以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
本実施形態の静電潜像現像用トナー(以下、単にトナーともいう)は、トナー粒子を含む。トナー粒子は、少なくとも結着樹脂を含むコア粒子と、このコア粒子を被覆するシェル層とからなる。なお、コア粒子はアニオン性を示し、シェル層はカチオン性を示す。
図1を参照して、トナー粒子について説明する。
図1において、トナー粒子100は、コア粒子110とシェル層120とを含む。コア粒子110は結着樹脂を含む。シェル層120はコア粒子110の表面を被覆するように形成されており、熱硬化性樹脂を含む樹脂から構成される。
コア粒子110を構成する成分について、以下に説明する。
結着樹脂はコア粒子110を構成する必須成分であり、アニオン性を有する樹脂である。結着樹脂は、例えば、官能基としてエステル基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有する樹脂である。中でも、分子中に水酸基、カルボキシル基、又はアミノ基のような官能基を持つ樹脂が好ましく、分子中に水酸基及び/又はカルボキシル基を持つ樹脂がより好ましい。なぜなら、このような官能基は、シェル層を構成する樹脂に含まれる熱硬化性樹脂のモノマーに由来する単位(例えば、メチロールメラミン)と反応して化学的に結合するからである。その結果、このような官能基を有する結着樹脂から製造されたトナー粒子100においては、シェル層120とコア粒子110とが強固に結合する。
結着樹脂がカルボキシル基を有する樹脂である場合、この結着樹脂の酸価は、十分なアニオン性を有するために、3mgKOH/g以上50mgKOH/g以下が好ましく、10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下がより好ましい。
結着樹脂が水酸基を有する樹脂である場合、この結着樹脂の水酸基価は、十分なアニオン性を有するために、10mgKOH/g以上70mgKOH/g以下が好ましく、15mgKOH/g以上50mgKOH/g以下がより好ましい。
結着樹脂の溶解指数(SP値)は10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましい。SP値が10以上であると、水のSP値(23)に近づくので、結着樹脂の水性媒体への濡れ性が向上する。そのため分散剤を用いなくとも結着樹脂の水性媒体への分散性が向上し、後述の結着樹脂微粒子分散体を均一なものにできる。
結着樹脂の具体例としては、熱可塑性樹脂(スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、N−ビニル系樹脂、及びスチレン−ブタジエン系樹脂)が挙げられる。中でも、結着樹脂としては、トナー中の着色剤の分散性、トナーの帯電性、及び被記録媒体に対する定着性の向上のためには、スチレンアクリル系樹脂及び/又はポリエステル樹脂が好ましい。
スチレンアクリル系樹脂は、スチレン系単量体とアクリル系単量体との共重合体である。スチレン系単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、及びp−エチルスチレンが挙げられる。
アクリル系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸アルキルエステル((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)メタアクリル酸メチル、(メタ)メタアクリル酸エチル、(メタ)メタアクリル酸n−ブチル、及び(メタ)メタアクリル酸iso−ブチル);(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル((メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、及び(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシプロピル)が挙げられる。
スチレンアクリル系樹脂を調製する際に、水酸基を有する単量体(p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル等)を用いることで、スチレンアクリル系樹脂に水酸基を導入できる。水酸基を有する単量体の使用量を適宜調整することで、スチレンアクリル系樹脂の水酸基価を調整できる。
スチレンアクリル系樹脂を調製する際に、(メタ)アクリル酸を単量体として用いることで、スチレンアクリル系樹脂にカルボキシル基を導入できる。(メタ)アクリル酸の使用量を適宜調整することで、スチレンアクリル系樹脂の酸価を調整できる。
ポリエステル樹脂は、2価又は3価以上のアルコール成分と2価又は3価以上のカルボン酸成分とを縮重合や共縮重合することで得られる。
2価又は3価以上のアルコール成分としては、例えば、ジオール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコール);ビスフェノール類(ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、及びポリオキシプロピレン化ビスフェノールA);3価以上のアルコール類(ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、及び1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン)が挙げられる。
2価又は3価以上のカルボン酸成分としては、例えば、2価カルボン酸(マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、及びアルキル又はアルケニルコハク酸(例えば、n−ブチルコハク酸、n−ブテニルコハク酸、イソブチルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、及びイソドデセニルコハク酸))、3価以上のカルボン酸(1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、及びエンポール三量体酸)が挙げられる。これらのカルボン酸成分は、エステル形成性の誘導体(酸ハライド、酸無水物、又は低級アルキルエステル等)として用いてもよい。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数1から6のアルキル基を意味する。
ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価の調整は、ポリエステル樹脂を製造する際に、2価又は3価以上のアルコール成分の使用量と2価又は3価以上のカルボン酸成分の使用量とを、それぞれ適宜変更して行うことができる。また、ポリエステル樹脂の分子量を上げると、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は低下する傾向がある。
なお、カーボンニュートラルを達成するために、本実施形態のトナーはバイオマス由来の材料を含むことが好ましい。具体的には、トナーに含まれる炭素中のバイオマス由来の炭素の比率が25%以上90%以下であることが好ましい。このため、結着樹脂がポリエステル樹脂である場合、バイオマス由来のアルコール(1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、又はグリセリン等)から合成されたポリエステル樹脂を用いることが好ましい。バイオマスの種類は特に限定されず、植物性バイオマスであってもよいし、動物性バイオマスであってもよい。バイオマス由来の材料の中では、大量に入手しやすく安価であることから、植物性バイオマス由来の材料がより好ましい。
バイオマスからグリセリンを製造する方法としては、植物性油脂又は動物性油脂に対して酸や塩基を用いる化学的方法、又は酵素や微生物を用いる生物学的手法で加水分解する方法等が挙げられる。また、グリセリンは、グルコースのような糖類を含む基質から発酵法を用いて製造することもできる。上記のアルコール(例えば、1,2−プロパンジオール又は1,3−プロパンジオール)を製造するために、上記のグリセリンを原料として用い、周知の方法に従ってグリセリンを目的の物質に化学的に変換することができる。
結着樹脂がスチレンアクリル系樹脂である場合、この結着樹脂は、バイオマス由来のアクリル酸又はアクリル酸エステル等から合成された樹脂であることが好ましい。バイオマス由来のアクリル酸を調製するために、上記のグリセリンを脱水してアクロレインを得、このアクロレインを酸化することができる。また、バイオマス由来のアクリル酸エステルを調製するためには、上記のバイオマス由来のアクリル酸を周知の方法でエステル化することができる。アクリル酸エステルを製造する際に使用されるアルコールがメタノールやエタノールである場合、これらのアルコールもバイオマスから周知の方法で製造されたものであることが好ましい。
炭素の比率に関して以下に述べる。大気中に存在するCO2のうち、放射性炭素(14C)を含むCO2の濃度は大気中において一定に保たれている。一方、植物が大気中の14Cを含むCO2を光合成の過程において取り込むことで、植物自らの有機成分における炭素中の14Cの濃度は大気中における14Cを含むCO2の濃度と同じ比率となっている。その濃度は、具体的には107.5pMC(percent Modern Carbon)である。また、動物に含まれる炭素は植物に含まれる炭素に由来するため、動物の有機成分における炭素中の14Cの濃度も植物と同様の値となる。
ここで、下記式(1)に従って、トナー中の炭素のうちのバイオマス由来の炭素の比率を求めることができる。
バイオマス由来の炭素の比率(%)=(X/107.5)×100 (1)
なお、上記式中、X(pMC)は、トナー中に含まれる14Cの濃度である。
また、プラスチック製品として、含有される炭素中のバイオマス由来の炭素の割合が25%以上である製品は、カーボンニュートラルを達成するために特に好ましいプラスチック製品であり、バイオマスプラマーク(日本バイオプラスチック協会認証)が与えられる。そして、含有される炭素中のバイオマス由来の炭素の割合が25%以上であるトナーについて、14Cの濃度Xを上記式(1)から求めると、26.9pMC以上となる。従って、本実施形態においては、ポリエステル樹脂の調製に際し、トナーに含まれる炭素の放射性炭素同位体14Cの濃度を26.9pMC以上とすることが好ましい。なお、石油化学製品の炭素元素中における14Cの濃度は、ASTM−D6866に従って測定できる。
結着樹脂のガラス転移点Tgは、低温定着性を向上させるために、シェル層120に含まれる熱硬化性樹脂の硬化開始温度以下であることが好ましい。結着樹脂のガラス転移点Tgが上記範囲であることで、高速定着時においても十分な定着性が得られる。特に、結着樹脂のガラス転移点Tgは20℃以上であることが好ましく、30℃以上55℃以下がより好ましく、30℃以上50℃以下がさらに好ましい。結着樹脂のガラス転移点Tgが20℃以上であると、シェル層の形成時のコア粒子110の凝集を抑制することができる。なお、一般に、熱硬化性樹脂の硬化開始温度は55℃程度である。
結着樹脂のガラス転移点Tgは、示差走査熱量計(DSC)を用い、結着樹脂の比熱の変化点から求めることができる。例えば、測定装置として示差走査熱量計(例えば、セイコーインスツルメンツ社製「DSC−6200」)を用い、結着樹脂の吸熱曲線を測定することで、ガラス転移点Tgを求める。より具体的には、測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用し、測定温度範囲25〜200℃かつ昇温速度10℃/分の条件で結着樹脂の吸熱曲線を得、この吸熱曲線に基づいてガラス転移点Tgを求める方法が挙げられる。
結着樹脂の軟化点Tmは100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましい。軟化点Tmが100℃以下であることで、高速定着時においても十分な定着性を達成できる。結着樹脂の軟化点Tmを調整するには、例えば、異なる軟化点Tmを有する複数の結着樹脂を組み合わせればよい。
結着樹脂の軟化点Tmの測定には、高架式フローテスター(例えば、島津製作所社製「CFT−500D」)を用いることができる。具体的には、測定試料を高架式フローテスターにセットし、所定の条件(ダイス細孔経1mm、プランジャー荷重20kg/cm2、昇温速度6℃/分)で、1cm3の試料を溶融流出させてS字カーブ(つまり、温度(℃)/ストローク(mm)に関するS字カーブ)を得、このS字カーブから結着樹脂の軟化点Tmを読み取る。
図2を参照して、結着樹脂の軟化点Tmの読み取り方を説明する。図2において、ストロークの最大値をS1とし、S1の温度より低温側のベースラインのストローク値をS2とする。S字カーブ中のストロークの値が、(S1+S2)/2となる温度を測定試料の軟化点Tmとする。
結着樹脂がポリエステル樹脂である場合、ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、コア粒子110の強度及び定着性の向上のために、1200以上2000以下が好ましい。ポリエステル樹脂の分子量分布(数平均分子量Mnと質量平均分子量Mwとの比、質量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、上記と同様の理由から、9以上20以下が好ましい。
結着樹脂がスチレンアクリル系樹脂である場合、スチレンアクリル系樹脂の数平均分子量Mnは、コア粒子110の強度及び定着性の向上のために、2000以上3000以下が好ましい。スチレンアクリル系樹脂の分子量分布は、上記と同様の理由から、10以上20以下が好ましい。なお、結着樹脂の数平均分子量Mnと質量平均分子量Mwの測定には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いることができる。
着色剤としては、トナー粒子100の色に合わせて、公知の顔料や染料を用いることができる。黒色着色剤としては、カーボンブラックが挙げられる。また、後述のイエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤等の着色剤を用いて黒色に調色された着色剤も、黒色着色剤として利用できる。
トナー粒子100がカラートナーである場合、コア粒子110に配合される着色剤としては、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤等の着色剤が挙げられる。
イエロー着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリルアミド化合物等の着色剤が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、194)、ネフトールイエローS、ハンザイエローG、及びC.I.バットイエローが挙げられる。
マゼンタ着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物等の着色剤が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、及び254)が挙げられる。
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物、銅フタロシアニン誘導体、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物等の着色剤が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、及び66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、及びC.I.アシッドブルーが挙げられる。
着色剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上20質量部以下が好ましく、3質量部以上10質量部以下がより好ましい。
離型剤は、トナーの定着性及び耐オフセット性を向上させる目的で使用される。離型剤の例としては、脂肪族炭化水素系ワックス(低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、及びフィッシャートロプシュワックス)、脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物(酸化ポリエチレンワックス、及び酸化ポリエチレンワックスのブロック共重合体)、植物系ワックス(キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、及びライスワックス)、動物系ワックス(みつろう、ラノリン、及び鯨ろう)、鉱物系ワックス(オゾケライト、セレシン、及びベトロラクタム)、脂肪酸エステルを主成分とするワックス類(モンタン酸エステルワックス及びカスターワックス)、及び脂肪酸エステルを一部又は全部を脱酸化したワックス(脱酸カルナバワックス)が挙げられる。
離型剤の使用量は、定着性及び耐オフセット性の向上のために、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上30質量部以下が好ましく、5質量部以上20質量部以下がより好ましい。
電荷制御剤は、帯電レベルや帯電立ち上がり特性を向上させ、耐久性や安定性に優れたトナーを得る目的で使用される。帯電立ち上がり特性とは、所定の帯電レベルに短時間で帯電可能か否かの指標である。コア粒子110はアニオン性(負帯電性)であるので、負帯電性の電荷制御剤が使用される。
負帯電性の電荷制御剤の具体例としては、有機金属錯体及びキレート化合物等が挙げられる。具体的には、アセチルアセトン金属錯体(アルミニウムアセチルアセトナート、又は鉄(II)アセチルアセトナート)、並びにサリチル酸系金属錯体又はサリチル酸系金属塩(3,5−ジ−tert−ブチルサリチル酸クロム)が好ましく、サリチル酸系金属錯体又はサリチル酸系金属塩がより好ましい。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
負帯電性の電荷制御剤の使用量は、帯電立ち上がり特性、耐久性、安定性及びコストメリット等の向上のために、結着樹脂100質量部に対して0.5質量部以上20.0質量部以下が好ましく、1.0質量部以上15.0質量部以下がより好ましい。
コア粒子110は、必要に応じて磁性粉を含有してもよい。磁性粉を含むコア粒子110を用いて製造されたトナー粒子100を含むトナーは、磁性1成分現像剤として使用される。好適な磁性粉としては、鉄(フェライト及びマグネタイト)、強磁性金属(コバルト及びニッケル)、鉄及び/又は強磁性金属を含む合金、鉄及び/又は強磁性金属を含む化合物、熱処理等の強磁性化処理を施された強磁性合金、又は二酸化クロムが挙げられる。
磁性粉の粒子径は、0.1μm以上1.0μm以下が好ましく、0.1μm以上0.5μm以下がより好ましい。磁性粉の粒子径が上記の範囲である場合は、結着樹脂中に磁性粉を均一に分散させやすい。
磁性粉の使用量は、トナーを1成分現像剤として使用する場合、トナー全量100質量部に対して35質量部以上60質量部以下が好ましく、40質量部以上60質量部以下がより好ましい。また、トナーを2成分現像剤として使用する場合、磁性粉の使用量は、トナー全量100質量部に対して20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。
本実施形態において、コア粒子110がアニオン性であることの指標は、pHが4に調整された水性媒体中で測定されるゼータ電位が負極性であることである。良好なアニオン性を有するために、ゼータ電位は−10mV以下の値を示すことが好ましい。
ゼータ電位の測定方法としては、例えば、電気泳動法、超音波法、及びESA法が挙げられる。電気泳動法は、粒子分散液に電場を印加してこの分散液中の帯電粒子を電気泳動させ、電気泳動度を測定してゼータ電位を算出する方法である。電気泳動法として、レーザードップラー法が挙げられる。レーザードップラー法は、電気泳動している粒子にレーザー光を照射し、得られる散乱光のドップラーシフト量から電気泳動速度を求める方法である。レーザードップラー法は分散液中の粒子濃度を高濃度とする必要がなく、ゼータ電位の算出に必要なパラメーターの数が少なく、加えて電気泳動速度を感度よく検出できるという利点を有する。
超音波法は、粒子分散液に超音波を照射してこの分散液中の帯電粒子を振動させ、この振動によって生じる電位差を検出してゼータ電位を算出する方法である。ESA法は、粒子分散液に高周波電圧を印加してこの分散液中の帯電粒子を振動させて超音波を発生させ、その超音波の大きさ(強さ)を検出して、ゼータ電位を算出する方法である。超音波法及びESA法は、粒子濃度が過度に高い(例えば、20質量%を超える濃度)粒子分散液であっても、ゼータ電位を感度よく測定することができるという利点を有する。
また、コア粒子110がアニオン性であることの別の指標としては、標準キャリアとの摩擦帯電量が−10μC/g以下の値を示すことが挙げられる。摩擦帯電量は、正負のうちの何れの極性に帯電されるか、及び帯電されやすさの指標となる。なお、コア粒子110と標準キャリアとの摩擦帯電量の求め方については後述する。
シェル層120を構成する樹脂について以下に述べる。シェル層120を構成する樹脂は、強度及び硬度を向上させシェル層に十分なカチオン性を有するために、熱硬化性樹脂を含む樹脂から構成される。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、熱硬化性樹脂は、例えば、メラミン等のモノマーにホルムアルデヒドに由来するメチレン基(−CH2−)が導入された単位を有する。
熱硬化性樹脂としては、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、スルホアミド樹脂、尿素樹脂、グリオキザール樹脂、アニリン樹脂、又はポリイミド樹脂等が挙げられる。中でも、熱硬化性樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びグリオキザール樹脂からなるアミノ樹脂群より選択される1種以上の樹脂が好ましい。
メラミン樹脂はメラミンとホルムアルデヒドとの重縮合物であり、メラミン樹脂の形成に使用されるモノマーはメラミンである。尿素樹脂は尿素とホルムアルデヒドとの重縮合物であり、尿素樹脂の形成に使用されるモノマーは尿素である。グリオキザール樹脂はグリオキザールと尿素との反応物及びホルムアルデヒドの重縮合物であり、グリオキザール樹脂の形成に使用されるモノマーはグリオキザールと尿素との反応物である。メラミン及び尿素は、周知の変性を受けていてもよい。なお、シェル層120を構成する樹脂に熱可塑性樹脂が含まれる場合、この熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂との反応前にホルムアルデヒドによりメチロール化された誘導体を含有してもよい。
シェル層120は、メラミン又は尿素等に由来する窒素原子を含むことが好ましい。窒素原子を含む材質は正帯電されやすくトナー粒子100を所望する帯電量に正帯電させやすい点から、シェル層120中の窒素原子の含有量は10質量%以上が好ましい。
シェル層120には、熱可塑性樹脂が含有されていてもよい。そして熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂のモノマーで架橋されていてもよい。このような構成であると、シェル層120は熱可塑性樹脂に起因して適度な柔軟性を有すると共に、熱硬化性樹脂のモノマーが形成する三次元の架橋構造に起因して適度な機械的強度を有する。そのため、シェル層120は高温下における保管時や輸送時に容易に破壊されない一方で、定着時に温度及び圧力が付与されると容易に破壊される。そして、コア粒子110に含まれる結着樹脂等の軟化又は溶融が速やかに進行し、低温域(従来より低い温度)でトナーを被記録媒体に良好に定着できる。つまり、耐熱保存性及び低温定着性に優れるトナーとなる。
シェル層120に熱可塑性樹脂が含有される場合、このような熱可塑性樹脂は、上述の熱硬化性樹脂が有するメチロール基又はアミノ基等の官能基との反応性を有する官能基を有することが好ましい。熱硬化性樹脂が有する官能基との反応性を有する官能基としては、例えば、活性水素原子を含む官能基(水酸基、カルボキシル基、及びアミノ基)が挙げられる。アミノ基は、カルバモイル基(−CONH2)として熱可塑性樹脂中に含まれてもよい。シェル層120の形成が容易であるため、熱可塑性樹脂は、(メタ)アクリルアミドに由来する単位を含む樹脂、若しくはカルボジイミド基、オキサゾリン基、又はグリシジル基のような官能基を有するモノマーに由来する単位を含む樹脂であることが好ましい。
シェル層120の形成に使用され得る熱可塑性樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体樹脂、シリコーン−(メタ)アクリルグラフト共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール、及びエチレンビニルアルコール共重合体が挙げられる。これらの樹脂は、カルボジイミド基、オキサゾリン基、及びグリシジル基のような官能基を有するモノマーに由来する単位を含んでいてもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体樹脂、及びシリコーン−(メタ)アクリルグラフト共重合体が好ましく、(メタ)アクリル系樹脂がより好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂の調製に用いることができる(メタ)アクリル系のモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸アルキルエステル((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、及び(メタ)アクリル酸n−ブチル);(メタ)アクリル酸アリールエステル((メタ)アクリル酸フェニル);(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル((メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、及び(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル)、(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリル酸のエチレンオキシド付加物;(メタ)アクリル酸エステルのエチレンオキシド付加物のアルキルエーテル(メチルエーテル、エチルエーテル、n−プロピルエーテル、及びn−ブチルエーテル)が挙げられる。
シェル層120の形成は水性媒体中で行われることが好ましい。その理由は、結着樹脂の溶解及び任意成分である離型剤の溶出が生じにくいからである。このためシェル層120に熱可塑性樹脂を用いる場合は、この熱可塑性樹脂は水溶性であることが好ましい。
シェル層120に熱可塑性樹脂を用いる場合、耐熱保存性及び低温定着性を向上させるために、シェル層120中の熱硬化性樹脂の含有量(Ws)の熱可塑性樹脂の含有量(Wp)に対する比(Ws/Wp)は3/7以上8/2以下が好ましく、4/6以上7/3以下がより好ましい。
シェル層120の厚さは1nm以上20nm以下が好ましく、1nm以上10nm以下がより好ましい。シェル層120の厚さが20nm以下であると、トナーを被記録媒体へ定着させる際に、加熱及び加圧等によりシェル層120が容易に破壊される。その結果、コア粒子110に含まれる結着樹脂等の軟化又は溶融が速やかに進行し、低温域でトナーを被記録媒体に定着できる。さらに、シェル層120の帯電性が高くなり過ぎないため画像形成が適正に行われる。一方、シェル層120の厚さが1nm以上であると、十分な強度を有するものとなり輸送時の衝撃等によってシェル層120が破壊されることを抑制することができる。ここで、シェル層120の少なくとも一部が破壊されたトナー粒子100においては、高温条件下でシェル層120が破壊された箇所を通じて離型剤等の成分がトナー粒子100の表面に染み出しやすくなるため、高温でトナーを保存する場合においてトナー粒子100が凝集しやすくなる。さらに、シェル層120の厚さが1nm以上であると帯電性が低くなりすぎないため画像欠陥の発生を抑制することができる。
シェル層120の厚さは、市販の画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事社製「WinROOF」)を用い、トナー粒子100の断面のTEM撮影像を解析することによって計測できる。具体的には、トナー粒子100の断面の略中心で直交する2本の直線を引き、この2本の直線上のシェル層120と交差する4箇所の長さを測定する。そして、測定される4箇所の長さの平均値を測定対象の1個のトナー粒子100が備えるシェル層120の厚さとする。本明細書においては、シェル層120の厚さの測定を10個以上のトナー粒子100に対して行い、それぞれのシェル層120の膜厚の平均値をシェル層120の膜厚とする。
なお、シェル層120が薄すぎる場合は、TEM画像上でのシェル層120とコア粒子110との界面が不明瞭であるため、シェル層120の厚さの測定が困難となる場合がある。このような場合は、TEM撮影とエネルギー分散X線分光分析(EDX)とを組み合わせてシェル層120とコア粒子110との界面を明確にし、シェル層120の厚さを測定することができる。具体的には、TEM画像中で、EDXを用いて窒素等のシェル層120の材質に特徴的な元素のマッピングを行うことができる。
シェル層120は電荷制御剤を含有してもよい。シェル層120はカチオン性(正帯電性)であるので、正帯電性の電荷制御剤を含有することができる。正帯電性の電荷制御剤の具体例としては、アジン化合物(ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オルトオキサジン、メタオキサジン、パラオキサジン、オルトチアジン、メタチアジン、パラチアジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−オキサジアジン、1,3,4−オキサジアジン、1,2,6−オキサジアジン、1,3,4−チアジアジン、1,3,5−チアジアジン、1,2,3,4−テトラジン、1,2,4,5−テトラジン、1,2,3,5−テトラジン、1,2,4,6−オキサトリアジン、1,3,4,5−オキサトリアジン、フタラジン、キナゾリン、及びキノキサリン)、アジン化合物からなる直接染料(アジンファストレッドFC、アジンファストレッド12BK、アジンバイオレットBO、アジンブラウン3G、アジンライトブラウンGR、アジンダークグリ−ンBH/C、アジンディ−プブラックEW、及びアジンディープブラック3RL)、ニグロシン化合物(ニグロシン、ニグロシン塩、及びニグロシン誘導体)、ニグロシン化合物からなる酸性染料(ニグロシンBK、ニグロシンNB、及びニグロシンZ)、ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩類、アルコキシル化アミン、アルキルアミド、及び4級アンモニウム塩(ベンジルメチルヘキシルデシルアンモニウム、及びデシルトリメチルアンモニウムクロライド)、官能基としての4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、又はカルボキシル基を有する樹脂が挙げられる。これらの中では、迅速な立ち上がり性が得られる点で、ニグロシン化合物が好ましい。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
正帯電性の電荷制御剤の使用量は、帯電立ち上がり特性、耐久性、安定性及びコストメリット等を向上させるために、シェル層120を形成する樹脂100質量部に対して0.5質量部以上20.0質量部以下が好ましく、1.0質量部以上15.0質量部以下がより好ましい。
トナー粒子100について、水性媒体中で測定されるゼータ電位がゼロとなる時のpHは4.5以上7.0以下である。特に、ゼータ電位がゼロとなるpHは5.0以上6.5以下であることが好ましい。上記のpHが4.5以上である場合はシェル層120が十分かつ均一な膜厚を有するものとなるため、高温にて保存した場合であっても効果的にブロッキングを抑制することができる。つまり、耐熱保存性に優れるトナーとなる。一方、上記のpHが7.0以下である場合は、シェル層120が厚くなり過ぎないため、定着時の加熱加圧等によりシェル層120を容易に破壊することができる。つまり良好な低温定着性を達成することができる。なお、本明細書においては、水性媒体中で測定されるゼータ電位がゼロとなる時を「等電点」ともいう。
トナー粒子100の体積平均粒子径は、定着性及び取扱性を向上させるために、4.0μm以上10.0μm以下であることが好ましい。また、トナー粒子100の数平均粒子径は、3.0μm以上9.0μm以下であることが好ましい。
なお、トナー粒子100は、コア粒子110の表面に複数のシェル層120が形成された構成を有していてもよい。この場合は、コア粒子110の最外に形成されたシェル層120がカチオン性であればよい。
図3は、他の実施形態に係るトナー粒子を示す。トナー粒子200は、コア粒子110と、シェル層120と、外添剤230とを含む。図3に示すように、トナー粒子200においては、流動性及び取扱性を向上させるために、その表面に外添剤230が付着されている。外添剤230としては、シリカ及び金属酸化物(アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、及びチタン酸バリウム)の粒子が挙げられる。外添剤230の粒子径は、流動性及び取扱性の向上のためには、0.01μm以上1.0μm以下が好ましい。なお、本明細書においては、外添剤230により処理される前のトナー粒子200を「トナー母粒子」と記載する場合がある。
外添剤230の使用量は、流動性及び取扱性の向上のために、トナー母粒子100質量部に対して1質量部以上10質量部以下が好ましく、2質量部以上5質量部以下がより好ましい。
トナーは、所望のキャリアと混合して2成分現像剤として使用できる。キャリアは磁性キャリアが好ましい。キャリアの例としては、キャリア芯材が樹脂で被覆されたものが挙げられる。キャリア芯材の具体例としては、鉄、酸化処理鉄、還元鉄、マグネタイト、銅、ケイ素鋼、フェライト、ニッケル、及びコバルトのような粒子、並びにこれらの材料とマンガン、亜鉛、及びアルミニウムのような金属との合金の粒子;鉄−ニッケル合金、及び鉄−コバルト合金のような粒子;酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸リチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、及びニオブ酸リチウムのようなセラミックスの粒子;リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、及びロッシェル塩のような高誘電率物質の粒子が挙げられる。さらにキャリア芯材としては、樹脂中に上記磁性粒子を分散させた樹脂キャリア等が用いられてもよい。
キャリア芯材を被覆する樹脂の例としては、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体、オレフィン系重合体(ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、及びポリプロピレン)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、及びポリフッ化ビニリデン)、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、及びアミノ樹脂が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
キャリアの粒子径は、磁性及び流動性の向上のためには、20μm以上120μm以下が好ましく、25μm以上80μm以下がより好ましい。キャリアの粒子径は電子顕微鏡で測定することができる。
トナーを2成分現像剤として用いる場合、トナーの含有量は、磁性及び定着性の向上のために、2成分現像剤の質量に対して3質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上15質量%以下が好ましい。
本実施形態の静電潜像現像用トナーの製造方法を以下に説明する。本実施形態の静電潜像現像用トナーの製造方法は、結着樹脂を含むコア粒子110を調製する工程(コア粒子調製工程)と、このコア粒子110をシェル層120で被覆する工程(シェル層形成工程)とを含む。コア粒子調製工程及びシェル層形成工程を経ることにより、コア粒子110をシェル層120で被覆してトナー粒子100を得、このトナー粒子100を含むようなトナーを製造することができる。
ここで、コア粒子110は、pHが4に調整された水性媒体中で測定されるゼータ電位が負極性であるように設計されることが好ましい。通常、コア粒子110の表面に均一なシェル層120を形成する場合は、分散剤によりこのコア粒子110を水性媒体中で高度に分散させておく必要がある。しかし、コア粒子110がこのようなゼータ電位を示す程度のアニオン性を有すると、水性媒体中で負に帯電するコア粒子110と水性媒体中で正に帯電する熱硬化性樹脂とが水性媒体中で相互に電気的に引き寄せられる。そして、水性媒体中で負帯電するコア粒子110の表面にシェル層120を形成する。したがって、分散剤を用いてコア粒子110を水性媒体中に高度に分散させずとも、コア粒子110の表面に均一なシェル層120を形成できる。
一般に、分散剤は排水負荷が非常に高いものである。しかし、分散剤を用いないことによって、トナー粒子100を製造する際に排出される排水を希釈することなく、この排水の全有機炭素濃度を15mg/L以下の低いレベルとすることが可能となる。
コア粒子調製工程を実行するには、結着樹脂中に、必要に応じて結着樹脂以外の成分(着色剤、電荷制御剤、離型剤、又は磁性粉等)を良好に分散させることができる方法を用いればよい。このような方法としては、具体的には、凝集法及び溶融混練法が挙げられる。
溶融混練法を用いたコア粒子調製工程を以下に説明する。溶融混練法を用いたコア粒子調製工程は、混合工程、溶融混練工程、粉砕工程、及び分級工程を実施することによって実行される。混合工程では、結着樹脂と必要に応じて結着樹脂以外の成分とを混合し、混合物を得る。溶融混練工程では、得られた混合物を溶融混練し、溶融混練物を得る。粉砕工程では、得られた溶融混練物を適宜に冷却固化等した後、公知の手法で粉砕して粉砕物を得る。分級工程では、得られた粉砕物を公知の手法で分級し、所望の粒子径のコア粒子110を得る。
溶融混練法は、後述の凝集法と比較して容易にコア粒子110を調製することができる。一方で、溶融混練法は粉砕工程を経てコア粒子110を得るため、球形度の高いコア粒子110を得にくい。しかし、後述するシェル層形成工程では、シェル層120の硬化反応が進行する際にコア粒子110が表面張力によって収縮することで、やや軟化したコア粒子110が球形化される場合があるため、コア粒子110の球形度が幾分低くなる溶融混練法を用いても大きなデメリットとはならない。
凝集法を用いたコア粒子調製工程を以下に説明する。凝集法を用いたコア粒子調製工程は、凝集工程及び合一化工程を実施することによって、実行される。凝集法でコア粒子110を調製すると、形状が均一で粒子径の揃ったコア粒子110を得やすいという利点がある。
凝集工程では、コア粒子110を構成する成分を含む微粒子を水性媒体中で凝集させて凝集粒子を形成させる。そして、合一化工程では、凝集工程にて得られた凝集粒子に含まれる成分を水性媒体中で合一化させてコア粒子110を形成させる。
凝集工程においては、まずコア粒子110を構成する成分を含む微粒子を準備する。コア粒子110を構成する成分を含む微粒子は、結着樹脂及び必要に応じて結着樹脂以外の成分(着色剤、離型剤、又は電荷制御剤等)を含む樹脂組成物の微粒子であってもよい。
通常、コア粒子110を構成する成分を含む微粒子は、水性媒体中で結着樹脂又は結着樹脂を含む組成物を所望のサイズに微粒子化することで、結着剤樹脂を含有する微粒子(結着樹脂微粒子)を含む水性分散液(結着樹脂微粒子分散液)として調製される。結着樹脂微粒子分散液は、結着樹脂以外の成分の微粒子の水性分散液(例えば、着色剤微粒子分散液又は離型剤微粒子分散液)を含んでいてもよい。凝集工程では、このような結着樹脂微粒子分散液中で微粒子を凝集させて凝集粒子を得る。
以下、結着樹脂微粒子分散液の調製方法(調製方法1)、離型剤微粒子分散液の調製方法(調製方法2)、及び着色剤微粒子分散液の調製方法(調製方法3)について順に説明する。結着樹脂、着色剤、及び離型剤以外の成分を含む微粒子を調製するには、調製方法1〜3における操作を適宜選択すればよい。
調製方法1においては、まず、ターボミル等の粉砕装置を用い結着樹脂を粗粉砕する。そして、この粗粉砕品をイオン交換水のような水性媒体に分散し、この分散状態で加熱した後、高速剪断乳化装置(例えば、クレアミックス(エム・テクニック社製))等で強い剪断力を与えることで結着樹脂微粒子分散液が得られる。なお、加熱温度は、結着樹脂の軟化点Tmより10℃以上高い温度(最高でも200℃程度までの温度)が好ましい。
結着樹脂微粒子の体積平均粒子径は1μm以下が好ましく、0.05μm以上0.5μm以下がより好ましい。結着樹脂微粒子の体積平均粒子径がこのような範囲である場合は粒度分布がシャープであり形状が均一なコア粒子110を調製しやすい。体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所社製「SALD−2200」)等を用いて測定できる。
微粒子を含む分散液には界面活性剤が含有されていてもよい。界面活性剤を用いると、結着樹脂を含む微粒子が水性媒体中で安定して分散する。
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤の例としては、硫酸エステル塩型界面活性剤、スルホン酸塩型界面活性剤、リン酸エステル塩型界面活性剤、及び石鹸が挙げられる。カチオン系界面活性剤の例としては、アミン塩型界面活性剤、及び4級アンモニウム塩型界面活性剤が挙げられる。ノニオン系界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコール型界面活性剤、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物型界面活性剤、及び多価アルコール型界面活性剤(グリセリン、ソルビトール、及びソルビタンのような多価アルコールの誘導体)が挙げられる。これらの中でも、アニオン系界面活性剤が好ましい。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
界面活性剤の使用量は、微粒子の分散性を向上させるために、結着樹脂の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下が好ましい。
結着樹脂として酸性基を有する樹脂を用いる場合は、結着樹脂をそのまま水性媒体中で微粒子化させると結着樹脂の比表面積が増大する。そのため、結着樹脂を含む微粒子表面に露出した酸性基の影響で、水性媒体のpHが3〜4程度まで低下する場合がある。水性媒体のpHが3〜4程度まで低下すると、結着樹脂の加水分解が生じたり、得られる微粒子の粒子径を所望の粒子径まで微粒子化しにくかったりする場合がある。
このような問題を抑制するために、調製方法1においては、水性媒体中に塩基性物質を加えてもよい。塩基性物質は上記問題を抑制できるものであればよく、その具体例としては、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウム)、アルカリ金属炭酸塩(炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウム)、アルカリ金属炭酸水素塩(炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カリウム)、及び含窒素有機塩基(N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、イソプロピルアミン、モノメタノールアミン、モルホリン、メトキシプロピルアミン、ピリジン、及びビニルピリジン)が挙げられる。
調製方法2においては、まず、離型剤を予め100μm以下程度に粉砕し、離型剤の粉体を得る。そして、この離型剤の粉体を水性媒体中に添加し、スラリーを調製する。なお、水性媒体には予め界面活性剤が含有されている。界面活性剤の使用量は、微粒子の分散性を向上させるために、離型剤の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下が好ましい。
次いで、得られるスラリーを離型剤の融点以上の温度に加熱する。加熱されたスラリーに対して、ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT50」)、又は圧力吐出型分散機等を用いて強い剪断力を付与し、離型剤微粒子を含む水性分散液(離型剤微粒子分散液)を調製する。分散液に強い剪断力を与える装置としては、NANO3000(美粒社製)、ナノマイザー(吉田機械興業社製)、マイクロフルダイザー(MFI社製)、ゴーリンホモジナイザー(マントンゴーリン社製)、及びクレアミックスWモーション(エム・テクニック社製)のような装置が挙げられる。
離型剤微粒子分散液に含まれる離型剤微粒子の体積平均粒子径は、1μm以下が好ましく、0.1μm以上0.7μm以下がより好ましく、0.28μm以上0.55μm以下が特に好ましい。このような範囲の体積平均粒子径を有する離型剤微粒子を用いると、離型剤が結着樹脂中に均一に分散しやすい。なお、離型剤微粒子の体積平均粒子径は、結着樹脂微粒子の体積平均粒子径と同様の方法で測定できる。
調製方法3においては、まず、界面活性剤を含む水性媒体中で、公知の分散機を用いて着色剤と必要に応じて着色剤の分散剤のような成分とを分散処理する。これにより、着色剤の微粒子を含む水性分散液(着色剤微粒子分散液)を調製する。界面活性剤としては、上述の結着樹脂を含む微粒子の調製に用いた界面活性剤を用いることができる。界面活性剤の使用量は、微粒子の分散性を向上させるために、着色剤100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。
分散処理に使用する分散機としては、加圧式分散機及び媒体型分散機が挙げられる。加圧式分散機としては、超音波分散機、機械式ホモジナイザー、マントンゴーリン、圧力式ホモジナイザー、及び高圧式ホモジナイザー(吉田機械興業社製)等が挙げられる。媒体型分散機としては、サンドグラインダー、横型及び縦型ビーズミル、ウルトラアペックスミル(寿工業株社製)、ダイノーミル(WAB社製)、及びMSCミル(日本コークス工業社製)等が挙げられる。
着色剤微粒子の体積平均粒子径は0.01μm以上0.2μm以下が好ましい。着色剤微粒子の体積平均粒子径は、結着樹脂微粒子の体積平均粒子径と同様の方法で測定できる。
そして、コア粒子110に所定の成分が含まれるように、調製された結着樹脂微粒子分散液に、必要に応じて離型剤微粒子分散液及び/または着色剤微粒子分散液を、適宜組み合わせて混合する。次いで、混合分散液中でこれらの微粒子を凝集させることで、結着樹脂を含む凝集粒子を含む水性分散液が得られる。
凝集工程において、微粒子を凝集させる好適な方法は、例えば以下のようなものである。つまり、結着樹脂微粒子を含む水性分散液のpHを調整した後、水性分散液に凝集剤を添加し、次いで水性分散液の温度を所定の温度に調整して微粒子を凝集させる方法である。
凝集剤としては、無機金属塩、無機アンモニウム塩、及び2価以上の金属錯体等が挙げられる。無機金属塩としては、例えば、金属塩(硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム)、及び無機金属塩重合体(ポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム)が挙げられる。無機アンモニウム塩としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、及び硝酸アンモニウムが挙げられる。また、4級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤及び含窒素化合物(例えば、ポリエチレンイミン)等も凝集剤として使用できる。
凝集剤としては、2価の金属の塩及び1価の金属の塩が好ましく用いられる。凝集剤は単独で又は2種以上を組み合わせて用いられるが、2種以上の凝集剤を組み合わせて用いる場合は、2価の金属の塩と1価の金属の塩とを併用することが好ましい。なぜなら、2価の金属の塩と1価の金属の塩とでは微粒子を凝集させる速度が異なるため、これらを併用することで、得られる凝集粒子の粒子径の増大化を制御しつつ凝集粒子の粒度分布をシャープなものとしやすいからである。
凝集工程において、凝集剤を添加する際の水性分散液のpHは8以上に調整されることが好ましい。凝集剤は一時に添加してもよいし、逐次的に添加してもよい。
凝集剤の添加量は、良好に凝集を進行させるために、水性分散液の固形分100質量部に対して1質量部以上50質量部以下が好ましい。凝集剤の添加量は、微粒子分散液中に含まれる分散剤の種類及び量に応じて適宜調整することができる。
凝集工程において、微粒子を凝集させる際の水性分散液の温度は、結着樹脂のガラス転移点Tg以上(結着樹脂のガラス転移点Tg+10)℃未満の温度が好ましい。水性分散液をこのような範囲の温度とすることで、水性分散液に含まれる微粒子の凝集を良好に進行させることができる。
凝集粒子が所望の粒子径となるまで凝集が進行した後に、凝集停止剤を添加してもよい。凝集停止剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化マグネシウム等が挙げられる。このような凝集工程において、凝集粒子を含む水性分散液を得ることが出来る。
次いで、合一化工程では、凝集工程にて得られた凝集粒子に含まれる成分を水性媒体中で合一化させて、コア粒子110を形成させる。凝集粒子に含まれる成分を合一化するには、上記の凝集工程にて得られる凝集粒子を含む水性分散液を加熱すればよい。これによりコア粒子110を含む水性分散液を得ることができる。
合一化工程において、凝集粒子を含む水性分散液の加熱温度は、(結着樹脂のガラス転移点Tg+10)℃以上結着樹脂の融点以下の温度であることが好ましい。水性分散液の加熱温度を上述の範囲内とすることで、凝集粒子に含まれる成分の合一化を良好に進行させることができる。
合一化工程を経たコア粒子110を含む水性分散液を、必要に応じて、下記の洗浄工程と乾燥工程とに付することができる。
洗浄工程では、上記の方法で得られたコア粒子110を、例えば水で洗浄する。洗浄方法としては、例えば、コア粒子110を含む水性分散液から、固液分離を用いてコア粒子110をウエットケーキとして回収し、得られたウエットケーキを水で洗浄する方法;コア粒子を含む水性分散液中のコア粒子を沈降させ、上澄み液を水と置換し、置換後にコア粒子を水に再分散させる方法;が挙げられる。
乾燥工程においては、例えば、乾燥機(スプレードライヤー、流動層乾燥機、真空凍結乾燥器、又は減圧乾燥機)を用いて、洗浄工程を経たコア粒子を乾燥する。
以上、コア粒子調製工程を詳細に説明した。次いで、以下に、シェル層形成工程を説明する。シェル層形成工程では、上記のようにして調製されたコア粒子110の表面に、シェル層120を形成することで、コア粒子110がシェル層120で被覆されたトナー粒子100を製造する。
シェル層120は、例えば、メラミン、尿素、及びグリオキザールと尿素との反応物、並びにこれらとホルムアルデヒドとの付加反応によって生成される前駆体(メチロール化物)を、必要に応じて熱可塑性樹脂等に由来するモノマーを併用し反応させて形成される。また、シェル層120の形成は水のような溶媒中で行われるのが好ましい。水のような溶媒を使用することで、この溶媒に対する結着樹脂の溶解及びコア粒子110に含まれる離型剤等の成分の溶出を抑制できる。
シェル層形成工程において、シェル層120の形成は、コア粒子110を含む水性分散液にシェル層120を形成するための材料を添加し、この材料を分散させて行われることが好ましい。水性分散液中にコア粒子110を良好に分散させる方法としては、分散液を強力に撹拌できる装置を用いて機械的に分散させる方法;分散剤を含有する水性媒体中で分散させる方法;等が挙げられる。分散剤を用いる方法を用いた場合は、水性媒体中にコア粒子110が均一に分散されるため、均一なシェル層120を形成しやすい。
上記の分散液を強力に撹拌できる装置としては、ハイビスミックス(プライミックス社製)等が挙げられる。
コア粒子110を水性媒体中に分散させる分散剤としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリパラビニルフェノール、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、イソプレンスルホン酸、ポリエーテル、イソブチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアスパラギン酸ナトリウム、デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、及びリグニンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
分散剤の使用量は、100質量部のコア粒子110に対して75質量部以下が好ましい。分散剤の使用量が75質量部以下である場合は、排水中の全有機炭素量を低減させることができる。
また、上述のように、シェル層120を形成する際に分散剤を用いる場合は、コア粒子110がシェル層120に均一に被覆されやすい。その一方で、コア粒子110の表面に分散剤が付着するため、コア粒子110とシェル層120との界面に分散剤が存在する状態でシェル層120が形成される。そうすると、上記の界面に存在する分散剤の影響でシェル層120のコア粒子110への付着力が弱くなるため、トナーに加わる機械的ストレス等により、コア粒子110からシェル層120が剥がれやすくなる。ここで、分散剤の使用量が75質量部以下とすることにより、コア粒子110からのシェル層120の剥離を抑制することができる。
シェル層形成工程において、コア粒子110を含む水性分散液のpHは4程度に調整されるのが好ましい。分散液のpHを4程度の酸性側に調整することで、シェル層120の形成に用いられる材料の重縮合反応が促進される。コア粒子110を含む水性分散液のpHの調整は、シェル層120の形成前に行われるのが好ましい。
必要に応じてコア粒子110を含む水性分散液のpHを調整した後、コア粒子110を含む水性分散液に、シェル層120を形成させるための材料を溶解させる。その後、水性分散液中でシェル層120を形成させるための材料間の反応を進行させ、コア粒子110の表面を被覆するシェル層120を形成する。
シェル層形成工程を実施する際の温度は40℃以上95℃以下が好ましく、50℃以上80℃以下がより好ましい。シェル層形成工程における温度が上記範囲内である場合は、シェル層120の形成が良好に進行する。
なお、結着樹脂が水酸基やカルボキシル基を有する樹脂(例えば、ポリエステル樹脂)を含む場合は、上記範囲内の温度下でシェル層120を形成すると、コア粒子110の表面に露出する水酸基又はカルボキシル基と、熱硬化性樹脂が有するメチロール基とが反応する。この反応によりコア粒子110を構成する結着樹脂とシェル層120を構成する樹脂との間に共有結合が形成されるため、コア粒子110にシェル層120を強固に付着させることができる。
シェル層形成工程においてシェル層120を形成した後、シェル層120で被覆されたコア粒子を含む水性分散液を常温まで冷却し、トナー粒子100(トナー母粒子)の分散液を得ることができる。その後、必要に応じて、洗浄工程、乾燥工程、及び外添工程から選択される1以上の工程を経て、トナー粒子100の分散液からトナー粒子100を回収する。このトナー粒子100を静電潜像現像用トナーとしてもよいし、このトナー粒子100にその他の成分を配合することにより、静電潜像現像用トナーとしてもよい。
洗浄工程においては、水を用いてトナー粒子100(トナー母粒子)を洗浄する。好適な洗浄方法としては、固液分離により、トナー粒子100を含む水性分散液から、トナー粒子100をウエットケーキとして回収し、得られるウエットケーキを水で洗浄する方法;トナー粒子100を含む分散液中のトナー粒子100を沈降させ、上澄み液を水と置換し、置換後にトナー粒子100(トナー母粒子)を水に再分散させる方法;等が挙げられる。
乾燥工程においては、例えば乾燥機(スプレードライヤー、流動層乾燥機、真空凍結乾燥器、及び減圧乾燥機)で、回収後又は洗浄後のトナー粒子(トナー母粒子)を乾燥する。乾燥中のトナー粒子の凝集を抑制しやすいため、スプレードライヤーを用いることが好ましい。スプレードライヤーを用いる場合は、トナー母粒子の分散液と共に外添剤(例えば、シリカ微粒子)の分散液を噴霧することができ、後述の外添工程を同時に行うことができる。
外添工程においては、トナー粒子100(トナー母粒子)の表面に外添剤を付着させる。外添剤を付着させる好適な方法としては、外添剤がトナー母粒子表面に埋没しないように条件を調整して、混合機(例えば、ヘンシェルミキサー又はナウターミキサー)を用い、トナー母粒子と外添剤とを混合する方法が挙げられる。
図1〜3を参照して説明したように、本実施形態の静電潜像現像用トナーは、耐熱保存性及び低温定着性のいずれにも優れる。このため、この静電潜像現像用トナーは、電子写真法、静電記録法、又は静電印刷法等が適用される画像形成装置において好適に使用できる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例の範囲に何ら限定されるものではない。
(調製例1)
溶融混練法によるコア粒子Aの調製
まず、以下のようにしてポリエステル樹脂aを得た。すなわち、テレフタル酸1245g、イソフタル酸1245g、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物1248g、及びエチレングリコール744gを5Lの4つ口フラスコに仕込んだ。次いで、フラスコ内を窒素雰囲気とし、撹拌しながらフラスコ内部の温度を250℃まで上昇させ、常圧かつ250℃で4時間反応を行った後、三酸化アンチモン0.875g、トリフェニルホスフェート0.548g、及びテトラブチルチタネート0.102gをフラスコ内に添加した。その後、フラスコ内を0.3mmHgに減圧して、フラスコ内部の温度を280℃まで上昇させ、280℃で6時間反応を行い、数平均分子量13,000のポリエステル樹脂を得た。その後、架橋剤としてのトリメリット酸30.0gをフラスコ内に添加し、フラスコ内部の圧力を常圧に戻し、フラスコ内部の温度を270℃まで降下させ、常圧かつ270℃で1時間反応を行った。反応終了後フラスコの内容物を取り出し、冷却してポリエステル樹脂aを得た。このポリエステル樹脂aの物性は、数平均分子量Mnが1,295、質量平均分子量Mwが14,500、質量平均分子量Mw/数平均分子量Mnが11.2、水酸基価が20mgKOH/g、酸価が40mgKOH/g、軟化点Tmが100℃、及びガラス転移点Tgが48℃であった。
ポリエステル樹脂a100質量部、着色剤(C.I.ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン))5質量部、及び離型剤(エステルワックス、日油社製「WEP−3」)5質量部を混合機(ヘンシェルミキサー)で混合した(混合工程)。得られた混合物を2軸押出機(池貝社製「PCM−30」)で溶融混練した(溶融混練工程)。得られた混練物を機械式粉砕機(ターボ工業社製「ターボミル」)で粉砕し(粉砕工程)、次いで分級機(日鉄鉱業社製「エルボージェット」)で分級し(分級工程)、体積平均粒子径が6.0μm、数平均粒子径が5.0μm、円形度が0.93のコア粒子Aを得た。
コア粒子Aについて、標準キャリアとの摩擦帯電量は−20μC/gであり、pH4の分散液中のゼータ電位は−15mVであった。つまり、コア粒子Aは明らかなアニオン性を示していた。また、コア粒子Aの軟化点Tmは90℃、及びガラス転移点Tgは49℃であった。
(調製例2)
凝集法によるコア粒子Bの調製
まず、結着樹脂微粒子分散液aを調製した。結着樹脂として以下の単量体組成からなるポリエステル樹脂bを用いた。
単量体組成:ポリオキシプロピレン(2,2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン/ポリオキシエチレン(2,0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン/フマル酸/トリメリット酸=25/25/46/4(モル比率)
ポリエステル樹脂bの物性は、数平均分子量Mnが2,500、質量平均分子量Mwが6,500、質量平均分子量Mw/数平均分子量Mnが2.6、軟化点Tmが91℃、ガラス転移点Tgが51℃、酸価が15.5mgKOH/g、及び水酸基価が45.5mgKOH/gであった。
ターボミルT250(ターボ工業社製)で粗粉砕されたポリエステル樹脂bの粗粉砕物(平均粒子径約10μm)100g、アニオン系界面活性剤(花王社製「エマールE−27C」、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)2g、及び0.1N−水酸化ナトリウム水溶液(塩基性物質)50gを混合し、さらに水性媒体としてイオン交換水を加えて全量500gのスラリーを調製した。
得られたスラリーを耐圧丸底ステンレス容器に投入した。次いで、高速剪断乳化装置クレアミックス(エム・テクニック社製「CLM−2.2S」)を用い、スラリーを145℃かつ圧力0.5MPa(G)に加熱加圧した状態で、ローター回転数20,000rpmで30分間剪断分散を行った。剪断分散の後、5℃/分の速度でスラリーを冷却しながら、ステンレス容器内温が50℃になるまでローター回転数15,000rpmでスラリーを撹拌し続けた。その後、5℃/分の速度でスラリーを常温まで冷却した。常温に冷却されたスラリーに、分散液の質量に対する固形分の濃度が10質量%となるようにイオン交換水を加え、平均粒子径が約140nmのポリエステル樹脂bの微粒子が分散する結着樹脂微粒子分散液aを得た。分散液中の微粒子の平均粒子径は、粒度分布測定装置(日機装社製「マイクロトラック UPA150」)を用いて測定した。
次いで、以下の方法に従って、離型剤微粒子分散液aを調製した。離型剤(日本油脂社製「WEP−5」、ペンタエリスリトールベヘン酸エステルワックス、溶融温度84℃、)200g、アニオン系界面活性剤(花王社製「エマールE−27C」)2g、及びイオン交換水800gを混合した。混合液を100℃に加熱し離型剤を融解させた後、ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT50」)で5分間乳化した。次いで、ゴーリンホモジナイザー(マントンゴーリン社製)で100℃の条件で乳化処理を行って、平均粒子径が250nm、融点が83℃、固形分濃度が20質量%の離型剤微粒子分散液を得た。
次いで、以下の方法に従って、着色剤微粒子分散液aを調製した。シアン着色剤(C.I.ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン))90g、アニオン系界面活性剤(花王社製のエマール0、ラウリル硫酸ナトリウム)10g、及びイオン交換水400gを混合した。この混合液を高圧衝撃式分散機アルティマイザー(スギノマシン社製「HJP30006」)で1時間乳化及び分散させ、固形分濃度が18質量%の着色剤微粒子分散液を得た。
得られた着色剤微粒子分散液aに含まれる着色剤微粒子の粒度分布を上記の粒度分布測定装置で測定した。着色剤微粒子分散液aに含まれる着色剤微粒子の体積平均粒子径は160nmであり、粒度分布のCv値は25%であった。着色剤微粒子のTEM画像から、着色剤微粒子の円形度が0.800であることを確認した。
次いで、下記の3種類の微粒子分散液を下記の割合で用い、以下のようにしてコア粒子Bを含む分散液を調製した。この分散液を凝集に付した(凝集工程)。
結着樹脂微粒子分散液a(固形分濃度10質量%):213g
離型剤微粒子分散液a(固形分濃度20質量%):12.5g
着色剤微粒子分散液a(固形分濃度18質量%):7g
容量1Lの四つ口フラスコに、温度センサー、冷却管、及び撹拌装置をセットした。上記の3種類の微粒子分散液、アニオン界面活性剤(花王社製「エマール 0」)0.2g、及びイオン交換水270gをフラスコ内に投入し、200rpmの撹拌速度で撹拌した。その後、トリエタノールアミンでフラスコ内容物のpHを9に調整した。次いで、塩化マグネシウム6水和物(凝集剤)4.0gをイオン交換水4.0gに溶解させた水溶液をフラスコ内に添加した。フラスコの内の分散液を5分間静置した後に、5℃/分の速度でフラスコの内温を50℃まで上げた。その後、0.5℃/分の速度で、フラスコの内温を73℃まで上げた。次いで、分散液の温度を73℃に保持して、分散液中の微粒子の凝集を進行させた。
以下の工程は、合一化工程に対応する。凝集工程を経た分散液中の凝集粒子の体積平均粒子径が6.5μmになった時点で、塩化ナトリウム(凝集停止剤)29.3gを添加し、分散液を撹拌速度350rpmで10分間撹拌した。撹拌後、5℃/分の速度で分散液を室温まで冷却した。
次いで、この分散液中に1N−塩酸を加えてpHを2とした後、ろ過によりコア粒子Bを回収した。回収したコア粒子Bを1Lの水に加えて撹拌した後、再度ろ過を行って洗浄した。この洗浄を繰り返し、回収したコア粒子B2gを水20gに分散させたときの分散液の導電度が10μS/cm以下になった後に、40℃雰囲気中に48時間放置して乾燥させた。このコア粒子Bの物性は、体積平均粒子径が6.6μm、数平均粒子径が5.7μm、円形度が0.94、標準キャリアとの摩擦帯電量−10μC/gであった。なお、分散液の導電率の測定は、「ES−51」(堀場製作所社製)にて行った。コア粒子Bのゼータ電位を、上記の方法に従って、pHが4の分散液を作製した際に測定すると−15mVであった。
(調製例3)
凝集法によるコア粒子Cの調製
まず、以下のように懸濁重合法を用い、結着樹脂(スチレンアクリル系樹脂)の微粒子を含む結着樹脂微粒子分散液bを調製した。このスチレンアクリル系樹脂の特性は、数平均分子量Mnが5,400、質量平均分子量Mwが18,000、質量平均分子量Mw/数平均分子量Mnが3.3、軟化点Tmが91℃、及びガラス転移点Tgが46℃であった。
撹拌装置、冷却管、窒素導入管、及び温度センサーを備えた1000mLの四つ口フラスコに、蒸留水550mL、アニオン系界面活性剤(花王社製「エマール0」、ラウリル硫酸ナトリウム)0.35gを仕込んだ。フラスコの内容物を窒素気流下で撹拌しながら80℃に昇温した後、フラスコ内に過硫酸カリウム水溶液(2.5質量%濃度)81gを添加した。滴下ロートを用いて、スチレン89g、アクリル酸n−ブチル58g、メタクリル酸14g、及びn−オクチルメルカプタン3.3gを含むモノマー混合液を1.5時間かけて滴下した。滴下後、80℃で反応液を2時間撹拌して重合反応を完結させた。重合反応終了後、内容物を室温まで冷却した後、固形分濃度が10質量%となるように蒸留水を加えて、スチレンアクリル樹脂の微粒子(粒径約90nm)が分散する結着樹脂微粒子分散液bを得た。
下記の3種類の微粒子分散液を用いて、以下のようにしてコア粒子Cを含む分散液を調製した。この分散液を凝集工程に付した。
結着樹脂微粒子分散液b(固形分濃度10質量%):213g
離型剤微粒子分散液a(固形分濃度20質量%):12.5g
着色剤微粒子分散液a(固形分濃度18質量%):7g
容量1Lの四つ口フラスコに、温度センサー、冷却管、及び撹拌装置をセットした。上記の3種類の微粒子分散液、アニオン界面活性剤(花王社製「エマール 0」)0.2g、及びイオン交換水270gをフラスコ内に投入し、200rpmの撹拌速度で撹拌した。その後、トリエタノールアミンを用いてフラスコ内容物のpHを10に調整し、塩化マグネシウム6水和物(凝集剤)4.0gをイオン交換水4.0gに溶解させた水溶液を添加した。フラスコ内の分散液を5分間静置した後に、5℃/分の速度でフラスコの内温を50℃まで上げた。その後、0.5℃/分の速度で、フラスコの内温を73℃まで上げた。次いで、分散液の温度を73℃に保持して分散液中の微粒子の凝集を進行させた。
以下の工程は、合一化工程に対応する。分散液中の凝集粒子の体積平均粒子径が6.5μmになった時点で、塩化ナトリウム(凝集停止剤)29.3gを添加し、分散液を撹拌速度350rpmで10分間撹拌した。撹拌後、5℃/分の速度で分散液を室温まで冷却して、コア粒子Cを含む分散液を得た。
得られたコア粒子Cの分散液から、コア粒子Bの回収と同様の操作を行ってコア粒子Cを回収した。このコア粒子Cの物性は、体積平均粒子径が6.8μm、数平均粒子径が5.9μm、円形度が0.94、及び標準キャリアとの摩擦帯電量が−15μC/gであった。また、pH4の分散液中でのコア粒子Cのゼータ電位を測定したところ−12mVであった。
[実施例1]
以下のようにして、コア粒子Aに対してシェル層形成工程を実行した。
温度計及び撹拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコに、イオン交換水300mLを入れた後、ウォーターバスを用いてフラスコ内温を30℃に保持した。次いで、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内の水性媒体のpHを4に調整した。その後、フラスコ内に、シェル層の原料としてのメチロールメラミン水溶液(昭和電工社製「ミルベン607」、固形分濃度80質量%)1mLとを添加した。次いで、フラスコの内容物を撹拌してシェル層の原料を水性媒体に溶解させ、シェル層の原料の水溶液Aを得た。
150gのコア粒子Aを水溶液Aに添加し、フラスコの内容物を200rpmの速度で1時間撹拌した。次いで、フラスコ内にイオン交換水150mLを追加した。その後、フラスコの内容物を100rpmで撹拌しながら、1℃/分の速度でフラスコ内温を70℃まで上げた。昇温後、70℃かつ100rpmの条件でフラスコの内容物を2時間撹拌し続けた。その後、水酸化ナトリウムを加えて、フラスコの内容物のpHを7に調整した。次いで、フラスコの内容物を常温まで冷却し、トナー粒子(トナー母粒子)を含む分散液を得た。
以下のようにして洗浄工程を実行した。ブフナーロートを用いて、トナー粒子を含む分散液からトナー粒子のウエットケーキをろ取した。トナー粒子のウエットケーキを再度イオン交換水に分散させてトナー粒子を洗浄した。そして、トナー粒子のイオン交換水による同様の洗浄を5回繰り返した。なお、トナー粒子を含む分散液のろ液、及び洗浄工程に供した洗浄水を排水として回収した。
以下のようにして乾燥工程を実行した。回収したトナー粒子2gを水20gに分散させたときの分散液の導電度が10μS/cm以下となった時点で、回収したトナー粒子を40℃雰囲気中に48時間放置して乾燥させた。乾燥後のトナー粒子を静電潜像現像用トナーとした。
[実施例2〜5]
水溶液Aにおけるミルベン607(昭和電工社製)の配合量を、それぞれ、2mL、0.5mL、3.0mL、及び10.0mLとする以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2〜5の静電潜像現像用トナーを得た。
[実施例6]
コア粒子Aに代えてコア粒子Bを用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、静電潜像現像用トナーを得た。
[実施例7]
コア粒子Aに代えてコア粒子Cを用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、静電潜像現像用トナーを得た。
[実施例8]
水溶液Aのミルベン607を他の熱硬化性樹脂モノマーを含む水溶液(昭和電工社製「SM650」、固形分濃度80質量%)に変更し、配合量を10mLとする以外は、実施例1と同様の操作を行って、静電潜像現像用トナーを得た。
[実施例9]
水溶液Aのミルベン607を他の熱硬化性樹脂モノマーを含む水溶液(昭和電工社製「NF−9」、固形分濃度80質量%)に変更し、配合量を0.5mLとする以外は、実施例1と同様の操作を行って、静電潜像現像用トナーを得た。
[比較例1]
コア粒子Aを静電潜像現像用トナーとした。
[比較例2]
水溶液Aにおけるミルベン607(昭和電工社製)の配合量を0.3mLとする以外は実施例1と同様の操作を行って、比較例2の静電潜像現像用トナーを得た。
[比較例3]
150gのイオン交換水のpHを2に調整する以外は実施例1と同様の操作を行って、比較例3の静電潜像現像用トナーを得た。
[比較例4]
水溶液Aにおけるミルベン607(昭和電工社製)の配合量を12mLとする以外は実施例1と同様の操作を行って、比較例2の静電潜像現像用トナーを得た。
[比較例5]
水溶液Aのミルベン607をSM650(昭和電工社製)に変更し、配合量を0.3mLとする以外は、実施例1と同様の操作を行って、トナーを得た。
[比較例6]
水溶液Aのミルベン607をNF−9(昭和電工社製)に変更し、配合量を12mLとする以外は、実施例1と同様の操作を行って、トナーを得た。
実施例及び比較例にて得られた静電潜像現像用トナーの測定方法及び評価方法は、以下の通りである。
(1)コア粒子と標準キャリアとの摩擦帯電量
ターブラミキサーを用い、標準キャリアN−01(日本画像学会から提供される負帯電極性トナー用標準キャリア)、及びこの標準キャリアに対して7質量%のコア粒子を30分間混合した。得られた混合物を測定試料として、標準キャリアと摩擦させた場合のコア粒子の摩擦帯電量をQMメーター(TREK社製「MODEL 210HS−2A」)で測定した。
(2)pH4に調整された分散液中のコア粒子のゼータ電位
コア粒子0.2g、イオン交換水80g(mL)、及び1%濃度のノニオン系界面活性剤(ポリビニルピロリドン、日本触媒社製「K−85」)20gをマグネットスターラーで混合し、コア粒子を均一に分散させて分散液を得た。この分散液に希塩酸を加えて分散液のpHを4に調整した。この分散液を測定試料として用い、分散液中のコア粒子のゼータ電位をゼータ電位・粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製「Delsa Nano HC」)で測定した。
(3)等電点におけるトナー粒子のpH
レーザードップラー法を採用し、測定装置として「ELSZ−1000」(大塚電子社製)を用いて23℃で測定した。測定試料は、以下の手順で作製した。つまり、ノニオン界面活性剤(花王社製「エマルゲン120」)を0.1質量%溶解させた水100gにトナー粒子1gを加えた後、3分間の超音波処理を行ってトナー粒子分散液を得、このトナー粒子分散液を測定試料として用いた。そして、トナー粒子分散液に希塩酸を加えて、測定を行い得る最も低いpH値に調整して測定を行った後、トナー粒子分散液に1N−水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHの値を高くしていった。所望のpH値に到達して安定化するごとにゼータ電位を測定し、等電点のpHを求めた。
(4)粒子の粒子径(体積平均粒子径及び数平均粒子径)
コールターカウンターマルチサイザー3(ベックマンコールター社製)を用いて粒子径を測定した。
(5)粒子の円形度
フロー式粒子像分析装置(シスメックス社製「FPIA 3000」)を用い、各々の粒子に関して3000個の粒子の円形度を測定し、その平均値を円形度とした。
(6)耐熱保存性(凝集度)
実施例及び比較例にて得られたトナー2gを容量20mLのポリ容器に秤量し、60℃に設定された恒温器内に3時間静置することで、耐熱保存性評価用のトナーを得た。その後、パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)のマニュアルに従い、耐熱保存性評価用のトナーをレオスタッド目盛り5かつ時間30秒の条件に設定されたパウダーテスターに載置された200メッシュ(目開き150μm)の篩を用いて篩別した。篩別後に篩上に残留したトナーの質量を測定した。篩別前のトナーの質量と、篩別後に篩上に残留したトナーの質量とから、下式に従って凝集度(%)を求め、下記の基準で耐熱保存性を評価した。
凝集度(%)=(篩上に残留したトナー質量/篩別前のトナー質量)×100
○:凝集度が20%以下であった。
×:凝集度が20%を超えた。
(7)低温定着性(最低定着温度)
まず、以下のようにして、二成分現像剤を作製した。実施例及び比較例にて得られたトナー粒子100質量部に対して、外添剤として、疎水性シリカ微粒子(日本アエロジル株式会社製「RA−200H」)1質量部及び酸化チタン微粒子(チタン工業社製「ST−100」)0.5質量部を加え、ヘンシェルミキサー(日本コークス社製「FM−20B」)により混合して、外添処理されたトナーを得た。次いで、以下のようにしてキャリアを得た。シリコーン樹脂(信越化学社製「KR−271」)20質量部をトルエン200質量部に溶解させて、塗布液を作製した。キャリアコア(パウダーテック社製「EF−35」)1000質量部に対して、流動層塗布装置により、上記の塗布液を噴霧塗布した後、200℃で60分間熱処理して、キャリアを得た。そして、外添処理を施したトナー10質量部とキャリア100質量部をボールミルで30分混合し、二成分現像剤を作製した。そして、評価機として、定着温度を調節できるように改造したプリンター(京セラドキュメントソリューションズ社製「FSC−5250DN」)を用いた。上述のようにして得られた二成分現像剤を現像装置に投入し、実施例及び比較例にて得られたトナーを評価機のトナーコンテナに投入した。評価機の条件を線速200mm/秒及びトナー載り量1.0mg/cm2に設定し、被記録媒体に未定着のベタ画像を形成した。定着温度を100℃以上200℃以下とし、評価機の定着装置の定着温度を100℃から5℃ずつ上昇させて、未定着のベタ画像を定着させた。ベタ画像がオフセットすることなく被記録媒体に定着できる最低温度(最低定着温度)を測定した。低温定着性を下記の基準により評価した。
○:最低定着温度が160℃以下であった。
×:最低定着温度が160℃を超えた。
(8)シェル層の厚さ
実施例及び比較例にて得られたトナー粒子を常温硬化性のエポキシ樹脂中に分散し、40℃の雰囲気において2日間硬化させて硬化物を得た。この硬化物を四酸化オスミウムを用いて染色した後ミクロトーム(ライカ社製「EM UC6」)を用いて切り出し、厚さ200nmの薄片試料を得た。この試料の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製「JSM−6700 F」)を用いて撮影した。そして、画像解析ソフトウェア(三谷商事社製「WinROOF」)を用いてこのTEM撮影像を解析することで、シェル層の厚さを計測した。具体的には、トナー粒子の断面の略中心点で直交する2本の直線を引き、この2本の直線上のシェル層と交差する4箇所の長さを測定した。このようにして測定される4箇所の長さの平均値を測定対象の1個のトナー粒子が備えるシェル層の厚さとした。シェル層の厚さの測定を10個のトナー粒子に対して行い、それぞれのトナー粒子が備えるシェル層の膜厚の平均値をシェル層の厚さとした。
なお、シェル層の厚さが5nm未満である場合には、上述のTEMのみによる方法では厚さを測定することが難しい場合がある。このような場合はTEM撮影像とエネルギー分散X線分光分析(EDX)とを用い、窒素元素のマッピングとを組み合わせて行うことにより、シェル層の厚さを測定した。
表1に、実施例及び比較例にて得られた静電潜像現像用トナーの評価結果をまとめて示す。
表1から明らかなように、実施例1〜9にて得られた静電潜像現像用トナーは、耐熱保存性及び低温定着性に優れていた。
比較例1にて得られた静電潜像現像用トナーにおいては、シェル層が形成されていなかったため、耐熱保存性が不十分であった。
比較例2、3、及び5にて得られた静電潜像現像用トナーにおいては、いずれもゼータ電位がゼロとなる時のpHが4.5未満であり、シェル層の厚さが過度に薄かったため、耐熱保存性が不十分であった。
比較例4及び6にて得られた静電潜像現像用トナーにおいては、ゼータ電位がゼロとなる時のpHが7を超え、シェル層の厚さが過度に厚くなったため、低温定着性が不十分であった。