JP5824690B2 - 温度センサ素子及びこれを用いた放射温度計 - Google Patents

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Description

本願の発明は、温度センサであるサーモパイルの多重層化による高感度化に関するものである。赤外線などの放射光を受光する熱形の赤外線センサとしての温度センサ、気体を含む流体の温度変化を検出する温度センサ、熱分析用の温度センサなどに用いるサーモパイルを高感度化した温度センサ素子、これを用いた放射温度計及び温度センサ素子の製造方法を提供するものである
(第一の発明について)
サーモパイルは、複数の熱電対を直列に接続して同一の温度差ΔTに対して、センサ出力である熱起電力が大きくなるように構成した熱型センサであり、また温度差センサである。
熱型センサには、サーミスタなどの絶対温度センサと熱電対やサーモパイルなどの温度差センサがある。温度差センサは、温度差しか検出しないので、ある点の基準温度に対して他の点の温度差のみを厳密に検出できるゼロ位法が適用できるから高精度の熱形温度センサとなり(特許文献1)、このために耳式体温計などの高精度赤外線温度センサでは、ほとんどサーモパイルが使用されている(特許文献2)所以である。
同一熱電材料から成る熱電対の組み合わせで構成されたサーモパイルで、同一の温度差ΔTの下では、サーモパイルの出力は、その熱電対の数に比例する。サーモパイルを赤外線センサの受光部に用いた場合を例にとる。同一受光面積に、サーモパイルを形成する場合、熱電対総数nを増やすと、その分、サーモパイルの出力は、増大するが、熱電対数の形状を細く形成する必要が出てくる。熱電対の温接点(周囲温度よりも高温の物体からの赤外線放射を受ける場合)は、受光部メンブレン(基板から熱分離したダイアフラム形状の薄膜)の中央付近に形成し、冷接点は、受光部メンブレンを支持している周囲のヒートシンクに形成するので、受光部メンブレンを熱電対総数nのサーモパイルで埋め尽くした場合の単純な計算でも、熱電対総数nのサーモパイルは、1対の熱電対のn分の1の細さの熱電対にする必要があり、更に、n個の熱電対が直列接続するからその内部抵抗rは、1対の熱電対のnの2乗で増大する計算になる。実際、試作し実験してみると、ほぼ、このnの2乗則が成り立っていることが分かる。このように、熱電対総数nを2倍にすると4倍の内部抵抗rになり、個数と共に急激にその内部抵抗rが大きくなる。内部抵抗rが大きいと、ジョンソンのノイズが増大するので、センサとしては好ましくない。この内部抵抗rの増大のために、センサとしてのサーモパイルのS/Nが悪くなり、熱電対総数nの個数に制限が出てしまうという問題があった。従って、同一面積に、同一の熱電材料を利用した場合でも内部抵抗rを小さく保ちながら如何にしたら、熱電対総数nの個数を増やすことができるか、が課題であった。
一般に、抵抗率の大きい熱電材料は、大きなゼーベック係数を有するので、熱電対総数nの個数を増やさないで、サーモパイルの出力を上げる努力もなされ、結局、サーモパイルの出力と内部抵抗rによるS/Nとがトレードオフの関係になり、これらの妥協点でサーモパイルが製作されていた。
(第二の発明について)
本発明者は、先の特許出願に、多重層薄膜サーモパイルの原型である「温度センサ素子及びこれを用いた放射温度計、並びに温度センサ素子の製造方法」を発明した(特願2010−100578)。そこでは、5マイクロメートル程度の薄さの有機材料であるPETフィルム(ポリエチレンテレフタラートフィルム)を層薄膜として利用し、この層薄膜上に熱電材料としてのBiとSbとからなる熱電対を多数直列接続して形成した層サーモパイルを、各層薄膜の貫通孔を介して直列接続して形成する多重層薄膜に形成した合成サーモパイルがあった。しかしながら、PETフィルムを多層に貼り合わせる工程や上下の層サーモパイル同士を導通させるための貫通孔を形成する必要があり、また、導通にも銀ペーストを用いる必要があるなど大量生産上より改善が望まれる点があった。
フォトレジスト膜以外の例えば、シリコン酸化膜などの無機材料の物質を各層薄膜として選ぶと、この各層薄膜を形成する工程、フォトレジスト膜を形成する工程、更にフォトレジスト膜を露光してパターン化する工程、フォトレジスト膜をマスクとして各層薄膜をエッチング除去する工程、フォトレジスト膜を除去する工程が必要になり、工程数が極めて多くなり、更にこれらを繰り返して多重層薄膜を構成すると、その多重化分だけその工程が増えて、結局、高価な多重層薄膜サーモパイルになってしまうという問題がある。
従来、薄膜を基板から熱分離する空洞は、ほぼ最終工程に形成する必要があり、また、シリコンの異方性エッチング液(エッチャント)は、強アルカリ性であり、有機物や多くの金属などを溶かしてしまうために、基板から熱分離する薄膜として、このエッチャントに耐性のある物質を選択しなければならないこと、基板から熱分離する薄膜には、やはり、このエッチャントに耐性のある物質しか残せないという、製造上、大きな制約があった。
WO2002/075262(特願2002−573629)号公報 特開2004−31684号公報
発明は、サーモパイルの内部抵抗rをそれほど上げずに、熱電対総数nの個数を増やし、高出力で高いS/Nのために多重化したサーモパイルの多重層薄膜を有機材料で構成して容易に温度センサ素子を製作する製作方法を提供すること、更に、この製作方法で製作した多重層薄膜からなるサーモパイルを用いた温度センサ素子を提供すること、これを用いた高感度な放射温度計を提供することを目的としている。
記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係わる温度センサ素子は、基板から熱分離した複数の層サーモパイルから構成される多重層薄膜からなる合成サーモパイルを温度感応部に設けた温度センサ素子において、前記の各層サーモパイルを構成する各熱電対の冷接点と温接点のうちの一方の接点が前記基板の位置に形成されてあり、他方の接点が前記各層薄膜のうち基板から熱分離された領域に形成されていること、前記基板は、前記薄膜に比べて大きな熱容量でありヒートシンクとして作用していること、前記各層薄膜に形成されている各層サーモパイルは順次直列接続されて前記合成サーモパイルが形成されていること、その直列接続は合成サーモパイルの出力が大きくなるように構成されていること、前記温度感応部を赤外線の受光部としたこと、赤外線吸収膜を該受光部に具備してあり、該受光部で受けた熱を伝導する熱伝導薄膜を、前記受光部中央付近を含み、該受光部領域に形成されてある接点まで延在形成してあること、該熱伝導薄膜を受光部の前記多重層薄膜に対して赤外線吸収膜とは反対側に形成してあること、を特徴とするものである。
従来、温度センサ素子に用いるサーモパイルは、ヒートシンクとなる基板に赤外線受光部などの温度感応部となるダイアフラム状(又は、メンブレンとも言われる)又はカンチレバ状の薄膜に、ゼーベック係数が大きくて、その熱起電力の向きが反対符号となる熱電材料からなる極めて細くした薄膜の熱電対をアレー化して、互いにそれらの熱起電力が足し合わされて大きくなるように直列接続されている。しかし、従来は、一層の赤外線受光部となるダイアフラム状又はカンチレバ状の薄膜に、二次元配列で形成された熱電対からなるサーモパイルであり、互いに接触しないで同一の温度感応部の面積に多くの熱電対アレー(熱電対総数nのアレーを考える)を形成するために、熱電対総数nを大きくすることに制限があった。
しかし、本発明では、同一の面積の受光部の薄膜を多層化することにより三次元配列で熱電対アレーが製作できることになり、赤外線センサとして用いる時には、赤外線受光部となる同一の温度感応部に対して、例えば、多重層薄膜のうちの一枚の層薄膜の熱電対数(層サーモパイルを構成する熱電対数)をmとすれば、その多重層数k倍の熱電対総数n(合成サーモパイルを構成する熱電対総数)が形成される。すなわち、n=m・kである。そして、全熱電対(合成サーモパイル)の内部抵抗も単に、各一層薄膜に形成されている熱電対(層サーモパイル)の内部抵抗の多重層数k倍と成るだけである。詳述すると、次のようになる。
ここで、赤外線受光部となるような温度感応部の面積を一定であると仮定する。ここに、従来のように、1層だけの薄膜にn対の熱電対を形成しているサーモパイルの場合の全熱電対のサーモパイルの内部抵抗rと、本発明のように薄膜をk層に多重化して分割形成して、その各層薄膜にはm対の熱電対(層サーモパイル)を形成している場合の合成サーモパイルの内部抵抗rとを比較する。比較のために、同一面積の温度感応部に内部抵抗が小さくなるように、その全面積に渡り1対の熱電対のみを形成したときのこの1対の熱電対の内部抵抗rを基準にして、計算してみると、次のようになる。
従来の単に1層の薄膜にn対の熱電対を形成した場合は、そこに形成される1対の熱電対の内部抵抗r01は、n・rとなる。したがって、このときの合成されたn対の熱電対の熱電対の内部抵抗rは、次の数1式のように表される。
Figure 0005824690
また、本発明による薄膜をk層に多重化して分割形成して、その各層薄膜にはm対の熱電対を形成して層サーモパイルを形成した場合は、その各層薄膜の1層当たりの層サーモパイルの内部抵抗r0kは、m・rで表され、また、合成サーモパイルの熱電対総数nは、k・mで表されることを考慮すると、このときの合成されたn対の合成サーモパイルの内部抵抗rは、次の数2式のように表される。
Figure 0005824690
なる内部抵抗rになる。したがって、本発明による薄膜をk枚の層に多重化して分割形成した層サーモパイルにおいては、同一の受光面積に形成した合成サーモパイルを構成する熱電対総数nも同一であっても、単一の層の薄膜に形成した従来のサーモパイルに対して、kの2乗分の1の内部抵抗になる。例えば、kが3、すなわち3層の層薄膜を多重化した場合には、9分の1の内部抵抗になる計算になる。このような合成サーモパイルの内部抵抗の減少は、温度センサのS/Nを減少させる効果があり、その分、増幅率を上げて高感度化することができることになる。
層サーモパイルを構成する熱電対には、冷接点と温接点を有するが、例えば、赤外線を受光する赤外線センサに使用した場合、一般には、熱容量が大きい基板上に形成した接点を冷接点にし、基板から熱分離した薄膜上に形成した接点は、基板温度より高い温度から放射される赤外線を受光した場合に温接点となる。しかし、基板温度より低い温度から放射される赤外線を受光した場合は、逆に薄膜からの放射が多くなり、薄膜は、冷えるので、基板上に形成した接点を温接点となり、基板の方が温接点になる。基板は、受光部となる薄膜に比べて熱容量が大きいので、これをヒートシンクとして利用し、基板の温度をサーモパイルの基準温度とする。
サーモパイルを構成する熱電対は、これらの熱電対を直列や並列、またはこれらを組み合わせた接続にすることもできるが、同一の温度差ΔTの下で、2端子と成る合成サーモパイルの熱起電力を大きくするためには、すべての熱電対を直列接続する方が良い。
各層薄膜に形成した層サーモパイルの熱電対数には限界があり、受光部の薄膜の中央付近に、層サーモパイルを構成する熱電対アレーの接点を形成したいが、どうしても、各接点の面積と熱電対数との関係から薄膜中央からずらした領域に熱電対アレーの各接点を形成せざるを得ない。一般に、赤外線吸収膜は、受光部となる薄膜の全面に形成してあり、この薄膜の中央部が最も赤外線受光で高温になる。この中央部付近を含んだ形で、各層薄膜のうち基板から熱分離した薄膜の領域に形成した層サーモパイルの熱電対アレーの接点まで、中央部の高温の熱を伝導する熱伝導薄膜を延在形成させることで、高感度の赤外線センサ素子が達成できる。なお、赤外線吸収膜は、多重層薄膜に形成すれば良く、各層薄膜ごとに形成する必要はない。
もちろん、熱伝導薄膜を形成した後、赤外線吸収膜をその上に形成するなど、熱伝導薄膜と赤外線吸収膜とを、受光部の薄膜に対して、同一側に形成しても良い。しかし、熱伝導薄膜は、導電率の高い金属を使用した方が好適であるが、受光部のサーモパイルを構成する熱電対アレー側に形成した場合は、熱電対アレーを短絡する可能性があり、熱伝導薄膜を、受光部の前記薄膜に対して赤外線吸収膜とは反対側に形成することで、これを回避することができる。
本発明の請求項に係わる温度センサ素子は、前記多重層薄膜を接着剤で接合して、一枚の前記薄膜とした場合である。
多重層薄膜が有機薄膜で形成してあるときには、多重層薄膜を構成するPET薄膜などの各層薄膜を、そこに形成する各層サーモパイルを形成した状態で独立に形成しておき、これらを接合して一枚の多重層薄膜を形成する場合は、接着剤を用いずに、PET薄膜通しを熱融着させることも可能である。また、接着剤として、極めて薄いシート状の接着シート(はじめから固体のシート)を介して、熱融着させることもできる。しかし、接着剤として、例えば、エポキシ系などの液状接着剤を1マイクロメートル以内程度の厚さで塗布した後、各層薄膜を位置合わせ後、重ね合わせて、圧力を加えながら昇温し接合することができる。エポキシ系などの重合反応を利用した接着剤を用いた場合は、溶剤の蒸発の必要が無く、温度や反応時間だけが問題になるだけで、面積が大きい多重層薄膜の接合には好適である。
接着剤として、例えば、多重層薄膜を構成する有機薄膜や無機薄膜同士を溶かす溶剤を含む溶液を塗布して、互いに溶かし合わせて接合することができる。このような溶剤の中には、例えば、シリコン酸化膜に対して、フッ化水素酸を含む溶剤のように薄膜の表面層を溶かしながら内部に取り込まれてくれる材料もあり、このような溶剤を、無機や有機薄膜の多重層化接合に使用することもできる。
本発明の請求項に係わる温度センサ素子は、前記多重層薄膜に形成した各層サーモパイルの層間接続を、各層サーモパイルの電極の上に形成した対応する層薄膜の貫通孔を通して電気的に接続した場合である。
前記多重層薄膜を接着剤で接合する場合は、各層薄膜を重ね合わせるために接着剤が、各層薄膜に形成されている各層サーモパイルを直列接続するように、上下の各層薄膜の電極同士を電気的に接続する必要があるので、これらの電極に接着剤が塗布されて、電気絶縁にならないように、接合する各層薄膜のうち、下部層薄膜の電極部に対応する位置に、上部層薄膜の貫通孔を設けておき、この上部層薄膜の貫通孔の部分には、接着剤が塗布されないように工夫するなどの必要がある。
このように、上下の各層薄膜の各層サーモパイルの層間接続のために、これらの電極同士を電気的に接続するのに、上部の層薄膜に貫通孔を通して行うことが好適である。その場合、上部の層薄膜に形成された貫通孔の周辺に、上部の層薄膜の層サーモパイルの電極を形成しておくと導電性接着剤などで容易に導通を得ることができるので、好都合である。
本発明の請求項に係わる温度センサ素子は、前記温度感応部を複数個アレー状に前記基板に配列させて構成した場合である。
本発明により、同一の基板に複数個の温度感応部を形成して、それぞれの合成サーモパイルの出力同士を差動増幅したり、アレー状に形成して、温度分布を計測したりすることができるようになる。例えば、これを赤外線センサとして用いると、イメージセンサとして用いることもできるし、異なる方向からの熱源を検出することもできる。熱容量の大きい同一基板に合成サーモパイルの各層サーモパイルの一方の接点(冷接点もしくは温接点)を形成しているので、温度差センサであるサーモパイルの各温度感応部の基準温度が同一となり、高精度の温度センシングが可能となる。
同一の基板に複数個の温度感応部を形成することにより、例えば、これを耳式体温計の赤外線センサとして用いた場合は、外耳の低い温度に対して、鼓膜温度は高く、この鼓膜温度を測定したい場合に、温度分布の中で最も高い温度を用いて体温とすることができる。このように、耳にセンサを挿入したときに、その挿入角度による体温計測誤差を小さくさせることができる。
本発明の請求項に係わる温度センサ素子は、前記多重層薄膜に、合成サーモパイルの他に、少なくとも1個の薄膜ヒータを具備した場合である。
基板から熱分離している多重層薄膜に形成された合成サーモパイルは、極めて高感度であり、この合成サーモパイルと薄膜ヒータを一緒に多重層薄膜に形成することで、熱伝導型センサが提供できる。熱伝導型センサは、薄膜ヒータで薄膜を加熱して、その薄膜に接している気体、液体などの流体の熱伝導率の変化を検出するもので、フローセンサ、気圧センサ(真空センサも含む)、水素センサや湿度センサを含むガスセンサ、マイクロヒータを温度走査させて物質のエンタルピ変化を検出するような超小型の熱分析計などとしても使用することができる。薄膜ヒータとして、金属などの薄膜抵抗体でも良いし、薄膜熱電対をヒータとして利用することもできる。また、薄膜ヒータ(マイクロヒータ)の加熱温度は、10℃程度の温度上昇で済むことが多いので、前記薄膜は、無機薄膜である必要は無くPETや塩化ビニールなどの有機薄膜でも良い。また、熱伝導型センサとしての作用は、必ずしも薄膜ヒータで加熱中に、周囲環境の流体の熱伝導率変化に基づく多重層薄膜の温度変化を計測して各種物理量を計測するばかりでなく、むしろ、薄膜ヒータでの加熱を停止した直後からの冷却過程における周囲環境の流体の熱伝導率変化を計測した方が良い場合もある。
本発明の請求項に係わる温度センサ素子は、基板に絶対温度センサを形成し、これを前記基板の温度検出用センサとし使用する場合である。
サーモパイルは、温度差センサであるので、温度の絶対値を知るには、どうしても、白金抵抗体やサーミスタなどの絶対温度センサが必要となる。この場合、サーモパイルの各温度感応部の基準温度となる基板の温度を絶対温度センサで計測する方が好適である。したがって、基板に絶対温度センサを形成するようにした場合である。なお、基板が半導体である場合には、ここにダイオードなどを形成しておき、これを絶対温度センサとして利用しても良い。また、サーモパイルを構成する一方の熱電材料で抵抗温度係数が大きい方を抵抗温度センサとして使用するともできる。
本発明の請求項に係わる温度センサ素子は、前記温度感応部を赤外線の受光部とし、赤外線センサとして実施した場合である。
本発明では、温度感応部としての赤外線受光部の薄膜を多重層化することにより三次元配列で熱電対アレーのサーモパイル(合成サーモパイル)が製作できることになり、同一の面積赤外線受光部で、熱電対総数の割には、上述の如く内部抵抗が極めて小さな赤外線センサ素子が実現できる。一般にセンサの内部抵抗は、ジョンソンノイズとなり、S/Nが大きいセンサを得るためにはどうしてもセンサの内部抵抗を小さくする必要があった。
赤外線吸収膜として、金黒などの特別の吸収膜を受光部に形成しても良いが、多重層膜が所望の赤外線波長域に吸収帯を有する場合は、この多重層膜を利用して、特別に金黒などの吸収膜を形成する必要はない。
赤外線センサ素子として、本発明の温度センサ素子を利用するためには、対象となる赤外線の波長領域に吸収帯を有する赤外線吸収膜を形成する必要がある。もちろん、赤外線センサ素子を耳式体温計に適用するには、人間の体温である37℃付近の赤外線放射波長である8−14マイクロメートル(μm)付近に吸収帯を有するので、この波長域に吸収帯を有する上述の多重層薄膜で形成しておくことも良い。しかし、その厚みの問題もあり、別に赤外線吸収膜を形成した方が良い場合も多い。
赤外線吸収膜として、よく用いられるものに、金黒があるが、多孔質クロムやニッケル薄膜なども用いられている。赤外線吸収膜は、赤外線を受光して、これを熱に変えて、受光部のサーモパイルの接点がある領域部分の薄膜の温度を上昇させることが目的である。
本発明の請求項に係わる温度センサ素子は、赤外線センサとしての1つの受光部に、基板から熱分離した複数の温度感応部を有し、かつ該複数の温度感応部も互いに熱分離してある前記薄膜からなる場合である。
被測定対象物の温度分布や温度測定領域の温度差を検出するときには好適であり、受光部を複数個も受けるよりも小型化できるという利点もある。
本発明の請求項に係わる放射温度計は、温度センサ素子を用いて、物体からの赤外線を受光して、前記温度センサからの電気信号に基づいて前記物体の温度もしくは温度分布を表示するようにしたことを特徴とするものである。
ここでは、本発明の温度センサ素子を赤外線センサ素子として用い、これを放射温度計に応用した場合である。被計測対象物体の温度を計測したり、イメージセンサとして温度分布やその画像として可視化することもできる。また、耳式体温計などの鼓膜温度計測により体温を表示させたり、高感度になるがゆえに、炭酸ガスなどの特定ガスの赤外線吸収を利用したガスセンサへの応用も期待できる。
(第一の発明)
温度感応部に設けてある薄膜が同一面積であるのに、本発明の温度センサ素子では、k枚の層サーモパイルの層薄膜を多重化して形成する合成サーモパイルとするので、熱電対総数nが同一であっても、従来の単一の層の薄膜に形成したサーモパイルに対して、kの2乗分の1の小さな内部抵抗になり、大きなS/Nの温度センサ素子となるという利点がある。
本発明の温度センサ素子は、有機薄膜の上に層サーモパイルを形成して、多重層化して1枚の温度感応部として利用できる。また、サーモパイルは、接点間の同一の温度差ΔTに対して、それを構成する熱電対数が多いほど大きな出力となり、高感度化するので、多重化することにより合成サーモパイルの熱電対総数nを三次元的に拡張できるので、相対的に低抵抗で、高感度の温度センサ素子が提供できるという利点がある。
本発明の温度センサ素子の製造方法は、各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合して一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルを形成するように接合する多重層接合工程を含む有機薄膜を主体とした各層薄膜に層サーモパイルと、その多重層化に伴う必要な各工程であり、極めて熱伝導度が小さく、しかも極めて薄く製作できるPETなどの有機薄膜が利用できること、貫通孔も容易に形成できること、素子分離も容易であることなど、高感度で高いS/Nであり、しかも安価な温度センサ素子が容易に提供できるという利点がある。
本発明の温度センサ素子では、上部の層薄膜に形成された貫通孔の周辺に、上部の層薄膜の層サーモパイルの電極を形成しておくと(層サーモパイルの電極の中に貫通孔を形成する形)、導電性接着剤などで容易に層間の導通を得ることができるので、好都合である。
本発明の温度センサ素子では、熱容量の大きい同一基板に合成サーモパイルの各層サーモパイルの一方の接点(冷接点もしくは温接点)を形成しているので、温度差センサであるサーモパイルの各温度感応部の基準温度が同一となり、高精度の温度センシングが可能となる。
本発明の温度センサ素子では、同一の多重層薄膜に合成サーモパイルの他に、少なくとも1個の薄膜ヒータ(マイクロヒータ)を形成することができるので、この構成を熱伝導型センサとして利用して、流体のフローや不純物濃度、気圧や熱分析など各種の熱に関する物理量を高感度、高精度に計測できるという利点がある。
本発明の温度センサ素子では、同一の基板に複数個の温度感応部を形成して、それぞれの合成サーモパイルの出力同士を差動増幅したり、アレー状に形成して、温度分布を計測したりすることができるという利点がある。このことから最も高い温度や低い温度を抽出することもできるという利点がある。
本発明の温度センサ素子は、熱型赤外線センサとして利用できるので、放射温度計としての高感度の体温計やイメージセンサなどが容易に提供できる。
本発明の温度センサ素子の概念を説明するための一実施例を示す構成概略図の平面図で、熱型赤外線センサ素子として実施した場合である。(第一発明の実施例1) 本発明の温度センサ素子の図1のX−Xにおける横断面概略図である。(第一発明の実施例1) 本発明の温度センサ素子における多重層薄膜の合成サーモパイルを構成する各層サーモパイルの構造で、熱型赤外線センサ素子として実施した場合 である。その一実施例として、3つの各層薄膜とその層サーモパイルのパターン(a)、(b)、(c)を示し、各層薄膜に無機薄膜を用いた場合である。(第一発明の実施例1) 本発明の温度センサ素子を説明するための一実施例を示す構成概略図の平面図で、1つの受光部に2個の多重層薄膜からなる合成サーモパイルを形成した場合である。(第一発明の実施例2) 本発明の温度センサ素子における多重層薄膜の合成サーモパイルを構成する各層サーモパイルに分解して合成サーモパイルを説明するための3つの各層薄膜とその各層サーモパイルのパターン(a)、(b)、(c)で、熱型赤外線センサ素子として実施した場合である。その一実施例として、各層 薄膜に有機薄膜を用いた場合である。(第一発明の実施例3) 本発明の温度センサ素子の概念を説明するための一実施例を示す構成概略図の断面図で、熱型赤外線センサ素子として、各層薄膜に有機薄膜を用いて実施した場合である。(第一発明の実施例3) 本発明の温度センサ素子の各層薄膜に有機薄膜を用いて実施した場合であり、各層薄膜に形成する層サーモパイルのパターンアレーを1枚の有機薄膜に形成してあり、これを枠に張り付けた場合を(a)に、そのX−Xにおける横断面概略図を(b)に示す。(第一発明の実施例3) 本発明の温度センサ素子の各層薄膜に有機薄膜を用いて実施した場合であり、図7(b)の横断面概略図に示した枠付の各層薄膜に各層サーモパイルのパターンアレーを形成したものをその多重層薄膜枚数(ここでは3枚)分だけ、重ねて接合して合成サーモパイルを形成する時の様子を示す横断面概略図である。(第一発明の実施例3) 本発明の温度センサ素子の各層薄膜に有機薄膜を用いて実施した場合の各合成サーモパイルの多重層薄膜を固定するアレー基板の一実施例を示す構成概略図の平面図(a)とそのほぼX−Xに沿う断面概略図(b)であり、ピン電極は実際にはX−X線上にはないが、ピン電極も断面形状が分かるように、その場所を経由した断面図にしてある。(第一発明の実施例3) 本発明の温度センサ素子に関し、その各層薄膜に有機薄膜を用いて熱形の赤外線センサ素子として実施した一実施例であり、図8に示した多重層薄膜枚数(ここでは3枚)分だけ、重ねて接合して合成サーモパイルに、図9に示したアレー基板を接合したときのピン電極の位置を経由した線に沿った断面概略図である。(第一発明の実施例3) 本発明の温度センサ素子に関し、これを赤外線センサ素子として用い、放射温度計として実施した場合の概念図である。(第一発明の実施例4) 本発明の温度センサ素子に関し、同一の多重層薄膜に合成サーモパイルと共に薄膜ヒータを形成して熱伝導型センサとして実施した場合の概念図である。(第一発明の実施例5) 本発明の温度センサ素子の各層薄膜に有機薄膜を用いて実施した場合の温度センサ素子の製造方法を説明するための特徴的な工程を示すブロック図である。(第一発明の実施例6) 本発明の多重層薄膜サーモパイルの概念を説明するための一実施例を示す構成概略図の平面図で、熱型赤外線センサ素子として実施した場合である。(第二発明の実施例7) 本発明の多重層薄膜サーモパイルの図14のX-Xにおける横断面概略図である。(第二発明の実施例7) 本発明の多重層薄膜サーモパイルにおける多重層薄膜15の合成サーモパイル14を構成する各層サーモパイル13の構造の一実施例の平面概略図で、熱型赤外線センサ素子として実施した場合である。フォトレジスト膜からなる3つの各層薄膜12とそこに形成した層サーモパイルの最下部パターン(a)、中間層パターン (b)、最上部パターン(c)を示している。(第二発明の実施例7) 本発明の多重層薄膜サーモパイルを製作する途中段階であり、シリコン単結晶の基板に空洞10を設けた後に、この空洞10を犠牲領域8の犠牲物質としての亜鉛などの金属で充填したときのシリコンの基板1の横断面概略図である。(第二発明の実施例7) 図17における空洞10を犠牲領域8の犠牲物質としての亜鉛などの金属で充填した後、犠牲領域8の盛り上がった部分を研磨して平坦化させるか、もしくは、空洞10を犠牲領域8の犠牲物質で充填するときに、加熱溶融した犠牲物質を平坦な板などで犠牲領域8を覆い、空洞10を含めて鋳型を形成して平坦化させた状態の基板1の横断面概略図である。(第二発明の実施例7) 本発明の多重層薄膜サーモパイルを製作する途中段階であり、シリコン単結晶の基板1に空洞10を設けた後に、この空洞10を犠牲領域8の犠牲物質としての亜鉛などの金属で充填したときの基板の他の一実施例を示す平面概略図(a)とそのY-Yにおける断面概略図(b)で、凹凸9(実際には、ここでは凹部ある)を設けて、この上に形成するフォトレジスト膜からなる多重層薄膜15の実効的な厚みを増加かさせて、曲げ強度を高めるようにした場合である。(第二発明の実施例8) 図19の凹凸9を犠牲領域8に形成して、本発明の多重層薄膜サーモパイルを形成した場合の一実施例を示す平面概略図(a)とそのY-Yにおける断面概略図(b)である。(第二発明の実施例8) 本発明の多重層薄膜サーモパイルを説明するための他の一実施例を示す横断面概略図で、実施例の図15や図18に示すように空洞10が基板1内で閉じている場合とは異なり、基板1の厚み方向に貫通した空洞10に犠牲物質としての亜鉛などで充填して犠牲領域8を形成した場合である。(第二発明の実施例9) 本発明の多重層薄膜サーモパイルを説明するための他の一実施例を示す横断面概略図で、基板1の上に空洞10を形成してあり、基板1の上方に合成サーモパイル14を有する多重層薄膜15が形成され、補強用薄膜で補強されている場合である。(第二発明の実施例10) 本発明の多重層薄膜サーモパイルを説明するための他の一実施例を示す平面概略図で、合成サーモパイル14と共に薄膜ヒータ35を形成して熱伝導型センサとして気体などの流体の流れを計測するフローセンサに適用した場合である。(第二発明の実施例11) 本発明の多重層薄膜サーモパイルを用いて放射温度計を製作した場合の一実施例を示す平面概略図で、多重層薄膜サーモパイルを熱型赤外線センサに適用し、同一の空洞に2個の合成サーモパイル14A、14Bを近接して設けた場合である。(第二発明の実施例12) 本発明の多重層薄膜サーモパイルを用いた放射温度計であり、これをイメージセンサに適用した場合で、その一実施例を示す平面概略図である。多重層薄膜サーモパイルのアレーとして、同一の基板1に合成サーモパイルアレー140を形成した場合である。(第二発明の実施例13) 本発明の多重層薄膜サーモパイルの製造方法を説明するための特徴的な工程を示すブロック図である。(第二発明の実施例14)
以下、本発明の温度センサ素子等の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
(第一発明の実施例)
図1は、本発明の温度センサ素子の概念を説明するための一実施例を示す構成概略図の平面図で、図2は、図1のX−Xにおける横断面概略図であり、熱型赤外線センサ素子として実施した場合である。図1では、熱型赤外線センサ素子として実施した場合であるが、構造が分かりやすいように、受光部7に形成してある赤外線吸収膜25や熱伝導薄膜26を省いて描いてある。また、基板1に薄膜2がメンブレン(ダイアフラム)として、形成されてあり、空洞10を有しているために、熱的に基板1から分離された構造になっている場合である。この薄膜2にサーモパイル3が形成されているが、本発明では、この薄膜2が多重層薄膜15となっており、この多重層薄膜15を構成する各層薄膜12(12A、12B、12C)には、層サーモパイル13(13A、13B、13C)が形成されてあり、それぞれの接着剤27や熱融着などで多重化された上下の層サーモパイル13の熱起電力が大きくなるように、上下層薄膜導通部24を介して直列接続されて、電極端子A21と電極端子B22から外部に出力されるようにしている。なお、各層サーモパイル13の一方の接点A18は、熱容量の大きいためにヒートシンクとして作用する基板1の上に位置するようにしてあり、他の接点B19は、基板1から熱分離した薄膜2のうち、受光部7となるダイアフラムの中央付近に形成するようにする。ダイアフラムの中央付近は面積が狭くなるので、実際には、ダイアフラムの中央付近の高温物体からの赤外線受光により温度上昇(低温からの輻射を受けたときは温度降下する)の熱を中央付近から周囲の方に導くために金属薄膜や熱電導体などで形成した熱伝導薄膜26をダイアフラムの中央付近を含む形で形成し、その上に接点B19を配置形成するようにしている。
本発明の温度センサ素子を熱型の赤外線センサ素子として利用する場合は、赤外線の受光部7を形成してあり、そこに各層サーモパイル13(13A、13B、13C)がそれぞれ形成されている各層薄膜12(12A、12B、12C)を接合した多重層薄膜15が基板1から空洞10を介して熱的に分離した形状にしている。この各層薄膜12は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜やこれらの混合薄膜などの無機材料から形成することもできるし、PETフィルムのようなプラスチック薄膜などの有機材料から形成することもできる。また、各層サーモパイル13(13A、13B、13C)は、直列接続した複数の薄膜の熱電対6から構成されているが、無機や有機の熱電材料からなる熱電対6で形成することができる。一般には、正と負のゼーベック係数を有する半導体や半金属、さらに金属の薄膜の組み合わせによる薄膜の熱電対6で構成する。
図3には、本発明の温度センサ素子を、上記の熱型赤外線センサ素子として実施した図1と図2に示した各層薄膜12としてシリコン酸化膜、シリコン窒化膜やこれらの混合薄膜などの無機材料から形成してある場合であり、多重層薄膜の合成サーモパイルを構成する各層薄膜に形成する層サーモパイルに分解して合成サーモパイルを説明するための3つの各層薄膜とその層サーモパイルのパターン(a)、(b)、(c)の平面概略図を示している。
図3(a)に示した熱型赤外線センサ素子の図では、シリコン(Si)単結晶の基板1にCVD(化学的気相成長法)により、シリコン単結晶と同一の熱膨張係数になるように調整したオキシナイトライド薄膜(シリコンの酸化膜と窒化膜との混合膜)を層薄膜12Aとして形成してあり、この層薄膜12Aは、電気的および熱的の絶縁層28となる薄膜の作用もしている場合である。さらに、その上に熱電対6の一方の熱電導体A16としてp型多結晶薄膜をCVD膜形成した後、パターン形成して、その上に他方の熱電導体B17としてアルミニウム(Al)薄膜をスパッタリング形成後、パターン化して層サーモパイル13Aを形成した場合の実施例を示したものである。図3(b)と図3(c)も図3(a)に示した形成の場合と同様で、それぞれ層薄膜12Bと層薄膜12Cを形成して、その上にそれぞれ、熱電材料である熱電導体Aおよび熱電導体Bを形成して層サーモパイル13B、層サーモパイル13Cを形成した場合である。本実施例のように3層からなる多重層薄膜15を形成する場合は、各層サーモパイル13A、13B、13Cを上下層で上下層薄膜導通部24を通して直列接続するために、電極23や電極端子A21、電極端子B22などの位置を各層薄膜12A、12B、12C毎にパターン変更しておく必要がある。
上述のようにして、本発明の温度センサ素子の熱型の赤外線センサ素子を無機材料の薄膜2で形成した場合には、それぞれの薄膜2を構成する層薄膜12A、12B、12C がCVDなどのより、重ねて堆積できるので、必ずしも接着剤27などは必要がない。そして、公知のフォトリソグラフィーにより、各層薄膜12A、12B、12Cの厚みも、例えば、0.1マイクロメートル(μm)という極めて薄く、また、各層サーモパイル13A、13B、13Cを構成する熱電対6の熱電導体A16と熱電導体B17の厚みと幅もそれぞれ、1μmと2μm程度で極めて小型に形成できる。
層薄膜12に絶縁層28を形成した後、その上に層サーモパイル13を形成して多重層薄膜15を形成した方が、層サーモパイル13の熱電導体Aと熱電導体Bの選択性が広がるという利点があり、さらに、絶縁層28は、電気的な絶縁層であるばかりでなく、熱的にも絶縁性を有することが多く、極めて薄い層サーモパイル13を支持するためにも好適である。
上述のようにして形成した本発明の温度センサ素子としての熱型の赤外線センサ素子は、所望の赤外線波長領域で透過する、例えば、Si単結晶フィルタなどの窓材やフィルタを用い、さらに、金属やプラスチックのパッケージにマウントして、外部に電気的に取り出すような公知の端子を取り付けて、素子として取り扱うことができるようにする。もちろん、電気出力を増幅させるアンプやサーミスタやpn接合ダイオードなどの絶対温度センサ34を基板1に形成するなどして、一体化したモジュールとした温度センサ素子として取り扱うことができるようにしても良い。
図4は、本発明の温度センサ素子を熱型の赤外線センサ素子として実施した場合で、上述の図2や図3で説明したような無機材料からなる受光部7での温度感応部5としての薄膜2を用いた一実施例を示す構成概略図の平面図である。本実施例では、同一の受光部7に、カンチレバ状の2つの温度感応部5A、5Bとしての薄膜2A、2Bを形成してあり、2個の合成サーモパイル14A、14Bが形成されている場合であり、また、各合成サーモパイル14A、14Bはそれぞれ3重層からなる多重層薄膜15A、15Bからなり、さらに、各多重層薄膜15A、15Bは、それぞれ層サーモパイル13にそれぞれ層薄膜12を有している場合である。基板1には、例えば、pn接合ダイオードを絶対温度センサ34として利用するためにpn接合ダイオードを形成して、基準温度としての基板1の絶対温度を計測できるようにした場合である。異なる2つの合成サーモパイル14A、14Bの出力は、それぞれ電極端子A21A、21Bと電極端子B22A、22Bから取り出すことができるようにしている。なお、本概略平面図では、各多重層薄膜15A、15Bの厚み方向のそれぞれの層サーモパイル13等の分解図や、赤外線吸収膜25などは、混雑を避けるために省略している。
カンチレバ状の2つの温度感応部5A、5Bを形成してあるために、赤外線のレンズ系を用いることにより、被測定対象の2点の温度差を計測したり、一方の温度感応部5Aを赤外線から遮光し、その出力と、他方の温度感応部5Bを用いて被測定対象点からの赤外線受光による出力との差を検出することによる差動増幅により、高精度な赤外線受光による温度計測などができるようになる。
上述では、カンチレバ状の2つの温度感応部5A、5Bを形成した場合であるが、同一の受光部7に、温度感応部5をマトリックス状に配列形成して、高感度で高精度の赤外線センサ素子アレーによる赤外線イメージセンサとして利用することができる。
上述の実施例2では、無機材料からなる受光部7での温度感応部5としての薄膜2を用い、同一の受光部7に、カンチレバ状の2つの温度感応部5A、5Bとしての薄膜2A、2Bを形成してあり、2個の合成サーモパイル14A、14Bが形成されている場合であったが、例えば、1つの受光部7に、PET薄膜などの有機材料からなる互いに熱分離した2つの薄膜2Aと薄膜2Bを形成するに当たり、これらの間にスリット36を設けて、2つの薄膜2Aと薄膜2Bとを形成して、それぞれに対応する2つの温度感応部5A、5Bを互いに熱分離させることができる。PET薄膜などの有機材料からなる互いに熱分離した2つの薄膜2Aと薄膜2Bを形成するには、無機材料の薄膜と異なり、カンチレバ状に2つの薄膜2Aと薄膜2Bを形成すること、また、2つを越える分離した薄膜2を形成することは、強度的に極めて困難であり、1つのスリット36により1対の薄膜2Aと薄膜2Bを作成することが好適である。その場合、受光部7の薄膜2は、ダイアフラム状に形成しておき、プラスチック薄膜などの薄膜2も、一方向に伸延して、その方向に沿うようにスリット36の長さ方向を選択するようにすると、スリット36の幅も広がり難くなるので好都合である。
図5は、本発明の温度センサ素子における多重層薄膜15の合成サーモパイル14を構成する各層薄膜12A、12B、12Cに形成する層サーモパイル13A、13B、13Cに分解して合成サーモパイル14を説明するための3つの各層薄膜12A、12B、12Cとその層サーモパイル13A、13B、13Cのパターン図5(a)、図5(b)、図5(c)で、熱型の赤外線センサ素子として実施した場合であり、その一実施例として、各層薄膜12A、12B、12Cに有機薄膜を用いた場合である。図6には、図5に示した層サーモパイル13A、13B、13Cをそれぞれ形成した3つの各層薄膜12A、12B、12Cを重ねて、接着剤27兼絶縁層28を塗布して接合した多重層薄膜15を、基板1にエポキシ系などの接着剤27を利用して接合し、素子分離した温度センサ素子の横断面概略図を示している。ここでは、赤外線吸収膜25、金属膜などの熱伝導薄膜26も示してあり、さらに1個のピン電極32を通る線での横断面概略図にしてあり、外部に赤外線センサ素子からの出力を取り出すための外部電極端子33も取り付けてある例を示している。なお、ピン電極32は、貫通孔11を通して多重層薄膜15を貫くようにしてあり、この貫通孔11には、導電性ペーストのような導電性材料29を満たして、電極23と電気的接触ができるようにしている。
PETフィルムなどの有機薄膜を用いた各層薄膜12A、12B、12Cは、その製造工程からして、安価な温度センサ素子である赤外線センサ素子を形成するには、例えば、図7に示すように、各層薄膜12A、12B、12Cに対応するPETフィルムなどの有機薄膜シートに大量に層サーモパイル13A、13B、13Cのアレーを形成しておき、これらを図8に示すように、重ね合わせて多重層薄膜15を形成し、上下層薄膜導通部24を介して熱起電力が足し合わされて大きくなるように直列接続して合成サーモパイル14を形成するようにした方が良い。PETフィルムなどの有機薄膜は、4μm程度の厚みのシートが可能であり、極めて熱伝導率も小さいので、高感度の熱形赤外線センサ素子が作成できる。
層サーモパイル13A、13B、13Cを構成する熱電対6の熱電導体A16として、例えば、ビスマス(Bi)を、また、熱電導体B17として、例えば、アンチモン(Sb)を、それぞれのパターンに応じたマスクを通して真空蒸着により、それぞれの層サーモパイル13(13A、13B、13C)をアレー形成することができる。各層薄膜12を重ねて接合形成して多重層薄膜15を形成するために、先ずは、各層薄膜12A、12B、12Cに均一な張力を与えるためとそれぞれの取り扱いを容易にするために枠31を、各層薄膜12A、12B、12Cに、やはりエポキシ系などの接着剤27を利用して張り付けた状態を示すもので、その1つとして、枠31を取り付けた層薄膜12の概略平面図を図7(a)に示してあり、そのX−X線における横断面概略図を図7(b)に示している。なお、図8には、各枠31を取り付けて均一に張った状態の各層薄膜12A、12B、12Cを位置合わせして重ねた状態で、接合して多重層薄膜15を形成するときの横断面概略図を示している。また、エポキシ系などの接着剤27は、重合反応で固化するので、溶媒の蒸発を利用して固化する接着剤とは異なり好適である。もちろん、PETなどの有機薄膜からなる各層薄膜12A、12B、12C同士を熱融着させることもできる。
図9には、上述の図8に示した各層薄膜12A、12B、12Cを重ねた状態で接合して、多重層薄膜15を形成した後に、そこに取り付けるアレー基板41の平面概略図を図9(a)に示し、その1個のピン電極32を通る線での横断面概略図を図9(b)に示している。アレー基板41を構成する各基板1は、互いにアレー基板結合部42を通して連結されている形であり、この部分は容易に切断できるように、細くしている。それぞれの基板1には、2個のピン電極32を形成しておき、そのままで外部出力端子33としても利用できるようにした場合である。
図10には、上記の図8で示した各枠31を取り付けて均一に張った状態の各層薄膜12A、12B、12Cを重ねた状態で接合して、多重層薄膜15を形成した後、アレー基板41をさらに位置合わせをして張り付けたときの状態の1個のピン電極32を通る線での横断面概略図を示している。本実施例では、図に描いていないが、白金薄膜抵抗体、サーミスタやpn接合ダイオードなどの絶対温度センサ34を基板1に形成しておき、基準温度として利用した方が良い。
図11は、本発明の温度センサ素子に関し、これを赤外線センサ素子として用いて、放射温度計として実施した場合の概念図である。被温度計測物体(物体)60からの放射赤外線を、本発明の温度センサ素子を赤外線センサ素子として用いて放射温度計55を作成するもので、赤外線センサ素子が極めて高感度になるために、高感度の放射温度計55が提供できる。放射温度計55には、ゲルマニウムレンズやフレネルレンズなどのレンズ系70を備え、その焦点面に本発明の温度センサ素子である赤外線センサ素子を設置して、被温度計測物体60からの赤外線を受光して、その温度分布または温度を計測するものである。赤外線センサ素子として赤外線センサアレーとした場合には、温度分布を計測するイメージセンサとして利用でき、また、1個または数個の赤外線センサ素子を配置した場合には、被温度計測物体(物体)60の特定の場所の温度、例えば、その中で最も高温の箇所の温度、を計測することもできる。
放射温度計55には、このほか、赤外線センサ素子からの信号を増幅する増幅回路、信号処理して温度表示すること、温度分布に変換すること、画像化して表示すること、などのための演算回路、さらに、温度の数値表示や画像表示のための表示部を具備している。
これらの各回路は、公知の技術で達成できるものであるので、詳細は省略する。
図12は、本発明の温度センサ素子の同一の多重層薄膜15に合成サーモパイル14と共に薄膜ヒータ35を形成して熱伝導型センサとして実施した場合の概念図である。構造は、例えば、基板1としてシリコン(Si)単結晶を用い、同一の多重層薄膜15に合成サーモパイル14と、ニクロム薄膜などの金属抵抗体薄膜などの薄膜ヒータ(マイクロヒータ)35をパターン形成する。これらの一連のパターン化は、公知のフォトリソグラフィーにより達成できる。その後、基板1の裏面から空洞10をエッチングにより形成して、スリット36を形成して、基板1から熱分離して多重層薄膜15を作成することができる。多重層薄膜15はカンチレバ形でも良いし、ダイアフラムにスリット36を入れた形でもよい。このように、層薄膜12に絶縁層28を形成した後、その上に層サーモパイル13を形成して多重層薄膜15を形成した方が、極めて薄い層サーモパイル13を支持することができるなど、望ましい。
本発明の温度センサ素子を熱伝導型センサとして実施した場合、薄膜ヒータ35に電流を流し、無風状態で室温よりも例えば10℃程度温度上昇させるように電流値を定めて駆動すると、ガスの流れにこの多重層薄膜15を晒すと、加熱された多重層薄膜15から熱が奪われて冷却し、そのときの温度変化に基づく、合成サーモパイル14の出力変化からガスの流れの量が計測できる。このような原理によりガスフローセンサが提供できる。
図13は、本発明の温度センサ素子の各層薄膜に有機薄膜を用いて実施した場合の温度センサ素子の製造方法を説明するための特徴的な工程を示すブロック図である。有機薄膜の各層薄膜に層サーモパイルを形成し、多重層化して形成した合成サーモパイルを温度感応部に設けた温度センサ素子の製造方法において、有機薄膜の各層薄膜に、それぞれ多重層化のための層薄膜数を想定して作成する各層毎の層サーモパイル形成工程、前記各層の必要な箇所に電極導通用の貫通孔を形成する貫通孔作成工程、前記有機薄膜の各層薄膜を重ね合わせて接合する多重層接合工程、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように貫通孔を通して上下層の電極間を導通させる導通工程、個別の温度センサ素子のヒートシンクを兼ねた基板のアレーに前記接合された多重層有機薄膜を接合させる基板接合工程、各温度センサ素子に分離する素子分離工程を少なくとも必要としている。
基板1から熱分離した各層薄膜12をPETフィルムのような有機薄膜で形成するときには、無機薄膜のようにCVDを用いて多重層薄膜15を形成することが困難であるために、各層薄膜12(12A、12B、12C)に各層サーモパイル13A、13B、13Cを形成した後、張り合わせて接合した方が、安価な製造方法となる。層サーモパイル形成工程は、上述の実施例で説明したので、ここでは省略する。貫通孔作成工程に関しては、各層薄膜12が電気的に絶縁性であるために、多重層薄膜15を形成するときに各層サーモパイル13A、13B、13Cの上下層の電気的接続が必要で、このために貫通孔11を上下層薄膜導通部24として利用すること、外部に出力を取り出すための外部電極端子33やピン電極32との電気的接触などのために必要になる。なお、PETフィルムなどは、400℃程度に加熱したピンや刃状治具で容易に貫通孔11が形成できるし、パンチなどでの打ち抜きでも貫通孔11が形成できる。多重層接合工程では、エポキシ系の接着剤27を用いたり、熱圧着により熱融着させたりすることもできる。導通工程では、電極23同士やピン電極との電気的接続には、導電性ペーストなどの導電性材料29を用いると良い。基板接合工程では、揮発性のほとんどないエポキシ系の接着剤27が好適である。素子分離工程では、沢山のアレー化した温度センサ素子のアレーが形成されているが、先ずは、多重層薄膜15を加熱刃状治具で切断し、その後、アレー基板41を分離するが、アレー基板結合部42が細く、強度が弱くなるように設計してあるので、プラスチックアレー基板41では、金属刃で容易に切断できるようにしている。
上述の実施例では、本発明の温度センサ素子を熱形の赤外線センサ素子として利用した場合を中心に説明してきたが、赤外線センサ素子以外の用途の温度センサとして利用して温度差を高感度に検出する場合は、本発明の温度センサ素子が最適である。例えば、ダイアフラム状やカンチレバ状の基板1から熱分離した薄膜2に、本発明の温度センサ素子と共にマイクロヒータを形成して熱伝導型センサを構成することができる。この熱伝導型センサを用いると、フローセンサ、気圧センサ(真空センサも含む)、水素センサや湿度センサを含むガスセンサ、マイクロヒータを温度走査させて物質のエンタルピ変化を検出するような超小型の熱分析計などとして、高感度で高精度であり、しかも超小型(例えば、温度感応部の寸法が100μm角程度)の熱伝導型センサが提供できる。
本発明の温度センサ素子は、本実施例に限定されることはなく、本発明の主旨、作用および効果が同一でありながら、当然、種々の変形がありうることは言うまでもなく、これらはすべて本発明の技術的範囲に属する、
(第二発明の実施例)
図14は、本発明の多重層薄膜サーモパイルの概念を説明するための一実施例を示す構成概略図の平面図で、熱型赤外線センサ素子として実施した場合である。図15は、図14のX-Xにおける横断面概略図である。
フォトレジスト膜からなる多重層薄膜15は、基板1に形成された空洞10を架橋する架橋構造として形成されてあり、空洞10を有しているために、熱的に基板1から分離された構造になっている場合である。この多重層薄膜15を構成するフォトレジスト膜を主体とする各層薄膜12(12A、12B、12C)には、層サーモパイル13(13A、13B、13C)が形成されてあり、上下の層サーモパイル13の熱起電力が大きくなるように、感光性材料であるフォトレジスト膜の特徴を生かしてそれ自体に、露光・現像してパターン化形成した貫通孔11を利用し、上下層薄膜導通部24を介して直列接続されて、全体として合成サーモパイル14が形成されて、電極端子A21と電極端子B22から外部に合成サーモパイル14の熱起電力の基づく信号が出力されるようにしている。多重層薄膜15は、フォトレジスト膜からなる各層薄膜12をスピンコートにより容易に形成できる。このフォトレジスト膜は互いに接着力が大きいので、他の接着剤などは、一般に不要である。
また、フォトレジスト膜は、感光性材料なので、容易に、しかも高精度に、所望の形状にパターン化できるので、端子となる電極、例えば、電極端子A21や電極端子B22を露出させたり、貫通孔11を各層薄膜12に高精度で形成することもできる。なお、各層サーモパイル13の一方の接点A18(例えば、冷接点)は、熱容量の大きいためにヒートシンクとして作用する基板1の上に位置するようにしてあり、他の接点B19(例えば、温接点)は、基板1から熱分離した多重層薄膜15のうち、受光部7で温度感応部5となる架橋構造の中央付近に形成するようにする。本実施例では、受光部7の架橋構造の中央付近が最も高温になるが、この付近を均一な温度にするために金属薄膜や熱電導体などで形成した熱伝導薄膜26を中央付近に形成し、その上に接点B19を配置形成するようにしている。
本発明の多重層薄膜サーモパイルを熱型の赤外線センサ素子として利用する場合は、赤外線の受光部7を形成してあり、そこに各層サーモパイル13(13A、13B、13C)がそれぞれ形成されている各層薄膜12(12A、12B、12C)を接合した多重層薄膜15が基板1から空洞10を介して熱的に分離した形状にしている。各層サーモパイル13(13A、13B、13C)は、直列接続した複数の薄膜の熱電対6から構成されているが、無機や有機の熱電材料からなる熱電対6で形成することができる。一般には、正と負のゼーベック係数を有する半導体や、アンチモンSbとビスマスBiのなどの半金属、さらに金属の薄膜の組み合わせによる薄膜の熱電対6で構成する。
本実施例の多重層薄膜サーモパイルでは、図14と図15に示すような構造で、基板1に予め形成してある空洞10に亜鉛などの犠牲物質で充填して犠牲領域8を形成し、更に平坦化させておき、改めて、犠牲領域8を含む基板1として使用するものである。そしてこの基板1の上に、必要に応じて補強用薄膜100を形成し、多重層薄膜15として残すフォトレジスト膜をスピンコートなどで形成して、その感光性を利用して貫通孔11を含む高精度なパターンを形成して、各層薄膜12と各層サーモパイル13からなる多重層薄膜15と合成サーモパイル14を形成する。基板1の表面のシリコン酸化膜51が除去された領域と多重層薄膜15との間に露出した領域のエッチング孔37を介して、犠牲領域8(図14と図15には、図示せず空洞11のみ描いてある)をエッチング除去して、空洞10を形成する。
図16は、本発明の多重層薄膜サーモパイルにおける多重層薄膜15の合成サーモパイルを構成する各層サーモパイル13の構造の平面概略図で、熱型赤外線センサ素子として実施する場合で、まだ、フォトレジスト膜からなる層薄膜12や多重層薄膜15が基板から熱分離する前の状態である。その一実施例として、3つの各層薄膜とそこに形成した層サーモパイルの最下部パターン(a)、中間層パターン (b)、最上部パターン(c)を示している。
図16(a)に示した熱型赤外線センサ素子の図では、基板1に予め形成してある空洞10を亜鉛などの犠牲領域8の材料で充填したのち平坦化させた基板を用意しておき、この上に、必要に応じて補強用薄膜100を形成しておく。補強用薄膜100としては、シリコン酸化膜などの堅い材料を、1マイクロメートル(μm)程度の厚みに形成すると良い。層薄膜12Aとして、例えば、ポリイミド系のネガ型フォトレジスト膜をスピンコートで形成すると良い。このフォトレジスト膜の層薄膜12Aは、電気的および熱的な絶縁層28となる薄膜の作用もしている。ネガ型フォトレジスト膜からなる各層薄膜12は、露光・現像および熱硬化により、所定のパターン形状に形成できるという利点がある。このとき、上下の層薄膜12を導通させるための貫通孔11も所定の位置に高精度で形成することができる。さらに、その上に熱電対6の一方の熱電導体A16としてビスマス(Bi)薄膜を真空蒸着形成した後、ポジ型レジストのリフトオフを利用してパターン形成して、その上に他方の熱電導体B17としてアンチモン(Sb)薄膜を真空蒸着形成した後、同様にしてパターン化し、層サーモパイル13Aを形成した場合の実施例を示したものである。図16(b)と図16(c)も図16(a)に示した形成の場合と同様で、それぞれ層薄膜12Bと層薄膜12Cを形成して、その上にそれぞれ、熱電材料である熱電導体Aおよび熱電導体Bを形成して層サーモパイル13B、層サーモパイル13Cを形成した場合である。本実施例のように3層の層薄膜12からなる多重層薄膜15を形成する場合は、それぞれの層薄膜12の上に形成した各層サーモパイル13A、13B、13C同士を、層薄膜12に形成した貫通孔11を介する上下層薄膜導通部24を通して直列接続して合成サーモパイル14を形成する。なお、電極23、電極端子A21や電極端子B22は、アルミニウム(Al)や酸化し難い金属である金(Au)などを真空蒸着やスパッタリングで堆積して薄膜を形成しておき、各層薄膜12の構成材料であるネガ型フォトレジスト膜を侵さない剥離液である、例えば、ポジ型フォトレジストを使用して、この金属薄膜をパターン化して形成すると良い。
図17は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを製作する途中段階であり、シリコン単結晶の基板に空洞10を設けた後に、この空洞10を犠牲領域8の犠牲物質としての亜鉛などの金属で充填したときの基板の横断面概略図である。空洞10は、シリコン単結晶の基板1として(100)面を使用すれば、シリコンの熱酸化膜であるSiO2膜をマスクにして、基板1の表面からヒドラジン水和液などのシリコン異方性エッチャントを用いて、(111)面に囲まれた四角錐の形状の溝が形成される。四角錐となる前に適当な深さになったときにエッチングを停止すれば、空洞10の下部が平になった、言わば、断面がほぼ台形状の空洞10が製作できる。この空洞10に、亜鉛などを充填して犠牲領域8を形成した状態の断面を図17に示している。犠牲領域8に充填する金属などの材料として、溶融して充填するには、フォトレジスト膜の形成工程で使用する最高温度より融点が高いが、可能な限り低融点であり、フォトレジスト膜を侵さないエッチング液(エッチャント)で、容易にエッチングができる材料が好適である。もちろん、メッキなどで充填するには、融点の制限は無くなる。亜鉛であれば、融点が低く、希塩酸で容易に溶かすことができるので、溶融充填に好適である。シリコン(Si)は、ニッケル(Ni)の無電解メッキが可能なので、空洞10の側面にニッケル(Ni)の無電解メッキ後、亜鉛を溶融して濡れを良くした状態で充填することができる。もちろん、犠牲領域8として銅のメッキで空洞10を充填することもできる。
図18は、図17における空洞10を犠牲領域8の犠牲物質としての亜鉛などの金属で充填した後、犠牲領域8の盛り上がった部分を研磨して平坦化させるか、もしくは、空洞10を犠牲領域8の犠牲物質で充填するときに、加熱溶融した犠牲物質を平坦な板などで犠牲領域8を覆い、空洞10を含めて鋳型を形成して平坦化させた状態の基板1の横断面概略図である。犠牲領域8の材料である亜鉛などは、可能な限り基板1の空洞10以外の個所には、堆積されないように注意しておいた方がよい。また堆積しても、空洞10の犠牲領域8を基板1の表面と同一の位置になるまで研磨するが、そのとき研磨によりにより基板1の表面をクリーニングしておくとよい。犠牲領域8の材料である犠牲物質が、空洞10部以外の基板1の表面に残っている場合には、その上に多重層薄膜15が形成されると、犠牲領域8のエッチング除去の際に、多重層薄膜15が剥離してしまうという問題が生じるので、注意が必要である。
上述のようにして形成した本発明の多重層薄膜サーモパイルとしての熱型赤外線センサ素子は、所望の赤外線波長領域で透過する、例えば、Si単結晶フィルタなどの窓材やフィルタを用い、さらに、金属やプラスチックのパッケージにマウントして、外部に電気的に取り出すような公知の端子を取り付けて、素子として取り扱うことができるようにする。もちろん、電気出力を増幅させるアンプやサーミスタやpn接合ダイオードなどの絶対温度センサ34を基板1に形成するなどして、一体化したモジュールとした多重層薄膜サーモパイルとして取り扱うことができるようにしても良い。
図19は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを製作する途中段階であり、シリコン単結晶の基板1に空洞10を設けた後に、この空洞10を犠牲領域8の犠牲物質となる亜鉛などの金属を充填したときの基板1の他の一実施例を示す平面概略図(a)とそのY-Yにおける断面概略図(b)で、凹凸9(実際には、ここでは凹部である)を設けて、この上に形成するフォトレジスト膜を主体とした多重層薄膜の実効的な厚みを増加させて、曲げ強度を高めるようにした場合である。
図19において、空洞10は、犠牲領域8の犠牲物質としての亜鉛などの金属で充填されているので、実際には、この状態では空洞10となっていない。しかし、ここでは、空洞10が形成されていた箇所であり、犠牲領域8のエッチング除去により、次に示す図20に示すように空洞10となる領域であるから、空洞10を表示している。
上述の図18に示したように、基板1の空洞10に犠牲物質を充填して犠牲領域8を形成し、平坦化させた後、犠牲領域8の表面に凹凸9(実際には、凹部)を形成する。これは、フォトリソグラフィを用いて、容易に形成できる。凹凸9の深さは、希塩酸などのエッチャントを用いた犠牲物質のエッチング時間の調整で、決定できる。
図20は、図19の凹凸9を犠牲領域8に形成して、本発明の多重層薄膜サーモパイルを形成し、実施例1の図14と図15と同様に熱型赤外線センサ素子とした場合の一実施例を示す平面概略図(a)とそのY-Yにおける断面概略図(b)であり、図14と図17との違いは、図20では、凹凸9を設けて、多重層薄膜15の曲げ強度を強化したことだけである。従って、センサとしての作用や効果および動作の説明をここでは省略する。
図21は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを説明するための他の一実施例を示す横断面概略図で、実施例の図15や図18に示すように空洞10が基板1内で閉じている場合とは異なり、基板1の厚み方向に貫通した空洞10に犠牲領域8の犠牲物質として亜鉛などを充填した場合である。図21においても、空洞10は、犠牲領域8の犠牲物質としての亜鉛などで充填されており、実際に空洞10になっていないが、犠牲物質をエッチング除去して空洞10を形成するところなので、表示してある。
図21では、さらに、基板1に形成してある空洞10の基板1のシリコン面が露出している(111)面に、例えば、予めニッケル(Ni)の無電解メッキなどで、メッキ膜91を形成しておき、この箇所に、亜鉛などの低融点金属を加熱溶融して充填させた場合を示している。低融点金属とそのフラックスとを混ぜた金属浴槽に浸して、所定時間後引き上げるなどして、充填することができる。その後、亜鉛などの低融点金属で、空洞10を充填して犠牲領域8を形成して、これを改めて基板1として取り扱うようにする。その後の工程は、実施例1や実施例2で説明したような方法により、熱型赤外線センサ素子を形成することができる。
図22は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを説明するための他の一実施例を示す横断面概略図で、基板1の上に空洞10を形成してあり、基板1の上方に合成サーモパイル14を有する多重層薄膜15を形成した場合である。
図22では、半導体の基板1として、シリコン単結晶を使用した場合であり、成熟した集積化技術により、演算回路やメモリ回路、センサの駆動回路などの集積回路110、更には、ダイオードやトランジスタなどの利用した絶対温度センサ34を基板1に形成した場合で、空洞10の直下の基板1の表面にも集積回路110が形成できることも特徴となる。
空洞10とその上に形成してある合成サーモパイル14を有するフォトレジスト膜を主体とした多重層薄膜15の形成方法は、例えば、次のようである。先ず、上述の集積回路110や絶対温度センサ34を搭載したシリコン単結晶の基板1の表面のシリコン酸化膜51の上に、将来、犠牲領域8のエッチング除去により空洞10となるはずの所定の形状で、亜鉛、銅やニッケルなどで犠牲物質をメッキなどで形成する。その後、本実施例では、補強用薄膜100として、下部のシリコン酸化膜51を侵さないエッチャントがある硬い材料である、例えば、シリコン窒化膜をスパッタリングなどで基板1表面も含めて堆積させる。このときは基板温度を調整するなどして歪みが緩和するようにすると良い。その後、直ぐに、フォトリソグラフィにより所定の形状に補強用薄膜100をパターン化形成しても良いし、もしくは、多重層薄膜15を形成し、更に上部の絶縁層28をパターン化した後、その多重層薄膜15などのパターンをマスクとして利用して犠牲領域8のエッチング除去と共に、補強用薄膜100を所定の形状にパターン化させても良い。この補強用薄膜100の形成後、各層薄膜12A、12B、12C上に、各層サーモパイル13A、13B、13Cを順次、パターン形成しながら多重化して行き、合成サーモパイル14を作成する。更に、本実施例では、絶縁層28を層薄膜12と同一のフォトレシスト膜で形成している。各層薄膜12A、12B、12Cや絶縁層28のフォトレジスト膜の作成は、平坦の時と同様に、スピンコートによる塗布でも良いし、空洞10の高さが大きい時には、スプレー塗布の方法も利用できる。なお、各層サーモパイル13A、13B、13Cの一方の接点A18(例えば、冷接点)は、基板1の上に密着して形成されるように熱電対6のアレーの各熱電導体の薄膜を空洞10の横断面形状に沿って延ばして、基板1に十分重なって形成されるようにしてある。各層サーモパイル13A、13B、13Cの他方の接点B19(例えば、温接点)は、空洞10を架橋する多重層薄膜15のうち、赤外線受光時に最も高温となる中央部付近に形成するようにしている。本実施例でも、この多重層薄膜15の中央部付近に、集熱用の熱伝導薄膜26を補強も兼ねて形成している場合を示している。赤外線吸収膜25は、これらの薄膜の形成の工程の最終工程として、犠牲領域8のエッチング除去による空洞10の形成後に、金黒の蒸着などで形成することができる。もちろん、赤外線吸収膜25の材料の選択によっては、空洞10の形成前に行うこともできる。
図22に示す本発明の多重層薄膜サーモパイルを放射温度計として使用することもできる。合成サーモパイル14からの信号を増幅する増幅回路、信号処理して温度表示すること、温度分布に変換すること、画像化して表示すること、などのための演算回路やメモリ回路などの集積回路110を基板に形成し、さらに、温度の数値表示や画像表示のための表示部を具備して放射温度計とすることができる。これらの各回路は、公知の技術で達成できるものであるので、詳細は省略する。
図23は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを説明するための他の一実施例を示す平面概略図で、合成サーモパイルと共に薄膜ヒータを形成して熱伝導型センサとして気体などの流体の流れを計測する気体などのフローセンサに適用した場合である。
本発明の多重層薄膜サーモパイルを熱伝導型センサとして、気体の流れ計測用のガスフローセンサとして実施した場合、薄膜ヒータ35にヒータ電極65を介して電流を流し、無風状態で室温よりも例えば10℃程度温度上昇させるように電流値を定めて駆動する。ガスの流れにこの多重層薄膜15を晒すと、加熱された多重層薄膜15A、15Bから熱が奪われて冷却し、そのときの温度差や温度変化に基づく、合成サーモパイル14A、14Bの出力変化計測して、予め用意した校正データを利用してガスの流れの量が計測できる。このような原理によりガスフローセンサが提供できる。
本実施例では、多重層薄膜15にスリット36が形成されてあり、薄膜ヒータ35が形成されている架橋構造の中央付近の多重層薄膜15に対して、気流方向の下流側の多重層薄膜15Aと上流側の多重層薄膜15Bとにそれぞれ合成サーモパイル14Aと合成サーモパイル14Bとが形成してある。薄膜ヒータ35が形成してある中央部の多重層薄膜15とその両側の多重層薄膜15Aと多重層薄膜15Bとが、架橋構造の中央付近で、同一の多重層薄膜15で連結されている構造としている。この連結部分を通して、多重層薄膜15Aと多重層薄膜15Bとが、薄膜ヒータ35の熱を受け取り温度上昇している。無風状態では、これらの多重層薄膜15Aと多重層薄膜15Bの中央付近の接点B19(温接点)の温度は、薄膜ヒータ35の温度よりは数℃低いが、ほぼ同一となっている。気流が存在すると、薄膜ヒータ35の熱が下流側の多重層薄膜15Aを一層熱するが、上流側の多重層薄膜15Bは、周囲温度の気流により冷やされて、温度の低下を招く。この時、多重層薄膜15Aと多重層薄膜15Bとにそれぞれ形成している合成サーモパイル14Aと合成サーモパイル14Bの出力差から、予め用意してある校正データを利用して、微小の気流および気流の変化を計測することができる。もちろん、合成サーモパイル14Aと合成サーモパイル14Bの単独の出力データを利用しても、気流の大きさを計測することもできる。本実施例では、シリコンの基板1に絶対温度センサ34を形成してある。
図24は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを用いて放射温度計を製作した場合の一実施例を示す平面概略図で、多重層薄膜サーモパイルを熱型赤外線センサに適用し、同一の空洞に2個の合成サーモパイル14A、14Bを近接して設けた場合である。
被温度計測物体(物体)からの放射赤外線を、本発明の多重層薄膜サーモパイルを放射温度計として用い、例えば、耳式体温計のように、鼓膜温度と外耳との異なる温度を同一の空洞に2個の合成サーモパイル14Aと合成サーモパイル14Bで受光して、出力が大きい方が鼓膜温度であるなどの判断し使用できるようにすることができる。
また、本発明の多重層薄膜サーモパイルが極めて高感度な赤外線センサ素子となりえることを利用して、やはり放射温度計として用い、被測定ガス、例えば、炭酸ガスなどの特定吸収波長のみ透過するバンドパスフィルタ1と、その特定吸収波長に近接して、そのガスが吸収を持たない波長のバンドパスフィルタ2とを利用して公知の非分散型赤外線ガス分析装置を構成することができる。それぞれのバンドパスフィルタ1とバンドパスフィルタ2とを通過した赤外線をそれぞれ合成サーモパイル14Aと合成サーモパイル14Bで受光して、それらの出力を利用して被測定ガスの濃度を計測することができる。
本実施例の図24では、2個の合成サーモパイル14Aと合成サーモパイル14Bを同一の空洞10に形成した場合であるが、これらの合成サーモパイル14の数を、3個や4個など、さらに増やすことも容易である。
図25は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを用いた放射温度計であり、これをイメージセンサに適用した場合で、その一実施例を示す平面概略図である。多重層薄膜サーモパイルのアレーとして、同一の基板1に合成サーモパイルアレー140を形成した場合である。
合成サーモパイルアレー140のそれぞれの合成サーモパイル14が形成されているそれぞれの多重層薄膜15を基板1から熱分離するための空洞10のアレーは、実施例1で示した基板1の中に形成した空洞10のアレーでも良いし、実施例4の図22に示したように基板1の上方に形成される空洞10のアレーでも良い。基板1の上方に形成される空洞10のアレーの方が、製作が困難な面もあるが、空洞10直下の基板表面に、垂直走査回路121や水平走査回路122からの信号を処理するための集積回路を形成できるので、小型化が容易で好適である。
本実施例では、シリコン単結晶の基板1のイメージセンサとして、赤外線の各受光部7がピクセルとなり、これをX-Y平面上に二次元配列した受光部アレー70があり、垂直走査回路121と水平走査回路122により特定の受光部が選択できるようになっている。そして、これらの回路を用いて、イメージセンサとして水平及び垂直の走査が達成される。そして、それぞれの受光部7に形成してある合成サーモパイル14からの信号出力を同一基板1に設けてある増幅器や演算回路としての集積回路110により処理されて、基板1に設けたイメージセンサ表示のための集積回路110で信号処理して、基板1の外部に設けた表示装置により画像を表示するようにしている。
上述の放射温度計では、ゲルマニウムレンズやフレネルレンズなどのレンズ系を備え、その焦点面に本発明の多重層薄膜サーモパイルの受光部7や合成サーモパイルアレー140を設置して、被温度計測物体からの赤外線を受光して、その温度分布または温度を計測して、特定の場所の温度やその周辺の温度分布、さらには、イメージとして表示するものである。
上述の多重層薄膜サーモパイルを熱型赤外線センサ素子や赤外線イメージセンサとして用いた場合に、周囲が1気圧のガスにそれらの受光部7や受光部アレー70が晒されると、周囲ガスへの熱伝導のために感度が小さくなる。このために、受光部7や受光部アレー70を真空中に閉じ込めて使用するように、真空封止したパッケージにすると良い。
図26は、本発明の多重層薄膜サーモパイルの製造方法を説明するための特徴的な工程を示すブロック図である。
基板1に所定の形状の精密な空洞を形成後、犠牲領域8をこの空洞に充填して形成する犠牲領域形成工程、犠牲領域8と基板1とを覆うフォトレジスト膜を塗布するフォトレジスト塗布工程、このフォトレジスト膜を露光しパターン化するパターン化工程、層サーモパイル13を形成する層サーモパイル形成工程、前記フォトレジスト塗布工程から層サーモパイル形成工程までの一連の工程を繰り返し、多重層薄膜15を形成する繰り返し工程およびその後の犠牲領域8を除去する犠牲領域除去工程を含むことを少なくとも必要としている。
上述の実施例では、本発明の多重層薄膜サーモパイルを熱形赤外線センサ素子として利用した場合と薄膜ヒータ35を形成して熱伝導型センサを構成してガスフローセンサに応用した場合を中心に説明してきた。熱伝導型センサを構成すると、フローセンサの他に、気圧センサ(真空センサも含む)、水素センサや湿度センサを含むガスセンサ、薄膜ヒータ35を温度走査させて物質のエンタルピ変化を検出するような超小型の熱分析計などとして、高感度で高精度であり、しかも超小型(例えば、温度感応部の寸法が100μm角程度)の熱伝導型センサも提供できる。
また、上述の実施例では、架橋構造の多重層薄膜15を利用した場合を中心に説明してきたが、多重層薄膜15をダイアフラム状やカンチレバ状に形成して、基板1から熱分離しすることもできる。
本発明の多重層薄膜サーモパイルの合成サーモパイル14と共に、薄膜ヒータ35を形成して熱伝導型センサを構成することができる。この熱伝導型センサを用いると、フローセンサ、気圧センサ(真空センサも含む)、水素センサや湿度センサを含むガスセンサ、薄膜ヒータ35を温度走査させて物質のエンタルピ変化を検出するような超小型の熱分析計などとして、高感度で高精度であり、しかも超小型(例えば、温度感応部の寸法が100μm角程度)の熱伝導型センサが提供できる。
また、500℃程度の高温を必要とする場合は、薄膜ヒータ35だけを、SOI層やシリコン酸化膜などの高温に耐性のある無機の薄膜に形成しておき、温度センサとしては、別に設けたフォトレジスト膜を主体とした多重層薄膜15に合成サーモパイル14を形成することも良い。薄膜ヒータ35だけを基板1の表面に形成したシリコン酸化膜51を、例えば、カンチレバのように形成しておき、この領域に形成しても良い。
上述の実施例では、基板1として単結晶シリコンを用いた場合を示したが、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム、ガリウム砒素、ガリウムリン、シリコンカーガイドなどの半導体材料でも、もちろん良い。また、結晶性を利用したり、集積回路などを基板1に形成しない場合であれば、アルミナ基板や石英などのガラス基板などを利用することもできる。
本発明のフォトレジスト膜を用いた多重層薄膜サーモパイル及びこれを用いた放射温度計、並びに多重層薄膜サーモパイルの製造方法は、本実施例に限定されることはなく、本発明の主旨、作用および効果が同一でありながら、当然、種々の変形がありうることは言うまでもなく、これらも本発明の技術的範囲に当然属する。
発明の温度センサ素子は、上述のように、基板1から熱分離した薄膜2に形成したサーモパイル6を温度感応部5に設けた温度センサ素子であって、薄膜2は、複数の接合された多重層薄膜15を有し、その各層薄膜12には、それぞれ層サーモパイル13が形成されていること、小型かつ安価に製造できるものである。薄膜2として、無機材料でも有機材料でも使用できる。そして、本発明により、S/Nの高い温度センサ素子として、高感度の熱型赤外線センサやフローセンサなどに応用できるものである。従って、微小温度差を高精度で、しかも高感度に計測する必要がある赤外線放射温度計、特に耳式体温計の温度差センサとしても有望であり、また、微流量の液体や気体のフローセンサ、水素などの可燃性ガスセンサにおける微小発熱量の計測による水素などのガス検出、熱伝導型ガスセンサ、ピラニ真空計、熱型湿度センサや気圧センサなどの圧力センサなどの温度差計測に最適である。
1 基板
2、2A、2B 薄膜
3 サーモパイル
5、5A、5B 温度感応部
6 熱電対
7 受光部
8 犠牲領域
9 凹凸
10 空洞
11 貫通孔
12、12A、12B、12C 層薄膜
13、13A、13B、13C 層サーモパイル
14、14A、14B 合成サーモパイル
15、15A、15B 多重層薄膜
16 熱電導体A
17 熱電導体B
18 接点A
19 接点B
20 配線
21、21A、21B 電極端子A
22、22A、22B 電極端子B
23 電極
24 上下層薄膜導通部
25 赤外線吸収膜
26 熱伝導薄膜
27 接着剤
28 絶縁層
29 導電性材料
30 コンタクトホール
31、31A、31B、31C 枠
32 ピン電極
33 外部電極端子
34 絶対温度センサ
35 薄膜ヒータ
36 スリット
41 アレー基板
42 アレー基板結合部
50 赤外線センサ素子
55 放射温度計
60 被温度計測物体
65 ヒータ電極
70 レンズ系(受光部アレー)
91 メッキ膜
100 補強用薄膜
110 集積回路
121 垂直走査回路
122 水平走査回路
140 合成サーモパイルアレー

Claims (9)

  1. 基板から熱分離した複数の層サーモパイルから構成される多重層薄膜からなる合成サーモパイルを温度感応部に設けた温度センサ素子において、前記の各層サーモパイルを構成する各熱電対の冷接点と温接点のうちの一方の接点が前記基板の位置に形成されてあり、他方の接点が前記各層薄膜のうち基板から熱分離された領域に形成されていること、前記基板は、前記薄膜に比べて大きな熱容量でありヒートシンクとして作用していること、前記各層薄膜に形成されている各層サーモパイルは順次直列接続されて前記合成サーモパイルが形成されていること、その直列接続は合成サーモパイルの出力が大きくなるように構成されていること、前記温度感応部を赤外線の受光部としたこと、赤外線吸収膜を該受光部に具備してあり、該受光部で受けた熱を伝導する熱伝導薄膜を、前記受光部中央付近を含み、該受光部領域に形成されてある接点まで延在形成してあること、該熱伝導薄膜を受光部の前記多重層薄膜に対して赤外線吸収膜とは反対側に形成してあること、を特徴とする温度センサ素子。
  2. 前記各層薄膜を接着剤で接合して、一枚の前記多重層薄膜とした請求項1に記載の温度センサ素子。
  3. 前記多重層薄膜を構成する各層サーモパイルの層間接続を、各層サーモパイルの電極の上に形成されたそれぞれの対応する層薄膜の貫通孔を通して電気的に接続してある請求項1又は2に記載の温度センサ素子。
  4. 前記温度感応部を複数個アレー状に前記基板に配列させて構成した請求項1から3のいずれかに記載の温度センサ素子。
  5. 前記温度感応部に、サーモパイルの他に、少なくとも1個の薄膜ヒータを具備した請求項1から4のいずれかに記載の温度センサ素子。
  6. 基板に絶対温度センサを形成し、これを前記基板の温度検出用センサとした請求項1から5のいずれかに記載の温度センサ素子。
  7. 前記温度感応部を赤外線の受光部とし、赤外線センサとして実施した請求項2から6のいずれかに記載の温度センサ素子。
  8. 赤外線センサとしての1つの受光部に、基板から熱分離した複数の温度感応部を有し、かつ該複数の温度感応部も互いに熱分離してある前記多重層薄膜からなる請求項記載の温度センサ素子。
  9. 請求項7から8のいずれかに記載の温度センサ素子を用いて、物体からの赤外線を受光して、前記温度センサからの電気信号に基づいて前記物体の温度もしくは温度分布を表示するようにしたことを特徴とする放射温度計。
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