散機としては、例えば加圧式分散機又は媒体型分散機が好ましい。加圧式分散機の好適な例としては、超音波分散機、機械式ホモジナイザー、マントンゴーリン、圧力式ホモジナイザー、又は吉田機械興業社製の高圧式ホモジナイザーが挙げられる。媒体型分散機の好適な例としては、サンドグラインダー、横型及び縦型ビーズミル、寿工業株社製のウルトラアペックスミル、WAB社製のダイノーミル、及び日本コークス工業社製のMSCミルが挙げられる。
着色剤微粒子の体積平均粒子径(D50)は0.01μm以上0.2μm以下であることが好ましい。着色剤微粒子の体積平均粒子径(D50)は、バインダー微粒子の体積平均粒子径(D50)と同様の方法で測定できる。
(離型剤微粒子分散液の調製方法)
以下、離型剤微粒子分散液(離型剤微粒子を含む分散液)の調製方法について説明する。
離型剤微粒子分散液の調製に際しては、まず、離型剤を予め100μm以下程度に粉砕し、離型剤の粉体を得る。続けて、得られた離型剤の粉体を界面活性剤を含有する水性媒体中に添加し、スラリーを調製する。微粒子の分散性を向上させるためには、界面活性剤の使用量は離型剤の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
続けて、得られたスラリーを離型剤の融点以上の温度に加熱する。続けて、加熱されたスラリーにホモジナイザー(例えば、IKA社製「ウルトラタラックスT50」)又は圧力吐出型分散機等を用いて強い剪断力を付与する。これにより、離型剤微粒子分散液が調製される。
剪断力を与える装置としては、例えば美粒社製のNANO3000、吉田機械興業社製のナノマイザー、MFI社製のマイクロフルダイザー、マントンゴーリン社製のゴーリンホモジナイザー、又はエム・テクニック社製のクレアミックスWモーションが好ましい。
バインダー11a中に離型剤を均一に分散するためには、離型剤微粒子分散液に含まれる離型剤微粒子の体積平均粒子径(D50)が1μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.7μm以下であることがより好ましく、0.28μm以上0.55μm以下であることがさらに好ましい。なお、離型剤微粒子の体積平均粒子径(D50)は、バインダー微粒子の体積平均粒子径(D50)と同様の方法で測定できる。
[シェル層の形成]
以下、シェル層12を形成する工程について説明する。
シェル層12の形成に際しては、まず、溶媒のpHを調整する。溶媒のpHは、例えば酸性物質により4程度に調整されるのが好ましい。分散液のpHを4程度の酸性側に調整することで、シェル層12の形成に用いられる材料の重縮合反応が促進される。
続けて、pHを調整した溶媒(水性媒体)にカチオン性のシェル層12の材料を溶解させる。
(シェル層の材料)
以下、溶媒に溶かすカチオン性のシェル層12の材料について説明する。
シェル層12の材料は、熱硬化性樹脂であることが好ましく、強度、硬度、及びカチオン性を向上させるためには、アミノ基を有する樹脂又はその誘導体、モノマーもしくはプレポリマーであることがより好ましい。窒素原子を含むシェル層12は正帯電し易くなる。カチオン性を強くするためには、シェル層12の材料における窒素原子の含有量は10質量%以上であることが好ましい。
一例では、シェル層12の材料が、例えばメラミン樹脂、尿素樹脂、スルホアミド樹脂、グリオキザール樹脂、グアナミン樹脂、アニリン樹脂、又はこれら各樹脂の誘導体、モノマー、もしくはプレポリマー(例えば初期縮合物)であることが好ましい。メラミン樹脂の誘導体では、例えばメチロールメラミンが好ましい。グアナミン樹脂の誘導体では、例えばベンゾグアナミン、アセトグアナミン、又はスピログアナミンが好ましい。
別の一例では、シェル層12の材料が、例えば窒素元素を分子骨格に有するポリイミド樹脂、マレイド系重合体、ビスマスイミド、アミノビスマスイミド、又はビスマスイミドトリアジンであることが好ましい。
シェル層12の材料は、アミノアルデヒド樹脂、又はその誘導体、モノマー、もしくはプレポリマー(例えば初期縮合物)であることが特に好ましい。中でも、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物が特に好ましい。メラミンホルムアルデヒド初期縮合物は、例えばメラミンをメタノール中でホルムアルデヒドと反応させてメチロール化した後、メチル化することによって合成することができる。
メラミンに付加するホルムアルデヒドの量、及びメチロール基と反応するメタノールの量などを変えることによって、メチロール基(−CH2OH)、メトキシ基(−OCH3)、メチレン基(−CH2−)、又はイミノ基(−NH−)の組成比が異なる種々の組成物を生成することができる。
イミノ基の量が少ないほど、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物の硬化温度は高くなる傾向にある。
メチレン基の量は縮合度に対応する。メチレン基が少ないほど、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物を含む組成物を高濃度化して架橋密度の高いシェル層12が形成される傾向にある。
メチロール基は少ない方が好ましい。メチロール基が多いほど、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物を含む組成物の安定性が低下し、加工時にホルムアルデヒドが多く発生する傾向にある。
メラミンホルムアルデヒド初期縮合物は、溶媒(例えば水性媒体)中でアニオン性の固体粒子表面に適度に吸着し易いため、コア11表面の官能基(例えば水酸基又はカルボキシル基)とのin−situ重合反応(コア11との結合反応)が進み易い。また、シェル層12の材料がメラミンホルムアルデヒド初期縮合物であれば、シェル層12の硬化反応が完了するまでコア11の分散性が高く維持され易い。
シェル層12の形成時においてシェル層12の材料の混和度は250〜1000質量%の範囲にあることが好ましい。こうした混和度であれば、シェル層12の材料の溶媒(例えば水性媒体)に対する親和性が適正なレベルになり、シェル層12の形成時においてコア11の分散性を高く維持しながらコア11表面にシェル層12の材料(例えばメラミンホルムアルデヒド初期縮合物)を強く結合させることが可能になる。なお、混和度は、シェル層12の材料(例えばメラミンホルムアルデヒド初期縮合物)に対する溶媒(例えば水性媒体)の溶解度である。混和度600質量%であれば、シェル層12の材料の6倍(質量比)の溶媒がシェル層12の材料に入り込むことができる。シェル層12の材料の重合度が高いほど混和度が低くなる傾向にある。
(メラミンホルムアルデヒド初期縮合物の合成方法)
以下、シェル層12の材料として特に好ましいメラミンホルムアルデヒド初期縮合物の合成方法について説明する。
例えばpH12以上の高アルカリ性メタノール溶液中でメラミンとホルムアルデヒドとを反応(メチロール化反応)させる。この際、メタノールの少なくとも一部を留去する。続けて、得られた中間生成物にメタノールを添加して酸性条件下で反応(メチル化反応)させる。これにより、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物のメタノール溶液が得られる。その後、常圧蒸留又は減圧蒸留により溶液を濃縮することが好ましい。
シェル層12の形成は水性媒体中で行われることが好ましい。水性媒体中であれば、バインダー11aの溶解又は内添剤11b(特に離型剤)の溶出が生じにくい。
(メチロール化反応)
以下、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物の合成方法におけるメラミンとホルムアルデヒドとのメチロール化反応について説明する。
メチロール化反応は、例えばメタノール溶液中で行われる。メタノールは、メラミン1モルに対して1.5〜5モルの範囲で使用されることが好ましく、2〜3モルの範囲で使用されることがより好ましい。メタノールの量(モル)がメラミンの量(モル)に対して5倍以下であれば、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物のメチロール基が過剰に増えることを抑制できる。一方、メタノールの量(モル)がメラミンの量(モル)に対して1.5倍以上であれば、生成したメチロール化メラミンが反応中に析出すること、ひいては流動性の悪化を抑制することができる。
メチロール化反応は、pH12以上で行うことが好ましい。反応pHが12よりも低い場合には、反応中に生成物(メチロール化メラミン)が析出して流動性が悪化する可能性がある。また、反応pHが12よりも低いと、多くの場合、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物中に含まれるメチロール基が増加する。この際のpHの上限に特別な制約はないが、pH12程度が実用的である。pHの調整には、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又は水酸カルシウム等)、又は金属酸化物(酸化カルシウム又は酸化マグネシウム等)などを用いることができる。また、これらの2種以上を併用してもよい。工業的には水酸化ナトリウムが好ましい。
ホルムアルデヒド源としては、ホルムアルデヒド又はパラホルムアルデヒドを高濃度で含むメタノール溶液を使用することが好ましい。ホルムアルデヒドは、メラミン1モルに対して3〜6モルの範囲で使用されることが好ましく、3.5〜5モルの範囲で使用されることがより好ましい。
メチロール化反応は、例えば50℃以上かつ還流温度以下で0.5〜5時間行う。
メチロール化反応の際又はメチロール化反応後に溶媒であるメタノールの少なくとも一部を留去することが好ましい。留去されるメタノールは、系内にある一部であっても実質的に全量であってもよい。メタノールを留去することにより、反応液の濃度が上昇し、遊離ホルムアルデヒドが減少して、後のメチル化反応にとって好ましい中間生成物(例えばメチロール化メラミン)となる。メタノールの少なくとも一部を留去し、メチロール化反応が終了した時点で遊離ホルムアルデヒドの量がメラミン1モルに対して1.6モル以下となるようにすることが好ましく、1モル以下となるようにすることがより好ましい。
好適な一例では、メタノールを留去しながら還流温度付近でメチロール化反応を行う。ただしこれに限られず、メチロール化反応終了後にメタノールを留去してもよい。また、メタノールの一部を留去しながらメチロール化反応を行い、反応終了後に残存するメタノールの少なくとも一部をさらに留去して濃縮してもよい。
(メチル化反応)
以下、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物の合成方法におけるメチロール化メラミンとメタノールとのメチル化反応について説明する。
例えば上記メチロール化反応により得たメチロール化メラミン(中間生成物)にメタノール及び酸触媒を添加し、酸性条件下でメチロール化メラミンとメタノールとを反応させる。
メチル化反応では、メラミン1モルに対してメタノールを5〜30モルの範囲で存在させることが好ましく、10〜25モルの範囲で存在させることがより好ましい。メチロール化反応後にメタノールが中間生成物中に残っている場合には、その残存量を含めてメタノールの量が計算される。メタノールの量(モル)がメラミンの量(モル)に対して5倍よりも少なくなると、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物中のメチレン基が多くなる傾向にある。
メチル化反応は酸性条件下で行われ、好ましくはpH1〜6.5、より好ましくはpH2〜5で行われる。pH調整のための酸触媒は、無機酸(塩酸、硫酸、燐酸、又は硝酸等)であっても、有機酸(蟻酸、酢酸、しゅう酸、又はp−トルエンスルホン酸等)であってもよい。また、これらの2種以上を併用してもよい。
メチル化反応は、25℃以上かつ還流温度以下で、好ましくは25〜50℃の範囲内の温度で、0.5〜5時間行う。
なお、メチル化反応終了後に中和してpHを8以上にすることが好ましい。中和には、例えばアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又は水酸カルシウム等)又は金属酸化物(酸化カルシウム又は酸化マグネシウム等)を用いることができる。また、これらの2種以上を併用してもよい。生成する中和塩は、その後任意の段階で反応系から除くことができる。例えば中和直後に中和塩を除去してもよいし、反応生成物を濃縮してから中和塩を除去してもよい。
メラミンホルムアルデヒド初期縮合物の混和度は、メチル化反応の条件を変えることによって調整することができる。反応条件(温度、時間、酸触媒の種類、又はpH等)を変えることによってメチル化反応と同時に縮合反応も起きるようになる。酸触媒として強酸を使った場合には弱酸よりも架橋反応が進み易くなり、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物の混和度が低くなる傾向にある。
続けて、シェル層12の材料を溶解させた溶媒中に前述の方法で作製したコア11を添加し、分散させる。溶媒中にコア11が均一に分散されると、均一なシェル層12を得やすくなる。
コア11を良好に分散させる方法としては、例えば分散液を強力に撹拌できる装置を用いて機械的に分散させる方法が好ましい。強力に撹拌できる装置としては、プライミックス社製のハイビスミックス等が挙げられる。ただしこれに限られず、コア11を分散させる方法は任意である。
例えば分散剤を含有する水性媒体中でコア11を分散させてもよい。ただし、分散剤の使用量が多過ぎると、コア11表面に分散剤が付着した状態でシェル層12の形成が行われる可能性がある。こうした状態でシェル層12が形成されると、コア11とシェル層12との結合が弱くなるため、トナーに加わる機械的ストレス等により、コア11からシェル層12が剥がれ易くなる。そのため、分散剤の使用量はコア11の100質量部に対して75質量部以下が好ましい。分散剤の使用量を75質量部以下にすることにより、コア11からのシェル層12の剥離を抑制することが可能になる。また、分散剤の使用量を75質量部以下にすることで、排水中のTOC濃度を低減することができる。
分散剤としては、例えばポリアクリル酸ナトリウム、ポリパラビニルフェノール、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、イソプレンスルホン酸、ポリエーテル、イソブチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアスパラギン酸ナトリウム、デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、又はリグニンスルホン酸ナトリウムが好ましい。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
続けて、コア11を添加した溶媒の温度を所望の温度にして、所定の時間その温度で維持(保温)する。そして、この温度にてシェル層12の形成(例えば硬化反応)が進行する。この際、コア11が表面張力によって収縮することで、軟化したコア11が球形化することがある。
シェル層12の形成を良好に進行させるためには、シェル層12を形成する際の溶液の温度(反応温度)が40℃以上95℃以下であることが好ましく、50℃以上80℃以下であることがより好ましい。また、コア11を構成するバインダー11aが水酸基又はカルボキシル基を有する樹脂(例えばポリエステル樹脂)から構成され、シェル層12がアミノアルデヒド樹脂又はその誘導体、モノマー、もしくはプレポリマーから構成される場合において、シェル層12を形成する際の温度が40℃以上95℃以下であれば、コア11表面に露出する水酸基又はカルボキシル基と、シェル層12を構成する樹脂のメチロール基とが反応して、コア11を構成するバインダー11aとシェル層12を構成する樹脂との間に共有結合が形成され易くなる。これにより、コア11表面にシェル層12を強固に付着させることが可能になる。
続けて、溶媒のpHを例えば7に調整し、フラスコの内容物を常温まで冷却する。この溶媒には、アニオン性のコア11と、コア11の表面を被覆するカチオン性のシェル層12とから構成されるトナー母粒子が含まれる。
以上説明したシェル層12の形成方法は、シェル層12の構成又は要求される特性等に応じて任意に変更することができる。例えば溶媒にシェル層12の材料を溶解させる工程よりも前に溶媒中にコア11を添加する工程を行うようにしてもよい。また、必要のない工程は割愛してもよい。
[洗浄]
以下、洗浄工程について説明する。
例えば固液分離により分散液からトナー母粒子をウエットケーキとして回収し、得られたウエットケーキを水で洗浄する。ただしこれに限られず、トナー母粒子の洗浄方法は任意である。例えば分散液中のトナー母粒子を沈降させ、上澄み液を水と置換し、置換後にトナー母粒子を水に再分散させてもよい。
[乾燥]
以下、乾燥工程について説明する。
例えばスプレードライヤー、流動層乾燥機、真空凍結乾燥器、又は減圧乾燥機によりトナー母粒子を乾燥する。この際、スプレードライヤーを用いれば、乾燥中のトナー母粒子の凝集を抑制することが可能になる。ただしこれに限られず、トナー母粒子の乾燥方法は任意である。
[外添]
以下、外添工程について説明する。
トナー母粒子の表面に外添剤13を付着させる。外添剤13を付着させる方法としては、例えば外添剤13がトナー母粒子表面に埋没しないように条件を調整して、ヘンシェルミキサー又はナウターミキサー等の混合機によりトナー母粒子と外添剤13とを混合する方法が好ましい。ただしこれに限られず、トナー母粒子の外添方法は任意である。例えば乾燥工程でスプレードライヤーを用いる場合には、トナー母粒子の分散液と共にシリカ等の外添剤13の分散液を噴霧できる。その結果、乾燥工程と外添工程を同時に行うことが可能になる。
以上説明した本実施形態に係るトナーの製造方法によれば、耐熱保存性に優れたトナーが得られる。こうしたトナーは、電子写真法、静電記録法、又は静電印刷法等が適用される画像形成装置において好適に使用できる。
なお、上記トナーの製造方法は、トナー(トナー粒子10)の構成又は要求される特性等に応じて任意に変更することができる。例えば必要のない工程は割愛してもよい。例えば外添剤13を使用しない場合には、外添工程を割愛することができる。
以下、本実施例に係るトナーの調製方法の概要、評価方法、及び本実施例に係る調製方法により得られた各試料についての評価結果について、順に説明する。
[調製方法]
本実施例に係る調製方法では、コアの形成、シェル層の形成、洗浄、乾燥、及び外添を順に行ってトナーを製造(調製)した。
(コアの形成)
コア11は粉砕分級法により形成した。以下、本実施例の調製方法におけるコア11の形成について説明する。
まず、バインダー11aの材料(ポリエステル樹脂)と内添剤11b(詳しくは、着色剤及び離型剤)の材料とを混合した。
ポリエステル樹脂(バインダー樹脂)は、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(詳しくは、ビスフェノールAを骨格にしてエチレンオキサイドを付加したアルコール)に多官能基を有する酸(詳しくは、パラフタル酸)を反応させることにより作製した。これにより、水酸基価(OHV値)「20mgKOH/g」、酸価(AV値)「40mgKOH/g」、Tm「100℃」、Tg「48℃」のポリエステル樹脂が得られた。
着色剤としては、C.I.ピグメントブルー15:3(フタロシアニン顔料)を用いた。
離型剤としては、エステルワックス(日油社製「WEP−3」)を用いた。
上記材料の混合では、混合機(ヘンシェルミキサー)を用いて、ポリエステル樹脂100質量部に対して着色剤5質量部及び離型剤5質量部を混合した。
続けて、混合物を2軸押出機(池貝社製「PCM−30」)で混練した。
続けて、混練物を機械式粉砕機(ターボ工業社製「ターボミル」)で粉砕し、分級機(日鉄鉱業社製「エルボージェット」)により分級した。これにより、アニオン性のコア11が得られた。
(シェル層の形成)
本実施例に係る調製方法では、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物をシェル層12の原料とした。以下、本実施例に係る調製方法で用いたメラミンホルムアルデヒド初期縮合物の合成方法について説明する。
まず、温度計、還流冷却器、及び攪拌棒を備えた四つ口フラスコにメタノール160.2g(5.0モル)を入れて、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。
続けて、フラスコ内にパラホルムアルデヒド(92%CH2O)169.7g(5.2モル)を加えて60℃で20分間保温してパラホルムアルデヒドをメタノールに溶解させた。
続けて、フラスコ内にメラミン126.1g(1.0モル)を加えて、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。そして、還流温度でメタノールを系外に留去しながら1時間反応(メチロール化反応)させた。
次に、上記メチロール化反応により得た中間生成物(メチロール化メラミン)にメタノール640.8g(20.0モル)を加えて、硫酸でpHを2.0に調整し、所定の温度で所定の時間反応(メチル化反応)させた。
続けて、水酸化ナトリウム水溶液でpHを9に調整し、中和処理により反応を停止させた。中和処理により生成した中和塩をろ過して除去した。その後、ろ液を0.008MPaで70℃になるまで減圧濃縮して、シェル層12の原料とするメラミンホルムアルデヒド初期縮合物を得た。
本実施例では、上記方法により図3に示すようなメラミンホルムアルデヒド初期縮合物A〜Fを調製した。
図3に示すように、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物A、B、C、D、E、Fはそれぞれ、温度30℃で3時間、温度35℃で3時間、温度40℃で3時間、温度45℃で3時間、温度50℃で3時間、温度50℃で5時間のメチル化反応により得た。また、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物A、B、C、D、E、Fについては、混和度がそれぞれ150、250、600、800、1000、1250質量%であり、粘度がそれぞれ4700、1700、1500、1000、800、500mPa・sであった。混和度(メラミンホルムアルデヒド初期縮合物100に対する水の溶解度)は、測定温度60℃でメラミンホルムアルデヒド初期縮合物に水を少しずつ加えながら撹拌し、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物に対する水の溶解限界点(白濁するポイント)を目視で検出することにより測定した。また、粘度は、JIS K7117−1に従って、60rpm、25℃の条件で東機産業株式会社製の「BII形粘度計」により測定した。
次に、本実施例に係る調製方法において、上記メラミンホルムアルデヒド初期縮合物を用いてシェル層12を形成する手順について説明する。
まず、温度計及び撹拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコを準備し、ウォーターバスを用いてフラスコ内温を30℃に保持した。そして、フラスコ内にイオン交換水300mLを入れ、さらに希塩酸を加えて、フラスコ内の水性媒体のpHを4に調整した。
続けて、フラスコ内にカチオン性のシェル層12の材料であるメラミンホルムアルデヒド初期縮合物(図3に示すメラミンホルムアルデヒド初期縮合物A〜Fのいずれか)を添加し、フラスコの内容物を撹拌してメラミンホルムアルデヒド初期縮合物を水性媒体に溶解させた。メラミンホルムアルデヒド初期縮合物の添加量は、調製すべき試料のシェル層12の厚さに応じて変えるようにした。詳しくは、6nm、9nm、12nmの厚さを有するシェル層12を形成する場合にはそれぞれ、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物の添加量を2mL、3mL、4mLとした。
続けて、フラスコ内(シェル層12の材料が溶解した液中)に前述の手順で作製した300gのコア11を添加し、フラスコの内容物を200rpmの速度で1時間撹拌した。
続けて、フラスコ内にイオン交換水300mLを追加し、フラスコの内容物を100rpmで撹拌しながら1℃/分の速度でフラスコ内の温度を70℃まで上げて、70℃かつ100rpmの条件でフラスコの内容物を2時間保持した。これにより、コア11表面にカチオン性のシェル層12が形成された。
70℃に保持して2時間経過した後、水酸化ナトリウムを加えてフラスコの内容物のpHを7に調整した。続けて、フラスコの内容物を常温まで冷却し、トナー母粒子を含む分散液を得た。
(洗浄)
トナー母粒子(コア11及びシェル層12)の形成後、トナー母粒子の洗浄を行った。本実施例に係る調製方法では、ブフナーロートを用いて分散液からトナー母粒子のウエットケーキをろ取し、トナー母粒子のウエットケーキを再度イオン交換水に分散させてトナー母粒子を洗浄した。そして、イオン交換水による同様の洗浄を5回繰り返した。ろ液及び洗浄水は排水として回収した。
ろ過後のろ液の導電率は、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物の添加量によらず4μS/cmであった。導電率の測定には、堀場製作所社製の電気伝導率計「HORIBA ES−51」を用いた。
洗浄後のろ液及び洗浄水のTOC濃度はそれぞれ8mg/L以下であった。その後、一般的な逆浸透(RO)によりろ液及び洗浄水のTOC濃度をそれぞれ3mg/L以下(水道水レベル)まで浄化できた。TOC濃度の測定には、島津製作所社製のTOC−4200を用いた。
(乾燥)
上記洗浄後、乾燥を行った。本実施例に係る調製方法では、分散液から回収したトナー母粒子を40℃雰囲気中に48時間放置して乾燥させた。
(外添)
上記乾燥後、外添を行った。本実施例に係る調製方法では、外添剤13としてBET比表面積130m2/gの疎水性シリカ微粒子(日本アエロジル社製「REA−200」)をトナー母粒子の表面に付着させた。詳しくは、トナー母粒子100質量部に対して0.5質量部の外添剤13をトナー母粒子の表面に付着させた。これにより、多数のトナー粒子10を含む静電潜像現像用トナーが製造された。
[評価方法]
各試料の評価方法は、以下の通りである。
(粒子径)
ベックマンコールター社製のコールターカウンターマルチサイザー3を用いて、体積平均粒子径(D50)を測定した。
(形状指数)
フロー式粒子像分析装置(シスメックス社製「FPIA 3000」)を用いて、形状指数としての円形度を測定した。詳しくは、各試料に関して3000個の粒子の円形度を測定し、その平均値を評価値とした。
(摩擦帯電量)
ターブラミキサーを用いて、標準キャリアN−01(日本画像学会から提供される負帯電極性トナー用標準キャリア)と、この標準キャリアに対して7質量%の粒子とを30分間混合した。そして、得られた混合物を測定試料として標準キャリアと摩擦させた場合の粒子の摩擦帯電量をQMメーター(TREK社製「MODEL 210HS−2A」)で測定した。
(コアのTg)
コア11のTgは、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製「DSC−6200」)を用いて吸熱曲線を測定することにより、吸熱曲線における比熱の変化点から求めた。
(コアのTm)
試料を高化式フローテスター(島津製作所社製「CFT−500D」)にセットし、ダイス細孔経1mm、プランジャー荷重20kg/cm2、昇温速度6℃/分で、1cm3の試料を溶融流出させてS字カーブ(図2参照)を求め、得られたS字カーブからコア11のTmを読み取った。
(コアのゼータ電位)
コア11「0.2g」、イオン交換水「80g」、及び1%濃度のノニオン系界面活性剤(ポリビニルピロリドン、日本触媒社製「K−85」)「20g」をマグネットスターラーで混合し、コア11を均一に分散させて分散液を得た。この分散液に希塩酸を加えて分散液のpHを4に調整した。そして、この分散液を測定試料として、ゼータ電位・粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製「Delsa Nano HC」)により、pH4に調整された分散液中のコア11のゼータ電位を測定した。
(トナー粒子におけるシェル層の厚さ)
トナー粒子10を常温硬化性のエポキシ樹脂中に分散し、40℃の雰囲気にて2日間硬化させて硬化物を得た。この硬化物を四酸化オスミウムにて染色した後ミクロトーム(ライカ社製「EM UC6」)にて切り出し、厚さ200nmの薄片試料を得た。そして、この試料の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製「JSM−6700 F」)にて撮影した。
画像解析ソフトウェア(三谷商事社製「WinROOF」)でTEM撮影像を解析することで、シェル層12の厚さを計測した。具体的には、トナー粒子10の断面の略中心で直交する2本の直線を引き、この2本の直線上の、シェル層12と交差する4箇所の長さを測定した。そして、測定された4箇所の長さの平均値を測定対象である1個のトナー粒子10のシェル層12の厚さとした。トナーに含まれる10個以上のトナー粒子10についてシェル層12の厚さを測定し、得られた10個以上の測定値の平均値を評価値とした。
なお、シェル層12の厚さが小さい場合は、TEM画像上でのコア11とシェル層12との界面が不明瞭になるため、シェル層12の厚さの測定が困難な場合がある。このような場合は、TEM撮影と電子エネルギー損失分光法(EELS)とを組み合わせてコア11とシェル層12との界面を明確にすることにより、シェル層12の厚さを測定した。具体的には、TEM画像中で、EELSを用いてシェル層12の材質(窒素元素)に特徴的な元素のマッピングを行った。
(トナー粒子の耐熱保存性)
トナー2gを容量20mLのポリ容器に入れて、60℃に設定された恒温器内に3時間静置することで、耐熱保存性評価用のトナーを得た。その後、ホソカワミクロン社製のパウダーテスターのマニュアルに従い、耐熱保存性評価用のトナーをレオスタッド目盛り5かつ時間30秒の条件でパウダーテスターに積置された200メッシュ(目開き150μm)の篩を用いて篩別した。そして、篩別後に篩上に残留したトナーの質量を測定した。篩別前のトナーの質量と、篩別後に篩上に残留したトナーの質量とから、次の式2に従って耐熱保存性としての凝集率(%)を求めた。
(式2)凝集率(%)=(篩上に残留したトナー質量/篩別前のトナー質量)×100
(トナー粒子の最低定着温度)
評価機として、Roller−Roller方式の加熱加圧型の定着器(ニップ幅8mm)により定着温度を調節できるように改造したプリンター(京セラドキュメントショリューションズ社製「FSC−5250DN」)を用いた。トナーを評価機のトナーコンテナに投入し、評価機により線速200mm/秒で90g/m2の紙を搬送し、搬送しながら紙に1.0mg/cm2のトナーを現像した。続けて、現像後の紙に定着器を通過させた。ニップ通過時間は40m秒とした。また、定着温度の測定範囲は100〜200℃とした。詳しくは、定着器の定着温度を100℃から5℃ずつ上昇させて、未定着のベタ画像を定着させた。そして、ベタ画像がオフセットすることなく紙に定着できる最低温度(最低定着温度)を測定した。
[評価結果]
図4に、本実施例に係る調製方法により得たトナー(試料1〜36)の評価結果をまとめて示す。図5には、図4に示すデータのうち、試料1〜27のトナー粒子に係るシェル膜厚(シェル層12の厚さ)及びゼータ電位のデータをグラフ化(プロット)して示す。以下、主に図4及び図5を参照して、試料1〜36の評価結果について説明する。
(コア)
試料1〜36のいずれにおいても、体積平均粒子径(D50)が6.0μm、円形度(形状指数)が0.93、Tmが90℃、Tgが40℃、標準キャリアとの摩擦帯電量が−20μC/gであるコア11が得られた。pH4における分散液中のゼータ電位は、試料30、33、36のコア11では−5mVよりも大きな値(−3.5mV)であったが、それ以外の試料のコア11では−5mV以下の値であった。
(シェル層)
シェル層12の材料(メラミンホルムアルデヒド初期縮合物)の混和度は、試料1〜27、30、33、36では250〜1000質量%の範囲にあったが、それ以外の試料では250〜1000質量%の範囲になかった。試料1〜36の調製においては、図3に示されるメラミンホルムアルデヒド初期縮合物A〜Fのいずれかをシェル層12の原料とした。
(トナー)
試料1〜27のトナー(トナー粒子10)では、優れた耐熱保存性(凝集率)が得られた。詳しくは、試料28〜36のトナー粒子10の凝集率に比べて試料1〜27のトナー粒子10の凝集率は非常に小さかった。試料1〜27のトナー(トナー粒子10)では、シェル層12の材料(メラミンホルムアルデヒド初期縮合物)の混和度が250〜1000質量%の範囲にあることで、シェル層12の形成時においてコア11の分散性を高く維持しながらコア11表面にシェル層12の材料(例えばメラミンホルムアルデヒド初期縮合物)を強く結合させることが可能になったためであると考えられる。
なお、試料30、33、36においては、シェル層12の材料の混和度が250〜1000質量%の範囲にあるにもかかわらず、トナー粒子10の凝集率(耐熱保存性)が高かった。試料30、33、36では、コア11のゼータ電位(pH4)が−5mVよりも大きいため、コア11のアニオン性が十分ではなく、コア11の表面にカチオン性のシェル層12の材料が十分に吸着しなかったと考えられる。その結果、コア11とシェル層12の材料との重合反応が十分に進まなかったものと考えられる。
試料1〜27に係るトナーの製造方法は、pH4におけるゼータ電位が−5mV以下であるアニオン性のコア11を形成するステップと、カチオン性のシェル層12の材料を溶媒に溶かした溶液中でシェル層12をコア11の表面に形成するステップとを含む。そして、シェル層12の形成時においてはシェル層12の材料の混和度が250〜1000質量%の範囲にある。これにより、シェル層12の形成時においてコア11の分散性を高く維持しながらコア11表面にシェル層12の材料を強く結合させることが可能になる。また、分散剤を使用せずともシェル層12の形成時におけるコア11の分散性を高く維持することが可能になる。その結果、優れた耐熱保存性を有するトナーが得られる。
本発明は上記実施例には限定されない。例えばコア11の形成方法は粉砕分級法に限られず、コア11を凝集法で形成した場合にも、トナーの製造方法を上記構成とすることで、優れた耐熱保存性を有するトナーが得られる。