JP5248168B2 - 圧電材料および圧電素子 - Google Patents

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Description

本発明は、圧電素子に用いられる圧電材料に関するものである。
圧電素子とは、結晶を歪ませると帯電したり、電界中に置くと歪んだりする現象を利用した素子であり、インクジェットプリンタ等の液体噴射装置に使用されている。
このような圧電素子には、PZT膜(チタン酸ジルコン酸鉛、Pb(ZrxTi1-x)O3)等の圧電薄膜が用いられる。
しかしながら、上記PZT膜は鉛(Pb)を含むために、作業者の安全性や環境上において問題があるとされている。そのため、鉛を含まない非鉛系圧電材料の研究開発が広く行なわれている。例えば、下記特許文献1〜3には、非鉛系圧電材料に関する開示がある。
特開2004−6722号公報 特開2007−266346号公報 特開2007−287745号公報
本発明者らは、圧電材料に関する研究・開発を行っており、非鉛系圧電材料の採用と非鉛系圧電材料の特性の向上を検討している。
非鉛系圧電材料の代表例としてBaTiO3やBiを含む各種材料が挙げられる(上記特許文献1および2参照)。BaTiO3は大きな圧電定数を持つがキュリー温度が120℃程度と低い。一方、Biを含む各種材料は高いキュリー温度を持つ材料が多いが、誘電率や自発分極量が小さくなる傾向があり、圧電定数が小さくなる。また、キュリー温度が高い場合であっても、キュリー温度以下において相転移温度を持つものがあり、この場合は、温度安定性に課題がある。このように、非鉛系圧電材料は広く研究開発されているものの一長一短がある。
一方、Bi系材料において、BiFeO3は高いキュリー温度と大きな自発分極量を持ち、強誘電体メモリ用の材料として注目されている。このBiFeO3の特性に鑑み、当該材料を圧電材料として用いようとする試みが行なわれている。しかしながら、誘電率が小さいため、単体として高い圧電定数は期待できない。
そこでBiFeO3とBaTiO3の混晶(固溶体)を作り圧電定数を上げようとする検討がなされている(上記特許文献3参照)。
しかしながら、本発明者らが検討したところ、BaTiO3を入れすぎるとBaTiO3が支配的になりBiFeO3の高いキュリー温度と大きな自発分極量を生かせなくなる。そのため、それぞれの材料の欠点が出ないように混合比の工夫が必要である。
そこで、本発明の具体的態様においては、特性の良好な非鉛系圧電材料を提供することを目的とする。特に、Bi(Fe,Mn)O3およびBa(Zr,Ti)O3をベースにした圧電材料の特性を向上させることを目的とする。
(1)本発明に係る圧電材料は、25℃における自発分極量が0.5C/m2以上である材料Aを100(1−x)%、圧電特性を有しかつ25℃の比誘電率が1000以上である材料Bを100x%で混合した圧電材料であって、材料Aのキュリー温度をTc(A)、材料Bのキュリー温度をTc(B)とするとき、(1−x)Tc(A)+xTc(B)≧300℃であり、非鉛系であることを特徴とする。
かかる構成によれば、材料Aの自発分極量により膜性能が向上するとともに、高いキュリー温度を維持できる。さらに、材料Bにより圧電特性の向上を図ることができる。
(2)本発明に係る圧電材料は、Bi(Fe,Mn)O3とBa(Zr,Ti)O3の混晶からなる圧電材料であって、組成式(1−x)Bi(Fe1-yMny)O3−xBa(ZruTi1-u)O3で表され、0<x<0.40、0.01<y<0.10および0≦u<0.16であることを特徴とする。
かかる構成によれば、Bi(Fe1-yMny)O3の自発分極量や高いキュリー温度を維持しつつ、Ba(ZruTi1-u)O3により圧電特性の向上を図ることができる。このように、上記組成の範囲であれば、混合するそれぞれの材料の圧電材料として有用な性能が優先的となり、膜特性を向上させることができる。
(3)本発明に係る圧電素子は、上記圧電材料を圧電体膜として有する。かかる構成によれば、圧電素子の特性を向上させることができる。
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同一の機能を有するものには同一もしくは関連の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。
<実施の形態1>
図1(A)は、本実施の形態の圧電材料の形成方法を示す工程断面図である。まず、図1(A)に示すように、基板1として例えばシリコン(Si)基板を準備し、その表面に弾性膜(振動板)2として酸化シリコン膜を形成する。この酸化シリコン膜は、例えば、熱酸化により、膜厚400nm程度形成する。
次いで、弾性膜2上に、例えば、RFスパッタ法によりTiAlN(窒化チタンアルミ)膜3を膜厚100nm程度形成する。次に、TiAlN膜3上に、例えば、DCスパッタ法によりIr(イリジウム)膜4を膜厚100nm程度形成した後、さらにその上部に、DCスパッタ法により酸化イリジウム(IrO)膜5を形成する。これらの積層膜は、酸化シリコン膜と下部電極との間の密着層、あるいは拡散防止層の役割を有する。
次いで、酸化イリジウム膜5上に、例えば、白金(Pt)膜などの導電性膜よりなる下部電極6を形成する。Pt膜は、例えば、DCスパッタ法により、100nm程度堆積する。
次いで、下部電極6上に絶縁膜(強誘電体膜、容量絶縁膜、圧電体膜)9を形成する。この圧電体膜9は、Bi(Fe,Mn)O3およびBa(Zr,Ti)O3の構成金属の化合物(有機金属化合物)を溶媒に溶解させた溶液(原料溶液)を基板上にスピンコート法等の塗布法で塗布した後、熱処理(乾燥、脱脂、焼成)することにより形成する。
(実施例1)
例えば、酸化物濃度で0.165mol/kgに調整されたBi(Fe1-yMny)O3の原料溶液をPt膜(6)上に、1500回転/分でスピンコート塗布し、前駆体膜を形成する。次いで、350℃で3分間の熱処理を施し、乾燥および脱脂を行う。脱脂とは、乾燥工程後の前駆体膜中に残存する有機成分をNO2,CO2,H2O等に熱分解して離脱させることをいう。上記塗布、乾燥および脱脂工程を10回繰り返した後、ランプアニール炉を用いて650℃で10分間の焼成(熱処理)を行い、膜厚400nm程度のBi(Fe1-yMny)O3膜(9)を形成する。なお、酸化物濃度とは、この場合の酸化物であるBi(Fe1-yMny)O3としての濃度を意味する。
この後、Bi(Fe1-yMny)O3膜(9)上に、導電性膜として例えばPt膜をDCスパッタリング法によって100nm程度堆積し、上部電極11を形成し、Bi(Fe1-yMny)O3膜(9)を上部電極11と下部電極6とで挟持した構造体(キャパシタ構造、圧電素子構造)を形成する。
Bi(Fe1-yMny)O3膜(9)のyを0〜0.1の範囲で調整したBi(Fe1-yMny)O3の原料溶液を用い、上記条件により上記構造体(図1(A))を形成し、絶縁特性を考察した。
図1(B)は、組成比yを調整したNo.1〜No.9のサンプルについてのヒステリシス特性の良否を示す図表である。また、図2および図3は、各サンプルのヒステリシス特性を示すグラフである。縦軸は、分極量(Polarization〔μC/cm2〕)を示し、横軸は、電圧(Voltage〔V〕)を示す。ヒステリシス特性は、周波数1kHzの三角波により求めた。
図1(B)〜図3に示すように、y=0のサンプルNo.1については、ショートし、絶縁膜として使用不可であることが分かる。また、y=0.01のサンプルNo.2とy=0.1のサンプルNo.9においては、リーキーであり(電流のリーク成分が大きく)絶縁膜として使用不可であることが分かる。また、y=0.06のサンプルNo.7とy=0.07のサンプルNo.8においては、ややリーキーな傾向が見られた。一方、yが、0.02〜0.05の範囲においては、良好なヒステリシス特性(絶縁特性)が得られた。
よって、Mnの含有量として、0.01<y<0.1の範囲が良く、より好ましい範囲は、0.02≦y≦0.07の範囲、さらに好ましい範囲は、0.02≦y≦0.05の範囲であることが分かる。
(実施例2)
本実施例では、(1−x)Bi(Fe1-yMny)O3−xBa(ZruTi1-u)O3膜(9)のxを0〜0.5の範囲で調整した原料溶液を用い、実施例1と同様のプロセスで上記構造体(図1(A))を形成し、絶縁特性を考察した。但し、y=0.05、u=0で固定した。即ち、(1−x)Bi(Fe0.95Mn0.05)O3−xBaTiO3の原料溶液を用い、Bi(Fe,Mn)O3とBa(Ti)O3との混晶を形成した。
図4は、組成比xを調整したNo.10〜No.15のサンプルについてのヒステリシス特性の良否を示す図表である。また、図5および図6は、各サンプルのヒステリシス特性を示すグラフである。なお、サンプルNo.10は、サンプルNo.6と同じである。
図4〜図6に示すように、x=0.4およびx=0.5のサンプルNo.14およびNo.15については、リーキーであり絶縁膜として使用不可であることが分かる。また、これらのサンプルについては、低Pmであった。Pmとは、所定の電圧(ここでは、60V)を印加した際の分極量である。また、x=0.3のサンプルNo.13においては、ややリーキーな傾向が見られた。一方、xが、0〜0.2の範囲においては、良好なヒステリシス特性(絶縁特性)が得られた。
よって、(1−x)Bi(Fe,Mn)O3とxBa(Zr,Ti)O3の混合比として、0<x<0.4の範囲が良く、より好ましい範囲は、0<x≦0.3の範囲、さらに好ましい範囲は、0<x≦0.2の範囲であることが分かる。
次いで、上記サンプルNo.10〜No.12について圧電特性を測定した。図7は、各サンプルの圧電定数(d33〔pm/V〕)を示す図表である。なお、圧電定数(圧電歪み定数)dは、歪み量S、電界Eとした場合、Si=dij×Eiで表される。なお、前式中のiは歪方向であり、jは電圧印加方向である。この圧電定数dの値が大きいほど圧電体膜の歪みが大きい。なお、d33は、電界E3を印加し、その平行方向にS3歪む場合の圧電歪み定数であり、例えば、d31は、電界E3を印加し、その垂直方向にS1歪む場合の圧電歪み定数である。「1、2、3」は、それぞれx、y、z軸方向を意味する。この圧電定数d33は、ダブルビームレーザードップラー法を用いて測定した。
図7に示すように、x=0、即ち、Ba(Ti)O3を混ぜない場合より、混ぜた場合(x=0.1、x=0.2)の方が、圧電定数が向上した。また、混合比であるx=0.1よりも、x=0.2の方が、圧電定数がより大きかった。
(実施例3)
本実施例では、(1−x)Bi(Fe1-yMny)O3−xBa(ZruTi1-u)O3膜(9)のuを0〜0.12の範囲で調整した(1−x)Bi(Fe1-yMny)O3−xBa(ZruTi1-u)O3の原料溶液を用い、実施例1と同様のプロセスで上記構造体(図1(A))を形成し、絶縁特性を考察した。但し、x=0.2、y=0.05で固定した。即ち、0.8Bi(Fe0.95Mn0.05)O3−0.2Ba(ZruTi1-u)O3の原料溶液を用い、Bi(Fe,Mn)O3とBa(Zr,Ti)O3との混晶を形成した。
図8は、組成比uを調整したNo.16〜No.19のサンプルについてのヒステリシス特性の良否を示す図表である。また、図9は、各サンプルのヒステリシス特性を示すグラフである。なお、サンプルNo.16は、サンプルNo.12と同じである。
図8および図9に示すように、uが、0〜0.12の範囲においては、良好なヒステリシス特性(絶縁特性)が得られた。但し、u=0.12において、30VにおけるPmが、u=0.08の場合よりも若干低下したため、uが、0.08〜0.12の間で絶縁特性のピークを迎え、u=0.16付近までは、良好なヒステリシス特性が得られるものの、0.16以上にZrを増やすとBa(Zr,Ti)O3としてキュリー温度が低くなり、ヒステリシス特性が劣化することが考察される。
よって、(1−x)Bi(Fe1-yMny)O3−xBa(ZruTi1-u)O3のZrの含有量として、0≦u<0.16の範囲が良く、より好ましい範囲は、0≦u≦0.12の範囲であることが分かる。
次いで、上記サンプルNo.17〜No.19について圧電特性を測定した。図10は、各サンプルの圧電定数(d33〔pm/V〕)を示す図表である。図10に示すように、uが、0.04〜0.12の範囲においていずれの場合も良好な圧電定数が得られた。また、Zrの含有量が、0.04〜0.12の範囲で増加するにつれ、圧電定数が上昇する傾向が見られた。
(実施例4)
次いで、各サンプルのキュリー温度を考察すべく、各サンプルにおける温度〔℃〕と比誘電率との関係を調べた(図11)。
図11(A)に示すように、サンプルNo.4〜No.8について、温度の上昇とともに比誘電率の上昇が見られたが、その変曲点(キュリー温度)は確認できなかった。また、図11(B)に示すように、サンプルNo.10〜No.12についても同様の傾向が見られたものの、変曲点(キュリー温度)は確認できなかった。このように、明確なキュリー温度を確認できなかったものの、例えば、サンプルNo.11およびNo.12について、プロットの最高温度、即ち、良好なヒステリシス特性が得られた温度のうち最高のもの(耐熱温度)が、200〜225℃であり、高い耐熱性を有することが分かった。さらに、サンプルNo.11およびNo.12においては、少なくとも上記耐熱温度以上のキュリー温度が示唆されることとなる。
そこで、キュリー温度についてさらに検証を進めるため、サンプルNo.12の自発分極量Psの2乗〔μC/cm2〕と、温度〔℃〕との関係を調べた(図12)。当該グラフにおいて、x切片が、キュリー温度であると近似でき、およそ320℃程度のキュリー温度であることがわかる。図13に、各サンプルの耐熱温度とキュリー温度の概算値を纏める。このように、上記サンプルにおいては、キュリー温度も高く、有用であることが分かる。
以上、詳細に説明したように、0<x<0.40、0.01<y<0.10および0≦u<0.16の範囲で、(1−x)Bi(Fe1-yMny)O3とxBa(ZruTi1-u)O3とを混合し、焼成することにより、絶縁性および圧電特性が良好な膜を得ることができる。また、キュリー温度を向上させることができ、高温使用にも耐え得る圧電材料を得ることができる。
具体的には、上記の通りxの範囲を調整することにより、圧電定数が大きく、キュリー温度が高く、また、Ba(Zr,Ti)O3に起因する低誘電率層による特性上のロスがない、圧電材料を形成することができる。
また、上記の通りyを調整し、Mnを添加することにより、膜の絶縁性を高くすることができ、膜特性を向上させることができる。
さらに、上記の通りuを調整し、Zrを添加(置換)することにより、ピンチング効果によるより大きな圧電定数が得られ、また、キュリー温度を十分高い温度に維持することができる。
なお、上記x、yおよびuは、各元素の化合物(有機金属化合物)を溶媒に溶解させた溶液(原料溶液)の混合モル比であるが、本実施例のように各元素成分の酸化物の蒸気圧が充分に小さい温度で熱処理を行なった場合には、上記混合モル比で化合物が組成される。かかる事実は、本発明者らによりICP(Inductively Coupled Plasma高周波誘導結合プラズマ)発光分析法などを用いて確認されている。
<実施の形態2>
本実施の形態においては、実施の形態1での考察を踏まえ、非鉛系(鉛フリー)の圧電材料を合成する場合の設計指針、即ち、2つの材料を混合する場合における、各材料の特性と、混合比率について検討する。
まず、一の材料(強誘電体材料)Aの特性として、25℃における自発分極量が0.5C/m2以上である材料を選択する。他の材料Bの特性として、25℃の比誘電率が1000以上である材料を選択する。
これらの膜について、材料Aのキュリー温度をTc(A)、材料Bのキュリー温度をTc(B)とするとき、(1−x)Tc(A)+xTc(B)≧300℃となるように、xを決定し、材料Aを100(1−x)%で、材料Bを100x%の割合で混合する。
図14は、材料Aと材料Bの混合比とキュリー温度との関係を示す図である。即ち、図14に示すように、材料Aおよび材料Bが完全固溶する場合には、混合比(1−x)とキュリー温度Tcとの関係がTc(A)からTc(B)まで直線的に変化すると近似できる。よって、上記式を満たすよう、混合比を選択することにより、各材料の特性を生かしつつ、高いキュリー温度の材料を得られると考えられる。
<実施の形態3>
次いで、実施の形態1および2で検証した特性の良好な圧電材料を用いた圧電素子の製造方法について説明する。図15〜図18は、本実施の形態の圧電素子を有するインクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)の製造方法を示す工程断面図である。図19は、インクジェット記録式ヘッドの分解斜視図である。図20は、インクジェットプリンタ(液体噴射装置)の概略を示す要部斜視図である。
以下、図15〜図20を参照しながら、順を追って、圧電素子等の製造方法を説明するとともに、その構造を明確化する。
まず、図15(A)に示すように、基板(基体)1として例えばシリコン(Si)基板を準備し、その表面に弾性膜(振動板)2として酸化シリコン膜を形成する。この酸化シリコン膜2は、例えば、熱酸化により形成する。
次いで、図15(B)に示すように、弾性膜2上に前述した、TiAlN膜/Ir膜/酸化イリジウム膜の積層膜を形成する。ここでは、当該積層膜を4Aで表す。
次に、積層膜4A上に、例えば、白金(Pt)膜などの導電性膜よりなる下部電極6を形成する。Pt膜は、例えば、DCスパッタ法により堆積する。この後、下部電極6をパターニングする(図15(C))。
次いで、図16(A)に示すように、下部電極6上に圧電体膜(圧電体、圧電体層)9を形成する。即ち、実施の形態1で説明したように、x、yおよびuを調整した上記原料溶液を基板上にスピンコート法等の塗布法で塗布した後、熱処理(乾燥、脱脂、焼成)することにより圧電体膜9を形成する。なお、この圧電体膜9として、実施の形態2で説明した材料を用いてもよい。
次いで、図16(B)に示すように、圧電体膜9上に、導電性膜(11)として例えばPtをスパッタリング法によって堆積する。次いで、図16(C)に示すように、導電性膜を所望の形状にパターニングすることによって、上部電極11を形成する。この際、導電性膜の下層の圧電体膜9も同時にパターニングする。その結果、下部電極6、圧電体膜9および上部電極11が積層された圧電素子PEが形成される。
なお、上記下部電極6や上部電極11として、金属あるいは導電性酸化物の単体あるいはこれらの積層体を用いることができる。具体的には、Pt、Ir、Au、Ti、Zr、Fe、Mn、Ni、Co、IrO2、Nb:SrTiO3、La:SrTiO3、SrRuO3、LaNiO3、(La,Sr)FeO3、(La,Sr)CoO3のいずれか、あるいはこれらの積層体を用いることができる。これらの候補のうち金属は圧電材料との相互拡散が抑えられ、あるいは圧電材料の成分の一つであるため相互拡散による特性の劣化が最小限に抑えられる。また、これらの候補のうち導電性酸化物は圧電材料と同じ結晶構造を持ち、結晶成長により清浄な電極/圧電体界面を形成することができる。
次いで、図17(A)に示すように、圧電素子(上部電極11)PE上に、導電性膜として例えば金(Au)膜をスパッタリング法で堆積した後、所望の形状にパターニングすることにより、リード電極13を形成する。
次いで、図17(B)に示すように、圧電素子(基板1)PE上に、保護基板15を搭載し、接合する。この保護基板15は、圧電素子PEに対応する部分に凹部15aを有し、また、開口部15b、15cを有する。
次いで、図17(C)に示すように、基板1の裏面(圧電素子PE形成側と逆側の面)を研磨し、さらに、ウエットエッチングすることにより基板1の膜厚を減少させる。
次いで、図18(A)に示すように、基板1の裏面に、マスク膜17として例えば窒化シリコン膜を堆積し、所望の形状にパターニングする。次いで、このマスク膜17をマスクに、基板1を異方性エッチングすることにより、基板1中に開口部19を形成する。この開口部19は開口領域19a、19b、19cよりなる。次いで、基板1および保護基板15の外周部分をダイシング等により切除し、整形する。
次いで、図18(B)に示すように開口領域19aに対応する位置にノズル孔(ノズル開口)21aを有するノズルプレート21を基板1の裏面に接合する。また、保護基板15の上部に、後述するコンプライアンス基板23を接合し、適宜分割(スクライブ)する。以上の工程により、複数の圧電素子PEを有するインクジェット式記録ヘッドが略完成する。
なお、上記基板1として、Si以外の半導体材料、金属、セラミック、ガラスなどの材料を用いることができる。また、基板1を構成する材料が融点あるいはガラス転移点を持っていても、融点およびガラス転移点が650℃以上であれば、高温使用にも耐え得ることができる。
このように、圧電体膜9として、実施の形態1および2で説明した材料を用いることにより、圧電素子の特性を向上させることができる。特に、非鉛系とすることで環境に配慮した製品製造を行うことができる。
また、非鉛系圧電材料である、アルカリ金属元素を含む材料系においてはアルカリ金属元素の抜けによる組成ずれや、結晶化の際の熱による下部電極への拡散といった問題があるが、上記材料であれば、高いキュリー温度と大きな自発分極量を持つことに加え、アルカリ金属元素のような組成ずれの原因となりやすい元素がなく、また、結晶化温度が低い等、利点が多く、圧電素子として用いて好適である。
さらに、上記材料は、溶液プロセスにより容易に組成を調整することができ、また、パターンの微細化にも容易に対応し得る。よって、後述するヘッドやプリンタの微細化や高精細化に容易に対応することができる。
図19は、インクジェット記録式ヘッドの分解斜視図であり、図15〜図18と対応する部分については同じ符号を付してある。
図示するように、圧電素子PEの下部に位置する開口領域19aは、圧力発生室となり、圧電素子PEの駆動により弾性膜2が変位し、ノズル孔21aからインクが吐出される。ここでは、圧電素子PEおよび弾性膜2を合わせてアクチュエータ装置という。なお、図19は、インクジェット記録式ヘッドの構成の一例に過ぎず、圧電素子PEの形状や配列方向等、その構成が適宜変更可能であることは言うまでもない。
また、図20は、インクジェットプリンタ装置(液体噴射装置)104の概略を示す要部斜視図であり、図示するように、前述のインクジェット記録式ヘッドは、噴射ヘッドユニット101Aおよび101B中に組み込まれている。また、噴射ヘッドユニット101Aおよび101Bには、インク供給手段を構成するカートリッジ102Aおよび102Bが着脱可能に設けられている。
また、この噴射ヘッドユニット101A、101B自身は、キャリッジ103に搭載され、装置本体104に取り付けられている。また、このキャリッジ103は、キャリッジ軸105の軸方向に対し、移動可能に配置されている。
駆動モータ106の駆動力が、タイミングベルト107を介してキャリッジ103に伝達されることで、噴射ヘッドユニット101Aおよび101Bがキャリッジ軸105に沿って移動する。また、当該装置104には、キャリッジ軸105に沿ってテプラン108が設けられ、記録シート(例えば、紙)Sが当該テプラン108上に搬送される。この記録シートSに対し、噴射ヘッドユニット101A、101Bからインクを吐出することで印刷がなされる。
また、上記実施の形態においては、インクジェット式記録ヘッドを例に説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッドに適用可能であり、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の液体電極材料を噴射する液体噴射ヘッド、バイオチップの製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも用いることができる。
また、上記実施の形態においては、圧電素子を有するインクジェット式記録ヘッドを例に説明したが、当該ヘッドに使用される圧電素子に限定されず、超音波発信器等の超音波デバイスや圧力センサなどに広く適用することができる。
なお、上記実施の形態を通じて説明された実施例や応用例は、用途に応じて適宜に組み合わせて、又は変更若しくは改良を加えて用いることができ、本発明は上述した実施の形態の記載に限定されるものではない。そのような組み合わせ又は変更若しくは改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
図1(A)は、実施の形態1の圧電材料の形成方法を示す工程断面図であり、図1(B)は、組成比yを調整したNo.1〜No.9のサンプルについてのヒステリシス特性の良否を示す図表である。 各サンプル(No.2〜No.5)のヒステリシス特性を示すグラフである。 各サンプル(No.6〜No.9)のヒステリシス特性を示すグラフである。 組成比xを調整したNo.10〜No.15のサンプルについてのヒステリシス特性の良否を示す図表である。 各サンプル(No.10〜No.13)のヒステリシス特性を示すグラフである。 各サンプル(No.14、No.15)のヒステリシス特性を示すグラフである。 各サンプル(No.10〜No.12)の圧電定数(d33〔pm/V〕)を示す図表である。 組成比uを調整したNo.16〜No.19のサンプルについてのヒステリシス特性の良否を示す図表である。 各サンプル(No.16〜No.19)のヒステリシス特性を示すグラフである。 各サンプル(No.16〜No.19)の圧電定数(d33〔pm/V〕)を示す図表である。 各サンプル(No.4〜No.8、No.10〜No.12)における温度〔℃〕と比誘電率との関係をグラフである。 サンプルNo.12の自発分極量Psの2乗〔μC/cm2〕と、温度〔℃〕との関係を示すグラフである。 各サンプル(No.4〜No.8、No.11、No.12)の耐熱温度とキュリー温度の概算値を纏めた図表である。 材料Aと材料Bの混合比とキュリー温度との関係を示す図である。 実施の形態3の圧電素子を有するインクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)の製造方法を示す工程断面図である。 実施の形態3の圧電素子を有するインクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)の製造方法を示す工程断面図である。 実施の形態3の圧電素子を有するインクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)の製造方法を示す工程断面図である。 実施の形態3の圧電素子を有するインクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)の製造方法を示す工程断面図である。 インクジェット記録式ヘッドの分解斜視図である。 インクジェットプリンタ装置(液体噴射装置)の概略を示す要部斜視図である。
符号の説明
1…基板、2…弾性膜、3…TiAlN膜、4…Ir膜、4A…積層膜、5…酸化イリジウム膜、6…下部電極、9…圧電体膜、11…上部電極、13…リード電極、15…保護基板、15a…凹部、15b、15c…開口部、17…マスク膜、19…開口部、19a、19b、19c…開口領域、21…ノズルプレート、21a…ノズル孔、23…コンプライアンス基板、101A、101B…噴射ヘッドユニット、102A、102B…カートリッジ、103…キャリッジ、104…インクジェットプリンタ装置、105…キャリッジ軸、106…駆動モータ、107…タイミングベルト、108…テプラン、PE…圧電素子、S…記録シート

Claims (3)

  1. 25℃における自発分極量が0.5C/m2以上である材料Aを100(1−x)%、圧電特性を有しかつ25℃の比誘電率が1000以上である材料Bを100x%で混合した圧電材料であって、前記材料Aのキュリー温度をTc(A)、前記材料Bのキュリー温度をTc(B)とするとき、(1−x)Tc(A)+xTc(B)≧300℃であり、非鉛系であることを特徴とする圧電材料。
  2. Bi(Fe,Mn)O3とBa(Zr,Ti)O3の混晶からなる圧電材料であって、組成式(1−x)Bi(Fe1-yMny)O3−xBa(ZruTi1-u)O3で表され、0<x<0.40、0.01<y<0.10および0≦u<0.16であることを特徴とする圧電材料。
  3. 請求項1又は2に記載の圧電材料を圧電体膜として有することを特徴とする圧電素子。
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