以下、本発明を適用してなる細胞培養装置の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明を適用してなる細胞培養装置の基本構成を示すブロック図である。
培養器1は、細胞を培養する容器であり、ポンプ3及び可撓性管部材2を介して未使用の薬品が注入されたリザーブタンク4に接続されている。廃液タンク7は、使用済みの薬品を貯めるものであり、ポンプ6及び可撓性管部材5を介して培養器1に接続されている。駆動手段8は、培養器1を回動させるものである。カメラ9は、培養器1を透過した光源10から発した光により、中の培養細胞を観察する。システムコントローラ11は、ポンプ3、ポンプ6、駆動手段8、カメラ9、光源10に接続され、これらポンプ3、ポンプ6、駆動手段8、カメラ9、光源10を制御する。
図2は、本発明を適用してなる細胞培養装置の機構部の詳細図であり、図1におけるシステムコントローラ11を省いた実際の構成を示している。培養器38は、透明な非毒性の材料、好ましくはポリスチレンまたはポリエチレンテレフタレートで形成されていることが望ましい。培養器38の本体15の表面にはガス透過膜16が貼ってある。培養器38の表面は、細胞が付着しやすいように親水性を持つように改質されていると良い。培養器38の略中央には薬品注入のためのチューブ接続部材19を設けられ、培地17などの薬品を培養器38内部に流し込む働きをする。この時、傾斜部381が各種液体の落下の衝撃を和らげて培養細胞へのダメージを防いでいる。
培養器38の底面には細胞が接着してそこで培養が行なわれる。チューブ接続部材18は細胞の老廃物が溶出し、培地中の栄養素が少なくなった古い培地を排出する排出口である。培養器38は、ロータ22上に固定され、このロータ22は下方にてカムフォロア27にて矢印E方向に回転できるよう、例えば、円周方向3箇所で自在に支持される。さらに、ロータ22の下方にはインターナルギア(図示せず)を形成し、このギアは、保温箱(フレーム)30に固定した培養器駆動モータ29の出力軸に勘合したピニオン28と噛みあう。ケーブルドラム25は、ロータ22に設けられたピンチ弁24の配線を巻く。巻き取りドラム26は、ロータ22が回転してもピンチ弁24の配線を巻き取り、配線が緩むことにより、他の突起物に絡まないように自動的に配線を巻き取るようになっている。例えば、ばねを利用し定常的にケーブルに張力を与えることで実現できる。
供給チューブ21は、培養器38の略中央に設けられたチューブ接続部材19に接続されている。ガイド部材35は、供給チューブ21をガイドするものである。この供給チューブ21は、ガイド部材35の上方に設けられたチューブ固定部材36にてフレーム30に固定され、このチューブ固定部材36からチューブ接続部材19までの間のチューブは、ガイド部材35の内部を自由に動くようになっている。
培地タンク67は未使用の培地を貯留し、緩衝液タンク68は緩衝液を貯留し、細胞剥離剤タンク69,70,71は細胞剥離剤を貯留している。各タンク67,68,69,70,71は、断熱箱80内に設けられている。ピンチ弁72,105,73,74,75は、各タンク67,68,69,70,71からの送液を制御するものである。また、ピンチ弁66は、後述する培養前細胞の注入を制御するものである。空気流入口78,79は、チューブ内の液溜まりを防止するために大気中の空気を導入するものであり、大気中の不純物を取り除くためのフィルタ(目の大きさは0.2μm以下が望ましい)を備えている。各タンク67,68,69,70,71から取り出されるチューブは、前述した供給チューブ21に接続され、しごきポンプ37で送液できるようになっている。しごきポンプ37は、ローラでチューブを挟み込み、そのローラを回転することによりチューブ内の液を送り出すポンプである。
廃液チューブ23は、培養器38の底面に設けられたチューブ接続部材18に接続され、ガイド部材99によりフレーム30外にガイドされる。このガイド部材99の下部には、チューブ固定部材100が設けられており、このチューブ固定部材100によって廃液チューブ23は固定され、かつこのチューブ固定部材100とチューブ接続部材18との間では廃液チューブ23は、自由に動くようになっている。細胞の老廃物が溶出し、培地中の栄養素が少なくなることによって生成される古い培地は、しごきポンプ101により廃液チューブ23を通って、廃液回収箱98内の廃液タンク102に貯留される。ピンチ弁103は、廃液タンク102への送液を制御し、ピンチ弁104は、廃液をしごきポンプ101で廃液タンク102へ送液する際の送液状態を制御するものである。
シャッターモータ50は、フレーム30の右側面に設けられた開口部をシャッター51で開閉するものであり、その回転軸にシャッター51に接続されたワイヤが巻回されている。シャッターモータ50の回転を制御することによりシャッター51を矢印A方向(図面上の上下方向)に移動できるようになっている。培養前細胞を貯留する容器52は、ホルダー部62に支持される。ホルダー62は、送りねじを有したモータ63によって矢印B方向(図面上の左右方向)に移動できるようになっている。容器52の上面にはゴム材が設けられ、外気からカバーされている(図示略)。針53は、細胞注入チューブ56に接続され、ピペッタアーム55に固定されている。ピペッタアーム55は、軸54に支持され、ピペッタ回転動モータ57により矢印D1方向に回転できるようになっている。回転部材58は、軸54と共に回転する部材であり、ピペッタ上下動モータ59とプーリ60を備えている。ピペッタ上下動モータ59の出力軸に固定されたプーリとプーリ60はベルト61により連結され、そのベルト61の一部は軸54と固定されている。
ピペッタ上下動モータ59の駆動により、軸54は上下動作するようになっている。ピンチ弁66は、培養前細胞をしごきポンプ37で送液する際、送液状態を制御するものである。なお、ピペッタアーム55には針39が固定されており、その一端にはエアーフィルター40が設けられている。この針39の機能は、容器52が硬質のプラスチック材料で形成された場合において、内部が印圧になって細胞が吸引しにくくなるのを防止するものである。なお、培養前細胞は、しごきポンプ37により吸引されると説明したが、針39から容器52に空気を圧送することによって送液するようにしてもよい。
シャッターモータ81は、フレーム30の左側面に設けられた開口部をシャッター82で開閉するものであり、その回転軸にシャッター82に接続されたワイヤが巻回されている。シャッターモータ81の回転を制御することによりシャッター82を矢印F方向(図面上の上下方向)に移動できるようになっている。培養後細胞を貯留する容器84は、ホルダー部93に支持される。ホルダー93は、送りねじ95を有したモータ94によって矢印G方向(図面の左右方向)に移動できるようになっている。容器84の上面にはゴム材が設けられ、外からカバーされている(図示略)。針83は、細胞注入チューブ84に接続され、ピペッタアーム85に固定されている。ピペッタアーム85は、軸87に支持され、ピペッタ回転動モータ88により矢印D2方向に回転できるようになっている。回転部材89は、軸87と共に回転する部材であり、ピペッタ上下動モータ90とプーリ91を備えている。ピペッタ上下動モータ90の出力軸に固定されたプーリとプーリ91はベルト92により連結され、そのベルト92の一部は軸87と固定されている。
ピペッタ上下動モータ90の駆動により、軸87は上下動作するようになっている。ピンチ弁103は、培養後細胞をしごきポンプ101で送液する際、送液状態を制御するものである。なお、ピペッタアーム55には針41が固定されており、一端にはエアーフィルター42が設けられている。この針41の機能は、容器84が硬質のプラスチック材料で形成された場合において、内部が陽圧になって細胞が吐出しにくくなるのを防止するものである。なお、培養後細胞は、しごきポンプ101により送液されると説明したが、培養器38に空気を圧送することによって、送液するようにしてもよい。
光源34は、フレーム30の下側からフレーム30内に光を供給するものであり、光の出射側にフィルター33を備えている。CCDカメラ31は、レンズを備えており、フレーム30の上側に設けられた観察窓32から培養器38にて培養される細胞を観察したり、継代時のタイミングを判定したりするのに利用されるものである。光源34は、画像の輝度ムラを防止するために複数のLEDをフラットに配置したタイプのものが好ましいが、光量が十分であるならば1つのLEDもしくはランプで構成してもよい。また、フィルター33は、CCDカメラ31に入射する光量を低減するためNDフィルター、及び細胞観察に適したコントラストを得るため適当なバンドパスフィルターから構成される。このフィルターは、CCDカメラ31の前面に設けても良い。NDフィルターは、CCDカメラ31の前面に、またバンドパスフィルターは細胞に害を与える短波長光をカットするものの場合は光源34の前面の方が好ましい。ヒータ108は、温度センサ106からの検知温度に基づいてフレーム30の内部を一定の温度に保つものである。ファン65は、フレーム30内の空気を攪拌するものである。スタンド96,97は、この細胞培養装置全体を床面に立設させるものである。継ぎ手107は、二酸化炭素と窒素と酸素の割合を制御した混合気体を供給する際の不純物を除くためのフィルターを備えている。
培養器38の上面に貼ったガス透過膜16は、全面を覆うように図示したが、部分的に設けてもよい。なお、培地の蒸発を防止するため、フレーム30内部の湿度を上げた方が良いのは言うまでもない。この場合、水を入れたトレーを内部に配置するのが容易かつ効果的である。培養器38の前面をガス透過膜16で覆わない場合には、継ぎ手107から供給される混合気体を直接培養器38の内部に供給するようにしてもよいし、また培地などに溶け込ませても良い。
また、フレーム30は、概ね全体を覆う形体としたが、培養器38の周辺部分のみ覆う構造としても良い。すなわち、2組のピペッタはフレーム30の一部として左右に設けられる場合について説明したが、フレーム30とは別個に構成して、フレーム30の外部に2組のピペッタを配置するようにしても良い。
図3は、図2の培養器38の詳細構成を示す図である。図3(a)は図2の培養器38を上面から見た平面図であり、図3(b)はその側断面図である。図3(a)において、チューブ接続部材19は、培養器38の円中心から距離L1だけ離れた位置に回転中心付近に設けられている。古い培地を排出するチューブ接続部材18や堰20の位置と形状は、変形例112,113,114のようにしても良い。変形例112は、堰20を省略したものであり、変形例113は、チューブ接続部材18が培養器38の側面に設けられているものであり、変形例114は、チューブ接続部材18の開口部が培養器38の底面に接するように設けられているものである。
変形例112,114は、培養器38の回転に伴う遠心力によって、細胞がチューブ接続部材18の開口部以外のくぼみ部分に凝集することがあるので、この点では変形例113が遠心力によって、細胞を培養器38外に排出することができるので、より好ましい。なお、このチューブ接続部材18の位置は、培養器38のどこに配置してもよく、特に限定はしない。また、距離L1も特に限定されるものではない。但し、培養器38の円中心と回転中心は、ずらした方が細胞の均一播種の点で好ましい。チューブ接続部材18の位置を、たとえば培養器38の円中心付近に配置することによっても細胞の凝集を避けることができる。
ここで回動とは、回転、偏心回転、平行移動、往復平行移動のうち少なくとも一つとこれらの組み合わせを含むものであり、特に細胞や液の攪拌や均一化に有用な動作のことである。例えば、培地や中和済み細胞剥離剤の培養器からの排出は、培養器を傾斜動作させても良い。また、培養器内の細胞の均一播種は、培養器を振動させてもよい。手作業による細胞培養では、培養器を8の字の軌跡を描かせるように動作させることで均一に播種することができる。このように回転動作が最もシンプルでかつ構成することも容易であるが、回転に限定する必要はなく、様々な並進動作、または回転と並進動作の組み合わせで対応してもよい。
図4は、図2の細胞培養装置の制御ブロック図の詳細を示し、複数の細胞培養装置を接続してそれをプラント化した場合を示すブロック図である。図2の細胞培養装置は、図4では大きなブロック127で示される。各ピンチ弁24,66,72,73,74,75,76,77,103,104、温度センサ106、ヒータ108、ファン65、しごきポンプ37,101、容器移動モータ94,63、培養器駆動モータ29、ピペッタ上下動モータ59、ピペッタ回転動モータ57、ピペッタ上下動モータ90、ピペッタ回転動モータ88、シャッターモータ50、81などは、それぞれI/O 120を介してバス121に接続される。また、CCDカメラ31は、画像取り込みボード250とI/O 120を介してバス121に接続される。バス121には、CPU122、操作卓123、操作器126、メモリ124、コンピュータネットワークドライバ125が接続されている。
図4においては、コンピュータネットワークが外部に配設されており、このコンピュータネットワークに細胞培養装置127及びこれ以外の複数の細胞培養装置128,129が接続され、さらに、このコンピュータネットワークに接続された制御監視装置130によって、これら複数の細胞培養装置127,128、129がそれぞれの離れた所から監視され、制御されるようになっている。制御監視装置130は、汎用のパーソナルコンピュータで対応可能である。なお、コンピュータネットワークの場合は、双方向のデータ通信手段であれば特に限定しない。また、単に細胞培養装置の状態を離れた所から認識する目的ならば、片方向のデータ通信手段で良い。このコンピュータネットワークに接続する細胞培養装置の台数は特に限定しない。複数の細胞培養装置を利用する場合、データ通信手段により接続することにより、通常数週間もの長い時間を要す培養期間中、各細胞培養装置の状態を常に遠隔監視できるので、大規模な培養設備には好適である。
制御監視装置130の機能は、図5において説明する細胞培養装置の動作を逐次監視し、異常時には外部に信号を発する機能を備えたものであり、現時点では公知の技術であるため、その詳細な説明は省略するが、監視機能は各培養装置が担ってもよいし、制御監視装置130が請負ってもよい。例えば制御監視装置130は、時分割で各細胞培養装置の動作を確認し、細胞各細胞培養装置が異常をおこした場合に、当該細胞培養装置を外部に知らしめる方法がもっとも容易である。
図5は細胞培養装置の動作を説明するためのフローチャートである。以下、図1〜図5を参照して、細胞培養装置の動作を説明する。なお、図4に示すCPU122、メモリ124、バス121は汎用コンピュータで用いられている技術であるので、以下それらCPU122、メモリ124、バス121の詳細動作は省略し、各アクチュエータの動作のみ説明する。
ステップS51:「スタート」
細胞培養装置127の動作開始であり、操作者が操作卓123の操作器126のスタートスイッチを押すことによってスタートする処理である。また、前述した図4に示すように複数の細胞培養装置と制御監視装置がコンピュータネットワークに接続されている場合は、制御監視装置側でスタートスイッチを押すように構成してもよい。なお、この時点では既に培養器38や、各タンク67,68,69,70,71には薬品が培養装置127にセットされている。
ステップS52:「培地注入」
ピンチ弁72が開放され、しごきポンプ37が動作して、培地タンク67内の培地がチューブ21を通って送液される。なお、後述するポンプ101も同様であるが、液量を計る手段を設けずにポンプの動作時間によって液量を決める。送液される培地は、矢印J1、矢印Jの経路を通り培養器38に流れ込み、培養器38で培地17となる。予め設定された量の培地が注入されたら、しごきポンプ37の動作を停止し、ピンチ弁72は閉じる。ここでの培地量の設定値は予めメモリ124に記憶されている。
ステップS53:「容器52の投入」
操作者が操作器の該当するスイッチを操作すると、シャッターモータ50が動作し、シャッター51が矢印A方向(上昇方向)にスライドする。シャッター51が所定量上昇した後、容器移動モータ63が動作し、ホルダーが矢印B方向(右方向)に移動する。この移動後、操作者は培養前細胞を入れた容器52をホルダー62に置く。その後、容器移動モータ63は上記と逆方向に回転し、ホルダー62は矢印B方向(左方向)に移動する。シャッターモータ50が回転し、シャッター51は矢印A方向(下降方向)に移動して、閉じる。
ステップS54:「ピペッタを駆動させ細胞を培養器38に移送」
容器移動モータ63が小刻みに正逆回転し、容器52内の細胞を懸濁する。詳細は述べないが、ホルダー62内部に容器52を振動させるアクチュエータを備えても良い。この動作と前後して、ピペッタ回転動モータ57が動作し、ピペッタアーム55が回転する。次にピペッタ上下動モータ59が動作し、ピペッタアーム55が下降して、容器52内に針53が挿入する。ピンチ弁66が開放し、しごきポンプ37が動作する。これにより、容器52内の培養前細胞は吸いだされ、細胞は矢印J2→J方向へチューブ56を通って、送液され、チューブ21を通り、培養器38に注入される。この注入終了後、ピンチ弁66は閉じ、またしごきポンプ37は停止する。
ステップS55:「培養器をシャッフリングし、均一化・播種」
モータ28が回転し、培養器38に注入した細胞を均一化・播種のため懸濁する。細胞の均一化・播種は、過度の細胞密度は細胞の変質を招く恐れがあるため、細胞培養を効率高く行うために必要な処理である。なお、培養前細胞の注入が確認された後にモータ28が回転を始めるのではなく、培養細胞が接着依存性細胞(固形物を認識してこの固形物に接着することにより培養する細胞)の場合、培養前細胞が培養器38内部に注入されている最中に、モータ28を回転させた方が良い。なお、ステップS55の次にはステップS56に進む場合とステップS58にジャンプする場合がある。ここではステップS58にジャンプする場合で説明する。
ステップS58:「培養」
このステップでは、培養前細胞は培養に入ることになるが、培養中は、温度センサ106及びヒータ108によりフレーム30内は培養に適した温度(37℃前後)に制御されており、またファン65によってフレーム30内部の大気も攪拌されて、温度ムラがないようにしてある。
ステップS56:「培地を排出」
このステップは、ステップS58を実行する前に適宜に実行できるステップであり、ピンチ弁24と、ピンチ弁104が開放され、しごきポンプ101が動作して、培養器38内の培地17がチューブ23を通って、廃液タンク102に培地が送液(排出)される。送液(排出)完了後、しごきポンプ101が停止し、ピンチ弁24と、ピンチ弁104は閉じる。
ステップS57:「新しい培地を注入」
このステップも同様にステップ6を実行する前に適宜に実行できるステップであり、ピンチ弁72が開放し、しごきポンプ37を動作させ、培養器38内に新しい培地が注入される。この培地の注入後、ピンチ弁72は閉じ、しごきポンプ37は停止する。
ステップS59:「継代のタイミングか?」
上記培養中において、予め時間を決めておいてもよいし、操作卓にスイッチを設けて、術者が動作を指示するようにしてもよいが、次のように画像を利用すると細胞の品質安定化に寄与する。適宜に光源34が発光し、CCDカメラ31が培養器38内で培養されている細胞の画像を取得する。培養初期段階の細胞は多くの箇所で密度が非常に低く、部分的に密な状態(コロニー)を形成する場合が多い。そのコロニーを培養器駆動モータ28の動作によりCCDカメラ31が捉え、計測する。このコロニー部分の細胞がコンフルエントに到達していなければ、引き続き培養される。コンフルエントか否かの判断は後述するステップS60の細胞数感度と同じである。その時必要であれば、ステップS56とS57の処理を行なってからステップS58に進む。また、コンフルエントに到達していれば、継代のタイミングということになり、次のステップS60に進む。
ステップS60:「目標の細胞数か?」
CCDカメラ31からの情報を元に細胞数をカウント又は演算する。その結果として、細胞数が予め操作者が設定した値に達していれば、ステップS68に進み、目標細胞数に達していなければ、ステップS61に進む。
ステップS61:「培地を排出」
ステップS61〜ステップS67の処理は、細胞数が予め操作者が設定した値に達していなかった場合に実行される処理である。まず、このステップでは、ピンチ弁24とピンチ弁104が開放され、しごきポンプ101が動作して、培養器38内の培地17がチューブ23を通って、廃液タンク102に培地が送液(排出)される。送液(排出)完了後に、しごきポンプ101が停止し、ピンチ弁24と、ピンチ弁104は閉じる。
ステップS62:「培養器を緩衝液で洗浄」
ピンチ弁105が開放し、しごきポンプ37が動作して、緩衝液タンク68から緩衝液が培養器38に注入される。注入後、ピンチ弁105が閉じ、しごきポンプ37が停止する。培養器駆動モータ28が回転し、培養器38を回動させ緩衝液を培養器底面に行き渡らせる。その後、ピンチ弁24が開放し、しごきポンプ101が動作して、廃液タンク102に培養器38内の緩衝液を送液する。
ステップS63:「細胞剥離剤を注入」
ピンチ弁73が開放され、しごきポンプ37が動作し、細胞剥離剤タンク69から細胞剥離剤が培養器38に注入される。注入後、ピンチ弁73が閉じ、しごきポンプ37が停止する。培養器駆動モータ28が回転し、細胞剥離剤を培養器底面に行き渡らせる。
ステップS64:「中和剤を注入」
ここでは中和剤を培地としている。上述の細胞剥離剤としては様々なものが利用されているが、ここでは培地には血清が含まれるものとして、この血清により中和される細胞剥離剤を想定している。従って、動作としては、上述のステップS52と同様で、ピンチ弁74を開放してタンク70から中和剤が注入される。
ステップS65:「培養器をシャッフリングし、均一化・播種」
ステップS55と同一の処理が行なわれる。すなわち、モータ28が回転し、培養器38に注入した細胞を均一化・播種のため懸濁する。そして、所定時間経過後すなわち細胞が接着した後に、次のステップS66に進む。
ステップS66:「中和された細胞剥離剤を排出」
ピンチ弁24とピンチ弁104が開放され、しごきポンプ101が動102に培地が送液(排出)される。送液(排出)完了後に、しごきポンプ101が停止し、ピンチ弁24と、ピンチ弁104が閉じる。
ステップS67:「新しい培地注入」
ステップS52と同一の処理が行なわれる。すなわち、ピンチ弁72が開放され、しごきポンプ37が動作して、培地タンク67内の培地がチューブ21を通って送液される。送液される培地は、矢印J1、矢印Jの経路を通り培養器38に流れ込み、培養器38で培地17となる。予め設定された量の培地が注入されたら、しごきポンプ37の動作を停止し、ピンチ弁72は閉じる。
ステップS68〜ステップS71の処理は、細胞数が予め操作者が設定した値に達していた場合に実行される処理であり、上述のステップS61〜ステップS64の処理と同じである。
ステップS68:「培地を排出」
ステップS61と同一の処理が行なわれる。すなわち、ピンチ弁24とピンチ弁104が開放され、しごきポンプ101が動作して、培養器38内の培地17がチューブ23を通って、廃液タンク102に培地が送液(排出)される。送液(排出)完了後に、しごきポンプ101が停止し、ピンチ弁24と、ピンチ弁104は閉じる。
ステップS69:「培養器を緩衝液で洗浄」
ステップS62と同一の処理が行なわれる。すなわち、ピンチ弁105が開放し、しごきポンプ37が動作して、緩衝液タンク68から緩衝液が培養器38に注入される。注入後、ピンチ弁105が閉じ、しごきポンプ37が停止する。培養器駆動モータ28が回転し、培養器38を回動させ緩衝液を培養器底面に行き渡らせる。その後、ピンチ弁24が開放し、しごきポンプ101が動作して、廃液タンク102に培養器38内の緩衝液を送液する。
ステップS70:「細胞剥離剤を注入」
ステップS63と同一の処理が行なわれる。すなわち、ピンチ弁73が開放され、しごきポンプ37が動作し、細胞剥離剤タンク69から細胞剥離剤が培養器38に注入される。注入後、ピンチ弁73が閉じ、しごきポンプ37が停止する。培養器駆動モータ28が回転し、細胞剥離剤を培養器底面に行き渡らせる。
ステップS71:「中和剤を注入」
ステップS64と同一の処理が行なわれる。すなわち、ピンチ弁74を開放してタンク70から中和剤が注入される。そして、所定時間経過後すなわち細胞が接着した後に、次のステップS72に進む。
ステップS72:「中和された細胞剥離剤を排出」
ステップ66と同一の処理が行なわれる。すなわち、ピンチ弁24とピンチ弁104が開放され、しごきポンプ101が動102に培地が送液(排出)される。送液(排出)完了後に、しごきポンプ101が停止し、ピンチ弁24と、ピンチ弁104が閉じる。
ステップS73:「ピペッタを駆動させ細胞を容器に移送」
ピペッタ回転動モータ88が動作し、ピペッタアーム85を回転させる。次にピペッタ上下動モータ90が動作し、ピペッタアーム85が下降して、容器84内に針83が挿入される。ピンチ弁24,103が開放し、しごきポンプ101が動作する。これにより、培養器38内の培養後細胞は吸いだされ、細胞は矢印P1方向にチューブ23を通って、送液(移送)される。そして、チューブ86を通り、細胞保管容器84に注入される。
ステップS74:「細胞保管容器を装置外に搬出」
シャッターモータ81が動作し、シャッター82が上昇する。所定量上昇後、容器移動モータ94が動作し、ホルダーが矢印G方向に移動する。これによって、操作者は培養された細胞が入った細胞保管容器84を取得できる。
ステップS75:「終了」
操作者は培養前と比較し、コンタミネーションのない純粋な培養細胞が入った容器84を取得することができる。
なお、上記ステップS53にて、容器52に入れた培養前細胞が骨髄液に含まれる細胞である場合、目的とする細胞以外の不要な細胞(血液関係の細胞)を取り除くために以下のステップをステップS56とステップS57の間に入れると良い。
ステップS62 →ステップS63→ステップS64→ステップS66
図6は、図5のステップS55の「培養器をシャッフリングし、均一化・播種」の動作の一例を示す図である。培養器38は、この図6(a)に示すように正逆回転を繰り返す。例えば、正方向1回、逆方向1回、最後の正方向1回の停止時にはゆっくりと停止させるようにする。すなわち、最初の加速時間と減速時間(t1,t2,t3,t4,t5)を短くすることにより、培養器38の培地17は激しく波打ち、懸濁状態になる。さらに、最後の動作の減速時間(t6)を長く取ることにより、培地はその慣性により円周方向に流れを継続しながら、その速度を落とし、やがて停止する。これにより細胞は均等に播かれるようになる。なお、最後の減速時間(t6)をS字曲線にしても良い。
図6(b)は細胞の播種状態を示すシミュレーション結果の概略図である。色の濃い中心付近の箇所(内周部S2)は、最後の動作(減速時間t6)にて、流れの接線速度が低いので比較的細胞が凝集している様子が示され、外周部S1は、細胞が薄く播かれている様子が示されている。なお、正逆回転の繰り返し数、回転速度、角加速度(t1,t2,t3,t4,t5,t6)は、特に限定せず、条件によって培養器38の前面にわたり、均等に細胞を播くこともできる。しかし、例えば、上述のように中心付近に細胞を凝集する動作を故意に実現することで、その部分のみ画像観察することによりコンフルエントのタイミング判定には都合がよくなることもある。すなわち、培養器38の全面にわたり観察する必要がなくなり、また過度に培養することで細胞の品質を損なうことがなくなる。また、密度に応じて増殖しやすくなる細胞種を培養する場合において、このような密度制御は好適である。
図7は、上述の実施の形態に係る細胞培養装置の培養器38の第1の変形例を示す図であり、図7(A)は、上面から見て図を、図7(B)はその側面図を示す。例えば、4つの培養器170a〜170dをロータ22に回転中心が4つの培養器170a〜170dの中心となるように乗せる。この図の培養器170a〜170dは、概ね同一の円柱形状に形成されており、各培養器170a〜170dのチューブ接続部材174a〜174dはチューブ171によって接続されている。なお、図7(B)では、培養器170a,170cを省略してある。このチューブ171は、図2のチューブ21と同一機能を果たすものである。チューブ接続部材175a〜175dは、古い培地を排出するものである。ここでは、培養器170a〜174dは4ヶとしたが、特に4ヶに限定せず、2ヶ,3ヶ,6ヶと自由に選択してもよい。また、培養器を重ねて配置しても良い。この図7のように培養器を複数に分けることにより、培養面積を自由に変更できる。これにより、細胞が接着系の細胞(例えば間葉系幹細胞)では、培養可能な細胞数は面積と比例関係にある場合が多く、細胞培養における細胞数の調整が可能となる。なお、動作は図5の処理フローと同一であり、矢印Mの様にシャッフリングすることにより、培養器170a〜174d内の培地は矢印Qの方向に最終的に流れることになって、培養器170a〜174d内の細胞は均一に播かれることになる。
図8は、上述の実施の形態に係る細胞培養装置の培養器38の第2の変形例を示す図である。細胞は培養時、その細胞種によって異なるが、概ねコロニー状に増える。従って、コンフルエントになったら、より広い面積の、比較的清浄な面に播種、つまり継代することが必要である。図8(A)に示す培養器167,168,169は、このような特性が顕著な場合の細胞培養に適用して好適な培養器の一例である。培養器167は、概ね円形のシャーレ構造をしており、その上面には図2の供給チューブ21と同じ機能の供給チューブ182が接続される。培養器168は、培養器167とほぼ同じ外囲器構造をしているが、内部に培養補助板189が1枚設けられている。培養器169は、培養器167とほぼ同じ外囲器構造をしているが、内部に培養補助板191,192が2枚設けられている。この培養器169の底面には廃液チューブ185が接続される。各々の培養器167,168,169は接続チューブ183,184でそれぞれ接続され、その途中に設けられたピンチ弁186,187,188によって送液が制御される。こられの培養器167,168,169とピンチ弁186,187,188とが、図2に示すロータ22に固定される。図8(B)は、各培養器167,168,169の回転中心軸との位置関係を示す図であり、図に示すように回転中心軸Tより大幅にずらしてもよく、矢印Rにて示す方向にシャッフリングすることにより培養器167,168,169内の細胞は均一に播かれることになる。
図8の培養器167,168,169を用いた細胞培養装置の動作は、前述までの培養器と大きな差異はないが、培養器が3ヶとなり、またピンチ弁が2ヶ増えている。
図9は、図8の培養器を用いた細胞培養装置の動作を説明するためのフローチャートである。図8の培養器を用いた動作は、図5と動作が似ているので図5との相違点について説明する。図9において、図5と同じ構成のものには同一の符号が付してあるので、その説明は省略する。
図5にて説明した動作は、継代時に培地を排出(ステップS61)、培養器を緩衝液で洗浄(ステップS62)、細胞剥離剤を注入(ステップS63)、中和剤を注入(ステップS64)、培養器をシャッフリングし、均一化・播種(ステップS65)、中和された細胞剥離剤を排出(ステップS66)、新しい培地を注入(ステップS67)であった。すなわち、継代時には新しい培養器に移し変えることなく、コロニー状に増えた細胞をその場所で培養器をシャッフリングすることにより均等に播種し、再度目標の細胞になるまで培養するというものであった。これに対して、図8の培養器ではステップS64の後に、ステップS90の「下段の培養器に播種」という処理を実行している。
すなわち、培養器167でコンフルエントになると、その下の培養器168に細胞を送液により移し変える。そして、この培養器168でコンフルエントになると、その下の培養器169に細胞を送液により移し変える。各々の培養器に注入する培地量は、継代毎に培地量を多くし、培養補助板での培養ができるようにする。すなわち、初回の培養において培地量は、培養器167において培養器本体180の底面のみ培養する量とする。1回の継代後の培養は、培養器168において培養補助板189が漬かる程度の培地量とする。これにより、細胞は培養器本体180と、培養補助板189の両方で培養できるようになる。2回の継代後の培養は、培養器197において培養補助板190と培養補助板191が漬かる程度の培地量とする。これにより、細胞は培養器本体180と、培養補助板190と、培養補助板191の3枚で培養できるようになる。培養補助板が漬かる量とすることで、培養器168は培養器167に対して約2倍、培養器169は培養器167に対して約3倍となる。
次に、ピンチ弁の動作を説明する。
(1)初回の培養:培地、緩衝液、細胞剥離剤、中和剤を排出する時にピンチ弁186,187,188を開放する。
(2)継代1回後の培養:培地、緩衝液、細胞剥離剤、中和剤を注入する時にピンチ弁186を開放する。また、培地、緩衝液、細胞剥離剤、中和剤を排出する時にはピンチ弁187,188を開閉する。
(3)継代2回後の培養:培地、緩衝液、細胞剥離剤、中和剤を注入する時にピンチ弁186,187を開放する。また、培地、緩衝液、細胞剥離剤、中和剤を排出する時にはピンチ弁188を開閉する。
上述の実施の形態においては、培養器の個数、各培養器の形や大きさなどは限定されるものでなくなく、楕円や矩形としてもよく、各々の大きさを変えてもよい。また、培養補助板の枚数も1枚や2枚に限定されるものではない。図8の実施の形態においては、培養器は全体的に小型化でき、しいては装置の小型化を実現することが可能である。なお、図8においては、複数の鏡278,279,282,283,284,285が各培養器167〜169間に配置されている。これらの鏡は光源281から出射した光をCCDカメラ280で受けるためのものである。光源281の直前にはフィルター286が設けられている。CCDカメラ280、光源281、フィルター286は、ユニット288のように一体化されており、図示を省略してある駆動機構(例えば、モータと送りねじで構成)により矢印V方向に移動することができるようになっている。このユニット288を矢印V方向に移動することによって、培養器が多層構造となっていても、CCDカメラ280と鏡278,279,282,283,284,285を利用し、横から培養器167〜169の観察ができるようになっている。これらの鏡278,279,282,283,284,285は、図において横方向(X軸方向)に移動して、培養器内を走査可能としてもよい。
図10は、上述の実施の形態に係る細胞培養装置の培養器38の第3の変形例を示す断面図である。図10の培養器が図8の培養器と異なる点は、継代時に新しい培養器に移し変えることなく、図2に示す培養器38と同様に扱えるようにした点である。構造的には、概ね円形のシャーレ構造をしており、上面には図2の供給チューブ21と同じ機能の供給チューブ197が接続されている。培養器本体195には蓋199が被され、その内部には培養補助板201,202が2枚設けられている。動作の概要は、図8と同じであるが、継代毎に培地量を多くし、培養補助板での培養ができるようにしてある。すなわち、初回の培養において培地量は、培養器本体195の底面のみである。1回の継代後の培養は、培養補助板201が漬かる程度の培地量とする。これにより、細胞は培養器本体195と、培養補助板201の両方で培養できるようになる。2回の継代後の培養は、培養補助板202が漬かる程度の培地量とする。これにより、細胞は培養器本体195と、培養補助板201と、培養補助板202の3枚で培養できるようになる。これによって、図2の培養器38と比べて、図8と同様に小型化を実現できる。以上の説明において、培養器の個数や各培養器の形や大きさなどは限定されるものではなく、楕円や矩形としてもよく、各々の大きさを種々変えてもよい。また、培養補助板の枚数も2枚に限定されるものではない。図10に示す実施の形態によれば、培養器を全体的に一層小型化でき、しいては装置の小型化を実現することができる。
図11は、細胞を均一に播種する手法の一例を示す図である。この手法は、上述の実施の形態の培養器に適用することによって好適な効果を生むものである。図11(A)において、培養器本体300には、培養器本体の蓋301が設けられ、その上面側に供給用チューブ接続部材302が設けられ、下面側に磁石307,308,309,310が設けられている。傾斜部381は、供給用チューブ接続部材302から供給される液体の落下の衝撃を和らげて細胞へのダメージを防ぐものである。これら磁石307,308,309,310は、図2においてフレーム30に固定される。球状部材303,304,305,306は、培養器本体300(図2の培養器38と同一)の中に入れられるものであり、球状磁性材の表面に細胞に対して無毒性の高分子プラスチック、セラミック、チタンなどがコーティングされたものである。培養器300が回転するとそれに伴い球状部材303,304,305,306も培養器本体300内を転がり、内部の培地を攪拌するようになり、細胞の均一播種が可能になる。図11(B)は、培養器本体312に培養器本体の蓋313が設けられ、その上面側に供給用チューブ接続部材314が設けられ、下面側に棒状部材315が設けられている。棒状部材315は、培養器本体300(図2の培養器38と同一)の中に入れられるものであり、棒状の磁性材の表面に細胞に対して無毒性の高分子プラスチック、セラミック、チタンなどがコーティングされたものである。図11(B)の棒状部材315を用いた場合も、図11(B)と同様の効果を奏する。
図12は、上述の実施の形態における培養器とチューブの接続方法の一例を示す図である。図2では培養器、チューブ、リザーバタンクなどは予め接続されているものとして説明したが、ここでは途中で切断されたチューブを供給用チューブ接続部材に接続して培養している。培養器325(図2の培養器38と同一)には供給チューブ320と廃液チューブ326が接続されている。それぞれのチューブ320,326の切断部には、例えばゴムのような柔軟材からなる栓321,327が挿入されている。実際に培養に入る前に、針322,328を有した供給チューブ323と廃液チューブ329を接続する。なお、針322,328を刺す前に栓321,327をアルコールなどで滅菌するとよい。このようにすることにより、長いチューブが接続された培養器を装置にセットする際にチューブの取り回しが楽になり、操作性が上がる。なお、培養前細胞を注入する際、シリンジ324を使えば、直接培養器325に細胞を入れることができる。また、途中で切断された供給チューブ323と廃液チューブ329を培養器325に予め接続せずに、直接ゴム栓321,327をチューブ接続部材に取り付けても良い。
図13は、上述の実施の形態における培養装置の一部の滅菌法を示す図である。この滅菌法では、培養器38と各タンク71,70,69,68,67,102とがそれぞれチューブによって接続され、そのままの状態で滅菌バッグに矢印Sに示すように丸ごと封入され、ガンマ線などからの滅菌に供するようになっている。滅菌バッグ340は、外気との接触を防ぐ材質で作られたものであり、一般に利用されているもので良い。このように細胞に触れるものは全て滅菌することにより、培養中はチューブを外さなくてすむことから、コンタミネーションのリスクは皆無となる。
なお、前記図2において400は、光または超音波を用いた培養器38内の液面高さを検出する液面検出手段である。ポンプやピンチ弁が動作不良を起こした場合、液面高さが設定位置から逸脱するが、このような場合外部に警報を出す。
図14は、本発明を適用してなる細胞培養装置の別の実施の形態に係る機構部の詳細図を示す図である。この細胞培養装置は、基本的には図2のものと同じ構成をしている。従って、図14において、図2と同じ構成のものには同一の符号が付してあるので、その説明は簡略化する。
培養器140は、図2の培養器38と同様に底面には細胞が接着してそこで培養が行なわれる。培養器140は、培養器本体と蓋部材とからなる。培養器140は、培養中の細胞について顕微鏡などで観察できることが必要であることから透明な材質が好ましく、また毒性のないものである必要がある。これらのことから材質としては、ポリスチレン(PS)やポリエチレンテレフタレート(PET)材が好ましい。この蓋部材には、薬品注入及び排出のための3つの第1ポート141、第2ポート142、第3ポート143が設けられている。
第1ポート141は、培地などの薬品や培養後の細胞の排出用ポートである。第1ポート142には廃液チューブ141bが接続され、培地を排出するためのしごきポンプ144,145が配され、培地を排出できるように構成されている。第2ポート142は、培地などの薬品や培養前の細胞を供給するためのポートである。この第2ポート142には供給チューブ142bが接続され、第1ポート141と同様にしごきポンプ146,147が配されている。第3ポート143は、培養器140内部への大気吸入用ポートであり、その外側にはチューブ143aを介してエアーフィルター143bが接続されている。この第3ポート143は、培養器140内部への空気吸入ポートであり、この目的を実現するものであれば、特にポートを備えなくてもよい。図14の細胞培養装置では、培養器140を保持する保持リング148の底面側にフック149を引っかけ、それをレバー150及びチルトモータ151で持ち上げることによって、培養器140全体を傾斜するようにしている。
培養器140は、保温箱(インキュベータ)160内のロータ153に固定された保持リング148に保持されており、このロータ153は、保温箱160の上部に設けられた培養器駆動モータ29aの出力軸に連結され、矢印E方向に回転駆動されるように構成されている。図14は、ロータ153が時計回り(左方向)に旋回して保持リング148及び培養器140が保温箱160の左側に移動した状態を示す。従って、この状態からロータ153は半時計回り(右方向)に旋回することによって、保持リング148及び培養器140は図面上の手前を通過して保温箱160の右側に移動することになる。保温箱160は、従来のように2重箱構造をとらずに、また気密をほとんど考慮しなくて済む簡易な方法で構成されたものである。この保温箱160の詳細構成について後述する。
供給チューブ142bの一端は、培養器140の外周付近に設けられた第2ポート142に接続されている。この供給チューブ142bは、保温箱160内部のロータ153上方に設けられ、ロータ153の旋回に応じて内部を自由に動くようになっている。供給チューブ142bの他端は、加温バッグ170に接続されている。加温バッグ170は、供給チューブ142bを通過する媒体の温度を4度から約20度に加温するものであり、背面に加温用ヒータ171を備えている。
なお、加温バッグ170は、媒体の温度を上げることができれば、その形状は限定されない。チューブをスパイラル状に巻いたものでもよい。この加温バッグ170を媒体が通過する時には、ポンプ146、147、ピンチ弁147aを制御し、媒体を一時滞留させる。
培地タンク67は、未使用の培地を貯留し、緩衝液タンク68は緩衝液を貯留し、細胞剥離剤タンク69,70,71は細胞剥離剤を貯留している。なお、図15では細胞剥離剤タンク69のみを示し、細胞剥離剤タンク70,71の図示を省略してある。各タンク67,68,69,70,71は、断熱箱80内に設けられている。断熱箱80の側面には、ペルチェ素子109を介して外部に放熱ヒートシンク110が、内部に吸熱ヒートシンク111がそれぞれ設けられていて、熱交換が行なわれ、一定温度に保持されている。ピンチ弁72,105,73,74,75は、各タンク67,68,69,70,71から供給チューブ142cへの送液を制御するものである。各タンク67,68,69,70,71から取り出されるチューブは、供給チューブ142cに接続され、しごきポンプ146,147で送液できるようになっている。しごきポンプ146,147は、ローラでチューブを挟み込み、そのローラを回転することによりチューブ内の液を送り出すポンプである。しごきポンプ146,147のすぐ後には送液調整用のピンチ弁146a,147aが設けられている。
なお、ポンプ144,145が送る液量を計る手段を設けず、これらポンプの動作時間によって液量を決める。
ピンチ弁66a,66bは、供給チューブ142bへの培養前細胞の注入を制御するものであり、補助供給チューブ142dに2個設けられている。2個のピンチ弁66a,66bを並べて設けてあるのは、細胞注入後に補助供給チューブ142dを介して外気などが流入するのを防止するためである。
供給チューブ142cの一端は、加温バッグ170に接続され、他端はピンチ弁172を介して保温箱160内に挿入され、その端部にエアーフィルター173が設けられている。このエアーフィルター173、供給チューブ142c、加温バッグ170、供給チューブ142b、第3ポート143、チューブ143a、エアーフィルター143bによって空気循環経路が形成されている。すなわち、しごきポンプ146,147が回転して、供給チューブ142b,142c内のエアーを送出することによって、培養器140内のエアーを循環させるようになっている。
廃液チューブ141bの一端は、培養器140の外周付近に設けられた第1ポート141に接続されている。この廃液チューブ141bは、保温箱160内部のロータ153上方に設けられ、ロータ153の旋回に応じて内部を自由に動くようになっている。廃液チューブ141bは、途中で二股に分岐され、それぞれの経路を介して廃液タンク102又は培養後細胞を貯留する容器84に送液されるようになっている。すなわち、廃液チューブ141bの分岐した一方は、ピンチ弁176、ペーハー測定部177、しごきポンプ145、ピンチ弁178を介して廃液タンク102に接続され、他方はピンチ弁174、しごきポンプ144を介して廃液タンク102又はピンチ弁174、しごきポンプ144、ピンチ弁175を介して容器84に接続されている。
細胞の老廃物が溶出し、培地中の栄養素が少なくなることによって生成される古い培地は、しごきポンプ144により廃液チューブ141bを通って、廃液回収箱内の廃液タンク102に貯留される。一方、廃液のペーハーを測定するために、古い培地は、しごきポンプ145により廃液チューブ141bを通って、ペーハー測定部177を通過して、同じく廃液タンク102に送液される。
ペーハー測定部177は、廃液のペーハーを測定する前に、保温箱160内に設けられた校正液タンク161,162に貯留されている校正液をピンチ弁163,164を通過させることによってペーハーを基準値に校正し、その後に廃液を通過させてペーハー測定するものである。このペーハー測定部177の詳細については後述する。
培養前細胞を貯留する容器230は、モータ231の回転軸に対して偏心して設けられたホルダー232に支持されている。モータ231が回転することによって、容器230内の培養前細胞は十分に懸濁される。容器230の上面にはゴム材からなるキャップ233が設けられ、外気からカバーされている。キャップ233の内部にはアルコール消毒液が染み込んだ不織布234が設けられており、キャップ全体を覆うようにカバー235が設けられている。針236は、キャップ233及び不織布234を介して容器230内の管部材238に接続され、図示していないアームに固定されており、矢印D1方向に直線移動できるようになっている。針237は、容器230内に大気を供給するものであり、その端部にエアーフィルター239を備えている。この針237の機能は、容器230が硬質のプラスチック材料で形成された場合において、内部が陰圧になって細胞が吸引しにくくなるのを防止するものである。なお、培養前細胞は、しごきポンプ147により吸引されるが、この針237から容器230内に空気を圧送することによって送液するようにしてもよい。この培養前細胞を貯留する容器230及び針236,237の詳細構成については後述する。
培養後細胞を貯留する容器240は、図示していないホルダーに支持されている。容器240の上面にはゴム材からなるキャップ241が設けられ、外気からカバーされている。キャップ241の内部にはアルコール消毒液の染み込まれた不織布244が設けられており、キャップ全体を覆うようにカバー245が設けられている。針246は、キャップ241及び不織布244を介して容器240内の侵入し、培養後細胞を送液可能になっている。針246は、図示していないアームに固定されており、矢印G1方向に直線移動できるようになっている。針247は、容器240内の空気を排出するものであり、その端部にエアーフィルター249を備えている。この針247の機能は、容器240が硬質のプラスチック材料で形成された場合において、内部が陰圧になって細胞を吸引しにくくなるのを防止するものである。なお、培養後細胞は、しごきポンプ144により吸引されるが、この針247から容器240内の空気を排出することによって送液するようにしてもよいし、保温箱160内に空気を圧送することによって、送液するようにしてもよい。この培養後細胞を貯留する容器240及び針246,247の詳細構成については後述する。
光源34aは、保温箱160の上側から保温箱160内に光を照射するものであり、光の出射側にフィルターなどを備えている。CCDカメラ31aは、レンズを備えており、保温箱160の下側に設けられた観察窓32aから培養器140にて培養される細胞を観察したり、継代時のタイミングを判定したりするのに利用されるものである。光源34aは、画像の輝度ムラを防止するために複数のLEDをフラットに配置したタイプのものが好ましいが、光量が十分であるならば1つのLEDもしくはランプで構成してもよい。また、光源34aに配置されるフィルターとしては、CCDカメラ31aに入射する光量を低減するためNDフィルター、及び細胞観察に適したコントラストを得るため適当なバンドパスフィルターから構成される。このフィルターは、CCDカメラ31aの前面に設けても良い。NDフィルターは、CCDカメラ31aの前面に、またバンドパスフィルターは細胞に害を与える短波長光をカットするものの場合は光源34aの前面の方が好ましい。光源34a及びCCDカメラ31aは、図14の紙面に対して垂直な方向に移動可能に設けられている。すなわち、光源34a及びCCDカメラ31aは、図に対して垂直方向に延びたレール34b,31bに対してローラ34c,34d,31c,31dを介して移動可能に設けられている。これによって、旋回移動する培養器140と垂直方向に移動する光源34a及びCCDカメラ31aによって、培養器140の所望の場所を観察可能な構成となっている。
ヒータ201〜204は、保温箱160内に設けられた温度センサ106からの検知温度に基づいて保温箱160の内部を一定の温度に保つものである。なお、この実施の形態では、ヒータ201〜204には、熱拡散用の放熱板205,206が保温箱160の側面に沿って設けられている。ファン65は、保温箱160内の空気を攪拌するものである。継ぎ手107は、二酸化炭素と窒素と酸素の割合を制御した混合気体を供給する際の不純物を除くためのフィルターを備えている。二酸化炭素センサ205は、保温箱160内の二酸化炭素を検出し、一定に保持するためのものであり、二酸化炭素ボンベ210からレギュレータ211及び電磁弁212を介して所定量の二酸化炭素を保温箱160内に供給できるようにしてある。なお、この実施の形態では、二酸化炭素ボンベ210からレギュレータを介して送出される二酸化炭素ガスを用いて多連型電磁弁213を制御して、チューブの各所に設けられたピンチ弁を制御するようにしている。
図15は、図14で使用される培養器の詳細を示す図である。培養器140は、培養器本体140aと、蓋部材140bとからなる。この蓋部材140bには、薬品注入及び排出のための3つの第1ポート141、第2ポート142及び第3ポート143が設けられており、それぞれのポートに廃液チューブ141b、供給チューブ142b及びチューブ143aが接続されている。
図16は、培養器における第1ポート141、第2ポート142、第3ポート143の詳細を示す図である。なお、図示を明確にするため断面図のように明示しているが、正確な位置関係は後述する図17に示すようになっている。第1ポート141は、培地などの薬品や培養後の細胞の排出用ポートである。この第1ポート141には、培養器140内部に突出するよう管部材141aが設けられる。この管部材141aは、その先端部が培養器本体140aの底面に触れても培地140cを吸引できるよう斜めにカットしてある。
第1ポート142の外側には廃液チューブ141bが接続され、培地を排出するためのしごきポンプ144,145が配され、培地140cを排出できるように構成されている。第2ポート142は、培地140cなどの薬品や培養前の細胞を供給するためのポートである。この第2ポート142の外側には供給チューブ142bが接続され、第1ポート141と同様にしごきポンプ146,147が配されている。
第3ポート143は、培養器140内部への大気吸入用ポートであり、その外側にはチューブ143aを介してエアーフィルター143bが接続されている。このエアーフィルター143bは、微粒子や菌などが培養器140内部へ侵入するのを防止する役目を負い、0.5μm程度の孔径を有したフィルターが内封されて構成されたものである。この孔径は、菌の侵入を完全にシャットアウトするならば0.2μmが望ましい。なお、チューブ143aの先端にエアーフィルター143bと同様のフィルターを接続し、しごきポンプにより空気を培養器140内部に送るようにしてもよい。この場合、培養器140内部に積極的に空気を送ることができる。
なお、この第3ポート143は、培養器140内部への空気吸入ポートであり、この目的を実現するものであれば、特にポートを備えなくてもよい。例えば蓋部材の一部を切り欠き、ガス透過膜を貼り付けてもよい。また、培養器140内部に板材を備え、底面積を増加させる構造を取ることもできる。このようにすることにより、底面に接着し単一層で増殖する接着(足場)依存性細胞の場合、増殖させる細胞数を増やすことが可能になる。
図17は、図15の一部断面を示す図であり、培養器内の培地を排出する場合を示す図である。培養器140内部に突出する管部材141aがある方に対して、管部材141aがない方を相対的に上昇させ、水平面に対して角度θ゜だけ傾斜させ、管部材141aから培養器140内部の培地140cなどの液体を吸引することにより、培養器140の蓋部材140bを開けずに内部の培地140cや細胞140dを排出することが可能になる。管部材141aがある方に対して、管部材20がない方を相対的に上昇させる機構は特に限定しないが、図14の細胞培養装置では、培養器140を保持する保持リング148の底面側であって、管部材141aが存在しない方の保持リング148にフック149を引っかけ、それをレバー150及びチルトモータ151で持ち上げることによって、培養器140全体を傾斜するようにしている。すなわち、管部材141aがある方に支点軸を設け、管部材141aがない方を引き上げるような傾動動作機構によって実現してもよいし、手作業で行なうようにしても良い。
なお、前記図2において説明したように、400は、光または超音波を用いた培養器140内の液面高さを検出する液面検出手段である。ポンプやピンチ弁が動作不良を起こした場合、液面高さが設定位置から逸脱するが、このような場合外部に警報を出す。
図18は、図14の保温箱の詳細構成を示す図であり、図18(A)は、保温箱の内部構造を分かり易く示したものであり、図18(B)は保温箱の外観斜視図である。図19は、図18(A)の断熱構造の詳細を示すS−S面の断面を示す図である。この保温箱160は、細胞培養用恒温槽であり、内部に培養器140を備える。培養器140は、培養器駆動モータ29aの出力軸に連結されたロータ153に取り付けられており、ロータ153の旋回動作に応じて保温箱160内を矢印A1−A2のように旋回する。保温箱160は、外箱となる筐体160aと、その内側に所定の空間を持って配置された内箱160bとからなる。筐体160a及び内箱160bの材質は、ステンレスやABSなどのプラスチックが好ましい。
外箱160aと内箱160bとの間には、第1の断熱材160cと第2の断熱材160dが設けられている。第1の断熱材160cとしては、発砲ウレタンなどの比較的断熱性能の優れたものが好ましい。ただ、後述するように第2の断熱材160dより外側への伝熱量より、内側への伝熱量を大きくするために、発砲ウレタンであっても軟質系のものがより好ましく、かつ第2の断熱材160dよりも薄く形成するのが良い。熱拡散板160e,160fは、内箱160bの左右側面部を覆うような概ねコの字形状をしている。すなわち、保温箱160の上下には光源34aやCCDカメラ31が設けられ、培養器140の観察を行なう必要があるので、観察に必要な部分については熱拡散板160e,160fを設けないようにしてある。
熱拡散板160e,160fの材質は、熱伝導率の高いアルミニウムや黄銅板などで構成される。この熱拡散板160e,160fは、第1の断熱材160cの左右側面を覆うように両面テープなどで接着される。さらに、この熱拡散板160e,160fの底面側及び側面側にはパネル型ヒータ160g〜160jが同じく両面テープなどで接着されている。第2の断熱材160dを伝達して外部に漏れる熱量は、保温箱外部の漏れロスとなる。従って、第2の断熱材160dは、できるだけ断熱性能を高めることが肝要であり、具体的には硬質系の発砲ウレタンや真空断熱材、例えば発砲ウレタンなどをアルミニウムパックに入れ、このパック内部を真空にし、板状にしたものなどを用いることが好ましい。この保温箱160には、図18(B)に示すように同様の断熱構造をした扉160kが蝶番160mによって矢印160nのように開閉自在に支持されている。
図20は、図14の細胞培養装置の保温箱16の制御ブロックを示す図であり、図4の中から説明に必要な部分を抜き出し、他は省略して示したものである。図20において、図4と同じ構成のものには同一の符号が付してあるので、その説明は省略する。この制御ブロックにおいて、操作卓22は、動作スイッチや温度設定スイッチなどを備えている。制御部11には、ヒータ160g〜160jと、培養器駆動モータ29aと、温度センサ106が接続されている。温度センサ106は、熱伝対などの公知技術を用いた温度センサでよい。
この制御ブロックの動作を説明する。操作者は操作卓22の動作スイッチや温度設定スイッチを操作すると、制御部11は温度センサ106の温度データを取り込み、設定温度と比較して、その差に応じた電力をヒータ160g〜160jに与える。温度データの取り込みや設定温度との比較は適時行い、保温箱160内部の温度が設定温度と等しいか、もしくはそれより大きくなった場合、ヒータ160g〜160jに与える電力を下げる。一方、温度が上昇したヒータ160g〜160jの熱量は、熱拡散板160e,160fを伝わり、保温箱160の内部を暖めるが、第1の断熱材160cよりも第2の断熱材160dの方が伝熱量が小さいので、ヒータ160g〜160jの熱量の多くは保温箱160の内部を加温することに寄与する。なお、培養器駆動モータ29aは、培養器140内部の細胞を均等に播くために回転動作をするためのものである。
この実施の形態によれば、従来の2重箱構造をとらずに、また気密をほとんど考慮しなくて済む簡易な方法や構成で保温箱を構成できる。また、第1の断熱材160cを伝わる熱量は、第2の断熱材160dを伝わる熱量よりも小であるようにすることにより、加温のためのエネルギーを抑制できる。また、熱拡散板160e,160fは、培養器140の培養面と垂直方向の重なる面には、切り欠きを形成することにより、培養器への直接的な輻射熱を抑えることができ、保温箱のみならず培養器内部の温度をより一定化することができる。
図21及び図22は、ペーハー測定部の詳細構成を示す図であり、図21は、図14の一部を拡大して示したものであり、図22は、ペーハー測定部のセンサ部の詳細構成を示す図である。通常、ペーハー(pH)計測は、pH指示薬(フェノールレッド)を含む細胞培養液の色の変化を目視にて判断したり、目視判断を自動で行なう裝置(特開昭62−115297号公報に記載されたもの)などが存在しているが、細胞培養に関係の無いpH指示薬を細胞培養液中に入れることは、細胞培養に影響を与えるため好ましくなく、また精度の点でも劣っていた。また、pH電極を細胞培養液中に浸漬させてその電位差計測を行なう方法もあるが、pH電極が十分に滅菌されていないと、雑菌等のコンタミネーションを起こす可能性があり、好ましくなかった。そこで、この実施の形態では、培養器から廃液タンクまでの流路の途中にフィルム状のpHセンサ膜を用いたpH測定部177を設け、培養器140からの廃液を利用してpH計測を行なうようにした。
図22に示すように、ペーハー測定部177は、約570[nm]の波長の光を出射する発光素子(LED)177aと、約770[nm]の波長の光を出射する発光素子177bと、これらの各発光素子177a,177bからの光であって、pHセンサ膜177dを透過及び反射した光を受光する光検出器177cを備えている。
この実施の形態では、pHセンサ膜177dとして反射式指示薬色素フィルムFR−PR型(フェノールレッド)を使用する。このpHセンサ膜177dは、pHに応じて変色するため、その透過光及び反射光を分光計測することによりpHを求めることができる、いわゆるフィルム状の光学式化学センサである。
このpHセンサ膜177dは、廃液チューブ141bから分岐された廃液チューブ141cと、廃液タンク102に接続された廃液チューブ141dとの間の透過部材からなるセンサホルダ177eに設けられている。廃液チューブ141cからの廃液は、pHセンサ膜177dの保持されたセンサホルダ177e内を通過して廃液チューブ141dに送液される。このときにpHセンサ膜177dは、廃液に浸漬される。廃液に浸漬されたpHセンサ膜177dからの透過光及び反射光を光検出器177cで受光して、その吸光スペクトル変化を測定して、pHを計測する。
ペーハー測定部177でpHを計測する前に、pHセンサ膜177dの校正を行なう必要がある。保温箱160内に設けられた校正液タンク161,162には、校正液が貯留されているので、しごきポンプ145によって校正液タンク161,162内の校正液を廃液タンク102に送液する。これによって、校正液はピンチ弁163,164を通過し、ペーハー測定部177を通過するので、pHセンサ膜177dは校正液によってペーハー基準値に校正される。校正後に廃液を通過させてペーハーを測定する。
ペーハーの算出は以下説明するpH値算出アルゴリズムに従って行なわれる。まず、最初のステップでは、以下の演算式(1)に基づいて、PD暗電流、アンプやADCのオフセット補正を行なう。
I=Iraw−Id・・・(1)
ここで、Idは光遮断時のベースライン信号、Irawは計測生データであり、I,Irawは共に波長λの関数である。ここでの波長は、λ1=570nm,λ2=770nmとする。
次のステップでは、以下の演算式(2),(3)に基づいて、相対透過率T及び生の相対吸光度Arawを算出する。
T=I/I2・・・(2)
Araw=−logT=log(I2/I)・・・(3)
ここで、I2は、pH校正液2(pH2)のI値である。従って、相対透過率T及び相対吸光度Arawλの関数となる。
次のステップでは、ベースライン波長2における吸光補正を行なう。気泡混入などにより、相対吸光度Arawが波長λに対して非依存的に変動するので、これを補正するために、演算式(4)に基づいて、オフピーク波長(λ2=780nm)の値をピーク波長(λ1=570nm)の値から減算して正味の吸光度Aを算出する。
A=Araw(λ1)−Araw(λ2)・・・(4)
次のステップでは、応答曲線の直線近似を行なう。pHが測定範囲付近では、センサの相対吸光度A(ベースライン補正)はpHにほぼ比例するので、直線近似することができる。そこで、演算式(5)〜(7)に基づいて直線近似を行なう。pHは以下の演算式(5)のようになる。
pH=S・A+b・・・(5)
ここで、Sは感度を示す。
ここで、pH校正液2のpH値はpH2なので、以下の演算式(6)になる。
pH2=b・・・(6)
また、pH校正液2の時は、演算式(4)の結果は「0」となるので、
A=Araw(λ1)=Araw(λ2)=0
pH=S・A+pH2・・・(7)
となる。
次のステップでは、以下の演算式(8)に基づいて校正(感度Sの算出)を行なう。
pH1=S・A1+pH2・・・(8)
A1は、pH標準液1(pH1)のA値である。なお、pH1<pH2ならA1は負値となる。従って、感度Sは、以下の演算式(9)のようになる。
S=(pH1−pH2)/A1・・・(9)
次のステップで、未知試料のpH計測は以下の演算式(10)によって求めることができる。
pH=A・(pH1−pH2)/A1+pH2・・・(10)
ここで、Aは未知試料の相対吸光度である。なお、pH1<pH2ならAは負値となる。
以下、実際の測定手順について説明する。
まず、標準液1,2のpH値をpH1,pH2とする。
このときの、ダークカレントIdを計測する。
pH校正液2の場合の計測電流値I2raw(λ1)、I2raw(λ2)を前記演算式(1)に代入すると、次のようになる。
I2(λ1)=I2raw(λ1)−Id
I2(λ2)=I2raw(λ2)−Id
同じく、pH校正液1の場合のI1raw(λ1)、I1raw(λ2)を前記演算式(1)に代入すると、次のようになる。
I1(λ1)=I1raw(λ1)−Id
I1(λ2)=I1raw(λ2)−Id
pH校正液1の場合の生の相対吸光度は、前記演算式(3)に従って次のようになる。
A1raw(λ1)=log(I2(λ1)/I1(λ1))
A1raw(λ2)=log(I2(λ2)/I1(λ2))
pH校正液1の場合の正味の吸光度Aは前記演算式(4)に従って、次のようになる。
A1=A1raw(λ1)−A1raw(λ2)
前記演算式(6),(9)に従って検量線導出を行なう。
b=pH2
S=(pH1−pH2)/A1
未知試料について、Iraw(λ1)、Iraw(λ2)の計測を行い、前述と同様の手順により正味の吸光度Aを求める。
前記演算式(7),(8),(9)に従ってpHを導出すると、次のようになる。
pH=A・S+b=A・(pH1−pH2)/A1+pH2
このペーハー測定部は廃液を利用しているため、培養装置内の細胞とpHセンサが接触することもなく、また、校正液も廃液流路に流すため、培養器へ注入することも無い。従って、細胞とセンサ、校正液の直接接触を回避することができ、滅菌処理問題が起こることも無い。また、pH計測部を培養装置内に設けずに、廃液流路の途中に設けているので、装置の機構構造も小型簡略化することができる。
なお、図21に示したペーハー測定部177を設けることには限定されない。すなわち、細胞培養液の色の変化を見るようにしてもよい。この場合、前述のCCDカメラ31をカラーカメラとし、演算してもよい。なお、チューブ141c、ピンチ弁176、163、164、ポンプ145、チューブ141d、校正液タンク161、162が不要となるのは言うまでもない。
細胞培養などでは、滅菌された容器内からの培養する細胞のサンプリングといったような滅菌した容器からの細胞懸濁液などの液の抽出、また、培養液を入れた容器への培養する細胞の播種や培養液への薬剤の注入などといったような滅菌した容器への液の注入などの操作が行なわれる。このような滅菌した容器からの液の抽出や滅菌した容器への液の注入といった操作では、コンタミネーションの発生を抑制する必要がある。
例えば、滅菌した容器からの液を抽出し、その液を別の滅菌した容器に注入するといったような、物理的に一体でない滅菌した容器間で細胞懸濁液や薬剤などの液を移動させる操作などにおいてコンタミネーションの発生を抑制するため、クリーンベンチ内などの操作環境の清浄度の向上や作業者からの汚染の抑制などが実施されている。さらに、滅菌された容器が、クリーンベンチ内などの清浄化された環境外、つまり、微生物などの汚染物が浮遊している一般環境に置かれていた場合、クリーンベンチ内などでアルコールを噴霧して容器の外面を殺菌し、容器の栓の部分を拭いて過剰なアルコールを除くといった容器の殺菌操作を行った後、栓を外して液の抽出や注入の操作を行うことで、コンタミネーションを抑制している。
このように、容器が一般環境に置かれていた場合、コンタミネーションの発生を抑制するうえで容器の殺菌操作を行うことが必要であるが、アルコールを噴霧して容器の外面を殺菌し、容器の栓の部分を拭いて過剰なアルコールを除くといった後、容器の栓を外して液の抽出や注入を行うといった一連の操作を、できるだけ迅速に行うこともコンタミネーションの発生を抑制するうえで必要になってくる。しかし、これら一連の操作は繁雑なものであり、これら一連の操作を迅速に行うためには熟練を必要とする。
さらに、このような一般環境に置かれた容器の殺菌操作を行い、滅菌した容器からの液の抽出や滅菌した容器への液の注入行うといった一連の操作は、例えば再生医療に用いる細胞の増殖などのための細胞培養など、産業的な細胞の生産における細胞培養でも行われる。このため、このような産業的な細胞の生産における細胞培養などにおいて熟練した技術者が必要になることは、細胞培養のコストの増大を招く一つの要因となるため望ましくない。これらのことから、熟練した技術者でなくても、一般環境に置かれた容器からの液の抽出や容器への液の注入をコンタミネーションの発生を抑制しながら行えるようにするため、容器の外面の殺菌や容器の栓を開けるといった操作なしにコンタミネーションの発生を抑制する技術、つまり、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制できる技術が必要とされている。
そこで、この実施の形態では、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制することのできる構成として、培養前細胞を貯留する容器230及び針236,237と、培養後細胞を貯留する容器240及び針246,247を採用している。以下、図23〜図30を用いてこの構成について説明する。
図23及び図24は、容器230,240用の栓の概略構成を示す図であり、図23(A)は、その斜視図であり、図23(B)は、その断面図であり、図24(A)は、外部閉塞部材を外した状態で示す上面図であり、図24(B)は、容器用の栓の概略構成を示す底面図である。図25は、この容器用の栓を備えた容器の一例を示す斜視図である。
容器用の栓(キャップ)233は、図23及び図24に示すように、ゴムや合成樹脂などの樹脂製であり、一方の端面から他方の端面にかけて貫通する断面円形の通路233a〜233dが設けられた略円筒状に形成されている。各通路233a〜233dの大きさはそれぞれ異なっている。栓233の通路233a〜233dは、この栓233を取り付けた容器230,240内への液の注入及び容器230,240内からの液の抽出の少なくとも一方を行う中空針236,237,246,247などの管体または細管を挿通するための通路となる。通路233aは、栓233の一方の端面側に形成された入口部となる。通路233bは、この入口部に接続され、この入口部よりも直径が大きい収容室となり、この収容室233bに殺菌剤含浸部材(不織布)234,244が収容される。通路233cは、この収容室233bの底となる仕切板233eの中央部に形成された貫通穴となる。通路233dは、栓233の他方の端面側に設けられ、仕切板233eの貫通穴233cを介して収容室233bと連通する出口部となる。
この実施の形態では、栓233の通路233dの出口部は、図25に示すように、栓233を容器230,240に気密に密着させた状態で取り付けるための役目も果たし、出口部233dの内径は、円筒状の容器230,240の外径と同じ大きさに形成されている。ただし、栓233の容器への取り付けかたが異なる場合、出口部233dを栓233の容器への取り付けに利用しない場合などは、出口部233dの内径は適宜設定でき、また、出口部233dを設けない構成にすることもできる。また、栓233の仕切板233eの中央部に形成された貫通穴233cは、中空針236,237,246,247などの管体または細管を挿通可能な径で形成されている。
栓233の入口部233aが設けられている側の端面には、図14、図23〜図25に示すように、その端面を覆うように気密性を有するフィルムまたは膜からなる外部閉塞部材235,245が取り付けられている。外部閉塞部材235,245は、例えば、アルミ箔と合成樹脂製のフィルムなどをラミネートしたラミネートフィルム、柔軟性と弾性を有するゴムやシリコン、エラトマ樹脂などの樹脂製の膜など、殺菌剤の蒸発を抑制することができる様々な材料で形成することができる。また、外部閉塞部材235,245としてラミネートフィルムなどを用いた場合には、栓233を備えた容器230,240を使用するときに、栓233の入口部233a側の端面から剥離する。
一方、外部閉塞部材235,245として樹脂製の膜などを用いた場合には、中空針236,237,246,247などの管体または細管を外部閉塞部材235,245に穿刺して用いる。穿刺した中空針236,237,246,247などの管体または細管を外部閉塞部材235,245から抜いても、外部閉塞部材235,245が柔軟性と弾性を有する樹脂製であれば、中空針236,237,246,247などの管体または細管によって外部閉塞部材235,245に形成された穴はほとんど閉じた状態となる。なお、外部閉塞部材235,245を樹脂製とする場合には、通路233a〜233dなどの栓233の他の部分と一体に形成することもできる。この場合、外部閉塞部材235,245は、通路233a〜233dの入口部に対応する部分にのみ形成される。
この実施の形態では、栓233の通路233bすなわち収容室に収容され、円盤状になった殺菌剤含浸部材234,244は、仕切板233eによって通路233b内に保持されている。殺菌剤含浸部材234,244は、中空針236,237,246,247などの管体または細管を穿刺して挿通させることが可能であり、例えば、不織布または酒精綿などにより形成されている。酒精綿で殺菌剤含浸部材234,244を形成した場合には、アルコールが含浸されていることになるが、殺菌剤になれば、アルコールの他、逆性石鹸などの殺菌作用を有する薬剤を不織布などに含浸させて殺菌剤含浸部材234,244を形成することができる。さらに、殺菌剤含浸部材234,244は、殺菌剤をゲル状にすること、例えば、アルコールゲルなどでも形成できる。アルコールゲルなどで殺菌剤含浸部材234,244を形成すれば、殺菌剤含浸部材234,244の殺菌剤が殺菌剤含浸部材234,244から流出し、この栓233を備えた容器内に進入し、容器の内容物に影響するのを抑制できる。
この実施の形態に係る栓233は、多重蓋様の構造になっており、容器230,240のような内部を滅菌した状態で使用する適宜の容器の液の出し入れを行う開口部に取り付けられる。栓233は、図25に例示した容器230,240のような形状に限らず、様々な形状の容器に適用でき、また、様々な用途の容器に適用できる。例えば、滅菌された薬剤を収容した薬剤容器、培養液を収容した培養器、細胞懸濁液から細胞を遠心分離により回収するための遠沈管、また、管状の容器、直方体状の容器、輸液バックのようなフレキシブル容器など、栓233は、滅菌して使用する様々な形状と用途の容器に適用できる。
ここで、例えば、栓233を備えた容器230,240が、細胞懸濁液から細胞を遠心分離により回収するための遠沈管であったとすると、容器230,240は、内部は滅菌され細胞懸濁液が収容された状態になっているが、遠心分離を行うためにクリーンベンチから出され、一般環境に設置された遠心機にかけられることによって、一般環境に置かれた状態となり、外面が汚染された可能性がある状態となる。このような容器230,240から液を抽出したり、容器230,240内に液を注入したりするとき、作業者は、アルコール噴霧などによる容器230,240の外面の殺菌操作を行うことなく、液の抽出または液の注入用のシリンジなどに取り付けた中空針などの管体または細管を、図25に示す波線の矢印のように、栓233の通路233a〜233dに挿通させる。このとき、栓233の通路233a〜233dの入口部から挿入された管体または細管は、殺菌剤含浸部材244に穿刺されて殺菌剤含浸部材244を貫通し、仕切板233eの貫通穴233cを通って容器230,240の内部に入ることになる。
したがって、クリーンベンチ内などの清浄環境から一般環境に出されたために外側が汚染されている可能性がある容器230,240の影響で、管体または細管の外面が汚染された可能性があったとしても、中空針などの管体または細管を栓233に挿通するとき、殺菌剤含浸部材244に管体または細管が穿刺されることによって、殺菌剤含浸部材244に含浸されている殺菌剤によって管体または細管の外面を殺菌することができる。したがって、作業者は一般環境に置かれた容器230,240にアルコールを噴霧する容器外面の殺菌操作や、栓の周囲のアルコールを拭き取って栓を開けるといった操作を行うことなく、管体または細管を栓に挿通させるだけでコンタミネーションの発生を抑制しながら、容器230,240からの液の抽出や容器230,240への液の注入を行うことができる。
このようにこの実施の形態に係る容器用の栓や容器であれば、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制できる。さらに、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制できることにより、熟練した技術者が容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う必要がなくなる。また、熟練した技術者による操作が必要なくなることから、例えば再生医療に用いる細胞の増殖などのための細胞培養など、産業的な細胞の生産における細胞培養のコストを低減できる。加えて、従来のように、栓部分の滅菌のための蒸気を供給するための設備や配管が必要ないため、栓や容器の使用に対する制限を低減でき、また、栓などの構造を簡素化できる。
一般環境に置かれた容器をアルコールの噴霧などにより殺菌する、容器の栓を外すなどといった操作は、自動的に容器や注入動作などを行う液取扱装置には馴染まず、手作業によって行われることになる。手作業による操作は、作業者自身による汚染の持ち込みや作業者のケアレスミスによるコンタミネーションの発生を招く可能性がある。
これに対して、この実施の形態に係る容器用の栓や容器であれば、一般環境に置かれた容器をアルコールの噴霧などにより殺菌する、容器の栓を外すなどといった操作を行う必要がないため、液取扱装置などを用いた容器からの液の抽出や容器への液の注入の自動化が可能となる。そして、自動化が可能になることにより、作業者自身による汚染の持ち込みや作業者のケアレスミスによるコンタミネーションの発生などを防ぐことができる。
さらに、本実施形態の容器用の栓や容器では、栓233の通路233a〜233dの入口部側の端面が、管体または細管を穿刺可能であるか、または、取り外し可能で、通路233aを気密に密閉可能な外部閉塞部材235,245で閉塞されている。このため、殺菌剤がアルコールなどであっても、殺菌剤の殺菌剤含浸部材234,244からの蒸発を抑制できる。加えて、外部閉塞部材235,245が殺菌剤含浸部材234,244に含浸された殺菌剤の蒸発を防ぐため、例えば容器内に試薬を注入した後、この容器内から細胞などの試料のサンプリングを行うといった操作を行う場合でも、殺菌剤含浸部材の殺菌効果が持続する時間を長くでき、また、容器の栓を開ける必要もない。このため、作業者は、容器内へ液を注入し、さらに、容器内からサンプリングつまり液の抽出を行うといった一連の操作を、時間的余裕を持って行うことができる。したがって、作業者に対し、できるだけ速やかにこのような一連の無菌操作を行うといった高度なスキルを求める必要がなくなる。
図26は、図23〜25の容器用の栓の変形例を示す断面図である。図26において、図23〜図25と同じ構成のものには同一の符号が付してあるので、その説明は省略し、相違する構成や特徴部などについて説明する。
図26の容器用の栓2331が図23〜図25の栓233と相違する点は、栓の通路に収容した殺菌剤含浸部材と殺菌剤含浸部材を通路内に保持する仕切板との間に通路を閉塞する内部閉塞部材が設けられている点である。すなわち、この実施の形態に係る容器用の栓2331は、入口部233a、収容室233b、仕切板233eの中央部に形成された貫通穴233c、そして出口部233dなどからなる通路の形状などは図23〜図25の栓233と同じである。しかし、収容室233bを画成する壁の内面のうち、収容室233bの底面となる仕切板233eの面及び収容室233bの側面となる面を覆うように膜状の内部閉塞部材233fが設けられている。そして、殺菌剤含浸部材234,244は、内部閉塞部材233fで覆われた状態で収容室233b内に収容されている。言い換えれば、内部閉塞部材233fは、殺菌剤含浸部材234,244と、収容室233bの底面となる仕切板233eの面や収容室233bの側面となる面との間に挟まれた状態で設置された器状の部材である。
図26の内部閉塞部材233fは、柔軟性と弾性を有する樹脂製、例えば注射薬などの容器の栓などで使用されるエラトマ樹脂やシリコン、天然ゴムなどの樹脂製の膜で構成され、貫通穴233cの収容室233b側の開口を密閉すると共に、穿刺した中空針などの管体または細管を抜いた後でもそれに形成された穴はほとんど閉じた状態となるものである。さらに、内部閉塞部材233fは、器状に形成されていることで内側に液体を保持できるようになっている。また、殺菌剤含浸部材234,244を貫通してきた中空針などの管体または細管の外面に付着した殺菌剤を払拭することもできる。
内部閉塞部材233fの中央部、つまり、仕切板233eに形成された貫通穴233cに対応する部分は、収容室233b内側に向けて先端に向かうに連れて細くなる円錐台状に突出しており、この円錐台状に突出した部分が中空針などの管体または細管が穿刺されて貫通する貫通部233gとなる。円錐台状の貫通部233g内は、中空針などの管体または細管を穿刺して貫通させ易いように、貫通穴233cに連続した中空状態を形成するようになっている。なお、この殺菌剤含浸部材234,244は、器状の内部閉塞部材233f内に収容された状態で収容室233b内に設置されている。また、この殺菌剤含浸部材234,244は、内部閉塞部材233fの貫通部233gに対応する部分が凹んだ状態となっている。
このような栓2331は、収容室233bつまり殺菌剤含浸部材234,244側に突出した貫通部233gを有する器状の内部閉塞部材233fを備えており、さらに、その内部閉塞部材233f内に殺菌剤含浸部材234,244を備えている。そして、中空針などの管体または細管を穿刺する貫通部233gが内部閉塞部材233fの他の部分よりも高くなるように段差を有し、他の部分よりも表面積が狭い貫通部233gの頂点部分に中空針などの管体または細管が穿刺される。このため、殺菌剤含浸部材234,244からの過剰な殺菌剤が流出したり、殺菌剤含浸部材234,244に中空針などの管体または細管を穿刺するときの管体または細管による加圧で殺菌剤含浸部材234,244から殺菌剤が流出したりしても、流出した殺菌剤は、内部閉塞部材233fの貫通部233g周囲の器状の部分に溜まる。したがって、殺菌剤含浸部材234,244から殺菌剤が流出したとしても、流出した殺菌剤が貫通穴233cを介して容器内へ流入し、容器の内容物に影響を与えるのを抑制することができる。
さらに、殺菌剤含浸部材234,244から殺菌剤が流出したとしても、流出した殺菌剤が貫通穴233cを介して容器内へ流入し難いため、中空針などの管体または細管を穿刺して容器からの液の抽出や容器内への液の注入といった操作を行うときに、殺菌剤含浸部材5から殺菌剤が流出しないよう、また、流出した殺菌剤が貫通穴233cを介して容器内へ流入しないよう注意しながら操作を行う必要がなくなり、このような操作を容易にすることができる。また、この実施の形態では、内部閉塞部材233fは、全体を柔軟性と弾性を有する樹脂で形成したが、少なくとも図示していない中空針などの管体または細管が挿通される部分のみを柔軟性と弾性を有する樹脂製とした構成などにすることもできる。
図27は、図23〜25の容器用の栓の別の変形例を示す断面図である。図27において、図23〜図25と同じ構成のものには同一の符号が付してあるので、その説明は省略し、相違する構成や特徴部などについて説明する。
図27の容器用の栓2332が図23〜図25の栓233と相違する点は、栓の通路に収容した殺菌剤含浸部材と殺菌剤含浸部材を通路内に保持する仕切板との間に通路を閉塞する内部閉塞部材が設けられており、さらに、内部閉塞部材と殺菌剤含浸部材の形状が異なる点である。すなわち、この実施の形態に係る栓2332は、収容室233b側の仕切板233eを覆うように円形の膜状の内部閉塞部材233hと、収容室233bに収容された粒状の複数の殺菌剤含浸部材234a,244aとを備えている。
この実施の形態に係る内部閉塞部材233hは、柔軟性と弾性を有する樹脂製、例えば注射薬などの容器の栓などで使用されるエラトマ樹脂やシリコン、天然ゴムなどの樹脂製の円形の膜であり、貫通穴233cの収容室233b側の開口を密閉すると共に、穿刺した中空針などの管体または細管を抜いても形成された穴はほとんど閉じた状態となるものである。また、この内部閉塞部材233hでは、仕切板233e側の面の中央部つまり仕切板233eの貫通穴233cに対応する位置に、貫通穴233cに嵌合する突起233jが形成されている。この殺菌剤含浸部材234a,244aは、吸水性を有する粒状の部材、例えばウレタンビーズなどで形成されており、殺菌剤が含浸されている。
内部閉塞部材233hは、栓2332を備えた容器内への殺菌剤の流入を抑制すると共に、殺菌剤含浸部材234a,244aの径が貫通穴233cの径よりも小さい場合には、殺菌剤含浸部材234a,244aが貫通穴233cを介して容器内へ入るのを防いでいる。これにより、栓2332を備えた容器の内容物への殺菌剤の影響を抑制している。
この実施の形態に係る栓2332では、殺菌剤含浸部材234a,244aが粒状で収容室233bに複数収容された状態となっている。このため、中空針などの管体または細管を円盤状の殺菌剤含浸部材に穿刺する必要がなく、中空針などの管体または細管は、複数の殺菌剤含浸部材234a,244aの間を殺菌剤含浸部材234a,244aに外面が接触しながら栓2332に挿通されることになる。したがって、中空針などの管体または細管を円盤状の殺菌剤含浸部材に穿刺する場合に比べ、中空針などの管体または細管の栓への抜き差しを容易にできる。さらに、円盤状の殺菌剤含浸部材を中空針などの管体または細管を穿刺するときに加圧し難いため、中空針などの管体または細管を栓に挿通するときの殺菌剤含浸部材からの殺菌剤の流出を抑制できる。
図28は、図23〜25の容器用の栓のさらに別の変形例を示す断面図である。図28において、図23〜図25と同じ構成のものには同一の符号が付してあるので、その説明は省略し、相違する構成や特徴部などについて説明する。
図28の容器用の栓2333が図25〜図27のものと相違する点は、栓の通路の殺菌剤含浸部材よりも容器内側に、中空針などの管体または細管の外面に付着した液体を拭き取る拭き取り部材を設けたことにある。すなわち、この実施の形態に係る容器用の栓2333は、通路233a〜233dの出口部内に設置された円盤状の拭き取り部材233kを備えた点にある。拭き取り部材233kは、仕切板233eの殺菌剤含浸部材234,244が設置された側の面と反対側の面、つまり、容器内側の面に接した状態で設けられており、仕切板233eに形成されている貫通穴233cの出口側を塞いだ状態になっている。拭き取り部材233kは、中空針などの管体または細管を穿刺可能で、中空針などの管体または細管外面に付着した液体を拭き取ることができる材料、例えば発泡スチロール、綿、ウレタン、その他のフィルターまたはフィルター様の部材などで形成されている。
この実施の形態の容器用の栓2333は、中空針などの管体または細管が殺菌剤含浸部材234,244に穿刺され貫通した後、拭き取り部材233kに穿刺されることによって、殺菌剤含浸部材234,244を貫通したときに中空針などの管体または細管の外面に付着したアルコールなどの殺菌剤を拭き取ることができる。したがって、殺菌剤含浸部材234,244を貫通した中空針などの管体または細管の外面に殺菌剤が付着することによって、容器内に殺菌剤が持ち込まれるのを抑制できるため、殺菌剤の容器の内容物への影響を低減できる。
図29及び図30は、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作の概略を説明する図である。図23の容器用の栓233を備えた容器230を用い、液の容器への注入及び液の容器からの抽出の少なくとも一方の機能、つまり、サンプリング装置及び分注装置の少なくとも一方の機能を果たす液取扱装置について説明する。この液取扱装置は、図14の培養前細胞を貯留する容器230から培養前細胞を培養器140に送液したり、培養器140から容器230に培養後細胞を送液するものである。すなわち、液取扱装置は、例えば、培養器140からの細胞懸濁液のサンプリングや薬液の吸入といったような液の抽出、培養液が入った培養器140への細胞懸濁液の注入による細胞の播種や薬液の注入といったような液の注入など、サンプリング装置及び分注装置の少なくとも一方の機能を果たすものである。この実施の形態では、図25に示すように栓233を備えた容器230を用いた場合を例示する。なお、図26〜図28に示した栓2331,2332,2333を備えた容器を用いることもできる。
図29及び図30の液取扱装置は、栓233を備えた容器230は、台座291上の保持具292によって保持されている。容器230の栓233の上方には、液の容器230への注入及び液の容器230からの抽出の少なくとも一方を行なうための中空針などの管体または細管293が支持部材294によって支持されている。支持部材294は、駆動機構295を介して、駆動機構295による管体または細管293の上下方向の移動をガイドするガイド棒295に連結されている。ガイド棒295は、台座291から上方に向けて延在した状態で台座291に固定されている。管体または細管293は、チューブ296を介して、液の吸引及び排出の少なくとも一方を行なうためのポンプ297に接続されている。ここでの、管体または細管293が図14の針236,246に、ポンプ297が図14のしごきポンプ144,147に、チューブ296が図14のチューブ142d,141bにそれぞれ対応することになる。なお、図29及び図30では、図14のモータ231については省略してある。
チューブ196は、管体または細管293の一方の端部と支持部材294の下面に設けられた連結部294aで連結されている。また、連結部294aには、管体または細管293を覆う袋状の被覆部材298の開口部分が気密に取り付けられている。被覆部材298は、管体または細管293を穿刺可能な柔軟で弾性及び気密性を有する膜状の材料、例えばゴムやシリコン、エラトマ樹脂などで形成された袋状の部材である。
この実施の形態に係る液取扱装置では、中空針などの管体または細管293を栓233に挿通させていないときは、図29に示すように、中空針などの管体または細管293は、被覆部材298に内包されることによって、被覆部材298の外側の環境と気密に隔離された状態になっている。したがって、液取扱装置が、清浄環境つまりクリーンベンチの外など、外気に触れる一般環境下に置かれても、被覆部材298内に在る管体または細管293は外気から汚染されることはない。
液の注入や抽出のために、中空針などの管体または細管293を栓233に挿通させて容器230内に挿入するときは、駆動機構295がガイド棒295に沿って下方に移動する。これにより、図25に示すように、管体または細管293は、栓233の外部閉塞部材235、殺菌剤含浸部材234に順次穿刺され、容器230内に挿入される。このとき、管体または細管293は、図30に示すように、被覆部材298の下端部分が栓233の外部閉塞部材235の外面に接触した状態で、被覆部材298と外部閉塞部材235とを穿刺し、栓233の通路233a〜233d内に挿通されて行く。したがって、管体または細管293が容器223内に挿入されるときも、被覆部材298内は密閉状態が保たれており、管体または細管293の栓233の外側にある部分が外気に曝されることはなく、被覆部材298内に在る管体または細管293の部分の外気からの汚染は生じない。また、管体または細管293の栓233内に挿通されている部分も、上述したように汚染が生じることは無い。
管体または細管293を容器230から抜くときは、駆動機構295がガイド棒294に沿って上方に移動する。これにより、管体または細管293は、図30の状態から図29に示すように、被覆部材298に内包された状態に戻る。また、被覆部材298は柔軟性かつ弾性を有しているため、管体または細管293が穿刺されたときに形成された穴は閉じられた状態となり、被覆部材298の密封性が維持される。したがって、管体または細管293を容器230から抜いた後も、管体または細管293が外気に触れることによる汚染は防止されることとなる。
この実施の形態に係る液取扱装置では、図23に示したような栓233を備えた容器を用い、さらに、中空針などの管体または細管293が、管体または細管293を穿刺可能な柔軟で弾性及び気密性を有する膜状の材料で形成された袋状の被覆部材298によって覆われているため、栓に挿通されていない状態の管体または細管の汚染も抑制できるため、コンタミネーションの発生をより確実に抑制できる。また、この液取扱装置は、図29及び図30の構成のものに限らず、管体または細管を被覆部材で被覆していれば様々な態様で実施することは可能であり、種々の変形例を包含するものである。さらに、容器用の栓233や容器230は、上述した実施の形態の構成の容器用の栓に限らず、管体または細管が挿通される通路が形成されており、この通路内に、管体または細管を穿刺可能で、殺菌剤を含浸した殺菌剤含浸部材が保持した構成の栓であれば様々な構成のものを適用するができることは言うまでもない。
通常、図1及び図14に示すようなピンチ弁を用いた細胞培養装置は、ピンチ弁を駆動するための圧力を細胞培養装置の外部に設置された空気圧縮装置(エアコンプレッサ)などから圧縮空気として取り込むか、又は細胞培養装置に内蔵された空気圧縮機を用いて動作させてていた。外部から圧縮空気を取り込む場合、空気圧縮装置から細胞培養装置までの配管が必要となり、通常は配管は壁、天井などに固定されるため細胞培養装置の設置場所が制限されたり、設置が不可能となったりして、好ましくなかった。また、細胞培養装置に内蔵された空気圧縮機を用いる方式では設置場所に制限はないが、発塵、振動、騒音などの問題があり、好ましくなかった。
そこで、図14の実施の形態では、二酸化炭素ボンベ210内のガスをチューブの各所に設けられたピンチ弁を駆動のための圧縮空気として使用している。二酸化炭素ボンベ210内のガスは、レギュレータ211及び多連型電磁弁213を介して、チューブの各所に設けられたピンチ弁に送出される。なお、二酸化炭素のガス圧力が低くなるとピンチ弁の駆動はできなくなるが、細胞培養時においては、二酸化炭素の使用は必須であるので、その可能性は少ない。また、ピンチ弁の二酸化炭素ガスの使用量は1回当たり0.5cc程度であるので、保温箱160内で使用される二酸化炭素ガスの量と比較してもかなり少ないものである。図1の実施の形態の場合も同様にしてピンチ弁を駆動している。
図1及び図14の細胞培養装置では、任意のタイミングで任意の時間だけピンチ弁を開閉制御することにより、必要な試薬を必要量、培養器140に注入したり、培地を廃液したりすることができる。二酸化炭素ホンベ210は、エアチューブ(図14の点線で示した配管)を通して各ピンチ弁に二酸化炭素ガスを供給している。一方、二酸化炭素ボンベ210からはレギュレータ211及び電磁弁212を介して所定量の二酸化炭素が保温箱160内に供給されている。
各ピンチ弁に供給される二酸化炭素ガスは、ピンチ弁駆動用のエアシリンダに圧縮空気として送出され、そこでピンチ弁の駆動に使用され、保温箱160に供給される二酸化炭素ガスは保温箱160内の二酸化炭素濃度を調整するのに用いられる。ピンチ弁駆動用のエアシリンダは、エアシリンダにかかる圧力が仕様を満たすならば、何個でも増設可能である。図14では、二酸化炭素ボンベ210からの二酸化炭素ガスは、エアチューブでレギュレータ211に接続されているが、図示していないがこの間には、菌を取り除く滅菌フィルタ、水分を取り除くミストフィルタなどが設けられている。ピンチ弁駆動用のエアシリンダは、通常2本のチューブを持ち、一方に二酸化炭素ガスを供給することによりエアシリンダが動作し、ピンチ弁を閉じ、他方に二酸化炭素ガスを供給することによりエアシリンダが逆方向に動作し、ピンチ弁を開くように構成されている。このような二酸化炭素ガスの供給を切り替えるのが、多連型電磁弁213である。一方、保温箱160に供給する二酸化炭素ガスは、電磁弁212によって、その注入と遮断が制御されるようになっている。通常は二酸化炭素センサ205を用いて保温箱160内の二酸化炭素濃度を測定し、目標値よりも低い場合は、電磁弁212を開放し、高い場合は電磁弁212を閉じて、保温箱160内の二酸化炭素濃度を一定に保持している。なお、ここでは二酸化炭素ボンベを例に説明したが、非可燃性ガスであれば、同様にして使用できることは言うまでもない。
通常、培養細胞中において、コロニーの有無またはその大きさを確認するには、細胞を染色して肉眼で確認したり、カメラで撮影した画像に対して画像処理を施すことによって確認していた。カメラを用いてコロニーを撮影する際は、たとえば、特開2001−275659号公報に記載されているように、培養器全体が一時に撮影できるような広い画角を持った低倍率のレンズを使用していた。このように培養器全体を低倍率広画角のレンズを使ったカメラで撮影することによってコロニーの有無を迅速に確認していた。
しかし、培養細胞中にコロニーが小さかったり、カメラの解像度が低い場合などには、コロニーを明瞭に描出できないことがあった。また、コロニーの有無とサイズを確認した後、任意のコロニー内の細胞を撮影するには、より高い倍率のレンズを別途用意しなければならなかった。このような場合に、低倍率のレンズで確認された位置精度の低い画像から目標位置を探し出して、高倍率レンズでの撮影のためカメラまたは培養器をその位置に移動するのは大変に手間のかかる作業であった。
そこで、この実施の形態では、細胞を培養する際に、コロニーの有無とそのサイズ確認という作業と、コロニー内の細胞の培養経過の詳細な観察という作業とを同時に行なうことができ、さらに、作業間の切り替えをするにあたり、外部からのコンタミネーションを排除し、培養状態の観察にあたり、培養細胞へのダメージを極力排除することができるようなカメラ撮影システムを採用した。
図31は、カメラ撮影システムに概略構成を示すブロック図である。カメラ撮影システム310は、保温箱160内の培養器140を撮影するCCDカメラ31から得られる画像データに種々の処理を施して細胞などを確認できるように表示するものであり、コンバータ311、画像処理ユニット312、モータコントローラ313及びカメラ・培養器駆動装置314から構成される。培養器140とCCDカメラ31との位置関係は、図14に示す通りであり、保温箱160の上側に設けられた光源34aからの光を保温箱160の下側に設けられた観察窓32aを介してCCDカメラ31aで撮影する。図1の細胞培養装置の場合にも同様の位置関係にあるものとする。
コンバータ311は、CCDカメラ31で撮影された画像データを画像処理ユニット14に転送するための電気信号に変換するものである。画像処理ユニット14は、コンバータ311から入力された電気信号に種々の処理を加えて、細胞を視認し易い画像に変換する。モータコントローラ313は、画像処理された画像に基づいてCCDカメラ31と培養器140との相対的な位置関係を所望の関係に制御するものであり、カメラ・培養器駆動装置314は、CCDカメラ31と培養器12をその所望の関係となるように移動するものである。
図32は、図14の中におけるカメラ撮影システムに関係する部分を抽出して模式的に示す図である。すなわち、この図は、CCDカメラ31と培養器140との相対的な位置関係を制御する場合の最も典型的な制御機構を示す図である。保温箱160内に培養器140が固定的に存在する場合に、この培養器140に対してCCDカメラ31を移動させて、両者の相対的な位置関係を制御している。なお、図1に示すようにCCDカメラ31が固定的に設けられ、培養器140(又は内部の鏡)が移動するようにしてもよいし、図14に示すように両者が同時に移動するようにしてもよい。
図32では、保温箱160の中にCCDカメラ31と、培養器140と、CCDカメラ31の移動用ガイド315とが閉鎖的に内含される場合を図示している。これ以外に、培養器140内の細胞に光をあてる照明装置となる光源34、カメラ・培養器駆動装置314によって駆動されるモーター29a、画像信号を電気信号に変換するコンバータ311などを保温箱160の中に内含していてもよい。
培養器140は、培養に通常使用されるフラスコや培養皿であってもよいし、特願2002−180120号公報、特願2003−027710号公報又は特願2003−420510号公報のような構成のものであってもよい。
CCDカメラ31は光学的な撮像装置であれば、CCDでもよいしCMOSでもよいし、そのほか電気的、電子的、あるいは光学的な信号を取得できるものであれば何でもよい。CCDカメラ31にはレンズ316が取り付け可能であり、レンズ316は交換式でもあるいは据付式でもよい。CCDカメラのレンズ交換マウントとして、例えば通称Cマウントと呼ばれるネジ式のマウントの他、バヨネット式のものも適用可能である。レンズ据付式であれば、カメラ内へのごみやほこりや湿気の混入をより避けることが可能で、撮影画像にこれらが映りこむ危険を減らすことができるとともに、これらが保温箱160内にもれてコンタミネーションを生じる危険も回避することができる。
なお、レンズの交換は必須ではないために安価でコンタミ招来の危険性の少なく密封性の高いレンズ固定式のカメラが使用可能である。また、レンズ316は、比較的高い倍率で視野が広くないものを使用する。これ以降、倍率といえば、カメラの撮像素子サイズとレンズの焦点距離と撮影距離によって決まる撮影倍率のことをいうものとする。また、視野範囲も同様にカメラの撮像素子サイズとカメラの絞りないしはシャッター開口径とレンズの画角によって決まるものをいう。
図32では、照明装置は図示していないが、培養器を透明にしてその裏側から照射する透過光を撮影する方式やカメラ側から光を当てて反射光を撮影する方式などがある。透過光方式であれば、照明装置は培養器の下部に配置する。このとき必ずしも保温箱160内におく必要はなく、保温箱160の下部を光透過性のある構成とすれば、保温箱160の外側においてもよい。保温箱160の外においておけば、万が一の故障や玉切れなどの際に、コンタミネーションの危険を冒さずに修理交換できる。
また、光源は、培養する細胞にとって有害な波長成分を有さないものがよい。例えば、紫外線は細胞のDNAに損傷を与えたり、紫外線誘発アポトーシスを惹起し、結果的に細胞の癌化の原因となると言われている。したがって、通常の細胞を培養するときは、光源としてそのような成分を含むことは避けなければならない。
また、赤外線は熱を生じるために細胞にとってストレスとなりうる。逆に、特定の波長の光が細胞を活性化することもあるので、積極的に光源の波長が培養に有利なものとなるよう制御することもできる。光源の波長やその成分比は、培養する細胞やその目的に合わせて変更できるようにしておくことが望ましい。具体的には、光源と培養器の間にフィルターを介在させることで上記のように細胞の培養に好ましくない紫外線成分を遮断させたり、単色性の強いLEDなどの光源を複数用意しておき選択的にオンオフすることでも任意の波長成分を含んだ光源の作成が可能である。あるいは3波長蛍光管とフィルターを併用することでも波長の選択が可能である。
また、反射光式の場合も、透過光式と同様に、光源は保温箱160内にあっても外にあってもよい。保温箱160内にあれば細胞との距離が短いため光源への供給電力が少なくて済む反面、光強度が強すぎて細胞にダメージを与えたり、光が十分拡散しないため画像に明度のむらを生じることもある。保温箱160の外にあれば、透過光式のところで説明したのと同じ理由でコンタミネーションの機会を減少できるとともに、光源の保守が容易となる反面、照明からの光がカメラによって遮られるために画像に明度のむらの生じることもある。このような場合には、保温箱内にレンズ周りを取り囲むようなリングライトを使用することもできる。あるいは、特に照明装置を設けずに保温箱外の部屋の照明で細胞を照らすことも可能である。この場合も、光源の波長についてはすでに透過光方式のところで説明したとおりである。
なお、透過光の場合は光が細胞表面に回りこみにくいために、培養細胞の下にフィーダー細胞が存在するときなどは、細胞表面が確認しにくい場合が生じる。このような場合には、反射光方式を併用するとよい。照明装置は、波長だけでなくその光量や照射角度などを調整可能なものとすれば、撮影画像をより高画質にすることができる。
カメラ・培養器駆動装置314は、図32に示すように保温箱160内に配置されているものとして説明する。図32では、CCDカメラ31と、これを支えるスタンド317、このスタンド317を支えるためのベースとなる台車318がレール315上を直線移動するようになっている。台車318には動力伝達部319を介してモーター320aが取り付けられている。このモーター320aを駆動回転することで、動力伝達部319を経由して台車318を直線移動させることができる。
このように図32では、カメラ・培養器駆動装置314は、モーター320a、台車3189、およびレール315から構成されているが、図14では、培養器駆動モータ29a、レール34b,31b、ローラ34c,34d,31c,31dなどで構成され、培養器140が旋回移動し、CCDカメラ31が直線移動して、両者の相対的な位置関係を調節している。
モーター320aは、モーターコントローラ313からの指示を受けて、培養器140の表面との距離をほぼ一定に保ちながら、その表面を2次元的に走査するように駆動しいてる。そして、この走査と同時にCCDカメラ31で撮影することによって、培養器140の全面を画像化することができる。
図33は、CCDカメラの走査の様子を示す図である。図33(a)は、培養器140の形状が横長矩形であって、Y方向を視野範囲331に収めることのできる倍率のレンズ316を用いた場合を示すものである。この場合には、Y方向への走査は不要なので、X方向にだけ走査すればよい。このとき培養器とカメラの位置関係は相対的なものであればいいので、図33(a)のような一方向走査をする場合には、図32に示すようにカメラ側をXYに動かす構成と図34に示すように培養器140側を動かす構成のいずれを採用してもよい。
図33(b)は、培養器140が正方形に近くその面積が大きいためX方向の走査だけではY方向を視野範囲331に収められない場合を示す。この場合には、X方向及びY方向の両方に走査すればよい。この場合も、同様に培養器とカメラの位置関係は相対的なものであればいいので、図32の構成で走査することができる。図34の構成の場合には、カメラ・培養器駆動装置314によってカメラ31を少なくともY方向に走査可能に構成する必要がある。例えば、図32の場合、モータ320a、動力伝達部319及びレール315と同様のセットを台車318上に90度回転させて載置すればX−Y方向に走査が可能となる。また、図34に示すように培養器を動かす構成の場合にも、同様に直交する2方向に走査可能な構成にすれば、図33(b)のような撮影を行うことができる。
図33(c)に示すように、培養器140が図1又は図14に示すように円形に近く、その半径を視野範囲331に収められる場合には、培養器140の中心を回転軸としてθ方向にのみ走査すればよい。この場合は、図5のような構成を利用することで走査可能となる。図35では、培養器140は円形のものとし、スタンド350の先端にモーター351を取り付けて、モーター351を回転させることでカメラ31を円形状に走査する。なお、カメラ31でなく培養器140を円形状に移動可能としてもよい。
図33(d)に示すように、培養器140が円形に近く、その半径を視野範囲331に収められない場合には、r方向とθ方向の両方に走査すればよい。この場合も、図35のような構成によって走査可能である。ただし、r方向にも走査する必要があるために、カメラ31がその上に搭載された別のモーター353によって回転アーム352上をスライド可能とすればよい。また、カメラ31ではなく培養器140の方を移動可能としてもよい。
図33(e)は、図14の培養器140とカメラ31との関係を示す図である。図に示すように、培養器140は、ロータ153を中心として、保温箱160内を矢印140sのように旋回する。一方、カメラ31は、矢印331aのようにレール31bに沿って直線移動するので、両者の位置関係を適宜調整することによって、視野範囲331に培養器140を全て含めて走査することが可能である。
図36は、図31の画像処理ユニット312の詳細を示す図である。画像処理ユニット312は、データバス361を介して演算処理を行うCPU362と、このCPU362が一時的に記憶領域として使用する主メモリ363と、画像データや位置情報を格納する外部記憶装置364と、モータコントローラ313と通信するための通信ポート365と、細胞抽出後の画像を表示するモニタ366と、ユーザの入力を受け付けるキーボード367とから構成される。この画像処理ユニット312は、CCDカメラ31からの画像をコンバータ311を介して取り込み、種々の画像処理を行なう。
図37は、画像処理ユニット14が実行するコロニー判別の処理手順を示すフローチャート図である。培養器140の大きさは予め外部記憶装置364に設定されている場合と、カメラ31を用いて画像処理により検出する場合とがあるが、この実施の形態では予め設定されている場合で説明する。
ステップS371では、培養器140を撮影するための走査位置情報である画像撮影位置リストを作成する。走査にあたっては培養器140全体を撮影するように決定してもよいし、培養器140の一部を撮影するように決定してもよい。画像位置リストは、例えば培養器140の培養に供する平面をX−Y座標系とすると、その上の複数のX―Y座標点の集合である。この画像撮影位置リストは、主メモリ363に格納され、その内容はモーターコントローラ313などによって随時参照可能となる。画像撮影位置リストは、図33で説明したように、レンズの視野範囲(画角)と培養器140の大きさとによって決定されるものである。
ステップS372では、前のステップS371で作成された画像撮影位置リストに従って、CPU362が移動命令を出す。CPU362が出した移動命令は、データバス361、通信ポート365を経由してモーターコントローラ367に到達する。モーターコントローラ313は、カメラ・培養器駆動装置314を動作させて、画像撮影位置リストに記録された撮影位置でカメラ31または培養器140を停止させる。
ステップS373では、画像撮影位置リストに対応した目的位置に到達する度に、画像の撮影と多値化処理を行う。つまり、CPU362により画像取り込み命令がカメラ31に出される。カメラ31は、画像データをコンバータ311にて電気的信号に変換した後、この信号をデータバス361経由で主メモリ363に転送する。CPU362では、この信号をモニタ366に表示するための多値化処理を実行する。
ステップS374では、主メモリ363に格納されている画像データに基づいてCPU362が濃淡情報を取得するためにヒストグラム算出処理を実行する。
ステップS375では、濃淡情報すなわちヒストグラムが最大となる画素値を撮影位置情報と共に外部記憶装置364に保存する。
ステップS376では、画像撮影位置リストに記された撮影位置をすべて撮影し終えたか否かの判定、すなわち、全計測ポイントについて撮影が終了したか否かの判定を行い、撮影終了(yes)と判定された場合には次のステップS377に進み、そうでない場合にはステップS372にリターンする。
ステップS377では、外部記憶装置364に格納されている位置情報と画素値を読み出し、主メモリ363にその位置情報に対応する画素値を格納し、モニタ366に表示可能な画像として準備する。
ステップS378では、このようにして作成された濃淡画像を、予め経験的に求められ外部記憶装置364に格納されている閾値と比較することにより、二値化する。
ステップS379では、前のステップS377で得られた二値化画像からコロニーの有無、すなわち大きさ、面積、周囲長を算出して終了する。
以上のようにして、コロニーの大きさ、面積、周囲長が取得できるが、こうして確認したコロニーの詳細画像を確認する場合は、撮影データを外部記憶装置364などに画像撮影位置リスト内の走査位置情報や撮影位置の情報とともに記録しておき、該当する撮影位置を手がかりに撮影画像を呼び出すようにすればよい。上述したように、レンズは高い倍率のものを使用可能であるため、再度別のレンズを使用して撮りなおさなくても、撮影済みの画像から培養状態を評価可能である。これによって継代のタイミングなどの決定がより確実に短時間でコンタミのリスクなしに行えるようになる。
次に培養器140の大きさをカメラ31を用いて画像処理により検出する場合について説明する。この場合は、図37のステップS371の画像撮影位置リストの作成の部分を次のように変形することによって実現可能である。すなわち、ステップS371の実行にあたり、設計の許す範囲内で、できるだけ広く培養器140を含む領域をスキャンする。こうして得られた画像から培養器140の大きさを求める。さらに、カメラの倍率や視野範囲の情報からCPU362にて画像撮影位置リストを作成する。この際、カメラ31の撮影距離からレンズの倍率やカメラ31の視野範囲の情報も認識可能である。
従って、培養器140の大きさ及びレンズの倍率やカメラ31の視野範囲の情報を全て撮影前に自動的に認識可能であり、画像撮影位置リストも全自動で設定可能となる。画像撮影位置リストを作成するにあたっては、CPU362は、図33(a)から図33(d)のように培養器140を網羅的に走査できる視野範囲331の経路を決定する。さらに同経路中撮影するタイミングも計算して、その地点を撮影位置とする。この経路は、培養物に極力ストレスを与えない観点から、ひとふで書きでトレースできるようなものが望ましい。こうして作成した撮影位置の集合を、X−Y座標ないしはr−θ座標の集合として外部記憶装置364などに記憶する。これが画像撮影位置リストの作成方法である。なお、ステップS371の実行に当たってはステップ373で説明した照明を使用して撮影してもよい。
このようにしてカメラ31を用いて画像処理により撮影位置を特定しているために、異なるサイズの培養器に対してそのサイズを入力しなくても走査が可能となる。例えば、完全密閉の保温箱内で培養の前に培養器表面積を計測し忘れても、ステップ371の事前走査によって画像撮影位置リストを作成可能である。このためより作業者の負担が軽減できる。
上述の実施の形態では、画像撮影位置リストに記載の撮影位置で撮影を行う場合について説明したが、走査の経路に沿ってカメラを随時移動させながら撮影位置でカメラを停止させることなく撮影を行う場合について説明する。
撮影位置でカメラを停止させることなく撮影を行う場合には、カメラが移動していることによって画像のブレが心配される。この画像のブレは、シャッタースピードと走査速度によってその許容度が決まるものである。例えば、培養細胞の大きさが100マイクロミリ程度、走査速度が1[mm]当り1秒、シャッタースピードが1/1000秒ならば、一画像あたりの移動距離は1マイクロミリでり、この数値は培養細胞の大きさに対し無視できるブレとなる。このように培養対象の細胞の大きさに応じて、走査速度とシャッタースピードを変化させて連続撮影に最適なパラメータを決定する。
コロニー判別のためには画像の濃淡を用いるため、コロニーの辺縁を明瞭に捉える必要はなく、また撮影は短時間で終了するため、撮影時にカメラ31または培養器140が完全に静止している必要はない。連続撮影することでカメラ31や培養器140の移動停止を繰り返す必要がなくなり培養器140に与える震動なども小さくすることができる。このように構成することで撮影時間を短縮可能であるとともに、特に培養器140を移動させて撮影する場合には、細胞に対するストレスを低減できるという長所もある。
上述の実施の形態では、カメラの光学系は、単純光を用いて細胞表面における散乱光ないしは透過光を検出する方式で説明したが、これにこだわらず位相差方式の光学系を用いてもよい。
通常、培養中に取得した画像データから細胞を抽出するには、画素値の分布をもとに閾値を算出し、その閾値以上あるいは閾値以下の画素を細胞として抽出していた。培地の色変化、光源の光量の変化、画像中心部と周辺部の明暗差、画像に含まれるノイズなどの影響を受けずに安定して細胞を抽出するためには、細胞抽出処理の前にノイズ除去、平滑化フィルタ、輪郭強調などのフィルタ処理が必須であった。画像データ内で明るさの変化をモニタし、特定のしきい値でトリガ信号を発生して、所定の遅延時間後に繰り返しカメラで撮像してその加算平均を求めるようにしたものがある。
このようにフィルタ処理を行なうものは、細胞抽出処理前のフィルタ処理が細胞抽出精度に大きな影響を与えていた。このフィルタ処理によって、画像中心部と周辺部の明暗差、画像に含まれるノイズなどをある程度除去することができ、また、特許文献1に記載されたものも画像に含まれるノイズなどをある程度除去することができる。ところが、画像データによってはその効果が少なかったり、細胞の輪郭が不明瞭になる場合などがあった。
そこで、培地の色変化、光量の変化、画像中心部と周辺部の明暗差、ノイズなどの影響を受けずに細胞部分のみを抽出することができるようにしたカメラ撮影システムについて説明する。
このカメラ撮影システムの基本構成は、図36に示したブロック図と同じであるが、この実施の形態では、CCDカメラ31が、移動用ガイドに沿って上下に移動し、任意の焦点での培養器140の画像を撮影するように構成してある点が前述のものとは異なる。
図38は、細胞培養装置内の各構成手段の配置の概略を示す図である。図から明かなように、培養装置内の上面部に光源381が取り付けられている。この光源381の下側に培養器140が配置され、さらにこの培養器140の中央付近下側に対物レンズ382を備えたCCDカメラ31が配置されている。CCDカメラ31は、カメラ・培養器駆動装置314によって、移動用ガイド383に沿った上下方向に移動制御され、任意の焦点での培養器140の画像を撮影することができるように構成されている。
図39は、任意の焦点で培養器140の画像を撮影する場合の画像処理ユニットの実行する細胞抽出処理の一例を示すフローチャート図である。
[ステップS391]
このステップでは、モータコントローラ313に命令を出してCCDカメラ31を上下に移動させながら画像を撮影する画像取得処理を実行する。この画像取得処理によって取得された画像データは、コンバータ311を経由して外部記憶装置364に保存される。
[ステップS392]
このステップでは、全ての画像を取り終えた後、画像選択処理を実行する。この画像選択処理では、細胞の辺縁が明瞭な画像を少なくとも2枚以上選択する。細胞の辺縁が明瞭な画像では不明瞭な画像に比べて画素値の変化が大きくなる。そこで隣り合う画素値の差の絶対値を算出し、それらの総和を求め主メモリ363に保持する。
図40は、カメラの移動距離と隣り合う画素値の差の総和との関係を示す図である。図40では、2箇所のピークがあり、このピーク値を示す画像が細胞の辺縁が明瞭な画像となる。図41及び図42は、前述の2箇所のピークに相当する画像の一例を示す図である。図41は、対物レンズ382の焦点位置が培養器140の底面に位置する場合の画像の一例を示す図であり、図42は、対物レンズ382の焦点位置が培養器140の底面よりも前側にある場合の画像の一例を示す図であり、図43は、対物レンズ382の焦点位置が培養器140の底面よりも後側にある場合の画像の一例を示す図である。これらの図から明かなように、対物レンズ382の焦点位置が前後いずれか一方にずれている方が細胞の辺縁が明瞭な画像を取得することができる。
[ステップS393]
このステップでは、前述の2箇所のピークに相当する2枚以上の画像が選択され、その位置が算出されたか否かの判定を行い、yesの場合は次のステップS394に進み、noの場合はステップS392にリターンする。
[ステップS394]
このステップでは、2枚の画像のうち1枚をX,Y方向に1ピクセルずつずらし差分を取り、その位置を合わせるための差分・位置合わせ処理を行なう。
[ステップS395]
前のステップS394の差分・位置合わせ処理の結果、細胞数が最小で、かつ、その細胞の長さの合計が最大であるか否かの判定を行い、yesの場合は、その位置で2枚の画像の差分・位置合わせ処理を終了し、ステップS396に進み、noの場合は、ステップS394にリターンし、このステップS395の判定がyesとなるまで差分・位置合わせ処理を行なう。
[ステップS396]
このステップでは、細胞の長さ、個数、形状などの解析を容易にするために画像の二値化処理を行なう。図44は、図42及び図43の画像に対する差分・位置合わせ処理の結果、細胞数が最小で、かつ、その細胞の長さの合計が最大となる差分画像について、二値化処理を施した場合の画像を示す図である。図44の画像に基づいて、細胞の長さ、個数、形状などの解析を容易に行なうことが可能となる。
通常、撮影位置を指定するためには、カメラが目的の位置に達するまで目視で位置を確認しているし、カメラの現在の位置も同様に目視で確認している。そして、一度撮影した位置は、目視で定性的に確認している。一度撮影した画像と培養器上の位置関係は、操作者が細胞を撮影するたびに両者の対応表を作成して管理しなければならなかった。このような方法では、カメラを目的の場所に移動するのに煩雑な操作が必要であり、目的の位置に到達するまでに何度も試行錯誤する必要があった。現在の撮影位置を確認するために、保温箱の中の培養器を目視して確認する必要があったが、正確な位置を把握するのは困難であり、一度カメラを動かしてしまうと正確に同一位置に戻るのは困難である。撮影した画像は培養器内のどの位置で撮影したものか判別不能になり、ある一点の経時的な画像を表示するのも手動操作によるものであった。
そこで、操作端末上に培養器を示す図を表示しておき、この図面上に現在のカメラの位置を示す印、移動したい位置を示す印、過去に画像が保存された印を表示し、移動開始命令の入力を受け付けるコントロール手段によって培養器の図面上であって、移動したい位置を指定して移動開始命令を発行することにより、目的の撮影位置にカメラを移動することができるような構成を採用した。移動終了後は移動したい位置を示す印は現在のカメラの位置を示す印に変化する。
図45は、カメラを所望の位置に移動することのできるカメラ位置調整機能を備えたカメラ撮影システムの概略を示す図である。図に示すように、カメラ撮影システム450は、細胞培養に最適な温度や二酸化炭素濃度を提供する保温箱160と、細胞を培養する培養器140と、細胞を撮影するための対物レンズ382と、この対物レンズ382のデータを電子化するCCDカメラ31と、このCCDカメラ31から得られる画像データを画像処理ユニット312に転送するためのコンバータ311と、CCDカメラ31を移動するためのカメラ駆動装置314aと、培養器140を移動するための培養器駆動装置314bと、カメラ駆動装置314aと培養器駆動装置314bを制御するモータコントローラ313とから構成されている。
図45の画像処理ユニット312の詳細構成は、図36に示したものとほとんど同じである。画像処理ユニット312は、データバス361を介して演算処理を行うCPU362と、このCPU362が一時的に記憶領域として使用する主メモリ363と、画像データや位置情報を格納する外部記憶装置364と、モータコントローラ313と通信するための通信ポート365と、細胞抽出後の画像を表示するモニタ366と、ユーザの入力を受け付けるキーボード367とから構成される。この画像処理ユニット312は、CCDカメラ31からの画像をコンバータ311を介して取り込み、種々の画像処理を行なう。図45の画像処理ユニット312の場合、図36では図示していないが、ユーザの入力を受け付ける装置としてキーボード367の他にマウスが接続されているものとして説明する。
図46は、図14の保温箱160内の培養器140と、カメラ31との関係を模式的に示す図である。なお、図14では、培養器140は、ロータ153を中心として、保温箱160内を旋回するように移動するが、図46では、培養器140が図34の場合と同様に、モータ320aによって直線的に駆動されるものとして説明する。
図47は、撮影位置設定・表示の操作画面の一例を示す図である。この撮影位置設定・表示画面470には、培養器140を模した円形上の培養器471が示されており、この培養器471上に、カメラの現在位置を示すカメラ位置マーカー472と、カメラの移動位置を示す移動位置マーカー473と、既に保存された画像の位置を示す保存画像位置マーカー474〜476がそれぞれ示されている。さらに、この撮影位置設定・表示画面470には、培養器471の背景を選択する背景選択コントローラ477と、カメラを移動位置マーカー473に移動させるためのカメラ移動コントローラ478と、画像を表示する画像表示コントローラ479と、カメラの位置を保存する位置保存コントローラ47Aと、保存した位置を呼び出す位置呼び出しコントローラ47Bと、処理を終了する終了コントローラ47Cが表示されている。なお、保存画像位置マーカー474には選択・非選択の状態が存在し、後述する画像表示画面の表示画像判定に用いられる。
図48は、モニタに表示される画像の表示例を示す図であり、画像処理ユニット312によって表示される。この表示画像は、現在カメラの存在する位置の画像および保存された画像を表示する画像表示領域480と、この画像表示領域480に表示されている画像を保存する表示画像保存コントローラ481と、保存された画像を読み出す画像読み込みコントローラ482と、画像表示領域480に表示されている画像を変更する画像送りコントローラ483と、画像戻しコントローラ484と、画像表示領域480に表示されている画像と同一位置で異なる時刻に撮影された画像を比較する命令を発行する画像比較コントローラ485とを表示してなる。
図49は、撮影位置設定・表示処理ソフトウェアの処理の一例を示すフローチャート図である。以下、このフローチャートに従って、撮影位置設定・表示処理の動作を説明する。
最初のステップS490では、画像処理ユニット312は入力待ちループにて操作者が何らかの入力を行なうのを監視している。
ステップS491では、図47に示される終了コントローラ47Cからの入力を判定し、入力有り(yes)の場合は、処理を終了し、ステップS49Mに進み、入力待ちループ処理を実行する。一方、入力無し(no)の場合は、次のステップS492に進む。
ステップS492では、カメラの現在を算出し、そのカメラ現在位置マーカー472を画像上に表示する。
ステップS493では、背景選択コントローラ477によって背景が指定されているか否かの判定を行い、指定されている(yes)場合は、ステップS494に進み、そうでない(no)場合はステップS495に進む。
ステップS494では、背景選択コントローラ477によって背景が指定されているので、その指定された背景を表示する処理を実行する。この処理によって、培養器471上にグリッド及び細胞の密度分布画像が表示される。
ステップS495では、既に保存された画像が存在する場合に、その画像の位置を示す保存画像位置マーカー474〜476を図47に示すように培養器471上に表示する。
ステップS496では、操作者が保存画像位置マーカー474〜476のいずれかを選択して、又は位置呼び出しコントローラ47Bを用いて予め保存してある画像の保存位置の読み込みを行なっているか否かの判定を行い、読み出し中(yes)の場合はステップS497に進み、そうでない(no)場合はステップS498に進む。
ステップS497では、保存位置の読み込みを行なっているので、移動位置マーカー473を培養器471上に表示する移動位置表示処理を実行する。図47に示すように既に移動位置マーカー473が培養器471上に表示されている場合には、保存画像位置マーカー474〜476のいずれかを移動位置マーカー473に変更する。この他にも操作者がマウスまたはキーボードを用いて移動位置マーカー473を設定した場合にも同様の処理を実行する。
ステップS498では、カメラ移動コントローラ478によってカメラの移動命令が発行されたか否かの判定を行い、発行された(yes)場合は、ステップS499に進み、そうでない(no)場合はステップS49Cに進む。
ステップS499では、カメラ移動コントローラ478によってカメラの移動命令が発行されたので、その移動命令に従ってカメラ移動処理を実行する。このカメラ移動処理では、図36のCPU362が座標の変換を行い、通信ポート365を介してモータコントローラ313に指令を出し、図45のカメラ駆動装置314a及び培養器駆動装置314bを駆動する。カメラが移動位置マーカー473で示される位置に移動するとその移動位置マーカー473はカメラ現在位置マーカー472に変化する。
ステップS49Aでは、位置保存コントローラ47Aから現在位置の保存命令が発行されたか否かの判定を行い、発行された(yes)場合はステップS49Bに進み、そうでない(no)場合はステップS49Cに進む。
ステップS49Bでは、位置保存コントローラ47Aから現在位置の保存命令が発行されたので、その保存命令に従って現在位置の保存処理を実行する。この保存処理によって保存された位置が新たな保存画像位置マーカーとして図47の培養器471上に表示されるようになる。
ステップS49Cでは、画像表示コントローラ479から画像表示の命令が発行されたか否かの判定を行い、発行された(yes)場合はステップS49Dに進み、そうでない(no)場合はステップS49Dに進む。
ステップS49Dでは、保存画像位置マーカー474〜476のいずれかが選択状態にあるか否かの判定を行い、選択状態にある(yes)場合はステップS49Eに進み、そうでない(no)場合はステップS49Fに進む。
ステップS49Dでは、選択状態にある保存画像位置マーカー474〜476のいずれかの位置で保存された画像を表示する選択位置画像表示処理を実行する。このときに、1つの保存画像位置マーカーに対して複数の画像が存在する場合は、画像送りコントローラ483と画像戻しコントローラ483を用いて、その位置における全ての画像を表示することができるようになっている。
ステップS49Eでは、保存画像位置マーカー474〜476のいずれも選択されずに画像表示コントローラ479からの画像表示命令が出された場合に対応するので、現在のカメラの位置の画像を表示する現在位置画像表示処理を実行して、ステップS49Gに進む。
ステップS49Gでは、図48の画像読み込みコントローラ482から画像読み込み命令が発行されたか否かの判定を行い、発行された(yes)場合はステップS49Hに進み、そうでない(no)場合はステップS49Kに進む。
ステップS49Hでは、前のステップS49Gで操作者が指定した画像を図36の外部記憶装置364から主メモリ363に読み込んで、画像表示領域480に表示する画像読込み処理を実行して、ステップS49Jに進む。
ステップS49Jでは、対応する位置の保存画像位置マーカー474〜476を選択状態にし、どの位置で画像が撮像されたかを、操作者に明示する画像位置表示更新処理を実行して、ステップS49Kに進む。
ステップS49Kでは、図48の画像比較コントローラ485から画像比較命令が発行されたか否かの判定を行い、発行された(yes)場合はステップS49Lに進み、そうでない(no)場合はステップS49Mに進み、入力待ちループ処理を実行する。
ステップS49Lでは、異なる色のモノトーン画像を作成し、各々の画像に設定された透過度により重み付けを行った後、加算処理を行い、その結果を示す画面を表示するモノトーン/加算処理を実行して、ステップS49Mに進み、入力待ちループ処理を実行する。
ステップS49Mでは、ステップS490と同様に画像処理ユニット312によって入力待ちループ処理を行い、操作者が何らかの入力を行なうのを監視する。
図50は、モノトーン/加算処理の詳細を示す図である。このモノトーン/加算処理における画像データは、1画素あたりRGBの3成分を持つものである。まず最初のステップS500では、入力がカラー画像か、グレースケール画像かのカラー画像判定を行い、yesの場合はステップS501に進み、noの場合は次のステップS502に進む。
ステップS501では、入力がカラー画像なので、そのカラー画像を白黒画像に変換するグレースケール変換処理を行い、ステップS502に進む。
ステップS502では、処理対象が画像表示領域480に表示されている画像か否か、すなわち現在表示中画像であるか否かの判定を行い、yesの場合はステップS503に進み、noの場合はステップS505に進む。
ステップS503では、画像データが持つRGB成分のうち、R成分に白黒変換した後の画素値を代入(コピー)し、他のG成分及びB成分には0を代入するというR成分代入処理を実行する。この時点で画像はR成分の濃淡として表現される。
ステップS504では、現在表示中の画像と比較対象画像の合成比、つまり現在表示中の画像に重み付けを行う透過度演算処理を行い、ステップS505に進む。
ステップS505では、処理対象が比較対象画像か否かの判定を行い、yesの場合はステップS506に進み、noの場合はステップS508に進む。
ステップS506では、ステップS503と同様に比較対象画像に対して、RBG成分の中でG成分に白黒変換後の画像の画素値を代入し、他のR成分及びB成分には0を代入するというG成分代入処理を実行する。この時点で比較対象となる画像はG成分の濃淡として表現される。
ステップS507では、ステップS504と同様に現在表示中の画像と比較対象画像の合成比、つまり比較対象画像に重み付けを行う透過度演算処理を行い、ステップS508に進む。
ここで、ステップS504とステップS507の透過度演算処理の場合、ステップS504の処理における透過度が高いと比較対象画像が強調され、ステップS507の処理における透過度が高いと現在表示中の画像が強調して表示されることになる。
ステップS508では、ステップS504及びステップS507の透過度演算処理の結果画像を加算処理する。ここで、ステップS504の透過度演算処理後の画像はR成分だけを持ち、ステップS507の透過度演算処理後の画像はG成分のみを持つので、ステップS508の加算処理後は、両者の画像データの重複画素部分はRG成分を持つ画像となり、両者で重複していない画素はR成分、またはG成分のみの画素値をもつこととなる。このようにして、モノトーン/加算処理により、色成分で2つの画像の相違点を表現することができる。
細胞培養は、培養器内の培地の交換や、継代培養のための他の培養器への再播種などといった煩雑な作業が手作業で行われているのが現状であり、また、熟練した作業者を必要とするものであるため、容易に実施しがたいものである。そのために、細胞の培養を自動的に行わせる細胞培養装置が種々提案されている。これらの細胞培養装置は、ほとんどが電気的に制御され、基本的にはCPUで実現されるものであり、プログラマブルであるため、カスタマイズしやすく、信頼性の高いものである。しかしながら、細胞の培養は通常数週間と長期にわたり、その間、細胞培養装置は連続稼動状態にしなければならない。一般に広く使われているCPUやメモリからなる制御装置いわゆるパーソナルコンピュータ等を応用することが可能であるが、これらの制御装置は、細胞を自動的にかつ長期的に増殖させる装置として信頼性を確保するには不十分であった。そこで、自動培養装置を自動的にかつ長期的に高い信頼性で稼働させることができるような構成を採用した。
図51は、自動的にかつ長期的に高い信頼性で稼働させることのできる細胞培養装置の概略構成を示す図である。自動培養装置511は、装置制御手段512、ユーザインターフェース手段513、培養スケジュール管理手段514及びUPS(無停電電源)515から構成される。UPS515は、培養スケジュール管理手段514に接続されている。自動培養装置511に電源が入ると、培養スケジュール管理手段514と装置制御手段512との間、及び培養スケジュール管理手段514とユーザインターフェース手段513との間で、所定間隔で通信を行い、お互いを監視する。なお、この所定間隔は、一定の時間間隔でもいいし、可変可能な時間でもよく、定期的に通信を行うという意味である。
図52は、図51の自動培養装置が実行する所定監視通信処理の一例を示すフローチャート図である。以下、培養スケジュール管理手段514と装置制御手段512との間における監視通信について図52のフローチャートに従って説明する。
まず、監視通信の開始によって、ステップS520では、培養スケジュール管理手段514から装置制御手段512に対して応答要求信号が送信される。ステップS521では、培養スケジュール管理手段514は、所定間隔で装置制御手段512からの応答確認信号を受信したか否かの判定を行い、受信した(yes)場合は、装置制御手段512は、培養スケジュール管理手段514からの応答確認信号を受信すると、培養スケジュール管理手段514へ応答確認信号を送る。培養スケジュール管理手段514は、装置制御手段512からの応答確認信号を受け取る事によって、培養スケジュール管理手段514から装置制御手段512に対する監視通信を終了し、リターンする。一方、応答確認信号を受信しなかった(no)場合は、次のステップS522に進む。
ステップS522では、培養スケジュール管理手段514が装置制御手段512に対して応答要求信号を送信した回数が所定値a以下であるか否かの判定を行い、応答要求信号送信回数が所定値a以下(yes)の場合にはステップS520にリターンし、応答要求信号を再送する。一方、応答要求信号送信回数が所定値aよりも多い場合には、次のステップS523に進む。
ステップS523では、応答確認信号を受信できなかった場合に行われる処理である。この処理は、装置制御手段512に不具合が発生し、培養スケジュール手段514が所定間隔で装置制御手段512からの応答確認信号が受け取れなかった場合や培養スケジュール管理手段514が装置制御手段512に対して数回(可変設定可)の応答要求信号を送信するが、それでも装置制御手段512からの応答確認信号を受信できなかった場合に実行される処理であり、培養スケジュール管理手段514から装置制御手段512に対して再起動命令を送信し、ソフト的に装置制御手段512の再起動を行う。
ステップS524では、装置制御手段512の再起動に要する時間(可変設定可)を経過し、かつ、装置制御手段512からの応答要求信号を培養スケジュール管理手段514が受信したか否かの判定を行い、yesの場合は、正常に装置制御手段512が再起動したと認識し、ステップS529にジャンプする。ステップS529では、装置制御手段512に培養スケジュールデータを送信して、監視通信処理を終了し、リターンする。
一方、培養スケジュール管理手段514から装置制御手段512に再起動命令を送信しても、装置制御手段512から培養スケジュール管理手段514に対して応答要求信号が来なかった場合は、正常に装置制御手段512が再起動しなかったと判断し、ステップS525に進む。
ステップS525では、培養スケジュール管理手段514が装置制御手段512に対して再起動命令信号を送信した回数が所定値b以下であるか否かの判定を行い、再起動命令信号送信回数が所定値b以下(yes)の場合にはステップS523にリターンし、再起動命令信号を再送する。一方、再起動命令信号送信回数が所定値bよりも多い場合には、次のステップS526に進む。
ステップS526では、培養スケジュール管理手段514が装置制御手段512に、再起動命令をb回送信したが、それでも、装置制御手段512から培養スケジヱール管理手段514に対して応答要求信号が来ない場合に該当するので、この場合には、培養スケジュール管理手段514が、装置制御手段512の電源を強制的にオフ(OFF)し、オン(ON)するという処理、すなわち、強制再起動処理を行う。
ステップS527では、培養スケジュール管理手段514が、装置制御手段512の再起動に要する時間(可変設定可)を経過し、かつ、装置制御手段512からの応答要求信号を培養スケジュール管理手段514が受信したか否かの判定を行い、yesの場合は、正常に装置制御手段512が再起動したと認識し、ステップS529にジャンプする。ステップS529では、装置制御手段512に培養スケジュールデータを送信して、監視通信処理を終了し、リターンする。
一方、培養スケジュール管理手段514から装置制御手段512に対して電源のオン・オフによる再起動を実行しても、装置制御手段512から培養スケジュール管理手段514に対して応答要求信号が来なかった場合は、正常に装置制御手段512が再起動しなかったと判断し、ステップS528に進む。
ステップS528では、培養スケジュール管理手段514が装置制御手段512に対して電源のオン・オフによる強制再起動を実行した回数が所定値c以下であるか否かの判定を行い、強制再起動回数が所定値c以下(yes)の場合にはステップS526にリターンし、強制再起動を再度実行する。一方、強制再起動回数が所定値cよりも多い場合には、次のステップS52Aに進む。
ステップS52Aでは、培養スケジュール管理手段514が装置制御手段512に対して、電源のオン・オフによる強制再起動をc回実行したが、それでも、装置制御手段512から培養スケジヱール管理手段514に対して応答要求信号が来ない場合に該当するので、この場合には、ユーザに対してシステムの異常が発生したことを報告する。この報告は、ブザーやモニタ上にその旨を表示することによって行なう。
なお、装置制御手段512から培養スケジュール管理手段514に対しての監視通信は、前述と逆の方法で行う。また、ユーザインターフェース手段513と培養スケジュール管理手段514との間での監視通信も同じ方法で行う。もし、電源が遮断された場合、培養スケジュール管理手段514はUPS(無停電電源)515が接続されているため、電源復旧時に装置制御手段512とユーザインターフェース手段513へ培養スケジュールデータを送信する。
このように、培養スケジュールを有し、かつ、双方向通信手段を備えた複数ユニット(装置制御手段512、ユーザインターフェース手段513、培養スケジュール管理手段514)がそれぞれ培養期間中に、複数のユニット間で通信を行い、相対するユニットの異常を検出する異常検出処理を行なうことにより、複数ユニットのいずれかが障害により異常状態になっても、自動培養装置の異常を外部に知らしめることが可能になる。さらに、複数のユニットのいずれかが異常状態を検出した場合、他の正常状態のユニットから培養スケジュールデータをロードすることにより、異常状態になったユニットを正常状態に戻すことが自動で実現でき、また、複数ユニットのいずれかが無停電電源手段に接続されていため、電源が遮断されても、複数ユニットのいずれかは動作しているので、電源復旧時に無停電電源手段が接続されたユニットを中心として自動培養装置全体の動作を復旧することができ、自動培養装置の信頼性がより向上する。
以上述べてきたように、代表的には、本発明によれば、細胞を培養する培養器手段と、前記培養器手段を培養に適した状態に配置し所定温度に保持する保温箱手段と、前記培養器手段を前記保温箱手段内で回動させる駆動手段と、前記保温箱手段内の前記培養器手段に前記保温箱手段の外側から未使用の薬品を供給する薬品供給手段と、前記保温箱手段内の前記培養器手段から不要な廃液を前記保温箱手段の外側に排出する廃液排出手段と、前記保温箱手段内の前記培養器手段の細胞培養の状態を前記保温箱手段の外側から観察する培養状態観察手段とを備えた、閉鎖系細胞培養装置が提供される。
細胞培養装置は、前記培養器手段と前記薬品供給手段との間に、ポンプ、弁および可撓性管部材が設けられ、細胞を供給し培養し回収することが好ましい。
前記培養器手段は、中央部が平滑で透明な非毒性の材料からなる容器であることが好ましいが、前記中央部は多少の凹凸を有していてもよい。
前記透明な非毒性の材料は、ポリスチレンまたはポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
細胞培養装置は、前記培養状態観察手段がカメラを備えることが好ましい。
細胞培養装置は、前記カメラを前記培養器手段の全面にわたり走査させ、かつ、前記細胞培養器手段内のピントを光軸方向に設定可能なカメラ移動手段を備えることが好ましい。
細胞培養装置は、前記カメラの前記培養器手段上の撮影位置を記憶する記憶手段を備え、前記カメラ移動手段は前記記憶手段に記憶されたと同じ撮影位置の再現をすることが好ましい。
細胞培養装置は、外部を閉塞部材にて封止された細管を備え、前記細管は細胞の供給口または回収口であり、細胞を収納する容器を備え、前記容器の上部には殺菌剤含浸部材が備えられ、前記細管は前記容器内に前記殺菌剤含浸部材を貫通後挿入されることが好ましい。
細胞培養装置は、前記保温箱手段内に雰囲気を供給するガスボンベを備え、前記弁は前記ガスボンベのガス圧を駆動源として開閉されることが好ましい。
細胞培養装置は、前記ポンプの動作時間で薬品供給手段から前記培養器手段に供給される薬品の量を決定する薬品量決定手段を有することが好ましい。
前記廃液排出手段が、可撓性管部材、ポンプおよび廃液タンクからなり、そのいずれかにpH測定部を備えることが好ましい。
pH測定部が、pHの変化により色が変化する物と、その物の色を読み取る受光素子を有することが好ましい。
細胞培養装置は、細胞の培養手順として、細胞の供給、培養器手段の回動、薬液の供給、廃液および細胞供給回収のタイミングと内容を記憶して実行する制御手段を備えることが好ましい。
前記制御手段は前記細胞培養装置を複数稼動する場合に他の制御手段と培養情報を交換するインターフェイスを有することが好ましい。